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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
管理番号 1376766
異議申立番号 異議2021-700236  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-03 
確定日 2021-08-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6753541号発明「ポリプロピレンフィルム、および離型用フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6753541号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6753541号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、令和1年10月17日(優先権主張:平成30年10月18日)を国際出願日とする出願であって、令和2年8月24日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行:令和2年9月9日)がされ、その後、その特許について、令和3年3月3日に特許異議申立人岩崎勇(以下「申立人1」という。)により、令和3年3月5日に特許異議申立人茂田郁(以下「申立人2」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?8に係る発明(以下「本件発明1」等という。まとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
主収縮方向の130℃、15分間処理後の熱収縮率が4%以上、30%以下であり、
示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで20℃/分で昇温した際に、155℃以上に融解ピーク温度を有し、
前記主収縮方向、及び、前記主収縮方向と直交する方向の伸度2%時の応力(F2値)が、共に24MPa以上であり、
少なくともA層とB層からなる積層構成であって、前記A層は、層を構成する全成分100質量%中に融点が150℃以上170℃以下であるポリプロピレン原料Aを90質量%以上含み、前記B層は、層を構成する全成分100質量%中に融点が50℃以上135℃以下であるポリプロピレン原料Bを15質量%以上95質量%以下含み、延伸フィルムである、ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
主収縮方向の130℃、15分間処理後の熱収縮率が4%以上、30%以下であり、
示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで20℃/分で昇温した際に、155℃以上に融解ピーク温度を有し、
前記主収縮方向の厚み斑が2.0%以下であり、
少なくともA層とB層からなる積層構成であって、前記A層は、層を構成する全成分100質量%中に融点が150℃以上170℃以下であるポリプロピレン原料Aを90質量%以上含み、前記B層は、層を構成する全成分100質量%中に融点が50℃以上135℃以下であるポリプロピレン原料Bを15質量%以上95質量%以下含み、延伸フィルムである、ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
前記主収縮方向の100℃、15分間処理後の熱収縮率が10%以下である、請求項1または2に記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
主収縮方向の130℃における熱収縮応力が1.0MPa以上であり、100℃における熱収縮応力が0.5MPa以下である、請求項1?3のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
ナノインデンテーション法により測定した、少なくとも片面の23℃における厚み方向の弾性率が、2.0GPa以上である、請求項1?4のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
長辺の長さが50μm以上となるフィッシュアイの個数が、20個/m^(2)以下である、請求項1?5のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項7】
フィルムの一方の表面とその裏面を重ねて測定した動摩擦係数が、0.4以下である、請求項1?6のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項8】
請求項1?7のいずれかに記載のポリプロピレンフィルムを用いてなる離型用フィルム。」

第3 申立理由の概要
申立人1は、以下の理由1-1?理由1-3を申立てている。
(1)理由1-1(進歩性)
本件発明1?8は、甲第1号証?甲第10号証(以下「甲1-1」?「甲1-10」という。)に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1?8に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
甲1-1:特開2004-168040号公報
甲1-2:特開2002-234124号公報
甲1-3:特開2007-84813号公報
甲1-4:特開平8-230123号公報
甲1-5:特開2011-173658号公報
甲1-6:特開2009-88492号公報
甲1-7:特開2007-152570号公報
甲1-8:再公表特許2018/147335号
甲1-9:特開2012-229296号公報
甲1-10:特開2001-247693号公報

(2)理由1-2(サポート要件)
本件発明1?8は、次のア、イの点で、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであり、本件発明1?8に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
ア 本件明細書で具体的に効果の確認されたものは、実施例1?6の表層(最外層)がA層の場合であり、B層が表層(最外層)である場合を含む本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
イ 実施例6の、A層がポリプロピレン樹脂原料A90質量部とポリプロピレン樹脂原料B10質量部の混合樹脂の場合、本件発明の課題である「フィルムの平面性」については平面性不良の箇所がみられ、「被着体への転写評価」についても弱い凹凸が確認されるとの評価であり、課題が解決されたとはいえないものであり、そのような樹脂を含む本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張できる合理的な根拠は見いだせない。

(3)理由1-3(実施可能要件)
本件発明1?8は、次のウの点で、発明の詳細な説明には実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものであり、本件発明1?8に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
ウ 本件明細書に具体的に記載されているポリプロピレンフィルムとは異なる、本件発明のポリプロピレンフィルムを製造するためには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を行う必要がある。

2.申立人2は、以下の理由2-1?理由2-4を申立てている。
(1) 理由2-1(新規性)、理由2-2(進歩性)
本件発明1?3、5、7は、甲第1号証(以下「甲2-1」という。)に記載の発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1?3、5、7に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
