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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1377657
審判番号 不服2021-2714  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-03-01 
確定日 2021-09-28 
事件の表示 特願2019-143947「窒化アルミニウム単結晶基板、およびこれを含む積層体」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月 5日出願公開、特開2019-208065、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)8月21日(優先権主張 平成26年9月11日)を国際出願日とする特願2016-547803号の一部を令和元年8月5日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年 8月 5日 :上申書の提出
令和2年 6月22日付け :拒絶理由通知書
令和2年 8月26日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年11月27日付け :拒絶査定(原査定)
令和3年 3月 1日 :審判請求書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年11月27日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.(新規性)この出願の請求項1?2に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の請求項1?3に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
4.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

引用文献等一覧
1.特開2006-016249号公報

第3 本願発明
本願請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、令和2年8月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1?本願発明3は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
基板表面における400μm^(2)あたりの1μmより大きい異物の数が1個未満であり、80nm以上1μm以下の異物の数が1個未満であり、且つ基板表面の4μm^(2)あたりの二乗平均粗さが0.08?0.15nmである窒化アルミニウム単結晶基板。
【請求項2】
請求項1に記載の基板の上に窒化アルミニウムガリウム層(Al_(X)Ga_(1-X)N、0≦X≦1)を有する積層体。
【請求項3】
窒化アルミニウムガリウム層(Al_(X)Ga_(1-X)N、0≦X≦1)の膜厚が1μmより大きい請求項2に記載の積層体。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。

「【0001】
本発明はAl_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N(0<x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)基板とAl_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N(0<x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)基板の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Al_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N(0<x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)基板は、種々の光デバイスや電子デバイスなどの半導体デバイス用の基板として好適に用いられ得る。なお、本明細書において、Al_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N(0<x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)をAl_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)Nと略すこともある。
【0003】
Al_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N結晶の代表的な成長方法としてHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法があり、Al_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板は、このAl_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N結晶から製造することができる。そして、Al_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板の表面上に種々のエピタキシャル膜を成長させることによって光デバイスや電子デバイスなどの半導体デバイスが得られる。たとえば、非特許文献1には、AlN基板上にAlGaN膜などを成長させることによって得られた発光ダイオードが開示されている。また、非特許文献2には、バルクAlN基板上に形成された発光ダイオードが開示されている。
【0004】
しかしながら、Al_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板の表面上にエピタキシャル膜を成長させた場合には、欠陥やくもりの多い低品質のエピタキシャル膜が成長することがあった。このような低品質のエピタキシャル膜を用いた半導体デバイスはデバイス特性が悪くなるため、欠陥やくもりの少ない高品質のエピタキシャル膜を安定して成長させることが要望されている。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、欠陥やくもりの少ない高品質のエピタキシャル膜を安定して成長させるため、Al_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板の表面上に付着したパーティクルや有機物を洗浄によって除去することが行なわれている。しかしながら、Al_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板の表面上に存在するパーティクルや有機物を除去する程度について言及された先行技術文献はなく、その基準が不明確であるため、Al_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板の表面状態のばらつきがそのままエピタキシャル膜の品質のばらつきに結びついてしまうという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、高品質のエピタキシャル膜を安定して成長させることができるAl_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板とこのAl_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板を得るための洗浄方法を提供することにある。」

「【0019】
本発明は、Al_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板の表面上に存在する粒径0.2μm以上のパーティクルの数がAl_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板の口径を2インチとしたときに20個以下であるAl_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板である。これは、本発明者が鋭意検討した結果、Al_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板の表面上にある粒径0.2μm以上のパーティクルの数を上記のように制御した場合には、欠陥の少ない高品質のエピタキシャル膜を成長させることができることを見い出したものである。
【0020】
ここで、Al_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板の表面上のパーティクルの数は、Al_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板の表面全体に存在する粒径0.2μm以上のパーティクルをすべてカウントし、カウントされたパーティクルの数をAl_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板の口径が2インチであると仮定したときの値に換算されて算出される。したがって、本発明においては、Al_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板の大きさは限定されない。たとえば口径が4インチのAl_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板の表面の面積は口径が2インチの場合と比べて4倍になるので、口径が4インチのAl_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板を用いた場合にはその表面上に存在するパーティクルの総数の1/4倍がここでいうパーティクルの数になる。なお、パーティクルは従来から公知の光散乱方式の基板表面検査装置などを用いてカウントされる。また、パーティクルの材質は特に限定されない。」

