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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
管理番号 1376670
異議申立番号 異議2020-700131  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-28 
確定日 2021-05-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6567590号発明「ミリ波アンテナ用フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6567590号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1ないし11]について訂正することを認める。 特許第6567590号の請求項1ないし3、5及び7ないし11に係る特許を維持する。 特許第6567590号の請求項4及び6に係る特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6567590号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成29年4月6日(優先権主張 平成28年7月25日)の出願であって、令和1年8月9日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和2年2月28日に特許異議申立人 野田 澄子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし11)がされ、同年6月1日付けで取消理由が通知され、同年8月3日に特許権者 日東電工株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正の請求がされるとともに意見書が提出され、同年8月21日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年9月25日に異議申立人から意見書が提出され、同年12月21日付けで取消理由<決定の予告>が通知され、令和3年2月24日に特許権者から訂正の請求(以下、当該訂正の請求を、「本件訂正請求」という。)がされるとともに意見書が提出されたものである。
なお、令和2年8月3日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、すでに異議申立人に意見書の提出の機会が与えられている場合であって、本件訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、下記第5ないし7のとおり、提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体は判断したことから、特許法第120条の5第5項に定める特別な事情に該当し、異議申立人に再度の意見書の提出の機会は与えない。

第2 訂正の適否について
1 本件訂正請求の訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれる、ことを特徴とする、前記フィルム。」
と記載されているのを、
「前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれ、前記空孔の孔径分布の半値全幅が4μm以上10μm以下であり、60GHzで測定した誘電率が2.0以下であることを特徴とする、前記フィルム。」
に訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3、5及び7ないし11についてもそれに伴う訂正をする。
(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項4及び6を削除する。
(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項5、7、8、10及び11の記載を、訂正前の請求項4及び6を削除したことに伴い、請求項4及び6の記載を引用しないものとなるように訂正するものであって、請求項5及び7については請求項1のみを引用するものに訂正する。
(4)一群の訂正について
訂正前の請求項1ないし11は一群の請求項であり、訂正事項1ないし3は、それらについてなされたものであるから、一群の請求項ごとの訂正である。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正前の請求項1においては「ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルム」であること等が特定されていたのを、訂正後の請求項1では、低誘電性ポリマーフィルムに分散形成された空孔の「孔径分布の半値全幅が4μm以上10μ以下」であるとともに、「60GHzで測定した誘電率が2.0以下」であることがさらに特定されているから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項1は、訂正前の請求項4及び6、本件特許明細書の段落【0012】、【0014】、【0016】、【0032】、【0049】並びに【表1】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項4及び6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項5、7、8、10及び11において、訂正事項2により削除された請求項4及び6を引用しないようにするものであり、請求項5及び7については削除された請求項4及び6の特定事項並びに半値全幅の下限値で限定された請求項1のみを引用するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1ないし11]について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項[1ないし11]のとおり訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記フィルムの空孔率が70%以上であり、
前記空孔の平均孔径が10μm以下であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれ、
前記空孔の孔径分布の半値全幅が4μm以上10μm以下であり、
60GHzで測定した誘電率が2.0以下である
ことを特徴とする、前記フィルム。
【請求項2】
前記フィルムの空孔率が85%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記フィルムの空孔率が95%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記空孔の孔径分布の半値全幅が5μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
60GHzで測定した誘電率が1.5以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム。
【請求項8】
前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであることを特徴とする、請求項1?3、5及び7のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項9】
前記有機溶媒がN-メチルピロリドンであることを特徴とする、請求項8に記載のフィルム。
【請求項10】
厚さが50μm?500μmであることを特徴とする、請求項1?3、5及び7?9のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項11】
ミリ波アンテナ用の基板に使用するフィルムであることを特徴とする、請求項1?3、5及び7?10のいずれか1項に記載のフィルム。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和2年2月28日に異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1、3ないし6、8及び9に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明(実施例1及び実施例6)であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明、甲第8号証等に記載の技術常識、甲第5、8及び9号証に記載の技術事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 申立理由3(甲第2号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし5、8ないし10に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明(実施例17)であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

4 申立理由4(甲第2号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明及び甲第5、8及び9号証に記載の技術事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

5 申立理由5(甲第3号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし5、8及び9に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明(実施例14)であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

6 申立理由6(甲第3号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明及び甲第5、8及び9号証に記載の技術事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

7 申立理由7(甲第4号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし5及び8ないし10に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明(Table1)であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

8 申立理由8(甲第4号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明及び甲第5、8及び9号証に記載の技術事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

9 申立理由9(甲第5号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし5、8、9及び11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

10 申立理由10(甲第5号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

11 申立理由11(甲第8号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1、6及び7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第8号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

12 申立理由12(明確性要件)
本件特許の請求項1、4及び5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・「平均孔径」、「孔径分布」が、それぞれ、個数基準であるのか体積基準であるのか不明である。

13 申立理由13(サポート要件)
本件特許の請求項1、4及び5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件発明1、4及び5で規定された「平均孔径」及び「半値全幅」の数値は、「連泡構造を含む」空泡の数値であるのに対し、実施例で示されている「平均孔径」及び「半値全幅」の数値は、「独立孔」に基づいた数値であることから、本件発明1、4及び5で規定された「多孔質ポリイミドフィルム」は本件特許の発明の詳細な説明において何ら実証されていない。

14 証拠方法
甲第1号証:特開2013-14742号公報
甲第2号証:再公表特許第2010/137728
甲第3号証:特表2005-533893号公報
甲第4号証:ACS Appl. Mater. Interfaces 2012,4,536-544
甲第5号証:ACS Appl. Mater. Interfaces 2014,6,6062-6068
甲第6号証:NASA Technical Reports Server (NTRS) Document ID 20110011361 https://ntrs.nasa.gov/archive/nasa/casi.ntrs.nasa.gov/20110011361.pdfより入手)
甲第7号証:US2015/0145106 A1
甲第8号証:US9,356,341 B1
甲第9号証:特開2013-213198号公報
甲第10号証:東レ・デュポン株式会社の商品名カプトン(登録商標)のについて説明されたウェブサイト(https://www.td-net.co.jp/kapton/about/index.html )
甲第11号証:東レ・デュポン株式会社の商品名カプトン(登録商標)のカタログ(https://www.td-net.co.jp/kapton/data/download/documents/kapton2007.pdfより入手)
甲第12号証:ぶんせき 2009 7の第349頁から第355頁(http://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2009/200907kaisetsu.pdfより入手)
甲第13号証:ウィキペディアの標準偏差について解説されたウェブページ(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%99%E6%BA%96%E5%81%8F%E5%B7%AE)
甲第14号証:香川大学の半値全幅について解説されたウェブページ(http://www.eng.kagawa-u.ac.jp/^(~)tishii/Lab/Etc/gauss.html)
甲第15号証:特許研究 No.41、2006/3、28-56頁
甲第16号証:特開2016-58717号公報
甲第17号証:特開2009-187657号公報

