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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12N
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12N
管理番号 1376781
異議申立番号 異議2021-700309  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-29 
確定日 2021-08-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第6794442号発明「新規な遺伝子組換えワクシニアウイルス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6794442号の請求項1ないし21に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6794442号の請求項1?21に係る特許についての出願は、平成29年5月29日(国内優先権主張 平成28年5月30日)に出願され、令和2年11月13日に特許の設定登録がされ、同年12月2日に特許掲載公報が発行された。その特許に対し、令和3年3月29日に特許異議申立人井上朝子により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6794442号の請求項1?21に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
以下の(1)及び(2)を含む、腫瘍溶解性のワクシニアウイルス:
(1)インターロイキン-7(IL-7)をコードするポリヌクレオチド;及び
(2)インターロイキン-12(IL-12)をコードするポリヌクレオチド。
【請求項2】
ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)及びO1Lの機能を欠損している、請求項1に記載のワクシニアウイルス。
【請求項3】
以下の(1)又は(2)から選択されるがんの予防又は治療用である、医薬組成物:
(1)IL-7をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用するための、IL-12をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスを含む医薬組成物;又は
(2)IL-12をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用するための、IL-7をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスを含む医薬組成物。
【請求項4】
ワクシニアウイルスが、VGF及びO1Lの機能を欠損している、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
以下の(1)及び(2)の腫瘍溶解性のワクシニアウイルスを含む、組合せキット:
(1)IL-7をコードするポリヌクレオチドを含む、腫瘍溶解性のワクシニアウイルス;及び
(2)IL-12をコードするポリヌクレオチドを含む、腫瘍溶解性のワクシニアウイルス。
【請求項6】
ワクシニアウイルスが、VGF及びO1Lの機能を欠損している、請求項5に記載の組合せキット。
【請求項7】
B5R細胞外領域のSCR(short consensus repeat)ドメインを欠失している、請求項1または2に記載のワクシニアウイルス。
【請求項8】
VGF及びO1Lの機能を欠損し、かつ、B5R細胞外領域のSCRドメインを欠失している、請求項1、2または7に記載のワクシニアウイルス。
【請求項9】
LC16mO株である、請求項1、2、7及び8のいずれかに記載のワクシニアウイルス。
【請求項10】
請求項1、2及び7?9のいずれかに記載のワクシニアウイルス及び薬学的に許容される賦形剤を含む、がんの予防又は治療用である、医薬組成物。
【請求項11】
ワクシニアウイルスがB5R細胞外領域のSCRドメインを欠失している、請求項3若しくは4に記載の医薬組成物又は請求項5若しくは6に記載のキット。
【請求項12】
ワクシニアウイルスがLC16mO株である、請求項3、4及び11のいずれかに記載の医薬組成物又は請求項5、6及び11のいずれかに記載のキット。
【請求項13】
薬学的に許容される賦形剤を含む、請求項3、4、11及び12のいずれかに記載の医薬組成物又は請求項5、6、11及び12のいずれかに記載のキット。
【請求項14】
がんの予防又は治療用である、請求項10に記載の医薬組成物又は請求項11?13のいずれかに記載のキット。
【請求項15】
がんが、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、又は、胃癌である、請求項14に記載の医薬組成物又はキット。
【請求項16】
がんの予防又は治療用医薬組成物を製造するための、請求項1、2及び7?9のいずれかに記載のワクシニアウイルスの使用。
【請求項17】
がんが、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、又は、胃癌である、請求項16記載の使用。
【請求項18】
以下の(1)又は(2)から選択される、腫瘍溶解性のワクシニアウイルスの使用:
(1)IL-12をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用するがんの予防又は治療用医薬組成物を製造するための、IL-7をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスの使用;又は
(2)IL-7をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスを含む医薬組成物と併用するがんの予防又は治療用医薬組成物を製造するための、IL-12をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスの使用。
【請求項19】
がんが、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、又は、胃癌である、請求項18記載の使用。
【請求項20】
がんの予防又は治療用の組合せキットを製造するための、(1)IL-7をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルス及び(2)IL-12をコードするポリヌクレオチドを含む腫瘍溶解性のワクシニアウイルスの使用。
【請求項21】
がんが、悪性黒色腫、肺腺癌、肺癌、小細胞肺癌、肺扁平上皮癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、食道癌、グリア芽細胞腫、神経芽細胞腫、骨髄腫、卵巣癌、大腸癌、膵癌、前立腺癌、肝細胞癌、中皮腫、子宮頸癌、又は、胃癌である、請求項20記載の使用。」
