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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D06N
審判 全部申し立て 2項進歩性  D06N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D06N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D06N
管理番号 1377762
異議申立番号 異議2020-700638  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-08-25 
確定日 2021-07-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6657762号発明「壁紙」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6657762号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6657762号の請求項1、5に係る特許を維持する。 特許第6657762号の請求項2?4、6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6657762号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成27年10月16日の出願であって、令和2年2月10日にその特許権の設定登録がされ、令和2年3月4日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 2年 8月25日 :特許異議申立人藤江桂子(以下「申立人」と
いう。)による請求項1?6に係る特許に対
する特許異議の申立て
令和 2年11月30日付け:取消理由通知
令和 3年 1月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 3年 2月17日付け:訂正拒絶理由通知
令和 3年 3月10日 :特許権者による意見書及び手続補正書の提出

第2 訂正の適否
1.訂正請求書の補正について
令和3年1月26日提出の訂正請求書は、令和3年3月10日提出の手続補正書により、令和3年2月17日付け訂正拒絶理由で指摘した訂正事項7(明細書の【0018】の【表1】の「比較例2」の行に、「不陸隠蔽性」の列の「×」と記載されているのを、「○」と訂正し、同じく、「表面強度」の列の「○」と記載されているのを、「×」と訂正する事項を削除するもの)が削除され、添付の訂正明細書が補正された。この補正は、訂正事項の削除であり、訂正請求書の要旨を変更するものでないから、この補正を認める。

2.訂正の内容
令和3年3月10日提出の手続補正書により補正された訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。訂正自体を「本件訂正」という。)は、特許第6657762号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正することを求めるものであり、本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。

(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1の「裏打紙の上に発泡した樹脂層が形成され、
上記裏打紙は、坪量50g/m^(2)以上100g/m^(2)以下、かつ厚さ80μm以上150μm以下であり、
上記樹脂層は、樹脂として塩化ビニル系樹脂を含有し、坪量50g/m^(2)以上280g/m^(2)以下かつ3倍以上6倍以下の発泡倍率であり、
上記塩化ビニル系樹脂の重合度が1000以上1050以下であり、
上記樹脂層は、発泡安定剤を含有し、
上記発泡安定剤は、バリウム塩系の安定剤と亜鉛塩系の安定剤の2種類を含み、
上記バリウム塩系の安定剤の含有量と、上記亜鉛塩系の安定剤の含有量との質量比は、1:4?4:1の範囲内であることを特徴とする壁紙。」という記載を、
「裏打紙の上に発泡した樹脂層が形成され、
上記裏打紙は、坪量50g/m^(2)以上100g/m^(2)以下、かつ厚さ80μm以上150μm以下であり、
上記樹脂層は、樹脂として塩化ビニル系樹脂を含有し、坪量50g/m^(2)以上280g/m^(2)以下かつ3倍以上6倍以下の発泡倍率であり、
上記塩化ビニル系樹脂の重合度が1000以上1050以下であり、
上記樹脂層は、発泡安定剤を含有し、
上記発泡安定剤は、バリウム塩系の安定剤と亜鉛塩系の安定剤の2種類を含み、
上記バリウム塩系の安定剤の含有量と、上記亜鉛塩系の安定剤の含有量との質量比は、1:4?4:1の範囲内であり、
発泡用の発泡剤が、アゾジカルボンアミド発泡剤及びオキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤からなり、
上記アゾジカルボンアミド発泡剤の含有量と上記オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤の含有量の合計量は、上記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して1質量部以上4質量部以下の範囲内であり、
上記アゾジカルボンアミド発泡剤の含有量と上記オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤の含有量との質量比は、3:1?1:1の範囲内であり、
上記樹脂層は無機粉体を含有し、
上記樹脂層への上記無機粉体の添加量は、上記塩化ビニル系樹脂100部に対して40部以上150部以下であることを特徴とする壁紙。」と訂正する(請求項1を引用する請求項5も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項1の「上記樹脂層の上に、塩化ビニルペースト樹脂を主成分とした発泡性インキを用いて形成された印刷層を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載した壁紙。」という記載を、「上記樹脂層の上に、塩化ビニルペースト樹脂を主成分とした発泡性インキを用いて形成された印刷層を備えることを特徴とする請求項1項に記載した壁紙。」と訂正する。

