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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
管理番号 1376774
異議申立番号 異議2020-700930  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-01 
確定日 2021-08-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6704098号発明「硫化物系化合物粒子、固体電解質及びリチウム二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6704098号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6704098号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2019年(令和1年)9月3日(優先権主張2018年9月4日、日本(JP))を国際出願日とする特願2020-501578号であって、令和2年5月13日にその特許権の設定登録がなされ、同年6月3日にその特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許について、同年12月1日付けで、特許異議申立人前田しのぶ(以下、「申立人」という。)により、請求項1?6(全請求項)に係る本件特許に対して特許異議の申立てがなされ、当審は、令和3年3月29日付けで取消理由を通知した。それに対し、特許権者により、同年5月27日に意見書が提出されたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。また、これらを総称して「本件発明」という。)は、本件特許に係る願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された、次のとおりのものである。

「【請求項1】
リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)を含むアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系化合物粒子であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布によるD50が50μm以下であり、中性子回折測定により算出されるS3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上である硫化物系化合物粒子。
【請求項2】
ハロゲン(Ha)として、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)及びヨウ素(I)のうちの一種又は二種以上を含む、請求項1に記載の硫化物系化合物粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の硫化物系化合物粒子を含有する固体電解質。
【請求項4】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布によるD50が50μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の固体電解質。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の固体電解質と、正極活物質及び/又は負極活物質とを含むことを特徴とするリチウム二次電池用の電極材。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の固体電解質を含む層を備えたリチウム二次電池。」

第3 申立理由の概要
1 申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記甲第1?7号証を提出して、以下の申立理由1?3により、請求項1?6に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(新規性進歩性)
本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証?甲第7号証に記載された周知の事項を参酌した結果、実質的な相違があるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、同発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである(取消理由として一部採用)。

(2)申立理由2(進歩性)
本件発明3?6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第7号証に記載された周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである(取消理由として一部採用)。

(3)申立理由3(サポート要件)
本件発明の課題を解決できることが示されたのは、実施例1、2のS3(4a)サイトにおける硫黄(S)とハロゲン(Ha)との占有率が85%以上であり、異相を含まない硫化物系化合物粒子のみであるから、本件特許明細書の記載からS3(4a)サイトにおける硫黄(S)とハロゲン(Ha)との占有率が85%以上であることのみを規定し、異相を含まないことは規定していない本件発明1まで、拡張ないし一般化することはできない。
したがって、本件発明1及びこれを引用する本件発明2?6は、本件特許明細書に開示された発明の範囲を超えているので、これら本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである(取消理由として採用)。

2 証拠方法
甲第1号証:Marvin A. KRAFT et.al., 「Influence of Lattice Polarizability on the Ionic Conductivity in the Lithium Superionic Argyrodites Li_(6)PS_(5)X (X=Cl,Br,I)」, JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY, 2017, Vol 139, p. 10909-10918
甲第1号証の2:Supporting Information - On the influence of lattice polarizability on the ionic conductivity in the lithium superionic argyrodites Li_(6)PS_(5)X (X=Cl,Br,I)
甲第2号証:国際公開第2018/003333号
甲第3号証:特開2017-10936号公報
甲第4号証:特開2017-117753号公報
甲第5号証:特開2017-142948号公報
甲第6号証:特開2015-179673号公報
甲第7号証:技術情報協会編、全固体電池のイオン伝導性向上技術と材料、製造プロセスの開発(第1版)、株式会社技術情報協会、2017年、22?28頁

なお、上記甲第1号証?甲第7号証をそれぞれ「甲1」?「甲7」ということがある。

第4 特許権者の主張
1 特許権者は、意見書において、証拠方法として下記乙第1?2号証を提出して、下記第6の取消理由1?4によっては、本件発明1?6を取り消すことができない旨主張している。

2 証拠方法
乙第1号証:国際公開第2018/047566号
乙第2号証:本願明細書における比較例2のX線回折パターン

なお、上記乙第1号証?乙第2号証をそれぞれ「乙1」?「乙2」ということがある。

第5 取消理由の概要
令和3年3月29日付けで当審から通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

1 取消理由1(新規性進歩性)について(申立理由1の一部を採用)
本件発明1?4は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定する要件に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明と甲2?甲3に記載された周知事項に基いて、当業者が容易に想到できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消すべきものである。

2 取消理由2(進歩性)について(申立理由2の一部を採用)
本件発明5?6は、甲1に記載された発明及び甲2?甲3、甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消すべきものである。

3 取消理由3(サポート要件)について(申立理由3を採用)
本件発明1及びこれを引用する本件発明2?6は、本件特許明細書に開示された発明の範囲を超えているので、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

4 取消理由4(委任省令要件)について(職権で採用)
本件明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号の規定による委任省令で定めるところにより記載されたものではないから、本件発明1?6に係る特許は、取り消されるべきものである。

