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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1377720
審判番号 不服2020-17955  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-30 
確定日 2021-09-28 
事件の表示 特願2017-159886「呼吸機能検査装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月14日出願公開、特開2019- 37339、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」と記す。)は、平成29年8月23日の出願であって、令和元年7月1日付けで拒絶理由が通知され、同年11月8日付けで意見書及び手続補正書が提出され(ただし、同年11月19日付けで当該手続補正書に係る手続について却下理由が通知され、令和2年6月24日付けで当該手続補正書に係る手続は却下された。)、令和2年6月11日付けで拒絶理由が通知され、同年9月10日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月5日付けで拒絶査定(原査定)されたところ、同年12月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年10月5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.本願請求項1-12に係る発明は不明確であり、本願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2.本願請求項1-12に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2-5に記載された技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開昭59-95034号公報
2.特開2013-153886号公報
3.特開2007-229101号公報
4.特開2017-86704号公報
5.韓国公開特許第10-2015-0052414号公報

第3 本願発明
本願請求項1-13に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」-「本願発明13」という。)は、令和2年12月30日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-13に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-4はそれぞれ以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
呼吸に伴う可動体の移動に応じた信号が、微分回路により直流成分がカットされ、A/Dコンバータによりアナログ信号からディジタル信号に変換される信号に基づいて呼吸流量を計測する呼吸流量計測手段と、前記可動体の移動に応じた信号が、A/Dコンバータによりアナログ信号からディジタル信号に変換された信号に基づいて呼吸容量を計測する呼吸容量計測手段と、を備える呼吸機能検査装置であって、
基準容量の較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸容量計測手段により計測された実測容量と、前記基準容量とに基づいて、前記呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量を対象とする較正係数である第1較正係数を算出する第1較正係数算出手段と、
前記較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸流量計測手段により計測された実測流量に基づいて算出された算出容量と、前記基準容量とに基づいて、前記呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量を対象とする較正係数である第2較正係数を算出する第2較正係数算出手段と、を備える、
呼吸機能検査装置。」

「 【請求項2】
呼吸に伴う可動体の移動に応じた信号が、微分回路により直流成分がカットされ、A/Dコンバータによりアナログ信号からディジタル信号に変換される信号に基づいて呼吸流量を計測する呼吸流量計測手段と、前記可動体の移動に応じた信号が、A/Dコンバータによりアナログ信号からディジタル信号に変換された信号に基づいて呼吸容量を計測する呼吸容量計測手段と、を備える呼吸機能検査装置であって、
基準容量の較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸容量計測手段により計測された実測容量と、前記基準容量とに基づいて、前記呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量を対象とする較正係数である第1較正係数を算出する第1較正係数算出手段と、
前記較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸流量計測手段により計測された実測流量と、前記較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸容量計測手段により計測された実測容量に基づいて算出された算出流量とに基づいて、前記呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量を対象とする較正係数である第2較正係数を算出する第2較正係数算出手段と、を備える、
呼吸機能検査装置。」

「 【請求項3】
呼吸に伴う可動体の移動に応じてロータリーエンコーダから出力されるパルス信号の間隔に基づいて呼吸流量を計測する呼吸流量計測手段と、前記可動体の移動に応じてロータリーエンコーダから出力されるパルス信号に基づいて呼吸容量を計測する呼吸容量計測手段と、を備える呼吸機能検査装置であって、
基準容量の較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸容量計測手段により計測された実測容量と、前記基準容量とに基づいて、前記呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量を対象とする較正係数である第1較正係数を算出する第1較正係数算出手段と、
前記較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸流量計測手段により計測された実測流量に基づいて算出された算出容量と、前記基準容量とに基づいて、前記呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量を対象とする較正係数である第2較正係数を算出する第2較正係数算出手段と、を備える、
呼吸機能検査装置。」

「 【請求項4】
呼吸に伴う可動体の移動に応じてロータリーエンコーダから出力されるパルス信号の間隔に基づいて呼吸流量を計測する呼吸流量計測手段と、前記可動体の移動に応じてロータリーエンコーダから出力されるパルス信号に基づいて呼吸容量を計測する呼吸容量計測手段と、を備える呼吸機能検査装置であって、
基準容量の較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸容量計測手段により計測された実測容量と、前記基準容量とに基づいて、前記呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量を対象とする較正係数である第1較正係数を算出する第1較正係数算出手段と、
前記較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸流量計測手段により計測された実測流量と、前記較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸容量計測手段により計測された実測容量に基づいて算出された算出流量とに基づいて、前記呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量を対象とする較正係数である第2較正係数を算出する第2較正係数算出手段と、を備える、
呼吸機能検査装置。」

なお、本願発明5-13は、本願発明1-4のいずれかを減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開昭59-95034号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。

