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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
管理番号 1376692
異議申立番号 異議2020-700457  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-06 
確定日 2021-05-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6627749号発明「ニトリル基含有共重合体ゴム、架橋性ゴム組成物およびゴム架橋物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6627749号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6627749号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6627749号(請求項の数7。以下、「本件特許」という。)は、平成27年3月25日(優先権主張:平成26年3月27日、日本国)を国際出願日とする特許出願(特願2016-510422号)に係るものであって、令和元年12月13日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年1月8日である。)。
その後、令和2年7月6日に、本件特許の請求項1?7に係る特許に対して、特許異議申立人である末吉直子(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

(1)特許異議申立て以降の経緯
令和2年 7月 6日 特許異議申立書
同年10月19日付け 取消理由通知書
同年12月21日 意見書・訂正請求書(特許権者)
令和3年 1月14日 通知書(申立人あて)
同年 2月19日 意見書(申立人)

(2)証拠方法
ア 申立人が特許異議申立書に添付して提出した証拠方法
申立人が特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。

・甲第1号証:特開2006-321881号公報
・甲第2号証:日本油脂株式会社化成事業部カタログ「パークミルH(PERCUMYL H?Cumene hydroperoxide?」,2003年8月24日作成

イ 令和2年10月19日付け取消理由通知書において引用した証拠方法
令和2年10月19日付け取消理由通知書においては、上記甲第1号証の他、以下の証拠方法を引用した。

・引用文献A:特開2004-2756号公報


第2 訂正の適否についての判断
令和2年11月11日にした訂正請求は、以下の訂正事項を含むものである。
(以下、訂正事項をまとめて「本件訂正」という。また、特許査定時の本件願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件特許明細書等」という。)

1 訂正の内容
(1)訂正事項1について
訂正前の請求項1に、
「・・・
重合開始後、重合転化率が10?80%となった段階で、分子量調整剤を追加添加する工程と、を備え、
重合転化率が10?80%となった段階における、前記分子量調整剤の追加添加を複数回に分けて行うことを特徴とするニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法。」
と記載されているのを
「・・・
重合開始後、重合転化率が10?80%となった段階で、分子量調整剤を追加添加する工程と、を備え、
重合開始時における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.1?1重量部とし、
重合開始後、重合転化率が10?80%となった段階における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.05?0.5重量部とし、
重合転化率が10?80%となった段階における、前記分子量調整剤の追加添加を複数回に分けて行うことを特徴とするニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法。」
に訂正する。

(2)一群の請求項
訂正事項1に係る訂正前の請求項1?7について、請求項2?7はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。

2 判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1における「分子量調整剤」の添加について、「重合開始時における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.1?1重量部とし、重合開始後、重合転化率が10?80%となった段階における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.05?0.5重量部とし」と特定するものである。
したがって、この訂正は、訂正前の請求項1の「α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体を含む単量体を、分子量調整剤の存在下で重合する工程」の「重合開始時」と、「重合開始後、重合転化率が10?80%となった段階で、分子量調整剤を追加添加する工程」の「重合転化率が10?80%となった段階」における「分子量調整剤」の添加量を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更
訂正前の請求項1における「分子量調整剤」の添加について、「重合開始時における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.1?1重量部とし、重合開始後、重合転化率が10?80%となった段階における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.05?0.5重量部とし」と特定する訂正は、本件特許明細書等の段落【0037】に「分子量調整剤を中途添加するタイミングとしては、乳化重合を開始した後、重合転化率が10?80%となった段階とすることが好ましく・・・」と、段落【0038】の「分子量調整剤の添加量は、重合開始時における添加量が、重合に用いる単量体100重量部に対して、・・・、さらに好ましくは0.1?1重量部であり、中途添加による添加量が、重合に用いる単量体100重量部に対して、・・・、さらに好ましくは0.05?0.5重量部である」と記載されていることから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
さらに、この訂正は、訂正前の請求項1における「分子量調整剤」の添加量について限定するものであり、新規事項の追加にも当たらないことから、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。


第3 特許請求の範囲の記載
上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第6627749号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?7の以下のとおりのものである(以下、請求項1?7に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」?「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件訂正後の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件訂正後の特許明細書等」という。本件の願書に添付した明細書については、訂正の対象ではなく、本件訂正により訂正されていないので、本件訂正の前後にかかわらず「本件明細書」という。)。

「【請求項1】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を10?60重量%の割合で含有し、重量平均慣性半径が30?80nmの範囲であり、重量平均絶対分子量が100,000?353,000であるニトリル基含有共重合体ゴムを製造する方法であって、
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体を含む単量体を、分子量調整剤の存在下で重合する工程と、
重合開始後、重合転化率が10?80%となった段階で、分子量調整剤を追加添加する工程と、を備え、
重合開始時における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.1?1重量部とし、
重合開始後、重合転化率が10?80%となった段階における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.05?0.5重量部とし、
重合転化率が10?80%となった段階における、前記分子量調整剤の追加添加を複数回に分けて行うことを特徴とするニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法。
【請求項2】
前記ニトリル基含有共重合体ゴムのヨウ素価が120以下である請求項1に記載のニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法。
【請求項3】
前記分子量調整剤の追加添加を、重合転化率が30?40%となった段階、および重合転化率が50?60%となった段階のそれぞれにおいて行う請求項1または2に記載のニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法。
【請求項4】
重合転化率が10?80%となった段階における、前記分子量調整剤の追加添加を2回に分けて行う請求項1?3のいずれかに記載のニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法。
【請求項5】
重合開始時における分子量調整剤の添加量と、中途添加による分子量調整剤の添加量との比率が、「重合開始時の分子量調整剤の添加量:中途添加による分子量調整剤の添加量」の重量比で、0.5:1?1:0.1である請求項1?4のいずれかに記載のニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の製造方法により、ニトリル基含有共重合体ゴムを製造する工程と、
前記ニトリル基含有共重合体ゴムに、架橋剤を配合する工程とを備える架橋性ゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項6の製造方法により、架橋性ゴム組成物を製造する工程と、
前記架橋性ゴム組成物を架橋する工程とを備えるゴム架橋物の製造方法。」


第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 取消理由通知の概要
当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。

(1)取消理由A(実施可能要件)
本件訂正前の特許は、発明の詳細な説明の記載が下記「第6 当審の判断」「1 取消理由について」「(1) 取消理由A(実施可能要件)について」「ア 申立理由A(実施可能要件)の概要」に記載した点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(2)取消理由B(新規性)
本件訂正前の特許の請求項1、3、6?7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである

(3)取消理由C(進歩性)
本件訂正前の特許の請求項1?7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書でした申立理由の概要は、以下に示すとおりである。

(1)申立理由1(実施可能要件)
本件訂正前の特許は、発明の詳細な説明の記載が下記「第6 当審の判断」「2 特許異議申立書における申立理由について」「(1)申立理由1(実施可能要件)について」「ア 申立理由1(実施可能要件)の概要」に記載した点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由2(新規性)
本件訂正前の特許の請求項1?4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである

(3)申立理由3(進歩性)
本件訂正前の特許の請求項1?4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。


