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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02C
管理番号 1377658
審判番号 不服2020-6724  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-18 
確定日 2021-09-08 
事件の表示 特願2017-167518「コンタクトレンズ製品」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月22日出願公開、特開2018- 45232〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2017-167518号(以下「本件出願」という。)は、平成29年8月31日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 平成28年9月2日 米国)を出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成30年 8月30日付け:拒絶理由通知書
平成30年12月 7日提出:意見書、手続補正書
令和 元年 5月24日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 8月29日提出:意見書、手続補正書
令和 2年 1月16日付け:補正の却下の決定
令和 2年 1月16日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 5月18日提出:審判請求書、手続補正書
令和 2年11月20日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由」という。)
令和 3年 2月19日提出:意見書
令和 3年 2月19日提出:手続補正書

2 本願発明
本件出願の請求項1?請求項15に係る発明は、令和3年2月19日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項15に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のものである(以下「本願発明」という。)。
「 【請求項1】
中央領域、及び、前記中央領域を囲む少なくとも1つの環状領域であって、各前記環状領域のディオプターが前記中央領域のディオプターと異なる少なくとも1つの環状領域を含み、シリコーンハイドロゲル又はヒドロゲルから作られる多焦点コンタクトレンズと、
前記多焦点コンタクトレンズが浸される緩衝液と、を備え、
各前記環状領域は傾斜の絶対値を有し、全ての前記傾斜の絶対値の最大値をSloPMaxとし、全ての前記傾斜の絶対値の最小値をSloPMinとし、1mmあたりのディオプターの変化をD/mmとし、各前記環状領域は最大ディオプターを有し、全ての前記最大ディオプターの最大値をPowPMaxとし、ディオプターの単位をDとすると、
2.4D/mm≦SloPMax≦20D/mm、及び
6.5D<PowPMax
の条件が満たされる、コンタクトレンズ製品。」

3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由のうち、理由2(進歩性)の概要は、本願の請求項1?11に係る発明は、本件出願の優先権主張の基礎となる出願の出願日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
なお、引用文献1?2は主たる引用発明が記載された文献として引用されたものであり、引用文献3?4は、技術常識を示す文献又は周知技術を示す文献として引用されたものである。
引用文献1:特表2009-540373号公報
引用文献2:特開2016-45495号公報
引用文献3:特開2014-32404号公報
引用文献4:特表2013-511072号公報