ア 「1.患者の呼気の関数として運動する確実な変位手段を有する肺活量計の較正を遂行するためのシステムであって、
前記確実な変位手段の運動に直接応答して呼気流量を表わす信号を発生するポテンシヨメータ手段、
前記呼気流量信号を積分して呼気総量を表わす信号を発生する手段、
前記確実な変位手段の運動に直接応答して呼気総量を表わす信号を発生する光シヤフト エンコーダ手段、及び
前記ポテンシヨメータ及び前記光シヤフト エンコーダから誘導した前記呼気総量信号の値を比較し、前記呼気総量信号が互に所定の限度内にあることを決定するコンパレータ手段を具備するシステム。
・・・
3.前記コンパレータが、前記肺活量計内に導入されるガスの精密に既知の量の値と、前記ポテンシヨメータ及び前記光シヤフト エンコーダから誘導された前記総量とを比較するようにもなっている特許請求の範囲1に記載のシステム。」(特許請求の範囲)

イ 「 本発明は流量の測定を行なうのに適している長所を有するポテンシヨメータと、総量の測定を行なうのに適している光エンコーダの両方を用いている。」(第2頁左下欄第14行-同欄第17行)

ウ 「 光エンコーダは総量及び流量のデイジタル サンプリングを発生するようになっているが、この総量は例えば毎10cc/パルスのようなパルス数に比例し、また流量は発生したパルスのレートに比例する。従ってエンコーダは多くのデータ サンプリング点における流量の尺度を与えるから、時間対総量曲線を正確に追尾することになる。
同じピストン ロツドによって作動させられるポテンシヨメータは総量及び流量のアナログ信号を発生するものであるが、この総量はセンター タツプに生ずる電圧出力に比例し、また流量はセンター タツプ電圧の変化のレートに比例する。
従って、例えば3リツトルのような既知量のガスを肺活量計内に注入すると、ピストン及びピストン ロツドが運動し、光エンコーダは例えばl0cc毎のように既知の間隔でパルスを発生する。このパルス列は中央処理ユニツト(CPU)に送られて実時間クロツクからの時間と共に読取られ、これらの値が記憶される。既知量のガスの注入が終了すると、CPUは2つのデータ アレー、即ち10cc間隔でサンプルする際に経過した実時間及び流量の値を記憶している。CPUは10ccサンプルの数(ピストン運動の方向に依存して若干のものは負である)を加算することによって注入された総量を容易に計算するが、この総量は肺活量計内に注入された既知量に正確に整合させるべきである。
ポテンシヨメータからの信号は、アレー全体に亘って各隣接する2つの時間中の積分された流量を加え合わせることによって総量を計算するために独立して用いられる。
即ち、光エンコーダからと、ポテンシヨメータからの出力を積分して得たデータという別々に計算された一つの総量が得られることになり、これらは互に、また肺活量計内に注入された既知の総量と比較できるようになる。
勿論、全ての総量の値が所定の限度内で一致していれば、肺活量計の総量較正及び流量較正が確認されたことになり、ポテンシヨメータ及び光エンコーダは互に照合されたことになる。」(第2頁右下欄第9行-第3頁右上欄第8行)

エ 「 第1図は、ポテンシヨメータ10及び光シヤフト エンコーダ12の両方を有する肺活量計システムの平面図である。第1図では、ピストン14が運動するようになっている外側ハウジングは省いてある。ピストン14の一方の側の閉じた室(図示せず)内に患者の呼気が流入すると、ピストン14は患者の呼気レート及び吐いたガスの量に対応するレートで、これらに対応する距離まで運動させられる。」(第3頁右上欄第11行-同欄第19行)

オ 「 以上の説明及び第1図から明らかなように、ポテンシヨメータ10及び光シヤフト エンコーダ12は共に同一のピストン ロツド16の運動によって作動するものであり、勿論ピストン ロツド16は測定すべき患者呼気に応答するピストン14と共に運動するものである。」(第3頁右下欄第6行-同欄第11行)

カ 「 第2図は、本発明を遂行するのに用いられる回路のブロツクダイアグラムである。第1図で説明したように、肺活量計34はポテンシヨメータ10及び光シヤフト エンコーダ12の両方に結合されている。
先ずポテンシヨメータ10の関係回路を説明すると、アナログ信号はバツフア36に印加され、総量信号を得るために利得及びオフセツト調整される。総量を表わすこのアナログ信号は、一方ではアナログ マルチプレクサ38に供給されアナログ・デイジタル コンバータ40に印加される。アナログ マルチプレクサ48は、複数の入力信号の中の1つを選択できるようになっている。バツフア36の出力信号は微分回路42にも供給され、信号は時間に関して微分されて流量値が決定される。2つの出力44及び46はそれぞれ患者の呼気総量及び呼気流量の値の表示及び記録の両方或は何れか一方を行なうために設けられているものである。微分回路42からの出力はアナログ マルチプレクサ38にも供給される。
アナログ マルチプレクサ38への別の入力は、種々の読みにおける温度差を考慮するための遠隔温度トランスジユーサ48からのものである。アナログ・デイジタル コンバータ40からのデイジタル形に変換された選択されたパルスは中央処理ユニツト52へ供給される。アナログ・デイジタル コンバータ40からのパルスが流量を表わしている場合には、中央処理ユニツト52はこの流量値をサンプルが採取される間に経過した時間に関して積分し、総量に関する値を求める。
光シヤフト エンコーダ12からの信号はデイジタル インターフエイス50に供給され、インターフエイス50内においてはフリツプフロツプ回路が光シヤフト エンコーダ12からの所定間隔、即ち10cc置きのパルスを計数する。
この信号は、値の特定の符号(即ち、ピストンが呼気を受けるべくある方向に運動する場合には正で、逆の方向にピストンが運動する場合には負)と共に中央処理ユニツト52に供給される。これらの正及び負の信号を加算すれば呼気総量が得られる。」(第3頁右下欄第12行-第4頁右上欄第12行)

