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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1377280
審判番号 不服2020-15531  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-10 
確定日 2021-08-19 
事件の表示 特願2019- 34116「光学部材および画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月27日出願公開、特開2019-105855〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2019-34116号(以下「本件出願」という。)は、平成26年9月24日を出願日とする、特願2014-193617号の一部を新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和元年11月27日付け:拒絶理由通知書
令和2年 3月31日提出:意見書
令和2年 3月31日提出:手続補正書
令和2年 8月11日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年11月10日提出:審判請求書
令和2年11月10日提出:手続補正書


第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年11月10日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の(令和2年3月31日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。

「 偏光子と位相差フィルムと平滑化層とを有し、該位相差フィルムの周縁部に印刷層が形成されており、画像表示装置の視認側偏光板として用いられる、光学部材。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
「 偏光子と位相差フィルムと平滑化層とを有し、該位相差フィルムの周縁部に印刷層が形成されており、偏光子の最外部に前面板をさらに有し、該前面板が樹脂フィルムから形成され、該前面板の厚みが20μm?100μmであり、画像表示装置の視認側偏光板として用いられる、光学部材。」

2 本件補正の目的
前記1(1)に記載のとおり、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項には、「前面板」が含まれていない。これに対して、前記1(2)に記載のとおり、本件補正後の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項には、「前面板」が含まれている。
そうしてみると、本件補正は、特許法第17条の2第5項でいう「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当しない。また、本件補正が、同法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものではなく、同法第17条の2第5項第3号の誤記の訂正を目的とするものでもなく、同法第17条の2第5項第4号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもないことは、明らかである。
してみれば、本件補正は、全体として、特許法第17条の2第5項第1号ないし第4号に掲げるいずれの事項をも目的とするものではない。
以上のとおりであるから、本件補正は、同法第17条の2第5項の規定に違反してされたものである。

3 独立特許要件について
本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると仮定して、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正後発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下、検討する。

(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された、国際公開第2007/055189号(以下、「引用文献1」という。)は、本件出願の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体がものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、携帯電話機、スマートフォン等のディスプレイ装置を備える電子機器に用いられる意匠パネルに関する。
背景技術
[0002] 従来、前記電子機器においては、その内側にディスプレイ装置が配置され、当該ディスプレイ装置の表示面を外側から視認可能にするように形成された開口の全面を覆うように、ガラスやプラスチック板等の透明パネルが外側から取り付けられている。
・・・省略・・・
発明が解決しようとする課題
[0003] このように構成される従来の電子機器においては、パネルが透明であるために、デイスプレイ装置の表示面と透明パネルを保持する前記電子機器用筐体の前記開口周囲のフレーム部分との識別が、その透明パネル越しに容易にできる。近年、前記電子機器においては、使用者のデザインに対する要望が日増しに強まっており、ディスプレイ装置が文字や絵などの情報を表示面に表示している時に、その表示面と前記フレーム部分とがー目して識別できないようにする、すなわち、ディスプレイ装置の表示面を隠蔽することは、意匠的に非常に有用である。
・・・省略・・・
[0006] 本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、ディスプレイ装置の情報表示時には、外側力もその表示面が視認できるようにするとともに、ディスプレイ装置の待機時には、その表示面を隠蔽できる意匠パネルを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明は、上記技術的課題を解決するために、以下の構成の意匠パネルを提供する。
・・・省略・・・
発明の効果
[0018] 本発明によれば、本意匠パネルを保持する電子機器用筐体の開口周囲のフレーム部分に対応する位置に黒色着色部を有しており、また、開口の部分には隠蔽部が設けられているので、ディスプレイ装置の待機時には、ディスプレイ装置の表示面と前記フレーム部分とは、本意匠パネル越しには一体化して見え、視覚的に識別(視認)することができない。したがって、使用者(観察者)からは、意匠パネルの外側からはディスプレイ装置を視覚的に判別することができず、本意匠パネルが黒色窓の意匠と受け止められる。すなわち、ディスプレイ装置の待機時は、ディスプレイ装置の存在を意識させない、のっぺりとした黒色窓の意匠を演出することが可能となる。
[0019] ・・・省略・・・
また、黒色着色部を1 / 4波長位相差フィルムに印刷することで、黒色着色部の厚みを薄くすることができ、その分、本意匠パネルの厚みを薄くすることができる。」