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明等
(1)引用文献1について
当審拒絶理由において、主引用発明が記載された文献として引用され、本件優先日前に頒布された刊行物である、特表2009-540373号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定及び判断等に用いた箇所に下線を付した。その他の文献についても同様である。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者が眼にレンズを装着したときの眼の正常な瞳孔直径に十分近い差渡し寸法を持ち、装着者に眼の網膜の中心領域内において鮮明な遠方視力を与えることができるような屈折力を有する中心光学ゾーンと、
前記中心光学ゾーンよりも半径方向に外側に配置されており、装着者が眼にレンズを装着したときの眼の正常な瞳孔直径の実質的に外側に存在するゾーンであって、装着者が眼にレンズを装着しているときに該ゾーンを通って眼に入射する軸外光線を網膜の中心領域の周囲に位置する網膜の周辺領域の上または前方のポイントに集束させるのに十分な量だけ前記中心光学ゾーンの屈折力よりも大きな屈折力を有する周辺光学ゾーンと
を含んでなるコンタクトレンズ。
【請求項2】
前記周辺光学ゾーンの屈折力は、前記中心光学ゾーンの屈折力よりも少なくとも約1ディオプタ(D)だけ大きいものである請求項1に記載のコンタクトレンズ。
【請求項3】
前記周辺光学ゾーンの屈折力は、前記中心光学ゾーンの屈折力よりも約2.5ディオプタと8ディオプタの間だけ大きいものである請求項1に記載のコンタクトレンズ。
【請求項4】
前記中心光学ゾーンの差渡し寸法は、該中心光学ゾーンの最小差渡し寸法が少なくとも3mmでありかつ眼の正常な瞳孔直径よりも1mmを超えて小さくはならないように選択されるものである請求項1に記載のコンタクトレンズ。
【請求項5】
前記中心光学ゾーンの差渡し寸法は、該中心光学ゾーンの最小差渡し寸法が少なくとも3mmでありかつ眼の正常な瞳孔直径よりも1mmを超えて小さくはならないように選択されるものである請求項2に記載のコンタクトレンズ。
【請求項6】
前記中心光学ゾーンの差渡し寸法は、該中心光学ゾーンの最小差渡し寸法が少なくとも3mmでありかつ眼の正常な瞳孔直径よりも1mmを超えて小さくはならないように選択されるものである請求項3に記載のコンタクトレンズ。
【請求項7】
前記中心光学ゾーンと前記周辺光学ゾーンは、湾曲の仕方が異なる隣接した前面を有し、
前記隣接した前面の間には遷移ゾーンが介在しており、該遷移ゾーンは、前記中心光学ゾーンと前記周辺光学ゾーンの前記湾曲の仕方が異なる隣接した前面を滑らかに繋ぐように形作られている、請求項1に記載のコンタクトレンズ。
【請求項8】
前記中心光学ゾーンと前記周辺光学ゾーンは、湾曲の仕方が異なる隣接した前面を有し、
前記隣接した前面の間には遷移ゾーンが介在しており、該遷移ゾーンは、前記中心光学ゾーンと前記周辺光学ゾーンの前記湾曲の仕方が異なる隣接した前面を滑らかに繋ぐように形作られている、請求項2に記載のコンタクトレンズ。
【請求項9】
前記中心光学ゾーンと前記周辺光学ゾーンは、湾曲の仕方が異なる隣接した前面を有し、
前記隣接した前面の間には遷移ゾーンが介在しており、該遷移ゾーンは、前記中心光学ゾーンと前記周辺光学ゾーンの前記湾曲の仕方が異なる隣接した前面を滑らかに繋ぐように形作られている、請求項3に記載のコンタクトレンズ。
・・・中略・・・
【請求項38】
前記周辺光学ゾーンの屈折力を選択するステップは、前記周辺光学ゾーンの屈折力を前記中心光学ゾーンの屈折力よりも約2.5ディオプタ乃至8ディオプタの間だけ大きくなるように選択することを更に含む、請求項34に記載の方法。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は2006年6月8日に出願された同時係属同一出願人による豪州国仮特許出願第2006903112号明細書に基づく優先権を主張する。該特許出願の内容を引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、限定はされないが、特に若い人における近視の進行をコントロールするまたは遅らせるために使用されるのに適した方法とコンタクトレンズを含む手段に関する。
【0003】
特に、本発明は、近視の治療に使用されるマルチゾーン非多焦点コンタクトレンズに関する。本発明は、Smith氏らに付与された同一出願人による米国特許第7,025,460号(以下“Smith”)に対して新規かつ非自明な進歩をもたらす。
【0004】
マルチゾーンコンタクトレンズ(multi-zone contact lens)とは、レンズの異なる部分またはエリアが、異なる光学的特性または光学的機能、最も一般的には異なる屈折力(refractive powers)または収差補正機能を持つものと理解されている。多焦点コンタクトレンズは、マルチゾーンコンタクトレンズの一種(部分集合)であり、正常な瞳孔直径に大体等しいレンズの中心部分が屈折力の異なる少なくとも2つのゾーンを持つという事実によって特徴付けられるものである。通常、これは装着者に遠視力と近視力を両方同時に提供するものであり、場合によっては遠視力と近視力の間の遷移視力(transition power)を与える遷移ゾーン(transition zone)を設けている。従って、マルチゾーン非多焦点レンズとは、レンズの中心部分が中心網膜上に多焦点を与えるマルチゾーンを含まないものである。
【背景技術】
【0005】
近視(myopia or short-sightedness)とは、遠方の物体が網膜の前方に焦点を結び、そのためにぼけ視が起こること、つまりフォーカシング力(眼の焦点を合わせる能力)が強すぎるという眼の問題である。近視は、通常、遠方の物体の焦点を中心網膜上に押し下げるのに十分な負の度数(ディオプタ)を持つと同時に眼のレンズの調節(accommodation)によって近くの物体が網膜の中心領域上に焦点を結ぶことを可能にする眼用レンズ(凹レンズ)を用いて矯正される。近視は、一般的には時間の経過とともにレンズの負の度数を上げる必要がある眼の漸進的伸長に伴う進行性疾患である。多数の望ましくない病状がこの進行性の近視に伴って生じる。
【0006】
成長中の動物の眼の伸長(elongation)は、通常、眼に入射する軸方向の光線が網膜の中心領域上に焦点を結ぶことを可能にするフィードバックメカニズムによってコントロールされることがいま一般的に受け入れられている。正視(emmetropia)ではこのメカニズムはうまく機能するが、しかし近視では軸方向の光線が良好な焦点を(網膜上に)結ぶには伸長は過度であり、逆に遠視では不十分であると思われている。最近のSmith特許その他の研究(引用することにより本明細書の一部をなすものとする前述の米国特許第7,025,460号明細書に一部議論されている)が現れるまでは、このフィードバックメカニズムをコントロールする刺激は眼内に形成される中心像のフィーチャ(features)と関係があることが一般的に受け入れられていた。Smith氏は、刺激は中心像のクォリティとはほとんど関係がないが、像面湾曲(curvature of field)または周辺屈折、つまり周辺像のクォリティに関係していることを誰もが納得いく形で今や明らかにしている。特に、Smith氏は、眼の伸長を引き起こす刺激は周辺焦点面が網膜の背後(後ろ側)にあるときに生じること、そしてこの状態は最適な中心視力の観点から眼の過度で継続的な成長にも関わらず存続する場合があることを実証した。それ故、Smith氏は、焦点面を周辺網膜の前方(前側)にシフトする近視矯正レンズの使用を提案した。しかしながら、斯かるレンズ、特にSmith氏が提案したコンタクトレンズは、設計と製造が難しく、周辺視野に顕著な視覚的な歪み(visual distortion)をもたらす可能性がある。
・・・中略・・・
【発明の概要】
【0011】
本発明は、眼における近視の進行を抑制(あるいは阻止)するために使用されるマルチゾーンコンタクトレンズ(multi-zone contact lens)と、斯かるコンタクトレンズの形成方法、および斯かるコンタクトレンズを使用することにより眼における近視の進行を抑制(あるいは阻止)する方法を提供する。基本的に、本コンタクトレンズは、眼の正常(normal)な瞳孔直径に十分近いサイズを持ち、眼に鮮明な遠方視力(distance vision)を与えることができるようなまたはそのように選択された屈折力を有する中心光学ゾーン(central optical zone)と、眼の正常な瞳孔直径の実質的に外側に存在するゾーンであって、該ゾーンを通って患者の眼に入射する斜めの周辺方向光線を網膜の周辺領域の上または前方に位置する焦点面上に集束させるのに十分な屈折力を有する周辺光学ゾーン(peripheral optical zone)とを有する。斯かる周辺焦点はSmithの教示によれば眼の伸長を抑制するための刺激を与えるが、このタイプの2ゾーンレンズ(中でも周辺ゾーンが円環形をしており中心ゾーンを取り囲むもの)は、Smith特許に開示されたレンズよりも製造がずっと容易かつ安価であり、周辺像に対する収差(例えば歪み)をより小さく押さえる可能性がある。
【0012】