第6 甲各号証及び乙各号証の記載
1 甲1に記載された事項と発明
ア 甲1は、「Influence of Lattice Polarizability on the Ionic Conductivity in the Lithium Superionic Argyrodites Li_(6)PS_(5)X (X=Cl,Br,I)(当審訳:リチウム超イオン性アルジロダイトLi_(6)PS_(5)X(X=Cl、Br、I)のイオン伝導度に対する格子分極率の影響」と題する論文であり、以下の事項が記載されている(なお、「…」は記載の省略を表し、下線は当審が付したものである。以下同様。)。

ア1「

」(第10909頁第1?9行)
(当審訳:要約:固体電池のための新規な固体電解質の調査において、チオリン酸イオン伝導体は、イオン伝導度が高く、近年注目されている。この高いイオン伝導度は、より柔らかく、より分極可能なアニオン骨格に由来すると考えられる。…本研究では、ハロゲン化物アニオン(X=Cl、Br、I)の占有率を制御することによって、超イオン性アルジロダイトLi_(6)PS_(5)Xのアニオン骨格の分極率を系統的に変化させた。」

ア2「

」(第10910頁右欄第11行?第10911頁左欄下から20行)
(当審訳:2.実験方法
合成.Li_(6)PS_(5)X(X=Cl、Cl_(0.25)Br_(0.75)、Cl_(0.5)Br_(0.5)、Cl_(0.75)Br_(0.25)、Br、Br_(0.75)I_(0.25)、Br_(0.5)I_(0.5)、Br_(0.25)I_(0.75)、I)に対するすべての調製と試料処理をアルゴン雰囲気下で行った。硫化リチウム(Li_(2)S,Sigma-Aldrich、99.98%)、五硫化リン(P_(2)S_(5)、Sigma-Aldrich、99%)、LiCl(ChemPur、99.99%)、LiBr(ChemPur、99.995%)及びLiI(Alpha Aesar、99.995%)を、適切な化学量論比で混合した。全ての混合物を、乳鉢を用いて手で粉砕し、ペレットにプレスし、次いで石英アンプル(内径10mm、長さ10-12cm)に充填し、減圧下で密封した。全てのアンプルは、反応雰囲気中の全ての微量の水を回避するために、真空下において800℃で炭素コーティングし、かつ予熱した。反応は、完全な反応および相純度を保証するために、550℃で2週間行った。…
中性子線回折測定.…
リートベルト解析.…
シンクロトロン二体分布関数(PDF)解析.…」

ア3「

」(第10913頁左欄下から15?下から12行)
(当審訳:図3は、中性子回折データおよびX線PDFに対する解析から得られた全ての構造データを示す。解析されたすべての構造データは、Supporting Informationにおいて、さらに表を参照することができる。」

ア4「

」(第10913頁右欄下から27?下から23行)
(当審訳:図3cは、Wyckoff位置4cにおけるXとSの間の得られたサイトの乱れ(ディスオーダー)を示し、ここで示された乱れのパーセンテージは、S^(2-)サイト上のすべてのX^(-)の全割合を表す。Cl、Br及びIの個々の占有は、Supporting Informationで確認できる。」

ア5「

」(Supporting Information、第S9頁)
(当審訳:表S8.中性子回折のリートベルト精密解析から得られたLi_(6)PS_(5)Cl_(0.5)Br_(0.5)の結晶学的データ(原子の配位、占有率およびU_(iso)))

イ 上記ア1には、アルジロダイト型結晶構造を有するLi_(6)PS_(5)X(X=Cl、Br、I)が固体電池のための固体電解質として注目されていることが記載されている。

ウ 上記ア2には、アルジロダイト型結晶構造を有する9種類のLi_(6)PS_(5)X(X=Cl、Cl_(0.25)Br_(0.75)、Cl_(0.5)Br_(0.5)、Cl_(0.75)Br_(0.25)、Br、Br_(0.75)I_(0.25)、Br_(0.5)I_(0.5)、Br_(0.25)I_(0.75)、I)を合成し、中性子線回折測定、リートベルト解析、X線回折測定によるPDF解析を実施したことが記載されている。
そして、通常、中性子線回折測定やX線回折測定は、試料を粉末の状態にして測定する分析方法であるから、合成して得られた上記Li_(6)PS_(5)X(X=Cl、Cl_(0.25)Br_(0.75)、Cl_(0.5)Br_(0.5)、Cl_(0.75)Br_(0.25)、Br、Br_(0.75)I_(0.25)、Br_(0.5)I_(0.5)、Br_(0.25)I_(0.75)、I)の各試料は、粉末、すなわち粒子の状態と認められる。

エ 上記ア3?ア4によれば、合成したアルジロダイト型結晶構造を有する9種類のLi_(6)PS_(5)Xである化合物の結晶構造に関するデータ(各結晶サイトにおけるCl、Br及びIやSの占有率を含む)は、Supporting Informationに記載されていることがわかる。

