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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E02D
管理番号 1377564
審判番号 無効2019-800010  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-02-12 
確定日 2021-09-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第5763225号「鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法」の特許無効審判事件についてされた令和1年8月21日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(令和1年(行ケ)第10126号、令和2年10月22日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第5763225号の請求項1ないし9に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 一次審決までの主な手続の経緯
特許第5763225号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る発明についての出願は、平成22年4月22日に出願された特願2010-99137号の一部を、平成26年1月14日に新たな特許出願(特願2014-4293号)としてされたものであって、平成27年6月19日にその特許権の設定登録がされたものである。

その後、本件と同一の請求人により平成27年9月24日に別件の無効審判請求がされ、無効2015-800184号事件として審理されたところ、平成28年6月28日付けで請求不成立の審決がされ、請求人により審決取消訴訟が提起されたものの請求棄却の判決がなされ、その後確定した。
さらに、請求人により平成29年6月19日に別件の無効審判請求がされ、無効2017-800078号事件として審理されたところ、平成30年1月24日付けで請求不成立の審決がされ、請求人により審決取消訴訟が提起されたものの請求棄却の判決がなされ、その後確定した。

そして、本件無効審判事件における令和1年8月21日付け審決(以下「一次審決」という。)までの主な手続の経緯は次のとおりである。
平成31年2月12日 :本件無効審判請求(請求人)
同年3月 7日 :審判請求書副本の送付
令和 1年5月23日付け:書面審理通知書
同年7月30日付け:審理終結通知書
同年8月21日付け:一次審決(請求人送達日:同月29日)

一次審決の結論は「本件審判請求は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」というものである。

2 審決取消訴訟
請求人は、一次審決の取消しを求めて、令和1年9月26日に知的財産高等裁判所に訴えを提起した。
上記訴えは、知的財産高等裁判所において、令和1年(行ケ)第10126号事件として審理され、令和2年10月22日に、主文を「1 特許庁が無効2019-800010号事件について令和元年8月21日にした審決を取り消す。2 訴訟費用は被告の負担とする。」とする判決(以下「取消判決」という。)の言渡しがあり、その後確定した。

3 当審における手続の経緯
その後、被請求人からの特許法第134条の3の規定に基づく申立てはなく、令和2年12月10日付けで審理再開通知がされ、請求人から、令和3年1月8日付けで上申書が提出された。
審判合議体は、令和3年3月25日付けで審決の予告をし、被請求人に対し、期間を定めて訂正を請求する機会を与えたが、被請求人からは何らの応答もなかった。

第2 取消判決の拘束力
審決を取り消す旨の判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる(最三小平成4年4月28日判決、民集46巻4号245頁)。
したがって、当審の審理は、取消判決の判断、特に以下の判断に拘束されるものである(なお、当審が引用する取消判決の頁行は、知的財産高等裁判所ウェブページに掲載された判決におけるものである。)。

1 引用発明の認定及び本件発明1との対比について
「原告は,本件審決の引用発明(甲1発明)の認定並びに一致点及び相違点の認定を争っておらず,当裁判所も,これらの認定を相当と認める。」
(取消判決11頁11行ないし12行)

2 技術常識について
「証拠(甲1-1,6-1,10-1,12)によれば,本件原出願時の技術常識として次を認定できる。
ア 鋼矢板圧入引抜機は,通常,正規状態で施工するものであり,正規状態での施工には,既設のU型の鋼矢板から強力な反力が得られ,共上がりや共下がりが発生しないという利点がある。
イ 2枚目クランプ状態での施工には,過負荷がかかるため圧入機が不安定化し,圧入引抜力が制限されるという問題点がある。
ウ チャック装置が大きすぎる場合には,チャック装置が本体側に近づくと干渉問題が発生するために,正規状態での施工が不能になることがある。」
(取消判決11頁14行ないし22行)

3 周知事項について
「後掲各証拠によれば,本件原出願時において次の事項が当業者にとって周知であったと認定できる。
ア 鋼矢板圧入引抜機には,圧入施工する対象(U型の鋼矢板,ハット形の鋼矢板,鋼管矢板等)に合わせてチャック装置の交換が可能な構成が採用されている。具体的には,チャック装置の交換は,一体型チャックフレームの交換や着脱式チャック装置の交換という公知又は周知の手段によって実現される(甲2-2・2-3,3-2・3-3,4-2・4-3,5-1・5-2,10-1,11,18?25)。
イ 継手ピッチ400mmのU型鋼矢板用のチャック装置には,幅が大きな鋼矢板(例えば,φ600?φ1000mmの鋼管矢板,有効幅900mmのハット形鋼矢板)に用いられるチャック装置と比べて,幅が小さいものが使用される(甲2-2・2-3,13-2,14-1?14-3)。」
(取消判決11頁24行ないし12頁9行)

4 相違点の容易想到性について
「正規状態での施工の利点(上記(2)ア(当審注:上記2アのこと))及び2枚目クランプ状態での施工の問題点(同イ(当審注:上記2イのこと))にかんがみると,甲1発明において,400mmの場合に2枚目クランプ状態で施工すると,地盤が硬い場合や鋼矢板が長い場合には施工不能となるおそれがあるから,正規状態での施工が可能になるように構成することを当業者は動機付けられるといえる。
ここで,600mm用のチャック装置のままで400mmの鋼矢板を正規状態で施工すると,チャック装置が大きすぎるために干渉問題が生じる(上記(2)ウ(当審注:上記2ウのこと))。この干渉問題を解決するために,上記(3)(当審注:上記3のこと)の周知事項を適用して,必要に応じて圧入機に仕様変更を加えつつ,600mm用のチャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用のチャック装置を備える一体型チャックフレームに交換することにより,あるいは,600mm用の着脱式チャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用の着脱式チャック装置に交換することにより,400mmの場合でも正規状態での施工が可能になるように構成することは,当業者が容易に想到し得たことといえる。」
(取消判決12頁11行ないし25行)

第3 本件発明
本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下「本件発明1」などという。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
下方にクランプ装置を配設した台座と、台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、該ガイドフレームに昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、昇降体の下方に形成されたチャックフレームと、チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック装置とを具備してなる鋼矢板圧入引抜機において、
前記クランプ装置は、台座の下面に形成した複数のクランプガイドに、相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプ部材を組み替え可能に装備するとともに、複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり、
前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて、クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって、前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能としたことを特徴とする鋼矢板圧入引抜機。
【請求項2】
クランプピッチを428mm?772mm,412mm?588mm,300mm?500mmのいずれかの範囲に変更可能とした請求項1に記載の鋼矢板圧入引抜機。
【請求項3】
クランプ装置で先頭の鋼矢板を含む既設のU型の鋼矢板をクランプすることにより台座を既設のU型の鋼矢板上に定置させて、チャック装置に作業するU型の鋼矢板を挿通してチャックするとともに、先頭のU型の鋼矢板の開放された継手に、作業するU型の鋼矢板の継手を噛合させた状態において、鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがないようにチャックフレームを配置した請求項1又は2に記載の鋼矢板圧入引抜機。
【請求項4】
チャックフレームに複数のチャック装置を、それぞれ着脱自在に装着可能とし、複数のチャック装置はそれぞれ、鋼矢板の挿通孔と、挿通孔に挿通された鋼矢板をチャックするチャック部と、チャック装置を旋回させるために挿通孔の外周に配備されたチャックリングギアを有し、チャックリングギアとして同一形状のものを採用するとともに、それぞれ異なる継手ピッチの鋼矢板に対応したチャック部を有する請求項1,2又は3に記載の鋼矢板圧入引抜機。
【請求項5】
チャック装置を旋回させるために、チャックフレームにチャック旋回モータと該チャック旋回モータの駆動軸に連結したピニオンギアを装備し、該ピニオンギアをチャックリングギアに噛合させるとともに、チャック旋回モータとピニオンギア及びピニオンギアを収納したピニオンギアボックスを台座の上端面の位置する水平線より上方に配置した請求項4に記載の鋼矢板圧入引抜機。
【請求項6】
複数のチャック装置が、鋼矢板の継手ピッチが600mm用のチャック装置と鋼矢板の継手ピッチが400mm用のチャック装置からなる請求項4又は5に記載の鋼矢板圧入引抜機。
【請求項7】
クランプ装置で先頭の鋼矢板を含む既設のU型の鋼矢板をクランプすることにより台座を既設のU型の鋼矢板上に定置させて、チャック装置に作業するU型の鋼矢板を挿通してチャックするとともに、先頭のU型の鋼矢板の開放された継手に、作業するU型の鋼矢板の継手を噛合させた状態において、チャックフレームに装着された前記複数のチャック装置は、いずれも鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがない請求項4,5又は6に記載の鋼矢板圧入引抜機。
【請求項8】
請求項1?7に記載したいずれかの鋼矢板圧入引抜機を使用して、
それぞれ相互に継手を噛合させて圧入した複数の既設のU型の鋼矢板の内、先頭の鋼矢板を含む既設のU型の鋼矢板をクランプ装置で掴んで台座を既設のU型の鋼矢板上に定置した状態において、先頭のU型の鋼矢板の開放された継手に、作業するU型の鋼矢板の継手を噛合させた状態で、継手ピッチが異なるU型の鋼矢板を圧入・引抜可能としたことを特徴とする鋼矢板圧入引抜工法。
【請求項9】
継手ピッチが異なるU型の鋼矢板として、継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても圧入・引抜可能とした請求項8に記載の鋼矢板圧入引抜工法。」

第4 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、本件発明1ないし9の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し、証拠として甲第1号証の1ないし甲第14号証の3を審判請求書に添付して提出している。

1 無効理由の概要
(1)無効理由1(公然実施発明(甲第1号証の1ないし3)に基づく進歩性欠如1)
本件発明1、2、3、8及び9は、甲第1号証の1ないし3に係る公然実施発明及び甲第2号証の1ないし甲第6号証の2、甲第9号証ないし甲第14号証の3の知見に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。
(2)無効理由2(公然実施発明(甲第1号証の1ないし3)に基づく進歩性欠如2)
本件発明1ないし9は、甲第1号証の1ないし3に係る公然実施発明及び甲第3号証の1ないし甲第6号証の2、甲第9号証ないし甲第14号証の3の知見に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。

2 証拠方法
請求人より、審判請求書に添付して提出された証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証の1 :STILL WORKER WP-150 取扱説明 書
甲第1号証の2 :STILL・WORKER WP・150 パーツ・ リスト
甲第1号証の3 :STILL WORKER WP150のカタログ
甲第2号証の1 :株式会社コーワン パイラー事業部からの
新製品のご案内
甲第2号証の2 :TILT PILER WP150HAT/150α のカタログ
甲第2号証の3 :TILT PILER WP150P/PII/
PIIIのカタログ
甲第3号証の1 :SILENT PILER SUPER AUTO
スーパーオート75、スーパーオート100のカタロ グ
甲第3号証の2 :SILENT PILER SUPER AUTO
SUPER100 取扱説明書
甲第3号証の3 :本体外観図(SA100用)
甲第4号証の1 :SILENT PILER
SUPERWIDE100、SUPERWIDE15 0のカタログ
甲第4号証の2 :請求人従業員 磯野 信広 報告書(SW100)
甲第4号証の3 :排水矢板用チャック外観図
甲第5号証の1 :工事写真帳「新製品・新工法発表会」
甲第5号証の2 :レンタル総合カタログ
甲第6号証の1 :TILT PILER WP-100 取扱説明書
甲第6号証の2 :TILT PILER WP-100 パーツリスト
甲第7号証の1 :無効2017-800078号の審決
(第2次無効審判)
甲第7号証の2 :平成30年(行ケ)第10030号審決取消請求事件 の判決(第2次審決取消訴訟)
甲第8号証 :平成28年(行ケ)第10161号審決取消請求事件
株式会社コーワンの技術説明会資料
甲第9号証 :鋼管杭協会・鋼矢板技術委員会 「鋼矢板 設計から 施工まで」改訂新版、2000年発行、(表紙、まえ がき、3頁、6頁、奥付)
甲第10号証の1:全国圧入協会「杭圧入引抜機の運転者教本-安全衛生
特別教育用-」(表紙、まえがき、目次、4?5頁、
11頁、25?27頁、33頁、48?49頁、
53頁、105?108頁、奥付)
甲第10号証の2:全国圧入協会 事務局長 川辺 守「陳述書」
甲第10号証の3:技研グループ社内報「技研」’87.10.No.2 8
甲第11号証 :特開昭52-7107号公報
甲第12号証 :住友金属工業株式会社「住友の鋼矢板マニュアル」
(表紙、III施工編の目次、299?300頁、
309頁、奥付)
甲第13号証の1:株式会社コーワンの説明資料
甲第13号証の2:TILT PILER AZ100のカタログ
甲第14号証の1:SILENT PILER GPF150のカタログ
甲第14号証の2:CRUSH PILER
SUPER CRUSH U600Mのカタログ
甲第14号証の3:CRUSH PILER
SUPER CRUSH U400Mのカタログ