なお、甲号証の表記は、おおむね特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

第5 当審の取消理由<決定の予告>の概要
令和2年12月21日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由<決定の予告>」という。)の概要は、次のとおりである。

1 取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項1、3、5、8ないし10に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし3、5、7ないし10に係る発明は、該発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 取消理由2(甲2を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし3、5、8ないし10に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし3、5、7ないし10に係る発明は、該発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 取消理由3(甲3を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし3、5、7ないし9に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし3、5、7ないし10に係る発明は、該発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 取消理由4(甲4を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項1ないし3、5、7ないし10に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし3、5、7ないし10に係る発明は、該発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 取消理由5(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし3、5、7ないし11に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件発明1に記載の「平均孔径」及び「孔径分布」が、それぞれ「個数基準」であるのか、「体積基準」であるのか、又は「個数基準」や「体積基準」以外の基準であるのかは記載されていないし、本件特許の発明の詳細な説明にも記載されていない。
したがって、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、3、5、7ないし11に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎としても、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。

第6 取消理由<決定の予告>についての当審の判断
当審は、以下に述べるように、上記取消理由1ないし5には、いずれも理由がないと判断する。

1 主な甲号証に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「ポリイミド多孔質体及びその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は予め付されたものと当審で付したものである。他の文献についても同様。

・「【請求項1】
ポリアミド酸、該ポリアミド酸と相分離する相分離化剤、イミド化触媒、及び脱水剤を含有するポリマー溶液を基板上に塗布し、乾燥させてミクロ相分離構造を有する相分離構造体を作製する工程、相分離構造体から前記相分離化剤を除去して多孔質体を作製する工程、及び多孔質体中のポリアミド酸をイミド化させてポリイミドを合成する工程を含むポリイミド多孔質体の製造方法。
・・・
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の方法によって製造されるポリイミド多孔質体。
【請求項7】
平均孔径が0.1?10μm、体積空孔率が20?90%、かつ比誘電率が1.4?2.0である請求項6記載のポリイミド多孔質体。
【請求項8】
請求項6又は7記載のポリイミド多孔質体の少なくとも片面に金属箔を有するポリイミド多孔質体基板。」

・「【0002】
従来、プラスチックフィルムは高い絶縁性を有するために、信頼性の必要な部品又は部材、例えば回路基板、プリント配線基板等の電子・電気機器又は電子部品などに利用されている。最近では、電子・電気機器の高性能化及び高機能化に伴い、大量の情報を蓄積し、高速に処理及び伝達する電気機器分野では、これらに利用されているプラスチック材料にも高性能化が要求されている。特に高周波化に対応した電気的特性として、低誘電率化、低誘電正接が求められている。」

・「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、耐熱性に優れ、微細セル構造を有し、かつ比誘電率の低いポリイミド多孔質体及びその製造方法を提供することにある。さらには、多孔質体特有の機械的強度及び絶縁性の低下を抑制するために極めて微細な孔径を有するポリイミド多孔質体及びその製造方法を提供することを目的とする。」

・「【0031】
ポリイミド多孔質体の平均孔径、体積空孔率、孔径分布などは、使用するポリアミド酸、相分離化剤などの原料の種類や配合比率、及び相分離時における加熱温度や加熱時間などの条件により変化するため、目的とする平均孔径、体積空孔率、孔径分布を得るために系の相図を作成して最適な条件を選択することが好ましい。
【0032】
平均孔径が0.1?10μm、体積空孔率が20?90%であるポリイミド多孔質体を作製するためには、ポリアミド酸100重量部に対して相分離化剤を25?500重量部用いることが好ましく、より好ましくは25?300重量部であり、さらに好ましくは50?200重量部である。」

・「【0039】
本発明のポリイミド多孔質体の製造方法においては、まず、前記ポリマー溶液を基板上に塗布し、乾燥させてミクロ相分離構造を有する相分離構造体(例えば、シート状、フィルム状)を作製する。」

・「【0055】
本発明の製造方法により得られるポリイミド多孔質体は、耐熱性に優れ、平均孔径が極めて小さく、しかも比誘電率が極めて低いという特徴がある。具体的には、本発明のポリイミド多孔質体は、平均孔径が0.1?10μm程度(機械的強度及び絶縁性の観点から好ましくは0.1?5μm、より好ましくは0.2?2μm)、体積空孔率が20?90%程度(好ましくは40?90%、より好ましくは50?85%)、かつ比誘電率が1.4?2.0程度(好ましくは1.5?1.9)のものである。
【0056】
ポリイミド多孔質体の形状は用途により適宜変更できるが、シート状又はフィルム状の場合、厚さは通常1?500μmであり、好ましくは10?150μmであり、より好ましくは30?150μmである。」

・「【0061】
〔測定及び評価方法〕
(平均孔径の測定)
作製したポリイミド多孔質体を液体窒素で冷却し、刃物を用いてシート面に対して垂直に切断してサンプルを作製した。サンプルの切断面にAu蒸着処理を施し、該切断面をSEMで観察した。その画像を画像処理ソフト(三谷商事(株)製、WinROOF)で二値化処理し、気泡部と樹脂部とに分離して気泡の直径を測定した。50個の気泡について直径をそれぞれ測定し、その平均値を平均孔径とした。
【0062】
(体積空孔率の測定)
電子比重計(アルファーミラージュ社製、MD-300S)を用いて作製したポリイミド多孔質体と無孔質体の比重をそれぞれ測定し、下記式により体積空孔率を計算した。
体積空孔率(%)={1-(ポリイミド多孔質体の比重)/(無孔質体の比重)}×100」

・「【0065】
(比誘電率の測定)
空洞共振器摂動法により、周波数1GHzにおける複素誘電率を測定し、その実数部を比誘電率とした。測定機器は、円筒空洞共振機(アジレント・テクノロジー社製「ネットワークアナライザN5230C」、関東電子応用開発社製「空洞共振器1GHz」)を用い、短冊状のサンプル(サンプルサイズ2mm×70mm長さ)を用いて測定した。」

・「【0066】
実施例1
1000mlの4つ口フラスコに、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)785.3g、p-フェニレンジアミン(PDA)44.1g、及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(DDE)20.4gを加え、常温で撹拌しながら溶解させた。次いで、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)150.2gを加え、25℃で1時間反応させた後、75℃で25時間加熱することによりB型粘度計による溶液粘度が160Pa・sのポリアミド酸溶液(固形分濃度20wt%)を得た。得られたポリアミド酸溶液に、イミド化触媒として2-メチルイミダゾール0.832g(ポリアミド酸ユニット1モル当量に対して0.2モル当量)、及び脱水剤として安息香酸無水物2.32g(ポリアミド酸ユニット1モル当量に対して0.2モル当量)を添加した。
【0067】
前記ポリアミド酸溶液に、重量平均分子量400のポリプロピレングリコールをポリアミド酸溶液100重量部に対して20重量部添加し、撹拌して透明な均一のポリマー溶液を得た。このポリマー溶液をアプリケーターを用いて、PETフィルム上に塗布し、その後85℃で15分乾燥させてNMPを蒸発除去し、ミクロ相分離構造を有する相分離構造体を作製した。この相分離構造体を500ccの耐圧容器に入れ、25℃の雰囲気中、25MPaに加圧した後、圧力を保ったままガス量にして約15リットル/分の流量でCO_(2)を注入、排気してポリプロピレングリコールを抽出する操作を5時間行って多孔質体を得た。その後、多孔質体を340℃で1時間加熱し、ポリイミド多孔質体を作製した。
・・・
【0072】
実施例6
実施例1において、脱水剤として安息香酸無水物の代わりに無水酢酸1.034g(ポリアミド酸ユニット1モル当量に対して0.2モル当量)を添加し、また重量平均分子量400のポリプロピレングリコールの代わりに重量平均分子量250のポリプロピレングリコールを添加した以外は実施例1と同様の方法でポリイミド多孔質体を作製した。」

