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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01F
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01F
管理番号 1376757
異議申立番号 異議2021-700377  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-24 
確定日 2021-07-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6778320号発明「アルミナ水和物粒子、難燃剤、樹脂組成物及び電線・ケーブル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6778320号の請求項1、4、8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6778320号の請求項1?11に係る特許についての出願は、平成30年3月28日(優先権主張 平成29年4月25日 日本国)の出願であり、令和2年10月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、そのうちの請求項1、4、8に係る特許について、令和3年4月24日に特許異議申立人山本美和子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 特許異議申立の対象となる本件発明

請求項1、4及び8に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】
平均粒子径が0.5?2.5μmであり、BET比表面積が2.5?10m^(2)/gであり、下記式で求まる1次粒子ばらつきRが24%以下である電線・ケーブル被覆材用のアルミナ水和物粒子。
1次粒子ばらつきR(%)=1次粒子の長径の標準偏差σ(μm)/1次粒子の長径の平均値(μm)×100
【請求項4】
表面処理剤により表面処理されたアルミナ水和物粒子を含む電線・ケーブル被覆材用の難燃剤であって、
前記表面処理されたアルミナ水和物粒子の平均粒子径が0.5?2.5μmであり、BET比表面積が2.5?10m^(2)/gであり、下記式で求まる1次粒子ばらつきRが24%以下である、電線・ケーブル被覆材用の難燃剤。
1次粒子ばらつきR(%)=1次粒子の長径の標準偏差σ(μm)/1次粒子の長径の平均値(μm)×100
【請求項8】
請求項1に記載のアルミナ水和物粒子の製造方法であって、
粉砕前後の平均粒子径の比(粉砕後の平均粒子径/粉砕前の平均粒子径)が0.3?0.9となるように、かつBET比表面積が4.0m^(2)/g以上、平均粒子径が10μm以下となるようにアルミナ3水和物を粉砕した後、100?300℃の温度条件下で水熱反応させる電線・ケーブル被覆材用のアルミナ水和物粒子の製造方法。」

第3 特許異議の申立理由及び証拠方法

1 申立理由1
(1)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)
本件発明1及び4は、本件明細書の発明の詳細な説明に当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本件特許1及び4は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(2)証拠方法
ア 甲第1号証:「走査電顕による粉体の粒度分布測定」、麻生欣次郎他、浮選、Vo1.26、No.1('79-春)、p.7-15
イ 甲第2号証:「https://datacoach.me/data/knowledge/samplesize-q/」に開示の「アンケートサンプルサイズ: 無限母集団」の表及びその表に基づき異議申立人が計算し作成した「信頼計数と許容誤差と測定点数の関係を示す表」
ウ 甲第3号証の1:本件明細書に記載の実施例及び比較例の追試で図1?図4で選んだ100個の粒子を示した図
エ 甲第3号証の2:本件明細書に記載の実施例及び比較例の追試の結果を示す表

2 申立理由2
(1)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
本件発明8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、本件特許8は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条4号に該当し、取り消すべきものである。

(2)証拠方法
ア 甲第4号証:特開平5-279019号公報、第1?3頁
イ 甲第5号証:特開2009-292697号公報、第1、3頁
ウ 甲第6号証:特開2015-160755号公報、第1、4頁

第4 当審の判断

1 申立理由1(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の判断基準
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)実施可能要件に関する判断
ア 本件発明1のアルミナ水和物粒子及び本件発明4の表面処理剤により表面処理されたアルミナ水和物粒子は、所定の範囲の平均粒子径、BET比表面積及び1次粒子ばらつきRにより特定されるものである。
そして、本件発明1及び4において、上記(1)における「発明を実施することができる」とは、本件発明1のアルミナ水和物粒子及び本件発明4の表面処理剤により表面処理されたアルミナ水和物粒子を製造することができるということであるから、以下、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1におけるアルミナ水和物粒子及び本件発明4における表面処理剤により表面処理されたアルミナ水和物粒子を製造することができるか否かを検討する。