(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項6を削除する。

なお、本件訂正前の請求項1?6は、請求項2?6が、それぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「樹脂層」について、「発泡用の発泡剤が、アゾジカルボンアミド発泡剤及びオキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤からなり、上記アゾジカルボンアミド発泡剤の含有量と上記オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤の含有量の合計量は、上記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して1質量部以上4質量部以下の範囲内であり、上記アゾジカルボンアミド発泡剤の含有量と上記オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤の含有量との質量比は、3:1?1:1の範囲内であり、上記樹脂層は無機粉体を含有し、上記樹脂層への上記無機粉体の添加量は、上記塩化ビニル系樹脂100部に対して40部以上150部以下」であると限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という)に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、本件特許明細書等の請求項2?4、6の記載に基づくものであるから、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記アに示したとおり、訂正前の請求項1を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2?4、6について
訂正事項2?4、6は、それぞれ特許請求の範囲の請求項2?4、6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2?4、6は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(3)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項2?4に伴い、請求項の引用関係の整合を図るために、本件訂正前は、請求項1?4を引用するものであった請求項5を、削除された請求項2?4を引用しないものとする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項5は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、令和3年3月10日提出の手続補正書により補正された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1、5に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
裏打紙の上に発泡した樹脂層が形成され、
上記裏打紙は、坪量50g/m^(2)以上100g/m^(2)以下、かつ厚さ80μm以上150μm以下であり、
上記樹脂層は、樹脂として塩化ビニル系樹脂を含有し、坪量50g/m^(2)以上280g/m^(2)以下かつ3倍以上6倍以下の発泡倍率であり、
上記塩化ビニル系樹脂の重合度が1000以上1050以下であり、
上記樹脂層は、発泡安定剤を含有し、
上記発泡安定剤は、バリウム塩系の安定剤と亜鉛塩系の安定剤の2種類を含み、
上記バリウム塩系の安定剤の含有量と、上記亜鉛塩系の安定剤の含有量との質量比は、1:4?4:1の範囲内であり、
発泡用の発泡剤が、アゾジカルボンアミド発泡剤及びオキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤からなり、
上記アゾジカルボンアミド発泡剤の含有量と上記オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤の含有量の合計量は、上記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して1質量部以上4質量部以下の範囲内であり、
上記アゾジカルボンアミド発泡剤の含有量と上記オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤の含有量との質量比は、3:1?1:1の範囲内であり、
上記樹脂層は無機粉体を含有し、
上記樹脂層への上記無機粉体の添加量は、上記塩化ビニル系樹脂100部に対して40部以上150部以下であることを特徴とする壁紙。
【請求項5】
上記樹脂層の上に、塩化ビニルペースト樹脂を主成分とした発泡性インキを用いて形成された印刷層を備えることを特徴とする請求項1に記載した壁紙。」


第4 当審の判断
1.取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?6に係る特許に対して、当審が令和2年11月30日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)理由1(進歩性)
本件訂正前の請求項1?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)理由2(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

本件訂正前の請求項1?6に係る発明が、「不陸隠蔽性を得るのに十分なボリューム感を有しかつ表面強度の高い壁粗装材を提供する」という課題を解決することが可能であることを当業者が理解できるとはいえない。

(3)理由3(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

本件訂正前の請求項1の「上記樹脂層は、・・・3倍以上6倍以下の発泡倍率であり」の記載について、加工前、加工後のいずれの構成を特定するものなのか、あるいは、製造工程を特定するものなのか理解できない。

[引用文献等一覧]
甲第1号証:特開2014-109087号公報
甲第3号証:特許第3162415号公報
甲第4号証:特開2006-306071号公報
甲第5号証:特開平2-113934号公報
甲第6号証:特開2008-38265号公報
甲第7号証:特公平4-57703号公報
甲第11号証:特許第4816369号公報