遠くの物体と近くの物体の両方からの軸方向光線は、従来の二重焦点コンタクトレンズのように2つ以上の焦点ゾーンを通過するのではなく、レンズの単一屈折力を持つ中心ゾーンだけを通過するので、近くの凝視の正常な調節(accommodation)を前提に、遠くの像と近くの像は両方とも鮮明である。それ故に、本発明のマルチゾーンコンタクトレンズは、近くても遠くてもあらゆる物体からの軸方向光線を両方ともインターセプトするように2つの焦点ゾーンが瞳孔上に存在するタイプの二重焦点コンタクトレンズではない。既に指摘したように、斯かる二重焦点レンズは従来技術において近視治療用に提案された。
【0013】
進行性の近視は一般に子供と若年成人を悩ますので、中心光学ゾーンの直径は、通常、約3mmより大きく、かつ眼の正常な瞳孔直径よりも1mmを超えて小さくはならない(つまり[瞳孔直径(mm)-1mm]以上でなければならない)。視覚研究者の間でStiles-Crawford効果として知られているものが存在するせいで、網膜への途上で眼の瞳孔の端近くを通過する光線(“周辺光線(marginal rays)”とも呼ばれる)は、より瞳孔中心近くを通過する光線よりも視覚的な重要度が低い。従って、中心光学ゾーンは、眼の正常な瞳孔直径より正確に大きくする必要はない。
【0014】
他方、中心光学ゾーンの最大直径は、正常な瞳孔直径より1mmを超えた大きさにないことが好ましい。円環形周辺光学ゾーンが採用される場合には、その内直径(内側の直径)は好ましくは中心光学ゾーンの外直径(最大直径)に近く、その外直径(外側の直径)は通常は8mm未満である。コンタクトレンズ全体の直径は一般的には13mm乃至15mmの範囲に存在し、レンズを眼の正しい位置に保持するのを手助けする役割を果たすスカート状リングまたは担体部(carrier portion)によって追加のエリアが形成される。
【0015】
コンタクトレンズには普通にあることだが、後面は患者の角膜の形状に快適にフィットするような形状に形作られ、前面は(後面の形状と一緒になって)それぞれの屈折力を持つ所望の光学ゾーンを生成するように成形される。しかしながら、本考案のコンタクトレンズによれば、中心光学ゾーンと周辺光学ゾーンの屈折力の差は8ディオプタ(D=Diopter(s))程度であることが可能であり、中心光学ゾーンと周辺光学ゾーンの接合部分におけるレンズ前面の形状の不連続性が重要となり得る。従って、この接合部分におけるレンズ前面の形状は、異なるゾーンの形状の間の遷移を滑らかにするかつ/またはゾーン間の狭い帯域における屈折力の漸増を可能にする遷移ゾーン(transition zone)を形成することが望ましいと考えられる。しかしながら、遷移ゾーンの目的は、レンズの外面を滑らかにするとともに、短い距離で屈折力が突然変化することによってもたらされる可能性がある光学的なアーチファクトまたは歪みを低減することにある。このような中間的な屈折特性を持つ幅の狭いリングが与えられることがあっても、カーブを単純に融合(blend)または隅肉(fillet、肉付けすること)することにより多くの場合、十分である。
【0016】
本発明のコンタクトレンズは、それぞれの眼についてテーラーメードされることが理想であるが、ターゲットする人口における正常な瞳孔サイズの範囲(および眼の形)の推定値に基づいてレンズが大量生産されることが一般により実際的であり、かつ経済的であろう。従って、実際には、特定の患者に対する正常な瞳孔サイズとレンズの中心ゾーンのサイズとの間の一致に関していくらかの許容度が必要となるであろう。
・・・中略・・・
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】本発明の教示に基づいて形成される第1の例のマルチゾーンコンタクトレンズの正面図である。レンズ面は装着時の状態のように垂直と考える。
【図1B】図1Aのコンタクトレンズの断面図である。複数あるハッチング部分は物理的に異なる部分ではなく機能的に異なるゾーンを表している。
【図2A】本発明に基づいて形成される第2の例のマルチゾーンコンタクトレンズの正面図である。
【図2B】図2Aのコンタクトレンズの断面図である。複数あるハッチング部分は物理的に異なる部分ではなく機能的に異なるゾーンを表している。
【図3】図1Aと図1Bに示された第1の例のコンタクトレンズの複数の光学ゾーンのレンズ直径に対する、中心光学ゾーンの均一な屈折力を基準とした相対屈折力のグラフを示す図である。
【図4】図2Aと図2Bに示された第2の例のコンタクトレンズの複数の光学ゾーンのレンズ直径に対する、中心光学ゾーンの均一な屈折力を基準とした相対屈折力のグラフを示す図である。
・・・中略・・・
【0032】
次に本発明の第2例を、図2Aと図2Bに示されたレンズ、図4に示された対応する屈折力のグラフ、図6に示された対応する眼の断面を参照して説明する。これらの図をざっと見てわかるように、第1および第2例は多くの共通する図面を共有しているので、第1例の参照符号の先頭に数字“1”が付け足されたことを除いて、同様の参照符号が第1例の構成要素と同じまたは類似の機能を有する第2例の構成要素にも使用される。従って、符号110と114は第2例のレンズと被験者の眼を示しているのに対して、中心ゾーン、遷移ゾーンと周辺光学ゾーンはそれぞれ符号120、130および124で示されている。類似の構成要素と機能をこのようにして示すことによって、第2例の説明を効果的に短縮することができる。
【0033】
第1例と第2例の主な違いは、レンズ110の遷移ゾーン130と周辺ゾーン124のデザインの違いにある。図4の屈折力曲線からわかるように、中心光学ゾーン120の直径は、約3.5mmであり、眼112の正常な瞳孔直径122は第1例の眼12のものとほぼ同じであることを示している。しかしながら、第2例のレンズ100の遷移ゾーン130の幅は、このゾーンの光学デザインをある程度コントロールすることができるように1.25mmである。このことは、円環形周辺ゾーン124が本例ではより狭いことを意味し、内直径は約6mmだが、レンズ10のゾーン24と基本的に同じ外直径(約8mm)を持つ。周辺ゾーン124がより狭いにもかかわらず、ゾーン124の内側の屈折力は、レンズ10のゾーン24の屈折力よりも大きいだけでなく(中心ゾーンの屈折力に関して第1例では1.5Dに対して第2例では2.5D)、担体部126に向かって外向きに徐々に増大する。このデザインは、眼112の周辺焦点面142が前方にシフトされる平均量を増大させることによって眼の成長を抑制する刺激を強めることを意図している。
【0034】
図2Aと図2B、そして図6からわかるように、遷移ゾーン130は累進フォーカスゾーン160、それと中心光学ゾーン120との間に第1の融合ゾーン(blend zone)162、それと周辺光学ゾーン124との間に第2の融合ゾーン(blend zone)164を含む。第1の例のように、融合ゾーン162および164は光学的機能を果たすことを意図していないが、その代わりに一方の側では累進ゾーン160と中心光学ゾーン120との間に、他方の側では累進ゾーンと周辺光学ゾーン124の間に、(図4のグラフで見て)単にスムーズな曲線を描くことを意図としている。これにより、図4の屈折力曲線の一部分164に示されるように累進ゾーン160における屈折力は、実質的に線形に増大することが可能となり、網膜134の焦点面の中心領域132と周辺領域142の間のステップ146の形状を画定するゾーン160を通過する光線156(実線)の経路についてそれなりの確かさが考慮できる。この場合も同様に、レンズ110は患者の角膜112に快適にフィットするように湾曲した後面116を持ち、中心光学ゾーン120と累進光学ゾーン160と周辺光学ゾーン124における所望レベルの屈折力はレンズ110の前面118を正確な形状に形作ることによって得られることが好ましい。
【0035】
第2の例では、検査の際に、中心視力の焦点が網膜134の前方に位置しているという点で眼112が近視であることが見つかるだけでなく、網膜の周辺領域144においてこの領域おける焦点が完璧に網膜の背後に位置しているという点で眼が強い遠視を示していることが診断されることも想定されている。従って、中心視力の近視の度合いが第1の例の眼12と同じで遠方の焦点が網膜134の中心領域132上に配置されるように中心視力を矯正するために同じ処方を必要とすることがあっても、近視が眼112においてより強度に進行性で、周辺領域144において網膜134の前方に焦点面142が配置されるように周辺視力に対してより強い処方が必要とされるという可能性が高い。以前のように、近軸光線(例えば光線150)は、眼120の光軸に沿って進み、中心窩152に焦点を結ぶと考えられる。また中心光学ゾーン120を通過する斜めの光線(例えば光線154)は、134に焦点を結んで網膜の中心領域132上に焦点面155を形成し優れた遠方視力をもたらす。周辺光学ゾーン124を通過する斜めの周辺光線158は、網膜134の周辺領域144の前方に位置する焦点面142上に焦点を結ぶ。
【0036】
特定の実施形態を例にとって本発明を詳細に説明してきたが、当業者にとっては、特許請求の範囲の各請求項によって画定される本発明の範囲に含まれることを意図した、それらの実施形態の様々な変更、変形、代替が可能であり、均等物もその範囲に含まれることは明らかであろう。」

