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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:83  A61K
管理番号 1376675
異議申立番号 異議2020-700373  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-02 
確定日 2021-05-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6633879号発明「光硬化性人工爪組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6633879号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第6633879号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6633879号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成27年9月28日に出願され、令和元年12月20日にその特許権の設定登録がされ、令和2年1月22日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和2年6月2日に特許異議申立人藤下万実により特許異議の申立てがされ、令和2年7月22日に特許異議申立人三谷富子により特許異議の申立てがされた。

本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。

令和 2年 6月 2日受付:特許異議申立人藤下万実による特許異議の申
立て
同 年 7月22日受付:特許異議申立人三谷富子による特許異議の申
立て
同 年10月19日付け:取消理由通知書
同 年12月18日受付:特許権者による意見書及び訂正請求書
(以下「本件訂正請求」という。)
令和 3年 2月18日受付:特許異議申立人三谷富子による意見書

なお、特許異議申立人藤下万実は、令和3年1月13日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に何ら応答をしていない。


第2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア.のとおりである。

ア.訂正事項1
請求項1に係る
「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物と、
を含有する光硬化性人工爪組成物。」を
「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物と、
を含有し、
前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物が、
プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1、3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1、4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1、9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1、6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシ樹脂、及び(メタ)アクリロイル基を有するポリエステル樹脂であり、
前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物の含有量が、光硬化性人工爪組成物に対して3?30重量%である、光硬化性人工爪組成物。」に訂正する。

本件訂正請求は、一群の請求項〔1?3〕に対して請求されたものである。


(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア. 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
請求項1に係る「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物」は、化合物群「プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1、3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1、4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1、9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1、6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシ樹脂、及び(メタ)アクリロイル基を有するポリエステル樹脂」を選択肢として含む上位概念であるから、「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物」を上記化合物群に特定し、その含有量を光硬化性人工爪組成物に対して3?30重量%に特定する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)新規事項追加の有無
次に、本件特許発明明細書の【0017】?【0018】には、「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物」の具体例として上記化合物群が他の選択肢とともに列挙されており、その含有量についても「多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物を使用する場合の含有量としては、光硬化性人工爪組成物に対して1?90重量%であり、好ましくは3?60重量%、さらに好ましくは3?30重量%である」ことが記載されている。
よって、「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物」が上記化合物群であり、その含有量が、光硬化性人工爪組成物に対して3?30重量%である発明は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものである。

(ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(ア)で説示したとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するだけのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。


(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。


「【請求項1】
アクリロイルモルフォリンと、
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物と、
を含有し、
前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物が、
プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1、3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1、4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1、9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1、6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシ樹脂、及び(メタ)アクリロイル基を有するポリエステル樹脂であり、
前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物の含有量が、光硬化性人工爪組成物に対して3?30重量%である、光硬化性人工爪組成物。」

【請求項2】
前記多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物が、イソプロピリデンジフェニルビス(メタクリル酸オキシヒドロキシプロピル)である、請求項1に記載の光硬化性人工爪組成物。」

【請求項3】
アシルフォスフィンオキシド系光重合開始剤を含有する請求項1又は2に記載の光硬化性人工爪組成物。」

(以下、「本件発明1」?「本件発明3」をまとめて「本件発明」という場合もある。)

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)令和 2年10月19日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要
請求項1、3に係る特許に対して、当審が令和 2年10月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

ア.取消理由1(特許法第29条第2項)
本件特許発明1、3は、引用文献1(特許異議申立人藤下万実の提出した甲第1号証/特許異議申立人三谷富子の提出した甲第6号証)に記載された発明及び引用文献2(特許異議申立人藤下万実の提出した甲第2号証)に記載された発明、引用文献3(特許異議申立人三谷富子の提出した甲第1号証)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明1、3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
引用文献一覧
引用文献1:中国特許出願公開第103751036号明細書
引用文献2:特開昭62-199608号公報
引用文献3:特開2013-43853号公報


(2)引用文献の記載
ア.引用文献1の記載
引用文献1には以下の事項が記載されている。引用文献1は中国語文献であるため、摘記は合議体による翻訳文で示す。
(ア)「1.以下の成分を以下の質量%で含むUVネイル光線療法接着剤
単官能モノマー 40?50%
脂肪族ウレタンアクリレート樹脂 40?50%
光開始剤 8?11%
レベリング剤 0.2?0.4%
消泡剤 0.1?0.2%」(特許請求の範囲)

(イ)「[0007]単官能モノマーは、アクリロイルモルフォリン(ACMOと略する)、ヒドロキシエチルメタアクリレート(HEMAと略する)、3.3.5-トリメチルシクロヘキシルアクリエート(TMCHAと略する)及びそれらの混合物から選択される1種もしくは2種以上である。これらのうち、アクリロイルモルフォリン(ACMOと略す)は日本興人社の製品を、ヒドロキシエチルメタアクリレート(HEMAと略す)は日本三菱社の製品を、3.3.5-トリメチルシクロヘキシルアクリエート(TMCHAと略す)は台湾長興社のEM2104を用いることができる。本発明で使用されるモノマーは、いずれも単官能の中でも高硬化性のモノマーを使用しており、その中、アクリロイルモルフォリンは耐熱性に優れた機能性モノマーであり、肌への刺激が少ない、その蒸気圧が非常に低いため、刺激臭はほとんど発生しない。ACMOはさらに、低粘度、速硬化、低体積収縮という特徴もある。ヒドロキシエチルメタクリレートは、良好な接着性と低い皮膚刺激性を有する。3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート(略称:TMCHA)は、高い接着性、高い反応性、および低い硬化収縮を示し、システム内でコーティングの内部応力を減らしながら、硬化速度を上げることができる。上記のモノマーは、本発明の配合系において単独または混合で使用される場合、良好な希釈及び早い硬化速度を提供することができ、同時にコーティング膜に硬度、接着性なども提供できる。」([0007])

(ウ)「[0008]前記脂肪族ウレタンアクリレート樹脂は、2官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂と6官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂との混合物である。本発明の配合系において前記混合物の樹脂を用いる場合は、低エネルギー条件下で高い硬化速度を実現する特性を有し、その硬化塗膜が高硬度、高靭性、高光沢及び高膨潤性の効果を有する。本発明において、2官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂及び6官能脂肪族ポリウレタンアクリレート樹脂は具体的に、(30-40):(5-15)の質量比で配合することができる。具体的には、脂肪族ウレタンアクリレート樹脂としては、深川撒比斯科技社製の2官能非スクラブUV光線療法接着剤特殊機能脂肪族ウレタンアクリレートSM-582および台湾長興社製の6官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂6145-100を配合してもよい。脂肪族ウレタンアクリレートは、耐黄変性と物性に優れている。本発明では、2官能基と6官能基を組み合わせて使用する。好ましく使用されるSM-582は、低エネルギー、高硬化速度、高光沢、優れた耐油性と耐候性耐化学性、優れた耐摩耗性、及び、優れたフィルム形成靭性を備えた、2官能基の非スクラブUV光線療法接着剤用の特殊機能性脂肪族ウレタンアクリレート樹脂であり、本発明の主樹脂として使用できる。それとの配合樹脂は、長興社製の6官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂6145-100を好ましく使用でき、その硬化速度が速く、硬度が高く、靭性が高いため、主樹脂の硬度不足や硬化速度の不足を補うことができる。」([0008])

(エ)「[0009]光開始剤は、1-ヒドロキシシクロヘキシルベンゾフェノン(184)、2、4、6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキシド(TPO)及びジフェニルフォスフィンオキシド(819)の混合物である。……」([0009])

(オ)「[0022] 本発明により提供されるUVネイル光線療法接着剤の調製方法は、単純かつ便利である。専門的なネイルツールで準備した光線療法接着剤を爪に被覆した後、36Wの光線療法ランプのもとで2分間照射して成膜することができる。……」([0022])

(カ)「[0026]表1
[0027]

」([0026]?[0027])

(キ)「[0036] 試験後、実施例1?4で調製されたUVネイル光線療法接着剤は、無色透明の液体の外観、98?99%の固形分、および800?1000mpa.s(25℃)の粘度を有する。実施例1?4のそれぞれをカラーペースト調色で処理した後、次のコーティング方法を使用した。1.専門的なネイルツールでネイルを磨く。2.専門的なネイルブラシを使用して、最初のUVネイル光線療法接着剤の色を均一に爪に被覆し、36W光線療法ランプのもとで2分間照射する。3.専門的なネイルブラシを使用して、UVネイル光線療法接着剤の2番目の色を爪に均一に被覆し、36W光線療法ランプのもとで2分間照射する。4.専門的なネイルブラシを使用して、明るく無色のUVネイル光線療法接着剤を爪に均一に被覆し、36W光線療法ランプのもとで2分間照射して、長持ちする明るい色の光線療法接着剤コーティングを取得する。実施例1?4の光線療法用接着剤が成膜された後、そのコーティングははげ落ちにくく、塗布しやすく、硬化および乾燥時間が短く、持ちがよく、悪臭がなく、壊れにくく、弾性があり、色は明るく耐久性がある。」([0036])

引用文献1には、特に上記第4(2)ア.(ア)?(イ)、(エ)、(カ)の記載からみて、以下の発明が記載されていると認められる。
「単官能モノマーであるヒドロキシエチルメタアクリレート及びアクリロイルモルフォリン、脂肪族ウレタンアクリレート樹脂である2官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂及び6官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂、光開始剤である1-ヒドロキシシクロヘキシルベンゾフェノン、2、4、6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキシド、及びジフェニルフォルフィンオキシド、レベリング剤、消泡剤を含むUVネイル光線療法接着剤」(以下、「引用発明」という。)