2.取消理由についての判断
(1)理由1(進歩性)について
ア 引用文献の記載事項
(ア)甲第1号証
甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【請求項1】
基材上に形成されたポリ塩化ビニル樹脂層を含む壁紙であって、前記ポリ塩化ビニル樹脂層は、発泡剤を含有したポリ塩化ビニル樹脂を主成分とする発泡樹脂組成物からなり、さらにポリ塩化ビニル樹脂層のおもて側に表面保護層を有することを特徴とする壁紙。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は壁紙、特に難燃性、不陸隠蔽性、外観意匠性に優れ且つ表面強度に優れた壁紙に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0013】
現在、壁紙に要求される表面強度は、壁紙工業会「表面強化性能規定」に基づく測定により評価される。この評価に用いられる摩擦子は金属製の爪のような形状であり極めて過酷な評価である。
【0014】
外観意匠性および不陸隠蔽性を確保するためには、ポリ塩化ビニル樹脂層に厚さが必要となる。上記難燃性を確保するポリ塩化ビニル樹脂層の質量の範囲で、外観意匠性および不陸隠蔽性を満足しさらに表面強度にも優れた壁紙の必要性が高まりつつある。
【0015】
本発明の目的は、前記従来の問題を解決し、難燃性を確保するポリ塩化ビニル樹脂層の質量の範囲で、外観意匠性に優れ且つ不陸隠蔽性、表面強度すべてを満足し、生産性にも優れた壁紙を提供することにある。」
「【0020】
本発明に用いる基材としては特に限定されず、従来から壁紙の基材として使用されている素材であればよい。例えば、紙、織物、編物、不織布、又はこれらの複合素材を使用してもよい。
【0021】
前記基材の厚さは、特に限定されないが、0.09?0.15mmであることが好ましい。また前記基材の質量としては50?100g/m^(2)、好ましくは60?80g/m^(2)であるが、これに限定されるものではない。
【0022】
ポリ塩化ビニル樹脂層は、発泡剤を含有するポリ塩化ビニル樹脂を主成分とする発泡樹脂組成物からなる。発泡樹脂組成物には、その他に可塑剤、安定剤、充填剤、着色剤およびその他の添加剤が配合される。
【0023】
前記ポリ塩化ビニル樹脂は、その平均重合度が900?1200が好ましい。平均重合度が900未満の場合はポリ塩化ビニル樹脂層の表面強度が低くなり、1200を越えると発泡性が劣り外観意匠を得るための厚さが得られないと言った問題点がある。
【0024】
本発明に用いる前記発泡剤としては、アゾジカルボンアミド等のアゾ系、オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド等のヒドラジド系などの熱分解型発泡剤が好ましく、単体若しくは併用して使用することができる。発泡剤の含有量は、前記ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し2?4質量部が好ましい。2質量部未満では発泡倍率が不足し外観意匠性が低下し、一方4質量部を越えると発泡による気泡(セル)が大きくなりポリ塩化ビニル樹脂層の表面強度が低下するという問題がある。
【0025】
本発明に用いる前記充填剤としては、一般に壁紙に用いられるものであれば特に限定されず、例えば炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タルク、シリカ等を用いることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。充填剤の含有量は発泡性を考慮し、前記ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し40質量部以下とすることが好ましく、さらには20質量部以下とすることがより好ましい。
【0026】
本発明に用いる前記可塑剤は、一般に用いられるものであれば特に限定されず、例えばジ-2-エチルヘキシルフタレートなどのフタル酸エステルの他アジピン酸エステル、リン酸エステル等を用いることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。前記可塑剤の含有量は、特に限定されないが、前記ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し30?50質量部であることが好ましい。
【0027】
本発明に用いる前記安定剤は、一般に用いられるものであれば特に限定されず、例えばバリウム亜鉛系、カルシウム亜鉛系、有機燐系化合物、有機錫系化合物等を用いることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。前記安定剤の含有量は、特に限定されないが、前記ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し1?4質量部であることが好ましい。」
「【0031】
本発明の壁紙は、前記ポリ塩化ビニル樹脂層のおもて側に必要に応じて絵柄模様層を有してもよい。絵柄模様層は壁紙に意匠性を付与し、形成方法としてはグラビア印刷、フレキソ印刷等が挙げられる。印刷インキとしては、着色剤、接着剤樹脂、溶媒を含む印刷インキが使用できる。」
「【実施例】
【0037】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた化合物ならびに原材料を下記表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1?7
壁紙用基材として質量65g/m^(2)、厚さ0.11mmの一般紙(中越パルプ工業(株)製:「CP-665PD」)を用いた。下記表2に実施例で用いた配合成分及び配合割合を示す。表2に示す配合成分を表2に示す配合割合で配合し、ディゾルバーにより調整し発泡樹脂組成物を得た。次に、基材上に、ナイフコーターを用い、上記発泡樹脂組成物を表2に示す付着量で塗工し、130℃で60秒の加熱により塗膜化した。さらに、そのおもて側に下記表3からなる表面処理剤を固形分付着量が1.1g/m^(2)となるようにグラビア印刷をおこない、130℃で60秒の加熱で乾燥した。その後、225℃のギアオーブンで45秒間加熱発泡させた。発泡させたシートを、表面温度が160℃になるように加熱し、深度0.7mmのエンボスロールを用いてエンボス加工を行い、本発明の壁紙を得た。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】


