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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C21C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C21C
審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  C21C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C21C
管理番号 1376701
異議申立番号 異議2020-700488  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-14 
確定日 2021-06-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6640461号発明「マルチホールプラグ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6640461号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第6640461号の請求項1?3、5に係る特許を維持する。 特許第6640461号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6640461号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願(特願2015-69248号。以下、「本願」という。)は、平成27年 3月30日の出願であって、令和 2年 1月 7日にその特許権の設定登録がされ、同年 2月 5日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?5に係る特許(全請求項)について、令和 2年 7月14日に特許異議申立人 小川 鐡夫(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
特許異議申立て後の手続きの経緯は、次のとおりである。

令和 2年10月 1日付け :取消理由通知
同年11月24日受付(書留番号072/503)
:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 3年 1月 8日付け :訂正拒絶理由通知
同年 2月12日受付(書留番号309/210)
:特許権者による意見書及び手続補正書の提出
同年 4月14日 :申立人による意見書の提出

第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容について
令和 2年11月24日受付の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、令和 3年 2月12日受付の手続補正書によりその訂正事項5を削除する補正が上記訂正請求書の要旨を変更するものではないことを考慮すると、特許第6640461号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。

(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に複数本のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、」と記載されているのを、「耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に37本以上のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、」に訂正する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に「プラグ本体は、黒鉛含有量が15質量%以下(0を含む)の耐火物からなる請求項1から請求項4のいずれかに記載のマルチホールプラグ。」と記載されているのを、「プラグ本体は、黒鉛含有量が15質量%以下(0を含む)の耐火物からなる請求項1から請求項3のいずれかに記載のマルチホールプラグ。」に訂正する。

(4)訂正事項4
本件訂正前の明細書の段落【0010】に「すなわち本発明のマルチホールプラグは、耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に複数本のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、」と記載されているのを、「すなわち本発明のマルチホールプラグは、耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に37本以上のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、」に訂正する。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に複数本のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、」と記載されているのを、「耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に37本以上のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、」と記載することにより、耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に埋設された、ステンレスからなるガス吹込管の本数を「複数本」から、より具体的な「37本以上」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
上記(ア)のとおり、訂正事項1に係る訂正は、ガス吹込管の本数を「複数本」から「37本以上」に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
また、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の【請求項4】には、「ガス吹込管の本数が37本以上である請求項1から請求項3のいずれかに記載のマルチホールプラグ」と記載され、段落【0022】には、「ガス吹込管の本数に特に制限はないが、37本以上であればより損傷抑制効果が高い。」と記載されていることから、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものとはいえない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3に係る訂正は、本件訂正前の請求項5が請求項1?4のいずれかの記載を引用する記載であるところ、訂正後の請求項4の削除(訂正事項2)に伴って、削除された請求項を引用しないようにする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
訂正事項3に係る訂正は、削除された請求項を引用しないようにするための訂正にすぎないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

エ 訂正事項4について
(ア)訂正の目的について
訂正事項4に係る訂正は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、新規事項追加の有無について
訂正事項4に係る訂正は、特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正にすぎないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内での訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)一群の請求項及び明細書の訂正に関係する請求項について
ア 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?5について、訂正前の請求項2?5はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1?5は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1?5〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。

イ 明細書の訂正と関係する請求項について
訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項1?5に対応する明細書の記載を訂正するものであり、訂正前の請求項2?5は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しているから、訂正事項4に係る訂正と関係する請求項は、訂正前の請求項1?5である。
そうすると、本件訂正請求は、訂正事項4と関係する請求項の全てを請求の対象としているものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

(3)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1ないし訂正事項4について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第4項から第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求によって訂正された請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に37本以上のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、
ガス吹込面となる上端面内において、ガス吹込管の中心位置どうしを結ぶ線分で囲まれる最大の領域をガス吹込管存在領域とし、このガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度(本/mm^(2))の逆数(mm^(2)/本)が100以下であり、当該ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値が10mm以上45mm以下であるマルチホールプラグ。
【請求項2】
ガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度(本/mm^(2))の逆数(mm^(2)/本)が50以下である請求項1に記載のマルチホールプラグ。
【請求項3】
ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値が10mm以上30mm以下である請求項1又は請求項2に記載のマルチホールプラグ。
【請求項4】 (削除)
【請求項5】
プラグ本体は、黒鉛含有量が15質量%(0を含む)の耐火物からなる請求項1から請求項3のいずれかに記載のマルチホールプラグ。」

第4 申立理由及び令和 2年10月 1日付け取消理由通知において通知した取消理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証及び甲第2号証を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1?5に係る特許は取り消されるべきものであると主張している(なお、本件訂正請求に係る訂正前の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明を「本件特許発明1」?「本件特許発明5」といい、総称して、「本件特許発明」ということがある。)。
そして、当審は、申立人が主張する申立ての理由のうち、下記申立理由2、及び申立理由3-2を採用して、令和 2年10月 1日付け取消理由通知において、以下の取消理由1、2として通知した。

1 申立理由1(進歩性:取消理由として不採用)
本件特許発明1?4は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、また、本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 申立理由2、取消理由1(サポート要件)
本件特許発明1?3、5は、マルチホールプラグの技術分野において通常設けられるガス吹込管の本数より著しく少ない態様(例えば、ガス吹き込み管が3本の想定例1、2)を技術的範囲に含むものであるが、このような態様は、本件特許発明が解決しようとする損傷を抑制するという課題を解決できないものである。
したがって、本件特許発明1?3、5の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件請求項1?3、5の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないものであるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