「【実施例】
【0033】
(実験例1) まず、HVPE法により成長させたAlN結晶を鏡面研磨し、その後に鏡面研磨によるダメージ層を除去することによって得られた口径2インチのAlN基板を50枚用意した。ここで、50枚のAlN基板はそれぞれ厚さが400μmであり、AlN基板の表面は方位(0001)から2°オフした面である。
【0034】
次に、図2の模式的断面図に示す洗浄装置を用いて、50枚のAlN基板についてそれぞれ浸漬時間を変化させながら洗浄を行なった。ここで、図2に示す洗浄槽1には、洗浄液2として様々な濃度のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液を収容した。また、AlN基板4が浸漬させられた洗浄液2には周波数が900kHzの超音波3が50枚のAlN基板4のぞれぞれについて同一の条件で印加された。
【0035】
そして、洗浄後のそれぞれのAlN基板について、光散乱方式の基板表面検査装置によって、AlN基板の表面上に存在する粒径0.2μm以上のパーティクルの数をカウントした。
【0036】
その後、50枚のAlN基板のそれぞれの表面上に同一の条件でMOVPE法(有機金属気相成長法)により厚さ1μmのAlN結晶からなるエピタキシャル膜を成長させた。そして、上記と同一の光散乱方式の基板表面検査装置を用いてこのエピタキシャル膜の欠陥数をカウントした。
【0037】
図3にこの実験の結果を示す。図3において、横軸は上記のようにしてカウントされた洗浄後のAlN基板の表面上に存在する粒径0.2μm以上のパーティクルの数を示し、縦軸は横軸のパーティクルの数に対応するAlN基板の表面上に成長させたエピタキシャル膜についてカウントされた欠陥数を示す。
【0038】
図3からわかるように、口径2インチのAlN基板の表面上に存在する粒径0.2μm以上のパーティクルの数を20個以下とした場合にはその表面上に成長させたエピタキシャル膜の欠陥数は50個よりも少なく、そのパーティクルの数が20個よりも多い場合と比べて欠陥の少ない高品質のエピタキシャル膜を得ることができた。
【0039】
また、表面上に存在する粒径0.2μm以上のパーティクルの数が20個以下であるAlN基板は、洗浄液全体に対するテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドの濃度を0.5質量%以上とし、AlN基板の浸漬時間を30秒以上として洗浄されたものであった。
【0040】
なお、上記の実験例1においてはAlN基板を用いたが、AlN基板以外のAl_(x)Ga_(y)In_(1-x-y)N基板を用いた場合でも同様の結果が得られると考えられる。また、AlN基板の厚み、面方位は上記に限定されるものではなく、任意の場合でも上記の実験例1と同様の結果を得ることができる。」

「【図3】



(2)上記(1)から、引用文献1には次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア HVPE法により成長させたAlN結晶を鏡面研磨して得られた口径2インチのAlN基板の表面を洗浄し、AlN基板の表面上に存在する粒径0.2μm以上のパーティクルの数を20個以下としたこと。(【0033】、【0034】、【0038】)

イ AlN基板の表面上に存在する粒径0.2μm以上のパーティクルの数を20個以下としたことで、AlN基板上に成長させたエピタキシャル膜の欠陥数を抑制できること。(【0038】、【図3】)

ウ AlN基板上に、種々のエピタキシャル膜を成長させることによって、光デバイスや電子デバイスなどの半導体デバイスを得ること。(【0003】)

(3)上記(1)、(2)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「HVPE法により成長させたAlN基板であって、口径2インチの基板表面上に存在する粒径0.2μm以上のパーティクルの数が20個以下である、AlN基板。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 本願発明1における「窒化アルミニウム単結晶基板」と、引用発明における「HVPE法により成長させたAlN基板」とを対比する。
引用発明における「AlN基板」は、HVPE法、すなわち、エピタキシャル成長により形成した基板であり、また、上記第4の1(2)ウのとおり、「AlN基板」上に種々のエピタキシャル膜を成長させて電子デバイス・光デバイスとして利用するための基板である。
電子デバイス・光デバイス用の基板として、エピタキシャル成長させた単結晶基板は一般的に使用されていることを踏まえれば、引用文献1には明記されていないものの、引用発明における「HVPE法により成長させたAlN基板」は、単結晶基板であるといえる。
よって、引用発明における「AlN基板」は、本願発明1における「窒化アルミニウム単結晶基板」に相当する。

イ 上記第4の1(2)アのとおり、引用発明における「AlN基板」は「口径2インチ」であるから、「基板上に存在する粒径0.2μm以上のパーティクルの数が20個以下」である引用発明においては、400μm^(2)あたりのパーティクルの数に換算すると、20個×400μm^(2)/π(2.54×10^(4)μm)^(2)=3.94×10^(-8)個であるから、粒径0.2μm以上のパーティクルの数は1個未満である。
よって、本願発明1と引用発明とは、「基板表面における400μm^(2)あたりの1μmより大きい異物の数が1個未満であり」、0.2μm以上「1μm以下の異物の数が1個未満」である点で一致する。

ウ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「基板表面における400μm^(2)あたりの1μmより大きい異物の数が1個未満であり、0.2μm以上1μm以下の異物の数が1個未満である窒化アルミニウム単結晶基板。」

(相違点)
(相違点1)
本願発明1においては、「基板表面における400μm^(2)あたりの」、「80nm以上」で0.2μm未満「の異物の数が1個未満」であるのに対し、引用発明は、粒径が80nm以上0.2μm未満のパーティクルの数について特定されていない点。

(相違点2)
本願発明1においては、「基板表面の4μm^(2)あたりの二乗平均粗さが0.08?0.15nmである」のに対し、引用発明は二乗平均粗さについて特定されていない点。