(以下、「本件発明1」、「本件発明2」等という。)

第3 異議申立の理由
異議申立人が主張する申立の理由は、概略、次のとおりのものである。
1 異議申立理由1(甲第1号証に基づく新規性欠如、進歩性欠如)
本件発明1は、その出願前に日本国内または外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件発明1?21は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された発明、周知技術、技術常識に基づいてその出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって同条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

2 異議申立理由2(甲第4号証又は甲第5号症に基づく進歩性欠如)
本件発明1?21は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証又は甲第5号証に記載された発明及び甲第1?5号証に記載された発明、周知技術、技術常識に基づいてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証: 特表2013-527753号公報
甲第2号証: Mol.Ther., vol.16(9), pp.1637-1642 (2008)
甲第3号証: J.Clin.Invest., vol.117(11), pp.3350-3358 (2007)
甲第4号証: 国際公開第2015/150809号
甲第5号証: 国際公開第2015/076422号
(以下、「甲1」、「甲2」等という。)

第4 当合議体の判断
1 証拠の記載事項
(1)甲1の記載事項
甲1(特表2013-527753号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【発明の名称】 治療タンパク質を条件的に発現するベクター、該ベクターを含む宿主細胞およびそれらの使用
【要約】
本発明は治療学の分野に関する。最も具体的には、本発明は、遺伝子発現モジュレーションシステムの制御下にある1つまたは複数の免疫モジュレーターの条件的に発現するベクターを活性化リガンドの存在下で生成する方法、ならびに動物における治療目的での使用を提供する。これらのベクターは、それらを直接注射することにより、あるいは樹状細胞等、インビトロで遺伝子操作された細胞により、様々な障害、例えば、腫瘍性障害を治療するために提供することができる。」
イ 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子スイッチをコードするポリヌクレオチドを含む、1つまたは複数の治療タンパク質の機能(複数可)を有するタンパク質(複数可)を条件的に発現するためのベクターであって、前記ポリヌクレオチドが、(1)プロモーターに機能的に連結された、リガンド依存性転写因子をコードする少なくとも1つの転写因子配列と、(2)前記リガンド依存性転写因子によって活性化されるプロモーターに機能的に連結された、治療タンパク質の機能を有する1つまたは複数のタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを含む、ベクター。
【請求項2】
治療タンパク質が、エリスロポエチン(erythropoetin)、グレリン、オステオプロテゲリン、RANKL、RANKLデコイ、TNF-αアンタゴニスト、IL-1アンタゴニスト、G-CSF、GM-CSF、IFN-α、IFN-γ、アンジオスタチン、エンドスタチン、TNF-α、PP1DCY-LSRLOC、β-グルクロニダーゼ、IL-12、a-ガラクトシダーゼA、アリールスルファターゼA、a-グルコシダーゼ、b-グルコシダーゼ、グルコセレブロシダーゼ、CLN6タンパク質、CLN3関連の若年性、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ(sulfoglucosamine sulfohyrolase)(SGSH)、a-N-アセチルグルコサミニダーゼ、アセチル-CoA-グルコサミニドアセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6-スルファターゼ、a-L-イズロニダーゼ、アリールスルファターゼB、酸性スフィンゴミエリナーゼ、イズロネート(iuduronate)スルファターゼおよびセルロプラスミンからなる群から選択される、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
治療タンパク質が、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10R DNまたはそのサブユニット、IL-15、IL-18、IL-21、IL-23、IL-24、IL-27、GM-CSF、IFN-α、IFN-γ、IFN-α1、IFNα2、IL-15-R-α、CCL3(MIP-1a)、CCL5(RANTES)、CCL7(MCP3)、XCL1(リンホタクチン)、CXCL1(MGSA-α)、CCR7、CCL19(MIP-3b)、CXCL9(MIG)、CXCL10(IP-10)、CXCL12(SDF-1)、CCL21(6Ckine)、OX40L、4-1BBL、CD40、CD70、GITRL、LIGHT、b-デフェンシン、HMGB1、Flt3L、IFN-β、TNF-α、dnFADD、BCG、TGF-α、PD-L1 RNAi、PD-L1アンチセンスオリゴヌクレオチド、TGFbRII DN、ICOS-L、S100、CD40L、p53、サバイビン、p53-サバイビン融合体、MAGE3、PSAおよびPSMAからなる群から選択される1つまたは複数の免疫モジュレーターである、請求項1に記載のベクター。
【請求項4】
プラスミド、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ポックスウイルス、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、単純ヘルペスウイルス、エプスタイン・バーウイルス、アデノウイルス、ジェミニウイルス、カリモウイルス、リポソーム、荷電脂質(サイトフェクチン)、DNA-タンパク質複合体およびバイオポリマーからなる群から選択される、請求項1?3のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項5】
アデノウイルスベクターである、請求項1?4のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項6】
IL-12の機能を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項1?5のいずれか一項に記載のベクター。」
