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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1377788
異議申立番号 異議2020-700861  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-11-11 
確定日 2021-08-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6700460号発明「球状窒化アルミニウム粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6700460号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6700460号の請求項3?7に係る特許を維持する。 特許第6700460号の請求項1、2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6700460号の請求項1?6に係る特許についての出願は、令和1年8月2日に出願され、令和2年5月7日にその特許権の設定登録がされ、令和2年5月27日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の請求項1?6について、令和2年11月11日に特許異議申立人 星 正美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年1月26日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和3年4月1日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)に対して、申立人は、令和3年5月11日に意見書を提出した。

第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
前記訂正の請求は、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の訂正であって、一群の請求項を構成する本件訂正前の請求項1?6を訂正の単位とするものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項及び同法第120条の5第4項の規定に従うものであるところ、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)?(7)のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
ア 訂正事項3-1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に
「粒子全体の95%以上の粒子が、0.7以上の球形度を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の球状窒化アルミニウム粉末。」
と記載されているのを、
「平均粒子径が2?30μmであり、AlNからなる主成分、及び、希土類化合物からなる副成分を含有し、粉末の70%以上の粒子は、倍率10000倍で粉末を撮影したSEM写真によって取得された各粒子の平面投影形状において、円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在により接線の傾きが不連続的に変化する不連続点を含まず、周全体として円弧部位を組み合わせてなり該円弧部位の継目にも前記角部及び凹凸部が現れないように漸次的に変化する曲線を描く外周形状を有した球状粒子であり、
粒子全体の95%以上の粒子が、樹脂及び球状窒化アルミニウム粉末を混合し硬化させて得た成形体の研磨面を倍率2000倍で撮影したSEM写真において、0.7以上の球形度を有していることを特徴とする球状窒化アルミニウム粉末。」
と訂正する(請求項3を引用する請求項4?6も同様に訂正する。)。

イ 訂正事項3-2
新たに下記請求項7を追加する。
「平均粒子径が2.8?7.7μmであり、AlNからなる主成分、及び、希土類化合物からなる副成分を含有し、粉末の70%以上の粒子は、倍率10000倍で粉末を撮影したSEM写真によって取得された各粒子の平面投影形状において、円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在により接線の傾きが不連続的に変化する不連続点を含まず、周全体として円弧部位を組み合わせてなり該円弧部位の継目にも前記角部及び凹凸部が現れないように漸次的に変化する曲線を描く外周形状を有した球状粒子であり、
粒子全体の95%以上の粒子が、樹脂及び球状窒化アルミニウム粉末を混合し硬化させて得た成形体の研磨面を倍率2000倍で撮影したSEM写真において、0.7以上の球形度を有していることを特徴とする球状窒化アルミニウム粉末。」

(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に
「粒子全体の80%以上の粒子が、0.8以上の球形度を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の球状窒化アルミニウム粉末。」
と記載されているのを、
「粒子全体の80%以上の粒子が、0.8以上の球形度を有していることを特徴とする請求項3に記載の球状窒化アルミニウム粉末。」
と訂正する(請求項4を引用する請求項5、6も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「AlN100重量%に対して酸化物換算で1?10重量%の希土類化合物を含有し、前記希土類化合物は、Y、Yb、La、Nd、Smの酸化物又はアルミン酸化合物からなる群の少なくとも1種から選択されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の球状窒化アルミニウム粉末。」
と記載されているのを、
「AlN100重量%に対して酸化物換算で1?10重量%の希土類化合物を含有し、前記希土類化合物は、Y、Yb、La、Nd、Smの酸化物又はアルミン酸化合物からなる群の少なくとも1種から選択されることを特徴とする請求項3又は4に記載の球状窒化アルミニウム粉末。」
と訂正する(請求項5を引用する請求項6も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に
「比表面積が1.6m^(2)/g以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の球状窒化アルミニウム粉末。」
と記載されているのを、
「比表面積が1.6m^(2)/g以下であることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の球状窒化アルミニウム粉末。」
と訂正する。