(2)判断
上記相違点1について検討する。
上記第4の1(2)ウのとおり、引用発明は、「AlN基板」上に種々のエピタキシャル膜を成長させてデバイスとするものであるから、良好なエピタキシャル膜を成長できる程度に、「AlN基板」上の異物の数を減らすことは、当業者であれば容易に着想し得ることである。
しかしながら、引用発明は、基板上の異物の数について、粒径が「80nm以上」で0.2μm未満のものに着目したものではない。
そして、基板上の異物について、「80nm以上」で0.2μm未満「の異物の数が1個未満」に着目し、その個数を「基板表面における400μm^(2)あたり」の「異物の数が1個未満」とすることは、周知技術とは言えない。
よって、相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2?3について
本願発明2?3も、本願発明1の、「基板表面における400μm^(2)あたりの」、「80nm以上」で0.2μm未満「の異物の数が1個未満」であり、「基板表面の4μm^(2)あたりの二乗平均粗さが0.08?0.15nmである」、という同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第6 サポート要件について当審の判断
1 本願明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)には、以下の記載がある。
(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者が、CMP法による研磨をした後の窒化アルミニウム単結晶基板表面の状態について確認したところ、基板表面には除去し難い異物が存在しており、このような異物が基板表面上に存在していると、当該基板上に窒化アルミニウムガリウム層(Al_(X)Ga_(1-X)N,0≦X≦1)を結晶成長させる際、格子不整合によって、転位やマイクロパイプと呼ばれる欠陥が発生し、良好な窒化アルミニウムガリウム層の生成が困難となることが明らかとなった。また、このような異物は、削られた基板片や研磨に使用される研磨剤等の無機物、ワックス等の有機物に由来するものと考えられた。」

(2)「【課題を解決するための手段】
・・・
【0013】
さらに、本発明は、基板表面における400μm^(2)あたりの1μmより大きい異物の数が1個未満であり、1μm以下の異物の数が1個未満である窒化アルミニウム単結晶基板を提供する。」

(3)「【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、窒化アルミニウム単結晶基板の表面の洗浄を、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムからなる群より選ばれるアルカリの濃度が0.01?1質量%であるアルカリ水溶液を用いてスクラブ洗浄により行なうことによって、窒化アルミニウム単結晶基板の表面がエッチングされることなく、大きさが1μm以下の微細な異物が効果的に除去され、基板表面における異物の残留量の低減された窒化アルミニウム単結晶基板を効率的に製造することができる。また、本発明の方法で洗浄して得られた窒化アルミニウム単結晶基板を用いて積層体を形成することにより、基板上に異物が存在することによる格子不整合による欠陥の発生が抑制され、欠陥の低減された積層体を製造することができる。」