・「【0076】
【表1】



イ 甲1発明
甲1に記載された事項を、特に実施例1及び6に関して整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1実施例1発明」、「甲1実施例6発明」という。)が記載されていると認める。

<甲1実施例1発明>
「1000mlの4つ口フラスコに、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)785.3g、p-フェニレンジアミン(PDA)44.1g、及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(DDE)20.4gを加え、常温で撹拌しながら溶解させ、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)150.2gを加え、25℃で1時間反応させた後、75℃で25時間加熱することによりB型粘度計による溶液粘度が160Pa・sのポリアミド酸溶液(固形分濃度20wt%)を得、得られたポリアミド酸溶液に、イミド化触媒として2-メチルイミダゾール0.832g(ポリアミド酸ユニット1モル当量に対して0.2モル当量)、及び脱水剤として安息香酸無水物2.32g(ポリアミド酸ユニット1モル当量に対して0.2モル当量)を添加し、前記ポリアミド酸溶液に、重量平均分子量400のポリプロピレングリコールをポリアミド酸溶液100重量部に対して20重量部添加し、撹拌して透明な均一のポリマー溶液を得、このポリマー溶液をアプリケーターを用いて、PETフィルム上に塗布し、その後85℃で15分乾燥させてNMPを蒸発除去し、ミクロ相分離構造を有する相分離構造体を作製し、この相分離構造体を500ccの耐圧容器に入れ、25℃の雰囲気中、25MPaに加圧した後、圧力を保ったままガス量にして約15リットル/分の流量でCO_(2)を注入、排気してポリプロピレングリコールを抽出する操作を5時間行って多孔質体を得、その後、多孔質体を340℃で1時間加熱して作製された、平均孔径3.0μm、体積空孔率83%、比誘電率1.6であるポリイミド多孔質体。」

<甲1実施例6発明>
「1000mlの4つ口フラスコに、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)785.3g、p-フェニレンジアミン(PDA)44.1g、及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(DDE)20.4gを加え、常温で撹拌しながら溶解させ、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)150.2gを加え、25℃で1時間反応させた後、75℃で25時間加熱することによりB型粘度計による溶液粘度が160Pa・sのポリアミド酸溶液(固形分濃度20wt%)を得、得られたポリアミド酸溶液に、イミド化触媒として2-メチルイミダゾール0.832g(ポリアミド酸ユニット1モル当量に対して0.2モル当量)、及び脱水剤として無水酢酸1.034g(ポリアミド酸ユニット1モル当量に対して0.2モル当量)を添加し、前記ポリアミド酸溶液に、重量平均分子量250のポリプロピレングリコールをポリアミド酸溶液100重量部に対して20重量部添加し、撹拌して透明な均一のポリマー溶液を得、このポリマー溶液をアプリケーターを用いて、PETフィルム上に塗布し、その後85℃で15分乾燥させてNMPを蒸発除去し、ミクロ相分離構造を有する相分離構造体を作製し、この相分離構造体を500ccの耐圧容器に入れ、25℃の雰囲気中、25MPaに加圧した後、圧力を保ったままガス量にして約15リットル/分の流量でCO_(2)を注入、排気してポリプロピレングリコールを抽出する操作を5時間行って多孔質体を得、その後、多孔質体を340℃で1時間加熱して作製された、平均孔径4.5μm、体積空孔率71%、比誘電率1.8であるポリイミド多孔質体。」

(2)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「樹脂組成物、それを含む積層膜及びその積層膜を部品に用いる画像形成装置」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【請求項1】
全孔数の80%以上が独立孔からなる多孔質構造を有し、平均孔径が0.01μm以上0.9μm以下であって、全孔数の80%以上が平均孔径より±30%以内の孔径を有する、エンジニアリングプラスチックにより構成される樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物がポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンのうちの少なくとも一つからなることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。」

・「【0001】
本発明は、断熱材、軽量構造材、吸着材、吸音材、触媒担体等に用いられる有機高分子多孔質体、及び、低誘電率を有する電子部品用基材、又、断熱性、吸音性、軽量性等を有する宇宙航空や輸送車両用材料に関する。また本発明は、複写機やプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に用いられる機能部材及び該機能部材を用いた画像定着装置に関する。」

・「【0005】
本発明を詳細に説明するために、図面を通じて以下に発明を実施するための形態を示す。なお、個々に開示する実施形態は、本発明である樹脂組成物、それを含む積層膜及びその積層膜を部品に用いる画像形成装置が実際に用いられる例であり、これに限定されるものではない
(本発明の実施形態)
図1は本実施形態における樹脂組成物及びその上に形成した離型層、弾性層及び基材からなる積層膜の断面を概略的に示したものである。
本実施形態における、樹脂組成物の多孔質構造は、機械特性の観点からいうと、空隙部分が曲面の樹脂壁によって区切られた独立孔からなる。独立孔は、一つ一つの孔が独立しており、孔と孔との間に樹脂の壁を有する。そのため、樹脂の弾性率のみでなく、孔中の気圧の効果により、連続孔に比べ、樹脂組成物全体として高弾性率を発現することが期待される。また、独立孔になっていることにより、画像形成プロセスにおいて発生した不純物等が多孔層内部に侵入するのを低減し、材料劣化、物性変化の発現を抑制することができる。また、本実施形態の多孔質構造において、独立孔が全孔の80%以上を占めている。ここで「独立孔」とは、隣接する孔との間に存在する樹脂の壁の穴が開いていないものをいう。
本実施形態における、樹脂組成物の孔径は0.01μm以上0.9μm以下の範囲から適宜選択される。断熱性の観点からいうと、孔径は空気の平均自由行程以下になることが好ましい。孔径が平均自由行程(空気の場合は65nm)以下になると、そこに含まれる空気の熱伝導率が低下し、真空とみなせるようになる。そのため、樹脂組成物全体として熱伝導率が低下し、断熱性向上が見込めるからである。しかしながら、孔径が0.01μmより小さくなると、無孔膜に構成が類似してくるため、孔部の樹脂壁を介した熱伝導による伝播が大きくなる。そのため樹脂組成物全体として熱伝導率の上昇を招き、断熱材として用いることが難しくなる。また後述するように、孔径は溶液の粘度により制御することができるが、0.01μm以下の孔径を実現しようとした場合、溶液の粘度が非常に高くなるため、製膜のハンドリングが非常に困難となる。
また、本発明の樹脂組成物の多孔質構造は、孔径10μm以上のマクロボイドのない構造である。巨大な空孔が多くなると圧縮及び引張りのような外的な物理変化に対して材料が劣化しやすくなるからである。また、後述するように、導電制御剤との関係で、マクロボイドを含まないことが好ましい。さらに、本発明では、樹脂組成物の平均孔径が0.1μm以上0.9μm以下の範囲とする。本実施形態における粒径の測定方法は特に限定せず、従来の測定方法を用いることができ、水銀圧入法やSEM観察後の画像解析を用いることができる。」