オ そして、上記ア5の表S8は、Supporting InformationにおいてLi_(6)PS_(5)Cl_(0.5)Br_(0.5)の中性子線回折測定のリートベルト解析の結果を示すものである。当該表には、Li_(6)PS_(5)Cl_(0.5)Br_(0.5)の試料において、4aのWyckoffサイト、すなわち4aサイト、を占有している元素はCl、Br、Sであり、それぞれの4aサイトの占有率は、表中の「Occ.」欄に表示されているとおり、0.289、0.203、0.508であることが記載されている。
そして、Cl、Br、Sの上記占有率を合計すると、0.289+0.203+0.508=1.000であり、中性子線回折測定により算出される4aサイトにおける、Cl、Br、Sの占有率は100%といえる。

カ 上記イ?オの検討を踏まえると、甲1には、次の粒子が記載されているものと認められる(以下「甲1発明A」という。)。

「アルジロダイト型結晶構造を有するLi_(6)PS_(5)Cl_(0.5)Br_(0.5)粒子であって、中性子線回折測定により算出される4aサイトにおける、Cl、Br、Sの占有率が100%である粒子。」

また、上記イ?オの検討を踏まえると、甲1には、次の固体電解質が記載されているものと認められる(以下「甲1発明B」という。)。

「甲1発明Aのアルジロダイト型結晶構造を有するLi_(6)PS_(5)Cl_(0.5)Br_(0.5)粒子を含有する固体電解質。」

2 甲2に記載された事項
「[0017]<本固体電解質>
本発明の実施形態の一例に係るリチウム二次電池用硫化物系固体電解質(「本固体電解質」と称する)は、リチウム、リン、硫黄及びハロゲンを含み、立方晶系Argyrodite型結晶構造を有する化合物(「本コア化合物」とも称する)の表面が、リチウム、リン及び硫黄を含む非Argyrodite型結晶構造を有する化合物(「本表面化合物」とも称する)で被覆されてなる構成を備えたリチウム二次電池用硫化物系固体電解質である。
[0018] 本固体電解質は、粉末状の粒子であるのが好ましく、その粒径に関しては、スラリー状にして電池作製するときの塗工のし易さの観点から、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積累積粒径D50が50μm以下であるのが好ましく、中でも30μm以下、その中でも10μm以下であるのがさらに好ましい。」
「[0041]<本固体電解質の用途>
本固体電解質は、全固体型リチウム二次電池の固体電解質層や、正極・負極合材に混合する固体電解質として使用できる。
電池の形状としては、例えば、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。」

3 甲3に記載された事項
「【0042】
〔結晶性硫化物固体電解質〕
本発明の結晶性硫化物固体電解質は、上述の製造方法により製造されたものである。本発明の結晶性硫化物固体電解質は、リチウム元素、リン元素、及び硫黄元素を含み、アルジロダイト結晶構造を有するもの、また、更にハロゲン元素を含むもの、すなわちリチウム元素、リン元素、硫黄元素、及びハロゲン元素を含み、アルジロダイト結晶構造を有するものである。上記結晶性硫化物固体電解質を構成する元素の種類は、例えば、ICP発光分析装置により確認できる。」
「【0049】
本発明の結晶性硫化物固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。粒子状の結晶性硫化物固体電解質の平均粒径(D_(50))は、例えば、0.1μm?50μmの範囲内であることが好ましい。平均粒径(D_(50))は、粒子径分布積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の50%に達するところの粒子径であり、体積分布は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。」

4 甲6に記載された事項
「【請求項1】
固体電解質を含む電解質層、正極活物質と固体電解質を含む正極層、及び負極活物質と固体電解質を含む負極層の内、少なくとも前記電解質層を備える固体リチウム電池の製造方法であって、
前記固体電解質の平均粒径は0.05?20μmの範囲であり、
前記電解質層、前記正極層、及び前記負極層の内、少なくとも前記電解質層を静電スクリーン印刷により形成する段階を含むことを特徴とする固体リチウム電池の製造方法。」
「【0015】
[固体リチウム電池の一実施形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかる固体リチウム電池の概略断面図を示している。
図1において、本実施形態の固体リチウム電池10は、正極用集電体11、正極層12、無機固体電解質層13、負極層14及び負極用集電体15などを備えており、正極層12、無機固体電解質層13及び負極層14が、静電スクリーン印刷により形成された構成としてある。また、固体リチウム電池10は、正極用集電体11、正極層12、無機固体電解質層13、負極層14及び負極用集電体15が、最終的にこの順となるように、重ね合わされている。
なお、固体リチウム電池10は、通常、リチウム二次電池であるが、リチウム一次電池であってもよい。」