3 申立理由3(実施可能要件:取消理由として一部採用)
(1)申立理由3-1(取消理由として不採用)
発明の詳細な説明に記載された実施例4は、本件特許発明1?5の技術的範囲に属さないものであり、このことから、本件特許の発明の詳細な説明には、ガス吹込管の本数密度の逆数を100以下と限定することと、そのことによって奏される有利な効果との関係が十分に示されているとはいえない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載、及び出願時の技術常識を参照しても、本件特許発明1?5をどのように実施するかを理解できないし、これを明らかにしようとしたときに、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要があるといえる。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1?5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)申立理由3-2、取消理由2
発明の詳細な説明に記載された実施例15は、マルチホールプラグの上端面の中央部分の直径1mmの領域に37本のガス吹込管を6.5mmの中心間距離を置いて設けるものであるが、このような構造を実現することは不可能である。
そして、本件特許発明1?5は、上記実施例15を一態様として含むものであるところ、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が(実施例15を一態様として含む)本件特許発明1?5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3-3(取消理由として不採用)
本件特許発明1?5は、ガス吹込管存在領域におけるガス吹き込み管の本数密度の逆数(mm^(2)/本)を所定数以下と特定し、ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値を所定の範囲に特定するものであるが、ガス吹込管の本数は特定されておらず、当該本数を無限に増加させた態様も含むものである。
しかしながら、ガス吹き込み管の本数を無限に増加させることは、発明の詳細な説明の記載、及び出願時の技術常識を参照しても実施可能ではない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1?5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:韓国登録実用新案第20-0461650号公報
甲第2号証:特開2010-1186号公報

第5 当審の判断
1 取消理由1(サポート要件)について
(1)本願の願書に添付され、本件訂正請求により訂正された明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)の【0008】の「本発明が解決しようとする課題は、マルチホールプラグにおいて、使用中の温度勾配を縮小し、温度勾配に起因する損傷を抑制することにある。」との記載からすると、本件発明が解決しようする課題は、マルチホールプラグにおいて、使用中の温度勾配を縮小し、温度勾配に起因する損傷を抑制することにあるといえる。

(2)そして、本件訂正明細書の【0009】、【0013】、【0014】、及び【表1】には、上記(1)の課題を解決するための手段に関し、以下の記載がある(なお、「・・・」は記載の省略を表す。)。

「【0009】
本発明者らは、プラグ本体のガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度を高め、更にガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管非存在領域を小さくすることで、マルチホールプラグの使用中の温度勾配が小さくなり、しかも耐火物からなるプラグ本体全体が低温に保たれて高い機械的強度を維持でき、その結果、マルチホールプラグの損傷が大幅に抑制されて寿命が大幅に向上することを知見した。」

「【0013】
本発明では、ガス吹込管存在領域5におけるガス吹込管3の本数密度を表す指標として、その本数密度(本/mm^(2))の逆数S(mm^(2)/本)を用いた。すなわち、本数密度の逆数の数値が小さいほど、本数密度が高いということであり、本発明では、この逆数S(mm^(2)/本)が100以下であることを要件とした。この逆数S(mm^(2)/本)が100以下であることにより、ガス吹込管存在領域5におけるガス吹込管3の本数密度が十分に高くなり、ガス吹込管3によるガス吹込管存在領域5の冷却効果が均一に発揮される。その結果、ガス吹込管存在領域5内の温度差(温度勾配)が小さくなって熱応力が小さくなるので、温度差(温度勾配)に起因するマルチホールプラグ1(プラグ本体2)の損傷を抑制することができる。更に、ガス吹込管存在領域5が十分に冷却されることで、ガス吹込管存在領域5(プラグ本体2)を構成する耐火物がかなりの低温(例えば300℃以下)になるので、その耐火物の機械的強度が高い状態で維持され、溶融金属流による摩耗に対する抵抗性も高くなる。・・・」

「【0014】
一方、ガス吹込管存在領域5の外側のガス吹込管非存在領域6は、使用中には、ガス吹込管存在領域5近くは低温となり、羽口周囲耐火物と接する外縁部は高温となるので、温度差(温度勾配)が発生する。このガス吹込管非存在領域6内の温度差(温度勾配)は、ガス吹込管非存在領域6の内縁部と外縁部との距離が大きいほど大きくなり、それに伴い熱応力も大きくなる。したがって、ガス吹込管非存在領域6内の温度差(温度勾配)を小さくして熱応力を低減するには、ガス吹込管非存在領域6の内縁部と外縁部との距離を小さくすることが有効である。ただし、マルチホールプラグ1の構造体としての強度を維持するためには、ある程度のガス吹込管非存在領域6が必要である。」

「【表1】



(3)ここで、本件発明1?3、5においては、マルチホールプラグに埋設された「ガス吹込管」が「37本以上」であることが特定されていることから、令和 2年10月 1日付け取消理由通知に記載した下記の想定例1、2のように、上記ガス吹込管が一辺26mmの正三角形の各頂点に配置された3本からなるものであって、ガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離(の平均値)が10mm以上45mm以下である態様は、その技術的範囲に含まれないものといえる。

<想定例1>(L=10mm)

<想定例2>(L=45mm)


(4)そうすると、上記(2)のとおりの【0013】、【0014】に記載された機序を踏まえれば、本件発明1?3、5に上記(1)の課題を解決し得ない態様が含まれるとの合理的疑いが生じるような具体的根拠を見いだすことはできない。

(5)したがって、本件発明1?3、5は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるとはいえない。

(6)よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3、5の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものといえるから、同請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

2 取消理由2(実施可能要件)について
(1)本件訂正明細書の【表1】には、「実施例15」として、「ガス吹込管存在領域の面積 A(mm^(2))」が「988」、「ガス吹込管の本数 N(本)」が「37」、「ガス吹込管の本数密度の逆数(mm^(2)/本)」が「27」、「上端面における、最短距離の平均値L(mm)」が「30」、「上端面の直径(mm)」が「61」、及び「隣接するガス吹き込み管どうしの中心位置間の距離(mm)」が「6.5」である例が記載されている。

(2)ここで、「実施例15」として記載された上記の構造が実現可能なものであるかについて、以下検討する。

ア 「実施例15」においては、上端面の直径が61mmであって、上端面における最短距離の平均値Lが30mmであるから、これらの数値からすると、ガス吹込管は平均してプラグ本体の外縁から30mm離間した位置、すなわち、上端面の中央部分の直径1mm(=61mm-30mm×2)の領域に集中的に設けられていることになる。

イ しかしながら、上記アの「直径1mmの領域」の面積は、「ガス吹込管存在領域の面積 A」として【表1】に記載される「988」mm^(2)とは整合しない。

ウ また、上記アの「直径1mmの領域」に、「ガス吹込管の本数 N」として【表1】に記載される「37」本を配置するとともに、これらの間隔を「隣接するガス吹き込み管どうしの中心位置間の距離」として【表1】に記載される「6.5」mmにすることは、実現不可能である。