イ. 引用文献2の記載
引用文献2には以下の事項が記載されている。
(ア)「下記一般式で示される化合物を含有する紫外線又は電子線硬化性樹脂における光重合性プレポリマーに対する反応性希釈剤。

(但し、R_(1)はH又はCH_(3)を示す)」(特許請求の範囲)

(イ)「近年、環境保全、省力、省エネルギーを目的とし、無溶剤型の紫外線、電子線の照射により硬化する樹脂の開発が活発に進められている。このような硬化性樹脂は一般に光重合性プレポリマーと、これと共重合可能な光重合性ビニルモノマーを基本組成としており、紫外線硬化樹脂においては更に光開始剤を加えた三成分を必須組成としている。
光重合性プレポリマーは紫外線又は電子線照射によって更に重合し得るポリマーであり、係る硬化性樹脂の骨格を成す成分であり、その骨格を構成する分子の構造により、ポリエステルアクリレート、ポリウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエーテルアクリレート、オリゴアクリレート、アルキドアクリレート、ポリオールアクリレート等のアクリル基を末端に持つオリゴマーが用いられる。
光重合性ビニルモノマーは上記プレポリマーとタイアップして組成物の機能及び硬化物の用途に対する適合性を向上、例えば紫外線硬化組成物の粘度を下げて塗工性を改善したり、硬化物に柔軟性を付与したり、被塗工物との密着性を向上したりするとともに、その溶解性、重合性等を利用して硬化組成物自身を無溶剤化することができるものである。係る光重合性ビニルモノマーは、プレポリマー との共重合性が良く、かつ硬化速度が速いことが必要なため普通多官能又は単官能のアクリル系モノマーが用いられる。
この内単官能モノマーは、高粘度のプレポリマーの希釈剤として作用し樹脂組成物の実用上の作業性を確保すると同時に紫外線又は電子線が照射された時、自ら重合し硬化物の構造の一部となり系外には出ない。このため硬化組成物を無溶剤化することが可能となり、溶剤公害のない硬化性組成物を提供する上で重要な意味を持つものである。係る意味でしばしば反応性希釈剤とも呼ばれるものである。」(第1頁左欄第17行?第2頁左上欄第14行)

(ウ)「以上のような従来技術の状況に鑑み本発明者らは前記の問題点を有しない反応性希釈剤について鋭意検討した結果、下記構造式(1)を持つアクリロイルモルホリン及びその誘導体が、希釈性、溶解性にすぐれかつ低揮発性、低臭気性で皮膚刺激性が小さいという従来知見では併立できないとされていた各特性を兼備する上、更に硬化活性にすぐれる理想的な反応性希釈剤としての特性を具備することを見い出し本発明を完成するに至った。

本発明の反応性希釈剤の最大のメリットは従来公知の反応性希釈剤の最大の欠点である高皮膚刺激性を大巾に低下した極めて高い安全性を有することにある。
本発明の構造式(1)の化合物は後記のとおり他のアクリレート系モノマーに比較して皮膚刺激性の指数である一次皮膚刺激率P.I.値が著しく低く0.50以下であるという驚ろくべき特性を有するものである。又、安全性とともに、プレポリマーに対する溶解性、希釈性にすぐれることはもとより、低臭気性、低揮発性更には優れた硬化活性を有するというまさに理想的な反応性希釈剤と言える特性を有するものである。このことは後述の実施例及び比較例を見ると更に明確となる。
本発明でいう反応性希釈剤の対象となるプレポリマーとしてはポリエステルアクリレート類、ポリウレタンアクリレート類、エポキシアクリレート類、ポリエーテルアクリレート類、アルキドアクリレート類、ポリオールアクリレート類等が挙げられるが、アクリロイルモルホリン及びその誘導体単独或いは他の希釈剤との任意の混合物から成る希釈剤に可溶のものであればその種類は特に限定されない。本発明の反応性希釈剤はアクリロイルモルホリン、メタクロイルモルホリンのいずれか又は両者の混合物、あるいはそれらに更に他の希釈剤を混合したものである。」(第2頁右上欄下から第6行?同右下欄第14行)

(エ)「(実施例)次に実施例をもって本発明を更に具体的に説明するがその趣旨を超えない限り本発明は以下の実施例に限定されるものではない。尚、以下の例において部及び%は特に限定しない限り重量部及び重量%を示すものである。」(第4頁左上欄第1行?第6行)

(オ)「

」(第3表)


ウ. 引用文献3の記載
引用文献3には以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
下記(A)?(F)成分を含有することを特徴とする光硬化型ジェルネイル用下地剤。
(A)ポリエーテル骨格ウレタンメタアクリレートオリゴマー 100重量部
(B)脂環式(メタ)アクリレートモノマー 20?60重量部
(C)25℃において液体であるアクリルアミド系モノマー 5?20重量部
(D)分子内にエチレンオキサイドを有する2官能(メタ)アクリレートモノマー 20?40重量部
(E)3官能以上の多官能モノマー 0重量部または0?1重量部(但し、0重量部は含まない。)
(F)光重合開始剤 5?20重量部」

(イ)「【0083】
[実施例1]
1.光硬化型ジェルネイル用下地剤の調製
撹拌装置を備えた容器内に、下記組成を収容した後、撹拌装置を用いて均一になるまで混合し、光硬化型ジェルネイル用下地剤とした。
(A)ポリエーテル骨格ウレタンメタアクリレートオリゴマー:100重量部
(B)イソボルニルメタアクリレート : 35重量部
(C)ヒドロキシエチルアクリルアミド : 10重量部
(D)ビスフェノールA-EO付加物ジアクリレート : 30重量部
(F1)α-ヒドロキシケトン系化合物 : 8重量部
(F2)アシルフォスフィンオキサイド系化合物 : 2重量部
(H)シリコーン系レベリング剤 : 2重量部
【0084】
また、上述した(A)成分であるポリエーテル骨格ウレタンメタアクリレートオリゴマーの重量平均分子量は23、000であった。以下においても同様である。
さらに、(D)成分であるビスフェノールA-EO付加物ジアクリレートとしては、大阪有機化学工業(株)製のEOの繰り返し数n=2のものを用いた。以下においても同様である。
【0085】
また、上述した(F1)成分であるα-ヒドロキシケトン系化合物としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Ciba(株)製、IRGACURE184)を用いた。以下においても同様である。
さらに、(F2)成分であるアシルフォスフィンオキサイド系化合物としては、ジフェニル(2、4、6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド(BASF(株)製、ルシリンTPO)を用いた。以下においても同様である。」


(3)当審の判断
ア. 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「UVネイル光線療法接着剤」は、UVをネイルに照射する療法における接着剤であるが、その組成からみて紫外線(UV)照射により硬化することにより、爪に接着する接着剤であって、上記第4(2)ア.(オ)及び(キ)の記載からみて、引用発明の「UVネイル光線療法接着剤」は、爪の上で脱落しにくいコーティングとなるものであるから、爪に適用した際には「人工爪」としての形状を呈するものであることは明らかである。そうすると、引用発明の「UVネイル光線療法接着剤」は、本件発明1における「光硬化性人工爪組成物」に相当する。
また、本件特許明細書の【0015】の記載からみて、「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー」は、ウレタンプレポリマーにアクリル化合物を付加したものであるところ、引用発明における「ウレタンアクリレート樹脂」との用語は、技術常識からウレタンプレポリマーにアクリル化合物が付加した(オリゴマー)樹脂を意味するから、引用発明における「2官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂及び6官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂」は、本件発明1における「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー」に相当する。
そして、本件発明1は、「アクリロイルモルフォリンと、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物」以外の成分も「含有する」ことができるから、引用発明に含まれる上記以外の成分を含む点は、両者の相違点とならない。

そうすると、本件発明1と引用発明は、
「アクリロイルモルフォリンと、
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、
を含有する光硬化性人工爪組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
本件発明1では「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物と、
を含有し、
前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物が、
プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1、3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1、4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1、9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1、6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシ樹脂、及び(メタ)アクリロイル基を有するポリエステル樹脂であり、
前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物の含有量が、光硬化性人工爪組成物に対して3?30重量%である」のに対して、引用発明ではそのような特定がない点

(イ)検討
ここで、第4(2)ア.(ウ)によれば、引用発明において、脂肪族ウレタンアクリレート樹脂は優れた耐黄変性および物性を有するものとして配合されており、引用発明では、2官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂および6官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂を質量比(30-40):(5-15)で混合し使用すると、低エネルギー条件下で高い硬化速度を実現する特性が得られ、その硬化塗膜は高硬度、高靭性、高光沢及び高膨潤性の効果を有することが記載されている。さらに、2官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂として好ましく使用されるSM-582(深川撒比斯科技社製)は、低エネルギー、高硬化速度、高光沢、優れた耐油性および耐候性耐化学性、優れた耐摩耗性、及び、優れたフィルム形成靱性を備え、本発明の主樹脂として使用でき、 6官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂として好ましく使用される6145-100(長興会社製)は硬化速度が早く、硬度が高く、靭性が高いため、主樹脂の硬度不足や硬化速度の不足を補うことができることも記載されている。他方で、引用文献1には、引用発明において、第4(2)ア.(ア)に記載される成分以外の成分を配合することについては一切記載がない。
そうすると、引用発明は、高硬化速度、硬化塗膜の高硬度、高靭性、高光沢、優れた耐黄変性といったUVネイル光線療法接着剤に求められる特性を、2官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂と6官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂の種類や配合量を選択、調整することで達成するという技術思想に基づく発明であると理解される。

