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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C04B
管理番号 1376679
異議申立番号 異議2020-700107  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-25 
確定日 2021-05-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6568291号発明「セメント混和材、膨張材、及びセメント組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6568291号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3、6?8〕、4、5について訂正することを認める。 特許第6568291号の請求項1?5、7、8に係る特許を維持する。 特許第6568291号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6568291号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成30年11月15日に特許出願され、令和1年8月9日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1?8に係る特許に対して、令和2年2月25日に特許異議申立人中嶋美奈子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年5月26日付けで取消理由が通知され、同年7月14日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求(以下、「先の訂正請求」という。)がされ、同年9月7日に申立人により意見書の提出がされ、同年10月27日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年12月21日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、令和3年2月17日に申立人により意見書の提出がされた。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。
なお、先の訂正請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部であり、」とあるのを、
「前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部(但し、0.06?0.10質量部は除く。)であり、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3、7、8も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記遊離石灰の含有量が、セメント混和材100部に対して、10?95部であるセメント混和材。」とあるのを、
「前記遊離石灰の含有量が、セメント混和材100部に対して、10?95部であり、
前記水硬性化合物として、3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)、2CaO・SiO_(2)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)からなる群から選ばれる2種以上を含有するセメント混和材。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3、7、8も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「ブレーン比表面積が、2,000?6,000cm^(2)/gである請求項1?3のいずれか1項に記載のセメント混和材。」とあるのを、
「ブレーン比表面積が、2,000?6,000cm^(2)/gであり、
遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有し、化学成分としてSrOを含み、
前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部であり、
前記遊離石灰の含有量が、セメント混和材100部に対して、10?95部であり、
前記水硬性化合物として、3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)、2CaO・SiO_(2)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)からなる群から選ばれる2種以上を含有し、
2CaO・SiO_(2)を含有する場合には、その含有量がセメント混和材100質量部に対して、1?25質量部(但し、2.8?4.1質量部は除く。)であり、
4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)を含有する場合には、その含有量がセメント混和材100質量部に対して、1?7質量部(但し、1.5?2.2質量部は除く。)であるセメント混和材。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に
「体積基準で、10μm以下の粒子の含有率が30?60質量%であって、100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B)が1.5?4.0である請求項1?4のいずれか1項に記載のセメント混和材。」とあるのを、
「遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有し、化学成分としてSrOを含み、
前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部であり、
前記遊離石灰の含有量が、セメント混和材100質量部に対して、10?95部であり、
体積基準で、10μm以下の粒子の含有率が30?60質量%であって、100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B)が1.5?4.0であるセメント混和材。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6のいずれか1項」とあるのを、「請求項1?5のいずれか1項」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?6のいずれか1項」とあるのを、「請求項1?5のいずれか1項」に訂正する。

ここで、訂正前の請求項2?8は、訂正前の請求項1を引用し、これら請求項1?8は一群の請求項を構成するから、上記訂正事項1?7に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項1?8を訂正の単位として請求されたものである。
また、訂正後の請求項4及び5に係る訂正について、特許権者は、当該訂正が認められるときに、それぞれ、一群の請求項1?8の他の請求項とは別の訂正単位として扱われることを求めている。

2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「SrOの含有量」が「0.001?5.0質量部」との範囲を「0.001?5.0質量部(但し、0.06?0.10質量部は除く。)」との範囲に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1は、いわゆる「除くクレーム」として特定数値範囲を除外するものであって、新たな技術事項を導入するものでないから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載された「水硬性化合物」を「3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)、2CaO・SiO_(2)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)からなる群から選ばれる2種以上」のものに限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、願書に添付された明細書の段落【0013】には、「本実施形態に係る水硬性化合物とは、3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)で表されるイーリマイト、3CaO・SiO_(2)(C_(3)Sと略記)や2CaO・SiO_(2)(C_(2)Sと略記)で表されるカルシウムシリケート、4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)(C_(4)AFと略記)や6CaO・2Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)(C_(6)A_(2)Fと略記)、6CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)(C_(6)AFと略記)で表されるカルシウムアルミノフェライト、2CaO・Fe_(2)O_(3)(C_(2)Fと略記)等のカルシウムフェライト等であり、これらのうちの1種または2種以上を含むことが好ましい。なかでも、3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)、C_(4)AF、C_(2)Sうちの1種または2種以上を含むことが好ましい。」ことが記載されているから、訂正事項2は、願書に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてされたものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項4において、同請求項1を引用する部分のみを独立した形に書き下して引用関係を解消すると共に、同請求項1に記載された「水硬性化合物」を「3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)、2CaO・SiO_(2)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)からなる群から選ばれる2種以上」のものに限定し、更に、「2CaO・SiO_(2)」及び「4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)」の含有量を、それぞれ、「セメント混和材100質量部に対して、1?25質量部(但し、2.8?4.1質量部は除く。)」及び「セメント混和材100質量部に対して、1?7質量部(但し、1.5?2.2質量部は除く。)」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、願書に添付された明細書の段落【0013】には、「本実施形態に係る水硬性化合物とは、3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)で表されるイーリマイト、3CaO・SiO_(2)(C_(3)Sと略記)や2CaO・SiO_(2)(C_(2)Sと略記)で表されるカルシウムシリケート、4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)(C_(4)AFと略記)や6CaO・2Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)(C_(6)A_(2)Fと略記)、6CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)(C_(6)AFと略記)で表されるカルシウムアルミノフェライト、2CaO・Fe_(2)O_(3)(C_(2)Fと略記)等のカルシウムフェライト等であり、これらのうちの1種または2種以上を含むことが好ましい。なかでも、3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)、C_(4)AF、C_(2)Sうちの1種または2種以上を含むことが好ましい。」こと、及び、段落【0034】【表1】には、セメント混和材における「C2S」が「1部」から「25部」の範囲の実験例や、「C4AF」が「1部」から「7部」の範囲の実験例が記載されているし、また、訂正事項3の「(但し、2.8?4.1質量部は除く。)」及び「(但し、1.5?2.2質量部は除く。)」は、いわゆる「除くクレーム」として特定数値範囲を除外するものであって、新たな技術事項を導入するものでないから、訂正事項3は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項5において、同請求項1を引用する部分のみを独立した形に書き下して引用関係を解消するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項6を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項6及び7について
訂正事項6及び7は、それぞれ、訂正前の請求項7及び8における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、上記別の訂正単位とする求めに照らし、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3、6?8〕、4、5について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?5、7、8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5、7、8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有し、化学成分としてSrOを含み、
前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部(但し、0.06?0.10質量部は除く。)であり、
前記遊離石灰の含有量が、セメント混和材100部に対して、10?95部であり、
前記水硬性化合物として、3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)、2CaO・SiO_(2)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)からなる群から選ばれる2種以上を含有するセメント混和材。
【請求項2】
化学成分としてさらに、ZrO_(2)を含んでなる請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項3】
前記ZrO_(2)の含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.0001?5.0質量部である請求項2に記載のセメント混和材。
【請求項4】
ブレーン比表面積が、2,000?6,000cm^(2)/gであり、
遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有し、化学成分としてSrOを含み、
前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部であり、
前記遊離石灰の含有量が、セメント混和材100部に対して、10?95部であり、
前記水硬性化合物として、3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)、2CaO・SiO_(2)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)からなる群から選ばれる2種以上を含有し、
2CaO・SiO_(2)を含有する場合には、その含有量がセメント混和材100質量部に対して、1?25質量部(但し、2.8?4.1質量部は除く。)であり、
4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)を含有する場合には、その含有量がセメント混和材100質量部に対して、1?7質量部(但し、1.5?2.2質量部は除く。)であるセメント混和材。
【請求項5】
遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有し、化学成分としてSrOを含み、
前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部であり、
前記遊離石灰の含有量が、セメント混和材100質量部に対して、10?95部であり、
体積基準で、10μm以下の粒子の含有率が30?60質量%であって、100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B)が1.5?4.0であるセメント混和材。
【請求項7】
請求項1?5のいずれか1項に記載のセメント混和材からなる膨張材。
【請求項8】
請求項1?5のいずれか1項に記載のセメント混和材を含有してなるセメント組成物。」