5 乙1に記載された事項
「[0094]実施例1
製造例1で製造したLi_(2)S(純度98.5%)、五硫化二リン(P_(2)S_(5):サーモフォス社製、純度99.9%以上)、塩化リチウム(LiCl:シグマアルドリッチ社製、純度99%)及び臭化リチウム(LiBr:シグマアルドリッチ社製、純度99%)を出発原料に用いた(以下、全ての実施例において、各出発原料の純度は同様である)。Li_(2)S、P_(2)S_(5)、LiCl及びLiBrのmol比(Li_(2)S:P_(2)S_(5):LiCl:LiBr)が1.9:0.5:1.0:0.6となるように、各原料を混合した。具体的には、硫化リチウム0.447g、0.569g、0.217g、0.267gを混合し、原料混合物とした。
[0095] 原料混合物と、直径10mmのジルコニア製ボール30gとを遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P?7)のジルコニア製ポット(45mL)に入れ、完全密閉した。ポット内はアルゴン雰囲気とした。遊星型ボールミルで回転数を370rpmにして15時間処理(メカニカルミリング)し、ガラス状の粉末(中間体)を得た。
[0096] 上記中間体の粉末約1.5gをAr雰囲気下のグローブボックス内で、タンマン管(PT2,東京硝子機器株式会社製)内に詰め、石英ウールでタンマン管の口を塞ぎ、さらにSUS製の密閉容器で大気が入らないよう封をした。その後、密閉容器を電気炉(FUW243PA、アドバンテック社製)内に入れ熱処理した。具体的には、室温から430℃まで2.5℃/minで昇温し(約3時間で430℃に昇温)、430℃で8時間保持した。その後、徐冷し、硫化物固体電解質を得た。」
「[0102]比較例1
実施例1と同じ原料を、シュレンク瓶に入れ、手で振盪させて混合した。得られた原料混合物を、実施例1と同様にして430℃で8時間熱処理して、硫化物固体電解質を得た。
硫化物固体電解質を実施例1と同様にして評価した。結果を表5?8に示す。
比較例1では、熱処理前の原料混合が不十分であるため、熱処理してもハロゲンが分散せず、結果として、アルジロダイト型結晶構造中のサイトへのハロゲンの導入が不十分になったと推定される。」

6 乙2に記載された事項




第7 当審の判断
1 取消理由1(新規性進歩性)、取消理由2(進歩性)について
ア 特許権者が提出した意見書を参照すれば、乙1と甲1の記載を根拠として次のことがいえる。

イ 甲1の2の表S1?S14は、「Li_(6)PS_(5)Cl_(0.5)Br_(0.5)」を含む組成の異なる14の化合物の解析結果を示しており、各表の「Occ.」欄に表示された4aサイトにおけるCl、Br、I、Sの占有率を抜粋し表にすると以下のとおりである。

そして、各化合物の4aサイトにおけるCl、Br、I、Sの合計は、表の有効数字の桁数で表して全て1.000となっている。ここで、甲1の表S1?S14の「Occ.」欄に表示された占有率が、本件発明同様、欠損の生じた4aサイトを考慮した、すなわち、各元素が同サイトを占める割合と欠損率の合計を100%として算出した値であると仮定すると、甲1の組成の異なる14の化合物の4aサイトの欠損率は、0%となる。

ウ 上記第5の1で摘記したア2の記載より、甲1の「アルジロダイト型結晶構造を有するLi_(6)PS_(5)Cl_(0.5)Br_(0.5)粒子」の合成方法においては、Li_(2)S、P_(2)S_(5)、LiCl、LiBr、LiIを、適切な化学量論比で混合して、乳鉢を用いて手で粉砕し、ペレットにプレスし、石英アンプルに充填し、減圧下で密封し、熱処理しているが、上記第5の5で乙1から摘記した記載からすると、ボールミルや二軸混練機のような機械的エネルギーによる原料混合では無く、甲1のように手による原料混合の場合、4aサイト等のアルジロダイト型結晶構造の各サイトへのハロゲンの導入が不十分になることがある。

エ 甲1の表S8には、「7.0%Li_(3)PO_(4);0.2%LiCl」と記載されていることから、試料は、目的としているアルジロダイト型結晶構造を有するLi_(6)PS_(5)Cl_(0.5)Br_(0.5)以外に「Li_(3)PO_(4)」及び「LiCl」を不純物として含有していることがわかる。

オ 上記イ?エによれば、甲1の表S8の「Occ.」欄に表示された占有率は、本件発明の占有率とは異なり、4aサイトの欠損を考慮せずに、すなわち、各元素が同サイトを占める割合の合計を100%として算出した値と解するのが自然である。
よって、甲1発明の「アルジロダイト型結晶構造を有するLi_(6)PS_(5)Cl_(0.5)Br_(0.5)粒子」において、「Cl、Br、Sの占有率が100%」とは、欠損を含まずに算出された占有率であって、欠損を考慮した場合の「Cl、Br、Sの占有率」は不明であるから、甲1発明が、本件発明1の「中性子回折測定により算出されるS3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上」を満たす蓋然性が高いということはできない。