「【0044】
実施例1?7ならびに比較例1?8について、以下の評価を行った。その結果を表5ならびに表6に示す。
【0045】
【表5】


「【0047】
表中の評価方法
[発泡厚さ]
ダイヤルゲージを用い、発泡後エンボス加工前の厚さ(基材を含む)を測定。
【0048】
[製品厚さ]
ダイヤルゲージを用い、エンボス後の厚さ(基材を含む)を測定。
【0049】
[表面強度]
壁紙工業会の「表面強化性能規定」に基づいて、壁紙の表面強度を測定した。幅25mm、長さ250mmの試験片を採取し、温度20±2℃、湿度65±20%の条件で24時間放置後、JIS-L-0849で規定する摩擦試験機II形を用い、同会指定の摩擦子(荷重200gの金属製爪)を取付け、試験片上を5回往復させて表面の状態を目視により観察し、以下の基準で評価を行った。4級以上が合格と認定される。
5級 変化なし。
4級 表面に少し変化あり。
3級 表面が破けて見える。
2級 表面が破けて壁紙の基材がやや見える(長さ1cm未満)。
1級 表面が破けて壁紙の基材が見える(長さ1cm以上)。
【0050】
[外観意匠性]
目視により、エンボス形状を忠実に写し取っているかを以下の基準で判断した。
○ エンボス形状が微細部分も含め完全に再現されている。
△ エンボス形状が再現はされているが微細部分の再現が不完全である。
× エンボス形状がほとんど再現されていない。
【0051】
[不陸隠蔽性]
壁紙の施工基材である石膏ボードに、厚さが0.1mm、直径が20mmである粘着性の丸ラベルを1?3枚重ねて貼り付けた後、丸ラベルの上に壁紙を施工した。48時間後、斜光にてラベルの形状を目視で観察し、不陸隠蔽性を以下の基準で評価した。
A 丸ラベルが3枚の場合も見えない。
B 丸ラベルが3枚の場合はやや見えるが1?2枚の場合は見えない。
C 丸ラベルが3枚の場合は見え、2枚の場合はやや見えるが、1枚の場合は見え ない。
D 丸ラベルが2枚の場合は見え、1枚の場合はやや見える。
E 丸ラベルが1枚の場合も見える。」

甲第1号証の上記記載事項から、特に実施例6に着目すると、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「壁紙用基材上に形成されたポリ塩化ビニル樹脂層を含む壁紙であって、ポリ塩化ビニル樹脂層は、発泡剤を含有したポリ塩化ビニル樹脂を主成分とする発泡樹脂組成物からなり、
壁紙用基材は、質量65g/m^(2)、厚さ0.11mmであり、
ポリ塩化ビニル樹脂層は、質量180g/m^(2)であり、
ポリ塩化ビニル樹脂の平均重合度は、1150であり、
発泡樹脂組成物には、バリウム亜鉛系安定剤が配合され、
発泡剤が、アゾジカルボンアミド発泡剤であり、
アゾジカルボンアミド発泡剤の含有量は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し3.0質量部であり、
発泡樹脂組成物には、充填剤として重質炭酸カルシウムをポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し20質量部、着色剤として酸化チタンをポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し16質量部配合された壁紙。」

