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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
管理番号 1376731
異議申立番号 異議2019-700965  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-28 
確定日 2021-06-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6523349号発明「掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定用の装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6523349号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-21〕について訂正することを認める。 特許第6523349号の請求項1、2、4?18、20及び21に係るに係る特許を取り消す。 特許第6523349号の請求項3及び19に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6523349号の請求項1?21に係る特許についての出願は、2009年(平成21年)12月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年12月23日、独国)を国際出願日として出願した特願2011-542712号の一部を、平成27年4月30日に新たな特許出願として出願した特願2015-93007号の一部を、さらに平成29年1月4日に新たな特許出願として出願したものであって、令和元年5月10日にその特許権の設定登録がされ、同年5月29日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和元年11月28日 :特許異議申立人横地美奈(以下「申立人」という。)による請求項1?21に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年 2月10日付け:取消理由通知書
同年 5月14日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
(特許法第120条の5第7項の規定により、上記訂正請求書による訂正の請求は、取り下げられたものとみなす。)
同年 6月 5日 :特許権者による手続補足書(乙第2号証として提出された実験報告書の原本)の提出
同年 6月27日 :申立人による意見書の提出
同年 7月29日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年11月 2日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)の提出
同年12月15日 :申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求書による請求の趣旨は、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおりに、訂正後の請求項1?21について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記光源の調整を制御し、前記レシーバで1回の調整の間に検出される前記後方散乱される光をΔk/(τ×δk)よりも大きい比率でディジタル化する制御および評価ユニットが設けられていることを特徴とする掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」とあるのを、「前記光源の調整を制御し、前記レシーバで1回の調整の間に検出される前記後方散乱される光をΔk/(τ×δk)よりも大きい周波数(当審注:「訂正事項1-1」という。)でディジタル化する制御ユニット(当審注:「訂正事項1-3」という。)が設けられており、前記スペクトル調整範囲Δkと前記レーザー線幅δkの比は360よりも大きく、調整率(Δk/τ)と前記レーザー線幅δkの割合が40MHzよりも小さい(当審注:「訂正事項1-2」という。)ことを特徴とする掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」(下線は特許権者が付与した訂正箇所である。以下同様。)に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2、4?6、10?18、20及び21も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5の「請求項1?4のいずれか1項に記載の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」を「請求項1、2および4のいずれか1項に記載の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」に訂正する。
請求項5の記載を引用する請求項6、10?18、20及び21も同様に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6の「請求項1?5のいずれか1項に記載の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」を「請求項1、2、4および5のいずれか1項に記載の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」に訂正する。
請求項6の記載を引用する請求項10?18、20及び21も同様に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に
「前記光源は、少なくともΔk>18000m^(-1)の、重心波数k_(0)を中心とするスペクトル調整範囲Δkを有し、
サンプルアーム及び参照アームを有する干渉計が設けられ、前記参照アームは、前記Aスキャンにおいて網膜および角膜に対して適切に設定された参照面を有し、前記光源は、前記Aスキャンにおける網膜および角膜に対する前記参照面の位置に応じた最大レーザー線幅を有し、
前記参照面が角膜と網膜との間で設定されていることにより、角膜と網膜との間で設定された前記参照面に応じた前記光源のδk<162m^(-1)のレーザー線幅が生じ、
前記参照面が網膜の後方で設定されていることにより、網膜の後方で設定された前記参照面に応じた前記光源のδk<93m^(-1)のレーザー線幅が生じ、
前記参照面が角膜の前方で設定されていることにより、角膜の前方で設定された前記参照面に応じた前記光源のδk<81m^(-1)のレーザー線幅が生じ、
前記参照面が網膜の後方で設定され、かつ参照面と眼球の最も近くにある光学素子との間に64mmの最小間隔が設定されていることにより、眼球の最も近くにある光学素子との間に64mmの最小間隔で網膜の後方で設定された前記参照面に応じた前記光源のδk<47m^(-1)のレーザー線幅が生じることを特徴とする眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」とあるのを、
「前記光源は、少なくともΔk>18000m^(-1)の、重心波数k_(0)を中心とするスペクトル調整範囲Δkを有し、
前記スペクトル調整範囲Δkと前記レーザー線幅δkの比は360よりも大きく、調整率(Δk/τ)と前記レーザー線幅δkの割合が40MHzよりも小さく、(当審注:「訂正事項5-1」という。)
サンプルアーム及び参照アームを有する干渉計が設けられ、前記参照アームは、前記Aスキャンにおいて網膜および角膜に対して以下の第1から第4の位置のいずれか1つ(当審注:当該下線及び以下の下線部を含めて「訂正事項5-2」という。)に設定された参照面を有し、前記光源は、前記Aスキャンにおける網膜および角膜に対する前記参照面の位置に応じた最大レーザー線幅を有し、
前記参照面が角膜と網膜との間の前記第1の位置に設定される場合、δk<162m^(-1)のレーザー線幅を有するように前記光源が設計され、
前記参照面が網膜の後方の前記第2の位置に設定される場合、δk<93m^(-1)のレーザー線幅を有するように前記光源が設計され、
前記参照面が角膜の前方の前記第3の位置に設定される場合、δk<81m^(-1)のレーザー線幅を有するように前記光源が設計され、
前記参照面が網膜の後方の前記第4の位置に設定され、かつ参照面と眼球の最も近くにある光学素子との間に64mmの最小間隔が設定される場合、δk<47m^(-1)のレーザー線幅を有するように前記光源が設計されることを特徴とする眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」に訂正する。
請求項7の記載を引用する請求項8?18、20及び21も同様に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10の「請求項1?9のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」を「請求項1、2、および4?9のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」に訂正する。
請求項10の記載を引用する請求項11?18、20及び21も同様に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項11の「請求項1?10のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」を「請求項1、2、および4?10のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」に訂正する。
請求項11の記載を引用する請求項12?18、20及び21も同様に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項12の「請求項1?11のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」を「請求項1、2、および4?11のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」に訂正する。
請求項12の記載を引用する請求項13?18も同様に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項13の「請求項1?12のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」を「請求項1、2、および4?12のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」に訂正する。
請求項13の記載を引用する請求項14?18も同様に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項14の「請求項1?13のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」を「請求項1、2、および4?13のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」に訂正する。
請求項14の記載を引用する請求項15?18も同様に訂正する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項15の「請求項1?14のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」を「請求項1、2、および4?14のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」に訂正する。
請求項15の記載を引用する請求項16?18も同様に訂正する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項16に「前記カメラは前記測定ビームの波長と前記照準マーカーの反射に反応性を有する」とあるのを「前記カメラは前記測定ビームの波長と前記照準マーカーの反射に対する感度を有する」に訂正する。
請求項16の記載を引用する請求項17及び18も同様に訂正する。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項17の「請求項1?16のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」を「請求項1、2、および4?16のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」に訂正する。
請求項17の記載を引用する請求項18も同様に訂正する。

(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項18の「請求項1?17のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」を「請求項1、2、および4?17のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」に訂正する。

(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項19を削除する。

(16)一群の請求項について
訂正前の請求項1及び7は各々独立項であるものの、請求項10?19は請求項1?9を直接的又は間接的に引用し、請求項20及び21は請求項11を引用するものであるから、請求項1?21は一群の請求項である。そして、上記訂正事項1?15はいずれも、その一群の請求項においてなされたものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する当該一群の請求項ごとに請求されているものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 目的の適否
(ア)訂正事項1-1の「Δk/(τ×δk)よりも大きい比率でディジタル化する」を「Δk/(τ×δk)よりも大きい周波数でディジタル化する」と訂正することについては、令和2年2月10日付け取消理由通知書(以下「取消理由通知書」という。)の取消理由1(明確性)の(2)において「「光をΔk/(τ×δk)よりも大きい比率でディジタル化する制御および評価」と記載されているが、ある「比率でディジタル化」するとは技術的にどのようなことを特定しようしているのか不明確である。」と指摘したことを受けて、訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(イ)訂正事項1-2は、「前記光源の調整」について「前記スペクトル調整範囲Δkと前記レーザー線幅δkの比は360よりも大きく、調整率(Δk/τ)と前記レーザー線幅δkの割合が40MHzよりも小さい」ことを追加して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(ウ)訂正事項1-3の「ディジタル化する制御および評価ユニット」を「ディジタル化する制御ユニット」と訂正することについては、令和2年7月29日付け取消理由通知書(決定の予告)(以下「取消理由通知書(決定の予告)」という。)の取消理由1(明確性)の(3)において「「評価」という用語は、一般に価値を判断して決めることであり、さらに、信号処理の分野においては、評価されるべきデータを基準データと比較して是非を判断する意味で使用することはあっても、ディジタル化およびフーリエ変換を意味する用語として「評価」が使用されることは想定できず・・・依然として「評価」について明確とはいえない。」と指摘したことを受けて、訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
(ア)訂正事項1-1について、Δk/(τ×δk)の単位は1/sとなり、一般にディジタル機器はクロック周波数にしたがってディジタル化を行うものであるから、「Δk/(τ×δk)よりも大きい比率でディジタル化する」を「Δk/(τ×δk)よりも大きい周波数でディジタル化する」と訂正することについては、その単位及び技術常識を考慮すると、本件出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入したものとはいえないことから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。

(イ)訂正事項1-2について、本件明細書には、
「【0019】
それゆえ、サンプルの動きに伴う測定ビームの積極的な追跡を必要とせずに、ほとんど乱れのない信号が得られる。
光源が少なくともΔk>18000m^(-1)の重心波数k_(0)を中心としてスペクトル調整範囲Δkを有する場合、好都合である。この場合、調整範囲Δkと線幅δkの比は、好ましくは360よりも大きく、さらに好ましくは2000よりも大きく、さらに好ましくは4000よりも大きく、さらに一層好ましくは9000よりも大きい。この比によって、測定深度と測定分解能の適切な比が実現するようになる。
【0020】
調整速度(Δk/τ)とレーザー線幅δkの割合が18kHzよりも大きいときにさらなる優位性が得られ、好ましくは4MHzよりも大きく、さらに40MHzよりも大きいことが好ましい。」(下線は当審において付与したものである。以下同様。)と記載されており、
上記【0019】に「前記スペクトル調整範囲Δkと前記レーザー線幅δkの比は360よりも大き」いことが記載され、また、【0020】の「調整速度(Δk/τ)とレーザー線幅δkの割合が18kHzよりも大きいときにさらなる優位性が得られ、好ましくは4MHzよりも大きく、さらに40MHz」との記載から、調整速度(Δk/τ)とレーザー線幅δkの割合が40MHzよりも小さいものが記載されているといえることから、「調整率(Δk/τ)と前記レーザー線幅δkの割合が40MHzよりも小さい」との事項は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
してみれば、「前記スペクトル調整範囲Δkと前記レーザー線幅δkの比は360よりも大きく、調整率(Δk/τ)と前記レーザー線幅δkの割合が40MHzよりも小さい」ことは、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。