ウ 「【図2A】



エ 「【図2B】



オ 「【図4】




(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の記載事項アに基づけば、引用文献1には、請求項1の記載を引用する請求項3に係る発明として、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「 装着者が眼にレンズを装着したときの眼の正常な瞳孔直径に十分近い差渡し寸法を持ち、装着者に眼の網膜の中心領域内において鮮明な遠方視力を与えることができるような屈折力を有する中心光学ゾーンと、
前記中心光学ゾーンよりも半径方向に外側に配置されており、装着者が眼にレンズを装着したときの眼の正常な瞳孔直径の実質的に外側に存在するゾーンであって、装着者が眼にレンズを装着しているときに該ゾーンを通って眼に入射する軸外光線を網膜の中心領域の周囲に位置する網膜の周辺領域の上または前方のポイントに集束させるのに十分な量だけ前記中心光学ゾーンの屈折力よりも大きな屈折力を有する周辺光学ゾーンと
を含んでなるコンタクトレンズであって、
前記周辺光学ゾーンの屈折力は、前記中心光学ゾーンの屈折力よりも約2.5ディオプタと8ディオプタの間だけ大きいものであるコンタクトレンズ。」

(3)引用文献2について
当審拒絶理由において、主引用発明が記載された文献として引用され、本件優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された引用文献である、特開2016-45495号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
近視の進行を遅延、抑制又は予防することのうちの少なくともいずれか1つ、及びハロー効果を最小限に抑えることを目的とする眼科用レンズであって、
近視の矯正のための負のパワーを有する中心ゾーン、及び
前記中心ゾーンを取り囲む少なくとも1つの処置ゾーン、を含み、前記少なくとも1つの処置ゾーンが、前記中心ゾーンの外縁部から、前記少なくとも1つの処置ゾーン内における+5.0Dより大きい正のパワーへ増加するパワー特性を有することを特徴とする、眼科用レンズ。
【請求項2】
前記少なくとも1つの処置ゾーンが、約+5D?約+15Dの正のパワーを有することを特徴とする、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項3】
前記中心ゾーンの直径が、約3mm?約7mmであることを特徴とする、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項4】
前記少なくとも1つの処置ゾーンが、前記中心ゾーンの前記外縁部から、前記レンズの中心から約3mm?約4.5mmにおける+5.00Dより大きい前記正のパワーへ連続的に増加するパワー特性を有することを特徴とする、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの処置ゾーンが、ジグザグの、又は揺動するパワー特性を有することを特徴とする、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項6】
前記少なくとも1つの処置ゾーンが、前記レンズの中心から約4.5mmのところに外縁部を有することを特徴とする、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項7】
黒/白エッジにおけるハロー効果を最小限に抑えることを特徴とする、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項8】
前記眼科用レンズが、コンタクトレンズを含む、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項9】
前記眼科用レンズが、眼鏡のレンズを含む、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項10】
前記眼科用レンズが、眼内レンズ、角膜インレー又は角膜オンレーを含む、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項11】
1つ又は2つ以上の安定化機構を更に含む、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項12】
近視の進行の遅延、抑制又は予防のうち少なくともいずれか1つを目的とする眼科用レンズであって、
近視の矯正のための負のパワーを有するゾーン、及び
少なくとも1つの処置ゾーン、を含み、前記少なくとも1つの処置ゾーンは、近視の進行を実質的に抑制するのに、十分な領域、及び前記領域内の十分なパワーを有することを特徴とする、眼科用レンズ。
【請求項13】
近視の進行が、50%未満であることを特徴とする、請求項12に記載の眼科用レンズ。
【請求項14】
前記処置ゾーン内のパワーが、前記処置ゾーンの少なくとも一部において+5D超であることを特徴とする、請求項12に記載の眼科用レンズ。
【請求項15】
前記近視の矯正のためのゾーンが、十分な視力を抑制しないように十分に広いことを特徴とする、請求項12に記載の眼科用レンズ。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用レンズに関し、より詳細には、近視の進行を、遅延、遅滞、又は防止するように設計された、コンタクトレンズに関する。本発明の眼科用レンズは、高プラス又は高加入処置ゾーンを含み、それによって近視の進行を防止及び/又は遅延する。
【背景技術】
【0002】
視力低下をもたらす一般的な症状は、メガネ、又はハード又はソフトコンタクトレンズの形態の補正レンズが処方される、近視及び遠視である。症状は、一般に、眼の長さと眼の光学要素の焦点との間のバランスの悪さとして説明される。近視の眼は、網膜面の前で焦点合わせをし、遠視の眼は、網膜面の先で焦点合わせをする。近視は、典型的には、眼の軸長が眼の光学要素の焦点距離よりも長く成長する、即ち、眼が長くなりすぎるゆえに発現する。遠視は、典型的には、眼の光学要素の焦点距離と比較して眼の軸長がとても短い、即ち、眼が十分成長しないゆえに発現する。
・・・中略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明のレンズ設計は、遠見視力矯正を確保し、近視の進行を治療、制御、減少させ、また、一方でハロー効果を最小限に抑える高いプラス度数処置ゾーンを有するレンズを提供することによって、従来技術の限界を克服する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
一態様によれば、本発明は、近視の進行の遅延、抑制もしくは予防することの少なくとも1つのため、及びハロー効果を最小限に抑えるための眼科用レンズに関する。眼科用レンズは、近視の矯正のための負のパワーを有する中心ゾーン、及び中心ゾーンを取り囲む少なくとも1つの周辺ゾーンを含む。少なくとも1つの処置ゾーンは、+5.00Dより大きい少なくとも1つの処置ゾーン内の中心ゾーンの外周縁から正のパワーへ増加するパワー特性を有する。最適な距離矯正については、距離パワー領域内のパワー特性は、患者の矯正要件に基づいて平坦であるか、又は徐々に変化して角膜の正の又は負の球面収差を構成することができる。
【0025】
