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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D02G
審判 全部申し立て 2項進歩性  D02G
管理番号 1376687
異議申立番号 異議2020-700722  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-23 
確定日 2021-05-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6670772号発明「混紡紡績糸及びこれを用いた織物と衣料用繊維製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6670772号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6670772号の請求項1、3?8に係る特許を維持する。 特許第6670772号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6670772号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成29年1月27日に出願され、令和2年3月4日にその特許権の設定登録がされ、令和2年3月25日に特許掲載公報が発行されたものであり、その特許について、令和2年9月23日に特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、令和2年12月24日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和3年1月28日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正そのものを「本件訂正」という。)がされ、この本件訂正請求について、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、意見書は提出されなかったものである。

第2 本件訂正請求について
1.本件訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6670772号の特許請求の範囲及び明細書を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりのものである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であって、
前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2?4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維を含み、
前記通常繊度のポリエステル短繊維はレギュラータイプのポリエステル短繊維であり、
前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率は、P1>W≧P2であることを特徴とする混紡紡績糸。」と記載されているのを、
「獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であって、
前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2?4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維を含み、
前記通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり、
前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10?70:20?80:10?30、但しP1>W≧P2であることを特徴とする混紡紡績糸。」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「請求項1又は2に」と記載されているのを、「請求項1に」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1?3のいずれかに」と記載されているのを、「請求項1又は3に」と訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1?4のいずれかに」と記載されているのを、「請求項1、3、4のいずれかに」と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に、
「前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート短繊維である請求項1?5のいずれかに記載の混紡紡績糸。」と記載されているのを、
「前記細繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート短繊維である請求項1、3?5のいずれかに記載の混紡紡績糸。」と訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に、「請求項1?6のいずれかに」と記載されているのを、「請求項1、3?6のいずれかに」と訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の段落【0006】の
「本発明の混紡紡績糸は、獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であって、前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2?4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維を含み、前記通常繊度のポリエステル短繊維はレギュラータイプのポリエステル短繊維であり、前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率は、P1>W≧P2であることを特徴とする。」と記載されているのを、
「本発明の混紡紡績糸は、獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であって、前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2?4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維を含み、前記通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり、前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10?70:20?80:10?30、但しP1>W≧P2であることを特徴とする。」と訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の段落【0025】の
「(比較例1)
細繊度のポリエステル短繊維(P2)を使用せず、その分通常繊維のポリエステル短繊維(P1)とした以外は実施例1と同様に実験した。得られた織物の物性は表1にまとめて示す。」と記載されているのを、
「(比較例1)
細繊度のポリエステル短繊維(P2)を使用せず、その分通常繊維のポリエステル短繊維(P1)とした以外は実施例1と同様に実験した。得られた織物の物性は表2にまとめて示す。」と訂正する。

2.訂正の適否
