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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1376728
異議申立番号 異議2020-700207  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-25 
確定日 2021-07-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6581991号発明「電池用カーボンブラック、混合粉末、電池用塗工液、電池用電極および電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6581991号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-17〕について訂正することを認める。 特許第6581991号の請求項3、6、10、11、15?17に係る特許を維持する。 特許第6581991号の請求項1、2、4、5、7?9、12?14についての特許異議申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6581991号の請求項1?16に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2015年(平成27年)9月8日(優先権主張 2014年(平成26年)9月9日)を国際出願日とする出願であって、令和1年9月6日付けでその特許権の設定登録がなされ、同年9月25日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、令和2年3月25日に特許異議申立人実川栄一郎(以下、「申立人」という。)より請求項1?16(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがなされ、令和2年6月29日付けで取消理由(以下、「取消理由1」という。)が通知され、これに対して、同年8月27日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求がなされ、その後、同年10月16日に、同年8月27日になされた訂正請求に係る訂正について、申立人から意見書が提出され、さらに、令和2年11月30日付けで取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由2」という。)が通知され、これに対して、令和3年1月29日に特許権者より意見書(以下、「意見書」という。)が提出されるとともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、その後、同年4月23日に、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)について、申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6581991号の特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?17について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、令和2年8月27日になされた訂正請求は、本件訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
また、訂正箇所には、当審で下線を付した。

(1)訂正事項1
請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
請求項3について、本件訂正前の「活物質と、高分子結着剤と、請求項1又は2に記載の電池用正極用カーボンブラックと、を含む、電池用塗工液。」を、「活物質と、高分子結着剤と、個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下である電池用正極用カーボンブラックと、高分子分散材と、を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、電池用塗工液。」と訂正する。

(4)訂正事項4
請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
請求項6について、本件訂正前の「前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下である、請求項4又は5に記載の電池用塗工液。」を、「活物質と、高分子結着剤と、個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下であり、アセチレンブラックである電池用正極用カーボンブラックと、高分子分散剤と、を含み、 前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、電池用塗工液。」と訂正する。

(7)訂正事項7
請求項7を削除する。

(8)訂正事項8
請求項8を削除する。

(9)訂正事項9
請求項9を削除する。

(10)訂正事項10
請求項10について、本件訂正前の「金属箔と、該金属箔上に形成された請求項1又は2に記載の電池用正極用カーボンブラックを含む塗膜と、を備える、電池用電極。」を「金属箔と、該金属箔上に形成された、個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下である電池用正極用カーボンブラック、及び、高分子分散剤を含む塗膜と、を備え、前記塗膜における前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、電池用電極。」と訂正する。

(11)訂正事項11
請求項12を削除する。

(12)訂正事項12
請求項13を削除する。

(13)訂正事項13
請求項14を削除する。

(14)訂正事項14
請求項15について、本件訂正前の「請求項10?14のいずれか一項」を「請求項10又は11」と訂正する。

(15)訂正事項15
請求項16について、本件訂正前の「請求項3?6および9のいずれか一項」を「請求項3又は6」と訂正する。

(16)訂正事項16
「金属箔と、該金属箔上に形成された、個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下であり、アセチレンブラックである電池用正極用カーボンブラック、及び、高分子分散剤を含む塗膜と、を備え、 前記塗膜における前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤がポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、電池用電極。」を新たに請求項17とする。

2 当審の判断
2-1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
(1)訂正事項1、2、4、5、7?9、11?13
訂正事項1、2、4、5、7?9、11?13は、それぞれ請求項1、2、4、5、7?9、12?14を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載された範囲内の訂正である。

(2)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項1、3?5を引用する請求項6について、請求項1、3?5の発明特定事項を請求項6に繰り入れて新たな独立項である請求項3とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

(3)訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の請求項1?5を引用する請求項6について、請求項1?5の発明特定事項を請求項6に繰り入れて新たな独立項である請求項6とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

(4)訂正事項10
訂正事項10は、訂正前の請求項1、10、12、13を引用する請求項14について、請求項1、10、12及び13の発明特定事項を請求項14に繰り入れて新たな独立項である請求項10とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

(5)訂正事項14
訂正事項14は、訂正事項11?13において請求項12?14を削除することに伴い、本件訂正前の請求項15について、請求項12?14を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

(6)訂正事項15
訂正事項15は、訂正事項4、5、9において請求項4、5、9を削除することに伴い、本件訂正前の請求項16について、請求項4、5、9を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

(7)訂正事項16
訂正前の請求項10は訂正前の請求項1、又は、訂正前の請求項2(同項は訂正前の請求項1を引用)を引用するものであるところ、訂正事項10は、訂正前の請求項1、10、12、13を引用する請求項14について、請求項1、10、12及び13の発明特定事項を請求項14に繰り入れて新たな独立項である請求項10とするものである(上記(4)参照。)。
一方、訂正事項16は、訂正前の請求項1、2、10、12、13を引用する請求項14について、請求項1、2、10、12及び13の発明特定事項を請求項14に繰り入れて、新たな独立項である請求項17とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載された範囲内の訂正である。

2-2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?16は、それぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正前の請求項1?16は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1?17〕をそれぞれ訂正単位とする訂正の請求をするものである。

2-3 独立特許要件について
本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、令和3年1月29日に特許権者が行った訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?17〕についての訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
令和3年1月29日に特許権者が行った請求項1?17についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?17に係る発明(以下、請求項1?17に係る発明をそれぞれ「本件発明1」?「本件発明17」という。また、請求項1?17に係る発明をまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?17に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
活物質と、
高分子結着剤と、
個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下である電池用正極用カーボンブラックと、
高分子分散材と、
を含み、
前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、
前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、電池用塗工液。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
活物質と、
高分子結着剤と、
個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下であり、アセチレンブラックである電池用正極用カーボンブラックと、
高分子分散剤と、
を含み、
前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、
前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、電池用塗工液。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
金属箔と、
該金属箔上に形成された、個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下である電池用正極用カーボンブラック、及び、高分子分散剤を含む塗膜と、
を備え、
前記塗膜における前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、
前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、電池用電極。
【請求項11】
前記塗膜が、活物質および高分子結着剤をさらに含む、請求項10に記載の電池用電極。
【請求項12】
(削除)
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
(削除)
【請求項15】
請求項10又は11に記載の電池用電極を備える電池。
【請求項16】
請求項3又は6に記載の電池用塗工液を金属箔上に塗布して、前記金属箔と前記電池用塗工液から形成された塗膜とを備える電池用電極を得る工程を含む、電池用電極の製造方法。
【請求項17】
金属箔と、
該金属箔上に形成された、個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下であり、アセチレンブラックである電池用正極用カーボンブラック、及び、高分子分散剤を含む塗膜と、
を備え、
前記塗膜における前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、
前記高分子分散剤がポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、電池用電極。」

2 特許異議の申立ての理由、取消理由1及び取消理由2の概要
2-1 申立人は、次の証拠を挙げて、次の(1)?(3)の特許異議の申立ての理由(後記のとおり、対象請求項及び証拠方法に応じて、「申立理由1」?「申立理由8」とする。)を主張した。
(証拠方法)
甲第1号証 国際公開第2014/119790号(以下、「甲1」という。)
甲第2号証 特開2013-152817号公報(以下、「甲2」という。)
甲第3号証 国際公開第2013/151062号(以下、「甲3」という。)
甲第4号証 特開2006-253081号公報(以下、「甲4」という。)
甲第5号証 デンカ株式会社,「デンカブラック(登録商標)」の製品情報(https://www.denka.co.jp/product/detail_00025/)(以下、「甲5」という。),2020.3.21(出力日)
甲第6号証 「カーボンブラックのナノマテリアルとしての安全性」,カーボンブラック協会,第一版,2011.3.23発行,第6頁第22?24行
甲第7号証 特開平11-60986号公報(以下、「甲7」という。)
甲第8号証 国際公開第2014/012002号(以下、「甲8」という。)
甲第9号証 特表2007-505975号公報(以下、「甲9」という。)
甲第10号証 和田徹也,「アセチレンブラックの製造方法,粉体特性ならびに用途」,炭素材料学会,2011年4月1日発行,炭素2011,No.247,p75-79(以下、「甲10」という。)
甲第11号証 特開2014-241279号公報(以下、「甲11」という。)
甲第12号証 特開2012-9227号公報(以下、「甲12」という。)
甲第13号証 特開2010-61996号公報(以下、「甲13」という。)
甲第14号証 特開2009-26744号公報(以下、「甲14」という。)
甲第15号証 特開2010-49873号公報(以下、「甲15」という。)

(1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(3)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前の特許出願であって、本件特許の優先日後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(申立理由1、取消理由1で採用)
・請求項1?3、10、15について
理由(1)
甲1

(申立理由2、取消理由1で一部採用)
・請求項1?5、10?13、15、16について
理由(1)
甲2

・請求項6?9、14?16について
理由(2)
甲2

(申立理由3、取消理由1及び取消理由2で一部採用)
・請求項1?4、12について
理由(1)
甲3

・請求項5、6、13について
理由(2)
甲3及び甲2

・請求項10、11について
理由(2)
甲3、及び、甲1、甲2または甲4

(申立理由4、取消理由1で採用)
・請求項1?3、10、11、15、16について
理由(1)
甲4

(申立理由5)
・請求項1、10、11について
理由(2)
甲7、甲1、甲4及び甲10

・請求項3について
理由(2)
甲7、甲1?甲4及び甲10

・請求項4、12について
理由(2)
甲7、甲2、甲3及び甲10

(申立理由6)
・請求項1、10、11について
理由(2)
甲8、甲1及び甲10

・請求項3について
理由(2)
甲8、甲1?甲4及び甲10

・請求項4、12について
理由(2)
甲8、甲2、甲3及び甲10

(申立理由7)
・請求項1、10、11について
理由(2)
甲9、甲1及び甲10

・請求項2について
理由(2)
甲9及び甲3

・請求項3について
理由(2)
甲9、甲1?甲4及び甲10

・請求項4、12について
理由(2)
甲9、甲2、甲3及び甲10

(申立理由8、取消理由1で一部採用)
・請求項1?16について
理由(3)
甲11に係る出願

2-2 また、合議体において、次の(1)?(3)の取消理由1を通知した。
(1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(3)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前の特許出願であって、本件特許の優先日後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明又は考案と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(申立理由1を採用)
・請求項1?3、10、11、15、16について
理由(1)、(2)
甲1

(申立理由2を一部採用)
・請求項1?3、10、11、15、16について
理由(1)、(2)
甲2

・請求項4、5、12、13について
理由(2)
甲2

(申立理由3を一部採用)
・請求項1?4、10?12、15、16について
理由(1)、(2)
甲3

・請求項5、13について
理由(2)
甲3及び甲2

(申立理由4を採用)
・請求項1?3、10、11、15、16について
理由(1)、(2)
甲4

(申立理由8を一部採用)
・請求項1、3、10、11、15、16について
理由(3)
甲11に係る特許出願

2-3 さらに、合議体において、次の(1)?(3)の取消理由2を通知した。
(1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(3)本件の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明に記載された、アセチレンブラックSB50Lは、本件特許の優先日当時一般に入手可能なものであったとはいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の請求項2に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項2に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
なお、(3)の取消理由は、職権で通知した。以下、上記(3)の取消理由を「職権理由2」という。