カ そのため、本件発明1と甲1発明Aの一致点と相違点は次のとおりとなる。

〈一致点〉
「リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)を含むアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系化合物粒子。」

〈相違点〉
・本件発明1の硫化物系化合物粒子は、「レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積粒度分布によるD50が50μm以下」であるのに対し、甲1発明AのLi_(6)PS_(5)Cl_(0.5)Br_(0.5)粒子は、その粒径が特定されていない点(以下、「相違点1」という。)。
・本件発明1の硫化物系化合物粒子は、各元素が同サイトを占める割合と欠損率の合計を100%として算出した占有率である「中性子回折測定により算出されるS3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上」であるのに対し、甲1発明AのLi_(6)PS_(5)Cl_(0.5)Br_(0.5)粒子は、4aサイトの欠損を考慮せずに、各元素が同サイトを占める割合の合計を100%として算出した占有率である「中性子線回折測定により算出される4aサイトにおける、Cl、Br、Sの占有率が100%」である点(以下、「相違点2」という。)。

キ 事案を鑑み、まず、相違点2について検討する。
上記ウ?エに記載した、甲1の硫化物系化合物粒子の合成方法や当該粒子の含有する不純物を考慮すると、甲1発明Aの「硫化物系化合物粒子」が「中性子回折測定により算出されるS3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上」を満たす蓋然性が高いとはいえないから、上記相違点2は実質的な相違点である。

ク そこで、上記相違点2について甲1?甲3、甲6の記載を参照して検討するに、当該甲号証のいずれにおいても、「中性子回折測定により算出されるS3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上である硫化物系化合物粒子」を明示的に記載しているものはないし、「中性子回折測定により算出されるS3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上」とすることについて示唆されているとはいえないから、甲1発明Aにおいて、上記相違点2に係る本件発明1の特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易になし得ることであるということはできない。

ケ 以上のとおり、本件発明1は甲1発明Aと相違点2において相違しているから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明Aと同一ではない。また、甲1発明Aにおいて、甲1?甲3、甲6の記載に基いて、相違点2に係る本件発明1の特定事項を備えたものとすることが、当業者にとって容易になし得ることであるということもできない。
また、本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項の全てを備えている本件発明2?4は、甲1発明Aと少なくとも相違点2において相違しているから、本件発明2?4も甲1発明Aと同一ではない。
さらに、本件発明1を引用することによって、相違点2に係る本件発明1の特定事項を備えている本件発明2?6についても、甲1発明Aにおいて、甲1?甲3、甲6の記載に基いて、相違点Bに係る本件発明1の特定事項を備えたものとすることが、当業者にとって容易になし得ることであるということはできない。

コ したがって、取消理由1又は取消理由2によって、本件発明1?6を取り消すことはできない。

2 取消理由3(サポート要件)について
(1)令和3年3月29日付けで通知したサポート要件についての取消理由の内容は、以下のとおりである。
ア 本件明細書には以下の記載がある。
「【0007】
上記のような硫化物系固体電解質材料、中でもアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系化合物は、イオン伝導率が高い反面、大気中の水分に触れると硫化水素ガスを発生する可能性がある。そのため、超低露点の不活性ガスが常時供給されるドライルームのような限られた環境下で扱う必要ある、という課題を抱えていた。特に、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系化合物粒子の粒径を、リチウム二次電池の固体電解質として好ましい50μm以下にまで微粒化すると、硫化水素ガスの発生が顕著に多くなる傾向があるため、取り扱いがより一層困難であるという課題を抱えていた。
【0008】
そこで本発明は、微粒化されたリチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)を含むアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系化合物粒子に関し、大気中の水分に触れても硫化水素ガスの発生を抑制することができる、新たな硫化物系化合物粒子を提供せんとするものである。」

イ 上記アの記載によれば、本件発明が解決しようとする課題(以下「課題」という。)は、リチウム二次電池の固体電解質として好ましい50μm以下にまで微粒化されていても、大気中の水分に触れても硫化水素ガスの発生を抑制することができる、リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)を含むアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系化合物粒子を提供することと認められる。

ウ 一方、本件発明1には、「リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)を含むアルジロダイト型結晶構造を有する」こと、「中性子回折測定により算出されるS3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上である硫化物系化合物粒子」であることが特定されている。しかしながら、硫化物系化合物粒子が有するアルジロダイト型結晶構造以外の結晶相の存在について何ら特定されていない本件発明1であっても、上記課題を解決し得るものということができるのか、以下検討する。