キ 「 中央処理ユニツト52はこのようにして光シヤフト エンコーダ12からの総量の値を発生し、これをポテンシヨメータ10からの総量計算と比較する。もしこれらの値が互いに、及び例えば保証された3リツトルの注射器から肺活量計内に注入された既知総量と所定の許容誤差内にあれば、この肺活量計システムは較正されたことになり、総量の読み及び流量の読みが正確であることが保証される。」(第4頁右上欄第18行-同頁左下欄第6行)

(2)引用文献1の図面
引用文献1には次の図面がある。

ア 第1図


イ 第2図


(3)引用発明
ア 引用文献1の記載より自明な事項
上記「(1)」「ア」の「コンパレータ」と上記「(1)」「キ」の「中央処理ユニツト52」とは互いに対応していると認められるところ、上記「(1)」「キ」において上記「(1)」「ア」の記載を踏まえると、中央処理ユニツト52は、光シヤフト エンコーダ12からの総量の値をポテンシヨメータ10からの総量計算と比較し、これらの値が互いに所定の許容誤差内にあることを決定すると共に、光シヤフト エンコーダ12からの総量の値及びポテンシヨメータ10からの総量計算と保証された3リツトルの注射器から肺活量計内に注入された既知総量とを比較し、光シヤフト エンコーダ12からの総量の値及びポテンシヨメータ10からの総量計算と保証された3リツトルの注射器から肺活量計内に注入された既知総量とが互いに所定の許容誤差内にあることを決定していると認められる。

イ 第2図の看取事項
バツフア36が出力する総量を表わすアナログ信号及び微分回路42からの出力は、それぞれ、出力44及び46に供給されることが看取される。

ウ 上記ア、イの事項を踏まえると、上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ポテンシヨメータ10及び光シヤフト エンコーダ12を有する肺活量計システムであって、
ポテンシヨメータは流量の測定を行うのに適しており、光エンコーダは総量の測定を行うのに適しており、
ポテンシヨメータ10及び光シヤフト エンコーダ12は、測定すべき患者呼気に応答するピストン14と共に運動するピストン ロツド16の運動によって作動し、
ポテンシヨメータ10のアナログ信号はバツフア36に印加され、総量信号を得るために利得及びオフセツト調整され、
総量を表わすアナログ信号は、アナログ マルチプレクサ38に供給されアナログ・デイジタル コンバータ40に印加されるとともに、微分回路42に供給されて時間に関して微分されて流量値が決定され、微分回路42からの出力はアナログ マルチプレクサ38に供給され、
総量を表わすアナログ信号及び微分回路42からの出力は、それぞれ、患者の呼気総量及び呼気流量の値の表示及び記録の両方或は何れか一方を行なうために設けられている出力44及び46に供給され、
アナログ・デイジタル コンバータ40からのデイジタル形に変換された選択されたパルスは中央処理ユニツト52へ供給され、
アナログ・デイジタル コンバータ40からのパルスが流量を表わしている場合には、中央処理ユニツト52はこの流量値をサンプルが採取される間に経過した時間に関して積分し総量に関する値を求め、
光シヤフト エンコーダ12からの信号はデイジタル インターフエイス50に供給され、
インターフエイス50内においてはフリツプフロツプ回路が光シヤフト エンコーダ12からの10cc置きのパルスを計数し、
この信号は符号と共に中央処理ユニツト52に供給され、これらの正及び負の信号を加算して呼気総量が得られ、中央処理ユニツト(CPU)は10cc間隔でサンプルする際に経過した実時間及び発生したパルスのレートに比例する流量の値を記憶し、
中央処理ユニツト52は、光シヤフト エンコーダ12からの総量の値をポテンシヨメータ10からの総量計算と比較し、これらの値が互いに所定の許容誤差内にあることを決定すると共に、光シヤフト エンコーダ12からの総量の値及びポテンシヨメータ10からの総量計算と保証された3リツトルの注射器から肺活量計内に注入された既知総量とを比較し、光シヤフト エンコーダ12からの総量の値及びポテンシヨメータ10からの総量計算と保証された3リツトルの注射器から肺活量計内に注入された既知総量とが互いに所定の許容誤差内にあることを決定し、肺活量計の総量較正及び流量較正が確認される、
肺活量計システム。」

2.引用文献2について
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2013-153886号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。