(ウ)訂正事項1-3について、本件明細書には、
「【0044】
制御および評価ユニット10は、データ収集装置9を介してレーザー1の調整を(調整時間τのスペクトル調整範囲Δkで)制御し、サンプル3によって後方散乱され検出器4によって測定される光はディジタル化され、Aスキャンを再構成するために、周知のようにフーリエ変換、たとえば、離散フーリエ変換(DFT)される。」と記載されていることから、「ディジタル化する制御ユニット」は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(エ)よって、訂正事項1は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入したものとはいえず、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項5について
ア 目的の適否
訂正事項5-1は、訂正事項1-2と同じ事項であることから、上記(1)ア(イ)で述べたように、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(イ)訂正事項5-2は、取消理由通知書の取消理由1(明確性)の(3)において、
「ア 「Aスキャンにおいて網膜および角膜に対して適切に設定された参照面」について、参照面を網膜および角膜に対してどのように設定することを「適切に」と表現しているのか不明確である。
イ 「参照面が角膜と網膜との間で設定されていることにより、角膜と網膜との間で設定された前記参照面に応じた前記光源のδk<162m^(-1)のレーザー線幅が生じ」るとの記載では、参照面を角膜と網膜との間に設定することで、光源のレーザー線幅がδk<162m^(-1)となるように解されるが、参照面を角膜と網膜との間に設定することが要因で、光源のレーザー線幅がδk<162m^(-1)となるとはいえず、技術的に不明確である。
「前記参照面が網膜の後方で設定されていることにより、網膜の後方で設定された前記参照面に応じた前記光源のδk<93m^(-1)のレーザー線幅が生じ」ること、「前記参照面が角膜の前方で設定されていることにより、角膜の前方で設定された前記参照面に応じた前記光源のδk<81m^(-1)のレーザー線幅が生じ」ること、「前記参照面が網膜の後方で設定され、かつ参照面と眼球の最も近くにある光学素子との間に64mmの最小間隔が設定されていることにより、眼球の最も近くにある光学素子との間に64mmの最小間隔で網膜の後方で設定された前記参照面に応じた前記光源のδk<47m^(-1)のレーザー線幅が生じる」ことについても同様である。」
と指摘したことを受けて、訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
(ア)訂正事項5-1は、上記(1)イ(イ)で述べたように、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(イ)訂正事項5-2について、本件明細書には、
「【0039】
本発明を、図面を参照して以下でさらに詳しく説明する。
図1の本発明を実施するための基本設計は、変数として、調整時間τ、波長λ、スペクトル調整範囲Δk、重心波数k_(0)、およびレーザー線幅δkで特徴付けられる適当な波長可変レーザー1からなる。」
「【0068】
最大レーザー線幅δkは測定領域に依存することが明らかになっている。レーザー線幅は、自己相関関数を測定する場合に162m^(-1)よりも小さくなければならず、すなわち、参照アームが阻止される。
【0069】
参照アームを有する装置を使用すると、サンプル内の参照面を適当に定義することによって、1.角膜、水晶体、および網膜からの信号が十分な強度で検出され、しかも、2.ミラーアーチファクトが計算によって抑圧されまたは識別および排除されうることを保証することが可能である。図3はこれを参照面の様々な位置に対して図式的に示しており、参照面は参照光路とサンプル光路の波長差によって設定される。
【0070】
図3aでは、参照面は、網膜(R)の後方で設定されており、結果は93m^(-1)の最大レーザー線幅である(曲線として図式的に表わされる54mmの全測定範囲にわたって80dBの信号レベル低下)。R’、C’は、ここでも以下でもミラーアーチファクトを示す。
【0071】
図3bでは、参照面は、角膜(C)の前方で設定され、結果は81m^(-1)の最大レーザー線幅である(角膜は網膜よりもよく反射するので、54mmの全測定範囲にわたって60dBの信号レベル低下が考えられる)。
【0072】
図3cでは、参照面は角膜(C)と網膜(R)の間で設定されており、結果は162m^(-1)の最大レーザー線幅である。
図3aの場合と同様に、図3dでは、54mmの全測定範囲にわたってわずか20dBの目標信号レベル低下を想定して、参照面は網膜(R)の後方で設定されており、結果は47m^(-1)の最大レーザー線幅である。これは好ましいレーザー線幅δkである。ここでは、参照面と眼球の最も近くにありかつ測定ビームによって横断される光学素子との間に64mmの最小間隔を実現する必要がある。」と記載されており、
参照面の位置について、「角膜(C)と網膜(R)の間で設定」(第1の位置)、「網膜(R)の後方で設定」(第2の位置)、「角膜(C)の前方で設定」(第3の位置)、「網膜(R)の後方で、参照面と眼球の最も近くにありかつ測定ビームによって横断される光学素子との間に64mmの最小間隔で設定」(第4の位置)と4つの場合が記載されており、順にそれぞれの場合、162m^(-1)の最大レーザー線幅(δk<162m^(-1))、93m^(-1)の最大レーザー線幅(δk<93m^(-1))、81m^(-1)の最大レーザー線幅(δk<81m^(-1))、47m^(-1)の最大レーザー線幅(δk<47m^(-1))となる、すなわち、「基本設計」としてレーザー線幅δkがそのような値を有するように波長可変レーザー1(光源)が「設計」されることが記載されているといえる。
そうすると、訂正事項5-2については、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入したものとはいえない。

(ウ)よって、訂正事項5は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入したものとはいえず、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項12について
ア 目的の適否
訂正事項12は、取消理由通知書の取消理由1(明確性)の(4)において「請求項16で「カメラは前記測定ビームの波長と前記照準マーカーの反射に反応性を有する」と記載されているが、カメラが「反応性」を有するとは技術的に不明であり、本件明細書にも説明されていない。」と指摘したことを受けて、訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項12について、本件明細書には、
「【0035】
観測ユニット、たとえば、カメラが眼球に対する測定ビームの調整をチェックするために提供される場合はさらに好都合であり、観測ユニットは測定ビームの波長および照準マーカーに対して敏感であることが好ましい。シリコンセンサーを有するカメラは、近赤外線における残留感度が十分であるのでここでは特に適しているものと思われる。」と記載されており、カメラが「感度」を有するものであることが記載されていることから、訂正事項12は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項12は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項2及び15について
訂正事項2及び15は、請求項を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、請求項の削除は、新規事項を追加するものでもなく、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項3、4、6?11、13及び14について
訂正事項3、4、6?11、13及び14は、訂正事項2による請求項3を削除することにともない、引用する請求項から請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえ、引用する請求項から一部の請求項を削除することは、新規事項を追加するものでもなく、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
上記のとおり、訂正事項1?15に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-21〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、2、4?18、20及び21に係る発明(以下、各請求項に対しては「本件発明1」等と記載し、まとめて「本件発明1?21」あるいは「本件発明」と記載する場合には、削除された請求項3及び19に対応するものは除かれているものとする。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4?18、20及び21に記載されたとおりのものであり、そのうち、以下の第5の「当審の判断」に直接的に関与する本件発明1、4?8及び14を記載すると、以下のとおりである。
「【請求項1】
可動サンプルである人間の眼球に対してAスキャンを行うために、重心波数k_(0)を中心として波数を調整可能な波長可変レーザー光源とサンプルから後方散乱される光に対する少なくとも1つのレシーバとを有するとともにサンプル寸法に対応する測定範囲を有する掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定(SSOCDR)装置であって、
前記サンプルは直径Dの測定ビームを用いて前記サンプルの表面に照射され、
前記光源はδk<168m^(-1)のレーザー線幅を有し、
前記光源の調整は重心波数k_(0)を中心として時間τ<44sec/(D×k_(0))で実施され、
前記光源は、少なくともΔk>18000m^(-1)の、重心波数k_(0)を中心とするスペクトル調整範囲Δkを有し、
前記光源は、600nm?1150nmの波長を有し、
前記光源の調整を制御し、前記レシーバで1回の調整の間に検出される前記後方散乱される光をΔk/(τ×δk)よりも大きい周波数でディジタル化する制御ユニットが設けられており、前記スペクトル調整範囲Δkと前記レーザー線幅δkの比は360よりも大きく、調整率(Δk/τ)と前記レーザー線幅δkの割合が40MHzよりも小さいことを特徴とする掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項2】
測定ビームの直径Dは、3mmよりも小さい、請求項1に記載の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」
「【請求項4】
調整率Δk/τを前記レーザー線幅δkで除算することによって得られた値は18kHzよりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項5】
前記光源の前記レーザー線幅δkは22m^(-1)?50m^(-1)にあることを特徴とする請求項1、2、および4のいずれか1項に記載の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つのレシーバの帯域幅は2×Δk/(τ×δk)よりも大きく、80MHz未満であることを特徴とする請求項1、2、4、および5のいずれか1項に記載の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項7】
可動サンプルである人間の眼球に対してAスキャンを行うために、重心波数k_(0)を中心として波数を調整可能な波長可変レーザー光源とサンプルから後方散乱される光に対する少なくとも1つのレシーバとを有するとともにサンプル寸法に対応する測定範囲を有する掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定(SSOCDR)装置であって、
前記サンプルは直径Dの測定ビームを用いて前記サンプルの表面に照射され、
前記光源はδk<168m^(-1)のレーザー線幅を有し、
前記光源の調整は重心波数k_(0)を中心として時間τ<44sec/(D×k_(0))で実施され、
前記光源は、少なくともΔk>18000m^(-1)の、重心波数k_(0)を中心とするスペクトル調整範囲Δkを有し、
前記スペクトル調整範囲Δkと前記レーザー線幅δkの比は360よりも大きく、調整率(Δk/τ)と前記レーザー線幅δkの割合が40MHzよりも小さく、
サンプルアーム及び参照アームを有する干渉計が設けられ、前記参照アームは、前記Aスキャンにおいて網膜および角膜に対して以下の第1から第4の位置のいずれか1つに設定された参照面を有し、前記光源は、前記Aスキャンにおける網膜および角膜に対する前記参照面の位置に応じた最大レーザー線幅を有し、
前記参照面が角膜と網膜との間の前記第1の位置に設定される場合、δk<162m^(-1)のレーザー線幅を有するように光源が設計され、
前記参照面が網膜の後方の前記第2の位置に設定される場合、δk<93m^(-1)のレーザー線幅を有するように光源が設計され、
前記参照面が角膜の前方の前記第3の位置に設定される場合、δk<81m^(-1)のレーザー線幅を有するように光源が設計され、
前記参照面が網膜の後方の前記第4の位置に設定され、かつ参照面と眼球の最も近くにある光学素子との間に64mmの最小間隔が設定される場合、δk<47m^(-1)のレーザー線幅を有するように光源が設計されることを特徴とする眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項8】
測定ビームの直径Dは、3mmよりも小さい、請求項7に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」
「【請求項14】
前記測定ビームは600nm?1150nmの波長を有することを特徴とする請求項1、2、および4?12のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。」

第4 取消理由(決定の予告)の概要
取消理由通知書(決定の予告)の取消理由の要旨は、次のとおりである。
取消理由1.(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の請求項1?21に係る記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
取消理由2.(委任省令要件)本件特許は、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
取消理由3.(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の請求項1?21に係る記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
取消理由4.(実施可能要件)本件特許は、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第5 当審の判断
1 取消理由1について
(1)測定ビームの直径Dについて
ア 通知した具体的内容
取消理由通知書の取消理由1の(1)アにおいて、
「本件特許請求の範囲における測定ビームの「直径D」について、本件明細書に「ビーム整形および結合ユニット2は、レーザー1のビームをサンプル3(ここでは、眼球として図式的に示される)に導くとともにサンプル3によって後方散乱された光を検出器4に供給する働きをし、同図において、Dはサンプル(ここでは、眼球の角膜)に衝突する測定ビームの直径である。」と説明されるのみである。一方、測定ビームの「直径D」という物理量については、少なくともFWHM、D_(63)およびD_(86)という3種類の定義を取り得るものである。
してみれば、本件特許請求の範囲における測定ビームの「直径D」とはどのような定義のもとに特定したものか不明確である。」と指摘し、それに対する特許権者の意見を踏まえたうえで、取消理由通知書(決定の予告)の取消理由1の(1)ウでは、以下の判断を示した。
「特許権者は、「甲第20号証には、測定ビームの「直径D」という用語は理想ガウシアン・プロファイルについての直径D_(86)を意味するとの説明があり、その説明を出願時の技術常識(1つの理想ガウシアン半径に統一して比較する)をもって考慮して請求項1に記載された測定ビームの「直径D」を解釈することにより、測定ビームの「直径D」の記載は明確である」と説明しているが、その甲第20号証は、欧州特許庁による特許異議事件に関する予備的見解書であり、「掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置」において用いられる測定ビームの「直径D」についての一般的な技術内容を示す技術文献等ではないことから、甲第20号証の記載を根拠に「直径D」をD_(86)を定義とする値であると解することはできない。
また、甲第20号証においては、「規格(ISO11146-1,2,3:2005)」との記載もあるが、規格(ISO11146-1,2,3:2005)は「Lasers and laser-related equipment - Test methods for laser beam widths, divergence angles and beam propagation ratios」(当審訳:レーザー及びレーザー関連装置 - レーザーのビーム幅、広がり角、及びビーム伝搬比の測定方法)についての国際標準規格であり、それによれば、ビーム幅(本件発明における測定ビームの「直径D」に相当)としてはD4σを用いることが記載されている。そして、ビームの「直径D」については、D_(86)、D4σの他に、FWHM、D_(63)との定義もあることは、上記指摘で述べたとおりであり、これらD4σ、FWHM、D_(86)、D_(63)の定義の中で、掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置で用いられる測定ビームの「直径D」としてD_(86)を定義として用いることが一般的であるとの根拠は何ら示されていない。
してみれば、本件発明の「掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置」で用いられる「直径Dの測定ビーム」の「直径D」について、本件明細書の「Dはサンプル(ここでは、眼球の角膜)に衝突する測定ビームの直径である。」との記載からD_(86)をその定義とする根拠はなく、甲第20号証の記載を根拠に「直径D」をD_(86)を定義とする値であると解することもできない。
よって、本件発明における測定ビームの「直径D」をD_(86)を定義とする値であるとする技術的根拠があるとはいえないことから、依然としてどのような定義のもとに特定したものか明確であるとはいえない。」

イ 特許権者の主張
(ア)特許権者は、上記判断に対して、令和2年11月2日に提出の意見書(以下「意見書」という。)で、以下の(イ)で記載する乙第17号証?乙第23号証を添付して、以下の主張をしている。
「測定ビームの「直径D」としてD_(86)を定義として用いることが一般的であり、その根拠を示す文献として、乙第17号証?乙第23号証が挙げられる。いずれの文献においても、異議申立人が甲第23号証として提示している図面に示される1/e^(2)の強度をビーム直径として定義することが記載されている。」
「従って、乙第17号証?乙第23号証は、令和2年5月14日付けの意見書において、特許権者が、「当業者の視点では、本件特許における直径Dという用語は、理想ガウシアン・プロファイルについての直径D_(86)を意味すると仮定すべきである」という欧州特許庁の異議部のこの見解に同意すると意見を述べていることのサポートとなるものと思料する。」

(イ)乙号証について
乙第17号証:Beam diameter,[online],Wikipedia,[2020年10月22日検索],URL:https://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Beam_diameter&oldid=955406649
乙第18号証:Wolfgang Drexler, et al.,「Optical Coherence Tomography, Technology and Applications」,Springer,p.0262-0263,0413-0415,1032
乙第19号証:Rainer A. Leitgeb,「Current Technologies for High-Speed and Functional Imaging with Optical Coherence Tomography」,Advances in Imaging and Electron Physics, Volume168(2011), Elsevier Inc., p.109,121,142
乙第20号証:Ralf Menzel,「Photonics Linear and Nonlinear Interactions of Laser Light and Matter」,Springer, p.29,56,371
乙第21号証:Pedrotti, et al.,「Optik Eine Einfuhrung」(uのウムラウトはuと記載した),Prentice Hall
乙第22号証:BAHAA E.A SALEH, et al.,「FUNDAMENTALS OF PHOTONICS」,John Wiley & Sons, p.85
乙第23号証:「Understanding Laser Beam Parameters Leads to Better System Performance and Can Save Money」,[online], 2020年10月22日検索],URL:https://www.coherent.com/assets/pdf/Understanding-Beam-Parameters_FORMFIRST.pdf, pp.1-5
(以下、「乙第17号証」?「乙第23号証」は、「乙17」?「乙23」という。)