(1)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?8は、本件訂正前の請求項1を、直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項についてされたものである。
また、訂正事項8及び9による願書に添付した明細書の訂正に係る請求項は、請求項1及びこの請求項1を直接又は間接に引用する請求項2?8であり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項に規定する、一群の請求項の全てについて行われたものである。

(2)訂正事項1について
ア.訂正事項1のうち、「前記通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり、」とする訂正は、「通常繊度のポリエステル短繊維」について、繊維の断面が「丸断面」であり、ポリエステルのうちの「ポリエチレンテレフタレート」に限定するものであり、
また、「前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10?70:20?80:10?30、但しP1>W≧P2である」とする訂正は、獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率について限定するものであるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ.訂正事項1のうち、「前記通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり、」とする訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の請求項6に「前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート短繊維である」と、段落【0013】に「前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維が好ましい。PET短繊維は、強度と初期弾性率が高く、しわになりにくい性質を有する。PET短繊維の単繊維断面は汎用性のある丸断面が好ましい。」と記載されており、この訂正は本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、
また、「前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10?70:20?80:10?30、但しP1>W≧P2である」とする訂正は、本件特許明細書等の請求項2に「前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10?70:20?80:10?30である請求項1に記載の混紡紡績糸。」と記載されており、この訂正は本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであるから、いずれも、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであることは明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項3?5、7について
訂正事項3?5、7は、訂正事項2により請求項2が削除されることに伴い、請求項3?5、7が引用する請求項を整合させる訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項3?5、7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであることは明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正事項1で訂正前の請求項6に記載されていた「通常繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート短繊維である」との事項を請求項1に加えることに伴い、請求項6から当該事項を削除して記載を整合させる訂正であり、また、訂正事項2により請求項2が削除されることに伴い、請求項6が引用する請求項を整合させる訂正であるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであることは明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(6)訂正事項8について
訂正事項8は、段落【0006】の記載を、訂正事項1により訂正される請求項1の記載に整合させる訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであることは明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(7)訂正事項9について
ア.本件特許に係る願書に最初に添付した明細書(以下「本件当初明細書」という。)の段落【0025】には、
「(比較例1)
細繊度のポリエステル短繊維(P2)を使用せず、その分通常繊維のポリエステル短繊維(P1)とした以外は実施例1と同様に実験した。得られた織物の物性は表1にまとめて示す。」と記載されているところ、
段落【0024】の【表1】には、原料繊維について記載され、織物の物性は記載されていない。
一方、段落【0026】の【表2】には、比較例1と実施例1について、両者の試験項目毎に、対比して試験結果が示され、
段落【0023】?【0024】には、実施例1について
「<混紡紡績>
仏式梳毛紡績における、混毛インターセクティング ギル ボックス(intersecting gill box)を使用して、前記「スライバー混紡」により混紡した。混紡率はウール30質量%、通常繊度のポリエステル短繊維50質量%、細繊度のポリエステル短繊維20質量%とした。混紡した後のスライバーは粗糸とし、リング紡績法により紡績糸とした。・・・・この紡績糸(単糸)を2本撚り合わせて双糸とした。・・・・得られた双糸の物性は表2にまとめて示す。
・・・・
<織物染色>
織物の染色は常法を使用した。・・・・染色後の織物の物性は表2にまとめて示す。」と記載され、実施例1の織物の物性は、「表2」に示すとされている。
そうすると、比較例1と実施例1とも、織物の物性は「表2」に対比して示されていると理解されるから、段落【0025】の、比較例1の織物の物性が「表1」に示されるとする記載は、その理解と矛盾するものである。
よって、本件当初明細書の段落【0025】で「表1」と記載されていたものを、「表2」とする訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものに該当する。
イ.また、本件当初明細書の段落【0026】の【表2】には、比較例1の織物の物性が記載されており、この訂正は、本件当初明細書に記載された事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.そして、訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件特許発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1?8に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であって、
前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2?4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維を含み、