ウ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患および障害、例えば、癌、リソソーム蓄積病、眼疾患、肝疾患または感染症の治療のための遺伝子治療の分野に関する。一実施形態において、本発明は、免疫細胞または治療補助細胞(TSC)が1つまたは複数の治療タンパク質(例えば、免疫モジュレーター)を発現するような該細胞の遺伝子操作および治療としての該細胞の使用を提供する。別の一実施形態において、本発明は、本明細書に開示されている治療タンパク質(例えば、免疫モジュレーター(immunodulator))、例えば、IL-12、TNF-αの条件的な発現のためのベクター、例えば、アデノウイルスおよびこのようなベクターを用いる方法を包含する。」
エ 「【0238】
「ベクター」とは、宿主細胞への核酸のクローニングおよび/または導入のための任意の媒体のことを指す。ベクターは、別のDNAセグメントを結びつけて、結びつけたセグメントの複製を生じさせることのできるレプリコンであってもよい。「レプリコン」とは、インビボでDNA複製の自律的単位として機能する、すなわち、それ自身の制御下で複製することのできる、任意の遺伝因子(例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、染色体、ウイルス)のことを指す。「ベクター」という用語は、インビトロ、エクスビボまたはインビボで核酸を細胞に導入するためのウイルス性および非ウイルス性媒体の両方を含む。当技術分野において公知の数多くのベクターを、核酸を操作して、応答エレメントおよびプロモーターを遺伝子に組み入れるなどのために用いることができる。考えられるベクターには、例えば、λ誘導体などのバクテリオファージ、またはpBR322もしくはpUCプラスミド誘導体などのプラスミド、またはBluescriptベクターなどを含む、プラスミドまたは改変ウイルスが含まれる。本発明において有用なベクターの別の例は、WO2007/038276号に記載された、ULTRAVECTOR(商標)Production System(Intrexon Corp., Blacksburg, VA)である。例えば、応答エレメントおよびプロモーターに対応するDNA断片の、適したベクター中への挿入は、適切なDNA断片を、相補的付着末端を有する選択したベクター中にライゲートすることによって達成することができる。または、DNA分子の末端を酵素的に修飾してもよく、またはヌクレオチド配列(リンカー)をDNA末端にライゲートすることによって任意の部位を作製してもよい。そのようなベクターは、マーカーが細胞ゲノム中に組み入れられた細胞の選択をもたらす選択マーカー遺伝子を含むように遺伝子操作することができる。そのようなマーカーは、マーカーを組み入れ、それによってコードされるタンパク質を発現する宿主細胞の同定および/または選択を可能にする。
【0239】
ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターは、細胞、さらには生きている動物対象において多岐にわたる遺伝子送達用途に用いられている。用いうるウイルスベクターには、レトロウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、エプスタイン-バーウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ジェミニウイルスベクターおよびカリモウイルスベクターが非限定的に含まれる。非ウイルス性ベクターには、プラスミド、リポソーム、荷電脂質(サイトフェクチン)、DNA-タンパク質複合体および生体高分子が含まれる。核酸に加えて、ベクターが、1つもしくは複数の調節領域、ならびに/または核酸移入の結果(どの組織への導入か、発現の持続時間など)を選択、測定およびモニターする上で有用な選択マーカーを含んでもよい。」
オ 「【0457】
別の態様において、本発明のベクターおよび方法を用いて癌の治療をすることができる。本発明に従って治療することができる癌の非限定的な例には、乳癌、前立腺癌、リンパ腫、皮膚癌、膵癌、結腸癌、黒色腫、悪性黒色腫、卵巣癌、脳悪性腫瘍、原発性脳癌腫、頭頸部癌、神経膠腫、神経膠芽腫、肝臓癌、膀胱癌、非小細胞肺癌、頭部または頸部の癌腫、乳癌腫、卵巣癌腫、肺癌腫、小細胞肺癌腫、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌腫、精巣癌腫、膀胱癌腫、膵癌腫、胃癌腫、結腸癌腫、前立腺癌腫、尿生殖器癌腫、甲状腺癌腫、食道癌腫、骨髄腫、多発性骨髄腫、副腎癌腫、腎細胞癌腫、子宮内膜癌腫、副腎皮質癌腫、悪性膵インスリノーマ、悪性カルチノイド癌腫、絨毛癌、菌状息肉腫、悪性高カルシウム血症、子宮頸部過形成、白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性顆粒球性白血病、急性顆粒球性白血病、ヘアリーセル白血病、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、カポジ肉腫、真性赤血球増加症、本態性血小板増加症、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、軟部組織肉腫、骨原性肉腫、原発性マクログロブリン血症、および網膜芽細胞腫などが含まれる。」
カ 「【0509】
本明細書に記載された特定の態様において、本発明は、腫瘍を治療するための方法であって:
a.インビトロで遺伝子操作された免疫細胞またはTSCの集団を哺乳動物に腫瘍内投与する段階;および
b.前記哺乳動物に対して、活性化リガンドの治療的有効量を投与する段階、
を、この順序で含む方法を提供する。」
キ 「【0517】
別の態様においては、IL-7およびIL-12を条件的に発現するように樹状細胞を遺伝子操作する。IL-7はIL-2ファミリーのメンバーであり、T細胞およびB細胞のリンパ球新生(lympophoiesis)のために重要である。IL-7はナイーブT細胞および記憶CD8+T細胞の生存および増殖のホメオスタシスを調節する。IL-7は腫瘍に対するCTL生成を強化することが証明されている。加えて、IL-12はCD8+T細胞に対して作用して、IL-7により媒介される増殖を強化する。さらに、IL-7およびIL-12はCD8+T細胞の細胞傷害性を相乗的に強化することが報告されている。Mehrotra, 1995;Sharma et al 2003;Tirapu et al 2002。このため、IL-7およびIL-12の共発現はより最適な抗腫瘍応答をもたらすことが予想される。IL-12をコードするポリヌクレオチド配列については上記を参照のこと。IL-7をコードするポリヌクレオチド配列は、アクセッション番号J04156(ヒト);NM_008371(マウス);NM_001037833(ニワトリ);およびNM_013110(ラット)で入手可能である。」

(2)甲2の記載事項
甲2(Mol.Ther., vol.16(9), pp.1637-1642 (2008))には、次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、当審による訳文で示す。)