(申立理由3を一部採用)
・請求項3、6、10、11、15、16、18について
理由(1)、(2)
甲3

・請求項5、13について
理由(2)
甲3、及び、甲2

(以下は、職権で通知。以下、「職権理由1」という。)
・請求項7、9、17について
理由(1)、(2)
甲12

・請求項8、16について
理由(2)
甲12

3 引用文献の記載
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。なお、下線は当審で付した(以下同様。)。
「[0001]本発明は、リチウムイオン二次電池正極用スラリーに関し、さらに詳しくは高容量化を可能にしうるリチウムイオン二次電池正極用スラリーに関する。」
「[0120](C)導電材
正極用スラリーは、導電材を含有する。導電材の粒子径は、個数平均粒子径で、好ましくは5?40nm、より好ましくは10?38nm、特に好ましくは15?36nmである。正極における導電材の粒子径が小さすぎると、凝集しやすくなり、均一分散が困難になる結果、正極の内部抵抗が増大し、容量の向上が困難になる傾向にある。しかし、上述した正極用結着剤を使用することで、微粒化された導電材であっても均一に分散することが可能になり、容量向上が図られる。また、導電材の粒子径が大きすぎると、正極活物質間に存在することが困難になり、正極の内部抵抗が増大し、容量の向上が困難になる。導電材の個数平均粒子径は、導電材を水中に0.01質量%で超音波分散させた後、動的光散乱式粒子径・粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製、粒度分布測定装置 Nanotrac Wave-EX150)を使用して測定することにより求めることができる。」
「[0122]導電材としては、負極と同様に、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、およびカーボンナノチューブ等の導電性カーボンを使用することができる。導電材を含有することにより、正極用スラリー製造時の安定性が向上し、また正極活物質層における正極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、高容量化が図られる。導電材の含有量は、正極活物質100質量部に対して、好ましくは1?3質量部、より好ましくは1.2?2.8質量部、特に好ましくは1.5?2.5質量部である。導電材の含有量が少なすぎると、正極における内部抵抗が増大し、高容量化が困難になる場合がある。また導電材の含有量が多すぎると、正極の高密度化が困難になり、初期容量が低下する場合がある。」
「[0152]集電体は、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有するため金属材料が好ましく、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などが挙げられる。中でも、リチウムイオン二次電池正極に用いる集電体としてはアルミニウムが特に好ましい。集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001?0.5mm程度のシート状のものが好ましい。集電体は、正極活物質層との接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用してもよい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、正極活物質層の接着強度や導電性を高めるために、集電体表面にプライマー層などを形成してもよい。」
「[0232](実施例1)
〔正極用スラリーおよび正極の製造〕
容積0.6Lのプラネタリーミキサーに、正極活物質としてコバルト酸リチウムLCO(LiCoO_(2))(粒子径:12μm)100部と、正極導電材としてアセチレンブラック(AB,電気化学工業社製デンカブラック粉状品:粒子径35nm、比表面積68m^(2)/g)2.0部と、正極用結着剤のフッ素含有重合体として粉末状の混合ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製KYNAR HSV900とKYNAR720との1:1混合物)1.44部、およびニトリル基含有アクリル重合体として重合体(B1-1)の8質量%NMP溶液を固形分相当量で0.32部となる量と、適量のNMPとを添加して、配合物を得た。該配合物をプラネタリーミキサーにて回転数60rpmで、固練り時のシェアが680W/kgとなる条件で、60分間混練して、固練り状混練物を得た。この時の固練り状混練物の固形分濃度は81%であった。その後、NMPを添加し、プラネタリーミキサーを用いて回転数60rpmで20分間混練し、正極用スラリーを調製した。この時のNMPの量は、正極用スラリーの固形分濃度が76%となる量とした。得られた正極用スラリーの2sec^(-1)粘度、20sec^(-1)粘度はそれぞれ4800mPa・s、4000mPa・sであり、粘度の比(2sec^(-1)/20sec^(-1))は1.2であった。
[0233]集電体として、厚さ15μmのアルミ箔を準備した。上記正極用スラリーをアルミ箔の両面に乾燥後の塗布量が25mg/cm^(2)になるように塗布し、60℃で20分、120℃で20分間乾燥後、150℃、2時間加熱処理して正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.9g/cm^(3)の正極活物質層とアルミ箔とからなるシート状正極を作製した。これを幅4.8mm、長さ50cmに切断し、アルミニウムリードを接続した。得られたシート状正極について、塗工電極の平滑性を評価した。結果を表2に示す。」
「[0236]〔リチウムイオン二次電池の製造〕
得られたシート状正極およびシート状負極を、セパレータを介在させて直径20mmの芯を用いて捲回し、捲回体(極板群)を得た。セパレータとしては、厚さ20μmのポリプロピレン製微多孔膜を用いた。捲回体は、10mm/秒のスピードで厚さ4.5mmになるまで一方向から圧縮した。前記略楕円の短径に対する長径の比は7.7である。
[0237]また、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの3対7重量の混合物に5質量%のフルオロエチレンカーボネートを混合し、1mol/リットルの濃度になるように六フッ化リン酸リチウムを溶解し、ビニレンカーボネート2vol%を添加し、非水電解液を用意した。
[0238]前記極板群は、所定のアルミラミネート製ケース内に3.2gの非水電解液とともに収容した。そして、負極リードおよび正極リードを所定の箇所に接続したのち、ケースの開口部を熱で封口し、捲回型パウチセルであるリチウムイオン二次電池を完成した。この電池は、幅35mm、高さ48mm、厚さ5mmのパウチ形であり、電池の公称容量は700mAhである。得られたリチウムイオン二次電池の初期容量、出力特性、高電位サイクル特性を表2に示す。」

(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)の[0232]の記載によれば、実施例1の正極用スラリーに注目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「正極活物質としてコバルト酸リチウムLCO(LiCoO_(2))100部と、正極導電材としてアセチレンブラック(AB,電気化学工業社製デンカブラック粉状品:粒子径35nm、比表面積68m^(2)/g)2.0部と、正極用結着剤のフッ素含有重合体として粉末状の混合ポリフッ化ビニリデン1.44部、および、ニトリル基含有アクリル重合体として重合体(B1-1)の8質量%NMP溶液を固形分相当量で0.32部となる量と、適量のNMPとを添加して調製した、正極用スラリー。」

イ 上記(1)の[0232]、[0233]の記載によれば、実施例1の正極に注目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1正極発明」という。)が記載されていると認められる。
「甲1発明の正極用スラリーをアルミ箔の両面に塗布し、乾燥後、加熱処理して得た正極原反を圧延して作製したシート状正極。」

(3)甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
「【請求項1】
正極と負極とを備えた電極体と、電解質と、が所定の電池ケース内に収容された密閉型リチウム二次電池であって、
前記負極は、負極集電体と、該集電体上に形成された負極活物質を含む負極合材層と、を備えており、
ここで、前記電解質には、所定の電池電圧を超えた際に前記正極表面上で酸化されて水素イオンを生じさせる芳香族化合物が含まれており、
前記負極合材層の表面には、少なくとも、前記芳香族化合物の酸化によって生じた水素イオンを還元し、水素ガスを発生させ得るリチウムチタン複合酸化物が含まれており、
前記電池ケースには、該水素ガスの発生に伴って前記電池ケース内の圧力が上昇した際に作動する電流遮断機構を備えられている、密閉型リチウム二次電池。」
「【0019】
かかる密閉型リチウム二次電池の正極としては、正極活物質と導電材とバインダ(結着剤)等とを適当な溶媒中で混合してスラリー状(ペースト状、インク状のものを包含する。)の組成物(以下、「正極合材スラリー」という。)を調製し、該スラリーを正極集電体上に付与して正極合材層(正極活物質層ともいう。)を形成した形態のものを用いる。
正極合材スラリーを調製する方法としては、上記正極活物質と導電材とバインダとを一度に混練してもよく、何回かに分けて段階的に混練してもよい。特に限定されるものではないが、正極合材スラリーの固形分濃度(NV)は凡そ50%?75%(好ましくは55%?65%、より好ましくは55%?60%)とすることができる。
正極合材層を形成する方法としては、上記正極合材スラリーを正極集電体の片面または両面に、従来公知の塗布装置(例えば、スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター、グラビアコーター等)を用いて適量塗布し、乾燥させる方法を好ましく採用することができる。」
「【0023】
導電材としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック)、黒鉛粉末(天然、人造)、炭素繊維(PAN系、ピッチ系)等から選択される、一種または二種以上であり得る。あるいは金属繊維(例えばAl、SUS等)、導電性金属粉末(例えばAg、Ni、Cu等)、金属酸化物(例えばZnO、SnO_(2)等)、金属で表面被覆した合成繊維等を用いてもよい。なかでも好ましいカーボン粉末としては、アセチレンブラックが挙げられる。特に限定するものではないが、正極合材層全体に占める導電材の割合は、例えば、凡そ0.1質量%?15質量%とすることができ、凡そ1質量%?10質量%(より好ましくは2質量%?6質量%)とすることが好ましい。」
「【0026】
また、ここで調製される正極合材スラリーには、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、各種添加剤(例えば、過充電時においてガスを発生させる無機化合物や、分散剤として機能し得る材料)等を添加することもできる。該過充電時にガスを発生させる無機化合物としては、炭酸塩やシュウ酸塩、硝酸塩等が挙げられ、例えば、炭酸リチウムやシュウ酸リチウムが好ましく用いられる。また、該分散剤としては、疎水性鎖と親水性基をもつ高分子化合物(例えばアルカリ塩、典型的にはナトリウム塩)や、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩などを有するアニオン性化合物やアミンなどのカチオン性化合物などが挙げられる。より具体的には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ブチラール、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ等が挙げられる。」
「【0060】
[密閉型リチウム二次電池の構築]
<例1>
正極活物質の出発原料として、Ni源である硝酸ニッケルと、Co源である硝酸コバルトと、Mn源である硝酸マンガンとを、Ni:Co:Mn=33:33:33となるよう秤量して溶媒(純水)に溶解させ、アルカリ水溶液を添加することで前駆体水酸化物を調製した。次に、Liと他の全ての構成金属元素(ここではNi,Co,Mn)の合計(M_(all))とのモル比(Li/M_(all))が1.05となるような分量で、上記調製した前駆体水酸化物と、Li源である炭酸リチウムとを混合した。そして、上記混合物を大気中において900℃で凡そ48時間焼成した。得られた焼成物を冷却した後、粉砕、分級して、リチウム、ニッケル、コバルト及びマンガンを構成元素とする層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物(Li_(1.05)Ni_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2))からなる粉末状の正極活物質を調製した。
かかるLi_(1.05)Ni_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)粉末と、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製の「デンカブラック(プレス品):FX35」、一次粒径26nm)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製の「KFポリマー#1300」)とを、これら材料の質量比率が凡そ91:6:3となるよう、混練機(プラネタリーミキサー)に投入し、固形分濃度(NV)が凡そ50質量%となるようにN-メチルピロリドン(NMP)で粘度を調製しながら混練し、正極合材層形成用のスラリー状組成物(正極合材スラリー)を調製した。この正極合材スラリーを、厚み凡そ15μmの長尺状アルミニウム箔(正極集電体)の両面に、目付量が30mg/cm^(2)となるよう塗布し、乾燥することで正極合材層を形成した。得られた正極をロールプレスし、正極合材層密度が1.4g/cm^(3)のシート状の正極(正極シート)を作製した。そして、上記正極シートを凡そ40(mm)×40(mm)に切り出した。」
「【0062】
そして、上記切り出した正極シートと負極シートとを、セパレータ(PE製、47(mm)×47(mm)、厚み20μm)を介して対面に配置し、電極体を作製した。そして、該電極体の正極集電体の端部に正極端子を、負極集電体の端部に負極端子を溶接により其々接合した。かかる電極体をラミネートシートに収容し、非水電解質(ここでは、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、電解質としてのLiPF_(6)を凡そ1.0mol/Lの濃度で溶解し、さらに芳香族化合物(過充電防止剤)としてビフェニル(BP)を3質量%の濃度で含有させた電解質を用いた。)を注液した。そして真空に引きながら、ラミネートシートを熱融着して、ラミネートシート型のリチウム二次電池(例1)を構築した。」

(4)甲2に記載された発明
ア 上記(3)の【0060】の記載によれば、例1の正極合材スラリーに注目すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「正極活物質としてLi_(1.05)Ni_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)粉末と、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製の『デンカブラック(プレス品):FX35』、一次粒径26nm)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデンとを、これら材料の質量比率が凡そ91:6:3となるよう、混練機(プラネタリーミキサー)に投入し、N-メチルピロリドン(NMP)で粘度を調製しながら混練し、調製した正極合材スラリー。」

イ 上記(3)の【0060】の記載によれば、例1の正極に注目すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2正極発明」という。)が記載されていると認められる。
「甲2発明の正極合材スラリーを、アルミニウム箔(正極集電体)の両面に、塗布し、乾燥することで正極合材層を形成して得られた正極。」

(5)甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
「技術分野
[0001]本発明は、電池用正極ペーストに関する。」
「[0010]本発明者らは、各種検討の結果、分散剤として特定の構造を有する共重合体を用いた場合、その構造の違いにより、正極ペーストの粘度低減効果や、正極ペーストを塗工して得られる正極の合材層の密着性に大きな差があることを見出した。」
「[0012]第一発明は、正極活物質、導電剤、溶媒、及び、共重合体を含む電池用正極ペーストであって、前記共重合体は、下記一般式(1)で示される構成単位(a)及び下記一般式(2)で示される構成単位(b)を含む共重合体である、電池用正極ペーストである。
[0013][化1]