前記通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり、
前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10?70:20?80:10?30、但しP1>W≧P2であることを特徴とする混紡紡績糸。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記細繊度のポリエステル短繊維は、抗ピル性ポリエステル短繊維である請求項1に記載の混紡紡績糸。
【請求項4】
前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維の平均繊維長は、50mmを超え150mm以下である請求項1又は3に記載の混紡紡績糸。
【請求項5】
前記獣毛繊維は、ウール、カシミヤ、モヘヤ及びキャメルから選ばれる少なくとも一つである請求項1、3、4のいずれかに記載の混紡紡績糸。
【請求項6】
前記細繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート短繊維である請求項1、3?5のいずれかに記載の混紡紡績糸。
【請求項7】
請求項1、3?6のいずれかに記載の混紡紡績糸を含む織物。
【請求項8】
請求項7に記載の織物を含む衣料用繊維製品。」

2.取消理由の概要
本件発明1?8に対して、特許権者に通知した令和2年12月24日付けの取消理由の概要は、次のとおりである。

理由1)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由2)本件特許の請求項1?8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記(2)の刊行物の、甲9又は甲10に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)ア 「通常繊度のポリエステル短繊維はレギュラータイプのポリエステル短繊維であり」との記載を含む請求項1に係る発明の記載は明確ではない。
イ 特許請求の範囲の請求項2で特定される混紡紡績糸は、請求項1の特定を全て備えるものであるところ、請求項2で特定される「獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10?70:20?80:10?30である」には、請求項1の式「P1>W≧P2」を満たさない混率のものを含んでおり、請求項2で特定される混紡紡績糸が、どのようなものであるのか明確ではない。

(2)提出された刊行物
甲1:特開2008-38332号公報
甲2:特開昭63-159587号公報
甲3:特開昭62-273229号公報
甲4:特開2002-129451号公報
甲5:国際公開第2017/010024号
甲6:特開2008-133584号公報
甲7:特開2004-68211号公報
甲8:特開2012-41664号公報
甲9:特表平11-508969号公報
甲10:特開2004-197244号公報
甲11:日本繊維機械学会繊維データ集編集委員会編、「繊維新素材・新製品データ集」、初版、社団法人日本繊維機械学会、昭和63年3月31日、22頁

3.取消理由についての判断
(1)理由1について
ア 本件訂正により、本件発明1の「通常繊度のポリエステル短繊維はレギュラータイプのポリエステル短繊維であり」との記載は、「通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり」と訂正され、「レギュラー」タイプの「ポリエステル繊維」が、「ポリエチレンテレフタレート繊維」であることが特定された、
これは、甲1(【0007】)で「本発明においてレギュラーポリエステル繊維とはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの未変性ポリエステルである。」と、甲2(2頁左上欄末行?同右上欄6行)で「本発明において、レギュラーポリエステル繊維とは、一般の衣料用ポリエステル繊維でありテレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素数2?6のアルキレングリコール、特に好ましくはエチレングリコール又はテトラメチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルからなる繊維である。」と、甲3(3頁右上欄10?14行)で「レギュラーポリエステル繊維とは、実質的にポリアルキレンテレフタレートから成り、ごく微量の第三成分や、少量の触媒・熱安定剤・顔料・艶出し剤・艶消し材などを含有しているものを含めたものである。」と、甲5([0070])で「例えば未変性ポリエステル繊維(未改質のポリエチレンテレフタレートからなり、レギュラーポリエステル繊維ともいわれる。)」と記載されることと整合し、本件発明1の「通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり」との記載は明確である。
イ 本件訂正により、「前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10?70:20?80:10?30、但しP1>W≧P2である」と訂正された。
この訂正により、本件発明1は、「W:P1:P2=10?70:20?80:10?30」の条件と、「P1>W≧P2」の条件を、ともに満たす、獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)であることが明確である。
ウ よって、本件発明1、3?8は明確であり、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条6項2号に規定する要件を満たしていないものではない。

(2)甲9を主引用例とする理由2について
ア 甲9に記載された事項を示す。下線は、当審で付したものである。
(ア)「【特許請求の範囲】
・・・・
2. 梳毛または紡毛システムでの加工に好適なスライバであって、不連続のポリエステル繊維、またはウール繊維および不連続ポリエステル繊維の連続スライバからなり、前記ポリエステルは分岐ポリマであり、前記ポリエステル繊維は、繊維当たり高タイタ-の繊維および繊維当たり低タイタ-の繊維の混合物であり、前記低タイタ-は繊維当たり0.5?3dtexであり、前記高タイタ-は、繊維当たり2?6dtexで且つ前記低タイタ-の少なくとも1.5倍であり、前記ポリエステル繊維の断面は一般のくびれを有する楕円形であり、前記くびれがポリエステル繊維の長さに沿って続いていることを特徴とするスライバ。」(特許請求の範囲請求項2)
(イ)「梳毛システムでの加工は、現在、綿システムで実行されている多くの実践と全く異なる。綿システムでは、一般的に、梱(こり)で売られる綿繊維を用い、それは場合によっては、主としてステープルあるいはカット繊維であるポリエステルと混合され、また、ぎっしり詰まった梱で売られる。これらシステムとは異なり、梳毛システムでの加工のためには、梳毛操作者は、粉砕、切断あるいはけん切(stretch-breaking)によって、(連続した)トウを、連続したスライバ(不連続繊維の連続したエンド(繊維束)、以下、単に「カット繊維(cutfiber)」と呼ぶ)に変換することができるので、(カット繊維のぎっしり詰まった梱の代わりに)ポリエステル繊維のトウを買うことを望んでいる。このスライバは、いくつかの工程、すなわち、ドラフティング(drafting)、染色(dyeing)、バック・ウォッシング(back-washing)、ギリング(gilling)、ピン・ドラフティング(pin-drafting)、および一般的には最終的にウールとの混合工程で、(連続したエンドとして)加工される。」(4頁23行?5頁7行)
