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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1377125
審判番号 不服2020-6447  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-13 
確定日 2021-08-11 
事件の表示 特願2017-523195「固定相、表面多孔性コアシェル粒子、及び面多孔性コアシェル粒子キラル固定相の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月21日国際公開、WO2016/011425、平成29年 8月10日国内公表、特表2017-522579〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)7月17日(パリ条約による優先権主張 2014年7月17日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和元年5月27日付けで拒絶理由が通知され、同年11月29日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月27日付けで拒絶査定されたところ、令和2年5月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 令和2年5月13日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年5月13日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)

「 【請求項1】
100m^(2)/g?500m^(2)/gの表面積を有する表面多孔性コアシェル粒子を備えた支持体と、前記表面多孔性コアシェル粒子の多孔層に非ポリマー型のキラル選択剤が共有結合してなるキラル固定相とを有する固定相であって、
前記共有結合は、エーテル結合、カルバメート結合、チオエーテル結合、チオカルバメート結合、エステル結合、トリアゾール結合、および尿素結合から選ばれるいずれかの結合であり、
キラル選択剤が、オリゴ糖およびその誘導体、環状オリゴ糖およびその誘導体、ペプチドおよびその誘導体、糖ペプチドおよびその誘導体、大環状糖ペプチドおよびその誘導体、π錯体、キラルクラウンエーテル、リガンド交換体、ならびにイオン交換体(ただし、誘導体化キニーネおよび誘導体化キニジンを除く。)からなる群から選択され、充填したカラムに133,000?221,000の理論段数(N/m)を与えることが可能な固定相。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和元年11月29日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「 【請求項1】
100m^(2)/g?500m^(2)/gの表面積を有する表面多孔性コアシェル粒子を備えた支持体と、前記表面多孔性コアシェル粒子の多孔層に非ポリマー型のキラル選択剤が共有結合してなるキラル固定相とを有する固定相であって、
前記共有結合は、エーテル結合、カルバメート結合、チオエーテル結合、チオカルバメート結合、エステル結合、トリアゾール結合、および尿素結合から選ばれるいずれかの結合であることを特徴とする固定相。」

2 補正の適否
本件補正は、「キラル選択剤が、オリゴ糖およびその誘導体、環状オリゴ糖およびその誘導体、ペプチドおよびその誘導体、糖ペプチドおよびその誘導体、大環状糖ペプチドおよびその誘導体、π錯体、キラルクラウンエーテル、リガンド交換体、ならびにイオン交換体(ただし、誘導体化キニーネおよび誘導体化キニジンを除く。)からなる群から選択され」るものであって、「固定相」が「充填したカラムに133,000?221,000の理論段数(N/m)を与えることが可能」である旨の限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、REISCHL J. Roland et al., Chemoselective and enantioselective analysis of proteinogenic amino acids utilizing N-derivatization and 1-D enantioselective anion-exchange chromatography in combination with tandem mass spectrometric detection, Journal of Chromatograph A, 2011, Vol.1218, Iss.46, pp.8379-8387(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。