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「壁紙用基材」は本件発明1の「裏打紙」に相当し、以下同様に、「ポリ塩化ビニル樹脂層」は「樹脂層」に、「ポリ塩化ビニル樹脂」は「塩化ビニル系樹脂」に、「バリウム亜鉛系安定剤」は「発泡安定剤」に、「発泡剤」は「発泡用の発泡剤」に、「壁紙」は「壁紙」に相当する。
甲1発明における「壁紙用基材上」に、「ポリ塩化ビニル樹脂層」が形成され、「ポリ塩化ビニル樹脂層は、発泡剤を含有したポリ塩化ビニル樹脂を主成分とする発泡樹脂組成物からな」ることは、本件発明1における「裏打紙の上に発泡した樹脂層が形成され」ることに相当する。
甲1発明における「壁紙用基材」の「質量」は、その単位からみて、本件発明1の「裏打紙」の「坪量」に相当し、「壁紙用基材」の「質量65g/m^(2)」は、本件発明1における「裏打紙」の「坪量50g/m^(2)以上100g/m^(2)以下」の数値範囲に含まれる。
甲1発明における「壁紙用基材」の「厚さ0.11mm」は、本件発明1における「裏打紙」の「厚さ80μm以上150μm以下」の数値範囲に含まれる。
甲1発明における「ポリ塩化ビニル樹脂層」の「質量180g/m^(2)」は、本件発明1における「樹脂層」の「坪量50g/m^(2)以上280g/m^(2)以下」の数値範囲に含まれる。
「重質炭酸カルシウム」及び「酸化チタン」は「無機粉体」であり、「ポリ塩化ビニル樹脂層」を構成する「発泡樹脂組成物」に「重質炭酸カルシウム」及び「酸化チタン」が配合されることで、「ポリ塩化ビニル樹脂層」は「重質炭酸カルシウム」及び「酸化チタン」を含有するといえるから、甲1発明における「発泡樹脂組成物には、充填剤として重質炭酸カルシウムをポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し20質量部、着色剤として酸化チタンをポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し16質量部配合された」ことは、本件発明1における「上記樹脂層は無機粉体を含有」することに相当する。
甲1発明における「発泡剤が、アゾジカルボンアミド発泡剤であ」ることは、当該発泡剤がアゾジカルボンアミド発泡剤を含むといえることから、本件発明1における「発泡用の発泡剤が、アゾジカルボンアミド発泡剤及びオキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤からな」ることと、「発泡用の発泡剤が、アゾジカルボンアミド発泡剤を含む」限りで一致する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点]
「裏打紙の上に発泡した樹脂層が形成され、
上記裏打紙は、坪量50g/m^(2)以上100g/m^(2)以下、かつ厚さ80μm以上150μm以下であり、
上記樹脂層は、樹脂として塩化ビニル系樹脂を含有し、坪量50g/m^(2)以上280g/m^(2)以下であり、
上記樹脂層は、発泡安定剤を含有し、
発泡用の発泡剤が、アゾジカルボンアミド発泡剤を含み、
上記樹脂層は無機粉体を含有している壁紙。」
[相違点1]
本件発明1は、「樹脂層」が「3倍以上6倍以下の発泡倍率」であるのに対して、甲1発明は、「ポリ塩化ビニル樹脂層」の発泡倍率が不明である点。
[相違点2]
本件発明1は、「上記塩化ビニル系樹脂の重合度が1000以上1050以下」であるのに対して、甲1発明は、「ポリ塩化ビニル樹脂の平均重合度は、1150」である点。
[相違点3]
「発泡安定剤」に関して、本件発明1は、「バリウム塩系の安定剤と亜鉛塩系の安定剤の2種類を含み、上記バリウム塩系の安定剤の含有量と、上記亜鉛塩系の安定剤の含有量との質量比は、1:4?4:1の範囲内である」のに対して、甲1発明は、「バリウム亜鉛系安定剤が配合され」る点。
[相違点4]
「発泡用の発泡剤」に関して、本件発明1は、「アゾジカルボンアミド発泡剤及びオキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤からなり、上記アゾジカルボンアミド発泡剤の含有量と上記オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤の含有量の合計量は、上記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して1質量部以上4質量部以下の範囲内であり、上記アゾジカルボンアミド発泡剤の含有量と上記オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤の含有量との質量比は、3:1?1:1の範囲内であ」るのに対して、甲1発明は、「アゾジカルボンアミド発泡剤であり、アゾジカルボンアミド発泡剤の含有量は、ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し3.0質量部であ」る点。
[相違点5]
「無機粉体」に関して、本件発明1は、「上記樹脂層への上記無機粉体の添加量は、上記塩化ビニル系樹脂100部に対して40部以上150部以下である」のに対して、甲1発明は、「発泡樹脂組成物には、充填剤として重質炭酸カルシウムをポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し20質量部、着色剤として酸化チタンをポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し16質量部配合され」ている点。

(イ)判断
事案に鑑み、まず相違点5について検討する。
まず、甲第1号証の【0025】の記載によれば、「充填剤」としての「例えば炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タルク、シリカ等」、すなわち無機粉体の充填量は、「発泡性を考慮」すると、「ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し」、「さらには20質量部以下とすることがより好ましい」としているのであるから、「充填剤として」の「重質炭酸カルシウム」について、既に「より好まし」い充填量である「ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し20質量部」「配合された」甲1発明において、「ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し20質量部」を超えて配合する積極的な動機はない。
そして、甲第1号証の【0025】の記載によれば、「充填剤」としての「例えば炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タルク、シリカ等」、すなわち無機粉体の充填量は、「発泡性を考慮」すると、「ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し40質量部以下とすることが好まし」いともしているが、甲1発明は「着色剤として酸化チタンをポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し16質量部配合され」ており、「酸化チタン」も無機粉体であるから、甲1発明において、「充填剤として」の「重質炭酸カルシウム」を、「ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し」24質量部を超えて配合すると、結果的に「無機粉体」を「ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し40質量部」を超えて含有させることになるから、甲1発明において、「充填剤として」の「重質炭酸カルシウム」を「ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対し40質量部」を超えてまで配合することには、発泡性という点で阻害要因がある。
そうすると、甲1発明において、「ポリ塩化ビニル樹脂層を構成する発泡樹脂組成物」への「無機粉体」の添加量を、あえて、発泡性が悪化する、「ポリ塩化ビニル樹脂100質量部に対して」40質量部以上150質量部以下とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
また、相違点5に係る本件発明1の構成は、甲第3?7、11号証、並びに取消理由で引用しなかった甲第2号証(高分子物性研究会,「高分子劣化・崩壊の(樹脂別)トラブル対策と最新の改質・安定化技術総合技術資料集」,経営開発センター出版部,昭和56年5月31日,275?295ページ)、甲第8号証(特許第3174569号公報)、甲第9号証(特開昭60-161451号公報)及び甲第10号証(特表平9-506651号公報)にも記載されていない。
したがって、相違点1?4について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲1発明、甲第2?11号証に記載の事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1の技術的事項をすべて含み、さらに限定を加えるものであるから、上記イで検討した相違点5と同じ相違点を含むものであるので、同じ理由により、当業者が甲1発明、甲第2?11号証に記載の事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)理由2(サポート要件)について
ア 本件特許に係る発明が解決しようとする課題
本件特許に係る発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から見て、「裏打紙と樹脂層とからなる壁紙において、不陸隠蔽性を得るのに十分なボリューム感を有しかつ表面強度の高い壁装材を提供すること」(【0004】)である。