ウ 判断
(ア)発行日について
特許権者は、測定ビームの直径DとしてD_(86)を定義として用いることが一般的であることを示す文献として乙17?乙23を提示してきたが、乙19以外の乙17?18及び乙20?23について、その発行日又は掲載日を確認することができないことから、乙17?18及び乙20?23が本件優先日前に発行又は掲載されたものとはいえない。また、乙19は、発行日が2011年といえるものの、それは本件優先日より後である。
してみれば、特許権者が提示した乙17?23は、本件優先日時に、掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置で用いられる測定ビームの直径Dとして、D_(86)を定義として用いることが一般的であることを示す根拠にはなり得ないものである。
なお、特許権者は乙18及び乙20?乙22については、意見書で「乙第18号証の文献の初版発行は2008年9月25日であり、乙第20号証の文献の初版発行は2001年であり、乙第21号証の文献の初版発行は2009年であり、乙第22号証の文献の初版発行は1991年である。上記各文献の初版発行情報は、文献のタイトル、著者、および出版社の情報からインターネットにより容易に入手可能である。」と述べているが、「刷」は異なっても同じ文章といえるが、「版」が異なれば同じ文章が記載されているとまではいえず、添付された乙18及び乙20?乙22の記載事項が上記特許権者の主張する発行日のものか確認することはできない。

(イ)D_(86)について
D_(86)は、ビームプロファイル(横軸を距離、縦軸をビーム強度としたグラフ)の重心から円形に領域を増加させていき、領域内のトータルのビームパワーが86%になったところで、円の直径を算出するものであるのに対し、1/e^(2)は、ビーム強度のピーク値の1/e^(2)になる2点間の距離で定義されるものであり、両者は異なるものである。
してみれば、乙17?23には、特許権者が述べるとおり1/e^(2)の強度をビーム直径として用いることが記載されているものの、1/e^(2)の強度とD_(86)は異なるものであるから、仮に乙17?18及び乙20?23の発行日又は掲載日が本件優先日より前であるにしても、これらが、本件優先日時に、掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置で用いられる測定ビームの直径Dとして、D_(86)を定義として用いることが一般的であることを示す根拠にはなり得ない。

(ウ)1/e^(2)について
乙17?23には、特許権者が述べるとおり1/e^(2)の強度をビーム直径として用いることが記載されていることから、1/e^(2)の強度をビーム直径として用いることが一般的であるかどうかについて、一応検討する。
上記アで指摘したように、「Lasers and laser-related equipment - Test methods for laser beam widths, divergence angles and beam propagation ratios」(当審訳:レーザー及びレーザー関連装置 - レーザーのビーム幅、広がり角、及びビーム伝搬比の測定方法)についての国際標準規格(ISO11146-1,2,3:2005)では、ビーム幅(本件発明における測定ビームの「直径D」に相当)としてはD4σを用いることが記載されている。D4σとは、ビームプロファイルにおいて標準偏差σの4倍の距離をとったもので、ビーム幅として最も精度の高いものであることから、国際標準規格として採用されているものである。
してみれば、特許権者が述べるとおり1/e^(2)の強度をビーム直径として用いることはあるが、掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置で用いられる測定ビームの直径Dとして、国際標準規格として採用されているD4σではなく1/e^(2)を定義として用いることの技術的根拠はない。

(エ)ただし、上記乙17の項目「1/e^(2)」の12?13行に「For an ideal single-mode Gaussian beam, the D4σ,D86,1/e^(2) width measurements would give the same value.」(当審訳:理想的な単一モードガウスビームに対しては、D4σ、D86、1/e^(2)幅の測定は、同じ値を与えることになろう。)と記載されているとおり、数学的には、単一モードで完全なガルシアン分布の場合(レーザーが完全なガルシアン分布になるのはまれである)にはD4σ、1/e^(2)、D_(86)の幅は同じ値となる。
しかし、本件明細書を参照しても、本件発明の「光源」が単一モードで完全なガルシアン分布を有するものであるとはいえず、さらに、特許権者が乙2として提出した実験報告書を参照しても、その光源が単一モードで完全なガルシアン分布を有するものとはいえない。
そうすると、D4σ、1/e^(2)、D_(86)の幅は同じ値とならないことから、測定ビームの直径Dとして、これらを同一視することもできない。

(エ)小括
よって、D4σ、FWHM、D_(86)、D_(63)の定義の中で、掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置で用いられる測定ビームの直径DとしてD_(86)を定義として用いることの根拠はなく、本件発明の「掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置」で用いられる「直径Dの測定ビーム」の「直径D」について、本件明細書の「Dはサンプル(ここでは、眼球の角膜)に衝突する測定ビームの直径である。」との記載から、D_(86)を定義とする値であると解することもできないことから、依然として明確であるとはいえない。

(2)調整時間τについて
ア 通知した具体的内容
取消理由通知書の取消理由1の(1)ウにおいて、
「本件特許請求の範囲における光源の調整を実施する時間「τ」について、本件明細書には「調整時間τ」としか記載されておらず、具体的な定義に関する記載はない。
光源の調整時間との記載からは、1回の波長スキャンに必要な時間、その1回の波長スキャンのうちの一部の期間(例えば、波数の増加開始から増加終了までの期間、または、波数の減少開始から減少終了までの期間)の長さ等が想定されるところ、どちらの時間長さのことを意味しているのか、そして、「調整時間」なる用語を、レーザー波長の掃引レートすなわちスキャンレートの逆数を意味するものとして特定しているのか明確ではない。」と指摘し、それに対する特許権者の意見を踏まえたうえで、取消理由通知書(決定の予告)の取消理由1の(1)ウでは、以下の判断を示した。
「特許権者は「調整時間τが、スペクトル調整範囲△kの1回の調整(この調整は1方向のみの調整を意味する)のための時間を定義している」と説明してきたが、一般に、波数の調整(すなわち、波数のスキャン又は掃引)は反復的又は周期的に行われるところ、上記「1方向のみの調整」とは、波数の増加開始から増加終了までの期間(アップ掃引)、または、波数の減少開始から減少終了までの期間(ダウン掃引)の長さ等の時間のことを意味しているのか、あるいは、その他の時間を意味しているのか、明確に説明していない。
さらに、上記で「「調整時間」なる用語を、レーザー波長の掃引レートすなわちスキャンレートの逆数を意味するものとして特定しているのか明確ではない」と指摘したことに対して、「調整時間」がレーザー波長の掃引レートすなわちスキャンレートの逆数を意味するものであることを明らかにしていない。
よって、上記で指摘した内容について解消されておらず、依然として「調整時間τ」の定義が明確とはいえない。」

イ 特許権者の主張
特許権者は、上記判断に対して、意見書で、以下の乙第13号証を添付して、以下の主張をしている。
「調整時間の測定方法としては、乙第13号証の第90頁右欄第31行?33行において「the wavelength tuning time is measured from the filter response to the step transition of a rectangular driving voltage(参照用翻訳:波長調整時間は、矩形駆動電圧のステップ遷移に対するフィルター応答から測定される)」と記載されている。また、乙第13号証の第91頁の図3(b)には、矩形駆動電圧の立ち上がり後、フィルターの応答までの切り替え時間(調整時間)が19μsであることが示されている。なお、乙第13号証のレーザーがOCT用の光源として使用することができることは、他の提示した文献から明らかである。従って、調整時間τは、波長の切り替え時間(波数の増加開始から増加終了までの期間)のことを意味していることは明確であるものと思料する。」
乙第13号証:Yufei Bao, et al.,「High-speed liquid crystal fiber Fabry-Perot tunable filter」,OFC(Optical Fiber Communication), Technical Digest,1996年, pp.90-91(以下「乙13」という。)

ウ 判断
(ア)乙13について
乙13には、Fig.3の(b)として、以下の図面とその説明が記載されている。

「WA1 Fig.3. Two-wavelength switching between 1534.8nm and 1538.9nm by applying ±63V of 900Hz at 35℃. Oscilloscope time scale: (a) 200 μs/div, and (b) 10 μs/div. The total switching time is 19 μs.」(当審訳:35℃において900Hzで±63Vを印可することによる1534.8nmと1538.9nmとの間の2つの波長切り替え。オシロスコープの時間目盛り:(a)1目盛り200μs、(b)1目盛り10μs。総切り替え時間は、19μsである。)
そして、91頁左欄12?20行には、
「To demonstrate the fast wavelength switching of the LC-FFP-TF, two different wavelengths were input to the filter simultaneously, and the tuning time between the two wavelengths was measured. Figure 3 shows a total tuning time of 19 μs over ?4.3-nm wavelength tuning between 1534.8 nm at -2.86 V/μm and 1538.9 nm at +2.86 V/μm at 35℃. The asymmetry in rise and fall responses of the LC-FFP-TF was observed. The rise, delay, and fall times were measured to be ?7.5μs, ?12μs, and ?0.5μs, respectively.」(当審訳:LC-FFP-TFの速い波長切り替えを行うために、2つの異なる波長はフィルターに同時に入力され、2つの波長の調整時間が測定された。図3は、35℃において-2.86 V/μmで1534.8 nm と+2.86 V/μmで1538.9nmとの間の4.3nmに渡る調整が、19μsの総調整時間を示している。LC-FFP-TFの立ち上がり応答、立ち下がり応答の非対称性が観測された。立ち上がり時間、遅延時間、立ち下がり時間は、各々、?7.5μs, ?12μs, ?0.5μsとして測定された。)
と記載されている。
特許権者は、乙13の記載に基づいて「調整時間τは、波長の切り替え時間(波数の増加開始から増加終了までの期間)のことを意味している」と説明しているが、「波数の増加開始から増加終了までの期間」ということであれば、「rise(立ち上がり)」のことともいえる。また、「波長の切り替え時間」が「total switching time(総切り替え時間)」あるいは「total tuning time(総調整時間)」ということであれば、「rise(立ち上がり)」、「delay(遅延)」、「fall(立ち下がり)」の総時間ということになるが、「調整時間」(tuning time)がどちらのことを指しているのか不明確である。

(イ)その他の乙号証について
特許権者は、乙13以外の乙号証の記載について、以下のような説明もしている。
「乙第3号証には、・・・波長掃引範囲(wavelength sweep range)が1250nm?1360nmであり掃引反復レート(sweep repetition rate)が58kHzであり、・・・、調整時間が1/58000=17μsである。・・・
乙第4号証および乙第5号証には、・・・掃引レートが58kHzであることが記載されていることから、・・・調整時間が1/58000=17μsである。・・・
乙第6号証には、・・・掃引レートが最大290kHzであることが記載されていることから、・・・調整時間が1/290000=3.4μsである。・・・
乙第7号証には、・・・掃引時間が40μsと記載されていることから、・・・調整時間が40μsである。」
上記記載を参照すると、「調整時間」とは、波長掃引範囲を掃引する一周期の時間ということになり、上記(ア)のいずれの解釈とも異なるものである。

(ウ)小括
したがって、本件発明における「調整時間τ」とは、波数の増加開始から増加終了までの上記図3(b)の「rise(立ち上がり)」時間のことなのか、「rise(立ち上がり)」、「delay(遅延)」及び「fall(立ち下がり)」の総時間のことなのか、さらには、波長掃引範囲を掃引する一周期の時間のことなのか、意見書を参照しても定義が定まらず、依然として「調整時間τ」の定義が明確とはいえない。

(3)まとめ
よって、本件特許は、本件発明が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件発明1?21の特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

2 取消理由2について
(1)通知した具体的内容
取消理由通知書の取消理由2の(1)において、
「請求項1及び7に係る発明において「光源の調整は重心波数k_(0)を中心として時間τ<44sec/(D×k_(0))で実施」と特定されているが、発明の詳細な説明には、「44sec/(D×k_(0))」の式をどのような技術的意義のもと導出したのか、そして「44sec」はどのようにして求めた値であるのか記載されていないことから、「44sec/(D×k_(0))」の式の表す技術上の意義を理解することはできない。」と指摘し、それに対する特許権者の意見を踏まえたうえで、取消理由通知書(決定の予告)の取消理由2の(3)では、以下の判断を示した。
「掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置の測定速度を高速化するために、掃引速度(スキャンレート)を大きくすることは優先日当時に当業者において周知であり、調整時間τが掃引速度(スキャンレート)の逆数の関係にあるものとするなら(上記の1「取消理由1について」の(2)で述べたように、調整時間τの定義が定まらず、前記前提が成り立つかどうか不明であるが)、測定速度を高速化するために調整時間τを小さくすることについて、一応理解できる。
しかし、調整時間τを「44sec/(D×k_(0))」未満とすることについては、「44sec/(D×k_(0))」をどのような技術的意義のもと導出したのか、そして「44sec」はどのようにして求めた値であるのか記載されていないことから、「44sec/(D×k_(0))」の式の表す技術上の意義を理解することはできないことは、上記で述べたとおりである。
これに対し、特許権者は、「調整時間τ<44sec/(D×k_(0))は、レーザーの調整時間をサンプルの妥当な測定ビームプロファイルに適合させるという点て技術的に意義がある」と説明しているが、「44sec/(D×k_(0))」と「サンプルの妥当な測定ビームプロファイルに適合させる」こととの関係が不明である。すなわち、44秒という数値を、測定ビームの直径Dと重心波数k_(0)とを掛けたもので割ることが、「サンプルの妥当な測定ビームプロファイルに適合させる」ことにおいて技術的に意義があるとはいえない。」

