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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 発明同一  H01M
管理番号 1376763
異議申立番号 異議2021-700231  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-02 
確定日 2021-08-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6750192号発明「固体高分子形燃料電池用ガス拡散層」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6750192号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6750192号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成27年 6月 1日(優先権主張平成26年 6月 3日)に出願され、令和 2年 8月17日に特許権の設定登録がされ、同年 9月2日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 3年 3月 2日付けで、その請求項1?8に係る特許に対し、特許異議申立人である鈴木憲治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載
1 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明(以下、順に「本件発明1」?「本件発明8」といい、これらを総合して「本件発明」という。)は、それぞれ、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
多孔質炭素電極基材の少なくとも一方の面上に、カーボン粒子と撥水剤からなり、表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有するコーティング層を設けたガス拡散層。
【請求項2】
ガス拡散層を構成する多孔質電極基材の厚みが50?250μmであり、少なくとも一方の面に形成されたコーティング層の厚みが5?100μmである請求項1に記載のガス拡散層。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガス拡散層が、外径が84.2?167.4mmの芯材にロール状に巻き付けられたガス拡散層のロール状物。
【請求項4】
コーティング層が芯材に対して多孔質炭素電極基材よりも外側に配されるようにガス拡散層が巻き付けられた請求項3に記載のガス拡散層のロール状物。
【請求項5】
コーティング層が芯材に対して多孔質炭素電極基材よりも内側に配されるようにガス拡散層が巻き付けられた請求項3に記載のガス拡散層のロール状物。
【請求項6】
芯材の材質が紙である請求項3?5のいずれか1項に記載のガス拡散層のロール状物。
【請求項7】
芯材の材質が樹脂である請求項3?5のいずれか1項に記載のガス拡散層のロール状物。
【請求項8】
厚みが5?100μmの保護層がガス拡散層とともに芯材に巻き付けられた請求項3?7のいずれか1項に記載のガス拡散層のロール状物。」

2 本件明細書の発明の詳細な説明の記載
本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(下線は、当審が付したものである。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。

ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、この方法で形成されたガス拡散層は、ガス拡散層基材に比べてコーティング層の緻密性が著しく高いため、ロール状に巻き取った際に、コーティング層に意図せぬクラックが生じてしまい、連続製造することが困難であった。本発明は、上記の問題点を克服し意図的にコーティング層に微細なクラックを設けることで巻き取り前後においてコーティング層の構造に変化が生じない、ロール状に巻き取り可能なガス拡散層を提供することを目的とする。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0008】
具体的には、前記課題は以下の発明(1)?(8)によって解決される。
【0009】
(1)多孔質炭素電極基材の少なくとも一方の面上に、カーボン粉と撥水剤からなり、表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有するコーティング層を設けたガス拡散層。
【0010】
(2) ガス拡散層を構成する多孔質電極基材の厚みが50?250μmであり、少なくとも一方の面に形成されたコーティング層の厚みが5?100μmである上記(1)に記載のガス拡散層。
【0011】
(3) 上記(1)または(2)に記載のガス拡散層が、外径が84.2?167.4mmの芯材にロール状に巻き付けられたガス拡散層のロール状物。
【0012】
(4) コーティング層が芯材に対して多孔質炭素電極基材よりも外側に配されるようにガス拡散層が巻き付けられた上記(3)に記載のガス拡散層のロール状物。
【0013】
(5) コーティング層が芯材に対して多孔質炭素電極基材よりも内側に配されるようにガス拡散層が巻き付けられた上記(3)に記載のガス拡散層のロール状物。
【0014】
(6) 芯材の材質が紙である上記(3)?(5)のいずれかに記載のガス拡散層のロール状物。
【0015】
(7) 芯材の材質が樹脂である上記(3)?(5)のいずれかに記載のガス拡散層のロール状物。
【0016】
(8) 厚みが5?100μmの保護層がガス拡散層とともに心材に巻き付けられた上記(3)?(7)のいずれかに記載のガス拡散層のロール状物。
・・・
【発明の効果】
【0022】
簡便な製造方法でありながらも、意図的にコーティング層に微細なクラックを設けることで巻き取り前後においてコーティング層の構造に変化が生じない、ロール状に巻き取り可能なガス拡散層を提供することができる。」

ウ 「【0030】
<工程[1]:カーボン粉、撥水剤、界面活性剤、および水からなる液を、攪拌機を用い、混合撹拌することによりコーティング液を得る工程>
使用するカーボン粉としては、たとえば、黒鉛粉やカーボンブラックなどを用いることができる。例えばカーボンブラックとしてはアセチレンブラック(例えば電気化学工業(株)製のデンカブラック)、ケッチェンブラック(例えばライオン(株)製のKetjen Black EC)、ファーネスブラック(例えばCABOT社製のバルカンXC72)などを用いることができる。より高い導電性を発現するといった観点から、カーボンブラックを用いることが好ましい。
【0031】
撥水剤は、たとえば、フッ素樹脂などが挙げられる。フッ素樹脂としては例えばテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体などがあげられ、とりわけポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。PTFEを界面活性剤によって水中に分散させても良いし、あらかじめ分散されたディスパージョンを用いることも出来る。
【0032】
界面活性剤は公知のものを利用できる。例えばポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(例えばACROS ORGANICS社製のTriton X-100)、アルキルエーテル、アルキルフェニルエーテルなど非イオン性界面活性剤が挙げられる。取扱い性および分解温度から、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルを用いることが好ましい。
【0033】
カーボン粉と、撥水剤および界面活性剤と水よりコーティング液を作成する方法としては、公知の方法を用いることができる。カーボン粉の分散液および撥水剤の分散液をそれぞれ調製し、混合することで得られる。カーボン分散液を得るためには、カーボン粉に水を混合するが、このとき、カーボン粉の濡れ性をよくして分散性を向上させるために有機溶媒や界面活性剤を添加するのが好ましい。かかる有機溶媒としては、低級のアルコール類及びアセトンなどが好ましい。界面活性剤の添加量としては、カーボン粉の分散性を上げるためにと塗工液全体に対し0.1wt%以上であれば良く、また添加量が多すぎると発泡してしまうため、5wt%以下であることが好ましい。所望の粘度に応じて、増粘剤等を加えることも出来る。撹拌に用いる装置としては一般的な攪拌機例えば、ディスパー、ホモジナイザー、サンドミル、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル等を用いることができる。操作が簡便であることおよび処理時間を短縮する観点から、ディスパーやホモジナイザー等を用いることが好ましい。撥水剤を繊維化するため、カーボン粉および撥水剤を分散させたコーティング液の撹拌温度を30℃以上に保ち、ディスパーを用いた際の撹拌速度が5000rpm以上の条件にて、15分以上混合撹拌することが好ましい。
【0034】
<工程[2]:多孔質炭素電極基材上に、上記工程[1]で得られたコーティング液を塗布し、多孔質炭素電極基材上に均一な塗工膜を形成する工程>
【0035】
<多孔質炭素電極基材の処理>
多孔質炭素電極基材に撥水性を付与すべく行う撥水処理には、フッ素樹脂などの撥水剤の粒子を溶媒中に分散させた分散液を用いる。溶媒として水を用いる場合、撥水剤は、そのままでは水には分散しないため、適当な界面活性剤によって水中に分散させる。また、分散液としてはあらかじめ撥水剤が分散されたディスパージョン等を用いることもできる。
【0036】
<<塗工膜の形成>>
多孔質炭素電極基材上に塗工膜を形成するための塗工液を塗布方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えばバーコート法、ブレード法、スクリーン印刷法、スプレー法、カーテンコーティング法およびロールコート法などがあげられる。これらの方法により、多孔質炭素電極基材上に均一な塗工膜を形成することができる塗工膜の厚みは、50?2000μmであることが好ましい。塗工膜の厚みが50μmよりも薄すぎると厚みの均一な膜を得ることが困難となり、2000μmより大きいと乾燥後に意図しない大きなクラックをコーティング層に生じやすくなるため、好ましくない。より好ましい塗工膜の厚みの範囲は50?1000μmである。
【0037】
<工程[3]:塗工膜を形成した多孔質炭素電極基材を150℃?300℃の環境下にて乾燥し、塗膜における水分を除去し多孔質炭素電極基材上にコーティング層を形成する工程>
本発明においては、塗工膜を形成した多孔質炭素電極基材を150℃?300℃の環境下におくことにより、塗工膜を乾燥させる。例えばプレートヒーター、加熱ロールや、熱風乾燥機やIRヒーターなどを用いて150℃?300℃の環境を作ることができる。
【0038】
本発明においては、乾燥させる際の雰囲気温度としては、塗工膜に意図的にクラック発生させるため、150℃?300℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは200?300℃である。乾燥温度が150℃よりも小さいと、急激な溶媒の蒸発が生じず、クラックを発生させることができない、また、乾燥温度が300℃よりも大きくなると、溶媒の蒸発速度が速すぎるため、大きなクラックが塗膜に生じてしまい、塗工膜の強度が低下してしまう。乾燥時間としては、生産性を考慮すると0.5分?20分であることが好ましく、より好ましくは0.5?10分である。
【0039】
<工程[4]:コーティング層を形成した多孔質炭素電極基材を200?400℃に加熱してガス拡散層を得る工程>
本発明においては、乾燥後の「塗工膜を形成した多孔質炭素電極基材」を300?400℃の環境下において焼成させることでガス拡散層を製造する。
【0040】
この焼成工程においては、第一に多孔質炭素電極基材および塗工膜中に含まれる界面活性剤等の分散剤を消失させ、加えて撥水剤を融点付近まで加熱することによって、撥水剤粒子を溶融させてその形状をコントロールすることでコーティング層の細孔構造制御とカーボン粉のバインディングを強固にする。したがって、温度としては、300?400℃の範囲が好ましく、より好ましくは340?400℃である。また焼成時間としては5?90分が好ましく、より好ましくは10?60分である。
【0041】
<<多孔質炭素電極基材>>
本発明の製造方法により、多孔質炭素電極基材から電気抵抗が低く、排水性の良い固体高分子形燃料電池用の多孔質炭素電極を製造することができる。多孔質炭素電極基材であれば、どのようなものであっても本発明の技術を使用することにより、従来の製造技術を使用するよりも上記の効果を発現することができる。
【0042】
上述した通り、本発明における多孔質炭素電極基材はどのようなものであっても使用することができる。
【0043】
多孔質炭素電極基材としては、導電性フィラーである炭素粉や炭素繊維や金属繊維そして樹脂などを原料とした導電性ペーパーやクロス、不織布などのあらゆる導電性多孔質材料を用いることができる。具体的には、市販のカーボンペーパーなどを用いることが出来るが、炭素繊維が炭素により結着された多孔質炭素電極基材を用いることもできる。炭素繊維を結着する炭素としては、炭素繊維前駆体繊維や樹脂等があり、これらを高温で処理することで炭素化する方法がある。炭素繊維と炭素源となる繊維および樹脂などから炭素繊維シートを作成し、成形・炭素化工程を経て炭素繊維が炭素により結着された多孔質炭素電極基材を製造することが出来る。これらの工程は品質および生産性の観点から連続的に製造されることが望ましい。また、上記の多孔質炭素電極基材に限らず、炭素化工程を有さない、エネルギーコストの小さい多孔質炭素電極基材も使用することができる。これらの例としては、炭素繊維を導電性物質粒子を充てんさせたバインダーで決着させた炭素繊維ウェブやカーボンなどの微細な導電性物質を樹脂などのバインダーで結着させた多孔質炭素電極基材などがある。
・・・
【0082】
2.ガス拡散層
本発明の製造方法により得られる多孔質炭素電極は、炭素繊維が炭素により結着された多孔質炭素電極基材の少なくとも一方の面上に、カーボン粉と繊維化された撥水剤からなるコーティング層が形成されたガス拡散層である。
【0083】
<多孔質炭素電極基材の少なくとも一方の面上に、カーボン粉と繊維化された撥水剤からなるコーティング層が形成されたガス拡散層>
本発明においては、「多孔質炭素電極基材の少なくとも一方の面上に、カーボン粉と撥水剤からなるコーティング層が形成されたもの」を「ガス拡散層」という。コーティング層は多孔質電極基材の一方の面上、もしくは両面に形成されていてもよい。多孔質炭素電極基材の一方の面のみにコーティング層を形成する場合は、触媒層と多孔質炭素電極基材間の接触抵抗を低減する観点から、固体高分子形燃料電池内の触媒層と接する側の多孔質電極基材の面上にコーティング層を設けることが好ましい。
【0084】
コーティング層に用いるカーボン粉は、たとえば、黒鉛粉やカーボンブラックなどを用いることができる。例えばアセチレンブラック(例えば電気化学工業(株)製のデンカブラック)、ケッチェンブラック(例えばライオン(株)製のKetjen Black EC)、ファーネスブラック(例えばCABOT社製のバルカンXC72)などを用いることができる。カーボン粉を用いる割合としては、カーボン粉を溶媒に分散させた際の濃度が、5?30%となるように用いることが好ましい。撥水剤としてはフッ素樹脂やシリコーン樹脂などが挙げられ、これらを水などの溶媒に分散させて用いることが出来る。撥水性の高さから特に好ましくはフッ素樹脂である。フッ素樹脂としては例えばテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体などがあげられ、特にPTFEが好ましい。撥水剤を用いる割合としては、撥水剤を溶媒に分散させた際の濃度が、5?60%となるように用いることが好ましい。本発明においては撥水剤を繊維化させるため、乳化重合により製造されるPTFEが好ましく、中でもディスパージョンタイプの使用が好ましい。
【0085】
カーボン粉および撥水剤を分散させる溶媒としては、水や有機溶媒を用いることが出来る。有機溶媒の危険性、コスト及び環境負荷の観点から、水を使用することが好ましい。有機溶媒を使用する際には、水と混合可能な溶媒である低級アルコールやアセトンなどの使用が好ましい。これら有機溶媒を用いる割合としては、水1に対して0.5?2の比率で用いることが好ましい。
【0086】
カーボン粉と撥水剤からなるコーティング層とは、カーボン粉がバインダーである撥水剤によって結合されたものである。言い換えれば、撥水剤によって形成されるネットワーク中にカーボン粉が取り込まれ、微細な網目構造を有する。コーティング層を形成させる際に、組成物の一部が多孔質炭素電極基材へと染み込むため、コーティング層と多孔質炭素電極基材との明確な境界線の定義は困難であるが、本発明においてはコーティング層組成物の多孔質炭素電極基材へのしみこみが生じていない部分、すなわちカーボン粉と撥水剤のみから構成される層のみをコーティング層と定義する。本発明のコーティング層中には繊維化された撥水剤を含むため、上記網目構造がより強固なものとなり、コーティング層の強度が向上するだけでなく、繊維状撥水剤と多孔質炭素電極基材との絡みあいが生じることで、コーティング層と多孔質炭素電極基材の接着性が向上し、コーティング層の剥離強度が高い固体高分子形燃料電池用のガス拡散層が得られる。本発明のガス拡散層は、多孔質炭素電極基材の面のいずれか一方の面上にカーボン粉と撥水剤からなるコーティング層を有している。両面に当該コーティング層を有していてもよいが、プロセスが増加による生産性の低下および両面にコーティング層を有することでガス拡散性と排水性が低下する可能性があることから片面塗布が好ましい。コーティング層を形成させる表面はどちらでも良いが、強固なコーティング層を形成させるためにはある程度の表面粗さを有する面であることが好ましい。ただし、多孔質炭素電極基材の一方の面にガス流路を形成したものなどはこの限りではなく、もう一方の平滑な面に形成することが好ましい。
【0087】
<多孔質炭素電極基材の少なくとも一方の面上に、カーボン粉と撥水剤からなり、表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有するコーティング層を設けたガス拡散層>
ここで言うクラックとは、コーティング層をにおける亀裂のことを指す。このクラックは、コーティング層を乾燥する際に、塗工膜から除去される溶媒の除去速度を変化させることで、発生度合いを変えることができる。クラックの長さとしては、0.001?1mmが好ましく、0.001?0.05mmであることがさらに好ましい。クラックが0.001mmより小さいとクラックによるコーティング層の屈曲性が発現せず、また1mmより大きいとコーティング層の排水性低下が著しくなる。クラックの幅については、幅0.05?10μmの範囲内にあることが好ましい。0.05μmより小さいと、クラックによるコーティング層の屈曲性が発現せず、また10μmより大きいと多孔質炭素電極基材の細孔径サイズと同等の孔径になるため、コーティング層による保水効果が低下してしまう。さらに好ましいクラックの幅については、0.05?5μmである。クラックの個数は25?1000個/m^(2)であることが好ましい。25個/m^(2)より少ないと、コーティング層の柔軟性が足りず、後述する巻き取り試験にて、巻き取り前後でコーティング層の構造変化が著しくなる。1000個以上であると、コーティング層の強度が著しく低下してしまう。より好ましいクラック数は25?500個/m2である。」

エ 「【0089】
<ガス拡散層のロール状物>
ガス拡散層の生産性、および後加工性を鑑みるとロール状物であることが好ましい。ガス拡散層を巻きつける芯材は、軽量で、巻出し・巻き取り装置に保持しやすい中空形状の芯材が良く、その材質は、紙または樹脂が好ましい。芯材の装置へ取り付ける際に発生する粉じんを減らす観点からは樹脂製の芯材がより好ましい。樹脂としてはポリエチレン、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタラート等の樹脂が好ましい。また、芯材をリサイクルする観点および、安価である点からは材質を紙製のものとするのが好ましい。
【0090】
紙製の芯材であっても、表面に樹脂加工を施した芯材を用いることで、上述した装置への取り付け時に発生する粉じんを極力減らすことができる。
【0091】
芯材の芯径としてはガス拡散層に対する曲げ半径の関係より、その外径は84.2?182.4mmの範囲内にあることが好ましい。外径は84.2mm未満であると、ガス拡散層の最大曲率半径に近くなるため、巻き取り前後での構造変化が生じやすくなるため、好ましくない。また、182.4mmよりも大きくなると、巻き取り径が大きくなりすぎてしまい、生産性および輸送時のコストが増すことから好ましくない。芯材外径のより好ましい範囲は、82.4?172.4mmである。芯材が中空形状である場合は、芯材の内径としては76.2?152.4mmであることが好ましく、芯材の厚みとしては4?15mmの範囲内にあることが好ましい。芯材の厚みが4mm未満では繰り返し使用した際の耐久性に乏しく、また15mmよりも大きいとロール状物とした際の重量が大きくなってしまうため好ましくない。なお、芯材はガス拡散層をロール状に巻きとったあとに抜きとっても良い。
【0092】
ロール状物におけるコーティング層の配し方としては、ロール状物の内側にコーティング層を配する方法、および外側に配する方法の2通りがある。本発明においてはどちらの方法をとることも可能である。コーティング層をロール状物の内側に配する場合、外層に多孔質炭素電極基材が配されるため、外的な衝撃や巻長さが増加した際の巻締りによるコーティング層へのダメージを緩和することができる。一方で、ロール状物の外側にコーティング層を配することによって、コーティング層の曲げ半径は大きくなることから、巻きつけ時のコーティング層へのダメージを緩和することができる点で好ましい。また、外側にコーティング層を配することでコーティング層に付着した異物や塗工ムラ等を容易に確認することができる。コーティング層の上すなわち、コーティング層と内層もしくは外層のガス拡散層との間に保護層を設けることも出来る。保護層を設けることでコーティング層に傷や多孔質炭素電極基材から脱落した炭素繊維や炭化物等の異物が付着することを防ぐことができる。保護層の材質としてはコーティング層と接着しないものであればよく、各種離型紙や、ポリエチレン、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタラート、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂フィルムの使用が好ましい。保護層の厚みは5?100μmであることが好ましい。保護層の厚みが5μm未満であると、炭素繊維の保護層への突き刺さりによりコーティング層へダメージが生じうることから好ましくない。また、保護層の厚みが100μmより大きいと、コーティング層の保護効果は期待できるが、ロール状物の巻き径が大きくなりすぎてしまい、生産性の低下および輸送コストがかさむことから好ましくない。保護層の幅は、ガス拡散層の幅と同一以上であり、その差は200mm以下であることが好ましい。幅がガス拡散層よりも小さいと保護層のエッジ部分がコーティング層を傷つけるだけでなく、幅が足りない部分には保護層の効果が得られないため好ましくない。また、保護層の幅が、ガス拡散層よりも大きく、その差が200mmより大きいと、保護層のコストが大きくなるだけでなく、巻き取り時のバランスが悪くなり、結果として巻形態が安定しないため好ましくない。」

