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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C09D
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する C09D
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C09D
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C09D
管理番号 1377016
審判番号 訂正2021-390036  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2021-02-15 
確定日 2021-06-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6690723号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6690723号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6690723号(以下「本件特許」という。)に係る特願2018-538259号は、平成29年7月18日(優先権主張 平成28年9月9日、日本国)を国際出願日とする特許出願であって、令和2年4月13日にその特許権の設定の登録がされた。その後、令和3年2月15日に本件訂正審判の請求(以下「本件訂正審判請求」という。)がなされたものである。

第2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、「特許第6690723号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4?7について訂正することを認める。また、特許第6690723号の明細書を本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、訂正することを認める、との審決を求める。」(審判請求書2頁1?6行)、というものである。なお、審判請求書の「5 請求の趣旨」に記載された「訂正することを求める」(2カ所)は、「訂正することを認める」の誤記であると解釈した。

第3 訂正の内容等
1 概要
本件訂正審判請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1?6からなるものである。
訂正事項1、2、3、4、5-1?5-7は、それぞれ、審判請求書の「6(2)ア?オ」に記載の訂正事項1?5に対応し、訂正事項6は、審判請求書の「6(2)訂正事項」には記載がないが、審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲の記載に基づいて、当審で認定したものである。
なお、本件訂正前の請求項1?7は、請求項2?7が、訂正事項1による訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあり、また、訂正事項5-1?5-7による明細書の訂正に係る請求項は、請求項1?7であるから、本件訂正は、請求項1?7の一群の請求項について請求されている。

(1) 訂正事項1
本件訂正前の請求項1の、「R^(2)は同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換又は置換の一価炭化水素基である。」を、「R^(2)は同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。」に訂正する。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4?7も、同様に訂正する。

(2) 訂正事項2
本件訂正前の請求項1の、「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)」を、「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1)」に訂正する。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4?7も、同様に訂正する。

(3) 訂正事項3
本件訂正前の請求項2の、「前記(B)成分が、(B1)テトラオルガノオキシチタン及び/又はその部分加水分解縮合物と(B2)アセト酢酸エステルとを、(B1)中のチタン原子1モルに対して(B2)アセト酢酸エステルを0.8モル以上1.2モル未満の比率で混合して生成する反応生成物の混合物であることを特徴とする請求項1に記載のプライマー組成物」を、
「有機樹脂、金属及び樹脂塗装された金属から選ばれる基材と室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物との接着性を向上させるプライマー組成物であって、
(A)R_(3)SiO_(1/2)単位(式中、各Rは独立に炭素数1?6の非置換又は置換の1価炭化水素基を表す。)及びSiO_(4/2)単位を含み、SiO_(4/2)単位に対するR_(3)SiO_(1/2)単位のモル比が0.6?1.2である三次元網状構造のオルガノシロキサンポリマー 100質量部と、
(B)(B1)テトラオルガノオキシチタン及び/又はその部分加水分解縮合物と(B2)アセト酢酸エステルとを、(B1)中のチタン原子1モルに対して(B2)アセト酢酸エステルを0.8モル以上1.2モル未満の比率で混合して生成する反応生成物の混合物であって下記式(1)で表されるチタン化合物を75モル%以上含有するオルガノオキシ基含有チタン化合物の混合物 300?1000質量部と、
Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1) ・・・(1)
(式中、R^(1)は同一でも異なっていてもよく、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。)
(C)溶剤 1000?8000質量部
を含んでなることを特徴とするプライマー組成物」に訂正する。
また、請求項2を直接又は間接的に引用する請求項4?7も、同様に訂正する。

(4) 訂正事項4
本件訂正前の請求項3の、「前記(B)成分が、(B1)テトラオルガノオキシチタン及び/又はその部分加水分解縮合物と(B3)チタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているオルガノオキシ基含有チタンキレート化合物とを、(B1)中のチタン原子1モルに対して、(B3)チタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているオルガノオキシ基含有チタンキレート化合物を0.8モル以上1.2モル未満の比率で混合して生成する反応生成物の混合物であることを特徴とする請求項1に記載のプライマー組成物」を、
「有機樹脂、金属及び樹脂塗装された金属から選ばれる基材と室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物との接着性を向上させるプライマー組成物であって、
(A)R_(3)SiO_(1/2)単位(式中、各Rは独立に炭素数1?6の非置換又は置換の1価炭化水素基を表す。)及びSiO_(4/2)単位を含み、SiO_(4/2)単位に対するR_(3)SiO_(1/2)単位のモル比が0.6?1.2である三次元網状構造のオルガノシロキサンポリマー 100質量部と、
(B)(B1)テトラオルガノオキシチタン及び/又はその部分加水分解縮合物と(B3)チタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているオルガノオキシ基含有チタンキレート化合物とを、(B1)中のチタン原子1モルに対して、(B3)チタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているオルガノオキシ基含有チタンキレート化合物を0.8モル以上1.2モル未満の比率で混合して生成する反応生成物の混合物であって下記式(1)で表されるチタン化合物を75モル%以上含有するオルガノオキシ基含有チタン化合物の混合物 300?1000質量部と、
Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1) ・・・(1)
(式中、R^(1)は同一でも異なっていてもよく、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。)
(C)溶剤 1000?8000質量部
を含んでなることを特徴とするプライマー組成物」に訂正する。
また、請求項3を直接又は間接的に引用する請求項4?7も、同様に訂正する。

(5) 訂正事項5-1
本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の段落【0012】の、
「[1]有機樹脂、金属及び樹脂塗装された金属から選ばれる基材と室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物との接着性を向上させるプライマー組成物であって、
(A)R_(3)SiO_(1/2)単位(式中、各Rは独立に炭素数1?6の非置換又は置換の1価炭化水素基を表す。)及びSiO_(4/2)単位を含み、SiO_(4/2)単位に対するR_(3)SiO_(1/2)単位のモル比が0.6?1.2である三次元網状構造のオルガノシロキサンポリマー 100質量部と、
(B)下記式(1)で表されるチタン化合物又は式(1)で表わされるチタン化合物を75モル%以上含有するオルガノオキシ基含有チタン化合物の混合物 300?1000質量部と、
Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1) ・・・(1)
(式中、R^(1)は同一でも異なっていてもよく、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換又は置換の一価炭化水素基である。)
(C)溶剤 1000?8000質量部
を含んでなることを特徴とするプライマー組成物。
[2]
前記(B)成分は、(B1)テトラオルガノオキシチタン及び/又はその部分加水分解縮合物と(B2)アセト酢酸エステルとを、(B1)中のチタン原子1モルに対して(B2)アセト酢酸エステルを0.8モル以上1.2モル未満の比率で混合して生成する反応生成物の混合物であることを特徴とする[1]記載のプライマー組成物。
[3]
前記(B)成分は、(B1)テトラオルガノオキシチタン及び/又はその部分加水分解縮合物と(B3)チタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているオルガノオキシ基含有チタンキレート化合物とを、(B1)中のチタン原子1モルに対して、(B3)チタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているオルガノオキシ基含有チタンキレート化合物を0.8モル以上1.2モル未満の比率で混合して生成する反応生成物の混合物であることを特徴とする[1]記載のプライマー組成物。
[4]
アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、イソシアヌレート環含有シランを含有しないものである[1]?[3]のいずれかに記載のプライマー組成物」を、
「[1]
有機樹脂、金属及び樹脂塗装された金属から選ばれる基材と室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物との接着性を向上させるプライマー組成物であって、
(A)R_(3)SiO_(1/2)単位(式中、各Rは独立に炭素数1?6の非置換又は置換の1価炭化水素基を表す。)及びSiO_(4/2)単位を含み、SiO_(4/2)単位に対するR_(3)SiO_(1/2)単位のモル比が0.6?1.2である三次元網状構造のオルガノシロキサンポリマー 100質量部と、
(B)下記式(1)で表されるチタン化合物又は式(1)で表されるチタン化合物を75モル%以上含有するオルガノオキシ基含有チタン化合物の混合物 300?1000質量部と、
Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1) ・・・(1)
(式中、R^(1)は同一でも異なっていてもよく、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。)
(C)溶剤 1000?8000質量部
を含んでなることを特徴とするプライマー組成物。
[2]
有機樹脂、金属及び樹脂塗装された金属から選ばれる基材と室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物との接着性を向上させるプライマー組成物であって、
(A)R_(3)SiO_(1/2)単位(式中、各Rは独立に炭素数1?6の非置換又は置換の1価炭化水素基を表す。)及びSiO_(4/2)単位を含み、SiO_(4/2)単位に対するR_(3)SiO_(1/2)単位のモル比が0.6?1.2である三次元網状構造のオルガノシロキサンポリマー 100質量部と、
(B)(B1)テトラオルガノオキシチタン及び/又はその部分加水分解縮合物と(B2)アセト酢酸エステルとを、(B1)中のチタン原子1モルに対して(B2)アセト酢酸エステルを0.8モル以上1.2モル未満の比率で混合して生成する反応生成物の混合物であって下記式(1)で表されるチタン化合物を75モル%以上含有するオルガノオキシ基含有チタン化合物の混合物 300?1000質量部と、
Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1) ・・・(1)
(式中、R^(1)は同一でも異なっていてもよく、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。)
(C)溶剤 1000?8000質量部
を含んでなることを特徴とするプライマー組成物。
[3]
有機樹脂、金属及び樹脂塗装された金属から選ばれる基材と室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物との接着性を向上させるプライマー組成物であって、
(A)R_(3)SiO_(1/2)単位(式中、各Rは独立に炭素数1?6の非置換又は置換の1価炭化水素基を表す。)及びSiO_(4/2)単位を含み、SiO_(4/2)単位に対するR_(3)SiO_(1/2)単位のモル比が0.6?1.2である三次元網状構造のオルガノシロキサンポリマー 100質量部と、
(B)(B1)テトラオルガノオキシチタン及び/又はその部分加水分解縮合物と(B3)チタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているオルガノオキシ基含有チタンキレート化合物とを、(B1)中のチタン原子1モルに対して、(B3)チタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているオルガノオキシ基含有チタンキレート化合物を0.8モル以上1.2モル未満の比率で混合して生成する反応生成物の混合物であって下記式(1)で表されるチタン化合物を75モル%以上含有するオルガノオキシ基含有チタン化合物の混合物 300?1000質量部と、
Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1) ・・・(1)
(式中、R^(1)は同一でも異なっていてもよく、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。)
(C)溶剤 1000?8000質量部
を含んでなることを特徴とするプライマー組成物。
[4]
アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、イソシアヌレート環含有シランを含有しないものである[1]?[3]のいずれかに記載のプライマー組成物。」に訂正する。