(7)訂正事項7
ア 本件訂正前の明細書の【0018】に
「【図1】本発明の一実施形態(実施例1)の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真。
【図2】本発明の一実施形態(実施例11)の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真。
【図3】従来例(特許文献2)の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真。
【図4】本発明の比較例1の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真。
【図5】本発明の比較例2の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真。
【図6】本発明の比較例6の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真。
【図7】本発明の比較例10の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真。
【図8】本発明の一実施形態の窒化アルミニウム焼結体のXRD分析結果を示すグラフであって、(a)が実施例1を示し、(b)が実施例11を示す。」
と記載されているのを、
「【図1】本発明の一実施形態(実施例1)の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。
【図2】本発明の一実施形態(実施例11)の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。
【図3】従来例(特許文献2)の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。
【図4】本発明の比較例1の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。
【図5】本発明の比較例2の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。
【図6】本発明の比較例6の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。
【図7】本発明の比較例10の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。
【図8】本発明の一実施形態の窒化アルミニウム焼結体のXRD分析結果を示すグラフであって、(a)が実施例1を示し、(b)が実施例11を示す。」
と訂正する。

イ 本件訂正前の明細書の【0053】に
「D.各サンプルの球状窒化アルミニウム粉末に関して、分析用のSEM写真を取得して粒子形状の分析を行った。具体的には、エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製エポトートYH-300)、硬化剤(日立化成株式会社製HN-2200)、及び、作製した球状窒化アルミニウム粉末を混合したものをシリコン型に入れて熱硬化させて成形体を得た。次に、成形体を研磨し、その研磨面を走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 S-3400N)で倍率2000倍で撮影した。取得したSEM画像に対して、画像処理ソフト「ImageJ」を使用して任意の100個以上の粒子の画像解析を実行した。ここでは、平均球形度、球形度比率、平均アスペクト比、及び、SEM写真の観察結果によってサンプルを評価した。平均球形度は、上述した数式によって任意の100個以上の粒子の全ての球形度を求めた上でその平均値を求めることによって算出された。球形度比率は、解析した任意の100個以上の全粒子中、所定の値(0.85、0.8、0.7)以上の球形度を有する粒子の数の割合である。平均アスペクト比は、任意の100個以上の粒子の全てのアスペクト比を求めた上でその平均値を求めることによって算出された。各粒子のアスペクト比は、SEM写真画像から画像処理ソフト「ImageJ」を用いて粒子を楕円近似し、その楕円の短径(DS)と長径(DL)を求め、DS/DLで計算される。SEM写真の観察結果については、取得したSEM写真(例えば図1、2、4、5、6、7)において、粒子外周の角部、凹凸部の有無を目視で確認し、少なくとも70%以上の粒子が外周に角部、凹凸部を有していないサンプルを「○」と評価し、そうでないサンプルを「×」と評価した。なお、角部は、SEM写真において円弧状に連続しない箇所(不連続点)である。また、凹凸部は、SEM写真において球面から明らかに凹んだ箇所又は隆起した箇所である。」
と記載されていたのを、
「D.各サンプルの球状窒化アルミニウム粉末に関して、分析用のSEM写真を取得して粒子形状の分析を行った。具体的には、エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製エポトートYH-300)、硬化剤(日立化成株式会社製HN-2200)、及び、作製した球状窒化アルミニウム粉末を混合したものをシリコン型に入れて熱硬化させて成形体を得た。次に、成形体を研磨し、その研磨面を走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 S-3400N)で倍率2000倍で撮影した。取得したSEM画像に対して、画像処理ソフト「ImageJ」を使用して任意の100個以上の粒子の画像解析を実行した。ここでは、平均球形度、球形度比率、平均アスペクト比、及び、SEM写真の観察結果によってサンプルを評価した。平均球形度は、上述した数式によって任意の100個以上の粒子の全ての球形度を求めた上でその平均値を求めることによって算出された。球形度比率は、解析した任意の100個以上の全粒子中、所定の値(0.85、0.8、0.7)以上の球形度を有する粒子の数の割合である。平均アスペクト比は、任意の100個以上の粒子の全てのアスペクト比を求めた上でその平均値を求めることによって算出された。各粒子のアスペクト比は、SEM写真画像から画像処理ソフト「ImageJ」を用いて粒子を楕円近似し、その楕円の短径(DS)と長径(DL)を求め、DS/DLで計算される。SEM写真の観察結果については、倍率10000倍で取得したSEM写真(例えば図1、2、4、5、6、7)において、粒子外周の角部、凹凸部の有無を目視で確認し、少なくとも70%以上の粒子が外周に角部、凹凸部を有していないサンプルを「○」と評価し、そうでないサンプルを「×」と評価した。なお、角部は、SEM写真において円弧状に連続しない箇所(不連続点)である。また、凹凸部は、SEM写真において球面から明らかに凹んだ箇所又は隆起した箇所である。」
と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1及び2について
訂正事項1及び2による訂正は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1、2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項3について
訂正事項3(訂正事項3-1、訂正事項3-2)による訂正は、訂正前の請求項3について、請求項1又は2を引用していた部分をそれぞれ書き下して、新たに請求項3及び請求項7とするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当するとともに、引用請求項であった訂正前の請求項1における、
(a3)「各粒子の平面投影形状」の取得方法
(a4)接線の傾きが不連続的に変化する不連続点の判別方法
(a5)「漸次的に変化する曲線を描くように」との点
がそれぞれ明瞭でなかったところ、これらを、
(a3)「倍率10000倍で粉末を撮影したSEM写真によって取得された各粒子の平面投影形状」と訂正して、「各粒子の平面投影形状」の取得方法を明瞭にし、
(a4)「円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在により接線の傾きが不連続的に変化する不連続点を含まず」と訂正して、接線の傾きが不連続的に変化する不連続点の判別方法を明瞭にし、
(a5)「周全体として円弧部位を組み合わせてなり該円弧部位の継目にも前記角部及び凹凸部が現れないように漸次的に変化する曲線を描く外周形状」と訂正して、「漸次的に変化する曲線を描く」との記載を明瞭にするためのものであるから、
特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもある((a3)?(a5)の記号は、訂正請求書の7(3)イ(ウ)に対応する。)。
そして、訂正事項3による訂正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項4?6について
訂正事項4?6による訂正は、本件訂正前の請求項4?6において、選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項7について
訂正事項7による訂正は、本件訂正前の明細書の【0018】、【0053】の「SEM写真」の倍率が明瞭でなかったところ、「SEM写真」の倍率が「倍率10000倍」であることを明記し、記載を明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項7による訂正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