(ウ)「それゆえ、本発明にかかる下流製品、特に、連続梳毛システムポリエステル(カット)繊維スライバ、ヤーン、織物(fabric)、並びに、ポリエステル繊維の混合物、およびウール繊維の混合物、および/または、所望により、他の繊維の混合物を含むスライバからの衣服、さらにはそれらの製造方法、および/またはそれらの使用が提供される。」(6頁6?10行)
(エ)「本発明に係るポリエステルフィラメントの断面は、円形であってはならず、フィラメントの長さ方向に沿って延びるくびれ付きの一般的な楕円形である。」(8頁14?15行)
(オ)「実施例V
3.2dpf(3.6dtex)のポリ(エチレンテレフタレート)のフィラメントを本質的に実施例2に詳述したように溶融紡糸したが、1054の細孔を含む紡糸口金の一位置から約73ポンド(33Kg)/時間の速度で押し出し、ボビンに巻き取り、総フィラメント束デニールが3445(約3830dtex)を得た。
7.8dpfのフィラメント(8.7dtex)を同様に溶融紡糸にし、単一の位置の450の細孔を含む紡糸口金から、約75ポンド(34Kg)/時間の速度で押し出して、ボビンに巻き取った総フィラメント束デニールが3492(3880dtex)を得た。
紡糸特性を表5Aに示す。

これらの低dpfフィラメントの3つのボビンと、高dpfフィラメントの29のボビンとを混合し、同時延伸のための、公称ブレンド比10/90のの低dpf/高dpfを有するトウを形成した。このトウを95℃のスプレー延伸水において、2.6Xの延伸比で延伸した。その後、トウをスタッファボックス捲縮機に通し、続いて145℃で弛緩し、約3.0(3.3dtex)の公称(平均)dpfを有する、低および高デニールのフィラメントを含む緊密混合物からなる、ほぼ47,000デニール(52,000dtex)の最終のトウを得た。これらのフィラメントの特性を表5Bに示す。

従来の仕上剤を実施例1のように添加した。トウを従来のトウボックスに集め、後加工処理、ヤーン次いで織物へ変換するためのウールと混合のために、ミルへ搬送した。
トウ(およびそれから得られるスライバ)を如何に加工するかは、商業的生存力に対して重要である。ミルで製品性能を評価するため、スライバ粘着(cohesion)試験、すなわち、繊維同士の摩擦の測定を、染色前および染色後の両方において実行した。スライバ粘着試験は、12インチ(約30cm)の長さのスライバを製造するためのカーディング工程からなり、スライバを垂直に吊って、耐荷限界に達するまで底部に加重する(すなわち、スライバ内の繊維が引き剥がれ、おもりが落下する)。染色したアイテムについては、スライバをナイロンバックへきつく詰め、青G/F染料を分散液を用いて、華氏250度(121℃)で30分間、加圧染色した。サンプルを強制エアーオーブンで華氏270度(132℃)で30分間、乾燥させ、スライバ粘着をmg/デニール(括弧内にmg/dtexを示す)で測定した。このような試験は、染色前および染色後のアイテム間で変化する摩擦特性の大きさを反映する。比較のため、スライバ粘着試験を、現在市販されている3.0dpf(3.3dtex)の円形繊維(同一ポリマで(8.2)CPI(3.2CPcm)および捲縮指数を一致させたもの)のスライバについて実行した。スライバ粘着試験の結果を表5Cに示す。

得られたスライバ粘着値の比較は、本発明のトウ(扇状楕円形断面の混合dpf)からのスライバは、染色前には従来の単一dpf(混合していない)の円形繊維型スライバ(また3dpf)の30%だけとで、染色後には従来の型の36%だけという、非常に低いスライバ粘着値を有していることを示す。これらは、本発明のトウ(およびそれから得られたスライバ)が、何故、良好に加工されるかを、遡及的に説明している。」(17頁4行?19頁6行)
イ 上記記載事項から、甲9には、次の甲9発明が記載されている。
「3.7dtexのポリ(エチレンテレフタレート)を92%、1.3dtexのポリ(エチレンテレフタレート)を8%の割合で含む、扇状楕円形断面のトウから得られるスライバに、ウールを混合した糸。」
ウ 本件発明1と甲9発明を対比する。
甲9発明の「ウール」は本件発明1の「獣毛繊維」に相当し、甲9発明の「3.7dtexのポリ(エチレンテレフタレート)」と「1.3dtexのポリ(エチレンテレフタレート)」の「扇状楕円形断面のトウから得られるスライバ」は、本件発明1の「ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であ」ることに相当し、甲9発明の「1.3dtexのポリ(エチレンテレフタレート)」のスライバは、本件発明1の「単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維」に相当する。
甲9発明の「3.7dtexのポリ(エチレンテレフタレート)」の「扇状楕円形断面のトウから得られるスライバ」と、本件発明1の「単繊維繊度が2?4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維」は「丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維」とは、「単繊維繊度が2?4decitexのポリエステル短繊維」という限りで一致する。
また、甲9発明のポリ(エチレンテレフタレート)のスライバにウールを混合した糸は、本件発明1の「混紡紡績糸」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲9発明は、
「獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であって、
前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2?4decitexのポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満のポリエステル短繊維からなる、混紡紡績糸。」で一致し、
以下の相違点1、2で相違する。
《相違点1》
単繊維繊度が2?4decitexのポリエステル短繊維について、本件発明1が、「丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維」であるのに対し、甲9発明は、「3.7dtexのポリ(エチレンテレフタレート)」の「扇状楕円形断面のトウから得られるスライバ」である点。
《相違点2》
本件発明1が、「通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10?70:20?80:10?30、但しP1>W≧P2である」のに対し、甲9発明は、ポリエステル繊維のうち、3.7dtexのポリ(エチレンテレフタレート)を92%、1.3dtexのポリ(エチレンテレフタレート)を8%の割合で含むものの、ウールを含めた割合は特定されていない点。
エ 相違点1について検討する。
甲9発明のスライバは、扇状楕円形断面のトウから得られるものであり、これにより、染色後には従来の円形断面のものと比べて、非常に低いスライバ粘着値を有するとされており、甲9の上記記載ア(エ)には、「本発明に係るポリエステルフィラメントの断面は、円形であってはならず、フィラメントの長さ方向に沿って延びるくびれ付きの一般的な楕円形である。」と記載されているから、甲9発明の「扇状楕円形断面」のものを、本件発明1のように「丸断面」に換える動機付けがない。
よって、甲9発明において、本件発明1の相違点1に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