[0014](式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(5)、R^(6)、R^(7)及びR^(9)は、同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、R^(4)は炭素数8?30の炭化水素基を示し、R^(8)は炭素数2?4の直鎖又は分岐のアルキレン基を示し、X^(1)、X^(2)は酸素原子又はNHを示し、pは1?50の数を示す。)」
「[0020]以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
[0021][共重合体]
本発明に用いられる共重合体は、前記一般式(1)で示される構成単位(a)及び前記一般式(2)で示される構成単位(b)を含む。
前記一般式(1)において、正極ペーストの粘度低減効果の観点及び共重合体への構成単位(a)の導入の容易性の観点から、R^(1)及びR^(2)は水素原子が好ましく、R^(3)は水素原子又はメチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。正極ペーストの粘度低減効果と正極合材剥離強度の維持の観点から、R^(4)はアルキル基又はアルケニル基が好ましく、同様の観点から、R^(4)の炭素数は、8以上であり、10以上が好ましく、12以上がより好ましく、また同様の観点から、26以下が好ましく、22以下がより好ましく、20以下がよりさらに好ましい。これらの観点を総合すると、R^(4)の炭素数は、8?26が好ましく、10?22がより好ましく、12?20がさらに好ましい。R^(4)としては、具体的にはオクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ラウリル基、ミリスチル基、セチル基、ステアリル基、オレイル基、ベヘニル基等が挙げられる。共重合体への構成単位(a)の導入の容易性の観点から、X^(1)は酸素原子が好ましい。
[0022]本発明に用いる共重合体を合成するにあたり、前記構成単位(a)を与えるモノマー(以下、モノマー(a)ともいう)の具体例としては、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等のエステル化合物;2-エチルヘキシル(メタ)アクリルアミド、オクチル(メタ)アクリルアミド、ラウリル(メタ)アクリルアミド、ステアリル(メタ)アクリルアミド、ベヘニル(メタ)アクリルアミド等のアミド化合物が挙げられる。なかでも、正極ペーストの粘度低減効果及び共重合体への構成単位(a)の導入の容易性の観点から、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート及びベヘニル(メタ)アクリレートが好ましい。これらのモノマーのうち、1種又は2種以上を用いることができる。…(以下略)」
「[0024]構成単位(b)としては、非イオン性モノマー由来の構造、重合後に非イオン性基を導入した構造等が挙げられる。
本発明に用いる共重合体を合成するにあたり、前記構成単位(b)を与えるモノマー(以下、モノマー(b)ともいう)としては、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリ(エチレングリコール/プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、エトキシポリ(エチレングリコール/プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、2-エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、3-メトキシプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。」
「[0030]本発明に用いる共重合体は、前記構成単位(a)及び前記構成単位(b)以外の構成単位(c)を有することができる。本発明に用いる共重合体を合成するにあたり、構成単位(c)を与えるモノマー(以下、モノマー(c)ともいう)は、モノマー(a)やモノマー(b)と共重合可能であれば特に制限はなく、1種又は2種以上を用いることができる。
モノマー(c)としては、(メタ)アクリル酸等の酸モノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボロニル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、tert-ブチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;スチレン、p-メチルスチレン等のスチレン類、酢酸ビニル等のビニルエステル類;2-ビニルピリジン等のビニルピリジン類;ビニルピロリドン等のビニルピロリドン類等が挙げられる。」
「実施例
[0049]以下、本発明の実施例及び比較例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
[0050]以下の実施例及び比較例に用いた共重合体及び単独重合体の詳細を表1?6に示す。ここで、表1?6及び以下の実施例に用いた原料の略号は次の通りである。
・LMA:メタクリル酸ラウリル(三菱ガス化学社製、品番:GE-410)(R^(4):C_(12)H_(25))
・SMA:メタクリル酸ステアリル(新中村化学工業社製、品番:NK-エステルS)(R^(4):C_(18)H_(37))
・BHMA:メタクリル酸ベヘニル(新中村化学工業社製、品番:NK-エステルBH)(R^(4):C_(22)H_(45))
・PEG(2)MA:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(新中村化学工業社製、品番:NK-エステルM-20G、エチレンオキサイドの平均付加モル数p:2)
・PEG(9)MA:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(新中村化学工業社製、品番:NK-エステルM-90G、エチレンオキサイドの平均付加モル数p:9)
・PEG(23)MA:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(新中村化学工業社製、品番:NK-エステルTM-230G、エチレンオキサイドの平均付加モル数p:23)
・MAA:メタクリル酸(和光純薬工業社製)
・MPD:3-メルカプト-1,2-プロパンジオール(和光純薬工業社製)
・n-DM:ドデシルメルカプタン(東京化成工業社製)
・NMP:N-メチル-2-ピロリドン(和光純薬工業社製)
・ヘキサン:n-ヘキサン(和光純薬工業社製)
・V-65B:2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製)」
「[0051]
[表1]


[0052]
[表2]


[0053]
[表3]


[0054]
[表4]


[0055]
[表5]


[0056]
[表6]


[0057][共重合体の合成例1]
「初期仕込み用モノマー液」として、3gのSMA、14gのPEG(23)MA、3gのMAA及び17gのNMPからなる混合溶液を作製した。「滴下用モノマー液」として、27gのSMA、126gのPEG(23)MA、27gのMAA及び153gのNMP混合液からなる混合溶液を作製した。「開始剤液」として、0.6gのV-65Bと3gのNMPからなる混合溶液を作製した。「滴下用開始剤液」として、5.4gのV-65Bと27gのNMPからなる混合溶液を作製した。
還流管、攪拌装置、温度計及び窒素導入管を取り付けたセパラブルフラスコ(反応槽)に、前記「初期仕込み用モノマー液」を全量投入し、反応槽内を窒素置換し、槽内温度(仕込原料の温度)65℃に加熱した。槽内温度が65℃に到達した後、槽内を撹拌しながら、前記「開始剤液」を槽内に全量添加した。次に、前記「滴下用モノマー液」及び前記「滴下用開始剤液」を同時に3時間かけて槽内に滴下した。滴下終了後、さらに65℃で1時間攪拌した。次に、撹拌を続けながら約30分かけて槽内温度を75℃まで昇温し、昇温後、槽内をさらに2時間攪拌した。次いで水浴にて槽内温度を40℃以下まで冷却した。濃度調製のため、槽内にNMPを添加して混合し、共重合体AのNMP溶液を得た。共重合体A溶液の不揮発分は40質量%で、共重合体Aの重量平均分子量は55000であった。」
「[0058][共重合体の合成例2]
「初期仕込み用モノマー液」、「滴下用モノマー液」、「開始剤液」及び「滴下開始剤液」の組成をそれぞれ表1(当審注:共重合体B?AEの材料が、表1だけではなく、表1?6に示されていることから、「表1」は「表1?6」の誤記であると認められる。)の記載に従って変更したことを除いては、上記の共重合体の合成例1と同様の方法により、共重合体B?AEを合成した。なお、共重合体H,J,K及びAEの合成では全モノマー及び全開始剤を初期に仕込む一括重合法を採用した。」
「[0062][正極ペースト及び正極の作製及び評価]
以下の実施例及び比較例に係る正極ペーストに用いた材料の略号は次の通りである。
・LiMO_(2):リチウム遷移金属複合酸化物、組成:LiNi_(1/3)Mn_(1/3)Co_(1/3)O_(2)(D50:6.5μm、BET比表面積:0.7m^(2)/g)
・LiMn_(2)O_(4):リチウムマンガン酸化物、組成:LiMn_(2)O_(4)(D50:18μm、BET比表面積:0.2m^(2)/g)
・LiFePO_(4):リン酸鉄リチウム、組成:LiFePO_(4)(D50:10μm、BET比表面積:10.5m^(2)/g)
・粉状品:アセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラック粉状品)
・FX35:アセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラックFX-35)
・HS100:アセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラックHS-100)
[0063][正極ペーストの作製]
表2?5に示す共重合体、正極活物質及び導電剤、並びに、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)及び非水系溶媒としてのNMPを用いて正極ペーストを作製した。ここで、表7?9及び11においては、前記PVDFとしてクレハ社製#1100の12%NMP溶液を、表10においては、前記PVDFとしてアルケマ社製カイナーHSV900の8%NMP溶液を用いた。なお、正極活物質、結着剤及び導電剤の質量比率は90:5:5(固形分換算)とした。正極ペーストは、前記非水系溶媒の量を調整することにより、固形分(質量%)を調整し、マルチブレンダーミルを用いた混練工程を経て作製した。ここで、正極ペーストの固形分(質量%)とは、正極ペーストが含有する、共重合体、正極活物質、導電剤及び結着剤からなる材料の固形分の質量%である。」
「[0068][表10]


[0069][正極ペーストの塗工性試験]
この試験は、厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に、乾燥後の正極合材の質量が17mg/cm^(2)となるようにドクターブレードのギャップを適切に調整して、正極ペーストを塗工した。
この結果、正極ペーストの伸びが悪く、端部を除く塗工面上にアルミニウム箔の露出(かすれ)が見られたものについて、塗工性不良「あり」とした。塗工性試験の結果を表7?10に併せて示す。
[0070][正極ペーストの乾燥所要時間の測定]
上記塗工直後の正極のうち、いくつかの実施例及び比較例に係る正極について、乾燥前の質量、及び、60℃のホットプレートに載置後一定時間ごとの質量を測定した。質量変化が見られなくなった時点を乾燥終了とみなし、乾燥所要時間とした。乾燥所要時間の測定結果を表11に示す。」

(6)甲3に記載された発明
ア 上記(5)の[0068]の表10によれば、実施例41の正極ペーストが、導電剤100重量部に対して共重合体Eを1重量部含むこと、及び、導電材として「粉状品」(アセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラック粉状品)、[0062]参照。)を含むことが示されているから、上記(5)の[0001]、[0062]、[0063]、[0068]の記載によれば、実施例41の正極ペーストに注目すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明1」という。)が記載されていると認められる。
「共重合体E、正極活物質、及び、導電剤としてのアセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラック粉状品)、並びに、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン、及び、非水系溶媒を用いて作製した電池用正極ペーストであって、
導電剤100重量部に対して共重合体Eを1重量部含む、電池用正極ペースト。」

イ 上記(5)の[0068]の表10によれば、実施例42の正極ペーストが、導電剤100重量部に対して共重合体Eを2重量部含むこと、及び、導電材として「粉状品」(アセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラック粉状品)、[0062]参照。)を含むことが示されているから、上記(5)の[0001]、[0062]、[0063]、[0068]の記載によれば、実施例42の正極ペーストに注目すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明2」という。)が記載されていると認められる。
「共重合体E、正極活物質、及び、導電剤としてのアセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラック粉状品)、並びに、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン、及び、非水系溶媒を用いて作製した電池用正極ペーストであって、
導電剤100重量部に対して共重合体Eを2重量部含む、電池用正極ペースト。」

ウ 上記(5)の[0001]、[0062]、[0063]、[0068]?[0070]の記載によれば、甲3には、次の発明(以下、「甲3正極発明1」という。)が記載されていると認められる。
「アルミニウム箔の片面に、甲3発明1の正極ペーストを塗工した電池用正極。」

エ 上記(5)の[0001]、[0062]、[0063]、[0068]?[0070]の記載によれば、甲3には、次の発明(以下、「甲3正極発明2」という。)が記載されていると認められる。
「アルミニウム箔の片面に、甲3発明2の正極ペーストを塗工した電池用正極。」

(7)甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
「【請求項1】
外装材と、
前記外装材内に収納された正極と、
前記外装材内に収納され、前記正極と空間的に離間した負極と、
イオン液体を含み、電池容量1.0mAh当たりのリチウムイオンのモル数が1.8×10^(-5)モル以上である非水電解質と、
を具備することを特徴とする非水電解質電池。」
「【0038】
・・・(略)・・・ 導電剤としては、例えばカーボンブラック、グラファイト、黒鉛等を挙げることができる。特に、カーボンブラックが好ましく、中でも、アセチレンブック、ケッチェンブラックおよびファーネストブラックが好ましい。
【0039】
それらの中でも、DBP吸油量の値が200ml/100g以上2000ml/100g以下の範囲であるものがさらに好ましい。導電剤にDBP吸油量の値が200ml/100g以上のものを用いることで、正極が保持できる非水電解質量が増加し体積的なロスを少なく非水電解質量を増加させることができ有利である。DBP吸油量の値が2000ml/100g以下であることにより、導電剤の比表面積の上昇に伴う正極と非水電解質との反応性の向上に伴うサイクル特性の低下を抑制できる。より好ましい範囲は、200ml/100g以上1200ml/100g以下の範囲である。」
「【実施例】
【0060】
以下に実施例を説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は以下に掲載される実施例に限定されるものでない。
【0061】
(実施例1)
<正極の作製>
正極活物質としてリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)粉末を91重量部と、導電剤としてアセチレンブラック(電気化学工業製 型番FX35)を2.5重量部と、導電剤としてグラファイトを2.5重量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を3重量部とを、N-メチルピロリドン(NMP)溶液中で混合し、スラリーを調製した。得られたスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗布し、乾燥後、プレスすることにより、電極密度3.0g/cm3の正極を作製した。
【0062】
<負極の作製>
負極活物質としてリチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12)粉末(粒径0.9μm)を85重量部と、導電剤としてグラファイトを5重量部と、導電剤としてケッチェンブラックを3重量部と、結着剤としてPVdFを7重量部とを、N-メチルピロリドン(NMP)溶液中で混合し、スラリーを調製した。得られたスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗布し、乾燥後、プレスすることにより、電極密度2.0g/cm3、の負極を作製した。【0063】
<非水電解質電池の作製>
ポリエステル製のセパレータ(空孔率90%)で正極に密着して覆い、負極を正極に対向するように重ねて渦巻状に捲回しコイルを作成した。このコイルをさらにプレスし扁平状に成形した。肉厚0.1mmのアルミラミネートフィルムからなる外装材に扁平状に成形したコイルを挿入した。これに1-エチル-3メチルイミダゾリウム4フッ化ホウ素(EMI・BF4 )に電解質として1.0MのLiBF4を加え調製した非水電解質(25℃における導電率1.26mS/cm)を電池容量1.0mAhに対するリチウムイオンモル数が3.5×10^(-5)モルになるように注入し、図1に示すような定格容量450mAhの薄型の非水電解質電池を作製した。」

