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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01B
管理番号 1376703
異議申立番号 異議2020-700860  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-10 
確定日 2021-06-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6694002号発明「多結晶シリコンの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6694002号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。 特許第6694002号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許権者である信越化学工業株式会社が保有する本件特許第6694002号の請求項1、2に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」、「本件特許2」という。)についての出願は、平成27年7月28日(以下、「原出願日」という。)に出願された特願2015-148989号の一部を、平成30年5月21日に新たな特許出願としたものであって、特願2018-96778号として審査され、令和2年4月20日にその特許権の設定登録がされ、同年5月13日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許1及び本件特許2を対象として、令和2年11月10日に丸林敬子から、同年同月13日に鳥巣実から、それぞれ特許異議の申立てがされた(以下では、両特許異議申立人を区別する場合、前者を「申立人1」、後者を「申立人2」という場合がある。)。
そして、令和3年1月26日付けで当審より取消理由が通知され、同年3月3日(受付日)に特許権者より訂正請求書及び意見書が提出された。
なお、上記のように訂正の請求があったので、特許異議申立人に相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人1及び申立人2のいずれからも応答はなかった。

第2 訂正の適否

1 本件訂正の内容
令和3年3月3日提出の訂正請求書をもってされた訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第3項の規定に従い請求項ごとにされたものであって、その内容(訂正事項)は、次のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「シーメンス法による多結晶シリコンの製造方法であって、多結晶シリコンの析出反応工程を通じて、反応炉内からの排ガス中のメタン濃度を0.100volppm未満とする、ことを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。」と記載された部分を、「シーメンス法による多結晶シリコンの製造方法であって、多結晶シリコンの析出反応工程開始前にカーボンヒータを析出反応空間から退避させることにより、多結晶シリコンの析出反応工程を通じて、反応炉内からの排ガス中のメタン濃度を0.100volppm未満とする、ことを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。」に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2において、「シーメンス法による多結晶シリコンの製造方法であって、多結晶シリコンの析出反応工程を通じて、反応炉内からの排ガス中のメタン濃度を0.100volppm未満とし、カーボン濃度が10ppba以下である多結晶シリコンを製造する、ことを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。」と記載された部分を「シーメンス法による多結晶シリコンの製造方法であって、多結晶シリコンの析出反応工程開始前にカーボンヒータを析出反応空間から退避させることにより、多結晶シリコンの析出反応工程を通じて、反応炉内からの排ガス中のメタン濃度を0.100volppm未満とし、カーボン濃度が10ppba以下である多結晶シリコンを製造する、ことを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1、2は、いずれも明細書の段落【0045】の「このような構造の反応炉を用いた多結晶シリコンの製造方法は、多結晶シリコンの析出反応工程に先立ち、カーボンヒータでシリコン芯線を初期加熱し、該シリコン芯線が所定の温度に達した後は前記カーボンヒータを析出反応空間から退避させ、その後に前記析出反応工程を開始する、ことを特徴とする多結晶シリコンの製造方法である。」との記載に基づいて、訂正前の請求項1及び請求項2のそれぞれに対して、「多結晶シリコンの析出反応工程開始前にカーボンヒータを析出反応空間から退避させる」という技術的事項を追加するものであるから、これらの訂正事項は、新規事項の追加には該当しないとともに、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
また、これらの訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおり、本件訂正に係る訂正事項1、2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。

第3 特許請求の範囲の記載(本件発明)

上記第2のとおり、本件訂正は適法にされたものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、次のとおりのものとなった(以下、請求項1、2に係る発明をそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」といい、まとめて「本件発明」という。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーメンス法による多結晶シリコンの製造方法であって、
多結晶シリコンの析出反応工程開始前にカーボンヒータを析出反応空間から退避させることにより、多結晶シリコンの析出反応工程を通じて、反応炉内からの排ガス中のメタン濃度を0.100volppm未満とする、ことを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。
【請求項2】
シーメンス法による多結晶シリコンの製造方法であって、
多結晶シリコンの析出反応工程開始前にカーボンヒータを析出反応空間から退避させることにより、多結晶シリコンの析出反応工程を通じて、反応炉内からの排ガス中のメタン濃度を0.100volppm未満とし、カーボン濃度が10ppba以下である多結晶シリコンを製造する、ことを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。」

第4 取消理由の概要

令和3年1月26日付けで当審が通知した取消理由は、本件訂正前の請求項1、2に係る特許は、以下の理由により特許法第113条第2号に該当するため取り消すべきものである、というものである(証拠については後記第5の1参照)。
・取消理由1:(新規性欠如)本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、本件特許の原出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、その特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。
・取消理由2:(進歩性欠如)本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、本件特許の原出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その原出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。

第5 取消理由1、2(新規性進歩性)についての当審の判断

1 証拠として採用した引用文献
(1) 主たる証拠
・引用文献1-1:特開2012-56836号公報
(申立人1が甲第1号証として提出した証拠)
・引用文献1-2:米国特許第4179530号明細書
(申立人1が甲第2号証として提出した証拠。本件明細 書において従来技術として列記された特許文献6)
・引用文献2-1:特開2013-193931号公報
(申立人2が甲第1号証として提出した証拠)
・引用文献3 :特開2001-278611号公報
(当審において採用した引例。本件明細書に先行技術文 献として期さされた特許文献5
(2) 技術常識を認定する上で参酌した証拠
・引用文献2-2:特開平1-110721号公報
(申立人2が甲第2号証として提出した証拠)