・「【0006】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
・・・(略)・・・
(実施例1)
ポリイミド前駆体であるポリアミック酸のN-メチルピロリドン(NMP)溶液(商品名UワニスA、宇部興産(株)製、樹脂濃度20重量%)を用意した。ポリアミック酸溶液に塩化リチウムを15重量%となるように加え、溶解させた。このときの樹脂粘度は120,000cPであった。基材として120μm厚のポリイミド材(商品名:カプトン、東レデュポン(株)製)を用意し、コーターを用いて、上記溶液を基材上にキャストした。その後、キャスト膜を室温で蒸留水中に浸漬し、5分間放置した。基材を水中から取り出し、得られた膜を蒸留水で洗浄した。
付着した水を拭き取り、膜を乾燥炉に入れた。80℃で1時間乾燥したのち、10℃/分の昇温速度で、150℃まで温度が上昇するようにした。150℃で30分加熱後、10℃/分の昇温速度で、250℃まで温度が上昇するようにした。250℃で10分加熱後、10℃/分の昇温速度で、350℃まで温度が上昇するようにし、350℃で10分間加熱を行うことによりポリイミド樹脂組成物を作製した。
・・・(略)・・・
(実施例5)
基材に流延したキャスト膜に溶剤置換調節材(ユーポア、ガーレー値210sec/100cc、宇部興産(株)製)を被せて相転移を行った以外は、実施例1と同様の方法によりポリイミド樹脂組成物を作製した。
・・・(略)・・・
(実施例7)
塩化リチウムの量を調整して、ポリアミック酸溶液の樹脂粘度を105、000cPとし、キャスト膜に溶剤置換調節材(ユーポア、ガーレー値300sec/100cc、宇部興産(株)製)を被せて相転移した以外は実施例5と同様の方法によりポリイミド樹脂組成物を作製した。
独立孔の平均孔径は0.40μmであり、個数分布を検討すると0.28?0.52μmの間に全孔数の93%が含まれていた。また空孔率は61%であり、全孔数のうち95%が独立孔であった。得られた多孔膜の膜厚は150μmであった。断面をSEMにより観察したところ、図5(5,000倍)に示すものであった。
・・・(略)・・・
(実施例17)
ポリアミック酸の樹脂濃度を10重量%とし、塩化リチウムの量を調整して、ポリアミック酸溶液の樹脂粘度を100、000cPとした以外は、実施例7と同様の方法によりポリイミド樹脂組成物を作製した。
独立孔の平均孔径は0.50μmであり、個数分布を検討すると0.35?0.65μmの間に全孔数の86%が含まれていた。また空孔率は85%であり、全孔数のうち87%が独立孔であった。得られた多孔膜の膜厚は130μmであった。」

イ 甲2発明
甲2に記載された事項を、特に実施例17に関して整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「独立孔の平均孔径は0.50μmであり、個数分布を検討すると0.35?0.65μmの間に全孔数の86%が含まれ、空孔率は85%であり、全孔数のうち87%が独立孔である膜厚が130μmのポリイミド樹脂組成物の多孔膜。」

(3)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「ポリイミドエーロゲル、炭素エーロゲル、及び金属炭化物エーロゲル並びにこれらの製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【請求項1】
ジアミンモノマー及び芳香族酸二無水物モノマーを溶媒中でポリアミド酸の形成を誘導する条件下で接触させる;該ポリアミド酸を第1溶媒中で脱水剤と接触させてイミド化によってポリイミドゲルを形成する;及び該ポリイミドゲルを超臨界CO_(2)の存在下に乾燥してポリイミドエーロゲルを得る;ことを含んでなるポリイミドエーロゲルを製造する方法。」

・「【0009】
炭素エーロゲルは各種の電気化学の適用において電極に組み込まれている。米国特許第6,332,990号には、各種電気化学的なエネルギー貯蔵用途において電極として使用される複合炭素の薄膜シートが述べられており、ここにおいて炭素薄膜シートは結合剤としての炭素エーロゲルからなっている。米国特許第5,558,802号は、リン酸添着炭素エーロゲル及びそれの二次リチウムイオン電池の電解質としての用途を教示している。米国特許第5,601,938号は、ガス分散層が遷移金属及びリン酸を付着させた炭素エーロゲルからなっている燃料電池用途の膜電極装置を述べている。米国特許第6,544,648は、高温及び圧力下で固まる新規な不定形炭素物質及びこの物質の電気化学的及び構造物適用の用途を述べている。」

・「(実施例1)
【0124】
ポリアミド酸の製造
1,2,4,5-ベンゼンカルボン酸・2無水物(0.018モル、3.928グラム)及び4,4’-オキシジアニリン(0.018モル、3.606グラム)を約10%固体濃度のNMP溶液68グラムに溶解した。ポリアミド酸の反応は室温で一晩、アルゴン雰囲気下で連続撹拌で行った。
・・・
【0128】
【表1】

(実施例7)
【0129】
共重合ポリアミド酸-ポリジメチルシロキサン溶液の製造
4.00グラムの1,2,4,5-ベンゼンカルボン酸・2無水物(0.01833モル)、3.615グラムの4,4’-オキシジアニリン(0.01805モル、)、及び0.850グラムの両末端(3-ビスアミノプロピル)ポリ(ジメチルシロキサン)(アミン数0.6-0.8meq/g、約3^(*)10^(-4)モル及び固体含量10%)を、約10.3%の固形濃度のTHF2.54グラムとNMP71.34グラムの混合溶媒に溶解した。反応は室温で一晩、アルゴン雰囲気下で連続撹拌で行った。」

・「(実施例14)
【0136】
炭素エーロゲル電極の製造
実施例1実施例1で得られるポリアミド酸溶液12.5グラムをDMAc18.75グラムで希釈して濃度が0.05グラム/ccのウェットゲルを製造した。1.96グラムのAA(2無水物に対するモル比:5:1)及び0.60グラムのPY(無水酢酸に対するモル比:1:1)を反応系に加えた。1時間以内で試料がゲル化した。ゲル中の溶媒は超臨界CO_(2)乾燥工程によって除去した。得られたエーロゲルを450℃で30分間後-硬化した。このポリイミドエーロゲルの密度は0.16グラム/ccであった。BETで測定した表面積は831m^(2)/グラムであった。」