他方で、引用文献2には、式(1)の化合物であるアクリロイルモルホリンが「皮膚刺激性が大幅に低下している」こと、及び、アクリロイルモルホリン、ポリウレタンアクリレート並びに樹脂全体に対して20重量%量のKAYARAD-HDDA(日本化薬(株)製)、すなわち1、6-ヘキサンジオールジアクリレート(要すれば、特開2013-129840号公報明細書【0134】を参照)、を含有する紫外線硬化樹脂が記載されているものの(特に上記第4(2)イ.(ウ)?(オ))、前記紫外線硬化樹脂の用途として人工爪は記載されていない。また、第4(2)イ.(イ)に、多官能又は単官能のアクリル系モノマー等の光重合性ビニルモノマーの作用効果について、ポリウレタンアクリレート等のプレポリマーとタイアップして組成物の機能及び硬化物の用途に対する適合性を向上、例えば紫外線硬化組成物の粘度を下げて塗工性を改善したり、硬化物に柔軟性を付与したり、被塗工物との密着性を向上したりするとともに、その溶解性、重合性等を利用して硬化組成物自身を無溶剤化することができるものであるとの一般的な記載があるものの、ポリウレタンアクリレートと単官能のアクリル系モノマーを含む紫外線硬化樹脂にさらに多官能のアクリル系モノマー、特に1、6-ヘキサンジオールジアクリレート、を配合することによる作用効果は記載されていないし、まして紫外線硬化樹脂を人工爪の用途に供したときに1、6-ヘキサンジオールジアクリレート等の多官能のアクリル系モノマーを配合することで奏する作用効果については記載がない。加えて、1、6-ヘキサンジオールジアクリレート以外の多官能のアクリル系モノマーについては具体的な記載がない。
また、引用文献3には、光硬化型ジェルネイル用下地剤においてポリエーテル骨格ウレタンメタアクリレートオリゴマーと2官能(メタ)アクリレートモノマーであるビスフェノールA-EO付加物ジアクリレートを併用して用いることが記載されており(特に上記第4(2)ウ.(イ))、さらに、3官能以上の多官能モノマーも併用可能であることも記載されている(特に上記第4(2)ウ.(ア))。しかしながら、引用発明において使用される2官能と6官能の混合物である脂肪族ウレタンアクリレート樹脂とアクリロイルモルフォリンを配合した組成物において、ビスフェノールA-EO付加物ジアクリレート等の2官能(メタ)アクリレートモノマーや3官能以上の多官能モノマーを配合することについては引用文献3に記載がなく、その作用効果についても記載がない。加えて、引用文献3に記載の組成物の用途は光硬化型ジェルネイル用下地剤であり、当該下地剤を用いた硬化膜の光沢性に関する効果については何も記載がない。
そして、多官能ラジカル重合性不飽和基含有化合物の種類や配合量によって、得られる硬化膜の物性が異なるという出願時の技術常識を参酌すると(要すれば、第4(2)ア.(ウ)の記載内容、引用文献3【0051】、【0055】?【0059】の記載内容を参照)、UVネイル光線療法接着剤の高硬化速度、硬化塗膜の高硬度、高靭性、高光沢、優れた耐黄変性といった物性を、2官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂と6官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂を所定の割合で混合し使用することで達成している引用発明において、敢えて、当該物性に影響を与えうる引用文献2、引用文献3に記載される多官能性アクリレートを前記接着剤に対して3-30重量%配合する動機付けが引用文献2、引用文献3に示されていないから、当業者といえども、引用発明から本件発明の構成に容易に想到し得るとはいえない。

仮に、引用発明に、引用文献2、引用文献3に記載される多官能性アクリレートを、前記接着剤に対して3-30重量%の範囲の量で配合することに当業者が想到し得たとしても、その結果として70%エタノール水溶液で拭き取り後に高い光沢性を示すという格別顕著な効果を得られることを、当業者が予測し得たとは到底認められない。

したがって、本件発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2、引用文献3に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


イ.本件発明2?3について
請求項1を引用する本件発明2?3については、上記ア.と同様の理由により、引用文献1に記載された発明及び引用文献2、引用文献3に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


ウ.特許異議申立人の意見について
特許異議申立人三谷富子は、本件発明は特定の多官能単量体として27種もの化合物を列挙しているが、実施例で効果を確認したのはBis-GMAのみであること、そして、令和2年12月18付け意見書におけるトリメチロールプロパントリメタクリレート(以下、TMPMAという)の追加実験データは後出しであるし、仮にTMPMAの効果を認めるとしても、残り25種についての効果は不明だから本願発明の効果の顕著性は認められないことを主張している(主張1)。
さらに、甲第2-10号証(米国特許出願公開第2012/0247496号明細書)には、請求項1に、光硬化性人工爪組成物として下記組成のマニキュア液ベースコート組成物が記載されており、

段落「0007」には当該組成物が「従来のマニキュア液を指の爪または足指の爪に所望に応じて塗布することを可能にし、しかも従来のマニキュア液塗布実務によって得られるよりも実質的により耐久性があり、活力があり、長持ちし、耐チップ性のあるマニキュア液コーティングをもたらす」ことが記載されていることを主張する(主張2)。
そして、引用発明を人工爪組成物に使用するにあたり、人工爪組成物の耐久性(特には、耐チップ性)を向上させることを目的として、引用文献2に記載された二官能性アクリレートや引用文献3に記載されたビスフェノールA-EO付加物ジアクリレートを配合することに加えて、またはこれに代えて、甲第2-10号証に開示された「Bis-HEMA ポリ(1、4-ブタンジオール)-9/IPDIコポリマー」を配合するとともに、TMPMAを人工爪組成物に対して3?30重量%配合することは容易であることを主張する(主張3)。

しかしながら、主張2、3について検討するに、甲第2-10号証には、引用発明において使用される2官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂及び6官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂を混合した脂肪族ウレタンアクリレート樹脂とアクリロイルモルフォリンを配合した組成物において、TMPMAを配合することについては記載がなく、その作用効果についても記載がない。加えて、甲第2-10号証に記載の組成物の用途はマニキュア液ベースコート組成物であり、硬化物の光沢性に関する効果については何も記載がない。
そして、第4(3)当審の判断ア.(イ)で述べたとおり、多官能ラジカル重合性不飽和基含有化合物の種類や配合量によって、得られる硬化物の物性が異なるという出願時の技術常識があるなかで、高硬化速度、硬化塗膜の高硬度、高靭性、高光沢、優れた耐黄変性といった物性を満たすUVネイル光線療法接着剤を、2官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂と6官能脂肪族ウレタンアクリレート樹脂を所定の割合で混合し使用することで得ている引用発明において、さらに、引用文献2、引用文献3、甲第2-10号証に記載される多官能ラジカル重合性不飽和基含有化合物を、組成物に対して3?30重量%配合する動機付けがあることを特許異議申立人は示していない。そうすると、やはり、当業者といえども、引用発明から本件発明の構成には容易に想到し得たとはいえない。

仮に、本件発明の構成に容易に想到し得たとして、その効果の顕著性について検討すると、本件特許明細書の実施例及び令和2年12月18日付け意見書において、Bis-GMA又はTMPMAを配合した本件発明の光硬化性人工爪組成物が、70%エタノール水溶液で拭き取り後に、所望のグロス値を有することが示されている。そして、本件特許明細書【0018】には、「これらの多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物のなかでも、アクリレートモノマーを使用することによって、適度な重合性を備え、硬化時に臭気が生じにくく、低刺激性であり、硬化被膜が透明で、収縮せず、かつ適切な硬度を付与でき各種着色剤を配合させやすくなる。」、「多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物を使用する場合の含有量としては、光硬化性人工爪組成物に対して1?90重量%であり、好ましくは3?60重量%、さらに好ましくは3?30重量%である。1?90重量%の範囲内とすることにより硬化被膜の硬度を適切な範囲に調整することができる。 1重量%未満であると硬化膜の密着性が低くなり、また拭き取り性が悪化する可能性がある。また、90重量%を超えると、硬化した組成物が脆くなり、膜を維持することが困難になる可能性がある。」と記載されており、これらの記載からは、本件発明の組成物においては、アクリレートモノマーである「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物」を「3?30重量%」配合した場合には、所望の拭き取り性が得られ、光沢性にも特段の影響はないと解される。これに対し、Bis-GMA又はTMPMA以外を使用した場合については、所望の拭き取り性や光沢性が得られないとする特許異議申立人の主張1については、何か技術的裏付けが示されているわけではないから、Bis-GMAとTMPMA以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物を配合した光硬化性人工爪組成物の物性が具体的に確認されていないことのみをもって、本願発明の効果が顕著ではないとする特許異議申立人の主張1は採用できない。
よって、本件発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2、引用文献3、甲第2-10号証に記載された事項から、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1. 特許異議申立人藤下万実の特許異議申立理由について
(1)特許異議申立人藤下万実は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、以下の理由により、本件特許を取り消すべきものである旨主張する。

ア. 申立理由1(進歩性欠如)
本件特許発明1、3は、甲第1-2号証と周知技術(甲第1-1、1-3、1-4号証)、又は甲第1-2号証と甲第1-1号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、請求項1、3に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。


イ. 申立理由2(拡大先願)
本件特許発明1、3は、甲第1-5号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない発明であるから、請求項1、3に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。


(2)証拠方法
甲第1-1号証:中国特許出願公開第103751036号明細書
甲第1-2号証:特開昭62-199608号公報
甲第1-3号証:特開2009-126833号公報
甲第1-4号証:特開2010-105967号公報
甲第1-5号証:国際公開第2016/194730号(特願2015-109326号)
甲第1-6号証:新中村化学工業株式会社ホームページ