第3 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正の請求は適法にされたものであり認容できるから、本件特許の請求項3?7に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項3?7に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認められる(以下、各請求項に係る発明を項番号に合わせて「本件発明3」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
なお、本件訂正により請求項1、2は削除された。また、本件発明7は、本件訂正前の請求項3に係る発明から派生したものであるから、これも本件特許異議の申立ての対象とする。
「【請求項3】
平均粒子径が2?30μmであり、AlNからなる主成分、及び、希土類化合物からなる副成分を含有し、粉末の70%以上の粒子は、倍率10000倍で粉末を撮影したSEM写真によって取得された各粒子の平面投影形状において、円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在により接線の傾きが不連続的に変化する不連続点を含まず、周全体として円弧部位を組み合わせてなり該円弧部位の継目にも前記角部及び凹凸部が現れないように漸次的に変化する曲線を描く外周形状を有した球状粒子であり、
粒子全体の95%以上の粒子が、樹脂及び球状窒化アルミニウム粉末を混合し硬化させて得た成形体の研磨面を倍率2000倍で撮影したSEM写真において、0.7以上の球形度を有していることを特徴とする球状窒化アルミニウム粉末。
【請求項4】
粒子全体の80%以上の粒子が、0.8以上の球形度を有していることを特徴とする請求項3に記載の球状窒化アルミニウム粉末。
【請求項5】
AlN100重量%に対して酸化物換算で1?10重量%の希土類化合物を含有し、前記希土類化合物は、Y、Yb、La、Nd、Smの酸化物又はアルミン酸化合物からなる群の少なくとも1種から選択されることを特徴とする請求項3又は4に記載の球状窒化アルミニウム粉末。
【請求項6】
比表面積が1.6m^(2)/g以下であることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の球状窒化アルミニウム粉末。
【請求項7】
平均粒子径が2.8?7.7μmであり、AlNからなる主成分、及び、希土類化合物からなる副成分を含有し、粉末の70%以上の粒子は、倍率10000倍で粉末を撮影したSEM写真によって取得された各粒子の平面投影形状において、円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在により接線の傾きが不連続的に変化する不連続点を含まず、周全体として円弧部位を組み合わせてなり該円弧部位の継目にも前記角部及び凹凸部が現れないように漸次的に変化する曲線を描く外周形状を有した球状粒子であり、
粒子全体の95%以上の粒子が、樹脂及び球状窒化アルミニウム粉末を混合し硬化させて得た成形体の研磨面を倍率2000倍で撮影したSEM写真において、0.7以上の球形度を有していることを特徴とする球状窒化アルミニウム粉末。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和3年1月26日付けで特許権者に通知した取消理由は、本件訂正前の請求項1?6に係る特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性)を満たしていない特許出願に対してされたものであり取り消されるべきものである、というものであり、特に、「各粒子の平面投影形状」の取得方法について(取消理由通知の第2の1(1))、接線の傾きが不連続的に変化する不連続点の判別方法について(取消理由通知の第2の1(2))、及び、「漸次的に変化する曲線を描くように」との点について((取消理由通知の第2の1(3)))、それぞれ指摘したものである。