エ 上記課題に関して、本件明細書には以下の記載がある。
「【0017】
本硫化物系化合物粒子は、主相として上記アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含んでいれば、当該結晶相の単相からなるものであっても、これとは異なる相(これを「異相」とも称する)を含んでいてもよい。もちろん、当該異相を含んでいなくてもよい。
当該異相としては、例えばLi_(3)PS_(4)、ハロゲン化リチウムなどを挙げることができる。
なお、「主相」とは、当該粒子を構成する化合物のうち、最も含有割合(mol比率)の大きな化合物の意味であり(後も同様)、主相であるか否かは、X線回折(XRD)パターンの解析によって含有割合を算出して判定することができる。よって、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相の含有割合は、本硫化物系化合物粒子を構成する全結晶相に対して、60質量%以上であることが好ましく、中でも70質量%以上であることが好ましく、中でも80質量%以上であることが好ましく、その中でも90質量%以上であることが好ましい。」
「【0023】
(中性子回折)
本硫化物系化合物粒子を構成するアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系化合物は、中性子回折測定により算出されるS3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上であるものが好ましい。
中性子回折測定によれば、結晶構造中の各サイト(位置)における元素の含有率すなわち占有率を測定することができる。
当該アルジロダイト型結晶構造は、硫黄サイトすなわち硫黄が占有するサイトとして、S1(16e)サイト、S2(4c)サイト、S3(4a)サイトと称されるサイトを有している。S1サイトは、PS_(4)ユニットを構成するサイトであり、S2サイトは、PS_(4)ユニットに位置が近いサイトであり、S3サイトはPS_(4)ユニットから一番離れているサイトである。これら硫黄サイトの中で、S3サイトが最も外部環境の影響を受けやすく、硫黄欠損を生じ易いと考えられる。事実、中性子回折測定を行って検討したところ、S1?S3サイトの中でS3サイトが最も硫黄欠損を生じ易く、且つ、硫黄欠損と硫化水素ガス発生との相関が認められることが分かった。よって、S3サイトにおける欠損量を少なくすることにより、硫化水素ガス発生を抑えることができることが分かった。
【0024】
硫化物系化合物に硫黄欠損が生じると、化学的安定性が低下し、イオン伝導率が低くなることが分かった。周期的な配列構造を持たない非晶質と違い、硫化物系化合物は硫黄欠損が生じることの影響が著しいため、硫黄欠損を制御することが好ましい。
但し、S3サイトを構成する元素のうち、硫黄(S)のほかに、硫黄(S)の置換元素として何がどれくらい占有するかが分かっていれば、S3サイトの欠損量つまりS3サイトの構成元素のうちの意図していない元素の量を測定することができる。しかし、それが分かっていない状況では、当該欠損量を測定することは難しい。そのため、本発明では、S3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率を規定し、当該占有率が100%に近いほど、S3サイトの硫黄欠損量が少ないと解釈することとした。そして実際に測定してみると、当該占有率と硫化水素ガス発生との相関が認められることが分かった。
以上の点から、上記硫化物系化合物は、中性子回折測定により算出されるS3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上であるものが好ましく、中でも87%以上、その中でも90%以上、その中でも95%以上であるのがさらに好ましい。なお、上限値は理想的には100%であるが、実際には99%程度であると考えることができる。」
「【0071】
<X線回折測定>
実施例・比較例で得られた化合物粉末(サンプル)をX線回折法(XRD、Cu線源)で分析し、X線回折パターンを得て、各位置におけるピーク強度(counts)を測定した。リガク社製のXRD装置「Smart Lab」を用いて、大気中で走査軸:2θ/θ、走査範囲:10?140deg、ステップ幅0.01deg、走査速度1deg/minの条件の下で行った。内部標準としてSi粉末(和光純薬工業製、純度99.9%)を5wt%混合し、角度補正に用いた。
アルジロダイト型結晶構造に由来するピークもしくは内部標準用Si粉末に帰属されるピーク以外の回折ピークを異相ピークとした。アルジロダイト型結晶構造に由来するピークの同定には、PDF番号00-034-0688のデータを用いた。
アルジロダイト型結晶構造に由来するピークのうち回折角2θ=24.9°?26.3°の位置に出現するピークの強度に対する、異相ピークのうち、最も高いピーク強度の比率を調べた。そして、異相ピークが存在しないか、或は、当該比率が0.04未満の場合は、アルジロダイト型結晶構造の「単相」であると判定し、当該比率が0.04以上である場合には、「異相あり」と判定した。」
「【0074】
<中性子回折>
実施例・比較例で得た化合物粉末(サンプル)を、大強度陽子加速器施設J-PARCセンターのBL20にて、出力300kW、ダブルフレーム(DF)、2時間/サンプルの条件で中性子回折測定を行った。得られた中性子回折データを、解析ソフト「Z-Rietveld」にて解析した。この際、妥当性の指標は、R_(wp)<10、S<2.0とした。
X線回折測定、X線リートベルト解析および中性子回折の結果を総合して、サンプルがアルジロダイト型結晶構造からなる化合物であると判断した。ICP発光分析法により組成を定量した結果、仕込み原料化合物の配合比から算出した組成式:Li_(5.4)PS_(4.4)Cl_(0.8)Br_(0.8)またはLi_(5.8)PS_(4.8)Cl_(1.2)と概ね一致していた。表1には、実施例・比較例で得られた化合物粉末(サンプル)の、仕込み原料化合物の配合比から算出したアルジロダイト型結晶構造からなる化合物の組成と、S3サイトの占有率を示した。」
「【0083】
【表1】