イ 甲3発明
甲3に記載された事項を、特に実施例14に関して整理すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

「1,2,4,5-ベンゼンカルボン酸・2無水物(0.018モル、3.928グラム)及び4,4’-オキシジアニリン(0.018モル、3.606グラム)を約10%固体濃度のNMP溶液68グラムに溶解し、反応は室温で一晩、アルゴン雰囲気下で連続撹拌で行って、ポリアミド酸を製造し、当該ポリアミド酸溶液12.5グラムをDMAc18.75グラムで希釈して濃度が0.05グラム/ccのウェットゲルを製造し、1.96グラムのAA(2無水物に対するモル比:5:1)及び0.60グラムのPY(無水酢酸に対するモル比:1:1)を反応系に加え、1時間以内で試料がゲル化し、ゲル中の溶媒は超臨界CO_(2)乾燥工程によって除去して得られたエーロゲルを450℃で30分間後-硬化した、ポリイミドエーロゲルの密度は0.16グラム/ccであって、BETで測定した表面積は831m^(2)/グラムである炭素エーロゲル電極。」

(4)甲4に記載された事項等
ア 甲4に記載された事項
甲4には、「ポリイミドエアロゲル薄膜」に関して、おおむね次の事項が記載されている。(訳文のみ示す。)

・「化学的イミド化を用いたポリイミドエアロゲルの合成
スキーム1に示すように、ポリイミドエアロゲルを調製した。表1に従い、3つの異なるジアミン(ODA、DMBZ、またはPPDA)および2つの異なる二無水物(BPDAまたはBTDA)から、NMP中のポリイミドの10重量%溶液としてエアロゲルを調製した。例として、BPDA、TAB、およびODAを使用したn=30のポリイミドエアロゲルの調製について説明する(表1、実行22)。窒素下の50mLのNMP中のODA(3.16g、15.8mmol)の溶液に、BPDA(4.79g、16.3mmol)を加えた。すべてのBPDAが溶解した後、16mLのNMPに溶解したTAB(0.14g、0.35mmol)の溶液を攪拌しながら添加した。10分間攪拌した後、無水酢酸(12.3mL、130ミリモル、BPDAに対するモル比(8:1)およびピリジン(10.5mL、130ミリモル)を溶液に加えた。混合後すぐに、溶液を準備した型に注いだ。溶液は20分以内にゲル化した。ゲルを型内で24時間熟成させた。熟成後、ゲルをアセトン中の75%NMPの溶液に抽出し、一晩浸した。その後、24時間間隔でアセトン中の25%NMP、最後に100%アセトンで溶媒を交換した。超臨界CO_(2)抽出により溶媒を除去した後、80℃で一晩真空乾燥し、密度が0.203g/cm^(3)のポリイミドエアロゲルを得た。^(13)C CPMAS NMR(ppm):124.4、130.7、143.2、155、165.6。FTIR:1774.7、1718.2、1501.0、1374.8、1241.4、1170.3、1115.3 1087.8、878.9、830.0、737.6。
薄膜製造は、ロールトゥロールキャスティングシステムを使用して実施した。上記と同じ10w/w%NMP溶液を、1.09mmに設定された前面開口ギャップを持つ幅12インチのドクターブレードを使用して、80cm/minの速度で動作するPETキャリアフィルムにキャストした。30分以内にゲル化したフィルムをビニール袋に密封し、PETキャリアから剥がす前に24時間熟成した。その後、アセトン中の75%NMP、続いてアセトン中の25%NMP、最後に100%アセトンで24時間間隔でフィルムを洗浄した。超臨界乾燥により、上記と同様の特性を持つポリイミドエアロゲル薄膜(0.45mm)が得られた。」(538頁の“Synthesis of Polyimide Aerogels Using Chemical Imidization”の欄)

・「

」(538頁のTable 1.)

・「

」(542頁のFigure 6.)

イ 甲4に記載された発明
甲4に記載された事項を、特にtable 1.に記載のsampleについて整理すると、甲4には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。

「下記表1の3つの異なるジアミン(ODA、DMBZ、またはPPDA)および2つの異なる二無水物(BPDAまたはBTDA)から得られた、空孔率77.6?91.6%である膜厚0.45mmのポリイミドエーロゲル薄膜。



2 取消理由5(明確性要件)について
(1)判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。

(2)明確性要件の判断
本件発明1は、「前記空孔の平均孔径が10μm以下であり」、「前記空孔の孔径分布の半値全幅が4μm以上10μm以下であり」という発明特定事項を有するものである。

他方、本件特許の発明の詳細な説明には、「平均孔径」及び「孔径分布」に関して、次の記載がある。
・「【0052】
(平均孔径及び孔径分布の評価)
平均孔径及び孔径分布は、走査電子顕微鏡(日本電子(株)製JSM-6510LV)を用いて多孔形状を観察することにより行った。サンプルを剃刀にて切断して、断面は露出させた。さらに表面に白金蒸着後、観察を行った。平均孔径及び孔径分布(半値全幅)は、SEM画像解析より算出した。画像解析は、SEM像に2値化を施し、孔を識別後、孔径を算出し、ヒストグラム化した。解析ソフトはImageJを用いた。また、孔径評価における孔径は、より実際の構造を表している最大径を値として適用した。」

また、令和3年2月24日に特許権者が提出した意見書に添付された乙第1号証(ImageJ日本語情報 ImageJマニュアル:Analyze(解析)メニュー、2014年1月31日、シーサー株式会社)には、本件特許の発明の詳細な説明の【0052】中の解析ソフト「ImageJ」は、粒子解析を行う際、「対象物の数を数え」るものであることが記載され(2/15ページの「Analyze Particles(粒子解析)…」の欄)、解析結果として、「particle count(粒子数)」が表示されるものであることが記載されている(3/15ページ)。

そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の【0052】における「平均孔径」及び「孔径分布」の算出が、「個数基準」で行われること及び個々の孔の最大径を値として適用することを当業者であれば理解でき、その結果として、本件発明1における「前記空孔の平均孔径が10μm以下であり」、「前記空孔の孔径分布の半値全幅が4μm以上10μm以下であり」という発明特定事項がどのようなものか当業者であれば理解できるといえる。

なお、異議申立人は、令和2年9月25日に提出した意見書において、「平均粒径」が、「個数基準」に基づくものなのか、「体積基準」に基づくものなのか、依然として不明確である旨主張するが、上記のとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載から、「平均粒径」が、「個数基準」に基づくものであることを当業者であれば理解できるので、該主張は採用できない。

したがって、本件発明1及び請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2、3、5、7ないし11に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎としても、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。

(3)取消理由5についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし3、5、7ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、取消理由5によっては取り消すことはできない。