2 取消理由(明確性要件違反)についての当審の判断
(1)「各粒子の平面投影形状」の取得方法について
「各粒子の平面投影形状」の取得方法についての指摘は、要するに、各粒子の平面投影形状を取得する方法について、SEM写真の倍率が2000倍なのか10000倍なのか不明であり、また、成形体の研磨面を撮影するのか粒子自体を撮影するのか不明であるというものである。
しかしながら、本件訂正により、本件発明3?7の「各粒子の平面投影形状」において、外周形状の評価に際しては倍率10000倍で粒子自体を撮影したものであること、球形度の測定に際しては倍率2000倍で成形体の研磨面を撮影したものであることが、それぞれ明示された。したがって、「各粒子の平面投影形状」の取得方法について、本件発明3?7は明確であるといえる。

(2)接線の傾きが不連続的に変化する不連続点の判別方法について
接線の傾きが不連続的に変化する不連続点の判別方法についての指摘は、要するに、接線の傾きが不連続的に変化する不連続点を明確に判別することができないというものである。
しかしながら、本件訂正により、本件発明3?7において、「接線の傾きが不連続的に変化する不連続点」とは「円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在」によるものであることが明らかになった。そして、この「円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在」は、倍率10000倍のSEM写真を観察することで当業者が判別することができるものといえるから、接線の傾きが不連続的に変化する不連続点の判別方法について、本件発明3?7は明確であるといえる。

(3)「漸次的に変化する曲線を描くように」との点について
「漸次的に変化する曲線を描くように」との点についての指摘は、要するに、「漸次的」かどうかの判断基準が不明確であるというものである。
しかしながら、本件訂正により、本件発明3?7において、「漸次的に変化する曲線を描く」とは、「周全体として円弧部位を組み合わせてなり該円弧部位の継目にも前記角部及び凹凸部が現れない」ことにより判別できることが明らかになった。そして、この「円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在」は、倍率10000倍のSEM写真を観察することで当業者が判別することができるものであるといえるから、「漸次的に変化する曲線を描くように」との点について、本件発明3?7は明確であるといえる。

3 小括
以上のとおりであるから、前記取消理由に理由はない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 標記特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立理由として、明確性要件違反及び進歩性欠如を主張するところ、前者については、前記第4において既に検討をしているから、ここでは、後者について検討をする。
後者の申立理由(進歩性欠如)は、要するに、次のとおりである。
本件訂正前の請求項1?4、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1、3?6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2004-224618号公報
甲第3号証:特開2002-179413号公報
甲第4号証:国際公開2013/145961号
甲第5号証:国際公開2014/126141号
甲第6号証:特開2012-56774号公報

2 甲各号証とその記載内容
(1)甲第1号証の記載内容
甲第1号証には、以下ア?エの記載がある(当審注:「・・・」は当審による省略を表す。下線は当審による。以下、同様である。)。

ア「【請求項1】
窒化アルミニウム粉末をフラックス処理して球状窒化アルミニウムフィラーを製造する方法であって、窒化アルミニウム粉末を、フラックス中で球状化処理するにあたり、窒化ホウ素質、窒化アルミニウム質又は窒化ケイ素質の処理容器を用いて不活性ガス中1650?1900℃で処理することを特徴とする球状窒化アルミニウムフィラーの製造方法。」

イ「【0009】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明では、窒化アルミニウム粉末をフラックス中で熱処理することにより、粒子を球状化する。処理される窒化アルミニウム粉末の製造方法は、特に限定されず、その平均粒子径は、通常、0.5?50μmであれば良い。フラックス原料としては、例えば、アルカリ土類金属化合物や希土類金属化合物が好適に用いられ、具体的には、カルシウム、マグネシウム、イットリウム及びリチウムの酸化物、乃至は加熱中の分解により上記のものを生じる前駆体、例えば、それらの炭酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、ハロゲン化物及びアルコキシド等が例示される。しかし、これらに制限されるものではなく、アルミニウムの酸化物や窒化物と反応して反応温度において溶融する複合化合物を形成するものであれば適宜のものを用いることができる。混合及び反応性を向上させるために、フラックス原料の平均粒子径は10μm以下が好適である。フラックス原料の添加量は、窒化アルミニウム粉末の粒子径にもよるが、通常、窒化アルミニウム粉末が1重量部に対して、フラックス原料が金属総量換算で0.05?1重量部が好適である。フラックス原料の添加量が0.05重量部より少ないと窒化アルミニウムの球状化が十分に進行しない。また、フラックス原料の添加量が1重量部を超えると、フラックスの除去に時間が掛かり、球状窒化アルミニウムフィラーの収率が落ちるので好ましくない。」