(3)甲第1-2号証に記載された事項及び甲第1-2号証に記載された発明並びに甲第1-1、1-3、1-4号証に記載された事項

ア.甲第1-2号証に記載された事項及び甲第1-2号証に記載された発明
甲第1-2号証は取消理由における引用文献2であり、甲第1-2号証には、上記第4(2)イ.(ア)?(オ)で摘記した事項が記載されている。

これらの記載、特に第4(2)イ.(オ)の第3表 実施例6の記載によれば、甲第1-2号証には、以下の発明(以下、「引用発明1-2」という)が記載されている。なお、KAYARAD-HDDA(日本化薬(株)製)は1、6-ヘキサンジオールジアクリレートである(要すれば、特開2013-129840号公報明細書【0134】を参照)。
「アクリロイルモルホリンと、
ポリウレタンアクリレートであるプレポリマーと、
1、6-ヘキサンジオールジアクリレートを組成物中20重量%と、
光開始剤と、
を含有する紫外線硬化組成物。」


イ.甲第1-1号証に記載された事項
甲第1-1号証は取消理由における引用文献1であり、甲第1-1号証には、上記第4(2)ア.(ア)?(キ)で摘記した事項が記載されている。


ウ.甲第1-3号証に記載された事項
甲第1-3号証には、下記の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
紫外線照射により硬化して人工爪を形成するために用いられる人工爪組成物であって、該組成物中に紫外線の照射により重合可能なイオン性モノマーを含有することを特徴とする、上記人工爪組成物。」

(イ)「【0025】
本発明の人工爪組成物(ジェルネイル組成物)には、上記式(I)で表される酸応答性モノマーの他に、一般にジェルネイル組成物に含まれる成分を適宜配合することができる。
【0026】
このような成分として、被膜形成用ポリマー、光重合性モノマー、光重合開始剤、溶剤等が挙げられる。
【0027】
上記被膜形成用ポリマーとしてはウレタン系ポリマーが用いられる。ここでポリマーとしてコポリマー、オリゴマーも含むものとする。ウレタン系ポリマーとしては、例えばポリウレタン、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリウレタン-ポリビニルピロリドン、ポリエステル-ポリウレタン、ポリエーテル-ポリウレタン、ポリ尿素-ポリウレタン等が挙げられる。本発明では特に、紫外線硬化性のある基(例えば、(メタ)アクリロイル基など)を含むウレタン系モノマーの重合体、同オリゴマー、あるいは該オリゴマーを含むポリマー、等が好ましく用いられる。これらの例としてウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー、ポリウレタン(メタ)アクリレート等が好ましく用いられる。ただしこれら例示に限定されるものでない。
【0028】
上記光重合性モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1、6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、カルドエポキシジ(メタ)アクリレート、N、N’-メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。ただしこれら例示に限定されるものでない。
【0029】
上記光重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン;ベンゾフェノン、4、4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、3、3-ジメチル-4-メトキシ-ベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;アントラキノン、2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、tert-ブチルアントラキノン等のアントラキノン誘導体;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル誘導体;アセトフェノン、2、2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2、2-ジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン誘導体;2-クロロチオキサントン、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン誘導体;アセトフェノン、2、2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、4’-イソプロピル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルホリノ-1-プロパン等のアセトフェノン誘導体;ミヒラーズケトン、2、4、6-(トリハロメチル)トリアジン、2-(o-クロロフェニル)-4、5-ジフェニルイミダゾリル二量体、9-フェニルアクリジン、1、7-ビス(9-アクリジニル)ヘプタン、1、5-ビス(9-アクリジニル)ペンタン、1、3-ビス(9-アクリジニル)プロノパン、ジメチルベンジルケタール、トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、トリブロモメチルフェニルスルホン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン等が挙げられる。ただしこれら例示に限定されるものでない。」


エ.甲第1-4号証に記載された事項
甲第1-4号証には、下記の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
紫外線硬化型樹脂及び光重合開始剤を含む人工爪形成用組成物であって、(1)前記光重合開始剤は、アルキルフェノン型、アシルフォスフィンオキサイド型、チタノセン型及びオキシムエステル型からなる群から選択される少なくとも1種を含有し、
(2)前記人工爪形成用組成物は、紫外線発光ダイオードを用いて波長が340?370nmの紫外光を照射することにより硬化させる、ことを特徴とする人工爪形成用組成物。
【請求項2】
前記紫外線硬化型樹脂は、メタクリレート樹脂、アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂及びオキセタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の人工爪形成用組成物。」

(イ)「【0013】
紫外線硬化型樹脂としては限定されないが、波長が340?370nmの紫外光により容易に硬化させることができるものが好ましい。紫外線硬化型樹脂としては、例えば、メタクリレート、アクリレート(特にウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、アクリルアクリレ-ト)、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂等が挙げられる。これらは、モノマー及び/又はオリゴマーの状態のものを使用すればよい。
【0014】
紫外線硬化型樹脂としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系化合物;酢酸ビニル、N-ビニルピロリドン等のビニル化合物;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、N、N-ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、テトラフロロプロピル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、モノアクリロキシコハク酸エチル、(メタ)アクリロキシエトキシジヒドロキシフォスフィンオキサイド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等の単官能モノマー;1、4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1、6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールAジアクリレート、亜鉛ジ(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の2官能モノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等の3官能以上のモノマー;ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、脂環型のエポキシ(メタ)アクリレート、エポキシ化油(メタ)アクリレート、ポリエステル型、ポリエーテル型、スピラン環型のウレタン(メタ)アクリレート、不飽和ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリアクリル(メタ)アクリレート、ビニル/アクリルオリゴマー、ポリオール/ポリチオール、シリコン(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、ポリスチリルエチル(メタ)アクリレート等のオリゴマーが挙げられる。これらの紫外線硬化型樹脂は、単独又は2種以上併用して用いることができる。
【0015】
光重合開始剤としては、波長が340?370nmの紫外光により容易に重合開始するアルキルフェノン型、アシルフォスフィンオキサイド型、チタノセン型及びオキシムエステル型からなる群から選択される少なくとも1種を用いる。具体的には、アルキルフェノン型としては、ベンジルケタ-ル(2、2-ジメトキシ-1、2ジフェニルエタン-1-オンなど)、α-ヒドロキシアセトフェノン(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンなど)、α-アミノアセトフェノン(2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1など)が挙げられる。アシルフォスフィンオキサイド型としては、ビス(2、4、6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2、4、6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイドなどが挙げられる。また、チタノセン型としては、ビス(η6-2、4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2、6-ジフルオロ-3-(1H-ピロ-ル-1-イル)-フェニル)チタニウムなどが挙げられる。また、オキシムエステル型としては、1、2-オクタンジオン、1-[4-(フェニルチオ)-、2-(O-ベンゾイルオキシム)]などが挙げられる。」


(4)甲第1-5号証に記載された事項及び甲第1-5号証に記載された発明
ア.甲第1-5号証には、下記の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
成分1として、ヒドロキシエチルアクリルアミドと、
成分2として、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、及び、ブトキシジエチレングリコールメタクリレートよりなる群から選ばれた、
少なくとも1種の化合物と、を含むことを特徴とする
爪化粧料。
【請求項2】
成分2として、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、及び、ブトキシジエチレングリコールメタクリレートよりなる群から選ばれた、少なくとも2種の化合物を含む、請求項1に記載の爪化粧料。
【請求項3】
光重合開始剤を更に含む、請求項1又は2に記載の爪化粧料。
【請求項4】
ポリマー及び/又はオリゴマーを更に含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の爪化粧料。
【請求項5】
前記ポリマー及び/又は前記オリゴマーが、ウレタン結合を有するポリマー及び/又はオリゴマーである、請求項4に記載の爪化粧料。
【請求項6】
前記ポリマー及び/又は前記オリゴマーが、(メタ)アクリロイル基を有する、請求項4又は5に記載の爪化粧料。」

(イ)「【0010】
本発明の爪化粧料は、マニキュア、ペディキュア等のネイルポリッシュや、ジェルネイルを形成する組成物としてだけでなく、ネイルコート等の爪保護剤としても好適に用いることができる。
本発明の爪化粧料は、人工爪におけるプライマー層、ベース層、カラー層、及び/又は、トップ層のいずれにも好適に用いることができる。中でも、プライマー層又はベース層用爪化粧料として好適に用いることができ、ベース層用爪化粧料としてより好適に用いることができる。
また、本発明の爪化粧料は、光硬化性組成物であることが好ましい。」

(ウ)「【0015】
<その他のエチレン性不飽和化合物>
本発明の爪化粧料は、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ブトキシジエチレングリコールメタクリレート以外のエチレン性不飽和化合物を含んでもよい。
上記エチレン性不飽和化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノメタクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリル酸エステル類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム等のN-ビニルアミド類;スチレン、4-アセトキシスチレン、4-カルボキシスチレン等のスチレン類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1、6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、カルドエポキシジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、等の多官能(メタ)アクリル酸エステル類;ジイソシアネートとヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸誘導体と任意にジオール類とからなるウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また本発明の爪化粧料は、硬化性成分としてメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドを含まないことが好ましい。
【0016】
上記のエチレン性不飽和化合物の中でも、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタアクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、及び、グリセリンモノメタクリレートが好ましく、より好ましくはイソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、アクリル酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、及び、2-ヒドロキシプロピルメタアクリレートである。
【0017】
上記のエチレン性不飽和化合物は、1種類のみを使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
本発明の爪化粧料におけるその他のエチレン性不飽和化合物の含有量は、爪化粧料100質量部に対し、0質量部?50質量部が好ましく、5?40質量部がより好ましく、10?30質量部が更に好ましい。
上記範囲であると、硬化物の密着性及び剥離性により優れ、また、爪化粧料の製造が容易になる。」