エ したがって、「実施例15」として記載された上記の構造は、実現不可能なものであるといえる。

(3)一方、上記(1)のとおりの、本件訂正明細書の【表1】の記載からすると、上記「実施例15」は、本件発明1?3、5の特定事項を形式上は全て備えたものである。

(4)この点につき、特許権者は、令和 3年 2月12日受付の意見書において、「すなわち、訂正拒絶理由でも指摘されているように、『実施例15』に係る数値をすべて満足する構造は、実現不可能なものであるといえますから、『実施例15』に係る数値には、何らかの誤記が存在することは当業者であれば容易に理解できます。」と説明しており、「実施例15」として記載された上記の構造が実現不可能なものであることを自認している。

(5)ここで、明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づいて、その物を生産でき、かつ、使用できるように具体的に記載されていることが必要であると解されるところ、請求項に係る物の発明の特定事項を形式上は全て充足する態様であるものの、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識を考慮してもその態様に係る物を生産することができず、実現不可能なものであることが客観的に明らかな態様については、その実施ができないのは当然のことであって、そのことをもって実施可能要件に適合しないとまでいうことはできないと解するのが相当である。

(6)まず、本件発明1?3、5に係る「マルチホールプラグ」(物の発明)について、発明の詳細な説明の【表1】の上記実施例15以外の実施例に関する記載等を参照すれば、その物を作ることができるといえる。

(7)また、上記(3)のとおり、上記実施例15は、形式上は、物の発明である本件発明1?3、5の特定事項を全て充足するものではあるが、上記(2)エのとおり、そのような態様が実現不可能なものであることは客観的に明らかであるし、しかも、上記(4)のとおり、特許権者もそのような態様が実現不可能なものであることを自認している。

(8)したがって、本件発明1?3、5が実現不可能な態様である「実施例15」を包含しているからといって、そのことをもって実施可能要件に適合しないとまでいうことはできない。

(9)よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、この点で、当業者が本件発明1?3、5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

3 取消理由としなかった異議申立理由について
(1)申立理由1(進歩性)について
ア 甲各号証の記載事項、及び甲第1号証に記載された発明
(ア)甲第1号証の記載事項
本願の出願前に外国において頒布された刊行物である甲第1号証には、「ガス吹き込みプラグ」(発明の名称)に関し、次の記載がある。

a 「


(当審訳:
[0005]
上記の課題を解決するため、本考案は、プラグ本体の周縁部の損傷が少ないガス吹き込みプラグを提供する。)

b 「


(当審訳:
[0009]
本考案者らは、最外縁の貫通孔からプラグ本体の上面縁部までの距離dが約100mm以下であれば、プラグ本体の周縁部の損傷が抑制されることを実験的に見出した。
[0010]
本考案の請求項1に記載されたガス吹き込みプラグにおいて、ピッチがPであり、当該ピッチPがP0={(L/2)-100}/n以上であり、dが100mm以下であれば、プラグ本体の周縁部の損傷が好適に抑制される。
[0011]
貫通孔が等間隔のピッチで配置された同心六角形が6つ以上存在するので、プラグ本体の周縁部近傍まで貫通孔が分布しており、周縁部も冷却されるので、損傷が抑制される。)

c 「


(当審訳:
[0014]
(第1実施形態)
[0015]
本実施形態によるガス吹き込みプラグの構成を、図面1及び図面2を参照して説明する。本実施形態のガス吹き込みプラグは、ガス吹き込み方向(矢印A1方向)と交差する上面2aを有するプラグ本体2と、プラグ本体2に規則的に埋設された貫通孔1aを有するパイプ1とを含む。
[0016]
パイプ1は、プラグ本体2の上面2aの中心Oを中心にするn≧6の同心正六角形3上にピッチPに隔離されて配置されている。そして、最も内側の六角形の一辺の長さはピッチPに等価に対応する。)

d 「


(当審訳:
[0022]
本考案者らは、最外縁の貫通孔1a(最外縁の六角形3nの右側の角A)からプラグ本体2の上面2aの縁部までの距離dが約100mm以下であると、プラグ本体2の周縁部の損傷が抑制されることを実験的に見出した。
[0023]
したがって、d≦100mm (式(2))である。)

e 「


(当審訳:
[0027]
パイプ1は金属製であり、本実施形態では、ステンレス鋼製のパイプである。しかし、ステンレス鋼以外の他の金属製パイプを使用しうる。貫通孔1aの直径は2mmである。)

f 「


(当審訳:
[0029]
プラグ本体2は、公知のセラミックス粉末をプレスした規格レンガである。
[0030]
上述のように、本実施形態に係るガス吹き込みプラグにおいて、L=272mm、n=6、およびP=8mmであり、式(1)によればd=90mmである。すなわち、最外縁の貫通孔(最外縁の六角形3nの右側の角A)からプラグ本体2の上面2aの縁部までの距離dは、約100mm以下であり、プラグ本体2の周縁部の損耗は抑制される。)

g 「


(当審訳:
[0032]
(第2実施形態)
[0033]
本実施形態のガス吹き込みプラグは、貫通孔1aが離隔されるピッチがP=12mmであることを除き第1実施形態と等しい。すなわち、プラグ本体2の上面2aのサイズL=272mmで、正六角形3の個数n=6で、ピッチPが第1実施形態より大きくて、当然P0(=6mm)よりさらに大きい。
[0034]
したがって、式(1)によれば、最外縁の貫通孔(最外縁の六角形3nの右側の角A)からプラグ本体2の上面2aの縁部までの距離d=66mmである。
[0035]
本実施形態に係るガス吹込管はd=66mmであり、第1実施形態に係るガス吹込管のdより小さいので、プラグ本体2の周縁部の損耗がさらに抑制される。)

h 「

」(図面1)

i 「

」(図面3)

(イ)甲第1号証に記載された発明
上記(ア)a?iの摘記事項を総合勘案し、特に、第1実施形態の記載、及び図面1、3に着目すると、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。

「公知のセラミックス粉末をプレスした規格レンガであり、ガス吹き込み方向と交差する上面2aを有するプラグ本体2と、プラグ本体2に規則的に埋設された貫通孔1aを有するステンレス製のパイプ1と、を含むガス吹き込みプラグであって、
上記パイプ1は、プラグ本体2の上面2aの中心を中心にするn=6個の同心正六角形上にピッチP=8mmに離隔されて配置され、
最外縁の貫通孔1a(最外縁の六角形3nの右側の角A)からプラグ本体2の上面2aのエッジ部までの距離dを約100mm以下である90mmとすることにより、プラグ本体の周縁部の損傷が抑制される、
ガス吹き込みプラグ。」(以下、「甲1発明」という。)