ア 「癌を治療するために生ウイルスを使用するというコンセプトは、何十年も前に遡り、ウイルス感染、予防接種、そして野生型のウイルスによる治療の症例の報告において腫瘍退縮が報告されている。1990年代、初めて生ウイルスが癌細胞において選択的に増殖して細胞溶解(腫瘍溶解)を起こし、さらに腫瘍細胞内における一連の感染と広がりが生じるとして用いられた。それらは安全であり、癌選択的であったが、最初の世代の腫瘍溶解ウイルスは限定的な能力を備えるのみであり、それらの全身性の効果は十分ではなかった。より効果的で、全身性の有効な腫瘍溶解ウイルスを生成するため、私たちは、ポックス・ウイルスJX-594を目的物として操作した。ワクシニアのようなポックスウイルスは、腫瘍細胞中で増殖し、急速に広がり、その結果、高い効果を示す。」(第1637頁左欄下から第8行?右欄第4行)

(3)甲3の記載事項
甲3(J.Clin.Invest., vol.117(11), pp.3350-3358 (2007))には、次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、当審による訳文で示す。)
ア 「複製選択的な腫瘍細胞溶解性ウイルス(virotherapeutics)は、ユニークな活性メカニズムによる新しい癌の治療法として開発されているが、癌細胞への静脈デリバリーと全身性の効果は限定的であることから、この治療手法をより効果的にするために、改良された薬剤が必要とされてきた。ここに、私たちは、合理的、段階的な全身性に効果のある細胞崩壊性ウイルス(JX-963)の設計および評価を報告する。」(第3350頁要約第1?4行)
イ 「その結果物であるウイルス(JX-963;ウイルスチミジンキナーゼ[TK]およびワクシニア成長因子[VGF]が欠失し、ヒトGM-CSFを発現するワクシニアの西部保存株[WR])は、様々な前臨床腫瘍モデルにおける全身送達後に安全で効果的であることがわかった。」(第3350頁右欄第8?13行)

(4)甲4の記載事項
甲4(国際公開第2015/150809号)には、次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、対応する特表2017-511136号公報による訳文で示し、その段落番号も併せて記載する。)
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3つのワクシニアウィルス・プロモータを含み、該少なくとも3つプロモータが同じオリエンテーションで配置される核酸配列。
【請求項2】
該プロモータがウイルスの生活環の初期および/または後期に活性を有するプロモータであることを特徴とする請求項1に記載の核酸配列。
【請求項3】
mH5、H5、P7.5およびPE/Lから成る群からプロモータが選ばれる請求項2に記載の核酸配列。
【請求項4】
該核酸配列が異種ポリペプチドをコードすることを特徴とする請求項1に記載の核酸配列。
【請求項5】
ポリペプチドがサイトカインであることを特徴とする請求項4に記載の核酸配列。
【請求項6】
GM-CSF、IL-12およびIL-21から成る群からサイトカインが選ばれることを特徴とする請求項5に記載の核酸配列。
【請求項11】
請求項1?10のうちのいずれか1つの核酸配列を含むワクシニアウィルス・ベクター。
【請求項12】
請求項1?11のうちのいずれか1つのベクターまたは核酸配列を含み、N1L遺伝子にベクターまたは核酸配列が挿入されていることを特徴とするワクシニアウィルス。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は癌治療に関する。特に、本発明は、癌治療用の腫瘍崩壊のワクシニアウィルスおよびウイルスのベクターに関する。」
ウ 「【0007】
発明の要約
本発明は改善された腫瘍崩壊ワクシニアウィルスを提供する。発明者は、腫瘍組織では、先行技術と比較して、不活性化されたN1L遺伝子を備えたTK-欠乏ワクシニアウィルス株が、高められた選択性および反腫瘍効能を示すことを見いだした。本発明はさらにワクシニアウィルス・ベクターを提供する。」
エ 「【0017】
本発明の別の実施態様では、核酸配列は異種のポリペプチドをコードする。本明細書で使用されるポリペプチドは、ペプチド結合によって連結された複数のアミノ酸残基を指す。タンパク質、ペプチド、オリゴペプチドの用語は交換可能に使用され、糖タンパク質とその誘導体を含んでいる。用語「ポリペプチド」も、オリジナルのポリペプチドと同じ生体機能あるいは活性を保持するポリペプチドのアナログおよび誘導体を包含するように意図される。
【0018】
本明細書で使用される異種のポリペプチドは、自然界においてウイルスによって通常発現されないあらゆるポリペプチドを指す。異種のポリペプチドは生物学上活性になりえる。本明細書で使用される生物学上活性なポリペプチドは、生体機能または活性を有しているポリペプチドを指す。
【0019】
本発明の実施態様では、生物学上活性なポリペプチドは治療薬である。治療薬ポリペプチドは、治療での使用のために開発されているポリペプチドである。治療薬ポリペプチドの非制限的例としては、サイトカイン、ケモキネスおよび成長因子が挙げられる。
【0020】
サイトカインは、免疫修飾剤、たとえばインターロイキン(例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-19、IL-20、IL-21、IL-22、IL-23、IL-24、IL-25、IL-26、IL-27、IL-28、IL-29、IL-30、IL-31、IL-32、IL-33、IL-34、IL-35およびIL-36)、インターフェロン(INF-α、INF-β、INF-γ、およびINF-ω)、腫瘍壊死要因(TNF)、および/または顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)であることができる。」
オ 「【0050】
ある実施態様では、被検者は癌および/または腫瘍を持った人間である。癌は、消化器癌、呼吸器官癌、尿生殖路癌、造血器癌、肉腫、腺癌、扁平上皮癌あるいは悪性ではない腫瘍/過形成であることができる。腫瘍は治療前には切除不可能で、治療の後に切除可能かもしれない。腫瘍は、再発性、原発性、転移のおよび/または多重薬耐性の腫瘍であることができる。ある態様では、腫瘍は膵臓の上、あるいは膵臓内にある。他の態様では、腫瘍は、神経内分泌腫瘍、内分泌腺腫瘍、辺縁中枢神経系腫瘍、脳腫瘍腫物、頭頸部癌腫物、食道癌腫瘍、皮膚癌腫瘍、肺癌腫瘍、肝腫瘍、胸腺腫瘍、胃癌腫瘍、結腸癌腫瘍、卵巣癌腫瘍、子宮癌腫瘍、膀胱癌腫瘍、精巣癌腫瘍、膀胱腫瘍、直腸癌腫瘍、黒色腫あるいは乳癌腫瘍であることができる。本発明中で開示した組成物と方法は、異なるタイプの遺伝子療法、例えばがん抑制遺伝子療法、自殺遺伝子療法、ウイルス・ベクター免疫戦略、抗血管新生療法、プロ-アポトーシス遺伝子療法、遺伝子組み換え療法の中で使用されてもよい。”Oncolytic Viruses for Cancer Therapy:Overcoming the Obstacles”(Wong et al.Viruses 2010,2,78-106))はその全体が参照され本明細書に組み入れられる。」