(6) 訂正事項5-2
発明の詳細な説明の段落【0015】の、「式(1)で表わされる」を、「式(1)で表される」に訂正する。

(7) 訂正事項5-3
発明の詳細な説明の段落【0015】、【0024】の「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)」(それぞれ1カ所)を「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1)」に訂正し、【0026】の「Ti(OR^(1))_(2)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(2)」を「Ti(OR^(1))_(2)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(2)」に訂正し、【0034】の「配位子(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))」(2カ所)を「配位子(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))」に訂正する。

(8) 訂正事項5-4
発明の詳細な説明の段落【0015】、【0024】、【0031】の「水素原子及び/又は非置換又は置換の一価炭化水素基である。)」を「水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。)」に訂正する。

(9) 訂正事項5-5
発明の詳細な説明の段落【0025】の、「(B1)テトラアルコキシチタン等のテトラオルガノオキシシラン」を、「(B1)テトラアルコキシチタン等のテトラオルガノオキシチタン」に訂正する。

(10) 訂正事項5-6
発明の詳細な説明の「(B1)成分のテトラオルガノオキシシラン」(段落【0026】に2カ所、段落【0029】に2カ所、)を、いずれも、「(B1)成分のテトラオルガノオキシチタン」に訂正する。

(11) 訂正事項5-7
発明の詳細な説明の「(B1)成分であるテトラオルガノオキシシラン」(段落【0027】に1カ所、段落【0029】に1カ所)を、いずれも、「(B1)成分であるテトラオルガノオキシチタン」に訂正する。

(12) 訂正事項6
本件訂正前の請求項1の、「式(1)で表わされる」を、「式(1)で表される」に訂正する。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4?7も、同様に訂正する。