(ウ)甲第2号証の記載事項
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証には、「精錬炉用カーボン含有レンガ」(発明の名称)に関し、次の記載がある。

a 「【0001】
本発明は、転炉、及び、溶融還元炉等の溶融金属中に炉の底部よりガスを吹き込む羽口れんがとそれを囲む周囲れんが群の組合せを最適にし、羽口れんがの耐スポーリング性を向上させるための新規な改良に関するものである。」

b 「【0014】
本発明による精錬炉用カーボン含有れんがは、精錬炉の底部に設けられ、精錬炉用ガスのガス通過孔を有するカーボン含有の羽口れんがと前記羽口れんがを囲むカーボン含有の羽口周囲れんが群からなる精錬炉用カーボン含有れんがにおいて、前記羽口れんが及び羽口周囲れんが群のカーボン含有量をそれぞれCt及びCbと表したとき、100質量%>Ct>0質量%及び100質量%>Cb>0質量%であって、以下の(1)式から求められるΔLが60を超え160以下であり、同時にCt<Cbを満たすCb及びCtの組み合わせからなる構成であり、また、カーボン含有量Ct及びCbが14.9質量%<Ct<22.5質量%かつ22.5質量%<Cb<27.5質量%である構成である。
ΔL=-225.921+15.951Ct+0.905Cb-0.304Ct^(2)+0.189Cb^(2) …(1)」

c 「【0027】
次に、本発明による羽口れんが1及び羽口周囲れんが群10の実施例を表1、表2の第1表及び第2表に示す。第1表は本発明の実施例、第2表は比較である。第1、第2表中、羽口ライフは、使用回数(チャージ数)で羽口の損傷量(損傷長さ)を割った値(mm/ch)を求め、第2表中の比較品1を1にしたときのそれぞれの羽口ライフの程度を指数化した値である。指数の数字が大きいほど良好であることを示し、例えば、指数が2なら、比較品22に比べ2倍の耐用を示したことを表す。表より、本発明による羽口れんが1は比較品よりも2倍以上の耐用を示すことがわかる。」

d 「【表1】



イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
a 甲1発明の「公知のセラミックス粉末をプレスした規格レンガであり、ガス吹き込み方向と交差する上面2aを有するプラグ本体2」は、本件発明1の「耐火物からなるプラグ本体」に相当する。

b 甲1発明の「ガス吹き込みプラグ」は、本件発明1の「マルチホールプラグ」に相当する。

c 甲1発明の「プラグ本体2に規則的に埋設された貫通孔1aを有するステンレス製のパイプ1」は、本件発明1の「プラグ本体中に、上下方向に」「埋設された」「ステンレスからなるガス吹込管」に対応し、甲1発明において、「最も外側の貫通孔1a」が配置される「同心正六角形」の内側の領域は、本件発明1の「ガス吹込面となる上端面内において、ガス吹込管の中心位置どうしを結ぶ線分で囲まれた最大の領域」である「ガス吹込管存在領域」に相当する。

d 甲1発明の「上記パイプ1は、プラグ本体2の上面2aの中心を中心にするn=6個の同心正六角形上にピッチP=8mmに離隔されて配置され」る点について、甲第1号証の図面3を参照すると、「最も外側の貫通孔1a」が配置される「同心正六角形」の内側の領域の面積は、一辺の長さ8mm×6=48mmの正六角形の面積であるから、約5986mm^(2)であり、その領域内に、1+6+12+18+24+30+36=127本の「貫通孔1a」が存在することになるから、上記貫通孔1a1本が占有する面積は、「5986÷127≒47mm^(2)/本」であり、これは、本件発明1の「ガス吹込管」が「37本以上」である点、及び「ガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度(本/mm^(2))の逆数(mm^(2)/本)が100以下であ」る点に相当する。

e 甲1発明の「最も外側の貫通孔1a(最外縁の六角形3nの右側の角A)からプラグ本体2の上面2aのエッジ部までの距離dを約100mm以下である90mmとする」との特定事項から、最も外側に配列された複数の「貫通孔1a」と、「プラグ本体2の上面2aのエッジ部までの距離d」(最短距離)の平均値を概算すると、約93mmとなるから、本件発明1と甲1発明とは、「ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値」が所定の範囲の値である点で共通する。

f そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
<一致点>
「耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に37本以上のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、
ガス吹込面となる上端面内において、ガス吹込管の中心位置どうしを結ぶ線分で囲まれる最大の領域をガス吹込管存在領域とし、このガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度(本/mm^(2))の逆数(mm^(2)/本)が100以下であり、当該ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値が所定の範囲の値であるマルチホールプラグ。」

の点で一致し、
<相違点>
ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値が、本件発明1では、「10mm以上45mm以下」であるのに対して、甲1発明では、約93mmである点、

で相違する。

(イ)相違点についての判断
そこで、上記相違点について検討する。
a 上記ア(ア)bに摘記した甲第1号証の[0010]、[0011]の記載事項からすると、甲第1号証には、dが100mm以下であれば、プラグ本体の周縁部近傍まで貫通孔が分布しており、周縁部も冷却されるので、プラグ本体の周縁部の損傷が好適に抑制されるとの効果が奏されることが記載されていると認められる。

b その観点からすると、甲1発明において、プラグ本体の周縁部近傍まで貫通孔を分布させること、すなわち、dを所定の値以下の小さい値とすることにより、周縁部がさらに冷却されるように変更することは、当業者であれば容易に想到し得たことといえる。

c 一方で、甲第1号証の記載や上記ア(ウ)に摘記した甲第2号証の記載からは、甲1発明におけるdの値を所定の値以上とする動機付けを見出すことはできず、また、本件訂正明細書の【0015】に「本発明では、この平均値Lが10mm以上45mm以下であることを要件とした。この平均値が45mmを超えると前記の温度差(温度勾配)に起因する熱応力が大きくなり、損傷抑制効果が低下する。また、10mm未満では構造体としての強度が不十分となり損傷が発生しやすくなる。」と記載されていることからすると、本件発明1は、「ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値」の下限値を「10mm以上」とすることにより、マルチホールプラグの構造体としての強度を十分なものとできるという格別の効果を奏しているといえる。そして、当該効果は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項から、当業者が予測できる範囲のものとはいえない。

d したがって、甲1発明において、上記相違点に係る特定事項を備えることにより、本件発明1とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

e よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明2、3、5について
(ア)請求項2、3、5は請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明2、3、5は、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものである。