オ 「【実施例】
【0093】
下記の手法を用いて各種物性値の測定を行った。
【0094】
<多孔質炭素電極基材、およびコーティング層厚みの算出>
製造した多孔質炭素電極基材、およびガス拡散層から、3×3cm角の試験片を10点、ランダムに取り出し、それぞれの厚みをマイクロメーターにより各サンプルに対して5点ずつ測定して平均厚みを算出し、ガス拡散層の平均厚みより多孔質炭素電極基材の平均厚みを差し引くことで、コーティング層の厚みを算出した。
【0095】
<クラックの計測>
製造したガス拡散層から、1m^(2)あたり、5×5mm角の試験片を10個作成し、各々の試験片について、走査型電子顕微鏡にて加速電圧5kV、スポットサイズ30mm、焦点距離15mm、倍率1000倍にて各サンプルについてランダムに10点撮影を行い、クラックのサイズおよび個数を検出した。クラックのサイズおよび個数の検出には画像解析ソフトImage-Pro Plus(日本ローパー社製)を用いて2値化処理を行った。各サンプルのクラックのサイズおよび個数は平均値により決定した。
【0096】
<ロール巻きつけ前後での変化の確認>
上述のクラック計測をロール状に巻きつけたガス拡散層を巻きだした後にも実施し、巻きつけ前後でクラックのサイズおよび個数の変化を確認した。その変化率が5%未満である物を変化なし、5%以上のものを変化有りとした。またコーティング層への炭素繊維の付着の有無を確認した。
【0097】
<実施例1>
(多孔質炭素電極基材)
多孔質炭素電極基材は、市販のカーボンペーパーやカーボンクロスなどを用いることが出来るが、本発明では平滑な多孔質炭素電極基材を得るべく、多孔質炭素電極基材から製造を行った。
【0098】
炭素繊維(A)として、平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのPAN系炭素繊維を用意した。また、炭素繊維前駆体繊維(b)として、平均繊維径が4μm、平均繊維長が3mmのアクリル繊維(三菱レイヨン(株)製、商品名:D122)、フィブリル状繊維(b´)として、叩解によってフィブリル化するアクリル系ポリマーとジアセテート(酢酸セルロース)とからなる易割繊性アクリル系海島複合繊維(三菱レイヨン(株)製、商品名:ボンネルM.V.P.-C651、平均繊維長:3mm)を用意した。
【0099】
以下の<1>?<10>の操作によってガス拡散層を製造した。
【0100】
<1> 炭素繊維(A)の離解
炭素繊維(A)を、繊維濃度が1%(10g/L)になるように水中へ分散して、ミキサーを通して離解処理し、離解スラリー繊維(SA)とした。
【0101】
<2> 炭素繊維前駆体繊維(b)の離解
炭素繊維前駆体繊維(b)を、繊維濃度が1%(10g/L)になるように水中へ分散して、ミキサーを通して離解処理し、離解スラリー繊維(Sb)とした。
【0102】
<3> フィブリル状繊維(b´)の離解
前記易割繊性アクリル系海島複合繊維を、繊維濃度が1%(10g/L)になるように水中へ分散させミキサーを通して叩解・離解処理し、離解スラリー繊維(Sb´)とした。
【0103】
<4> 抄紙体の製造
炭素繊維(A)と炭素繊維前駆体繊維(b)およびフィブリル状繊維(b´)とが、質量比70:10:20で、かつスラリー中の繊維の濃度が、1.44g/Lとなるように離解スラリー繊維(SA)、離解スラリー繊維(Sb)、離解スラリー繊維(Sb´)、希釈水を計量し、分散させた。抄紙には、ネット駆動部及び幅60cm×長さ585cmのプラスチックネット製平織メッシュをベルト状につなぎあわせて連続的に回転させるネットよりなるシート状物搬送装置、スラリー供給部幅が48cm、ネット下部に配置した減圧脱水装置からなる処理装置を用いた。処理装置の下流に下記の3本のウォータージェットノズルを備えた加圧水流噴射処理装置を配置した。
【0104】
ノズル1:孔径φ0.15mm×501孔
幅方向孔間ピッチ1mm(1001孔/幅1m)
1列配置、ノズル有効幅500mm
【0105】
ノズル2:孔径φ0.15mm×501孔
幅方向孔間ピッチ1mm(1001孔/幅1m)
1列配置、ノズル有効幅500mm
【0106】
ノズル3:孔径φ0.15mm×1002孔
幅方向孔間ピッチ1.5mm
3列配置、列間ピッチ5mm、ノズル有効幅500mm
【0107】
加圧水流噴射圧力を1MPaノズル1、圧力2MPa(ノズル2)、圧力1MPa(ノズル3)として、繊維の分散したスラリーをスラリー供給部より投入し、減圧脱水を経た後、ノズル1、ノズル2、ノズル3の順で通過させて交絡処理を加え3次元交絡構造を持つ抄紙体を得た。抄紙体を、ピンテンター試験機(辻井染機工業(株)製PT-2A-400)により150℃で3分間、乾燥させて抄紙体を得た。なお、抄紙体における炭素繊維(A)および炭素繊維前駆体繊維(b)、フィブリル状繊維(b´)の分散状態は、良好でさらにハンドリング性は良好であった。
【0108】
<5> 樹脂含浸・乾燥
得られた抄紙体にフェノール樹脂ディスパージョンを含浸させ、熱風乾燥機を用いて雰囲気温度100℃にて乾燥させた。
【0109】
<6> 加圧加熱成形
次に、この抄紙体の両面を、シリコーン系離型剤をコートした紙で挟み込むように配置し、ダブルベルトプレス装置にて190℃、ベルト速度0.2m/分にてプレス成形を行った。
【0110】
<7> 炭素化処理
その後、この前駆体シートを炭素化炉にて、窒素ガス雰囲気中、2000℃の条件下で炭素化処理して多孔質炭素電極基材を得た。得られた多孔質炭素電極基材は反りやうねりが生じておらず平滑であった。得られた多孔質炭素電極基材の厚みは155μmであった。
【0111】
<8> コーティング液1の調製
デンカブラック(電気化学工業株式会社製)、イオン交換水、イソプロピルアルコールをそれぞれ5:100:80の割合で混合し、ホモミクサーMARK-II(プライミクス株式会社製)を用いて、冷却しながら15000rpmで30分間撹拌を行って、コーティング液1を得た。
【0112】
<9> コーティング液2の調製
コーティング液1に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンをカーボンブラック1に対し、0.3の割合で添加しディスパーによって500rpmで5分間の撹拌を行い、コーティング液2を得た。
【0113】
<10> 多孔質炭素電極基材用の撥水処理液の作成
多孔質炭素電極基材用の撥水処理液の作成には、PTFEディスパージョン(31-JR、三井デュポンフロロケミカル製)と界面活性剤(ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル)および蒸留水を用いた。撥水処理液における固形分濃度が、PTFEは1wt%、界面活性剤は2wt%となるように調整した後、蒸留水を添加して、ディスパーを用いて1000rpm、10分間撹拌することによって撥水処理液を作成した。
【0114】
<11> 多孔質炭素電極基材への撥水処理
多孔質炭素電極基材を上記の撥水処理液に浸漬することによって含浸させた。含浸後の多孔質炭素電極基材をバーに押し当て、余剰の撥水処理液を除去した後2m/minの速度で搬送することによって、多孔質炭素電極基材に付着した余分な撥水処理液を取り除き、熱処理炉にて多孔質炭素電極基材を熱処理することで撥水処理が施された多孔質炭素電極基材を得た。
【0115】
<12> コーティング層の形成
さらに、コーティング液2を多孔質炭素電極基材上に目標厚み10μmで塗工し、ついで150℃に設定した熱風乾燥炉を用いて20分間乾燥させた。さらに、乾燥後焼結炉にて360℃1時間焼結処理をおこなってコーティング層を形成したガス拡散層を得た。得られたガス拡散層のコーティング層に形成されたクラックは、長さ0.019mm、幅0.11μm個数は34個/m^(2)であった。得られたガス拡散層を内径76.2mm厚み4mm外径84.2mmの紙製の芯材にコーティング層がロール状物の常に内側となるように巻き取ったところ、良好な形態で巻き取ることができた。ロール状物を再度巻きだしてクラックを確認したところ、変化は5%未満であった。また、コーティング層への炭素繊維の付着も少なかった。表1に結果をまとめた。
【0116】
<実施例2>
多孔質炭素電極基材の厚みを78μmとし、コーティング層の乾燥温度を200℃とし、コーティング層の目標厚みを30μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、ガス拡散層を得た。得られたガス拡散層のコーティング層に形成されたクラックは、長さ0.021mm、幅0.25μm個数は511個/m^(2)であった。得られたガス拡散層を内径152.4mm厚み4mm外径160.4mmのポリエチレン製の芯材にコーティング層がロール状物の常に外側となるように巻き取ったところ、良好な形態で巻き取ることができた。ロール状物を再度巻きだしてクラックを確認したところ、変化は5%未満であった。また、コーティング層への炭素繊維の付着も少なかった。表1に結果をまとめた。
【0117】
<実施例3>
多孔質炭素電極基材の厚みを201μmとし、コーティング層の乾燥温度を300℃とし、コーティング層の目標厚みを50μmとした以外は、実施例1と同様にして、ガス拡散層を得た。得られたガス拡散層のコーティング層に形成されたクラックは、長さ0.025mm、幅0.30μm個数は777個/m^(2)であった。得られたガス拡散層を内径76.2mm厚み4mm外径84.2mmのポリ塩化ビニル製の芯材にコーティング層がロール状物の常に外側となるように巻き取ったところ、良好な形態で巻き取ることができた。ロール状物を再度巻きだしてクラックを確認したところ、変化は5%未満であった。また、コーティング層への炭素繊維の付着も少なかった。表1に結果をまとめた。
【0118】
<実施例4>
多孔質炭素電極基材の厚みを144μmとし、コーティング層の乾燥にプレートヒーターを用いて、加熱面の温度が150℃となるように設定し、加熱面にコーティング層を形成していない面を接触させることで乾燥したこと以外は、実施例1と同様にして、ガス拡散層を得た。得られたガス拡散層のコーティング層に形成されたクラックは、長さ0.444mm、幅4.5μm個数は33個/m^(2)であった。得られたガス拡散層を内径76.2mm厚み15mm外径106.2mmのポリ塩化ビニル製の芯材にコーティング層がロール状物の常に内側となるように配置し、さらにコーティング層の保護フィルムとして、厚み25μmのポリプロピレン(PP)製のフィルムをコーティング層を全幅にわたって保護するように、ガス拡散層の各層間にフィルムが配置されるように巻き取ったところ、良好な形態で巻き取ることができた。ロール状物を再度巻きだしてクラックを確認したところ、変化は5%未満であった。また、コーティング層への炭素繊維の付着も少なかった。表1に結果をまとめた。
【0119】
<実施例5>
多孔質炭素電極基材の厚みを82μmとし、コーティング層の乾燥にプレートヒーターを用いて、加熱面の温度が200℃となるように設定し、加熱面にコーティング層を形成していない面を接触させることで乾燥したこと以外は、実施例2と同様にして、ガス拡散層を得た。得られたガス拡散層のコーティング層に形成されたクラックは、長さ0.812mm、幅2.1μm個数は311個/m^(2)であった。得られたガス拡散層を内径152.4mm厚み15mm外径182.4mmのポリエチレン製の芯材にコーティング層がロール状物の常に内側となるよう巻き取ったところ、良好な形態で巻き取ることができた。ロール状物を再度巻きだしてクラックを確認したところ、変化は5%未満であった。また、コーティング層への炭素繊維の付着も少なかった。表1に結果をまとめた。
【0120】
<実施例6>
多孔質炭素電極基材の厚みを210μmとし、コーティング層の乾燥にプレートヒーターを用いて、加熱面の温度が300℃となるように設定し、加熱面にコーティング層を形成していない面を接触させることで乾燥したこと以外は、実施例3と同様にして、ガス拡散層を得た。得られたガス拡散層のコーティング層に形成されたクラックは、長さ0.914mm、幅1.8μm個数は741個/m^(2)であった。得られたガス拡散層を内径76.2mm厚み4mm外径84.2mmの紙製の芯材にコーティング層が常にロール状物の外側となるように配置し、さらにコーティング層の保護フィルムとして、厚み50μmのポリプロピレン(PP)製のフィルムをコーティング層を全幅にわたって保護するように、ガス拡散層の各層間にフィルムが配置されるように巻き取ったところ、良好な形態で巻き取ることができた。ロール状物を再度巻きだしてクラックを確認したところ、変化は5%未満であった。また、コーティング層への炭素繊維の付着も少なかった。表1に結果をまとめた。
【0121】
<実施例7>
多孔質炭素電極基材の厚みを148μmとし、コーティング層の乾燥に加熱ロールを用いて、加熱面の温度が150℃となるように設定し、加熱面にコーティング層を形成していない面を接触させることで乾燥したこと以外は、実施例1と同様にして、ガス拡散層を得た。得られたガス拡散層のコーティング層に形成されたクラックは、長さ0.714mm、幅2.2μm個数は35個/m^(2)であった。得られたガス拡散層を内径152.4mm厚み15mm外径182.4mmのポリ塩化ビニル製の芯材にコーティング層がロール状物の常に内側となるよう巻き取ったところ、良好な形態で巻き取ることができた。ロール状物を再度巻きだしてクラックを確認したところ、変化は5%未満であった。また、コーティング層への炭素繊維の付着も少なかった。表1に結果をまとめた。
【0122】
<実施例8>
多孔質炭素電極基材の厚みを84μmとし、コーティング層の乾燥に加熱ロールを用いて、加熱面の温度が200℃となるように設定し、加熱面にコーティング層を形成していない面を接触させることで乾燥したこと以外は、実施例2と同様にして、ガス拡散層を得た。得られたガス拡散層のコーティング層に形成されたクラックは、長さ0.623mm、幅2.1μm個数は256個/m^(2)であった。得られたガス拡散層を内径76.2mm厚み4mm外径84.2mmのポリプロピレン製の芯材にコーティング層がロール状物の常に外側となるよう巻き取ったところ、良好な形態で巻き取ることができた。ロール状物を再度巻きだしてクラックを確認したところ、変化は5%未満であった。また、コーティング層への炭素繊維の付着も少なかった。表1に結果をまとめた。
【0123】
<実施例9>
多孔質炭素電極基材の厚みを202μmとし、コーティング層の乾燥に加熱ロールを用いて、加熱面の温度が300℃となるように設定し、加熱面にコーティング層を形成していない面を接触させることで乾燥したこと以外は、実施例3と同様にして、ガス拡散層を得た。得られたガス拡散層のコーティング層に形成されたクラックは、長さ0.412mm、幅1.3μm個数は711個/m^(2)であった。得られたガス拡散層を内径152.4mm厚み15mm外径182.4mmのポリエチレン製の芯材にコーティング層がロール状物の常に内側となるよう巻き取ったところ、良好な形態で巻き取ることができた。ロール状物を再度巻きだしてクラックを確認したところ、変化は5%未満であった。また、コーティング層への炭素繊維の付着も少なかった。表1に結果をまとめた。
【0124】
<実施例10>
多孔質炭素電極基材の厚みを148μmとし、コーティング層の乾燥に赤外線炉を用いて、加熱される多孔質炭素電極基材およびコーティング層の温度が150℃となるように設定し、乾燥したこと以外は、実施例1と同様にして、ガス拡散層を得た。得られたガス拡散層のコーティング層に形成されたクラックは、長さ0.049mm、幅7.7μm個数は28個/m^(2)であった。得られたガス拡散層を内径152.4mm厚み15mm外径182.4mmのポリ塩化ビニル製の芯材にコーティング層がロール状物の常に外側となるよう配置し、さらにコーティング層の保護フィルムとして、厚み25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルムをコーティング層を全幅にわたって保護するように、ガス拡散層の各層間にフィルムが配置されるように巻き取ったところ、良好な形態で巻き取ることができた。巻き取ったところ、良好な形態で巻き取ることができた。ロール状物を再度巻きだしてクラックを確認したところ、変化は5%未満であった。また、コーティング層への炭素繊維の付着も少なかった。表1に結果をまとめた。
【0125】
<実施例11>
多孔質炭素電極基材の厚みを74μmとし、コーティング層の乾燥に赤外線炉を用いて、加熱される多孔質炭素電極基材およびコーティング層の温度が200℃となるように設定し、乾燥したこと以外は、実施例2と同様にして、ガス拡散層を得た。得られたガス拡散層のコーティング層に形成されたクラックは、長さ0.088mm、幅8.8μm個数は511個/m^(2)であった。得られたガス拡散層を内径76.2mm厚み4mm外径84.2mmの紙製の芯材にコーティング層がロール状物の常に内側となるよう巻き取ったところ、良好な形態で巻き取ることができた。ロール状物を再度巻きだしてクラックを確認したところ、変化は5%未満であった。また、コーティング層への炭素繊維の付着も少なかった。表1に結果をまとめた。
【0126】
<実施例12>
多孔質炭素電極基材の厚みを188μmとし、コーティング層の乾燥に赤外線炉を用いて、加熱される多孔質炭素電極基材およびコーティング層の温度が300℃となるように設定し、乾燥したこと以外は、実施例3と同様にして、ガス拡散層を得た。得られたガス拡散層のコーティング層に形成されたクラックは、長さ0.021mm、幅6.6μm個数は684個/m^(2)であった。得られたガス拡散層を内径152.4mm厚み15mm外径182.4mmのポリプロピレン製の芯材にコーティング層がロール状物の常に外側となるよう配置し、さらにコーティング層の保護フィルムとして、厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルムをコーティング層を全幅にわたって保護するように、ガス拡散層の各層間にフィルムが配置されるように巻き取ったところ、良好な形態で巻き取ることができた。巻き取ったところ、良好な形態で巻き取ることができた。ロール状物を再度巻きだしてクラックを確認したところ、変化は5%未満であった。また、コーティング層への炭素繊維の付着も少なかった。表1に結果をまとめた。」

カ 「【0135】
【表1】


(当審注;上記表1は、当審が左回りに90°回転させたものである。また、上記表1中の「クラック」の「個数」の単位である「(個)」が誤記であることは自明であり、「(個/m^(2))」と認定した。)


第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1?7号証を提出して、以下の申立理由1?4により、請求項1?8に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1(新規性欠如)
本件発明1、2は、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当するので、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(進歩性欠如)
本件発明3?8は、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明と、甲第4号証に記載された事項若しくは周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当するので、取り消されるべきものである。