請求人は、令和3年1月8日付け上申書に添付して、上記第1の2の審決取消訴訟にも提出した以下の証拠を提出している。
甲第18号証 :株式会社技研施工 従業員 村田敏彦「陳述書」
甲第19号証 :R65の全体図面
甲第20号証 :部品表
甲第21号証 :購入部品表
甲第22号証 :図面(図番「C726」)
甲第23号証 :図面(図番「M61-18△」)(当審注:△の中に 「19」の記載あり)
甲第24号証 :SILENT PILER C4 KGK-80
取扱説明書
甲第25号証 :SILENT PILER C4 KGK-80
パーツリスト

以下、「甲第1号証の1」を「甲1の1」と略すこともある。他の証拠についても同様。

3 具体的な主張
(1)無効理由1(鋼矢板圧入引抜機「WP-150」(甲1の1ないし3)に係る公然実施発明に基づく進歩性欠如(理由1))について
ア 本件発明1について(審判請求書34ないし70頁)
(ア)鋼矢板圧入引抜機「STILL WORKER WP-150」(甲1の1ないし3)に係る公然実施発明
甲1の1ないし3には、平成17年3月31日に解散した土佐機械工業株式会社(甲13の1)の名義となっている記載があることから、本件原出願日前に公然実施されたことは明らかである。(同34頁)
上記公然実施された鋼矢板圧入引抜機「WP-150」から、次の発明(以下「甲1発明」という。)が認定できる。
(甲1発明)
「下方にクランプを配設したサドルと、サドル上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、該ガイドフレームに昇降自在に装着されて圧入引抜シリンダーが取り付けられた昇降体と、昇降体の下方に形成されたチャックフレームと、チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック本体とを具備してなる鋼矢板圧入・引抜機において、
前記クランプは、サドルの下面に形成した複数のクランプガイドに、相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプを組み替え可能に装備するとともに、複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり、
前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて、クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって、前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とするとともに、前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mmであっても前記既設のU型の鋼矢板を先頭からではないがクランプ可能とした、鋼矢板圧入・引抜機。」(注記:400mmでは、正規状態では施工できず、便宜的に、2枚目圧入状態で施工する) 。(同60、61頁)
(イ)対比
本件発明1と甲1発明との、一致点と相違点は以下のとおりである。(同61、62頁)
(一致点)
「下方にクランプ装置を配設した台座と、台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、該ガイドフレームに昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、昇降体の下方に形成されたチャックフレームと、チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック装置とを具備してなる鋼矢板圧入引抜機において、
前記クランプ装置は、台座の下面に形成した複数のクランプガイドに、相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプ部材を組み替え可能に装備するとともに、複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり、
前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて、クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって、前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とした鋼矢板圧入引抜機。」
(相違点)
「既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とした」構成について、
本件発明1では、「継手ピッチ400mm,500mm,600mmのいずれであっても」既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能なのに対し、
甲1発明では、「継手ピッチ500mm,600mm」のみ可能であって、「継手ピッチ400mm」のものは、既設のU型の鋼矢板をクランプ可能であるが、先頭の鋼矢板をクランプするものではない点。
(ウ)相違点についての請求人の主張
圧入する対象に応じて、一体型チャックフレームを適宜交換することは、WP150シリーズにより公知であり(甲2の1ないし3)、かつ、継手ピッチ400mmではチャック装置が小さな一体型チャックフレームで足りることは、SA100(甲3の1ないし3)、AZ100(甲13の2)、SCU-600M(甲14の2)及びSCU-400M(甲14の3)により公知であった。400mm専用の鋼矢板圧入引抜機は全て正規状態で施工可能であり、甲1発明でも400mm用のチャック装置が小さな一体型チャックフレームを用いれば、干渉問題を解決できることは明らかである。
よって、甲1発明において、2枚目圧入状態の課題(装置に過負荷がかかる、共下がり及び共上がり)を解決する強い動機付けが認められるから、600mmの一体型チャックフレームに加えて、400mm用のチャック装置が小さな一体型チャックフレームを採用し、鋼矢板の種類に応じて交換することで干渉問題を解決し、継手ピッチ400mmにおいて既設鋼矢板の先頭をクランプ可能な本件発明1の構成とすることは、かかる公知技術から容易に想到できた。(同67、68頁)
イ 本件発明2について
本件発明2は、クランプピッチの最大変更幅を規定している。
規格品たるU型鋼矢板の形状が定まっている以上は、継手ピッチ600mm、500mm、400mmのいずれにも対応可能な鋼矢板圧入引抜機のクランプピッチ最大幅が、それぞれ「428mm?772mm,412mm?588mm,300mm?500mm」となるのは当然である。(同70、71頁)
ウ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の鋼矢板圧入引抜機において、既設鋼矢板の先頭をクランプした状態で、「鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがないようにチャックフレームを配置」させるという内容である。その他の付加された構成要件は、鋼矢板圧入引抜機の使用方法として、当然の事項である。
甲1発明において、チャック及びチャックフレーム等を一体的に構成した「一体型チャックフレーム」を交換する手段を利用すれば、400mm用鋼矢板を施工する場合には、チャックやチャックフレームを400mm用に小型にしたものを使用できるので、継手ピッチが400mmでの部材の干渉等が起こらず、既設鋼矢板の先頭からクランプ可能であることは、既に説明したとおりである。したがって、既設鋼矢板の先頭をクランプした状態で、「鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがないようにチャックフレームを配置」させた状態が実現できているのであるから、請求項3で付加された事項は、進歩性の根拠とならない。(同72頁)
エ 本件発明8について
本件発明8は、本件発明1等の装置及び機能を、単に工法の発明として記載したものであり、本質的には本件発明1等と何ら変わりがない。(同72頁)
オ 本件発明9について
本件発明9は、本件発明8に継手ピッチが400mm、500mm、600mmのいずれであってもよいことを付加しているが、甲1発明及び本件発明1がもともと、継手ピッチが400mm、500mm、600mmのいずれにも対応した鋼矢板圧入引抜機であるので、本件発明9に付加された事項には、何ら技術的意義はない。(同72頁)

(2)無効理由2(鋼矢板圧入引抜機「WP-150」(甲1の1ないし3)に係る公然実施発明に基づく進歩性欠如(理由2))について
ア 本件発明1について(審判請求書73ないし93頁)
(ア)鋼矢板圧入引抜機「STILL WORKER WP-150」から甲1発明が認定できる点については、上記「(1)ア(ア)」で示したのと同様である。(同74、87、88頁)
(イ)本件発明1と甲1発明とは、上記「(1)ア(イ)」で示したのと同様の一致点と相違点を有している。(同74、87、88頁)
(ウ)相違点についての請求人の主張
甲1発明において、チャックフレームの接合部分は500mm及び600mm用で共通化し、先端のチャック装置については、500mm及び600mm用のチャックに加えて、400mm用の小さなチャック装置を用意し、鋼矢板の種類に応じて交換して、400mmでも部材間の干渉等を解消し、正規状態で施工可能とすることは、かかる公知技術と周知技術から容易に想到できる。(同91頁)
イ 本件発明2、3、8及び9について
本件発明2、3、8及び9については、無効理由1で説明した議論が、無効理由2においてもそのまま当てはまる。(同93頁)
ウ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1が正規状態で施工可能とするための具体的手段が不特定であったところ、かかる具体的手段を複数のチャック装置の交換に限定するものである。無効理由2では、本件発明1について説明した内容が、本件発明4の実施態様そのものであるから、本件発明1が容易に想到できる以上、本件発明4が容易に想到できることは明らかである。
500mm/600mmのチャック装置に加えて、400mm用の小さなチャック装置を用意し、鋼矢板の種類に応じて複数のチャック装置を交換することは容易である。
また、甲1発明のチャック装置は、鋼矢板の挿通孔、チャック部、チャック装置を旋回させるためにチャックリングギアを有している。チャックリングギアに同一形状を採用する点は、いわば当然である。(同94頁)
エ 本件発明5について
甲1発明は、チャック旋回モータとピニオンギアを有しており、かつ、ピニオンギアに噛合させているところ、チャック旋回モータとピニオンギアを収納したピニオンボックスが、台座の上端面の位置する水平線より上方に配置しているか否かは、不明瞭である。
しかし、「チャック旋回モータとピニオンギア及びピニオンギアを収納したピニオンギアボックスを台座の上端面の位置する水平線より上方に配置した」点は公知技術にすぎず、進歩性を肯定する根拠とはならない。(同94ないし96頁)
オ 本件発明6について
本件発明6は、600mm用のチャック装置と、400mm用のチャック装置に限定するものである。500mm/600mm用チャック装置と、400mm用チャック装置とを交換可能とする構成については、本件発明1で述べたとおりである。(同96頁)
カ 本件発明7について
本件発明7は、先頭のU型鋼矢板の解放された継手に、次に作業するU型鋼矢板の継手を噛合させた状態において、チャック装置と鋼矢板圧入引抜機の他の部材とが干渉しないというものである。500mm用/600mm用チャック装置と400mm用チャック装置とを交換可能とすることで、部材の干渉問題等を解決し正規状態で施工可能となることは、本件発明1で述べたとおりである。(同97頁)

第5 被請求人の主張及び証拠方法
平成31年3月4日付け請求書副本の送達通知により審判請求書副本を、同年3月7日に発送し、期間を定めて本件無効審判請求に対する答弁書提出の機会を与えたのに対し、被請求人からは、指定した期間内に答弁書等の応答がなかった。また、令和3年3月25日付けで審決の予告をしたが、これに対しても何らの応答もなかった。