「【0002】
従来より、特許文献1に示すような被験者の呼吸機能を検査するスパイロメータが提案されている。特許文献1のスパイロメータでは、フローセンサ内の呼吸経路に設けられた抵抗体の前後に生じる差圧に基づいて呼吸流量を計測し、計測された呼吸流量を積分することによって努力性肺活量等の呼吸容量を計測するようにしている。このようなスパイロメータでは、仮に被測気体の流量が同一であるとしてもフローセンサ内の抵抗体が同一でなければ、その前後に生じる差圧も同一とはならないため、抵抗体毎に異なる値が計測されることになってしまう。従って、何らかの方法でフローセンサにより得られた計測値の較正を行わなければならない。
【0003】
この較正の方法としては、通常、3Lの較正用ポンプを使用し、手動でポンプ内の被測気体をフローセンサに供給し、このときスパイロメータによって計測される計測値が3L±3%以内になるように、係数によるゲイン調整を行うという手法がとられている。例えばフローセンサによって計測された較正前の容量値が3.3Lであれば、較正係数として(3.0/3.3)=0.909を設定し、[較正前計測値×較正係数]によって較正後の計測値を得ていた。」

(2)引用文献2に記載の技術
したがって、上記引用文献2には次の技術が記載されていると認められる。

「呼吸流量を計測し、計測された呼吸流量を積分することによって呼吸容量を計測するスパイロメータに、3Lの較正用ポンプ内の被測気体を供給し、計測される計測値が3L±3%以内になるように較正係数を設定し、[較正前計測値×較正係数]によって較正後の計測値を得る、スパイロメータを較正する技術。」

3.引用文献3について
(1)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2007-229101号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。

ア 「【0032】
〔1.呼吸機能検査装置の構成〕
以下、本発明の呼吸機能検査装置の実施の形態を図面に従って説明する。図1(a)?(d)は、呼吸機能検査装置1の外観を示す外観図であり、図1(a)はその平面図、図1(b)は左側面図、図1(c)は正面図、図1(d)は右側面図である。図2は、呼吸機能検査装置1の機能を示す機能ブロック図である。本発明の呼吸機能検査装置1は、筐体である本体部15とこれに着脱自在なフローセンサ5等からなる。・・・
【0033】
フローセンサ5は、本体部15に着脱自在に搭載されており、使用時に本体部15と切り離して使用される。フローセンサ5は、呼吸流量に比例した差圧を発生させるものであり、被検者が口にくわえて息を吹き込むための吹込口17を備えている。」

イ 「【0041】
・・・本例では、A/D変換器11からの出力であり前記差圧に比例した値を示すデイジタル信号に基づいて呼吸流量を算出する処理を行う。この算出は、予め記憶している差圧と呼吸流量との間の関係式に基づいて行う。即ちデイジタル信号から差圧を特定し、該特定した差圧を関係式に入力して呼吸流量を算出する。また、本例ではこの呼吸流量の積分を行うことによって呼吸容量が算出される。」

ウ 「【0092】
上記の実施の形態では、呼吸流量を計測し、該計測された呼吸流量の積分を行うことによって呼吸容量を算出する例について説明したが、これに限らず、呼吸容量を計測し、該計測された呼吸容量の微分を行うことによって呼吸流量を算出するようにしても良い。いずれの方法によっても結果として、呼吸流量と呼吸容量が計測されることとなる。」

(2)引用文献3の図面
引用文献3には次の図面がある。

図1


(3)引用文献3に記載の技術
したがって、上記引用文献3には次の技術が記載されていると認められる。

「呼吸機能検査装置1において、呼吸容量を計測し、該計測された呼吸容量の微分を行うことによって呼吸流量を算出する技術。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

(ア)引用発明は、「ポテンシヨメータ10」は「測定すべき患者呼気に応答するピストン14と共に運動するピストン ロツド16の運動によって作動し」、「ポテンシヨメータ10」の「総量を表わすアナログ信号」は「微分回路42に供給されて時間に関して微分されて流量値が決定され、微分回路42からの出力はアナログ マルチプレクサ38に供給され、アナログ・デイジタル コンバータ40からのデイジタル形に変換された選択されたパルスは中央処理ユニツト52へ供給され、アナログ・デイジタル コンバータ40からのパルスが流量を表わしている場合には、中央処理ユニツト52はこの流量値をサンプルが採取される間に経過した時間に関して積分し総量に関する値を求め」るものである。
ここで、「ポテンシヨメータ10」の「総量を表わすアナログ信号」が「微分回路42に供給されて時間に関して微分され」る際には、「ポテンシヨメータ10」の「総量を表わすアナログ信号」の直流成分がカットされるのは明らかであり、また、「アナログ・デイジタル コンバータ40からのパルスが流量を表わしている場合」があるのだから、「微分回路42からの出力はアナログ マルチプレクサ38に供給され」た後に、「アナログ・デイジタル コンバータ40」において「デイジタル形に変換され」、「中央処理ユニツト52」へ供給されていると認められる。また、「中央処理ユニツト52」は、「流量を表わしている」「パルス」が供給され、「この流量値をサンプルが採取される間に経過した時間に関して積分」するのだから、「流量値」を計測しているといえる。
してみると、引用発明の「ピストン14」、「微分回路42」、「アナログ・デイジタル コンバータ40」は、それぞれ、本願発明1の「可動体」、「微分回路」、「A/Dコンバータ」に相当し、そして、引用発明の「中央処理ユニツト52」は、本願発明1の「呼吸に伴う可動体の移動に応じた信号が、微分回路により直流成分がカットされ、A/Dコンバータによりアナログ信号からディジタル信号に変換される信号に基づいて呼吸流量を計測する呼吸流量計測手段」に相当する。