2 引用文献の記載事項
(1) 引用文献1-1の記載事項
引用文献1-1には、「多結晶シリコンの製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素含有成分と水素を有する反応ガスを反応器中に導入することによってシリコンを析出させる、多結晶シリコンの製造法において、第1の反応器中での第1の析出プロセスからの精製された凝縮液を、第2の反応器に供給し、この第2の反応器中での第2の析出プロセスに際して使用することを特徴とする、多結晶シリコンの製造法。
・・・
【請求項5】
2つの反応器がシーメンス反応器であり、加熱されたフィラメントロッド上にシリコンを析出させる、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
・・・
【請求項8】
1ppbaより小さい炭素含有率を有することを特徴とする、多結晶シリコン。」
イ 「【実施例】
【0056】
実施例及び比較例
比較例1
シーメンスプロセスにおけるシリコンの析出後に、第2のシーメンス反応器を、今日の従来技術に応じて、第1のプロセスに由来するオフガスを用いて運転した。
・・・
【0063】
実施例1
意想外にも、水素供給を切り離すことを含めた析出プロセスの完全な分離によって初めて、所望の品質改善の点で進展が見られた。
【0064】
第2のシーメンス析出反応器の炭素の不純物レベルは、検出下限値1ppba以下であり、従って比較例の25%以下であった。
【0065】
それに応じて、後接続された析出プロセスは、より高い所望の品質のシリコンを供給する。
・・・
【0095】
実施例2
意想外にも、吸着後の水素循環の単純なオンライン分析が、析出の品質を少なくとも定性的に特徴付けるのに非常に良好に適していることがわかった。
【0096】
TCS中の炭素含有量の上昇は、CRDSによって測定された、オフガス中のメタンの上昇と時間的に相関している。
【0097】
そのようにして、例えば、CRDSによって水素循環におけるメタン含有率の高まりを検知し、非常に早期にシリコンの炭素汚染を防止するための措置を採ることができる。該措置の具体的な誘因としては、時間的に形成された平均値からの測定された不純物(例えばメタン)の相対偏差の測定で十分である。例えばメタンレベルが、時間的な平均値に比べて30%を超えて高まっている場合に該措置が採られる。
【0098】
具体的な措置は、TCS源を交換することである。このために、各々の主要析出に、TCSを有するリザーバタンクを介して、いくつかの予備析出を供給する必要がある。
【0099】
各々の予備析出は、好ましくは、CRDSによる固有の測定箇所を有する。各々の予備析出に際して、好ましくは、水素の不純物が測定される。
【0100】
このタンク中へのTCSの供給は、そのつどの予備析出において相対的に測定されたメタン値が臨界値(例えば平均値の30%)を超過する場合に、即座に中断される。
【0101】
その時に過剰のTCSは、例えば予備析出のために使用することができる。」
(2) 引用文献1-2の記載事項
引用文献1-2は、「純粋半導体材料の蒸着方法」(発明の名称の和訳)について、和訳にして、次の記載がある(なお、和訳は申立人1によるもの。また、下線は当審が付したもの)。
ア 「本発明は、分解温度に加熱されたキャリヤ体上に半導体材料のガス状化合物を熱分解して、キャリア体上に純粋な半導体材料を堆積するためのプロセスに関する。本発明の方法を実施するための装置は、キャリア体をその上に取り付けるための手段と、前記キャリア体を前記ガス状化合物の分解温度に加熱するための電流を通過させるための電気接点と、前記ガス状化合物の供給および排出のためのパイプ接続部とを有する金属製のベースプレートからなり、前記ベースプレート上に摺動自在に取り付けられたベル状のカバーを有し、前記カバーは、前記ベースプレートの上に気密性を有するように取り付けられていることを特徴とする。」(原文第1欄7?19行)
イ 「本発明に従ったベルが熱放射に対して透過性でないという事実のために、蒸着に使用されるシリコンキャリア体(点火温度は約600℃である)の加熱は、ベルの頂点を介して反応空間に加熱フィンガーを導入することによって達成される。加熱フィンガーは、実質的には、例えば、その底部で融着された細長い石英シリンダーから構成され、その中に加熱コイルが配置されている。フィンガー内には、アルゴンなどの不活性ガスを導入することが好ましい。この石英シリンダーは、その上面に電気接点とガスの入口と出口が設けられている。この石英シリンダーは、カバープレート上に設けられた取付具と、この石英シリンダーを昇降させるための装置と、アルゴンのような保護ガスのための入口と出口とを備えた第2のスチールシリンダー内に配置されている。また、このスチールシリンダーには、このシリンダーの冷却ジャケットを流れる冷却媒体の導入および排出のための適切な接続部が設けられている。適切なガスケットを使用して、この銀または銀メッキされたシリンダーをベルにねじ止めして、ベルの頂点に配置された凹部によく嵌め込み、石英シリンダーを反応空間内に下降させることができるようにする。シリコンロッドに点火した後、加熱フィンガーをベルから保護シリンダー内に後退させ、ベルの頂点の凹部をカバーで閉じる。ベルは、単にフランジにより、銀または銀メッキされたベースプレートに、介在されたガスケット、好ましくはポリテトラフルオロエチレンガスケットを使用して固定される。
この蒸着装置は、原則として、適切な担体を使用して、ガス状化合物の分解に起因するあらゆる種類の蒸着を可能にする。黒鉛または黒鉛フィルムからなる担体上への気相からの蒸着により、シリコンからなる形状の体を製造することができる。その場合、黒鉛は室温で既に導電性であるため、堆積の開始時に加熱フィンガーを導入することは不要であり、したがって、任意の特定のケースで使用されるシリコンのガス状化合物の適切な分解温度に電流を直接通過させることによって加熱されるようにすることができる。
同様の方法で、シリコンからなる担体上に気相から析出させ、ガスの分解温度に加熱した担体上に多結晶シリコン棒を製造してもよい。本発明の半導体蒸着装置は、反応空間内に1?16気圧の過圧が存在する場合に、電流を流してそれぞれのガス状化合物の分解温度まで加熱した担体上に、これらの半導体材料のガス状化合物を熱分解させて、純粋な半導体材料、特にシリコンを析出させる新規な方法に最適である。」(原文第3欄4?57行)
ウ 「キャリア体となる細いシリコン棒は、蒸着ガスの導入に先立って加熱フィンガーを導入することにより、アルゴン等の不活性ガス中で反応容器内の着火温度まで加熱される。加熱フィンガーは、ロッドの着火後、反応容器から取り外される。薄いシリコンロッドは、その後、電流を直接流すことで分解温度まで加熱され、蒸着ガスが反応容器内に導入され、同時にフードの内壁が冷却される。」(原文第4欄5?16行)
エ 「図1は、本発明に従った装置の断面図であり;そして
図2は、沈着体として使用される細いシリコン棒を加熱するためのフィンガー状部材を縮小して一部断面で示したものである。
図1と図2を参照すると、銀メッキされたベースプレート1と、内側に銀メッキされた内側フード2と、フード2の上に滑られた鋼製の外側フード3からなるベルからなる蒸着装置40が示されている。ベースプレート1には、ベルが気密フランジ接続で固定されており、その全体には中空の空間が設けられている。・・・蒸着キャリアとして機能する、例えばU字状に配置された細い棒8は、電極9、10によってその自由端に保持されている。・・・蒸着中のガスの導入と除去は、ベースプレート1の下側に配置されたガス接続部19と20を介して行われる。・・・ここで、図2を参照すると、フィンガー状の加熱部材50が図示されており、これは、開口部24を介してベル内に導入される。まず、冷却ポット25とパッキンとして機能するブッシング28がベルの開口部24から取り外される。加熱フィンガーは、電気加熱コイル30を有する細長い石英シリンダー29からなり、事前の排気後、赤熱加熱コイルの酸化を防止するために、ガラス接続管31を介して不活性ガス、例えばアルゴンで満たされていてもよい。石英シリンダー29は、鋼からなる第2シリンダー32内に配置されており、このシリンダー32は、ベル開口部24にフランジによって気密に接続されてもよい。・・・この金属製シリンダー32の上端には、ガス出口接続部37があり、このガス出口接続部37を介して、例えばアルゴンのような不活性ガスが、ベースプレート1に設けられているガス開口部19、20を介して吹き込まれ、空気が反応容器から排出される場合には、このガス出口接続部37から空気が排出される。蒸着に先立って、石英シリンダー29を反応容器内でベースプレート1のやや上方まで下降させる。これは、スチールシリンダー32がフランジによってベルの開口部24に接続された後に行われる。・・・その後、加熱フィンガーを囲むシリンダー29を反応容器に接続し、アルゴンの導入により容器内の空気を排出し、加熱フィンガーを反応容器の底板の上に密着して内部に降ろした。約1時間以内に、ロッドは赤熱に加熱され、したがって、約600℃に加熱された。加熱期間の終了の約30分前に、細いロッドに電位を印加した。細いロッドの着火温度に達すると、加熱フィンガーをベルから外し、冷却ポット25をフランジ配列で固定することにより開口部24を閉じた。細いロッドが電流によって約1050℃の必要な蒸着温度まで加熱される間、蒸着ガスが反応容器内に導入された。このガスは、等量の水素と5気圧以上のトリクロロシランから構成されていた。ベルの底板と電極クランプの水冷は、ベルに取り付けられた加熱フィンガーのスチールシリンダーを冷却水で通過させる加熱工程の間に既に作動していた。加熱フィンガーを取り外した後、ベルの頂部も付属の冷却ポットの水冷により冷却した。」(原文第4欄48?6欄20行)
オ 「