第6 証拠について
1 甲第1号証の1ないし3について
請求人が、本件原出願前に公然実施された鋼矢板圧入・引抜機「STILL WORKER WP-150」(以下、圧入引抜機「WP-150」ということがある。)に係る発明の内容を明らかにするための証拠として提出した甲1の1ないし3は、それぞれ、圧入引抜機「WP-150」の「取扱説明書」、「パーツ・リスト」及び「カタログ」であり、それらの表紙には、平成17年3月31日に解散した「土佐機械工業株式会社」と記載されている。また、被請求人は、甲1の1ないし3の成立及び内容について疑義を申し立てていない。
以上によれば、甲1の1ないし3からみて、圧入引抜機「WP-150」は、本件原出願前に公然実施されたと認められるところ、それぞれ次の事項が記載されている。
(1)甲1の1に記載された事項
ア 表紙には、「STILL WORKER WP-150 取扱説明書」及び「土佐機械工業株式会社」と記載されている。
イ 第4頁には、「荷重制限が作動時の取扱注意事項」として、「引抜き作業は、抜きはじめに最大負荷が加わる為、1枚目圧入状態で開始して下さい。」、「※ 荷重制限 2枚目圧入状態では圧入の負荷により機械本体に非常に大きな力が作用するので機械の保護の為、2枚目圧入状態において一定負荷でセンサーの働きによりチャック上下を停止させています。」との記載がある。
ウ 第27頁の「(1)機械外部の名称」の図、第28頁の「(2)本体機能の名称」の図及び表から、次の構成が看て取れる。
(ア)「サドル」の下部に3個の「クランプ」が配設されている。
(イ)「サドル」の上に「スライドベース」が配備されており、その上方には「リーダーマスト」が立設されている。
(ウ)「リーダーマスト」には、「圧入引抜シリンダー」が取り付けられた「チャックフレーム」が装備されている。
(エ)「チャックフレーム」には「チャック本体」が備えられている。
エ 第54頁には、「本体自走要領」に関する説明が図とともに記載されており、当該記載からは、「クランプ」により既設の矢板がクランプされ、「チャック本体」に圧入する矢板が挿通されチャックされていることが理解できる。
オ 第62頁第1行には「10.クランプの組替え」と記載されており、同第2行には「(1)600ピッチ・500ピッチ鋼矢板施工時のクランプの状態」と記載され、その下方には、「600mm鋼矢板施工時」とその状態を示す図、及び、「500mm鋼矢板施工時」とその状態を示す図が記載されており、両図から、「No.1クランプ」、「No.2クランプ」、「No.3クランプ」が備えられており、それらは形状が異なっており、「600mm鋼矢板施工時」と「500mm鋼矢板施工時」とではそれらの配置が異なっていることが看て取れる。
「600mm鋼矢板施工時」の図においては、600mm用チャック装置と他の部材との間に隙間が存在し、「500mm鋼矢板施工時」の図においては、500mm用チャック装置と他の部材とがほぼ接触するまで近づいている点が看て取れる。
カ 第63頁には「WP-150はNo.1クランプを追加して購入することによって400mmの鋼矢板も施工することが出来ます。」と記載されており、同頁の図(400mm鋼矢板施工時について示したものであることは明らかである。)から「No.3クランプ」、「No.1クランプ」、「No.1クランプ」が備えられており、右側のNo.1クランプは、右から3枚目の鋼矢板をクランプしていることが看て取れる。
また、同図から、400mm施工について、600mmと500mm鋼矢板施工時のように既設のU型の鋼矢板を先頭からクランプした状態(以下「正規状態」という。)での施工ではなく、2枚目をクランプした状態(以下「2枚目クランプ状態」という。)での施工であることが示されており、600mm用チャック装置と他の部材との間が、400mmの鋼矢板の幅の寸法以下となっている点が看て取れる。
キ 上記オ、カで示した第62頁、第63頁の図を比較すると、サドルの下部に配設される3個のクランプの形状及びピッチが異なっていることが看て取れる。
(2)甲1の2に記載された事項
ア 表紙には、「STILL・WORKER WP・150 パーツ・リスト」及び「土佐機械工業株式会社」と記載されている。
イ 第1頁の図、第2頁の「1.スライドベース組立(1/2)」の表からみて、「サドル」の下面に複数の切欠が装備されており、第61頁の図からみて、前記切欠には、クランプが配置されていることから、前記切欠はクランプを配置するためのクランプガイドであることが看て取れる。そして、当該クランプガイドのピッチが異なっていることが看て取れる。
ウ 第17頁の「9.チャック本体組立」についての図からみて、チャック本体組立が単独で示され、同図の符号8は、第18頁の表から、名称が「チャック.リングギヤー」という部品であることがわかる。
エ 第13頁の「7.チャックフレーム組立(1/2)」に示されるチャックフレームの正面図、側面図及び平面図の符号1及び符号3は、第14頁の表から、それぞれ、「チャックフレーム」及び「チャック本体組立」という部品であることがわかる。また、同平面図及び側面図には、符号1の部品に符号3の部品が装着されることが示されている。一方、上記ウで示した第17頁には、「チャック本体組立」が単独で示されていることから、技術常識を踏まえれば、「チャック本体組立(3)」が「チャックフレーム(1)」から着脱可能な構造となっているといえる。
オ 第15頁の「8.チャックフレーム組立(2/2)」には、チャックフレームの内部を説明する平面図及び側面図が示され、同図の符号3、符号16及び符号27は、第16頁の表から、それぞれ「チャック本体組立」、
「ドラムピニオン」及び「トルクモーター」という部品であることがわかる。また、同図には、「トルクモーター(27)」と「ドラムピニオン(16)」とが、軸を介して連結されることが示されており、「トルクモーター」の駆動力が「ドラムピニオン」に伝達できるように構成されていることがわかる。また、「ドラムピニオン(16)」に接続する、「チャック本体組立(3)」の部位は、第17頁の「チャック本体組立」の「チャック.リングギヤー(8)」であることがわかる。
そうすると、技術常識を踏まえれば、第15頁の図には、「トルクモータ(27)」が作動すると、軸及び「ドラムピニオン(16)」を介して、「チャック本体組立(3)」の「チャック.リングギヤー(8)」に動力が伝わり、チャック本体組立が回転することが開示されているといえる。
さらに、第15頁の平面図及び側面図には、技術常識を踏まえれば「トルクモーター(27)」及び「ドラムピニオン(16)」を収納するフレーム体が示されている。
(3)甲1の3に記載された事項
ア 表紙には、「次世代 圧入・引抜機」、「600・500・400ピッチ対応型」、「STILL WORKER WP ワイド 150」、「広幅型鋼矢板圧入・引抜機」、「3種類の鋼矢板の施工が可能!」及び「土佐機械工業株式会社」と記載されている。
イ 「1台で3種類の鋼矢板が施工可能」との見出しがある頁には、「クランプの組み替えにより600mmから、500mm、400mmの鋼矢板の施工が、1台のスティルワーカで可能になりました。(ただし、400mm鋼矢板の圧入姿図中、第2クランプ位置の第1クランプはオプション仕様となります)」との記載がある。また、同頁の「600mm鋼矢板施工」、「500mm鋼矢板施工」、「400mm鋼矢板施工」の各圧入姿図からみて、「600mm鋼矢板」、「500mm鋼矢板」、「400mm鋼矢板」は、U型の鋼矢板であり、相互に継手を噛合させて圧入されるものであることが看て取れる。
ウ 赤地に白抜きで「STILL WORKER WP ワイド 150」との見出しがある頁には、「[新発想、1台で3種類の鋼矢板の施工が可能] 有効幅600mmの広幅鋼矢板から、500mmの鋼矢板、400mmの普通鋼矢板まで、クランプ位置を変更することにより、この一台で施工できます。」との記載がある。
(4)認定事項
ア 鋼矢板圧入・引抜機「STILL WORKER WP-150」は、鋼矢板圧入・引抜機に関する技術常識(例えば特開2008-267015号公報を参照。)を踏まえると、上記(1)ウ及びエで示した構成に加えて、次の構成を備えるものであることが明らかである。
(ア)「スライドベース」は、「サドル」上にスライド自在に配備されている。
(イ)「リーダーマスト」は、「スライドベース」の上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されており、ガイドフレームを備えている。
(ウ)「チャックフレーム」は、「リーダーマスト」に備えたガイドフレームに昇降自在に装着された「圧入引抜シリンダー」が取り付けられた昇降体の下方に形成されている。
(エ)「チャック本体」は、「チャックフレーム」内に旋回自在に装備されるとともに鋼矢板を挿通してチャック可能な構成である。
イ 甲1の1の上記(1)オないしキから、「クランプ」は、相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数の「クランプ」を組み替え可能に装備されており、複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状が異なっていることが理解できる。このことは、甲1の2の上記(2)イ、甲1の3の上記(3)イとも整合する。
(5)甲1の1ないし3から認定される発明
甲1の1ないし3によれば、上記(1)ないし(3)に記載された事項及び図示内容並びに上記(4)の認定事項からみて、本件原出願前に公然実施されたと認められる鋼矢板圧入・引抜機「STILL WORKER WP-150」から、次の発明(以下「甲1発明」という。)を認定することができる。
<甲1発明>
「下方にクランプを配設したサドルと、サドル上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、該ガイドフレームに昇降自在に装着されて圧入引抜シリンダーが取り付けられた昇降体と、昇降体の下方に形成されたチャックフレームと、チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック本体とを具備してなる鋼矢板圧入・引抜機において、
前記クランプは、サドルの下面に形成した複数のクランプガイドに、相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプを組み替え可能に装備するとともに、複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり、
前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて、クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって、前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とするとともに、前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mmであっても前記既設のU型の鋼矢板を先頭からではないがクランプ可能とした、鋼矢板圧入・引抜機。」

また、特に甲1の2の上記(2)に記載された事項及び図示内容からみて、本件原出願前に公然実施されたと認められる鋼矢板圧入・引抜機「STILL WORKER WP-150」から、「チャックフレーム」及び「チャック本体組立」について次の構成を備えている甲1発明を認定することができる(以下、この発明を「甲1-1発明」という。)。
<甲1-1発明>
甲1発明において、「チャックフレーム」及び「チャック本体組立」を有し、
「チャック本体組立(3)」が「チャックフレーム(1)」から着脱可能な構造となっており、
「ドラムピニオン(16)」及び「トルクモーター(27)」を有し、
「チャック本体組立(3)」は、「チャック.リングギヤー(8)」を備え、
前記「トルクモーター(27)」が作動すると、軸及び「ドラムピニオン(16)」を介して、「チャック本体組立(3)」の「チャック.リングギヤー(8)」に動力が伝わり、チャック本体組立が回転するように構成されており、
前記「トルクモーター(27)」及び「ドラムピニオン(16)」を収納するフレーム体を有する、
鋼矢板圧入・引抜機。」

2 甲第2号証の1ないし3について
請求人が無効理由に係る証拠として提出した甲2の1ないし3には、それぞれ、次の事項が記載されている。
なお、甲2の2、甲2の3は、それぞれ、チルトパイラーハット「WP150HAT」及びチルトパイラーマルチ「WP150α」が掲載されたカタログ、チルトパイラーマルチWP150αをベース機としたチルトパイラー「WP150P/PII/PIII」が掲載されたカタログであり、「※土佐機械工業(株)は平成17年4月より(株)コーワンになりました。」との記載がある。また、被請求人は、甲2の1ないし3の成立及び内容について疑義を申し立てていない。
(1)甲2の1に記載された事項
ア 上段には、「ユーザー様 各位」、「平成17年9月吉日」、「株式会社コーワン」、「新製品のご案内」との記載がある。
イ 中段には、「3種U型鋼矢板圧入機「チルトパイラーWP150」をベース機として、「専用アタッチメント」との組替により5種類の鋼管矢板が施工できる「鋼管チルトパイラーWP150シリーズ」を開発販売し、ご好評いただいているところでありますが、先頃、鉄鋼3社の共同開発による「ハット形鋼矢板900」の発売を受け、当社は、専用機ではなく、前述のベース機と専用アタッチメントによる組替方式で、「ハット形鋼矢板900」が圧入施工できる機械の開発に取り組み、新製品“チルトパイラーハットWP150HAT”を開発いたしました。又、同時にベース機となる「チルトパイラーWP150」も、「硬質地盤」への対応も視野に入れ全面改良し、新製品“チルトパイラーマルチWP150α”として同時販売いたします。
この結果、“チルトパイラーマルチWP150α”又は“チルトパイラーハットWP150HAT”と「各専用アタッチメント」をご購入いただきますと、3種類のU型鋼矢板と、5種類の鋼管矢板に加え、ハット形鋼矢板900、計9種類の鋼(管)矢板の圧入施工が可能となりました。・・・」との記載がある。
ウ 下段には、「なお、カタログを同封させていただきますので、・・・」との記載がある。
(2)甲2の2に記載された事項
ア 1枚目右側には、「TILT PILER WP150HAT/150α ハット形鋼矢板900圧入機 チルトパイラーハット/3種U型鋼矢板圧入機 チルトパイラーマルチ」との記載がある。
イ 1枚目左側の仕様の表には、WP150αの適応矢板が「II_(W)?IV_(W)、V_(L)・VI_(L)、I_(A)?IV_(A)」であり、WP-150HAT(Type1)及び(Type2)の適応矢板が「ハット形鋼矢板900 10H・25H」であることが記載されている。
ウ また仕様が記載されている頁には、「3種類の鋼矢板が施工可能 WP150αは有効幅600mmの広幅型鋼矢板から、500mm・400mmの鋼矢板まで、クランプ位置を変更することにより、この1台で施工できます。」との記載とともに、600mm、500mm、400mmの場合のクランプ位置の変更態様と既設鋼矢板のクランプの様子が図示されており、400mmの場合には、「(注)400mm姿図中、第2クランプ位置のクランプはオプションとなります。」と記載され、既設の鋼矢板の先頭のものはクランプしていない様子が看て取れる。また、下方には「※土佐機械工業(株)は平成17年4月より(株)コーワンになりました。」との記載がある。
さらに、「WP150HAT Type1」の平面図を見ると、この型式のチャック装置の幅寸法は1290mmであり、また「WP150HAT Type2」の平面図を見ると、この型式のチャック装置の幅寸法は1620mmであることが看て取れる。
エ 「圧入機のNew Standard!!」との見出しがある頁には、「チルトパイラーマルチWP150αは『専用アタッチメント』との組替により、3種類の鋼矢板(600・500・400mm)と5種類の鋼管矢板(φ600?φ1,000mm)に加え『ハット形鋼矢板900』の圧入施工が可能になりました。」との記載がある。また、同頁には、チルトパイラーマルチ「WP150α」の図と、鋼管チルトパイラー「WP150P」の図及び「WP150PII」の図と、チルトパイラーハット「WP150HAT」のType1の図及びType2の図が記載され、WP150αは、(ア)WP150P専用アタッチメントのクランプ部分とチャック部分との組替えによりWP150Pが構成されること、(イ)WP150P専用アタッチメントのクランプ部分とWP150PII専用アタッチメントのチャック部分との組替えによりWP150PIIが構成されること、(ウ)WP150HAT(Type1)専用アタッチメントのクランプ部分とチャック部分との組替えによりWP150HAT(Type1)が構成されること、(エ)WP150HAT(Type1)専用アタッチメントのクランプ部分とWP150HAT(Type2)専用アタッチメントのチャック部分との組替えによりWP150HAT(Type2)が構成されることが図示されている。
(3)甲2の3に記載された事項
ア 1枚目右側には、「TILT PILER WP150P/PII/PIII チルトパイラー 鋼管矢板圧入引抜機」との記載がある。
イ 1枚目左側の仕様の表には、WP-150P及びWP-150IIIの適応鋼管矢板が、φ1,000・φ900・φ800mmであり、WP-150PIIの適応鋼管矢板がφ700・φ600mmであることが記載されている。
また、「WP-150P」の平面図を見ると、この型式のチャック装置の幅寸法は1820mmであり、また「WP-150PII」の平面図を見ると、この型式のチャック装置の幅寸法は1620mmであり、さらに、「WP-150PIII」の平面図を見ると、この型式のチャック装置の幅寸法は1465mm(先端が開いたとき2305mm)であることが看て取れる。また、下方には、「※土佐機械工業(株)は平成17年4月より(株)コーワンになりました。」との記載がある。
ウ 「超軽量・超コンパクト!!」との見出しがある頁には、「3種類の鋼矢板(600・500・400mm)の施工が可能なチルトパイラーマルチWP150αをベース機として『専用アタッチメント』との組替により、5種類の鋼管矢板(φ600?φ1,000mm)の圧入施工が安全、確実に行えます。」との記載がある。また、WP-150αの図と、WP-150Pの図と、WP-150PIIの図と、WP-150PIIIの図が記載され、WP-150αは、(ア)WP-150P専用アタッチメントのクランプ部分とチャック部分との組替えによりWP-150Pが構成されること、(イ)WP-150P専用アタッチメントのクランプ部分とWP-150PII専用アタッチメントのチャック部分との組替えによりWP-150PIIが構成されること、(ウ)WP-150P専用アタッチメントのクランプ部分とWP-150PIII専用アタッチメントのチャック部分との組替えによりWP-150PIIIが構成されることが図示されている。