イ「発明を実施するための最良の形態
・・・省略・・・
[0023] 《第1実施形態》
図1Aは、本発明の第1実施形態に係る意匠パネル1を用いた携帯電話機の基本構成を示す斜視図である。図1Bは、そのA-A断面の概略図である。
[0024] 意匠パネル1(図1A中の斜線部)は、アルミ等の金属や樹脂で形成された筐体2の一部表面に設けられた開口2aを外側から覆うように、開口2a周囲のフレーム部分2bに保持され、両面粘着テープ4によって貼り付けられている。筐体2の開口2aは、筐体2の内側に配置されたディスプレイ装置3の表示面3aを、外側から視認可能にするように形成されている。意匠パネル1は、開口2aよりも大きな面積を有するように形成され、ディスプレイ装置3の表示面3aと空気層4を挟んで対向するように配置されている。筐体2の開口2a側の上面(外面)2cは、意匠パネル1の上面1aと面一になるように形成されている。すなわち、開口2a及びフレーム部分2bは、筐体2の開口2a側の上面2cから凹んでおり、その凹みに意匠パネル1が嵌め込まれている。これにより、意匠性を向上させるとともに、意匠パネル1が筐体2から剥がれにくくなっている。
[0025] ディスプレイ装置3は、待機時、すなわち表示面3aに文字や絵などの情報を表示していない時、表示面3aが黒色である液晶ディスプレイ装置である。例えば、ディスプレイ装置が携帯電話機に用いられる場合においては、当該携帯電話機の非使用時に表示面3aが黒色一色であるときが「待機時」である。
・・・省略・・・
[0028] 図3Aは、本発明の第1実施形態にかかる意匠パネル1を用いた携帯電話機の一部拡大断面図であり、図3Bは、本発明の第1実施形態にかかる意匠パネル1の構成を示す断面図である。意匠パネル1は、透明支持基板11と、透明支持基板11の下面11a全面に形成された隠蔽部12と、筐体2の開口2a周囲のフレーム部分2bの形状に合わせて隠蔽部12の下面に設けられた黒色着色部13とを有している。
[0029] 透明支持基板11は、ガラスやプラスチックパネル等の透明部材で形成されている。透明支持基板11を形成するガラス部材としては、一般的に透明性に優れるソーダガラスや強度アップの為に、物理的、化学的に強化されたガラスが使用できる。特に、携帯電話機等の携帯用電子機器に用いる意匠パネルとしては、取り扱い性を考慮して、強化ガラスを使用するのが好ましい。強化ガラスを強化処理する具体的な方法としては、物理的強化方法と化学的強化方法とがある。物理的強化方法は、焼入れ原理を利用し、急冷により、ガラス表面とガラス内部に温度差を生じさせ、圧縮応力を持たせた強化方法である。化学的強化方法は、硝酸カリウム溶液中に浸漬して、ガラス表面のナトリウムイオンと溶液中のカリウムイオンとを置換して、ガラス表面とガラス内部でイオン半径の異なる両イオンを存在させることで、圧縮応力を持たせた強化方法である。本発明の第1実施形態の意匠パネル1としては、装置の薄型化という技術的トレンドの観点から薄板ガラスを使用する場合が多い為、一般的には、化学強化方法を用いて形成することが好ましい。
[0030] また、透明支持基板11を形成するプラスチックとしては、機械的強度性、耐熱性、耐薬品性に優れているものが好ましい。このような条件を満たす透明樹脂としては、ポリアクリルメタアクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン、ポリアリレートやノルボルネン系の”ARTON”(株式会社JSRの商品名)、”ZEONOR”(日本ゼオンの商品名)等が挙げられる。
[0031] 隠蔽部12は、外側から順に、図10Aに示すように、ディスプレイ装置3の上部偏光板40と吸収軸が同じになるように構成され、入射する光を直線偏光に変換する偏光フィルム14と、偏光フィルム14の吸収軸と光学軸とが45度又は135度(図10Aでは135°の状態を示す)の角度をなすように配置され、1/4波長の位相遅れを与えることで、直線偏光された光を円偏光に変換する1/4波長位相差フィルム15とを備えている。