イ 電線・ケーブル被覆材用のアルミナ水和物粒子を製造する方法について、本件明細書の発明の詳細な説明の【0049】には、「原料となるアルミナ3水和物等を粉砕し、粉砕されたアルミナ3水和物に水熱処理(水熱反応)を施してスラリーを得て、次いでスラリーをろ過、水洗、乾燥、粉砕、分級等することで所望のアルミナ1水和物粒子(例えば、ベーマイト粒子)を製造することができる。」と記載され、同【0051】には、原料となるアルミナ3水和物等について、好ましい平均粒子径とBET比表面積の範囲が記載され、同【0052】?【0053】には、原料のアルミナ3水和物等を粉砕し、水熱処理(水熱反応)を施す前のアルミナ3水和物等を得る際の粉砕機や粉砕条件が記載されている。そして、同【0052】には、「乾式粉砕を行う場合、原料となるアルミナ3水和物等を所望のBET比表面積や平均粒子径等になるまで機械的に粉砕する」、同【0054】には、「湿式粉砕機に、この懸濁液を流速1?20L/hr程度で1?5回程度通過させることで、所望のBET比表面積や平均粒子径等になるように、湿式粉砕することができる。」と、それぞれ記載されていることから、粉砕の程度で、水熱反応を行う前のアルミナ3水和物の平均粒子径及びBET比表面積を適宜調整することができることが理解できる。さらに、同【0057】には、水熱処理の条件が記載され、同【0065】には、ろ過、水洗後、必要に応じて乾燥、粉砕及び分級等の手段を適宜選択して実施できることが記載されている。
上記のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、原料となるアルミナ3水和物等に関する記載、原料となるアルミナ3水和物等の粉砕条件に関する記載、水熱反応を行う前のアルミナ3水和物の平均粒子径及びBET比表面積に関する記載、並びに、水熱処理の条件に関する記載を認めることができるから、これらの記載を参照すれば、当業者において、適宜、当該記載中の諸条件を調整することにより、本件発明1のアルミナ水和物粒子を製造することができるものと認められる。
また、同【0060】?【0063】には、アルミナ水和物粒子を表面処理剤により表面処理することが好ましいことが記載されているところ、同【0064】には、表面処理後のアルミナ水和物粒子の各物性値は、表面処理前のアルミナ水和物粒子の各物性値と殆ど同じ値であることが記載されているから、本件発明4の表面処理剤により表面処理されたアルミナ水和物粒子についても、本件発明1のアルミナ水和物粒子と同様に、本件明細書の発明の詳細な説明の上記の記載を参照し当業者であれば製造することができるものと認められる。

ウ 上記認定の、本件発明1のアルミナ水和物粒子及び本件発明4の表面処理剤により表面処理されたアルミナ水和物粒子の製造方法に関する一般的な記載に加え、本件明細書の発明の詳細な説明の【0094】?【0099】には、具体的な製造方法として4つの実施例に関する記載を認めることができるから、当業者は、当該一般的な記載が教示する製造方法を、より一層首肯し得るものとして理解することができるといえる。
すなわち、同段落には、各実施例について、平均粒子径(D_(50)値)及びBET比表面積が特定されたギブサイト、該ギブサイトを懸濁した懸濁液を湿式粉砕すること又はギブサイトを乾式粉砕すること、該湿式又は乾式粉砕の条件、該粉砕の後(乾式粉砕の場合は懸濁液を作成)のベーマイトを合成する際の水熱処理条件、並びに、該水熱処理後に表面処理、洗浄、乾燥、粉砕を経てベーマイト粒子を得ることが、それぞれ具体的に記載され、表1には、4つの実施例での、原料となるギブサイトの平均粒子径(D_(50)値)及びBET比表面積、粉砕条件、粉砕によって得られたギブサイトの平均粒子径(D_(50)値)及びBET比表面積、水熱条件、並びに、表面処理をされたベーマイト粒子の平均粒子径(D_(50)値)、BET比表面積及び1次粒子ばらつきR(%)がまとめられていることから、4つの実施例において、実際に、本件発明1及び4で特定された平均粒子径(μm)、BET比表面積(m^(2)/g)及び1次粒子ばらつきR(%)の範囲を満足するアルミナ水和物粒子が製造されていることを理解することができる。
さらには、当業者であれば、上記イに記載した製造方法に関する一般的な記載に照らしながら、各実施例での、原料の選択、粉砕処理の条件、水熱処理の条件といった諸条件を適宜調整することにより、これら4つの実施例以外の、本件発明1及び4で特定された平均粒子径(μm)、BET比表面積(m^(2)/g)及び1次粒子ばらつきR(%)の範囲に含まれるアルミナ水和物についても、適宜製造することができると解するのが相当である。

エ そうすると、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び必要に応じて出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1のアルミナ水和物粒子及び本件発明4の表面処理剤により表面処理されたアルミナ水和物粒子を製造することができるといえるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1及び4について、当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に記載されているものというべきである。
したがって、異議申立人が主張する特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)に係る申立理由1には、理由がない。