第5 本件明細書及び各甲号証に記載された事項
1 本件明細書に記載された事項
本件明細書には、以下の事項が記載されている。

(本a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性に優れ、かつ、常態物性に優れたゴム架橋物を与えることができるニトリル基含有共重合体ゴム、ならびに、該ニトリル基含有共重合体ゴムを用いて得られる架橋性ゴム組成物およびゴム架橋物に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、加工性に優れ、かつ、常態物性(機械的特性)に優れたゴム架橋物を与えることができるニトリル基含有共重合体ゴム、ならびに、該ニトリル基含有共重合体ゴムを用いて得られる架橋性ゴム組成物およびゴム架橋物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を10?60重量%の割合で含有するニトリル基含有共重合体ゴムにおいて、重量平均慣性半径が、10?100nmの範囲となるように制御されたものによれば、流動性が高く、これにより加工性に優れ、しかも、ゴム架橋物とした場合における常態物性にも優れたものとなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加工性に優れ、かつ、常態物性(機械的特性)に優れたゴム架橋物を与えることができるニトリル基含有共重合体ゴム、ならびに、該ニトリル基含有共重合体ゴムを用いて得られる架橋性ゴム組成物およびゴム架橋物を提供することができる。」

(本b)「【0012】
ニトリル基含有共重合体ゴム
本発明のニトリル基含有共重合体ゴムは、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を10?60重量%の割合で含有し、かつ、重量平均慣性半径が10?100nmの範囲であることを特徴とするゴムである。
【0013】
本発明のニトリル基含有共重合体ゴム中に含有される、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成するα,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体は、特に限定されないが、炭素数3?18のものが好ましく、炭素数3?9のものが特に好ましい。その具体例としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル等が挙げられ、なかでもアクリロニトリルが好ましい。・・・
【0014】
本発明のニトリル基含有共重合体ゴム中における、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、10?60重量%であり、好ましくは20?50重量%、より好ましくは25?45重量%である。α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られる架橋物が耐油性に劣るものとなるおそれがあり、逆に多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0015】
また、本発明のニトリル基含有共重合体ゴムは、ゴム弾性による機械的特性の向上の観点から、ジエン単量体単位および/またはα-オレフィン単量体単位をさらに含有していることが好ましい。
【0016】
ジエン単量体単位を形成するジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、・・・等の炭素数が4以上の共役ジエン;・・・が挙げられる。これらの中では共役ジエンが好ましく、1,3-ブタジエンがより好ましい。・・・
・・・
【0018】
また、本発明のニトリル基含有共重合体ゴムは、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、ならびに、ジエン単量体単位および/またはα-オレフィン単量体単位に加えて、これらの単量体と共重合可能なその他の単量体の単位を含有するものであってもよい。このようなその他の単量体としては、非共役ジエン単量体、芳香族ビニル単量体、α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸およびそのエステル、α,β-エチレン性不飽和多価カルボン酸ならびにそのモノエステル、多価エステルおよび無水物、架橋性単量体、共重合性老化防止剤などが挙げられる。
・・・
【0020】
α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが好ましく挙げられる。・・・
・・・
【0024】
これらの共重合可能なその他の単量体は、複数種類を併用してもよい。本発明のニトリル基含有共重合体ゴム中における、その他の単量体の単位の含有量は、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。」

(本c)「【0025】
また、本発明のニトリル基含有共重合体ゴムは、重量平均慣性半径が10?100nmの範囲に制御されたものであり、好ましくは20?90nmの範囲、より好ましくは30?80nmの範囲に制御されたものである。本発明においては、重量平均慣性半径を上記範囲に制御することにより、ニトリル基含有共重合体ゴムを流動性が高く、加工性に優れたものとすることができ、しかも、該ゴムを架橋して得られるゴム架橋物を常態物性に優れたものとすることができるものである。重量平均慣性半径が小さすぎても、あるいは大きすぎても、流動性が低下し、加工性に劣るものとなるとともに、ゴム架橋物とした場合における常態物性にも劣るものとなってしまう。
【0026】
なお、重量平均慣性半径とは、分子鎖の重心からの広がりを示す指標であり、たとえば、本発明のニトリル基含有共重合体ゴムを可溶な溶媒(たとえば、クロロホルムやテトラヒドロフラン)に溶解することにより調製されたニトリル基含有共重合体ゴムの溶液について、GPC多角度光散乱法を用いて測定することができる。具体的には、ニトリル基含有共重合体ゴムを溶媒に溶解し、得られたニトリル基含有共重合体ゴムの溶液を、多角度光散乱検出器(Multi Angle Light Scattering:MALS)および示差屈折計が備えられたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて、重量平均絶対分子量、および重量平均慣性半径を測定する。この場合において、多角度光散乱検出器から得られる測定値と、示差屈折計で測定した濃度の値から、Zimmの式を用い、Debyeプロットを行えば良い。
なお、dn/dc値(屈折率の濃度増分:溶質の濃度変化に対して、その重合体溶液の屈折率がどの程度変化するかを表した値)も重量平均絶対分子量、および重量平均慣性半径を求める際に必要であるが、上記GPCでの測定とは別に、ゴム濃度の異なる複数のニトリル基含有共重合体ゴムの溶液(たとえば、4種類の濃度の溶液)を調製し、これらの溶液について、屈折率測定器を用いて、dn/dc値を測定しておけば良い。
【0027】
なお、本発明において、重量平均慣性半径を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、ニトリル基含有共重合体ゴムを構成する単量体を乳化重合法等により重合する際において、分子量調整剤の添加タイミングおよび添加量を調整する方法が挙げられる。
また、ニトリル基含有共重合体ゴムの共重合組成を調整する方法、重合反応を停止する時点の重合転化率を制御する方法、分子量調整剤の種類を変更する方法、複分解反応により制御する方法、RAFT重合による連鎖移動剤の種類を選択する方法および重合により得られたニトリル基含有共重合体ゴムに老化防止剤の存在下で高せん断力を付与して調整する方法(老化防止剤の種類や量、せん断条件等により調整)等が挙げられる。特に、ニトリル基含有共重合体ゴムを構成する単量体を乳化重合法等により重合する場合において、分子量調整剤の添加タイミングおよび添加量を調整する方法が好ましい。具体的には、分子量調整剤を、乳化重合開始時に加えて、乳化重合の途中にも添加するような態様とし、かつ、これらの添加量を所定の範囲とする方法が好ましい。
【0028】
また、本発明のニトリル基含有共重合体ゴムは、重量平均絶対分子量(Mw)が10,000?5,000,000であることが好ましく、より好ましくは50,000?3,000,000、さらに好ましくは100,000?1,500,000である。重量平均絶対分子量(Mw)を上記範囲とすることにより、本発明のニトリル基含有共重合体ゴムを、より流動性が高く、加工性がより向上されたものとすることができ、さらには、ゴム架橋物とした場合における常態物性もより高めることができる。なお、重量平均絶対分子量(Mw)は、上述したGPC多角度光散乱法を用いて測定することができる。」

(本d)「【0031】
本発明のニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法は、特に限定されないが、上述した単量体を共重合し、必要に応じて、得られる共重合体中の炭素-炭素二重結合を水素化することによって得られる。重合方法は、特に限定されず公知の乳化重合法や溶液重合法によればよいが、工業的生産性の観点から乳化重合法が好ましい。乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0032】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、・・・、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、・・・などが挙げられる。乳化剤の添加量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.1?10重量部、より好ましくは0.5?5重量部である。
【0033】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、・・・、クメンハイドロパーオキサイド、・・・等の有機過酸化物;・・・等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物が好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。重合開始剤の添加量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.01?2重量部である。」