(2)特許権者の主張
特許権者は、上記判断に対して、意見書で、以下の主張をしている。
「光源の調整は重心波数k_(0)を中心として時間τ<44sec/(D×k_(0))で実施されることにより、レーザーの調整時間中に起こりうる横方向のサンプル変位がほとんどサンプルの最小限の測定ビーム直径の何分の一かにしか達しないようにし(測定が調整時間τの間に同じスペックル粒で行われることを保証し)、これは、調整時間内に眼にレーザービーム幅が残ることがないことを意味し、これによって、明細書に記載されているように、典型的に1mm/sの領域にある通常の軸方向および横方向の患者の動きに対して堅実に測定を行うことができる(本件明細書の段落[0037]参照)。従って、本願発明は、レーザーの調整時間中に起こりうる横方向のサンプル変位がほとんどサンプルの最小限の測定ビーム直径の何分の一かにしか達しないようにする(調整時間τの間に測定を同じスペックル粒で行うことを保証する)という点で技術的に意義がある。
また、明細書に、光源の調整は重心波数k_(0)を中心として時間τ<44sec/(D×k_(0))で実施されることより上記した測定を調整時間τの間に同じスペックル粒で行うことを保証することについての記載がされていないが、このことは、明細書に記載されているようにレーザーの調整時間中に起こりうる横方向のサンプル変位がほとんどサンプルの最小限の測定ビーム直径の何分の一かにしか達しないようにするということと関連している。そして、技術的に意義をもたらすための手段、即ち、無意識に動いている眼(即ち、衝動性眼球運動(saccade))で正確な測定を確保するという発明者の必要性を満たす手段(または条件)は、発明者のレーザー光源を用いた掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定に関する経験、知識、理解に基づいて、スペックル粒の大きさに影響を与える測定ビームの直径(D)および波長(k_(0))に着目して直感により導き出されたものである。「直感」の基となる考察点は、本件明細書の段落[0016]に記載されているように、本発明による解決策の結果、レーザーの調整時間中に起こりうる横方向のサンプル変位がほとんどサンプルの最小限の測定ビーム直径の何分の一かにしか達しないようにするには(測定がサンプル変位の影響を受けないようにするには)、レーザーの調整時間をどの程度にすればよいかということよるものである。この考察点に基づき、本発明者らは、本件明細書に開示されたパラメータ(Δk=112000m^(-1)、D=2mm、波長λ=1060nm、調整時間τ=500μs)を有する装置を一実施例とした。さらに、スペックル粒については、本件明細書中に明示的には記載されていないが、本件明細書は、上記の記載において「サンプルの最小限の測定ビーム直径」を開示しており、これは、実際にはスペックル粒のサイズに近いか、または等しいことを意味している。その理由は、掃引光源OCTでは、非横方向分解検出器が使用されるからである(即ち、サンプル中の最小ビーム直径より小さいスペックル粒は、単一の検出器により分解できない)。従って、測定を同じスペックル粒で行うことと、レーザーの調整時間中に起こりうる横方向のサンプル変位がほとんどサンプルの最小限の測定ビーム直径の何分の一かにしか達しないようにすることとは関連している。従って、本件明細書には、レーザーの調整時間中に起こりうる横方向のサンプル変位がほとんどサンプルの最小限の測定ビーム直径の何分の一かにしか達しないようにするという本件特許の技術的上の意義が記載されており、その技術的上の意義を理解するため必要な事項(即ち、光源の調整は重心波数k_(0)を中心として時間τ<44sec/(D×k_(0))で実施されること、実施例では、Δk=112000m^(-1)、D=2mm、波長λ=1060nm、調整時間τ=500μs、δk<168m^(-1)のレーザー線幅に関しては、93m^(-1)、81m^(-1)、162m^(-1)、47m^(-1)であることも記載されているものと思料する。」

(3)判断
ア τ及びDについて
上記1の「取消理由1について」で述べたように、調整時間τ及び測定ビームの直径Dの定義が不明確であるから、本件明細書において、τ<44sec/(D×k_(0))の技術的意義が明確に理解できるものではない。

イ 発明の詳細な説明の記載
特許法施行規則第24条の2では、発明の詳細な説明の記載の記載について、「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定されているところ、上記特許権者の説明では、スペックル粒と調整時間τとの関係について述べており、このようなスペックル粒と調整時間τとの関係については、本件明細書の発明の詳細な説明において、一切記載されていない。
加えて、上記特許権者の説明では、「「サンプルの最小限の測定ビーム直径」を開示しており、これは、実際にはスペックル粒のサイズに近いか、または等しいことを意味している。」と述べているが、本件発明は、本件発明3及び8で「測定ビームの直径Dは、3mmよりも小さい」と特定され、発明の詳細な説明でも「測定ビーム直径Dがサンプル入口の領域において3mmよりも小さいときは眼球のSS-OCDR用の装置が特に好都合である。」(【0026】)と「最大限」の測定ビーム直径について開示しているとはいえても、「最小限」の測定ビーム直径について開示されているとはいえない。
したがって、仮に、調整時間τについて、τ<44sec/(D×k_(0))とスペックル粒との間に某かの関係があるとしても、本件明細書の発明の詳細な説明には、スペックル粒と調整時間τとの関係について一切記載されていないのであるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、特許法施行規則第24条の2で規定する要件を満たすものとはいえない。

ウ 式(τ<44sec/(D×k_(0)))の検討
上記アで述べたとおり、調整時間τ及び測定ビームの直径Dの定義が不明確であるから、本件明細書においてτ<44sec/(D×k_(0))の技術的意義が明確に理解できるものではないが、本件優先日時の技術常識のもと、τ<44sec/(D×k_(0))の式の技術的意義を理解することができるどうかについて一応検討する。
レーザー光がコヒーレントの場合にスペック粒が発生することは、本件優先日前に周知のことであり、例えば、当審で調査した文献(高田直人他「スペックル光の干渉を用いた拡散面一点変位計測」レーザー研究2004年8月)には、
「レーザー光のような干渉性の優れた光波で拡散面を照射すると,回折界としての散乱光や結像光学系で形成された結像界としての像には,スペックルと呼ばれる明暗のまだら模様が観測される.スペックルの明暗の平均的な大きさ(サイズ)をSとすると,拡散面を照射する光ビーム径や観測側の絞りの径の大きさによってSは変化する.この依存性は,開口による光波の回折角や,集束レンズで得られる焦点の大きさを与える表式と等価であると考えられている.集束レンズの有効径をD,焦点距離をFとするとき,得られるガウスビームについての焦点の直径2aは光の波長をλとして,
2a=4λ/π・F/D (1)
で与えられる.この関係をスペックルの性質に置き換えると,DがこのサイズSに相当し,2aは拡散面を照射する光ビーム径に,またFはスペックルを回折界で観測するときの拡散面からスクリーンまでの距離にそれぞれ対応する.」(下線は当審で付与した。)
と記載されており、上記(1)式において、Dはスペックル粒のサイズSに相当するから、スペックル粒のサイズSは、S=4λ/π・F/2aと表される(以下「S式」という。)
上記S式と本件発明の式である44sec/(D×k_(0))を対比すると、本件発明の式のDの定義が不明確であるから対比はできないところ、一応、2aはDに、λは2π/k_(0)に対応するものとしても、上記S式は長さのディメンジョンをもつものに対して、本件発明の44sec/(D×k_(0))は、44secを掛けるものであることから、時間のディメンジョンをもつものである。
そうすると、長さのディメンジョンの式から、時間のディメンジョンにすべく、いかなる技術的意義あるいは実験のもと「44secを掛け」たのか明らかではない。
この点、特許権者は「発明者のレーザー光源を用いた掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定に関する経験、知識、理解に基づいて、スペックル粒の大きさに影響を与える測定ビームの直径(D)および波長(k_(0))に着目して直感により導き出されたものである」と主張しているが、τ<44sec/(D×k_(0))が「直感により導き出され」るものであることを当業者であっても理解することはできない。
仮に、実験により、τ<44sec/(D×k_(0))であることを導き出したにせよ、本件明細書には当該式を導き出すための実験結果(特に「44sec」について)が記載されていないのであるから、τ<44sec/(D×k_(0))の技術的意義を理解することはできない。

エ 小括
調整時間τ及び測定ビームの直径Dの定義が不明確であるから、本件明細書において、τ<44sec/(D×k_(0))の技術的意義が明確に理解できるものではない。
また、特許権権者は、スペックル粒と調整時間τとの関係について述べてきたが、それは本件明細書の発明の詳細な説明に一切記載されておらず、そして、本件優先日当時の技術常識を考慮しても、「44sec/(D×k_(0))」となることを理解できないのであるから、発明の詳細な説明は、本件発明について、発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているとはいえず、特許法第36条第4項第1号で委任する経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより記載されたものでない。

(4)まとめ
よって、本件特許は、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件発明1?21の特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 取消理由4について
事案に鑑み、取消理由4を先に検討する。
(1)通知した具体的内容
取消理由通知書の取消理由4において、
「本件明細書には、δkとして168m^(-1)未満、さらには、93m^(-1)、81m^(-1)、47m^(-1)未満であり、τとして44sec/(D×k_(0))未満であり、Δkが18000m^(-1)超であり、波長が600nm?1150nmである光源を用いて、人間の眼球に対してAスキャンを実際に行ったという実施例が記載されておらず、そのような光源を当業者が優先日当時に通常に用い得るものであるとの根拠はないものであるから、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1及び7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
また、甲第2号証の21106頁最下行?21107頁2行には「In general as lasers move to higher sweep speeds there is an increase in instantaneous line width, and decrease in coherence length resulting in reduced measurement depth.」(当審訳:一般に、レーザーは掃引レートが速くなると瞬時線幅が増大し、コヒーレンス長が減少すると測定深さが減少する。)と、掃引レートと瞬時線幅(δk)とが、トレードオフの関係があることが示されていることから、δkについて「168m^(-1)未満、さらには、93m^(-1)、81m^(-1)、47m^(-1)未満」とすることと、本件発明の調整時間τ(上記取消理由1の(2)で述べたように、調整時間τの定義は不明確である)が掃引レートの逆数に対応するものであるなら、τについて「44sec/(D×k_(0))未満」とすることは、両者がいずれも小さい方がいいことを特定するものであるから、実現上困難なことともいえる。」と指摘した。
甲第2号証:Changho Chong,et al.,「Spectral narrowing effect by quasi-phase continuous tuning in high-speed wavelength-swept 1ight source」,Optical Society of America,Optics Express, Vol.16, No.25, 2008年12月8日, pp.21105-21118
それに対して特許権者は、乙第2号証(以下「乙2」という。)として以下の実験報告書を提出した。

そして、特許権者の意見を踏まえたうえで、取消理由通知書(決定の予告)の取消理由4として以下の判断を示した。
ア δkが46m^(-1)である光源について
(ア)乙2の「5.Details of the experiment」(5.実験内容)及び「6.Results of the experiment」(6.実験結果)には、特許権者提出の訳文を参照すると、以下のとおりに記載されている。
「5.実験内容
カール ツァイス メディテック アクチェンゲゼルシヤフトが発注した仕様に応じてマイクロンオプティクス社(アメリカ合衆国 30345ジョージア州 アトランタセンチュリー プレイス ノース.イースト.1852)によって製造された掃引レーザーモジュール(モデル番号s3-1060、シリアル番号SSA8AT)をテストした。テストの目的は、レーザーのスペクトル線幅を測定することであった。テスト方法は、調整可能な光路差を備えた干渉計の出力でのレーザーの干渉縞の振幅の減衰の測定であった。
6.実験結果
干渉計の出力におけるレーザー干渉縞の振幅を、0mmから100mmの光路差の範囲内の複数の位置で測定した。これらの測定から得られた干渉縞の振幅の減衰曲線内で、最大値と比較して50%の振幅を有するポイントを求めた。この結果および1060nmのレーザーの中心波長を用いて、レーザーのスペクトル線幅δλが8.26pmであるものとして計算することができる(以下の附属書1を参照)。また、スペクトル線幅δλが8.26pm(0.0826nm)である場合、波数の観点からレーザー線幅δkを46m^(-1)(δk=2π/λ^(2)・δλ=2π/(1060nm)^(2)・0.0826nm)と計算することができる。」(下線は当審において付与した。)
(イ)これを参照すると、レーザー線幅δkが46m^(-1)と計算できた光源は、「テスト」を目的として「カール ツァイス メディテック アクチェンゲゼルシヤフト(以下「カールツァイス」という。)が発注した仕様に応じてマイクロンオプティクス社によって製造された掃引レーザーモジュール」であるから、レーザー線幅δkが46m^(-1)と計算できた光源は、カールツァイスの発注のもと、マイクロンオプティクス社が、いわゆる試作品として掃引レーザーモジュールを製造した特殊なものであるといえ、優先日当時に市販品等として当業者が通常に入手できるような事実を確認することはできない。
また、本件明細書を参照しても、掃引レーザーモジュールとしてδkが46m^(-1)である特殊な光源を製造する具体的な方法が記載されていないことから、当業者が本件明細書を参照しても、δkが46m^(-1)である光源を製造できず、通常に手に入れることはできない。
してみれば、実験報告書で記載されている「レーザー線幅δkが46m^(-1)と計算できた光源」は、優先日当時に当業者が通常に手に入るものではないことから、本件発明の「波長可変レーザー光源」を優先日当時に当業者が通常に手に入るものと判断することはできない。
(ウ)小括
よって、本件発明の「波長可変レーザー光源」が優先日当時に当業者が通常に手に入るものでないことから、それを「有する」「掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置」を当業者が作れ、かつ、その物を使用できるとはいえず、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