(引1a)「Concepts of introducing labels that additionally promote chiral recognition of AA derivatives can be exceptionally beneficial. This is the case for DNB derivatized amino acids on cinchona alkaloid selectors. These low molecular weight selectors offer the possibility of distinctive investigations on their enantioselective binding increments. As is depicted in Fig. 1, chiral recognition is achieved by π-donor-acceptor interactions with the π basic chinoline moiety, steric interactions with the tert-butyl group, ion pairing attraction to the tertiary quinuclidine nitrogen and hydro-gen donor-acceptor interactions with the carbamate backbone of the cinchona selector [37-39]. The hydrogen bonding event of amide groups is a strongly directed interaction phenomenon and therefore particularly well suited for chiral discrimination processes. These interactions have been studied with NMR by the formation of diastereomeric selector-selectand complexes as well as by X-ray diffraction spectroscopy of a co-cristallizate [40]. By the reaction of amino acids with succinimidyl ferrocenyl propionate an amide group is created and a π-π interaction site is introduced, thereby supporting the present enantiorecognition mechanism. The analogy of FP to DNB protected amino acids is depicted in Fig. 1.」(8380頁右欄20-39行、当審訳:「AA誘導体のキラル認識をさらに促進するラベルを導入するという概念は、非常に有益である。これは、シンコナアルカロイドセレクター上のDNB誘導体化アミノ酸の場合である。これらの低分子量セレクターは、それらのエナンチオ選択的結合の増加に関する特徴的な研究の可能性を示す。図1に示すように、キラル認識は、基本的なキノリン部分とのπ-ドナー-アクセプター相互作用、tert-ブチル基との立体相互作用、第3キヌクリジン窒素へのイオンペアリング引力、およびシンコナセレクターのカルバメート骨格との水素ドナー-アクセプター相互作用によって達成される[37-39]。アミド基の水素結合現象は、相互作用現象に強く関連しているものであって、キラル識別プロセスに特に適している。これらの相互作用は、共結晶化物のX線回折分光法と同様にジアステレオマーのセレクター-セレクタンド型錯体の形成によってNMRで研究されている[40]。アミノ酸とスクシンイミジルフェロセニルプロピオン酸との反応により、アミド基が生成され、π-π相互作用部位が導入され、それによって現在のエナンチオ認識メカニズムがサポートされる。FPとDNBで保護されたアミノ酸の類似性を図1に示す。」)

(引1b)「2.1. Materials

Methanol was of HPLC gradient grade and obtained from VWR (Vienna, Austria). The water for derivatization and for mobile phase was purified in house by a millipore purification system. The eluent buffer ammonium formate was purchased from Sigma-Aldrich at MS grade (99.995%), as was formic acid (98-100%, ACS reagent). For the derivatization of theaminoacids 0.1 molar HCl (Sigma-Alrich) was used. Iodoacetamide was bought from Fluka(Buchs, Switzerland) with purity higher than 98%. The SFP (succinimidyl ferrocenyl propionate) reagent was a kind donation from the research group of Prof. Uwe Karst (Mster, Germany). Amino acids of analytical grade were obtained from Bachem (Bubendorf, Switzerland) or Sigma-Aldrich (St. Louis, MO, USA) in single enantiomer as well as in racemic form and all of them were of analytical grade. The deuterated alanine (l-Ala-2,3,3,3-d_(4)) was ordered from Cambridge Isotope Laboratories, Inc. (Andover, MA, USA) and its purity was 98 at.%. The chromatographic HALO sub 3 μm silica-based fused core support material was a gift from Advanced Technologies (Wilmington, DE, USA). The particle diameter was 2.7 μm with 0.5 μm porous layer thickness around the 1.7 μm solid core. The mean pore size was 90Å with 150 m^(2) surface area per gram and a selector coverage of 180 μmol per gram.」(8381頁左欄24-45行、当審訳:「2.1. 材料

HPLCで使用するメタノールはグラジエントグレードであり、VWR(ウィーン、オーストリア)から入手した。誘導体化および移動相用の水は、ミリポア精製システムによって社内で精製された。溶離液バッファーのギ酸アンモニウムは、ギ酸(98?100%、ACS試薬)と同様に、MSグレード(99.995%)のものをSigma-Aldrichから購入した。アミノ酸の誘導体化には、0.1モルのHCl(Sigma-Alrich)を使用した。ヨードアセトアミドはFluka(ブフス、スイス)から98%以上の純度のものを購入した。SFP(スクシンイミジルフェロセニルプロピオネート)試薬は、Uwe Karst教授(ミュンスター、ドイツ)の研究グループからのご厚意の寄付によるものであった。分析グレードのアミノ酸は、Bachem(ブーベンドルフ、スイス)またはSigma-Aldrich(セントルイス ミズーリ州、米国)から単一のエナンチオマーおよびラセミ体で入手し、すべて分析グレードであった。重水素化アラニン(1-Ala-2,3,3,3-d_(4))は、Cambridge Isotope Laboratories、Inc.(アンドーバー、マサチューセッツ州、米国)に注文し、純度は98at.%のものであった。クロマトグラフィーHALOサブ3μmシリカベースの溶融コアサポート材料は、Advanced Technologies(ウィルミントン、デラウェア州、米国)からの寄贈されたものであった。粒子径は2.7μmで、1.7μmの固体コアの周りに0.5μmの多孔質層の厚さを有していた。平均細孔径は90Åで、表面積は1グラムあたり150m^(2)、セレクターカバレッジは1グラムあたり180μmolであった。」)