(エ)「【0029】
また、本発明に用いられるポリマー及び/又はオリゴマーとしては、U-6LPA及びU-15HA(いずれも新中村化学(株)製)も好ましく例示される。」

(オ)「【0051】
・・・省略・・・・
本発明の爪化粧料を対象物に塗布した後、光照射する方法としては、特に制限はなく、公知の光源(例えば、太陽光、高圧水銀灯、蛍光灯、UVランプ、LED(発光ダイオード)ランプ、LEDレーザー等)を用いた公知の光照射方法(例えば、全面露光、走査露光等)が使用できる。光照射時間は、本発明の爪化粧料が硬化する限り特に制限はない。」

(カ)「【0068】
表4?表7に記載の化合物及び略称の詳細は、以下の通りである。
HEAA:ヒドロキシエチルアクリルアミド(KJケミカルズ(株)製)
DMAA:ジメチルアクリルアミド(KJケミカルズ(株)製)
DEAA:ジエチルアクリルアミド(KJケミカルズ(株)製)
ACMO:アクリロイルモルホリン(KJケミカルズ(株)製)
ライトエステルBC:ブトキシジエチレングリコールメタクリレート(共栄社化学(株)製)
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート(共栄社化学(株)製)
IBXMA:イソボルニルメタクリレート(共栄社化学(株)製)
IBXA:イソボルニルアクリレート(共栄社化学(株)製)
NVP:N-ビニル-2-ピロリドン(日本触媒(株)製)
アクリル酸:アクリル酸(日本触媒(株)製)
P-16:上記ポリマー(合成品)
P-17:上記ポリマー(合成品)
TPO:ジフェニル(2、4、6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド(光重合開始剤、BASF社製、ルシリンTPO)
Irg184:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(光重合開始剤、BASF社製)」

(キ)
「【表9】



これらの記載、特に、第5 1.(4)ア.(ア)、(ウ)、(エ)、(キ)の実施例20、の記載によれば、甲第1-5号証には、以下の発明(以下、「引用発明1-5」という)が記載されている。なお、第5 1.(4)ア.(エ)と(キ)に記載の「U-6LPA及びU-15HA(いずれも新中村化学(株)製)」はいずれもウレタンアクリレートオリゴマーである(甲第1-6号証)。

「ヒドロキシエチルアクリルアミドである成分1と
アクリロイルモルホリンを含む成分2と、
ウレタン結合と(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーと、
その他のエチレン性不飽和化合物と、
光重合開始剤と、
を含有し、
前記その他のエチレン性不飽和化合物の含有量が、爪化粧料100質量部に対し10?30質量部である、光硬化性爪化粧料。」


(5)当審の判断
ア.特許法第29条第2項について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1-2を対比すると、引用発明1-2における「アクリロイルモルホリン」、「ポリウレタンアクリレートであるプレポリマー」、「1、6-ヘキサンジオールジアクリレート」、「紫外線硬化」は、それぞれ、本願発明の「アクリロイルモルフォリン」、「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー」、「1、6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート」、「光硬化性」に相当する。そして、引用発明1-2における「1、6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート」の組成物中の含有量は20重量%であるから、本件発明1で特定される3?30重量%の範囲に入る。そうすると、両者の一致点と相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「アクリロイルモルフォリンと、
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物と、
を含有し、
前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物が、
1、6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートであり、
前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物の含有量が、光硬化性組成物に対して3?30重量%である、光硬化性組成物。」

<相違点>
本件発明1は光硬化性組成物の用途が「人工爪」であるのに対して引用発明1-2ではそのような特定がない点。

(イ)検討
以下、相違点について検討する。
まず、甲第1-1号証の第4(2)ア.(ウ)、(キ)によれば、光硬化性人工爪組成物には、爪の上に成膜された後の「はげ落ちにく」さや「耐久性」、「高光沢性」、「色の明るさ」等の物性が求められるものである。
一方、甲第1-2号証は、紫外線硬化樹脂の特徴として皮膚刺激率が低いことが記載されており(第4(2)イ.(ウ))、さらに実施例では、溶状、臭気、アルミニウム板上に形成した硬化膜の鉛筆硬度、ベトツキ、状態について確認しているものの(第4(2)イ.(オ))、前記紫外線硬化樹脂を爪に塗布した際のはげ落ちにくさや耐久性、さらには光沢性、色の明るさについては何も記載されておらず、人工爪に特に求められる物性を有しているか否かは不明である。そして、甲第1-1号証には、特定の脂肪族ウレタンアクリレート樹脂、アクリルモルフォリンを含む単官能モノマー及び光開始剤を含有する光硬化性人工爪組成物が記載され(第4(2)ア.)、甲第1-3号証には、ウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー、光重合性モノマー、光重合開始剤を含有する紫外線照射により硬化する人工爪組成物が記載され(第5 1.(3)ウ.)、甲第1-4号証には、ウレタンアクリレート等のオリゴマー、単官能モノマー、2官能モノマー又は3官能以上のモノマーを単独又は2種以上併用した紫外線硬化型樹脂及び光重合開始剤を含む人工爪形成用組成物が記載されているが(第5 1.(3)エ.)、いずれも具体的な組成は引用発明1-2と異なることから、甲第1-1、1-3、1-4号証に記載された事項に鑑みても、引用発明1-2が人工爪の用途に適した物性を有すると判断することはできない。
そうすると、甲第1-1、1-3、1-4号証に記載された事項から引用発明1-2を人工爪組成物に適用することが動機付けられるとはいえないから、当業者といえども、引用発明1-2を人工爪組成物に適用することは容易に想到し得るとはいえない。
仮に、引用発明1-2を人工爪組成物に適用することは容易に想到し得るとしても、本願発明1は拭き取り性が向上し、艶のある塗膜を提供する、爪表面にサンディングを行うことなく爪への密着性が高い、表面のシワの発生を防止するとの効果を奏するところ(【0006】?【0007】)、当該効果は甲第1-2号証及び甲第1-1、1-3、1-4号証には記載されておらず、これらに記載された事項から当業者が予測し得るとはいえないから格別顕著な効果というべきである。

(ウ)特許異議申立人藤下万実の主張について
特許異議申立人藤下万実は、紫外線硬化樹脂の一用途としての「人工爪組成物」、甲第1-1、1-3、1-4号証より周知であること、及び、引用発明1-2は甲第1-1号証と主成分が共通しており、引用発明1-2が人工爪に好適な特性を有すること(第4(2)イ.(ウ)、(オ))から、引用発明1-2を人工爪組成物として用いることは容易であると主張している。
しかしながら、紫外線硬化樹脂全般が人工爪組成物に適しているとの技術常識があるわけではない。そして、引用発明1-2と甲第1-1号証に記載の光硬化性人工爪組成物とでは、ウレタンアクリレート樹脂の具体的な種類やその他の重合性成分の種類が異なることから、主成分が共通しているからといって両者が同様の物性を有しているといえるものでもない。また、甲第1-2号証は、引用発明1-2が皮膚に対する低い刺激性や硬化膜の硬度、べとつきの少なさといった、人工爪を含む塗膜用の硬化性樹脂組成物一般に適した物性を有することを開示しているけれども、爪への高い密着性や光沢性といった人工爪の用途に特有の物性を有していることは開示していない。
そうすると、甲第1-2号証と甲第1-1、1-3、1-4号証に記載された事項から、引用発明1-2を人工爪組成物として用いることが動機付けられるとはいえず、本件発明1に容易に想到できるとの上記主張は採用できない。

(エ)小活
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1-2号証に記載された発明と甲第1-1、1-3、1-4号証に記載された事項及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明1を引用する本件発明3も、同様の理由により、甲第1-2号証に記載された発明と甲第1-1、1-3、1-4号証に記載された事項及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。


イ. 特許法第29条の2について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1-5を対比する。
引用発明1-5における「アクリロイルモルホリン」、「ウレタン結合と(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマー」、「爪化粧料」は、それぞれ、本願発明の「アクリロイルモルフォリン」、「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー」、「人工爪組成物」に相当する。
そして、引用発明1-5における「その他のエチレン性不飽和化合物」は、ラジカル重合性不飽和基であるエチレン性不飽和基を有すること、及び、その具体的な化合物としてウレタン(メタ)アクリレート以外の化合物も列挙され、実施例でも使用されていることから(第5 1.(4)ア.(ウ)、(カ)、(キ))、本件発明1の「前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外のラジカル重合性不飽和基含有化合物」に相当する。
また、爪化粧料100質量部に対して「その他のエチレン性不飽和化合物」の含有量は10?30質量部であることから、本願発明1の「光硬化性人工爪組成物に対して3?30重量%」の範囲に含まれる。
そうすると、両者の一致点と相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「アクリロイルモルフォリンと、
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、
前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外のラジカル重合性不飽和基含有化合物
を含有し、
前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外のラジカル重合性不飽和基含有化合物の含有量が、光硬化性人工爪組成物に対して3?30重量%である、
光硬化性人工爪組成物。」


<相違点>
本件発明1では、「前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外のラジカル重合性不飽和基含有化合物」が「多官能」であって、
「プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1、3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1、4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1、9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1、6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシ樹脂、及び(メタ)アクリロイル基を有するポリエステル樹脂」であるのに対して、引用発明1-5では前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外のラジカル重合性不飽和基含有化合物についてそのような特定がされていない点。