(8)甲4に記載された発明
ア 上記(7)の【0061】の記載によれば、実施例1のスラリーに注目すると、甲4には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「正極活物質としてリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)粉末を91重量部と、導電剤としてアセチレンブラック(電気化学工業製 型番FX35)を2.5重量部と、導電剤としてグラファイトを2.5重量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を3重量部とを、N-メチルピロリドン(NMP)溶液中で混合し、調製したスラリー。」

イ 上記(7)の【0061】の記載によれば、実施例1の正極に注目すると、甲4には、次の発明(以下、「甲4正極発明」という。)が記載されていると認められる。
「甲4発明のスラリーをアルミニウム箔からなる集電体に塗布し、乾燥後、プレスすることにより、作製した正極。」

(9)甲5の記載
ア 甲5には、次の記載がある。





イ なお、デンカ株式会社のサイトに掲載された年表(https://www.denka.co.jp/corporate/history/chronology/)には、次の事項が掲載されている。
「2015年
創立100周年創業以来の会社名である、電気化学工業株式会社をデンカ株式会社へ変更」
すなわち、本件特許の優先日当時、上記アの「FX-35」及び「粉状品」は「電気化学工業株式会社」の製品であったこととなる。

(10)本件発明のカーボンブラックと甲5の記載事項との考察
ア 本件明細書に記載された実施例2?4において、「アセチレンブラック(電気化学工業社製 SB50L、FX35、AB粉状)」(【0055】)を用いたことが記載され、また、【0056】の【表1】では、個数平均1次粒子径が、実施例2は37nm、実施例3は23nm、実施例4は35nmである。

イ 一方、上記(9)のアでは、デンカブラック(登録商標)について、平均粒径が、「粉状品」は35nm、「FX-35」は23nmであるから、上記アに照らせば、本件明細書に記載された実施例3のカーボンブラックは、デンカブラック(登録商標)の「FX35」、実施例4のカーボンブラックは、「粉状品」である蓋然性が極めて高い。

(11)甲7の記載
甲7には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 窒素吸着比表面積(N_(2 )SA)が40?70(m^(2)/g)、DBP吸油量(D_(0))が150?230(ml/100g) 、DBP吸油量(D_(0))と24M4DBP吸油量(D_(1))との比(D_(1 )/D_(0 ))がD_(1 )/D_(0 )≧0.50の特性を有するカーボンブラックにおいて、下記 (1)? (3)の選択的特性を有する機能部品ゴム配合用カーボンブラック。
(1) 窒素吸着比表面積(N_(2 )SA)とよう素吸着量(IA)との比(N_(2 )SA/IA):N_(2 )SA/IA≧0.98
(2) アグリゲートストークス相当径分布のモード径(Dst)と半値幅(ΔDst)との比(ΔDst/Dst):0.55≦ΔDst/Dst≦0.70
(3) a=D_(1 )/(ΔDst/Dst)式で算出されたa値:140≦a≦200
但し、24M4DBP吸油量は圧縮DBP吸油量、Dstはディスクセントリフュージ装置(DCF) により測定されるカーボンブラックアグリゲートのストークスモード径、ΔDstは同ストークス径分布の半値幅を示す。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はウエザーストリップ、ラジエータホース、ドアパッキング、窓枠シールガラスラン、プロテクションモール、プーリーベルト等の自動車内外装部品、ケーブルカバー、ベルトホースケーブル、マット等の工業用ゴム部品、等の各種ゴム部材に使用する機能部品ゴムに配合するカーボンブラックに関する。」
「【0009】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するための本発明による機能部品ゴム配合用カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(N_(2 )SA)が40?70(m^(2)/g)、DBP吸油量(D_(0))が150?230(ml/100g) 、DBP吸油量(D_(0))と24M4DBP吸油量(D_(1))との比(D_(1 )/D_(0 ))がD_(1 )/D_(0 )≧0.50の特性を有するカーボンブラックにおいて、下記 (1)? (3)の選択的特性を有する。
(1) 窒素吸着比表面積(N_(2 )SA)とよう素吸着量(IA)との比(N_(2 )SA/IA):N_(2 )SA/IA≧0.98
(2) アグリゲートストークス相当径分布のモード径(Dst)と半値幅(ΔDst)との比(ΔDst/Dst):0.55≦ΔDst/Dst≦0.70
(3) a=D_(1 )/(ΔDst/Dst)式で算出されたa値:140≦a≦200
但し、24M4DBP吸油量は圧縮DBP吸油量、Dstはディスクセントリフュージ装置(DCF) により測定されるカーボンブラックアグリゲートのストークスモード径、ΔDstは同ストークス径分布の半値幅を示す。」
「【0026】
【実施例】以下、本発明の実施例を比較例及び参考例と対比して具体的に説明する。
【0027】実施例1?7、比較例1?7、参考例1?2
炉頭部に接線方向空気供給口1と炉軸中心に伸縮自在の原料油噴射ノズル3を装着し、その周辺に4本の燃焼バーナー2が設置され、下流出口側が緩やかに収斂する燃焼室4(内径600mm 、長さ800mm)と、狭径部5(内径400mm 、長さ200mm)を介して開拡し、下流域に位置変更し得る水冷クエンチ7を設置した広径反応部6(内径800mm 、長さ9000mm)と、下流端にバッグフィルター等の捕集系統に連結する垂直な煙道9が連設された図3に示す構造の発生炉を設置した。原料油噴射ノズル3の原料油導入点(ノズル噴射孔)は狭径部5に位置するように調整した。
【0028】上記の発生炉を用いて、表1?2に示す発生条件を適用してカーボンブラックを製造した。原料油には比重(15/4 ℃)1.073、粘度(エングラー40/20 ℃)2.10、トルエン不溶分0.03%、相関係数(BMCI)140、初期沸点103℃の芳香族炭化水素油を、また燃料油としては比重(15/4 ℃)0.903、粘度(cst/50 ℃)16.1、残炭分5.4%、硫黄分1.8%、引火点96℃の炭化水素油を用いた。なお、表1?2において炉内滞留時間は生成カーボンブラック含有ガス流の水冷クエンチ点までの滞留時間である。
【0029】各発生条件により製造されたカーボンブラックの各種特性を測定して、表1?2に併載した。また、表3には参考例として下記のカーボンブラック市販品の特性を示した。
参考例1;HAF級カーボンブラック〔東海カーボン(株)製、シースト3 〕
参考例2;MAF級カーボンブラック〔東海カーボン(株)製、シースト116 〕
【0030】
【表1】



「【0033】次に、表1?3の各カーボンブラック試料を表4に示す配合比率でエチレン-プロピレンゴムに配合した。
【0034】
【表4】


〔表注〕 *1 住友化学工業(株)製“エスプレン501A”
*2 出光石油化学(株)製“PW-380”
*3 川口化学工業(株)製“アクセルM”
*4 川口化学工業(株)製“アクセルBZ”
*5 川口化学工業(株)製“アクセルTT” 」

(12)甲7に記載された発明
ア 上記(11)の【0030】の【表1】によれば、実施例2のカーボンブラックは、DBP吸油量(D_(0))が186ml/100g、24M4DBP吸油量(D_(1))が114ml/100g、24M4DBP吸油量(D_(1))/DBP吸油量(D_(0))が0.61であることが理解できる。

イ 上記ア及び上記(11)の【0029】、【0033】の記載によれば、実施例1のカーボンブラックに注目すると、甲7には、次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。
「エチレンプロピレンゴム配合用のカーボンブラックであって、
DBP吸油量(D_(0))が186ml/100g、24M4DBP吸油量(D_(1))が114ml/g、24M4DBP吸油量(D_(1))/DBP吸油量(D_(0))が0.61である、カーボンブラック。」

(13)甲8の記載
甲8には、次の記載がある。なお、甲8は国際公開公報なので、対応する公表特許公報である特表2015-527440号公報の記載を、翻訳文として採用した。
「FI ELD OF THE INVENTION
[0001] Disclosed herein are high structure carbon blacks, methods of preparation, and surface treatment thereof. Also disclosed are dispersions and inkjet ink compositions comprising such blacks.
BACKGROUND
[0002] There is a continual need for new carbon black materials to enhance performance in a number of applications. For example, in inkjet ink printing, manufacturers seek improved optical density of the printed product, particularly as new paper types and printers are developed.」
(訳)「技術分野
[0001] 高構造カーボンブラック、その作製の方法、およびその表面処理が本明細書にて開示される。そのようなブラックを含む分散体およびインクジェットインク組成物も開示される。
背景技術
[0002] 数多くの用途における性能を高めるための新しいカーボンブラック材料が継続して求められている。例えば、インクジェットインク印刷において、特に、新しい種類の紙およびプリンターが開発されていることから、製造業者は、印刷品の光学密度の改善を模索している。」
「[0017] In one embodiment, the carbon blacks are useful as pigments in, e.g., inkjet ink compositions. In printing applications, there is a continuing need to develop pigments and ink formulations that, when deposited on a substrate such as paper, produce a printed product having high optical density (O.D.). Often, high O.D. is associated with larger sized particles as these have a lesser tendency to penetrate the pores of the paper. However, larger sized particles generally trend toward poorer sedimentation performance, a disadvantageous property for long term storage of inkjet ink formulations, e.g., in cartridges. It has been discovered that a combination of larger oil absorption number (OAN) and STSA values (e.g., within a range of BET surface area values) can achieve the compromise between O.D. and sedimentation.」
(訳)「[0017]1つの実施形態では、カーボンブラックは、例えばインクジェットインク組成物中の顔料として有用である。印刷用途において、紙などの基材上に付着された場合に高い光学密度(O.D.)を持つ印刷品を作製する顔料およびインク製剤を開発することが継続的に求められている。多くの場合、高いO.D.は、大サイズの粒子に伴うものであり、それは、これらの紙の細孔中に浸透する傾向がより低いからである。しかし、大サイズ粒子は、一般的に、沈澱性能が悪化する方向であり、これは、カートリッジ中を例とするインクジェットインク製剤の長期間の保存にとって不利な特性である。より大きいオイル吸収量(OAN)およびSTSA値(例:BET表面積値の範囲内)の組み合わせによって、O.D.と沈澱性との間の妥協点を得ることができることが見出された。」
「EXAMPLES
Example 1: Preparation of Carbon Blacks
[0084] The carbon black was prepared in a pilot plant according to one embodiment of a multi-stage reactor depicted in FIG. 1.
・・・(略)・・・
[0087] The properties of other high structure carbon blacks that can be made from the same apparatus under similar operating conditions are listed in Table 4 below.



(訳)「【実施例】
実施例1:カーボンブラックの作製
[0084]カーボンブラックは、図1に示される多段反応器の1つの実施形態に従うパイロットプラントで作製した。
・・・(略)・・・
[0087]類似の運転条件下にて同じ装置から作製することができるその他の高構造カーボンブラックの特性を、以下の表4に挙げる。




(14)甲8に記載された発明
ア 上記(13)の[0087]の表4の記載によれば、カーボンブラックサンプルJについて、オイル吸収量(OAN)が181.5mL/100gであり、圧縮OAN(COAN)が124.0mL/100gであることが理解できる。

イ 上記ア及び上記[0017]によれば、カーボンブラックサンプルJに注目すると、甲8には、次の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認められる。
「インクジェットインク組成物中の顔料として有用であるカーボンブラックであって、
オイル吸収量(OAN)が181.5mL/100gであり、圧縮OAN(COAN)が124.0mL/100gであるカーボンブラック。」