オ 次に、相違点2について検討する。
本件発明1の細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、10?30%であり、獣毛繊維(W)は、細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率と、同じかそれ以上の混率であり、通常繊度のポリエステル短繊維(P1)は、獣毛繊維(W)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)のいずれの混率よりも大きい混率である。3つの繊維の混率をこのように調整することで、「風合いはウールと細繊度のポリエステル短繊維で良好に保ち、抗ピル性はウールと通常繊度のポリエステル短繊維で良好に保ち、染色性が良好であるのはウールと通常繊度のポリエステル短繊維で発揮する」(本件特許明細書等の段落【0020】)ことができるとされる。
一方、甲9発明は、ポリエステル繊維のうち、3.7dtexのポリ(エチレンテレフタレート)を92%、1.3dtexのポリ(エチレンテレフタレート)を8%の割合で含むものではあるが、ウールを含めた割合では、1.3dtexのポリ(エチレンテレフタレート)の割合は、8%よりも更に少なくなり、本件発明1の細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率の最小値である10%から離れることになる上、甲9には、ウールと1.3dtexのポリ(エチレンテレフタレート)を、3.7dtexのポリ(エチレンテレフタレート)と混合させて、風合いや抗ピル性、染色性を調整することについては記載されていない。
また、甲11には、カチオン可染タイプ(50%)と分散可染タイプ(20%)の2者混のポリエステルサイドと羊毛を混合して、風合いは、硬さがなく、かさ高性があり、染色性も良い、紡績糸(商品名「エスバルク」)が記載されているものの、羊毛と通常繊度のポリエステル繊維に細繊度のポリエステル繊維を加え、それらの混率を調整して、風合いと抗ピル性、染色性を良好にするものではないから、甲11の記載を参酌しても、甲9発明の3.7dtexと1.3dtexのポリ(エチレンテレフタレート)及びウールの混合割合を、本件発明1の相違点2の混率に設定することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
カ よって、本件発明1は、甲9発明及び甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
キ 本件発明3?8は、本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的にすべて含むものであるところ、上記ア?カで述べたように、本件発明1は、甲9発明及び甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明3?8も、甲9発明及び甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲10を主引用例とする理由2について
ア 甲10に記載された事項を示す。下線は当審で付したものである。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性化合物グラフト重合加工ポリエステル繊維とグラフト重合未加工ポリエステル繊維とを含有する繊維構造体であり、前記グラフト重合加工ポリエステル繊維の含有率が65質量%未満で、かつ吸湿性が2.0%以上、耐光堅牢度が4級以上であることを特徴とする吸湿性ポリエステル繊維構造体。【請求項2】
繊維構造体が織物、編物及び不織布のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の吸湿性ポリエステル繊維構造体。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はグラフト重合加工繊維を用いた糸、織物、、編物及び不織布などの繊維構造体に関するものであり、さらに詳しくは、インナー及びアウター用織編物やタオル、芯地、マット、シーツ等のインテリア、副資材、寝装用品などに関する。」
(ウ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、インナー及びアウター用織編物やタオル、芯地、マット、シーツ等のインテリア、副資材、寝装用等に好適なを吸湿性ポリエステル繊維構造体を提供しようとするものであり、吸湿性を有する2成分複合紡糸繊維を用いることなく、グラフト重合ポリエステル繊維の欠点である耐光堅牢性の悪さ、物性低下、湿潤時の寸法不安定性、ヌメリ風合などが改善されたポリエステル長・短繊維織編物、不織布などを提供しようとするものである。
【0005】
【発明を解決するための手段】
・・・・
【0006】
本発明は、上記構成により、グラフト重合加工ポリエステル織編物、不織布などの欠点であった発色性、耐光堅牢度、強力低下、特に湿潤時の強力低下や寸法安定、しわ、ヌメリ風合等を改善することができる。特に、(1)グラフト重合加工繊維とグラフト重合加工されていない繊維をある比率で混繊・混紡、または交編織すること、(2)グラフト重合加工繊維を含む原綿、混紡・混繊糸、または織編物、不織布を紫外線吸収剤を併用しアルカリ分散染料で染色すること、(3)染色品を軽還元洗浄または還元洗浄をすることなくナトリウム置換処理などの金属塩化処理を行うことの3つの条件が主要点である。以下、詳細を説明する。」
(エ)「【0007】
【発明の実施の形態】
本発明でグラフト重合加工に用いられるポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレートなどのホモポリマーポリエステルが主体的に用いられるが、異色性や低温染色性を得るために有機スルホン酸塩基含有成分を共重合した共重合ポリエステルや高収縮性を得るためにイソフタル酸、ネオペンチルグリコールなどの第3成分を共重合した共重合変性ポリエステルなども用いることができる。・・・・」
(オ)「【0014】
グラフト重合加工したポリエステル繊維は、グラフト重合加工しないポリエステル繊維と混紡、混繊などで混用される。・・・
【0015】
本発明においては、グラフト重合加工繊維のみでの織物、編物、不織布などは避け、グラフト重合加工されていないポリエステル繊維との混紡、混繊、交編、交織などによる混用が第1条件である。グラフト重合加工繊維のみでは、生成りで用いない限り耐光堅牢度が改善困難なためである。グラフト重合加工繊維の混用率は、芯部にグラフト重合繊維を多く配した粗糸やカバリング糸や合撚糸では5質量%以上、65質量%未満が好ましく、カード混紡糸やエア混繊糸であれば50質量%未満とすることが好ましい。・・・・」
(カ)「【0020】
混用する繊維はポリエステル以外の繊維でもよいが、本発明では物性、W&W性、染色性の面からポリエステル繊維が主体的に用いられる。混用繊維の形態や種類は、丸断面、中空や高異型度繊維、極細繊維、2成分複合紡糸潜在捲縮繊維、カチオン可染や常圧可染繊維、先染め繊維、原着繊維等であってもよく、また、ポリエステル以外の繊維としては、木綿、麻、レーヨン、シルク、ウール、アクリル、プロミックス、ナイロンなど、目的によって種々組合せることが可能である。」