(本e)「【0034】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、t-ドデシルメルカプタン、・・・等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、メルカプタン類が好ましく、t-ドデシルメルカプタンがより好ましい。
【0035】
なお、本発明のニトリル基含有共重合体ゴムを製造する際には、重合に用いる単量体、および、上述した乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の通常用いられる重合副資材は、通常、重合開始時に重合系に配合し、重合を行うものであるが、一方、これらの重合副資材のうち、分子量調整剤については、次のような態様で添加することが好ましい。すなわち、重合に用いる分子量調整剤のうち、一部を重合開始時に重合系に添加して乳化重合を開始した後、所定の重合転化率となった段階で、残部を添加するような態様とすることが好ましい。
【0036】
すなわち、たとえば、本発明のニトリル基含有共重合体ゴムを、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、ならびに、ジエン単量体単位および/またはα-オレフィン単量体単位を含有するものとする場合には、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体と、ジエン単量体および/またはα-オレフィン単量体とを含有する単量体混合物について、重合に使用する分子量調整剤のうち、一部を重合開始時に重合系に添加して乳化重合を開始し、次いで、後述する所定の重合転化率となった段階で、重合に使用する分子量調整剤のうち、残部を重合系に添加して乳化重合を継続するような態様とすることが好ましい。
【0037】
分子量調整剤を中途添加するタイミングとしては、乳化重合を開始した後、重合転化率が10?80%となった段階とすることが好ましく、20?65%となった段階とすることがより好ましい。なお、分子量調整剤を中途添加する際における、添加方法としては特に限定されず、中途添加する分子量調整剤を一括で添加する方法としてもよいし、あるいは、複数回に分けて添加する方法としてもよい。
【0038】
分子量調整剤の添加量は、重合開始時における添加量が、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.01?2重量部、より好ましくは0.05?1重量部、さらに好ましくは0.1?1重量部であり、中途添加による添加量が、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.01?1重量部、より好ましくは0.05?1重量部、さらに好ましくは0.05?0.5重量部である。このように、本発明のニトリル基含有共重合体ゴムを製造する際に、分子量調整剤の中途添加のタイミング、および、重合開始時の添加量と、中途添加による添加量とを調整することにより、重量平均絶対分子量における慣性半径を制御することができる。
【0039】
また、本発明のニトリル基含有共重合体ゴムを製造する際においては、上述したように、分子量調整剤を中途添加する際には、重合に用いる単量体のうち、少なくとも一部とともに中途添加するような態様としてもよい。すなわち、重合に用いる全単量体のうち、一部を重合開始時に仕込み、残部を分子量調整剤とともに中途添加するような態様としてもよい。この場合における、中途添加する単量体の割合は、中途添加する分子量調整剤の量などに応じて適宜決定すればよいが、重合に用いる全単量体に対し、好ましくは1?20重量%、より好ましくは5?15重量%である。また、重合に用いる単量体として複数種類の単量体を用いる場合には、複数種類の単量体のうち、全種類について、その一部を中途添加するような態様としてもよいし、あるいは、全種類のうち一部の種類について、その一部を中途添加するような態様としてもよい。
【0040】
なお、本発明のニトリル基含有共重合体ゴムを製造する際における、分子量調整剤の重合開始時の添加量と、中途添加による添加量との比率は、「重合開始時の添加量:中途添加による添加量」の重量比で、好ましくは0.5:1?1:0.1、より好ましくは1:1?1:0.1、特に好ましくは1:0.7?1:0.1である。また、重合に用いる分子量調整剤の合計量(すなわち、重合開始時の添加量と、中途添加による添加量との合計量)は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.02?3重量部、より好ましくは0.1?2重量部、さらに好ましくは0.15?1.5重量部である。
【0041】
乳化重合の媒体には、通常、水が使用される。水の量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは80?500重量部、より好ましくは80?300重量部である。」

(本f)「【0045】
架橋性ゴム組成物
本発明の架橋性ゴム組成物は、上述したニトリル基含有共重合体ゴムに、架橋剤を添加してなるニトリル基含有共重合体ゴムの組成物である。架橋剤としては、特に限定されず、硫黄系架橋剤、有機過酸化物系架橋剤が挙げられるが、ニトリル基含有共重合体ゴムが、カルボキシル基を有する単量体単位を有する場合には、ポリアミン架橋剤を用いることもできる。
【0046】
硫黄系架橋剤としては、・・・、コロイド硫黄、・・・などの硫黄供与性化合物;などが挙げられる。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
・・・
【0055】
ゴム架橋物
本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の架橋性ゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明のゴム架橋物は、本発明の架橋性ゴム組成物を用い、所望の形状に対応した成形機、たとえば、押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10?200℃、好ましくは25?120℃である。架橋温度は、通常、100?200℃、好ましくは130?190℃であり、架橋時間は、通常、1分?24時間、好ましくは2分?1時間である。」