また、本件発明1?3、5、7は、甲2-1及び甲第2号証(以下「甲2-2」という。)に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1?3、5、7に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
甲2-1:国際公開第2015/012165号
甲2-2:特開2003-25425号公報

(2)理由2-3(実施可能要件)
本件発明1?8について、次のエ、オ、カの点で、発明の詳細な説明には実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものであり、本件発明1?8に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
エ 甲2-1の実施例のフィルムは、本件発明1?3、5、7のフィルムである蓋然性が高く、甲2-1の実施例の層構成、原料組成及び製膜条件で作製されたフィルムが、本件発明のフィルムでない場合、本件発明のフィルムを作製するために、当業者に過度の試行錯誤を求めることとなる。
オ 本件明細書には、本件発明6の「長辺の長さが50μm以上となるフィッシュアイの個数が、20個/m^(2)以下である」ことを満足させるための実施可能な態様が記載されていない。
カ 本件明細書には、本件発明4の「主収縮方向の130℃における熱収縮応力が1.0MPa以上であり、100℃における熱収縮応力が0.5MPa以下である」ことを満足させる方法が記載されていない。

(3)理由2-4(サポート要件)
本件発明1?8は、次のキの点で、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであり、本件発明1?8に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
キ 発明の詳細な説明の段落【0038】?【0040】にはB層の原料組成に関する記載があるが、そこにはB層に関する本件発明1の「前記B層は、層を構成する全成分100質量%中に融点が50℃以上135℃以下であるポリプロピレン原料Bを15質量%以上95質量%以下含み」との事項に関する説明がなく、本件発明は発明の詳細な説明に記載された内容を超えるものである。

第4 当審の判断
1.新規性進歩性に係る申立理由について
(1)理由1-1について
ア 甲1-1の記載事項
「【請求項1】
230℃で測定したときの溶融張力(MS)とメルトフローレイト(MFR)の関係が、次式(1)
log(MS)>-0.61log(MFR)+0.82(1)
を満たすポリプロピレンを含み、かつ、ポリプロピレンに相溶して、延伸時に可塑化効果を具備させうる添加剤が1種以上混合された二軸延伸ポリプロピレンフィルムからなる基層の少なくとも片面に、金属蒸着層が設置されていることを特徴とする金属蒸着二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
・・・・
【請求項3】
金属蒸着層の接着強度が0.3N/cm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属蒸着二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
基層と金属蒸着層の間に厚さが0.05?2μmのポリエステルウレタン系樹脂からなる被覆層が設置されていることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の金属蒸着二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
・・・・」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、包装用途、工業用途など広範な用途に好適な金属蒸着二軸延伸ポリプロピレンフィルムに関するものである。」
「【0012】
本発明の目的は、上記課題を解消すべくなされたものであり、金属蒸着した際の金属蒸着膜と基材との接着性を改善すると同時に、基層となる二軸延伸ポリプロピレンフィルムの長手方向の剛性を高くすることにより、二次加工後のガスバリア性能の悪化を抑制した、真にガスバリア性能に優れた金属蒸着二軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供することである。また、基層となる二軸延伸ポリプロピレンフィルムの熱寸法安定性、防湿性などが、汎用のポリプロピレンを用いて上記汎用の縦-横逐次二軸延伸法で製膜した、いわゆる汎用の二軸延伸ポリプロピレンフィルムとほぼ同等もしくは優れることにより、従来の金属蒸着二軸延伸ポリプロピレンフィルムに比べて基層を薄膜化しても同等の性能を有する金属蒸着二軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供することである。」
「【0036】
本発明の基層に用いる二軸延伸ポリプロピレンフィルムに用いるポリプロピレンは、主としてプロピレンの単独重合体からなり、本発明の目的を損なわない範囲でプロピレンと他の不飽和炭化水素の単量体成分が共重合された重合体であってもよいし、プロピレンとプロピレン以外の単量体成分が共重合された重合体がブレンドされてもよいし、プロピレン以外の不飽和炭化水素の単量体成分の(共)重合体がブレンドされてもよい。このような共重合成分やブレンド物を構成する単量体成分として、例えば、エチレン、プロピレン(共重合されたブレンド物の場合)、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチルペンテン-1、3-メチルブテン-1、1-ヘキセン、4-メチルペンテン-1、5-エチルヘキセン-1、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネンなどが挙げられる。」
「【0081】
次に、本発明の基層は、上述の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に、金属蒸着層と基層、もしくは被覆層と基層の接着強度を向上させるため、もしくはそれ以外の目的においても、添加剤ブリードアウト・飛散抑制、コーティング膜・蒸着膜易接着、易印刷性付与、ヒートシール性付与、プリントラミネート性付与、光沢付与、ヘイズ低減(透明性付与)、離型性付与、イージーピール性付与、滑り性付与、表面硬度向上、平滑性付与、表面粗度向上、ガスバリア性向上、手切れ性付与など、種々の目的に応じて、適宜公知のポリオレフィン系樹脂およびその他の樹脂が積層されることが好ましい。
・・・・
【0084】
上記積層体の具体例としては、例えば、上記に定義した特定の二軸延伸ポリプロピレンフィルム層(A層)の片面に、金属蒸着層、または被覆層との接着強度を向上させるために第2の層が積層され、もう一方の面にプロピレン系共重合体からなるヒートシール性樹脂による第3の層が積層された、3層積層フィルムとすることもできる(積層構成:第2の層/A層/第3の層、第2の層上に被覆層または金属蒸着層が設置される)。この場合の好ましい態様を下記するが、本発明はこれらに限定されるものではない。」
「【0157】
まず、本発明の基層に用いる二軸延伸ポリプロピレンフィルムを以下参考例1?5の通りに作製した。また、本発明の基層には適用できないポリプロピレンフィルムを以下参考例6?8の通りに作製した。
【0158】