イ δkが22?50m^(-1)である光源について
(ア)乙2の「6.Results of the experiment」(6.実験結果)には「従って、テストされた装置は、特許第6523349号公報の実施形態に記載されているように、22m^(-1)?50m^(-1)のレーザー線幅δkの範囲内にあることが確認された。」とも記載されている。
(イ)しかし、「レーザー線幅δkが46m^(-1)と計算できた光源」のみ記載されており、「22m^(-1)?50m-1のレーザー線幅δkの範囲内にある」掃引レーザーモジュールを製造したことについては記載されておらず、線幅δkが46m-1と計算できた光源が製造できれば、レーザー線幅δkが「22?46未満」m-1と計算できる光源も製造できるという技術常識も優先日当時に存在しない。
してみれば、仮に「レーザー線幅δkが46m^(-1)と計算できた光源」が優先日当時に当業者が通常に手に入るものとしても(手に入らないことは上記アで述べたとおりである)、レーザー線幅δkが「22?46未満」m^(-1)と計算できる光源を優先日当時に当業者が通常に手に入るものと判断することはできない。
(ウ)小括
よって、「22?46未満」m^(-1)のレーザー線幅を含む本件発明の「波長可変レーザー光源」が優先日当時に当業者が通常に手に入るものでないことから、それを「有する」「掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置」を当業者が作れ、かつ、その物を使用できるとはいえず、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

ウ δk以外の変数について
(ア)本件発明の「波長可変レーザー光源」は、δk以外にも、「τ<44sec/(D×k_(0))」、「Δk>18000m^(-1)」であることが特定されているところ、乙2の実験報告書には「τ」、「D」、「k_(0)」、「Δk」の値が記載されていないことから、これらがどのような値のもとレーザー線幅δkが46m^(-1)となったのか不明である。
特に、上記で述べたように、本件発明の調整時間τが掃引レートの逆数に対応するものであるなら、掃引レート(τ)と瞬時線幅(δk)とはトレードオフの関係があることから、δkが46m^(-1)とかなり小さな値であることを考慮すると、τが「44sec/(D×k_(0))未満」となっていると判断できる根拠はない。
してみると、乙2の実験報告書では、「レーザー線幅δkが46m^(-1)と計算できた光源」について、「τ<44sec/(D×k_(0))」、「Δk>18000m^(-1)」であることは示されておらず、仮に「レーザー線幅δkが46m^(-1)と計算できた光源」が優先日当時に当業者が通常に手に入るものとしても(手に入らないことは上記アで述べたとおりである)、それと同時に「τ<44sec/(D×k_(0))」、「Δk>18000m^(-1)」を満たす波長可変レーザー光源が通常に手に入るものとはいえない。
(イ)小括
よって、仮にδkが本件発明で特定する範囲を満たすとしても、「τ<44sec/(D×k_(0))」、「Δk>18000m^(-1)」の点で本件発明の「波長可変レーザー光源」が優先日当時に当業者が通常に手に入るものでないことから、それを「有する」「掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置」を当業者が作れ、かつ、その物を使用できるとはいえないず、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

エ 発明の詳細な説明と実験報告書との関係
上記ア?ウで述べたとおり、乙2の実験報告書は、本件発明の「波長可変レーザー光源」が優先日当時に当業者が通常に手に入るものことを裏付けるものではないことから、乙2の実験報告書をもってして、本件明細書の発明の詳細な説明の記載不足を補うことはできない。

(2)特許権者の主張
ア 特許権者は、上記(1)ア及びイの判断に対して、意見書で、以下の乙第3号証?乙第7号証を添付して、
「掃引光源技術において様々なレーザー線幅および様々な調整時間を満たすSSレーザー光源を記載した文献が多数存在する。それら文献が乙第3号証?乙第7号証として添付されている。」と述べている。
また、以下の乙第8号証を添付して、
「さらに、メディカルデバイスオンラインニュース(Med Device Online, News)からの出版物を乙第8号証としてここに提示する。これは、製造業者およびサプライヤーとしての関連市場への参加者の概要を提供する定期的なニュースレターである。ここでは、マイクロン・オプティクス社が「供給元および部品サプライヤー」として掲載されている。これらのサプライヤーのリストは、11社のメーカーと明確になっており、必要に応じて11社全てにレーザー光源について問い合わせをすることについて創意工夫を必要としない。特に、マイクロン・オプティクス社をサプライヤーとして採用することは、専門的な作業であった。」と述べている。
さらに、以下の乙第9号証?乙第16号証を添付して、
「マイクロン・オプティクス社は、当該分野における多数の出版物を通じて、SSレーザー光源の分野でよく知られている。科学的出版物の詳細を知っているかどうかの問題ではなく、ケビン・スー(Kevin Hsu)がマイクロン・オプティクス社の従業員としてSSレーザー光源の分野で定期的に論文を発表しているという事実から、このような知識は専門知識によるものである。マイクロン・オプティクス社の従業員であるケビン・スー(Kevin Hsu)がSSレーザー光源に関して発表した文献およびケビン・スーがSSレーザー光源を使用した技術に関与している文献を乙第9号証?乙第16号証として添付する。これらの文献は、マイクロン・オプティクス社またはその従業員が、当該分野において極めて存在感があり、短い調整時間を有するレーザーを開発していることを証明している。」と述べている。
そして、乙第3号証?乙第16号証を総合して、
「従って、当業者は、利用可能な様々な線幅および様々な調整時間を有する多くの掃引光源、および本件特許の光源の条件を満たす利用可能な例としての少なくとも1つのシステムを有する掃引光源を提示しつつ、任意の光源の供給者に、光源の供給者が本件発明の光源の条件を満たすことができるかどうかを尋ねることができる。そして、高速短距離撮像用の光源に特化した複数の掃引光源の供給者が存在し、かつその供給者が眼の長さの測定に関して本件特許を実現するためのきっかけを得た上で、本件明細書を理解した当業者は、少なくとも一つの供給者(例えば、マイクロン・オプティクス)を見つけ出すことができるであろう。しかし、他の製造業者であっても、短距離高速撮像ではなくても眼の長さの測定に関して特化し、かつ眼に適した波長に対応している業者であれば、本件特許の条件を満たす光源を提供することができる可能性を有するものと思料する。
従って、当業者であれば、実施されることが特に適していると記載された「ファイバー・リング・レーザー」から、例えば、乙第3号証?乙第16号証等の出願時の技術常識に基づいて、仕様を決定し、その仕様でメーカーに依頼してSSレーザー光源の試作品を入手することができるということを理解することができ」ることを主張している。

イ 特許権者は、上記(1)ウの判断に対して、意見書で、
「44sec/(D×k_(0))未満のτで、かつ、δk<168m^(-1)あるいは実験報告書(乙第2号証)に記載されたδkが46m^(-1)であるレーザー線幅を有する光源を優先日当時に実施可能であり、「△k/(τ×δk)の周波数」の具体的な値、「調整率△k/τを前記レーザー線幅δkで除算することによって得られた値は18kHzよりも大き」く「40MHzよりも小さい」こと、及び「少なくとも1つのレシーバの帯域幅は2×△k/(τ×δk)よりも大きく、80MHz未満である」ことについて実施可能であるものと思料する。
また、「スペクトル調整範囲△kと前記レーザー線幅δkの比は360よりも大きい」ことについても、δkが46m^(-1)であるレーザー線幅を有する光源が優先日当時にテストレベルで実施可能であり、当業者が優先日当時に通常に用い得るものであることから、「スペクトル調整範囲△kと前記レーザー線幅δkの比は360よりも大きい」ことについて実施可能であるものと思料する。」と主張している。

ウ 添付された乙号証
乙第3号証:米国特許第7414779号明細書
乙第4号証:R. Huber, et al.,「Fourier Domain Mode Locked Lasers for OCT imaging at up to 290 kHz sweep rates」, Optical Society of America,2005年
乙第5号証:R. Huber, et al.,「OCT imaging at up to 290 kHz sweep rates」, SPIE-OSA、Vol.5861,2005年, pp.58611B-1?58611B-6
乙第6号証:R. Huber r, et al.,「Fourier Domain Mode Locked Lasers for Swept Source OCT Imaging at up to 290 kHz Scan Rates」, Proc. of SPIE, Vol.6079,2006年, pp.60790U-1?60790U-6
乙第7号証:米国特許出願公開第2007/0013917号明細書
乙第8号証:「Optical Coherence Tomography Market To Top $800 Million By 2012」,2008年1月14日,[online], MED DEVICE ONLINE,[2020年10月22日検索],URL:https://www.meddeviceonline.com/doc/optical-coherence-tomography-market-to-top-80-0001
乙第9号証:R. Huber, et al.,「Amplified, frequency swept lasers for frequency domain reflectometry and OCT imaging: design and scaling principles」, OPTICS EXPRESS,Vol.13, No.9,2005年5月2日, pp.3513-3528
乙第10号証:Sanjay Asrani, MD, et al.,「Detailed Visualization of the Anterior Segment Using Fourier-Domain Optical Coherence Tomography」, NIH Public Access, American Medical Association,2008年6月
乙第11号証: L.Dong, et al.,「Efficient Single-frequency Fibre Lasers with Novel Photosensitive Er/Yb Optical Fibers」, Optoelectronics Research Centre University of Southampton
乙第12号証: S. Yamashita, et al.,「Single-frequency, single-polarization operation of tunable miniature erbium:ytterbium fiber Fabry-Perot lasers by use of self-injection locking」, OPTICS LETTERS, Vol.23, No.15, Optical Society of America,1998年8月1日, pp.1200-1202
乙第13号証(再掲):Yufei Bao, et al.,「High-speed liquid crystal fiber Fabry-Perot tunable filter」, OFC(Optical Fiber Communication), Technical Digest,1996年, pp.90-91
乙第14号証:Jun Zhang, et al.,「Full range polarization-sensitive Fourier domain optical coherence tomography」, OPTICS LETTERS, Vol.12, No.24, Optical Society of America,2004年11月29日, pp.6033-6039
乙第15号証: Michael A. Choma, et al.,「Swept source optical coherence tomography using an all-fiber 1300-nm ring laser source」, Journal of Biomedical Optics 10(4), 2005年7月/8月, pp.044009-1?044009-6
乙第16号証:Jun Zhang, et al.,「Swept laser source at 1 μm for Fourier domain optical coherence tomography」, APPLIED PHYSICS LETTERS 89, American Institute of Physics,2006年, pp.073901-1?.073901-3
(以下、「乙第3号証」?「乙第16号証」は、「乙3」?「乙16」という。)

(3)判断
ア δkが46m^(-1)である光源について
(ア)乙3?7について
a 乙3について
乙3の6欄12?17行には「The aspects and embodiments of the invention disclosed herein relate to frequency swept, i.e. time varying wave sources. In particular, a frequency swept laser source is a wave source that changes the frequency or wavelength over time as a periodic function f(t), such as those depicted in FIGS. 1a-c.」(当審訳:本明細書に開示される本発明の態様および実施形態は、周波数掃引、すなわち、時間的に変化する波源に関する。特に、周波数掃引レーザー光源は、図1a-cに描かれているように、周期関数f(t)のように経時的に周波数または波長を変更する波源である。)、その10欄15?18行には「Additional dispersion management is not necessary because the zero dispersion point of the fiber is at 1313 nm. Such a system operates with a wavelength sweep range between 1250 nm and 1360 nm.」(当審訳:ファイバーのゼロ分散点は1313nmであるので、付加的な分散管理をする必要がない。このようなシステムは、1250nmと1360nmとの間の波長掃引範囲で動作する。)と記載され、乙3のレーザー光源の波長は1250 nm?1360 nmであり、本件発明の「600nm?1150nmの波長を有」する光源とは異なるものである。