(イ)検討
以下、相違点について検討する。
甲第1-5号証には、その他のエチレン性不飽和化合物として、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリル酸エステル類が例示されているものの、好ましい化合物とされているのは、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタアクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、及び、グリセリンモノメタクリレートである(第5 1.(4)ア.(ウ))。そして、実施例に具体的に開示された組成物でも、その他のエチレン性不飽和化合物として配合されているのは、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、アクリル酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、及び、N-ビニル-2-ピロリドンの単官能のエチレン性不飽和化合物に留まり、多官能(メタ)アクリル酸エステル類が配合された組成物はない。
そうすると、その他のエチレン性不飽和化合物として、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリル酸エステルを含有する光硬化性人工爪組成物が甲第1-5号証に開示されているとはいえない。
そして、エチレン性不飽和化合物として単官能化合物を配合するか多官能化合物を配合するかで、硬化速度や硬化物の架橋密度を始め、諸々の物性が変化することは技術常識から明らかであるから、前記多官能(メタ)アクリル酸エステルを採用することが周知・慣用技術の付加であって、新たな効果を奏しないものとはいえない。

(ウ)特許異議申立人藤下万実の主張
特許異議申立人藤下万実は、
・甲第1-5号証の実施例では、その他のエチレン性不飽和化合物として単官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物を使用しているが、甲第1-5号証の開示は実施例に限定されず、甲第1-5号証には多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物が使用できることが明記されていること(第5 1.(4)ア.(ウ))、
・多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物を使用することは周知であり、新たな効果を奏するものではないこと、
から、本件発明1は引用発明1-5と同一あるいは実質同一であると主張している。
しかしながら、本件発明1は、特定の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物を組成物中に3-30重量%含有するものであるところ、甲第1-5号証には、前記特定の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物を組成物中に3-30重量%含有する組成物は開示しておらず、また、好ましいラジカル重合性不飽和基含有化合物として開示されているのは全て単官能化合物である。そして、上記のとおり、エチレン性不飽和化合物として単官能化合物を配合するか多官能化合物を配合するかで硬化物の物性は大きく異なるから、引用発明1-5に、前記特定の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物を組成物中3-30重量%含有させることが、周知・慣用技術の付加であるともいえないし、前記特定の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物を組成物中3-30重量%含有させることにより新たな効果を生じないともいえない。

(エ)小活
したがって、本件発明1は甲第1-5号証に記載された発明と同一あるいは実質同一であるとはいえない。
本件発明1を引用する本件発明3も、同様の理由により、甲第1-5号証に記載された発明と同一あるいは実質同一であるとはいえない。


2.特許異議申立人三谷富子の異議申立理由について
(1)特許異議申立人三谷富子は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、以下の理由により、本件特許を取り消すべきものである旨主張する。

ア.申立理由3(進歩性欠如)
本件特許発明1-3は、甲第2-1号証を主たる引用文献とした場合に、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、請求項1-3に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。


(2)証拠方法
甲第2-1号証:特開2013-43853号公報
甲第2-2号証:大阪有機化学工業株式会社のウェブページ(URL: https://www.ooc.co.jp/products/chemical/bifunctional/BisAEODA)に掲載された、「化成品」である「ビスコート#700HV、BisAEODA」のカタログを印刷した書面(印刷日:令和2年7月20日)
甲第2-3号証:ケミカルブック(Chemical Book)の「4-アクリロイルモルホリン」のウェブページ(URL: https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB3229639.htm)を印刷した書面(印刷日:令和2年7月20日)
甲第2-4号証:特開平8-119836号公報
甲第2-5号証:特開2002-161025号公報
甲第2-6号証:中国特許出願公開第103751036号明細書
甲第2-7号証:米国特許出願公開第2014/0000640号明細書
甲第2-8号証:特開2010-13439号公報
甲第2-9号証:YAMAKI株式会社のウェブページ(URL:https://www.yamakin-gold.co.jp/technical_support/webrequest/pdf/kobunshi03_1707w.pdf)に掲載された「高分子技術レポートVol.3 歯科材料モノマーの重合-修復材モノマー(1)」を印刷した書面


(3)甲第2-1号証に記載された事項及び甲第2-1号証に記載された発明並びに甲第2-2?2-6号証に記載された事項

ア.甲第2-1号証に記載された事項及び甲第2-1号証に記載された発明
甲第2-1号証は取消理由における引用文献3であり、甲第2-1号証には、第4(2)ウ.(ア)、(イ)に記載された事項に加えて、下記の事項が記載されている。

(ア)「【0041】
3.(C)成分:アクリルアミド系モノマー
(1)種類
また、本発明の光硬化型ジェルネイル用下地剤は、(C)成分として25℃において液体であるアクリルアミド系モノマーを含むことを特徴とする。
この理由は、(A)成分によって所定の範囲で抑制される光硬化型ジェルネイル用下地剤の反応性を、反応性に優れた(C)成分によって所定の範囲で増加させ、(A)成分に由来した下地層の爪に対する優れた密着性を維持しつつ、剥離性を向上させることができるためである。
すなわち、(C)成分としての25℃において液体であるアクリルアミド系モノマーは、25℃において液体であるため、光硬化型ジェルネイル用下地剤の粘度を効果的に調整することができ、かつ、光硬化後には下地層における可撓性の向上に寄与するため、好適な反応性希釈剤として含まれる。
より具体的には、25℃で液体であるアクリルアミド系モノマーであれば、分子中に窒素原子を有する故に、光硬化型ジェルネイル用下地剤の硬化速度を効果的に維持しつつも、爪に対する下地層の密着性を向上させることができるばかりか、下地層に対し、所定の可撓性を付与することができるためである。
【0042】
ここで、25℃において液体であるアクリルアミド系モノマーの種類としては、イソブトキシメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、N、N-ジメチルアクリルアミド、t-オクチルアクリルアミド、N、N-ジエチルアクリルアミド、N、N-ブトキシメチルアクリルアミド、N、N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどが挙げられる。
【0043】
この中でも、ヒドロキシエチルアクリルアミドを用いることが好ましい。
この理由は、ヒドロキシエチルアクリルアミドであれば、下地層の可撓性を効果的に向上させることができることから(A)成分に由来した下地層の爪に対する優れた密着性を維持しつつ、剥離性をさらに向上させることができるためである。
すなわち、ヒドロキシエチルアクリルアミドであれば、光硬化型ジェルネイル用下地剤の硬化性を効果的に維持しつつも、下地層の可撓性を向上させることができるばかりか、25℃で液状であることから、光硬化型ジェルネイル用下地剤の粘度調整を容易にし、取り扱い性を向上させることができるためである。」

(イ)「【0050】
この中でも、ビスフェノールA-EO付加物ジアクリレートを用いることが好ましい。
この理由は、ビスフェノールA-EO付加物ジアクリレートであれば、(A)成分に由来した下地層の爪に対する優れた密着性を維持しつつ、剥離性をさらに向上させることができるためである。
特に、EOの繰り返し数n=4であるビスフェノールA-EO付加物ジアクリレートは、下地層の可撓性を向上させることで、(A)成分に由来した下地層の爪に対する優れた密着性を効果的に維持しつつ、剥離性についてもさらに向上させることができることから、より好ましい。
なお、本願発明において、ビスフェノールA-EO付加物ジアクリレートとは、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとアクリル酸との反応によって得られる2官能アクリレートモノマーに、エチレンオキサイドを付加反応することによって得られる化合物等を示す。」

(ウ)「【0060】
6.(F)成分:光重合開始剤
(1)種類
また、本発明の光硬化型ジェルネイル用下地剤は、(F)成分として光重合開始剤を含むことを特徴とする。
かかる光重合開始剤は、紫外線により、ラジカルを発生し、そのラジカルがウレタンアクリレートオリゴマーや、メタアクリレートモノマーを重合反応させるものであればよい。
このような光重合開始剤の具体例としては、ベンゾフェノン、クロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4、4’-ジメチルアミノベンゾフェノン、4、4’-ジエチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;2、2-ジメトキシ-1、2-ジフェニルエタン-1-オン等のベンジルジメチルケタール系化合物;オリゴ〔2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(1-メチルビニル)フェニル〕プロパノン〕、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン等のα-ヒドロキシケトン系合物;2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェ二ル)-ブタノン-1等のα-アミノケトン系化合物;ジフェニル(2、4、6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド系化合物;1-〔4-(4-ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル〕-2-メチル-2-(4-メチルフェニルスルフォニル)プロパン-1-オン等のケトスルフォン系化合物;ビス(η5-2、4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2、6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム等のメタロセン系化合物;2、4-ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-(3-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシプロポキシ)3、4-ジメチル-9H-チオキサントン-9-オン-メソクロライド等のチオキサントン系化合物などが挙げられる。」

そうすると、甲第2-1号証には、第4(2)ウ.(イ)の記載からみて、以下の発明(以下、「引用発明2-1」という)が記載されていると認められる。
「下記(A)?(F)成分を含有することを特徴とする光硬化型ジェルネイル用下地剤。
(A)ポリエーテル骨格ウレタンメタアクリレートオリゴマー:100重量部
(B)イソボルニルメタアクリレート : 35重量部
(C)ヒドロキシエチルアクリルアミド : 10重量部
(D)ビスフェノールA-EO付加物ジアクリレート : 30重量部
(F1)α-ヒドロキシケトン系化合物 : 8重量部
(F2)アシルフォスフィンオキサイド系化合物 : 2重量部
(H)シリコーン系レベリング剤 : 2重量部」


イ.甲第2-2号証に記載された事項
甲第2-2号証には下記の事項が記載されている。
(ア)