(参考例1) 溶融張力(MS)が1.5cN、メルトフローレイト(MFR)が2.3g/10分、メソペンタッド分率(mmmm)が92%、アイソタクチックインデックス(II)が96%である公知のポリプロピレンに、MSが20cN、MFRが3g/10分、mmmmが97%、IIが96.5%であって、前記式(1)のMSとMFRの関係を満たす長鎖分岐を有する高溶融張力ポリプロピレン(HMS-PP)を5重量%の比率で添加混合したポリプロピレン97重量%に、ポリプロピレンに相溶して、延伸時に可塑化効果を具備させうる添加剤として、極性基を実質的に含まない石油樹脂である、Tg80℃、臭素価3cg/g、水添率99%のポリジシクロペンタジエンを3重量%添加混合した樹脂100重量部に、架橋有機粒子として平均粒径2μmのポリメタクリル酸系重合体の架橋粒子(架橋PMMA)を0.15重量部添加し、二軸押出機に供給して270℃でガット状に押出し、20℃の水槽に通して冷却してチップカッターで3mm長にカットした後、100℃で2時間乾燥したチップを一軸押出機に供給して270℃で溶融させ、濾過フィルターを経た後にスリット状口金から押出し、25℃の金属ドラムに巻き付けてシート状に成形した。
【0159】
このシートを135℃に保たれたロールに通して予熱し、140℃に保ち周速差を設けたロール間に通し、長手方向に8倍延伸して直ちに室温に冷却する。引き続きこの延伸フィルムをテンターに導入して165℃で予熱し、160℃で幅方向に8倍に延伸し、次いで幅方向に6%の弛緩を与えつつ、160℃で熱固定した後、冷却して巻き取り、厚さ15μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
・・・・
【0163】
(参考例3) 参考例1において、長鎖分岐を有するHMS-PPの混合比率を10重量%、ポリジシクロペンタジエンの添加量を10重量%とし、長手方向に10倍、幅方向に6倍延伸した以外は同様の条件で作製した厚さ15μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを参考例3とした。」
「【0176】
【表1】


「【0177】
【表2】


イ 甲1-1に記載された発明
上記記載から、甲1-1には、参考例3の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを基材とした、次の「甲1-1発明」が記載されているといえる。
「溶融張力(MS)が1.5cN、メルトフローレイト(MFR)が2.3g/10分、メソペンタッド分率(mmmm)が92%、アイソタクチックインデックス(II)が96%である公知のポリプロピレンに、MSが20cN、MFRが3g/10分、mmmmが97%、IIが96.5%の高溶融張力ポリプロピレン(HMS-PP)を10重量%の比率で添加混合したポリプロピレン97重量%を含む樹脂100重量部を、二軸押出機に供給して270℃でガット状に押出し、20℃の水槽に通して冷却してチップカッターで3mm長にカットした後、100℃で2時間乾燥したチップを一軸押出機に供給して270℃で溶融させ、濾過フィルターを経た後にスリット状口金から押出し、25℃の金属ドラムに巻き付けてシート状に成形し、このシートを135℃に保たれたロールに通して予熱し、140℃に保ち周速差を設けたロール間に通し、長手方向に10倍延伸して直ちに室温に冷却する。引き続きこの延伸フィルムをテンターに導入して165℃で予熱し、160℃で幅方向に6倍に延伸し、次いで幅方向に6%の弛緩を与えつつ、160℃で熱固定した後、冷却して巻き取り、作製した、厚さ15μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、
この二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、25℃での長手方向のヤング率は4.3GPa、25℃での幅方向のヤング率は3.5GPa、25℃での長手方向のF2値は72MPa、120℃での長手方向の熱収縮率は4.0%であり、
この二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に、金属蒸着層、または被覆層との接着強度を向上させるために第2の層が積層され、もう一方の面にプロピレン系共重合体からなるヒートシール性樹脂による第3の層が積層された、3層積層フィルム。」
ウ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1-1発明を対比する。
本件発明1の「少なくともA層とB層からなる積層構成」の「ポリプロピレンフィルム」と、甲1-1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に、金属蒸着層、または被覆層との接着強度を向上させるために第2の層が積層され、もう一方の面にプロピレン系共重合体からなるヒートシール性樹脂による第3の層が積層された」「3層積層フィルム」とは、ポリプロピレンの層を2層積層したフィルムという限りにおいて一致する。
(イ)そうすると、本件発明1と甲1-1発明とは、「ポリプロピレンの層を2層積層したフィルム」で一致し、次の相違点1で相違する。
《相違点1》
「ポリプロピレンの層を2層積層したフィルム」であることに関して、
本件発明1の「少なくともA層とB層からなる積層構成」の「ポリプロピレンフィルム」が、「主収縮方向の130℃、15分間処理後の熱収縮率が4%以上、30%以下であり、示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで20℃/分で昇温した際に、155℃以上に融解ピーク温度を有し、前記主収縮方向、及び、前記主収縮方向と直交する方向の伸度2%時の応力(F2値)が、共に24MPa以上」であり、「前記A層は、層を構成する全成分100質量%中に融点が150℃以上170℃以下であるポリプロピレン原料Aを90質量%以上含み、前記B層は、層を構成する全成分100質量%中に融点が50℃以上135℃以下であるポリプロピレン原料Bを15質量%以上95質量%以下含み、延伸フィルムである」のに対し、
甲1-1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に、金属蒸着層、または被覆層との接着強度を向上させるために第2の層が積層され、もう一方の面にプロピレン系共重合体からなるヒートシール性樹脂による第3の層が積層された」「3層積層フィルム」は、「主収縮方向の130℃、15分間処理後の熱収縮率」、「示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで20℃/分で昇温した際」の「融解ピーク温度」、「主収縮方向、及び、主収縮方向と直交する方向の伸度2%時の応力(F2値)」について、本件発明1で特定される数値範囲であるか不明であり、また、「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」が「層を構成する全成分100質量%中に融点が150℃以上170℃以下であるポリプロピレン原料Aを90質量%以上含」むものであるか、「プロピレン系共重合体からなるヒートシール性樹脂による第3の層」が「層を構成する全成分100質量%中に融点が50℃以上135℃以下であるポリプロピレン原料Bを15質量%以上95質量%以下含」むものであるか特定されていない点。
(ウ)相違点1について検討する。
a 甲1-1発明の「3層積層フィルム」は、「二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に、金属蒸着層、または被覆層との接着強度を向上させるために第2の層が積層され、もう一方の面にプロピレン系共重合体からなるヒートシール性樹脂による第3の層が積層された」ものであるが、「3層積層フィルム」のうち「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、メルトフローインデックス(MFR)が2.3g/10分、メソペンダット分率(mmmm)が92%であるホモポリプロピレンを使用するものであり、「25℃での長手方向のヤング率は4.3GPa、25℃での幅方向のヤング率は3.5GPa、25℃での長手方向のF2値は72MPa、120℃での長手方向の熱収縮率は4.0%」であるが、甲1-1には、ヒートシール性樹脂による第3の層も含めた「3層積層フィルム」としての、熱収縮率、融解ピーク温度及びF2値については、何ら記載されていない。