(15)甲9の記載
甲9には、次の記載がある。
「【0001】
・・・(略)・・・
<発明の背景>
1.発明の分野
本発明は、熱処理されたカーボンブラックに関する。本発明は、より具体的には、熱で改質されたカーボンブラック(thermally modified carbon blacks)に関するもので、食品と接触する種々の用途、水硬化型ポリマー系、亜鉛-炭素乾電池、亜鉛二酸化マンガンアルカリ電池、その他の電気化学的電源及び電子的用途、半導体ワイヤ及びケーブル用として優れた特性を有し、硬化性ブラダ化合物にすぐれた特性をもたらし、さらなる用途を提供する。カーボンブラックは、本発明に係る連続的熱処理工程で製造される。」
「【0012】
<アルカリ電池系>
電気化学系の一次及び二次アルカリ電池Zn\KOH\MnO_(2)は、この範疇における電源の代表例である。これら電池において、粉末炭素質材料は、MnO_(2)(電解二酸化マンガン(EMD)又は化学的二酸化マンガン(CMD))カソードの導電性を向上させることを目的として使用される。また、これら電池には、「缶コーティング」とも称される炭素含有導電性懸濁液が、処理助剤として、また、EMDカソードと正極集電体の界面における導電性ブリッジ橋(conductivity bridge)として使用される。
【0013】
従来のカーボン(及び/又はアセチレン)ブラックは、1980年中頃には、多くのアルカリ亜鉛二酸化マンガン電池において、少なくとも導電性向上を目的とするための使用は中止されていた。しかしながら、一部の電池メーカーは、今でも、特定電源の放電電流密度性能を高めるために、少量のカーボン(アセチレン)ブラック(MnO_(2)ベースの電極に対して0.01?8重量%)を使用している。しかしながら、カーボン(アセチレンブラック)とMnO_(2)の間で熱力学的に不安定な反応が起こる可能性が高いため、炭素質材料の適用は制限される。カーボンブラック構造は黒鉛の性質を有するので、表面グループの量(炭素表面の化学物質に到達する酸素の量)が減少し、カーボンブラックの粒径が粗大化し、粉末の「スプリングバック」特性が制御される。また、MnO_(2)と、例えばグラファイトの如き他の炭素質材料と混合することにより、MnO_(2)マトリックスの導電性が向上するので、この電気化学系では、カーボンブラックは、唯一の炭素質材料として、又は作り出されたブレンド又は複合物の一部として用いられることができる。以下に記載の方法によってカーボンブラックを熱処理することにより、前記用途に適合させることができる。」
「【0030】
本発明の目的は、電気加熱式流動床炉の工程にて、カーボンブラック材のような微細粒状物質の特性を熱で改質する方法を提供するものであるが、以下の説明では、前記工程を「熱処理工程(heat treatment process)」と称されることもある。」
「【0034】
本発明のさらなる目的は、アルカリ、リチウムイオンその他の電気化学的電源に用いられ、アセチレンブラック又は高構造カーボンブラックのもつ好ましい特性を全て有すると共に、電極(活性)マトリックスにおける高導電性、より強い構造、制御された弾力性、電解質吸収性、すぐれた耐熱酸化性を具備するように、熱処理工程を経て製造され、熱で改質されたカーボンブラックを提供することである。」
「【0039】
本発明のさらなる目的は、対象とする用途により異なる重要な特性、例えば、漆黒度(jetness)、粘度/加工、分散性、衝撃強さなどの性能特性に応じて、所望の特性を有するファーネスカーボンブラック又はサーマルカーボンブラックを提供することである。」
「【0067】
次に、テーブル4「コロイド特性」について説明する。テーブル4は、異なる3種類のカーボンブラックの比較を示しており、それらブラックは、CDX-975U(半導体化合物に使用されるファーネスカーボンブラック)、アセチレンブラック、及び上記熱処理法に基づいて約2000℃で熱処理されたCDX-975Uである。異なる3種類のカーボンブラックの様々な特性を比較すると、熱処理されたブラックは、ヨウ素価(mg/g)が98.8、NSA(m^(2)/g)は71.9、DBPA(ml/100g)は156.8、イオン含有量は0.01%、pHは10.6、含水率は0.0である。テーブル4において、熱処理されたカーボンブラックとアセチレンブラックを比べると、コロイド特性は非常に似ているが、熱処理されたカーボンブラックは、広範な形態を提供することができるので、用途がより広く、より望ましい。
【0068】
非常に高構造のファーネスブラック及びアセチレンブラックの4種類の試料について、パラフィン油を使用し、油吸収量(oil absorption number; OAN)と、圧縮による油吸収量(compressed oil absorption number; COAN)を分析した。テーブル5の結果は、シャウィニガン(shawinigan)アセチレンブラックの構造安定性が最も小さいことを示している。熱処理されたCDX-975Uの2試料は、アセチレンブラックと比べて安定性が高いことを示している。凝集構造の安定性が高いと、これらカーボンブラックの導電性及び加工性が向上する。」
「【0078】
本発明のカーボンブラックを、食品と接触する種々の用途に適用する際、それら用途に関するFDA基準に適合させるために、所定グレードのファーネス又はサーマルカーボンブラックへ熱改質するための熱処理は、連続式熱処理法が用いられる。この熱処理法の利点は、対象とする用途により異なる重要な特性、例えば、漆黒度、粘度/加工、分散性、衝撃強さなどの性能特性に応じて、どんなカーボンブラックでも使用できる自由度(flexibility)をユーザーに提供できることである。形態に関するこの自由度により、カーボンブラック充填ポリマーのマスターバッチは、40%よりも多くの装填(loadings)が可能となる。これは、これまでのFDA規則適合カーボンブラックでは達成できなかったものである。本発明は、カーボンブラックのPAH(多環式芳香族炭化水素)含有量をFDA基準に適合するレベルまで低減するのに有効な熱処理を明らかにするものである。例として挙げたN700シリーズ及びCDX-975Uは、コロンビアン・ケミカルズ・コーポレイションの製品である。」
「【0114】
電池活性剤の導電性を向上させる作用を有し、熱で改良されたカーボンブラック添加物の例は次のとおりである。
亜鉛炭素一次電池;マグネシウム及びアルミニウム一次電池;アルカリ二酸化マンガン電池;酸化第2水銀電池;酸化銀電池;亜鉛空気電池(底部を有する円筒形形状);リチウム電池(リチウム/二酸化硫黄一次電池、リチウム/塩化チオニル一次電池、リチウム/オキシクロライド電池、リチウム/二酸化マンガン電池(一次及び再充電可能)、リチウム/カーボンモノフルオライド電池)、リチウム/二硫化鉄電池、リチウム/酸化銅電池、リチウム/オキシリン酸銅電池、リチウム/銀バナジウム酸一次及び二次電池;固体電解質電池(Li/LiI(A1203)/金属塩電池、ヨウ化リチウム電池;Ag/RbAg415/Me4Nin、C電池);リザーブ電池(マグネシウム/注液電池、亜鉛/酸化銀リザーブ電池、スピン依存性リザーブ電池、常温Liアノードリザーブ電池、サーマル電池);二次電池(鉛/酸電池、鉄電極電池、ニッケルカドミウム電池(産業用、航空宇宙用、消費者用(可搬密閉型NiCd))、可搬密閉型Ni-MH電池、推進及び産業用Ni-MH電池、Ni-亜鉛電池、Ni水素電池、酸化銀電池);再充電可能な常温Li電池(リチウム/イオン電池、リチウム/イオンポリマー電池);再充電可能な亜鉛/アルカリ/二酸化マンガン電池;電気自動車用、ハイブリッド車用、新興市場用の高性能電池(金属-空気電池、亜鉛臭素電池、ナトリウム-ベータ電池、リチウム/硫化鉄電池)、燃料電池(全ての可搬式及び据置式電池)、電気化学的ウルトラキャパシタ(スーパーキャパシタ)、二重層キャパシタ。」
「【0117】
熱で改良され、電池組立体の構成要素及び「加工助剤(processing aid)」として用いられるカーボンブラックの例は次のとおりである。メタルフリー電池及び半金属電池の集電体、燃料電池のセパレータ板、亜鉛/炭素一次電池の炭素棒、リチウム-イオン電池及びリチウム-イオンポリマー電池の正極/負極の添加剤、一価及び二価酸化銀電池、焼結型電極構造を有するNi-Cd及びNi-MH電池、炭素-炭素複合電池の組立体の部品。」
「【図9】


【図10】





(16)甲9に記載された発明
ア 上記(15)の図9より、サンプルであるアセチレンブラックのDBPAが207ml/100gであり、上記(15)の図10より、サンプルであるアセチレンブラックの油吸収量が189.1ml/100gであり、第4回圧縮のCOANが114.5ml/100gであることが理解できる。

イ 上記ア及び上記(15)の【0068】より、甲9には、次の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されていると認められる。
「DBPAが207ml/100gであり、パラフィン油を使用した、油吸収量(OAN)が189.1ml/100gであり、圧縮による油吸収量(COAN)の第4回圧縮が114.5ml/100gであるアセチレンブラック。」

(17)甲10の記載
甲10には次の記載がある。


」(第75頁左欄第1?12行)


」(第76頁右欄表2)


」(第78頁右欄第13行?第79頁右欄第9行)

(18)甲11の記載
甲11に係る出願の願書に最初に添付された明細書には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件(1)?(3)を満たすカーボンブラックと、複合金属酸化物と、バインダー樹脂とを含有することを特徴とする電極合材。
(1)BET比表面積が350?650m^(2)/gである。
(2)DBP吸油量が270?340cm^(3)/100gである。
(3)JIS K6217-6に記載の凝集体径の測定方法により測定される、モード径(D_(mod))に対するD90径(D_(90))の比D_(90)/D_(mod)が1.90?2.20である。」
「【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電極合材は、例えば非水系電池の電極材の形成に用いられる電極合材であって、カーボンブラックと、複合金属酸化物と、バインダー樹脂と、を含有する。
【0011】
[カーボンブラック]
カーボンブラックは、下記条件(1)?(3)を満たす。下記条件(1)?(3)を満たすカーボンブラックは、溶剤等への分散性が良好であり、また導電性付与効果が良好で優れた電池性能を実現できる。
(1)BET比表面積が350?650m^(2)/gである。
(2)DBP吸油量が270?340cm^(3)/100gである。
(3)JIS K6217-6に記載の凝集体径の測定方法により測定される、モード径(D_(mod))に対するD90径(D_(90))の比D_(90)/D_(mod)が1.90?2.20である。」
「【0013】
カーボンブラックは、一次粒子が葡萄房状に連なった連鎖体からなる二次粒子で構成された粉末である。この葡萄房状連鎖体の空隙部分等にDBP(n-ジブチルフタレート)が吸収されるため、DBP吸油量はカーボンブラックが有する重要な指標値である。
カーボンブラックのDBP吸油量は、270?340cm^(3)/100gであり、270?320cm^(3)/100gが好ましく、285?315cm^(3)/100gがより好ましい。カーボンブラックのDBP吸油量が下限値以上であれば、添加時に良好な導電性が得られやすい。カーボンブラックのDBP吸油量が上限値以下であれば、良好な分散性が得られやすい。
なお、カーボンブラックのDBP吸油量は、ASTM D 2414に準拠した条件で、サンプル量9gで測定される値である。」
「【0018】
カーボンブラックの平均一次粒子径は、30?55nmが好ましく、35?50nmがより好ましい。カーボンブラックの平均一次粒子径が下限値以上であれば、溶剤等への分散性がより良好になる。カーボンブラックの平均一次粒子径が上限値以下であれば、良好な導電性の電極合材が得られやすい。
なお、カーボンブラックの平均一次粒子径は、実施例に記載の方法により測定される値である。」
「【0058】
[製造例1]
ファーネス炉を用いて、炉内への原料油の供給量(オイル供給量)を1400kg/時間、原料油1トンあたりの炉内に供給される水蒸気の比(スチーム比)を250kg/t、酸素比を570Nm^(3)/t、メタン濃度を0.70体積%、炉内温度を1335℃、炉内圧力を30kg/cm^(2)としてカーボンブラックを得た。さらに得られたカーボンブラックを450℃窒素雰囲気中で乾燥した。原料油1トンあたりカーボンブラックの収量は、223kg/tであった。
【0059】
[製造例2?4]
オイル供給量、スチーム比、酸素比、メタン濃度、炉内温度、炉内圧力をそれぞれ表1に示すように変更した以外は、製造例1と同様にしてカーボンブラックを得た。
製造例1?4で得られたカーボンブラックのDBP吸油量、BET比表面積、D_(mod)、D_(90)、比D_(90)/D_(mod)、平均一次粒子径、収率及び灰分を表1に示す。
【0060】
[製造例5]
ファーネス炉を用いて、炉内へのエマルジョン原料油の供給量2222kg/時間(原料油としての供給量2000kg/時間)、原料油1トンあたりの炉内に供給される水蒸気の比(スチーム比)を515kg/t、酸素比を635Nm^(3)/t、メタン濃度を0.83体積%、炉内温度を1305℃、炉内圧力を30kg/cm^(2)としてカーボンブラックを得た。さらに得られたカーボンブラックを450℃、窒素雰囲気中で乾燥した。原料油1トンあたりカーボンブラックの収量は、130kg/tであった。
【0061】
【表1】


【0062】
[実施例1]
(電極材の製造)
遊星回転ボールミルLP-1(株式会社伊藤製作所製)を用い、混練温度25℃、回転数300rpmの条件下、複合金属酸化物であるLiFePO_(4)の100質量部、製造例1で得られたカーボンブラックの10質量部、バインダー樹脂であるポリフッ化ビニリデンの10質量部、及びn-メチル-2-ピロリドンの170質量部をこの順に入れ、10分間混練してスラリーを得た。アルミニウム箔(30mm×140mm)上にポリエチレン(PE)塗工枠(厚み0.2mm)を載せ、ガラス棒を用いて前記スラリーを塗工した。その後、スラリーが塗工されたアルミニウム箔を、ホットスターラHS-5BH(アズワン株式会社製)にて110℃、1時間の条件で加熱し、n-メチル-2-ピロリドンを揮発させた。SUSローラーを用いて表面を平坦にさせてから、塗工後のアルミニウム箔を20mm×20mmにカットした後、SUSローラーを用いて切り出した断片を平坦にし、ハンドプレスSSP-10A(株式会社島津製作所)を用いてプレス(プレス温度25℃、プレス圧力370MPa、プレス時間1分間)を行った。さらに、バキュームオーブン(Isotemp Vacuum Oven Model 280A、Fischer Scientific製)を用いて、110℃、5時間の条件で減圧乾燥を行い、電極材とした。電極材は複数製造し、アルゴン雰囲気のドライボックス内で測定した厚みが25±3mmのものを電池特性の評価に用いた。」
「【0064】
[実施例2?11]
カーボンブラック、複合金属酸化物、バインダー樹脂を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして評価セルを製造した。」
「【0076】
【表2】




(19)甲11に係る出願の願書に最初に添付された明細書に記載された発明
ア 上記(18)の【0061】の【表1】より、製造例4のカーボンブラックは、DBP吸収量が340cm^(3)/100g、平均一次粒子径が37nm、24M4DBP吸収量が173cm^(3)/100gであることが理解できる。