(引1c)「2.4. Selector immobilization on fused core HALO materials

The HALO silica material was modified similarly to our previously published protocol [47]. Accordingly, we modified the HALO silica support with (3-mercaptopropyl)methyldimethoxysilane (1.5 mmol/g silica) in a first step by refluxing overnight in water-free toluene using dimethylaminopyridine (DMAP) as basic catalyst. Consequently, the chiral selector t-butyl-carbamoyl quinidine(QD) (0.6 mmol/g silica) was exhaustively attached to the thiol groups by nucleophilic addition. This reaction was performed in methanol under reflux conditions for 7 h and in the presence of 2,2'-azobis(2-methylpropionitrile) (AIBN) (10 mol%) acting as radical starter. The resulting chiral stationary phase was packed in house into a 50mm × 4mm i.d. column.」(8381頁右欄4-16行、当審訳:「2.4. 融合コアHALO材料へのセレクター固定化

HALOシリカ材料は、以前に公開したプロトコルと同様に調整した[47]。したがって、塩基性触媒としてジメチルアミノピリジン(DMAP)を使用して、水を含まないトルエン中で一晩還流することにより、最初のステップでHALOシリカ担体を(3-メルカプトプロピル)メチルジメトキシシラン(1.5mmol/gシリカ)で修飾した。その結果、キラルセレクターのt-ブチル-カルバモイルキニジン(QD)(0.6mmol/gシリカ)が求核付加によってチオール基に完全に結合した。この反応は、メタノール中で還流条件下で7時間、ラジカルスターターとして作用する2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)(10mol%)の存在下で実施した。得られたキラル固定相を社内で50mm×4mmi.d.のカラムに充填した。」)

(引1d)「


(8380頁図1)

(イ)引用文献1に記載された発明
上記(引1d)より、「Selector」は「Silica」にチオエーテル結合している点が見て取れる。そして、上記(引1d)の「Selector」及び「Silica」が、それぞれ、上記(引1c)の「t-ブチル-カルバモイルキニジン(QD)」及び「HALOシリカ担体」に相当するから、上記(引1b)?(引1c)より引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「HALOシリカベースの溶融コアサポート材料からなり、
粒子径は2.7μmで、1.7μmの固体コアの周りに0.5μmの多孔質層の厚さを有し、
平均細孔径は90Åで、表面積は1グラムあたり150m^(2)であるHALOシリカ材料からなるHALOシリカ担体を、
塩基性触媒としてジメチルアミノピリジン(DMAP)を使用して、水を含まないトルエン中で一晩還流することにより、(3-メルカプトプロピル)メチルジメトキシシラン(1.5mmol/gシリカ)で修飾し、
キラルセレクターのt-ブチル-カルバモイルキニジン(QD)(0.6mmol/gシリカ)を求核付加によってチオール基に完全に結合させることにより、
t-ブチル-カルバモイルキニジン(QD)とHALOシリカ担体とを、チオエーテル結合し得られたキラル固定相。」

イ 引用文献3
(ア)引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2014/087937号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。

(引3a)「[0010]
すなわち本発明は、担体と、担体の表面に化学結合により担持されたリガンドとを有する分離剤において、前記担体が、無孔性のコアと、多孔性のシェルからなるコア-シェル型粒子であって、該シェルの細孔直径が9nm以上であり、該シェルはポリアルコキシシロキサンの加水分解物からなり、前記リガンドが、光学活性ポリマー、光学不活性なポリエステル、タンパク質または核酸であることを特徴とする分離剤を提供する。」