第4 訂正の適否の判断
1 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1について、(B)成分の式(1)における「R^(2)」が「同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換又は置換の一価炭化水素基」とされていたものを、「同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基」に訂正することにより、その選択肢の一部(置換の一価炭化水素基)を削除するものである。
また、本件訂正後の請求項1を引用する請求項4?7についても、同様に、「R^(2)」の選択肢の一部を削除するものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記のとおり、訂正事項1に係る訂正は、「R^(2)」の選択肢の一部を削除するものであり、請求項4?7についても同様に訂正するものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであり、特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項1に係る訂正は、「R^(2)」の選択肢の一部を削除するものであり、請求項4?7についても同様に訂正するものであるので、本件訂正前の請求項1に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(2) 訂正事項2について
ア 訂正事項2は、本件訂正前の請求項1に、「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)」と記載されていたものを、「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1)」に訂正し、また、本件訂正後の請求項1を引用する請求項4?7についても、同様に、訂正するものである。
イ 以下に述べるように、訂正前の「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)」には、「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)」と「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1)」の両者が実質的に含まれているのにもかかわらず、「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)」と表記され、明瞭でない記載となっていたところ、訂正事項2は、「R^(2)」の選択肢の一部を削除する訂正事項1にともない、「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)」が含まれないことを明確にして、「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1)」のみが含まれることを特定するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的としたものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないものであるといえる。以下、詳説する。
ウ まず、訂正前の「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)(R^(1)は非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は水素原子及び/又は非置換又は置換の一価炭化水素基である)」という化学式で表される化合物について検討する。当該化合物は、その化学式に基づき、金属原子(Ti)に「OR^(1)」で表される基が3個と「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」で表される化合物が1個結合(配位)した一般に金属錯体と呼ばれる化合物であると、理解することができる。
また、上記化学式で表される金属錯体において、金属原子(Ti)に結合した「OR^(1)」がアルコキシル基(あるいはオルガノオキシ基)と呼ばれる基であり、「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」は、配位子と呼ばれるものであることは技術常識である。
そして、上記化学式の価数について検討すると、技術常識に照らして、当該化学式の価数は全体としては中性(0価)であり、「OR^(1)」は-1価であり、「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」は中性であると解することが合理的であるから、このような場合は、Tiの価数は+3であり、上記化学式で表される金属錯体は、3価のTiの化合物(金属錯体)であるということができる。
ここで、このように理解した場合には、中性の配位子である「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」が、+3価のTiに配位結合を形成することができるもの(配位座となりうる部分構造を備えているもの)であることを要するが、R^(2)が「置換の一価炭化水素基」である場合には、+3価のTiに配位結合を形成することができるものが存在する可能性があるとしても、R^(2)が「水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基」である場合には、+3価のTiに配位結合を形成するものが存在するということは困難である。すなわち、該当する化合物(例えば、アセト酢酸エチル)が、+3価のTiに配位子として結合している金属錯体は、世の中に知られているとはいえない。
したがって、R^(2)が「水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基」である場合については、上記化学式で表される金属錯体が実在するとはいえないから、「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」という配位子は、Tiに配位結合を形成することができないものであると考えるのが合理的である。
そうすると、上記化学式で表される金属錯体は、訂正前のR^(2)が「置換の一価炭化水素基」である場合は存在するとしても、訂正後のR^(2)が「水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基」に特定された場合については、「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」という配位子はTiに配位結合を形成することができず、そのような化合物は存在しないと考えるのが合理的である。
エ 次に、発明の詳細な説明の記載を検討する。
発明の詳細な説明には、「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)」の製造方法について以下の記載がある。
「【0024】
(B)成分は、下記式(1)で表されるアルコキシ基含有チタン化合物等のオルガノオキシ基含有チタン化合物を主成分として75モル%以上、好ましくは80モル%以上含有するオルガノオキシ基含有チタン化合物の混合物である。
Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1) … (1)
(式中、R^(1)は同一でも異なっていても良く、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は同一でも異なっていても良く、水素原子及び/又は非置換又は置換の一価炭化水素基である。)
【0025】
より具体的には、(B)成分は、(B1)テトラアルコキシチタン等のテトラオルガノオキシシラン及び/又はその部分加水分解縮合物と(B2)アセト酢酸エステルとを、(B1)中のチタン原子1モルに対して(B2)アセト酢酸エステルを0.8モル以上1.2モル未満の比率で混合して生成する反応生成物の混合物であってもよい。
【0026】
この場合、(B1)成分のテトラオルガノオキシシランと(B2)成分のアセト酢酸エステルとの反応は、室温(25℃)にて定量的に容易に進行して、(B1)成分のテトラオルガノオキシシラン中の4個のオルガノオキシ基のうちの1個がアセト酢酸エステルと交換して式(1)で示されるキレート錯体を生成するものであり、更に、(B1)成分の全てが式(1)で示されるチタンキレート錯体に変換してもなお、過剰の(B2)成分であるアセト酢酸エステルが反応系内に残存している場合には、式(1)で示されるチタンキレート錯体全体のうち過剰の(B2)成分と等モル分だけが、式(1)で示されるチタンキレート錯体中の3個のオルガノオキシ基のうちの1個がアセト酢酸エステルと更に交換して、下記式(1)’に示す(B3)成分であるチタン原子1個に対して2個のオルガノオキシ基を有すると共に2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているアルコキシ基含有チタンキレート錯体を定量的に生成するものである。
Ti(OR^(1))_(2)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(2) … (1)’
(式中、R^(1)及びR^(2)の定義は同じである。)」
なお、「テトラオルガノオキシシラン」(【0025】に1カ所、【0026】に2カ所)は、「テトラオルガノオキシチタン」の誤記であると認めた。また、「アセト酢酸エステル」(【0025】に2カ所、【0026】に5カ所)の「アセト」は、「CH_(3)CO」を意味する用語であるので、「アセト酢酸エステル」に対応する化学式は、「CH_(3)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」であり、「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」(アシル酢酸エステル)ではないが、「アセト酢酸エステル」が「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」を意味する用語として誤用されているものと認めた。
上記によれば、発明の詳細な説明には、「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)」という化合物の製造方法について、テトラオルガノオキシチタン(Ti(OR^(1))_(4))と「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」を混合することにより、テトラオルガノオキシチタン中の4個のオルガノオキシ基(OR^(1))のうちの1個が「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」と定量的に交換して式(1)で示されるキレート錯体を生成する」(段落【0026】)と説明され、その際、過剰の「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」が存在する場合には、「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)」中の3個のオルガノオキシ基(OR^(1))のうちの1個がさらに「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」と定量的に交換して「Ti(OR^(1))_(2)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(2)」となると説明され、これらの交換反応が室温(25℃)で容易に定量的に進行するものであることが説明されているが、これらの説明は、要するにオルガノオキシ基が「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」と定量的に交換すると述べるにとどまるものであって、化学反応式などは何も示されておらず、発明の詳細な説明の記載からは、請求項に記載された「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」が、その表現された化学式に限られるものであると解釈することはできない。
オ そこで、当該化学反応式を推定する参考資料として、特開平4-18481号公報(第1頁左下欄、第3頁右下欄1行?4頁右上欄5行)を参照することとする。
上記公報には、チタンのアルコキシサイド(テトラオルガノオキシチタンに該当する)とアセト酢酸エステル(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)に該当する)を反応させることによって、チタンのアセト酢酸エステル錯体が生成する化学反応について記載されている。そして、この化学反応は、チタンのアルコキシサイド、アセト酢酸エステル、及び、チタンのアセト酢酸エステル錯体が、それぞれ、上記交換反応における、テトラオルガノオキシチタン、R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)、及び、式(1)で示されるキレート錯体に該当する点で、反応基質及び反応生成物が共通しているから、上記交換反応の化学反応式を、この化学反応の反応式と同様のものであると推定することは、合理的であるといえる。
そして、上記公報には、アセト酢酸エステルが二座配位子(キレート配位子)であること、当該反応は、具体的には、チタンのアルコキシサイドに対してアセト酢酸エステルを2倍モル反応させるものであり、その化学反応式が「Ti(OR^(3))_(4) + 2CH_(3)COCH_(2)CO_(2)R → Ti(OR^(3))_(2)(CH_(3)COCHCO_(2)R)_(2) + 2R^(3)OH」というものであること、その好ましい反応温度が室温?約100℃であり、好ましい反応時間が10分間?4時間であることなどが記載されている。また、これらの記載に基づき、二座配位子が、アセト酢酸エステルそのものではなく、アセト酢酸エステルの「CO」と「COO」に挟まれたメチレン(CH_(2))の水素が1つ失われているアニオン([CH_(3)COCHCO_(2)R]^(-))であることも理解できる。
以上によれば、当業者は、本件発明に係る交換反応の化学反応式が、「Ti(OR^(1))_(4) + R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2) → Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1) + R^(1)OH」というものである可能性があり、この化学反応式においては、反応生成物が「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1)」であって、「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)」ではないものの、発明の詳細な説明中の多数の誤記についても上記公報の記載や技術常識に照らして解釈すると、請求項1や発明の詳細な説明中に多数記載されている「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)」は、いずれも「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1)」(+4価のTiの化合物)も意味するものであると理解するのが合理的である。
カ 以上をまとめると、訂正前は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)」が表す化合物について、その記載のとおりの+3価のTiの化合物を表しているという解釈(ただし、実質的には「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」という配位子がTiに配位結合を形成することができるものである場合、すなわち、R^(2)が「置換の一価炭化水素基」であり、かつ、当該置換基が配位座となりうる部分構造を備えているものに限る。以下、「特定の+3価のTiの化合物」という。)の他に、「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1)」という+4価のTiの化合物を表していると解釈することができることから、そのような化合物を「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)」という化学式で記載することは明確ではなかったといえる。
キ これに対し、訂正事項1、2による訂正後の請求項1の記載は、「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1)(式中、R^(1)は同一でも異なっていてもよく、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。)」であり、訂正事項1による訂正で、R^(2)が「置換の一価炭化水素基」である場合が除かれたので、本件訂正前の「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)」が「特定の+3価のTiの化合物」を表しているという解釈は採り得なくなった。
また、本件訂正前の「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」という記載では、この記載が「R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2)」と「R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2)」のいずれを意味しているのかが明確ではなかったが、本件訂正により、前者であることが明確になった。
また、請求項4?7についても同様に訂正されるので、明確になった。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると認められる。
ク また、本件訂正前の請求項1の本件特許の特許請求の範囲の請求項1の「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCH_(2)COOCH_(2)R^(2))_(1)」という記載が表す化合物について、「特定の+3価のTiの化合物」と「Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1)」という+4価のTiの化合物の双方を表しているとも解することができたところ、訂正事項2による訂正後は、後者のみを表すものに限定され、請求項4?7についても同様に限定されることになる。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとも認められる。
ケ また、上記のとおり、訂正事項2に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、請求項4?7についても同様に訂正するものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであり、特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項2に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明または特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、請求項4?7についても同様に訂正するものであるから、本件訂正前の請求項1、4?7に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、要するに、本件訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったものを、引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しない記載とするとともに、訂正事項1、2と同じ訂正をするというものである。
そうすると、訂正事項3に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、第3号に規定する明瞭でない記載の釈明、又は、第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
また、訂正事項3に係る訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、明瞭でない記載の釈明または特許請求の範囲の減縮のみを目的とするものであり、請求項4?7についても同様に訂正するものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであり、特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項3に係る訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、明瞭でない記載の釈明または特許請求の範囲の減縮のみを目的とするものであり、請求項4?7についても同様に訂正するものであるから、本件訂正前の請求項2、4?7に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(4) 訂正事項4について
訂正事項4に係る訂正は、要するに、本件訂正前の請求項3が請求項1を引用する記載であったものを、引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しない記載とするとともに、訂正事項1、2と同じ訂正をするというものである。
そうすると、訂正事項4に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、第3号に規定する明瞭でない記載の釈明、又は、第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
また、訂正事項4に係る訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、明瞭でない記載の釈明、又は、特許請求の範囲の減縮のみを目的とするものであり、請求項4?7についても同様に訂正するものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであり、特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項4に係る訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、明瞭でない記載の釈明又は特許請求の範囲の減縮のみを目的とするものであり、請求項4?7についても同様に訂正するものであるから、本件訂正前の請求項3?7に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(5) 訂正事項6について
訂正事項6に係る訂正は、本件訂正前の請求項1の、「式(1)で表わされる」という記載に、送り仮名の誤りがあったためその意味が明瞭ではなかったので、「式(1)で表される」に訂正し、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4?7も、同様に訂正するものであるから、訂正事項6に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると認められる。
また、訂正事項6に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明のみを目的とするものであり、請求項4?7についても同様に訂正するものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであり、特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項6に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明のみを目的とするものであり、請求項4?7についても同様に訂正するものであるから、本件訂正前の請求項3?7に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項6に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(6) 訂正事項5-1?5-7について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項5-1に係る訂正は、訂正事項1?4、6に係る訂正により特許請求の範囲が訂正されることにともなって、明細書の記載と特許請求の範囲の記載の不整合が生じるので、段落【0012】の記載について、訂正事項1?4、6に係る訂正と同様の訂正をするとともに、読点が欠落していた箇所に読点を追加するものであるから、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると認められる。
訂正事項5-2?5-4に係る訂正は、発明の詳細な説明の段落【0015】、【0024】、【0026】、【0031】、【0034】の記載について、訂正事項1、2、6と同様の訂正をするものであるから、特許法第126条第1項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると認められる。
訂正事項5-5?5-7に係る訂正は、発明の詳細な説明の段落【0025】、【0026】、【0027】、【0029】の記載について、明らかに「チタン」と記載すべき箇所に、「シラン」と記載されている箇所を、本来の意味の「チタン」に訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書き第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであると認められる。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項5-1?5-7に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明又は誤記又は誤訳の訂正のみを目的とするものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであり、特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項5-1?5-7に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明又は誤記又は誤訳の訂正のみを目的とするものであるから、本件訂正前の請求項1?7に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項5-1?5-7に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定に適合する。