また、他の甲1-2?甲1-10にも、甲1-1発明の、第3の層も加えた「3層積層フィルム」としての熱収縮率、融解ピーク温度及びF2値が、本件発明1の数値範囲であることを示唆する記載はない。
b 申立人1は、甲1-1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」が、メルトフローインデックス(MFR)が2.3g/10分、メソペンダット分率(mmmm)が92%である公知のホモポリプロピレンを使用(参考例3)しており、甲1-3の記載も踏まえると、そのようなポリプロピレンフィルムの融点は163℃であるとし、本件発明1の融解ピーク温度に係る構成も備える旨(特許異議申立書33頁6?19行)主張するが、「示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで20℃/分で昇温」する条件下で測定した融解ピーク温度が、155℃以上であることを示すものではないし、ヒートシール性樹脂による第3の層も含めた「3層積層フィルム」の場合の融解ピーク温度についてまで示唆するものではない。
c また、申立人1は、甲1-1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」が、25℃での長手方向のF2は72MPaであり、長手方向のヤング率が4.3GPa、幅方向のヤング率が3.5GPa(参考例3)であるところ、参考例1のポリプロピレンフィルムの25℃での長手方向のヤング率が3.1GPa、長手方向のF2が48MPaであるから、参考例3のポリプロピレンフィルムの25℃での幅方向のF2が48MPa以上となるはずである旨(特許異議申立書33頁20?28行)主張するが、「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」単層のF2である上、ヤング率とF2が、相互に連関する関係にあることを示す証拠は提出されておらず、ましてや、ヒートシール性樹脂による第3の層も含めた「3層積層フィルム」の場合の「主収縮方向、及び、主収縮方向と直交する方向の伸度2%時の応力(F2値)」を意味するものではない。
d よって、相違点1のその余の相違について検討するまでもなく、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1-1発明、及び甲1-2?甲1-10に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(エ)以上より、本件発明1は、甲1-1発明、及び甲1-2?甲1-10に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 本件発明2について
(ア)本件発明2と甲1-1発明を対比する。
本件発明2の「少なくともA層とB層からなる積層構成」の「ポリプロピレンフィルム」と、甲1-1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に、金属蒸着層、または被覆層との接着強度を向上させるために第2の層が積層され、もう一方の面にプロピレン系共重合体からなるヒートシール性樹脂による第3の層が積層された」「3層積層フィルム」とは、ポリプロピレンの層を2層積層したフィルムという限りにおいて一致する。
(イ)そうすると、本件発明2と甲1-1発明とは、「ポリプロピレンの層を2層積層したフィルム」で一致し、次の相違点2で相違する。
《相違点2》
「ポリプロピレンの層を2層積層したフィルム」であることに関して、
本件発明2の「少なくともA層とB層からなる積層構成」の「ポリプロピレンフィルム」が、「主収縮方向の130℃、15分間処理後の熱収縮率が4%以上、30%以下であり、示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで20℃/分で昇温した際に、155℃以上に融解ピーク温度を有し、前記主収縮方向の厚み斑が2.0%以下」であり、「前記A層は、層を構成する全成分100質量%中に融点が150℃以上170℃以下であるポリプロピレン原料Aを90質量%以上含み、前記B層は、層を構成する全成分100質量%中に融点が50℃以上135℃以下であるポリプロピレン原料Bを15質量%以上95質量%以下含み、延伸フィルムである」のに対し、
甲1-1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に、金属蒸着層、または被覆層との接着強度を向上させるために第2の層が積層され、もう一方の面にプロピレン系共重合体からなるヒートシール性樹脂による第3の層が積層された」「3層積層フィルム」は、「主収縮方向の130℃、15分間処理後の熱収縮率」、「示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで20℃/分で昇温した際」の「融解ピーク温度」、「主収縮方向の厚み斑」について、本件発明2で特定される数値範囲であるか不明であり、また、「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」が「層を構成する全成分100質量%中に融点が150℃以上170℃以下であるポリプロピレン原料Aを90質量%以上含」むものであるか、「プロピレン系共重合体からなるヒートシール性樹脂による第3の層」が「層を構成する全成分100質量%中に融点が50℃以上135℃以下であるポリプロピレン原料Bを15質量%以上95質量%以下含」むものであるか特定されていない点。
(ウ)相違点2について検討する。
a 上記ウ(ウ)aで述べたように、甲1-1には、ヒートシール性樹脂による第3の層も含めた「3層積層フィルム」としての、熱収縮率及び融解ピーク温度について、何ら記載されていないし、他の甲1-2?甲1-10にも、甲1-1発明の、第3の層も含めた「3層積層フィルム」としての熱収縮率及び融解ピーク温度が、本件発明2の数値範囲であることを示唆する記載はない。
b 本件発明2の「主収縮方向の厚み斑が2.0%以下」との事項は、「フィルム面内の特定の方向において高い熱収縮性を持つにも関わらず、高温でのフィルムの平面性が良好である」(本件明細書の段落【0007】)との課題の解決のため、熱収縮率が最も高い方向である「主収縮方向に50mm毎にマイクロ厚み計で厚みを測定し、最大値、最小値、平均値を用いて」求めた「厚み斑」が、「2.0%以下」であるとするものである(本件明細書の段落【0060】)。
一方、甲1-1発明の「3層積層フィルム」は、「基層となる二軸延伸ポリプロピレンフィルムの熱寸法安定性」(甲1-1【0012】)を解決すべき課題とするものであり、この「熱寸法安定性」は、甲1-1の「本発明の基層に用いる二軸延伸ポリプロピレンフィルムの120℃での長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率の和は、8%以下であることが好ましい。120℃での長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率の和が8%を越えると、印刷、ラミネート、コーティングなどのフィルム加工時に温度を付加した際のフィルムの収縮が大きくなり、膜割れ(クラック)、ピッチずれ、シワ入りなどの工程不良を誘起することがある。」(【0101】)との記載からみて、印刷、ラミネート、コーティングなどのフィルム加工時に加熱した際のフィルムの収縮が小さいことを意味するものと解される。
このため、加熱した際のフィルムの長手方向、幅方向の収縮が小さいことを意図する甲1-1発明において、高温でのフィルムの主収縮方向の厚みの変化が小さいことを意図する「主収縮方向の厚み斑が2.0%以下」にする動機付けがない。