(引3b)「[0077]
5-(2)N-アシル化アミノ酸、N-カルバモイルアミノ酸、N-カルバモイル-α-芳香族アミノ酸
本発明の分離剤では、リガンドとしてN-アシル化アミノ酸、N-カルバモイルアミノ酸、N-カルバモイル-α-芳香族アミノ酸(以下、本発明にかかるアミノ酸類という)を化学結合により上記コアシェル型粒子に担持させて、光学異性体用の分離剤とすることができる。
N-アシル化アミノ酸としては、例えばN-ピバロイルーL-バリン、N-3,5-ジニトロベンゾイル-D-フェニルグリシンなどが挙げられる。N-カルバモイルアミノ酸としては、例えばN-カルバモイル-ロイシン、N-カルバモイル-バリンなどが挙げられる。また、N-カルバモイル-α-芳香族アルキルアミンとしては、例えばN-カルバモイル-α-(ノーナフチル)エチルアミンなどが挙げられる。
[0078]
上記本発明にかかるアミノ酸類は、本発明の分離剤においてキラル部位として機能する。
上記本発明にかかるアミノ酸類を上記コアシェル型粒子に化学的に結合させる方法として、以下の方法が挙げられる。具体的な操作としては、特開平5-4045号公報に記載されている。
まず、上記コアシェル型粒子を、3-アミノプロピルトリエトキシシランのようなアミノ基を有するシランカップリング剤を用いて表面処理し、アミノプロピル基をコアシェル型粒子に導入する。導入されたアミノプロピル基はアンカー部位として機能する。3-アミノプロピルトリエトキシシラン以外のシランカップリング剤としては、6-アミノヘキシルアルコキシシラン、6-アミノヘキシルハロゲノシラン、3-アミノプロピルトリハロゲノシランなどが挙げられる。3-アミノプロピルハロゲノシランの好ましい例としては、3-アミノプロピルトリクロロシランが挙げられる。
上記のキラル部位とアンカー部位との間にさらにサブアンカー部位として-NH-(CH_(2))n-CO-を導入する。ここで、nは5以上、好ましくは5?10である。nが5未満であると充填剤の分離能が低下する。一方、nが10を越えると分子識別に不要な疎水基間の相互作用およびキラル部位間の相互作用が増大し分離能が低下する。
上記サブアンカー部位を構成するために用いる化合物として、アミノアルカン酸が挙げられる。このアミノアルカン酸をメチルエステルのようなエステルで保護する操作を行う。
次に上記本発明にかかるアミノ酸類とN-ヒドロキシコハク酸イミドのようなカルボン酸の活性化試薬とを反応させてエステル化を行う。これと、上記でエステル化を行ったアミノアルカン酸のメチルエステルとを反応させ、キラル部位とサブアンカー部位とを結合させる。そして、サブアンカー部位のカルボキシル基とアンカー部位のアミノ基とを反応させることで、上記本発明にかかるアミノ酸類をコアシェル型粒子に化学結合により担持させることができる。」

(イ)引用文献3に記載された技術事項
a 上記(引3a)及び(引3b)より、引用文献3には、以下の事項が記載されている。

「担体と、担体の表面に化学結合により担持されたリガンドとを有する分離剤において、前記担体が、無孔性のコアと、多孔性のシェルからなるコア-シェル型粒子であって、
分離剤は、リガンドとしてN-アシル化アミノ酸を化学結合により上記コアシェル型粒子に担持させて、光学異性体用の分離剤とすることができ、
N-アシル化アミノ酸としてN-3,5-ジニトロベンゾイル-D-フェニルグリシンが挙げられ、
アミノ酸類は、分離剤においてキラル部位として機能し、
アミノ酸類を上記コアシェル型粒子に化学的に結合させる方法として、
アミノ酸類とN-ヒドロキシコハク酸イミドのようなカルボン酸の活性化試薬とを反応させてエステル化を行い、エステル化を行ったアミノアルカン酸のメチルエステルとを反応させ、キラル部位とサブアンカー部位とを結合させ、サブアンカー部位のカルボキシル基とアンカー部位のアミノ基とを反応させることで、アミノ酸類をコアシェル型粒子に化学結合により担持させる分離剤。」