2 独立特許要件について
上記1のとおり、訂正事項1?6に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮又は誤記又は誤訳を目的とするものを含むものであるが、訂正事項1?6に係る訂正後の請求項1?7に係る発明について独立して特許することができないと認められる理由を発見しない。
したがって、訂正事項1?6に係る訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合する。

3 別の訂正単位とする求めについて(付言)
審判請求人は、本件訂正後の請求項2、3については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めているが、請求項4(?7)は、請求項1?3をいずれも引用しているから、請求項1?7は、一群の請求項であり、そのような求めは採用することができない。

第5 結論
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号?第4号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項?第7項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
プライマー組成物及びカーテンウォールユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物と各種被着体との接着に有用なプライマー組成物及びカーテンウォールユニットに関し、特にアクリル電着塗装などの難接着被着体への接着性に優れ、且つ高温時の接着耐久性に優れ、且つ塗布作業に十分な作業可能時間を有していることを特徴とするプライマー組成物及び該プライマー組成物を用いたカーテンウォールユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
建築用シーリング材や一般工業用シール材、接着剤として使用される室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物と各種被着体との接着においては、各種シランやシランカップリング剤、チタン酸エステル類及び溶剤を主成分とした「シラン系プライマー」やオルガノポリシロキサン樹脂、チタン酸エステル類、シランカップリング剤類及び溶剤を主成分とした「シリコーンレジン系プライマー」、ポリイソシアネート化合物、溶剤を主成分とした「ウレタン系プライマー」、シラン変性アクリル樹脂、溶剤を主成分とした「アクリル系プライマー」などが用いられてきた(特許文献1?6参照)。
【0003】
シラン系プライマーのシランカップリング剤としては、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基又はイソシアネート基を有するものが一般的に用いられている。また、ウレタン系プライマーのポリイソシアネート化合物としては、イソシアネート化合物とポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリオールや水酸基含有アクリルオリゴマーとの付加反応で得られるものが知られている。
【0004】
上記シラン系プライマーは、金属やガラス等の無機系被着体に有用であり、耐熱性、耐候性及び耐久性も良好である。しかしながら、シラン系プライマーは、各種樹脂等の有機系被着体に対して十分な接着性が得られない場合がしばしばみられ、特に近年において、アルミサッシへの使用頻度が高い、アクリル樹脂を主成分とする塗料をアルミに電着塗装したアクリル電着塗装アルミやフッ素樹脂を主成分とする塗料をアルミに塗装したフッ素樹脂塗装アルミに対する接着性が不十分であった。
【0005】
これに対して、上記ウレタン系プライマーは、金属系及び有機系被着体を含む広範な被着体に対して、ある程度満足できる接着性が得られるが、ウレタン樹脂の特性上、耐熱性や耐候性、耐水性等の耐久性が不足するため、一般的に長期間の耐久性が求められるシリコーン硬化性組成物の用途には不適であった。また、シラン系及びポリイソシアネート系のブレンドプライマーを用いた場合においても、接着性や耐久性を両立させることは困難であった。
【0006】
アクリル系プライマーは、アルコキシシリル基を持つアクリル樹脂と溶剤とを主成分にしたものである。このようなアクリル系プライマーとして、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物がプライマーなしでは接着困難なアクリル樹脂やポリスチレン樹脂等の各種樹脂に対して良好な接着性を示すものが多く市販されている。これらの中には、アクリル電着塗装アルミやフッ素樹脂塗装アルミにも接着し、高い耐熱性、耐候性及び耐水性を有するものもある。しかしながら、アクリル系プライマーの耐熱性、耐候性は一般的な有機樹脂の中では高いものの、シリコーン系には及ばないことから、アクリル系プライマーを用いた場合の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の接着耐久性はアクリル系プライマーにより形成されたレジン層の耐久性に影響されてシラン系、シリコーンレジン系のプライマーと比較すると十分ではなかった。
【0007】
これに対し、シリコーンレジン系プライマーは有効成分の一つにオルガノポリシロキサン樹脂を含み、チタン酸エステルやアミノシランカップリング剤、シラン化合物などを接着成分としたもので、ガラス、金属、各種樹脂等の有機系被着体に加え、アクリル電着塗装アルミやフッ素樹脂塗装への接着性を両立することが可能なことが知られている。
【0008】
以上のことから、シリコーンレジン系プライマーはガラス、金属、樹脂や樹脂塗装面を中心とした様々な被着体を用途としたプライマーとして好適に使用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭53-005043号公報
【特許文献2】特許第2522856号公報
【特許文献3】特開平4-224879号公報
【特許文献4】特開平8-295852号公報
【特許文献5】特許第2914854号公報
【特許文献6】特許第2991934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、シリコーンレジン系プライマーの乾燥後の造膜成分であるオルガノポリシロキサン樹脂には各種被着体への接着性は乏しく、プライマー膜に被着体への良好な接着性を発現させるためには活性の高いチタン酸エステル類などの金属アルコキサイドを使用する必要があった。活性の高いチタン酸エステル類は接着付与能力が高い反面、高い加水分解性を有するため、湿気のある環境下でプライマー組成物を使用した時に、塗布作業中に気相中の湿気と反応し、短時間で沈殿物が生じ、濁りを生じたり、固化して塗布不能となったりという外観や作業性の問題が生じることがしばしばある。また、外観に変化を生じる前でもプライマーの接着性能が低下してしまうこともあり、重大な問題を生じることがあった。プライマーの製造者は、塗布作業の前に密閉された容器を開封して別の開放容器へ小分けする際は、小分け後10分以内にプライマーを塗布することを使用者に推奨して、前記問題の発生を予防しているが、現実の作業では10分から30分程度の作業時間を要する場合が多く、難接着なフッ素樹脂塗装、アクリル電着塗装などへ良好に接着し、耐熱性、耐紫外線性などの耐久性、耐候性に優れるとともに、施工時に長時間湿気環境に晒されても外観に変化を生じることなく、各種被着体へ良好な接着性を発現できるプライマー組成物の開発が望まれてきた。
そこで、本発明は、各種被着体への良好な接着性を発現可能で、各種の耐久性に優れるとともに、長い作業可能時間を確保したプライマー組成物及び該プライマー組成物を用いたカーテンウォールユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記発明にかかるプライマー組成物について種々検討を重ねた結果、該プライマー組成物が、特定構造を有するオルガノポリシロキサン樹脂と特定の構造を有するチタン化合物、溶剤とを所定の割合で混合することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記のプライマー組成物及び該プライマー組成物の塗布層を介してシリコーンゴム層が金属及び/又は金属塗装面へ接着したカーテンウォールユニットを提供するものである。
[1]
有機樹脂、金属及び樹脂塗装された金属から選ばれる基材と室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物との接着性を向上させるプライマー組成物であって、
(A)R_(3)SiO_(1/2)単位(式中、各Rは独立に炭素数1?6の非置換又は置換の1価炭化水素基を表す。)及びSiO_(4/2)単位を含み、SiO_(4/2)単位に対するR_(3)SiO_(1/2)単位のモル比が0.6?1.2である三次元網状構造のオルガノシロキサンポリマー 100質量部と、
(B)下記式(1)で表されるチタン化合物又は式(1)で表されるチタン化合物を75モル%以上含有するオルガノオキシ基含有チタン化合物の混合物 300?1000質量部と、
Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1) … (1)
(式中、R^(1)は同一でも異なっていてもよく、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。)
(C)溶剤 1000?8000質量部
を含んでなることを特徴とするプライマー組成物。
[2]
有機樹脂、金属及び樹脂塗装された金属から選ばれる基材と室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物との接着性を向上させるプライマー組成物であって、
(A)R_(3)SiO_(1/2)単位(式中、各Rは独立に炭素数1?6の非置換又は置換の1価炭化水素基を表す。)及びSiO_(4/2)単位を含み、SiO_(4/2)単位に対するR_(3)SiO_(1/2)単位のモル比が0.6?1.2である三次元網状構造のオルガノシロキサンポリマー 100質量部と、
(B)(B1)テトラオルガノオキシチタン及び/又はその部分加水分解縮合物と(B2)アセト酢酸エステルとを、(B1)中のチタン原子1モルに対して(B2)アセト酢酸エステルを0.8モル以上1.2モル未満の比率で混合して生成する反応生成物の混合物であって下記式(1)で表されるチタン化合物を75モル%以上含有するオルガノオキシ基含有チタン化合物の混合物 300?1000質量部と、
Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1) … (1)
(式中、R^(1)は同一でも異なっていてもよく、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。)
(C)溶剤 1000?8000質量部
を含んでなることを特徴とするプライマー組成物。
[3]
有機樹脂、金属及び樹脂塗装された金属から選ばれる基材と室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物との接着性を向上させるプライマー組成物であって、
(A)R_(3)SiO_(1/2)単位(式中、各Rは独立に炭素数1?6の非置換又は置換の1価炭化水素基を表す。)及びSiO_(4/2)単位を含み、SiO_(4/2)単位に対するR_(3)SiO_(1/2)単位のモル比が0.6?1.2である三次元網状構造のオルガノシロキサンポリマー 100質量部と、
(B)(B1)テトラオルガノオキシチタン及び/又はその部分加水分解縮合物と(B3)チタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているオルガノオキシ基含有チタンキレート化合物とを、(B1)中のチタン原子1モルに対して、(B3)チタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているオルガノオキシ基含有チタンキレート化合物を0.8モル以上1.2モル未満の比率で混合して生成する反応生成物の混合物であって下記式(1)で表されるチタン化合物を75モル%以上含有するオルガノオキシ基含有チタン化合物の混合物 300?1000質量部と、
Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1) … (1)
(式中、R^(1)は同一でも異なっていてもよく、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。)
(C)溶剤 1000?8000質量部
を含んでなることを特徴とするプライマー組成物。
[4]
アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、イソシアヌレート環含有シランを含有しないものである[1]?[3]のいずれかに記載のプライマー組成物。
[5]
温度23℃、相対湿度50%の環境下で、密封容器から開放容器へ移した後、20分以上の塗布可能時間を有するものである[1]?[4]のいずれかに記載のプライマー組成物。
[6]
2成分型の脱アルコール型室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物からなるシリコーンゴム層を表面に有する金属製及び/又は樹脂塗装された金属製の枠体によってガラスを固定するカーテンウォールユニットにおいて、該金属及び/又は金属塗装面へ塗布するプライマーとして使用されるものである[1]?[5]のいずれかに記載のプライマー組成物。
[7]
[6]記載のプライマー組成物の塗布層を介して室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物層を金属及び/又は金属塗装面へ接着したものであるカーテンウォールユニット。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、アクリル電着塗装アルミニウムやフッ素樹脂塗装アルミニウム等の各種被着体に対して良好な接着性を示し、接着耐久性及び使用時に長い作業可能時間が得られるプライマー組成物及び該プライマー組成物を用いたカーテンウォールユニットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。なお、以下の実施の形態により、本発明が限定されるものではなく、下記の各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。
【0015】
本発明のプライマー組成物は、有機樹脂、金属及び樹脂塗装された金属から選ばれる基材と室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物との接着性を向上させるプライマー組成物であって、
(A)R_(3)SiO_(1/2)単位(式中、各Rは独立に炭素数1?6の非置換又は置換の1価炭化水素基を表す。)及びSiO_(4/2)単位を含み、SiO_(4/2)単位に対するR_(3)SiO_(1/2)単位のモル比が0.6?1.2である三次元網状構造のオルガノシロキサンポリマー 100質量部と、
(B)下記式(1)で表されるチタン化合物又は式(1)で表されるチタン化合物を75モル%以上含有するオルガノオキシ基含有チタン化合物の混合物 300?1000質量部と、
Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1) … (1)
(式中、R^(1)は同一でも異なっていてもよく、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。)
(C)溶剤 1000?8000質量部
を含んでなることを特徴とするプライマー組成物である。
以下に、本発明のプライマー組成物に含有される各成分について詳述する。
【0016】
<(A)オルガノシロキサンポリマー>
(A)成分のオルガノシロキサンポリマーは、本発明のプライマー組成物の乾燥後(即ち、(C)成分の溶剤を乾燥除去した後)の主成分となる成分であり、基材上に塗布されたプライマー組成物の造膜性を決定づける成分となる。
【0017】
(A)成分は、R_(3)SiO_(1/2)単位(式中、各Rは独立に炭素数1?6の非置換又は置換の1価炭化水素基を表す。)及びSiO_(4/2)単位からなり、SiO_(4/2)単位に対するR_(3)SiO_(1/2)単位のモル比が0.6?1.2である三次元網状構造のオルガノシロキサンポリマーであり、これは樹脂状のオルガノシロキサンコポリマー(いわゆるシリコーンレジン)である。
【0018】
ここで、それぞれのRは、独立にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ヘキシル等のアルキル基、シクロヘキシル等のシクロアルキル基、ビニル、アリル、プロペニル等のアルケニル基、及びフェニル等のアリール基のような炭素数1?6の1価炭化水素基、あるいはこれらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子等で置換したクロロメチル基、3,3,3-トリフロロプロピル基等の1価の置換炭化水素基を示すものである。かかるコポリマーは、加水分解性のトリオルガノシラン、及びR基を含まない加水分解性シラン、シロキサンを共加水分解、縮合させることによって得られる、当業界においては公知の材料である。
【0019】
SiO_(4/2)単位に対するR_(3)SiO_(1/2)単位のモル比は0.6?1.2であり、好ましくは0.7?1.0である。上記モル比が0.6未満ではプライマー乾燥後のプライマー膜が硬くなりすぎ、1.2を超えると脆くなるため接着性、接着耐久性が劣る。
【0020】
なお、上記オルガノシロキサンポリマーの効果を損なわない範囲で、RSiO_(3/2)単位、R_(2)SiO_(2/2)単位を合計でR_(3)SiO_(1/2)単位とSiO_(4/2)単位との合計に対して0?10モル%、特に0?5モル%の割合において含有してもよい。
【0021】
また、上記オルガノシロキサンポリマーのヒドロキシシリル基(シラノール基)の含有量は0.04?0.07モル/100gである。ヒドロキシシリル基の含有量が0.04モル/100g未満では接着性に劣り、0.07モル/100gを超えると耐久性に劣る。
【0022】
上記のオルガノシロキサンポリマーはプライマー組成物全量あたり、0.5?10質量%、特に1?5質量%の範囲で含まれている。
【0023】
<(B)アルコキシ基含有チタン化合物の混合物>
(B)成分は、本発明のプライマー組成物の基材への接着性を向上させるとともに、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物(シリコーンゴム層)とプライマー組成物の接着性の発現する時間を短縮する接着促進剤としての役割を担う。
【0024】
(B)成分は、下記式(1)で表されるアルコキシ基含有チタン化合物等のオルガノオキシ基含有チタン化合物を主成分として75モル%以上、好ましくは80モル%以上含有するオルガノオキシ基含有チタン化合物の混合物である。
Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1) … (1)
(式中、R^(1)は同一でも異なっていても良く、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は同一でも異なっていても良く、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。)
【0025】
より具体的には、(B)成分は、(B1)テトラアルコキシチタン等のテトラオルガノオキシチタン及び/又はその部分加水分解縮合物と(B2)アセト酢酸エステルとを、(B1)中のチタン原子1モルに対して(B2)アセト酢酸エステルを0.8モル以上1.2モル未満の比率で混合して生成する反応生成物の混合物であってもよい。
【0026】
この場合、(B1)成分のテトラオルガノオキシチタンと(B2)成分のアセト酢酸エステルとの反応は、室温(25℃)にて定量的に容易に進行して、(B1)成分のテトラオルガノオキシチタン中の4個のオルガノオキシ基のうちの1個がアセト酢酸エステルと交換して式(1)で示されるキレート錯体を生成するものであり、更に、(B1)成分の全てが式(1)で示されるチタンキレート錯体に変換してもなお、過剰の(B2)成分であるアセト酢酸エステルが反応系内に残存している場合には、式(1)で示されるチタンキレート錯体全体のうち過剰の(B2)成分と等モル分だけが、式(1)で示されるチタンキレート錯体中の3個のオルガノオキシ基のうちの1個がアセト酢酸エステルと更に交換して、下記式(1)’に示す(B3)成分であるチタン原子1個に対して2個のオルガノオキシ基を有すると共に2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているアルコキシ基含有チタンキレート錯体を定量的に生成するものである。