(キ)「【0022】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を説明する。実施例、比較例ともグラフト重合加工繊維として繊度2.2dtex、カット長38mmの中実ポリエステル繊維を、グラフト重合加工されないポリエステル繊維として繊度1.6dtex、カット長38mmの異型度2.4のY型断面形状繊維を用い、グラフト重合加工後の原綿粗糸を140ゲレンとし、36倍でドラフトしながら、リング紡績糸は精紡機回転数12、000rpm、撚り係数3.4で撚りあげ、英式綿番手30番手の紡績糸を得た。エア交絡紡績糸は村田機械(株)製ムラタボルテックススピナーMVSを用い、300ゲレンのスライバーを180倍にドラフトしながら、エア圧0.45MPa、糸速400m/分で紡出し、各英式綿番手30番手の紡績糸を得た。」
(ク)「【0026】
【表1】


イ 上記記載事項から、甲10(特に実施例1)には、次の甲10発明が記載されている。
「グラフト重合加工繊維として繊度2.2dtex、カット長38mmの中実ポリエステル繊維を63%、グラフト重合加工されないポリエステル繊維として繊度1.6dtex、カット長38mmの異型度2.4のY型断面形状繊維を37%含有する糸であって、
グラフト重合加工に用いられるポリエステル繊維は、ポリエチレンテレフタレートが用いられ、ポリエステル以外の繊維として、木綿、麻、レーヨン、シルク、ウール、アクリル、プロミックス、ナイロンなどを、目的によって種々組合せる、糸。」
ウ 本件発明1と甲10発明を対比すると、両者は、単繊維繊度が2?4decitexのポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満のポリエステル短繊維に、ポリエステル以外の繊維を組み合わせ得ることで一致する。
一方、本件発明1と甲10発明とは、本件発明1が、獣毛繊維(W)と単繊維繊度が2?4decitexのポリエステル短繊維(P1)と単繊維繊度が2decitex未満のポリエステル短繊維(P2)の混率を、「W:P1:P2=10?70:20?80:10?30、但しP1>W≧P2」の範囲で調整するのに対し、甲10発明は、ポリエステル以外の繊維としてウールが例示されるものの、木綿、麻、レーヨン、シルク、アクリル、プロミックス、ナイロンなどの繊維の中から選択するものである上、獣毛繊維(W)と単繊維繊度が2?4decitexのポリエステル短繊維(P1)と単繊維繊度が2decitex未満のポリエステル短繊維(P2)について、混合割合を、「W:P1:P2=10?70:20?80:10?30、但しP1>W≧P2」の範囲に調整するものではない点で、少なくとも相違する。
ここで、甲10発明は、グラフト重合加工繊維とグラフト重合加工されていない繊維をある比率で混繊・混紡、または交編織することにより、グラフト重合加工ポリエステル織編物、不織布などの欠点であった発色性、耐光堅牢度、強力低下、特に湿潤時の強力低下や寸法安定、しわ、ヌメリ風合等を改善することができる(甲10の上記記載ア(ウ))とされるものであり、ポリエステル以外の繊維として組み合わせ得る多数の繊維の中からウールを選択し、さらに、そのウールを含め、通常繊度のポリエステル短繊維と細繊度のポリエステル短繊維との間で、風合いや抗ピル性、染色性のために、混合割合を本件発明1の範囲に調整する動機付けがない。
そして、甲11の記載を参酌しても、甲10発明の糸の各繊維の混合割合を、本件発明1のように設定することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
エ よって、本件発明1は、甲10発明及び甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明3?8は、本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的にすべて含むものであるところ、上記ア?エで述べたように、本件発明1は、甲10発明及び甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明3?8も、甲10発明及び甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4.取消理由に採用しなかった申立理由
申立人は、本件特許に係る令和1年12月16日の手続補正により、特許請求の範囲請求項1の「前記通常繊度のポリエステル短繊維はレギュラータイプのポリエステル短繊維であり」との事項を追加する補正は、本件当初明細書に記載された事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第17条の2第3項に違反するものである旨主張する。
しかし、本件訂正により、特許請求の範囲請求項1の当該箇所は、「前記通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり、」と訂正され、本件当初明細書の「前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維が好ましい。PET短繊維は、強度と初期弾性率が高く、しわになりにくい性質を有する。PET短繊維の単繊維断面は汎用性のある丸断面が好ましい。」(段落【0013】)、「・通常繊度のポリエステル短繊維は市販のレギュラータイプのPET短繊維(平均直径:17.5μm、平均繊度:3.3decitex、繊維長:76?102mmのバイアスカット)を使用し、分散染料を用いて常法により黒色に染色した。」(段落【0023】)との記載事項の範囲内であるといえる。
よって、申立人の特許法第17条の2第3項に係る申立理由は、採用できない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、3?8に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、3?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により、請求項2に係る特許は削除されたため、請求項2に対して申立人がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
混紡紡績糸及びこれを用いた織物と衣料用繊維製品
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣毛繊維とポリエステル短繊維を混紡した紡績糸及びこれを用いた織物と衣料用繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からウール等の獣毛繊維と合成繊維の短繊維を混紡した紡績糸はよく知られている。特許文献1には、織物の緯糸にマルチフィラメント糸と、シリコーンで表面処理したポリアミド繊維とウールとを混紡した紡績糸からなる長短複合紡績糸を使用することが提案されている。特許文献2には平均繊度0.1?1.4デニールのポリエステル短繊維と、平均繊度0.1?1.5デニールの再生繊維とを混紡した紡績糸が提案されている。特許文献3には繊度1.2デニールのポリエステル短繊維と、繊度1.6デニール以下のコットン繊維とを混紡した紡績糸が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-108204号公報
【特許文献2】特開平5-209335号公報
【特許文献3】特開平3-269128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の長短複合紡績糸は汎用性がいまひとつであり、ウールとポリエステル短繊維の混紡紡績糸は風合い、抗ピル性、摩耗変色及び染色性に問題があった。すなわち、ウール等の獣毛繊維は温かみがあり風合いもよく高級な繊維素材であり、ポリエステル短繊維は一般的に強度が高くしわになりにくい性質を有するが、両者を混紡するとポリエステル短繊維が通常繊度の場合は風合いが粗硬となり、ポリエステル短繊維が細繊度の場合は抗ピル性が悪くなり、かつ染色物は摩耗によるフィブリル化で白化しやすいのと濃色が出にくい問題があった。