b 上記事項の「分離剤」において、「無孔性のコアと、多孔性のシェルからなるコア-シェル型粒子」「の表面に化学結合により担持されたリガンド」は、「N-3,5-ジニトロベンゾイル-D-フェニルグリシン」であって、「無孔性のコアと、多孔性のシェルからなるコア-シェル型粒子」「の表面」と「N-3,5-ジニトロベンゾイル-D-フェニルグリシン」との「化学結合」は、「アミノ酸類とN-ヒドロキシコハク酸イミドのようなカルボン酸の活性化試薬とを反応させてエステル化を行い、エステル化を行ったアミノアルカン酸のメチルエステルとを反応させ、キラル部位とサブアンカー部位とを結合させ、サブアンカー部位のカルボキシル基とアンカー部位のアミノ基とを反応させる」方法で結合させるものであるから、該結合はエステル結合であるといえる。
そうすると、引用文献3には、以下の技術事項(以下「技術事項3」という。)が記載されているといえる。

「アミノ酸類が分離剤においてキラル部位として機能するN-3,5-ジニトロベンゾイル-D-フェニルグリシンを、無孔性のコアと多孔性のシェルからなるコア-シェル型粒子に、リガンドとしてエステル結合により結合させた分離剤」

ウ 本件補正で追加された「理論段数」に関して、特表2012-509974号公報(以下「参考文献」という。)には、以下の事項が記載されている。

(参a)「【0170】
種晶成長メソ多孔質シェル(コア-シェル)粒子のクロマトグラフィー適用:
実施例7-有機試験混合物の分離:
実施例1の方法によって製造した粒子は、中実のコア(非孔質)、及び表面に対して垂直に形成された厚いメソ多孔質シェル層を有する単分散シリカ粒子である。かかる粒子は、種晶成長メソ多孔質シェル(SGMS)粒子と呼ぶことができる。このSGMS材料は、液体クロマトグラフィー(LC)のための充填材料として用いる場合に、従来の全多孔質シリカ(Exsil(商標)、1.5μm)と比較して優れた性能を示す。実施例1の方法によって製造した粒子は2μm未満(約1.7μm)の直径を有し、通常のLCにおいて良好な性能を示す。試験においては、SGMS粒子は従来の全多孔質シリカ(Exsil(商標)、1.5μm)と比較して高い背圧に関係する問題は示さなかった。
【0171】
クロマトグラフィーデータは、SGMS-04Aシリカ粒子(1.7μm)(図8)は、同等の寸法のカラム内に充填した際に、従来の全多孔質シリカ粒子(Exsil-120(商標)、1.5μm)(図9)と比較してより良好な分離力を有することを示す。SGMSカラム中での有機試験混合物分離においてフルオレンに関して計算したカラムあたりの理論段数は、Exsil-120(商標)全多孔質粒子からの値の2倍であり、定組成条件下ではより良好なピーク分解能(表11)を示す。
【0172】
【表11】