Ti(OR^(1))_(2)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(2) … (1)’
(式中、R^(1)及びR^(2)の定義は同じである。)
【0027】
従って、(B1)成分中のチタン原子と(B2)成分のアセト酢酸エステルとの混合モル比が1:1(等モル)の場合には、反応生成物である(B)成分は、式(1)で示される分子中に3個のオルガノオキシ基と1個のアセト酢酸エステルの配位子とを有するほぼ単一に近い成分(ほぼ100モル%程度)からなるオルガノオキシ基含有チタンキレート化合物となるが、(B1)成分中のチタン原子1モルに対する(B2)成分の混合モル比が0.8の場合には、式(1)で示されるチタンキレート化合物と原料(B1)成分であるテトラオルガノオキシチタンが約4:1(約0.8:0.2)程度のモル比で混合された混合物となり、また、前記混合モル比が1.2の場合には、式(1)で示されるチタンキレート化合物と上記に示す(B3)成分であるチタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているアルコキシ基含有チタンキレート錯体が、約4:1(約0.8:0.2)程度のモル比で混合された混合物となる。従って、前記混合モル比の範囲内で(B1)成分と(B2)成分を混合して生成する反応生成物中には、いずれの場合であっても、式(1)で示されるチタンキレート化合物が約80モル%程度以上(少なくとも、75モル%以上)の割合で混合されているものである。
【0028】
また、(B)成分は、(B1)テトラアルコキシチタン及び/又はその部分加水分解縮合物と(B3)チタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているアルコキシ基含有チタンキレート化合物とを、(B1)中のチタン原子1モルに対して、(B3)チタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているアルコキシ基含有チタンキレート化合物を0.8モル以上1.2モル未満の比率で混合して生成する反応生成物の混合物であってもよい。
【0029】
この場合、(B1)成分のテトラオルガノオキシチタンと(B3)成分のチタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているアルコキシ基含有チタンキレート化合物との反応は、室温(25℃)にて定量的に容易に進行して、(B1)成分であるテトラオルガノオキシチタン中の4個のオルガノオキシ基のうちの1個が(B3)成分中に存在する2個のアセト酢酸エステルのキレートのうちの1個と交換するものであるから、(B1)成分中のチタン原子と(B3)成分のチタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているアルコキシ基含有チタンキレート化合物との混合モル比が1:1(等モル)の場合には、(B1)成分と(B3)成分との交換反応が過不足なく進行する結果、反応生成物である(B)成分は、(B1)成分由来の式(1)で示されるチタンキレート化合物と(B3)成分由来の式(1)で示されるチタンキレート化合物とのほぼモル比1:1程度の等モル混合物(混合物全体としては、式(1)で示されるチタンキレート化合物がほぼ100モル%程度)となるが、(B1)成分中のチタン原子1モルに対する(B3)成分の混合モル比が0.8の場合には、原料(B1)成分のテトラオルガノオキシチタンと(B1)成分由来の式(1)で示されるチタンキレート化合物と(B3)成分由来の式(1)で示されるチタンキレート化合物が、約1:4:4(約0.2:0.8:0.8)程度のモル比で混合された混合物(即ち、式(1)で示されるチタンキレート化合物が約89モル%程度の混合物)となり、また、前記混合モル比が1.2の場合には、原料(B3)成分と(B1)成分由来の式(1)で示されるチタンキレート化合物と(B3)成分由来の式(1)で示されるチタンキレート化合物とが、約1:5:5(約0.2:1.0:1.0)程度のモル比で混合された混合物(即ち、式(1)で示されるチタンキレート化合物が約91モル%程度の混合物)となる。従って、前記混合モル比の範囲内で(B1)成分と(B3)成分を混合して生成する反応生成物中には、いずれの場合であっても、式(1)で示されるチタンキレート化合物が約89モル%程度以上(少なくとも、75モル%以上)の割合で混合されているものである。
【0030】
(B1)成分のテトラアルコキシチタン等のテトラオルガノオキシチタン(以下、単に、テトラアルコキシチタンと称する場合がある。)及びその部分加水分解縮合物は、下記一般式(2)
Ti(OR^(1))_(4) … (2)
(式中、R^(1)は同一でも異なっていても良く、非置換又は置換の一価炭化水素基である。)
で表されるテトラオルガノオキシチタン及びその部分加水分解縮合物である。一般式(2)において、一価炭化水素基R^(1)としては、例えば炭素原子数8以下の低級アルキル基が好適である。本発明において、特に好適なテトラアルコキシチタンは、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラ(tert-ブトキシ)チタン、テトラ(2-エチルヘキソキシ)チタンである。これらのアルコキシチタンは、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用することもでき、また共加水分解物の形でも使用することができる。アルコキシ基が異なる2種のアルコキシチタンを混合した場合は、両者のアルコキシ基の一部が経時で交換反応を起こすことが知られており、アルコキシチタンのアルコキシ基の設計自由度を上げている。また、アルコール類やアルコキシシランと混合した際にはアルコキシ基の一部又は全部が交換することも知られている。このため、プライマー組成物中にアルコール類やアルコキシシランを含む場合は、そのアルコール類がアルコキシ基に交換されても性能的な不利益を生じないように種類を選択したり、量を調整する必要がある。
【0031】
(B2)成分のアセト酢酸エステルは下記一般式(3)で示される。
R^(2)CH_(2)C(=O)CH_(2)C(=O)OCH_(2)R^(2) … (3)
(式中、R^(2)は同一でも異なっていても良く、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。)
【0032】
一般式(3)において、R^(2)としては、水素原子及び/又は炭素原子数8以下の低級アルキル基が好適である。両方のR^(2)が水素原子であるアセト酢酸メチル、及びエステル基側(右側)のR^(2)がメチル基であり、他方(左側)のR^(2)が水素原子であるアセト酢酸エチルが好ましい。
【0033】
本発明において、特に好適なアセト酢酸エステルはアセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸t-ブチルである。これらのアセト酢酸エステルは1種単独でも2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0034】
(B3)成分のチタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているオルガノオキシ基含有チタンキレート化合物は、好適には、前記一般式(1)で示される化合物において、分子中に3個存在するオルガノオキシ基(OR^(1))のうちの1個が、更にアセト酢酸エステルの配位子(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))に置換されているもの(即ち、1分子中に2個のオルガノオキシ基(OR^(1))と、2個のアセト酢酸エステルの配位子(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))とを有するチタンキレート化合物)に該当するものであって、(B3)成分の具体例としては、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、ジノルマルブトキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、ジターシャリーブトキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、ジ(2-エチルヘキソキシ)チタンビス(エチルアセトアセテート)等のジアルコキシチタンビス(エチルアセトアセテート)錯体などのジオルガノオキシチタンビスアセトアセテート錯体等挙げられる。
【0035】
本発明において、(B)成分はプライマー組成物全量あたり、1?20質量%、特に3?10質量%の範囲で含まれている。
【0036】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して300?1000質量部である。好ましくは、350?800質量部であり、さらに好ましくは400?700質量部である。300質量部未満では、接着性の発現が遅くなり短時間で所望の接着性を得ることができない。また、1000質量部を超える場合には、プライマー組成物の貯蔵安定性が低下し、製造して長期間経過後のプライマー組成物の各種基材への接着性を得ることができなくなり、施工された硬化性組成物の硬化物が基材からプライマー組成物とともに剥離してしまうことが多くなる。
【0037】
<(C)溶剤>
(C)成分の溶剤は、(A)成分及び(B)成分を溶解又は分散させることで、塗布作業を容易にし、速乾性を付与するために用いられる。(C)成分の溶剤の種類は、プライマー組成物が透明性や均一性を失わない限り、特に限定されることはないが、対象とする被着体の耐溶剤性や刷毛作業条件等により選定される。
【0038】
このような溶剤は、(A)成分の良溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル類、n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソオクタン(2,2,4-トリメチルペンタン)などの脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられる。また、(A)成分の貧溶媒として、アルコール類を用いてもよい。アルコール類の例としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-エチル-1-ヘキサノールが挙げられる。
【0039】