」(原文FIG.1、FIG.2)
(3) 引用文献2-1の記載事項
引用文献2-1には、「多結晶シリコンロッドの製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「【請求項1】
反応室内に設置されたシリコン芯線を通電により加熱し、上記反応室内にシラン系化合物及び還元性ガスを原料ガスとして供給して、化学気相成長法によって該シリコン芯線表面にシリコンを析出させる多結晶シリコンロッドの製造方法において、スタートアップ時の雰囲気温度で通電可能なシリコンよりなるヒーターを上記シリコン芯線に併設し、上記ヒーターに通電を行って、発熱させることにより、前記シリコン芯線を加熱した後、前記シリコン芯線に通電を行うことを特徴とする多結晶シリコンロッドの製造方法。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンロッドの新規な製造方法と装置とに関する。詳しくは、反応室内において、加熱されたシリコン芯線上に化学気相法によりシリコンを析出させる際のスタートアップ時に実施する、ヒーターによる上記シリコン芯線の加熱時、及びシリコンの析出時における上記ヒーターによる析出するシリコンの汚染を効果的に阻止することが可能な多結晶シリコンロッドの製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体あるいは太陽光発電用ウェハーの原料として使用されるシリコンを製造する方法のひとつとして、ジーメンス法と呼ばれる方法がある。この方法は、底壁基板をベルジャーで覆うことにより形成された反応室の内部にシリコン芯線を配置し、該シリコン芯線に通電することによってシリコン芯線をシリコンの析出温度に加熱し、ここにシラン系化合物と水素等の還元性ガスとを供給することによってシリコンをシリコン芯線上に析出させ多結晶シリコンロッドを得る方法である。この方法は、高純度なシリコンが得られることが特徴であり、最も一般的な方法として工業的に実施されている。
【0003】
ところで、半導体の材料として好適に使用される高純度のシリコンの電気抵抗は、非常に高く、温度が高い程、該電気抵抗が小さくなる傾向があることが知られている。従って、前記シリコン芯線に通電を行う前記方法を実施するにあたっては、スタートアップ時に該シリコン芯線に直接通電することは困難であり、通電可能な温度(具体的には、350℃以上)に加熱する必要がある。
【0004】
それ故、従来から、上記シリコン芯線の加熱は、反応室内に、シリコン芯線を予熱するための抵抗性材料からなるヒーターを併設した装置が一般的に用いられる。そして、この抵抗性材料からなるヒーターの素材としては、例えば、高融点金属(特許文献1参照)や炭素(特許文献2参照)等が用いられる。
【0005】
ところが、上記従来のヒーターを使用した方法においては、ヒーターによる加熱時、更にはシリコンの析出時に、生成する多結晶シリコンの汚染が問題となる。
【0006】
即ち、上記抵抗性材料からなるヒーターを通電し、シリコン芯線を加熱する間、そして、シリコン芯線を通電して化学気相成長が進む間、反応室内は非常に高温となる。更に、化学気相成長が進む間、反応室内は、反応性ガスと反応により生成した副生成ガス(シラン系化合物のガス、水素ガス、テトラクロロシラン、及び、塩化水素等)に高温下で曝されることとなる。その結果、前記ヒーターによる加熱時やシリコンの析出時に、上記ヒーター由来の、金属化合物、カーボン、その他、かかるスタートアップ時の反応室内の雰囲気温度は、一般には常温であるが、反応室の壁を温水、蒸気などの熱媒体で加熱する、若しくは、加熱した窒素ガスや水素ガスなどを反応室内に循環させる場合は、それ以上の温度となる場合もある。ヒーターに含有される不純物等がヒーター表面より反応室内に拡散し、析出するシリコンを汚染する。」
ウ 「【0021】
本発明においては、上記ヒーターとして、スタートアップ時の雰囲気温度で通電可能なシリコンよりなるヒーター(以下、シリコンヒーター)を併設し、上記シリコンヒーターに通電を行い発熱させ、その輻射熱でシリコン芯線を通電可能な温度に加熱することを最大の特徴とする。
・・・
【0026】
前記シリコンヒーターの電気抵抗は、電気抵抗率、ヒーターの形状、長さによって変化するので適宜調整すれば良く、例えば、該シリコンヒーターの電気抵抗が750ohmの場合、起動電流が20アンペアで、15000V程度の電圧をかけることにより、容易に通電が可能となる。
【0027】
また、一般にシリコンの電気抵抗は、温度が高ければ高いほど小さくなる傾向を有するため、同じ純度のシリコンヒーターであれば、スタートアップ時の雰囲気温度が高い程、安定して通電可能となる。
【0028】
次に、該シリコンヒーターの電気抵抗率を調整する方法について説明する。一般に、シリコンの電気抵抗率は、純度が高くなると大きくなるが、極僅かな不純物を添加するだけで、その電気抵抗率が大きく低下するという特徴を有する。従って、上記シリコンヒーターの電気伝導率を調整する一態様として、例えば、電気抵抗率が上記範囲の金属シリコンを溶融して、ヒーター形状に加工して使用することもできるし、本発明の方法、或いは従来の方法によって得られる高純度の多結晶シリコンロッドを溶融し、不純物を添加して電気抵抗率を上記範囲に調整し、ヒーターの形状に加工して使用することもできる。
【0029】
不純物を添加して電気抵抗率を調整する場合に添加する不純物の種類は、特に限定されないが、たとえば、リン(P)、ヒ素(As)等V族の元素、もしくは、ホウ素(B)等III族の元素を添加することが、微量の添加量で電気抵抗率を容易に調整できるため好ましい。また、添加量は、もとのシリコンの純度や添加する不純物の種類に依存するため一概には言えないが、目的の電気抵抗率が得られるよう、電気抵抗率と相対的に調整し、添加すればよい。」
エ 「【実施例】
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
実施例1
底壁基板をベルジャーで覆うことにより形成される反応室内に、独立した電極を有する逆U字型形状の、シリコンヒーターとシリコン芯線を一対設置した。上記シリコンヒーターの径は約8mm、電気抵抗は、常温で398ohm、電気抵抗率は0.53ohm-cm、カーボン濃度は0.5ppma、上記シリコン芯線の径は約8mm、電気抵抗率は常温で3248ohm-cm、カーボン濃度0.03ppmaであった。最初に、上記シリコンヒーターに、電極を介して、7966Vにて通電を行い、該シリコンヒーターの輻射熱により上記シリコン芯線を加熱した。該シリコン芯線が852℃に達したところで、電極を介してシリコン芯線の通電を開始した。その後、シリコンヒーターの通電を停止し、シリコン芯線の温度を1050℃に保持し、トリクロロシランガスと水素ガスの供給を開始し、多結晶シリコンの析出を行った。析出終了後、シリコン芯線より得られた多結晶シリコンロッド(径約120mm)を回収し、該多結晶シリコンロッドのカーボン濃度を測定したところ、カーボン濃度は平均で0.001ppmaであった。」
(4) 引用文献3の記載事項
引用文献3には、「多結晶シリコンロッドの製造方法および装置」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「【請求項1】 密閉された反応炉の内部にシリコン製の芯棒を立設し、反応炉内部にシリコンの原料ガスを導入すると共に上記芯棒を加熱してその表面に原料ガスの加熱分解によって生じた多結晶シリコンを析出させる多結晶シリコンの製造方法において、反応炉にシリコン芯棒を加熱する赤外線照射手段を設け、この赤外線照射手段によってシリコン芯棒を加熱して通電させ、加熱したシリコン芯棒の熱によって周囲のシリコン芯棒を順に加熱して通電させ、通電により赤熱したシリコン芯棒の表面に多結晶シリコンを析出させることを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、赤熱したシリコン芯棒表面に多結晶シリコンを析出させる製造炉において、加熱用カーボンロッドによる汚染がなく、またカーボンロッド交換の手間がかからない多結晶シリコンの製造方法と装置に関する。
【0002】
【従来の技術】半導体材料となる高純度の多結晶シリコンの製造方法としてシーメンス法が知られている。この方法は、クロルシランと水素の混合ガス等からなる原料ガスを赤熱したシリコン芯棒に接触させて、その表面に原料ガスの加熱分解により生じた多結晶シリコンを析出させる製造方法であり、密閉した反応炉に多数のシリコン芯棒を立設した製造装置が用いられている。一般に、このシリコン芯棒は逆U字状に形成されており、その両端が反応炉の炉底に設置した電極に固定されている。操業時には、この両端の電極からシリコン芯棒全体に電気を通じ、その抵抗熱によってシリコン芯棒全体を原料ガスの熱分解温度、例えば1050℃程度に赤熱する。
【0003】この場合、シリコンは常温下では電気抵抗が格段に大きく、概ね1万Ω・cm程度の比抵抗を示すのでこの状態では通電できない。ただし、これを千℃前後に加熱すると比抵抗は大幅に低下して0.01Ω・cm程度になり、通電できるようになる。そこで、多結晶シリコンの製造装置では、操業開始時にシリコン芯棒を加熱する手段が必要であり、従来の製造装置は、図9に示すように、反応炉10の中央に加熱用のカーボンロッド50が設けられている。操業開始時には、まずこのカーボンロッド50に通電して発熱させ、この熱によってカーボンロッド周辺のシリコン芯棒13を加熱して通電できる状態にし、この通電加熱によって周囲のシリコン芯棒13を加熱し、これを繰り返して反応炉内の全てのシリコン芯棒13を順に通電し、原料ガスが分解する温度まで赤熱させる。
【0004】
【発明の解決課題】このように、カーボンロッドヒータを用いてシリコン芯棒を加熱する従来の反応炉では、カーボンロッドの表面にもシリコンが析出するので原料ガスが無駄になり、また製造バッチごとにカーボンロッドを交換する必要があるため製造効率が低下する。さらにカーボンによる汚染が避けられない等の問題がある。
【0005】
【課題を解決する手段】本発明は、従来の製造方法ないし装置におけるこのような問題を解決したものであって、加熱用のカーボンロッドを用いず、従って、カーボンによる汚染がなく、その交換も不要な製造装置を提供するものである。」
ウ 「【0022】
【発明の効果】本発明の製造方法および装置はカーボンヒータを用いないので、カーボンによる汚染がなく、高純度の多結晶シリコン棒を製造することができる。また、カーボンロッドを交換することがないのでその手間がかからず製造効率が良い。さらに、カーボンロッドに占拠されていた反応炉の中心部にシリコン芯棒を設置することができるのでシリコン芯棒について配列の自由度が増す。」
(5) 引用文献2-2の記載事項
引用文献2-2には、「半導体材料の炭素含量最小化法」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「〔発明が解決しようとする課題〕
黒鉛は、半導体シリコンを製造する化学蒸着工程に供給する原料の加熱装置の構成材料として使用される。黒鉛は、後続の半導体シリコンの処理装置および半導体シリコンのガス状又は液体前駆物質の調製装置にも使用される。黒鉛は高温におけるその望ましい機械的および化学的性質のために利用される。しかしながら、黒鉛は半導体材料への不純物の寄与材料であることが知られている。本発明者は、炭素不純物は水素と黒鉛の反応を介して半導体シリコンに導入されてメタンおよび他の揮発性炭化水素および/またはオルガノシランを生成し、続いてこれらの炭化水素と前駆物質のシランと反応してオルガノシランを生成すると考えている。そのオルガノシランは、次にシランと共に分解し、炭素質の不純物で汚染された半導体シリコンを生成すると考えられる。さらに、メタンおよび他の揮発性炭化水素およびオルガノシランからの炭素は、これらの物質で汚染された前駆物質のシランの分解中に直接半導体シリコンに導入されると考えられる。」(2頁左下欄下から6行目?右下欄下から6行目)
イ 「高温において黒鉛と水素間の反応が生じてメタンおよび他の炭化水素を生成することがわかった。さらに、水素ガスのメタン汚染は、シランの化学蒸着および後続のシリコンの蒸着からの最終半導体多結晶の炭素含量における顕著な増加と相関関係があることがわかつた。本発明者は、トリクロロシランとメタンおよび他の炭化水素との反応によりオルガノクロロシランを生成することによつてオルガノクロロシランとして導入されると考える。オルガノクロロシランの分解およびシリコンの蒸着は炭素で汚染された半導体シリコンをもたらす。後述の例は、これらの反応が実際に生じることを示す。」(3頁左上欄13行?右上欄5行目)
ウ 〔作用〕
メタンは半導体シリコンの炭素汚染に関して主要な炭素含有物質であるが、他の揮発性炭化水素物質も炭素汚染に寄与すると考えられる。本発明における用語「他の揮発性炭化水素物質」は、大気圧下において室温以下である沸点を有する炭素と水素を含有する物質を意味する。本発明者は、水素は500℃と低い温度において炭素質表面を侵してメタンおよび他の揮発性炭化水素物質を相当な速度で生成すると考えている。従つて、500℃以上の温度において水素の環境にさらされる半導体材料製造用反応器系の炭素質表面は、水素によつて侵されてメタンおよび他の揮発性炭化水素物質を生成する。
本発明者は、炭素質の不純物はメタンを生成する水素と炭素の反応および後続のオルガノシランを生成するメタンと前駆物質シランとの反応を介して半導体シリコンに導入されると考えている。そのオルガノシランは次にシランと共に分解して、炭素質不純物と共に半導体シリコンを生成すると考えられる。」(3頁右下欄下から6行目?4頁左上欄15行)
エ 「第5表は、加熱黒鉛の表面と接触後における水素ガス流の分析結果の要約である。・・・。
第6表はこれらの実験で生成された多結晶材料および単結晶材料の炭素分析結果を示す。・・・。
上記の結果は、トリクロロシランの水素還元によつて生成された半導体シリコンの炭素含量が水素供給流へのメタンの導入と共に著しく増大することを示す。さらに、上記の結果は高水準の二酸化炭素は蒸着された半導体シリコンの炭素含量に影響を与えないことを示すと共に、高温で水素ガスが黒鉛の表面と接触するとメタンを生成することを示している。」(6頁右上欄下から3行目?右下欄最下行)