(イ)引用発明は、「ポテンシヨメータ10」は「測定すべき患者呼気に応答するピストン14と共に運動するピストン ロツド16の運動によって作動し」、「ポテンシヨメータ10」の「総量を表わすアナログ信号は、アナログ マルチプレクサ38に供給されアナログ・デイジタル コンバータ40に印加され」、「アナログ・デイジタル コンバータ40からのデイジタル形に変換された選択されたパルスは中央処理ユニツト52へ供給され」るものである。
ここで、「中央処理ユニツト52」は、「総量を表わすアナログ信号」が「デイジタル形に変換された」「パルス」が供給されているのだから、「総量」に関する計測を行っていると認められる。
そして、引用発明の「ピストン14」、「アナログ・デイジタル コンバータ40」は、それぞれ、本願発明1の「可動体」、「A/Dコンバータ」に相当し、引用発明の「中央処理ユニツト52」は、本願発明1の「前記可動体の移動に応じた信号が、A/Dコンバータによりアナログ信号からディジタル信号に変換された信号に基づいて呼吸容量を計測する呼吸容量計測手段」に相当する。

(ウ)引用発明の「肺活量計システム」は、本願発明1の「呼吸機能検査装置」に相当する。

(エ)引用発明は、「中央処理ユニツト52はこの流量値をサンプルが採取される間に経過した時間に関して積分し総量に関する値を求め」、「中央処理ユニツト52」は「ポテンシヨメータ10からの総量計算と保証された3リツトルの注射器から肺活量計内に注入された既知総量とを比較し」、「ポテンシヨメータ10からの総量計算と保証された3リツトルの注射器から肺活量計内に注入された既知総量とが互いに所定の許容誤差内にあることを決定し、肺活量計」の「流量較正が確認される」ものである。この引用発明の「保証された3リツトルの注射器」は本願発明1の「較正用ポンプ」に相当し、そして、引用発明の「中央処理ユニツト52」は、本願発明1の「前記較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸流量計測手段により計測された実測流量に基づいて算出された算出容量と、前記基準容量とに基づいて、前記呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量を対象とする較正係数である第2較正係数を算出する第2較正係数算出手段」と、「前記較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸流量計測手段により計測された実測流量に基づいて算出された算出容量と、前記基準容量とに基づいて、前記呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量を対象とする較正」に関する処理を行う「手段」である点で、共通する。

イ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点1-2があるといえる。

【一致点】
「 呼吸に伴う可動体の移動に応じた信号が、微分回路により直流成分がカットされ、A/Dコンバータによりアナログ信号からデイジタル信号に変換される信号に基づいて呼吸流量を計測する呼吸流量計測手段と、前記可動体の移動に応じた信号が、A/Dコンバータによりアナログ信号からデイジタル信号に変換された信号に基づいて呼吸容量を計測する呼吸容量計測手段と、を備える呼吸機能検査装置であって、
基準容量の較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸流量計測手段により計測された実測流量に基づいて算出された算出容量と、前記基準容量とに基づいて、前記呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量を対象とする較正に関する処理を行う手段、を備える、
呼吸機能検査装置。」

【相違点1】
本願発明1は、「基準容量の較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸容量計測手段により計測された実測容量と、前記基準容量とに基づいて、前記呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量を対象とする較正係数である第1較正係数を算出する第1較正係数算出手段」を備えるのに対し、
引用発明は、そのような手段を備えない点。

【相違点2】
「前記呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量を対象とする較正に関する処理」が、
本願発明1は、「前記呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量を対象とする較正係数である第2較正係数を算出する」ことであるのに対し、
引用発明は、「前記呼吸流量計測手段により計測された実測流量に基づいて算出された算出容量」と「基準容量」とが「互いに所定の許容誤差内にあることを決定」することである点。

(2)相違点についての判断
ア 上記相違点1について検討する。
まず、引用発明は、呼吸に伴う可動体の移動に応じたポテンシヨメータ10のアナログ信号は、バツフア36に印加されて総量信号を得るために利得及びオフセツト調整された後に、微分回路(微分回路42)により直流成分がカットされA/Dコンバータ(アナログ・デイジタル コンバータ40)によりアナログ信号からデイジタル信号に変換されて呼吸流量計測手段(中央処理ユニット52)に供給されると共に、A/Dコンバータによりアナログ信号からデイジタル信号に変換されて呼吸容量計測手段(中央処理ユニット52)に供給されるものであり、また、基準容量の較正用ポンプ(保証された3リツトルの注射器)の動作に伴い呼吸流量計測手段により計測された実測流量に基づいて算出された算出容量と基準容量とを比較して互いに所定の許容誤差内にあることを決定し、呼吸機能検査装置の流量較正を確認するものである。
ここで、算出容量と基準容量とを比較して呼吸機能検査装置の流量較正を確認する前に、算出容量と基準容量とに基づく較正を行っているのは明らかである。引用文献1には当該較正をどのように行うのか明記はされていないが、バツフア36において総量信号を得るために利得及びオフセツト調整されるのだから、当該較正はバツフア36の利得及びオフセツト調整により行われると認められる。そして、算出容量と基準容量とに基づいてバツフア36の利得及びオフセツト調整による較正を行えば、バツフア36からA/Dコンバータを経て呼吸容量計測手段に供給される信号も較正されると考えられる。