(本g)「【実施例】
【0059】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験および評価は下記によった。
【0060】
ヨウ素価
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムのヨウ素価は、JIS K 6235に準じて測定した。
【0061】
重量平均絶対分子量(Mw)、重量平均慣性半径
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムの重量平均絶対分子量(Mw)、および重量平均慣性半径を、GPC多角度光散乱法を用いて測定した。具体的には、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムをクロロホルムに溶解し、得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴムのクロロホルム溶液を、メンブレンフィルター(孔径0.5μm)を通した後、多角度光散乱検出器(Multi Angle Light Scattering:MALS)および示差屈折計が備えられたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて、重量平均絶対分子量、および重量平均慣性半径を測定した。なお、測定は、以下の条件にしたがって行った。
装置:商品名「HLC-8220」(東ソー社製)
分離カラム:商品名「GMH-HR-H」、商品名「GMH-HR-H」および商品名「G3000H-HR」(いずれも、東ソー社製)を直列に接続。
カラム温度:40℃
溶離液:クロロホルム
測定器1:多角度光散乱検出器 商品名「Wyatt DAWN HELEOS-II」(Wyatt Technology社製)
測定器2:示差屈折「HLC-8220(東ソー社製)用のRIユニット」
【0062】
また、GPC多角度光散乱法による測定により、重量平均絶対分子量、および重量平均慣性半径を決定する際には、dn/dc値(屈折率の濃度増分)を求める必要があるが、本測定においては、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムのクロロホルム溶液として、濃度の異なる4種類の溶液を調製し、屈折率測定器 商品名「Wyatt Optilab rEX」(Wyatt Technology社製)を用いて、dn/dc値を測定した。
・・・
【0065】
製造例1(ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A1)の製造)
反応器内に、イオン交換水200部、脂肪酸カリウム石鹸(脂肪酸のカリウム塩)2.25部を添加して石鹸水溶液を調製した。そして、この石鹸水溶液に、アクリロニトリル19部、およびt-ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.35部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3-ブタジエン68部を仕込んだ。次いで、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、攪拌しながら1段目の重合反応を開始した。そして、仕込み単量体に対する重合転化率が40%に達した時点でアクリロニトリル7部、およびt-ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.07部を追加添加して2段目の重合反応を行った。その後、仕込み単量体に対する重合転化率が60%に達した時点でアクリロニトリル6部、およびt-ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.05部を追加添加して3段目の重合反応を行った。その後、仕込み単量体に対する重合転化率が90%に達した時点で濃度10%のハイドロキノン(重合停止剤)水溶液0.1部を加えて重合反応を停止した。重合反応を停止後、水温60℃のロータリーエバポレ-タを用いて残留単量体を除去して、ニトリル基含有共重合体ゴム(a1)のラテックス(固形分濃度約25重量%)を得た。
【0066】
次いで、上記にて得られた、ニトリル基含有共重合体ゴム(a1)のラテックスを、そのゴム分に対して3重量%となる量の硫酸アルミニウムの水溶液に加えて撹拌してラテックスを凝固し、水で洗浄しつつ濾別した後、60℃で12時間真空乾燥してニトリル基含有共重合体ゴム(a1)を得た。そして、得られたニトリル基含有共重合体ゴム(a1)を、濃度12%となるようにアセトンに溶解し、これをオートクレーブに入れ、パラジウム・シリカ触媒をニトリル基含有共重合体ゴム(a1)に対して500重量ppm加え、水素圧3MPa、温度50℃で水素添加反応を行なった。水素添加反応終了後、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なってニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A1)を得た。得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A1)の組成は、アクリロニトリル単位32.3重量%、1,3-ブタジエン単位(水素化された部分を含む)67.7重量%であり、ヨウ素価は5.8であった。また、上記方法にしたがって、重量平均絶対分子量(Mw)、重量平均慣性半径を測定した結果を表1に示す。
【0067】
製造例2(ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A2)の製造)
反応器内に、イオン交換水200部、脂肪酸カリウム石鹸(脂肪酸のカリウム塩)2.25部を添加して石鹸水溶液を調製した。そして、この石鹸水溶液に、アクリロニトリル55部、およびt-ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.55部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3-ブタジエン34部を仕込んだ。次いで、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、攪拌しながら1段目の重合反応を開始した。そして、仕込み単量体に対する重合転化率が40%に達した時点で1,3-ブタジエン6部、およびt-ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.07部を追加添加して2段目の重合反応を行った。その後、仕込み単量体に対する重合転化率が60%に達した時点で1,3-ブタジエン5部、およびt-ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.05部を追加添加して3段目の重合反応を行った。その後、仕込み単量体に対する重合転化率が90%に達した時点で濃度10%のハイドロキノン(重合停止剤)水溶液0.1部を加えて重合反応を停止した。重合反応を停止後、水温60℃のロータリーエバポレ-タを用いて残留単量体を除去して、ニトリル基含有共重合体ゴム(a2)のラテックス(固形分濃度約25重量%)を得た。
そして、製造例1と同様にして、水素添加反応を行うことにより、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A2)を得た。得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A2)の組成は、アクリロニトリル単位44.3重量%、1,3-ブタジエン単位(水素化された部分を含む)55.7重量%であり、ヨウ素価は6.4であった。また、上記方法にしたがって、重量平均絶対分子量(Mw)、重量平均慣性半径を測定した結果を表1に示す。
・・・
【0069】
製造例4(ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A4)の製造)
製造例3において、重合開始時に配合するt-ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)の配合量を0.75部から0.45部に変更した以外は製造例3と同様にして、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A4)を得た。得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A4)の組成は、アクリロニトリル単位36.4重量%、1,3-ブタジエン単位(水素化された部分を含む)63.6重量%であり、ヨウ素価は6.7であった。また、上記方法にしたがって、重量平均絶対分子量(Mw)、重量平均慣性半径を測定した結果を表1に示す。
・・・
【0071】
製造例6(ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A6)の製造)
反応器内に、イオン交換水200部、脂肪酸カリウム石鹸(脂肪酸のカリウム塩)2.25部を添加して石鹸水溶液を調製した。そして、この石鹸水溶液に、アクリロニトリル26部、およびt-ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.40部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3-ブタジエン63部を仕込んだ。次いで、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、攪拌しながら1段目の重合反応を開始した。そして、仕込み単量体に対する重合転化率が30%に達した時点でアクリロニトリル6部、およびt-ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.07部を追加添加して2段目の重合反応を行った。その後、仕込み単量体に対する重合転化率が50%に達した時点でアクリロニトリル5部、およびt-ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.05部を追加添加して3段目の重合反応を行った。その後、仕込み単量体に対する重合転化率が80%に達した時点で濃度10%のハイドロキノン(重合停止剤)水溶液0.1部を加えて重合反応を停止した。重合反応を停止後、水温60℃のロータリーエバポレ-タを用いて残留単量体を除去して、ニトリル基含有共重合体ゴム(a6)のラテックス(固形分濃度約25重量%)を得た。
そして、製造例1と同様にして、水素添加反応を行うことにより、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A6)を得た。得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A6)の組成は、アクリロニトリル単位36.3重量%、1,3-ブタジエン単位(水素化された部分を含む)63.7重量%であり、ヨウ素価は6.8であった。また、上記方法にしたがって、重量平均絶対分子量(Mw)、重量平均慣性半径を測定した結果を表1に示す。
【0072】
製造例7(ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A7)の製造)
製造例4において、水素添加反応を行う際に使用するパラジウム・シリカ触媒の使用量をゴムに対して500重量ppmから、200重量ppmに変更した以外は製造例4と同様にして、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A7)を得た。得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A7)の組成は、アクリロニトリル単位36.5重量%、1,3-ブタジエン単位(水素化された部分を含む)63.5重量%であり、ヨウ素価は29.5であった。また、上記方法にしたがって、重量平均絶対分子量(Mw)、重量平均慣性半径を測定した結果を表1に示す。
【0073】
製造例8(ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A8)の製造)
製造例4において、水素添加反応を行う際に使用するパラジウム・シリカ触媒の使用量をゴムに対して500重量ppmから、100重量ppmに変更した以外は製造例4と同様にして、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A8)を得た。得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A8)の組成は、アクリロニトリル単位36.7重量%、1,3-ブタジエン単位(水素化された部分を含む)63.3重量%であり、ヨウ素価は58.2であった。また、上記方法にしたがって、重量平均絶対分子量(Mw)、重量平均慣性半径を測定した結果を表1に示す。
・・・
【0078】
実施例1
バンバリーミキサを用いて、製造例1で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A1)100部、N774カーボンブラック(商品名「シーストS」、東海カーボン社製)50部、4,4’-ジ-(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ノクラックCD」、大内振興化学社製、老化防止剤)1.5部、トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル(商品名「アデカサイザーC-8」、ADEKA社製、可塑剤)5部を混練した。次いで、混合物をオープンロールに移して、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン40%品(商品名「Vul Cup 40KE」、GEO Specialty Chemicals Inc製、有機過酸化物架橋剤)8部を配合し、混練することで、架橋性ゴム組成物を得た。
【0079】
実施例2?9
製造例1で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A1)100部に代えて、製造例2?9で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A2)?(A9)100部を、それぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得た。
【0080】
比較例1?3
製造例1で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A1)100部に代えて、製造例10?12で得られたニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(B1)?(B3)100部を、それぞれ使用した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を得た。
【0081】
【表1】


【0082】
表1に示すように、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を10?60重量%の割合で含有し、重量平均慣性半径が10?100nmの範囲にあるニトリル基含有共重合体ゴムは、加工性に優れ(70秒後押出量が多く)、また、該ニトリル基含有共重合体ゴムを用いて得られるゴム架橋物は、常態物性(引張強度、100%引張応力、および伸び)に優れるものであった(実施例1?9)。
【0083】
一方、重量平均慣性半径が10nm未満であるニトリル基含有共重合体ゴム、および重量平均慣性半径が100nm超であるニトリル基含有共重合体ゴムは、加工性に劣り(70秒後押出量が少なく)、また、該ニトリル基含有共重合体ゴムを用いて得られるゴム架橋物は、常態物性(引張強度、100%引張応力、および伸び)に劣るものであった(比較例1?3)。」

2 各甲号証に記載された事項
(1)甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

(甲1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3-ブタジエン50?80重量%、アクリロニトリル15?50重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0?10重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体0?35重量%からなる単量体(単量体合計100重量部)を、環内に2重結合を1つ有する環状の炭化水素2?30重量部の存在下で乳化重合することを特徴とするディップ成形用共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項2】
環内に2重結合を1つ有する環状の炭化水素が、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4-メチルシクロヘキセン、1-メチルシクロヘキセンから選ばれた1種以上である請求項1記載のディップ成形用共重合体ラテックスの製造方法。」

(甲1b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ディップ成形用共重合体ラテックスの製造方法に関するものである。更に詳しくは、白色度、臭気、風合い、引張り強度に優れるディップ成形用共重合体ラテックスの製造方法に関するものである。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、白色度、臭気、風合い、引張り強度に優れるディップ成形用共重合体ラテックスの製造方法を提供することにある。
・・・
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法にて得られたディップ成形用ラテックスを使用することにより、白色度、臭気、風合い、引張り強度に優れるディップ成形物を得ることができ、医療、食品加工分野等において広く使用されるゴム手袋等を得ることができるものであり、極めて有用である。」