2 取消理由(決定の予告)の概要
令和2年10月27日付けの取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1
先の訂正請求により訂正された請求項1?4、7、8に係る発明は、下記甲第3号証?甲第6号証の記載を参酌すると、同甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)取消理由2
本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の段落【0006】及び【0020】の記載や、令和2年7月14日付け意見書における特許権者の主張からみて、先の訂正請求により訂正された請求項5に係る発明の課題は、セメント・コンクリート打設後の初期材齢にかけてセメント・コンクリートに大きな膨張を付与し、乾燥収縮ひずみを抑制し、長期強度発現性の低下を抑えることができ、さらに、スランプロスの低減、少量添加での膨張量確保、ポップアウト防止が可能なセメント混和材、膨張材、及びセメント組成物を提供することといえる。
これに対して、発明の詳細な説明の実施例には、セメント混和材の具体例が記載されているものの、当該セメント混和材の粒度分布に関しては、100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B)が2.1であることが特定されているのみであり、10μm以下の粒子の含有率は明らかでないし、スランプロスの低減、少量添加での膨張量確保、ポップアウト防止が可能であることを裏付ける評価はなされていないため、当該実施例のセメント混和材によって、上記課題を解決できることを当業者が認識できない。
したがって、先の訂正請求により訂正された請求項5、7及び8に係る発明は、上記課題を解決できる手段を反映したものといえず、発明の詳細な説明に記載されたものといえないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(甲号証一覧)
甲第1号証:特開2001-64056号公報
甲第3号証:「日本の石灰石」、石灰石鉱業協会、昭和58年2月25日、第46?48頁
甲第4号証:「(社)日本セラミックス協会認証標準物質 JCRM R 301 焼成ボーキサイト-1 認証書(第二版)」、公益社団法人日本セラミックス協会、2003年6月
甲第5号証:Jing Gu et al., "Mineralogy, geochemistry, and genesis of lateritic bauxite deposits in the Wuchuan-Zheng'an-Daozhen area, Northern Guizhou Province, China", Journal of Geochemical Exploration, 2013, Vol.130, p.44-59
甲第6号証:淺利民彌、「ストロンチウムの地球化学的分布(第4?5報)」、日本化学雑誌、昭和24年12月、第70巻、第11?12号、第428?430頁

3 甲号証の記載事項について
(1)甲第1号証の記載事項
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 遊離石灰、アウイン及び無水セッコウを主要な構成化合物とし、CaO、Al_(2)O_(3)及びSO_(3)の3成分からなる化学組成の百分率において、CaOが57重量%以上、Al_(2)O_(3)が5?15重量%、SO_(3)が28重量%以下であり、全成分の化学組成の百分率において、MgOが2重量%未満である膨張物質と、脂肪酸及び/又はそれらの塩類とを含有してなるセメント混和材。
【請求項2】 遊離石灰を30重量%以上含有してなることを特徴とする請求項1記載のセメント混和材。
【請求項3】 無水セッコウを40重量%以下含有してなることを特徴とする請求項1又は2記載のセメント混和材。
【請求項4】 セメントと、請求項1乃至3の何れかに記載のセメント混和材とを含有してなるセメント組成物。」