イ 上記ア及び上記(18)の【0062】、【0064】の記載によれば、製造例4のカーボンブラックを用いて得たスラリーに注目すると、甲11に係る出願の願書に最初に添付された明細書には、次の発明(以下、「甲11発明」という。)が記載されていると認められる。
「複合金属酸化物であるLiFePO_(4)の100質量部、カーボンブラックの10質量部、バインダー樹脂であるポリフッ化ビニリデンの10質量部、及びn-メチル-2-ピロリドンの170質量部をこの順に入れ、混練して得たスラリー。」

ウ 上記ア、イ及び上記(18)の【0062】、【0064】の記載によれば、製造例4のカーボンブラックを用いて製造した電極材に注目すると、甲11には、次の発明(以下、「甲11正極発明」という。)が記載されていると認められる。
「アルミニウム箔に甲11発明のスラリーを塗工して製造した電極材。」

(20)甲12の記載
甲12には、次の記載がある。
「【請求項1】
少なくとも正極活物質と導電材とを含む正極と、少なくとも負極活物質を含む負極とを備えるリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
(1)前記導電材としてのカーボン微粒子と、分散材とを第1の溶媒に分散させてなる導電材分散体を用意すること;
(2)前記導電材分散体に湿式粉砕処理を行うこと;
(3)前記湿式粉砕処理後の導電材分散体に含まれる前記第1の溶媒の少なくとも一部を蒸発させることにより、前記第1の溶媒の量を減少させた濃縮導電材処理物若しくは前記第1の溶媒を消失させた乾燥導電材処理物を生成すること;
(4)少なくとも前記生成された導電材処理物と、前記正極活物質と、結着材とを第2の溶媒に分散させてなる正極活物質層形成用ペーストを調製すること;
(5)前記調製したペーストを正極集電体の表面に塗布して正極活物質層を形成すること;を包含する製造方法により得られた正極を使用してリチウムイオン二次電池を構築することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。」
「【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の製造方法に関する。より詳細には該電池の正極の製造技術に関する。」
「【0023】
また、ここで開示される製造方法で用いられる分散材としては、従来この種のリチウムイオン二次電池で用いられているものであればよく、特定の分散材に限定されない。例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウムなどのポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド;ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体などが挙げられる。これらのうち一種又は二種以上を併用してもよい。例えば、ポリビニルピロリドンを好ましく用いることができる。
導電材分散体に含まれる分散材の量は適宜決定されるが、導電材100質量部に対して0.1質量部?20質量部程度の使用が好ましい。さらに好ましくは、0.5質量部?10質量部程度である。」
「【0030】
次に、上記調製した正極活物質層形成用ペーストを正極集電体の表面に塗布(塗工)し、ペースト(塗布物)中の第2の溶媒を揮発させて乾燥させた後、必要に応じて圧縮(プレス)する(正極活物質層形成工程S50)。上記正極集電体としては、従来のリチウムイオン二次電池の正極に用いられている集電体と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウムやアルミニウムを主体とする合金材を用いることができる。正極集電体の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。典型的にはシート状のアルミニウム製の正極集電体が用いられる。
また、正極集電体に上記正極活物質層形成用ペーストを塗布する方法としては、従来公知の方法と同様の技法を適宜採用することができる。例えば、スリットコーター、ダイコーター、グラビアコーター等の適当な塗布装置を使用することにより、正極集電体に該ペーストを好適に塗布することができる。また、溶媒を乾燥するにあたっては、自然乾燥、熱風、低湿風、真空、赤外線、遠赤外線、および電子線を、単独または組み合わせにて用いることにより良好に乾燥し得る。さらに、圧縮方法としては、従来公知のロールプレス法、平板プレス法等の圧縮方法を採用することができる。」
「【0053】
<実施例1>
(1)乾燥導電材処理物の生成
導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業製、商品名「デンカブラック粉状品」)と、分散材としてのポリビニルピロリドン(日本触媒製、商品名「K-30」)と、溶媒(第1の溶媒)としてのイオン交換水とを質量比6.2:0.6:93.2となるように混合して導電材分散体を調製した。
そして、市販のビーズミルを用いて上記調製した導電材分散体に湿式粉砕処理を行い、導電材分散体の粘度が500mPa・Sとなるまでアセチレンブラックの解砕を行った。
次いで、上記粉砕処理後の導電材分散体を市販のスプレードライヤーを用いて乾燥導電材処理物を乾燥造粒(生成)して、市販の振動ふるい器を用いて50μm?500μmの範囲内の粒径を有する乾燥導電材処理物を得た。得られた乾燥導電材処理物の嵩密度は0.4g/cc以上であった。
(2)正極の作製
正極活物質としてのLiNi_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)と、導電材としての上記乾燥導電材処理物と結着材としてのPVDFとの質量比が88:10:2となるように秤量し、これら材料(固形分全体)に対して72.4質量%の溶媒NMPに分散させて最終的な固形分率が58%の正極活物質層形成用ペーストを調製した。このとき、平均粒径(D50)が4μmのLiNi_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)粉末を使用した。該ペーストを厚さ50μmのPETフィルムに、塗布量が5.6mg/cm^(2)(固形分基準)、ペーストの厚み40μmとなるように塗布して乾燥して実施例1に係る正極を作製した。」

(21)甲12に記載された発明
ア 上記(20)の【0053】の記載によれば、実施例1の正極活物質層形成用ペーストに注目すると、甲12には、次の発明(以下、「甲12発明」という。)が記載されていると認められる。
「導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業製、商品名「デンカブラック粉状品」)と、分散材としてのポリビニルピロリドン(日本触媒製、商品名「K-30」)と、溶媒としてのイオン交換水とを質量比6.2:0.6:93.2となるように混合し、
この導電材分散体に湿式粉砕処理を行い、アセチレンブラックの解砕を行い、
次いで、この導電材分散体をスプレードライヤーを用いて乾燥造粒して乾燥導電材処理物を得て、
正極活物質と導電材としての乾燥導電材処理物と結着材とを、溶媒NMPに分散させて調製した正極活物質層形成用ペースト」

イ 上記(20)の【0053】の記載によれば、実施例1の正極に注目すると、甲12には、次の発明(以下、「甲12正極発明」という。)が記載されていると認められる。
「甲12発明の正極活物質層形成用ペーストをPETフィルムに、塗布して乾燥して、作製した正極。」

4 当審の判断
4-1 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について
(1)甲1を主たる引用例とした場合(申立理由1、取消理由1で採用)
(1)-1 本件発明3について
ア 本件発明3と甲1発明とを対比するに、少なくとも、本件発明3は、「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲1発明は、高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記アの相違点は、実質的な相違点であるから、本件発明3は、甲1発明とはいえない。

ウ 次に、念のため上記相違点について検討するに、甲1発明において、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である高分子分散剤を採用する動機がない。

エ 仮に、採用できたとしても、高分子分散剤の含有量をカーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下とすることは、適宜設計決定できる設計事項とはいえないし、本願発明3の「過剰な高分子分散剤が活物質表面を被覆し電荷移動反応を妨害する効果を抑え、電池の高抵抗化が抑えられる」(本件明細書【0025】)という効果を予測することも困難である。

オ よって、本件発明3は、甲1発明ではないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(1)-2 本件発明6について
ア 本件発明6は、本件発明3に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明6と甲1発明とは、少なくとも、上記(1)-1のアの相違点と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(1)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明6は、甲1発明ではないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(1)-3 本件発明10について
ア 本件発明10と甲1正極発明とを対比するに、少なくとも、本件発明10は、「塗膜」に「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲1正極発明は、高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記アの相違点は、上記(1)-1のアの相違点と同様の相違点であるから、上記(1)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明10は、甲1正極発明ではないし、甲1正極発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(1)-4 本件発明11、15?17について
ア 本件発明11、15、16は、本件発明10を引用するものであり、また、本件発明17は、本件発明10に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明11、15?17と甲1正極発明とは、少なくとも、上記(1)-1のアの相違点と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(1)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明11、15?17は、甲1正極発明ではないし、甲1正極発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)甲2を主たる引用例とした場合(申立理由2、取消理由1で一部採用)
(2)-1 本件発明3について
ア 本件発明3と甲2発明とを対比するに、少なくとも、本件発明3は、「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲2発明は、高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記アの相違点は、実質的な相違点であるから、本件発明3は、甲2発明とはいえない。

ウ 次に、上記相違点について検討するに、甲2には、分散剤としてポリビニルピロリドンを採用し得ることが記載されており(【0026】)、甲2発明において、分散剤としてポリビニルピロリドンを採用する動機があるといえる。

エ しかしながら、高分子分散剤の含有量をカーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下とすることは、適宜設計決定できる設計事項とはいえないし、本願発明3の「過剰な高分子分散剤が活物質表面を被覆し電荷移動反応を妨害する効果を抑え、電池の高抵抗化が抑えられる」(本件明細書【0025】)という効果を予測することも困難である。

オ よって、本件発明3は、甲2発明ではないし、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)-2 本件発明6について
ア 本件発明6は、本件発明3に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明6と甲2発明とは、少なくとも、上記(2)-1のアの相違点と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(2)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明6は、甲2発明ではないし、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)-3 本件発明10について
ア 本件発明10と甲2正極発明とを対比するに、少なくとも、本件発明10は、「塗膜」に「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲2正極発明は、正極合材層に高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記アの相違点は、上記(2)-1のアの相違点と同様の相違点であるから、上記(2)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明10は、甲2正極発明ではないし、甲2正極発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)-4 本件発明11、15?17について
ア 本件発明11、15、16は、本件発明10を引用するものであり、また、本件発明17は、本件発明10に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明11、15?17と甲2正極発明とは、少なくとも、上記(2)-1のアの相違点と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(2)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明11、15?17は、甲2正極発明ではないし、甲2正極発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)甲3を主たる引用例とした場合(申立理由3、取消理由1及び取消理由2で一部採用)
(3)-1 甲3の実施例41を主たる引用発明とした場合
(3)-1-1 本件発明3について
本件発明3と甲3発明1とを対比する。
ア 甲3発明1の「正極活物質」、「結着剤としてのポリフッ化ビニリデン」、「導電材としてのアセチレンブラック」、「電池用正極ペースト」は、それぞれ、本件発明3の「活物質」、「高分子結着剤」、「電池用正極用カーボンブラック」、「電池用塗工液」に相当する。

イ 甲3発明1の「アセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラック粉状品)」は、その製品名からみて、デンカブラック(登録商標)の「粉状品」であり、上記3の(10)のイからすると、本件明細書に記載された実施例4のカーボンブラックと同一製品である。
そうすると、本件明細書の【0056】の【表1】に示されたとおり、甲3発明の「アセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラック粉状品)」は、個数平均1次粒子径が35nm、DBP吸収量が228mL/100g、圧縮DBP吸収量が125mL/100g、DBP吸収量/圧縮DBP吸収量が1.82となり、本件発明3の「個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下である電池用正極用カーボンブラック」に含まれる。

ウ 甲3発明1の「共重合体E」は、上記3の(5)の[0051]の[表1]によれば、モノマー単位として、SMA(上記3の(5)の[0050]によれば、メタクリル酸ステアリル)、及び、PEG(9)MA(上記3の(5)の[0050]によれば、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)を含む重合体であり、それぞれ、上記3の(5)の[0013]における、一般式(1)で示される構成単位(a)、及び、一般式(2)で示される構成単位(b)を与えるモノマーである。
そして、甲3の「本発明者らは、各種検討の結果、分散剤として特定の構造を有する共重合体を用いた場合、・・・(略)・・・を見出した」(上記3の(5)の[0010])、「第一発明は、正極活物質、導電剤、溶媒、及び、共重合体を含む電池用正極ペーストであって、前記共重合体は、下記一般式(1)で示される構成単位(a)及び下記一般式(2)で示される構成単位(b)を含む共重合体である、電池用正極ペーストである」(上記3の(5)の[0012])との記載からみて、甲3発明1の「共重合体E」は本件発明3の「高分子分散剤」に相当するものであるといえる。

エ 甲3発明1は、「導電剤としてのアセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラック粉状品)」を「用いて作製した」ものであって、「導電剤100重量部に対して共重合体Eを1重量部含む」ものである。
そして、上記3の(9)のアより、「アセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラック粉状品)」の比表面積は68m^(2)/gである。
そうすると、甲3発明1は、「アセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラック粉状品)」の全表面積に対して、「共重合体E」を1/(68×100)g=0.147mg含むこととなる。
したがって、甲3発明1の「導電剤100重量部に対して共重合体Eを1重量部含む」事項は、本件発明3の「高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下である」事項に含まれる。

オ 上記ア?エの検討より、本件発明3と甲3発明1とは、
「活物質と、
高分子結着剤と、
個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下である電池用正極用カーボンブラックと、
高分子分散剤と、
を含み、
前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下である、電池用塗工液。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点1)
「高分子分散剤」が、本件発明3は、「ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲3発明1は、「共重合体E」である点。