カ 「【0091】
例12:IL-12-およびGM-CSF-アームドVV15N1Lの効能
VVL15N1Lの反腫瘍効能を高めるために、GM-CSFおよびIL-12がVVL15N1LベクターのN1L領域に挿入された。これらの組み換え個体の各々の潜在能は、共通遺伝子のDT6606の皮下のひ腹モデルに対して生体内でテストされた(表3、スケジュール1)を参照)。腫瘍体積が100mm^(3)の平均に達した時、ウイルス(VVL15-N1L、VVL15-N1L-mGMCSFあるいはVVL15-N1L-mIL12)の1x10^(8)PFU1日用量(合計5日)あるいはビヒクル・バッファコントロール(PBSの50μl)の等価なボリュームがIT注射された(1つのグループ当たりn=7)。毎週2度のカリパス測定によって腫瘍増殖がフォローされた(図16a)。腫瘍体積が1,000mm^(3)を超過した時、対応するKaplan Meir生存曲線(図16b)は人道的な動物犠牲の必要に基づいた。図16a-bは、GMCSFの遺伝子組み換えアームドウイルスだけがVVL15-N1Lよりも著しくよくはなかったことを実証する。しかし、IL12-アームドウイルスは実験の終わりに6/7匹のハツカネズミの治癒および100%の生存を導き、重要な潜在能を実証した。この結果の普遍性を確立するために、これらのアームドウイルスは、他のモデルの中でテストされるだろう。」

(5)甲5の記載事項
甲5(国際公開第2015/0766422号)には、次の事項が記載されている。
ア 「請求の範囲
1. ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)及びO1Lの機能が欠損しており、正常細胞内では増殖しないが、癌細胞内で特異的に増殖し、癌細胞を特異的に障害する腫瘍溶解性を有する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ依存性ワクシニアウイルス。
2. ワクシニアウイルスが、LC16株、LC16mO株又はB5R遺伝子が発現するように改変されたLC16m8株である、請求項1に記載の分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ依存性ワクシニアウイルス。
3. 請求項1又は2に記載のワクシニアウイルスを含む癌治療のための医薬組成物。
4. 請求項1又は2に記載の分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ依存性ワクシニアウイルスに外来DNAを導入した、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ依存性ワクシニアウイルスベクター。
5. 外来DNAがマーカーDNA、細胞毒性効果若しくは免疫賦活効果を有する治療用遺伝子、又は癌、ウイルス、細菌若しくは原虫の抗原をコードするDNAである、請求項4記載の分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ依存性ワクシニアウイルスベクター。
6. 請求項4又は5に記載の分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ依存性ワクシニアウイルスベクターを含む、癌治療のための、又は癌、ウイルス、細菌若しくは原虫に対するワクチンとして使用するための医薬組成物。」(第24頁第1?20行)
イ 「発明の概要
本発明は癌細胞において特異的に増殖し、癌細胞を障害するワクシニアウイルスの提供及び該ウイルスの癌治療への利用の提供を目的とする。
現在世界中において、生きたウイルスを利用して癌を治療する癌ウイルス療法に関する前臨床研究、及び臨床治験が積極的に行われている。」(第2頁第12?16行)
ウ 「さらに、本発明の分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ依存性ワクシニアウイルスは、外来遺伝子(外来DNA又は外来ポリヌクレオチド)を含んでいてもよい。外来遺伝子(外来DNA又は外来ポリヌクレオチド)としては、マーカー遺伝子、細胞毒性や免疫賦活効果を有する産物をコードする治療用遺伝子が挙げられ、さらに、癌、ウイルス、細菌、原虫等のタンパク質抗原をコードするDNAが挙げられる。マーカー遺伝子はレポーター遺伝子ともいい、ルシフェラーゼ(LUC)遺伝子、緑色蛍光タンパク質(Green fluorescent protein;GFP)等の蛍光タンパク質遺伝子、赤色蛍光タンパク質(DsRed)等の蛍光タンパク質遺伝子、βグルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子、β-ガラクトシダーゼ(LacZ)遺伝子等が挙げられる。これらの外来遺伝子を含む分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ依存性ワクシニアウイルスを分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ依存性ワクシニアウイルスベクターと呼ぶことができる。
治療用遺伝子は、癌や感染症等の特定の疾患の治療に用い得る遺伝子であり、p53、Rb等の腫瘍抑制遺伝子、インターロイキン1(IL-1)、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、アンジオスタチン、トロンボスポンジン、エンドスタチン、METH-1、METH-2、GM-CSF、G-CSF、M-CSF、腫瘍壊死因子等の生理活性物質をコードする遺伝子等が挙げられる。ルシフェラーゼやGFPを発現する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ依存性組換えワクシニアウイルスは、その感染細胞である癌細胞を簡便、迅速に検出することが可能となる。本発明の分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ依存性ワクシニアウイルスを癌治療に用いる場合、ワクシニアウイルスの有する腫瘍溶解性と共に癌に対する治療用遺伝子が癌治療効果を発揮することができる。」(第10頁第5?28行)

2 異議申立理由1(甲1に基づく新規性欠如、進歩性欠如)についての判断
(1)甲1発明
甲1は、上記1(1)ア?ウのとおり、直接注射するか、樹状細胞等の組換えに用いることで腫瘍性障害を治療するための、治療タンパク質を条件的に発現するベクターを開示する文献であって、その請求項1、3、4および6(上記1(1)イ)によれば、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「1つまたは複数の治療タンパク質の機能を有する1つまたは複数のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、ウイルスベクターであって、