イ 「【0020】<使用材料>
脂肪酸類A:市販ステアリン酸
・・・
<測定方法>
化学分析:JIS R 5202に準じて測定。
化合物組成:遊離石灰含有量をJIS R 5202に準じて測定し、それ以外の化合物については計算によって求めた。即ち、Fe_(2)O_(3)量からC_(4)AF量を算出し、全Al_(2)O_(3)量からC_(4)AFに含有されるAl_(2)O_(3)量を差し引いて、残りのAl_(2)O_(3)量からアウイン量を算出した。次いで、全SO_(3)量からアウインに含有されるSO_(3)量を差し引いて、残りのSO_(3)量から無水セッコウ量を算出した。
膨張率:JIS A 6202 Bに準じて測定。」

ウ 「【0025】実施例2
工業原料のCaO原料、Al_(2)O_(3)原料、CaSO_(4)原料を配合して、ロータリーキルンを用いて、1400℃で熱処理することによって、表4に示すa?jの膨張物質を製造したこと以外は、実施例1と同様に行った。表5に化学組成から算出した化合物組成を示す。又、各膨張物質99.5重量部と、脂肪酸A0.5重量部とを混合粉砕してブレーン比表面積3500±200cm^(2)/gのセメント混和材を調製し、それらを配合したモルタルの膨張率の測定結果を表6に示す。比較のため、市販のセメント混和材について同様の実験を行ったが、市販品は脂肪酸類Aを配合せずにそのまま使用した。
【0026】<使用材料>
CaO原料:新潟県青海鉱山産石灰石
Al_(2)O_(3)原料:中国産ボーキサイト
CaSO_(4)原料:タイ産天然無水セッコウ
市販品:遊離石灰、アウイン及び無水セッコウを主要な構成化合物とするセメント混和材
【0027】
【表4】

【0028】
【表5】

【0029】
【表6】

【0030】本発明のセメント混和材は、膨張性能に優れ、しかも貯蔵安定性も良好であることが示されている。」

(2)甲第3号証の記載事項
「第2表 各地区石灰石・ドロマイトの平均値」には、「石灰石分析値」が記載されており、「新潟県西顎城郡青海地区」の石灰石中の「CaO」含有量が「54.86%」、「Sr」含有量が「127ppm」であることが記載されている。

(3)甲第4号証の記載事項
表には、「焼成ボーキサイト」における各成分の認証値として、「Al_(2)O_(3)」が「87.5質量%」、「ZrO_(2)」が「0.13質量%」であることが記載されている。

(4)甲第5号証の記載事項
Table 2(第52?53頁)には、グイヂョウ省北部のウチェン、ヂェンアン及びダオヂェン地域のラテライトボーキサイト鉱石(第44頁右欄第11?13行)におけるラテライトボーキサイト層(UB、MB、LB)の鉱物学的及び地球化学的分析結果(第46頁右欄第19?22行)が記載されており、サンプルX-4の「Al_(2)O_(3)」含有量が「72.25重量%」、「Sr」含有量が「7.40ppm」(最小値)であることや、サンプルW-11の「Al_(2)O_(3)」含有量が「31.77重量%」、「Sr」含有量が「669ppm」(最大値)であることが記載されている。

(5)甲第6号証の記載事項
「(f)石膏のストロンチウム含量は二,三を除き一般に著しく小である。Noll^(2))が外国産の石膏につき与えた値はSrO 0.13?0.0003%である。硬石膏はNoll^(2))がStassfurt産のものにつきSrO含量0.69%を与え,その他も0.26?0.17%であって,石膏よりもストロンチウム含量大である。」(第429頁右欄第13?18行)

4 取消理由に対する判断
(1)取消理由1について
ア 甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
上記3(1)ア?ウの記載を、記号dの「セメント混和材」に注目して整理すると、甲第1号証には、
「膨張物質99.5重量部及びステアリン酸0.5重量部からなり、ブレーン比表面積3500±200cm^(2)/gであるセメント混和材であって、
前記膨張物質は、工業原料の新潟県青海鉱山産石灰石(CaO原料)、中国産ボーキサイト(Al_(2)O_(3)原料)及びタイ産天然無水セッコウ(CaSO_(4)原料)を配合して、ロータリーキルンを用いて、1400℃で熱処理して製造されたものであり、SiO_(2)1.2質量%、Al_(2)O_(3)4.9質量%、Fe_(2)O_(3)0.5質量%、CaO74.2質量%、MgO1.4質量%、SO_(3)16.0質量%及びその他1.8質量%からなる化学組成を有し、当該化学組成から算出した化合物組成が、遊離石灰57.2重量%、アウイン9.1重量%、無水セッコウ25.2質量%、その他8.5質量%である、セメント混和材。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「アウイン」は、本件特許明細書の段落【0013】に水硬性化合物として記載された「イーリマイト」のことであるから、本件発明1の「水硬性化合物」に相当する。
また、甲1発明は、「遊離石灰」が「セメント混和材」に対して56.9質量%(=57.2質量%×0.995)で含有していることから、本件発明1の「遊離石灰の含有量が、セメント混和材100部に対して、10?95部である」との規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有し、
前記遊離石灰の含有量が、セメント混和材100部に対して、10?95部であるセメント混和材。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
本件発明1は、「化学成分としてSrOを含み」、「前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部(但し、0.06?0.10質量部は除く。)であ」るのに対して、甲1発明は、その点が明らかでない点。
(相違点2)
本件発明1の水硬性化合物は、「3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)、2CaO・SiO_(2)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)からなる群から選ばれる2種以上を含有する」ものであるのに対して、甲1発明の水硬性化合物は、「アウイン」であり、これ以外の水硬性化合物を含むことは明らかでない点。