(3)異議申立人の主張に対する検討
ア 異議申立人の主張
異議申立人は、概略以下の主張をしている。
(ア)請求項1、4に記載の「1次粒子ばらつきR」の導出方法に関して、段落【0090】には、「画像解析ソフト(Image J)を用いて、写真中の粒子100個を無作為に選択し、1次粒子の長径の平均値及び標準偏差σを求めた。ここで、1次粒子の長径は、測定対象粒子の寸法を各方角から測定して、粒子の寸法が最も大きくなる方向の粒子の寸法(即ち、最長径)とした。さらに、下記式により、1次粒子ばらつきRを求めた。」と記載されていることから、このような測定方法は、画像を二値化して粒子サイズを自動で計測しているものではなく、人が無作為に1次粒子を100個抽出して、二点間距離を測定しているものと考えられるため、結局、本件特許の「1次粒子ばらつきR」の導出方法には、次のような問題がある。
(i) 測定者によるばらつきが大きい。
(ii) 意図的に数値のコントロールができるため、特許性のあるデータとはいえない。
(iii) 統計学的に、測定点数100点では信頼性が十分とはいえない。

(イ)上記の(i)、(ii)についてさらにいうと、甲第1号証の「7.顕微鏡法の特徴として、見た目に計測しやすい粒子径範囲の粒子が多く計数される傾向になるのではないかと考えられる。」との記載、及び、審査過程で拒絶理由通知に対して特許権者が提出した意見書中の「適切に1次粒子の抽出が行なえるものだけを選択」との記載からすると、無作為の測定は作為的な測定になりやすい。

(ウ)上記(iii)についてさらにいうと、一般に、アンケート調査であれば、信頼係数95%、許容誤差±5%で行われ、測定点数は384点(甲第2号証の第1頁の表参照)であり、本件のような100点の測定点数であれば、「1次粒子の長径の平均値」と「1次粒子ばらつきR」の信頼係数は許容誤差5%で65?70%しかなく(甲第2号証の第1頁の表参照)、統計学的に信頼性が十分とはいえないため、本件明細書の段落【0090】に記載の測定方法で導出された1次粒子ばらつきRは、データとしての信頼性は低い。

(エ)加えて、二人の測定者が本件明細書の段落【0090】に記載の測定方法に従い、本件特許の図1?図4のSEM像に基づいてそれぞれ選んだ100個の粒子(甲第3号証の1参照)について、1次粒子の長径の平均値及び標準偏差σを求め、段落【0091】の式により実施例1、3、比較例1、3の1次粒子ばらつきRを導出し、測長法1及び測長法2の追試を行ったところ、甲第3号証の2の測長法1及び測長法2に示すように、1次粒子ばらつきRは実施例も比較例も測定者が異なると、その値に1以上の違いがみられ、1次粒子ばらつきRが24%か25%かでは侵害となるか侵害とならないかの違いが生じることから、致命的な結果を招く虞があるといえる。実際、測長法1の比較例3(R=20.9%)は、1次粒子ばらつきがR≦24%となるため、比較例3は、請求項1、4の複数のパラメータの中で1次粒子ばらつきRのみが所定の数値範囲を満たさず、引張強度も引張伸びも実施例に比べ劣るにも拘わらず特許発明の技術的範囲に包含されことになり、第三者に不測の不利益を与えることになる。
このように、本件明細書の段落【0090】に記載の測定方法により導出した1次粒子ばらつきRは、測定者によるばらつきが大きいという致命的な問題点がある。

イ 異議申立人の主張についての検討
(ア)上記ア(ア)?(エ)の主張について
実施可能要件に関する判断は、上記(1)の判断基準に従って判断すべきであるところ、異議申立人の上記ア(ア)?(エ)の主張は、この判断基準に沿ったものではないから、上記異議申立人の主張は、上記(2)の判断を左右するものではない。

(イ)上記ア(ア)の主張について
上記(ア)に記載したように、異議申立人の上記ア(ア)?(エ)の主張は、上記(2)の判断を左右するものではないが、念のため個々の具体的な主張について検討する。
上記ア(ア)で異議申立人は、本件明細書の発明の詳細な説明の【0090】に記載された測定方法からみて、本件発明1及び4における1次粒子ばらつきRの導出に際しては、画像を二値化して粒子サイズを自動で計測しているものではなく、人が無作為に1次粒子を100個抽出して、二点間距離を測定しているものと考えられる旨主張しているが、同【0090】に記載された画像解析ソフト(Image J)を用いる手法が、実際、人が無作為に1次粒子を100個抽出して、二点間距離を測定していることについて、客観的な根拠をもって明らかにされていない。そうである以上、この主張に依拠してされた上記(i)?(iii)の問題点に関する主張は、その前提を欠くものである。