別の態様によれば、本発明は、近視の進行の遅延、抑制又は予防のうち少なくとも1つのための方法に関する。近視の矯正のための負のパワーを有する中心ゾーン、及び中心ゾーンを取り囲む少なくとも1つの周辺ゾーンを含み、少なくとも1つの処置ゾーンは、+5.00Dより大きい少なくとも1つの処置ゾーン内の中心ゾーンの外周縁から正のパワーへ増加するパワー特性を有する、眼科用レンズが提供される。したがって、眼の成長を変化させる。最適な距離矯正については、距離パワー領域内のパワーは、患者の矯正要件に基づいて平坦であるか、又は徐々に変化して角膜の正の又は負の球面収差を構成することができる。
・・・中略・・・
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明の前述ならびに他の特徴及び利点は、添付図面に示される本発明の好ましい実施形態の、以下のより詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図1】プラス度数が周辺ゾーンに付加されるときの視力の変化を示すグラフを示す。
【図2】2つのレンズのパワー特性を示し、1つは+5.00Dの処置ゾーンを有し、もう1つは+10.00Dの処置ゾーンを有する。
【図3】入射瞳径6.0mmでの図2のパワー特性のための点拡がり関数の断面図を示す。
【図4】図2のパワー特性のための像断面図を示す。
【図5A】5つのパワー特性のための点拡がり関数を示す。
【図5B】図5Aのパワー特性のための像断面図を示す。
【図6A】本発明の3つのレンズのパワー特性を示す。
【図6B】本発明の3つのレンズのパワー特性を示す。
【図6C】本発明の3つのレンズのパワー特性を示す。
【図7A】図6A?Cのパワー特性のための像断面図を示す。
【図7B】図6A?Cのパワー特性のための像断面図を示す。
【図7C】図6A?Cのパワー特性のための像断面図を示す。
【図8A】本発明の3つの更なるレンズのパワー特性を示す。
【図8B】本発明の3つの更なるレンズのパワー特性を示す。
【図8C】本発明の3つの更なるレンズのパワー特性を示す。
【図9】本発明に従う例示的なコンタクトレンズの図表示である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
・・・中略・・・
【0033】
ここで図6a?6cを参照すると、本発明の3つのレンズ設計のパワー特性が描かれている。それぞれの設計について、パワー特性は、負の焦点パワーを有し、既存の近視の遠見視力条件(即ち、近軸パワー)を矯正することができる中心ゾーンを含む。中心ゾーンの直径は、約3mm?約7mm、例えば4.3mmであってもよい。それぞれのレンズ設計は、また、中心ゾーンを取り囲む少なくとも1つの処置ゾーンを含む。少なくとも1つの処置ゾーンは、中心ゾーンにおけるパワーに対して大きな高加入度数又は高プラス度数を有する。
【0034】
図6a?bに示すように、パワー特性は、中心ゾーンの周縁(点A)から少なくとも1つの処置ゾーン内の1点(点B)へ徐々に及び連続的に上昇する。特定の実施形態では、点Bの位置は、レンズの中心から3.0mm?4.5mmである。少なくとも1つの処置ゾーンは、点Bから視覚ゾーンの周縁(点C、例えば、4.5mm)まで一定のままである。図6cに示すように、パワーが点Aから点B及び/又は点Cへ増加(単調である必要はない)するとき、パワー特性はジグザグであっても又は揺動してもよい。特定の実施形態では、少なくとも1つの処置ゾーンは、約+1D?約+15Dの範囲の屈折度数を有してもよい。
・・・中略・・・
【0038】
ここで図9を参照すると、本発明の実施形態に従うコンタクトレンズ900の概略ダイアグラム図が図示されている。コンタクトレンズ900は、視覚ゾーン902及び外側ゾーン904を含む。視覚ゾーン902は、第1中心ゾーン906及び少なくとも1つの周辺ゾーン908を含む。特定の実施形態では、幾何学的レンズの中心900から測定されるように、視覚ゾーン902の直径は、8.0mmが選択されてもよく、ほぼ円形の第1ゾーン906の直径は、4.0mmが選択されてもよく、環状の外側周辺ゾーン908の境界直径は、5mm及び6.5mmであってもよい。図9は、本発明の例示的な実施形態を示すだけであるという点に留意することが重要である。例えば、この例示的な実施形態では、少なくとも1つの周辺ゾーン908外側境界は、必ずしも視覚ゾーン902の外周縁と一致する必要がないのに対して、他の例示的な実施形態では、一致する場合がある。外側ゾーン904は、視覚ゾーン902を取り囲み、レンズの位置決め及びレンズセンタリングを含む標準的なコンタクトレンズ特性を提供する。1つの例示的な実施形態に従って、外側ゾーン904は、眼の上にある場合にレンズの回転を減少させる1つ又は2つ以上の安定化機構を含んでもよい。
【0039】
図9の様々なゾーンが、同心円として描かれており、ゾーンは、楕円形状などの任意の好適な円形状又は非円形状を含んでもよい、という点に留意することが重要である。
【0040】
眼の入射瞳径が次母集団の中で変動したとき、ある種の例示的な実施形態では、レンズ設計を特注生産して、患者の眼の平均瞳孔径に基づいて良好な中心視覚の矯正及び近視に対する治効の両方を達成してもよい、という点に留意することが重要である。更に、瞳孔径は小児患者の屈折及び年齢と相関するので、ある種の例示的な実施形態では、レンズは更に、特定の年齢及び/又は屈折を有する小児次母集団のサブグループに対して、彼らの瞳孔径に基づいて最適化される。本質的に、パワー特性を瞳孔径に対して調節又は調整し、中心視覚の矯正と高プラス又は高加入処置ゾーンから得られたハロー効果の最小化との最適バランスを得てもよい。
【0041】
現在入手可能なコンタクトレンズは依然として、視力矯正のための費用効果の高い手段である。薄いプラスチックレンズを目の角膜にかぶせて装着し、近視もしくは近目、遠視もしくは遠目、乱視、すなわち角膜の非球面性、及び、老眼、すなわち、遠近調節する水晶体の能力の損失を含む視覚障害を矯正する。コンタクトレンズは多様な形態で入手可能であり、様々な機能性をもたらすべく多様な材料から作製されている。
【0042】
終日装用ソフトコンタクトレンズは、典型的には、酸素透過性を目的として水と合わせられた軟質ポリマー材料から作製される。終日装用ソフトコンタクトレンズは、1日使い捨て型であっても、連続装用使い捨て型であってもよい。1日使い捨て型のコンタクトレンズは通常、1日にわたって装用され、次いで捨てられるが、連続装用又は頻回交換使い捨て型のコンタクトレンズは通常、最大で30日の期間にわたって装用される。カラーソフトコンタクトレンズには、種々の機能性を得るために種々の材料が使用されている。例えば、識別用着色コンタクトレンズは、落としたコンタクトレンズを発見する際に装用者を支援するために、明るい色合いを用いるものであり、強調着色コンタクトレンズは、装用者の生来の眼色を強調することを意図した半透明の色合いを有するものであるが、着色カラーコンタクトレンズは、装用者の眼色を変化させることを意図した、より暗く不透明な色合いを備え、光フィルタリングコンタクトレンズは、特定の色を強調する一方で他の色を弱めるように機能する。硬質ガス透過性ハードコンタクトレンズは、シロキサン含有ポリマーから作製されるものであるが、ソフトコンタクトレンズよりも硬質であり、したがってその形状を保ち、より耐久性がある。二重焦点コンタクトレンズは、老眼である患者専用に設計されるものであり、軟質及び硬質の両方の種類で入手可能である。トーリックコンタクトレンズは特に乱視の患者用に設計され、ソフト及びハードの両方の種類がある。上記の種々の特徴を組み合わせたコンビネーションレンズ、例えばハイブリッドコンタクトレンズもまた入手可能である。」