イ この引用発明に引用文献2記載の技術を適用する場合について検討する。
引用発明と引用文献2記載の技術とはいずれも呼吸機能検査に関する点で技術分野が共通しており、また、呼吸機能検査装置の較正を行うという点で機能ないしは作用が共通しているともいえる。
しかし、上記「ア」の通り、引用発明においては算出容量と基準容量とに基づいてバツフア36の利得及びオフセツト調整による較正を行えばこれに伴って呼吸容量計測手段に供給される信号も較正されるのだから、算出容量と基準容量とに基づく上記較正とは別に、呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量を対象とする較正を行う必要はない。してみると、引用発明において呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量に対して引用文献2記載の技術、特に計測された呼吸容量と較正用ポンプの基準容量とに基づいて呼吸容量を対象とする較正係数を算出する点を適用して、呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量を対象とする較正を行うこととする動機付けはない。

ウ 更に、引用発明において、呼吸に伴う可動体の移動に応じたポテンシヨメータ10のアナログ信号はバツフア36に印加されて総量信号を得るために利得及びオフセツト調整された後に患者の呼気総量及び呼気流量の値の表示及び記録の両方或は何れか一方を行なうために設けられている出力44及び46にも供給される。
この引用発明において仮に引用文献2記載の上記の点を採用してバツフア36の利得及びオフセツト調整に代えて中央処理ユニツト52で較正係数を算出することで較正を行うこととすると、出力44及び46から出力される信号が較正されず患者の呼気総量及び呼気流量の値の表示及び記録を正確に行うことができない。すなわち、引用発明には引用文献2記載の上記の点を採用して較正係数を算出することで較正を行うこととする上で阻害要因が存在する。

エ また、上記引用文献3記載の技術は上記相違点1に相当するものではなく、また、その余の引用文献4-5にも上記相違点1に相当する技術は記載されていないことから、引用発明に引用文献3-5記載の技術を適用しても、本願発明1の構成とはならない。

オ したがって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は当業者であっても引用発明及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の「呼吸に伴う可動体の移動に応じた信号が、微分回路により直流成分がカットされ、A/Dコンバータによりアナログ信号からディジタル信号に変換される信号に基づいて呼吸流量を計測する呼吸流量計測手段と、前記可動体の移動に応じた信号が、A/Dコンバータによりアナログ信号からディジタル信号に変換された信号に基づいて呼吸容量を計測する呼吸容量計測手段と、を備える呼吸機能検査装置であって、基準容量の較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸容量計測手段により計測された実測容量と、前記基準容量とに基づいて、前記呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量を対象とする較正係数である第1較正係数を算出する第1較正係数算出手段」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明3について
(1)対比
ア 本願発明3と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

(ア)引用発明は、「光シヤフト エンコーダ12は、測定すべき患者呼気に応答するピストン14と共に運動するピストン ロツド16の運動によって作動し」、「光シヤフト エンコーダ12からの信号はデイジタル インターフエイス50に供給され、インターフエイス50内においてはフリツプフロツプ回路が光シヤフト エンコーダ12からの10cc置きのパルスを計数し、この信号は符号と共に中央処理ユニツト52に供給され」、「中央処理ユニツト(CPU)は10cc間隔でサンプルする際に経過した実時間及び発生したパルスのレートに比例する流量の値を記憶」するものである。この引用発明の「ピストン14」、「光シヤフト エンコーダ12」は、それぞれ、本願発明3の「可動体」、「ロータリーエンコーダ」に相当し、そして、引用発明の「中央処理ユニツト52」は、本願発明3の「呼吸に伴う可動体の移動に応じてロータリーエンコーダから出力されるパルス信号の間隔に基づいて呼吸流量を計測する呼吸流量計測手段」と、「呼吸に伴う可動体の移動に応じてロータリーエンコーダから出力されるパルス信号」に「基づいて呼吸流量を計測する呼吸流量計測手段」である点で共通する。

(イ)引用発明は、「光シヤフト エンコーダ12は、測定すべき患者呼気に応答するピストン14と共に運動するピストン ロツド16の運動によって作動し」、「光シヤフト エンコーダ12からの信号はデイジタル インターフエイス50に供給され、インターフエイス50内においてはフリツプフロツプ回路が光シヤフト エンコーダ12からの10cc置きのパルスを計数し、この信号は符号と共に中央処理ユニツト52に供給され、これらの正及び負の信号を加算して呼気総量が得られ」るものである。この引用発明の「ピストン14」、「光シヤフト エンコーダ12」は、それぞれ、本願発明3の「可動体」、「ロータリーエンコーダ」に相当し、そして、引用発明の「中央処理ユニツト52」は、本願発明3の「前記可動体の移動に応じてロータリーエンコーダから出力されるパルス信号に基づいて呼吸容量を計測する呼吸容量計測手段」に相当する。