(イ)まず、相違点1について、特許権者の主張を踏まえて再度検討すると、工業原料には、上記3(2)?(5)のとおり、SrやZr等の不純物が含有している場合もあり、甲1発明で使用されている新潟県青海鉱山産石灰石であれば、上記3(2)の新潟県西顎城郡青海地区の石灰石と同様な成分組成となっているといえる。
しかしながら、甲1発明で使用されている中国産ボーキサイトは、その産出地域が特定されていないため、上記3(4)のグイヂョウ省北部のウチェン、ヂェンアン及びダオヂェン地域のラテライトボーキサイト鉱石のSr不純物量を参酌しても、そのSr含有量は特定できないし、また、甲1発明のタイ産天然無水セッコウは、その産出地域が特定されておらず、上記3(5)の外国産硬石膏と同程度のSrO含有量となっている証拠もないから、これら工業原料に含まれるSr不純物の含有量を特定することができない。
そうしてみると、甲1発明の「セメント混和材」に含まれる工業原料由来のSrO含有量を確定できないため、甲1発明は、本件発明1の「SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部(但し、0.06?0.10質量部は除く。)であ」ると規定を満たしているといえず、相違点1は実質的なものである。

(ウ)したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明といえない。

(エ)申立人の主張について
申立人は、令和3年2月17日提出の意見書において、甲第11号証(「日本の石灰石」、石灰石鉱業協会、昭和58年2月25日、第50?63頁)、甲第12号証(Zeki A. Aljubouri, Iraqi National Journal of Earth Sciences, 2011, Vol.11, No.1, p.49-70)及び甲第13号証(Bent T. Hansen et al., Open Journal of Geology, 2016, No.6, p.857-894)の記載に基づき、甲1発明のSrO量は、セメント混和材100質量部に対して0.06?0.10質量部より広い範囲であると思料されるから、本件発明1において、「但し、0.06?0.10質量部は除く。」としても、依然として、甲1発明である旨を主張している(意見書第3頁第1行?第5頁第4行)。
しかしながら、甲第11号証?甲第13号証の記載を参酌しても、上記(イ)で検討したとおり、甲1発明の「セメント混和材」に含まれる工業原料由来のSrO含有量は確定できない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

ウ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記イに示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるといえない。

エ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲1発明を対比すると、甲1発明の「ブレーン比表面積3500±200cm^(2)/g」は、本件発明4の「ブレーン比表面積が、2,000?6,000cm^(2)/gであ」るとの規定を満足する。
また、上記イ(ア)での検討と同様に、甲1発明の「アウイン」は、本件発明4の「水硬性化合物」に相当し、また、甲1発明は、「遊離石灰」が「セメント混和材」に対して56.9質量%で含有していることから、本件発明4の「遊離石灰の含有量が、セメント混和材100部に対して、10?95部である」との規定を満足する。
したがって、本件発明4と甲1発明とは、
「ブレーン比表面積が、2,000?6,000cm^(2)/gであり、
遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有し、
前記遊離石灰の含有量が、セメント混和材100部に対して、10?95部であるセメント混和材。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点3)
本件発明4は、「化学成分としてSrOを含み」、「前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部であ」るのに対して、甲1発明は、その点が明らかでない点。
(相違点4)
本件発明4の水硬性化合物は、「3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)、2CaO・SiO_(2)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)からなる群から選ばれる2種以上を含有し、2CaO・SiO_(2)を含有する場合には、その含有量がセメント混和材100質量部に対して、1?25質量部(但し、2.8?4.1質量部は除く。)であり、4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)を含有する場合には、その含有量がセメント混和材100質量部に対して、1?7質量部(但し、1.5?2.2質量部は除く。)である」のに対して、甲1発明の水硬性化合物は、「アウイン」であり、これ以外の水硬性化合物を含むことも、その含有量も明らかでない点。

(イ)まず、相違点3について検討すると、上記イ(イ)で検討したとおり、甲1発明の「セメント混和材」に含まれる工業原料由来のSrO含有量は確定できないため、甲1発明は、本件発明4の「SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部であ」るとの規定を満たしているといえず、相違点3は実質的なものである。

(ウ)したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明といえない。

オ 本件発明7及び8について
本件発明7及び8は、本件発明1又は4を引用するものであって、本件発明1又は4の特定事項を全て含むものであるから、上記イ又はエに示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるといえない。

カ 小括
以上のとおりであるから、取消理由1に理由はない。

(2)取消理由2について
ア サポート要件の判断手法について
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。

イ サポート要件適合性の判断
(ア)本件発明の課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】及び【0006】の記載からみて、セメント・コンクリート打設後の初期材齢にかけてセメント・コンクリートに大きな膨張を付与し、乾燥収縮ひずみを抑制し、長期強度発現性の低下を抑えることが可能なセメント混和材、膨張材、及びセメント組成物を提供することといえる。

(イ)そして、発明の詳細な説明の実施例1には、遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏(CaSO_(4))を含有し、セメント混和材100質量部に対して、遊離石灰を10?95質量部の範囲、SrOを0.001?0.500質量部の範囲で含有し、100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B)が2.1であるセメント混和材、及び、当該セメント混和材を含有するセメント組成物が具体的に記載され、また、当該セメント混和材を含有するセメント組成物は、SrO含有量が0.000質量部である比較例のセメント混和材を含むセメント組成物と比較して、長さ変化率が小さく、圧縮強度が大きくなることも具体的に記載されているから、当業者であれば、遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏(CaSO_(4))を含有したセメント混和材において、SrO含有量を調整することによって、本件発明の課題を解決できることを認識することができる。
加えて、発明の詳細な説明には、SrO含有量に関して、セメント混和材100質量部に対して0.001?5.0質量部であることが好ましいこと(段落【0017】)、及び、セメント混和材の粒度分布に関して、10μm以下の粒子の含有率が30?60体積%であって、100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B)が1.5?4.0であることが好ましいこと(段落【0020】)が記載されていることから、当該数値範囲においても、上記実施例1と同様に、本件発明の課題を解決できることものであると当業者であれば認識することができる。
さらに、発明の詳細な説明には、当該セメント混和材は、膨張材として使用すること(段落【0027】)も記載されている。