[0032] 隠蔽部12は、図3A及び図3Bに示すように、偏光フィルム14が透明支持基板11の下面11a全面に貼り付けられ、偏光フィルム14の下面14a全面に1/4波長位相差フィルム15を貼り付けられるのが好ましい。このように構成されることにより、透明支持基板11が意匠パネル1の最も外側に位置するので、透明支持基板11の外側面11bにハードコート処理を施すことができる。このハードコート処理としては、ディッピング法、ロールコーター法、スプレイ法などにより、アクリル系あるいはシロキサン系の樹脂を1?10μm程度の膜厚にコーティングしたものが好ましい。
・・・省略・・・
[0036] 黒色着色部13は、例えば、筐体2の開口2a周囲のフレーム部分2bの形状に合わせて、1/4波長位相差フィルム15に直接印刷された黒色インキであってもよいし、図6に示すように、別の基材フィルム16に印刷された黒色インキであってもよい。別の基材フィルム16は、図6では1/4波長位相差フィルム15の下面15aに貼り合わせたが、1/4波長位相差フィルム15の上面15bに全面粘着剤にて貼り合わされても良い。また、この場合、黒色着色部13は、図6では別の基材フィルム16の上面16bに印刷したが、下面16aに印刷されてもよい。
・・・省略・・・
[0039] 本発明の第1実施形態の意匠パネル1によれば、使用者(観察者)は、ディスプレイ装置3の待機時、表示面3aが黒色になり、その周囲のフレーム部分2bが黒色着色部13により黒色着色されるので、図7に示すように全体的に黒い窓のように見えて、両者の識別ができない。したがって、意匠パネル1の下方にあるディスプレイ装置3の存在を意識させない、のっぺりとした黒色窓の意匠を演出することが可能となる。一方、ディスプレイ装置3の点灯時には、図8に示すように、筐体2の外側力ディスプレイ装置3が視認できるようになっているので、ディスプレイ装置3の表示面3aの画像が浮かび上がってくるような意匠性に優れた演出をすることが可能になる。
・・・省略・・・
[0042] (実施例1)
図3Bに示す構成の意匠パネルを使用。
透明支持基板:厚さ1mmのメタアクリレート(PMMA)の両面にエポキシアクリレート系の多官能アクリレート紫外線硬化樹脂を厚さ5μmになるようにディップコーティングしたものを使用。
偏光フィルム: 偏光度99.5%、単体透過率43%の光学特性を有するとともに、透明支持基板の下面に、吸収軸がディスプレイ装置の上部偏光板の吸収軸45度と同じになるように透明アクリル系粘着剤にて全面貼付。
1/4波長位相差フィルム:偏光フィルムの下面に、その吸収軸を偏光フィルムの吸収軸と45度傾けて、透明アクリル系粘着剤にて全面貼付。
黒色着色部:位相差フィルムの下面に、インクジェット法にて、ディスプレイ装置のフレーム形状と対応するように黒インキで印刷。
[0043] (実施例2)
図6に示す構成の意匠パネルを使用。
透明支持基板:厚さ0.7mmのポリカーボネート(PC)の両面にウレタンアクリレート系の多官能アクリレート紫外線硬化樹脂を厚さ3μmになるようにディップコーティングしたものを使用。
偏光フィルム:偏光度99.5%、単体透過率43%の光学特性を有するとともに、透明支持基板の下面に、吸収軸がディスプレイ装置の上部偏光板の吸収軸135度と同じになるように透明アクリル系粘着剤にて全面貼付。
黒色着色部:厚さ100μmの光学的に等方性のポリカーボネートフィルムにグラビア印刷法にて、ディスプレイ装置のフレーム形状に合わせて黒印刷。そのフィルムを偏光フィルムの下面に、透明アクリル系粘着剤にて全面貼付。
1/4波長位相差フィルム: 前記フィルムの下面に、その吸収軸を偏光フィルムの吸収軸と45度傾けて、透明アクリル系粘着剤にて全面貼付。」