(4)「【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、窒化アルミニウム単結晶基板の表面を、窒化アルミニウム単結晶よりも硬度が低く、かつ水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムからなる群より選ばれるアルカリの濃度が0.01?1質量%であるアルカリ水溶液を吸液した高分子化合物材料で、前記基板の表面に前記高分子化合物材料を接触させた状態で前記基板の表面の平行方向に動かして擦るスクラブ洗浄工程を含む窒化アルミニウム単結晶基板の洗浄方法に関する。さらに、本発明は、当該洗浄方法で得られた窒化アルミニウム単結晶基板上に窒化アルミニウムガリウム層(Al_(X)Ga_(1-X)N、0≦X≦1)を積層させた積層体の製造方法に関する。また、本発明は、前記洗浄工程で得られる、基板表面における400μm^(2)あたりの1μmより大きい異物の数が1個未満であり、1μm以下の異物の数が1個未満であり、且つ4μm^(2)あたりの二乗平均粗さが0.06?0.30nmである窒化アルミニウム単結晶基板を提供する。これは、CMP法等によって研磨された窒化アルミニウム単結晶基板に対して本発明の洗浄方法を実施することによって得られるものであり、これまでに製造し得なかったものである。なお、本発明における、異物とは、削られた基板片や研磨に使用される研磨剤等の無機物、ワックス等の有機物に由来するものであり、異物の大きさは、異物の最大径の長さを示すものとする。まず、本発明における基板の洗浄方法について、詳細に説明する。
【0016】
(洗浄方法)
〔窒化アルミニウム単結晶基板〕
本発明で用いられる窒化アルミニウム単結晶基板は特に制限されず、公知の方法、例えば特許文献1に記載されているHVPE法や、昇華再結晶法等の結晶成長方法で製造されたものを制限なく使用することができる。また、本発明では、このようにして製造された該窒化アルミニウム単結晶基板(未処理基板)をそのまま洗浄工程に使用することもできるが、コロイダルシリカ等の研磨剤を用いたCMP法等によって基板表面を研磨し、超平坦に加工したものを洗浄工程に使用することが好ましい。特に、CMP法によって研磨された窒化アルミニウム単結晶基板は、研磨時に使用する研磨剤やワックス等に由来する異物が残着することがあるが、本発明の洗浄方法によれば、超平坦に加工した基板表面が洗浄液によりエッチングされることなく、異物を効果的に除去することができるため、本発明の効果がより顕著に発現する。さらに、研磨された窒化アルミニウム単結晶基板を本発明の方法で洗浄して得られた基板にそのまま、窒化アルミニウムガリウム層(Al_(X)Ga_(1-X)N,0≦X≦1)を積層することができる。
【0019】
〔アルカリ水溶液〕
本発明で用いられるアルカリ水溶液は、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムからなる群より選ばれるアルカリの濃度が0.01?1質量%であるアルカリ水溶液である。このようなアルカリ水溶液を使用することによって、基板表面がエッチングされることなく、基板表面の異物を効果的に除去することができる。・・・アルカリ水溶液の濃度が1質量%より高い場合は、窒化アルミニウム単結晶基板の表面がエッチングされてしまう虞がある。また、アルカリ水溶液の濃度が0.01質量%未満の場合は、十分な洗浄効果を得ることができない。なお、アルカリ水溶液の濃度は、水溶液に溶解している水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムの質量に基づいて算出する。本発明において、アルカリ水溶液の濃度は、好ましくは0.05?0.5質量%、さらに好ましくは0.1?0.3質量%の範囲にある。
・・・
【0021】
また、当該アルカリ水溶液は、キレート剤としてクエン酸および/またはクエン酸塩(以下、これらを単に「クエン酸」と記載することがある)を含むことが好ましい。クエン酸を含むことにより、研磨剤や有機物の除去効果がより高く得られ、より異物の数の低減された基板を得ることができる。具体的には、洗浄後の基板表面における大きさ1μm以下の異物の数が400μm^(2)あたり1個未満とすることができる。当該クエン酸を含むアルカリ水溶液の調製方法に関しても、特に制限されない。具体的には、上記のようなアルカリ水溶液にクエン酸を加えて調製する方法が挙げられ、この際のクエン酸および/またはクエン酸塩としては、クエン酸やクエン酸のアルカリ塩を使用することができ、具体的には、クエン酸、クエン酸3ナトリウム、クエン酸3カリウム、等が挙げられ、これらの水和物を使用することもできる。これら化合物は、試薬や工業品等を特に制限なく使用することができる。また、市販のクエン酸を含有するアルカリ系洗浄剤を使用することもでき、このようなアルカリ系洗浄剤としては、ライオン社製サンウォッシュMD-3041が選ばれる。また、当該アルカリ水溶液におけるクエン酸の濃度は、0.01?2質量%であることが好ましく、0.1?1質量%であることがより好ましい。当該濃度範囲とすることによって、キレート剤の残渣がなく十分な洗浄効果を得ることができる。
【0022】
〔高分子化合物材料〕
本発明で用いられる高分子化合物材料は、窒化アルミニウム単結晶基板よりも硬度が低い。ここで、窒化アルミニウム単結晶基板よりも硬度が低いとは、当該高分子化合物材料で窒化アルミニウム単結晶基板表面を擦った際に、基板表面に傷が生じないことを意味する。具体的には、半導体用途の基板をスクラブ洗浄するのに用いられる材料が用いられ、メラミンフォーム樹脂、多孔性ポリビニルアルコール樹脂、繊維状ポリエステル樹脂、またはナイロン樹脂が好ましく用いられ、またポリウレタン、ポリオレフィン等を用いることもできる。このような材料は、前記アルカリ水溶液によって劣化しない材料であり、基板表面を傷つけることなく、効果的に異物を除去することができるものである。
・・・
【0025】
〔スクラブ洗浄工程の方法〕