3 取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明を対比する。
甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明における「ポリイミド多孔質体」は、「ポリイミド」からなり、「体積空孔率83%」又は「体積空孔率71%」及び「比誘電率1.6」又は「比誘電率1.8」であり、ポリマー溶液をアプリケーターを用いて、PETフィルム上に塗布し、その後85℃で15分乾燥させてNMPを蒸発除去し、ミクロ相分離構造を有する相分離構造体を作製して得たものである。そして、甲1の「ポリイミド多孔質体の形状は用途により適宜変更できるが、シート状又はフィルム状の場合、厚さは通常1?500μmであり、好ましくは10?150μmであり、より好ましくは30?150μmである。」(段落【0056】)の記載から、甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明における「ポリイミド多孔質体」は、本件発明1における「ポリマー材料からなるフィルム」に「空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルム」に相当する。
甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明における「ポリイミド多孔質体」は、「体積空孔率は83%」又は「体積空孔率は71%」であるから、本件発明1における「前記フィルムの空孔率が70%以上であり」という発明特定事項を有するものである。
甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明における「ポリイミド多孔質体」は、「平均孔径は3.0μm」又は「平均孔径4.5μm」であるから、甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明における「空孔」は、「微細」であって、「前記空孔の平均孔径が10μm以下であり」という発明特定事項を有するものである。
甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明における「ポリイミド多孔質体」は、「ポリイミド」からなるものであるから、本件発明1における「前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれる」という発明特定事項を有するものである。
そうすると、本件発明1と甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明とは、

「ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記フィルムの空孔率が70%以上であり、
前記空孔の平均孔径が10μm以下であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれた、
前記フィルム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-1>
本件発明1は、「空孔の孔径分布の半値全幅が4μm以上10μm以下であり」と特定するのに対し、甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明は、そのようには特定しない点。
<相違点1-2>
本件発明1は、「60GHzで測定した誘電率が2.0以下である」と特定するのに対し、甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明は、そのようには特定しない点。

イ 判断
相違点1-1について検討する。
甲1実施例1発明及び甲1実施例6発明の平均孔径は3.0μm及び4.5μmであるが、甲1にはその孔径分布がどのように分布しているのか、及び、その半値全幅についての記載は一切ない。そして、孔径分布がどのような分布となるかの証拠もない。そうすると、提出された証拠の限りにおいては、相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項について、甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明が有している蓋然性が高いということはできない。
また、甲1実施例1発明及び甲1実施例6発明の、平均孔径が3.0μm及び4.5μmである空孔の孔径分布の半値全幅が4μm以上10μm以下となるという優先日の時の当業者の技術常識があるともいえない。
そうすると、相違点1-1は実質的な相違点である。
また、甲1には、甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明において、相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明において、相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

そして、本件発明1は「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有する多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを得ることができ、このフィルムをミリ波アンテナの基材に使用することにより、ミリ波アンテナを高利得化してミリ波の通信距離を長くすることが可能となる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0015】)という甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明であるとはいえないし、甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件発明2、3、5及び7ないし10について
本件発明2、3、5及び8ないし10は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明であるとはいえないし、本件発明2、3、5及び7ないし10は、同様に、甲1実施例1発明又は甲1実施例6発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)取消理由1についてのむすび
したがって、本件発明1ないし3、5及び8ないし10は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件発明1ないし3、5及び7ないし10は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3、5及び7ないし10に係る特許は、取消理由1によっては取り消すことはできない。

4 取消理由2(甲2を主引用文献とする新規性進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「多孔膜」は、「ポリイミド樹脂組成物」からなり「空孔率は85%」であって、甲2の【0001】によると、「低誘電率を有する電子部品用基材」に関するものであるから、本件発明1における「ポリマー材料からなるベース材料層」に「空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルム」に相当する。
甲2発明における「多孔膜」は、「空孔率は85%」であるから、本件発明1における「前記フィルムの空孔率が70%以上であり」という発明特定事項を有するものである。
甲2発明における「多孔膜」は、「独立孔の平均孔径は0.50μmであり、個数分布を検討すると0.35?0.65μmの間に全孔数の86%が含まれ」るものであるから、甲2発明における「空孔」は、「微細」であって、また、甲2発明は「前記空孔の平均孔径が50μm以下であり」という発明特定事項を有するものである。
甲2発明における「多孔膜」は、「ポリイミド樹脂組成物」からなるものであるから、本件発明1における「前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれる」という発明特定事項を有するものである。

そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記フィルムの空孔率が70%以上であり、
前記空孔の平均孔径が10μm以下であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれた、
前記フィルム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2-1>
本件発明1は、「空孔の孔径分布の半値全幅が4μm以上10μm以下であり」と特定するのに対し、甲2発明は、そのようには特定しない点。
<相違点2-2>
本件発明1は、「60GHzで測定した誘電率が2.0以下である」と特定するのに対し、甲2発明は、そのようには特定しない点。

イ 判断
相違点2-1について検討する。
甲2発明は、「独立孔の平均孔径は0.50μmであり、個数分布を検討すると0.35?0.65μmの間に全孔数の86%が含まれ」るものであるから、相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項について、甲2発明が有しているとはいえない。
したがって、相違点2-1は実質的な相違点である。
また、甲2には、甲2発明において、相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲2発明において、相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

そして、本件発明1は「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有する多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを得ることができ、このフィルムをミリ波アンテナの基材に使用することにより、ミリ波アンテナを高利得化してミリ波の通信距離を長くすることが可能となる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0015】)という甲2発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、相違点2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件発明2、3、5及び7ないし10について
本件発明2、3、5及び8ないし10は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲2発明であるとはいえないし、本件発明2、3、5及び7ないし10は、同様に、甲2発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)取消理由2についてのむすび
したがって、本件発明1ないし3、5及び8ないし10は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件発明1ないし3、5及び7ないし10は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3、5及び7ないし10に係る特許は、取消理由2によっては取り消すことはできない。

5 取消理由3(甲3を主引用文献とする新規性進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明における「炭素エーロゲル電極」は、ポリアミド酸を加熱硬化させたものであって、密度が0.16グラム/cc、BET表面積が831m^(2)/グラムであり、電極として利用されるエーロゲルであることから、本件発明1における「ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルム」に相当する。
甲3発明における「炭素エーロゲル電極」は、密度が0.16グラム/ccであって、甲3発明のポリイミド(PMDA-ODA)の密度が1.42(甲第10号証及び甲第11号証参照)であることから、空孔率は88.7%と算出((1.42-0.16)/1.42)されるので、本件発明1における「前記フィルムの空孔率が70%以上であり」という発明特定事項を有するものである。
甲3発明における「炭素エーロゲル電極」の平均孔径についての特定はないが、甲3の段落【0128】の表1には、甲3発明と同様に製造されたエーロゲルのゲル密度と平均孔径が記載されていて、甲3発明のゲル密度が0.16であることからすると、甲3発明の「炭素エーロゲル電極」は、本件発明の平均孔径を満たしている蓋然性が高い。
甲3発明における「炭素エーロゲル電極」は、ポリアミド酸を加熱硬化させたものであるから、本件発明1における「前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれる」という発明特定事項を有するものである。