ウ [図1A]「



エ [図1B]「



オ [図3A]「



カ [図3B]「



キ [図6]「



ク [図7]「



ケ [図8]「



(2)引用発明
引用文献1の[0024]、[0028]、[0029]、[0031]、[0032]、[0036]及び[0039](特に、[0036])には、図6に記載された、第1実施形態にかかる意匠パネル1(図1A?図1B、図3A)のさらに他の構成として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「 透明支持基板11と、透明支持基板11の下面11a全面に形成された隠蔽部12と、黒色着色部13とを有する意匠パネル1であって、
隠蔽部12は、外側から順に、入射する光を直線偏光に変換する偏光フィルム14と、偏光フィルム14の吸収軸と光学軸とが45度又は135度の角度をなすように配置され、直線偏光された光を円偏光に変換する1/4波長位相差フィルム15とを備え、
黒色着色部13は、別の基材フィルム16に印刷された黒色インキであってもよく、別の基材フィルム16は、1/4波長位相差フィルム15の上面15bに全面粘着剤にて貼り合わされても良く、黒色着色部13は、別の基材フィルム16の下面16aに印刷されてもよく、
透明支持基板11は、意匠パネル1の最も外側に位置し、ガラスやプラスチックパネル等の透明部材で形成され、
意匠パネル1は、携帯電話機の筐体2の一部表面に設けられた開口2aを外側から覆うように、開口2a周囲のフレーム部分2bに保持され、貼り付けられ、筐体2の開口2aは、筐体2の内側に配置されたディスプレイ装置3の表示面3aを、外側から視認可能にするように形成され、
使用者は、ディスプレイ装置3の待機時、表示面3aが黒色になり、その周囲のフレーム部分2bが黒色着色部13により黒色着色されるので、全体的に黒い窓のように見えて、両者の識別ができない、
意匠パネル1。」

(3)対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

ア 偏光子、位相差フィルム
引用発明の「意匠パネル1」は、「透明支持基板11と、透明支持基板11の下面11a全面に形成された隠蔽部12」を有し、「隠蔽部12は、外側から順に、入射する光を直線偏光に変換する偏光フィルム14と、偏光フィルム14の吸収軸と光学軸とが45度又は135度の角度をなすように配置され、直線偏光された光を円偏光に変換する1/4波長位相差フィルム15とを備え」る。
引用発明の「偏光フィルム14」及び「1/4波長位相差フィルム15」は、その機能からみて、それぞれ本件補正後発明の「偏光子」及び「位相差フィルム」に相当する。

イ 印刷層
引用発明の「黒色着色部13は、」「別の基材フィルム16に印刷された黒色インキであって」、引用発明の「意匠パネル1」の積層構造において「かさなりをなすものの一つ」を構成している。そうすると、引用発明の「黒色着色部13」は、本件補正後発明の「印刷層」に相当する。