(C)成分の配合量は(A)成分100質量部に対し、1000?8000質量部であり、好ましくは2000?7000質量部である。(C)成分の配合量が1000質量部を下回ると、プライマー組成物を塗布して乾燥させた後に基材表面に残るプライマーの膜厚が厚くなり過ぎるため、基材から剥離し易くなるだけでなく、(A)成分及び(B)成分の量が相対的に増えてしまうことでコスト的にも不利益となる。それに対して(C)成分の配合量が8000質量部を上回ると、乾燥後のプライマー組成物の層が薄くなり過ぎてしまい、接着性を向上する働きが失われるだけでなく、粘度は下がるものの、湿気環境下におけるプライマーの作業可能時間が短くなる。
【0040】
<(D)添加剤>
(D)成分の添加剤として、本発明のプライマー組成物の貯蔵安定性等を向上するために、任意成分として必要に応じて、アルキルトリアルコキシシランなどの加水分解性基含有シランを含有してもよい。(D)成分のうち、アルキルトリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランが挙げられ、その中でもメチルトリメトキシシランが好ましい。
【0041】
(D)成分の配合量は(A)成分100質量部に対して0.1?100質量部である。好ましくは、0.5?10質量部であり、さらに好ましくは1?5質量部である。0.1質量部より少ない場合には、貯蔵中にプライマー組成物が増粘するために、ゲル化するまでの期間が早まり、100質量部より多いときには性能面で殆ど不利益は無いが、コスト的な不利益が生じる。
【0042】
<その他の添加剤>
本発明のプライマー組成物には、その性能を損なわない範囲でその他にも任意の成分を添加できる。それらの成分としては、シラノール縮合触媒として、ジブチル錫ジメトキサイド、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクタノエート、ジブチル錫ジラウレート等の有機錫化合物;アルミニウムアセチルアセトナート等のアルミニウムアルコキシド;ジルコニウムアセチルアセトナート等のジルコニウムアルコキシド;接着付与剤としてシランカップリング剤等が挙げられる。これらの種類及び添加量は用途に応じ選定される。
なお、本発明のプライマー組成物には、アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、イソシアヌレート環含有シランを含有しない。
【0043】
<プライマー組成物を使用した接着方法>
本発明のプライマー組成物を使用して室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物(典型的には縮合反応硬化型の室温硬化性シリコーンゴム組成物)の硬化物を各種基材に接着硬化させるには、金属、樹脂塗装金属(例えば、アクリル樹脂やフッ素樹脂を主成分とする塗料を塗装したアルミニウムなどの有機樹脂塗装金属表面)又は有機樹脂等の各種基材表面に本発明のプライマー組成物をハケ等で塗布して乾燥させた後、この塗布面に硬化性組成物を接触させて硬化させる。
このようなプライマー組成物は、温度23(±10)℃、相対湿度50(±25)%の環境下で、密封容器から開放容器へ移した後、20分以上の塗布可能時間(可使時間)を有するものである。
【0044】
塗布後のプライマー組成物の乾燥時間は、常温(25℃程度)において、5分?480分の範囲が好ましく、10分?120分がより好ましい。乾燥時間が5分より短いと溶剤の乾燥が不十分で乾燥後のプライマー層の強度が得られない。また、乾燥時間が480分を超えると、表面に空気中の塵又は埃等の汚染物質が付着する可能性が高くなり、接着を阻害するおそれがある。なお、プライマー層の厚さは、通常0.1?500μm、好ましくは1?100μm、より好ましくは5?50μm程度が好適である。
【0045】
プライマー層が形成された塗布面には、さらに室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が形成される。室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、通常、主剤と硬化剤との2成分に分けられ、使用時にこれを混合することで硬化が始まりゴム状とすることができる。予め2成分に分けて保存されるため、保存安定性がよく、また硬化剤量などで硬化速度を適当に調整できるメリットがある。硬化機構は、主としてシラノール基と加水分解性基との間で、酸、アルカリ、有機スズ化合物の他、有機チタン化合物などの触媒を利用し、脱アルコールさせて硬化させる。
このような室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物には、例えば、SEALANT-FC-295SG(韓国信越シリコーン株式会社製)を使用することができるが、該組成物は、常温(25℃程度)において、0.5時間?28日、好ましくは3時間?21日、より好ましくは6時間?14日程度の下で硬化させることができる。なお、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物(シリコーンゴム層)の厚さは、通常100?1000000μm、好ましくは1000?100000μm程度が好適である。
【0046】
このようなプライマー組成物は、窓枠のシールや高層建築の外壁防水シールの他、水回り(台所、洗面所、風呂場)などの室内シールにも応用できるが、中でも上述した、2成分型の脱アルコール型室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物からなるシリコーンゴム層を表面に有する金属製及び/又は樹脂塗装された金属製の枠体によってガラスを固定するカーテンウォールユニットにおいて、該金属及び/又は金属塗装面へ塗布するプライマーとして使用されるプライマー組成物は好適である。さらに、該プライマー組成物の塗布層を介して室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物層を金属及び/又は金属塗装面へ接着したものであるカーテンウォールユニットは有用である。
【0047】
なお、本発明のプライマー組成物は、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物(シリコーンゴム)を各種基材に接着させる接着性付与剤、接着性向上剤及び接着発現性向上剤として有効であるが、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物以外にもプライマー組成物との間にシロキサン結合を生成可能なシリル基を有する硬化性組成物、例えば変成シリコーン系硬化性組成物、シリル化ポリウレタン系にも有効である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。なお、Meはメチル基を示す。
【0049】
<実施例及び比較例>
表1に示した成分に基づいて、実施例1?6及び比較例1?6を下記方法により生成した。
【0050】
[実施例1]
Me_(3)SiO_(1/2)単位及びSiO_(4/2)単位からなり、SiO_(4/2)単位に対するMe_(3)SiO_(1/2)単位のモル比が0.85である三次元網状構造のオルガノシロキサンポリマーの70質量%トルエン溶液143質量部、ノルマルヘキサン4750質量部、イソプロピルアルコール50質量部、テトラノルマルブトキシチタン400質量部(1.18モル)、アセト酢酸エチル150質量部(1.15モル)を加え、室温(25℃)にて均一に混合することにより淡黄色透明なプライマー組成物を得た。
【0051】
[実施例2]
アセト酢酸エチルを150質量部から130質量部(1.00モル)に変更した以外は実施例1と同様に淡黄色透明なプライマー組成物を得た。
【0052】
[実施例3]
アセト酢酸エチルを150質量部から145質量部(1.12モル)に変更し、テトラノルマルブトキシチタンを400質量部から330質量部(0.97モル)に変更した以外は実施例1と同様に淡黄色透明なプライマー組成物を得た。
【0053】
[実施例4]
アセト酢酸エチル150質量部のかわりにジイソプロポキシチタンビスエチルアセトアセテートの95質量%イソプロピルアルコール溶液280質量部(0.56モル)を使用し、テトラノルマルブトキシチタン400質量部を270質量部(0.79モル)に変更した以外は実施例1と同様に淡黄色透明なプライマー組成物を得た。
【0054】
[実施例5]
アセト酢酸エチル150質量部のかわりにジイソプロポキシチタンビスエチルアセトアセテートの95質量%イソプロピルアルコール溶液315質量部(0.66モル)を使用し、テトラノルマルブトキシチタン400質量部を240質量部(0.71モル)に変更した以外は実施例1と同様に淡黄色透明なプライマー組成物を得た。
【0055】
[実施例6]
アセト酢酸エチル150質量部のかわりにジイソプロポキシチタンビスエチルアセトアセテートの95質量%イソプロピルアルコール溶液340質量部(0.71モル)を使用し、テトラノルマルブトキシチタン400質量部を215質量部(0.63モル)に変更した以外は実施例1と同様に淡黄色透明なプライマー組成物を得た。
【0056】
[比較例1]
アセト酢酸エチルを使用しないこと以外は実施例1と同様に淡黄色透明なプライマー組成物を得た。
【0057】
[比較例2]
アセト酢酸エチルを150質量部から100質量部(0.77モル)に変更した以外は実施例1と同様に淡黄色透明なプライマー組成物を得た。
【0058】
[比較例3]
アセト酢酸エチルを150質量部から300質量部(2.31モル)に変更した以外は実施例1と同様に淡黄色透明なプライマー組成物を得た。
【0059】
[比較例4]
ノルマルヘキサンを4750質量部から15000質量部に変更した以外は実施例1と同様に淡黄色透明なプライマー組成物を得た。
【0060】
[比較例5]
アセト酢酸エチル150質量部のかわりにジイソプロポキシチタンビスエチルアセトアセテートの95質量%イソプロピルアルコール溶液190質量部(0.40モル)を使用し、テトラノルマルブトキシチタン400質量部を360質量部(1.06モル)に変更した以外は実施例1と同様に淡黄色透明なプライマー組成物を得た。
【0061】
[比較例6]
アセト酢酸エチル150質量部のかわりにジイソプロポキシチタンビスエチルアセトアセテートの95質量%イソプロピルアルコール溶液380質量部(0.80モル)を使用し、テトラノルマルブトキシチタン400質量部を180質量部(0.53モル)に変更した以外は実施例1と同様に淡黄色透明なプライマー組成物を得た。
【0062】
【表1】