イ 本件発明1は、「樹脂層」を「樹脂として塩化ビニル系樹脂を含有し、坪量50g/m^(2)以上280g/m^(2)以下かつ3倍以上6倍以下の発泡倍率」とすることにより、「不陸隠蔽性を得るのに十分なボリューム感を有しかつ優れた表面強度を有する」(【0011】)ものとし、
「塩化ビニル系樹脂の重合度」を「1000以上1050以下」とすることにより、「壁紙の表面強度を高くすることが出来」(【0010】)、
「発泡安定剤」として、「バリウム塩系の安定剤と亜鉛塩系の安定剤の2種類を含み」、「バリウム塩系の安定剤の含有量と、亜鉛塩系の安定剤の含有量との質量比」を「1:4?4:1の範囲内」とすることにより、「熱安定性の付与と発泡厚さ増加」(【0010】)をし、
「発泡用の発泡剤」を「アゾジカルボンアミド発泡剤及びオキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤からなり、上記アゾジカルボンアミド発泡剤の含有量と上記オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤の含有量の合計量は、上記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して1質量部以上4質量部以下の範囲内であり、上記アゾジカルボンアミド発泡剤の含有量と上記オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤の含有量との質量比は、3:1?1:1の範囲内」とすることにより、「発泡倍率の確保と発泡表面の荒れ防止」(【0010】)をし、
「樹脂層への無機粉体の添加量」を「塩化ビニル系樹脂100部に対して40部以上150部以下」とすることで、「不燃性能が上がるもののボリューム感が低下」(【0011】)しないものである、すなわち、本件発明1により、上記課題を解決できることが理解できる。
本件発明1を引用する本件発明5についても、同様に、上記課題を解決することが理解できる。

ウ したがって、本件発明1、5は発明の詳細な説明に記載したものである。

(3)理由3(明確性)について
本件発明1の「上記樹脂層は、…3倍以上6倍以下の発泡倍率であり」という発明特定事項は、その記載から、完成品としての「壁紙」であることが理解できる。
本件発明1を引用する本件発明5についても、同様に、完成品としての「壁紙」であることが理解できる。
したがって、本件発明1、5は明確である。

3.取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立の理由中、取消理由に採用しなかったものは、概略以下のとおりである。

新規性
本件訂正前の請求項1?3、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、それら発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。

イ サポート要件
本件訂正前の請求項1?6に係る発明についての特許は、次の(ア)?(オ)の理由のとおり特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、それら発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである。

(ア)本件訂正前の請求項1の「上記バリウム塩系の安定剤の含有量と、上記亜鉛塩系の安定剤の含有量との質量比は、1:4?4:1の範囲内である」の記載について、発明の詳細な説明には、当該質量比の範囲内の具体例が一例も記載されていない。

(イ)本件訂正前の請求項1の「樹脂層」が「坪量50g/m^(2)以上280g/m^(2)以下」であることを特定している点について、課題が解決することができない不適例が含まれている。

(ウ)本件訂正前の請求項1に記載された「裏打紙」の「坪量」、「厚さ」の数値範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(エ)本件訂正前の請求項1における「樹脂層」を「3倍以上6倍以下の発泡倍率」であるとする記載について、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(オ)本件訂正前の請求項6における「上記樹脂層への上記無機粉体の添加量は、上記塩化ビニル系樹脂100部に対して40部以上150部以下である」の記載について、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

明確性
本件訂正前の請求項1?6に係る発明についての特許は、次の(ア)?(エ)の理由のとおり特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(ア)本件訂正前の請求項1の「上記バリウム塩系の安定剤の含有量と、上記亜鉛塩系の安定剤の含有量との質量比は、1:4?4:1の範囲内である」の記載について、技術的意味が不明確である。