そうすると、本件発明1と甲3発明とは、
「ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記フィルムの空孔率が70%以上であり、
前記空孔の平均孔径が10μm以下であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれた、
前記フィルム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3-1>
本件発明1は、「空孔の孔径分布の半値全幅が4μm以上10μm以下であり」と特定するのに対し、甲3発明は、そのようには特定しない点。
<相違点3-2>
本件発明1は、「60GHzで測定した誘電率が2.0以下である」と特定するのに対し、甲3発明は、そのようには特定しない点。

イ 判断
相違点3-1について検討する。
甲3の段落【0128】の表1に、甲3発明と同様に製造されたエーロゲルのゲル密度(0.1、0.02、0.03)と平均孔径(19.5nm、28.2nm、40nm)が記載されていて、甲3発明のゲル密度が0.16であることからすると、甲3発明の「炭素エーロゲル電極」の平均孔径は、数十nm程度である蓋然性が高い。そうすると、その空孔の半値全幅が4μm以上10μm以下であるとはいえない。
また、相違点3-1に係る本件発明1の発明特定事項について、甲3には甲3発明が有している又は有している蓋然性が高いといえるような記載はないし、そのようなことが本件特許の優先日の時の当業者の技術常識であるともいえない。
したがって、相違点3-1は実質的な相違点である。
また、甲3には、甲3発明において、相違点3-1に係る本件発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲3発明において、相違点3-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

そして、本件発明1は「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有する多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを得ることができ、このフィルムをミリ波アンテナの基材に使用することにより、ミリ波アンテナを高利得化してミリ波の通信距離を長くすることが可能となる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0015】)という甲3発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、相違点3-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明であるとはいえないし、甲3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件発明2、3、5及び7ないし10について
本件発明2、3、5及び7ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲3発明であるとはいえないし、本件発明2、3、5及び7ないし10は、同様に、甲3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)取消理由3についてのむすび
したがって、本件発明1ないし3、5及び7ないし9は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件発明1ないし3、5及び7ないし10は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3、5及び7ないし10に係る特許は、取消理由3によっては取り消すことはできない。

6 取消理由4(甲4を主引用文献とする新規性進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲4発明を対比する。
甲4発明における「ポリイミドエーロゲル薄膜」は、空孔率77.6?91.6%であるポリイミドエーロゲルであるから、本件発明1における「ポリマー材料からなるフィルムに空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルム」に相当する。
甲4発明における「ポリイミドエーロゲル薄膜」は、「空孔率77.6?91.6%」であるから、本件発明1における「前記フィルムの空孔率が70%以上であり」という発明特定事項を有するものである。
甲4発明における「ポリイミドエーロゲル薄膜」の平均孔径についての明記はないが、甲4のFig.6のbからその平均孔径は100nm以下といえるから、甲4発明における「ポリイミドエーロゲル薄膜」は、本件発明1における「微細」である「前記空孔の平均孔径が10μm以下であり」という発明特定事項を有するものである。
甲4発明における「ポリイミドエーロゲル薄膜」は、ポリイミドからなるものであるから、本件発明1における「前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれる」という発明特定事項を有するものである。

そうすると、本件発明1と甲4発明とは、
「ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記フィルムの空孔率が70%以上であり、
前記空孔の平均孔径が10μm以下であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれた、
前記フィルム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4-1>
本件発明1は、「空孔の孔径分布の半値全幅が4μm以上10μm以下であり」と特定するのに対し、甲4発明は、そのようには特定しない点。
<相違点4-2>
本件発明1は、「60GHzで測定した誘電率が2.0以下である」と特定するのに対し、甲4発明は、そのようには特定しない点。

イ 判断
相違点4-1について検討する。
甲4発明の平均孔径は、甲4のFig.6のbからみて100nm以下といえるから、その空孔の半値全幅が4μm以上10μm以下であるとはいえない。
また、相違点4-1に係る本件発明1の発明特定事項について、甲4には甲4発明が有している又は有している蓋然性が高いといえるような記載はないし、そのようなことが本件特許の優先日の時の当業者の技術常識であるともいえない。
したがって、相違点4-1は実質的な相違点である。
また、甲4には、甲4発明において、相違点4-1に係る本件発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲4発明において、相違点4-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

そして、本件発明1は「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有する多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを得ることができ、このフィルムをミリ波アンテナの基材に使用することにより、ミリ波アンテナを高利得化してミリ波の通信距離を長くすることが可能となる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0015】)という甲4発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、相違点4-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明であるとはいえないし、甲4発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件発明2、3、5及び7ないし10について
本件発明2、3、5及び7ないし10は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲4発明であるとはいえないし、甲4発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)取消理由4についてのむすび
したがって、本件発明1ないし3、5及び7ないし10は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件発明1ないし3、5及び7ないし10は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3、5及び7ないし10に係る特許は、取消理由4によっては取り消すことはできない。

第7 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、請求項11に対しての申立理由2、4、6、8(甲1、甲2、甲3、甲4に基づく進歩性)、申立理由9(甲5に基づく新規性)、申立理由10(甲5を主引用文献とする進歩性)、申立理由11(甲8に基づく新規性)及び申立理由13(サポート要件違反)である。
そこで、これらの申立理由について検討する。

1 請求項11に対しての申立理由2、4、6、8について
請求項11は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明11は本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、申立理由2(甲1に基づく進歩性)、申立理由4(甲2に基づく進歩性)、申立理由6(甲3に基づく進歩性)、申立理由8(甲4に基づく進歩性)は、それぞれ、甲1に基づく進歩性についての取消理由である上記第6 3(1)での検討、甲2に基づく進歩性についての取消理由である上記第6 4(1)での検討、甲3に基づく進歩性についての取消理由である上記第6 5(1)での検討、甲4に基づく進歩性についての取消理由である上記第6 5(1)での検討のとおり、それぞれの甲号証に記載の発明から容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明11は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項11に係る特許は、申立理由2、4、6及び8によっては取り消すことはできない。

2 申立理由9(甲5に基づく新規性)及び申立理由10(甲5を主引用文献とする進歩性)について
(1)甲5に記載された発明
甲5の6062頁のAbstractの欄、6063頁?6064頁の「Synthesis of Polyimide Aerogled Using Chemical Imidization」欄の記載から、以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認める。

「軽量アンテナ用の低誘電基板用に使用される気孔率が89.4%の低誘電性のポリイミドエーロゲルからなるフィルム。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲5発明を対比する。
甲5発明における「ポリイミドエーロゲルからなるフィルム」は、気孔率89.4%であるポリイミドエーロゲルからなるフィルムであるから、本件発明1における「ポリマー材料からなるフィルムに空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルム」に相当する。
甲5発明における「ポリイミドエーロゲル薄膜」は、「気孔率89.4%」であるから、本件発明1における「前記フィルムの空孔率が70%以上であり」という発明特定事項を有するものである。
甲5発明における「ポリイミドエーロゲルからなるフィルム」は、ポリイミドからなるものであるから、本件発明1における「前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれる」という発明特定事項を有するものである。