ウ 「【図6A】

【図6B】

【図6C】



エ 「【図9】




(4)引用文献2に記載された発明
引用文献2の記載事項アに基づけば、引用文献2には、請求項1の記載を引用する請求項8に係る発明において、眼科用レンズがコンタクトレンズである、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「近視の進行を遅延、抑制又は予防することのうちの少なくともいずれか1つ、及びハロー効果を最小限に抑えることを目的とする眼科用レンズであって、
近視の矯正のための負のパワーを有する中心ゾーン、及び
前記中心ゾーンを取り囲む少なくとも1つの処置ゾーン、を含み、前記少なくとも1つの処置ゾーンが、前記中心ゾーンの外縁部から、前記少なくとも1つの処置ゾーン内における+5.0Dより大きい正のパワーへ増加するパワー特性を有するコンタクトレンズ。」

(5)引用文献3について
当審拒絶理由において、引用文献3として引用され、本件優先日前に頒布された刊行物である、特開2014-32404号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、眼用レンズに関し、より詳細には、近視の進行を、遅延、遅滞、又は防止するように設計された、眼用レンズに関する。本発明の眼用レンズは、アトロピン、硫酸アトロピン一水和物、及びピレンゼピンを含む、ムスカリン様作用薬と組み合わされた近視制御光学素子を含むことにより、近視の進行の制御を改善する効果を作り出す。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、所望の効果を達成すると共に、現在利用可能な治療法の不利点を最小限に抑えるための、1つ以上の個人療法の利益を組み合わせた、近視の進行の抑制、防止、及び/又は制御のうちの少なくとも1つのための治療法の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の、近視制御光学素子及び選択的若しくは非選択的ムスカリン様作用薬を組み込むコンタクトレンズは、従来技術に関連する数多くの不利点を克服する。
【0007】
一態様によれば、本発明は、近視の進行の抑制、防止、及び/又は制御のうちの少なくとも1つのための眼用レンズを目的とする。この眼用レンズは、第1の材料から形成され、かつ近視制御光学素子を組み込む、コンタクトレンズと、そのコンタクトレンズを形成する第1の材料に添加されるか又は組み込まれるかの少なくとも一方である混合物中に組み込まれた抗ムスカリン剤と、を含み、この抗ムスカリン剤は、既定の期間にわたって眼の中に溶出するように構成される。
・・・中略・・・
【0009】
本発明は、近視の進行の抑制、防止、及び/又は制御のうちの少なくとも1つを目的とする、アトロピン、硫酸アトロピン一水和物、ピレンゼピンなどの選択的若しくは非選択的薬理学的作用剤、及び/又は同様の機能の化合物と共に、近視制御光学素子、多焦点/二重焦点光学素子、単焦点光学素子、及び/又は乱視用光学素子を組み込む、エタフィルコンAなどのハイドロゲル材料、あるいはナラフィルコンA及び/又はナラフィルコンB、ガリフィルコンA又はセノフィルコンAなどのシリコンハイドロゲル(silicon hydrogel)で作製される、組み合わせコンタクトレンズ製品を目的とする。」

ウ 「【0014】
本発明によれば、アトロピンなどの治療薬は、2つの形態で利用可能であり、すなわち、アトロピン及び硫酸アトロピン一水和物は、テトラヒドロフラン(THF)及び水(1/3、v/v)、エタノール(EtOH)及び水(1/1、v/v)、pH<2を有する酸性水、グリセロール、あるいは好ましくは緩衝生理食塩溶液などの、適切な溶媒又は溶媒系中に溶解させることができる。次いで、この薬剤/溶媒の混合物を、コンタクトレンズ内に組み込むことができる。コンタクトレンズ内に、この薬剤/溶媒を組み込むためには、溶液中に約0.001重量パーセント?約0.50重量パーセントの範囲の濃度でアトロピン及び/又は硫酸アトロピン一水和物を含む、緩衝生理食塩溶液を有する容器、例えばブリスターパッケージ内に、脱イオン水ですすいだレンズを定置することができる。このブリスターパッケージ内の溶液中に、コンタクトレンズを定置した後、そのブリスターパッケージを封止して、滅菌する。ブリスターパッケージ内のレンズは、約1時間?約48時間の範囲の期間にわたって薬剤を取り込む。患者の眼の上にコンタクトレンズが定置されると、アトロピン及び/又は硫酸アトロピン一水和物は、所定の期間にわたってレンズから溶出する。レンズを形成する材料、並びにレンズ上に定置される任意の追加的コーティングが、薬剤を取り込む方式の機構及びタイミングを決定する。」

(6)引用文献4について
当審拒絶理由において、引用文献4として引用され、本件優先日前に頒布された刊行物である、特表2013-511072号公報(以下「引用文献4」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【0002】
(発明の分野)
本発明は眼科用レンズに関する。特に本発明は、近視の進行の予防又は遅延に対して有用な眼科用レンズを提供する。」

イ 「【0009】
本発明の第1の実施形態においては、光学ゾーンを有する眼科用レンズであって、光学ゾーンが、実質的に一定の遠用視力度数を有する中央ゾーンと、中央ゾーンと同心で、正の球面縦収差を有する少なくとも第1の環状ゾーンとを含み、本質的にこれらからなり、またこれらからなる、眼科用レンズが提供される。代替的な実施形態においては、第1の環状ゾーンと同心である第2の環状ゾーンであって、一定の度数又は次第に減少する度数の一方を与えることができる、第2のゾーンを提供してもよい。更に他の実施形態においては、光学ゾーンを有するレンズであって、光学ゾーンが、光学ゾーンの真ん中の部分における実質的に一定の遠用視力度数と、正の球面縦収差を有する遠用視力度数の周辺にある少なくとも1つの領域とを含み、本質的にこれらからなり、またこれらからなる、レンズが提供される。
【0010】
図1において分かるように、レンズ10は、光学ゾーン11と非光学的なレンズ状ゾーン14とを有する。光学ゾーン11は、中央ゾーン12と周辺ゾーン13とからなる。中央ゾーン12は、レンズの光軸に中心があり、レンズの光軸中心から測定した場合に、約0.5?2mm、好ましくは約1?1.5mmの半径を有する。中央ゾーン12内の度数は、実質的に一定の遠用視力度数であり、約+12.00m^(-1)(ジオプター)?約-12.00m^(-1)(ジオプター)である。周辺ゾーンに正の度数を付加する結果、中央ゾーンにおいて、遠用視力度数に対する過剰補正を与えること、すなわち、装用者の遠方視力を補正するために必要なものに加えて度数を与えることが望ましい場合がある。過剰補正の量は、中央ゾーン12の直径と与えられた正の球面収差の大きさとに依存する。しかしながら、典型的には、過剰補正は約0.25?約1.00m^(-1)(ジオプター)である。
【0011】
周辺ゾーン13は、最も内側の境界14(又はレンズの光軸中心に最も近い境界)からゾーン13の周囲の最も外側の境界15へ移動するにつれて、連続的かつ次第に増加する正の球面縦収差を与える。周辺ゾーン13における球面縦収差の増加は、レンズの光軸中心から約2.5mmの半径において、約0.25?約2m^(-1)(ジオプター)であってもよく、好ましくは約0.5?約1.50m^(-1)(ジオプター)である。周辺ゾーン13の幅は、約0.5?約3.5mm、好ましくは約1?約2mmであってもよい。」