【0063】
<接着性の評価>
実施例1?6、比較例1?6で得られた各プライマー組成物について、アルミ塗板に対する接着性を、以下の方法により評価した。
【0064】
[試験片の準備]
各プライマー組成物をアクリル電着塗装アルミの板に刷毛で塗布し、23℃、相対湿度(RH)50%の条件下において30分間放置した後、脱アルコールタイプの2成分型シリコーン系シーリング材(SEALANT-FC-295SG:韓国信越シリコーン株式会社製)の主剤と硬化剤とを混合したものを、各プライマー組成物が塗布されたアルミ板の塗布面に塗布し、10mm幅、50mm長さ、2mm厚の形状にヘラで成型して試験片とした。
【0065】
[接着性試験]
この試験片を以下の条件で養生した後、シリコーン系シーリング材の硬化物をナイフでカットし該カット部を手剥離して(手で摘んで引張り)、その剥離状態を観察(ナイフカットによる手剥離試験)することで、被着体とプライマー組成物との接着界面の状態を評価した。
【0066】
[初期接着性]
初期接着性については、温度23℃、相対湿度50%の環境下において7日間養生した後に、上記ナイフカットによる手剥離試験により評価した。評価は、シーリング材の凝集破壊した面積の割合が100%であったものを「◎」、同80%以上100%未満であったものを「○」、同50%以上80%未満であったものを「△」、同50%未満であったものを「×」とした。各プライマー組成物を使用した場合の初期接着性の試験結果を表2に示した。
【0067】
[浸水接着性]
耐水接着性については、温度23℃、相対湿度50%の環境下において7日間養生後に、50℃の温水に7日間浸漬した後に、初期接着性の試験方法と同様の方法により評価した。各プライマー組成物を使用した場合の耐水接着性の試験結果を表2に示した。
【0068】
<作業可能時間の評価>
実施例1?6、比較例1?6で得られた各プライマー組成物について、作業可能時間を、以下の方法により評価した。
【0069】
[作業可能時間]
得られた各プライマー組成物を3gアルミシャーレに取り、23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室の中で30分間静置後、外観変化を確認した。透明な液体の性状を維持している場合には○、白濁、ゲル化したり、乾燥固化した場合には×と評価した。各プライマーを使用した場合の作業可能時間の試験結果を表2に示した。
また、この30分静置後のプライマーを使用して接着性試験を実施し、結果を表2に示した。
【0070】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のプライマー組成物は、建築用シーリング材や一般工業用シール材、接着剤として使用される室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物と各種被着体との接着に好適に使用することができ、特にアクリル電着塗装などの難接着被着体への接着性に優れ、且つ高温時の接着耐久性に優れ、且つ塗布作業に十分な作業可能時間を有しているので、その工業的価値は大である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機樹脂、金属及び樹脂塗装された金属から選ばれる基材と室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物との接着性を向上させるプライマー組成物であって、
(A)R_(3)SiO_(1/2)単位(式中、各Rは独立に炭素数1?6の非置換又は置換の1価炭化水素基を表す。)及びSiO_(4/2)単位を含み、SiO_(4/2)単位に対するR_(3)SiO_(1/2)単位のモル比が0.6?1.2である三次元網状構造のオルガノシロキサンポリマー 100質量部と、
(B)下記式(1)で表されるチタン化合物又は式(1)で表されるチタン化合物を75モル%以上含有するオルガノオキシ基含有チタン化合物の混合物 300?1000質量部と、
Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1) … (1)
(式中、R^(1)は同一でも異なっていてもよく、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。)
(C)溶剤 1000?8000質量部
を含んでなることを特徴とするプライマー組成物。
【請求項2】
有機樹脂、金属及び樹脂塗装された金属から選ばれる基材と室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物との接着性を向上させるプライマー組成物であって、
(A)R_(3)SiO_(1/2)単位(式中、各Rは独立に炭素数1?6の非置換又は置換の1価炭化水素基を表す。)及びSiO_(4/2)単位を含み、SiO_(4/2)単位に対するR_(3)SiO_(1/2)単位のモル比が0.6?1.2である三次元網状構造のオルガノシロキサンポリマー 100質量部と、
(B)(B1)テトラオルガノオキシチタン及び/又はその部分加水分解縮合物と(B2)アセト酢酸エステルとを、(B1)中のチタン原子1モルに対して(B2)アセト酢酸エステルを0.8モル以上1.2モル未満の比率で混合して生成する反応生成物の混合物であって下記式(1)で表されるチタン化合物を75モル%以上含有するオルガノオキシ基含有チタン化合物の混合物 300?1000質量部と、
Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1) … (1)
(式中、R^(1)は同一でも異なっていてもよく、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。)
(C)溶剤 1000?8000質量部
を含んでなることを特徴とするプライマー組成物。
【請求項3】
有機樹脂、金属及び樹脂塗装された金属から選ばれる基材と室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物との接着性を向上させるプライマー組成物であって、
(A)R_(3)SiO_(1/2)単位(式中、各Rは独立に炭素数1?6の非置換又は置換の1価炭化水素基を表す。)及びSiO_(4/2)単位を含み、SiO_(4/2)単位に対するR_(3)SiO_(1/2)単位のモル比が0.6?1.2である三次元網状構造のオルガノシロキサンポリマー 100質量部と、
(B)(B1)テトラオルガノオキシチタン及び/又はその部分加水分解縮合物と(B3)チタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているオルガノオキシ基含有チタンキレート化合物とを、(B1)中のチタン原子1モルに対して、(B3)チタン原子1個に対して2個のアセト酢酸エステルのキレートが形成されているオルガノオキシ基含有チタンキレート化合物を0.8モル以上1.2モル未満の比率で混合して生成する反応生成物の混合物であって下記式(1)で表されるチタン化合物を75モル%以上含有するオルガノオキシ基含有チタン化合物の混合物 300?1000質量部と、
Ti(OR^(1))_(3)(R^(2)CH_(2)COCHCOOCH_(2)R^(2))_(1) … (1)
(式中、R^(1)は同一でも異なっていてもよく、非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R^(2)は同一でも異なっていてもよく、水素原子及び/又は非置換の一価炭化水素基である。)
(C)溶剤 1000?8000質量部
を含んでなることを特徴とするプライマー組成物。
【請求項4】
アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、イソシアヌレート環含有シランを含有しないものである請求項1?3のいずれか1項に記載のプライマー組成物。
【請求項5】
温度23℃、相対湿度50%の環境下で、密封容器から開放容器へ移した後、20分以上の塗布可能時間を有するものである請求項1?4のいずれか1項に記載のプライマー組成物。
【請求項6】
2成分型の脱アルコール型室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物からなるシリコーンゴム層を表面に有する金属製及び/又は樹脂塗装された金属製の枠体によってガラスを固定するカーテンウォールユニットにおいて、該金属及び/又は金属塗装面へ塗布するプライマーとして使用されるものである請求項1?5のいずれか1項に記載のプライマー組成物。
【請求項7】
請求項6記載のプライマー組成物の塗布層を介して室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物層を金属及び/又は金属塗装面へ接着したものであるカーテンウォールユニット。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2021-05-12 
結審通知日 2021-05-17 
審決日 2021-06-02 
出願番号 特願2018-538259(P2018-538259)
審決分類 P 1 41・ 851- Y (C09D)
P 1 41・ 854- Y (C09D)
P 1 41・ 852- Y (C09D)
P 1 41・ 853- Y (C09D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松原 宜史  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 蔵野 雅昭
小出 輝
登録日 2020-04-13 
登録番号 特許第6690723号(P6690723)
発明の名称 プライマー組成物及びカーテンウォールユニット  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  

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