3 甲第3号証の1ないし3について
請求人が無効理由に係る証拠として提出した甲3の1ないし3には、それぞれ、次の事項が記載されている。
なお、甲3の1は、「SILENT PILER SUPER AUTO スーパーオート75、スーパーオート100」のカタログであり、「Ver.2.0/1 Aug、2008」との記載があり、甲3の2は、「SILENT PILER SUPER AUTO SUPER 100」の「取扱説明書」であり、「SA100」と記載され、甲3の3には、「日付’96年2月6日」、「名称 本体外観図(SA100用)」と記載されている。また、被請求人は、甲3の1ないし3の成立及び内容について疑義を申し立てていない。
(1)甲3の1に記載された事項
ア 1枚目右側には、「SILENT PILER SUPER AUTOスーパーオート75・100」との記載がある。
イ 1枚目左側のスーパーオート仕様の表には、スーパーオート75及びスーパーオート100の適応鋼矢板が、「U型400ピッチ IA?IVA」であることが記載されている。同頁の図には、チャックフレームやチャック本体の寸法については明記されていないが、少なくともスーパーオート100の全幅である1000mmよりも小さいことが看て取れる。また、下方には、「株式会社技研製作所」、「Ver.2.0/1 Aug、2008」との記載がある。
(2)甲3の2に記載された事項
ア 表紙には、「SILENT PILER SUPER AUTO SUPER 100」、「取扱説明書」との記載があり、「圧入機本体編」との見出しがある頁には「サイレントパイラーSA100」と記載され、「SA100」が略称であることが理解できる。
イ 第2頁には、「(2)仕様」の欄に、「・最大圧入力・・・1000kN(102Ton)*580kN(59Ton)」、「・最大引抜力・・・1100kN(112Ton)*640kN(65Ton)」、「※最大圧入、引抜力の項目の*部は2枚打ち状態での力を表しています。」との記載、「適応鋼矢板型式・・・IA?IVA」との記載がある。
ウ 第3頁には、「(5)安全装置 ・過負荷防止装置」との記載のもとに、「パイラー施工姿勢が2枚打状態(サドルよりスライドフレームが突出した形)になった状態で圧入、引抜最大負荷を加えると、パイラー及び反力架台に無理な力が加わり破損の原因となりますので、2枚打状態ではある一定の負荷が加わるとチャック上下が停止します。自走させ、パイラー施工姿勢を1枚打状態にして下さい。」との記載がある。
エ 第7頁には、「・本機はコンピューター制御により、自動圧入運転及び自動引抜運転を行うことができますので非常に能率よく施工できます。」との記載があり、[自動圧入運転要領]及び[自動引抜運転要領]の図からは、既設の鋼矢板の先頭からクランプ可能であることが看て取れる。
オ 第15頁の「自走要領」の図(1)及び(5)において、既設の鋼矢板の先頭からクランプ可能であることが看て取れる。
(3)甲3の3に記載された事項
仕様の表には、施工可能杭が「排水機能付き鋼矢板(400ピッチ用)II III IV型 II_(A) III_(A) IV_(A)型」と記載され、左方には、チャック本体の幅寸法が680であることが図示されており、通常の機械製図における記法を踏まえると、その単位がmmであることが明らかである。また、下方には、「日付’96年2月6日」、「名称 本体外観図(SA100用)」、「株式会社技研製作所」との記載がある。

4 甲第4号証の1ないし3について
請求人が無効理由に係る証拠として提出した甲4の1ないし3には、それぞれ、次の事項が記載されている。
なお、甲4の1は、「SUPER WIDE 100 150 広幅型鋼矢板圧入引抜専用機 スーパーワイド」が掲載されたカタログであり、「2003/4/17」との記載があり、甲4の2には、「報告書(SW100)」の記載があり、「SUPER WIDE 100」の略称が「SW100」であること、「当社は、コーワン特許の原出願日(平成22年4月22日)よりかなり前から、着脱式チャック装置を採用した鋼矢板圧入引抜機を実用化していました。」と記載されており、甲4の3には、「設計 AM36 SW100」、「日付’99年1月25日」との記載がある。また、被請求人は、甲4の1ないし3の成立及び内容について疑義を申し立てていない。
(1)甲4の1に記載された事項
ア 1枚目右側には、「SUPER WIDE 100 150 広幅型鋼矢板圧入引抜専用機 スーパーワイド」との記載がある。
イ 1枚目左側のスーパーワイド仕様の表には、スーパーワイド100及びスーパーワイド150の適応鋼矢板が、「広幅柄鋼矢板II_(W)?IV_(W)型 鋼矢板V_(L)、VI_(L)型」であることが記載されている。チャックフレームやチャック本体の寸法については明記されていないが、少なくともスーパーワイド100及び150の全幅である1145mmよりも小さいことが看て取れる。また、「2003/4/17」との記載がある。
ウ 2枚目右側の一番下には「広幅以外の杭材も施工可能・・・スーパーワイドはクランプ位置を変更する事によって広幅以外の杭材も施工できます。」との記載がある。
(2)甲4の2に記載された事項
ア 第1頁には、「平成31年2月1日」、「株式会社技研製作所 知財管理部 課長代理 磯野信広」、「報告書(SW100)」の記載がある。また、「2 当社と競合する株式会社コーワン(以下「コーワン」と言います)は、発明の名称「鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法」とする特許第5763225号(以下「コーワン特許」と言います)を有しています。コーワン特許の明細書【請求項4】には、同一の鋼矢板圧入引抜機において、複数のチャック装置を用意し、それぞれ着脱自在に装着可能とする方式(以下、かかる方式のチャック装置を「着脱式チャック装置」といいます)が、記載されています。しかしながら、当社は、コーワン特許の原出願日(平成22年4月22日)よりかなり前から、着脱式チャック装置を採用した鋼矢板圧入引抜機を実用化していました。その一例として、当社製の鋼矢板圧入引抜機「SUPER WIDE 100」(以下では、略称である「SW100」といいます)があります。」、「3 SW100は、600mm幅のU型鋼矢板と500mm幅のU型鋼矢板の両方が施工可能な鋼矢板圧入引抜機として、1997年(平成9年)に1号が販売されました。600mm幅と500mm幅のU型鋼矢板を施工する場合には、標準装備である標準チャックを用います。」との記載がある。
イ 第2頁には、「SW100は、標準チャックをSW100用のH鋼チャックアタッチメント(以下では「H鋼チャック」といいます)に交換することにより、H型鋼矢板の施工が可能です。更にSW100は、標準チャックをSW100用の排水機能チャックに交換することにより、排水機能付矢板の施工が可能です。SW100用排水機能チャックの型番として「AM36」になります。」、「SW100用H鋼チャックの1号は1999年(平成11年)に製造され、SW100用排水機能チャックの1号は2001年(平成13年)に製造され、それぞれ利用可能となっていました。」との記載がある。
ウ 第3頁には、「3 チャックフレームの写真を示します(図3の1、2)。赤枠で囲ったチャックフレーム側のギアが、コーワン特許では「ピニオンギア」と呼ばれているものです。チャックフレーム側のギアは、チャック装置側のギアと噛みあって、チャック装置を回転させます。」と記載されるとともに、図3の1及び2からみて、チャックフレーム内にギアが配置されていることが看て取れる。
エ 第4頁には、「第3 3種類の着脱式チャック装置について」との記載のもとに次の記載がある。「1 標準チャック、H鋼チャック、及び排水機能チャックの外観を示します(図4)。
(1)H鋼チャック及び排水機能チャックは、標準チャックを備えたSW100とは別に、当社のユーザーに対して必要に応じて周辺機器としてレンタルまたは販売するものですので、運搬台の上に設置された状態です(運搬台から降ろした写真は、後で示します。)
(2)チャック装置側のギア(コーワン特許では「チャックリングギア」と呼ばれる)は、チャックフレーム側のギア(図3の1、2)と噛みあわせて使用しますので、いずれの着脱式チャック装置でも同一形状が採用されています(図7の1?3も参照)。」
オ 図4には、標準チャック(左)、H鋼チャック(中央)、排水機能チャック(右)が並べて撮影された写真が示され、図4からみて、チャック側装置側のギア(同一形状)と示されているそれぞれのギアの下のチャック本体部分の横寸法は同程度であることが看て取れる。
カ 第7頁には、「5 H鋼チャックと排水機能チャックを運搬台からおろして、3種類の着脱式チャック装置の外形を比較してみます。
(1)図9では、鋼矢板を掴むための固定爪の位置が、比較しやすいようにしました。H鋼チャックでは、H型鋼矢板の中央を掴むので、固定爪も中央にあります。
(2)図10では、H鋼チャック及び排水機能チャックを運搬台から降ろしたうえで、3種類の着脱式チャック装置を図4と同じ向きに並べました。H鋼チャックと排水機能チャックが分かりやすいですが、形状および大きさが明らかに異なっています。」と記載されている。
キ 図9及び図10からみて、標準チャック(左)、H鋼チャック(中央)、排水機能チャック(右)の形状は異なっていること、及び、3種類のチャック本体の横寸法は同程度であることが看て取れる。
ク 第11頁には、
「第6 まとめ
当社は、コーワン特許の原出願日(平成22年4月22日)よりかなり前から、着脱式チャック装置を採用した鋼矢板圧入引抜機を実用化しており、その一例として、本報告書で示したとおり、当社製の鋼矢板圧入引抜機SW100があります。実際に本報告書の写真で撮影した対象は、SW100が31号で1998年(平成10年)製、H鋼チャックが1999年(平成11年)製です。また、排水機能チャックの1号は2001年(平成13年)製です。
各チャック装置は、圧入する鋼矢板の種類に応じて、内部構造は勿論のこと(図7の1?3)、外形やサイズも異なっています(図9、図10)。すなわち、コーワン特許の原出願日(平成22年4月22日)前から、圧入する鋼矢板の種類に応じて、外形やサイズの異なる複数のチャック装置を交換し使い分けていました。」との記載がある。
(3)甲4の3に記載された事項
「仕様」の表には、施工矢板が「排水機能付き鋼矢板 V_(L)、VI_(L)(500^(P))」と記載されている。また、同表の下方に「設計 AM36 SW100」、「日付’99年1月25日」、「名称 排水矢板用チャック外観図」、「株式会社技研製作所」との記載がある。

5 甲第5号証の1及び2について
請求人が無効理由に係る証拠として提出した甲5の1及び2には、それぞれ、次の事項が記載されている。
なお、甲5の1は、「期間 開会 H7・11・7 閉会 H7・11・12」と記載された「工事写真帳」であり、甲5の2には、その正誤表に「新しい約款の適用は平成17年5月9日受付分(5/9以降出庫)からとなります。」との記載があり、甲5の2のレンタル総合カタログの頒布が、平成17年5月9日以前であることが推認される。また、被請求人は、甲5の1及び2の成立及び内容について疑義を申し立てていない。
(1)甲5の1に記載された事項
ア 表紙には、「工事写真帳」、「新製品・新工法発表会」、「布市田・ぢばさんセンター・高須」、「期間 開会 H7・11・7 閉会 H7・11・12」、「技研製作所・技研施工」との記載がある。
イ 2枚目以降には、発表会会場の様子を示す写真、「SILENT PILER SUPER AUTO 150」の展示を示すパネルの写真、「SUPER 150」及び「GIKEN」と表示のある機器の写真、「H型鋼チャックアタッチメント」の展示を示すパネルとその横に置かれたチャックの写真、「排水機能付チャック」の展示を示すパネルとその横に置かれたチャックの写真が示されている。また、前記「H型鋼チャックアタッチメント」のパネルの写真において、「形式」として「AM15」が記載された段には「適応機種」として「SA100」の記載があり、「排水機能付チャック」のパネルの写真において、「形式」として「AM22」が記載された段には「適応機種」として「SA100」の記載がある。
ウ 排水機能付チャックの展示を示すパネルの横に置かれたチャックは、上部のギア部分に比べて、その下のチャック本体の横寸法が広いことが看て取れる。
(2)甲5の2に記載された事項
ア 1枚目右側には、「レンタル総合カタログ」、「GIKEN」、「株式会社技研製作所 レンタル事業部」との記載がある。
イ 2枚目左側の正誤表には、「新しい約款の適用は平成17年5月9日受付分(5/9以降出庫)からとなります。」との記載があり、甲5の2のレンタル総合カタログの頒布が、平成17年5月9日以前であることが推認される。
ウ 第4頁には、「圧入機 U形鋼矢板(400mm)対応機」、「スーパーオート SA100」の写真、図及び仕様、「スーパーオート SA75」の写真、図及び仕様の記載がある。
エ 第5頁には、「圧入機 U形鋼矢板(500mm、600mm)対応機」、「スーパーワイド SW100」の写真、図及び仕様、「スーパーワイド SW150」の写真、図及び仕様の記載があると認められる。
オ 第9頁には、「アタッチメント」との表題が記載され、中段及び下段に「H鋼チャック」の写真及び仕様、並びに「排水機能チャック」の写真及び仕様の記載がある。いずれの仕様にも取付機種として「SA100」及び「SW100」が記載されている。特に「排水機能チャック」についてみると、SA100の施工可能杭の欄には「U形鋼矢板(400mm)I_(A)?IV_(A)」との記載があり、SW100の施工可能杭の欄には「U形鋼矢板(500mm)V_(L)?VI_(L)、U形鋼矢板(600mm)II_(W)?IV_(W)」との記載がある。