ウ 「【0019】
中央ゾーンと少なくとも1つの同心ゾーンとを伴う実施形態においては、第1のこのようなゾーンの周囲にある同心の第2のゾーンを設けてもよい。第2のゾーンは、実質的に一定の度数を与えてもよいし、又は好ましくはゾーンの周囲へ移動するにつれ次第に減少する度数を与えてもよい。第2の同心ゾーンは、大きい瞳のレンズ装用者(例えば、低照明での若者)において有用性を見出すことができる。第2のゾーンは、好ましくは、約3.5mmの半径において始まり、約4.5mmの半径まで延びる。ゾーンにわたって度数が次第に減少する実施形態においては、好ましくは、減少は、ゾーンの最も内側の部分において見出される度数の約半分に達する。例えば、レンズが、第1の同心ゾーンにおける約2.5mmの半径において1.0m^(-1)(ジオプター)の正の球面縦収差を有する場合、第2のゾーンの最も外側部分における度数は約0.5m^(-1)(ジオプター)まで減少することになる。一定の遠方の度数と正の球面縦収差との間に別個の接合部がない実施形態においては、この一定の度数又は次第に減少する度数を与える第2の領域を、正の球面縦収差の領域の周囲に設けてもよい。第2の周辺ゾーンを備えることは優位な場合がある。なぜならば、それを用いて周囲における正の度数を減らすことができる結果、低輝度条件下での正の度数に由来する視力の低下を抑制することができるからである。
【0020】
本発明のレンズは好ましくは、ソフトコンタクトレンズであり、このようなレンズの製造に適した任意の材料から作られているものである。ソフトコンタクトレンズを形成するための代表的な材料には、これらに限定されるものではないが、シリコンエラストマー、シリコン含有マクロマー(macromer)、例えば、これらに限定されるものではないが、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第5,371,147号、同第5,314,960号、及び同第5,057,578号に開示されているもの、ヒドロゲル、シリコン含有ヒドロゲルなど、及びこれらの組み合わせが挙げられる。より好ましくは、表面はシロキサンであるか、又はシロキサン官能基を含有し、ポリジメチルシロキサンマクロマー、メタクリルオキシプロピルポリアルキルシロキサン、及びこれらの混合物、シリコンヒドロゲル若しくはエタフィルコンA等のヒドロゲルを含むが、これらに限定されない。」

エ 「【図4】



2 対比及び判断
(1)引用文献1を主引用例とした場合
ア 対比
本願発明と引用発明1を対比すると、以下のとおりとなる。

(ア)中央領域
引用発明1の「コンタクトレンズ」における、「中心光学ゾーン」は、「装着者が眼にレンズを装着したときの眼の正常な瞳孔直径に十分近い差渡し寸法を持ち、装着者に眼の網膜の中心領域内において鮮明な遠方視力を与えることができるような屈折力を有する」ものである。
上記コンタクトレンズにおける、「中心光学ゾーン」の位置及び寸法並びに機能からみて、引用発明1の「中心光学ゾーン」は、本願発明の「中央領域」に相当する。

(イ)環状領域
引用発明1の「周辺光学ゾーン」は、「中心光学ゾーンよりも半径方向に外側に配置されており、」「装着者が眼にレンズを装着しているときに該ゾーンを通って眼に入射する軸外光線を網膜の中心領域の周囲に位置する網膜の周辺領域の上または前方のポイントに集束させるのに十分な量だけ前記中心光学ゾーンの屈折力よりも大きな屈折力を有する」ものである。
上記「周辺光学ゾーン」と「中心光学ゾーン」との位置関係、及び「周辺光学ゾーン」の上記機能からみて、引用発明1の「周辺光学ゾーン」は、本願発明の「環状領域」に相当し、「中央領域を囲む少なくとも1つの環状領域であ」るという要件を満たす。

また、引用発明1の「周辺光学ゾーン」は、「周辺光学ゾーンの屈折力は、前記中心光学ゾーンの屈折力よりも約2.5ディオプタと8ディオプタの間だけ大きいものであ」ることから、上記(ア)の対比結果も踏まえれば、「環状領域のディオプターが前記中央領域のディオプターと異なる」という要件を満たすといえる。

(ウ)多焦点コンタクトレンズ
引用発明1の「コンタクトレンズ」は、「中心光学ゾーン」及び「周辺光学ゾーン」「を含んでなるコンタクトレンズ」であり、「周辺光学ゾーンの屈折力は、前記中心光学ゾーンの屈折力よりも約2.5ディオプタと8ディオプタの間だけ大きいものであ」ることから、技術的にみて、本願発明の「多焦点コンタクトレンズ」に相当する。

イ 一致点及び相違点
以上より、本願発明と引用発明1とは、
「中央領域、及び、前記中央領域を囲む少なくとも1つの環状領域であって、各前記環状領域のディオプターが前記中央領域のディオプターと異なる少なくとも1つの環状領域を含む多焦点コンタクトレンズを備える」点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明は、「シリコーンハイドロゲル又はヒドロゲルから作られる多焦点コンタクトレンズと」、「多焦点コンタクトレンズが浸される緩衝液」「を備え」る「コンタクトレンズ製品」であるのに対して、引用発明1はそのように特定されたものではない点。

(相違点2)
本願発明は、「各前記環状領域は傾斜の絶対値を有し、全ての前記傾斜の絶対値の最大値をSloPMaxとし、全ての前記傾斜の絶対値の最小値をSloPMinとし、1mmあたりのディオプターの変化をD/mmとし、各前記環状領域は最大ディオプターを有し、全ての前記最大ディオプターの最大値をPowPMaxとし、ディオプターの単位をDとすると、2.4D/mm≦SloPMax≦20D/mm、及び6.5D<PowPMaxの条件が満たされる」のに対し、引用発明1はそのように特定されたものではない点。

ウ 判断
(ア)相違点1について
多焦点コンタクトレンズの技術分野において、シリコーンハイドロゲルやヒドロゲルからなるコンタクトレンズとすることや、緩衝液に浸されるコンタクトレンズ製品は周知技術(例えば、引用文献3の段落【0009】や【0014】参照。)であり、引用発明1において、コンタクトレンズがシリコーンハイドロゲルやヒドロゲルから作られることやコンタクトレンズが浸される緩衝液を備えた構成、すなわち、相違点1に係る「コンタクトレンズ製品」に想到することは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点2について
コンタクトレンズの光学特性として、引用文献2の請求項2や【0034】の記載を参酌すると、環状領域における最大ディオプターの最大値PowPMaxを「6.5D<PowPMax」程度とすることは、本件優先日前の技術水準からみて、格別な数値範囲であるとはいえない。くわえて、引用文献2の図6A?図6Cで表されるコンタクトレンズのパワー特性や引用文献4の図4で表されるコンタクトレンズの度数プロファイルを参酌すると、環状領域における傾斜の絶対値の最大値SloPMaxを「2.4D/mm≦SloPMax≦20D/mm」程度とすることもまた、本件優先日前の技術水準からみて、格別な数値範囲であるとはいえない。
さらに、引用文献1の【0035】や、引用文献2の【0024】、【0040】等に記載されているように、患者の眼の状態に応じて、中心視覚の矯正効果(例えば、近視眼における遠方視力の矯正等)及び近視の進行の遅延効果等を比較考慮して、パワー特性を調節又は調整することは周知技術である。
以上によれば、引用発明1に当該周知技術を採用して、相違点2に係る本願発明1の構成に想到することは、当業者が容易になし得ることである。
(当合議体注:相違点2の「全ての前記傾斜の絶対値の最小値をSloPMinとし」との構成は、本願発明において「SloPMin」の数値が特定されていないから、実質的な相違点ではない。)