(ウ)これに対して、本件発明5、7及び8に係る特許請求の範囲の記載は、上記1のとおりであるところ、発明の詳細な説明には、上記のとおり、本件発明5、7及び8に対応する「セメント混和材」、「膨張材」及び「セメント組成物」が記載されており、加えて、当業者は、発明の詳細な説明の記載により、本件発明5、7及び8が本件発明の課題を解決できると認識することができる。

(エ)したがって、本件発明5、7及び8は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるということができる。

ウ 小括
以上のとおりであるから、取消理由2に理由はない。

5 取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由のうち、上記2の取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。

ア 申立理由1
設定登録時の請求項1?4、6?8に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、また、設定登録時の請求項5に係る発明は、同甲第1号証に記載された発明及び同甲第2号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである(特許異議申立書第16頁第19行?第17頁第3行)。

イ 申立理由2
設定登録時の請求項1?3、5?8に係る発明は、下記甲第3号証?甲第9号証の記載を参酌すると、同甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるし、また、設定登録時の請求項4に係る発明は、同甲第2号証に記載された発明及び同甲第1号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?8に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである(特許異議申立書第15頁第3行?第16頁第17行、第17頁第4?21行)。

ウ 申立理由3
本件特許は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び特許請求の範囲の記載が下記(ア)?(エ)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(ア)本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例1において、遊離石灰が20質量部、イーリマイトが30重量部、C4AFが2質量部、C2Sが3質量部、CaSO_(4) 45質量部の鉱物組成のセメント混和材に対して、SrO含有量が0.000%(No.1-19)の場合と、0.010%(No.1-3)の場合で、長さ変化率や圧縮強度が変化しておらず、本件特許明細書において、SrO含有量による乾燥収縮ひずみ抑制効果や、長期強度発現性低下の抑制効果を確認できないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が設定登録時の請求項1?8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないし、設定登録時の請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない(特許異議申立書第17頁23行?第18頁下から3行)(以下、「記載不備1」という。)。

(イ)本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例2において、セメント混和材のZrO_(2)含有量が0.0000%(No.1-6)の場合と0.0001%(No.2-2)の場合で、0分フロー値が10mm増加し、60分フロー値が25mm増加しているが、ZrO_(2)含有量の0.0001%の違いにより、これだけの差異が生じることは、当業者からみて合理的には考えられない結果であるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が設定登録時の請求項2?8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないし、設定登録時の請求項2?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない(特許異議申立書第18頁下から2行?第19頁第10行)(以下、「記載不備2」という。)。

(ウ)本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例では、各原料として石灰石、ボーキサイト、酸化鉄、珪石、二水石膏、ストロチアン石、及び、ジルコンサンド等の工業原料を使用して、セメント混和材を作製したことが記載されているところ、これら工業原料には、下記甲第3号証?甲第9号証にも記載されているように、不純物としてSrOやZrO_(2)などが含有されており、このような工業原料を用いて、実施例のSrO含有量やZrO_(2)含有量が0.000質量部や0.001質量部の化学組成をどのように配合したのかを当業者が理解できないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が設定登録時の請求項1?8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないし、設定登録時の請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない(特許異議申立書第19頁第11行?末行)(以下、「記載不備3」という。)。

(エ)膨張性能に寄与する可能性のある金属元素はSrやZrだけとは言い難く、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例に記載された効果がSrOやZrO_(2)のみによるものかも不明であるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が設定登録時の請求項1?8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないし、設定登録時の請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない(特許異議申立書第20頁第1?4行)(以下、「記載不備4」という。)。

(甲号証一覧)
甲第1号証:特開2001-64056号公報
甲第2号証:特開2010-105870号公報
甲第3号証:「日本の石灰石」、石灰石鉱業協会、昭和58年2月25日、第46?48頁
甲第4号証:「(社)日本セラミックス協会認証標準物質 JCRM R 301 焼成ボーキサイト-1 認証書(第二版)」、公益社団法人日本セラミックス協会、2003年6月
甲第5号証:Jing Gu et al., "Mineralogy, geochemistry, and genesis of lateritic bauxite deposits in the Wuchuan-Zheng'an-Daozhen area, Northern Guizhou Province, China", Journal of Geochemical Exploration, 2013, Vol.130, p.44-59
甲第6号証:淺利民彌、「ストロンチウムの地球化学的分布(第4?5報)」、日本化学雑誌、昭和24年12月、第70巻、第11?12号、第428?430頁
甲第7号証:宇部マテリアルズ株式会社、会社案内、第3頁
甲第8号証:特許第3121916号公報
甲第9号証:岩谷産業株式会社HP、資源・新素材部、Al(アルミニウム)化合物、[2020年2月4日検索],インターネット<URL:http://resource-advanced.iwatani.co.jp/jpn/al/>

(2)申立理由1に対する判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、上記4(1)イ(ア)で検討したとおり、両者は、以下の点で相違している。
(相違点1)
本件発明1は、「化学成分としてSrOを含み」、「前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部(但し、0.06?0.10質量部は除く。)であ」るのに対して、甲1発明は、その点が明らかでない点。
(相違点2)
本件発明1の水硬性化合物は、「3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)、2CaO・SiO_(2)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)からなる群から選ばれる2種以上を含有する」ものであるのに対して、甲1発明の水硬性化合物は、「アウイン」であり、これ以外の水硬性化合物を含むことは明らかでない点。