b 乙4?6について
乙4?6は、同じ著者によって書かれた、同じタイトル、同じ図面を掲載する文献で、ほぼ同じ文章が記載されており、開示されている技術内容が同じ文献である。
乙4のIntroductionには、
「The development of high speed, frequency swept laser sources with narrow dynamic linewidths (long instantaneous coherence lengths) is crucial for swept source OCT.[1-7] OCT using swept source / Fourier domain detection [4,8-11] enables increased sensitivity and imaging speeds compared to time domain techniques [12] In this paper, we demonstrate the new technique called“Fourier Domain Mode Locking” (FDML) for designing high speed, frequency swept lasers, which overcomes many of the limitations of standard laser designs. FDML achieves a quasi-stationary operating regime of the laser, enables superior performance in linewidth, sweep speed and output power. Record frequency sweep speeds of up to 290 kHz, with a tuning range of 145 nm at 1300 nm are demonstrated. Output powers up to 35 mW are obtained directly from the laser without amplification. The instantaneous linewidth was estimated to be < 0.01 nm by measuring the instantaneous coherence length. OCT imaging is demonstrated with the FDML laser at a sweep rate of 58 kHz.」(特許権者訳:狭い動的線幅(長い瞬時コヒーレンス長)を有する高速の周波数掃引レーザー光源の開発は、掃引光源OCTにとって重要である。掃引光源/フーリエ領域検出を用いたOCTは、時間領域技術と比較して、感度および撮像速度の増加を可能にする。本論文では、標準レーザー設計の多くの制限を克服する、高速の周波数掃引レーザーを設計するための「フーリエ領域モードロック」(FDML)と呼ばれる新たな技術を実証する。FDMLは、レーザーの準定常動作領域を達成し、線幅、掃引速度、および出力パワーにおいて優れた性能を可能にする。1300nmにおける145nmの調整範囲で最大290kHzの記録周波数掃引速度を実証した。最大35mWの出力パワーを増幅なしにレーザーから直接得た。瞬時コヒーレンス長を測定することにより、瞬時線幅を0.01nm未満と評価した。OCT撮像が走査速度58kHzでのFDMLレーザーを用いて実証される。)と記載され、
乙5のIntroductionには、
「The development of high speed, frequency swept laser sources with narrow dynamic linewidths (long instantaneous coherence lengths) has widespread applications from high speed spectroscopy, sensing and metrology applications[1-4] as well as more recently for swept source OCT.[5-14] OCT using swept source / Fourier domain detection [9,15-18] enables increased sensitivity and imaging speeds compared to time domain techniques [19] and therefore opens new applications and acquisition protocols.[20-25] In this paper, we demonstrate the new technique “Fourier Domain Mode Locking” (FDML) for designing high speed, frequency swept lasers, which overcomes many of the limitations of standard laser designs. FDML achieves a quasi-stationary operating regime of the laser and enables superior performance in linewidth, sweep speed and output power. Record frequency sweep speeds of up to 290 kHz, with a tuning range of 145 nm at 1300 nm are demonstrated. Output powers up to 35 mW are obtained directly from the laser without amplification. The instantaneous linewidth was estimated to be as small as 0.01 nm by measuring the instantaneous coherence length. OCT imaging is demonstrated with the FDML laser at a sweep rate of 58 kHz.」(特許権者の訳:狭い動的線幅(長い瞬時コヒーレンス長)を有する高速の周波数掃引レーザー光源の開発は、高速分光法、センシング及び計測用途から広く適用され、更に最近では掃引レーザー光源OCTにも適用されている。掃引光源/フーリエ領域検出を用いたOCTは、時間領域技術と比較して、感度および撮像速度の増加を可能にし、従って新たな応用および取得プロトコルを開く。本論文では、標準レーザー設計の多くの制限を克服する、高速の周波数掃引レーザーを設計するための「フーリエ領域モードロック」(FDML)と呼ばれる新たな技術を実証する。FDMLは、レーザーの準定常動作領域を達成し、線幅、掃引速度、および出力パワーにおいて優れた性能を可能にする。1300nmにおける145nmの調整範囲で最大290kHzの記録周波数掃引速度を実証した。最大35mWの出力パワーを増幅なしにレーザーから直接得た。瞬時コヒーレンス長を測定することにより、瞬時線幅を0.01nm未満と評価した。OCT撮像が走査速度58kHzでのFDMLレーザーを用いて実証される。)と記載され、
乙6のAbstractには、
「A new type of laser operation, Fourier Domain Mode Locking (FDML), is demonstrated for high performance, frequency swept light sources. FDML achieves superior sweep speeds, coherence lengths and bandwidths compared to standard bulk or fiber lasers. At 1300 nm a sweep range up to 145 nm, up to 4 cm delay length, and sweep rates up to 290 kHz were achieved. This light source is demonstrated for swept source OCT imaging.」(当審訳:レーザーの新しいタイプである「フーリエ領域モードロック」(FDML)は、高いパフォーマンスの周波数掃引光源として実行されるものである。FDMLは、典型的なバルクあるいはファイバーレーザーと比較して、優れた掃引速度、コヒーレンス長さ、バンド幅を達成するものである。1300nmにおいて145nmの掃引範囲、4cmまでの遅延長さ、290 kHzまでの掃引レートが、達成された。この光源は、掃引OCT撮像として実行されるものである。)と記載されている。
したがって、乙4?6のレーザー光源の波長は、1300nmにおいて145nmの調整(掃引)範囲のもの、すなわち1155?1445nmであり、本件発明の「600nm?1150nmの波長を有」する光源とは異なるものである。

c 乙7について
乙7には、波長に関する記載として、[0009]に「A 40 nm wavelength range at 1550 nm center wavelength corresponds to a distance resolution of about 25 μm.」(当審訳:1550nmの中心波長において40nmの波長範囲は、約25μmの距離分解能に相当する。)、[0029]に「Due to the limited number of detectors (typically at most 2048) in any array based spectrometer, the resolution is usually not better than roughly 0.05 nm, giving a maximum measurement depth of 12 mm for a center wavelength of 1550 nm.」(当審訳:分光計のアレイにおける検出器の数が限定(典型的には最大で2048)されるため、解像度は、通常、約0.05nm以下であり、1550nmの中心波長に対して12mmの最大測定深さを与える。)との記載があるのみであり、本件発明の「600nm?1150nmの波長を有」する光源とは異なるものである。
特許権者は、意見書で、[0033]の「For example, the line width may be as narrow as 0.1 GHz, approximately corresponding to a coherence length of 2 m.」(当審訳:例えば、線幅が0.1GHzと同じ狭さ、すなわち、2mのコヒーレンス長さにほぼ相当することができる。)の記載から、「0.1GHzを波長に変換すると、2.998mとなる」(どのような変換をしたのか明らかにしていない)と説明しているが、波長として「2.998m」は、本件発明1の「600nm?1150nmの波長」とは全く異なるものである。

d 乙3?7のまとめ
そうすると、乙3?7の光源は、本件発明の「600nm?1150nmの波長を有」する「光源」とは、その前提において異なるものである。
加えて、乙3?7においては測定ビームの直径Dについて明記されていないことから、44sec/(D×k_(0))を計算することができず、仮に計算できたとしても、上記取消理由1の(1)で述べたように、本件発明における調整時間τ及び測定ビームの直径Dの定義が不明確であるから、本件発明のもとでの「τ<44sec/(D×k_(0))」の条件を満たしているのかどうかは不明である。
そうすると、乙3?7は、特許権者の説明するとおり「掃引光源技術において様々なレーザー線幅および様々な調整時間を満たすSSレーザー光源を記載した文献が多数存在する。」ことの文献に該当するかもしれないが、本件発明の「波長可変レーザー光源」が、優先日当時に当業者が通常に手に入れることができるかどうかの判断材料となるものではない。

(イ)乙8について
乙8は本件優先日前に発行されたものであり、その21?28行には、
「At least 18 companies are actively developing and/or manufacturing OCT systems, with many more supplying the key optical sources, detectors, and related photonics components that enable the various OCT products and applications. As this technology continues to penetrate new markets, opportunities exist for photonics companies in optical sources, detection, and delivery systems. OCT systems manufacturers profiled in the report include Carl Zeiss Meditec, Heidelberg Engineering, OPKO (Ophthalmic Technologies), Optopol, Optovue, Topcon Medical Systems, Bioptigen, GlucoLight, Fox Hollow (ev3), Lightlab Imaging, Lantis Laser, Michelson Diagnostics, Glucolight, Tomophase, Santec, Thorlabs, Volcano/CardioSpectra, and Imalux. Source and components providers are also profiled, including Cambridge Technology, Denselight, Exalos, Femtolasers, Goodrich, Inphenix, Micron Optics, Multiwave Photonics, NP Photonics, Optiphase, and Superlum.」(特許権者訳:少なくとも18社がOCTシステムを積極的に開発および/または製造しており、さらに多くの企業が、様々なOCT製品および用途を可能にする主要な光源、検出器、および関連のフォトニクス部品を供給している。この技術が新しい市場に浸透し続けるにつれて、光源、検出、および送達システムにおけるフォトニクス企業にとって機会が存在しています。報告書に記載されているOCTシステムメーカーは、カールツァイスメディテック社(Carl Zeiss Meditec)、ハイデルベルクエンジニアリング社(Heidelberg Engineering)、OPKO社(眼科技術)、オプトポル社(Optopol)、オプトビュー社(Optovue)、トプコン・メディカルシステムズ社(Topcon Medical Systems)、バイオプティゲン社(Bioptigen)、グルコライト社(GlucoLight)、フォックス・ホロウ社(Fox Hollow)(ev 3)、ライトラボ・イメージング社(Lightlab Imaging)、ランティスレーザー社(Lantis Laser)、マイケルソン・ダイアグノスティック社(Michelson Diagnostics)、グルコライト社(Glucolight)、トモフェーズ社(Tomophase)、サンテック社(Santec)、ソーラボ社(Thorlabs)、ボルケーノ/カーディオスペクトラ社(Volcano/CardioSpectra)、アイマラクス社(Imalux)を含みます。光源および部品プロバイダも、ケンブリッジ・テクノロジー社(Cambridge Technology)、デンスライト社(Denselight)、エグザロス社(Exalos)、フェムトレーザーズ社(Femtolasers)、グッドリッチ社(Goodrich)、インフェニックス社(Inphenix)、マイクロン・オプティクス社(Micron Optics)、マルチウェーブ・フォトニクス社(Multiwave Photonics)、エヌピー・フォトニクス社(NP Photonics)、オプティフェーズ社(Optiphase)、スーパールム社(Superlum)など、紹介しています。)と記載されている。
これを参照すると、OCTシステムメーカーとして18社、光源及び部品プロバイダとして11社が記載されており、その11社の一つとして、特許権者が発注した仕様に応じて掃引レーザーモジュールを製造したマイクロン・オプティクス社が記載されているだけであり、乙8より、本件発明の「波長可変レーザー光源」が、「市販品等」として本件優先日当時に当業者が通常に手に入れることができるものであったとの事実を確認することはできない。

(ウ)乙9?16について
a 乙号証の記載について
(a)乙9は、本件優先日前に発行された「Amplified, frequency swept lasers for frequency domain reflectometry and OCT imaging: design and scaling principles」(特許権者訳:周波数領域反射率測定およびOCT撮像用の増幅された周波数掃引レーザー:設計およびスケーリングの原理)という文献であり、その著者の一人としてK.Hsu(Micron Optics Inc.)が記載されている。

(b)乙10は、本件優先日前に発行された「Detailed Visualization of the Anterior Segment Using Fourier-Domain Optical Coherence Tomography」(特許権者訳:フーリエ領域光コヒーレンストモグラフィーを使用した前眼部の詳細な可視化)という文献であり、1頁下欄外に「Additional Contribution:Kevin Hsu,PhD,MicronOptics Inc. loaned the high-speed swept laser source, and bioptigen Inc. supplied the base software package for acquisition and display.」(特許権者訳:追加的な貢献:高速掃引レーザー光源はマイクロンオプティクス社、ケビン・スー博士(Kevin Hsu, PhD)から貸与、取得および表示のための基本ソフトウェアパッケージはバイオプティゲン社から提供された。)と記載されている。

(c)乙11は、その発行日が不明である「Efficient Single-frequency Fibre Lasers with Novel Photosensitive Er/Yb Optical Fibers」(特許権者訳:新規の感光性Er/Yb光ファイバーを用いた高効率単周波数ファイバーレーザー)という文献であり、その著者の一人としてK.Hsu(Micron Optics Inc.)が記載されている。

(d)乙12は、本件優先日前に発行された「Single-frequency, single-polarization operation of tunable miniature erbium:ytterbium fiber Fabry?Perot lasers by use of self-injection locking」(特許権者訳:自己注入ロックを用いた単一周波数、単一偏波動作の波長可変小型エルビウム:イッテルビウム ファイバーファブリーペローレーザー)という文献であり、その著者の一人としてK.Hsu(Micron Optics Inc.)が記載されている。

(e)乙13は、本件優先日前に発行された「High-speed liquid crystal fiber Fabry-Perot tunable filter」(特許権者訳:高速液晶ファイバーファブリペロー波長可変フィルター)という文献であり、その著者の一人としてKevin Hsu(Micron Optics Inc.)が記載されている。

(f)乙14は、本件優先日前に発行された「Full range polarization-sensitive Fourier domain optical coherence tomography」(特許権者訳:フルレンジの偏光感知フーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー)という文献であり、6039頁の「Acknowledgments」(謝辞)には、「Loan of the 1.31μm swept source from Micron Optics, Inc. and discussions with Kevin Hsu are also gratefully acknowledged.」(特許権者訳:また、マイクロン・オプティクス社(Micron Optics, Inc.)からの1.31μm掃引光源の貸与、およびケビン・スー(Kevin Hsu)氏との議論にも感謝します。)と記載されている。

(g)乙15は、本件優先日前に発行された「Swept source optical coherence tomography using an all-fiber 1300-nm ring laser source」(特許権者訳:全ファイバー1300nmリングレーザー光源を使用した掃引光源光コヒーレンストモグラフィー)という文献であり、その著者の一人としてKevin Hsu(Micron Optics, Incorporated)が記載されている。