そうすると、本件発明1と甲5発明とは、
「ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記フィルムの空孔率が70%以上であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれた、
前記フィルム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点5-1>
本件発明1は、「空孔の孔径分布の半値全幅が4μm以上10μm以下であり」と特定するのに対し、甲5発明は、そのようには特定しない点。
<相違点5-2>
本件発明1は、「60GHzで測定した誘電率が2.0以下である」と特定するのに対し、甲5発明は、そのようには特定しない点。
<相違点5-3>
本件発明1は、「前記空孔の平均孔径が10μm以下であり」と特定するのに対し、甲5発明は、そのようには特定しない点。

イ 判断
相違点5-1について検討する。
相違点5-1に係る本件発明1の発明特定事項について、甲5には甲5発明が有している又は有している蓋然性が高いといえるような記載はないし、そのようなことが本件特許の優先日の時の当業者の技術常識であるともいえない。
したがって、相違点5-1は実質的な相違点である。
また、甲5には、甲5発明において、相違点5-1に係る本件発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲5発明において、相違点5-1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

そして、本件発明1は「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有する多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを得ることができ、このフィルムをミリ波アンテナの基材に使用することにより、ミリ波アンテナを高利得化してミリ波の通信距離を長くすることが可能となる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0015】)という甲5発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、相違点5-2及び相違点5-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明であるとはいえないし、甲5発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件発明2、3、5、7ないし11について
本件発明2、3、5、8、9及び11は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲5発明であるとはいえないし、本件発明2、3、5及び7ないし11は、同様に、甲5発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)申立理由9及び10についてのむすび
したがって、本件発明1ないし3、5、8、9及び11は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、本件発明1ないし3、5及び7ないし11は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3、5及び7ないし11に係る特許は、申立理由9及び10によっては取り消すことはできない。

3 申立理由11(甲8に基づく新規性)について
(1)甲8に記載された発明
甲8の特許請求の範囲の請求項1及び6の記載から、以下の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認める。

「アンテナ用のポリイミドエーロゲルからなるフィルム。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲8発明を対比する。
甲8発明における「ポリイミドエーロゲルからなるフィルム」は、アンテナに利用されるポリイミドエーロゲルからなるフィルムであるから、本件発明1における「ポリマー材料からなるフィルムに空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルム」に相当する。

甲8発明における「ポリイミドエーロゲルからなるフィルム」は、ポリイミドからなるものであるから、本件発明1における「前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれる」という発明特定事項を有するものである。

そうすると、本件発明1と甲8発明とは、
「ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれた、
前記フィルム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点8-1>
本件発明1は、「空孔の孔径分布の半値全幅が4μm以上10μm以下であり」と特定するのに対し、甲5発明は、そのようには特定しない点。
<相違点8-2>
本件発明1は、「60GHzで測定した誘電率が2.0以下である」と特定するのに対し、甲8発明は、そのようには特定しない点。
<相違点8-3>
本件発明1は、「前記フィルムの空孔率が70%以上であり」と特定するのに対し、甲8発明は、そのようには特定しない点。
<相違点8-4>
本件発明1は、「前記空孔の平均孔径が10μm以下であり」と特定するのに対し、甲8発明は、そのようには特定しない点。

イ 判断
相違点8-1について検討する。
相違点8-1に係る本件発明1の発明特定事項について、甲8には甲8発明が有している又は有している蓋然性が高いといえるような記載はないし、そのようなことが本件特許の優先日の時の当業者の技術常識であるともいえない。
したがって、相違点8-1は実質的な相違点である。
そうすると、相違点8-2ないし相違点8-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲8発明であるとはいえない。

(3)本件発明6及び7について
本件発明6及び7は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明1と同様に、甲8発明であるとはいえない。

(4)申立理由11についてのむすび
したがって、本件発明1、6及び7は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、6及び7に係る特許は、申立理由11によっては取り消すことはできない。

4 申立理由13(サポート要件)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。

(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。

(3)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0001】ないし【0010】によると、本件発明1の発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「ミリ波の高周波数において低い誘電率を有することにより、ミリ波アンテナ用のシートとして有用な多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを提供すること」である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0011】ないし【0014】には、本件発明1に対応する記載があり、同【0016】ないし【0032】には、本件発明1の各発明特定事項について具体的な記載があり、同【0033】ないし【0053】には、本件発明1の実施例が記載され、該実施例においてミリ波の高周波数において低い誘電率を有することを確認している。
そうすると、当業者は「ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、前記フィルムの空孔率が70%以上であり、前記空孔の平均孔径が10μm以下であり、前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれ、前記空孔の孔径分布の半値全幅が4μm以上10μm以下であり、60GHzで測定した誘電率が2.0以下である前記フィルム」である本件発明1のフィルムは発明の課題を解決できると認識する。
そして、本件発明4及び5は請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件発明1、4及び5に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、サポート要件に適合する。
なお、本件発明1、4及び5で規定された「平均孔径」及び「半値全幅」の数値は、「連泡構造を含む」空泡の数値であるのに対し、実施例で示されている「平均孔径」及び「半値全幅」の数値は、「独立孔」に基づいた数値であるとしても、上記判断は左右されない。

(4)申立理由13についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1、4及び5に係る特許は申立理由13によっては取り消すことはできない。

第8 結語
上記第5ないし7のとおり、本件特許の請求項1ないし3、5及び7ないし11に係る特許は、取消理由<決定の予告>及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1ないし3、5及び7ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項4及び6に係る特許は、訂正により削除されたため、異議申立人による請求項4及び6に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記フィルムの空孔率が70%以上であり、
前記空孔の平均孔径が10μm以下であり、
前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びフッ化ポリイミドからなる群から選ばれ、
前記空孔の孔径分布の半値全幅が4μm以上10μm以下であり、
60GHzで測定した誘電率が2.0以下である
ことを特徴とする、前記フィルム。
【請求項2】
前記フィルムの空孔率が85%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記フィルムの空孔率が95%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記空孔の孔径分布の半値全幅が5μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
60GHzで測定した誘電率が1.4以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム。
【請求項8】
前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであることを特徴とする、請求項1?3、5及び7のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項9】
前記有機溶媒がN-メチルピロリドンであることを特徴とする、請求項8に記載のフィルム。
【請求項10】
厚さが50μm?500μmであることを特徴とする、請求項1?3、5及び7?9のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項11】
ミリ波アンテナ用の基板に使用するフィルムであることを特徴とする、請求項1?3、5及び7?10のいずれか1項に記載のフィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-05-10 
出願番号 特願2017-75984(P2017-75984)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 537- YAA (C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 横島 隆裕  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 大畑 通隆
大島 祥吾
登録日 2019-08-09 
登録番号 特許第6567590号(P6567590)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 ミリ波アンテナ用フィルム  
代理人 近藤 直樹  
代理人 上杉 浩  
代理人 須田 洋之  
代理人 西島 孝喜  
代理人 近藤 直樹  
代理人 西島 孝喜  
代理人 須田 洋之  
代理人 大塚 文昭  
代理人 大塚 文昭  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 上杉 浩  

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