スクラブ洗浄工程は、前記アルカリ水溶液を吸液した前記高分子化合物材料を基板表面に接触させた状態で基板表面の平行方向に動かして擦る工程である。擦る方法に関しては、基板表面に接触させた状態で基板表面の平行方向に動かして擦れば良く、特に制限されるものではない。・・・
【0026】
当該スクラブ洗浄工程で得られた基板には、適宜後処理が行なわれる。具体的には、純水による流水リンス等の洗浄によって異物を含んだ洗浄液を除去し、スピン乾燥等によって乾燥させることにより、窒化アルミニウム単結晶基板を得ることができる。
【0027】
このようにして得られた窒化アルミニウム単結晶基板は、基板表面における異物の数が非常に低減されたものであり、1μmより大きい異物の数を400μm^(2)あたり1個未満とし、1μm以下の異物の数についても低減でき、10個以下にすることができる。さらに、アルカリ水溶液としてクエン酸および/またはクエン酸塩を含むものを使用した場合には、1μm以下の異物の数を400μm^(2)あたり1個未満まで低減させることができる。また、CMP法等により基板表面を超平坦に加工した基板を用いた場合は、当該表面がエッチングされることなく、研磨に使用した研磨剤やワックス等に由来する異物を効果的に除去することができるため、本発明の効果をより顕著に発現できる。すなわち、本発明では、異物の数が低減され、且つCMP法で得ることができる超平坦な基板表面を有する、具体的には、基板表面の4μm^(2)あたりの二乗平均粗さが0.06?0.30nm、さらには、0.06?0.15nmである窒化アルミニウム単結晶基板を得ることができる。
【0028】
以上のアルカリ系洗浄液および高分子化合物材料を用いたスクラブ洗浄方法で得られた窒化アルミニウム単結晶基板表面は、AFMにより分析した結果、400μm^(2)あたりの大きさ1μm以下の異物の数が1個未満となっていた。
【0029】
(積層体の製造方法)
本発明では、前記洗浄方法で得られた窒化アルミニウム単結晶基板上に、窒化アルミニウムガリウム層(Al_(X)Ga_(1-X)N、0≦X≦1)を結晶成長させることによって、効率的に積層体を製造することができる。このような積層体から得られる、窒化アルミニウムガリウム層(Al_(X)Ga_(1-X)N、0≦X≦1)を含むIII族窒化物半導体は、波長200nmから360nmに相当する紫外領域において直接遷移型のバンド構造を持つため、高効率な紫外デバイスの作製が可能である。また、ケイ素(Si)をドープしたn型の窒化アルミニウムガリウム層をより厚く積層することで、より導電性が良くなり、高効率な紫外デバイスの作製が可能である。次に、本発明における積層体の製造方法について、詳細に説明する。
【0030】
〔酸化膜除去工程〕
前記洗浄方法で得られた窒化アルミニウム単結晶基板について、MOCVD工程の直前に、90℃に加熱したリン酸および硫酸の混合液(リン酸:硫酸=1:3(体積比))に10分間浸漬し、表面の自然酸化膜を除去する。本工程で新たな異物が付着しないよう、電子工業用の薬液、十分に洗浄されたテフロン(登録商標)容器を使用することが好ましい。
【0031】
〔積層工程〕
窒化アルミニウム単結晶基板上への窒化アルミニウムガリウム層を形成する手段は特に限定はされない。窒化アルミニウムガリウム層は、MOCVD法により形成されてもよく、HVPE法、MBE法により形成されてもよい。以下では、MOCVD法によりn型窒化アルミニウムガリウム層を形成する手段を例に挙げて説明するが、何ら限定的なものではない。
【0032】
MOCVD装置に基板を設置し、基板表面をサーマルクリーニングし、MOCVD法によりn型の窒化アルミニウムガリウム層(Al_(X)Ga_(1-X)N,0≦X≦1)を積層する。基板表面のサーマルクリーニングは、水素ガスおよび窒素ガスを含む混合ガス雰囲気下で1000?1250℃の温度範囲で5分以上加熱処理して行うことが好ましい。混合ガス組成は、標準状態において水素ガス30?95体積%、窒素ガス5?70体積%であってもよい。サーマルクリーニング後に、炉内温度を窒化アルミニウムガリウム層の成長温度に設定する。成長温度は1050?1100℃、好ましくは1050?1090℃程度であり、この温度範囲で成長を行うことで結晶性、平滑性の良い窒化アルミニウムガリウム層が得られる。炉内温度が上記成長温度に達した後に、前記混合ガスに代えて窒化アルミニウムガリウムを生成する原料ガスを供給し、窒化アルミニウムガリウム層を得る。MOCVD法における炉内圧力、原料ガスやキャリアガスの種類や流量などの結晶成長条件は、特に限定されるものではなく、装置仕様や目的とする窒化アルミニウムガリウム層の組成に応じて適宜に設定すれば良い。何ら限定的なものではないが、III族原料ガスとしては、トリメチルアルミニウム、トリメチルガリウムなどが用いられる。また窒素源ガス(V族原料ガス)としてはアンモニアが挙げられる。これらの原料ガスは、キャリアガスとしての水素ガス、窒素ガスなどともにMOCVD装置内に導入すればよい。ただし、アンモニアは、基板表面をエッチングする作用が強いため、III族原料ガスの供給と同時または供給開始後に導入することが好ましい。これら原料ガスの供給比(V/III比)は、目的とする窒化アルミニウムガリウム層の組成に応じて適宜に設定すればよい。n型の窒化アルミニウムガリウム層を得るためには、III族原料ガス、窒素源ガスとともにモノシランもしくはテトラエチルシラン等のSi元素を含むドーパント原料ガスを供給すればよい。
【0033】
CMPなどにより超平坦に研磨された窒化アルミニウム単結晶基板表面の洗浄が不十分な場合において残存している1μm以下の異物は、強固に基板表面に付着している。このため、サーマルクリーニングを経ても残存する場合があり、MOCVD工程中において、窒化アルミニウムガリウム層の成長時に格子不整合による欠陥が多数発生し、良好な単結晶層の成長が困難となる原因となった。本発明の洗浄方法で基板表面から1μm以下の異物を除去することで、膜厚が1μmを超える良好な品質の窒化アルミニウムガリウム層(Al_(X)Ga_(1-X)N,0≦X≦1)を安定的に得ることができる。」