ウ. 甲第2-3号証に記載された事項
甲第2-3号証には下記の事項が記載されている。
(ア)


(イ)



エ. 甲第2-4号証に記載された事項
甲第2-4号証には下記の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 皮膜形成成分と添加剤成分とよりなるネイル化粧用組成物であって、
皮膜形成成分が、少なくとも一種の含フッ素メタクリレートまたは含フッ素アクリレートより形成される含フッ素重合体部分と、非フッ素ビニル型単量体より形成される非フッ素重合体部分とからなるブロック共重合体を含有するネイル化粧用組成物。」

(イ)「【0033】次に、非フッ素重合体部分を形成する非フッ素ビニル型単量体としては、アクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチル〔以下、アクリルとメタクリルを(メタ)アクリルと総称する。〕、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸-t-ブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-N、N-ジメチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルエステル、(メタ)アクリル酸-3-クロル-2-ヒドロキシプロピルエステルのような(メタ)アクリル酸のヒドロキシエステル、(メタ)アクリル酸トリエチレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコールエステルのような(メタ)アクリル酸のポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールのエステル、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル型単量体、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N、N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のアミド基含有ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸、イタコン酸等があげられる。」


オ. 甲第2-5号証に記載された事項
甲第2-5号証には下記の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 重合性不飽和基含有化合物と光重合開始剤を含有することを特徴とする光硬化性無溶剤型マニキュア。」

(イ)「【0010】前記重合性不飽和基含有化合物としては、重合性不飽和基をもつ単量体およびオリゴマーを挙げることができる。重合性不飽和基を保有するオリゴマーとしては、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、不飽和ポリエステル等重合性2重結合を持つプレポリマーを挙げることができる。また、重合性不飽和基を保有する単量体としては、例えば水溶性単量体としては、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルピロリドン、N、N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N、N-ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジアセトンアクリルアミド、ポリエチレングリコールジアクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジアクリレート等があり、一般単量体として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリシジルメタアクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソアミルアクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニルアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1、6-ヘキサンジオールジアクリレート、1、9-ノナンジオールジアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ドデシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル等がある。」


カ. 甲第2-6号証に記載された事項
甲第2-6号証は取消理由における引用文献1であり、甲第2-6号証には、上記第4(2)ア.(ア)?(キ)で指摘した事項が記載されている。


キ.甲第2-7号証に記載された事項
甲第2-7号証には下記の事項が記載されている。甲第2-7号証は英語文献であるため、摘記は合議体による翻訳文で示す。
(ア)「請求項14:光重合可能な単官能アクリル酸エステルモノマーおよび光開始剤(ここで、前記単官能アクリル酸エステルモノマーは、2-[[(ブチルアミノ)カルボニル]オキシ]エチルアクリレート、エトキシ化(4)ノニルフェノールアクリレートおよびエトキシ化(8)ノニルフェノールアクリレート、並びにこれらの混合物から選択される少なくとも1つのモノマーを含む)と、
(b)熱可塑性ポリマー、スクロースベンゾエートまたはこれらの組み合わせ(ここで、前記熱可塑性ポリマーは、ポリ酢酸ビニルおよびポリビニルブチラール、並びにこれらの混合物から選択される)と、
を含む光硬化性マニキュア。」

(イ)「[0047]好ましくは、少量の架橋性モノマーを組成物に添加することも可能である。ジアクリレート類および/又はジメタクリレート類が特に好ましい。これらはマニキュア除去剤中での良好な分解特性に大きな影響を及ぼすことなく25%までの量で添加され得る。この手段によれば、必要に応じて、塗膜の光沢性や耐摩耗性が改善されうる。
[0048]特に好ましいジアクリレートとジメタクリレートは以下の通りである:
[0049]Bis-GMA=2、2-ビス[4(3‘-メタクロイル-オキシ-2’-ヒドロキシ)プロポキシフェニル]プロパン(CAS No.1565-94-2)」


ク.甲第2-8号証に記載された事項
甲第2-8号証には下記の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
成分(a)分子内に少なくとも1個のラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物、
成分(b)ラジカル重合開始材、
成分(c)光の吸収および/または散乱現象を利用した有機および/または無機着色材、および
成分(d)少なくとも1種以上の干渉色を有する無機着色材を含み、ここに、100重量部の成分(a)に対して、成分(b)の含有量が0.01?10重量部、成分(c)の含有量が0?10重量部および成分(d)の含有量が0.01?20重量部である人工爪組成物。」

(イ)「【0032】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
[本発明の実施例に使用した化合物の略号]
(a)分子内に少なくとも1個のラジカル重合性不飽和二重結合を有する化合物
UDMA:ジメタクリロキシエチル-2、2、4-トリメチルヘキサメチレンジウレタン
BisGMA:ビスフェノールA-ジグリシジルメタクリレート
・・・・・・」(【0032】)


ケ.甲第2-9号証に記載された事項
甲第2-9号証には下記の事項が記載されている。
(ア)



(4)当審の判断
ア. 特許法第29条第2項について
(ア)対比
本件発明1と引用発明2-1を対比する。
引用発明2-1における「ジェルネイル用下地剤」、「ポリエーテル骨格ウレタンメタアクリレートオリゴマー」は、それぞれ、本件発明1の「人工爪組成物」、「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー」に相当する。そして、引用発明2-1における「ビスフェノールA-EO付加物ジアクリレート」について、「本願発明において、ビスフェノールA-EO付加物ジアクリレートとは、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとアクリル酸との反応によって得られる2官能アクリレートモノマーに、エチレンオキサイドを付加反応することによって得られる化合物等を示す。」ことが記載されているほか(第5 2.(3)ア.(イ))、実施例では「大阪有機化学工業(株)製のEOの繰り返し数n=2のものを用いた」ことが記載されるところ(第4(2)ウ.(イ))、甲第2-2号証によれば、大阪有機化学工業(株)製のビスフェノールA-EO付加物ジアクリレートとは、第5 2.(3)イ.(ア)の化学構造式で示されるようにビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物にアクリル酸をエステル化させたものであると認められる。そうすると、引用発明2-1における「ビスフェノールA-EO付加物ジアクリレート」は、本件発明1の「プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート」及び「エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート」に相当するといえる。そして、引用発明2-1における「ビスフェノールA-EO付加物ジアクリレート」の含有量は、組成物187重量部中30重量部であるから、換算するとその含有量は組成物中16重量%であり、本件発明1で特定される3?30重量%の範囲に入る。
そうすると、両者の一致点と相違点は以下のとおりである。


<一致点>
「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物と、
を含有し、
前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物が、
エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート及びプロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートであり、
前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物の含有量が、光硬化性組成物に対して3?30重量%である、光硬化性人工爪組成物。」

<相違点>
本件発明1は「アクリロイルモルフォリン」を含有するのに対して、引用発明2-1では当該化合物を含有していない点

(イ)検討
以下、相違点について検討する。
引用発明2-1においては、ヒドロキシエチルアクリルアミドが配合されているところ、これは25℃において液体であるアクリルアミド系モノマーとして配合されているものである(第4(2)ウ.(ア)、第5 2.(3)ア.(ア))。
そして、本件発明1で配合されるアクリロイルモルフォリンは、甲第2-3号証の記載(第5 2.(3)ウ.(ア))によると、

の化学構造式を有し、融点-35℃、沸点158℃(50mmHg)であるから、25℃で液体のアクリルアミド系モノマーである。

したがって、引用発明2-1から本件発明1の想到容易性を検討するにあたっては、引用発明2-1において、25℃で液体であるアクリルアミド系モノマーとしてアクリロイルモルフォリンを採用することが容易に想到されるか否かを検討する。