(h)乙16は、「Swept laser source at 1μm for Fourier domain optical coherence tomography」(特許権者訳:フーリエ領域光コヒーレンストモグラフィー用の1μmでの掃引レーザー光源)という文献であり、その著者の一人としてKevin Hsu(Micron Optics Inc.)が記載されている。

b 把握できる事実
上記乙9、乙10及び乙12?乙16の記載から、本件優先日当時の事実として、以下の事項が把握できる。
Kevin Hsuは、Micron Optics Inc.に所属しており、掃引レーザー光源の開発に携わっていた人物である。特に、乙14の「ケビン・スー(Kevin Hsu)氏との議論にも感謝します。」との記載から、掃引レーザー光源に関する技術について、極めて専門的な知識を有する人物であるといえる。

c 判断
Micron Optics Inc.は、乙2の実験報告書に記載されているとおり、特許権者が発注した仕様に応じて掃引レーザーモジュールを製造した会社であり、その会社に、掃引レーザー光源に関する技術について極めて専門的な知識を有するKevin Hsuが所属していたことは事実であるが、このことをもってして、本件発明の「波長可変レーザー光源」が本件優先日当時に当業者が通常に手に入れることができるものであったとの事実を確認することはできない。

(エ)総合的判断
上記(ア)?(ウ)で述べたとおり、乙3?16によって、本件発明の「波長可変レーザー光源」が、本件優先日当時に当業者が通常に手に入れることができるものであったとの事実を確認することはできない。
むしろ、乙9?16の記載からは、仮に、本件発明の「波長可変レーザー光源」が、乙2の実験報告書の「掃引レーザーモジュール(モデル番号s3-1060、シリアル番号SSA8AT)」として製造されたとしても、それはKevin HsuのようにSS光源について極めて専門的な知識を有する者でないと製造できないことを裏付けていることになる。そうすると、本件優先日当時に、極めて専門的な知識を有することまでは求められていない、その分野において通常の知識を有する当業者が、期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等を要しないで、本件発明の「波長可変レーザー光源」を製造できるとはいえない。
特許権者は「乙第3号証?乙第16号証等の出願時の技術常識に基づいて、仕様を決定し、その仕様でメーカーに依頼してSSレーザー光源の試作品を入手することができるということを理解することができ」ることを主張しているが、「試作品」が市販されているとはいえず、SS光源について極めて専門的な知識を有する者でないと製造できない「試作品」が、当業者が自ら「仕様を決定し、その仕様でメーカーに依頼して」通常に手に入るものとはいえない。

(オ)小括
よって、乙2の実験報告書に「レーザー線幅δkが46m^(-1)と計算できた光源」が記載されているからといって、本件発明の「波長可変レーザー光源」が優先日当時に当業者が通常に手に入るものでないことから、それを「有する」「掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置」を当業者が作れ、かつ、その物を使用できるとはいえず、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及び7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

イ δkが22?50m^(-1)である光源について
上記(1)イで、「仮に「レーザー線幅δkが46m^(-1)と計算できた光源」が優先日当時に当業者が通常に手に入るものとしても(手に入らないことは上記アで述べたとおりである)、レーザー線幅δkが「22?46未満」m^(-1)と計算できる光源を優先日当時に当業者が通常に手に入るものと判断することはできない。」と指摘したことに対して、特許権者は上記(1)アに対する主張しかしておらず、レーザー線幅δkが「22?46未満」m^(-1)と計算できる光源については具体的に反論していない。
よって、「22?46未満」m^(-1)のレーザー線幅を含む本件発明の「波長可変レーザー光源」が優先日当時に当業者が通常に手に入るものでないことから、それを「有する」「掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置」を当業者が作れ、かつ、その物を使用できるとはいえず、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

ウ δk以外の変数について
特許権者は、上記(2)イで記載したように、「・・・実施可能であるものと思料する。・・・実施可能であるものと思料する。」と述べるにとどまり、具体的な根拠をもってして反論していない。
したがって、上記(1)で述べたように、仮に「レーザー線幅δkが46m^(-1)と計算できた光源」が優先日当時に当業者が通常に手に入るものとしても(手に入らないことは上記アで述べたとおりである)、それと同時に「τ<44sec/(D×k_(0))」、「Δk>18000m^(-1)」等を満たす波長可変レーザー光源が通常に手に入るものとはいえない。
よって、仮にδkが本件発明で特定する範囲を満たすとしても、「τ<44sec/(D×k_(0))」、「Δk>18000m^(-1)」の点で本件発明の「波長可変レーザー光源」が優先日当時に当業者が通常に手に入るものでないことから、それを「有する」「掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置」を当業者が作れ、かつ、その物を使用できるとはいえないず、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及び7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

エ 発明の詳細な説明と実験報告書との関係
上記ア?ウで述べたとおり、乙3?16は、本件発明の「波長可変レーザー光源」が優先日当時に当業者が通常に手に入るものことを裏付けるものではないことから、乙2の実験報告書をもってして、本件明細書の発明の詳細な説明の記載不足を補うことはできない。

オ まとめ
ア?エで述べたとおり、本件発明の「波長可変レーザー光源」が優先日当時に当業者が通常に手に入るものでないことから、それを「有する」「掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置」を当業者が作れ、かつ、その物を使用できるとはいえず、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
よって、本件特許は、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件発明1?21の特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

4 取消理由3について
(1)本件明細書の記載
本件明細書には、δkとして168m^(-1)未満、さらには、93m^(-1)、81m^(-1)、47m^(-1)未満であり、τとして44sec/(D×k_(0))未満であり、Δkが18000m^(-1)超であり、波長が600nm?1150nmである光源を用いて、人間の眼球に対してAスキャンを実際に行ったという実施例が記載されていない。
本件明細書の【0067】には、
「調整範囲の好ましい値、Δk=112000m^(-1)、D=2mm、波長λ=1060nm、および調整時間τ=500μsを用いると、30μmよりも小さなOCDR分解能/測定精度による1回の測定操作で水晶体の全眼軸長および位置を初めて決定することが可能である。ここでは、測定結果が眼球の不随意な動きによって破損しないことが保証される。」との記載はあるものの、当該記載も「好ましい値、・・・を用いると、・・・ことが可能である。」というものであり、実際にこの値で人間の眼球に対してAスキャンを実際に行った結果を示したものかどうか不明であり、δkの値も記載されていない。

(2)本件発明1及び7について
ア 通知した具体的内容
取消理由通知書の取消理由3の(2)において、
「本件明細書には、δkとして168m^(-1)未満、さらには、93m^(-1)、81m^(-1)、47m^(-1)未満であり、τとして44sec/(D×k_(0))未満であり、Δkが18000m^(-1)超であり、波長が600nm?1150nmである光源を用いて、人間の眼球に対してAスキャンを実際に行ったという実施例が記載されていないことから、請求項1及び7に係る発明は、本件明細書でサポートされたものとはいえない。
そして、優先日当時の技術常識を鑑みても、光源として94.4m^(-1)未満となるものがあるという事実はなく、94.4m^(-1)の場合でも波長は600nm?1150nmを満たすものではないことから、δkとして168m^(-1)未満、さらには、93m^(-1)、81m^(-1)、47m^(-1)未満であり、τとして44sec/(D×k_(0))未満であり、Δkが18000m^(-1)超であり、波長が600nm?1150nmである光源が優先日当時にあるという事実を確認することはできない。仮に、このような光源があったにせよ、それが本件明細書に実施例として記載しなくとも、当業者が優先日当時に通常に用い得るものであるとの根拠はない。
そうすると、請求項1に係る発明における「前記光源はδk<168m^(-1)のレーザー線幅を有し、前記光源の調整は重心波数k_(0)を中心として時間τ<44sec/(D×k_(0))で実施され、前記光源は、少なくともΔk>18000m^(-1)の、重心波数k_(0)を中心とするスペクトル調整範囲Δkを有し、前記光源は、600nm?1150nmの波長を有」するとの光源、請求項7における「前記光源はδk<168m^(-1)のレーザー線幅を有し、前記光源の調整は重心波数k_(0)を中心として時間τ<44sec/(D×k_(0))で実施され、前記光源は、少なくともΔk>18000m^(-1)の、重心波数k_(0)を中心とするスペクトル調整範囲Δkを有し、」「前記光源のδk<93m^(-1)」、「δk<81m^(-1)」、「δk<47m^(-1)のレーザー線幅」である光源は、優先日当時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明においてサポートされたものとはいえない。」と指摘し、それに対する特許権者の意見を踏まえたうえで、取消理由通知書(決定の予告)の取消理由3の(2)ウでは、以下の判断を示した。
「図2c及び図2dは、本件明細書の【0066】に「図2cは図2による装置(参照アーム)を用いて測定されたAスキャンを示す」と記載されているものであるが、その光源については、【0067】に「調整範囲の好ましい値、Δk=112000m^(-1)、D=2mm、波長λ=1060nm、および調整時間τ=500μsを用いると、30μmよりも小さなOCDR分解能/測定精度による1回の測定操作で水晶体の全眼軸長および位置を初めて決定することが可能である。」と記載されるにとどまり、図2による装置で実際にどのような光源を用いたのか依然として不明であり、そのAスキャンを行った結果である図2c及び図2dを拡大した図を乙第1号証(当審注:図2dについては、改めてグラフを書いたようであり、特許掲載公報の図2dをそのまま拡大したものには見えない。)として提示してきても、実際にδkとして168m^(-1)未満、さらには、93m^(-1)、81m^(-1)、47m^(-1)未満であり、τとして44sec/(D×k_(0))未満であり、Δkが18000m^(-1)超であり、波長が600nm?1150nmである光源を用いて人間の眼球に対してAスキャンを行ったということが何ら裏付けられてはいない。
そして、上記で述べたように、δkとして168m^(-1)未満、さらには、93m^(-1)、81m^(-1)、47m^(-1)未満であり、τとして44sec/(D×k_(0))未満であり、Δkが18000m^(-1)超であり、波長が600nm?1150nmである光源が優先日当時にあるという事実を確認することはできず、仮にこのような光源があったにせよ、それが本件明細書に実施例として記載しなくとも、当業者が優先日当時に市販品等として入手できる、あるいは、製造できるとの事実はないのであるから、当業者が優先日当時に通常に用い得るものであるとの根拠はない。
そうすると、δkとして168m^(-1)未満、さらには、93m^(-1)、81m^(-1)、47m^(-1)未満であり、τとして44sec/(D×k_(0))未満であり、Δkが18000m^(-1)超であり、波長が600nm?1150nmである光源を用いて、人間の眼球に対してAスキャンを実際に行ったということの裏付けがないのであるから、本件発明1及び7は、発明の詳細な説明においてサポートされたものとはいえない。」

イ 特許権者の主張
特許権者は、上記判断に対して、意見書で、上記取消理由2における「(2)特許権者の主張」において記載したように、スペックル粒と調整時間τとの関係について述べたうえで、以下の主張をしている。
「この考察点に基づき、本発明者らは、本件明細書に開示されたパラメータ(Δk=112000m^(-1)、D=2mm、波長λ=1060nm、調整時間τ=500μs)を有する装置を一実施例としている。これは、本件明細書に段落[0067]に記載された、時間τ<44sec/(D×k_(0))の実施例に相当する。即ち、段落[0067]に記載された波長λ=1060nmから、重心波数k_(0)=2π/1060nm=2π/1060×10^(-9)m=0.005925×10^(9)m^(-1)が得られ、D=2mmおよびk_(0)=0.005925×10^(9)m^(-1)から時間τの最大値44sec/(D×k_(0))=44sec/(2×10^(-3)m×0.005925×10^(9)m^(-1))=3713×10^(-6)sec=3713μsecが得られ、段落[0067]に記載された調整時間τ=500μsは、この調整時間τの最大値3713μsecよりも小さいため、時間τ<44sec/(D×k_(0))の条件を満たしている。また、δk<168m^(-1)のレーザー線幅に関して、本件明細書には、93m^(-1)、81m^(-1)、162m^(-1)、47m^(-1)である実施例が記載されている。従って、本件明細書には、課題を解決するための手段に対応する実施例が記載されている。」