(イ)本件訂正前の請求項1における「裏打紙」の「坪量」、「厚さ」の上下限の技術的意味が不明確である。

(ウ)本件訂正前の請求項1における「3倍以上6倍以下の発泡倍率」の記載について、「発泡倍率6倍」はその技術的意味が不明確である。

(エ)本件訂正前の請求項6における「上記樹脂層への上記無機粉体の添加量は、上記塩化ビニル系樹脂100部に対して40部以上150部以下である」の記載について、上下限の数値の技術的意味が不明確である。

実施可能要件
本件訂正前の請求項1?6に係る発明についての特許は、次の(ア)及び(イ)の理由のとおり特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(ア)本件訂正前の請求項1の「上記バリウム塩系の安定剤の含有量と、上記亜鉛塩系の安定剤の含有量との質量比は、1:4?4:1の範囲内である」の記載について、発明の詳細な説明には、両安定剤の質量比とその作用効果との関係が、当業者が実施できる程度に記載されていない。

(イ)本件訂正前の請求項6における「上記樹脂層への上記無機粉体の添加量は、上記塩化ビニル系樹脂100部に対して40部以上150部以下である」の記載について、発明の詳細な説明には、実施し得る程度に記載されているとはいえない。

(2)当審の判断
新規性について
上記2.(1)イ(イ)で示したとおり、本件発明1、5と甲第1号証に記載された発明との相違点5は実質的な相違点であり、他の相違点を判断するまでもなく、本件発明1、5は甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

イ サポート要件について
(ア)本件発明1、5が解決しようとする課題は、上記2.(2)アで示したとおりである。

(イ)上記(1)イ(ウ)で指摘される「裏打紙」の「坪量」、「厚さ」に関して、発明の詳細な説明には、「裏打紙1としては、坪量50?100g/m^(2)かつ厚さ80?150μmの範囲のものを採用する。これによって、壁装材として求められる剛性を確保可能となる。」(【0009】)と記載されているように、「裏打紙」の「坪量」、「厚さ」は、本件発明1、5が解決しようとする課題の解決とは直接関係しない発明特定事項である。

(ウ)上記(1)イ(ア)で指摘される「バリウム塩系の安定剤の含有量と、亜鉛塩系の安定剤の含有量との質量比」、同(イ)で指摘される「樹脂層」の「坪量」、同(エ)で指摘される「樹脂層」の「発泡倍率」及び同(オ)で指摘される「樹脂層への無機粉体の添加量」に関して、発明の詳細な説明には、上記2.(2)イで示したとおりの記載がある。
また、発明の詳細な説明に記載された実施例1(【0014】)では、「坪量270g/m^(2)」、「発泡倍率3倍」、「無機粉体100部」とされ、実施例2(【0015】)では、「坪量280g/m^(2)」、「発泡倍率3倍」、「無機粉体100部」とされており、本件発明1、5における「樹脂層」の「坪量」、「発泡倍率」及び「樹脂層への無機粉体の添加量」の数値範囲に含まれる実施例が記載されている。そして、当該実施例をみると、「バリウム塩系の安定剤の含有量と、亜鉛塩系の安定剤の含有量との質量比」については記載されていないものの、「発泡安定剤」は、「熱安定性の付与と発泡厚さ増加のため」(【0010】)に、樹脂層が含有するものであるから、「上記樹脂層は、樹脂として塩化ビニル系樹脂を含有し、坪量50g/m^(2)以上280g/m^(2)以下かつ3倍以上6倍以下の発泡倍率であり、上記塩化ビニル系樹脂の重合度が1000以上1050以下であ」る限りで、「上記バリウム塩系の安定剤の含有量と、上記亜鉛塩系の安定剤の含有量との質量比は、1:4?4:1の範囲内」で本件発明1、5が解決しようとする課題を解決できる。

(エ)そうすると、本件発明1、5の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえない。
したがって、本件発明1、5は発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。