3 申立理由3(拡大先願)
本件発明1、2は、その優先権主張の日前の、甲第5号証に係る国際出願の優先権主張の基礎となる特許出願であって、その出願後に甲第5号証の国際公開により出願公開がされたものとみなされる特願2013-025133号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、同発明に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当するので、取り消すべきものである。

4 申立理由4(実施可能要件)
本件発明の「ガス拡散層」うち、実施例のガス拡散層以外については、本件明細書、本願の願書に添付した図面及び技術常識を考慮しても、当業者が、どのように作るか理解できず、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の請求項1?8に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

5 申立理由5(サポート要件)
当業者は、発明の詳細な説明の記載を考慮しても、コーティング層表面のクラックの長さ、幅、個数が請求項1に記載された範囲であることによって、本件発明の課題を解決することができるのかを理解することができるとはいえず、本件特許の請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2012-54111号公報
甲第2号証:特開2011-76849号公報
甲第3号証:特開2014-63730号公報
甲第4号証:特開2006-143478号公報
甲第5号証:国際公開2014/126002号
甲第6号証:米国特許出願公開第2005/0260909号明細書
甲第7号証:SIGRACET^((R)) GDL 10 Series Gas Diffusion Layer(SGL社カタログ)、2007年4月

(以下、甲第1号証?甲第7号証を、それぞれ「甲1」?「甲7」ということがある。)


第4 当審の判断等
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)について
(1)各甲号証の記載事項、及び甲号証に記載された発明
甲第1?4、6?7号証は、いずれも本願の優先日前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、各甲号証の記載事項は、以下ア、ウ、オ、キ?ケのとおりであり、甲第1?3号証に記載された発明を、それぞれ、以下イ、エ、カのとおり認定する。

ア 甲第1号証(特開2012-54111号公報)の記載事項

(ア)「【0001】
本発明は、導電性多孔質層が形成された固体高分子形燃料電池用ガス拡散層及びそれを用いた固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池を構成する電解質膜-電極接合体(MEA)は、ガス拡散層、触媒層、イオン伝導性固体高分子電解質膜、触媒層及びガス拡散層が順次積層された構造を有している。
【0003】
このうち、ガス拡散層は、セパレータから供給されるガスを触媒層に均一に行き渡らせる役割を果たすため、良好なガス透過性及び拡散性を備えていることが必要とされる。また、触媒層で発生した電子が効率的にセパレータへ輸送されるための導電性を有していることも必要である。このため、ガス拡散層の材質には、カーボンペーパー等の導電性多孔質基材が一般的に使用されている。
【0004】
更に、この導電性多孔質基材上に導電性炭素粒子や撥水性樹脂などからなる導電性多孔質層を形成することでガス拡散層のガス透過性・ガス拡散性の制御や抵抗値を低減することができる。
【0005】
従来の導電性多孔質層の作製方法としては、まず特許文献1の請求項2の様に、撥水性樹脂の低分子量と高分子量の2成分のフッ素系樹脂を混合して使用する場合がある。しかし、高分子量のフッ素系樹脂が繊維化を引起すため、ペースト内で塊状の物質を形成するため成膜に悪影響を与えるため、導電性多孔質層の形成が困難である。仮にガス拡散層を作製できたとしても、この状態のペーストを使用した場合、導電性多孔質層の薄膜形成が困難となり、ガス透過性へ悪影響を及ぼす。
【0006】
また、撥水性樹脂として繊維化された撥水材を使用することも知られているが、特許文献1の場合と同様にペースト作製段階で塊状の物質が多量に形成され、成膜性へ悪影響を及ぼす。また、ペースト粘度増加により薄膜形成が困難なことや、繊維化する状況を毎回、同様に制御することは困難であるためペーストの安定性も乏しい。
【0007】
また特許文献2の様に、非繊維状撥水材として低分子量(分子量:100万以下)のもののみを使用した場合、導電性多孔質層を形成するためのペースト作製時での繊維化を起こさないため、ペースト作製は容易である。しかし、このペーストを用いて導電性多孔質基材上に導電性多孔質層を形成すると、バインダー成分の柔軟性が低く、また基材との密着性が悪く膜剥離を起こし易いために、成膜性の悪い膜しか形成できないため、導電性多孔質層の形成が困難である。
【0008】
また導電性多孔質層は触媒層上へ燃料を供給する最近接部位であり、導電性多孔質層のクラックの入り方と細孔形成がガス透過性やガス拡散性に大きく影響を及ぼし、発電性能を左右する。しかし、この導電性多孔質層のクラック形成状態と細孔形成状態を共に良好に満たすものは存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-278037号公報
【特許文献2】特開2002-25575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記、導電性多孔質層の形成に関する課題を解決しようとするものであり、安定性のある導電性多孔質層形成用ペーストを作製し、一段と優れたガス透過性及びガス拡散性を付与できる導電性多孔質層が導電性多孔質基材上に形成されたガス拡散層及びそれを用いた固体高分子形燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み、導電性多孔質基材(ガス拡散層)に所望の性能を付与すべく、鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の成分を特定量含む導電性多孔質層形成用ペーストを作製し、その導電性多孔質層を導電性多孔質基材の表面上に形成させることにより、上記課題を解決でき、導電性多孔質基材に一段と優れたガス透過性及びガス拡散性を付与できることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。」

(イ)「【0023】
導電性炭素粒子
導電性炭素粒子は、導電性を有する炭素材であれば特に限定されず、公知又は市販のものを使用できる。例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等のカーボンブラック、黒鉛、活性炭等が挙げられる。これらは、1種単独又は2種以上で用いることができる。導電性炭素粒子等を含有する導電性多孔質層(MPL)を施すことによりガス拡散層の導電性を向上させることができる。
・・・
【0028】
好ましい撥水性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、フッ化エチレンプロピレン樹脂(FEP)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)等が挙げられる。具体的には、例えば、市販のAD911L(旭硝子(株)製)、D-210C(ダイキン工業(株)製)を使用できる。なかでも、AD911L(旭硝子(株)製)等が好ましい。
【0029】
このような撥水性樹脂を含有することにより、ガス拡散層に撥水性を付与できると共に、導電性炭素粒子を導電性多孔質基材表面により強固に結着できるため、撥水性を長期に亘り保持することができる。
・・・
【0030】
分散剤
分散剤は、本発明ではカーボン材料との吸着性と撥水性樹脂との濡れ性の観点から、カーボン材料と撥水性樹脂を水中で分散させることができるものを使用すればよい。
・・・
【0031】
導電性炭素繊維
導電性多孔質層形成用ペースト組成物は、上記以外の成分として導電性炭素繊維を含有していてもよい。導電性炭素繊維を配合することにより、ペースト塗布表面でのクラックの発生状態を制御でき、且つ導電性が一段と向上する。導電性炭素繊維としては、例えば気相成長法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤー等が挙げられる。これらの導電性炭素繊維は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
・・・
【0038】
導電性多孔質層は、クラック占有面積が0.8%?2.5%、好ましくは0.85%?2.25%、より好ましくは0.88%?2.0%である。このクラック占有面積は、例えば、IMAGE-PRO PLUS(プラネトロン社製)により測定できる。クラック占有面積の測定は、例えば、導電性多孔質層の表面画像を測定し、画像処理によりクラック部を黒色に、非クラック部を白色となる様に処理を施し、黒色部分の表面画像全体に占める割合を測定することにより行うことが出来る。
・・・
【0054】
また、乾燥温度は限定的ではなく、例えば、大気中にて50?150℃程度、好ましくは90?130℃程度とすればよい。
・・・
【0058】
分散剤は、ガス拡散層(GDL)の焼成時に熱分解されるため、分散剤を使用する場合でも焼結後のガス拡散層中には分散剤は存在しないことがある。撥水性樹脂は、焼成後に溶解し、導電性多孔質基材の繊維上及び導電性多孔質層中の導電性炭素粒子、導電性炭素繊維上に付着した状態になっている。」

(ウ)「【0063】
<材料>
導電性多孔質層形成用ペースト組成物の調製には、以下に示す材料を使用した。
導電性炭素粒子:ファーネスブラック(バルカンxc72R:キャボット社製)、平均分子量1000?3000
フッ素系樹脂(1):ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(AD911L:旭硝子(株)製、数平均分子量:200万?400万
フッ素系樹脂(2):ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(ルブロンLDW-410、:ダイキン工業(株)製)、数平均分子量:5万?30万
フッ素系樹脂(3):ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(PTFE31-JR:Dupont製)、数平均分子量:600万?900万
導電性炭素繊維:VGCF(VGCF(登録商標;標準品):昭和電工(株)製)
分散剤(1):ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(エマルゲンA60:花王(株)製)
分散剤(2):ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(エマルゲンMS110:花王(株)製)
分散剤(3):ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル(ノイゲンEA137:第一工業製薬(株)製)
分散剤(4):酸価を含まず、アミン価を含むアニオン系分散剤(BYK184:ビックケミー製)
分散剤(5):ポリオキシエチレンアルキルアミン(アミート105:花王(株)製)
【0064】
実施例1?5及び比較例1?8
<実施例1>
導電性炭素粒子100重量部、VGCF35重量部、分散剤(分散剤(1);エマルゲンA60)25重量部及び水880重量部、エタノール10重量部をスターラー分散で30分分散した後、フッ素系樹脂270重量部(フッ素系樹脂(1);AD911L)を加えて攪拌機(EYELA製MAZELA、攪拌羽の半径:2cm)により周速0.314m/sで30分攪拌させることにより導電性多孔質層形成用ペースト組成物を調合した。
・・・
【0079】
<撥水処理>
導電性多孔質基材にはカーボンペーパー(TGP-H-60:東レ(株)製)を用い、水100重量部に対して、PTFE懸濁液(PTFE懸濁液100重量部は、PTFE60重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル)3重量部及び水37重量から構成)5重量部を混合させたPTFE水分散液に2分間含浸させた後、大気雰囲気中95度で15分程度乾燥させ、次いで大気雰囲気中約300℃で2時間程焼成を行うことにより、撥水処理を施した。
【0080】
<細孔径分布測定>
実施例1?5及び比較例1?8で調製した各導電性多孔質層形成用ペースト組成物の細孔径分布の測定結果を図1に示す。細孔径分布は、自動ポロシメーター オートポアIV9500((株)島津製作所製)を用い、サンプル内に圧入された水銀量から測定する。
【0081】
ガス拡散層の製造 実施例1?5及び比較例1?8で調製した各導電性多孔質層形成用ペースト組成物を、アプリケーター(Sheen Instruments Ltd製、「Micrometer Adjustable Film Applicator、1117/200」)を用いて塗工量が固形分換算で、30g/m^(2)になるように、上記撥水処理済み導電性多孔質基材の一方の面に均一に塗工した。次いで、大気雰囲気中95℃で20分乾燥した後、大気雰囲気中300℃で2時間焼成することにより、導電性多孔質基材表面に導電性多孔質層(MPL)が形成された、ガス拡散層(実施例1?5及び比較例1?8のペースト組成物を用いて製造したガス拡散層)を製造した。
・・・
【0085】
また、導電性多孔質層上に発生したクラックの占有面積をIMAGE-PRO PLUS((株)プラネトロン製)を使用して、クラック部とそれ以外の部分を二値化することで測定した。導電性多孔質層でのクラックの面積比について表2に示す。
・・・
【0092】
燃料電池の製造
上記で作製した電解質膜-触媒層積層体の片面(カソード側)に、実施例1?5及び比較例1?6の各ガス拡散層を、導電性多孔質層が触媒層に接触するように積層させることにより、電解質膜-電極接合体(MEA)を得、次いで、得られたMEAを燃料電池セルに組み込むことにより、固体高分子形燃料電池(実施例1?5及び比較例1?6のガス拡散層を用いて製造した固体高分子形燃料電池)を製造した。
【0093】
燃料電池の評価試験
<電池性能評価>
上記で作製した実施例1?5及び比較例1?6のMEAを使用し、電池性能評価を以下の条件により行った。
【0094】
セル温度:80℃
加湿温度:カソード65℃、アノード65℃
ガス利用率:カソード40%、アノード70%
ガス透過圧:0.3MPa
セル面積:25cm^(2)
負荷電流を0.05A/cm^(2)?1A/cm^(2)まで変動させた時の1A/cm^(2)のセル電圧値とクラック占有率及び細孔容積値について表2に示した。
【0095】
【表2】




イ 甲第1号証に記載された発明

甲1の【0079】の「導電性多孔質基材にはカーボンペーパー(TGP-H-60:東レ(株)製)を用い、水100重量部に対して、PTFE懸濁液(PTFE懸濁液100重量部は、PTFE60重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル)3重量部及び水37重量から構成)5重量部を混合させたPTFE水分散液に2分間含浸させた後、大気雰囲気中95度で15分程度乾燥させ、次いで大気雰囲気中約300℃で2時間程焼成を行うことにより、撥水処理を施した。」とは、“上記カーボンペーパー(TGP-H-60)を処理対象として、上記PTFE水分散液に2分間含浸させた後、大気雰囲気中95度で15分程度乾燥させ、次いで大気雰囲気中約300℃で2時間程焼成を行うことにより、撥水処理を施した。”ということであると理解でき、更に、上記ア(ア)?(ウ)の記載事項を総合勘案し、特に、実施例1の「ガス拡散層」に着目すると、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。

「水100重量部に対して、PTFE懸濁液(PTFE懸濁液100重量部は、PTFE60重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル)3重量部及び水37重量から構成)5重量部を混合させたPTFE水分散液にカーボンペーパー(TGP-H-60)を2分間含浸させた後、大気雰囲気中95度で15分程度乾燥させ、次いで大気雰囲気中約300℃で2時間程焼成を行うことにより、撥水処理を施した導電性多孔質基材に、
導電性炭素粒子(ファーネスブラック:バルカンxc72R)100重量部、導電性炭素繊維(VGCF:登録商標;標準品)35重量部、分散剤(ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル:エマルゲンA60)25重量部及び水880重量部、エタノール10重量部をスターラー分散で30分分散した後、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン:AD911L)270重量部を加えて、攪拌機(EYELA製MAZELA、攪拌羽の半径:2cm)により周速0.314m/sで30分攪拌させることにより調合した導電性多孔質層形成用ペースト組成物を、
アプリケーター(Sheen Instruments Ltd製、「Micrometer Adjustable Film Applicator、1117/200」)を用いて塗工量が固形分換算で、30g/m^(2)になるように、上記撥水処理済み導電性多孔質基材の一方の面に均一に塗工し、次いで、大気雰囲気中95℃で20分乾燥した後、大気雰囲気中300℃で2時間焼成することにより製造した、
上記導電性多孔質基材表面に、上記導電性炭素粒子と、撥水性樹脂である上記フッ素系樹脂と上記導電性炭素繊維とを含有し、表面のクラック占有面積(IMAGE-PRO PLUS((株)プラネトロン製)を使用して、クラック部とそれ以外の部分を二値化することで測定した、導電性多孔質層でのクラックの面積比)が0.9%である導電性多孔質層が形成された、電解質膜-電極接合体用ガス拡散層。」(以下、「甲1発明」という。)

ウ 甲第2号証(特開2011-76849号公報)の記載事項

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用のマイクロポーラス層付きガス拡散電極、マイクロポーラス層付き触媒層、触媒層付きガス拡散電極、膜-電極接合体及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池を構成する膜-電極接合体(MEA)は、ガス拡散層、触媒層、イオン伝導性固体高分子電解質膜(以下、単に「電解質膜」ということもある)、触媒層及びガス拡散層が順次積層された構造を有している。
【0003】
このうち、ガス拡散層は、セパレータから供給されるガスを触媒層に均一に行き渡らせる役割を果たすため、良好なガス透過性及び拡散性を備えていることが必要とされる。また、触媒層で発生した電子が効率的にセパレータへ輸送されるための導電性を有していることも必要である。このため、ガス拡散層の材質には、カーボンペーパー等の導電性多孔質基材が一般的に使用されている。
【0004】
更にガス拡散層に求められる性能として、撥水性が挙げられる。これは電池反応により触媒層上で水が発生し、この生成水がガス拡散層の細孔を埋めてしまうと、ガス拡散性に悪影響を及ぼすため、水はけを良くし、速やかに水をMEA系外に排出させるためである。また、低加湿条件で運転する際には、固体高分子膜のプロトン導電性を保持するのに十分な水分を確保するためにガス拡散層に保水性が求められる。
【0005】
ところが、カーボンペーパー等の導電性多孔質基材そのものには、一般的に撥水性が備わっていない。そこで、撥水性を付与するために、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂及びカーボンブラックからなる撥水層を導電性多孔質基材に形成させる方法が行われている(特許文献1)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、導電性多孔質基材に、安定した高い撥水性及びガス透過性・拡散性を付与できない欠点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-313359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ガス拡散層の変形が少なく、強度に優れ、電気抵抗を増大させることなく、排水性、保水性、ガス透過性及び拡散性に優れたガス拡散層から形成される膜-電極接合体、並びにこれを製造するためのマイクロポーラス層付きガス拡散電極、マイクロポーラス層付き触媒層及び触媒層付きガス拡散電極を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねてきた。その結果、ガス拡散層基材に、導電性炭素粒子、金属繊維、フッ素系樹脂及び溶剤からなるマイクロポーラス層形成用ペーストを塗工することにより得られたマイクロポーラス層付きガス拡散基材を用いることで、上記課題を解決した膜-電極接合体が得られることを見い出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
・・・
【0011】
1.マイクロポーラス層付きガス拡散電極
本発明の燃料電池用のマイクロポーラス層付きガス拡散電極は、ガス拡散基材の片面上にマイクロポーラス層が形成されている。
【0012】
<ガス拡散基材>
ガス拡散基材としては、導電性を有し、かつ、多孔質のものであれば、特に制限されないが、固体高分子形燃料電池に用いられる観点から、通常はシート状である。例えば、導電性の繊維を用いた炭素紙からなる、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等が挙げられる。
・・・
【0016】
本発明において、マイクロポーラス層は、導電性炭素粒子、金属繊維及びフッ素系樹脂を含有している。」

(イ)「【0028】
なお、金属繊維を含有することにより、ペースト塗布表面でのクラックの発生が抑えられ、且つ導電性、生成した水の排水性を一段と向上させることができる。また、低加湿時には保水性を一段と向上させることもできる。
・・・
【0030】
このようなフッ素系樹脂を含有することにより、マイクロポーラス層に高い撥水性を付与できると共に、導電性炭素粒子等を基材表面により強固に結着できるため、優れた撥水性を長期に亘り維持させることができる。
・・・
【0045】
マイクロポーラス層形成用ペースト組成物には、更に、以下に示す分散剤及び溶剤が含有されているのがよい。
【0046】
分散剤:
分散剤としては、例えば、水系分散剤等が好ましい。
【0047】
水系分散剤は、導電性炭素粒子及び水とともに使用されるものであり、導電性炭素粒子を水中で分散させることができる限り限定されず、公知又は市販のものが使用できる。例えば、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、酸性基含有構造変性ポリアクリレート等が挙げられる。
・・・
【0054】
マイクロポーラス層を形成させる際の乾燥温度は、特に限定的ではなく、例えば、大気中にて、90?200℃程度、好ましくは120?180℃程度に加熱することにより行えばよい。」