ウ 判断
まず、特許権者が意見書で述べたスペックル粒と調整時間τとの関係についての主張は、上記取消理由2における(3)イで述べたように、本件明細書に一切記載されておらず、スペックル粒と調整時間τとの関係自体がサポートされているといえないのであるから、当該主張をもってして、上記アの指摘が解消されることにはならない。
また、特許権者は、上記(1)で摘記した本件明細書の【0067】の記載を「本発明者らは、本件明細書に開示されたパラメータ(Δk=112000m^(-1)、D=2mm、波長λ=1060nm、調整時間τ=500μs)を有する装置を一実施例としている。」と主張しているが、【0067】の記載は、
「調整範囲の好ましい値、Δk=112000m^(-1)、D=2mm、波長λ=1060nm、および調整時間τ=500μsを用いると、30μmよりも小さなOCDR分解能/測定精度による1回の測定操作で水晶体の全眼軸長および位置を初めて決定することが可能である。ここでは、測定結果が眼球の不随意な動きによって破損しないことが保証される。」で、「好ましい値、・・・を用いると、・・・ことが可能である。」というものであり、これらのパラメータの値で実際に装置を製造し、その装置で人間の眼球に対してAスキャンを実際に行った結果を示したものとはいえない。
さらに、特許権者は「本件明細書には、93m^(-1)、81m^(-1)、162m^(-1)、47m^(-1)である実施例が記載されている。」と主張しているが、本件明細書には、
「【0038】
【図3】測定の基準面を配置する様々な解決策を示す。」
「【0068】
最大レーザー線幅δkは測定領域に依存することが明らかになっている。レーザー線幅は、自己相関関数を測定する場合に162m^(-1)よりも小さくなければならず、すなわち、参照アームが阻止される。
【0069】
参照アームを有する装置を使用すると、サンプル内の参照面を適当に定義することによって、1.角膜、水晶体、および網膜からの信号が十分な強度で検出され、しかも、2.ミラーアーチファクトが計算によって抑圧されまたは識別および排除されうることを保証することが可能である。図3はこれを参照面の様々な位置に対して図式的に示しており、参照面は参照光路とサンプル光路の波長差によって設定される。
【0070】
図3aでは、参照面は、網膜(R)の後方で設定されており、結果は93m^(-1)の最大レーザー線幅である(曲線として図式的に表わされる54mmの全測定範囲にわたって80dBの信号レベル低下)。R’、C’は、ここでも以下でもミラーアーチファクトを示す。
【0071】
図3bでは、参照面は、角膜(C)の前方で設定され、結果は81m^(-1)の最大レーザー線幅である(角膜は網膜よりもよく反射するので、54mmの全測定範囲にわたって60dBの信号レベル低下が考えられる)。
【0072】
図3cでは、参照面は角膜(C)と網膜(R)の間で設定されており、結果は162m^(-1)の最大レーザー線幅である。
図3aの場合と同様に、図3dでは、54mmの全測定範囲にわたってわずか20dBの目標信号レベル低下を想定して、参照面は網膜(R)の後方で設定されており、結果は47m^(-1)の最大レーザー線幅である。これは好ましいレーザー線幅δkである。ここでは、参照面と眼球の最も近くにありかつ測定ビームによって横断される光学素子との間に64mmの最小間隔を実現する必要がある。」という記載があるものの、これらは「レーザー線幅は、自己相関関数を測定する場合に162m^(-1)よりも小さくなければならず」と記載されているとおり、そのようなレーザー線幅を持つレーザー光源が必要であることを述べたにとどまり、実際に162m^(-1)よりも小さなレーザー線幅をもつレーザー光源で装置を製造し、その装置で人間の眼球に対してAスキャンを実際に行った結果を示したものとはいえない。同様に、93m^(-1)の最大レーザー線幅、81m^(-1)の最大レーザー線幅、47m^(-1)の最大レーザー線幅についても、実際にそれらのレーザー線幅をもつレーザー光源で装置を製造し、その装置で人間の眼球に対してAスキャンを実際に行った結果を示したものとはいえない。
そうすると、δkとして168m^(-1)未満、さらには、93m^(-1)、81m^(-1)、47m^(-1)未満であり、τとして44sec/(D×k_(0))未満であり、Δkが18000m^(-1)超であり、波長が600nm?1150nmである光源を用いて、人間の眼球に対してAスキャンを実際に行ったということの裏付けがないのであるから、本件発明1及び7は、発明の詳細な説明においてサポートされたものとはいえない。

(3)本件発明1、4及び6について
ア 通知した具体的内容
取消理由通知書の取消理由3の(3)において、以下のように指摘した。
(ア)本件発明1について、「レシーバで1回の調整の間に検出される前記後方散乱される光をΔk/(τ×δk)よりも大きい比率でディジタル化する」ことについて、Δk/(τ×δk)の比率に関する具体的な実施例が本件明細書には記載されていない。ここで、「比率」は、上記第2で記載したように、「周波数」に訂正された。さらに、訂正前の請求項3の「スペクトル調整範囲Δkと前記レーザー線幅δkの比は360よりも大きい」と特定されていることに対して、本件明細書にはそれを満たす具体的な実施例は記載されていないと指摘したことについては、訂正により本件発明1の特定事項となったことから、本件発明1に対する指摘内容となった。
(イ)本件発明4について、「調整率Δk/τを前記レーザー線幅δkで除算することによって得られた値は18kHzよりも大きい」と特定されているが、本件明細書にはそれを満たす具体的な実施例は記載されていない。また、上記第2で記載したように、本件発明1には、訂正により「調整率(Δk/τ)と前記レーザー線幅δkの割合が40MHzよりも小さい」ことが追加されており、「調整率Δk/τを前記レーザー線幅δkで除算することによって得られた値」と「調整率(Δk/τ)と前記レーザー線幅δkの割合」は同じ意味であることから、訂正により本件発明1に追加された上記事項については、本件発明4における上記指摘と合わせて検討することとする。
(ウ)本件発明6について、「少なくとも1つのレシーバの帯域幅は2×Δk/(τ×δk)よりも大きく、80MHz未満である」と特定されているが、本件明細書にはそれを満たす具体的な実施例は記載されていない。
そして、それらに対する特許権者の意見を踏まえたうえで、取消理由通知書(決定の予告)の取消理由3の(3)ウでは、以下の判断を示した。
「上記アの(ア)?(ウ)について、まとめて判断する。
上記1の「取消理由4について」の(3)で述べたように、44sec/(D×k_(0))未満のτで、かつ、δk<168m^(-1)あるいはδkが46m^(-1)であるレーザー線幅を有する光源を優先日当時に実施可能であったという事実を確認することができず、「Δk/(τ×δk)の周波数」の具体的な値、「調整率Δk/τを前記レーザー線幅δkで除算することによって得られた値は18kHzよりも大き」く「40MHzよりも小さい」こと、及び「少なくとも1つのレシーバの帯域幅は2×Δk/(τ×δk)よりも大きく、80MHz未満である」ことについての実施例もないのであるから、依然としてこれらについて裏付けはないものである。
また、「スペクトル調整範囲△kと前記レーザー線幅δkの比は360よりも大きい」ことについても、仮にδkが46m^(-1)であるレーザー線幅を有する光源が優先日当時にテストレベルで実施可能であったとしても、当業者が優先日当時に通常に用い得るものであるとはいえないから、実施例なくして「スペクトル調整範囲△kと前記レーザー線幅δkの比は360よりも大きい」ことを裏付けのあるものとすることはできない。
よって、特許権者の主張により、上記(ア)?(ウ)の指摘は解消するものではないことから、本件発明1、4及び6は、発明の詳細な説明においてサポートされたものとはいえない。」

イ 特許権者の主張
特許権者は、上記判断に対して、意見書で何ら反論をしていない。

ウ 判断
上記アで述べた判断のとおりである。

(4)まとめ
以上のとおり、特許権者が提出した意見書、乙1の図2c及び図2dを拡大したと主張する図、並びに、乙2の実験報告書、さらには上記乙3?16を参照しても、本件発明1、4、6及び7、並びにそれらを引用する本件発明2、5、8?18、20及び21は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
よって、本件特許は、本件発明1?21が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件発明1?21の特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

第6 むすび
以上のとおり、本件特許は、本件発明1?21が、特許法第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、かつ、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、請求項1、2、4?18、20及び21に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項3及び19に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項3及び19に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動サンプルである人間の眼球に対してAスキャンを行うために、重心波数k_(0)を中心として波数を調整可能な波長可変レーザー光源とサンプルから後方散乱される光に対する少なくとも1つのレシーバとを有するとともにサンプル寸法に対応する測定範囲を有する掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定(SSOCDR)装置であって、
前記サンプルは直径Dの測定ビームを用いて前記サンプルの表面に照射され、
前記光源はδk<168m^(-1)のレーザー線幅を有し、
前記光源の調整は重心波数k_(0)を中心として時間τ<44sec/(D×k_(0))で実施され、
前記光源は、少なくともΔk>18000m^(-1)の、重心波数k_(0)を中心とするスペクトル調整範囲Δkを有し、
前記光源は、600nm?1150nmの波長を有し、
前記光源の調整を制御し、前記レシーバで1回の調整の間に検出される前記後方散乱される光をΔk/(τ×δk)よりも大きい周波数でディジタル化する制御ユニットが設けられており、前記スペクトル調整範囲Δkと前記レーザー線幅δkの比は360よりも大きく、調整率(Δk/τ)と前記レーザー線幅δkの割合が40MHzよりも小さいことを特徴とする掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項2】
測定ビームの直径Dは、3mmよりも小さい、請求項1に記載の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項3】 (削除)
【請求項4】
調整率Δk/τを前記レーザー線幅δkで除算することによって得られた値は18kHzよりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項5】
前記光源の前記レーザー線幅δkは22m^(-1)?50m^(-1)にあることを特徴とする請求項1、2、および4のいずれか1項に記載の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つのレシーバの帯域幅は2×Δk/(τ×δk)よりも大きく、80MHz未満であることを特徴とする請求項1、2、4、および5のいずれか1項に記載の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項7】
可動サンプルである人間の眼球に対してAスキャンを行うために、重心波数k_(0)を中心として波数を調整可能な波長可変レーザー光源とサンプルから後方散乱される光に対する少なくとも1つのレシーバとを有するとともにサンプル寸法に対応する測定範囲を有する掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定(SSOCDR)装置であって、
前記サンプルは直径Dの測定ビームを用いて前記サンプルの表面に照射され、
前記光源はδk<168m^(-1)のレーザー線幅を有し、
前記光源の調整は重心波数k_(0)を中心として時間τ<44sec/(D×k_(0))で実施され、
前記光源は、少なくともΔk>18000m^(-1)の、重心波数k_(0)を中心とするスペクトル調整範囲Δkを有し、
前記スペクトル調整範囲Δkと前記レーザー線幅δkの比は360よりも大きく、調整率(Δk/τ)と前記レーザー線幅δkの割合が40MHzよりも小さく、
サンプルアーム及び参照アームを有する干渉計が設けられ、前記参照アームは、前記Aスキャンにおいて網膜および角膜に対して以下の第1から第4の位置のいずれか1つに設定された参照面を有し、前記光源は、前記Aスキャンにおける網膜および角膜に対する前記参照面の位置に応じた最大レーザー線幅を有し、
前記参照面が角膜と網膜との間の前記第1の位置に設定される場合、δk<162m^(-1)のレーザー線幅を有するように前記光源が設計され、
前記参照面が網膜の後方の前記第2の位置に設定される場合、δk<93m^(-1)のレーザー線幅を有するように前記光源が設計され、
前記参照面が角膜の前方の前記第3の位置に設定される場合、δk<81m^(-1)のレーザー線幅を有するように前記光源が設計され、
前記参照面が網膜の後方の前記第4の位置に設定され、かつ参照面と眼球の最も近くにある光学素子との間に64mmの最小間隔が設定される場合、δk<47m^(-1)のレーザー線幅を有するように前記光源が設計されることを特徴とする眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項8】
測定ビームの直径Dは、3mmよりも小さい、請求項7に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項9】
3×10^(8)?1×10^(13)の光子束が前記光源の調整時間τの期間中に眼球に導かれることを特徴とする請求項7に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項10】
前記測定は眼球の視軸に沿って実施されることを特徴とする請求項1、2、および4?9のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項11】
角膜、水晶体、および網膜によって後方散乱される光の検出は前記光源の調整中に実施されることを特徴とする請求項1、2、および4?10のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項12】
光源アームを有する前記光源、参照アーム及び検出アームを有する干渉計、および参照干渉計が設けられ、モノモードファイバーが、参照アームおよび/または光源アームおよび/または検出アームおよび/または参照干渉計で使用されることを特徴とする請求項1、2、および4?11のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項13】
前記光源の波数の調整のために用いられる、参照干渉計の参照信号および前記レシーバで受信されるサンプル信号が一定のスキャン速度でディジタル化され、前記参照信号およびサンプル信号に対して同じスキャン速度が使用されることを特徴とする請求項1、2、および4?12のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項14】
前記測定ビームは600nm?1150nmの波長を有することを特徴とする請求項1、2、および4?13のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項15】
眼球に400nm?900nmの波長を有する照準マーカーを投影する装置が設けられることを特徴とする請求項1、2、および4?14のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項16】
眼球に対して前記測定ビームの調整をチェックするカメラが設けられ、前記カメラは前記測定ビームの波長と前記照準マーカーの反射に対する感度を有することを特徴とする請求項15に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項17】
前記光源は眼球に対して移動可能であり、前記光源と参照干渉計とが接続されることを特徴とする請求項1、2、および4?16のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項18】
干渉計が眼球に対して移動可能であり、前記光源と干渉計とが接続されることを特徴とする請求項1、2、および4?17のいずれか一項に記載の眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定装置。
【請求項19】 (削除)
【請求項20】
角膜により後方散乱され、個々の調整中に検出された光が、時間に依存する角膜位置に関して個々に評価され、角膜位置の情報が予想プロファイルと比較され、予想プロファイルからのずれを用いて角膜、水晶体、および/または網膜の位置データが補正されることを特徴とする、請求項11に記載の装置を用いる眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定方法。
【請求項21】
前記測定ビームが前記光源の個々の調整中、または各調整間において横方向に二次元的に偏向されることを特徴とする、請求項11に記載の装置を用いる眼球用の掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-02-03 
出願番号 特願2017-184(P2017-184)
審決分類 P 1 651・ 537- ZAA (A61B)
P 1 651・ 536- ZAA (A61B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 安田 明央  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 渡戸 正義
三崎 仁
登録日 2019-05-10 
登録番号 特許第6523349号(P6523349)
権利者 カール ツアイス メディテック アクチエンゲゼルシャフト
発明の名称 掃引信号源光学コヒーレンスドメイン反射率測定用の装置  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 博宣  

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