3 引用文献1-1に記載された発明(「引1-1発明」)
引用文献1-1の【請求項1】には、「ケイ素含有成分と水素を有する反応ガスを反応器中に導入することによってシリコンを析出させる、多結晶シリコンの製造法において、第1の反応器中での第1の析出プロセスからの精製された凝縮液を、第2の反応器に供給し、この第2の反応器中での第2の析出プロセスに際して使用することを特徴とする、多結晶シリコンの製造法。」が記載され、当該製造法は、同【請求項8】の記載によれば、1ppbaより小さい炭素含有率を有する多結晶シリコンを製造するためのものであり、同【請求項5】の記載によれば、一般に、シーメンス法と呼ばれるものであることが分かるから、引用文献1-1には、次の発明(以下、「引1-1-1発明」という。)が記載されているといえる。
「ケイ素含有成分と水素を有する反応ガスを反応器中に導入することによってシリコンを析出させ、1ppbaより小さい炭素含有率を有する多結晶シリコンを製造する、シーメンス法による多結晶シリコンの製造法において、第1の反応器中での第1の析出プロセスからの精製された凝縮液を、第2の反応器に供給し、この第2の反応器中での第2の析出プロセスに際して使用する、多結晶シリコンの製造法。」
また、引用文献1-1の【0095】?【0097】には、オフガス中のメタン含有率を検知し、当該含有率が高くなった場合、シリコンの炭素汚染を防止するための措置を採って、当該含有率の低減を図ることが記載されているから、引用文献1-1には、次の発明(以下、「引1-1-2発明」という。)についても記載されているということができる。
「ケイ素含有成分と水素を有する反応ガスを反応器中に導入することによってシリコンを析出させ、1ppbaより小さい炭素含有率を有する多結晶シリコンを製造する、シーメンス法による多結晶シリコンの製造法において、オフガス中のメタン含有率を検知し、当該含有率が高くなった場合、シリコンの炭素汚染を防止するための措置を採って、当該含有率の低減を図る方法。」