【0005】
本発明は前記従来の問題を解決するため、風合い、抗ピル性、摩耗変色及び染色性を改善した混紡紡績糸及びこれを用いた織物と衣料用繊維製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の混紡紡績糸は、獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であって、前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2?4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維を含み、前記通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり、前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10?70:20?80:10?30、但しP1>W≧P2であることを特徴とする。
【0007】
本発明の織物は、前記の混紡紡績糸を含む。また、本発明の衣料用繊維製品は、前記の織物を衣料用繊維製品としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の混紡紡績糸は、獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であり、前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2?4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維を含み、前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高いことにより、風合い、摩耗変色及び染色性を改善した混紡紡績糸及びこれを用いた織物と衣料用繊維製品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の混紡紡績糸は、獣毛繊維とポリエステル短繊維を含む混紡紡績糸であり、フィラメント繊維を複合してもよい。前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維である。前記少なくとも2種類の短繊維は、単繊維繊度が2?4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維である。そして、前記通常繊度のポリエステル短繊維(P1)のほうが細繊度のポリエステル短繊維(P2)より混率が高い。これにより、風合い、摩耗変色及び染色性を改善できる。
【0010】
前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10?70:20?80:10?30が好ましい。さらに好ましくは、W:P1:P2=15?65:25?75:10?30である。これにより、さらに風合い、摩耗変色及び染色性を改善できる。また、同様な理由によりP1>W≧P2が好ましい。
【0011】
前記細繊度のポリエステル短繊維は、抗ピル性ポリエステル短繊維が好ましい。抗ピル性ポリエステル短繊維は、ポリエステルの分子量が通常のポリエステル(PET)の数平均分子量(約20,000)より数平均分子量を小さくすることにより得られる。抗ピル性ポリエステル短繊維は、この名称で一般的に流通している。
【0012】
前記獣毛繊維は、ウール、カシミヤ、モヘヤ及びキャメルから選ばれる少なくとも一つが好ましい。この中でも汎用性があるウール(羊毛)が好ましい。
【0013】
前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維が好ましい。PET短繊維は、強度と初期弾性率が高く、しわになりにくい性質を有する。PET短繊維の単繊維断面は汎用性のある丸断面が好ましい。
【0014】
前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維の平均繊維長は、50mmを超え150mm以下であるのが好ましい。いわゆる長紡紡績糸である。この紡績糸は、仏式梳毛紡績によって得られる。本発明の獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の3成分繊維は、仏式梳毛紡績における、例えば混毛インターセクティング ギル ボックス(intersecting gill box)で混紡するのが好ましい。すなわち、前記WとP1とP2の各短繊維の各々が100質量%組成である繊維束(スライバー)を作成しておき、前記混毛インターセクティング ギル ボックスに前記3成分の繊維束(スライバー)を供給して通し、後工程のコーマー工程や前紡工程におけるダブリング及びドラフティング作用によって、平行かつ均整化して均一に混紡する。以下この方法を「スライバー混紡」という。この方法は歩留りが良く、多品種少量生産に好適である。加えて、繊度や捲縮性の異なる短繊維であっても効率よく混紡できる。
【0015】
本発明の混紡紡績糸は単糸でもよいし、双糸にしてもよい。単糸の撚り方向・撚り係数K_(1)に対して、双糸の撚り方向をSとするかZとするか、またその場合の撚り係数K_(2)は、どのような織物にするかによって設定される。毛織物を例に取れば、ジョーゼットやボイルのようにシボ感やシャリ感を得たい場合は、単糸Z撚りに対し、双糸もZ撚りとしてK_(2)を大きめに設定したいわゆる強撚糸とする。逆にサキソニーやフラノのように織物表面に毛羽をたくさん出してソフトでふくらみやぬめり感を持たせたい場合は、縮絨や起毛が促進されるよう単糸Z撚りに対し、双糸はS撚りとしてK_(2)を小さめに設定したいわゆる甘撚とする。
【0016】
前記紡績糸の単糸を番手表示する場合は、1/28?1/80の範囲が好ましく、単糸の撚り係数Kc_(1)は60?130の範囲であり、かつ双糸の撚り係数Kc_(2)は70?220の範囲とするのが好ましい。前記において、例えば1/28は、メートル番手28番の単糸を示す。単糸の撚り係数Kc_(1)、双糸の撚り係数Kc_(2)は、次に示す数式によって計算する。
Kc_(1)=T_(1)/√C_(1)
Kc_(2)=T_(2)/√C_(2)
ここにおいてT_(1)は単糸の撚り数(回/m)、T_(2)は双糸の撚り数(回/m)、C_(1)は単糸番手(m/g)、C_(2)は双糸番手(m/g)を表す。
撚り係数が前記の範囲であると、撚構造が安定し、糸包合性も高く、さらに目風がきれいでソフトな風合いの織物とすることができる。撚り方向は任意とすることができる。
【0017】
得られた双糸は、撚り止めし、経糸と緯糸に使用して織物とする。織物組織は、平織(plain weave)、斜文織(twill weave、綾織ともいう)、又は朱子織(satin weave)組織、その他の変化織組織等を使用できる。編物にする場合は、横編、丸編、経編のいずれでも適用できる。編組織はどのようなものであっても良い。編物内に空気を含ませる場合は、二重接結パイル布帛に編成する。この中でもとくにユニホームやスーツなどに使用する織物が好ましい。
【0018】
本発明の織物の単位あたりの質量(目付)は100?340g/m^(2)の範囲が好ましい。前記範囲であれば、さらに軽くて着心地の良い衣服とすることができる。さらに好ましくは140?320g/m^(2)の範囲、とくに好ましくは180?300g/m^(2)の範囲である。
【0019】
本発明においてウォッシャブル性とは、家庭洗濯できることを言う。具体的にはJIS L0217(105法)に規定されている方法で水洗い洗濯20回した後、タテ、ヨコとも寸法変化が2.0%以下である。