ウ「【0015】
(2)球状窒化アルミニウムフィラーの作製
直接窒化法により合成された窒化アルミニウム粉末とフラックス原料の炭酸カルシウム粉末を混合した後、窒化ホウ素質容器に充填し、窒素ガス雰囲気中1750℃で5時間熱処理を行い、窒化アルミニウムフィラーとフラックスの凝集体を得た。合成条件を表1に示す。後述のフラックス分離処理と脱炭処理を経た窒化アルミニウムフィラーを走査型電子顕微鏡で観察した結果、全て球状であることを確認した。尚、図1に、走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。」

エ「【図1】



(2)甲第3号証の記載内容
甲第3号証には、以下アの記載がある。
ア「【0011】実施例3
アルミナ還元窒化法により合成された窒化アルミニウム微粉末(平均一次粒径0.5ミクロン)を炭酸カルシウム及び酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))と80:10:10、80:20:10、及び80:0:20のモル比で混合した後、窒素雰囲気中、1800℃で6時間熱処理し、球状窒化アルミニウムフィラーの作製を行った。80:10:10及び80:20:10の組成比においては、炭酸カルシウムのみをフラックスとして用いた場合と同様に(1+1)塩酸溶液中で攪拌しながらフラックス部分を溶かし、球状化した窒化アルミニウムを単離することが可能であった。しかし、酸化イットリウムのみを使用した場合、Y_(2)O_(3)やY_(4)Al_(2)O_(9)等が残留し易い。フラックス中に析出したこれらの結晶相は、窒化アルミニウムに比べて粒径が非常に小さいので、酸処理後に分級処理をすることにより球状窒化アルミニウムを単離することができる。」

(3)甲第4号証の記載内容
甲第4号証には、以下ア、イの記載がある。
ア「[0009] 本発明の硬化性放熱組成物は、優れた厚さ方向の放熱性を有することから、パワー半導体、光半導体を含む半導体素子、半導体装置、回路用金属板、前記金属板からなる回路、回路基板、混成集積回路分野等の電気部品を固定する接着剤やシートとして使用することができる。」

イ「[0022] 圧縮破壊強度が小さいフィラー(B)の例としては、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素などの金属酸化物の凝集粒、水酸化ニッケル、水酸化イットリウムなどの金属水酸化物の凝集粒、タンタルなどの金属の凝集粒、炭酸カルシウム、マンガン酸リチウムなどの塩の凝集粒、六方晶窒化ホウ素(hBN)凝集粒を挙げることができる。これらの中でも、優れた放熱性を得ることができるという観点からhBN凝集粒が好ましい。」

(4)甲第5号証の記載内容
甲第5号証には、以下アの記載がある。
ア「[0015] 本発明の樹脂組成物の硬化体である高熱伝導性樹脂成型体に特に高い耐水性が要求される場合、樹脂との混合前に予め窒化アルミニウム粒子を耐水処理し、耐水性窒化アルミニウム粒子として用いることも好ましい。この様な耐水処理に用いる処理剤(以下、耐水化処理剤ともいう)としては、リン酸、リン酸アルミニウム等の金属リン酸塩、酸性リン酸エステル、ホスホン酸化合物、シランカップリング剤、有機酸などがあるが、中でもリン酸、リン酸アルミニウム等の金属リン酸塩、酸性リン酸エステルのいずれか、或いはこれらを組み合わせて用いる事が好適である。上記リン酸は特に限定されず公知のものを使用することが出来る。それらを例示すると、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸などがある。また、金属リン酸塩の例としてはリン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸ストロンチウム、リン酸バリウム、リン酸アルミニウム、リン酸ガリウム、リン酸ランタンなどの酸性水溶液を挙げることが出来る。・・・」