4 引用文献1-2に記載された発明(「引1-2発明」)
引用文献1-2には、分解温度に加熱されたキャリア体上の半導体材料のガス状化合物を熱分解して、キャリア体上に純粋な半導体材料を堆積させるためのプロセスが記載され(上記2(2)ア)、具体的には、シリコンキャリア体上に多結晶シリコンを蒸着する多結晶シリコンロッドの製造方法であって、蒸着ガスの導入に先立って、反応空間に加熱フィンガーを導入し、シリコンキャリア体を着火温度まで加熱し、着火後、加熱フィンガーを反応容器から取り外し、シリコンキャリア体に電流を流して分解温度まで加熱した後、蒸着ガスを反応容器内に導入することが記載されている(上記2(2)イ、ウ)。そして、当該製造方法は、図1、2及びその説明からみて、一般にシーメンス法と呼ばれるものということができる(上記2(2)エ、オ)。
そうすると、引用文献1-2には、次の発明(以下、「引1-2発明」という。)が記載されているといえる。
「シーメンス法による多結晶シリコンロッドの製造方法であって、蒸着ガスの導入に先立って、反応空間に加熱フィンガーを導入し、シリコンキャリア体を着火温度まで加熱し、着火後、加熱フィンガーを反応容器から取り外し、シリコンキャリア体に電流を流して分解温度まで加熱した後、蒸着ガスを反応容器内に導入し、分解温度に加熱されたシリコンキャリア体上に、ガス状化合物を熱分解して純粋な多結晶シリコンを蒸着させる製造方法。」