カ そして、上記相違点1は、実質的な相違点であるから、本件発明3は、甲3発明1とはいえない。

キ 次に、上記相違点1に係る本件発明3の発明特定事項は、当業者が容易になし得たものであるか否かについて検討する。

ク 上記3の(5)の[0050]及び表1によれば、甲3発明1の「共重合体E」は、モノマー(a)としてSMA(メタクリル酸ステアリル)、モノマー(b)としてPEG(9)MA(メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)、モノマー(c)としてMAA(メタクリル酸)から合成されたものである。

ケ ここで、上記3の(5)の[0030]には、モノマー(c)として、「(メタ)アクリル酸等の酸モノマー」とともに「ビニルピロリドン等のビニルピロリドン類」を用いることができることも記載されている。

コ しかしながら、甲3の実施例である表1?6に示された31種類の共重合体A?AEでは、モノマー(c)として、メタクリル酸以外のモノマーは採用されていないし、上記3の(5)の[0030]には、具体的なモノマーが35種類記載されているところ(例えば、(メタ)アクリル酸は、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の2種類とする。)、その中から、ビニルピロリドンを選択することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

サ また、本件明細書には、次の記載から理解できるように、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体について、より分散性が向上することが示唆されており、そのような効果を予測することも困難である。
「電極用塗工液は、高分子分散剤をさらに含んでいてよい。高分子分散剤としては、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン単位を有する共重合体、ポリビニルイミダゾール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、カルボキシメチルセルロース、アセチルセルロースおよびカルボン酸変性(メタ)アクリル酸エステル共重合体などから選択される少なくとも1種以上を使用することが好ましい。中でもポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体(ポリビニルピロリドンを含む共重合体ともいう。)から選択される少なくとも1種以上を含むことがより好ましい。これらの中では、ポリビニルピロリドンが好ましい。高分子分散剤を含むことにより、電池用カーボンブラックの分散性がより向上する。」(【0024】)

シ そうすると、甲3発明1において、「共重合体E」を合成する際に、モノマー(c)としてのMAA(メタクリル酸)に代えて、ビニルピロリドンを用いて、上記相違点1に係る本件発明3の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ス よって、本件発明3は、甲3発明1ではないし、甲3発明1及び甲3に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)-1-2 本件発明6について
ア 本件発明6は、本件発明3に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明6と甲3発明1とは、少なくとも、上記(3)-1-1の相違点1と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(3)-1-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明6は、甲3発明1ではないし、甲3発明1及び甲3に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)-1-3 本件発明10について
ア 本件発明10と甲3正極発明1とを対比するに、少なくとも、本件発明10は、「塗膜」に「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲3正極発明1は、塗工したものに高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記アの相違点は、上記(3)-1-1の相違点1と同様の相違点であるから、上記(3)-1-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明10は、甲3正極発明1ではないし、甲3正極発明1及び甲3に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)-1-4 本件発明11、15?17について
ア 本件発明11、15、16は、本件発明10を引用するものであり、また、本件発明17は、本件発明10に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明11、15?17と甲3正極発明1とは、少なくとも、上記(3)-1-1の相違点1と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(3)-1-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明11、15?17は、甲3正極発明1ではないし、甲3正極発明1及び甲3に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)-2 甲3の実施例42を主たる引用発明とした場合
(3)-2-1 本件発明3について
本件発明3と甲3発明2とを対比する。
ア 甲3発明2の「正極活物質」、「結着剤としてのポリフッ化ビニリデン」、「導電材としてのアセチレンブラック」、「電池用正極ペースト」は、それぞれ、本件発明3の「活物質」、「高分子結着剤」、「電池用正極用カーボンブラック」、「電池用塗工液」に相当する。

イ 甲3発明2の「アセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラック粉状品)」は、その製品名からみて、デンカブラック(登録商標)の「粉状品」であり、上記3の(10)のイからすると、本件明細書に記載された実施例4のカーボンブラックと同一製品である。
そうすると、本件明細書の【0056】の【表1】に示されたとおり、甲3発明の「アセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラック粉状品)」は、個数平均1次粒子径が35nm、DBP吸収量が228mL/100g、圧縮DBP吸収量が125mL/100g、DBP吸収量/圧縮DBP吸収量が1.82となり、本件発明3の「個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下である電池用正極用カーボンブラック」に含まれる。

ウ 甲3発明2の「共重合体E」は、上記3の(5)の[0051]の[表1]によれば、モノマー単位として、SMA(上記3の(5)の[0050]によれば、メタクリル酸ステアリル)、及び、PEG(9)MA(上記3の(5)の[0050]によれば、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)を含む重合体であり、それぞれ、上記3の(5)の[0013]における、一般式(1)で示される構成単位(a)、及び、一般式(2)で示される構成単位(b)を与えるモノマーである。
そして、甲3の「本発明者らは、各種検討の結果、分散剤として特定の構造を有する共重合体を用いた場合、・・・(略)・・・を見出した」(上記3の(5)の[0010])、「第一発明は、正極活物質、導電剤、溶媒、及び、共重合体を含む電池用正極ペーストであって、前記共重合体は、下記一般式(1)で示される構成単位(a)及び下記一般式(2)で示される構成単位(b)を含む共重合体である、電池用正極ペーストである」(上記3の(5)の[0012])との記載からみて、甲3発明2の「共重合体E」は本件発明3の「高分子分散剤」に相当するものであるといえる。

エ 甲3発明2は、「導電剤としてのアセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラック粉状品)」を「用いて作製した」ものであって、「導電剤100重量部に対して共重合体Eを2重量部含む」ものである。
そして、上記3の(9)のアより、「アセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラック粉状品)」の比表面積は68m^(2)/gである。
そうすると、甲3発明2は、「アセチレンブラック(電気化学工業社製、品名:デンカブラック粉状品)」の全表面積に対して、共重合体Eを2/(68×100)g=0.294mg含むこととなる。
したがって、甲3発明2の「導電剤100重量部に対して共重合体Eを2重量部含む」事項は、本件発明3の「高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下である」事項に含まれる。

オ 上記ア?エの検討より、本件発明3と甲3発明2とは、
「活物質と、
高分子結着剤と、
個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下である電池用正極用カーボンブラックと、
高分子分散剤と、
を含み、
前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下である、電池用塗工液。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点2)
「高分子分散剤」が、本件発明3は、「ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲3発明2は、「共重合体E」である点。

カ そして、上記相違点2は、実質的な相違点であるから、本件発明3は、甲3発明2とはいえない。

キ 次に、上記相違点2について検討する。

ク 上記3の(5)の[0050]及び表1によれば、甲3発明2の「共重合体E」は、モノマー(a)としてSMA(メタクリル酸ステアリル)、モノマー(b)としてPEG(9)MA(メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)、モノマー(c)としてMAA(メタクリル酸)から合成されたものである。

ケ ここで、上記3の(5)の[0030]には、モノマー(c)として、「(メタ)アクリル酸等の酸モノマー」とともに「ビニルピロリドン等のビニルピロリドン類」を用いることができることも記載されている。

コ しかしながら、甲3の実施例である表1?6に示された31種類の共重合体A?AEでは、モノマー(c)として、メタクリル酸以外のモノマーは採用されていないし、上記3の(1)の[0030]には、具体的なモノマーが35種類記載されているところ(例えば、(メタ)アクリル酸を2種類であるとする。)、その中から、ビニルピロリドンを選択することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

サ また、本件明細書には、次の記載から理解できるように、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体がより分散性が向上することが示唆されており、そのような効果を予測することも困難である。
「電極用塗工液は、高分子分散剤をさらに含んでいてよい。高分子分散剤としては、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン単位を有する共重合体、ポリビニルイミダゾール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、カルボキシメチルセルロース、アセチルセルロースおよびカルボン酸変性(メタ)アクリル酸エステル共重合体などから選択される少なくとも1種以上を使用することが好ましい。中でもポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体(ポリビニルピロリドンを含む共重合体ともいう。)から選択される少なくとも1種以上を含むことがより好ましい。これらの中では、ポリビニルピロリドンが好ましい。高分子分散剤を含むことにより、電池用カーボンブラックの分散性がより向上する。」(【0024】)

シ そうすると、甲3発明2において、「共重合体E」を合成する際に、モノマー(c)としてのMAA(メタクリル酸)に代えて、ビニルピロリドンを用いて、上記相違点2に係る本件発明3の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ス よって、本件発明3は、甲3発明2ではないし、甲3発明2及び甲3に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)-2-2 本件発明6について
ア 本件発明6は、本件発明3に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明6と甲3発明2とは、少なくとも、上記(3)-2-1の相違点2と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(3)-2-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明6は、甲3発明2ではないし、甲3発明2及び甲3に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)-2-3 本件発明10について
ア 本件発明10と甲3正極発明2とを対比するに、少なくとも、本件発明10は、「塗膜」に「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲3正極発明2は、塗工したものに高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記アの相違点は、上記(3)-2-1の相違点1と同様の相違点であるから、上記(3)-2-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明10は、甲3正極発明2ではないし、甲3正極発明2及び甲3に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)-2-4 本件発明11、15?17について
ア 本件発明11、15、16は、本件発明10を引用するものであり、また、本件発明17は、本件発明10に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明11、15?17と甲3正極発明2とは、少なくとも、上記(3)-2-1の相違点2と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(3)-2-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明11、15?17は、甲3正極発明2ではないし、甲3正極発明2及び甲3に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)甲4を主たる引用例とした場合(申立理由4、取消理由1で採用)
(4)-1 本件発明3について
ア 本件発明3と甲4発明とを対比するに、少なくとも、本件発明3は、「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲1発明は、高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記アの相違点は、実質的な相違点であるから、本件発明3は、甲4発明とはいえない。

ウ 次に、念のため上記相違点について検討するに、甲4発明において、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である高分子分散剤を採用する動機がない。

エ 仮に、採用できたとしても、高分子分散剤の含有量をカーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下とすることは、適宜設計決定できる設計事項とはいえないし、本願発明3の「過剰な高分子分散剤が活物質表面を被覆し電荷移動反応を妨害する効果を抑え、電池の高抵抗化が抑えられる」(本件明細書【0025】)という効果を予測することも困難である。

オ よって、本件発明3は、甲4発明ではないし、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)-2 本件発明6について
ア 本件発明6は、本件発明3に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明6と甲4発明とは、少なくとも、上記(4)-1のアの相違点と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(4)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明6は、甲4発明ではないし、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)-3 本件発明10について
ア 本件発明10と甲4正極発明とを対比するに、少なくとも、本件発明10は、「塗膜」に「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲4正極発明は、集電体に塗布し、乾燥後、プレスしたものに高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記アの相違点は、上記(4)-1のアの相違点と同様の相違点であるから、上記(4)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明10は、甲4正極発明ではないし、甲4正極発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)-4 本件発明11、15?17について
ア 本件発明11、15、16は、本件発明10を引用するものであり、また、本件発明17は、本件発明10に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明11、15?17と甲1正極発明とは、少なくとも、上記(4)-3のアの相違点と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(4)-3で検討した理由と同様の理由により、本件発明11、15?17は、甲4正極発明ではないし、甲4正極発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5)甲7を主たる引用例とした場合(申立理由5)
(5)-1 本件発明3について
ア 本件発明3と甲7発明とを対比するに、少なくとも、本件発明3は、「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲7発明は、高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記相違点について検討するに、甲7発明は、「エチレンプロピレンゴム配合用のカーボンブラック」の発明であって、カーボンブラックの分散性について、何ら考慮されていないから、甲7発明において、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である高分子分散剤を採用する動機がない。

ウ 仮に、採用できたとしても、高分子分散剤の含有量をカーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下とすることは、適宜設計決定できる設計事項とはいえないし、本願発明3の「過剰な高分子分散剤が活物質表面を被覆し電荷移動反応を妨害する効果を抑え、電池の高抵抗化が抑えられる」(本件明細書【0025】)という効果を予測することも困難である。

エ よって、本件発明3は、甲7発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)-2 本件発明6について
ア 本件発明6は、本件発明3に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明6と甲7発明とは、少なくとも、上記(5)-1のアの相違点と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(5)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明6は、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)-3 本件発明10について
ア 本件発明10と甲7発明とを対比するに、少なくとも、本件発明10は、「塗膜」に「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲7発明は、高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記アの相違点は、上記(5)-1のアの相違点と同様の相違点であるから、上記(5)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明10は、甲7発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)-4 本件発明11、15?17について
ア 本件発明11、15、16は、本件発明10を引用するものであり、また、本件発明17は、本件発明10に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明11、15?17と甲7発明とは、少なくとも、上記(5)-3のアの相違点と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(5)-3で検討した理由と同様の理由により、本件発明11、15?17は、甲7発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)甲8を主たる引用例とした場合(申立理由6)
(6)-1 本件発明3について
ア 本件発明3と甲8発明とを対比するに、少なくとも、本件発明3は、「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲8発明は、高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記相違点について検討するに、甲8発明は、「インクジェットインク組成物中の顔料として有用である」発明であり、「印刷用途において、紙などの基材上に付着された場合に高い光学密度(O.D.)を持つ印刷品を作製する顔料およびインク製剤を開発すること」([0017])を課題とするものであって、カーボンブラックの分散性について、何ら考慮されていないから、甲8発明において、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である高分子分散剤を採用する動機がない。