(イ)まず、相違点1について検討すると、甲第1号証には、セメント混和材におけるSrO含有量を調整するとの技術思想は記載も示唆もされていないし、また、甲第2号証?甲第9号証の記載をみても、このような技術思想が本件特許出願時の技術常識であるともいえないから、甲1発明において、「SrOの含有量」を「セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部(但し、0.06?0.10質量部は除く。)」とすることは、当業者が容易に想到できたことといえない。

(ウ)したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第9号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記アに示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第9号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲1発明とを対比すると、上記4(1)エ(ア)で検討したとおり、両者は、以下の点で相違している。
(相違点3)
本件発明4は、「化学成分としてSrOを含み」、「前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部であ」るのに対して、甲1発明は、その点が明らかでない点。
(相違点4)
本件発明4の水硬性化合物は、「3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)、2CaO・SiO_(2)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)からなる群から選ばれる2種以上を含有し、2CaO・SiO_(2)を含有する場合には、その含有量がセメント混和材100質量部に対して、1?25質量部(但し、2.8?4.1質量部は除く。)であり、4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)を含有する場合には、その含有量がセメント混和材100質量部に対して、1?7質量部(但し、1.5?2.2質量部は除く。)である」のに対して、甲1発明の水硬性化合物は、「アウイン」であり、これ以外の水硬性化合物を含むことも、その含有量も明らかでない点。

(イ)まず、相違点3について検討すると、上記ア(イ)で検討した理由と同様の理由により、甲1発明において、「SrOの含有量」を「セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部」とすることは、当業者が容易に想到できたことといえない。

(ウ)したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第9号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲1発明を対比すると、上記4(1)イ(ア)で検討した相当関係が認められるから、両者は、
「遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有し、
前記遊離石灰の含有量が、セメント混和材100部に対して、10?95部であるセメント混和材。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点5)
本件発明5は、「化学成分としてSrOを含み」、「前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部であ」るのに対して、甲1発明は、その点が明らかでない点。
(相違点6)
本件発明5は、「体積基準で、10μm以下の粒子の含有率が30?60質量%であって、100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B)が1.5?4.0である」のに対して、甲1発明は、その点が明らかでない点。

(イ)まず、相違点5について検討すると、上記ア(イ)で検討した理由と同様の理由により、甲1発明において、「SrOの含有量」を「セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部」とすることは、当業者が容易に想到できたことといえない。

(ウ)したがって、相違点6について検討するまでもなく、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第9号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本件発明7及び8について
本件発明7及び8は、本件発明1、4又は5を引用するものであって、本件発明1、4又は5の特定事項を全て含むものであるから、上記ア、ウ又はエに示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第9号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ 小括
以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。

(3)申立理由2に対する判断
ア 甲第2号証に記載された発明(甲2発明)
甲第2号証には、
「【0016】
[膨張性組成物の作製]
表1に表す原料からなる乾式混合物を、電気炉で焼成温度1300℃で約1時間加熱保持した後、当該温度から炉内自然放冷し、容重1.65g/cm^(2)の焼成塊を得た。該焼成塊の生成相を粉末X線回折で内部標準法(内部標準物質;高純度ケイ素)により調べた結果、遊離生石灰;62.2質量%、C3S;22.8質量%、CaSO_(4);4.5質量%、フェライト(C4AF);3.4質量%、カルシウムアルミネート(C3A);2.2質量%、その他2.1質量%であった。この焼成塊をピンミル粉砕機で粉砕し、セパレーターで分級して粒度調整を行うことにより表2で表す粒度構成からなる膨張性組成物(本発明品;A1?A3、参考品;B1?B5)を作製した。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】


と記載されており、これら記載を「参考品B5」に注目して整理すると、甲第2号証には、
「遊離生石灰;62.2質量%、C3S;22.8質量%、CaSO_(4);4.5質量%、フェライト(C4AF);3.4質量%、カルシウムアルミネート(C3A);2.2質量%、その他2.1質量%である膨張性組成物であって、
前記膨張性組成物は、原料として、宇部マテリアルズ株式会社製の生石灰、太平洋マテリアル株式会社製II型無水石膏、ヘマタイト、バンド頁岩、及び、太平洋マテリアル株式会社製珪石粉末からなる乾式混合物を、焼成温度1300℃で約1時間加熱保持して製造されたものであり、
300μm以上の粒子割合が0質量%、150?300μmの粒子割合が2質量%、10?150μmの粒子割合が56質量%、10μm未満の粒子割合が42質量%、90μm以上の粒子割合が15質量%の粒度構成からなる膨張性組成物。」
の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「遊離生石灰」、「CaSO_(4)」、「膨張性組成物」は、それぞれ、本件発明1の「遊離石灰」、「無水石膏」、「セメント混和材」に相当する。
また、甲2発明の「C3S」、「フェライト(C4AF)」及び「カルシウムアルミネート(C3A)」は、本件発明1の「水硬性化合物」に相当する。
さらに、甲2発明は、「遊離生石灰」を「62.2質量%」含有しているから、本件発明1の「遊離石灰の含有量が、セメント混和材100部に対して、10?95部である」との規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、
「遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有し、
前記遊離石灰の含有量が、セメント混和材100部に対して、10?95部であるセメント混和材。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点7)
本件発明1は、「化学成分としてSrOを含み」、「前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部(但し、0.06?0.10質量部は除く。)であ」るのに対して、甲2発明は、その点が明らかでない点。
(相違点8)
本件発明1の水硬性化合物は、「3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)、2CaO・SiO_(2)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)からなる群から選ばれる2種以上を含有する」ものであるのに対して、甲2発明の水硬性化合物は、「C3S」、「フェライト(C4AF)」及び「カルシウムアルミネート(C3A)」であり、これ以外の水硬性化合物を含むことは明らかでない点。