また、引用発明の「意匠パネル1は、携帯電話機の筐体2の一部表面に設けられた開口2aを外側から覆うように、開口2a周囲のフレーム部分2bに保持され、貼り付けられ、筐体2の開口2aは、筐体2の内側に配置されたディスプレイ装置3の表示面3aを、外側から視認可能にするように形成され」、「使用者は、ディスプレイ装置3の待機時、表示面3aが黒色になり、その周囲のフレーム部分2bが黒色着色部13により黒色着色されるので、全体的に黒い窓のように見えて、両者の識別ができない」ものである。
上記の位置関係からみて、引用発明の「フレーム部分2b」は、「位相差フィルム」を含む「意匠パネル1」の周縁部に位置する。
そうしてみると、引用発明の「黒色着色部13」は、本件補正後発明の「印刷層」における、「位相差フィルムの周縁部に」「形成されており」という要件を満たす。

ウ 平滑化層
引用発明の「意匠パネル1」において、「黒色着色部13は、別の基材フィルム16に印刷された黒色インキであってもよく、別の基材フィルム16は、1/4波長位相差フィルム15の上面15bに全面粘着剤にて貼り合わされても良く、黒色着色部13は、下面16aに印刷されてもよい、意匠パネル1であ」る。
ここで、意匠パネル1において、「全面粘着剤」からなる層(以下「粘着剤層」という。)が、別の基材フィルム16の下面16aにおける黒色着色部13に起因した段差を多少なりとも吸収する、すなわち、平滑化する機能を有することは明らかである。
そうすると、引用発明の「粘着剤層」は、本件補正後発明の「平滑化層」に相当する。

エ 前面板
引用発明の「透明支持基板11」は、「意匠パネル1の最も外側に位置し」ているものである。前記イで述べた引用発明の「意匠パネル1」の位置関係からみて、引用発明の「透明支持基板11」は、携帯電話機の前面に位置しているといえる。そうしてみると、引用発明の「透明支持基板11」は、本件補正後発明の「前面板」に相当する。
また、引用発明の「意匠パネル1」は、「透明支持基板11の下面11a全面に形成された隠蔽部12」「を有」し、「隠蔽部12は、外側から順に、入射する光を直線偏光に変換する偏光フィルム14と、偏光フィルム14の吸収軸と光学軸とが45度又は135度の角度をなすように配置され、直線偏光された光を円偏光に変換する1/4波長位相差フィルム15とを備え」るものである。
上記の構成からみて、引用発明の「透明支持基板11」は、意匠パネル1において、偏光フィルム14の最も外側に位置するものであるといえる。
そうしてみると、引用発明の「意匠パネル1」は、本件補正後発明の「光学部品」における、「偏光子の最外部に前面板をさらに有し」という要件を満たす。

オ 光学部材
引用発明の「意匠パネル1」は、「偏光フィルム14」及び「1/4波長位相差フィルム15」を有する点において、光学部材といえる。
そして、上記ア?エを総合すれば、引用発明の「意匠パネル1」は、本件補正後発明の「光学部材」における、「偏光子と位相差フィルムと平滑化層とを有し、該位相差フィルムの周縁部に印刷層が形成されており、偏光子の最外部に前面板をさらに有し」という要件を満たす。

(4)一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「 偏光子と位相差フィルムと平滑化層とを有し、該位相差フィルムの周縁部に印刷層が形成されており、偏光子の最外部に前面板をさらに有する、光学部材。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
「前面板」が、本件補正後発明は、「樹脂フィルムから形成され、」「厚みが20μm?100μmであ」るのに対し、引用発明は、ガラスやプラスチックパネル等の透明部材で形成されている点。