(5)「【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の%表記は特に断りがない限り、質量%を意味する。
以下の実施例および比較例で使用した高分子化合物材料、超音波洗浄機について記載する。
【0035】
〔高分子化合物材料〕
メラミンフォーム樹脂:レック株式会社製(多孔質体、保水率約2900%)
多孔性ポリビニルアルコール樹脂:アイオン株式会社製ベルクリンスポンジD-3(多孔質体、保水率約650%)
繊維状ポリエステル樹脂及びナイロン樹脂の混合物:KBセーレン株式会社製サヴィーナミニマックス(繊維状物質、保水率約200%)。
【0036】
〔基板表面の二乗平均粗さ(RMS)の測定〕
原子間力顕微鏡(AFM)により4μm^(2)(2μm×2μm)視野範囲を、512点×512点で走査を行い、二乗平均粗さ(RMS)を算出した。なお、以下の実施例及び比較例において、二乗平均粗さ(RMS)の測定は、任意の一範囲のみについて行なった。
【0037】
〔基板表面の異物の数の測定〕
原子間力顕微鏡(AFM)により400μm^(2)(20μm×20μm)視野範囲を、256点×256点で走査を行い、認識できる異物の数を計測した。視野範囲と点数の関係より、約80nm以下の異物は計測できない。なお、以下の実施例及び比較例において、異物の数の測定は、任意の一範囲のみについて行なった。
【0038】
製造例1
以下の実施例および比較例で使用した基板は、HVPE法で結晶成長を行ったC面窒化アルミニウム単結晶基板であり、コロイダルシリカ研磨剤(株式会社フジミインコーポレーテッド製COMPOL80)を用いたCMP法によりAl極性面側を超平坦な面に加工した。研磨後、純水によって5分間流水リンス(流量:1.8L/分)し、テフロン(登録商標)ビーカーに1%フッ化水素酸水溶液を加え、基板を入れ、10分間浸漬した。得られた基板を純水によって1分間流水リンス(流量:1.8L/分)し、イソプロパノールに1分間浸漬し、6000rpmでのスピン乾燥を30秒間行った。得られた基板のサイズは外径20mm、厚み600μmであり、基板の表面を原子間力顕微鏡(AFM)により分析した結果、4μm^(2)視野範囲における二乗平均粗さ(RMS)が0.15nm以下であり、400μm^(2)視野範囲における異物の数は20個以上であった。以下の実施例及び比較例では、このようにして得られた基板を用いて検討を行なった。
【0039】
実施例1
アルカリ水溶液としてクエン酸0.1%および水酸化カリウム0.1%を含む水溶液を調整した。当該アルカリ水溶液に30mm角形状に切り取ったメラミンフォーム樹脂を浸漬して吸液させ、基板表面に接触させた状態で基板に平行した一方向に60回動かして擦った。なお、15回動かす毎にメラミンフォーム樹脂をアルカリ水溶液に浸漬して吸液させた。得られた基板を純水(電気抵抗率18MΩ・cm以上の超純水、以下同じ)によって1分間流水リンス(流量:1.8L/分)し、イソプロパノールに1分間浸漬し、6000rpmでのスピン乾燥を30秒間行った。得られた基板の表面を原子間力顕微鏡(AFM)により分析した結果、400μm^(2)視野範囲あたりの異物の数は0個であり、4μm^(2)視野範囲における二乗平均粗さ(RMS)は0.11nmであった。
【0040】
実施例2?12
アルカリ水溶液及び高分子化合物材料を表1に記載のものに変更した以外は実施例1と同様の操作を行なった。結果を表1に示す。
【0041】
実施例13
アルカリ水溶液として、サンウォッシュMD-3041(ライオン株式会社製)を純水で20倍に希釈したものを使用した以外は実施例1と同様の操作を行なった。結果を表1に示す。なお、MD-3041原液は水酸化ナトリウム濃度が1?5%であり、クエン酸濃度は約3%である。したがって、20倍希釈して得られるアルカリ水溶液は水酸化ナトリウム濃度は0.05?0.25%であり、クエン酸濃度は約0.15%となる。
【0042】
実施例14、15
高分子化合物材料を表1に記載のものに変更した以外は実施例13と同様の操作を行なった。結果を表1に示す。
【0043】
比較例1?3
実施例1におけるアルカリ水溶液を純水に変更し、高分子化合物材料を表1のものに変更した以外は実施例1と同様の操作を行なった。結果を表1に示す。
【0044】
比較例4
石英ビーカーにサンウォッシュMD-3041(ライオン株式会社製)を純水で20倍に希釈した洗浄液を加えて50℃に加熱し、基板を入れ、周波数100kHzの超音波を10分間当てた。得られた基板を純水によって1分間流水リンス(流量:1.8L/分)し、イソプロパノールに1分間浸漬し、6000rpmでのスピン乾燥を30秒間行った。結果を表1に示す。
【0045】
比較例5
超音波の周波数を45kHzに変更した以外は比較例4と同様の操作を行なった。結果を表1に示す。
【0046】
比較例6(DHF洗浄)
テフロン(登録商標)ビーカーに1%フッ化水素酸水溶液を加え、基板を入れ、10分間浸漬した。得られた基板を純水によって1分間流水リンス(流量:1.8L/分)し、イソプロパノールに1分間浸漬し、6000rpmでのスピン乾燥を30秒間行った。結果を表1に示す。
【0047】
比較例7(SPM洗浄)
テフロン(登録商標)ビーカーに1%フッ化水素酸水溶液を加え、基板を入れ、10分間浸漬した後、取り出した基板を純水によって1分間流水リンス(流量:1.8L/分)した。テフロン(登録商標)ビーカーに96%硫酸と過酸化水素水の混合液(96%硫酸:過酸化水素水=3:1(体積比))を加えて120℃に加熱し、流水リンスした基板を入れ、10分間浸漬した。得られた基板を純水によって1分間流水リンス(流量:1.8L/分)し、イソプロパノールに1分間浸漬し、6000rpmでのスピン乾燥を30秒間行った。結果を表1に示す。
【0048】
比較例8
アルカリ水溶液及び高分子化合物材料を表1に記載のものに変更した以外は実施例1と同様の操作を行なった。得られた基板の表面を原子間力顕微鏡(AFM)により分析した結果、400μm^(2)視野範囲あたりの異物の数は0個であり、4μm^(2)視野範囲における二乗平均粗さ(RMS)は0.70nmであった。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例16
〔酸化膜除去工程〕
テフロン(登録商標)ビーカーにリン酸と硫酸の混合液(リン酸:硫酸=1:3(体積比))を加えて90℃に加熱し、実施例2で得られた基板を入れ、10分間浸漬した。得られた基板を純水によって1分間流水リンス(流量:1.8L/分)し、イソプロパノールに1分間浸漬し、6000rpmでのスピン乾燥を30秒間行った。
【0051】
〔積層工程〕
研磨面が最表面となるように基板をMOCVD装置のサセプタ上にセットし、水素ガス及び窒素ガスの混合ガスを流通させながら、反応炉内の圧力を3分間で100mbarまで減圧させた。混合ガスの混合比は、標準状態において水素ガス76体積%、窒素ガス24体積%、混合ガスの総流量は8.5slmとした。減圧が完了した後、反応炉内の温度を8分間で1210℃まで昇温させ、1210℃にて10分間保持した後、1分間で温度を1070℃、圧力を50mbarまで変化させた。その後に1分間で窒素ガスを遮断して反応炉内に流通するガスを水素ガスのみとした。その後、トリメチルアルミニウム80sccm、トリメチルガリウム5sccm、テトラエチルシラン1.2sccm、アンモニア1500sccmの流量で反応炉内への流通を行い、圧力50mbar、反応炉内温度1070℃にてn型Al_(0.7)Ga_(0.3)Nを成長した。以上の工程を経て、窒化アルミニウム単結晶基板の上に膜厚1.2μmのn型Al_(0.7)Ga_(0.3)N層(Si濃度が1.0×10^(19)cm^(-3)程度)を設けた積層体が得られた。
【0052】
Nikon社製ノマルスキー型微分干渉顕微鏡LV150を用い、n型Al_(0.7)Ga_(0.3)N層表面からランダムに選択された5箇所において、640μm×480μmの範囲にて観察されるマイクロパイプの数を数え、その平均値を観察範囲の面積で除した値をマイクロパイプ密度と定義した。本工程で得られた積層体におけるn型Al_(0.7)Ga_(0.3)N層のマイクロパイプ密度は0個/mm^(2)であった。
【0053】
比較例9
比較例7で得られた基板について、実施例16と同じ酸化膜除去工程、積層工程を行った。本工程で得られた積層体におけるn型Al_(0.7)Ga_(0.3)N層のマイクロパイプ密度は248個/mm^(2)であった。」