【0084】
上記実施例・比較例の結果及びこれまで行ってきた試験結果から、リチウム(Li)、リン(P)、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)を含むアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系化合物粒子であって、中性子回折測定により算出されるS3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上であれば、大気中の水分に触れても硫化水素ガスの発生を効果的に抑制することができることが分かった。特にリチウム二次電池の固体電解質として好ましい50μm以下にまで微粒化したとしても、硫化水素ガスの発生を抑えることができることが分かった。」

オ 上記エの【0023】?【0024】の記載によれば、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系化合物に硫黄欠損が生じると化学的安定性が低下するため、硫黄サイトの中で最も硫黄欠損を生じ易いS3サイトにおける欠損量を少なくすることにより、硫化水素ガス発生を抑えることができるが、硫化物系化合物のS3サイトの硫黄欠損量を直接測定することは難しいため、本件発明においては、S3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率で規定し、当該占有率が100%に近いほど、S3サイトの硫黄欠損量が少ないと解釈するとされている。

カ 上記エの【0083】の表1によれば、実施例1、2の硫化物系化合物粒子は、アルジロダイト型結晶構造の単相であり、中性子回折測定により算出されるS3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率がそれぞれ98%、93%であって、アルジロダイト型結晶構造の結晶相とこれとは異なる相である異相を含み、同占有率がいずれも83%である比較例1、2の硫化物系化合物粒子に比べて、大気中の水分に触れても硫化水素ガスの発生が抑制されていることが確認できる。

キ 上記カから、硫化物系化合物粒子が、アルジロダイト型結晶構造の単相であり、中性子回折測定により算出されるS3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上である場合には、上記課題が解決し得るといえる。しかしながら、本件明細書には、アルジロダイト型結晶構造の単相ではなく、アルジロダイト型結晶構造の結晶相と異相を含んでいて、中性子回折測定により算出されるS3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上である硫化物系化合物粒子については具体的に記載されていない。
そこで、硫化物系化合物粒子が、アルジロダイト型結晶構造の結晶相と異相を含んでいて、中性子回折測定により算出されるS3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上である場合にも、上記課題が解決し得るかについてさらに検討する。

ク 上記エの【0083】の表1によると、実施例1、比較例1、2の硫化物系化合物粒子は、いずれもLi_(5.4)PS_(4.4)Cl_(0.8)Br_(0.8)で組成が同一であるが、S3(4a)サイトにおける、硫黄(S)の占有率が、実施例1の36.3%に対し、比較例1は10.1%、比較例2は4.6%と低い値になっている。
このことから、比較例1、2の硫化物系化合物粒子における硫黄元素は、アルジロダイト型結晶構造に含まれておらず、【0017】に例示されているLi_(3)PS_(4)等の異相として析出していると推認される。そして、硫黄元素を含む化合物である当該異相が、比較例1、2の異相を含む硫化物系化合物粒子が大気中の水分と反応することで発生する硫化水素ガスの原因となっている可能性がある。

ケ そうすると、比較例1、2の硫化水素ガスの発生量が実施例1より多いのは、S3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%未満であるためだけでなく、異相を含むためである可能性があるから、S3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上であっても、硫化物系化合物粒子が異相を含む場合、上記課題を解決できるということはできない。

コ そして、本件発明1では、硫化物系化合物粒子が有するアルジロダイト型結晶構造以外の結晶相の存在について何ら特定されておらず、上記エの【0017】の記載から、本件発明1は異相を含む硫化物系化合物粒子をも包含するものであるので、課題を解決し得ない硫化物系化合物粒子を含むものである。

サ よって、本件発明1及びこれを引用する本件発明2?6は、本件特許明細書に開示された発明の範囲を超えているので、これら本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)一方、上記(1)に記載した取消理由3に対して、特許権者が提出した意見書を参照すれば、乙2の本願明細書における比較例2のX線回折パターンを根拠として次のことがいえる。
ア 比較例2の硫化物系化合物粒子は、主相としてアルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含み、異相としてLiClすなわち硫黄元素を含まない化合物を含むものである。そして、比較例1の硫化物系化合物粒子も比較例2のものと同様と考えられるから、上記(1)のクの「比較例1、2の硫化物系化合物粒子における硫黄元素は、アルジロダイト型結晶構造に含まれておらず、【0017】に例示されているLi_(3)PS_(4)等の異相として析出している」との推認は成り立たないことになる。

イ よって、硫化物系化合物粒子が異相を含んでいても、「S3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上」であれば、上記課題を解決できるといえるから、「S3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上である」ことが特定されている本件発明1は、上記課題を解決し得るものであるということができる。
また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?6も同様である。