(相違点2)
「光学部材」が、本件補正後発明は、「画像表示装置の視認側偏光板として用いられる」ものであるのに対して、引用発明は、「意匠パネル1」である点。

(5)判断
相違点についての判断は以下のとおりである。
(相違点1について)
引用発明の「透明支持基板11」は、「プラスチックパネル等の透明部材で形成され」るものである。
また、電子機器の表示面の最前面の基板として、20?100μm程度の厚さの樹脂フィルムを用いることは、例えば、特開2011-93977号公報の【0024】?【0026】、【0037】、図1、特開2014-58596号公報の【0001】、【0014】、【0040】、図1(c)、特開2013-86466号公報の【0016】、【0023】?【0024】、図1等に記載されているように、本件出願前の当業者における周知技術である。
さらに、引用文献1の[0019]には、「本意匠パネルの厚みを薄くする」、[0029]には、「本発明の第1実施形態の意匠パネル1としては、装置の薄型化という技術的トレンドの観点」があることが記載されている。
してみると、引用発明において、上記記載及び周知技術に基づいて、意匠パネルの厚みを薄くするために、「意匠パネル」の「透明支持基板11」として、厚みが20?100μm程度の樹脂フィルムを採用することは、当業者が容易に想到し得たものである。

(相違点2について)
相違点1についての判断で述べたとおり、引用文献1の[0019]には、「本意匠パネルの厚みを薄くする」、[0029]には、「本発明の第1実施形態の意匠パネル1としては、装置の薄型化という技術的トレンドの観点」があることが記載されている。
また、表示画面をフラット化し、かつ薄型化するために、画像表示装置の最表面側に設けられた、ドライバICを隠蔽するための枠状の部材の代わりに、光学積層体中に設けた枠状の遮光層と偏光板を一体化した光学積層体を視認側に配設すること、すなわち当該光学積層体を表示装置の視認側偏光板として用いることは、当業者であれば周知技術として心得ている(例えば、特開2014-6447号公報の【0003】?【0004】、【0011】、【0058】?【0064】、図1及びその説明、特開2013-225080号公報の【0003】?【0004】、【0009】、【0065】?【0071】、図1及びその説明を参照。)ところ、この周知技術においても、引用文献1の[0003]?[0006]に記載の課題が内在する。
そうしてみると、引用発明の「意匠パネル1」を、上記周知技術に基づいて、ドライバICを隠蔽するための光学積層体とし、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(6)発明の効果について
本件補正後発明の効果として、本願明細書の【0006】には、「最表面に段差がなく、きわめて優れた外観を有する画像表示装置を実現することができる。」と記載されている。
しかしながら、上記(3)で述べたとおり、上記効果は、引用発明の意匠パネルも奏する効果である。あるいは、引用発明から容易に想到し得る発明が奏する効果である。

(7)審判請求書について
審判請求人は、令和2年11月10日提出の審判請求書において、引用文献1は、本願発明のような厚みを有する透明支持基板を開示も示唆もしない旨の主張をしている。
しかしながら、上記(5)で述べたとおりであり、審判請求人の上記主張は、採用することができない。

(8)小括
本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、本件出願の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 補正の却下の決定のむすび
本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
あるいは、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり、決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、理由2(進歩性)本願発明は、本件出願の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:国際公開第2007/055189号
引用文献2:特開2014-6447号公報
引用文献3:特開2013-225080号公報
なお、引用文献1が主引用例、引用文献2及び引用文献3は周知技術を例示する文献である。

3 引用文献及び引用発明
(1) 引用文献1
引用文献1の記載、引用発明は、前記「第2」[理由]3(1)、(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、前記「第2」[理由]1(2)の本件補正後発明から、「偏光子の最外部に前面板をさらに有し、該前面板が樹脂フィルムから形成され、該前面板の厚みが20μm?100μmであり、」という限定事項を除いたものである。また、本願発明の構成を全て具備し、これにさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明は、前記「第2」[理由]3で述べたとおり、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると、本願発明は、前記「第2」[理由]3で述べた理由と同様の理由により、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-06-10 
結審通知日 2021-06-15 
審決日 2021-06-29 
出願番号 特願2019-34116(P2019-34116)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
井亀 諭
発明の名称 光学部材および画像表示装置  
代理人 籾井 孝文  

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