(甲1c)「【0007】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明における共重合体ラテックスの単量体組成は、1,3-ブタジエン50?80重量%、アクリロニトリル15?50重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0?10重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体0?35重量%により構成される。
【0008】
1,3-ブタジエンは全単量体中、50?80重量%の範囲で使用されることが必要である。1,3-ブタジエンが50重量%未満では乾燥後のラテックスポリマーがNBRゴムとしての性質を呈さず、好ましくない。1,3-ブタジエンが80重量%を越えると耐油性が低下する。好ましくは55?75重量%である。
【0009】
アクリロニトリルは全単量体中、15?50重量%の範囲で使用されることが必要である。アクリロニトリルが15重量%未満では耐油性が低下し、50重量%を越えると乾燥後ラテックスポリマーがNBRゴムとしての性質を呈さず、好ましくない。好ましくは25?45重量%である。
【0010】
本発明にて使用されるエチレン性不飽和カルボン酸系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマール酸、イタコン酸、マレイン酸などが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にメタクリル酸が好ましい。
エチレン性不飽和カルボン酸系単量体は全単量体中、0?10重量%の範囲で使用されることが必要である。エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が10重量%を越えると共重合体ラテックスの粘度が高くなりすぎ、全ての用途で取り扱い上の問題を発生する可能性が高い。
【0011】
これらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などの脂肪族共役ジエン化合物、例えば、メタクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどシアン化ビニル化合物、例えば、スチレン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジルなどの不飽和カルボン酸アルキルエステル化合物、例えば、アクリルアミド、メタクリロアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミドなどのエチレン系不飽和カルボン酸アミド化合物、例えば、酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類、例えば、メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ビニルピリジン、などのエチレン系不飽和アミン化合物などが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。」

(甲1d)「【0016】
本発明の共重合体ラテックスを乳化重合するに際しては、常用の乳化剤、重合開始剤、還元剤、連鎖移動剤、酸化還元触媒、電解質、重合促進剤、キレート剤等を使用することができる。
【0017】
本発明の共重合体ラテックスの製造に使用できる乳化剤としては・・・、アルキルベンゼンスルホン酸塩、・・・、脂肪族カルボン酸塩、・・・等のアニオン性界面活性剤あるいは・・・等のノニオン性界面活性剤が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用することができる。特に、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩が好ましい。
【0018】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、・・・、クメンハイドロパーオキサイド、・・・等の油溶性重合開始剤を適宜用いることができる。特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムの水溶性重合開始剤の使用が好ましい。
【0019】
本発明において好ましく用いられる還元剤の具体例としては、亜硫酸塩、・・・、また、・・・などのカルボン酸類、更には・・・などの還元糖類、更には・・・などのアミン類が挙げられる。
【0020】
本発明の共重合体ラテックスの製造に使用できる連鎖移動剤としては、・・・、t-ドデシルメルカプタン、・・・等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特に、n-オクチルメルカプタンやt-ドデシルメルカプタンが好ましい。これらの連鎖移動剤の量は特に限定されないが、通常、単量体100重量部に対して0?5重量部にて使用される。」

(甲1e)「【0023】
本発明における重合方法は、一段重合、二段重合、多段階重合、シード重合、パワーフィード重合法等何れを採用してもよいが、重合反応の制御の面から、一段重合以外の重合方法が好ましい。また、本発明の重合方法における各種成分の添加方法についても特に制限されるものではなく、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法の何れも採用することができる。」

(甲1f)「【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は特に断りのない限り重量基準によるものである。また実施例における諸物性の評価は次の方法に拠った。
・・・
【0036】
実施例6
共重合体ラテックス6の作製(本発明例)
耐圧性の重合反応機に、窒素雰囲気下で、重曹0.3部、表1の添加1に示す各単量体、t-ドデシルメルカプタン、シクロヘキセン、過硫酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、純水を加えて55℃に昇温した後に、表1の添加2に示す各単量体、t-ドデシルメルカプタン、シクロヘキセン、純水を5時間で連続添加した。引き続き表1の添加3に示す各単量体、t-ドデシルメルカプタン、シクロヘキセン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを5時間で連続添加した。その後、重合転化率が97%を越えるまで熟成を行った。苛性カリ水溶液でpHを8に調整し、重合停止剤として表1に示すジエチルヒドロキシルアミンを添加する。その後に、90℃にて水蒸気蒸留を15時間行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去した。さらに、苛性カリ水溶液でpHを約9に調整して、表1に示す粒子径、ゲル含有量の共重合体ラテックス6を得た。
・・・
【0043】
ディップ成形用ラテックス組成物の調製
上記実施例1?8、および比較例9?12で得られたディップ成形用共重合体ラテックス1?12に下記の配合剤を加え、ディップ成形用組成物を得た。
<ディップ成形用ラテックス組成物>
ディップ成形用ラテックス(固形分) 100.0部
酸化亜鉛 1.5部
コロイドイオウ 1.0部
ジ-nブチルジチオカルバミン酸亜鉛 0.5部
二酸化チタン 1.5部
(固形分濃度 33%)
【0044】
ディップ成形物の製造
別に凝固液として濃度15%の硝酸カルシウム水溶液を調製し、80℃で予備乾燥しておいた手袋用モールドを2秒間浸漬し、引き上げた後水平にして回転下に乾燥(80℃×2分)させた。引き続き、ディップ成形用組成物に手袋用モールドを2秒間浸漬し、引き上げた後、水平にして回転下で乾燥(80℃×2分)させた。次にその手袋用モールドを40℃の温水に3分間浸漬して、洗浄した後、120℃で20分間加熱処理して手袋用モールドの表面に固形皮膜物を得た。最後にこの固形皮膜物を手袋用モールドから剥がし、手袋形状のディップ成形物を得た。
・・・
【0045】
各共重合体ラテックスの粒子径、ゲル含有量、ディップ成形品の白色度、風合い、引張り強度、伸び、臭気の評価結果を表1および表2にまとめた。
【0046】
【表1】




(2)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

(甲2a)「特徴
パークミルH-80は、芳香族(クメン)ハイドロパーオキサイドであり、分解温度が高く、熱に対しては比較的安定です。一方、硫酸第一鉄のような還元剤と接触すると容易にレドックス反応を起こし、低い温度でもラジカルを発生することができます。・・・」(「特徴」の欄を参照)


第6 当審の判断
当審は、当審が通知した取消理由A?C及び申立人がした申立理由1?3によっては、いずれも、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 取消理由について
取消理由A(実施可能要件)について
ア 取消理由A(実施可能要件)の概要
取消理由Aの概要は、以下のとおりである。