(ウ)上記ア(イ)の主張について
甲第1号証に記載の「顕微鏡法」が、本件発明1及び4の画像解析ソフトを用いた計測と同じのものであるのか客観的な根拠をもって明らかにされていない。また、「適切に1次粒子の抽出が行なえるものだけを選択」したことについて、まず測定対象となる1次粒子のみを選択することが、ただちに作為的であると認めるに足りる根拠は見当たらないから、上記の特許権者の意見書での主張をもって、本件発明における測定が作為的であるということはできない。

(エ)上記ア(ウ)の主張について
異議申立人は、無限母集団をサンプルサイズとした一般のアンケート調査での精度を基にした主張をしているが、この一般のアンケート調査での事項が、本件発明1及び4の無作為に抽出される100点の測定点数での信頼性の評価に当てはまるものであるのか客観的な根拠をもって明らかにされていない。

(オ)上記ア(エ)の主張について
本件発明1、4が実施可能であるか否かの判断(写真中の粒子100個を無作為に選択し、1次粒子の長径の平均値及び標準偏差σを求めることができるか否か)と、対象製品が本件発明1及び4を侵害しているか否かの判断は、異なる観点に基づくものであり、異議申立人の上記ア(エ)の主張は、上記(2)の判断を左右するものではない。

(カ)以上のとおりであるから、実施可能要件違反についての異議申立人の主張は、採用することができない。

2 申立理由2(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)サポート要件に関する判断
ア 発明の課題について
本件明細書の発明の詳細な説明の【0005】?【0007】の記載によれば、本件発明8に対応する発明の解決しようとする課題は、「耐酸性を維持しつつ、さらに難燃性、機械特性を向上できる電線・ケーブル被覆材用のアルミナ水和物粒子の製造方法を提供することにある」といえる。

イ 発明の詳細な説明の記載について
本件明細書の発明の詳細な説明の【0005】の「水酸化マグネシウムを難燃剤として電線・ケーブル被覆材に用いた場合、通常の条件下であれば問題なく使用できるが、電線・ケーブル等の設置場所によっては、過酷な条件下(例えば、酸性雰囲気、高湿度等の条件下)で使用する場合もあり、そのような場合には、水酸化マグネシウムが強酸等(硝酸や硫酸等)と反応することにより、硝酸マグネシウムや硫酸マグネシウム等の可溶塩が析出してしまい、電線・ケーブル被覆材表面の絶縁性が低下して、電子機器等の誤作動を引き起こしてしまう場合があることが分かった。また、炭酸ガスと反応することにより、数十ミクロンの塩基性炭酸マグネシウム粒子が析出し、電線・ケーブル被覆材表面の外観を損なう場合(炭酸ガス白化)もあることが分かった」との記載や、同【0010】の「本発明の電線・ケーブル被覆材用のアルミナ水和物粒子は、酸に溶けにくいアルミナ水和物で構成されているため、過酷な条件下(例えば、酸性雰囲気、高湿度等の条件下)に電線・ケーブル等を設置する場合であっても、耐酸性を維持することができる。」との記載によれば、電線・ケーブル被覆材用の粒子が、「アルミナ水和物粒子」であれば、発明の解決しようとする課題のうち「耐酸性を維持」することができることは、当業者であれば認識できるといえる。
また、同【0010】には、メカニズムは定かではないとされつつも、1次粒子ばらつきRが24%以下であると、「樹脂に配合した際に、粒子の凝集が起こり難く、粒子が均一に分散しやすくなるため、さらには、樹脂との接触面積をコントロールし易くなるため、アルミナ水和物粒子の有する難燃性の特性を向上でき、引張強度や引張伸び等の機械特性をも向上できる」とされ、同【0011】等には、「BET比表面積が2.5?10m^(2)/gであること」により、「樹脂等への分散性が向上したり、樹脂等に配合した際に樹脂等との接触面積をコントロールし易いため、難燃性、機械特性が発現し易くな」るとされ、同【0030】には、「平均粒子径が0.5?2.5μm」であることにより、「分散性、難燃性、機械特性等をより向上」し、「樹脂等に配合した際、樹脂等との接触面積をコントロールし易いため、難燃性や機械強度を向上しやすい」とされている。
そして、同【表1】には、発明の解決しようとする課題において、向上の対象とされる難燃性、機械特性に対応する引張強度、引張伸び及び酸素指数の指標について、平均粒子径(D_(50))(μm)、BET比表面積(m^(2)/g)及び1次粒子ばらつきR(%)が本件発明1(本件発明8)の範囲内にある実施例1?4が、平均粒子径(D_(50))(μm)及びBET比表面積(m^(2)/g)が本件発明1(本件発明8)の範囲外にある比較例1、1次粒子ばらつきR(%)が本件発明1の範囲外にある比較例2及び3に対し、優れた値を示している。
そうすると、平均粒子径、BET比表面積及び1次粒子ばらつきRが本件発明1(本件発明8)の範囲内であれば、発明の解決しようとする課題のうち「難燃性、機械特性を向上できる」ことが認識できるといえる。