エ 発明の効果について
本願発明の効果として、本件出願の明細書の【0004】には、「近視を防ぐ又は近視の進行を制御可能なコンタクトレンズ製品を提供する」と記載されている。しかしながら、本願発明の上記効果は、引用発明1に周知技術を採用することによって想到し得る発明が奏する効果であって、当業者が引用発明1及び周知技術から予測可能な範囲のものである。
(当合議体注:近視の程度が小さいが、近視の進行が早いような症例の場合には、当業者は高加入度を比較的狭い範囲において処方することを試みるといえ、この場合、低加入度を処方した場合と比較して、近視の進行がより抑制されることは予測可能な範囲内のことである。)

オ 審判請求人の令和3年2月19日提出の意見書の主張について
請求人は、同意見書の「3.進歩性について」において、「引用文献1?4の明細書によれば、引用発明1?4は、本補正後の本願請求項1のすべての発明特定事項を同時に開示していません。引用文献1?4は、本補正後の請求項1に記載の発明をそれぞれ部分的には開示していますが、それらに開示された値は、依然として、補正後の請求項1の範囲には含まれていません。」、「換言すれば、引用文献1?4は本補正により限定された本願請求項1の発明特定事項(「2.4D/mm≦SloPMax≦20D/mm」など)を開示しておらず、当業者が引用文献1?4の開示を参照したとしても、本補正後の本願請求項1に相当する数値範囲の設計・限定方法に容易に想到することはできないと考えられます。」、「本補正後の本願請求項1に係るコンタクトレンズ製品の効率は、異なる発明特定事項を最良の組み合わせで用いることによってのみ得られるものです。その優れた効果は数値範囲を設計する際の極めて精緻な調整・検討によって達成され得るもので、本補正後の本願請求項1の数値範囲が特定する事項は、その優れた効果に対応するものです。」旨主張している。
しかしながら、上記ウ及びエで述べたとおりであり、審判請求人の上記主張は、採用することができない。

カ 小括
本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2?4に記載された技術に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)引用文献2を主引用例とした場合
ア 対比
本願発明と引用発明2を対比すると、以下のとおりとなる。

(ア)中央領域
引用発明2の「中心ゾーン」は、その文言どおり、本願発明の「中央領域」に相当する。

(イ)環状領域
引用発明2の「処置ゾーン」は、「中心ゾーンを取り囲む少なくとも1つ」であることから、本願発明の「環状領域」に相当し、「中央領域を囲む少なくとも1つの環状領域であ」るという要件を満たす。また、引用発明2の「処置ゾーン」は、「前記中心ゾーンの外縁部から、前記少なくとも1つの処置ゾーン内における+5.0Dより大きい正のパワーへ増加するパワー特性を有」することから、「環状領域のディオプターが前記中央領域のディオプターと異なる」という要件を満たす。

(ウ)多焦点コンタクトレンズ
引用発明2の「コンタクトレンズ」は、「中心ゾーン」及び「処置ゾーン」「を含み」、「中心ゾーン」は「負のパワーを有」し、「処置ゾーン」は「+5.0Dより大きい正のパワーへ増加するパワー特性を有する」ものであるから、技術的にみて、本願発明の「多焦点コンタクトレンズ」に相当する。

イ 一致点及び相違点
以上より、本願発明と引用発明2とは、
「中央領域、及び、前記中央領域を囲む少なくとも1つの環状領域であって、各前記環状領域のディオプターが前記中央領域のディオプターと異なる少なくとも1つの環状領域を含む多焦点コンタクトレンズを備える」点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明は、「シリコーンハイドロゲル又はヒドロゲルから作られる多焦点コンタクトレンズと」、「多焦点コンタクトレンズが浸される緩衝液」「を備え」る「コンタクトレンズ製品」であるのに、引用発明2はそのように特定されたものではない点。

(相違点2)
本願発明は、「各前記環状領域は傾斜の絶対値を有し、全ての前記傾斜の絶対値の最大値をSloPMaxとし、全ての前記傾斜の絶対値の最小値をSloPMinとし、1mmあたりのディオプターの変化をD/mmとし、各前記環状領域は最大ディオプターを有し、全ての前記最大ディオプターの最大値をPowPMaxとし、ディオプターの単位をDとすると、2.4D/mm≦SloPMax≦20D/mm、及び6.5D<PowPMaxの条件が満たされる」のに対し、引用発明2はそのように特定されたものではない点。

ウ 判断
(ア)相違点1について
多焦点コンタクトレンズの技術分野において、シリコーンハイドロゲルやヒドロゲルからなるコンタクトレンズとすることや、緩衝液に浸されるコンタクトレンズ製品は周知技術(例えば、引用文献3の段落【0009】や【0014】参照。)であり、引用発明2において、コンタクトレンズがシリコーンハイドロゲルやヒドロゲルから作られることやコンタクトレンズが浸される緩衝液を備えた構成、すなわち、相違点1に係る「コンタクトレンズ製品」に想到することは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点2について
引用文献2の【0024】、【0040】等に記載されているように、患者の眼の状態に応じて、中心視覚の矯正効果及び近視の進行の遅延効果等を比較考慮して、パワー特性を調節又は調整することは周知技術であり、また、コンタクトレンズの光学特性として、引用文献2の請求項2及び【0034】の記載や引用文献2の図6A?図6Cで表されるコンタクトレンズのパワー特性を参酌すると、環状領域における最大ディオプターの最大値PowPMaxを「6.5D<PowPMax」程度とすることや環状領域における傾斜の絶対値の最大値SloPMaxを「2.4D/mm≦SloPMax≦20D/mm」程度とすることは、本件優先日前の技術水準からみて、格別な数値範囲であるとはいえない。
そうしてみると、引用文献2の上記記載事項及び周知技術に基づいて、相違点2に係る本願発明の構成に想到することは、当業者が容易になし得ることである。

エ 発明の効果について
本願発明の効果として、本件出願の明細書の【0004】には、「近視を防ぐ又は近視の進行を制御可能なコンタクトレンズ製品を提供する」と記載されている。
しかしながら、本願発明の上記効果は、引用発明2に周知技術を採用することによって想到し得る発明が奏する効果であって、当業者が引用発明2及び周知技術から予測可能な範囲のものである。

オ 審判請求人の令和3年2月19日提出の意見書の主張について
請求人は、同意見書において、上記「(1)オ」に示したとおりの主張をしている。
しかしながら、上記ウ及びエで述べたとおりであり、審判請求人の上記主張は、採用することができない。

カ 小括
本願発明は、引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された技術に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

第3 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1?2に記載された発明及び引用文献3?4に記載された技術に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-03-25 
結審通知日 2021-03-30 
審決日 2021-04-13 
出願番号 特願2017-167518(P2017-167518)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 博一  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 神尾 寧
井口 猶二
発明の名称 コンタクトレンズ製品  
代理人 服部 雅紀  

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