(ウ)引用発明の「肺活量計システム」は、本願発明3の「呼吸機能検査装置」に相当する。

(エ)引用発明は、「中央処理ユニツト52」は「光シヤフト エンコーダ12からの総量の値」と「保証された3リツトルの注射器から肺活量計内に注入された既知総量とを比較し、光シヤフト エンコーダ12からの総量の値」と「保証された3リツトルの注射器から肺活量計内に注入された既知総量とが互いに所定の許容誤差内にあることを決定し、肺活量計の総量較正」が「確認される」ものである。この引用発明の「保証された3リツトルの注射器」は本願発明3の「基準容量の較正用ポンプ」に相当し、そして、引用発明の「中央処理ユニツト52」は、本願発明3の「基準容量の較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸容量計測手段により計測された実測容量と、前記基準容量とに基づいて、前記呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量を対象とする較正係数である第1較正係数を算出する第1較正係数算出手段」と、「基準容量の較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸容量計測手段により計測された実測容量と、前記基準容量とに基づいて、前記呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量を対象とする較正」に関する処理を行う「手段」である点で、共通する。

イ したがって、本願発明3と引用発明との間には、次の一致点、相違点3-5があるといえる。

【一致点】
「 呼吸に伴う可動体の移動に応じてロータリーエンコーダから出力されるパルス信号に基づいて呼吸流量を計測する呼吸流量計測手段と、前記可動体の移動に応じてロータリーエンコーダから出力されるパルス信号に基づいて呼吸容量を計測する呼吸容量計測手段と、を備える呼吸機能検査装置であって、
基準容量の較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸容量計測手段により計測された実測容量と、前記基準容量とに基づいて、前記呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量を対象とする較正に関する処理を行う手段、を備える、
呼吸機能検査装置。」

【相違点3】
「呼吸流量計測手段」は、
本願発明3は、「ロータリーエンコーダから出力されるパルス信号の間隔に基づいて呼吸流量を計測する」のに対し、
引用発明は、「ロータリーエンコーダから出力されるパルス信号に基づいて呼吸流量を計測する」が、「パルス信号の間隔」に基づくかは不明である点。

【相違点4】
「前記呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量を対象とする較正に関する処理」が、
本願発明3は、「前記呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量を対象とする較正係数である第1較正係数を算出する」ことであるのに対し、
引用発明は、「前記呼吸容量計測手段により計測された実測容量」と「基準容量」とが「互いに所定の許容誤差内にあることを決定」することである点。

【相違点5】
本願発明3は、「前記較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸流量計測手段により計測された実測流量に基づいて算出された算出容量と、前記基準容量とに基づいて、前記呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量を対象とする較正係数である第2較正係数を算出する第2較正係数算出手段」を備えるのに対し、
引用発明は、そのような手段を備えない点。

(2)相違点についての判断
ア 事案に鑑み、上記相違点5について検討する。
まず、引用発明は、可動体(ピストン14)の移動に応じてロータリーエンコーダ(光シヤフト エンコーダ12)から出力されるパルス信号に基づいて呼吸容量計測手段(中央処理ユニツト52)により呼吸容量を計測し、較正用ポンプ(保証された3リツトルの注射器)の動作に伴い呼吸容量計測手段により計測された実測容量と基準容量とを比較して互いに所定の許容誤差内にあることを決定し、呼吸機能検査装置の総量較正を確認するものである。
ここで、実測容量と基準容量とを比較して呼吸機能検査装置の総量較正を確認するより前に、実測容量と基準容量とに基づく較正を行っているのは明らかである。

イ この引用発明に引用文献2記載の技術の適用を試みる場合を検討する。
引用発明と引用文献2記載の技術とはいずれも呼吸機能検査に関する点で技術分野が共通しており、また、呼吸機能検査装置の較正を行うという点で機能ないしは作用が共通しているともいえる。
しかしながら、上記「ア」の通り引用発明は実測容量と基準容量とに基づく較正を行うものと認められる。その較正の方法は明らかではないが、入力軸の回転に応じてパルス信号を出力するというロータリーエンコーダの特性上、中央処理ユニツト52が実測容量を基準容量へ補正するための関係を取得している蓋然性が高い。そして、そのような関係を取得すると、当該関係より1パルス信号あたりの実際の容量を把握することができ、パルス信号に基づいて呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量を較正することも可能であると考えられる。
してみると、引用発明において呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量を較正することを着想したとしても、実測容量と基準容量とに基づく較正とは別に呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量を対象とする較正を行うことは当業者にとって明らかとはいえず、引用発明において呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量に対して引用文献2記載の技術を適用して、呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量を対象とする較正を行うこととする動機付けはない。

ウ また、上記引用文献3記載の技術は上記相違点5に相当するものではなく、また、その余の引用文献4-5にも上記相違点5に相当する技術は記載されていないことから、引用発明に引用文献3-5記載の技術を適用しても、本願発明3の構成とはならない。