治療タンパク質が、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10RDNまたはそのサブユニット、IL-15、IL-18、IL-21、IL-23、IL-24、IL-27、GM-CSF、IFN-α、IFN-γ、IFN-α1、IFNα2、IL-15-R-α、CCL3(MIP-1a)、CCL5(RANTES)、CCL7(MCP3)、XCL1(リンホタクチン)、CXCL1(MGSA-α)、CCR7、CCL19(MIP-3b)、CXCL9(MIG)、CXCL10(IP-10)、CXCL12(SDF-1)、CCL21(6Ckine)、OX40L、4-1BBL、CD40、CD70、GITRL、LIGHT、b-デフェンシン、HMGB1、Flt3L、IFN-β、TNF-α、dnFADD、BCG、TGF-α、PD-L1RNAi、PD-L1アンチセンスオリゴヌクレオチド、TGFbRIIDN、ICOS-L、S100、CD40L、p53、サバイビン、p53-サバイビン融合体、MAGE3、PSAおよびPSMAからなる群から選択される1つまたは複数の免疫モジュレーター、およびIL-12の機能を有するタンパク質であり、
ウイルスベクターが、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ポックスウイルス、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、単純ヘルペスウイルス、エプスタイン・バーウイルス、アデノウイルス、ジェミニウイルス、カリモウイルスから選択される、ウイルスベクター。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1の「ウイルス」および甲1発明の「ウイルスベクター」は、ともに、宿主細胞に導入するための核酸を含むウイルスのことであり、本件発明1の「インターロイキン-7(IL-7)」および「インターロイキン-12(IL-12)」は、甲1発明の「治療用タンパク質の機能を有するタンパク質」に相当する。したがって、本件発明1と甲1発明は、「治療用タンパク質の機能を有する、複数のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、ウイルス。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1: 「治療用タンパク質の機能を有するタンパク質」が、本件発明1では、「インターロイキン-7(IL-7)」および「インターロイキン-12(IL-12)」であるのに対して、甲1発明では、「IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10RDNまたはそのサブユニット、IL-15、IL-18、IL-21、IL-23、IL-24、IL-27、GM-CSF、IFN-α、IFN-γ、IFN-α1、IFNα2、IL-15-R-α、CCL3(MIP-1a)、CCL5(RANTES)、CCL7(MCP3)、XCL1(リンホタクチン)、CXCL1(MGSA-α)、CCR7、CCL19(MIP-3b)、CXCL9(MIG)、CXCL10(IP-10)、CXCL12(SDF-1)、CCL21(6Ckine)、OX40L、4-1BBL、CD40、CD70、GITRL、LIGHT、b-デフェンシン、HMGB1、Flt3L、IFN-β、TNF-α、dnFADD、BCG、TGF-α、PD-L1RNAi、PD-L1アンチセンスオリゴヌクレオチド、TGFbRIIDN、ICOS-L、S100、CD40L、p53、サバイビン、p53-サバイビン融合体、MAGE3、PSAおよびPSMAからなる群から選択される1つまたは複数の免疫モジュレーター、およびIL-12の機能を有するタンパク質」である点。
相違点2: 「ウイルス」が、本件発明1では、「腫瘍溶解性のワクシニアウイルス」であるのに対して、甲1発明では、「アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ポックスウイルス、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、単純ヘルペスウイルス、エプスタイン・バーウイルス、アデノウイルス、ジェミニウイルス、カリモウイルスから選択される、ウイルス」である点。

(3)本件発明1の新規性についての判断
上記(2)のとおり、本件発明1と甲1発明は、上記相違点1および2の点で相違するから、本件発明1は甲1に記載された発明であるとはいうことができない。

(4)本件発明1?21の進歩性についての判断
本件発明1と甲1発明との上記相違点1および2について検討すると、甲1には、樹状細胞においてIL-7およびIL-12を共発現すれば最適な抗腫瘍応答をもたらすことが予想される旨記載されており(上記1(1)キ)、腫瘍性障害を治療するために治療タンパク質を条件的に発現するベクターで樹状細胞を組み換えて用いる際に治療タンパク質としてIL-7およびIL-12を選択すればよいことは理解することができる。しかし、IL-7およびIL-12の組み合わせは樹状細胞に発現させるものとして記載されているのだから、腫瘍に直接作用して腫瘍を溶解する「腫瘍溶解性ワクシニアウイルス」(甲2?5)において当該組み合わせを用いることまで動機付けられるとは認められない。したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された発明、周知技術、技術常識に基づいて当業者が容易に推考し得るものということはできない。
そして、本件明細書には、本件発明1が甲1?5に記載された発明から予測し得る範囲を超える顕著な効果を有することが具体的に示されている。すなわち、【表3】には、ウイルス投与後14日の腫瘍体積変化率が記載され、いずれのILも搭載しないワクシニアウイルス、IL-7のみを搭載したワクシニアウイルスおよびIL-12のみを搭載したワクシニアウイルスという対照群は、それぞれ187±39%、199±33%、140±29%であったのに対して、IL-7およびIL-12を搭載した本件発明1のワクシニアウイルスは61±6%であったことが示されている。このようにワクシニアウイルスをIL-7およびIL-12と組み合わせていない対照群では腫瘍体積の増大を抑制できなかったのに対して、IL-7およびIL-12と組み合わせた本件発明1のワクシニアウイルスが現状維持の100%を大きく下回り、腫瘍を退縮させることのできる腫瘍体積変化率を示したことは、甲2?5に記載されたワクシニアウイルス自体の腫瘍溶解性はもちろんのこと、甲1に記載された樹状細胞を使用した場合の有効性の予想の範囲をも超える顕著な効果であると評価することができる。さらに、本件明細書の【表4-1】には、上述の対照群では観察されなかった完全寛解が、本件発明1を投与したマウス12匹中3匹で観察されたこと、【表4-2】には、IL-7を搭載したワクシニアウイルスとIL-12を搭載したワクシニアウイルスの混合物(本件発明3?6、11?13、18?21に相当)を投与した場合にもマウス7匹中4匹で完全寛解が観察されたこと、【表5-1】には、本件発明1のワクシニアウイルスにより完全寛解した後のマウス10匹中6匹が癌細胞が生着を防御したこと、【表5-2】には、IL-7を搭載したワクシニアウイルスとIL-12を搭載したワクシニアウイルスの混合物(本件発明3?6、11?13、18?2に相当)により完全寛解した後のマウス10匹中8匹が癌細胞の生着を防御したことが、それぞれ示されている。これらはいずれも、「IL-7」、「IL-12」および「腫瘍溶解性のワクシニアウイルス」の組み合わせにより生じた顕著な効果であって、甲1?5の記載から予測し得るものとはいえない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された発明、周知技術、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいうことができない。本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2、7?10、14?17についても同様である。