ウ したがって、取消理由3によって、本件発明1?6を取り消すことはできない。

3 取消理由4(委任省令要件)について
(1)令和3年3月29日付けで通知した委任省令要件についての取消理由の内容は、以下のとおりである。
ア 本願発明が解決しようとする課題は、上記2の(1)のイに記載したとおりである。

イ そして、上記2の(1)のエで摘記した【0023】の記載によれば、本件明細書には、上記アの課題の解決手段に関して、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系化合物に硫黄欠損が生じると化学的安定性が低下するため、硫黄サイトの中で最も硫黄欠損を生じ易いS3サイトにおける欠損量を少なくすることが記載されている。さらに、【0024】には、硫化物系化合物のS3サイトの硫黄欠損量を測定することは難しいため、S3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率で規定し、当該占有率が100%に近いほど、S3サイトの硫黄欠損量が少ないと解釈すること、実際に測定したところ、当該占有率と硫化水素ガス発生との相関が認められたことが記載されている。

ウ したがって、本件発明においては、S3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が高いほど、硫黄欠損量が少なく、化学的安定性が高い硫化物系化合物粒子となるため、硫化水素ガスの発生が抑制できるものと認められる。

エ 一方、上記2の(1)のエの【0083】?【0084】には、S3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が85%以上である実施例1、2は、当該占有率が85%未満である比較例1、2より、硫化水素ガスの発生量が多いことは説明されている。
そして、同【0083】の表1から、実施例1、2のS3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率はそれぞれ98%、93%であり、残りの2%、7%がS3サイトの硫黄欠損を意味していると解されるが、S3サイトの硫黄欠損の状態(硫黄(S)やハロゲン(Ha)以外の他の元素が占有しているのか、他の元素が占有せず空の状態なのか)については説明はなされていない。
また、当該占有率が高い実施例1の方が当該占有率が低い実施例2より硫化水素ガスの発生量が多く、上記ウの認定と矛盾していて、「S3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が高い」ことについての技術上の意義が不明である。

オ よって、本願の発明の詳細な説明は、本件発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものでない。

(2)一方、上記(1)に記載した取消理由4に対して、特許権者が提出した意見書を参照すれば、次のことがいえる。
ア 本件発明は、S3(4a)サイトの硫黄欠損の状態を判明させることは難しいという前提があるものの、S3(4a)サイトの硫黄欠損の状態は問わず、S3(4a)サイトの硫黄欠損の割合と硫化水素ガス発生との間に相関があることを見出した発明であるから、S3(4a)サイトの硫黄欠損の状態が明らかでなくても、当業者であれば、本件明細書の発明の詳細な説明から本件発明の技術上の意義を理解することができるといえる。

イ 本件明細書の【0018】には、硫化物系化合物粒子が含有するハロゲン元素の種類に関して、イオン半径の大きいハロゲン元素の方が、アルジロダイト型結晶構造を歪ませやすく硫黄欠損が生成しやすいこと、【0023】には、硫黄欠損と硫化水素ガス発生には相関があることが記載されているから、硫化物系化合物粒子が含有するハロゲン元素の種類が異なると、硫化水素ガスの発生量に影響があることがわかる。

ウ また、本件明細書の【0007】の「特に、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系化合物粒子の粒径を、リチウム二次電池の固体電解質として好ましい50μm以下にまで微粒化すると、硫化水素ガスの発生が顕著に多くなる傾向がある」との記載から、硫化物系化合物粒子の粒度と硫化水素ガスの発生量に関係があることがわかる。

エ 上記イ?ウの検討から、実施例1と実施例2の硫化水素の発生量の差は、両者の組成(ハロゲン元素の種類)や粒度の違いに起因するものと認められるから、表1に示されているから実施例1と実施例2の占有率と硫化水素ガスの発生量の結果が、上記(1)のウの「S3(4a)サイトにおける、硫黄(S)及びハロゲン(Ha)の占有率が高いほど、硫黄欠損量が少なく、化学的安定性が高い硫化物系化合物粒子となるため、硫化水素ガスの発生が抑制できる」との認定と矛盾するとはいえない。

オ 以上より、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明の技術上の意義について、当業者が理解できるように記載されているから、経済産業省令で定めるところにより記載されたものといえる。

カ したがって、取消理由4によって、本件発明1?6を取り消すことはできない。

第8 まとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1?6に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由のいずれによっても、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-07-28 
出願番号 特願2020-501578(P2020-501578)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 上野 文城  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 佐藤 陽一
磯部 香
登録日 2020-05-13 
登録番号 特許第6704098号(P6704098)
権利者 三井金属鉱業株式会社
発明の名称 硫化物系化合物粒子、固体電解質及びリチウム二次電池  
代理人 浅野 真理  
代理人 中村 行孝  
代理人 宮嶋 学  
代理人 鈴木 啓靖  
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