甲第2-1号証には、アクリルアミド系モノマーについて、第5 2.(3)ア.(ア)に摘記したとおり
「【0041】
3.(C)成分:アクリルアミド系モノマー
(1)種類
また、本発明の光硬化型ジェルネイル用下地剤は、(C)成分として25℃において液体であるアクリルアミド系モノマーを含むことを特徴とする。
この理由は、(A)成分によって所定の範囲で抑制される光硬化型ジェルネイル用下地剤の反応性を、反応性に優れた(C)成分によって所定の範囲で増加させ、(A)成分に由来した下地層の爪に対する優れた密着性を維持しつつ、剥離性を向上させることができるためである。
すなわち、(C)成分としての25℃において液体であるアクリルアミド系モノマーは、25℃において液体であるため、光硬化型ジェルネイル用下地剤の粘度を効果的に調整することができ、かつ、光硬化後には下地層における可撓性の向上に寄与するため、好適な反応性希釈剤として含まれる。
より具体的には、25℃で液体であるアクリルアミド系モノマーであれば、分子中に窒素原子を有する故に、光硬化型ジェルネイル用下地剤の硬化速度を効果的に維持しつつも、爪に対する下地層の密着性を向上させることができるばかりか、下地層に対し、所定の可撓性を付与することができるためである。」と記載され、この段落では25℃で液体であること以外にその種類を限定する記載はないものの、アクリルアミド系モノマーの種類については、【0042】に「25℃において液体であるアクリルアミド系モノマーの種類としては、イソブトキシメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、t-オクチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ブトキシメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなど」と例示があり、この中にアクリロイルモルフォリンの記載はなく、さらに、【0043】には、例示されたモノマーの中でも、ヒドロキシエチルアクリルアミドが下地層に可撓性を付与でき、爪に対する優れた密着性及び剥離性を向上できることから好ましいことが記載されている。
一方、甲第2-6号証には、光硬化性人工爪組成物に配合される単官能モノマーとしてアクリロイルモルフォリンがヒドロキシエチルアクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレートともに記載され、アクリロイルモルフォリンは「高硬化性」であり、「耐熱性に優れた機能性モノマーであり、肌への刺激が少ない、その蒸気圧が非常に低いため、刺激臭はほとんど発生しない」、「低粘度、速硬化、低体積収縮」との特徴があり、前記の3つのモノマーは、「良好な希釈および速い硬化速度」、「コーティング膜に硬度、接着性」といった物性を提供することが記載されている(第4(2)ア.(ア)、(イ))。甲第2-5号証には、重合性不飽和基含有化合物と光重合開始剤を含有する光硬化性無溶剤型マニキュアにおいて、前記重合性不飽和基含有化合物に使用できる化合物として、ウレタンアクリレート等のオリゴマーやビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジアクリレート、N-メチロールアクリルアミド等の単量体に加えて、アクリロイルモルフォリンが記載されているが(第5 2.(3)オ.(ア)、(イ))、特に好ましい単量体として記載されているわけでもなく、アクリロイルモルフォリンの物性に関する特段の記載はない。また、甲第2-4号証には、ネイル化粧用組成物に配合されるブロック共重合体の非フッ素ビニル型単量体としてN-(メタ)アクリロイルモルホリンが使用できることが記載されているが(第5 2.(3)エ.(ア)、(イ))、ここでも特に好ましい単量体として記載されているわけではなく、N-(メタ)アクリロイルモルホリンの物性に関する特段の記載もない。
以上の記載を踏まえると、甲第2-3号証?甲第2-6号証には、アクリロイルモルフォリンが、ネイル用化粧料組成物に使用できるモノマー成分であることや、速い硬化速度、高硬化性や接着性を付与するモノマーであることが開示されているけれども、引用発明2-1においてアクリルアミド系モノマーに必要とされる特性、「硬化速度を維持しながらも、下地層に可撓性を付与し、下地層の爪に対する密着性及び剥離性を向上させること」、特に可撓性を付与すること、についての指摘はない。
そうすると、アクリロイルモルフォリンが、引用発明2-1におけるアクリルアミド系モノマーとして必要とされる性質を備えているかは不明であるから、甲第2-1号証に使用できるアクリルアミド系モノマーとして例示されてもいないアクリロイルモルフォリンを採用することは、当業者にとり、容易とはいえない。

加えて、本件特許明細書によると、本件発明は、
「【0008】
本発明によれば、有機溶媒を使用することなく、装飾や補強の目的でも爪表面を長期にわたり、確実に被覆することができる。
そして、硬度を十分に有し、皮膚への刺激性を低くしながら、硬化後における未硬化のモノマー等の拭き取り性を向上させることによって、艶がある塗膜を得ると共に、使用者自身の爪表面に対してサンディングを行う必要がなく、かつ爪への密着性が高く、その表面にシワが発生することを防止できるという効果を有する。」
との効果を奏するものである。
そして、本件特許明細書では、実施例及び比較例として下記の組成物を調製し、評価を実施している。
「【0026】
・・・・
<組成物の評価>
(グロス値)
硬質塩化ビニル板上に一定膜厚で作成した塗膜に、32W LED-UV(405nm)を20秒照射し硬化させた。得られた硬化後の塗膜に対して、70%エタノール水溶液、又は一部の塗膜に対しては水を用いて拭くことにより未硬化の成分を除去した。その後、硬質塩化ビニル板を黒画用紙上に乗せて、グロスチェッカーによりグロス値を測定した。
【0027】
UA :ウレタンアクリレートオリゴマー
ACMO :アクリロイルモルフォリン
HEMA :2-ヒドロキシエチルメタアクリレート
IBXA :イソボルニルアクリレート
Bis-GMA:イソプロピリデンジフェニルビス(メタクリル酸オキシヒドロキシプロピル)
184 :ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
TPO :トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド
【0028】
【表1】

【0029】
上記の実施例1?7の70%エタノールで拭きとった結果によると、本発明の光硬化性人工爪組成物による塗膜は、高いグロス値を有し、これに対して、比較例1?3による塗膜は、グロス値が低いものであった。
目視においても、実施例1?7においては全ての未硬化樹脂が完全に除去されて良好な艶を有する塗膜が得られたが、比較例1?3では未硬化樹脂を完全に除去できず、艶及び透明性にも劣っていた。・・・・」

上記記載によれば、本件特許明細書の実施例1?7の組成物と比較例1?3の組成物の組成の違いは、アクリロイルモルフォリンの有無にあり、各組成物の物性を評価した結果、実施例1?7の組成物から得られた塗膜は、比較例1?3の組成物から得られた塗膜と比較すると、70%エタノール水溶液で拭き取った際の艶及び透明性に優れるとの効果を奏することが具体的に確認されている。

ここで、引用発明2-1はジェルネイル用下地剤に使用されるものであって、当該ジェルネイル用下地剤を硬化した塗膜の上部にさらにジェルネイル層が形成されるものであるから、当該ジェルネイル用下地剤の硬化膜は70%エタノール水溶液で拭き取った際の艶や透明性が要求されるものではない。そして、甲第2-6号証及び甲第2-4、2-5号証にもアクリロイルモルフォリンを配合することによる効果として、70%エタノール水溶液で拭き取った際の艶や透明性が向上することについては記載されていない。さらに、甲第2-2?2-3、2-7?2-9号証には、アクリロイルモルフォリンを光硬化性人工爪組成物に配合することについて何ら記載がない。
そうすると、本件発明1は、アクリロイルモルフォリンを用いることにより、硬化後における未硬化のモノマー等の拭き取り性を向上し、艶がある塗膜が得られるという効果を奏するものであるところ、このような効果のために、引用発明2-1において、アクリロイルモルフォリンを採用することも、やはり当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。

(ウ)特許異議申立人三谷富子の主張について
特許異議申立人三谷富子は、甲第2-1号証の段落【0041】の記載に接した当業者は、「(C)25℃で液体であるアクリルアミド系モノマー」に該当する限り任意のモノマーが、甲第1号証における(C)成分として使用可能であると理解するはずであるから、光硬化性人工爪組成物の技術分野において「(C)25℃において液体であるアクリルアミド系モノマー」として公知であるアクリロイルモルフォリンを採用することは公知材料からの最適な材料の選択に過ぎず、さらに、甲第2-6号証の記載に接した当業者であれば、皮膚に対する刺激性の低減、刺激臭の低減、粘度の低減、急速硬化性の向上、体積収縮率の低減といった効果を期待して、より積極的に「ヒドロキシメチルアクリルアミド」に代えて「アクリロイルモルフォリン」を採用してみようと動機づけられると主張する(主張1)。また、本件特許明細書の実施例には「アクリロイルモルフォリン」に代えてこれ以外の「25℃において液体であるアクリルアミド系モノマー」を用いた比較例は存在しないから、本件発明1の効果の顕著性は認められない旨も主張している(主張2)。
しかしながら、(イ)で述べたとおり、甲第2-1号証の段落【0041】?【0043】の記載全体をみると、「(C)25℃で液体であるアクリルアミド系モノマー」には下地層に可撓性を付与する性質も求められると当業者は理解するというべきであり、甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-6号証には、アクリロイルモルフォリンの当該性質に関する記載がないから、引用発明2-1において、25℃で液体であるアクリルアミド系モノマーとしてアクリロイルモルフォリンを採用する動機付けはなく、したがって主張1については採用できない。
そして、主張2についても、(イ)で述べたとおり、引用発明2-1は、硬化後における未硬化のモノマー等の拭き取り性が向上し、艶がある塗膜を得られるという効果が求められる用途ではないうえ、甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-6号証には、アクリロイルモルフォリンの採用により当該効果を奏することについて記載がないことから、25℃において液体であるアクリルアミド系モノマー」と効果を比較した実験例の有無に関わらず、本願発明は甲第2-1号証、甲第2-3号証?甲第2-6号証の記載から予測し得ない格別顕著な効果を奏するというべきである。よって、主張2についても採用できない。

(エ)小活
したがって、本件発明1は、甲第2-1号証に記載された発明及び甲第2-2?甲第2-9号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明1を引用する本件発明2?3も同様の理由により、甲第2-1号証に記載された発明及び甲第2-2?2-9号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


3.まとめ
よって、特許異議申立人藤下万実の申し立てた申立理由1及び2、特許異議申立人三谷富子の申し立てた申立理由3には理由がない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。



 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロイルモルフォリンと、
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物と、
を含有し、
前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物が、
プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイル基を有するエポキシ樹脂、及び(メタ)アクリロイル基を有するポリエステル樹脂であり、
前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー以外の多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物の含有量が、光硬化性人工爪組成物に対して3?30重量%である、光硬化性人工爪組成物。
【請求項2】
前記多官能のラジカル重合性不飽和基含有化合物が、イソプロピリデンジフェニルビス(メタクリル酸オキシヒドロキシプロピル)である、請求項1に記載の光硬化性人工爪組成物。
【請求項3】
アシルフォスフィンオキシド系光重合開始剤を含有する請求項1又は2に記載の光硬化性人工爪組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-05-07 
出願番号 特願2015-189374(P2015-189374)
審決分類 P 1 651・ 83- YAA (A61K)
P 1 651・ 16- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 直子  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 冨永 みどり
進士 千尋
登録日 2019-12-20 
登録番号 特許第6633879号(P6633879)
権利者 株式会社サクラクレパス
発明の名称 光硬化性人工爪組成物  
代理人 山田 泰之  
代理人 長谷部 善太郎  
代理人 安藤 達也  
代理人 長谷部 善太郎  
代理人 安藤 達也  
代理人 山田 泰之  
代理人 山田 泰之  

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