6 甲第6号証の1及び2について
請求人が無効理由に係る証拠として提出した甲6の1及び2には、それぞれ、次の事項が記載されている。
なお、甲6の1には、「平成17年10月版 31号機?」と記載され、甲6の2には、「平成21年3月版 32号機?」と記載されている。また、被請求人は、甲6の1及び2の成立及び内容について疑義を申し立てていない。
(1)甲6の1に記載された事項
ア 表紙には、「TILT PILER WP-100 取扱説明書」、「KOWAN」及び「平成17年10月版 31号機?」と記載されている。また、最終頁には、「株式会社コーワン」と記載されている。
イ 第1頁には、「鋼矢板圧入・引抜機『TILT PILER』」と記載されている。
ウ 第4頁には、「荷重制限が作動時の取扱注意事項」として、「引抜き作業は、抜きはじめに最大負荷が加わる為、1枚目圧入状態で開始して下さい。」、「※ 荷重制限 2枚目圧入状態では圧入の負荷により機械本体に非常に大きな力が作用するので機械の保護の為、2枚目圧入状態において一定負荷でセンサーの働きによりチャック上下を停止させています。」との記載がある。
エ 第59頁には、「本体自走要領」に関する説明が図とともに記載されており、当該記載からは、「クランプ」により既設の矢板がクランプされ、「チャック本体」に圧入する矢板が挿通されチャックされていることが理解できる。
オ 第68頁第1行には「11.クランプの組替え」と記載されており、同第2行には「(1)600mm・500mm鋼矢板施工時のクランプの状態」と記載されており、その下方には、「600mm鋼矢板施工時」とその状態を示す図、及び、「500mm鋼矢板施工時」とその状態を示す図が記載されている。また、「600mm鋼矢板施工時」の状態を示す図面と「500mm鋼矢板施工時」の状態を示す図面から、「No.1クランプ」、「No.2クランプ」、「No.3クランプ」が備えられており、それらは形状が異なっており、「600mm鋼矢板施工時」と「500mm鋼矢板施工時」とではそれらの配置が異なっていることが看て取れる。
カ 第69頁には「WP-100はNo.1クランプを追加して購入することによって400mmの鋼矢板も施工することが出来ます。」、「圧入する矢板の手前の矢板はクランプすることが出来ません。施工時に圧入する矢板の手前の矢板が共上がり、共下がりすることがありますので、圧入する矢板の手前の矢板とクランプしている矢板を溶接止めして下さい。」と記載されている。
キ 上記オ及びカから、クランプの組替えによって600mm、500mm、400mmの鋼矢板の施工が1台で可能となることが理解できる。
ク 上記カから、1台の鋼矢板圧入引抜機で、既設の400mmのU形鋼矢板の先頭をクランプして圧入作業を行うことができないことが理解できる。
(2)甲6の2に記載された事項
ア 表紙には、「TILT PILER WP-100 パーツリスト」、「KOWAN」及び「平成21年3月版 32号機?」と記載されている。また、最終頁には、「株式会社コーワン」と記載されている。
イ 第9頁の図と第10頁の表とを対照すると、第9頁の「5.クランプ組立(1)」の図に符号1としてクランプケーシングが図示されており、第10頁の表には、コードNo「050045」、部品名称「クランプケーシング」、備考「(第1クランプ)」と記載されている。また、同様に、第11頁の「6.クランプ組立(2)」の図に符号1としてクランプケーシングが図示されており、第12頁の表には、コードNo「050046」、部品名称「クランプケーシング」、備考「(第2クランプ)」と記載されている。また、同様に、第11頁の「6.クランプ組立(2)」の図に符号2としてクランプケーシングが図示されており、第12頁の表には、コードNo「050047」、部品名称「クランプケーシング」、備考「(第3クランプ)」と記載されている。

7 甲第9号証について
請求人が無効理由に係る証拠として提出した甲9には、次の事項が記載されている。
なお、被請求人は、甲9の成立及び内容について疑義を申し立てていない。
(1)表紙には、「鋼矢板 設計から施工まで」、「鋼管杭協会」、「新日本製鐵株式會社」との記載がある。
(2)第3頁には、「また、平成9年より有効幅600mmの「広幅型鋼矢板」が製造されるようになりました。」との記載があり、「1.1 U形鋼矢板」として、図-1.1.2に、有効幅が600mmの広幅型鋼矢板の図と、有効幅が400mmの従来型鋼矢板の図が示されている。
(3)第6頁の「2.1 U形鋼矢板」の種類の表には、種類が「II、III、IV、I_(A)、II_(A)、III_(A)、IV_(A)」のものの寸法が400mmであり、「V_(L)、VI_(L)」のものの寸法が500mmであり、「II_(W)、III_(W)、IV_(W)」のものの寸法が600mmであることが記載されている。

8 甲第10号証の1ないし3について
請求人が無効理由に係る証拠として提出した甲10の1ないし3には、それぞれ、次の事項が記載されている。
なお、被請求人は、甲10の1ないし3の成立及び内容について疑義を申し立てていない。
(1)甲10の1に記載された事項
ア 表紙には、「JPA 杭圧入引抜機の運転者教本-安全衛生特別教育用-」、「全国圧入協会」との記載がある。
イ 第33頁には「2.H形鋼チャック
(1)用途、目的
H形鋼に加えて、直線形、U形、鋼矢板も施工できるアタッチメントである。
・・・
(3)セット方法
1.機械本体のチャック開閉油圧ホース、ドラムカバー(押え)を外す。
2.チャック、回転部セットの状態でチャック本体より外す。
3.アタッチメントをチャック本体に取付ける。
・・・
(5)取扱い注意
1.機械本体のチャックと比べ外径が大きいため、スライドフレームやサドル部位との接触による破損などを生じないよう十分注意すること。
2.U形鋼矢板はI?III型まで施工可能である。ただし、III型の場合は固定爪を交換すること。・・・」との記載がある。
ウ 第49頁には、「過負荷防止装置
本体が、下図の様な圧入引抜姿勢になった場合、スライドフレームが、サドルに対し、突出した状態になる。このまま圧入引抜負荷130tを加えると、主構成部品に非常に大きな力が作用し破損を引き起こすことになる。この状態を防止するため、ある一定以上の負荷が加わるとセンサーによりチャック上下動が停止する。
KGK-130C4型過負荷防止t数 圧入 60t 引抜 72t
注意事項
スライドフレームが2枚目施工状態のときは、過負荷防止装置が働く以前に速やかに自走すること。
・・・
クランプ増圧装置
施工中、圧入引抜きの荷重が増大すると、クランプ掴み圧力が自動的に増圧して、反力が増すため・・・」との記載がある。
(2)甲10の2に記載された事項
ア 第1頁に「株式会社技研製作所から「杭圧入引抜の運転者教本-安全衛生特別教育用-」の発行年月について問合せを受けたので、お答えします。私が確認したところ、当該教本のまえがきに発行年月が記載されていないことから(別紙を参照)昭和62年に発行された初版に間違いありません。 運転者教本は、初版の後に何度か改定されましたが、改定版のまえがきには発行年月が記載されており、発行年月未記入は昭和62年の初版だけです。」との記載がある。
イ 「まえがき」の頁には、発行年月日が記載されていない。
ウ 上記ア及びイから、甲10の1の発行が昭和62年であったことが理解できる。
(3)甲10の3に記載された事項
ア 第1頁に「昭和62年10月31日」、「技研」との記載がある。
イ 第2頁に「大阪で安全講習 JPA主催で第2弾
去る10月5日、6日の2日間、大阪府摂津市の関西技能開発センターで、JPA主催の特別安全教育講習会が開かれました。
・・・
受講されたユーザーさんは次のとおりです。(株)関根重機、セントラル工業(株) 東新建設(株) 中野組 (株)山田工務店 ユタカ電建工業(株) 吉村建設(株)」との記載がある。
ウ 上記ア及びイから、上記講習会の開催時期と甲10の1の教本の発行時期は整合しているといえる。

9 甲第11号証について
(1)甲11に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した甲11には、次の事項が記載されている。
ア 「2.特許請求の範囲
定置され得る基盤と、該基盤に旋回可能に装着されたターンテーブルと、該テーブル上に立設された支塔と、該支塔に設けられたガイドレールに沿つて昇降自在に装着された昇降体と、該昇降体を昇降作動させるべく前記支塔に装着された流体圧シリンダと、前記昇降体に回動自在に装着された圧入、引抜杭つかみ装置とを具えて成る静荷重型杭打機」(第1頁左上欄第3?11行)
イ 「3.発明の詳細な説明
最近、振動騒音等の建設工事公害問題が大きく取り上げられているため、従来工法のドロツプハンマー、バイブロハンマー又はジーゼルハンマー等の振動騒音を伴う工法を使用する事は全く不可能な現状である。しかし、この問題に対処して種々の工法が開発されているが、それぞれ不満足は多く充分なものは未だ出現していない。
本発明は上記した問題点を解決できしかも使用性に優れた静荷重型杭打機を提供しようとするものである。」(第1頁左下欄第12行?右下欄第3行)
ウ 「以下、本発明の一実施例を図面に基いて説明する。図において(1)は直方体状の基盤、(2)は該基盤(1)の上部に溝嵌合(3)と螺子機構で第2図中左右動可能に装着された可動盤、(4)は該盤(2)へ油圧モータ、ピニオン、リングギアの利用により旋回可能に装着されたターンテーブル、(5)は該テーブル(4)の上面に立設された支塔で、互いに平行な一対のガイドレール(6)が設けられる。(7)は該レール(6)に案内されて昇降自在な昇降体で、これはガイドレール(6)に嵌合された溝部(8)と、該溝部を左部に有しかつ右部に半円筒面(9)が形成された昇降主体(10)と、該主体にボルト等で着脱自在に固定された半円筒体(11)とから構成される。(12)は該昇降体(7)作動用の一対の流体圧、例えば油圧シリンダで、そのシリンダ本体(13)の上端は支塔(5)の上端に軸(14)着され、またそのピストンロツド(15)の下端は昇降体(7)の左下部に軸(16)着される。(17)は前記昇降体(7)に装着された圧入、引抜杭つかみ装置で、これは上下部が前記昇降体(7)の円筒面(9)より少し大径で中間部が該円筒面(9)と同径のスプール形主体(18)と、これの中央部に貫通穿設された水注入又は螺旋状錐(オーガー)挿入用孔(19)と、該孔の側部で杭の一例である鋼矢板の種々の断面より少し大きい形状に穿設された杭挿入孔(20)と、この孔に挿入された杭(A)をこの孔の側壁に押付けて該杭をつかむための上下各一対のつかみ油圧シリンダ(21)とその押付具(22)とから構成されこのつかみ装着(17)の主体(18)はウオームとウオームホイール利用により前記円筒面(9)に回動自在でかつ該円筒面(9)の左右二分割により取外し自在に装着されている。(23)は前記基盤(1)の下部に装着された支持杭つかみ装置で、これは基盤(1)の下部溝(24)に摺動自在に嵌合された三個の主体(25)と、該主体を第1図中左右に摺動させるための流体圧、例えば油圧モータ、減速ギアトレン、螺子機構から成る作動装置(26)と、該主体の中央下部に形成された切込(27)と、この切込(27)に嵌入された支持杭(B)をつかむための油圧ピストン型クランプ(28)及び受体(29)とから構成される。そしてこの支持杭つかみ装置(23)は、前記圧入、引抜杭つかみ装置(17)につかまれた杭(A)に隣接した打込杭(B)を支持杭としてつかみ、これにより、圧入、引抜反力に対して支持杭(B)に杭打機本体(基盤(1)より上部の装置)を固定する機能を発揮するように構成されている。」(第1頁右下欄第4行?第2頁右上欄第11行)
エ 「以上の説明から明らかな通り、本発明では静荷重により杭の圧入、引抜を行なうようにしたから、無振動無騒音にできると共にオーガーを使用しなくてもよいから杭の長さは無制限にでき、構成部品に消耗品がないため維持費がかからず、屏風立込の必要がない。また本発明では、流体圧シリンダ(12)で昇降体(7)を作動しているから、杭打ち止め位置が任意であり、杭の損傷がなく、圧入と引抜を一台で行なえ、杭の共入り及び共抜きがない。更に本発明では、ターンテーブル(4)上に支塔(5)を立設したから、このターンテーブルの旋回により圧入、引抜杭つかみ装置(17)を旋回でき、従つてコーナ一部でも杭圧入、引抜ができる。なお、本発明では、昇降体(7)につかみ装置(17)を着脱自在に装着すれば、このつかみ装置の交換によりあらゆる種類の杭に対処できる。」(第2頁右下欄第11行?第3頁左上欄第7行)
オ 第2ないし4図からは、支持杭つかみ装置(23)の三個の主体(25)は、全て同じ形状で、かつ、等間隔に配置されていることが看て取れる。
(2)甲11に記載された技術的事項の認定
上記(1)からみて、甲11には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「定置され得る基盤と、該基盤に旋回可能に装着されたターンテーブルと、該テーブル上に立設された支塔と、該支塔に設けられたガイドレールに沿って昇降自在に装着された昇降体と、該昇降体を昇降作動させるべく前記支塔に装着された流体圧シリンダと、前記昇降体に回動自在に装着された圧入、引抜杭つかみ装置とを具えて成る静荷重型杭打機において、前記支持杭つかみ装置の三個の主体は、全て同じ形状で、かつ、等間隔に配置されており、前記昇降体につかみ装置を着脱自在に装着すれば、このつかみ装置の交換によりあらゆる種類の杭に対処できること。」