(ウ)「【0096】
<材料>
導電性炭素粒子:ファーネスブラック(バルカンXC72R:キャボット社製)、重量平均分子量1000?3000
金属繊維:ステンレススチールファイバー(X-SMF530AE-EP、JFEテクノリサーチ(株)製)、平均繊維径10?15μm、平均繊維長50?500μm、平均アスペクト比3.3?50、アスペクト比30以下のものの割合は全体の80重量%、嵩密度0.95?1.15
導電性炭素繊維:VGCF(登録商標)(標準品)(昭和電工(株)製)、平均繊維径150nm、平均繊維長10?20μm、平均アスペクト比10?500
分散剤:ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル(エマルゲンMS110:花王(株)製)
フッ素系樹脂:ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(ルブロンLDW-410:固形分40重量%:ダイキン工業(株)製)
白金触媒担持炭素粒子:(TEC10E50E:田中貴金属工業(株)製)
イオン伝導性高分子電解質溶液:Nafion5wt%溶液(DE-520CS:デュポン社製)
【0097】
実施例1
導電性炭素粒子50重量部、金属繊維3.75重量部、フッ素系樹脂25重量部、分散剤5重量部及び水250重量部をホモジナイザにて60分攪拌し、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物を調製した。
【0098】
次に、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物を、撥水処理されたカーボンペーパー(SGLカーボン社製、35BA、300μm)にアプリケーターにより、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物の乾燥後の塗工量が50g/m^(2)となるように塗布し、150℃程度で15分乾燥させ、マイクロポーラス層付きガス拡散電極を得た。
・・・

【0117】
更に、実施例1、3、4及び比較例2のマイクロポーラス層付きガス拡散電極について、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製)を用い、倍率50倍での表面観察を行った。
【0118】
結果を図3に示す。
【0119】
比較例1の膜-電極接合体は、マイクロポーラス層が無いため、排水性及び保湿性に乏しく、電池性能が悪い結果となった。比較例2の膜-電極接合体は、カーボン層を形成することで比較例1の膜-電極接合体と比較して電池性能向上が見られるが、排水性が不十分な結果となった。
【0120】
また、比較例1?2の膜-電極接合体に比べ実施例1?5の膜-電極接合体では、総じて高い電池性能が得られた。マイクロスコープの写真からも金属繊維を添加することでクラックの減少が観察された。このように、実施例1?5では、クラックが抑制されることで保水性が高まり、低加湿運転での性能が良好になったと考えられる。また、実施例4のように金属繊維よりも分散性に優れる導電性繊維を金属繊維に混合させることで、保水性及び排水性に優れたマイクロポーラス層を形成できることを見出した。」

(エ)「【図3】




エ 甲第2号証に記載された発明

甲2の【0117】の「実施例1、3、4及び比較例2のマイクロポーラス層付きガス拡散電極について、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製)を用い、倍率50倍での表面観察を行った。」との記載、及び、【0118】の「結果を図3に示す」との記載から、図3は、いずれも上記マイクロポーラス層の表面を観察したものであるといえる。そして、【0120】の「マイクロスコープの写真からも金属繊維を添加することでクラックの減少が観察された。このように、実施例1?5では、クラックが抑制されることで保水性が高まり、低加湿運転での性能が良好になったと考えられる。」との記載と、図3の写真から、実施例1、3、4のマイクロポーラス層はその表面にクラックを有していることが確認できる。したがって、上記ウ(ア)?(エ)の記載事項を総合勘案し、特に、実施例1の「マイクロポーラス層付きガス拡散電極」に着目すると、甲第2号証には、次の発明が記載されていると認められる。

「導電性炭素粒子(ファーネスブラック:バルカンXC72R)50重量部、金属繊維(ステンレススチールファイバー:X-SMF530AE-EP)3.75重量部、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン:ルブロンLDW-410)25重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル:エマルゲンMS110)5重量部及び水250重量部をホモジナイザにて60分攪拌し、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物を調製し、
次に、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物を、撥水処理されたカーボンペーパー(SGLカーボン社製、35BA、300μm)からなる多孔質なガス拡散基材にアプリケーターにより、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物の乾燥後の塗工量が50g/m^(2)となるように塗布し、150℃程度で15分乾燥させることにより得た、燃料電池用ガス拡散電極であって、
前記カーボンペーパーからなる多孔質なガス拡散基材の片面上に、前記導電性炭素粒子、前記金属繊維及び撥水性を付与できる前記フッ素系樹脂を含有し、表面にクラックを有するマイクロポーラス層付き燃料電池用ガス拡散電極。」(以下、「甲2発明」という。)

オ 甲第3号証(特開2014-63730号公報)の記載事項

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池に用いられる多孔質炭素電極、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、水素等の燃料ガスと酸素等の酸化ガスを電気化学的に反応させることにより起電力を得る装置であり、前記固体高分子型燃料電池には、水素イオン(プロトン)を選択的に伝導する高分子電解質膜を有する。また、高分子電解質膜の両面には、内側から貴金属系触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層及びガス拡散電極基材とを有する2組のガス拡散電極が接合されている。
【0003】
このような高分子電解質膜と2組のガス拡散電極からなる接合体は膜-電極接合体(MEA: Membrane Electrode Assembly)と呼ばれている。また、MEAの両外側には、燃料ガスまたは酸化ガスを供給し、かつ生成ガスおよび過剰ガスを排出することを目的とするガス流路を形成したセパレーターが設置されている。
【0004】
ガス拡散電極基材は、主に次の3つの機能が要求される。第一の機能は、その外側に配置されたセパレーターに形成されたガス流路から触媒層中の貴金属系触媒に均一に燃料ガスまたは酸化ガスを供給する機能である。第2の機能は、触媒層での反応により生成した水を排出する機能である。第3の機能は、触媒層での反応に必要な電子または触媒層での反応により生成される電子をセパレーターへ導電する機能である。これらの機能を充足する基材としては、通常、炭素質材料からなる多孔質構造を有する基材が使用される。具体的には、カーボンペーパー、炭素繊維クロス、炭素繊維フェルト等の炭素繊維を用いた基材が一般的に用いられる。これらの基材は炭素繊維によって高い導電性を示すだけでなく、多孔質材料であるため、燃料ガスおよび生成水などの液体の透過性が高いためガス拡散層に好適な材料である。
【0005】
以上に挙げたカーボンペーパーやカーボンクロスなどの多孔質炭素電極基材と電極触媒層との接触抵抗を下げ、発電時に発生する生成水を効率よく排出することを目的として、カーボン微粒子や撥水剤からなるコーティング層を多孔質炭素電極基材と電極触媒層との間に設けることがある。また、排水性の観点からガス拡散電極基材自体の撥水性を高める処理がなされることが一般的であり、その方法としてはガス拡散電極基材にフッ素系化合物の溶液を含浸後・乾燥させた後焼結させる方法がある。また、ガス拡散層基材の撥水処理をする際に乾燥処理まで行った後に微多孔質層となるインクを塗工して乾燥することでガス拡散電極基材の撥水処理における焼結工程を省く製造方法が開示されている。しかしながら旧来の方法においてはガス拡散電極基材自体の撥水性は高くすることが可能であるが、撥水剤の取扱い性が良くないために製造工程が煩雑となるだけでなく、過剰の撥水剤にコーティングされてしまうことによってガス拡散電極の電気抵抗が高くなりすぎてしまい、高電流密度域において運転が困難となる傾向にあった。また、ガス拡散電極基材に撥水性が均一に付与されているため、電池内部に液体水が存在する相対湿度が100%を超える運転条件下では排水性が悪化する傾向にありフラッディングを防ぐことが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3382213号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような問題点を克服し、簡便な製造方法でありながらも、面直方向における電気抵抗が低く、排水性の良い固体高分子型燃料電池用の多孔質炭素電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
具体的には、前記課題は以下の発明(1)?(7)によって解決される。【0009】
(1) 多孔質炭素電極基材の一方の面上に、カーボン粉と撥水剤からなるコーティング層が形成された多孔質炭素電極であって、嵩密度が0.30?0.65g/cm^(3)、面直方法の透気度が50?300ml/hr・cm^(2)・mmAq、かつ、面圧0.5MPaを付与した際の面直方向における電気抵抗が0.45?0.60Ω・cmである多孔質炭素電極。」

(イ)「【0029】
乾燥させる際の雰囲気温度としては、乾燥速度および塗工膜の凝集によるクラック発生を防ぐため、50?200℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは70?150℃である。」
・・・
【0042】
以下、炭素短繊維を用いた場合の多孔質炭素電極基材の製造方法の一例について詳細に述べる。多孔質炭素電極基材は以下の手順(1)?(4)を経て製造される。
【0043】
手順(1):炭素短繊維(A)と炭素繊維前駆体短繊維(b)および/またはフィブリル状繊維(b´)を分散させた抄紙体を製造する工程
<炭素短繊維(A)> 炭素短繊維(A)としては、その原料によらず用いることができるが、ポリアクリロニトリル(以後PANと略す。)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維から選ばれる1つ以上の炭素繊維を含むことが好ましく、PAN系炭素繊維あるいはピッチ系炭素繊維を含むことがより好ましい。炭素短繊維(A)の平均直径は、ガス拡散層としての表面平滑性と導電性の観点から、3?30μm程度が好ましく、4?20μmがより好ましく、4?8μmがさらに好ましい。炭素短繊維(A)の長さは、抄紙時の分散性とガス拡散層としての機械的強度の観点から、2?12mmが好ましく、3?9mmがさらに好ましい。」

(ウ)「【0096】
<実施例1>
(多孔質炭素電極基材)
多孔質炭素電極基材は、市販のカーボンペーパーやカーボンクロスなどを用いることが出来るが、本発明では平滑な多孔質炭素電極基材を得るべく、多孔質炭素電極基材から製造を行った。
【0097】
炭素短繊維(A)として、平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのPAN系炭素繊維を用意した。また、炭素繊維前駆体短繊維(b)として、平均繊維径が4μm、平均繊維長が3mmのアクリル短繊維(三菱レイヨン(株)製、商品名:D122)、フィブリル状繊維(b´)として、叩解によってフィブリル化するアクリル系ポリマーとジアセテート(酢酸セルロース)とからなる易割繊性アクリル系海島複合短繊維(三菱レイヨン(株)製、商品名:ボンネルM.V.P.-C651、平均繊維長:3mm)を用意した。
【0098】
以下の<1>?<10>の操作によって多孔質炭素電極を製造した。
【0099】
<1> 炭素短繊維(A)の離解
炭素短繊維(A)を、繊維濃度が1%(10g/L)になるように水中へ分散して、ミキサーを通して離解処理し、離解スラリー繊維(SA)とした。
【0100】
<2> 炭素繊維前駆体短繊維(b)の離解
炭素繊維前駆体短繊維(b)を、繊維濃度が1%(10g/L)になるように水中へ分散して、ミキサーを通して離解処理し、離解スラリー繊維(Sb)とした。
【0101】
<3> フィブリル状繊維(b´)の離解
前記易割繊性アクリル系海島複合短繊維を、繊維濃度が1%(10g/L)になるように水中へ分散させミキサーを通して叩解・離解処理し、離解スラリー繊維(Sb´)とした。
【0102】
<4> 抄紙体の製造
炭素短繊維(A)と炭素繊維前駆体短繊維(b)およびフィブリル状繊維(b´)とが、質量比70:10:20で、かつスラリー中の繊維の濃度が、1.44g/Lとなるように離解スラリー繊維(SA)、離解スラリー繊維(Sb)、離解スラリー繊維(Sb´)、希釈水を計量し、分散させた。抄紙には、ネット駆動部及び幅60cm×長さ585cmのプラスチックネット製平織メッシュをベルト状につなぎあわせて連続的に回転させるネットよりなるシート状物搬送装置、スラリー供給部幅が48cm、ネット下部に配置した減圧脱水装置からなる処理装置を用いた。処理装置の下流に下記の3本のウォータージェットノズルを備えた加圧水流噴射処理装置を配置した。
【0103】
ノズル1:孔径φ0.15mm×501孔
幅方向孔間ピッチ1mm(1001孔/幅1m)
1列配置、ノズル有効幅500mm
ノズル2:孔径φ0.15mm×501孔
幅方向孔間ピッチ1mm(1001孔/幅1m)
1列配置、ノズル有効幅500mm
ノズル3:孔径φ0.15mm×1002孔
幅方向孔間ピッチ1.5mm
3列配置、列間ピッチ5mm、ノズル有効幅500mm
加圧水流噴射圧力を1MPaノズル1、圧力2MPa(ノズル2)、圧力1MPa(ノズル3)として、繊維の分散したスラリーをスラリー供給部より投入し、減圧脱水を経た後、ノズル1、ノズル2、ノズル3の順で通過させて交絡処理を加え3次元交絡構造を持つ抄紙体を得た。抄紙体を、ピンテンター試験機(辻井染機工業(株)製PT-2A-400)により150℃で3分間、乾燥させて抄紙体を得た。なお、抄紙体における炭素短繊維(A)および炭素繊維前駆体短繊維(b)、フィブリル状繊維(b´)の分散状態は、良好でさらにハンドリング性は良好であった。
【0104】
<5> 樹脂含浸・乾燥
得られた抄紙体にフェノール樹脂ディスパージョンを含浸させ、熱風乾燥機を用いて雰囲気温度100℃にて乾燥させた。
【0105】
<6> 加圧加熱成形
次に、この抄紙体の両面を、シリコーン系離型剤をコートした紙で挟み込むように配置し、ダブルベルトプレス装置にて190℃、ベルト速度0.2m/分にてプレス成形を行った。
【0106】
<7> 炭素化処理
その後、この前駆体シートをバッチ炭素化炉にて、窒素ガス雰囲気中、2000℃の条件下で1時間炭素化処理して多孔質炭素電極基材を得た。得られた多孔質炭素電極基材は反りやうねりが生じておらず平滑であった。
【0107】
<8> コーティング液1の調製
デンカブラック(電気化学工業株式会社製)、イオン交換水、イソプロピルアルコールをそれぞれ5:100:80の割合で混合し、ホモミクサーMARK-II(プライミクス株式会社製)を用いて、冷却しながら15000rpmで30分間撹拌を行って、コーティング液1を得た。
【0108】
<9> コーティング液2の調製
コーティング液を冷却し、液温を10℃以下にした後、冷却しながらポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンをカーボンブラック1に対し、0.3の割合で添加しディスパーによって500rpmで5分間の撹拌を行い、コーティング液2を得た。
【0109】
<10> コーティング層の形成
次に、アプリケーター(テスター産業製)を用いてコーティング液2を多孔質炭素電極基材上に塗工し、ついで100℃に設定した熱風乾燥機を用いて20分間乾燥させた。さらに、乾燥後マッフル炉にて360℃1時間焼結処理をおこなってコーティング層を形成した多孔質炭素電極を得た。得られた多孔質炭素電極の嵩密度は0.30g/cm^(3)、貫通抵抗は0.576Ω・cm、透気度は121.2ml/hr・cm^(2)・mmAqであり、良好であった。固体高分子型燃料電池の正極および負極に多孔質電極基材を組み込んで発電性能を評価したところ、良好な発電性能を示したため、本発明の多孔質炭素電極の排水性は良好であった。表1に結果をまとめた。また、図1のように多孔質炭素電極の表面は均一であった。」
(当審注;上記【0108】の下線部の「コーティング液」は、誤記であって、正しくは「コーティング液1」であることは自明である。)

カ 甲第3号証に記載された発明

そこで、上記オ(ア)?(ウ)の記載事項を総合勘案し、特に、実施例1の「多孔質炭素電極」に着目すると、甲第3号証には、次の発明が記載されていると認められる。

「下記<炭素短繊維(A)等の用意>及び下記<1>?<10>の操作によって製造された、
多孔質炭素電極基材の一方の面上に、カーボン粉と撥水剤からなるコーティング層が形成された多孔質炭素電極であって、
嵩密度が0.30g/cm^(3)、貫通抵抗が0.576Ω・cm、透気度が121.2ml/hr・cm^(2)・mmAqである多孔質炭素電極。

<炭素短繊維(A)等の用意>
炭素短繊維(A)として、平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのPAN系炭素繊維を用意した。また、炭素繊維前駆体短繊維(b)として、平均繊維径が4μm、平均繊維長が3mmのアクリル短繊維(三菱レイヨン(株)製、商品名:D122)、フィブリル状繊維(b´)として、叩解によってフィブリル化するアクリル系ポリマーとジアセテート(酢酸セルロース)とからなる易割繊性アクリル系海島複合短繊維(三菱レイヨン(株)製、商品名:ボンネルM.V.P.-C651、平均繊維長:3mm)を用意した。
<1>炭素短繊維(A)の離解
炭素短繊維(A)を、繊維濃度が1%(10g/L)になるように水中へ分散して、ミキサーを通して離解処理し、離解スラリー繊維(SA)とした。
<2> 炭素繊維前駆体短繊維(b)の離解
炭素繊維前駆体短繊維(b)を、繊維濃度が1%(10g/L)になるように水中へ分散して、ミキサーを通して離解処理し、離解スラリー繊維(Sb)とした。
<3> フィブリル状繊維(b´)の離解
前記易割繊性アクリル系海島複合短繊維を、繊維濃度が1%(10g/L)になるように水中へ分散させミキサーを通して叩解・離解処理し、離解スラリー繊維(Sb´)とした。
<4> 抄紙体の製造
炭素短繊維(A)と炭素繊維前駆体短繊維(b)およびフィブリル状繊維(b´)とが、質量比70:10:20で、かつスラリー中の繊維の濃度が、1.44g/Lとなるように離解スラリー繊維(SA)、離解スラリー繊維(Sb)、離解スラリー繊維(Sb´)、希釈水を計量し、分散させた。抄紙には、ネット駆動部及び幅60cm×長さ585cmのプラスチックネット製平織メッシュをベルト状につなぎあわせて連続的に回転させるネットよりなるシート状物搬送装置、スラリー供給部幅が48cm、ネット下部に配置した減圧脱水装置からなる処理装置を用いた。処理装置の下流に下記の3本のウォータージェットノズルを備えた加圧水流噴射処理装置を配置した。
ノズル1:孔径φ0.15mm×501孔
幅方向孔間ピッチ1mm(1001孔/幅1m)
1列配置、ノズル有効幅500mm
ノズル2:孔径φ0.15mm×501孔
幅方向孔間ピッチ1mm(1001孔/幅1m)
1列配置、ノズル有効幅500mm
ノズル3:孔径φ0.15mm×1002孔
幅方向孔間ピッチ1.5mm
3列配置、列間ピッチ5mm、ノズル有効幅500mm
加圧水流噴射圧力を1MPaノズル1、圧力2MPa(ノズル2)、圧力1MPa(ノズル3)として、繊維の分散したスラリーをスラリー供給部より投入し、減圧脱水を経た後、ノズル1、ノズル2、ノズル3の順で通過させて交絡処理を加え3次元交絡構造を持つ抄紙体を得た。抄紙体を、ピンテンター試験機(辻井染機工業(株)製PT-2A-400)により150℃で3分間、乾燥させて抄紙体を得た。
<5> 樹脂含浸・乾燥
得られた抄紙体にフェノール樹脂ディスパージョンを含浸させ、熱風乾燥機を用いて雰囲気温度100℃にて乾燥させた。
<6> 加圧加熱成形
次に、この抄紙体の両面を、シリコーン系離型剤をコートした紙で挟み込むように配置し、ダブルベルトプレス装置にて190℃、ベルト速度0.2m/分にてプレス成形を行った。
<7> 炭素化処理
その後、この前駆体シートをバッチ炭素化炉にて、窒素ガス雰囲気中、2000℃の条件下で1時間炭素化処理して多孔質炭素電極基材を得た。
<8> コーティング液1の調製
デンカブラック(電気化学工業株式会社製)、イオン交換水、イソプロピルアルコールをそれぞれ5:100:80の割合で混合し、ホモミクサーMARK-II(プライミクス株式会社製)を用いて、冷却しながら15000rpmで30分間撹拌を行って、コーティング液1を得た。
<9> コーティング液2の調製
コーティング液1を冷却し、液温を10℃以下にした後、冷却しながらポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンをカーボンブラック1に対し、0.3の割合で添加しディスパーによって500rpmで5分間の撹拌を行い、コーティング液2を得た。
<10> コーティング層の形成
次に、アプリケーター(テスター産業製)を用いてコーティング液2を多孔質炭素電極基材上に塗工し、ついで100℃に設定した熱風乾燥機を用いて20分間乾燥させた。さらに、乾燥後マッフル炉にて360℃1時間焼結処理をおこなってコーティング層を形成した。」(以下、「甲3発明」という。)