本件訂正前の請求項1は、「ニトリル基含有共重合体ゴム」について、「重量平均慣性半径が30?80nmの範囲」であり、「重量平均絶対分子量が100,000?353,000」の範囲であることを発明特定事項とするものである。
本件明細書の段落【0025】?【0026】には、「重量平均慣性半径」の意義及びその範囲を特定することの意義について記載され、段落【0027】には、「なお、本発明において、重量平均慣性半径を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、ニトリル基含有共重合体ゴムを構成する単量体を乳化重合法等により重合する際において、分子量調整剤の添加タイミングおよび添加量を調整する方法が挙げられる。・・・特に、ニトリル基含有共重合体ゴムを構成する単量体を乳化重合法等により重合する場合において、分子量調整剤の添加タイミングおよび添加量を調整する方法が好ましい。具体的には、分子量調整剤を、乳化重合開始時に加えて、乳化重合の途中にも添加するような態様とし、かつ、これらの添加量を所定の範囲とする方法が好ましい。」と記載され、本件明細書の段落【0028】には、「重量平均絶対分子量」を特定の範囲にすることの意義や測定方法について記載されている。さらに、本件明細書の段落【0038】には、「分子量調整剤の添加量は、重合開始時における添加量が、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.01?2重量部、より好ましくは0.05?1重量部、さらに好ましくは0.1?1重量部であり、中途添加による添加量が、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.01?1重量部、より好ましくは0.05?1重量部、さらに好ましくは0.05?0.5重量部である。このように、本発明のニトリル基含有共重合体ゴムを製造する際に、分子量調整剤の中途添加のタイミング、および、重合開始時の添加量と、中途添加による添加量とを調整することにより、重量平均絶対分子量における慣性半径を制御することができる」と記載されている。
しかしながら、本件明細書の実施例1?9をみると、全ての実施例は、本件明細書の上記段落【0027】に記載の「分子量調整剤を、乳化重合開始時に加えて、乳化重合の途中にも添加するような態様」であり、段落【0038】記載の「分子量調整剤」の「添加量」についての「重合開始時における添加量」の範囲、「中途添加による添加量」の範囲を満たし、さらに、「重量平均慣性半径」が「30?80nmの範囲」になっているが、「重量平均絶対分子量」については、実施例2、4、6?8は「100,000?353,000」の範囲になっているものの、実施例1、3、5、9については当該範囲に入らないものとなっている。
また、平成31年1月21日付け意見書において示した製造例13及び比較例4は、本件明細書の段落【0027】に記載のとおり、分子量調整剤の添加を乳化重合の途中でも行うものであり、「重合開始時の分子量調整剤の添加量:中途添加による分子量調整剤の添加量」の重量比で、0.5:1?1:0.1」の範囲で行っているものの、「重量平均慣性半径」が「28nm」と、「30?80nmの範囲」外になっている。
そうすると、本件明細書に記載の一般的な製造方法に沿って行った具体例であっても本件発明1の「重量平均慣性半径」の範囲に含まれない場合があるから、本件明細書をみても、本件発明1の「ニトリル基含有共重合体ゴム」の「重量平均慣性半径が30?80nmの範囲」であり、かつ、「重量平均絶対分子量が100,000?353,000」の範囲とするための製造方法や製造条件が明らかではない。また、「ニトリル基含有共重合体ゴム」の「重量平均慣性半径が30?80nmの範囲」であり、かつ、「重量平均絶対分子量が100,000?353,000」の範囲とするための製造方法や製造条件は当業者にとって技術常識であるともいえなし、本件発明1に記載の製造方法であって、かつ、本件明細書の上記摘記の製造条件を満たす方法により製造した全ての「ニトリル基含有共重合体ゴム」について、「重量平均慣性半径」及び「重量平均絶対分子量」について計測し、計測値を確認することは当業者に過度な試行錯誤を要求するものであると認められる。
そうすると、本件明細書は、本件訂正前の請求項1について、当業者が実施できるように明確かつ十分に記載しているとは認められない。
また、訂正前の請求項1に記載された発明及び請求項1を引用する請求項2?7に記載された発明について、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

イ 判断
a 特許法第36条第4項第1号の考え方について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物を生産する方法の発明では、その方法を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その方法を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
以下、この観点に立って検討する。

b 判断
本件発明1の「ニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法」について、本件明細書の(本b)の段落【0013】?【0024】には、「ニトリル基含有共重合体ゴム」に含有される「α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体」、「ジエン単量体単位」、「α-オレフィン単量体単位」、「α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸」等の種類や含有量について具体的に記載され、(本c)の段落【0025】?【0026】、【0028】に「重量平均慣性半径」及び「重量平均絶対分子量(Mw)」の意義及びその範囲を特定することの意義等について記載されている。段落【0027】には、「重量平均慣性半径」を特定の範囲とする方法について、「特に限定されないが、ニトリル基含有共重合体ゴムを構成する単量体を乳化重合法等により重合する際において、分子量調整剤の添加タイミングおよび添加量を調整する方法が挙げられる」ことが記載されるほか、具体的な方法について例示が示されている。また、(本d)の段落【0031】?【0033】には、「ニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法」における「乳化剤」や「重合開始剤」の種類や添加量について具体的に記載されている。
そして、(本e)の段落【0034】?【0040】には、「分子量調整剤」の種類や添加量、「ニトリル基含有共重合体ゴムを製造する」際の具体的な添加方法について記載されており、本件訂正により、本件発明1は、段落【0037】及び【0038】に記載される添加方法のうち「さらに好まし」い態様に特定された。
本件明細書の(本g)の実施例においては、段落【0061】?【0062】に「重量平均絶対分子量(Mw)」及び「重量平均慣性半径」の具体的な測定方法が記載され、【0065】?【0074】には、製造例1?9として、「ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A1?9)」の具体的な製造方法及び製造条件が記載され、段落【0078】?【0079】には、「ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A1?9)」を用いた「架橋性ゴム組成物」の具体的な製造方法や製造条件が、段落【0081】の【表1】にはその評価結果が示されている。段落【0081】の【表1】をみると、実施例2、4、6?8(製造例2、4、6?8)の製造方法による製造条件で製造された「ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム」が、本件発明1の「重量平均慣性半径が30?80nm」及び「重量平均絶対分子量が100,000?353,000」の範囲を満たすことが確認することができ、「重量平均慣性半径が30?80nm」の範囲であるが「重量平均絶対分子量が100,000?353,000」の範囲外となっている実施例1、3、5、9(製造例1、3、5、9)と比べると、実施例2、4、6?8の「ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム」は重合開始時に用いた「分子量調整剤」である「t-ドデシルメルカプタン」の量が単量体100重量部に対して「0.40?0.55重量部」であり、「重量平均絶対分子量が100,000?353,000」の範囲外では実施例1、3、5、9では「0.40?0.55重量部」の範囲外であることが理解できる。
そうすると、本件明細書の(本g)の実施例の結果から、「アクリロニトリル」及び「1,3-ブタジエン」を単量体とし、「重量平均慣性半径が30?80nm」、「重量平均絶対分子量が100,000?353,000」の範囲を満たす「ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム」を得るためには、重合開始時に用いる「分子量調整剤」である「t-ドデシルメルカプタン」の量を単量体100重量部に対して「0.40?0.55重量部」とすれば製造できることは、当業者であれば理解できるといえる。
また、他の単量体や分子量調整剤を用いる場合であっても、当業者は、【0065】?【0074】の製造例1?9の製造方法や製造条件を参考に、本件発明1で特定される「重合開始時における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.1?1重量部」の範囲内で、「分子量調整剤」の量を単量体100重量部に対して「0.40?0.55重量部」を目安とすれば、多少の試行錯誤は要するものの、過度な試行錯誤を要することなく、「重量平均慣性半径が30?80nm」及び「重量平均絶対分子量が100,000?353,000」の範囲の「ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム」を得ることができるといえる。
以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1について、当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されているといえる。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?7についても同様である。

ウ 申立人の主張について
申立人は、令和3年2月19日に提出した意見書において、「本件発明1における「重合開始時における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.1?1重量部とし、」との規定は、実施例1,3,5,9において重量平均絶対分子量が本件発明1の範囲外となることが示されている0.75重量部及び0.20?0.30重量部を含むばかりか、更にその外側の数値範囲を含む広範なものであるから、本件発明1は、依然として所定の重量平均絶対分子量のニトリル基含有共重合体ゴムを製造できない、すなわち発明を実施できない範囲を含むことが明らかである」と主張している。