(イ)まず、相違点7について検討すると、上記4(1)イ(イ)で検討したとおり、工業原料には、SrやZr等の不純物が含有している場合があるものの、甲第3号証?甲第9号証の記載をみても、甲2発明の各原料に含まれるSr不純物の含有量は明らかでなく、甲2発明の「膨張性組成物」に含まれる原料由来のSrO含有量は確定できないから、相違点7は実質的なものである。
加えて、甲第2号証には、「膨張性組成物」中のSrO含有量を調整するとの技術思想は記載も示唆もされていないし、また、甲第1号証、甲第3号証?甲第9号証の記載をみても、このような技術思想が本件特許出願時の技術常識であるともいえないから、甲2発明において、「SrOの含有量」を「セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部(但し、0.06?0.10質量部は除く。)」とすることは、容易想到な事項であるといえない。

(ウ)したがって、相違点8を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明といえないし、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第3号証?甲第9号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記イに示した理由と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明といえないし、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第3号証?甲第9号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲2発明を対比すると、上記イ(ア)で検討した相当関係が認められるから、両者は、
「遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有し、
前記遊離石灰の含有量が、セメント混和材100部に対して、10?95部であるセメント混和材。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点9)
本件発明4では、「ブレーン比表面積が、2,000?6,000cm^(2)/gであ」るのに対して、甲2発明では、その点が明らかでない点。
(相違点10)
本件発明4は、「化学成分としてSrOを含み」、「前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部であ」るのに対して、甲2発明は、その点が明らかでない点。
(相違点11)
本件発明1の水硬性化合物は、「3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)、2CaO・SiO_(2)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)からなる群から選ばれる2種以上を含有し、2CaO・SiO_(2)を含有する場合には、その含有量がセメント混和材100質量部に対して、1?25質量部(但し、2.8?4.1質量部は除く。)であり、4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)を含有する場合には、その含有量がセメント混和材100質量部に対して、1?7質量部(但し、1.5?2.2質量部は除く。)である」のに対して、甲1発明の水硬性化合物は、「C3S」、「フェライト(C4AF)」及び「カルシウムアルミネート(C3A)」であり、これ以外の水硬性化合物を含むことも、その含有量も明らかでない点。

(イ)まず、相違点10について検討すると、上記イ(イ)で検討した理由と同様の理由により、相違点10は実質的な相違点であるし、また、甲2発明において、「SrOの含有量」を「セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部」とすることは、容易想到な事項であるといえない。

(ウ)したがって、相違点9及び11を検討するまでもなく、本件発明4は、甲第2号証に記載された発明といえないし、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第3号証?甲第9号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲2発明を対比すると、上記イ(ア)で検討した相当関係が認められるから、両者は、
「遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有し、
前記遊離石灰の含有量が、セメント混和材100部に対して、10?95部であるセメント混和材。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点12)
本件発明5は、「化学成分としてSrOを含み」、「前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部であ」るのに対して、甲2発明は、その点が明らかでない点。
(相違点13)
本件発明5は、「体積基準で、10μm以下の粒子の含有率が30?60質量%であって、100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B)が1.5?4.0である」のに対して、甲2発明は、「300μm以上の粒子割合が0質量%、150?300μmの粒子割合が2質量%、10?150μmの粒子割合が56質量%、10μm未満の粒子割合が42質量%、90μm以上の粒子割合が15質量%の粒度構成」である点。

(イ)まず、相違点12について検討すると、上記イ(イ)で検討した理由と同様の理由により、相違点12は実質的な相違点であるし、また、甲2発明において、「SrOの含有量」を「セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部」とすることは、容易想到な事項であるといえない。

(ウ)したがって、相違点13を検討するまでもなく、本件発明5は、甲第2号証に記載された発明といえないし、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第3号証?甲第9号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ 本件発明7及び8について
本件発明7及び8は、本件発明1、4又は5を引用するものであって、本件発明1、4又は5の特定事項を全て含むものであるから、上記イ、エ又はオに示した理由と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明といえないし、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第3号証?甲第9号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

キ 小括
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。

(4)申立理由3に対する判断
ア 記載不備1について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例1には、遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏(CaSO_(4))を含有し、セメント混和材100質量部に対して、遊離石灰を10?95質量部の範囲、SrOを0.001?0.500質量部の範囲で含有し、100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B)が2.1である実施例のセメント混和材(No.1-1?No.1-13)、及び、当該セメント混和材を含有するセメント組成物が具体的に記載され、また、実施例のセメント混和材を含有するセメント組成物は、SrO含有量が0.000質量部である比較例(No.1-18、No.1-20?No.1-22)のセメント混和材を含むセメント組成物と比較して、長さ変化率が小さく、圧縮強度が大きくなることも具体的に記載されているから、当業者であれば、遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏(CaSO_(4))を含有したセメント混和材において、SrO含有量による乾燥収縮ひずみ抑制効果や長期強度発現性低下の抑制効果を認識できる。
そして、上記実施例及び比較例の結果を見れば、No.1-19のセメント混和材を含むセメント組成物における長さ変化率や圧縮強度の値は、明らかな誤記といえるから、No.1-19の結果を根拠にした申立人の主張は採用できない。