2 前記1(1)及び(3)の記載によれば、本願発明1が解決しようとする課題は、「大きさが1μm以下の微細な異物が効果的に除去され、基板表面における異物の残留量の低減された窒化アルミニウム単結晶基板」を提供すること(以下、「課題1」という。)であるといえ、本願発明2及び3が解決しようとする課題は、「上記窒化アルミニウム単結晶基板の基板上に異物が存在することによる格子不整合による欠陥の発生が抑制され、欠陥の低減された積層体」を提供すること(以下、「課題2」という。)であるといえる。

3 前記1(2)には、前記課題1を解決するための手段として「基板表面における400μm^(2)あたりの1μmより大きい異物の数が1個未満であり、1μm以下の異物の数が1個未満である窒化アルミニウム単結晶基板」が記載されている。
また、前記1(4)の【0027】には、【0016】?【0026】に記載された方法により、基板表面における400μm^(2)あたりの1μmより大きい異物の数が1個未満であり、1μm以下の異物の数が1個未満であり、且つ4μm^(2)あたりの二乗平均粗さが0.06?0.30nmである窒化アルミニウム単結晶基板が得られることが記載されている。
さらに、前記1(5)の【0038】?【0040】及び【0049】の【表1】には、前記【0016】?【0026】に記載された方法により得られた窒化アルミニウム単結晶基板に係る実施例1?9では、いずれも、基板表面における400μm^(2)あたりの1μmより大きい異物の数が0個であり、1μm以下の異物の数も0個であり、また、同実施例1では、4μm^(2)視野範囲における二乗平均粗さ(RMS)が0.11nmであることが記載されている。
ここで、実施例2?9は、「アルカリ水溶液及び高分子化合物材料を表1に記載のものに変更した以外は実施例1と同様の操作を行なった」(【0040】)ものであるから、4μm^(2)視野範囲における二乗平均粗さ(RMS)は、実施例1と同等のものが得られているといえる。
そうすると、上記「基板表面における400μm^(2)あたりの1μmより大きい異物の数が1個未満であり、1μm以下の異物の数が1個未満であり、且つ4μm^(2)あたりの二乗平均粗さが0.06?0.30nmである窒化アルミニウム単結晶基板」が得られることは、実施例においても裏付けられているといえる。
以上によれば、発明の詳細な説明には、「基板表面における400μm^(2)あたりの1μmより大きい異物の数が1個未満であり、1μm以下の異物の数が1個未満であり、且つ4μm^(2)あたりの二乗平均粗さが0.06?0.30nmである窒化アルミニウム単結晶基板」が記載されているといえ、当該窒化アルミニウム単結晶基板は、大きさが1μm以下の微細な異物が効果的に除去され、基板表面における異物の残留量の低減されているものであるから、上記課題1を解決し得るものである。
そして、本願発明1は、「基板表面における400μm^(2)あたりの1μmより大きい異物の数が1個未満であり、80nm以上1μm以下の異物の数が1個未満であり、且つ基板表面の4μm^(2)あたりの二乗平均粗さが0.08?0.15nmである窒化アルミニウム単結晶基板。」であって、発明の詳細な説明に記載されている上記「基板表面における400μm^(2)あたりの1μmより大きい異物の数が1個未満であり、1μm以下の異物の数が1個未満であり、且つ4μm^(2)あたりの二乗平均粗さが0.06?0.30nmである窒化アルミニウム単結晶基板」に包含されるものであるから、発明の詳細な説明に記載されており、かつ、上記課題1を解決し得るものである。