しかしながら、特許法第36条第4項第1号は、上記イaで述べたとおり「物を生産する方法の発明では、その方法を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その方法を使用」することができるかどうかの判断であり、上記イで検討したとおり、当業者であれば、本件明細書の発明の詳細な説明の各記載のほか、実施例2、4、6?8を参酌し、重合開始時の「分子量調整剤」の添加量について、本件発明1で特定される「重合開始時における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.1?1重量部」の範囲内で「0.40?0.55重量部」を目安とすれば、本件発明1の「重量平均慣性半径が30?80nm」及び「重量平均絶対分子量が100,000?353,000」の範囲の「ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム」を得ることができるといえる。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。

エ 小括
以上のとおり、取消理由Aは、理由がない。

(2)取消理由B(新規性)、取消理由C(進歩性)
ア 甲第1号証に記載された発明について
甲第1号証の上記摘記(甲1f)には、実施例6として、
「耐圧性の重合反応機に、窒素雰囲気下で、
重曹0.3部、表1の添加1に示す各単量体、t-ドデシルメルカプタン、シクロヘキセン、過硫酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、純水を加えて55℃に昇温した後に、
表1の添加2に示す各単量体、t-ドデシルメルカプタン、シクロヘキセン、純水を5時間で連続添加し、
引き続き表1の添加3に示す各単量体、t-ドデシルメルカプタン、シクロヘキセン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを5時間で連続添加し、
その後、重合転化率が97%を越えるまで熟成を行い、
苛性カリ水溶液でpHを8に調整し、重合停止剤として表1に示すジエチルヒドロキシルアミンを添加し、
その後に、90℃にて水蒸気蒸留を15時間行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、さらに、苛性カリ水溶液でpHを約9に調整した、
共重合体ラテックス6の製造方法」が記載され、

(甲1i)の【表1】には、「表1の添加1に示す各単量体」及び「t-ドデシルメルカプタン」について、「1,3-ブタジエン7部、アクリロニトリル3部、メタクリル酸0.5部、t-ドデシルメルカプタン0.05部」、
「表1の添加2に示す各単量体」について、
「1,3-ブタジエン35.5部、アクリロニトリル16部、メタクリル酸2部、t-ドデシルメルカプタン0.25部」、
「表1の添加3に示す各単量体」について
「1,3-ブタジエン24.5部、アクリロニトリル8.5部、メタクリル酸3部、t-ドデシルメルカプタン0.3部」
と記載されていることから、

甲第1号証には、
「耐圧性の重合反応機に、窒素雰囲気下で、
重曹0.3部、1,3-ブタジエン7部、アクリロニトリル3部、メタクリル酸0.5部、t-ドデシルメルカプタン0.05部、シクロヘキセン、過硫酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、純水を加えて55℃に昇温した後に、
1,3-ブタジエン35.5部、アクリロニトリル16部、メタクリル酸2部、t-ドデシルメルカプタン0.25部、シクロヘキセン、純水を5時間で連続添加し、
引き続き、1,3-ブタジエン24.5部、アクリロニトリル8.5部、メタクリル酸3部、t-ドデシルメルカプタン0.3部、シクロヘキセン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを5時間で連続添加し、
その後、重合転化率が97%を越えるまで熟成を行い、
苛性カリ水溶液でpHを8に調整し、重合停止剤として表1に示すジエチルヒドロキシルアミンを添加し、
その後に、90℃にて水蒸気蒸留を15時間行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、さらに、苛性カリ水溶液でpHを約9に調整した
共重合体ラテックス6の製造方法」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

甲1発明の「アクリロニトリル」は、上記摘記(甲1c)及び本件明細書の(本b)の段落【0013】の記載からみて、本件発明1の「α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体」であるといえる。

甲1発明の「1,3-ブタジエン」、「アクリロニトリル」、「メタクリル酸」の「各単量体」を重合させた重合体は、(甲1c)及び本件明細書の(本b)の段落【0012】?【0018】、【0020】、【0024】の記載からみて、本件発明1の「ニトリル基含有共重合体ゴム」に相当するといえる。

甲1発明の「1,3-ブタジエン」、「アクリロニトリル」、「メタクリル酸」の「各単量体」を重合させた重合体は、「アクリロニトリル」を

(3部+16部+8.5部)/((7部+3部+0.5部)+(35.5部+16部+2部)+(24.5部+8.5部+3部))=27.5部/100部 = 0.275(27.5%)

の「27.5%」含むものであるから、本件発明1の「α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を10?60重量%の割合で含有」する「ニトリル基含有共重合体ゴム」であるといえる。

甲1発明の「・・・共重合体ラテックス6の製造方法」について、「ラテックス」とは一般に水中にゴム等の重合体の微粒子が分散したものであり、「共重合体ラテックス6」は「ニトリル基含有共重合体ゴム」を含むことは明らかであるから、甲1発明1の「・・・共重合体ラテックス6の製造方法」は、本件発明1の「ニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法」であるといえる。

甲1発明の「t-ドデシルメルカプタン」は、(甲1d)の段落【0020】の記載からみて「連鎖移動剤」であるが、本件明細書の(本e)の段落【0034】の記載からみて、本件発明1の「分子量調整剤」であるともいえる。

甲1発明の「重曹0.3部、1,3-ブタジエン7部、アクリロニトリル3部、メタクリル酸0.5部、t-ドデシルメルカプタン0.05部、シクロヘキセン、過硫酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、純水を加えて55℃に昇温」した工程について、上記のとおり「1,3-ブタジエン」、「アクリロニトリル」、「メタクリル酸」は単量体であり、「t-ドデシルメルカプタン」は「分子量調整剤」であり、(甲1c)からみて、「過硫酸カリウム」は「重合開始剤」であり、「ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム」は「乳化剤」であり、「純水」は本件明細書の(本e)の段落【0041】の記載からみて「乳化重合の媒体」であり、本件明細書の(本g)の段落【0066】の製造例1の記載からみて、上記「単量体」は「重合開始剤」及び「分子量調整剤」の存在下で重合が開始されるといえるから、甲1発明の上記工程は、本件発明1の「α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体を含む単量体を、分子量調整剤の存在下で重合する工程」であるといえる。

甲1発明の「1,3-ブタジエン35.5部、アクリロニトリル16部、メタクリル酸2部、t-ドデシルメルカプタン0.25部、シクロヘキセン、純水を5時間で連続添加し、引き続き、1,3-ブタジエン24.5部、アクリロニトリル8.5部、メタクリル酸3部、t-ドデシルメルカプタン0.3部、シクロヘキセン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを5時間で連続添加」する工程は、「分子量調整剤」である「t-ドデシルメルカプタン」を少なくとも2回に分けて連続添加していることから、本件発明1の「重合開始後、分子量調整剤を追加添加する工程」であって「前記分子量調整剤の追加添加を複数回に分けて行う」工程であるといえる。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、

「α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を10?60重量%の割合で含有する、ニトリル基含有共重合体ゴムを製造する方法であって、
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体を含む単量体を、分子量調整剤の存在下で重合する工程、
重合開始後、分子量調整剤を追加添加する工程と、を備え、
前記分子量調整剤の追加添加を複数回に分けて行うことを特徴とするニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:「ニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法」の「分子量調整剤」の添加について、本件発明1では、「重合開始時における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.1?1重量部」とし「重合開始後、重合転化率が10?80%となった段階における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.05?0.5重量部」とするのに対し、甲1発明では、「t-ドデシルメルカプタン」を追加添加する際の「重合転化率」が明らかでなく、重合開始時に重合に用いる単量体100重量部に対して「0.05部」、追加添加時に「0.25部」及び「0.3部」添加する点。