ウ 以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の一般的な記載及び実施例の具体的な記載から、本件発明8の解決しようとする発明の課題である、耐酸性を維持しつつ、さらに難燃性、機械特性を向上できる電線・ケーブル被覆材用のアルミナ水和物粒子の製造方法を提供するには、アルミナ水和物粒子であって、平均粒子径、BET比表面積及び1次粒子ばらつきRが本件発明1(本件発明8)の範囲内であれば良いと当業者であれば、認識することができるといえ、それらが特定されている本件発明1及びその製造方法である本件発明8は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、本件発明8は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるというべきである。
したがって、異議申立人が主張する特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)に係る申立理由2には、理由がない。

(3)異議申立人の主張に対する判断
ア 異議申立人の主張
異議申立人は、概略以下の主張をしている。
本件特許の請求項8に係る発明に特許が付与されたのは、粉砕後のアルミナ3水和物が、「粉砕前後の平均粒子径の比(粉砕後の平均粒子径/粉砕前の平均粒子径)が0.3?0.9」であるという数値限定、「BET比表面積が4.0m^(2)/g以上」であるという数値限定及び「平均粒子径が10μm以下」であるという数値限定に、それぞれ技術的意義が認められたからに他ならない。
これらの数値限定による技術的意義を見出すには、数値限定の範囲を逸脱する粉砕後のアルミナ3水和物と対比することが不可欠であり、数値限定の範囲内外の粉砕後のアルミナ3水和物の対比があって初めて裏付けられることとなる。
しかしながら、本件明細書の段落【0104】【表1】の比較例1と比較例2は、粉砕されないアルミナ3水和物(ギブサイト)であり、比較例3はベーマイトであるため、アルミナ3水和物(ギブサイト)が粉砕される実施例と対比することが不可能である。
また、「BET比表面積が4.0m^(2)/g以上」であること、「平均粒子径が10μm以下」であること、及び「粉砕前後の平均粒子径の比(粉砕後の平均粒子径/粉砕前の平均粒子径)が0.3?0.9」であることについては、数値限定の技術的意義の根拠は明確ではない。
すなわち、本件明細書には請求項8の数値限定の技術的意義について襄付けがなく、立証されていない。
よって、本件特許の請求項8の発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。

イ 異議申立人の主張について
サポート要件に関する判断は、上記(1)の判断基準に従って判断すべきであるところ、異議申立人の上記の主張は、この判断基準に沿ったものではないから、上記異議申立人の主張は、上記(2)の判断を左右するものではない。
さらに、異議申立人の具体的な主張について、念のため検討しても、本件発明8は、「請求項1に記載のアルミナ水和物粒子の製造方法であって」と特定されるように、特許が付与されている本件発明1の製造方法に限定されているのであるから、必ずしも、異議申立人が主張するように、本件特許の請求項8の発明に特許が付与されたのは、上記数値限定に技術的意義が認められたからであるということはできない。
そうすると、この前提に基づいてされた、異議申立人の数値限定の技術的意義に関する主張は、その前提において失当であるし、もとより当該数値限定の技術的意義は、本件発明1(本件発明8)で特定される最終的なアルミナ水和物粒子を得るのに都合の良い途中段階でのアルミナ3水和物における条件であると当業者であれば理解できるといえる。
以上のとおりであるから、サポート要件違反についての異議申立人の主張は、採用することができない。

第5 むすび

上記第4で検討したとおり、本件特許1、4は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできないし、本件特許8は、同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。
したがって、本件特許1、4、8は、特許法第113条第4号に該当するものではないから、上記特許異議の申立理由では、これらの特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1、4及び8を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-07-20 
出願番号 特願2019-515173(P2019-515173)
審決分類 P 1 652・ 536- Y (C01F)
P 1 652・ 537- Y (C01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中田 光祐安齋 美佐子  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 原 賢一
後藤 政博
登録日 2020-10-13 
登録番号 特許第6778320号(P6778320)
権利者 神島化学工業株式会社
発明の名称 アルミナ水和物粒子、難燃剤、樹脂組成物及び電線・ケーブル  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  
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