5 引用文献2-1に記載された発明(「引2-1発明」)
引用文献2-1の【請求項1】には、「反応室内に設置されたシリコン芯線を通電により加熱し、上記反応室内にシラン系化合物及び還元性ガスを原料ガスとして供給して、化学気相成長法によって該シリコン芯線表面にシリコンを析出させる多結晶シリコンロッドの製造方法において、スタートアップ時の雰囲気温度で通電可能なシリコンよりなるヒーターを上記シリコン芯線に併設し、上記ヒーターに通電を行って、発熱させることにより、前記シリコン芯線を加熱した後、前記シリコン芯線に通電を行うことを特徴とする多結晶シリコンロッドの製造方法。」が記載され、当該製造方法は、同【0002】の記載によれば、シーメンス法であり、同【0055】の実施例1の記載によれば、カーボン濃度0.001ppma、すなわちカーボン濃度1ppbaの多結晶シリコンロッドを製造することができるものであり、さらに、当該請求項1に係る製造方法中の「スタートアップ時の雰囲気温度で通電可能なシリコン」は、同【0026】、【0029】の記載によれば、その電気抵抗の電気抵抗率などにより調整するものであって、不純物を添加して電気抵抗率を調整する場合には、不純物として、たとえば、リン(P)、ヒ素(As)等V族の元素、もしくは、ホウ素(B)等III族の元素を添加するものであることが分かるから、引用文献2-1には、次の発明(以下、「引2-1発明」という。)が記載されているといえる。
「反応室内に設置されたシリコン芯線を通電により加熱し、上記反応室内にシラン系化合物及び還元性ガスを原料ガスとして供給して、化学気相成長法によって該シリコン芯線表面にシリコンを析出させ、カーボン濃度1ppbaの多結晶シリコンロッドを製造する、シーメンス法による多結晶シリコンロッドの製造方法において、スタートアップ時の雰囲気温度で通電可能なシリコンよりなるヒーターを上記シリコン芯線に併設し、上記ヒーターに通電を行って、発熱させることにより、前記シリコン芯線を加熱した後、前記シリコン芯線に通電を行うものであって、上記ヒーターは、不純物としてリン(P)、ヒ素(As)等V族の元素、もしくは、ホウ素(B)等III族の元素を添加して電気抵抗率を調整するなどして電気抵抗を調整したものである、多結晶シリコンロッドの製造方法。」