キ 甲第4号証(特開2006-143478号公報)の記載事項

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、特に固体高分子型燃料電池のガス拡散体を構成するのに好適な多孔質炭素基材、該基材を用いてなるガス拡散体、膜-電極接合体等の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池(以下、単に「燃料電池」という場合がある。)のガス拡散体には、導電性が高いこと、集電能に優れていること、電極反応に寄与する物質の拡散が良好であること、といった本来的な機能はもちろんのこと、ハンドリングに耐える機械的強度を有していることが要求される。
・・・
【0007】
本発明の目的は、従来の技術の上述した問題点を解決し、撥水処理を施しても高い導電性を維持し、ロール化が容易な、燃料電池のガス拡散体を構成するのに好適な多孔質炭素基材を提供するにある。」

(イ)「【0015】
本発明の多孔質炭素基材は、撥水性物質を含むことによりガス拡散体とすることができる。上記ガス拡散体の少なくとも片面に、導電性を有するガス拡散層を形成するのも好ましい。また、本発明の多孔質炭素基材に撥水性物質を含ませず、該基材の少なくとも片面に上記ガス拡散層を形成してガス拡散体とすることもできる。
【0016】
両面に触媒層を有する固体高分子電解質膜の少なくとも片面に、本発明に係るガス拡散体を接合することによって膜-電極接合体とすることができる。さらに、その膜-電極接合体の両側にガスケットを介してセパレータで挟んだものを複数個積層することによって固体高分子型燃料電池を構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、実質的に二次元平面内において無作為な方向に分散せしめられた炭素短繊維が樹脂炭化物で結着されている多孔質炭素基材であって、該多孔質炭素基材に形成される細孔のうち細孔径が10μm以下の細孔の容積が0.05?0.16cc/gであることを特徴とする多孔質炭素基材を提供するものであり、以下に説明する実施例と比較例との対比からも明らかなように、撥水処理を施しても高い導電性を維持し、柔軟性を有する。そのため、燃料電池のガス拡散体を構成するのに好適である。また、高い柔軟性を有するため連続生産が可能であり生産性が高く、生産コストを低減できる。
・・・
【0020】
本発明に係る多孔質炭素基材1は、該基材1に形成される細孔のうち細孔径が10μm以下の細孔の容積が0.05?0.16cc/gである。細孔径が10μm以下の細孔は、図2に示す炭素短繊維2と樹脂炭化物3の結着面での剥離部分5や、樹脂炭化物3のひび割れ部分6に起因するものと考えられる。一例として、後述する実施例1を水銀圧入法により細孔径分布測定を行った結果を図3に示す。縦軸が細孔径、横軸が細孔容積であり、小さい細孔径から大きい細孔径への積算した細孔容積を表している。剥離部分5やひび割れ部分6が多くなると、細孔径が10μm以下の細孔容積が大きくなる。細孔径が10μm以下の細孔の容積が0.16cc/g以下であると、基材1をフッ素樹脂等による撥水処理を施したときの大幅な導電性低下を抑制することができ、0.05cc/g以上であると、炭素短繊維2と樹脂炭化物3の結着部分が減少するため基材1の柔軟性が向上し、ロール化が容易となる。細孔径が10μm以下の細孔の容積のより好ましい範囲は0.06?0.15cc/gであり、さらに好ましい範囲は0.07?0.14cc/gである。ロール化が容易な多孔質炭素基材1は、連続生産が可能でありバッチ式の生産と比べて大幅に生産性が向上し、コストダウンが図れる。
【0021】
多孔質炭素基材1の厚みは、0.10?0.25mmの範囲内にあるのが好ましい。基材1の厚みは、せん断力が作用したときの割れや柔軟性に関係する。厚みが0.10mm未満では、ガス拡散体を構成し、燃料電池を構成したとき、セパレータからせん断力を受けたときに容易に割れてしまう。また、0.25mmを超えるようなものは、柔軟性が大きく低下し、ロール状への巻き取りが難しくなる。より好ましい厚みの範囲は0.11?0.22mmであり、さらに好ましい範囲は0.12?0.16mmである。」

ク 甲第6号証(米国特許出願公開第2005/0260909号明細書)の記載事項

(ア)「[0024] A roll core 11 is a paper pipe made from a paper, and its inner diameter is usually 1 (2.54 cm) to 10 inch (25.4 cm), preferably 2 (5.08 cm) to 5 inch (12.7 cm) although it is not limited particularly. The thickness is 1 to 10 mm, preferably 3 to 5 mm. An inner diameter less than 1 inch results in a difficulty in rolling the carbonic fiber woven fabric 12, and may cause the carbonic fiber woven fabric 12 to curl near the core. The length of the roll core 11 (longitudinal length) is equal of the carbonic fiber woven fabric 12 or longer.」

(当審訳:[0024] ロール芯11は、紙から作られた紙パイプであり、特に限定されるものではないが、その内径は、通常1(2.54cm)から10インチ(25.4cm)、好ましくは2(5.08cm)?5インチ(12.7cm)である。その厚みは1?10mm、好ましくは3?5mmである。内径が1インチ未満であると、炭酸繊維織布12を巻くことが困難であり、芯近傍の炭酸繊維織布12のカールが生じることがある。ロール芯11の長さ(長手方向の長さ)は、炭酸繊維織布12の長さ以上である。)

(イ)「[0060] A carbonic fiber woven fabric 12 can be used preferably as a gas diffusion layer material for a solid polymer fuel cell when being subjected to a sizing treatment. As used herein, a sizing treatment means a treatment in which a carbonic fiber woven fabric 12 is coated with a paste-like fluid/ink-like fluid comprising a fluorine resin such as a polytetrafluoroethylene and a carbon black, dried, heated and then hot-pressed.」

(当審訳:[0060] 炭酸繊維織布12は、サイジング処理を行い、固体高分子型燃料電池用ガス拡散層材料として好適に用いることができる。ここでいうサイジング処理とは、炭酸繊維織布12に、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂とカ-ボンブラックを含むペースト状の流体/インク状の流体を塗布し、乾燥後、加熱した後、熱プレスする処理の意味である。)

ケ 甲第7号証(SIGRACET^((R)) GDL 10 Series Gas Diffusion Layer(SGL社カタログ))の記載事項

(ア)「SIGRACET Gas Diffusion Layers (GDLs) are “graphitized” carbon fiber-based nonwovens, either papers or felts, specifically designed to transport reactant gases into and excess liquid product water out of the electrocatalyst layers of Proton Exchange Membrane (PEM) fuel cells.」(第1頁左上欄第1?6行)

(当審訳:SIGRACETガス拡散層(GDLs)は、紙またはフェルトの“黒鉛化”炭素繊維ベースの不織布であり、プロトン交換膜(PEM)燃料電池の電極触媒層に反応ガスを供給し、余分な液体生成水を排出するように特別に設計されています。)

(イ)「We supply SIGRACET Gas Diffusion Layers in roll form in lengths of 75+/-25 m.」(第2頁第2行)

(当審訳:我々は、SIGRACETガス拡散層を75+/-25mの長さのロール状で提供している。)

(2)本件発明1?8と甲1発明との対比と判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「導電性多孔質基材」は、「カーボンペーパー」を「撥水処理」したものであり、また、上記(1)ア(ウ)に摘記したとおり、電解質膜-触媒層積層体の片面(カソード側)に、甲1発明の「電解質膜-電極接合体用ガス拡散層」を、「導電性多孔質層」が触媒層に接触するように積層させることにより、電解質膜-電極接合体(MEA)を得るものであるから(【0092】)、「炭素電極」基材であることは明らかであり、本件発明1における「多孔質炭素電極基材」に相当する。

(イ)甲1発明における「導電性炭素粒子」、「撥水性樹脂である上記フッ素系樹脂」は、それぞれ、本件発明1における「カーボン粒子」、「撥水剤」に相当する。

(ウ)甲1発明における上記「導電性多孔質層」と、本件発明1における上記「コーティング層」とは、いずれも、その表面にクラックを有するものであるから、“カーボン粒子及び撥水剤を含有し、表面にクラックを有するコーティング層”である点で共通する。

(エ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致する。

[一致点]
多孔質炭素電極基材の少なくとも一方の面上に、カーボン粒子と撥水剤を含有し、表面にクラックを有するコーティング層を設けたガス拡散層である点。

(オ)一方で、本件発明1と甲1発明とは、次の点で相違する。

[相違点1]
「コーティング層」が、本件発明1では「長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」のに対して、甲1発明では、クラックの長さ、幅及び1m^(2)あたりの個数が、いずれも、どのような数値であるか不明な点。

[相違点2]
「コーティング層」について、本件発明1では「カーボン粒子と撥水剤からなり」と特定されているのに対して、甲1発明では、「カーボン粒子」と「撥水剤」を含有しつつも、更に、「導電性炭素繊維」を含有しており、また、「分散剤(導電性多孔質層形成用ペースト組成物に含まれていた成分)」が焼成を経て、全て熱分解しているか否か不明であり、「分散剤」の残渣や熱分解物を含有しているか否か不明である点。

(当審注;本件発明1の上記「コーティング層」との用語の解釈にあたっては、上記第2 2ウに摘記した本件明細書の発明の詳細な説明の「本発明においてはコーティング層組成物の多孔質炭素電極基材へのしみこみが生じていない部分、すなわちカーボン粉と撥水剤のみから構成される層のみをコーティング層と定義する。」(【0086】)との定義を参酌して、本件発明1の上記「カーボン粒子と撥水剤からなり」という特定は、カーボン粒子と撥水剤のみからなることを意味すると認定した。以下同様。)

(カ)上記[相違点1]について検討すると、甲1発明においては、「クラック占有面積」が「0.9%」であるが、上記「クラック占有面積」の数値から、表面のクラックの長さ、幅、1m^(2)あたりの個数を算出し特定することはできない。そこで、以下のとおり、両発明の製造方法の異同に着目して、更に検討する。
a 主に同一性の観点からの検討(両発明の製造方法の異同)
(a)仮に、甲1発明の具体的な製造方法(基材、コーティング液、製造工程)が、本件発明と同じであれば、その結果、甲1発明のコーティング層表面に形成されたクラックは、本件発明と同じ長さ、幅及び1m^(2)あたりの個数であると推認することができるといえる余地がある。

(b)そこで、まず、本件発明の具体的な製造方法として、本件明細書の発明の詳細な説明に記載の実施例1の製造方法を認定し、両発明の(c)基材の異同、(d)コーティング液の異同、及び、(e)コーティング層の形成工程の異同について、それぞれ確認し、上記推認が成り立つか否かを以下に検討する。

(c)両発明の基材の異同
(c-1)本件発明におけるコーティング液による処理の対象となる基材は、上記第2 2オに摘記したとおり(【0098】?【0110】、【0113】?【0114】)、炭素繊維(A)として、平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのPAN系炭素繊維を用意し、また、炭素繊維前駆体繊維(b)として、平均繊維径が4μm、平均繊維長が3mmのアクリル繊維(三菱レイヨン(株)製、商品名:D122)、フィブリル状繊維(b´)として、叩解によってフィブリル化するアクリル系ポリマーとジアセテート(酢酸セルロース)とからなる易割繊性アクリル系海島複合繊維(三菱レイヨン(株)製、商品名:ボンネルM.V.P.-C651、平均繊維長:3mm)を用意し、上記第2 2オのとおりに、上記<1>の炭素繊維(A)の離解、上記<2>の炭素繊維前駆体繊維(b)の離解、上記<3>のフィブリル状繊維(b´)の離解、上記<4>の抄紙体の製造、上記<5>の樹脂含浸・乾燥、上記<6>の加圧加熱成形、上記<7>の炭素化処理、並びに、上記<10>?<11>の多孔質炭素電極基材用の撥水処理液の作成及び撥水処理を、順次行うことによって得られた、多孔質炭素電極基材である。

(c-2)その一方で、甲1発明におけるコーティング液による処理の対象となる基材は、上記(1)イのとおり、「水100重量部に対して、PTFE懸濁液(PTFE懸濁液100重量部は、PTFE60重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル)3重量部及び水37重量から構成)5重量部を混合させたPTFE水分散液に、カーボンペーパー(TGP-H-60)を2分間含浸させた後、大気雰囲気中95度で15分程度乾燥させ、次いで大気雰囲気中約300℃で2時間程焼成を行うことにより、撥水処理を施した導電性多孔質基材」である。

(c-3)よって、両発明の基材は、材質及び製法がいずれも異なり、同じであるとはいえない。

(d)両発明のコーティング液の異同
(d-1)本件発明におけるコーティング液は、上記第2 2オに摘記したとおり(【0111】?【0112】)、デンカブラック(電気化学工業株式会社製)、イオン交換水、イソプロピルアルコールをそれぞれ5:100:80の割合で混合し、ホモミクサーMARK-II(プライミクス株式会社製)を用いて、冷却しながら15000rpmで30分間撹拌を行ってコーティング液1を得、上記コーティング液1に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンをカーボンブラック1に対し、0.3の割合で添加しディスパーによって500rpmで5分間の撹拌を行い得たコーティング液2である。

(d-2)その一方で、甲1発明におけるコーティング液は、上記(1)イのとおり、導電性炭素粒子(ファーネスブラック:バルカンxc72R)100重量部、導電性炭素繊維(VGCF:登録商標;標準品)35重量部、分散剤(ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル:エマルゲンA60)25重量部及び水880重量部、エタノール10重量部をスターラー分散で30分分散した後、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン:AD911L)270重量部を加えて、攪拌機(EYELA製MAZELA、攪拌羽の半径:2cm)により周速0.314m/sで30分攪拌させることにより調合した導電性多孔質層形成用ペースト組成物である。

(d-3)よって、両発明のコーティング液は、溶質、溶媒及び撹拌条件がいずれも異なり、同じであるとはいえない。

(e)両発明のコーティング層の形成工程の異同
(e-1)本件発明においては、上記第2 2オに摘記したとおり(【0115】)、上記基材上に、上記コーティング液2を目標厚み10μmで塗工し、ついで150℃に設定した熱風乾燥炉を用いて20分間乾燥させ、さらに、乾燥後焼結炉にて360℃1時間焼結処理をおこなってコーティング層を形成している。

(e-2)その一方で、甲1発明においては、上記(1)イのとおり、上記導電性多孔質層形成用ペースト組成物を、アプリケーター(Sheen Instruments Ltd製、「Micrometer Adjustable Film Applicator、1117/200」)を用いて塗工量が固形分換算で、30g/m^(2)になるように、上記撥水処理済み導電性多孔質基材の一方の面に均一に塗工し、次いで、大気雰囲気中95℃で20分乾燥した後、大気雰囲気中300℃で2時間焼成することにより製造している。

(e-3)よって、両発明のコーティング層の形成工程は異なっており(特に、乾燥温度)、同じであるとはいえない。

(e-4)ここで、本件発明については、上記第2 2ウに摘記したとおり(【0038】)、「乾燥させる際の雰囲気温度としては、塗工膜に意図的にクラック発生させるため、150℃?300℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは200?300℃である。乾燥温度が150℃よりも小さいと、急激な溶媒の蒸発が生じず、クラックを発生させることができない、また、乾燥温度が300℃よりも大きくなると、溶媒の蒸発速度が速すぎるため、大きなクラックが塗膜に生じてしまい、塗工膜の強度が低下してしまう。」とされており、上記乾燥温度は、クラックの発生や大きさに関わる重要な製造条件の一つであるといえる。

(e-5)上記乾燥温度に関して、甲1発明の上記「大気雰囲気中95℃で20分乾燥」は、本件発明における上記「150℃?300℃の範囲」からも外れている。

(f)上記(c)?(e)から、甲1発明の具体的な製造方法は、本件発明の上記実施例1の製造方法と異なっており、甲1発明の上記クラックは、本件発明と同じ長さ、幅及び1m^(2)あたりの個数であると推認することができない。

(g)また、上記「長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有するコーティング層」が、本件発明の上記実施例1の製造方法のみならず、それに類似する製造方法によっても製造される可能性があるとしても、上記(e-4)?(e-5)のとおり、少なくとも、上記乾燥温度に関して、甲1発明の上記「大気雰囲気中95℃で20分乾燥」は、本件発明における上記「150℃?300℃の範囲」から外れており、甲1発明の上記クラックが、「長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」と推認することができない。

b 小括
上記[相違点1]について、上記aのとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。

c 進歩性の観点からの検討
(a)上記[相違点1]について、甲1?4、6?7に記載された事項及び周知技術を考慮することにより、当業者が容易に想到し得たか否かについて以下に検討する。

(b)まず、両発明の技術思想の異同について確認する。

(c)本件発明は、上記第2 2ア?イに摘記したとおり、意図的にコーティング層に微細なクラックを設けることで巻き取り前後においてコーティング層の構造に変化が生じない、ロール状に巻き取り可能なガス拡散層を提供することを課題とし、前記課題を、「多孔質炭素電極基材の少なくとも一方の面上に、カーボン粉と撥水剤からなり、表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有するコーティング層を設けたガス拡散層」を採用することで解決しようとするものである。

(d)また、上記クラックに関し、上記第2 2ウに摘記したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明に、「クラックの長さとしては、0.001?1mmが好ましく、0.001?0.05mmであることがさらに好ましい。クラックが0.001mmより小さいとクラックによるコーティング層の屈曲性が発現せず、また1mmより大きいとコーティング層の排水性低下が著しくなる。クラックの幅については、幅0.05?10μmの範囲内にあることが好ましい。0.05μmより小さいと、クラックによるコーティング層の屈曲性が発現せず、また10μmより大きいと多孔質炭素電極基材の細孔径サイズと同等の孔径になるため、コーティング層による保水効果が低下してしまう。さらに好ましいクラックの幅については、0.05?5μmである。クラックの個数は25?1000個/m^(2)であることが好ましい。25個/m^(2)より少ないと、コーティング層の柔軟性が足りず、後述する巻き取り試験にて、巻き取り前後でコーティング層の構造変化が著しくなる。1000個以上であると、コーティング層の強度が著しく低下してしまう。より好ましいクラック数は25?500個/m2である。」(【0087】)と記載されている。

(e)一方、甲1発明は、上記(1)ア(ア)に摘記したとおり、安定性のある導電性多孔質層形成用ペーストを作製し、一段と優れたガス透過性及びガス拡散性を付与できる導電性多孔質層が導電性多孔質基材上に形成されたガス拡散層及びそれを用いた固体高分子形燃料電池を提供することを課題としており、上記課題に鑑み、特定の成分を特定量含む導電性多孔質層形成用ペーストを作製し、その導電性多孔質層を導電性多孔質基材の表面上に形成させることにより、上記課題を解決でき、導電性多孔質基材に一段と優れたガス透過性及びガス拡散性を付与できることを見出したものである(【0010】?【0011】)。