明確性について
本件発明1の「上記バリウム塩系の安定剤の含有量と、上記亜鉛塩系の安定剤の含有量との質量比は、1:4?4:1の範囲内である」との記載、「裏打紙」の「坪量」、「厚さ」に関する記載、「3倍以上6倍以下の発泡倍率」、「上記樹脂層への上記無機粉体の添加量は、上記塩化ビニル系樹脂100部に対して40部以上150部以下である」の記載に関して、「バリウム塩系の安定剤の安定剤の含有量」については、本願特許明細書等に「発泡安定剤としては、熱安定性の付与と発泡厚さの増加のため、2種類の安定剤(バリウム塩系と亜鉛塩系)を1:4?4:1の割合で、2種類の合計が塩化ビニル系樹脂100部に対して1?4部になるよう混合することができる。」(【0010】)、「裏打紙」の「坪量」、「厚さ」については、本願特許明細書等に「裏打紙1としては、坪量50?100g/m^(2)かつ厚さ80?150μmの範囲のものを採用する。これによって、壁装材として求められる剛性を確保可能となる。」(【0009】)、「樹脂層への無機粉体の添加量」については、本件特許明細書等に「無機粉体は、樹脂層2を構成する塩化ビニル系樹脂100部に対して40?150部を加えることが好ましい。ここで、無機粉の量が、150部を超えると、不燃性能が上がるもののボリューム感が低下するおそれがある。」(【0011】)と記載されたとおりであるから、その技術的意味は明らかである。
したがって、本件発明1、5は明確である。

実施可能要件について
本件発明1の「上記バリウム塩系の安定剤の含有量と、上記亜鉛塩系の安定剤の含有量との質量比は、1:4?4:1の範囲内である」の記載に関して、発明の詳細な説明には、バリウム塩系の安定剤と、亜鉛塩系の安定剤とは、「熱的安定性の付与と、発泡厚さ増加のため」(【0010】)に混合するものである旨が記載されており、「バリウム塩系の安定剤の含有量と、亜鉛塩系の安定剤の含有量との質量比」に関して、「熱的安定性」と「発泡厚さ」に着目することにより、本件発明1、5を実施することができることが理解できる。
本件発明1の「上記樹脂層への上記無機粉体の添加量は、上記塩化ビニル系樹脂100部に対して40部以上150部以下である」の記載に関して、発明の詳細な説明には、「無機粉体は、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪砂、タルク、シリカ類、ケイ酸マグネシウム、ホウ酸亜鉛、二酸化チタン等からなる。無機粉体は、樹脂層2を構成する塩化ビニル系樹脂100部に対して40?150部を加えることが好ましい。ここで、無機粉の量が、150部を超えると、不燃性能が上がるもののボリューム感が低下するおそれがある。」(【0011】)と記載されており、例示された無機粉体を用いつつ、「不燃性能」と「ボリューム感」に着目することにより、本件発明1、5を実施することができることが理解できる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、5を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

第5 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件発明1、5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、5に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
さらに、請求項2?4及び6に係る特許は、上記のとおり、本件訂正により削除された。これにより、請求項2?4及び6に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏打紙の上に発泡した樹脂層が形成され、
上記裏打紙は、坪量50g/m^(2)以上100g/m^(2)以下、かつ厚さ80μm以上150μm以下であり、
上記樹脂層は、樹脂として塩化ビニル系樹脂を含有し、坪量50g/m^(2)以上280g/m^(2)以下かつ3倍以上6倍以下の発泡倍率であり、
上記塩化ビニル系樹脂の重合度が1000以上1050以下であり、
上記樹脂層は、発泡安定剤を含有し、
上記発泡安定剤は、バリウム塩系の安定剤と亜鉛塩系の安定剤の2種類を含み、
上記バリウム塩系の安定剤の含有量と、上記亜鉛塩系の安定剤の含有量との質量比は、1:4?4:1の範囲内であり、
発泡用の発泡剤が、アゾジカルボンアミド発泡剤及びオキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤からなり、
上記アゾジカルボンアミド発泡剤の含有量と上記オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤の含有量の合計量は、上記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して1質量部以上4質量部以下の範囲内であり、
上記アゾジカルボンアミド発泡剤の含有量と上記オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド発泡剤の含有量との質量比は、3:1?1:1の範囲内であり、
上記樹脂層は無機粉体を含有し、
上記樹脂層への上記無機粉体の添加量は、上記塩化ビニル系樹脂100部に対して40部以上150部以下であることを特徴とする壁紙。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
上記樹脂層の上に、塩化ビニルペースト樹脂を主成分とした発泡性インキを用いて形成された印刷層を備えることを特徴とする請求項1項に記載した壁紙。
【請求項6】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-07-02 
出願番号 特願2015-204769(P2015-204769)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (D06N)
P 1 651・ 121- YAA (D06N)
P 1 651・ 536- YAA (D06N)
P 1 651・ 537- YAA (D06N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊藤 寿美  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 石井 孝明
藤井 眞吾
登録日 2020-02-10 
登録番号 特許第6657762号(P6657762)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 壁紙  
代理人 廣瀬 一  
代理人 廣瀬 一  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 宮坂 徹  
代理人 宮坂 徹  

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