(イ)ここで、本件発明1については、上記イ(イ)eのとおり、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないから、本件発明1の発明特定事項を全て備えた本件発明2、3、5についても、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1?3、5は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

(2)申立理由3-1(実施可能要件)について
ア 本件訂正明細書の【表1】には、「実施例4」として、「ガス吹込管存在領域の面積 A(mm^(2))」が「9044」、「ガス吹込管の本数 N(本)」が「91」、「ガス吹込管の本数密度の逆数(mm^(2)/本)」が「99」、「上端面における、最短距離の平均値L(mm)」が「20」、「上端面の直径(mm)」が「150」、「隣接するガス吹き込み管どうしの中心位置間の距離(mm)」が「12.0」、及び「ガス吹込管の配列」が「六角」である例が記載されている。

イ ここで、「隣接するガス吹き込み管どうしの中心位置間の距離(mm)」としての「12.0」が正しい値であるとすると、実施例4における「ガス吹込管存在領域」は、一辺の長さが60mmの正六角形であり、その面積は、【表1】に記載される「9044」mm^(2)とは異なる9353mm^(2)となるはずであり、この値から計算される「ガス吹込管の本数密度の逆数」は、【表1】に記載される「99」mm^(2)/本とは異なる103mm^(2)/本となり、本件発明1?3、5において規定される「100以下」に該当しないものとなる。

ウ なお、逆に、「ガス吹込管存在領域の面積 A(mm^(2))」が「9044」、「ガス吹込管の本数密度の逆数(mm^(2)/本)」が「99」が正しい値であると解することも可能ではあるが、「隣接するガス吹き込み管どうしの中心位置間の距離(mm)」としての「12.0」が正しく、「ガス吹込管存在領域の面積 A(mm^(2))」が「9044」、「ガス吹込管の本数密度の逆数(mm^(2)/本)」が「99」とした記載に何らかの誤記が存在すると解するのが自然である。

エ そうすると、上記イのとおり、上記実施例4は、本件発明1?3、5の発明特定事項を充足せず、その技術的範囲に属さないことが明らかなものであるから、本件発明1?3、5を実施することができるとはいえないことの根拠にはならない。

オ したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、この点で、当業者が本件発明1?3、5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

(3)申立理由3-3(実施可能要件)について
ア 本件発明1?3、5は、ガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度の逆数(mm^(2)/本)を「100以下」又は「50以下」と特定し、ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値を「10mm以上45mm以下」又は「10mm以上30mm以下」に特定するものであるが、ガス吹込管の本数は「37本以上」としか特定されておらず、形式上は、当該本数を無限に増加させた態様も含むものである。

イ しかしながら、出願時の技術常識を考慮すれば、ガス吹込管の本数を無限に増加させることが技術的に不可能であることは、明らかであり、ガス吹込管として組み込み得る本数には当然に実現可能な数の上限が存在すると解される。

ウ ここで、上記2(5)に記載した観点から検討すると、上記2(6)のとおり、本件発明1?3、5に係る「マルチホールプラグ」(物の発明)について、発明の詳細な説明の【表1】の実施例15以外の実施例に関する記載等を参照すれば、その物を作ることができるといえるし、ガス吹込管の本数を無限に増加させた態様が、実現不可能なものであることは、上記イのとおり、客観的に明らかであるから、本件発明1?3、5が実現不可能な当該態様を包含しているからといって、そのことをもって実施可能要件に適合しないとまでいうことはできない。