【0173】
減少したvan Deemterプロット(図12)に基づく評価は、SGMSシリカ粒子が、表面にのみ存在するメソ多孔質シェルのためにより大きく減少した物質移動係数を有し、したがって全多孔質シリカ:Exsil-120(商標)と同等の所定の移動相線速度においてより速い拡散速度を有することを示す。ピークの非対称性はExsil-120(商標)について僅かにより良好であるが、これはおそらくは充填条件の違いによるものである。
【0174】
実施例8-スルホンアミド薬剤化合物の分離:
6つのスルホンアミド薬剤化合物の傾斜分離を試験した(図10及び11)。SGMS-04A粒子の傾斜性能(図10)は、全多孔質シリカ(Exsil-120(商標))の性能(図11)よりも優れていた。これは、主として粒子(SGMS)の物理的構造、即ち中実コアとメソ多孔質シェル層によるSGMSシリカからの改良された物質移動速度が存在することを明確に示す。傾斜条件下においては、1メートルあたりの理論段数は、全多孔質シリカと比較して、SGMSシリカ粒子に関しては100万超に達する(表12)。
【0175】
【表12】



(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「固体コアの周り」の「0.5μmの多孔質層」は、本件補正発明の「前記表面多孔性コアシェル粒子の多孔層」に相当する。そして、引用発明の「HALOシリカベースの溶融コアサポート材料からなり」、「固体コアの周りに0.5μmの多孔質層の厚さを有し」、「表面積は1グラムあたり150m^(2)であるHALOシリカ材料からなるHALOシリカ担体」は、本件補正発明の「100m^(2)/g?500m^(2)/gの表面積を有する表面多孔性コアシェル粒子を備えた支持体」に相当する。

(イ)引用発明の「キラル固定相」及び「t-ブチル-カルバモイルキニジン(QD)」は、それぞれ、本件補正発明の「固定相」及び「非ポリマー型のキラル選択剤」に相当する。そして、引用発明の「キラル固定相」は、「t-ブチル-カルバモイルキニジン(QD)とHALOシリカ担体とを、チオエーテル結合し得られた」ものであって、「t-ブチル-カルバモイルキニジン(QD)」は、「HALOシリカ担体を、塩基性触媒としてジメチルアミノピリジン(DMAP)を使用して、水を含まないトルエン中で一晩還流することにより、(3-メルカプトプロピル)メチルジメトキシシラン(1.5mmol/gシリカ)で修飾し、キラルセレクターのt-ブチル-カルバモイルキニジン(QD)(0.6mmol/gシリカ)を求核付加によってチオール基に完全に結合させることにより」「チオエーテル結合」させているから、引用発明の「キラル固定相」は、「t-ブチル-カルバモイルキニジン(QD)」が「固体コアの周り」の「0.5μmの多孔質層」に「チオエーテル結合」しているものであるといえる。また、「チオエーテル結合」は、共有結合である。
そうすると、引用発明の「固体コアの周り」の「0.5μmの多孔質層」に「t-ブチル-カルバモイルキニジン(QD)」が「チオエーテル結合」した「キラル固定相」は、本件補正発明の「前記表面多孔性コアシェル粒子の多孔層に非ポリマー型のキラル選択剤が共有結合してなるキラル固定相とを有する固定相」に相当する。そして、引用発明の「チオエーテル結合」は、本件補正発明の「エーテル結合、カルバメート結合、チオエーテル結合、チオカルバメート結合、エステル結合、トリアゾール結合、および尿素結合から選ばれるいずれかの結合であ」る「前記共有結合」に相当する。

(ウ)引用発明の「t-ブチル-カルバモイルキニジン(QD)」は、イオン交換体であるから、引用発明の「t-ブチル-カルバモイルキニジン(QD)」と、本件補正発明の「オリゴ糖およびその誘導体、環状オリゴ糖およびその誘導体、ペプチドおよびその誘導体、糖ペプチドおよびその誘導体、大環状糖ペプチドおよびその誘導体、π錯体、キラルクラウンエーテル、リガンド交換体、ならびにイオン交換体(ただし、誘導体化キニーネおよび誘導体化キニジンを除く。)からなる群から選択され」た「キラル選択剤」とは、「オリゴ糖およびその誘導体、環状オリゴ糖およびその誘導体、ペプチドおよびその誘導体、糖ペプチドおよびその誘導体、大環状糖ペプチドおよびその誘導体、π錯体、キラルクラウンエーテル、リガンド交換体、ならびにイオン交換体からなる群から選択され」た「キラル選択剤」である点で、共通する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)「100m^(2)/g?500m^(2)/gの表面積を有する表面多孔性コアシェル粒子を備えた支持体と、前記表面多孔性コアシェル粒子の多孔層に非ポリマー型のキラル選択剤が共有結合してなるキラル固定相とを有する固定相であって、
前記共有結合は、エーテル結合、カルバメート結合、チオエーテル結合、チオカルバメート結合、エステル結合、トリアゾール結合、および尿素結合から選ばれるいずれかの結合であり、
キラル選択剤が、オリゴ糖およびその誘導体、環状オリゴ糖およびその誘導体、ペプチドおよびその誘導体、糖ペプチドおよびその誘導体、大環状糖ペプチドおよびその誘導体、π錯体、キラルクラウンエーテル、リガンド交換体、ならびにイオン交換体からなる群から選択された固定相。」