また、本件発明3?6、11?13、18?21は、IL-7とIL-12を別々に搭載したワクシニアウイルスを組み合わせる点を特徴とするものであるが、上述のとおり、「IL-7」、「IL-12」および「腫瘍溶解性のワクシニアウイルス」の組み合わせは、甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された発明、周知技術、技術常識に基づいて当業者が容易に推考し得るものということはできず、IL-7とIL-12を別々に搭載したワクシニアウイルスを組み合わせた場合にもIL-7およびIL-12を搭載したワクシニアウイルスと同様に顕著な効果を有することが示されているのだから、これらの本件発明についても同様に、進歩性を否定することはできない。
したがって、異議申立人が主張する異議申立理由1は理由がない。

3 異議申立理由2(甲4または甲5に基づく進歩性欠如)についての判断
(1)甲4に基づく進歩性欠如についての判断
ア 甲4発明
甲4は、上記1(4)ア?ウのとおり、癌治療用の腫瘍崩壊ワクシニアウイルスを開示する文献であって、その請求項1?6、11および【0020】(上記1(4)ア、エ)によれば、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「サイトカイン、例えば、GM-CSF、IL-12およびIL-21などのインターロイキン(例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-19、IL-20、IL-21、IL-22、IL-23、IL-24、IL-25、IL-26、IL-27、IL-28、IL-29、IL-30、IL-31、IL-32、IL-33、IL-34、IL-35およびIL-36)、インターフェロン(INF-α、INF-β、INF-γ、およびINF-ω)、および/または腫瘍壊死因子(TNF)をコードする核酸を含む、腫瘍崩壊ワクシニアウイルス。」(以下、「甲4発明」という。)
イ 本件発明1と甲4発明の対比
本件発明1と甲4発明とを対比すると、本件発明1の「インターロイキン-7(IL-7)」および「インターロイキン-12(IL-12)」と、甲4発明の「サイトカイン、例えば、GM-CSF、IL-12およびIL-21などのインターロイキン(例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-19、IL-20、IL-21、IL-22、IL-23、IL-24、IL-25、IL-26、IL-27、IL-28、IL-29、IL-30、IL-31、IL-32、IL-33、IL-34、IL-35およびIL-36)、インターフェロン(INF-α、INF-β、INF-γ、およびINF-ω)、および/または腫瘍壊死因子(TNF)」とは、サイトカインである点で共通し、本件発明1の「腫瘍溶解性」および「ポリヌクレオチド」は、それぞれ甲4発明の「腫瘍崩壊」および「核酸」と同義であると解される。したがって、本件発明1と甲4発明は、「サイトカインをコードするポリヌクレオチドを含む、腫瘍溶解性のワクシニアウイルス。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点: 「サイトカイン」が、本件発明1では、「インターロイキン-7(IL-7)」および「インターロイキン-12(IL-12)」であるのに対して、甲4発明では、「サイトカイン、例えば、GM-CSF、IL-12およびIL-21などのインターロイキン(例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-19、IL-20、IL-21、IL-22、IL-23、IL-24、IL-25、IL-26、IL-27、IL-28、IL-29、IL-30、IL-31、IL-32、IL-33、IL-34、IL-35およびIL-36)、インターフェロン(INF-α、INF-β、INF-γ、およびINF-ω)、および/または腫瘍壊死因子(TNF)」である点。
ウ 判断
上記相違点について判断すると、甲4には、用いるサイトカインについて、請求項6にGM-CSF、IL-12及びIL-21が記載され(上記1(4)ア)、IL-12およびGM-CSFの組み合わせを用いた実施例が記載されているが(上記1(4)カ)、IL-7およびIL-12の組み合わせを動機付ける記載はない。
また、甲1にはIL-7およびIL-12の組み合わせが記載されてはいるものの、上記2(4)のとおり、樹状細胞において発現させるものとして記載されているのだから、腫瘍に直接作用して腫瘍を溶解する甲4発明の「腫瘍溶解性ワクシニアウイルス」において当該組み合わせを用いることまで動機付けられるとは認められないし、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを開示する甲2、3及び5にはIL-7およびIL-12と組み合わせることを動機付ける記載はない。
それに対して、本件発明1は、上記2(4)で判断したとおり、「IL-7」、「IL-12」および「腫瘍溶解性ワクシニアウイルス」という組み合わせにより顕著な効果を発揮するものである。
したがって、本件発明1は、甲4に記載された発明及び甲1?3、5に記載された発明、周知技術、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいうことができない。本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2、7?10、14?17についても同様である。
また、本件発明3?6、11?13、18?21は、IL-7とIL-12を別々に搭載したワクシニアウイルスを組み合わせる点を特徴とするものであるが、上述のとおり、「IL-7」、「IL-12」および「腫瘍溶解性のワクシニアウイルス」の組み合わせは、甲4に記載された発明及び甲1?3、5に記載された発明、周知技術、技術常識に基づいて当業者が容易に推考し得るものということはできず、IL-7とIL-12を別々に搭載したワクシニアウイルスを組み合わせた場合にもIL-7およびIL-12を搭載したワクシニアウイルスと同様に顕著な効果を有することが示されているのだから、これらの本件発明についても同様に、進歩性を否定することはできない。