6 引用文献3に記載された発明(「引3発明」)
引用文献3の【請求項1】には、「密閉された反応炉の内部にシリコン製の芯棒を立設し、反応炉内部にシリコンの原料ガスを導入すると共に上記芯棒を加熱してその表面に原料ガスの加熱分解によって生じた多結晶シリコンを析出させる多結晶シリコンの製造方法において、反応炉にシリコン芯棒を加熱する赤外線照射手段を設け、この赤外線照射手段によってシリコン芯棒を加熱して通電させ、加熱したシリコン芯棒の熱によって周囲のシリコン芯棒を順に加熱して通電させ、通電により赤熱したシリコン芯棒の表面に多結晶シリコンを析出させることを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。」が記載され、当該製造方法は、同【0002】の記載などによれば、シーメンス法であるといえるから、引用文献3には、次の発明(以下、「引3発明」という。)が記載されているといえる。
「密閉された反応炉の内部にシリコン製の芯棒を立設し、反応炉内部にシリコンの原料ガスを導入すると共に上記芯棒を加熱してその表面に原料ガスの加熱分解によって生じた多結晶シリコンを析出させる、シーメンス法による多結晶シリコンの製造方法において、反応炉にシリコン芯棒を加熱する赤外線照射手段を設け、この赤外線照射手段によってシリコン芯棒を加熱して通電させ、加熱したシリコン芯棒の熱によって周囲のシリコン芯棒を順に加熱して通電させ、通電により赤熱したシリコン芯棒の表面に多結晶シリコンを析出させることを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。」

7 新規性進歩性の判断にあたって前提とした事項
(1) シーメンス法により多結晶シリコンを製造する際、炭素などの不純物の濃度を低減する必要があることはいうまでもないところ、炭素に着目した場合、反応炉内において、その汚染源(多結晶シリコン中の不純物炭素濃度に影響を与える主たる要因)として考えられるのは、シリコン芯線を予備加熱するためのヒータであると解するのが合理的である(引用文献2-1の【0004】?【0006】、引用文献3の【0004】、【0022】などを参照した。)。なぜなら、反応炉内の部材や原料ガスなどに含まれる汚染炭素源については、製品への混入に対する当然の配慮から、通常、何らかの対処が既になされていると解されるからである。事実、本件発明においても、カーボンヒータ以外の部材や原料ガス等への特別な配慮はない。
(2) また、製造された多結晶シリコン中の不純物炭素濃度は、反応炉内の炭素源(ヒータ)と供給ガス中の水素とが反応して生成されるメタンガス濃度(排ガス中のメタン濃度)と関連していることは、当該技術分野における技術常識であると解するのが相当である(引用文献1-1の【0097】、引用文献2-2の上記2(5)イ?エなどを参酌した。)。事実、本件明細書の【0034】には、この点が既に知られた事実として記載されており、特許権者の新たな知見であるとはされていない。
(3) 以上の点にかんがみ、以降の新規性進歩性の検討においては、次の点を前提(技術常識)として判断することとした。
ア 排ガス中のメタン濃度は、製造される多結晶シリコンのカーボン濃度のバロメーターとなるものであり、逆にいえば、当該カーボン濃度が低い多結晶シリコンが製造されているのであれば、排ガス中のメタン濃度(生成されたメタンの濃度)も低いと解することができること。そして、当該カーボン濃度が本件発明と同程度であれば、当該メタン濃度も本件発明と同程度であると考えるのが合理的であること。
イ 多結晶シリコンのカーボン汚染源は、カーボンヒータにあり、そうである以上、そもそも、(i)反応炉内にヒータが存在しないもの、(ii)ヒータが存在したとしても、カーボン製でないもの、(iii)カーボンヒータを用いていたとしても、多結晶シリコンの析出反応工程において当該カーボンヒータを退避しているものにあっては、製造される多結晶シリコンのカーボン濃度は低いものであって、ひいては、上記アのとおり、排ガス中のメタン濃度も低いと解すべきであること。そして、上記(i)?(iii)の場合、製造された多結晶シリコン中のカーボン濃度が不明であっても、当該カーボン濃度は極めて低いものであって、その数値はカーボンヒータを退避させる本件発明と同程度であり、結果として、排ガス中のメタン濃度も本件発明と同程度であると考えるのが合理的であること。