ウ 仮に、採用できたとしても、高分子分散剤の含有量をカーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下とすることは、適宜設計決定できる設計事項とはいえないし、本願発明3の「過剰な高分子分散剤が活物質表面を被覆し電荷移動反応を妨害する効果を抑え、電池の高抵抗化が抑えられる」(本件明細書【0025】)という効果を予測することも困難である。

オ よって、本件発明3は、甲8発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)-2 本件発明6について
ア 本件発明6は、本件発明3に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明6と甲8発明とは、少なくとも、上記(6)-1のアの相違点と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(6)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明6は、甲8発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)-3 本件発明10について
ア 本件発明10と甲8発明とを対比するに、少なくとも、本件発明10は、「塗膜」に「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲8発明は、高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記アの相違点は、上記(6)-1のアの相違点と同様の相違点であるから、上記(6)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明10は、甲8発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)-4 本件発明11、15?17について
ア 本件発明11、15、16は、本件発明10を引用するものであり、また、本件発明17は、本件発明10に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明11、15?17と甲8発明とは、少なくとも、上記(6)-3のアの相違点と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(6)-3で検討した理由と同様の理由により、本件発明11、15?17は、甲8発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7)甲9を主たる引用例とした場合(申立理由7)
(7)-1 本件発明3について
ア 本件発明3と甲9発明とを対比するに、少なくとも、本件発明3は、「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲9発明は、高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記相違点について検討するに、甲9の【0001】には、甲9発明の「アセチレンブラック」を「亜鉛-炭素乾電池、亜鉛二酸化マンガンアルカリ電池」に用いられること、【0034】には、「アルカリ、リチウムイオンその他の電気化学的電源に用いられ」ることが記載されているものの、カーボンブラックの分散性について特段の記載はない。

ウ また、甲9の【0039】には、「本発明のさらなる目的は、対象とする用途により異なる重要な特性、例えば、・・・(略)・・・分散性・・・(略)・・・などの性能特性に応じて、所望の特性を有するファーネスカーボンブラック又はサーマルカーボンブラックを提供することである」と「分散性」について記載されているものの、かかる分散性は、電池を用途とした場合についてのものか否かが不明である。

エ そうすると、甲9発明の「カーボンブラック」を「電池」に適用できたとしても、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である高分子分散剤を採用する動機がない。

オ 仮に、採用できたとしても、高分子分散剤の含有量をカーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下とすることは、適宜設計決定できる設計事項とはいえないし、本願発明3の「過剰な高分子分散剤が活物質表面を被覆し電荷移動反応を妨害する効果を抑え、電池の高抵抗化が抑えられる」(本件明細書【0025】)という効果を予測することも困難である。

カ よって、本件発明3は、甲9発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7)-2 本件発明6について
ア 本件発明6は、本件発明3に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明6と甲9発明とは、少なくとも、上記(7)-1のアの相違点と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(7)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明6は、甲9発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7)-3 本件発明10について
ア 本件発明10と甲9発明とを対比するに、少なくとも、本件発明10は、「塗膜」に「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲9発明は、高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記アの相違点は、上記(7)-1のアの相違点と同様の相違点であるから、上記(7)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明10は、甲9発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7)-4 本件発明11、15?17について
ア 本件発明11、15、16は、本件発明10を引用するものであり、また、本件発明17は、本件発明10に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明11、15?17と甲9発明とは、少なくとも、上記(7)-3のアの相違点と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(7)-3で検討した理由と同様の理由により、本件発明11、15?17は、甲9発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(8)甲12を主たる引用例とした場合(職権理由1、取消理由2で通知)
(8)-1 本件発明3について
本件発明3と甲12発明とを対比する。
ア 甲12発明の「正極活物質」、「結着材」、「導電材としてのアセチレンブラック」、「正極活物質層形成用ペースト」は、それぞれ、本件発明3の「活物質」、「高分子結着剤」、「電池用正極用カーボンブラック」、「電池用塗工液」に相当する。

イ 甲12発明の「アセチレンブラック(電気化学工業製、商品名「デンカブラック粉状品」)」は、その製品名からみて、デンカブラック(登録商標)の「粉状品」であり、上記3の(10)のイからすると、本件明細書に記載された実施例4のカーボンブラックと同一製品である。
そうすると、本件明細書の【0056】の【表1】に示されたとおり、甲12発明の「導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業製、商品名「デンカブラック粉状品」)」は、個数平均1次粒子径が35nm、DBP吸収量が228mL/100g、圧縮DBP吸収量が125mL/100g、DBP吸収量/圧縮DBP吸収量が1.82となり、本件発明3の「個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下である電池用正極用カーボンブラック」に含まれる。

ウ 甲12発明の「分散材としてのポリビニルピロリドン(日本触媒製、商品名「K-30」)」を「混合」する事項は、本件発明3の「高分子分散剤」「を含み、前記高分子分散剤がポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含む」事項に相当する。

エ 甲12発明は、「導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業製、商品名「デンカブラック粉状品」)と、分散材としてのポリビニルピロリドン(日本触媒製、商品名「K-30」)と、溶媒としてのイオン交換水とを質量比6.2:0.6:93.2となるように混合し」たものである。
また、上記3の(9)のアより、甲12発明の「アセチレンブラック(電気化学工業製、商品名「デンカブラック粉状品」)」の比表面積は68m^(2)/gである。
そうすると、甲12発明は、アセチレンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり、0.6÷6.2÷68m^(2)/g=1.42mgの「分散材としてのポリビニルピロリドン(日本触媒製、商品名「K-30」)」を含むものである。

オ 上記ア?エの検討より、本件発明3と甲12発明とは、
「活物質と、
高分子結着剤と、
個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下である電池用正極用カーボンブラックと、
高分子分散材と、
を含み、
前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、
前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、電池用塗工液。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点3)
「高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり」、本件発明3は、「0.05mg以上0.5mg以下である」のに対し、甲12発明は、1.42mgである点。

カ そして、上記相違点3は、実質的な相違点であるから、本件発明3は、甲12発明とはいえない。

キ 次に、上記相違点3に係る本件発明3の発明特定事項は、当業者が容易になし得たものであるか否かについて検討する。

ク 甲12には、「導電材分散体に含まれる分散材の量は適宜決定されるが、導電材100質量部に対して0.1質量部?20質量部程度の使用が好ましい。さらに好ましくは、0.5質量部?10質量部程度である」(上記3の(20)の【0023】)と記載されている。

ケ そうすると、甲12発明は、上記クの範囲であれば、適宜変更し得るといえるから、甲12発明において、例えば、導電材100質量部に対して分散材を1質量部、すなわち、アセチレンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり1÷100÷68m^(2)/g=0.147mgとすることは、一見、当業者が容易になし得たことであるとも考えられる。

コ しかしながら、本件明細書には、「分子分散剤の含有量は、」「0.5mg以下とすることで、過剰な高分子分散剤が活物質表面を被覆し電荷移動反応を妨害する効果を抑え、電池の高抵抗化が抑えられる」(【0025】)と記載されており、かかる効果を予測することまで、当業者が容易に想到できたとはいえない。

サ よって、本件発明3は、甲12発明とはいえないし、甲12発明及び甲12に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(8)-2 本件発明6について
ア 本件発明6は、本件発明3に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明6と甲12発明とは、少なくとも、上記(8)-1の相違点3と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(8)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明6は、甲12発明とはいえないし、甲12発明及び甲12に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(8)-3 本件発明10について
ア 本件発明10と甲12正極発明とを対比するに、少なくとも、本件発明10は、「塗膜」に「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲12正極発明は、PETフィルムに、塗布して乾燥したものに高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記アの相違点は、上記(8)-1の相違点3と同様の相違点であるから、上記(8)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明10は、甲12正極発明ではないし、甲12正極発明及び甲12に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(8)-4 本件発明11、15?17について
ア 本件発明11、15、16は、本件発明10を引用するものであり、また、本件発明17は、本件発明10に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明11、15?17と甲12正極発明とは、少なくとも、上記(8)-1の相違点3と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(8)-1で検討した理由と同様の理由により、本件発明11、15?17は、甲12正極発明ではないし、甲12正極発明及び甲12に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

4-2 特許法第29条の2について(申立理由8、取消理由1で一部採用)
(1)本件発明3について
ア 本件発明3と甲11発明とを対比するに、少なくとも、本件発明3は、「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲11発明は、高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記相違点について検討するに、仮に、例えば、電池用塗工液において、ポリビニルピロリドンのような分散剤を用いて分散効果を高めることが周知技術であったとしても、高分子分散剤の含有量をカーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下とすることは、「過剰な高分子分散剤が活物質表面を被覆し電荷移動反応を妨害する効果を抑え、電池の高抵抗化が抑えられる」(本件明細書【0025】)という効果を奏するものであるから、当該数値の設定は課題解決のための単なる微差はいえない。

ウ よって、本件発明3は、甲11発明と実質的に同一とはいえない。

(2)本件発明6について
ア 本件発明6は、本件発明3に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明6と甲11発明とは、少なくとも、上記(1)のアの相違点と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、本件発明6は、甲11発明と実質的に同一とはいえない。

(3)本件発明10について
ア 本件発明10と甲11正極発明とを対比するに、少なくとも、本件発明10は、「塗膜」に「高分子分散材」「を含み、前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である」のに対し、甲11正極発明は、アルミニウム箔に塗工したものに高分子分散剤を含まない点で相違する。

イ そして、上記アの相違点は、上記(1)のアの相違点と同様の相違点であるから、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、本件発明10は、甲11正極発明と実質的に同一とはいえない。

(4)本件発明11、15?17について
ア 本件発明11、15、16は、本件発明10を引用するものであり、また、本件発明17は、本件発明10に対して、「電池用正極カーボンブラック」が「アセチレンブラックである」との発明特定事項を付加したものであるから、本件発明11、15?17と甲11正極発明とは、少なくとも、上記(3)のアの相違点と同様の相違点で相違する。

イ したがって、上記(3)で検討した理由と同様の理由により、本件発明11、15?17は、甲11正極発明と実質的に同一とはいえない。

4-3 特許法第36条第4項第1号について(職権理由2、取消理由2で通知)
(1)職権理由2は、令和2年8月27日になされた訂正請求により訂正された請求項2に係る発明の発明特定事項である「圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.96以上2.2以下」であり、「アセチレンブラックである電池用正極用カーボンブラック」について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないというものである。

イ しかしながら、上記第1の1のとおり、本件訂正請求がなされたため、令和2年8月27日になされた訂正請求は、取り下げられたものとみなされた。

ウ また、本件発明3、6、10、11、15?17は、「圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.96以上2.2以下」であり、「アセチレンブラックである電池用正極用カーボンブラック」との発明特定事項を含むものではない。

エ よって、職権理由2は解消された。

5 むすび
以上のとおり、本件の請求項3、6、10、11、15?17に係る特許は、令和2年6月29日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、令和2年11月30日付けで通知された取消理由に記載した取消理由(決定の予告)、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項3、6、10、11、15?17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件の請求項1、2、4、5、7?9、12?14は、本件訂正により削除されたから、本件の請求項1、2、4、5、7?9、12?14に係る特許に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
活物質と、
高分子結着剤と、
個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下である電池用正極用カーボンブラックと、
高分子分散剤と、
を含み、
前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、
前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、電池用塗工液。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
活物質と、
高分子結着剤と、
個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下であり、アセチレンブラックである電池用正極用カーボンブラックと、
高分子分散剤と、
を含み、
前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、
前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、電池用塗工液。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
金属箔と、
該金属箔上に形成された、個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下である電池用正極用カーボンブラック、及び、高分子分散剤を含む塗膜と、
を備え、
前記塗膜における前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、
前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、電池用電極。
【請求項11】
前記塗膜が、活物質および高分子結着剤をさらに含む、請求項10に記載の電池用電極。
【請求項12】
(削除)
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
(削除)
【請求項15】
請求項10又は11に記載の電池用電極を備える電池。
【請求項16】
請求項3又は6に記載の電池用塗工液を金属箔上に塗布して、前記金属箔と前記電池用塗工液から形成された塗膜とを備える電池用電極を得る工程を含む、電池用電極の製造方法。
【請求項17】
金属箔と、
該金属箔上に形成された、個数平均1次粒子径が20nm以上40nm以下であり、圧縮DBP吸収量に対するDBP吸収量の比が1.46以上2.2以下、かつ、圧縮DBP吸収量が100mL/100g以上200mL/100g以下であり、アセチレンブラックである電池用正極用カーボンブラック、及び、高分子分散剤を含む塗膜と、
を備え、
前記塗膜における前記高分子分散剤の含有量が、カーボンブラックの全表面積に対して1m^(2)あたり0.05mg以上0.5mg以下であり、
前記高分子分散剤が、ポリビニルピロリドンおよびビニルピロリドン単位を有する共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、電池用電極。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-21 
出願番号 特願2016-547448(P2016-547448)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 161- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小出 直也  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 土屋 知久
市川 篤
登録日 2019-09-06 
登録番号 特許第6581991号(P6581991)
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 電池用カーボンブラック、混合粉末、電池用塗工液、電池用電極および電池  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 中塚 岳  
代理人 中塚 岳  

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