エ したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、この点で、当業者が本件発明1?3、5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び異議申立理由によっては、本件請求項1?3、5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正によって特許異議の申立てがされた請求項4は削除され、特許異議の申立ての対象となる請求項4は存在しないものとなったから、請求項4に係る特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (54)【発明の名称】
マルチホールプラグ
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉や電気炉等の溶融金属精錬容器において底部からガスを吹き込むために使用するガス吹込用のプラグに関し、特に、耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に複数本のガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
溶銑の脱炭製錬や脱燐製錬、更には鉄の溶融還元を行う溶融金属製錬容器では、多くの場合その底部(羽口部)に、ガスを吹き込むためのガス吹込用のプラグが設置されている。このようなガス吹込用のプラグの一種として、耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に複数本のガス吹込管(一般的には外径1?6mm程度の金属管)が埋設されたマルチホールプラグが知られている。このようにマルチホールプラグは、複数本のガス吹込管を備えることから、ガス吹込量の調節が容易であるという特徴を有する。なお、マルチホールプラグは、羽口周囲耐火物に装着されて使用されるが、そのプラグ本体及び羽口周囲耐火物は、耐食性及び耐スポーリング性を確保するため、一般的にはマグネシアカーボンれんがで構成される。
【0003】
ところがマルチホールプラグにおいては、複数本のガス吹込管から、室温つまり低温のガスが吹き込まれるため、これらガス吹込管の近くのプラグ本体は冷却されて低温となる。一方、ガス吹込管から離れた部分のプラグ本体は、溶融金属により加熱されて高温になるため、マルチホールプラグのプラグ本体には大きな温度勾配(温度差)が生じる。したがって、マルチホールプラグには、使用時に生じる温度勾配に起因してプラグ本体に亀裂等の損傷が発生し、使用に伴いその損傷が進行するという問題がある。更に、特に転炉においては、底吹きガスの攪拌により生じる溶融金属流が、マルチホールプラグを摩耗し、損傷させるという問題がある。これらの問題を解決するべく多数の提案がなされている。
【0004】
例えば特許文献1には、ガス吹込面においてガス吹込管(金属細管)を含む羽口存在領域を内側と外側に区別し、内側の羽口存在領域面積TAi,内側の流路断面積GAi,外側の羽口存在領域面積TAo,外側の流路断面積GAoの関係が、0.1≦(GAo/TAo)/(GAi/TAi)≦0.8を満たすマルチホールプラグ(羽口ブロック)が提案されている。この特許文献1のマルチホールプラグ(羽口ブロック)によれば、ガス吹込管(金属細管)を含む羽口存在領域内の温度勾配を縮小することはできる。しかし、羽口存在領域とその外側の領域との間には依然として大きな温度勾配が発生する。
【0005】
また、特許文献2には、ガス吹込管を有するマグネシアカーボンれんがからなる羽口れんがと、この羽口れんがを囲むマグネシアカーボンれんがからなる羽口周囲れんがとで構成した羽口れんが構造において、羽口れんがのカーボン量を羽口周囲れんがのカーボン量よりも低くすることで、羽口れんがの熱膨張率を羽口周囲れんがの熱膨張率よりも大きくし、かつ羽口れんがの熱伝導率を羽口周囲れんがの熱伝導率よりも小さくすることが提案されている。この特許文献2の羽口れんが構造によれば、羽口れんがは羽口周囲れんがに比較して温度が低いにも拘わらず、羽口れんがの熱膨張量は羽口周囲れんがの熱膨張量よりも大きくなり、羽口れんがと羽口周囲れんがとの境界で、羽口れんがは羽口周囲れんがによって拘束され、これにより、羽口れんがには圧縮力が働き、羽口れんがの温度差によって発生する熱応力が前記圧縮力によって打ち消され、羽口れんがにおける亀裂の発生が抑制されるとされている。このように特許文献2は、羽口れんが構造において温度勾配(温度差)があることを前提としており、羽口れんがのカーボン含有量を相対的に低くすることで温度勾配は、多少は縮小するものの、温度勾配の問題を根本的に解消するものではない。
【0006】
このように、マルチホールプラグにおいて温度勾配に起因する損傷の問題は依然として解消されておらず、これが溶融金属製錬容器の寿命を律速する一因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献1】
【0007】
【特許文献1】特開2012-229487号公報
【特許文献2】特開2009-235457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、マルチホールプラグにおいて、使用中の温度勾配を縮小し、温度勾配に起因する損傷を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、プラグ本体のガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度を高め、更にガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管非存在領域を小さくすることで、マルチホールプラグの使用中の温度勾配が小さくなり、しかも耐火物からなるプラグ本体全体が低温に保たれて高い機械的強度を維持でき、その結果、マルチホールプラグの損傷が大幅に抑制されて寿命が大幅に向上することを知見した。
【0010】
すなわち本発明のマルチホールプラグは、耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に37本以上のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、ガス吹込面となる上端面内において、ガス吹込管の中心位置どうしを結ぶ線分で囲まれる最大の領域をガス吹込管存在領域とし、このガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度(本/mm^(2))の逆数(mm^(2)/本)が100以下であり、当該ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値が10mm以上45mm以下であることを特徴とするものである。
【0011】
ここで、本発明でいう「ガス吹込管存在領域」とは前述のとおり「ガス吹込面となる上端面内において、ガス吹込管の中心位置どうしを結ぶ線分で囲まれる最大の領域」のことであり、本発明の一実施例によるマルチホールプラグの上端面を示す図2aにおいて示せば、ガス吹込管3の中心位置どうしを結ぶ線分4で囲まれる最大の領域5がガス吹込管存在領域である。また、本明細書では、このガス吹込管存在領域5の外側の領域をガス吹込管非存在領域6という。
【0012】
引き続き図2aを参照すると、マルチホールプラグ1の使用中はガス吹込管3を流れるガスによってその周囲の耐火物(プラグ本体2)は冷却されるが、ガス吹込管存在領域5におけるガス吹込管3の本数密度が高いほど、このガス吹込管存在領域5内の温度差(温度勾配)が小さくなり、しかもガス吹込管存在領域5全体としてはより低い温度になる。
【0013】