(相違点1)キラル選択剤が選択される群が、本件補正発明は、「イオン交換体(ただし、誘導体化キニーネおよび誘導体化キニジンを除く。)」ものであるのに対し、引用発明は誘導体化キニジンからなるイオン交換体である「t-ブチル-カルバモイルキニジン(QD)」である点。

(相違点2)固定相が、本件補正発明は「充填したカラムに133,000?221,000の理論段数(N/m)を与えることが可能な」ものであるのに対し、引用発明はそのような特定がない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。

ア 相違点1について
(ア)技術事項3の「無孔性のコアと、多孔性のシェルからなるコア-シェル型粒子」、「アミノ酸類が分離剤においてキラル部位として機能する」「リガンド」及び「分離剤」は、それぞれ、本件補正発明の「表面多孔性コアシェル粒子を備えた支持体」、「キラル選択剤」及び「固定相」に相当する。また、「エステル結合」は、共有結合であって、「N-3,5-ジニトロベンゾイル-D-フェニルグリシン」は、π錯体であるから、技術事項3は、「固定相」の「表面多孔性コアシェル粒子を備えた支持体」に共有結合である「エステル結合」させる「キラル選択剤」が、π錯体である「N-3,5-ジニトロベンゾイル-D-フェニルグリシン」である技術であるといえる。

(イ)引用文献1の(引1a)には、「DNB誘導体化アミノ酸の場合・・・低分子量セレクターは、・・・キラル認識は、基本的なキノリン部分とのπ-ドナー-アクセプター相互作用・・・によって達成される」旨、すなわち、π-ドナー-アクセプター相互作用によりキラル認識が達成される旨記載されている。

(ウ)引用発明の「HALOシリカ担体」に共有結合させるキラル選択剤が「t-ブチル-カルバモイルキニジン(QD)」でなければならない理由はなく、引用文献1には、上記(イ)のとおり、キラル認識をするものとしてπ錯体が示唆されているから、引用発明のキラル選択剤として技術事項3のπ錯体である「N-3,5-ジニトロベンゾイル-D-フェニルグリシン」を適用し、「誘導体化キニーネおよび誘導体化キニジン」以外のキラル選択剤とすることは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。

イ 相違点2について
液体クロマトグラフィーにおいて理論段数が大きいほうが良いことは技術常識であって、固定相を充填したカラムにどの程度の理論段数を与えるかは、試料や使用される条件等により適宜設定されるものである。
また、参考文献の【0174】には、「液体クロマトグラフィー(LC)のための充填材料として用いる場合に」、「種晶成長メソ多孔質シェル(コア-シェル)粒子」の性能は、「全多孔質シリカ粒子」の性能よりも優秀であり、1メートルあたりの理論段数は「種晶成長メソ多孔質シェル(コア-シェル)粒子」に関しては100万超に達する旨記載されており、参考文献の同じ【0174】には、「これは、主として粒子(SGMS)の物理的構造、即ち中実コアとメソ多孔質シェル層によるSGMSシリカからの改良された物質移動速度が存在することを明確に示す。」と記載されていることから、この高い理論段数の達成は、コアーシェル構造によるものであるといえる。
そして、引用発明の「キラル固定相」も、「HALOシリカベースの溶融コアサポート材料からなり」、「固体コアの周りに0.5μmの多孔質層の厚さを有」する「HALOシリカ担体」を使用したコアーシェル構造となっていることから、引用発明においても、充填したカラムに133,000?221,000の理論段数(N/m)を与えることが「可能」であるといえる。
そうすると、上記相違点2にかかる構成は、引用発明から、当業者が容易になし得たことであるといえる。