相違点2:製造する「ニトリル基含有共重合体ゴム」について、本件発明では、「重量平均慣性半径が30?80nmの範囲であり、重量平均絶対分子量が100,000?353,000」であるのに対し、甲1発明の「ニトリル基含有共重合体ゴム」の「重量平均慣性半径」及び「重量平均絶対分子量」は明らかでない点。

(イ)判断
上記相違点1について検討する。

「重合開始時における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量」について、本件発明1では、「0.1?1重量部」であるのに対し、甲1発明では、「0.05部」であるから。本件発明1と甲1発明は、この点で異なり、相違点1は実質的な相違点である。

また、甲第1号証には、「分子量調整剤」である「連鎖移動剤」の添加について、(甲1d)の段落【0020】に「これらの連鎖移動剤の量は特に限定されないが、通常、単量体100重量部に対して0?5重量部にて使用される」と記載され、(甲1e)の段落【0023】に、「本発明の重合方法における各種成分の添加方法についても特に制限されるものではなく、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法の何れも採用することができる」と記載されるのみであり、これらの記載から、甲1発明において、本件発明1の「重合開始時における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.1?1重量部とし、重合開始後、重合転化率が10?80%となった段階における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.005?0.5重量部」とすることまでも、動機づけることはできない。

(ウ)小括
したがって、相違点1の他の点、及び、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

ウ 本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2?7は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり、取消理由B(新規性)、取消理由C(進歩性)は、本件訂正により解消されため、理由がない。

2 特許異議申立書における申立理由について
(1)申立理由1(実施可能要件)について
ア 申立理由1(実施可能要件)の概要
申立理由1の概要は、以下のとおりである。

(ア)本件訂正前の請求項1の「重量平均慣性半径」は、ゴムの物性を特定するものとして一般的なものではなく、「重量平均慣性半径が30?80nmであり、重量平均絶対分子量が100,000?353,000であるニトリル基含有共重合体ゴム」はそれ自体当業者の技術常識ではない。ここで、実施例1、3、5及び9では、本件訂正前の請求項1における製造条件の要件ば満たしているものの、上記「重量平均慣性半径」及び「重量平均絶対分子量」を満たす「ニトリル基含有共重合体ゴム」は調製できていない。これらの実施例と実施例2,4及び6?8とを対比すると、添加される分子量調整剤の合計量が重合に用いる単量体100重量部に対して0.52?0.67重量部であるのが、上記「重量平均慣性半径」及び「重量平均絶対分子量」を満たす「ニトリル基含有共重合体ゴム」を得るために必要な要件であると理解される。
(イ)また、本件特許の実施例では、重合開始剤としてクメンハイドロパーオキサイドが用いられているが、この重合開始剤は、甲第2号証に示されているとおり、「分解温度が高く、熱に対しては比較的安定」であり、「硫酸第一鉄のような還元剤と接触すると容易にレドックス反応を起こし、低い温度でもラジカルを発生する」ことができるものである。クメンハイドロパーオキサイドを重合開始剤として用いる際には通常還元剤と組み合わせて用いることが当業者の技術常識であり、少なくとも本件特許の実施例に記載の条件では反応が進行しない。用いられる還元剤及びその量も重 量平均慣性半径及び重量平均絶対分子量に影響を与えるものと解されるところ、本件特許の実施例にはこれらの情報について一切言及がない。
(ウ)さらに、上記「重量平均慣性半径」及び「重量平均絶対分子量」を満たす「ニトリル基含有共重合体ゴム」自体当業者の技術常識でないところ、「添加される分子量調整剤の合計量が重合に用いる 単量体100重量部に対して0.52?0.67重量部でない場合にもこれを製造する具体的な方法・条件も当業者の技術常識ではない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載及び当業者の技術常識に基づいて、上記「重量平均慣性半径」及び「重量平均絶対分子量」を満たす「ニトリル基含有共重合体ゴム」の製造方法の使用等をすることができないし、使用等しようとすれば、当業者の技術常識でない物の製造条件の具体的な設定に過度の実験・試行錯誤を要することになる。

したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正前の請求項1に記載された発明の実施(使用等)をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない
また、訂正前の請求項1に記載された発明及び請求項1を引用する請求項2?4に記載された発明についても、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

イ 判断
申立理由1の上記ア(ア)及び(ウ)は、取消理由Aと概略同旨であり、上記1(1)で検討したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているから、理由がない。
また、申立理由1の上記(イ)について、本件明細書の(本d)には「重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、・・・、クメンハイドロパーオキサイド、・・・等の有機過酸化物;・・・等のアゾ化合物;等を挙げることができる。・・・重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる」ことも記載されており、「過酸化物」である「クメンハイドロパーオキサイド」を用いる場合に還元剤を組み合わせることも一般的に行われていることであるから、また、組み合わせの条件等については当業者であれば適宜に設定し得ることといえる。
したがって、上記(イ)の理由も採用することができない。

ウ 小括
以上のとおり、申立理由1は、理由がない。

(2)申立理由2(新規性)、申立理由3(進歩性)について
申立理由2(新規性)及び申立理由3(進歩性)は、取消理由B(新規性)及び取消理由C(進歩性)と概略同旨であり、上記1(2)で検討したとおり、本件訂正により解消されため、理由がない。

(4)異議申立理由についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立人がした申立理由1?3によっても、本件発明1?7を取り消すことはできない。


第7 むすび
特許第6627749号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?7]について訂正することを認める。
当審が通知した取消理由および申立人がした申立理由によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を10?60重量%の割合で含有し、重量平均慣性半径が30?80nmの範囲であり、重量平均絶対分子量が100,000?353,000であるニトリル基含有共重合体ゴムを製造する方法であって、
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体を含む単量体を、分子量調整剤の存在下で重合する工程と、
重合開始後、重合転化率が10?80%となった段階で、分子量調整剤を追加添加する工程と、を備え、
重合開始時における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.1?1重量部とし、
重合開始後、重合転化率が10?80%となった段階における、重合に用いる単量体100重量部に対する分子量調整剤の添加量を0.05?0.5重量部とし、
重合転化率が10?80%となった段階における、前記分子量調整剤の追加添加を複数回に分けて行うことを特徴とするニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法。
【請求項2】
前記ニトリル基含有共重合体ゴムのヨウ素価が120以下である請求項1に記載のニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法。
【請求項3】
前記分子量調整剤の追加添加を、重合転化率が30?40%となった段階、および重合転化率が50?60%となった段階のそれぞれにおいて行う請求項1または2に記載のニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法。
【請求項4】
重合転化率が10?80%となった段階における、前記分子量調整剤の追加添加を2回に分けて行う請求項1?3のいずれかに記載のニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法。
【請求項5】
重合開始時における分子量調整剤の添加量と、中途添加による分子量調整剤の添加量との比率が、「重合開始時の分子量調整剤の添加量:中途添加による分子量調整剤の添加量」の重量比で、0.5:1?1:0.1である請求項1?4のいずれかに記載のニトリル基含有共重合体ゴムの製造方法。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の製造方法により、ニトリル基含有共重合体ゴムを製造する工程と、
前記ニトリル基含有共重合体ゴムに、架橋剤を配合する工程とを備える架橋性ゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項6の製造方法により、架橋性ゴム組成物を製造する工程と、
前記架橋性ゴム組成物を架橋する工程とを備えるゴム架橋物の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-05-10 
出願番号 特願2016-510422(P2016-510422)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08F)
P 1 651・ 536- YAA (C08F)
P 1 651・ 121- YAA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 橋本 栄和
杉江 渉
登録日 2019-12-13 
登録番号 特許第6627749号(P6627749)
権利者 日本ゼオン株式会社
発明の名称 ニトリル基含有共重合体ゴム、架橋性ゴム組成物およびゴム架橋物  
代理人 とこしえ特許業務法人  
代理人 とこしえ特許業務法人  
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