申立人1は、甲1-5(【0022】)に、ポリプロピレン積層フィルムの幅方向のフィルムの厚み変動率が1%であれば、実用上、十分優れたものであるとの記載があり、甲1-1発明への適用を主張するが、上述のように、甲1-1発明には、高温でのフィルムの主収縮方向の厚みの変化を小さいものにしようとする動機付けがないから、甲1-1発明に、甲1-5に記載された事項を適用することを、当業者が容易に想到し得たものとはいえず、申立人1の主張を採用できない。
c よって、相違点2のその余の相違について検討するまでもなく、相違点2に係る本件発明2の構成は、甲1-1発明、及び甲1-2?甲1-10に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(エ)以上より、本件発明2は、甲1-1発明、及び甲1-2?甲1-10に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明3?8について
本件発明3?8に係る発明は、いずれも、本件発明1又は2の発明特定事項を全て備えるものであるところ、上記ウ、エで述べたように、本件発明1、2は、甲1-1発明、及び甲1-2?甲1-10に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明3?8も、甲1-1発明、及び甲1-2?甲1-10に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ よって、申立人1の理由1-1には理由がない。

(2)理由2-1、理由2-2について
ア 甲2-1の記載事項
「[請求項1] ポリプロピレン樹脂を主体として構成された基材層(A)と、この基材層の片面または両面に積層されたポリオレフィン系のヒートシール層(B)とからなり、150℃でのMD方向およびTD方向の熱収縮率が10%以下であり、衝撃強度が0.6J以上であることを特徴とする延伸ポリプロピレン積層フィルム。」
「[0001] 本発明は、ヒートシール性ポリプロピレン積層延伸フィルムに関する。更に詳しくは、包装用途として使用するのに十分なヒートシール強度を有し、透明性が良好で、高温での寸法安定性や高い剛性が求められる様々な分野で好適に用いることができ、耐熱性、機械特性に優れた二軸延伸ヒートシール性ポリプロピレン積層延伸フィルムに関する。」
「[0009] 本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、150℃でPETに匹敵する低収縮率を有し、高温でヒートシール可能な延伸ポリプロピレン積層フィルムを提供することにある。」
「[0083] (実施例1)
2台の溶融押出機を用い、第1の押出機にて、ポリプロピレン樹脂として、Mw/Mn=7.7、Mz+1/Mn=140、MFR=5.0、[mmmm]=97.3%であるプロピレン単独重合体(日本ポリプロ(株)製:ノバテックPP「SA4L」)を基材層(A)とし、第2の押出機にて、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体(Pr-Et-Bu)(密度0.89g/cm^(3)、MFR4.6g/10分、融点128℃)を85重量%、プロピレン-ブテンランダム共重合体(Pr-Bu)(密度0.89g/cm^(3)、MFR9.0g/10分、融点130℃)を15重量%とした混合樹脂をヒートシール層(B)として、ダイス内にて基材層(A)/ヒートシール層(B)とるように、基材層(A)、ヒートシール層(B)の順にTダイ方式にて250℃でTダイよりシート状に溶融共押出し後、30℃の冷却ロールで冷却固化した後、135℃で長さ方向に4.5倍に延伸し、ついで両端をクリップで挟み、熱風オーブン中に導いて、170℃で予熱後、160℃で横方向に8.2倍に延伸し、ついでリラックスを6.7%させながら168℃で熱処理した。その後、フィルムの片面にコロナ処理を行い、ワインダーで巻き取った。こうして得られたフィルムの厚みは20μmであり、基材層、ヒートシール層の厚みがそれぞれ順に18μm、2μmである積層延伸フィルムを得た。表1、表2、表3に示すとおり、得られた積層延伸フィルムは本発明の要件を満足するものであり、熱収縮率が低く、十分なヒートシール強度と腰感、耐カール性を有するものであった。」
「[表3]


イ 甲2-1に記載された発明
上記記載から、甲2-1には、実施例1の積層延伸フィルムに基づく、次の「甲2-1発明」が記載されているといえる。
「2台の溶融押出機を用い、第1の押出機にて、ポリプロピレン樹脂として、Mw/Mn=7.7、Mz+1/Mn=140、MFR=5.0、[mmmm]=97.3%であるプロピレン単独重合体(日本ポリプロ(株)製:ノバテックPP「SA4L」)を基材層(A)とし、第2の押出機にて、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体(Pr-Et-Bu)(密度0.89g/cm^(3)、MFR4.6g/10分、融点128℃)を85重量%、プロピレン-ブテンランダム共重合体(Pr-Bu)(密度0.89g/cm^(3)、MFR9.0g/10分、融点130℃)を15重量%とした混合樹脂をヒートシール層(B)として、ダイス内にて基材層(A)/ヒートシール層(B)となるように、基材層(A)、ヒートシール層(B)の順にTダイ方式にて250℃でTダイよりシート状に溶融共押出し後、30℃の冷却ロールで冷却固化した後、135℃で長さ方向に4.5倍に延伸し、170℃で予熱後、160℃で横方向に8.2倍に延伸し、ついでリラックスを6.7%させながら168℃で熱処理し、その後、フィルムの片面にコロナ処理を行い、ワインダーで巻き取って得られたフィルムは、基材層、ヒートシール層の厚みがそれぞれ順に18μm、2μmである積層延伸フィルムであって、
150℃でのMD方向の熱収縮率は4.0%、150℃でのTD方向の熱収縮率は6.0%、23℃でのMD方向のヤング率は2.4GPa、23℃でのTD方向のヤング率は4.5GPaである、積層延伸フィルム。」
ウ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2-1発明を対比する。
本件発明1の「少なくともA層とB層からなる積層構成」の「ポリプロピレンフィルム」と、甲2-1発明の「プロピレン単独重合体(日本ポリプロ(株)製:ノバテックPP「SA4L」)を基材層(A)」と「プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体(Pr-Et-Bu)(密度0.89g/cm^(3)、MFR4.6g/10分、融点128℃)を85重量%、プロピレン-ブテンランダム共重合体(Pr-Bu)(密度0.89g/cm^(3)、MFR9.0g/10分、融点130℃)を15重量%のヒートシール層(B)」の「積層延伸フィルム」は、ポリプロピレンの層を2層積層した延伸フィルムという限りにおいて一致する。
甲2-1発明の「第2の押出機にて、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体(Pr-Et-Bu)(密度0.89g/cm^(3)、MFR4.6g/10分、融点128℃)を85重量%、プロピレン-ブテンランダム共重合体(Pr-Bu)(密度0.89g/cm^(3)、MFR9.0g/10分、融点130℃)を15重量%とした」「ヒートシール層(B)」は、本件発明1の「層を構成する全成分100質量%中に融点が50℃以上135℃以下であるポリプロピレン原料Bを15質量%以上95質量%以下含」む「B層」に相当する。
(イ)そうすると、本件発明1と甲2-1発明とは、「ポリプロピレンの層を2層積層した延伸フィルム」で一致し、次の相違点3で相違する。
《相違点3》
本件発明1の「ポリプロピレンフィルム」が、「主収縮方向の130℃、15分間処理後の熱収縮率が4%以上、30%以下であり、示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで20℃/分で昇温した際に、155℃以上に融解ピーク温度を有し、前記主収縮方向、及び、前記主収縮方向と直交する方向の伸度2%時の応力(F2値)が、共に24MPa以上であり」、A層とB層からなる積層構成のうち「A層は、層を構成する全成分100質量%中に融点が150℃以上170℃以下であるポリプロピレン原料Aを90質量%以上含」むものであるのに対し、