(f)甲1には、クラックについては、上記(1)ア(ア)に摘記したとおり、「また導電性多孔質層は触媒層上へ燃料を供給する最近接部位であり、導電性多孔質層のクラックの入り方と細孔形成がガス透過性やガス拡散性に大きく影響を及ぼし、発電性能を左右する。しかし、この導電性多孔質層のクラック形成状態と細孔形成状態を共に良好に満たすものは存在しない。」(【0008】)と記載されており、上記(1)ア(イ)に摘記したとおり、「導電性多孔質層は、クラック占有面積が0.8%?2.5%、好ましくは0.85%?2.25%、より好ましくは0.88%?2.0%である。」(【0038】)と記載されている。

(g)以上(c)?(e)のとおり、甲1発明の課題及び課題解決手段は、その観点がクラックとは無関係であって、両発明は課題及び課題解決手段が全く異なり、すなわち、両発明の技術思想は異なっており、甲1には、クラックに関して、上記(f)程度の記載しかなく、本件発明の如く、“意図的にコーティング層に微細なクラックを設け、上記クラックの長さ、幅、及び1m^(2)あたりの個数を、上記(d)のように最適にしようとする”技術思想は記載されていない。

(h)そして、甲1発明において、コーティング層について「表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」ようにすることを動機付けるに足る記載を、甲1から見出すことができない。

(i)甲2?4、6?7にも、甲1発明のコーティング層について「表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」ようにすることを動機付けるに足る記載は見当たらず、甲2?4、6?7に記載された事項及び周知技術を考慮しても、動機付けることができるとはいえない。

(j)よって、甲1発明において、甲1?4、6?7に記載された事項及び周知技術を考慮しても、コーティング層を「表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」ようにすることは、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

イ 本件発明2について
(ア)本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2も、少なくとも上記[相違点1]で、甲1発明と相違している。

(イ)上記[相違点1]の事項に関しては、上記ア(カ)aのとおりであり、本件発明2は、甲1発明であるとはいえない。

ウ 本件発明3?8について
(ア)本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明3?8も、少なくとも上記[相違点1]で、甲1発明と相違している。

(イ)上記[相違点1]の事項に関しては、上記ア(カ)a、cのとおりであり、本件発明3?8は、甲1発明と、甲1?4、6?7に記載された事項又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明1?8と甲2発明との対比と判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明における「前記カーボンペーパーからなる多孔質なガス拡散基材」は、燃料電池用ガス拡散電極を構成するものであるから、「電極」基材であることは明らかであり、本件発明1における「多孔質炭素電極基材」に相当する。

(イ)甲2発明における「導電性炭素粒子」、「撥水性を付与できる前記フッ素系樹脂」は、それぞれ、本件発明1における「カーボン粒子」、「撥水剤」に相当する。

(ウ)甲2発明における「燃料電池用ガス拡散電極」を構成する要素の一つである前記「多孔質炭素電極基材」が「層」の形態であることは自明であり、甲2発明における「燃料電池用ガス拡散電極」は、ガス拡散「層」であるといえるので、本件発明1における「ガス拡散層」に相当する。

(エ)甲2発明における上記「マイクロポーラス層」と、本件発明1における上記「コーティング層」とは、“表面にクラックを有するカーボン粒子及び撥水剤を含有するコーティング層”である点で共通する。

(オ)そうすると、本件発明1と甲2発明とは、次の点で一致する。

[一致点]
多孔質炭素電極基材の少なくとも一方の面上に、カーボン粒子と撥水剤を含有し、表面にクラックを有するコーティング層を設けたガス拡散層である点。

(カ)一方で、本件発明1と甲2発明とは、次の点で相違する。

[相違点3]
「コーティング層」が、本件発明1では、「長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」のに対して、甲2発明では、クラックの長さ、幅及び1m^(2)あたりの個数が、いずれも、どのような数値であるか不明な点。

[相違点4]
コーティング層について、本件発明1では「カーボン粒子と撥水剤からなり」と特定されているのに対して、甲2発明では、カーボン粒子と撥水剤を含有しつつも、更に、上記金属繊維を含有しており、また、分散剤(コーティング液に含まれていた成分)を含有しているか否か不明である点。

(キ)以下に上記[相違点3]について検討すると、甲2発明においては、上記クラックの長さ、幅、1m^(2)あたりの個数は不明であって、これらを特定することはできない。そこで、以下のとおり、両発明の製造方法の異同に着目して、更に検討する。
a 同一性の観点からの検討(両発明の製造方法の異同)
(a)仮に、甲2発明の具体的な製造方法(基材、コーティング液、製造工程)が、本件発明と同じであれば、その結果、甲2発明のコーティング層表面に形成されたクラックは、本件発明と同じ長さ、幅及び1m^(2)あたりの個数であると推認することができるといえる余地がある。

(b)そこで、まず、本件発明の具体的な製造方法として、本件明細書の発明の詳細な説明に記載の実施例1の製造方法を認定し、両発明の(c)基材の異同、(d)コーティング液の異同、及び、(e)コーティング層の形成工程の異同について、それぞれ確認し、上記推認が成り立つか否かを以下に検討する。

(c)両発明の基材の異同
(c-1)本件発明におけるコーティング液による処理の対象となる基材は、上記第2 2オに摘記したとおり(【0098】?【0110】、【0113】?【0114】)、炭素繊維(A)として、平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのPAN系炭素繊維を用意し、また、炭素繊維前駆体繊維(b)として、平均繊維径が4μm、平均繊維長が3mmのアクリル繊維(三菱レイヨン(株)製、商品名:D122)、フィブリル状繊維(b´)として、叩解によってフィブリル化するアクリル系ポリマーとジアセテート(酢酸セルロース)とからなる易割繊性アクリル系海島複合繊維(三菱レイヨン(株)製、商品名:ボンネルM.V.P.-C651、平均繊維長:3mm)を用意し、上記第2 2オのとおりに、上記<1>の炭素繊維(A)の離解、上記<2>の炭素繊維前駆体繊維(b)の離解、上記<3>のフィブリル状繊維(b´)の離解、上記<4>の抄紙体の製造、上記<5>の樹脂含浸・乾燥、上記<6>の加圧加熱成形、上記<7>の炭素化処理、並びに、上記<10>?<11>の多孔質炭素電極基材用の撥水処理液の作成及び撥水処理を、順次行うことによって得られた、多孔質炭素電極基材である。

(c-2)その一方で、甲2発明におけるコーティング液による処理の対象となる基材は、上記(1)エのとおり、撥水処理されたカーボンペーパー(SGLカーボン社製、35BA、300μm)からなる多孔質なガス拡散基材である。

(c-3)よって、両発明の基材は、材質及び製法がいずれも異なり、同じであるとはいえない。

(d)両発明のコーティング液の異同
(d-1)本件発明におけるコーティング液は、上記第2 2オに摘記したとおり(【0111】?【0112】)、デンカブラック(電気化学工業株式会社製)、イオン交換水、イソプロピルアルコールをそれぞれ5:100:80の割合で混合し、ホモミクサーMARK-II(プライミクス株式会社製)を用いて、冷却しながら15000rpmで30分間撹拌を行ってコーティング液1を得、上記コーティング液1に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンをカーボンブラック1に対し、0.3の割合で添加しディスパーによって500rpmで5分間の撹拌を行い得たコーティング液2である。

(d-2)その一方で、甲2発明におけるコーティング液は、上記(1)エのとおり、導電性炭素粒子(ファーネスブラック:バルカンXC72R)50重量部、金属繊維(ステンレススチールファイバー:X-SMF530AE-EP)3.75重量部、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン:ルブロンLDW-410)25重量部、分散剤(ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル:エマルゲンMS110)5重量部及び水250重量部をホモジナイザにて60分攪拌し調整した、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物である。

(d-3)よって、両発明のコーティング液は、溶質、溶媒及び撹拌条件がいずれも異なり、同じであるとはいえない。

(e)両発明のコーティング層の形成工程の異同
(e-1)本件発明においては、上記第2 2オに摘記したとおり(【0115】)、上記基材上に、上記コーティング液2を目標厚み10μmで塗工し、ついで150℃に設定した熱風乾燥炉を用いて20分間乾燥させ、さらに、乾燥後焼結炉にて360℃1時間焼結処理をおこなってコーティング層を形成している。

(e-2)その一方で、甲2発明においては、上記(1)エのとおり、上記マイクロポーラス層形成用ペースト組成物を、300μmの上記多孔質なガス拡散基材に、アプリケーターにより、マイクロポーラス層形成用ペースト組成物の乾燥後の塗工量が50g/m^(2)となるように塗布し、150℃程度で15分乾燥させ、コーティング層を形成している。

(e-3)よって、両発明のコーティング層の形成工程は異なっており、同じであるとはいえない。

(f)上記(c)?(e)から、甲2発明の具体的な製造方法は、本件発明の上記実施例1の製造方法と異なっており、甲2発明の上記クラックは、本件発明と同じ長さ、幅及び1m^(2)あたりの個数であると推認することができない。

(g)また、上記「長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有するクラックが、本件発明の上記実施例1の製造方法のみならず、それに類似する製造方法によっても製造される可能性があるとしても、甲2発明は、少なくとも、焼成工程を行っておらず、甲1発明が、「長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」と推認することができない。

b 小括
上記[相違点3]について、上記aのとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲2発明であるとはいえない。

c 進歩性の観点からの検討
(a)上記[相違点3]について、甲1?4、6?7に記載された事項及び周知技術を考慮することにより、当業者が容易に想到し得たか否かについて以下に検討する。

(b)まず、両発明の技術思想の異同について確認する。

(c)本件発明は、上記第2 2ア?イに摘記したとおり、意図的にコーティング層に微細なクラックを設けることで巻き取り前後においてコーティング層の構造に変化が生じない、ロール状に巻き取り可能なガス拡散層を提供することを課題とし、前記課題を、「多孔質炭素電極基材の少なくとも一方の面上に、カーボン粉と撥水剤からなり、表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有するコーティング層を設けたガス拡散層」を採用することで解決しようとするものである。

(d)また、上記クラックに関し、上記第2 2ウに摘記したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明に、「クラックの長さとしては、0.001?1mmが好ましく、0.001?0.05mmであることがさらに好ましい。クラックが0.001mmより小さいとクラックによるコーティング層の屈曲性が発現せず、また1mmより大きいとコーティング層の排水性低下が著しくなる。クラックの幅については、幅0.05?10μmの範囲内にあることが好ましい。0.05μmより小さいと、クラックによるコーティング層の屈曲性が発現せず、また10μmより大きいと多孔質炭素電極基材の細孔径サイズと同等の孔径になるため、コーティング層による保水効果が低下してしまう。さらに好ましいクラックの幅については、0.05?5μmである。クラックの個数は25?1000個/m^(2)であることが好ましい。25個/m^(2)より少ないと、コーティング層の柔軟性が足りず、後述する巻き取り試験にて、巻き取り前後でコーティング層の構造変化が著しくなる。1000個以上であると、コーティング層の強度が著しく低下してしまう。より好ましいクラック数は25?500個/m2である。」(【0087】)と記載されている。

(e)一方、甲2発明は、上記(1)ウ(ア)に摘記したとおり、ガス拡散層の変形が少なく、強度に優れ、電気抵抗を増大させることなく、排水性、保水性、ガス透過性及び拡散性に優れたガス拡散層から形成される膜-電極接合体、並びにこれを製造するためのマイクロポーラス層付きガス拡散電極、マイクロポーラス層付き触媒層及び触媒層付きガス拡散電極を提供することを主な課題としており、上記課題を解決するために、ガス拡散層基材に、導電性炭素粒子、金属繊維、フッ素系樹脂及び溶剤からなるマイクロポーラス層形成用ペーストを塗工することにより得られたマイクロポーラス層付きガス拡散基材を用いることで、上記課題を解決した膜-電極接合体が得られることを見出したものである(【0008】?【0009】)。

(f)甲2には、クラックについては、上記(1)ウ(ウ)に摘記したとおり、「マイクロスコープの写真からも金属繊維を添加することでクラックの減少が観察された。このように、実施例1?5では、クラックが抑制されることで保水性が高まり、低加湿運転での性能が良好になったと考えられる。」(【0120】)と記載されている。

(g)以上(c)?(e)のとおり、甲2発明の課題及び課題解決手段は、その観点がクラックとは無関係であって、両発明は課題及び課題解決手段が全く異なり、両発明の技術思想は異なっており、甲2には、上記(f)のとおり、クラック(の生成)を抑制することが記載されているが、本件発明の如く、“意図的にコーティング層に微細なクラックを設け、上記クラックの長さ、幅、及び1m^(2)あたりの個数を、上記(d)のように最適にしようとする”技術思想は記載されていない。

(h)そして、甲2発明において、コーティング層について「表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」ようにすることを動機付けるに足る記載を、甲2から見出すことができない。

(i)甲1、3?4、6?7にも、甲2発明のコーティング層について「表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」ようにすることを動機付けるに足る記載は見当たらず、甲1、3?4、6?7に記載された事項及び周知技術を考慮しても、動機付けることができるとはいえない。

(j)よって、甲2発明において、甲1?4、6?7に記載された事項及び周知技術を考慮しても、コーティング層を「表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」ようにすることは、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

イ 本件発明2について
(ア)本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2?8も、少なくとも上記[相違点3]で、甲2発明と相違している。

(イ)上記[相違点3]の事項に関しては、上記ア(キ)aのとおりであり、本件発明2は、甲2発明であるとはいえない。

ウ 本件発明3?8について
(ア)本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明3?8も、少なくとも上記[相違点3]で、甲2発明と相違している。

(イ)上記[相違点3]の事項に関しては、上記ア(キ)a、cのとおりであり、本件発明3?8は、甲2発明と、甲1?4、6?7に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明1?8と甲3発明との対比と判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)粉とは複数の粒子からなるものであるとの技術常識を踏まえると、甲3発明における「カーボン粉」は、本件発明1における「カーボン粒子」に相当する。

(イ)甲3発明における「多孔質炭素電極基材」、「撥水剤」は、それぞれ、本件発明1における「多孔質炭素電極基材」、「撥水剤」に相当する。

(ウ)甲3発明における上記「コーティング層」と、本件発明1における上記「コーティング層」とは、“カーボン粒子及び撥水剤からなるコーティング層”である点で共通する。

(エ)そうすると、本件発明1と甲3発明とは、次の点で一致する。

[一致点]
多孔質炭素電極基材の少なくとも一方の面上に、カーボン粒子と撥水剤からなるコーティング層を設けた点。

(オ)一方で、本件発明1と甲3発明とは、次の点で相違する。

[相違点5]
本件発明1が「ガス拡散層」であるのに対して、甲3発明は、多孔質炭素電極である点。

[相違点6]
「コーティング層」が、本件発明1では、「長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」のに対して、甲3発明では、「クラック」を有するか否か不明である点。

(カ)以下に上記[相違点5]について検討する。
a 上記(1)オ(イ)に摘記したとおり、甲3発明の「多孔質炭素電極の基材」の原材料である炭素短繊維(A)の平均直径及び長さは、「多孔質炭素電極」を「ガス拡散層」として用いることを想定して選定されており(【0043】)、このことから、上記「多孔質炭素電極」は「をガス拡散層」として機能するものであることが甲3中に記載されているといえる。

b してみれば、甲3発明の「多孔質炭素電極」は「ガス拡散層」に相当するといえるから、[相違点5]は実質的な相違点ではない。

(キ)以下に上記[相違点6]について検討すると、甲3発明は、クラックを有しているか否か不明であり、上記クラックの長さ、幅、1m^(2)あたりの個数も不明であるから、これらを特定することはできない。そこで、以下のとおり、両発明の製造方法の異同に着目して、更に検討する。
a 主に同一性の観点からの検討(両発明の製造方法の異同)
(a)仮に、甲3発明の具体的な製造方法(基材、コーティング液、製造工程)が、本件発明と同じであれば、甲3発明は、本件発明と同じ長さ、幅及び1m^(2)あたりの個数であるクラックを有すると推認することができるといえる余地がある。

(b)そこで、まず、本件発明の具体的な製造方法として、本件明細書の発明の詳細な説明に記載の実施例1の製造方法を認定し、両発明の(c)基材の異同、(d)コーティング液の異同、及び、(e)コーティング層の形成工程の異同について、それぞれ確認し、上記推認が成り立つか否かを以下に検討する。

(c)両発明の基材の異同
(c-1)コーティング液による処理の対象となる基材は、本件発明においては、上記第2 2オに摘記したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の【0098】に記載の出発材料を用意し、【0099】?【0110】に記載の<1>?<7>の各種操作工程、並びに、【0113】?【0114】に記載の<10>?<11>の撥水処理液の作成及び撥水処理工程を、順次行うことによって製造された多孔質炭素電極基材であり、一方、甲3発明においては、上記(1)カのとおり、上記<炭素短繊維(A)等の用意>に記載の出発材料を用意し、上記(1)カの上記<1>?<7>の各種操作工程を順次行うことによって製造された多孔質炭素電極基材であり、以下(c-2)?(c-6)に上記異同について示す。

(c-2)両発明の上記基材の出発材料は、表現が違うのみで(本件発明の「繊維」との表現に対し、甲3発明では、同じものを「短繊維」と表現。以下でも同様。)、実質同じである。

(c-3)両発明の上記基材に順次適用する上記<1>?<6>の各種操作についても、上記表現が違うのみで、実質同じである。

(c?4)両発明の上記<7>の操作は、炭素化炉(本件発明の「炭素化炉」に対し、甲3発明は「バッチ炭素化炉」。)、炭素化処理の時間(本件発明は時間が不明であるのに対し、甲3発明は「1時間」。)の点で、同じであるとはいえない。

(c-5)本件発明においては、上記<10>?<11>の撥水処理液の作成及び撥水処理工程を行っているのに対し、甲3発明においては、上記撥水処理液の作成及び撥水処理工程を行っていない。

(c-6)よって、両発明は、上記(c-4)及び(c-5)のとおり、操作が同じであるとはいえず、上記両基材が同じであるとはいえない。

(d)両発明のコーティング液の異同
(d-1)本件発明におけるコーティング液は、上記第2 2オに摘記したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の【0111】?【0112】に記載の「<8> コーティング液1の調整」及び「<9> コーティング液2の調整を順次行うことによって製造されたコーティング液であり、一方、甲3発明においては、上記(1)カの「<8>コーティング液1の調整」及び「<9>コーティング液2の調整」を順次行うことによって製造されたコーティング液である。

(d-2)両発明の上記「<8>」の調整は同じであるものの、「<9>コーティング液2の調整」において、本件発明は、コーティング液1を冷却し、液温を10℃以下にした後、冷却しながら後続の調整を行っているのに対し、甲3発明は、上記冷却を行っていない。

(d-3)よって、両発明は、上記(d-2)のとおり、調整の仕方が異なり、上記両コーティング液が、同じであるとはいえない。

(e)両発明のコーティング層の形成工程の異同
(e-1)本件発明においては、上記第2 2オに摘記したとおり(【0115】)、上記基材上に、上記コーティング液2を目標厚み10μmで塗工し、ついで150℃に設定した熱風乾燥炉を用いて20分間乾燥させ、さらに、乾燥後焼結炉にて360℃1時間焼結処理をおこなってコーティング層を形成している。

(e-2)その一方で、甲3発明においては、上記(1)カのとおり、アプリケーター(テスター産業製)を用いて上記コーティング液2を多孔質炭素電極基材上に塗工し、ついで100℃に設定した熱風乾燥機を用いて20分間乾燥させ、さらに、乾燥後マッフル炉にて360℃1時間焼結処理をおこなってコーティング層を形成している。