本発明では、ガス吹込管存在領域5におけるガス吹込管3の本数密度を表す指標として、その本数密度(本/mm^(2))の逆数S(mm^(2)/本)を用いた。すなわち、本数密度の逆数の数値が小さいほど、本数密度が高いということであり、本発明では、この逆数S(mm^(2)/本)が100以下であることを要件とした。この逆数S(mm^(2)/本)が100以下であることにより、ガス吹込管存在領域5におけるガス吹込管3の本数密度が十分に高くなり、ガス吹込管3によるガス吹込管存在領域5の冷却効果が均一に発揮される。その結果、ガス吹込管存在領域5内の温度差(温度勾配)が小さくなって熱応力が小さくなるので、温度差(温度勾配)に起因するマルチホールプラグ1(プラグ本体2)の損傷を抑制することができる。更に、ガス吹込管存在領域5が十分に冷却されることで、ガス吹込管存在領域5(プラグ本体2)を構成する耐火物がかなりの低温(例えば300℃以下)になるので、その耐火物の機械的強度が高い状態で維持され、溶融金属流による摩耗に対する抵抗性も高くなる。これらの点から、この逆数S(mm^(2)/本)の数値は小さいほど良く、50以下であることが好ましい。なお、ガス吹込管3の風箱への溶接作業を行う場合の作業効率を考慮した場合、この逆数S(mm^(2)/本)は3以上であることが好ましい。
【0014】
一方、ガス吹込管存在領域5の外側のガス吹込管非存在領域6は、使用中には、ガス吹込管存在領域5近くは低温となり、羽口周囲耐火物と接する外縁部は高温となるので、温度差(温度勾配)が発生する。このガス吹込管非存在領域6内の温度差(温度勾配)は、ガス吹込管非存在領域6の内縁部と外縁部との距離が大きいほど大きくなり、それに伴い熱応力も大きくなる。したがって、ガス吹込管非存在領域6内の温度差(温度勾配)を小さくして熱応力を低減するには、ガス吹込管非存在領域6の内縁部と外縁部との距離を小さくすることが有効である。ただし、マルチホールプラグ1の構造体としての強度を維持するためには、ある程度のガス吹込管非存在領域6が必要である。
【0015】
本発明では、ガス吹込管非存在領域6の内縁部と外縁部との距離を表す指標として、ガス吹込管存在領域5の外周に位置するガス吹込管3とプラグ本体2の外縁との最短距離の平均値Lを用いた。すなわち、図2aにおいて符号7で示す距離が、ガス吹込管存在領域5の外周に位置するガス吹込管3とプラグ本体2の外縁との最短距離の例示であり、これら全ての最短距離の平均値が、本発明でいう最短距離の平均値Lである。この平均値Lが小さいほどガス吹込管非存在領域6の内縁部と外縁部との距離が小さいということであり、本発明では、この平均値Lが10mm以上45mm以下であることを要件とした。この平均値Lが45mmを超えると前記の温度差(温度勾配)に起因する熱応力が大きくなり損傷抑制効果が低下する。また、10mm未満では構造体としての強度が不十分となり損傷が発生しやすくなる。この平均値Lは、10mm以上30mm以下であることが好ましい。
【0016】
ここで、逆数S(mm^(2)/本)が100以下であること、及び平均値Lが10mm以上45mm以下であることという要件は、少なくともマルチホールプラグのガス吹込面となる上端面において満たしていれば良いが、マルチホールプラグの寿命を更に向上する点から、マルチホールプラグの上端面から全長の20%までの区間の水平断面においても満たしていることが好ましく、同じく上端面から全長の40%までの区間の水平断面においても満たしていることがより好ましい。なお、通常、マルチホールプラグは円錐台形又は角錐台形をしており、ガス吹込管が鉛直に配置されている場合、使用を重ねると消耗によって全長が短くなるためガス吹込管非存在領域の割合が増えてくる。したがって、前記要件を満たしている区間の長さは、マルチホールプラグの使用条件に応じて適宜設定することが好ましい。
【0017】
本発明のマルチホールプラグのプラグ本体を構成する耐火物としては、従前よりプラグ本体や羽口耐火物あるいは羽口周囲耐火物として一般的に使用されている耐火物を使用することができ、例えばマグネシアカーボンれんがなどを使用することができるが、更に損傷抵抗性を上げたい場合には、黒鉛含有量が15質量%以下の耐火物を使用することができる。本発明のマルチホールプラグは、前述のとおり、従来と比べて相当に低い温度に保たれることになるため、黒鉛含有量が極めて少なくても耐火物内部に熱応力を発生しにくく、剥離等の損傷は抑制される。したがって、プラグ本体を構成する耐火物の黒鉛含有量は15質量%以下で十分であり、更には黒鉛を含まなくても良い。このように黒鉛含有量を少なくすることで、機械的強度を向上させることができ、摩耗による損傷を軽減させることができる。このことから、本発明のマルチホールプラグのプラグ本体を構成する耐火物は、マグネシアカーボンれんがである必要はなく、例えば、アルミナ材質キャスタブル、マグネシア材質キャスタブルのような材質でも耐用性に支障はない。
【発明の効果】
【0018】
本発明のマルチホールプラグによれば、フラグ本体のガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度を高めるとともに、ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管非存在領域を小さくしたことにより、使用中の温度勾配が縮小する。したがって、温度勾配に起因する損傷を抑制することができる。また、ガス吹込によってプラグ本体全体が低温に保たれることから、その機械的強度が高い状態で維持され、溶融金属流による摩耗に対する抵抗性も高くなり、溶鋼摩耗による損傷も抑制することができる。更に、プラグ本体全体が低温に保たれるということは、温度勾配(熱応力)が生じにくいということであり、この点からも温度勾配に起因する損傷を抑制することができる。よって、マルチホールプラグの耐用性が著しく向上し、溶融金属製錬容器の寿命延長及び原単位低減に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例によるマルチホールプラグの全体形状を示す正面図である。
【図2a】図1のマルチホールプラグの上端面を示す平面図である。
【図2b】図1のA-A断面図(図1のマルチホールプラグの上端面から200mm下側の位置における水平断面図)である。
【図3】ガス吹込管の配列を四角形状にした例におけるマルチホールプラグの上端面を示す平面図である。
【図4】ガス吹込管の配列を円形状にした例におけるマルチホールプラグの上端面を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施例によるマルチホールプラグの全体形状を示す正面図、図2aは、図1のマルチホールプラグの上端面を示す平面図、図2bは、図1のA-A断面図(図1のマルチホールプラグの上端面から200mm下側の位置における水平断面図)である。
【0021】
図面に示す本発明のマルチホールプラグ1は、ガス吹込面となる上端面(図2a)及び水平断面(図2b)において、長手方向中心軸を含む中央部がガス吹込管存在領域5となり、その外側がガス吹込管非存在領域6となっている。そして、ガス吹込管存在領域5ではガス吹込管3の本数密度を高めており、本発明では前述のとおり、ガス吹込面となる上端面(図2a)において、ガス吹込管存在領域5におけるガス吹込管の本数密度(本/mm^(2))の逆数S(mm^(2)/本)が100以下であること、及びガス吹込管存在領域5の外周に位置するガス吹込管3とプラグ本体2の外縁との最短距離7の平均値Lが10mm以上45mm以下であることを要件としている。なお、逆数S(mm^(2)/本)が100以下であるという要件を満たすには、例えば隣接するガス吹込管3どうしの中心位置間の距離が3mm以上12mm以下となるような配列にすれば良い。隣接するガス吹込管3どうしとは、ガス吹込管3の中心位置間の距離が最も短いガス吹込管3どうしのことである。
【0022】
また、ガス吹込管3としては、従来のマルチホールプラグに使用されている公知のものを使用することができる。例えば、ステンレス管や銅管などの各種の金属管が好適に使用可能であり、セラミクス管を使用することもできる。ガス吹込管3の外径は、例えば2mm以上6mm以下とすることができる。また、ガス吹込管3の配列は前記要件を満たす範囲であれば任意に決定できる。ガス吹込管3の本数に特に制限はないが、37本以上であればより損傷抑制効果が高い。
【0023】
本発明のマルチホールプラグの外形(正面形状)は、円錐台形又は角錐台形が一般的であるが、その他の形状とすることもできる。
【0024】