イ 記載不備2について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例2には、遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏(CaSO_(4))を含有し、セメント混和材100質量部に対して、遊離石灰を50質量部、SrOを0.001質量部又は0.010質量部、ZrO_(2)を0.0000質量部、0.0001質量部又は0.0500質量部で含有し、100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B)が2.1であるセメント混和材(No.1-6、No.2-1?No.2-3)、及び、当該セメント混和材を含有するセメント組成物が具体的に記載され、また、No.2-1?No.2-3のセメント混和材を含有するセメント組成物は、ZrO_(2)含有量が0.0000質量%であるNo.1-6のセメント混和材を含有するセメント組成物と比較して、フロー試験値が大きくなることが具体的に記載されているから、当業者であれば、遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏(CaSO_(4))を含有したセメント混和材において、ZrO_(2)含有量による流動性向上の効果を認識できる。
一方、申立人は、ZrO_(2)含有量の0.0001%の違いでは、実施例2に記載されたフロー値の差異が生じることが合理的でないと主張しているが、合理的でないとする根拠を明らかにしていないし、また、このような合理的でない理由が技術常識であるとの証拠もないから、申立人の主張は採用できない。

ウ 記載不備3について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例1及び2では、各原料として石灰石、ボーキサイト、酸化鉄、珪石、二水石膏、ストロチアン石、及び、ジルコンサンド等の工業原料を使用して、上記ア及びイで検討したとおり、SrO含有量又はZrO_(2)含有量を調整したセメント混和材を製造することが具体的に記載されていることから、当業者であれば、当該工業原料は、不純物としてのSrOやZrO_(2)を含有しないか、又は、非常に少ない量で含有している工業原料が使用されていると理解できる。
しかも、甲第3号証?甲第9号証の記載からは、上記実施例1及び2の工業原料に含まれているSrO含有量やZrO_(2)含有量を特定することができないため、当該工業原料が、不純物としてのSrOやZrO_(2)を大量に含有しているとはいえないから、申立人の主張は採用できない。

エ 記載不備4について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例1の工業原料が、SrやZr以外の膨張性能に寄与する可能性のある金属元素を不純物として含有しているか否かにかかわらず、上記ア、イで検討したとおり、当業者であれば、遊離石灰、水硬性化合物、無水石膏(CaSO_(4))を含有したセメント混和材において、SrO含有量による乾燥収縮ひずみ抑制効果や長期強度発現性低下の抑制効果、及び、ZrO_(2)含有量による流動性向上の効果を認識できる。
よって、申立人の主張は採用できない。

オ 小括
以上のとおり、本件特許明細書及び特許請求の範囲の記載に不備はなく、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえるし、また、本件発明1?8は、発明の詳細な説明に記載されたものといえるから、申立理由3に理由はない。

6 令和3年2月17日提出の意見書における申立人の主張について
申立人は、本件発明1の「前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部(但し、0.06?0.10質量部は除く。)であ」るとの特定事項の除かれる範囲は、甲1発明のSrO含有量の算出に異なる資料を用いれば違った値が算出され、当該除かれる範囲が不明確となるから、本件発明1は、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない旨を主張している(同意見書第5頁第5?8行)。
しかしながら、当該除かれる範囲は、「0.06?0.10質量部」であることが明確に記載されているから、当該主張は採用できない。

第4 むすび
以上のとおり、請求項1?5、7及び8に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由、及び、取消理由(決定の予告)に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。また、他に請求項1?5、7及び8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項6に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、請求項6に係る特許に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有し、化学成分としてSrOを含み、
前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部(但し、0.06?0.10質量部は除く。)であり、
前記遊離石灰の含有量が、セメント混和材100部に対して、10?95部であり、
前記水硬性化合物として、3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)、2CaO・SiO_(2)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)からなる群から選ばれる2種以上を含有するセメント混和材。
【請求項2】
化学成分としてさらに、ZrO_(2)を含んでなる請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項3】
前記ZrO_(2)の含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.0001?5.0質量部である請求項2に記載のセメント混和材。
【請求項4】
ブレーン比表面積が、2,000?6,000cm^(2)/gであり、
遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有し、化学成分としてSrOを含み、
前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部であり、
前記遊離石灰の含有量が、セメント混和材100部に対して、10?95部であり、
前記水硬性化合物として、3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaSO_(4)、2CaO・SiO_(2)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)からなる群から選ばれる2種以上を含有し、
2CaO・SiO_(2)を含有する場合には、その含有量がセメント混和材100質量部に対して、1?25質量部(但し、2.8?4.1質量部は除く。)であり、
4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)を含有する場合には、その含有量がセメント混和材100質量部に対して、1?7質量部(但し、1.5?2.2質量部は除く。)であるセメント混和材。
【請求項5】
遊離石灰、水硬性化合物、及び無水石膏を含有し、化学成分としてSrOを含み、
前記SrOの含有量が、セメント混和材100質量部に対して、0.001?5.0質量部であり、
前記遊離石灰の含有量が、セメント混和材100質量部に対して、10?95質量部であり、
体積基準で、10μm以下の粒子の含有率が30?60質量%であって、100μm以下の粒子の含有率Aと10μm以下の粒子の含有率Bの比率(A/B)が1.5?4.0であるセメント混和材。
【請求項6】 (削除)
【請求項7】
請求項1?5のいずれか1項に記載のセメント混和材からなる膨張材。
【請求項8】
請求項1?5のいずれか1項に記載のセメント混和材を含有してなるセメント組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-05-11 
出願番号 特願2018-214450(P2018-214450)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C04B)
P 1 651・ 851- YAA (C04B)
P 1 651・ 857- YAA (C04B)
P 1 651・ 121- YAA (C04B)
P 1 651・ 536- YAA (C04B)
P 1 651・ 113- YAA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大塚 晴彦末松 佳記村岡 一磨  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 伊藤 真明
宮澤 尚之
登録日 2019-08-09 
登録番号 特許第6568291号(P6568291)
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 セメント混和材、膨張材、及びセメント組成物  
代理人 田口 昌浩  
代理人 田口 昌浩  

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