(e-3)よって、両発明のコーティング層の形成工程は異なっており(特に、乾燥温度)、同じであるとはいえない。

(e-4)ここで、本件発明においては、上記第2 2ウに摘記したとおり(【0038】)、「乾燥させる際の雰囲気温度としては、塗工膜に意図的にクラック発生させるため、150℃?300℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは200?300℃である。乾燥温度が150℃よりも小さいと、急激な溶媒の蒸発が生じず、クラックを発生させることができない、また、乾燥温度が300℃よりも大きくなると、溶媒の蒸発速度が速すぎるため、大きなクラックが塗膜に生じてしまい、塗工膜の強度が低下してしまう。」とされており、上記乾燥温度は、クラックの発生や大きさに関わる重要な製造条件の一つであるといえる。

(e-5)上記乾燥温度に関して、甲3発明の上記「100℃に設定した熱風乾燥機を用いて20分間乾燥」は、本件発明における上記「150℃?300℃の範囲」からも外れている。

(f)上記(c)?(e)から、甲3発明の具体的な製造方法は、本件発明の上記実施例1の製造方法と異なっており、甲3発明の上記クラックは、本件発明と同じ長さ、幅及び1m^(2)あたりの個数であると推認することができない。

(g)また、上記「長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有するクラックが、本件発明の上記実施例1の製造方法のみならず、それに類似する製造方法によっても製造される可能性があるとしても、上記(e-4)?(e-5)のとおり、少なくとも、上記乾燥温度に関して、甲3発明の上記「100℃に設定した熱風乾燥機を用いて20分間乾燥」は、本件発明における上記「150℃?300℃の範囲」から外れており、甲3発明が、「長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」と推認することができない。

b 小括
上記[相違点6]について、上記aのとおりであるから、本件発明1は、甲3発明であるとはいえない。

c 進歩性の観点からの検討
(a)上記[相違点6]について、甲3の記載や、甲1?2、4、6?7に記載された事項及び周知技術を考慮することにより、当業者が容易に想到し得たか否かについて以下に検討する。

(b)まず、両発明の技術思想の異同について確認する。

(c)本件発明は、上記第2 2ア?イに摘記したとおり、意図的にコーティング層に微細なクラックを設けることで巻き取り前後においてコーティング層の構造に変化が生じない、ロール状に巻き取り可能なガス拡散層を提供することを課題とし、前記課題を、「多孔質炭素電極基材の少なくとも一方の面上に、カーボン粉と撥水剤からなり、表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有するコーティング層を設けたガス拡散層」を採用することで解決しようとするものである。

(d)また、上記クラックに関し、上記第2 2ウに摘記したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明に、「クラックの長さとしては、0.001?1mmが好ましく、0.001?0.05mmであることがさらに好ましい。クラックが0.001mmより小さいとクラックによるコーティング層の屈曲性が発現せず、また1mmより大きいとコーティング層の排水性低下が著しくなる。クラックの幅については、幅0.05?10μmの範囲内にあることが好ましい。0.05μmより小さいと、クラックによるコーティング層の屈曲性が発現せず、また10μmより大きいと多孔質炭素電極基材の細孔径サイズと同等の孔径になるため、コーティング層による保水効果が低下してしまう。さらに好ましいクラックの幅については、0.05?5μmである。クラックの個数は25?1000個/m^(2)であることが好ましい。25個/m^(2)より少ないと、コーティング層の柔軟性が足りず、後述する巻き取り試験にて、巻き取り前後でコーティング層の構造変化が著しくなる。1000個以上であると、コーティング層の強度が著しく低下してしまう。より好ましいクラック数は25?500個/m2である。」(【0087】)と記載されている。

(e)一方、甲3発明は、上記(1)オ(ア)に摘記したとおり、簡便な製造方法でありながらも、面直方向における電気抵抗が低く、排水性の良い固体高分子型燃料電池用の多孔質炭素電極を提供することを課題とし、上記課題を、「多孔質炭素電極基材の一方の面上に、カーボン粉と撥水剤からなるコーティング層が形成された多孔質炭素電極であって、嵩密度が0.30?0.65g/cm^(3)、面直方法の透気度が50?300ml/hr・cm^(2)・mmAq、かつ、面圧0.5MPaを付与した際の面直方向における電気抵抗が0.45?0.60Ω・cmである多孔質炭素電極」を採用することによって、解決しようとしたものである(【0007】?【0009】)。

(f)甲3には、クラックについては、上記(1)オ(イ)に摘記したとおり、「乾燥させる際の雰囲気温度としては、乾燥速度および塗工膜の凝集によるクラック発生を防ぐため、50?200℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは70?150℃である。」(【0029】)と記載されている。

(g)以上(c)?(e)のとおり、甲3発明の課題及び課題解決手段は、その観点がクラックとは無関係であって、両発明は課題及び課題解決手段が全く異なり、すなわち、両発明の技術思想は異なっており、甲3には、甲1には、クラックに関して、上記(f)程度の記載しかなく、本件発明の如く、“意図的にコーティング層に微細なクラックを設け、上記クラックの長さ、幅、及び1m^(2)あたりの個数を、上記(d)のように最適にしようとする”技術思想は記載されていない。

(h)そして、甲3発明において、コーティング層について「表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」ようにすることを動機付けるに足る記載を、甲3から見出すことができない。

(i)甲1?2、4、6?7にも、甲3発明のコーティング層について「表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」ようにすることを動機付けるに足る記載は見当たらず、甲1?2、4、6?7及び周知技術を考慮しても、動機付けることができるとはいえない。

(j)よって、甲3発明において、甲1?4、6?7に記載された事項及び周知技術を考慮しても、コーティング層を「表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」ようにすることは、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

イ 本件発明2について
(ア)本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2も、少なくとも上記[相違点6]で、甲3発明と相違している。

(イ)上記[相違点6]の事項に関しては、上記ア(キ)aのとおりであり、本件発明2は、甲3発明であるとはいえない。

ウ 本件発明3?8について
(ア)本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明3?8も、少なくとも上記[相違点6]で、甲3発明と相違している。

(イ)上記[相違点6]の事項に関しては、上記ア(キ)a、cのとおりであり、本件発明3?8は、甲3発明と、甲1?4、6?7に記載された事項又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、甲1、甲2又は甲3に記載された発明であるとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるとはいえない。
また、本件発明3?8は、甲1、甲2又は甲3に記載された発明及び甲1?4、6?7に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

2 申立理由3(拡大先願)について
(1)先願(特願2013-025133号)の当初明細書の記載事項
先願(特願2013-025133号)は、本件特許についての優先権主張の日の前の、2013年2月13日を出願日とする出願であり、先願を優先権主張の基礎とする国際出願(PCT/JP2014/052846)の国際出願日は2014年2月7日である。また、当該国際出願の国際公開(国際公開第2014/126002号:甲第5号証)の国際公開日(2014年8月21日)は、本件出願の優先権主張の日よりも後である。
特許法第41条第1項の規定による優先権の主張の基礎とされ、同法第184条の15第2項の規定により読み替えて適用される同法41条第3項の規定により、国際公開されたものとみなされる先願の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願の当初明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0038】
多孔質層(A)は、セパレータから供給されるガスを触媒へと拡散するための高いガス拡散性、電気化学反応に伴って生成する水をセパレータへ排出するための高い排水性、発生した電流を取り出すための高い導電性が必要であり、加えて電解質膜への水分の逆拡散を促進することが必要である。このため、導電性を有し、平均細孔径が1?10nmの多孔質体を用いることが好ましい。より具体的には、例えば、炭素質粒子と撥水性樹脂を混合したものを用いることが好ましい。本発明における炭素質粒子としては、黒鉛、カーボンブラック、グラフェンの他、単層ナノチューブ、多層ナノチューブ、気相成長炭素繊維、炭素繊維ミルドファイバーなどが挙げられ、なかでもカーボンブラックであることが好ましい。
・・・
【0039】
本発明において、カーボンブラックとは、炭素原子比率が80%以上であり、一次粒子径3?500nm程度の炭素の微粒子をさす。炭素原子比率が80%以上であると、マイクロポーラス部の導電性と耐腐食性が向上する。一方、一次粒子径が500nm以下であると、単位重量あたりの粒子密度の増加、ストラクチャーの発達により多孔質層(A)の導電性、機械特性が向上する。
【0040】
本発明において、カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。なかでも導電性が高く、不純物の含有が少ないアセチレンブラックを用いることが好ましい。
・・・
【0045】
多孔質層(A)には、撥水性樹脂を付与して、排水性を向上するため、上記カーボンブラックやカーボンナノファイバーと撥水性樹脂を組み合わせて用いることができる。ここで、撥水性樹脂としては、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロプロピルビニルエーテルの共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)などのフッ素樹脂が挙げられる。
・・・
【0095】
本発明において、前記したガス拡散層を、両面に触媒層9を有する固体高分子電解質膜8の少なくとも片面に接合することで膜電極接合体を構成することができる。その際、触媒層9側に多孔質層(A)1を配置する、つまり多孔質層(A)1が触媒層9と接するように膜電極接合体を構成することが好ましい。」

イ 「【0098】
(実施例1)
東レ(株)製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ”(登録商標)T300(平均単繊維径:7μm)を12mmの長さにカットし、水を抄造媒体として連続的に抄造し、さらにポリビニルアルコールの10重量%水溶液に浸漬し、乾燥する抄紙工程を経て、炭素繊維の目付が16g/m^(2)の長尺の炭素繊維紙を得た。炭素繊維100重量部に対して、添加したポリビニルアルコールの付着量は20重量部に相当した。
【0099】
鱗片状黒鉛(平均粒径5μm)、フェノール樹脂、及びメタノールを1:9:50の重量比で混合した分散液を用意した。上記炭素繊維紙に、炭素繊維100重量部に対してフェノール樹脂が104重量部である樹脂含浸量になるように、上記分散液を連続的に含浸し、90℃の温度で樹脂含浸工程を経た後、樹脂含浸炭素繊維紙を得た。フェノール樹脂には、レゾール型フェノール樹脂と、ノボラック型フェノール樹脂を1:1の重量比で混合した樹脂を用いた。
【0100】
プレスに上下の熱板が互いに平行となるようセットし、熱板温度170℃、面圧0.8MPaで、樹脂含浸炭素繊維紙を加熱加圧されるよう圧縮処理した。
【0101】
圧縮処理をした炭素繊維紙を前駆体繊維シートとして、窒素ガス雰囲気に保たれた、最高温度が2400℃の加熱炉に導入し、炭化工程を経て、厚み100μm、目付24g/m^(2)、嵩密度0.24g/cm^(3)の、多孔質炭素繊維基材を得た。
【0102】
多孔質炭素繊維基材95重量部に対し、5重量部のPTFE樹脂を付与し、100℃で加熱して乾燥させ、撥水処理基材を得た。
【0103】
<多孔質層(A)、多孔質層(I)、多孔質層(B)の作製>
多孔質層(I)を形成するための分散液を分散液(1)、多孔質層(A)を形成するための分散液を分散液(2)、多孔質層(B)を形成するための分散液を分散液(3)と称する。
【0104】
分散液(1)は、カーボンブラックとしてアセチレンブラックを使用し、その他の材料としてPTFE樹脂ディスパージョン、界面活性剤、精製水を用い、配合比をカーボンブラック/PTFE樹脂=75重量部/25重量部で、固形分が15%となるように調整したものを用いた。分散液(1)をB型粘度計で粘度測定したところ、34mPa・sであった。
【0105】
分散液(1)は、ステンレス製バットに入れ、多孔質炭素繊維基材を分散液(1)に完全に浸漬させ、表面に付着した液をステンレス製ヘラで掻き落とし、120℃で加熱乾燥させ、焼結後換算で含浸量15g/m^(2)の含浸基材を得た。
【0106】
分散液(2)は、カーボンブラックとしてアセチレンブラックを使用し、その他の材料としてPTFE樹脂ディスパージョン、界面活性剤、精製水を用い、配合比をカーボンブラック/PTFE樹脂=75重量部/25重量部、固形分が22%となるように調整したものを用いた。
【0107】
分散液(2)はダイコータを用いて含浸基材上に塗工し、120℃で加熱乾燥させ、塗工基材を得た。
【0108】
加熱乾燥させた塗工基材を380℃で加熱して、多孔質炭素繊維基材の内部に多孔質層(I)を有し、表面の片面に多孔質層(A)を有するガス拡散層を作製した。多孔質層(A)の平均厚みt1(μm)は40μm、目付は20g/m^(2)であった。また、多孔質炭素繊維基材の反対表面Bの一部には多孔質層(I)が露出していた。この反対表面Bに存在する多孔質層(I)を、平均厚みt2(μm)が0μmの多孔質層(B)とした。
・・・
【0114】
<多孔質層(A)の表面のクラック数>
(株)キーエンス製デジタルマイクロスコープを用い、50倍に拡大し、任意の1mm四方のエリアに存在する独立したクラック数をカウントし求めたところ、クラックは確認されなかった。」

上記アの記載は、先願を優先権主張の基礎とする日本語特許出願の国際公開(甲第5号証)のの明細書の[0031]?[0033]、[0038]、[0097]に、上記イの記載は、当該国際公開の明細書の[0110]、[0116]?[0126]、[0128]に、それぞれ記載され、国際公開されている。

(2)先願の当初明細書に記載された発明
上記(1)アのとおり(【0039】?【0040】)、カーボンブラックの一種であるアセチレンブラックは形状が微粒子であるといえ、上記ア?イの記載事項を総合勘案し、特に、実施例1の「ガス拡散層」に着目すると、先願の当初明細書には、以下の発明が記載されていると認められる。

「東レ(株)製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ”(登録商標)T300(平均単繊維径:7μm)を12mmの長さにカットし、水を抄造媒体として連続的に抄造し、さらにポリビニルアルコールの10重量%水溶液に浸漬し、乾燥する抄紙工程を経て、炭素繊維の目付が16g/m^(2)の長尺の炭素繊維紙を得(炭素繊維100重量部に対して、添加したポリビニルアルコールの付着量は20重量部に相当)、
鱗片状黒鉛(平均粒径5μm)、フェノール樹脂、及びメタノールを1:9:50の重量比で混合した分散液を用意し、上記炭素繊維紙に、炭素繊維100重量部に対してフェノール樹脂(レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂を1:1の重量比で混合した樹脂)が104重量部である樹脂含浸量になるように、上記分散液を連続的に含浸し、90℃の温度で樹脂含浸工程を経た後、樹脂含浸炭素繊維紙を得、
プレスに上下の熱板が互いに平行となるようセットし、熱板温度170℃、面圧0.8MPaで、上記樹脂含浸炭素繊維紙を加熱加圧されるよう圧縮処理し、
圧縮処理をした炭素繊維紙を前駆体繊維シートとして、窒素ガス雰囲気に保たれた、最高温度が2400℃の加熱炉に導入し、炭化工程を経て、厚み100μm、目付24g/m^(2)、嵩密度0.24g/cm^(3)の、多孔質炭素繊維基材を得、
上記多孔質炭素繊維基材95重量部に対し、5重量部のPTFE樹脂を付与し、100℃で加熱して乾燥させ、撥水処理基材を得、
カーボンブラックとしてアセチレンブラックを使用し、その他の材料としてPTFE樹脂ディスパージョン、界面活性剤、精製水を用い、配合比をカーボンブラック/PTFE樹脂=75重量部/25重量部で、固形分が15%となるように調整したものを用いた分散液であって、B型粘度計で測定した粘度が34mPa・sである分散液(1)をステンレス製バットに入れ、上記撥水処理基材を分散液(1)に完全に浸漬させ、表面に付着した液をステンレス製ヘラで掻き落とし、120℃で加熱乾燥させ、焼結後換算で含浸量15g/m^(2)の含浸基材を得、
カーボンブラックとしてアセチレンブラックを使用し、その他の材料としてPTFE樹脂ディスパージョン、界面活性剤、精製水を用い、配合比をカーボンブラック/PTFE樹脂=75重量部/25重量部、固形分が22%となるように調整した分散液(2)を、ダイコータを用いて上記含浸基材上に塗工し、120℃で加熱乾燥させ、塗工基材を得、
加熱乾燥させた塗工基材を380℃で加熱することによって作製されたガス拡散層であって、
多孔質炭素繊維基材の内部に多孔質層(I)を有し、上記多孔質炭素繊維基材の表面の片面に、形状が微粒子であるアセチレンブラックと撥水性樹脂であるPTFE樹脂を含有し、(株)キーエンス製デジタルマイクロスコープを用いた、50倍の拡大では上記表面にクラックが確認されない多孔質層(A)を有するガス拡散層。」(以下、「先願発明」という。)

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と、先願発明とを対比する。

(ア)先願発明における「多孔質炭素繊維基材」は、また、上記(1)に摘記したとおり、上記ガス拡散層を、両面に触媒層を有する固体高分子電解質膜の少なくとも片面に接合することで膜電極接合体を構成するものであるから(【0095】)、「電極」基材であることは明らかであり、本件発明1における「多孔質炭素電極基材」に相当する。

(イ)先願発明における「形状が微粒子であるアセチレンブラック」、「撥水性樹脂であるPTFE樹脂」は、それぞれ、本件発明1における「カーボン粒子」、「撥水剤」に相当する。

(ウ)先願発明における上記「多孔質層(A)」と、本件発明1における上記「コーティング層」とは、“カーボン粒子及び撥水剤を含有するコーティング層”である点で共通する。

(エ)そうすると、本件発明1と先願発明とは、次の点で一致する。

[一致点]
多孔質炭素電極基材の少なくとも一方の面上に、カーボン粒子と撥水剤を含有するコーティング層を設けたガス拡散層である点。

(オ)一方で、本件発明1と先願発明とは、次の点で相違する。

[相違点7]
「コーティング層」が、本件発明1では、「長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」のに対して、先願発明では、上記50倍の拡大では上記表面にクラックが確認されず、本件発明の倍率程度(1000倍)に拡大して観察した場合に、上記長さ、幅及び1m^(2)あたりの個数のクラックを有するか否か不明である点。

[相違点8]
コーティング層について、本件発明1が「カーボン粒子と撥水剤からなり」と特定されているのに対して、先願発明は、カーボン粒子と撥水剤を含有しつつも、更に、また、界面活性剤(コーティング液に含まれていた成分)を含有しているか否か不明である点。

(カ)以下に上記[相違点7]について検討すると、先願発明においては、上記50倍の拡大では上記表面にクラックが確認されないので、クラックの長さ、幅、1m^(2)あたりの個数を特定することはできない。そこで、以下のとおり、両発明の製造方法の異同に着目して、更に検討する。
a 両発明の製造方法の異同
(a)仮に、先願発明の具体的な製造方法(基材、コーティング液、製造工程)が、本件発明と同じであれば、先願発明は、本件発明と同じ長さ、幅及び1m^(2)あたりの個数であるクラックを有すると推認することができるといえる余地がある。

(b)そこで、まず、本件発明の具体的な製造方法として、本件明細書の発明の詳細な説明に記載の実施例1の製造方法を認定し、両発明の(c)基材の異同、(d)コーティング液の異同、及び、(e)コーティング層の形成工程の異同について、それぞれ確認し、上記推認が成り立つか否かを以下に検討する。