8 「引1-1-1発明」、「引1-2発明」、「引2-1発明」、「引3発明」に基づく本件発明1、2の新規性進歩性について
(1) 「引1-1-1発明」、「引1-2発明」、「引2-1発明」、「引3発明」(以下、まとめて「引用発明」ということがある。)はいずれも、シーメンス法による多結晶シリコンの製造方法である点で、本件発明1、2と共通するものといえる。
(2) ア 他方、「引1-1-1発明」、「引2-1発明」は、本件発明2のカーボン濃度の規定を満足するものの、本件発明1、2のメタン濃度の規定を満足するか否かは不明であるし、「引1-2発明」、「引3発明」については、当該カーボン濃度の規定についても満足するか否かは不明である。
イ また、これらの発明は、上記本件訂正により本件発明1、2に追加された「多結晶シリコンの析出反応工程開始前にカーボンヒータを析出反応空間から退避させる」という技術的事項に有しない。なお、「引1-2発明」は、加熱フィンガーを退避させるものではあるが、当該加熱フィンガーはカーボンヒータではない。
(3) そして、上記(2)アについては、上記7(3)において整理した前提事項(技術常識)に照らすと、「引1-1-1発明」、「引2-1発明」は、本件発明2のカーボン濃度の規定を満足するものであるから、上記7(3)アのとおり、本件発明1、2のメタン濃度の規定を満足するものと解するのが合理的であるし、「引1-2発明」、「引3発明」は、それぞれ上記7(3)イの(ii)、(i)の場合に該当するものであるから、本件発明1、2のカーボン濃度の規定及びメタン濃度の規定を満足するものと考えるのが合理的である。
しかしながら、上記(2)イのとおり、本件発明1、2における「多結晶シリコンの析出反応工程開始前にカーボンヒータを析出反応空間から退避させる」という技術的事項については、いずれの引用発明も具備しないから、当該技術的事項は、本件発明1、2と引用発明との間の実質的な相違点であるということができる。また、上記の証拠のいずれにも当該技術的事項に関する記載は認められないから、各引用発明において、当該技術的事項を採用することが当業者にとって容易なこととはいえない。
(4) したがって、本件発明1、2は、「引1-1-1発明」、「引1-2発明」、「引2-1発明」、「引3発明」に対して、新規性を欠如するとも、進歩性を欠如するともいえない。

9 「引1-1-2発明」に基づく本件発明1、2の進歩性について
「引1-1-2発明」を主たる引用発明としてみても事情は同じであるから、本件発明1、2が、「引1-1-2発明」に対して進歩性を欠如するということもできない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要と当該特許異議申立理由についての当審の判断

申立人1、2がそれぞれ主張する特許異議申立理由のうち、新規性進歩性に関する理由は、上記第5において検討した取消理由1、2(新規性進歩性)とおおよそ同じであるから、ここでは、それ以外の特許異議申立理由、すなわち、記載不備に関する理由について検討をする。
申立人1、2が主張する記載不備に関する理由は、排ガス中のメタン濃度及び多結晶中のカーボン濃度に関連する事項であり、具体的には、本件明細書の発明の詳細な説明は、これらの濃度の測定手法について開示するものではないため、実施可能要件違反の不備があるし、特許請求の範囲に記載されたこれらの濃度は、その検出限界との関係や下限値が明確でないため、明確性要件違反ないしサポート要件違反の不備があるというものである(なお、申立人2は、本件請求項2に記載された「10ppba」が、排ガス中のカーボン濃度であるのか、多結晶中のカーボン濃度であるのかが不明であるというが、その文脈からみて後者であることは明らかである。)。
しかしながら、例えば、上記第5の1(1)に記載した引用文献1-1(申立人1が甲第1号証として提出した特開2012-56836号公報)には、上記第5の2(1)イの【0064】、【0096】の記載のとおり、シーメンス法に係る技術分野において、上記濃度を測定することは普通に行われており、その測定手法は当業者が既に熟知するところというべきであるから、本件明細書の発明の詳細な説明において、当該測定手法について詳述されていないとしても、そのことが実施可能要件違反の不備にあたるとは言い難い。
また、本件特許請求の範囲に記載された当該濃度は、その数値範囲自体に不明確なところはない上、検出限界との関係が定かでないとしても、そのことが当該濃度の数値範囲を不明確にするわけでもないから、明確性要件違反の不備が存するとは認められない。加えて、当該濃度の数値範囲には下限値が示されていないが、本件発明の課題は、本件明細書の【0013】に記載されるとおり、カーボンヒータを用いた場合においても、当該カーボンヒータからの炭素汚染を抑制し、多結晶シリコン中に含まれる炭素濃度を低減することにあるから、当該課題が解決できているか否かは、当該濃度の上限値(当該低減の程度)がおおよそ理解できれば事足り、例えば、測定装置の検出限界を超えてまで、測定濃度の下限値を示すことに特段の意味はない。その上、相応の下限値が存在することは当業者であれば理解できるのであるから、特許請求の範囲において当該濃度の下限値がないことのみをもって、ただちにサポート要件違反の不備があるとはいえない。
以上のとおりであるから、特許異議申立人が主張する記載不備に関する特許異議申立理由は当を得たものとはいえず採用することはできない。

第7 結び

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許1、2を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1、2を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーメンス法による多結晶シリコンの製造方法であって、
多結晶シリコンの析出反応工程開始前にカーボンヒータを析出反応空間から退避させることにより、多結晶シリコンの析出反応工程を通じて、反応炉内からの排ガス中のメタン濃度を0.100volppm未満とする、ことを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。
【請求項2】
シーメンス法による多結晶シリコンの製造方法であって、
多結晶シリコンの析出反応工程開始前にカーボンヒータを析出反応空間から退避させることにより、多結晶シリコンの析出反応工程を通じて、反応炉内からの排ガス中のメタン濃度を0.100volppm未満とし、カーボン濃度が10ppba以下である多結晶シリコンを製造する、ことを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-01 
出願番号 特願2018-96778(P2018-96778)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C01B)
P 1 651・ 851- YAA (C01B)
P 1 651・ 537- YAA (C01B)
P 1 651・ 113- YAA (C01B)
P 1 651・ 536- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 廣野 知子  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 末松 佳記
日比野 隆治
登録日 2020-04-20 
登録番号 特許第6694002号(P6694002)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 多結晶シリコンの製造方法  
代理人 特許業務法人坂本国際特許商標事務所  
代理人 片山 健一  
代理人 坂本 智弘  
代理人 片山 健一  
代理人 坂本 智弘  
代理人 特許業務法人サカモト・アンド・パートナーズ  
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