エ したがって、上記相違点3-4について判断するまでもなく、本願発明3は当業者であっても引用発明及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4.本願発明4について
(1)対比
ア 本願発明4と引用発明とを対比すると、上記「3.」「(1)」「ア」の「(ア)」-「(エ)」と同じことがいえる。

イ したがって、本願発明4と引用発明との間には、次の一致点、相違点6-8があるといえる。
なお、下記一致点及び相違点6-7は、それぞれ、上記「3.」「(1)」「イ」で示した一致点及び相違点3-4と同様である。

【一致点】
「 呼吸に伴う可動体の移動に応じてロータリーエンコーダから出力されるパルス信号に基づいて呼吸流量を計測する呼吸流量計測手段と、前記可動体の移動に応じてロータリーエンコーダから出力されるパルス信号に基づいて呼吸容量を計測する呼吸容量計測手段と、を備える呼吸機能検査装置であって、
基準容量の較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸容量計測手段により計測された実測容量と、前記基準容量とに基づいて、前記呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量を対象とする較正に関する処理を行う手段、を備える、
呼吸機能検査装置。」

【相違点6】
「呼吸流量計測手段」は、
本願発明4は、「ロータリーエンコーダから出力されるパルス信号の間隔に基づいて呼吸流量を計測する」のに対し、
引用発明は、「ロータリーエンコーダから出力されるパルス信号に基づいて呼吸流量を計測する」が、「パルス信号の間隔」に基づくかは不明である点。

【相違点7】
「前記呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量を対象とする較正に関する処理」が、
本願発明4は、「前記呼吸容量計測手段により計測される呼吸容量を対象とする較正係数である第1較正係数を算出する」ことであるのに対し、
引用発明は、「前記呼吸容量計測手段により計測された実測容量」と「基準容量」とが「互いに所定の許容誤差内にあることを決定」することである点。

【相違点8】
本願発明4は、「前記較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸流量計測手段により計測された実測流量と、前記較正用ポンプの動作に伴い前記呼吸容量計測手段により計測された実測容量に基づいて算出された算出流量とに基づいて、前記呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量を対象とする較正係数である第2較正係数を算出する第2較正係数算出手段」を備えるのに対し、
引用発明は、そのような手段を備えない点。

(2)相違点についての判断
ア 事案に鑑み、上記相違点8について検討する。
引用発明に引用文献2記載の技術を適用する場合を検討すると、上記「3.」「(2)」の「ア」-「イ」で検討したとおり、引用発明において呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量に対して引用文献2記載の技術を適用する動機付けはない。また、そもそも引用文献2には「実測流量」と「算出流量」とに基づいて「呼吸流量計測手段により計測される呼吸流量を対象とする較正係数」を算出することは開示されていない。

イ また、上記引用文献3記載の技術は上記相違点8に相当するものではなく、また、その余の引用文献4-5にも上記相違点8に相当する技術は記載されていないことから、引用発明に引用文献3-5記載の技術を適用しても、本願発明4の構成とはならない。

ウ したがって、上記相違点6-7について判断するまでもなく、本願発明4は当業者であっても引用発明及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

5.本願発明5-13について
本願発明5-13は、本願発明1-4のいずれかと同一の構成を備えるものであるから、本願発明1-4と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2-5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
1.理由1(特許法第36条第6項第2号)について
原査定は、「呼吸に伴う可動体の移動に基づいて呼吸流量を検出する流量検出部により呼吸流量を計測する呼吸流量計測手段」(補正前の請求項1、2)という記載は不明確というものである。しかしながら、審判請求時の補正により、当該記載を含む「呼吸に伴う可動体の移動に基づいて呼吸流量を検出する流量検出部により呼吸流量を計測する呼吸流量計測手段と、該呼吸流量計測手段により計測された呼吸流量を用いることなく前記可動体の移動に基づいて呼吸容量を計測する呼吸容量計測手段」(補正前の請求項1、2)という記載は、「呼吸に伴う可動体の移動に応じた信号が、微分回路により直流成分がカットされ、A/Dコンバータによりアナログ信号からデイジタル信号に変換される信号に基づいて呼吸流量を計測する呼吸流量計測手段と、前記可動体の移動に応じた信号が、A/Dコンバータによりアナログ信号からデイジタル信号に変換された信号に基づいて呼吸容量を計測する呼吸容量計測手段」(補正後の請求項1、2)、または、「呼吸に伴う可動体の移動に応じてロータリーエンコーダから出力されるパルス信号の間隔に基づいて呼吸流量を計測する呼吸流量計測手段と、前記可動体の移動に応じてロータリーエンコーダから出力されるパルス信号に基づいて呼吸容量を計測する呼吸容量計測手段」(補正後の請求項3、4)であるから、原査定の理由1を維持することはできない。

2.理由2(特許法第29条第2項)について
上記「第5」のとおり、本願発明1-13は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明、並びに引用文献2-5に記載の技術に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由2を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-09-06 
出願番号 特願2017-159886(P2017-159886)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
P 1 8・ 537- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山口 裕之  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 蔵田 真彦
井上 博之
発明の名称 呼吸機能検査装置  
代理人 富崎 元成  

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