甲2-1発明の「積層延伸フィルム」は、「主収縮方向の130℃、15分間処理後の熱収縮率」、「示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで20℃/分で昇温した際」の「融解ピーク温度」、「主収縮方向、及び、主収縮方向と直交する方向の伸度2%時の応力(F2値)」について、本件発明1で特定される数値範囲か不明であり、「基材層(A)」が「層を構成する全成分100質量%中に融点が150℃以上170℃以下であるポリプロピレン原料Aを90質量%以上含」むものであるか不明である点。
(ウ)上記相違点3について検討する。
a 相違点3の「主収縮方向の130℃、15分間処理後の熱収縮率」に係る相違について検討する。
甲2-1発明の「積層延伸フィルム」の「150℃でのMD方向の熱収縮率は4.0%、150℃でのTD方向の熱収縮率は6.0%」である。また、甲2-1には、甲2-1発明の熱収縮率以外にも、150℃でのMD、TD方向の熱収縮率として、2.8?8.8%(実施例2?6)、16?38%(比較例1?3)が示されている。
しかし、これらの熱収縮率が、「主収縮方向の130℃、15分間処理後の熱収縮率」が「4%以上、30%以下」の範囲内になるとは必ずしもいえないし、この範囲内になることを示唆する証拠もない。
b 相違点3の「主収縮方向、及び、主収縮方向と直交する方向の伸度2%時の応力(F2値)」に係る相違について検討する。
甲2-1発明の「積層延伸フィルム」は、「23℃でのMD方向のヤング率は2.4GPa、23℃でのTD方向のヤング率は4.5GPa」であるが、甲2-1には、「主収縮方向、及び、主収縮方向と直交する方向の伸度2%時の応力(F2値)」について記載されておらず、示唆する記載もない。
申立人2は、この点について、特許異議申立書11頁で、甲2-2の「ヤング率とF2値には良い相関があり、(F2値)=15.8×(ヤング率)の近似式で表されます。」とし、「この近似式で計算すると、甲第1号証の実施例1?7、比較例1?3のフィルムのMD方向及びTD方向のF2値は28MPa?82MPaです。」と主張する。しかし、甲2-2は単層で、甲2-1とは別のフィルムであって、甲2-2のヤング率とF2値の関係を、別のフィルムである甲2-1のヤング率とF2値の関係に置き換えることはできないから、申立人2の上記主張は採用できない。
c よって、相違点3のその余の相違について検討するまでもなく、相違点3は実質的な相違点であり、本件発明1は甲2-1発明ではない。
d また、相違点3に係る本件発明1の構成は、甲2-1発明及び甲2-2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件発明1は、甲2-1発明及び甲2-2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明2について
(ア)本件発明2と甲2-1発明を対比すると、本件発明2と甲2-1発明とは、「ポリプロピレンの層を2層積層した延伸フィルム」で一致し、次の相違点4で相違する。
《相違点4》
本件発明2の「ポリプロピレンフィルム」が、「主収縮方向の130℃、15分間処理後の熱収縮率が4%以上、30%以下であり、示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで20℃/分で昇温した際に、155℃以上に融解ピーク温度を有し、前記主収縮方向の厚み斑が2.0%以下であり」、A層とB層からなる積層構成のうち「A層は、層を構成する全成分100質量%中に融点が150℃以上170℃以下であるポリプロピレン原料Aを90質量%以上含」むものであるのに対し、
甲2-1発明の「積層延伸フィルム」は、「主収縮方向の130℃、15分間処理後の熱収縮率」、「示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで20℃/分で昇温した際」の「融解ピーク温度」、「主収縮方向の厚み斑」について、本件発明2で特定される数値範囲か不明であり、「基材層(A)」が「層を構成する全成分100質量%中に融点が150℃以上170℃以下であるポリプロピレン原料Aを90質量%以上含」むものであるか不明である点。
(イ)上記相違点4について検討する。
a 相違点4の「主収縮方向の130℃、15分間処理後の熱収縮率」に係る相違については、上記ウ(ウ)aで検討したとおりである。
b 相違点4の「主収縮方向の厚み斑」に係る相違について検討する。
甲2-1([0055])には、「本発明の延伸ポリプロピレン積層フィルムの厚み均一性の下限は好ましくは0%であり、より好ましくは0.1%であり、さらに好ましくは0.5%であり、特に好ましくは1%である。厚み均一性の上限は好ましくは20%であり、より好ましくは17%であり、さらに好ましくは15%であり、特に好ましくは12%であり、最も好ましくは10%である。上記範囲だとコートや印刷などの後加工時に不良が生じにくく、精密性を要求される用途に用いやすい。」と記載されているが、「主収縮方向の厚み斑が2.0%以下」であるとは記載されていない。
申立人2は、特許異議申立書18頁で、「甲第1号証の実施例の層構成、原料組成及び製膜条件の記載は熱固定温度が少し高い以外は本願明細書に記載の層構成、原料組成及び製膜条件の記載範囲に含まれます。」とし、本件発明2の「ポリプロピレンフィルム」と甲2-1発明の「積層延伸フィルム」とは、「主収縮方向の厚み斑が2.0%以下」である点で相違しない旨主張する。
しかし、申立人2がいう甲第1号証(甲2-1)の実施例と、本件発明2に係る本件明細書の実施例とでは、原料組成が異なるものであるから、層構成や製膜条件が近似しているとしても、そのことをもって、「主収縮方向の厚み斑が2.0%以下」である点で相違しないことの根拠にはならないから、申立人2の上記主張は採用できない。
c よって、相違点4のその余の相違について検討するまでもなく、相違点4は実質的な相違点であり、本件発明2は甲2-1発明ではない。
d また、相違点4に係る本件発明2の構成は、甲2-1発明及び甲2-2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件発明2は、甲2-1発明及び甲2-2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明3、5、7について
本件発明3、5、7は、いずれも、本件発明1又は2の発明特定事項を全て備えるものであるところ、上記ウ、エで述べたように、本件発明1、2は、甲2-1発明ではなく、また、甲2-1発明及び甲2-2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明3、5、7も、甲2-1発明ではなく、また、甲2-1発明及び甲2-2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
カ よって、申立人2の理由2-1及び理由2-2には理由がない。

2.記載不備に係る申立理由について
(1)実施可能要件に係る申立理由
ア 明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることを要するものである(特許法第36条第4項第1号)。本件発明は、「ポリプロピレンフィルム」という物の発明であるところ、物の発明における発明の「実施」とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施をすることができるとは、その物を生産することができ、かつ、その物を使用することができることであると解される。
したがって、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、本件発明に係る「ポリプロピレンフィルム」を生産し、使用することができるのであれば、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものといえる。