(c)両発明の基材の異同
(c-1)本件発明におけるコーティング液による処理の対象となる基材は、上記第2 2オに摘記したとおり(【0098】?【0110】、【0113】?【0114】)、炭素繊維(A)として、平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのPAN系炭素繊維を用意し、また、炭素繊維前駆体繊維(b)として、平均繊維径が4μm、平均繊維長が3mmのアクリル繊維(三菱レイヨン(株)製、商品名:D122)、フィブリル状繊維(b´)として、叩解によってフィブリル化するアクリル系ポリマーとジアセテート(酢酸セルロース)とからなる易割繊性アクリル系海島複合繊維(三菱レイヨン(株)製、商品名:ボンネルM.V.P.-C651、平均繊維長:3mm)を用意し、上記第2 2オのとおりに、上記<1>の炭素繊維(A)の離解、上記<2>の炭素繊維前駆体繊維(b)の離解、上記<3>のフィブリル状繊維(b´)の離解、上記<4>の抄紙体の製造、上記<5>の樹脂含浸・乾燥、上記<6>の加圧加熱成形、上記<7>の炭素化処理、並びに、上記<10>?<11>の多孔質炭素電極基材用の撥水処理液の作成及び撥水処理を、順次行うことによって得られた、多孔質炭素電極基材である。

(c-2)その一方で、先願発明におけるコーティング液による処理の対象となる基材は、上記(2)のとおり、東レ(株)製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ”(登録商標)T300(平均単繊維径:7μm)を12mmの長さにカットし、水を抄造媒体として連続的に抄造し、さらにポリビニルアルコールの10重量%水溶液に浸漬し、乾燥する抄紙工程を経て、炭素繊維の目付が16g/m^(2)の長尺の炭素繊維紙を得(炭素繊維100重量部に対して、添加したポリビニルアルコールの付着量は20重量部に相当)、
鱗片状黒鉛(平均粒径5μm)、フェノール樹脂、及びメタノールを1:9:50の重量比で混合した分散液を用意し、上記炭素繊維紙に、炭素繊維100重量部に対してフェノール樹脂(レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂を1:1の重量比で混合した樹脂)が104重量部である樹脂含浸量になるように、上記分散液を連続的に含浸し、90℃の温度で樹脂含浸工程を経た後、樹脂含浸炭素繊維紙を得、
プレスに上下の熱板が互いに平行となるようセットし、熱板温度170℃、面圧0.8MPaで、上記樹脂含浸炭素繊維紙を加熱加圧されるよう圧縮処理し、
圧縮処理をした炭素繊維紙を前駆体繊維シートとして、窒素ガス雰囲気に保たれた、最高温度が2400℃の加熱炉に導入し、炭化工程を経て、厚み100μm、目付24g/m^(2)、嵩密度0.24g/cm^(3)の、多孔質炭素繊維基材を得、
上記多孔質炭素繊維基材95重量部に対し、5重量部のPTFE樹脂を付与し、100℃で加熱して乾燥させ、撥水処理基材を得、
カーボンブラックとしてアセチレンブラックを使用し、その他の材料としてPTFE樹脂ディスパージョン、界面活性剤、精製水を用い、配合比をカーボンブラック/PTFE樹脂=75重量部/25重量部で、固形分が15%となるように調整したものを用いた分散液であって、B型粘度計で測定した粘度が34mPa・sである分散液(1)をステンレス製バットに入れ、上記撥水処理基材を分散液(1)に完全に浸漬させ、表面に付着した液をステンレス製ヘラで掻き落とし、120℃で加熱乾燥させて得た、
焼結後換算で含浸量15g/m^(2)の含浸基材である。

(c-3)よって、両発明の基材は、出発材料及び製法がいずれも異なり、同じであるとはいえない。

(d)両発明のコーティング液の異同
(d-1)本件発明におけるコーティング液は、上記第2 2オに摘記したとおり(【0111】?【0112】)、デンカブラック(電気化学工業株式会社製)、イオン交換水、イソプロピルアルコールをそれぞれ5:100:80の割合で混合し、ホモミクサーMARK-II(プライミクス株式会社製)を用いて、冷却しながら15000rpmで30分間撹拌を行ってコーティング液1を得、上記コーティング液1に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンをカーボンブラック1に対し、0.3の割合で添加しディスパーによって500rpmで5分間の撹拌を行い得たコーティング液2である。

(d-2)その一方で、先願発明におけるコーティング液は、上記(2)のとおり、カーボンブラックとしてアセチレンブラックを使用し、その他の材料としてPTFE樹脂ディスパージョン、界面活性剤、精製水を用い、配合比をカーボンブラック/PTFE樹脂=75重量部/25重量部、固形分が22%となるように調整した分散液(2)である。

(d-3)よって、両発明のコーティング液は、溶質、溶媒等が異なり、同じであるとはいえない。

(e)両発明のコーティング層の形成工程の異同
(e-1)本件発明においては、上記第2 2オに摘記したとおり(【0115】)、上記基材上に、上記コーティング液2を目標厚み10μmで塗工し、ついで150℃に設定した熱風乾燥炉を用いて20分間乾燥させ、さらに、乾燥後焼結炉にて360℃1時間焼結処理をおこなってコーティング層を形成している。

(e-2)その一方で、先願発明においては、上記(2)のとおり、分散液(2)を、ダイコータを用いて上記含浸基材上に塗工し、120℃で加熱乾燥させ、塗工基材を得、
加熱乾燥させた塗工基材を380℃で加熱することによってコーティング層を作製している。

(e-3)よって、両発明のコーティング層の形成工程は異なっており(特に、乾燥温度)、同じであるとはいえない。

(e-4)ここで、本件発明においては、上記第2 2ウに摘記したとおり(【0038】)、「乾燥させる際の雰囲気温度としては、塗工膜に意図的にクラック発生させるため、150℃?300℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは200?300℃である。乾燥温度が150℃よりも小さいと、急激な溶媒の蒸発が生じず、クラックを発生させることができない、また、乾燥温度が300℃よりも大きくなると、溶媒の蒸発速度が速すぎるため、大きなクラックが塗膜に生じてしまい、塗工膜の強度が低下してしまう。」とされており、上記乾燥温度は、クラックの発生や大きさに関わる重要な製造条件の一つであるといえる。

(e-5)上記乾燥温度に関して、先願発明の上記「120℃で加熱乾燥」は、本件発明における上記「150℃?300℃の範囲」からも外れている。

(f)上記(c)?(e)から、先願発明の具体的な製造方法は、本件発明の上記実施例1の製造方法と異なっており、先願発明は、本件発明と同じ長さ、幅及び1m^(2)あたりの個数のクラックを有すると推認することができない。

(g)また、上記「長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有するクラックが、本件発明の上記実施例1の製造方法のみならず、それに類似する製造方法によっても製造される可能性があるとしても、上記(e-4)?(e-5)のとおり、少なくとも、上記乾燥温度に関して、先願発明の上記「120℃で加熱乾燥」は、本件発明における上記「150℃?300℃の範囲」から外れており、先願発明が「長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」と推認することができない。

b 「課題解決のための具体化手段における微差」か否かについて
(a)上記第2 2ウ(【0087】)、カの記載から明らかなとおり、本件発明は、「長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」(上記[相違点7]の事項)ことによって、巻き取り前後においてコーティング層の構造に変化が生じないという効果を奏するといえる。

(b)そして、上記[相違点7]の事項が「周知慣用手段の付加等であって、新たな効果を奏するものでない」と考えるに足る根拠は見当たらず、上記[相違点7]が「課題解決のための具体化手段における微差」であるとはいえないので、したがって、上記[相違点7]は、実質的な相違点といえる。

(キ)よって、本件発明1と先願発明とは、上記[相違点7]で実質的に相違しているから、他の相違点について検討するまでもなく、両者が実質同一であるとはいえない。

イ 本件発明2について
(ア)本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2も、少なくとも上記[相違点7]で、先願発明と相違している。

(イ)上記[相違点7]の事項に関しては、上記ア (カ)において検討したとおりであるから、実質的な相違点といえる。

(ウ)したがって、本件発明2についても、先願発明と実質同一であるとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、本件特許についての優先権主張の日の前の、甲第5号証に係る国際出願の優先権主張の基礎となる特許出願であって、その出願後に甲第5号証の国際公開により出願公開がされたものとみなされる特願2013-025133号の当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものとはいえない。

3 申立理由4(実施可能要件)について
(1)発明の詳細な説明の記載が、物の発明について実施可能要件を満たしているというためには「その物を作れる」ように記載されていなければならないことから、この観点で以下検討する。

ア 本件発明1は、上記第2 1に摘記したとおり、「多孔質炭素電極基材の少なくとも一方の面上に、カーボン粒子と撥水剤からなり、表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有するコーティング層を設けたガス拡散層。」である。

イ 本件明細書の発明の詳細な説明には、「多孔質電極基材」(【0043】、【0047】?【0081】)、「カーボン粒子」(【0030】)、「撥水剤」(【0031】)の各材質等について記載されており、上記第2 2ウに摘記したとおり、上記カーボン粒子、上記撥水剤等を含むコーティング液を上記工程[1]の手順に従い製造し、上記工程[2]の手順に従い上記多孔質炭素電極基材上に上記工程[1]で得られたコーティング液を塗布し、上記工程[3]、[4]の手順に従い各加熱を行い、乾燥、焼成することにより、多孔質炭素電極基材の少なくとも一方の面上に、カーボン粒子と撥水剤からなる特定のクラックを有するコーティング層を設けたガス拡散層を形成することが記載されている。

ウ そして、上記クラックについては、 上記第2 2ウに摘記したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明においては、乾燥させる際の雰囲気温度としては、塗工膜に意図的にクラック発生させるため、150℃?300℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは200?300℃である。乾燥温度が150℃よりも小さいと、急激な溶媒の蒸発が生じず、クラックを発生させることができない、また、乾燥温度が300℃よりも大きくなると、溶媒の蒸発速度が速すぎるため、大きなクラックが塗膜に生じてしまい、塗工膜の強度が低下してしまう。」(【0038】)と記載されており、また、「このクラックは、コーティング層を乾燥する際に、塗工膜から除去される溶媒の除去速度を変化させることで、発生度合いを変えることができる。」(【0087】)と記載されている。

エ 本件明細書の発明の詳細な説明には、上記第2 2オに摘記したとおり、上記[1]?[4]の手順に従い上記ガス拡散層を形成した実施例1?12、コーティング層の乾燥温度を150℃?300℃の範囲外の温度にする等、上記[1]?[4]の手順と一部異なる手順によって上記ガス拡散層を形成した比較例1?8が記載されており、上記各ガス拡散層の表面に形成されたクラックについて所定の計測方法(【0095】)により、長さ(mm)、幅(μm)、1m^(2)あたりの個数(個/m^(2))をそれぞれ計測した結果等が、上記第2 カのとおり表1に纏められている。

オ 上記第2 2オ?カの摘記事項を見ると、上記実施例1?12においては、上記ガス拡散層の製造条件として、上記乾燥温度が、150℃、200℃又は300℃となっており、また、多孔質炭素電極基材の厚み、コーティング層の目標厚み、乾燥手段(プレートヒーター、加熱ロール又は赤外線炉)が、実施例毎に異なっており、その結果、形成された各ガス拡散層は、いずれも、「表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」(請求項1)との数値範囲内のものであって、かつ、上記長さ(mm)、幅(μm)、1m^(2)あたりの個数(個/m^(2))の各数値がそれぞれ異なったものになっている。

カ 上記第2 2オ?カの摘記事項を見ると、上記比較例1?8においては、上記ガス拡散層の製造条件として、上記乾燥が、赤外線炉、加熱ロール若しくはプレートヒーターを用いた100℃、350℃若しくは50℃の温度での乾燥、又は、大気中で自然乾燥となっており、また、多孔質炭素電極基材の厚みが、比較例毎に異なっており、その結果、形成された各ガス拡散層は、いずれも、「表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有する」(請求項1)との数値範囲外のものになっている。

キ 上記イ?カから、上記実施例1?12、上記比較例1?8に関する記載、発明の詳細な説明のその他の記載、必要に応じて本件出願時の技術常識を参照すれば、当業者が本件発明1のガス拡散層を製造することができるといえ、本件発明1は、十分実施可能であるといえる。

ク 本件発明2?8について検討しても、上記第2 2エ?オの摘記事項を見ると、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記ガス拡散層を用いて、上記ガス拡散層のロール状物を製造する方法についても、十分に記載されているといえ、当業者が本件発明2?8のロール状物を製造することができるといえ、本件発明2?8は、十分実施可能であるといえる。

(2)よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。

(3)この点につき、申立人は、次の内容を教示した上(注;当審が「ア」?「エ」と区分。)、当該教示に基き、“本件発明1の「ガス拡散層」うち、実施例のガス拡散層以外については、本件明細書、本願の願書に添付した図面及び上記技術常識を考慮しても、当業者が、どのように作るか理解できず、そのため、本件発明1によるガス拡散層を作るためには、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある”ことを主張している。

ア 本件明細書の発明な詳細な説明には、クラックの「発生度合い」が、クラックの長さであるのか、幅であるのか、個数であるのか又はこれら全てであるのかについて記載がないこと。

イ 溶媒の除去速度は、任意の多孔質炭素電極上に、カーボン粉、撥水剤、界面活性剤及び水を任意の割合で含有する任意のコーティング液を任意の塗工厚で塗布したものを、単に150℃?300℃の環境下で乾燥させるという構成を採用するのみでは制御できるものであるとは考えられず、また、本件特許の出願時においてそのような技術常識が存在していたとも考えられないこと。

ウ 本件明細書の発明な詳細な説明には、乾燥温度又は溶媒の除去速度と、クラックの発生の度合いについて説明がされていないこと。

エ 本件発明1の製造の際に用いられる出発物質および製造工程と同一の出発物質および製造工程が記載されているにも関わらず、多孔質層上のクラック数を本件発明1の場合と同様に顕微鏡を用いてカウントしたところ(【0042】等)、「クラックは確認されなかった」と記載されている(【0128】)との旨の甲5の記載内容を示しつつ、本件特許の出願時の技術常識に従えば、本件明細書に記載されている工程[1]?[4]による方法に従って「ガス拡散層」を製造したとしても、クラックの存在しないガス拡散層が得られることも考えられること。

(4)申立人の主張について検討しても、以下、ア?エのとおりであり、申立人による上記主張を採用することができない。

ア 上記(3)ア、ウについて確認しても、上記(1)オ?カのとおり、実験結果として、上記乾燥温度等に応じて、上記長さ(mm)、幅(μm)、1m^(2)あたりの個数(個/m^(2))の各数値がそれぞれ異なったものになっているので、上記(3)アの知見や(3)ウの知見が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていなくとも、上記乾燥温度を150℃?300℃の数値範囲内で変更すること等、ガス拡散層の製造条件の上記調節により、上記長さ(mm)、幅(μm)、1m^(2)あたりの個数(個/m^(2))の各数値の本件に特定の数値範囲内での調節が可能であると推定でき、すなわち、上記(3)ア、ウの知見の有無は、本件発明1の「ガス拡散層」うち、実施例以外のガス拡散層を製造することができるか否かの判断を左右しない。

イ 上記(3)のイについては、そのように申立人が考える根拠が何も示されておらず、上記第2 2オ?カに摘記の本件明細書の発明な詳細な説明に記載された実施例1?12、比較例1?8の実験結果を覆すものであるともいえない。

ウ 上記(3)エについて確認しても、上記2で示したとおり、甲5には、本件発明1の製造の際に用いられる出発物質および製造工程と同一の出発物質および製造工程が記載されているとはいえず、その他に、本件明細書に記載されている工程[1]?[4]による方法に従って「ガス拡散層」を製造したとしても、クラックの存在しないガス拡散層が得られると考えるに足る技術常識も存在しない。

エ 上記第2 ウ、オ?カの摘記事項から、本件発明1の「ガス拡散層」うち、実施例以外のガス拡散層を製造するには、上記いずれかの実施例に基き、第2 2ウに記載されている製造条件範囲内で、製造条件を適切に調節すればよいことは明らかであり(例えば、実施例1において、乾燥温度を、150℃?300℃の数値範囲内で変更する等。)、申立人による主張を採用することができない。

(5)したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

4 申立理由5(サポート要件)について
(1)上記第2 2アの摘記事項からすると、本件発明の解決しようとする課題は、「意図的にコーティング層に微細なクラックを設けることで巻き取り前後においてコーティング層の構造に変化が生じない、ロール状に巻き取り可能なガス拡散層を提供すること」(以下、「本件課題」という。)にあるといえる。

(2)そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件課題を解決するための手段に関して、上記第2 2イに摘記したとおり、「多孔質炭素電極基材の少なくとも一方の面上に、カーボン粉と撥水剤からなり、表面に長さが0.001?1mm、幅0.05?10μmのクラックを25?1000個/m^(2)有するコーティング層を設けたガス拡散層」を採用することで、巻き取り前後においてコーティング層の構造に変化が生じない、ロール状に巻き取り可能なガス拡散層を提供することができることが記載されている。

(3)また、上記第2 2オ?カに摘記したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記(2)のガス拡散層に該当する、実施例1?2、4?5、7?10、12、クラックの長さが上記上限値(1mm)付近の数値(0.914mm)である実施例6、クラックの幅が上記上限値(10μm)付近の数値(8.8μm)である実施例11、及び、クラックの1m^(2)あたりの個数が上記上限値(1000個/m^(2))付近の数値(777個/m^(2))である実施例3について、いずれも、巻きつけ前後でクラックの5%以上の変化がない一方で、クラックの長さ、幅又は1m^(2)あたりの個数が上記数値範囲外の比較例1?8について、いずれも、巻きつけ前後でクラックの5%以上の変化があることが記載されている。

(4)そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識し得る範囲は、上記(2)のガス拡散層を採用することであるということができる。

(5)一方、本件発明1?8は、いずれも、上記(2)のガス拡散層を採用するものであることが特定された発明であるから、上記(4)の「当業者が本件課題を解決できると認識し得る範囲」を超えているとはいえないものである。

(6)この点につき、申立人は、本件明細書の【0087】の記載から、当業者であれば、クラックの長さ、幅および個数が本件発明1による範囲の上限値を超えた場合には、クラックの発生に影響を与えるというよりも、コーティング層の排水性、保水効果、強度に影響を与えるものであることを読み取ることができ、それにも関わらず、クラックの幅および個数は本件発明1の範囲内にありながら、長さが上限を超えるにすぎない比較例2、クラックの長さおよび個数は本件発明1の範囲内にありながら、幅が上限を超えるにすぎない比較例4であっても、「巻きつけ前後でのクラック」は「あり」となっているとの旨を教示しつつ、上記教示に基き、当業者は、発明の詳細な説明の記載を考慮しても、本件発明の課題を解決することができるのかを理解することができるとはいえない旨を主張しているので、以下検討する。

(7)上記(3)?(4)のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記ガス拡散層のコーティング表面のクラックについて、長さ0.001?1mm、幅0.05?10μm、25?1000個/m^(2)の全数値範囲において、本件課題が解決されることを十分に推認できる程度の実施例及び比較例が記載されており、申立人が説示する如く、長さ、幅、1m^(2)あたりの個数の各上限値について、本件明細書の【0087】に、それぞれ、排水性、保水効果、強度に関する記載があろうとも、当該記載があることにより、上記実施例及び比較例の結果に、合理的な疑義が生じるとまではいえない。

(8)したがって、申立人による上記主張は採用しない。

(9)よって、本件発明1?8は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。


第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-07-28 
出願番号 特願2015-111045(P2015-111045)
審決分類 P 1 651・ 161- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 536- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 重樹  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 池渕 立
祢屋 健太郎
登録日 2020-08-17 
登録番号 特許第6750192号(P6750192)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 固体高分子形燃料電池用ガス拡散層  
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