10 甲第12号証について
(1)甲12に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した甲12には、次の事項が記載されている。
なお、被請求人は、甲12の成立及び内容について疑義を申し立てていない。
ア 表紙には、「住友の鋼矢板マニュアル」、「住友金属工業株式会社」との記載があり、最終頁には、「1980年6月 改訂」との記載がある。
イ 第299?300頁には、「単独打ちは矢板の傾斜,共下り,ねじれなどが発生することが多く,打込み中に修正不能になる場合もあるが,既設工事や小規模工事に採用される。」ことが記載されている。
ウ 第309頁には、「3・7・2 共下り 鋼矢板の継手の摩擦あるいは継手内土砂の影響などにより共下りを生じることがある。」ことが記載されている。
(2)甲12に記載された技術的事項の認定
上記(1)からみて、甲12には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「鋼矢板の打込みにおいて、共下がりが発生することがある。」

11 甲第13号証の1及び2について
請求人が無効理由に係る証拠として提出した甲13の1及び2には、次の事項が記載されている。
なお、甲13の2には、平成17年3月に解散した「土佐機械工業株式会社」との記載がある。また、被請求人は、甲13の1及び2の成立及び内容について疑義を申し立てていない。
(1)甲13の1に記載された事項
ア 「Revolution in Technology」、「Corporate Profile」、「KOWAN」との記載がある。
イ 「株式会社コーワンの沿革」には、1982年(昭和57年)の段の右側の「土佐機械工業株式会社」の枠から、左側の「株式会社コーワン」の枠に向けた矢印の下に「生コン車事業譲渡 1982年(昭和57年)4月1日」との記載がある。また、2005年(平成17年)の段の右側の「解散」の枠から左側の「資本金変更」の枠に向けた矢印の下に、「パイラー事業譲渡 2005年(平成17年)4月1日」との記載がある。
(2)甲13の2に記載された事項
ア 表紙に「TILT PILER AZ100 4Clamp 3Clamp チルトパイラー」、「チルトパイラーAZ100は現場の施工条件に合わせて選択ができる「4Clamp」と「3Clamp」の2タイプを設定しました」、「土佐機械工業株式会社」との記載がある。
イ 2枚目の仕様の表には、適用鋼矢板が「400ピッチ鋼矢板I_(A)?IV_(A)型」であることが記載されている。
ウ 上記仕様の表を踏まえてAZ-100[4Clamp]の図を見ると、チャック本体の幅寸法は記載されていないが、少なくとも全幅である980mmよりも小さい寸法であることが看て取れる。

12 甲第14号証の1ないし3について
請求人が無効理由に係る証拠として提出した甲14の1ないし3には、それぞれ、次の事項が記載されている。
なお、甲14の1には、「SILENT PILER GP F150」及び「93033000」との記載、甲5の1には「期間 開会 H7・11・7 閉会 H7・11・12」との記載があり、「H型鋼チャックアタッチメント」のパネルの写真において、「形式」として「AM16」が記載された段には「適応機種」として「GPF150」の記載があり、「排水機能付チャック」のパネルの写真において、「形式」として「AM7」が記載された段には「適応機種」として「GPF150」の記載があることからみて、前記開会時期にGPF150が公知であったものと推認される。甲14の2には、「Ver.4.3/2 Nov,2009」との記載、甲14の3には、「 Ver.2.4/2 Nov,2009」との記載がある。また、被請求人は、甲14の1ないし3の成立及び内容について疑義を申し立てていない。
(1)甲14の1に記載された事項
ア 表紙には、「SILENT PILER GP F150」、「無振動・無騒音・無削孔 建設省指定 油圧式杭圧入引抜機 SMP工法 5L・6L型鋼矢板専用機 超低騒音型」、「GIKEN」、「当社は、こうした時代の動向をとらえ、全く新しいタイプの5L・6L型鋼矢板の専用機を開発いたしました。」との記載がある。
イ GP-F150型仕様の表には、本体寸法の全巾が1145mmであることが記載されている。仕様の表の頁の最下行には「93033000」との記載がある。
ウ 機体寸法が示された図面のうち平面図をみると、チャック装置の幅寸法は記載されていないが、全巾1145mmから若干狭まる寸法(丸い部材のおよそ直径の4分の1の寸法左右2つ分少ない寸法)であることが看て取れる。前記丸い部材は、同図側面部と本件特許明細書及び図面との対比から、鋼矢板圧入引抜シリンダに相当するものであると認められる。
エ 機体寸法が示された図面のうち側面図をみると、フレーム体の一部を台座上端面の水平線より上に位置せしめた点が記載されている。
(2)甲14の2に記載された事項
ア 表紙には、「CRUSH PILER SUPER CRUSH U600M」、「硬質地盤対応機 スーパークラッシュ SCU-600M」、「GIKEN」との記載がある。
イ 2枚目右側の仕様(SCU-600M)の表には、適用杭材が「U形鋼矢板 500P、600P」であることが記載されている。また、2枚目の最下行には、「Ver.4.3/2 Nov,2009」との記載がある。
ウ 2枚目左側の「クラッシュパイラー SCU-600M」の項目に示された平面図をみると、チャック装置の幅寸法であるとは明記されていないが、最大幅の1220mmにほぼ一致する寸法であることが看て取れる。
同項目の機体寸法が示された図面のうち側面図をみると、フレーム体の一部を台座上端面の水平線より上に位置せしめた点が記載されている。
(3)甲14の3に記載された事項
ア 表紙には、「CRUSH PILER SUPER CRUSH U400M」、「硬質地盤対応機 スーパークラッシュ SCU-400M」、「GIKEN」との記載がある。
イ 2枚目右側の仕様(SCU-400M)の表には、適用杭材が「鋼矢板 II,III,IV型」であることが記載されている。また、2枚目の最下行には「 Ver.2.4/2 Nov,2009」との記載がある。
ウ 2枚目左側の「クラッシュパイラー SCU-400M」の項目に示された平面図をみると、チャック装置の幅寸法は記載されていないが、最大幅1250mmから2割程度狭まる寸法(丸い部材のおよそ直径寸法2つ分少ない寸法)であることが看て取れる。なお、前記丸い部材は、同図側面部と本件特許明細書及び図面との対比から、鋼矢板圧入引抜シリンダに相当すると認められる。同項目の機体寸法が示された図面のうち側面図をみると、フレーム体の一部を台座上端面の水平線より上に位置せしめた点が記載されている。

13 甲第18号証ないし甲第25号証について
令和3年1月8日付け上申書に添付して提出した甲18ないし甲25には、それぞれ次の事項が記載されている。
なお、被請求人は、甲18ないし甲25の成立及び内容について疑義を申し立てていない。
(1)甲18
ア 「当社は、昭和61年頃に、当社製品の有力なユーザーであった日本基業株式会社(以下「日本基業」といいます。2004年頃に倒産しました。)から依頼を受けて、400mm幅U形鋼矢板専用機種であった当社製KGK-80C4をベースとし、交換用の部材等を追加で開発・製造することで、400mm幅及び500mm幅の両方のU形鋼矢板に対応したR65を製造・販売した実績があります・・・。」(1頁下から6行?2行)
イ 「以上のとおりR65は、KGK-80C4をベースに開発され、メインシリンダーを挿通してリーダーマストに装着するためのガイド部分が同じ構造となっています。ガイド部分が同じ構造であることから、KGK-80C4における昇降部分の全体をR65のそれと一体的に交換することができ、昇降部分の全体を交換することでR65は400mm幅及び500mm幅に対応した複合機となります。
逆にR65における昇降部分の全体を、KGK-80C4のそれに戻すことなどで、400mm幅の専用機にすることも可能です。」(12頁下から6行?13頁1行)
(2)甲19
右下の「設計」及び「製図」の欄の右側に「村田」との記載があり、「型式」の欄の上に「R65」との記載があり、「日付」の欄に「61年3月24日」との記載があり、「名称」の欄に「日本基業向」との記載がある。
中央に、「変更仕様
1)施工可能鋼矢板
II?VIL型。・・・」との記載がある。
右側中段に、「変更箇所
1)チャック(シリンダー、可動爪、固定爪)
2)チャック押エ側
3)チャック回転部
4)チャック本体
5)クランプ左右(シリンダー・油圧ホース・カバー)
6)マスト前後(シリンダー)」との記載がある。
(3)甲20
2枚目の「部品表」の1行目に、「サイズ」の欄に「1」、「図番」の欄に「C726」、「名称」の欄に「チャック本体」、「個数」の欄に「1」との記載がある。
(4)甲21
1枚目の「購入部品表」の右側の「型式」の欄に「日本基業向R65」、「区分」の欄に「油圧ユニット」、さらにその右側に「61年5月6日」、「村田」との記載がある。
2枚目の「購入部品表」の右側の「型式」の欄に「日本基業向R65」、「区分」の欄に「本体側」、さらにその右側に「61年6月10日」、「村田」との記載がある。
(5)甲22
右下の「承認」の欄に「南」、「検図」の欄に「長山」、「設計」及び「製図」の欄に「村田」、「型式」の欄の上に「R65」、「日付」の欄に「61年4月18日」、「名称」の欄に「チャック本体」との記載があり、「図番」の欄に「C726」との記載がある。
(6)甲23
右下の「検図」の欄に「大野」、「型式」の欄の上に「C4-80」及び「N80」、「日付」の欄に「61年7月11日」、「名称」の欄に「チャック本体」との記載があり、「図番」の欄に「M61-18△」(△の中に「19」の記載あり)との記載がある。
(7)甲24
表紙には、「SMP工法 SILENTPILER C4 KGK-80」、「取扱説明書」、「株式会社技研製作所」と記載されている。
KGK-80C4の外形寸法及び各部の名称について、それぞれ1頁、3頁に記載がある。
(8)甲25
表紙には、「SMP工法 SILENTPILER C4 KGK-80」、「PARTS・LIST」、「株式会社技研製作所」と記載されている。
24頁には、符号が1のものについて、「部品名称(規格、図番)」の欄に「チャック本体 M61-10」との記載がある。
KGK-80C4においてチャックに関する図番や各部の名称の記載がある。