イ 上記理由1-3ウの申立理由について検討する。
申立人1は、本件明細書に具体的に記載されているポリプロピレンフィルムとは異なる、本件発明のポリプロピレンフィルムを製造するためには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を行う必要がある旨主張する。
しかし、上記アで述べたように、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすためには、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、本件発明に係る「ポリプロピレンフィルム」を生産し、使用することができればよく、本件明細書の発明の詳細な説明を参照して、実施例1?6の記載に従い「ポリプロピレンフィルム」を生産でき、使用することができることが、当業者は理解できるといえるから、申立人1が主張するような、本件発明のポリプロピレンフィルムを製造するためには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を行う必要があるということはなく、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものといえる。
よって、理由1-3ウの申立理由には理由がない。
ウ 上記理由2-3エの申立理由について検討する。
申立人2は、甲2-1の実施例のフィルムは、本件発明1?3、5、7のフィルムである蓋然性が高く、甲2-1の実施例の層構成、原料組成及び製膜条件で作製されたフィルムが、本件発明のフィルムでない場合、本件発明のフィルムを作製するために、当業者に過度の試行錯誤を求めることとなる旨主張する。
しかし、本件明細書の発明の詳細な説明を参照して、実施例1?6の記載に従い「ポリプロピレンフィルム」を生産でき、使用することができることを当業者は理解でき、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
甲2-1の実施例のフィルムの原料や作製方法は、本件発明のものと近似しているとしても同じではなく、甲2-1の実施例の層構成、原料組成及び製膜条件で作製されたフィルムが本件発明のフィルムでないことと、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないこととは関係がない。
よって、理由2-3エの申立理由には理由がない。
エ 上記理由2-3オ、カの申立理由について検討する。
申立人2は、「本件明細書には、本件発明6の「長辺の長さが50μm以上となるフィッシュアイの個数が、20個/m^(2)以下である」ことを満足させるための実施可能な態様が記載されていない。」、「本件明細書には、本件発明4の「主収縮方向の130℃における熱収縮応力が1.0MPa以上であり、100℃における熱収縮応力が0.5MPa以下である」ことを満足させる方法が記載されていない。」旨主張する。
しかし、本件発明6の「長辺の長さが50μm以上となるフィッシュアイの個数が、20個/m^(2)以下である」ことを満足させるための実施可能な態様は、実施例1が「4個」、実施例2が「5個」のように、実施例1?6に示されている。
また、本件発明4の「主収縮方向の130℃における熱収縮応力が1.0MPa以上であり、100℃における熱収縮応力が0.5MPa以下である」ことを満足させる方法は、実施例1が「主収縮方向の130℃における熱収縮応力が2.3MPa、100℃における熱収縮応力が0.3MPa」、
実施例2が「主収縮方向の130℃における熱収縮応力が1.6MPa、100℃における熱収縮応力が0.1MPa」のように、実施例1?4に示されている。
よって、理由2-3オ、カの申立理由には理由がない。

3.サポート要件に係る申立理由について
ア 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定される要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ そこで、本件明細書の発明の詳細な説明を参照すると、以下の記載がある。
(ア)発明が解決しようとする課題
「【0004】
ところが、特許文献1?3のようにα-オレフィン系コポリマーを用いると、熱劣化や分散不良によりフィッシュアイが発生しやすく、ラベル用途や離型基材として用いるには不適な場合があった。また、特許文献4,5のように低融点のポリエチレン系樹脂やポリプロピレン樹脂を主な構成とした場合、製膜工程中や、巻取り後の保管時にフィルムが収縮し、製品ロールにシワが発生する場合や高温でフィルムの平面性が悪化する場合があった。
【0005】
そこで本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、高温熱収縮性に加え、高温での平面性及び品位に優れたポリプロピレンフィルムを提供することである。」
(イ)【発明を実施するための形態
「【0010】
本発明のポリプロピレンフィルムは、主収縮方向において、130℃、15分間処理後の熱収縮率が4%以上、30%以下である。130℃15分間処理後の熱収縮率が4%未満であると、例えば、本発明のフィルムに他の製品を貼合あるいは塗工して、本発明のフィルムを収縮させることにより製品に配向を付与するような、いわゆる熱収縮性基材として用いた場合、収縮後の製品の配向が不十分となる場合がある。一方、主収縮方向における130℃15分間熱処理後の熱収縮率が30%を超える場合には、収縮が大きすぎるためシワが発生したり、平面性が悪化し外観不良となったり、後述する100℃での寸法安定性が問題となることがある。・・・・」
「【0012】
本発明のポリプロピレンフィルムは、示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで20℃/分で昇温した際に、155℃以上に融解ピークを有する。示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで20℃/分で昇温した際の融解ピークの温度は、より好ましくは160℃以上であり、更に好ましくは165℃以上、最も好ましくは170℃以上である。融解ピーク温度が155℃未満である場合、高温での延伸、熱処理をすることが困難となるため、後述する100℃の15分間処理後の熱収縮率が増加する場合があり、製膜工程中や塗工工程、巻取り後の保管時に収縮し、平面性が低下するおそれがある。・・・・」
「【0015】
本発明のポリプロピレンフィルムは、主収縮方向、及び主収縮方向と直交する方向の伸度2%時の応力(以下、F2値ともいう)が、共に24MPa以上であることが好ましい。・・・・」
「【0016】
本発明のポリプロピレンフィルムは、巻き取り性の観点から主収縮方向の厚み斑が2.0%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。・・・・」
「【0021】
続いて、本発明のポリプロピレンフィルムに用いると好ましいポリプロピレン原料について説明する。 本発明のポリプロピレンフィルムには、少なくとも2種類のポリプロピレン原料(便宜的にこの2種類のポリプロピレン原料を各々、ポリプロピレン原料A、ポリプロピレン原料Bと称する)を用いることが好ましい。うち一つのポリプロピレン原料であるポリプロピレン原料Aは、フィルム表面の強度や滑り性を向上させるため結晶性の高いポリプロピレン原料であることが好ましい。一方、他の一つのポリプロピレン原料であるポリプロピレン原料Bは、フィルムの熱収縮性を向上させるため、結晶性や融点の低いポリプロピレン原料であることが好ましい。」
「【0024】