【0020】
本発明は、ウールと、通常繊度のポリエステル短繊維と、細繊度のポリエステル短繊維の3成分繊維を均一混紡しているので、風合いはウールと細繊度のポリエステル短繊維で良好に保ち、抗ピル性はウールと通常繊度のポリエステル短繊維で良好に保ち、染色性が良好であるのはウールと通常繊度のポリエステル短繊維で発揮する。染色性についてさらに詳しく説明すると、細繊度のポリエステル短繊維が多いと染色物は白化しやすいのと濃色が出にくい問題があるが、本発明では少ない量を混紡するのでこの問題は発生しにくい。染色は、綿(わた)、糸、布帛(織物、編み物)等いかなる段階で行ってもよい。染色方法は特開2005-307372号公報などに記載されている常法を採用できる。例えば布帛で染色する場合の染色方法の一例は、精練した後、加圧下、100℃以上120℃以下の温度範囲で、キャリアーを使用せず、分散染料と吸水剤と濃染剤を含む染色液によりポリエステル短繊維を染色し、次に酸性還元処理した後、アルカリ性物質で中和し、その後、酸性下において、反応性染料を含む染色液によりウールを染色し、次に中和した後、水洗する。
【0021】
本発明の衣料製品は前記織物を縫製して衣料用繊維製品とする。衣料用繊維製品としては、一例としてスーツ、ユニホーム、学生服、作業着、スポーツ用衣類、シャツ、インナーウエア、靴下などがある。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0023】
(実施例1)
(1)混紡紡績糸の製造
<使用原料繊維>
・ウールはオーストラリア産、メリノ種の非改質ウール(平均繊維長:75mm、平均直径:22.5μm)を使用した。
・通常繊度のポリエステル短繊維は市販のレギュラータイプのPET短繊維(平均直径:17.5μm、平均繊度:3.3decitex、繊維長:76?102mmのバイアスカット)を使用し、分散染料を用いて常法により黒色に染色した。
・細繊度のポリエステル短繊維は市販の抗ピルタイプのPET短繊維(平均直径:11.7μm、平均繊度:1.5decitex、平均繊維長:75mm)を使用し、分散染料を用いて常法により黒色に染色した。表1に原料繊維をまとめて示す。
【0024】
【表1】

<混紡紡績>
仏式梳毛紡績における、混毛インターセクティング ギル ボックス(intersecting gill box)を使用して、前記「スライバー混紡」により混紡した。混紡率はウール30質量%、通常繊度のポリエステル短繊維50質量%、細繊度のポリエステル短繊維20質量%とした。混紡した後のスライバーは粗糸とし、リング紡績法により紡績糸とした。この紡績糸の撚り方向はZ、撚り数は580回/m、メートル番手48番(繊度208.3decitex)、撚り係数(Kc_(1))は84であった。この紡績糸(単糸)を2本撚り合わせて双糸とした。この双糸の撚り方向はS、撚り数は690回/m、メートル番手2/48番(繊度416.7decitex)、撚り係数(Kc_(2))は141であった。得られた双糸の物性は表2にまとめて示す。
<織物製造>
前記双糸を経糸と緯糸にそれぞれ使用し、2/2綾組織で仕上げた。
<織物染色>
織物の染色は常法を使用した。前記織物をまず80℃の熱水温度で20分間精練し、室温の水で水洗した。その後、ポリエステル短繊維の染色液として、分散染料を水に分散させ、加圧槽を用いて、染色液の温度を105?115℃の範囲に上げ、40分間の染色処理をした。その後染色液を抜き出し、酸性還元処理し、アルカリ中和処理した。次にウールの染色液として、反応性染料を使用し、染色液の温度を98℃で40分間の染色処理をした。その後染色液を抜き出し、水洗し、中和処理した。染色後の織物の物性は表2にまとめて示す。
【0025】
(比較例1)
細繊度のポリエステル短繊維(P2)を使用せず、その分通常繊維のポリエステル短繊維(P1)とした以外は実施例1と同様に実験した。得られた織物の物性は表2にまとめて示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表2から明らかなとおり、実施例1の織物はピリング性及び摩耗変色は若干低いが実用的に合格であり、風合いは良好で耐洗濯性も良好であった。
【0028】
次に上記で得られた実施例1の織物を使用して上下の紳士用スーツを縫製し、着心地及び着用感を調べた。この結果、ウール100%品と変わらないかやや劣る程度の評価が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の混紡紡績糸を用いた織物は、家庭洗濯を含めたウォッシャブル性があり、強度、耐久性、寸法安定性などに優れ、学生服、ユニホーム、スーツ、作業着、スポーツ用衣類、シャツ、肌着などに好適である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
獣毛繊維とポリエステル繊維を含む混紡紡績糸であって、
前記ポリエステル繊維は繊度の異なる少なくとも2種類の短繊維であり、単繊維繊度が2?4decitexの通常繊度のポリエステル短繊維と、単繊維繊度が2decitex未満の細繊度のポリエステル短繊維を含み、
前記通常繊度のポリエステル短繊維は丸断面のレギュラータイプのポリエチレンテレフタレート短繊維であり、
前記通常繊度のポリエステル短繊維のほうが細繊度のポリエステル短繊維より混率が高く、かつ前記獣毛繊維(W)と通常繊度のポリエステル短繊維(P1)と細繊度のポリエステル短繊維(P2)の混率(質量%)は、混紡紡績糸を100質量%としたとき、W:P1:P2=10?70:20?80:10?30、但しP1>W≧P2であることを特徴とする混紡紡績糸。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記細繊度のポリエステル短繊維は、抗ピル性ポリエステル短繊維である請求項1に記載の混紡紡績糸。
【請求項4】
前記通常繊度及び細繊度のポリエステル短繊維の平均繊維長は、50mmを超え150mm以下である請求項1又は3に記載の混紡紡績糸。
【請求項5】
前記獣毛繊維は、ウール、カシミヤ、モヘヤ及びキャメルから選ばれる少なくとも一つである請求項1、3、4のいずれかに記載の混紡紡績糸。
【請求項6】
前記細繊度のポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート短繊維である請求項1、3?5のいずれかに記載の混紡紡績糸。
【請求項7】
請求項1、3?6のいずれかに記載の混紡紡績糸を含む織物。
【請求項8】
請求項7に記載の織物を含む衣料用繊維製品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-05-18 
出願番号 特願2017-13470(P2017-13470)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D02G)
P 1 651・ 537- YAA (D02G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 春日 淳一  
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 藤井 眞吾
井上 茂夫
登録日 2020-03-04 
登録番号 特許第6670772号(P6670772)
権利者 日本毛織株式会社
発明の名称 混紡紡績糸及びこれを用いた織物と衣料用繊維製品  
代理人 特許業務法人池内アンドパートナーズ  
代理人 特許業務法人池内アンドパートナーズ  

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