14 鋼矢板圧入・引抜機に係る技術常識及び周知事項について
以上によれば、甲1の1ないし甲6の2、甲9ないし甲14の3、及び、甲18ないし甲25に示される事項は、本件原出願時において公知であったと認められる。
(1)技術常識について
ア 甲1の1には、「引抜き作業は、抜きはじめに最大負荷が加わる為、1枚目圧入状態で開始して下さい」、「2枚目圧入状態では圧入の負荷により機械本体に非常に大きな力が作用する」との記載があることから(上記「1(1)イ」参照)、鋼矢板圧入引抜機は、通常、正規状態で施工するものといえる。甲10の1には、「施工中、圧入引抜きの荷重が増大すると、クランプ掴み圧力が自動的に増圧して、反力が増す」との記載があることから(上記「8(1)ウ」参照)、施工中、既設のU型の鋼矢板から強力な反力を得ているといえる。また、甲6の1には、「圧入する矢板の手前の矢板はクランプすることが出来」ないとの記載とともに「施工時に圧入する矢板の手前の矢板が共上がり、共下がりすることがあ」るとの記載があり(上記「6(1)カ」参照)、甲12には、「鋼矢板の継手の摩擦・・・の影響などにより共下りを生じることがある」との記載があることから(上記「10(1)ウ」参照)、正規状態での施工でなければ共上がりや共下がりが発生することがあり、正規状態で施工をすれば、共上がりや共下がりが発生しない利点があるといえる。
イ 甲1の1には、「1枚目圧入状態」及び「2枚目圧入状態」の施工図と「荷重制限が作動時の取扱注意事項」として「引抜き作業は、抜きはじめに最大負荷が加わる為、1枚目圧入状態で開始して下さい」との記載、「※ 荷重制限 2枚目圧入状態では圧入の負荷により機械本体に非常に大きな力が作用する」との記載があることから(上記「1(1)イ」参照)、2枚目クランプ状態での施工では、引抜き作業における抜きはじめに最大負荷が加わり、圧入の負荷により圧入機に非常に大きな力が作用するといえる。また、甲10の1には、2枚目鋼矢板施工時の図とともに「下図の様な圧入引抜姿勢になった場合、スライドフレームが、サドルに対し、突出した状態になる。このまま圧入引抜負荷130tを加えると、主構成部品に非常に大きな力が作用し破損を引き起こす」との記載があることから(上記「8(1)ウ」参照)、2枚目クランプ状態での施工では、圧入機の主構成部品に非常に大きな力が作用するといえる。
ウ 甲10の1には、H形鋼チャックについて、「機械本体のチャックと比べ外径が大きいため、スライドフレームやサドル部位との接触による破損などを生じないよう十分注意すること」との記載があることから(上記「8(1)イ」参照)、鋼矢板等の圧入引抜機において、標準装備されているチャックに比べて外径が大きいチャックを装着する場合、スライドフレームやサドル部位と接触して破損などを生じる、干渉問題が生じるといえる。また、甲1の1には、400mm鋼矢板の施工について、正規状態での施工ではなく、2枚目クランプ状態での施工が示されており、600mm用チャック装置と他の部材との間が400mmの鋼矢板の幅の寸法以下となっていることが示されていることから(上記「1(1)オ及びカ」参照)、600mm鋼矢板用チャック装置では大きすぎて、400mm鋼矢板の施工時には、正規状態での施工が実現できないといえる。
エ 上記アないしウから、本件原出願時の技術常識として次の技術常識アないしウを認定することができる。
(技術常識ア)
鋼矢板圧入・引抜機は、通常、既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプする正規状態で施工するものであり、正規状態での施工には、既設のU型の鋼矢板から強力な反力が得られ、共上がりや共下がりが発生しないという利点がある。
(技術常識イ)
鋼矢板圧入・引抜機は、先頭ではなく2枚目をクランプする2枚目クランプ状態での施工には、過負荷がかかるため圧入機が不安定化し、圧入引抜力が制限されるという問題点がある。
(技術常識ウ)
鋼矢板圧入・引抜機は、チャック装置が大きすぎる場合、チャック装置が本体側に近づいて干渉問題が発生するため正規状態での施工ができない。
(2)周知事項について
ア 甲2の1には、WP150α又はWP150HATと専用アタッチメントを購入すると、3種類のU型鋼矢板、5種類の鋼管矢板及びハット形鋼矢板の9種類の鋼(管)矢板の圧入施工が可能となる旨の記載があり(上記「2(1)イ」参照)、甲2の2には、WP150αは専用アタッチメントとの組替えにより、3種類の鋼矢板(600・500・400mm)、5種類の鋼管矢板(φ600?φ1,000mm)及びハット形鋼矢板の圧入施工が可能となる旨の記載と、WP150αが、専用アタッチメントのクランプ部分とチャック部分との組替えによりWP150PやWP150PII、WP150HAT(Type1)、WP150HAT(Type2)が構成されることが図をもって示され(上記「2(2)エ」参照)、甲2の3には、ベース機に各アタッチメントが装着された状態のWP150P、WP150PII、WP150PIIIの図面とともに「チルトパイラーマルチWP150αをベース機として『専用アタッチメント』を組替える」との記載がある(上記「2(3)エ」参照)。
上記専用アタッチメントは、鋼矢板圧入・引抜機により対象(U型の鋼矢板、ハット形の鋼矢板、鋼管矢板等)を圧入又は引抜を行うためのものであり、全体として一体型チャックフレームを構成するものといえ、専用アタッチメントをベース機に対して組み替えることで一体型チャックフレームが有するチャック装置の交換が実現できることは明らかである。
イ 甲18ないし甲25によれば、400mm幅のU形鋼矢板専用機(KGK-80C4)をベースにチャック装置を含む昇降部分を交換するなどして、400mm及び500mm幅のU形鋼矢板複合機(R65)として製造販売されていたといえ、KGK-80C4の昇降部分全体を複合機R65のそれと一体的に交換することができ、昇降部分全体を交換することで、複合機R65は400mm及び500mmの幅に対応した複合機となるといえる。逆に複合機における昇降部分全体をKGK-80C4のそれに戻すことで400mm幅の専用機にすることもできるといえる(上記「13」参照)。
ウ 甲3の2には、圧入機SA100に適応する鋼矢板の型式が「IA?IVA」であることが示され(上記「3(2)イ」参照)、甲3の3には、圧入機SA100用のチャック装置であり、施工可能杭が排水機能付き鋼矢板であって400mmピッチ用であるものが示されている(上記「3(3)」参照)。
甲4の2には、圧入機SW100は、着脱式チャック装置を採用しており、圧入する鋼矢板の種類に応じて、外形やサイズの異なる複数のチャック装置(標準チャック、H鋼チャック、排水機能チャック)を交換して使い分けていたこと、また、これら3種類のチャック本体の横寸法は同程度であることが示されており(上記「4(2)ア、オ、キ及びク」参照)、甲4の3には、圧入機SW100用の(チャック)アタッチメントであって、施工矢板として、排水機能付き鋼矢板V_(L、)VI_(L)(500^(P))であるものが示されている(上記「4(3)」参照)。
甲5の1には、「H型鋼チャックアタッチメント」の展示を示すパネルとその横に置かれたチャックの写真と、「排水機能付チャック」の展示を示すパネルとその横に置かれたチャックの写真が示され、前記写真のいずれにおいても、「適応機種」として「SA100」の記載があり(上記「5(1)イ」参照)、甲5の2には、「アタッチメント」として「H鋼チャック」の写真及び仕様並びに「排水機能チャック」の写真及び仕様が示されており、いずれの仕様にも取付機種として「SA100」及び「SW100」が記載されており(上記「5(2)」参照)、圧入機SA100の「チャック」を「H型鋼チャックアタッチメント」や「排水機能付チャック」に交換して使用していたことを示しているものと理解できる。
甲10の1は、「杭圧入引抜機」に関し、「機械本体のチャック」とは別の「H形鋼に加えて、直線形、U形、鋼矢板も施工できるアタッチメント」が記載されており、前記チャックをチャック本体から外して前記アタッチメントをチャック本体に取り付けることを示している(上記「8(1)ア及びイ」参照)。
甲11は、「静荷重型杭打機」に関し、「前記昇降体につかみ装置を着脱自在に装着すれば、このつかみ装置の交換によりあらゆる種類の杭に対処できる」ことを示している(上記「9(2)」参照)。
エ 継手ピッチ400mm用のチャック装置の幅寸法について、甲13の2には、全幅である980mmよりも小さい寸法であること、甲14の3には、最大幅1250mmから2割程度狭まる寸法であることが示され(上記「11(2)イ及びウ」、「12(3)ウ」参照)、
5L・6L(甲9より500mm)型鋼矢板用のチャック装置の幅寸法について、甲14の1には、全巾1145mmから若干狭まる寸法であり、500mm・600mm用のチャック装置の幅寸法について、甲14の2には、最大幅の1220mmにほぼ一致する寸法であることが示され(上記「12(1)ア及びウ」、「12(2)ウ」参照)、
有効幅900mmのハット形鋼矢板に用いられるチャック装置の幅寸法について、甲2の2には、1620mmであること、φ600?φ1000mmの鋼管矢板用のチャック装置の幅寸法について、甲2の3には、1465mm(先端が開いたとき2305mm)であることが示されている(上記「2(2)ウ」、「2(3)イ」参照)。
オ 上記アないしエから、本件原出願時において次の事項が周知であったと認められる。
(周知事項)
鋼矢板圧入・引抜機では、圧入施工する対象(U型の鋼矢板、ハット形の鋼矢板、鋼管矢板等)に合わせてチャック装置の交換が可能な構成が採用されており、チャック装置の交換は、具体的には、一体型チャックフレームの交換(上記ア、イ)や着脱式チャック装置の交換(上記ウ)によって実現され、
継手ピッチ400mmのU型鋼矢板用のチャック装置としては、幅が大きな鋼矢板(例えば、φ600?φ1000mmの鋼管矢板、有効幅900mmのハット形鋼矢板)に用いられるチャック装置と比べて小さい幅のものを使用すること(上記エ)。

第7 当審の判断
上記第2の1ないし4に説示したとおり、当審の審理は、取消判決の判断に拘束されるものである。
1 無効理由1について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明(前記「第6」「1(5)」参照)とを対比すると、甲1発明の「クランプ」は、その構造及び機能からみて、本件発明1の「クランプ装置」、「クランプ部材」に相当し、同様に、「サドル」は「台座」に、「チャック本体」は「チャック装置」に、「鋼矢板圧入・引抜機」は「鋼矢板圧入引抜機」に、それぞれ相当する。
したがって、両者は、次の一致点で一致し、相違点1で相違する。
『(一致点)
「下方にクランプ装置を配設した台座と、台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、該ガイドフレームに昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、昇降体の下方に形成されたチャックフレームと、チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック装置とを具備してなる鋼矢板圧入引抜機において、
前記クランプ装置は、台座の下面に形成した複数のクランプガイドに、相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクランプする複数のクランプ部材を組み替え可能に装備するとともに、複数のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり、
前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて、クランプガイドとクランプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって、前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが500mm,600mmのいずれであっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能としたことを特徴とする鋼矢板圧入引抜機。」』(上記第2の1)
『(相違点1)
「既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とした」構成について、
本件発明1では、「継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれであっても」前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能なのに対し、
甲1発明では、「継手ピッチが500mm,600mm」のものが既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能であるものの、「継手ピッチが400mm」のものは、既設のU型の鋼矢板をクランプ可能であるが、先頭の鋼矢板をクランプするものではない点。』(上記第2の1)
イ 判断
『相違点1について、鋼矢板圧入・引抜機は、通常、既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプする正規状態で施工するものであり、正規状態での施工には、既設のU型の鋼矢板から強力な反力が得られ、共上がりや共下がりが発生しないという利点があり、先頭ではなく2枚目でクランプする2枚目クランプ状態での施工には、過負荷がかかるため圧入機が不安定化し、圧入引抜力が制限されるという問題点があることにかんがみると(前記「第6」「14(1)エ」参照)、甲1発明において、鋼矢板の継手ピッチが400mmの場合に2枚目クランプ状態で施工すると、地盤が硬い場合や鋼矢板が長い場合には施工不能となるおそれがあるから、正規状態での施工が可能になるように構成することを当業者は動機付けられるといえる。
ここで、600mm用のチャック装置のままで400mmの鋼矢板を正規状態で施工すると、チャック装置が大きすぎるために干渉問題が生じる(前記「第6」「14(1)エ」参照)。この干渉問題を解決するために、前記「第6」「14(2)オ」の周知事項を適用して、必要に応じて圧入機に仕様変更を加えつつ、「600mm用のチャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用のチャック装置を備える一体型チャックフレーム」に交換することにより、400mmの場合でも正規状態での施工が可能になるように構成することは、当業者が容易に想到し得たことといえる。』(上記第2の4)
したがって、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明に周知事項を適用することで当業者が容易に想到し得たものである。

ウ まとめ
以上より、本件発明1は、甲1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)本件発明2について
ア 対比・判断
本件発明2と甲1発明とは、相違点1に加えて次の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点2)
クランプピッチについて、本件発明2では、428mm?772mm,412mm?588mm,300mm?500mmのいずれかの範囲に変更可能としているのに対して、甲1発明では、そのような特定がない点。

上記相違点について検討する。
相違点1については、上記「(1)イ」で述べたとおりである。
相違点2について、請求項2には、クランクピッチについて、「428mm?772mm,412mm?588mm,300mm?500mmのいずれかの範囲に変更可能とした」と記載されているところ、本件発明2は、「鋼矢板圧入引抜機」という「物」の発明であることを踏まえれば、クランクピッチを、428mm?772mmのうちのあるクランプピッチ、412mm?588mmのうちのあるクランプピッチ、300mm?500mのうちのあるクランプピッチ、という3種類のクランプピッチに変更可能とした鋼矢板圧入引抜機と解せざるを得ない。
一方、甲1発明も、継手ピッチが600mm、500mm、400mmの3種類の鋼矢板それぞれに対応してクランプして定置できるので、それぞれのクランプピッチは、当然、428mm?772mm、412mm?588mm、300mm?500mの範囲内であるといえる。
そうすると、甲1発明は、本件発明2と同様に、上記3種類のクランプピッチに変更可能とした鋼矢板圧入引抜機であるといえる。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。

イ まとめ
以上より、本件発明2は、甲1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)本件発明3について
ア 対比・判断
本件発明3と甲1発明とは、甲1発明が、U型の鋼矢板の継手ピッチが500mm、600mmの場合、「クランプ装置で先頭の鋼矢板を含む既設のU型の鋼矢板をクランプすることにより台座を既設のU型の鋼矢板上に定置させて、チャック装置に作業するU型の鋼矢板を挿通してチャックするとともに、先頭のU型の鋼矢板の開放された継手に、作業するU型の鋼矢板の継手を噛合させた状態において、鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがないようにチャックフレームを配置」するものであることが明らかであることからみて、相違点1に加えて次の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点3)
U型の鋼矢板の継手ピッチが400mmの場合、本件発明3では、「クランプ装置で先頭の鋼矢板を含む既設のU型の鋼矢板をクランプすることにより台座を既設のU型の鋼矢板上に定置させて、チャック装置に作業するU型の鋼矢板を挿通してチャックするとともに、先頭のU型の鋼矢板の開放された継手に、作業するU型の鋼矢板の継手を噛合させた状態において、鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがないようにチャックフレームを配置」するものであるのに対して、甲1発明では、そのような特定がない点。