ポリプロピレン原料Aとして好ましく用いられるポリプロピレンは、融点が150℃以上であり、好ましくは155℃以上、さらに好ましくは160℃以上である。融点が150℃未満である場合、100℃15分間処理後の熱収縮率が大きくなり、製膜工程中や塗工工程、巻取り後の保管時にフィルムが収縮し、平面性が低下する恐れがある。融点の上限は特にないが、一般的に170℃が上限である。」
「【0027】
ポリプロピレン原料Bとして好ましく用いられるポリプロピレンは、融点が135℃以下であり、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。融点が135℃よりも高い場合、ポリプロピレンフィルムの収縮性が不十分となる場合がある。一方でポリプロピレン原料Bとして、好ましく用いられるポリプロピレンの融点は、50℃以上であることが好ましく、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは65℃以上である。融点が50℃未満である場合、得られるポリプロピレンフィルムは強度に乏しいものとなる場合がある。」
「【0036】
本発明のポリプロピレンフィルムを構成するA層は、熱収縮性の制御や滑り性の観点からA層の質量を100質量%としたとき、ポリプロピレン原料Aを90質量%以上含むことが好ましい。・・・・」
「【0039】
本発明のポリプロピレンフィルムを構成するB層は、B層の質量を100質量%としたとき、ポリプロピレン原料Bを10質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは25質量%以上である。ポリプロピレン原料Bが10質量%未満である場合、130℃、15分間処理後の熱収縮性が十分に得られない場合がある。一方、100℃、15分間処理後の寸法安定性が悪化する場合があることから、B層中のポリプロピレン原料Bの割合は、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。」
「【0048】
続いて、上記のようにして得られたキャストシートを二軸延伸することで、所望の強度、熱収縮特性を有するフィルムとする。二軸延伸の方法としては、インフレーション同時二軸延伸法、ステンター同時二軸延伸法、ステンター逐次二軸延伸法など、いずれの方法も選択できるが、製膜安定性、厚み均一性、フィルムの熱収縮性制御の観点からステンター逐次二軸延伸法を採用することが好ましく、MD方向へ延伸した後、TD方向への延伸を行うことが熱収縮性制御の観点から特に好ましい。」
ウ 上記記載から、ポリプロピレンフィルムに用いると好ましいポリプロピレン原料について、平面性を考慮して、ポリプロピレン原料Aとして好ましく用いられるポリプロピレンは、「融点が150℃以上」「170℃が上限」(段落【0024】)であり、「熱収縮性の制御や滑り性の観点からA層の質量を100質量%としたとき、ポリプロピレン原料Aを90質量%以上含む」(段落【0036】)こと、熱収縮性や強度を考慮して、ポリプロピレン原料Bとして好ましく用いられるポリプロピレンは、「融点が135℃以下」「50℃以上」(段落【0027】)であり、熱収縮性や寸法安定性のため「ポリプロピレンフィルムを構成するB層は、B層の質量を100質量%としたとき」、「より好ましくは15質量%以上」「好ましくは95質量%以下」(段落【0039】)であることが理解できる。
また、上記原料のポリプロピレンフィルムについて、熱収縮性基材として用いた場合の収縮後の製品の配向と平面性の改善のため、「主収縮方向において、130℃、15分間処理後の熱収縮率が4%以上、30%以下」(段落【0010】)とし、「100℃の15分間処理後の熱収縮率が増加する場合があり、製膜工程中や塗工工程、巻取り後の保管時に収縮し、平面性が低下するおそれがある」ことから「示差走査熱量計DSCで30℃から260℃まで20℃/分で昇温した際に、155℃以上に融解ピークを有」(段落【0012】)するものであることが理解できる。
そして、このポリプロピレンフィルムは、「主収縮方向、及び主収縮方向と直交する方向の伸度2%時の応力(以下、F2値ともいう)が、共に24MPa以上」(段落【0015】)であり、「主収縮方向の厚み斑が2.0%以下」(段落【0016】)である。
エ そうすると、発明の詳細な説明の上記記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定される要件に適合するものといえる。
オ 申立人1は、「本件明細書で具体的に効果の確認されたものは、実施例1?6の表層(最外層)がA層の場合であり、B層が表層(最外層)である場合を含む本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」(上記理由1-2ア)と主張する。
しかし、上記ウの理解からすると、本件発明の課題を解決し得るのが表層(最外層)がA層の場合に限るものとはいえない。
また、申立人1は、「実施例6の、A層がポリプロピレン樹脂原料A90質量部とポリプロピレン樹脂原料B10質量部の混合樹脂の場合、本件発明の課題である「フィルムの平面性」については平面性不良の箇所がみられ、「被着体への転写評価」についても弱い凹凸が確認されるとの評価であり、課題が解決されたとはいえないものであり、そのような樹脂を含む本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張できる合理的な根拠は見いだせない。」(上記理由1-2イ)と主張する。
しかし、比較例1?3と違い、実施例6のものは、「フィルムの平面性」と「被着体への転写評価」のいずれについても、最低評価の「3kg/m幅のテンションでも平面性不良の箇所が消えないもの」、「強い凹凸が確認される」というものではなく、従来のものより改善しているといえる。
よって、申立人1の理由1-2には理由がない。
カ 申立人2は、「発明の詳細な説明の段落【0038】?【0040】にはB層の原料組成に関する記載があるが、そこにはB層に関する本件発明1の「前記B層は、層を構成する全成分100質量%中に融点が50℃以上135℃以下であるポリプロピレン原料Bを15質量%以上95質量%以下含み」との事項に関する説明がなく、本件発明は発明の詳細な説明に記載された内容を超えるものである。」(上記理由2-4キ)と主張する。
しかし、上記ウで述べたように、発明の詳細な説明には、熱収縮性や強度を考慮して、ポリプロピレン原料Bとして好ましく用いられるポリプロピレンは「融点が135℃以下」「50℃以上」(段落【0027】)であり、熱収縮性や寸法安定性のため「ポリプロピレンフィルムを構成するB層は、B層の質量を100質量%としたとき」、「より好ましくは15質量%以上」「好ましくは95質量%以下」(段落【0039】)と記載されており、本件発明が発明の詳細な説明に記載された内容を超えるものではない。
よって、申立人2の理由2-4には理由がない

3.むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-07-30 
出願番号 特願2019-558651(P2019-558651)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08J)
P 1 651・ 121- Y (C08J)
P 1 651・ 113- Y (C08J)
P 1 651・ 536- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 河内 浩志岩田 行剛  
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 村山 達也
井上 茂夫
登録日 2020-08-24 
登録番号 特許第6753541号(P6753541)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 ポリプロピレンフィルム、および離型用フィルム  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
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