(2)甲5に基づく進歩性欠如についての判断
ア 甲5発明
甲5は、上記1(5)アおよびイのとおり、癌治療のための腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを開示する文献であって、上記1(5)アおよびウによれば、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)及びO1Lの機能が欠損しており、治療用遺伝子、例えば、p53、Rb等の腫瘍抑制遺伝子、インターロイキン1(IL-1)、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、アンジオスタチン、トロンボスポンジン、エンドスタチン、METH-1、METH-2、GM-CSF、G-CSF、M-CSF、腫瘍壊死因子等の生理活性物質をコードする遺伝子を導入した、腫瘍溶解性のワクシニアウイルス。」(以下、「甲5発明」という。)
イ 本件発明1と甲5発明の対比
本件発明1と甲5発明を対比すると、本件発明1の「インターロイキン-7(IL-7)をコードするポリヌクレオチド」および「インターロイキン-12(IL-12)をコードするポリヌクレオチド」と、甲5発明の「治療用遺伝子、例えば、p53、Rb等の腫瘍抑制遺伝子、インターロイキン1(IL-1)、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、アンジオスタチン、トロンボスポンジン、エンドスタチン、METH-1、METH-2、GM-CSF、G-CSF、M-CSF、腫瘍壊死因子等の生理活性物質をコードする遺伝子」とは、治療用タンパク質をコードするポリヌクレオチドである点で共通する。したがって、本件発明1と甲5発明は、「治療用タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、腫瘍溶解性のワクシニアウイルス。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点: 「治療用タンパク質」が、本件発明1では、「インターロイキン-7(IL-7)」および「インターロイキン-12(IL-12)」であるのに対して、甲5発明では、「例えば、p53、Rb等の腫瘍抑制遺伝子、インターロイキン1(IL-1)、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、アンジオスタチン、トロンボスポンジン、エンドスタチン、METH-1、METH-2、GM-CSF、G-CSF、M-CSF、腫瘍壊死因子等の生理活性物質」である点。
ウ 判断
上記相違点について判断すると、甲5には、「例えば、p53、Rb等の腫瘍抑制遺伝子、インターロイキン1(IL-1)、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、アンジオスタチン、トロンボスポンジン、エンドスタチン、METH-1、METH-2、GM-CSF、G-CSF、M-CSF、腫瘍壊死因子等の生理活性物質をコードする遺伝子」を腫瘍溶解性ワクシニアウイルスに含ませることにより癌治療効果を発揮する旨の一般的記載があるにとどまり、IL-7およびIL-12の組み合わせを動機付ける記載はない。
また、甲1にはIL-7およびIL-12の組み合わせが記載されてはいるものの、上記2(4)のとおり、樹状細胞において発現させるものとして記載されているのだから、腫瘍に直接作用して腫瘍を溶解する甲5発明の「腫瘍溶解性ワクシニアウイルス」において当該組み合わせを用いることまで動機付けられるとは認められないし、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを開示する甲2?4にはIL-7およびIL-12と組み合わせることを動機付ける記載はない。
それに対して、本件発明1は、上記2(4)で判断したとおり、「IL-7」、「IL-12」および「腫瘍溶解性ワクシニアウイルス」という組み合わせにより顕著な効果を発揮するものである。
したがって、本件発明1は、甲5に記載された発明及び甲1?4に記載された発明、周知技術、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいうことができない。本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2、7?10、14?17についても同様である。
また、本件発明3?6、11?13、18?21は、IL-7とIL-12を別々に搭載したワクシニアウイルスを組み合わせる点を特徴とするものであるが、上述のとおり、「IL-7」、「IL-12」および「腫瘍溶解性のワクシニアウイルス」の組み合わせは、甲5に記載された発明及び甲1?4に記載された発明、周知技術、技術常識に基づいて当業者が容易に推考し得るものということはできず、IL-7とIL-12を別々に搭載したワクシニアウイルスを組み合わせた場合にもIL-7およびIL-12を搭載したワクシニアウイルスと同様に顕著な効果を有することが示されているのだから、これらの本件発明についても同様に、進歩性を否定することはできない。

(3)小括
上記(1)および(2)のとおりであるから、異議申立人が主張する異議申立理由2は理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、異議申立人が主張する異議申立理由1および2によっては、請求項1?21に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1?21に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-08-12 
出願番号 特願2018-520896(P2018-520896)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C12N)
P 1 651・ 121- Y (C12N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中野 あい  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 長井 啓子
松野 広一
登録日 2020-11-13 
登録番号 特許第6794442号(P6794442)
権利者 アステラス製薬株式会社 国立大学法人鳥取大学
発明の名称 新規な遺伝子組換えワクシニアウイルス  
代理人 森田 裕  
代理人 梅田 慎介  
代理人 大野 聖二  
代理人 松任谷 優子  
代理人 松任谷 優子  
代理人 梅田 慎介  
代理人 森田 裕  
代理人 大野 聖二  
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