上記相違点について検討する。
相違点1については、上記「(1)イ」で述べたとおりである。
相違点3について、上記「(1)イ」で述べたとおり、U型の鋼矢板の継手ピッチが400mmの場合でも正規状態での施工が可能になるように構成することは、当業者が容易に想到し得たことといえ、この場合、干渉問題を解決することを考慮しているのだから、当然、継手ピッチが400mmであっても干渉の問題は生じないから、「クランプ装置で先頭の鋼矢板を含む既設のU型の鋼矢板をクランプすることにより台座を既設のU型の鋼矢板上に定置させて、チャック装置に作業するU型の鋼矢板を挿通してチャックするとともに、先頭のU型の鋼矢板の開放された継手に、作業するU型の鋼矢板の継手を噛合させた状態において、鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがないようにチャックフレームを配置した」ものになるといえる。
したがって、相違点3に係る本件発明3の構成は、甲1発明に周知事項を適用することで当業者が容易に想到し得たものである。

イ まとめ
以上より、本件発明3は、甲1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(4)本件発明8について
本件発明8は、本件発明1の装置を工法の発明として記載したものであり、本件発明1について上記(1)で述べたのと同様の理由により、本件発明8は、甲1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(5)本件発明9について
本件発明9は、本件発明8の工法の発明において、継手ピッチが「400mm、500mm、600mm」のいずれであっても圧入・引抜可能としたものであるところ、甲1発明において、前記「第6」「14(2)オ」の周知事項を適用して、600mm用のチャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用のチャック装置を備える一体型チャックフレームに交換することにより、400mmの場合でも正規状態での施工が可能になるように構成したものも、継手ピッチが「400mm、500mm、600mm」のいずれであっても圧入・引抜可能となるから、本件発明9は、甲1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(6)小括
以上のとおり、本件発明1ないし3、8及び9は、本件原出願前に公然実施された圧入引抜機「WP-150」から認定される甲1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、無効理由1には理由がある。

2 無効理由2について
(1)本件発明1について
ア 対比
『本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、上記「1(1)ア」で示したとおりである。』(上記第2の1)
イ 判断
『相違点1について、鋼矢板圧入・引抜機は、通常、既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプする正規状態で施工するものであり、正規状態での施工には、既設のU型の鋼矢板から強力な反力が得られ、共上がりや共下がりが発生しないという利点があり、先頭ではなく2枚目をクランプする2枚目クランプ状態での施工には、過負荷がかかるため圧入機が不安定化し、圧入引抜力が制限されるという問題点があることにかんがみると(前記「第6」「14(1)エ」参照)、甲1発明において、400mmの場合に2枚目クランプ状態で施工すると、地盤が硬い場合や鋼矢板が長い場合には施工不能となるおそれがあるから、正規状態での施工が可能になるように構成することを当業者は動機付けられるといえる。
ここで、600mm用のチャック装置のままで400mmの鋼矢板を正規状態で施工すると、チャック装置が大きすぎるために干渉問題が生じる(前記「第6」「14(1)エ」参照)。この干渉問題を解決するために、前記「第6」「14(2)オ」の周知事項を適用して、必要に応じて圧入機に仕様変更を加えつつ、「600mm用の着脱式チャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用の着脱式チャック装置」に交換することにより、400mmの場合でも正規状態での施工が可能になるように構成することは、当業者が容易に想到し得たことといえる。』(上記第2の4)
したがって、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明に周知事項を適用することで当業者が容易に想到し得たものである。

ウ まとめ
以上より、本件発明1は、甲1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)本件発明2について
ア 対比・判断
本件発明2と甲1発明との一致点及び相違点は、上記「1(2)ア」で示したとおりである。
相違点1については、上記「(1)イ」で述べたとおりであり、相違点2については、上記「1(2)ア」で述べたとおりである。
イ まとめ
以上より、本件発明2は、甲1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)本件発明3について
ア 対比・判断
本件発明3と甲1発明との一致点及び相違点は、上記「1(3)ア」で示したとおりである。
相違点1については、上記「(1)イ」で述べたとおりである。
相違点3について、上記「(1)イ」で述べたとおり、U型の鋼矢板の継手ピッチが400mmの場合でも正規状態での施工が可能になるように構成することは、当業者が容易に想到し得たことといえ、この場合、継手ピッチが400mmであっても干渉の問題は生じないから、「クランプ装置で先頭の鋼矢板を含む既設のU型の鋼矢板をクランプすることにより台座を既設のU型の鋼矢板上に定置させて、チャック装置に作業するU型の鋼矢板を挿通してチャックするとともに、先頭のU型の鋼矢板の開放された継手に、作業するU型の鋼矢板の継手を噛合させた状態において、鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがないようにチャックフレームを配置した」ものになるといえる。
したがって、相違点3に係る本件発明3の構成は、甲1発明に周知事項を適用することで当業者が容易に想到し得たものである。
イ まとめ
以上より、本件発明3は、甲1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(4)本件発明4について
ア 対比
本件発明4が本件発明1の構成を備えており、甲1-1発明(前記「第6」「1(5)」参照)が甲1発明の構成を備えていることを踏まえて、本件発明4と甲1-1発明とを対比する。
甲1-1発明の「チャックフレーム」及び「チャック本体組立」は、本件発明4の「チャックフレーム」及び「チャック装置」に相当する。
甲1-1発明において、「チャック本体組立(3)」が、「チャックフレーム(1)」から着脱可能な構造となっていることは、本件発明4において、チャック装置がチャックフレームに対して着脱自在に装着可能であることに相当する。
甲1-1発明における「チャック本体組立(3)」の「チャック.リングギヤー(18)」は、本件発明4の「チャック装置を旋回させるために」「配備されたチャックリングギア」に相当する。
甲1-1発明の「チャック本体組立」が、本件発明4の「鋼矢板の挿通孔」及び「鋼矢板をチャックするチャック部」を有していることは明らかであり、甲1-1発明の「チャック.リングギヤー」が、挿通孔の外周に配備されていることは明らかである。
そうすると、本件発明4と甲1-1発明とは、相違点1に加えて次の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点4)
チャック装置について、本件発明4では、「チャックフレームに複数のチャック装置を、それぞれ着脱自在に装着可能とし、チャックリングギアとして同一形状のものを採用するとともに、それぞれ異なる継手ピッチの鋼矢板に対応したチャック部を有」しているのに対して、甲1-1発明では、そのような特定がない点。

イ 判断
相違点1については、上記「(1)イ」で述べたのと同様、甲1-1発明に前記「第6」「14(2)オ」の周知事項を適用することで、相違点1に係る本件発明4の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
相違点4について、上記「(1)イ」で述べたのと同様、甲1発明に前記「第6」「14(2)オ」の周知事項を適用して、600mm用の着脱式チャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用の着脱式チャック装置に交換できるようにするために「チャックフレームに複数のチャック装置を、それぞれ着脱自在に装着可能とし、チャックリングギアとして同一形状のものを採用するとともに、それぞれ異なる継手ピッチの鋼矢板に対応したチャック部を有」するように構成することは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
したがって、相違点4に係る本件発明4の構成は、甲1-1発明に周知事項を適用することで当業者が容易に想到し得たものである。
ウ まとめ
以上より、本件発明4は、甲1-1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(5)本件発明5について
ア 対比
本件発明5が本件発明4の構成を備えており、甲1-1発明が甲1発明の構成を備えていることを踏まえて、本件発明5と甲1-1発明とを対比する。
甲1-1発明は、「トルクモーター(27)」が作動すると、軸及び「ドラムピニオン(16)」を介して、「チャック本体組立(3)」の「チャック.リングギヤー(8)」に動力が伝わり、チャック本体組立が回転するものである。
そうすると、甲1-1発明の「ドラムピニオン(16)」、「軸」及び「トルクモーター(27)」は、本件発明5の「ピニオンギア」、「チャック旋回モータの駆動軸」及び「チャック旋回モータ」に相当する。
甲1-1発明においては、「チャック.リングギヤー(8)」に動力が伝わるのであるから、「ドラムピニオン(16)」と「チャック.リングギヤー(8)」が噛合する、すなわち、本件発明5の「該ピニオンギアをチャックリングギアに噛合させる」構成を有しているといえる。
甲1-1発明における「トルクモーター(27)」及び「ドラムピニオン(16)」を収納する「フレーム体」は、両部材を内部に納めており、ボックス状のものといえるから、本件発明5の「ピニオンギアボックス」に相当する。
そうすると、本件発明5と甲1-1発明とは、相違点1、相違点4に加えて、次の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点5)
ピニオンギアボックスについて、本件発明5では、台座の上端面の位置する水平線より上方に配置しているのに対して、甲1-1発明では、そのような特定がない点。

イ 判断
相違点1及び相違点4については、上記「(4)イ」で述べたとおりでる。
相違点5について、甲14の1ないし3(前記「第6」「12」参照)には、フレーム体を台座上端面の水平線より上に位置せしめた点が記載されており、同フレーム体の一部は、本件特許の図1と対応させると、チャック旋回モータを収納するピニオンギアボックスに相当する。そうすると、ピニオンギアボックスを台座上端面の水平線より上に位置せしめた構成は、本件原出願時において周知の事項であったといえる。
したがって、相違点5に係る本件発明5の構成は、甲1-1発明に周知事項を適用することで当業者が容易に想到し得たものである。

ウ まとめ
以上より、本件発明5は、甲1-1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(6)本件発明6について
本件発明6は本件発明4の構成を含んでいるから、本件発明6と甲1-1発明とは、相違点4で相違しているところ、当該相違点4については、上記(4)イで検討したとおりであって、周知事項を適用して400mmのチャック装置に交換可能にすることは当業者が容易に想到し得たことである。
本件発明6では、「複数のチャック装置が、鋼矢板の継手ピッチが600mm用のチャック装置と鋼矢板の継手ピッチが400mm用のチャック装置からなる」という構成を更に備えるが、400mmのチャック装置に交換可能にすることが容易である以上、複数のチャック装置を「600mm用」と「400mm用」にすることも容易に想到し得たことである。
よって、本件発明6は、甲1-1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(7)本件発明7について
本件発明7は本件発明4の構成を含んでいるから、本件発明7と甲1-1発明とは、相違点4で相違しているところ、当該相違点4については、上記(4)イで検討したとおりであって、周知事項を適用して400mmのチャック装置に交換可能にすることは当業者が容易に想到し得たことである。
本件発明7では、「クランプ装置で先頭の鋼矢板を含む既設のU型の鋼矢板をクランプすることにより台座を既設のU型の鋼矢板上に定置させて、チャック装置に作業するU型の鋼矢板を挿通してチャックするとともに、先頭のU型の鋼矢板の開放された継手に、作業するU型の鋼矢板の継手を噛合させた状態において、チャックフレームに装着された前記複数のチャック装置は、いずれも鋼矢板圧入引抜機の他の部材と干渉することがない」という構成を更に備えるが、甲1-1発明に前記「第6」「14(2)オ」の周知事項を適用して、600mm用の着脱式チャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用の着脱式チャック装置に交換できるようにする以上、「先頭のU型鋼矢板の開放された継手に、次に作業するU型鋼矢板の継手を噛合させた状態において、チャック装置と鋼矢板圧入引抜装置の他の部材とが干渉しない」ようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、本件発明7は、甲1-1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(8)本件発明8について
本件発明8は、本件発明1の装置を工法の発明として記載したものであり、本件発明1について上記(1)で述べたのと同様の理由により、本件発明8は、甲1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(9)本件発明9について
本件発明9は、本件発明8の工法の発明において、継手ピッチが「400mm、500mm、600mm」のいずれであっても圧入・引抜可能としたものであるところ、甲1発明において、前記「第6」「14(2)オ」の周知事項を適用して、600mm用の着脱式チャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用の着脱式チャック装置に交換することにより、400mmの場合でも正規状態での施工が可能になるように構成したものも、継手ピッチが「400mm、500mm、600mm」のいずれであっても圧入・引抜可能となるから、本件発明9は、甲1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(10)小括
以上のとおり、本件発明1ないし9は、本件原出願前に公然実施された圧入引抜機「WP-150」に係る甲1発明又は甲1-1発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、無効理由2には理由がある。

第8 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、2、3、8及び9について無効理由1に理由があり、本件発明1ないし9について無効理由2に理由があるから、本件特許の請求項1ないし9に係る発明についての特許は特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-07-09 
結審通知日 2021-07-14 
審決日 2021-07-30 
出願番号 特願2014-4293(P2014-4293)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (E02D)
最終処分 成立  
特許庁審判長 長井 真一
特許庁審判官 西田 秀彦
田中 洋行
登録日 2015-06-19 
登録番号 特許第5763225号(P5763225)
発明の名称 鋼矢板圧入引抜機及び鋼矢板圧入引抜工法  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 増井 和夫  
代理人 齋藤 誠二郎  

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