このような本発明のマルチホールプラグ1は、従前より転炉や電気炉で使用されているものにおいて、ガス吹込管3の配列と、前記の最短距離7を見直すことで容易に得ることができる。その製法は従来の製法を適用することができ、例えば成形枠内にガス吹込管を埋設しながら坏土を充填していき、その後加圧することで成形し、成形後は200?500℃で加熱することで、本発明のマルチホールプラグを得ることができる。ガス吹込管の下端部は公知の風箱に溶接固定することができる。
【0025】
次に、図1のマルチホールプラグ1の具体的形状を例示する。マルチホールプラグ1の外形(正面形状)は円錐台形で、全長が800mm、上端面の外径が100mm、下端面の外径が120mmである。ガス吹込管3として外径4mmのステンレス管が91本フラグ本体1中に埋設されている。これらのガス吹込管3の下端部はガス導入パイプ8を有する金属製の風箱(図示省略)に溶接固定されている。フラグ本体1を構成する耐火物は、鱗状黒鉛を15質量%及びマグネシアクリンカーを83質量%含有するマグネシアカーボンれんがである。
【0026】
ガス吹込管3は、図2aに示すように六角形に配列され、隣接するガス吹込管3どうしの中心位置間の距離は6.5mm、ガス吹込管存在領域5は一辺が32.5mmの長さの正六角形であり、ガス吹込管存在領域5の面積は2744mm^(2)である。したがって、ガス吹込管存在領域5におけるガス吹込管3の本数密度(本/mm^(2))の逆数S(mm^(2)/本)は30である。
【0027】
また、各ガス吹込管3は、上下方向(長さ方向)にほぼ平行になるようにプラグ本体2中に埋設されている。そして、ガス吹込管存在領域5の外周に位置するそれぞれのガス吹込管3とプラグ本体2の外縁との最短距離7の平均値Lは、上端面(図2a)では20mm、上端面から全長の40%の位置における水平断面(図2b)では25mmである。
【実施例】
【0028】
本発明のマルチホールプラグ(実施例)及び比較例のマルチホールプラグの評価試験を行った結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
評価試験では、100tのアーク式電気炉において実施例及び比較例のマルチポーラスプラグを使用した。ガス吹込は、流量50L/minで30分行った。使用後の残寸から損傷速度(mm/ch)を計算し、比較例1の損傷速度を100とする損傷指数として表1に示した。各例のマルチホールプラグは、上端面から全長の20?40%の範囲まで使用された。
【0031】
実施例1から実施例4及び比較例1は、図2aのタイプのマルチホールプラグにおいて、ガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度(本/mm^(2))の逆数S(mm^(2)/本)が異なる例である。
実施例5及び実施例6は、ガス吹込管の配列がそれぞれ四角形(図3)及び円形(図4)の例である。
実施例7、実施例8及び比較例2は、図2aのタイプのマルチホールプラグにおいて、ガス吹込管存在領域の外周に位置するそれぞれのガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値Lが異なる例である。
実施例9から実施例14は、図2aのタイプのマルチホールプラグにおいて、プラグ本体を構成する耐火物が異なる例である。
実施例15は、図2aのタイプのマルチホールプラグにおいて、ガス吹込管の本数が37本の場合、実施例16は図2aのタイプのマルチホールプラグにおいて、ガス吹き込み管の数が169本の場合である。
【0032】
なお、実施例及び比較例のガス吹込管の内径は2mmである。プラグ本体の耐火物は、実施例1から実施例12及び実施例15及び実施例16は、不焼成マグネシアカーボンれんが、実施例13は不焼成アルミナカーボンれんが、並びに実施例14はマグネシアアルミナ材質のキャスタブルである。
【0033】
実施例1から実施例3は、本数密度の逆数S及び最短距離の平均値Lが本発明の範囲内であり比較例1と比べて損傷が少なく良好な耐用性を示している。これに対して比較例1は、本数密度の逆数Sが本発明の上限を超えており、損傷が大きい結果となっている。
【0034】
実施例5及び実施例6は、ガス吹込管の配列がそれぞれ四角形及び円形の例であり、六角形の場合と同様に良好な耐用性を示している。
【0035】
実施例7、実施例8及び比較例2は、最短距離の平均値Lが異なる例であり、この平均値Lが小さいほど耐用性に優れる傾向にあることがわかる。そして、この平均値Lが60mmの比較例2は、損傷指数が大幅に大きくなり耐用性が大きく低下している。
【0036】
実施例9から実施例12は、プラグ本体を構成する耐火物の黒鉛含有量が異なる例であり、黒鉛含有量が少ない方が、損傷指数が小さく耐用性に優れていることがわかる。
【0037】
実施例13はプラグ本体を構成する耐火物をアルミナカーボンれんが、実施例14はプラグ本体を構成する耐火物をマグネシアアルミナ材質のキャスタブルとした例であり、いずれも損傷指数が小さく耐用性に優れている。
【0038】
実施例15及び実施例16はガス吹込管の本数が異なる例であるが、いずれも損傷指数が小さく耐用性に優れている。
【符号の説明】
【0039】
1 マルチホールプラグ
2 プラグ本体
3 ガス吹込管
4 ガス吹込管の中心位置どうしを結ぶ線分
5 ガス吹込管存在領域
6 ガス吹込管存在領域
7 ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離
8 ガス導入パイプ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火物からなるプラグ本体中に、上下方向に37本以上のステンレスからなるガス吹込管が埋設されたマルチホールプラグであって、
ガス吹込面となる上端面内において、ガス吹込管の中心位置どうしを結ぶ線分で囲まれる最大の領域をガス吹込管存在領域とし、このガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度(本/mm^(2))の逆数(mm^(2)/本)が100以下であり、当該ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値が10mm以上45mm以下であるマルチホールプラグ。
【請求項2】
ガス吹込管存在領域におけるガス吹込管の本数密度(本/mm^(2))の逆数(mm^(2)/本)が50以下である請求項1に記載のマルチホールプラグ。
【請求項3】
ガス吹込管存在領域の外周に位置するガス吹込管とプラグ本体の外縁との最短距離の平均値が10mm以上30mm以下である請求項1又は請求項2に記載のマルチホールプラグ。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
プラグ本体は、黒鉛含有量が15質量%以下(0を含む)の耐火物からなる請求項1から請求項3のいずれかに記載のマルチホールプラグ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-05-31 
出願番号 特願2015-69248(P2015-69248)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C21C)
P 1 651・ 536- YAA (C21C)
P 1 651・ 121- YAA (C21C)
P 1 651・ 852- YAA (C21C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂口 岳志祢屋 健太郎  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 土屋 知久
粟野 正明
登録日 2020-01-07 
登録番号 特許第6640461号(P6640461)
権利者 黒崎播磨株式会社 日本製鉄株式会社
発明の名称 マルチホールプラグ  
代理人 特許業務法人英和特許事務所  
代理人 特許業務法人英和特許事務所  
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