4 前記1(4)の【0029】、【0033】には、前記【0016】?【0026】に記載された洗浄方法で得られた窒化アルミニウム単結晶基板、すなわち、前記「基板表面における400μm^(2)あたりの1μmより大きい異物の数が1個未満であり、1μm以下の異物の数が1個未満であり、且つ4μm^(2)あたりの二乗平均粗さが0.06?0.30nmである窒化アルミニウム単結晶基板」上に、窒化アルミニウムガリウム層(Al_(X)Ga_(1-X)N、0≦X≦1)を有する積層体は、膜厚が1μmを超える良好な品質、すなわち、格子不整合による欠陥が少ない窒化アルミニウムガリウム層(Al_(X)Ga_(1-X)N,0≦X≦1)を安定的に得られることが記載されている。
さらに、前記1(5)の【0050】?【0052】には、実施例2で得られた窒化アルミニウム単結晶基板に膜厚1.2μmのn型Al_(0.7)Ga_(0.3)N層を設けた積層体は、マイクロパイプ密度が0個/mm^(2)であることが記載されている。
ここで、前記1(1)の【0006】の記載によれば、上記マイクロパイプとは、窒化アルミニウム単結晶基板上に窒化アルミニウムガリウム層(Al_(X)Ga_(1-X)N,0≦X≦1)を結晶成長させる際に、格子不整合によって発生する欠陥である。
そうすると、上記「基板表面における400μm^(2)あたりの1μmより大きい異物の数が1個未満であり、1μm以下の異物の数が1個未満であり、且つ4μm^(2)あたりの二乗平均粗さが0.06?0.30nmである窒化アルミニウム単結晶基板」上に窒化アルミニウムガリウム層(Al_(X)Ga_(1-X)N、0≦X≦1)を有する積層体が、格子不整合による欠陥が少ない窒化アルミニウムガリウム層(Al_(X)Ga_(1-X)N,0≦X≦1)を安定的に得られることは、実施例によって裏付けられているといえる。
以上によれば、発明の詳細な説明には、「基板表面における400μm^(2)あたりの1μmより大きい異物の数が1個未満であり、1μm以下の異物の数が1個未満であり、且つ4μm^(2)あたりの二乗平均粗さが0.06?0.30nmである窒化アルミニウム単結晶基板」上に窒化アルミニウムガリウム層(Al_(X)Ga_(1-X)N、0≦X≦1)を有する積層体が記載されているといえ、当該積層体は、格子不整合による欠陥が少ない窒化アルミニウムガリウム層(Al_(X)Ga_(1-X)N,0≦X≦1)を安定的に得られるものであるから、上記課題2を解決し得るものである。
そして、本願発明2は、上記発明の詳細な説明に記載された積層体に包含されるものであるから、発明の詳細な説明に記載されており、かつ、上記課題2を解決し得るものである。

5 以上のとおりであるから、本願発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記課題1を解決できると認識できる範囲のものであり、本願発明2は、本願発明1の構成を有するものであるから、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記課題1、2を解決できると認識できる範囲のものである。
また、本願発明3は、本願発明2の構成を有するものであるから、本願発明2と同様に発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題1、2を解決できると認識できる範囲のものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1?3は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。また、本願発明1?3は、発明の詳細な説明の記載により当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-09-07 
出願番号 特願2019-143947(P2019-143947)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 113- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西村 治郎平野 崇  
特許庁審判長 河本 充雄
特許庁審判官 辻本 泰隆
小川 将之
発明の名称 窒化アルミニウム単結晶基板、およびこれを含む積層体  
代理人 前田・鈴木国際特許業務法人  

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