ウ 請求人の主張について
請求人は、請求の理由において、

「具体的に説明すると、先述の如く引用文献1は、キラル選択剤としてt-ブチル-カルバモイルキニジンやカルバモイル化されたキニン(キニーネ)を用いることについて開示しておりますが、これらのキラル選択剤は今般補正により本願の特許請求の範囲から除外されています。
従いまして、本願は新規性を有するものであり、審査官殿がご指摘の理由2は解消したものと思料致します。
また本願発明は、明細書の表1からも分かりますように、充填したカラムに133,000?221,000の理論段数(N/m)を与えることが可能な固定相や表面多孔性コアシェル粒子、更には表面多孔性コアシェル粒子キラル固定相の製造方法を提供するものです。
これに対し、引用文献1?7にはこのような構成は一切開示されておらず、また、これらの文献を組み合わせることができたとしても、このような高い理論段数を実現することはできません。」

旨主張しているが、本件補正発明から引用発明のキラル選択剤である「t-ブチル-カルバモイルキニジン」が除外さているとしても、技術事項3の「キラル選択剤」は、π錯体である「N-3,5-ジニトロベンゾイル-D-フェニルグリシン」であって、該「キラル選択剤」を引用発明に適用することが当業者が容易に想到できることであることは、上記アで検討したとおりである。そして、引用文献1に、計算される理論段数が133,000?221,000の範囲内にないグラフが記載されているとしても、参考文献の記載を参酌すれば、引用発明の「HALOシリカベースの溶融コアサポート材料からなり」、「固体コアの周りに0.5mの多孔質層の厚さを有」する「HALOシリカ担体」を使用した「キラル固定相」において、充填したカラムに133,000?221,000の理論段数(N/m)を与えることが「可能」であることは、上記イで検討したとおりであるから、上記請求人の主張は採用できない。

エ 効果について
本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1、3及び参考文献に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

オ 小括
本件補正発明は、引用発明及び技術事項3に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年5月13日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和元年11月29日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の本願発明に関する拒絶の理由は、本願発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるか、又は、該発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条1項3号に該当し、又は、同条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)アに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「キラル選択剤が、オリゴ糖およびその誘導体、環状オリゴ糖およびその誘導体、ペプチドおよびその誘導体、糖ペプチドおよびその誘導体、大環状糖ペプチドおよびその誘導体、π錯体、キラルクラウンエーテル、リガンド交換体、ならびにイオン交換体(ただし、誘導体化キニーネおよび誘導体化キニジンを除く。)からなる群から選択され」るものであって、「固定相」が「充填したカラムに133,000?221,000の理論段数(N/m)を与えることが可能」である旨の限定事項を削除したものである。
そうすると、前記第2の[理由]2(3)で検討した相違点1及び2は、上記限定事項によるものであるから、上記限定事項を削除した上記本願発明と引用発明との間に相違点はない。仮に、相違点があったとしても、当業者が容易に想到できたものであるといえる。
そうすると、本願発明は、引用発明であるか、又は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条1項3号に該当し、又は、同条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-03-03 
結審通知日 2021-03-09 
審決日 2021-03-23 
出願番号 特願2017-523195(P2017-523195)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 113- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉持 俊輔  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 信田 昌男
福島 浩司
発明の名称 固定相、表面多孔性コアシェル粒子、及び面多孔性コアシェル粒子キラル固定相の製造方法  
代理人 松尾 憲一郎  

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