(5)甲第6号証の記載内容
甲第6号証には、以下ア?ウの記載がある。
ア「【請求項1】
平均粒子径3?30μm、真球度0.75以上、酸素濃度1重量%以下であり、前記平均粒子径をd(μm)としたときに、比表面積S(m^(2)/g)が下記式(1)を満足することを特徴とする球状窒化アルミニウム粉末。
(1.84/d)≦S≦(1.84/d+0.5) (1)」

イ「【表1】



ウ「【図1】



3 申立理由(進歩性欠如)についての当審の判断
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、前記2(1)アの請求項1に記載のとおり、球状窒化アルミニウムフィラーの製造方法について記載され、当然のことながら、前記2(1)エの図1にみられるように、当該製造方法により製造された該フィラー自体についても記載されているといえるから、甲第1号証には、次の発明(以下、後者の物の発明を「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

・「窒化アルミニウム粉末をフラックス処理して球状窒化アルミニウムフィラーを製造する方法であって、窒化アルミニウム粉末を、フラックス中で球状化処理するにあたり、窒化ホウ素質、窒化アルミニウム質又は窒化ケイ素質の処理容器を用いて不活性ガス中1650?1900℃で処理する球状窒化アルミニウムフィラーの製造方法。」
・「上記の製造方法により製造された球状窒化アルミニウムフィラー。」

(2)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。

・相違点1:本件発明3は、「粒子全体の95%以上の粒子が、樹脂及び球状窒化アルミニウム粉末を混合し硬化させて得た成形体の研磨面を倍率2000倍で撮影したSEM写真において、0.7以上の球形度を有している」と特定しているのに対し、甲1発明は、そのような特定をしていない点。

イ 相違点1についての検討
以下、前記アの相違点1について検討する。
前記2(1)ア?エによれば、確かに、甲第1号証には、窒化アルミニウム粉末をフラックス中で熱処理することにより、粒子を球状化することが記載されており、また、作製された球状窒化アルミニウムフィラーの走査型電子顕微鏡による観察結果が、図1に示されている。
しかしながら、甲第1号証には、相違点1に係る「粒子全体の95%以上の粒子が、樹脂及び球状窒化アルミニウム粉末を混合し硬化させて得た成形体の研磨面を倍率2000倍で撮影したSEM写真において、0.7以上の球形度を有している」ものとする点については、何ら記載も示唆もされていない。他の証拠をみても同様である。
そうである以上、甲1発明において、前記相違点1に係る本件発明3の発明特定事項を有するものとすることを、甲第1、3?6号証に記載された事項に基いて当業者が容易になし得るとはいえない。

(3)本件発明4、6、7について
本件発明4、6は、本件発明3を引用するものであって、本件発明3の発明特定事項をさらに減縮したものであるから、前記(2)イに示した理由と同様の理由により、甲1発明などに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。また、本件発明7は、本件発明3の「平均粒子径」の範囲をさらに限定したものであるから、前記(2)イに示した理由と同様の理由により、甲1発明などに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 令和3年5月11日付けの意見書における申立人の主張について
申立人は、令和3年5月11日付けの意見書にて、不連続点の判定方法(意見書(4.1)を参照。)、漸次的変化の判別方法(意見書(4.2)を参照。)、及び「各粒子の平面投影形状」の取得方法(意見書(4.3)を参照。)、について、接線の傾きの連続性/不連続性や円弧状の連続性/不連続性等がSEM写真から客観的に判定できない旨主張している。
そこで検討するに、本件明細書の【0053】には、具体的な走査電子顕微鏡や、画像処理ソフトを用いたSEM写真の観察方法が記載され、また、図1、2、4?7には、実際に撮影されたSEM写真が倍率等の撮影情報とともに示されているのであるから、これらの明細書の記載と観察に使用された走査電子顕微鏡等の観察環境に関する技術常識とを合わせみれば、当業者であれば、SEM写真の解像度や分解能がどの程度のものであるのかを理解することができ、さらに、本件発明における、接線の傾きの連続性/不連続性や円弧状の連続性/不連続性等を、当該SEM写真から相応に把握できると考えるのが合理的である。
よって、申立人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項3?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項3?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1、2は訂正により削除されたため、これらの請求項に係る特許異議の申立てについては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
球状窒化アルミニウム粉末
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状窒化アルミニウム粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、優れた熱伝導性を有するセラミック材料として窒化アルミニウムが知られており、その焼結基板は、高い放熱性能を要する電子機器等に広く用いられている。また、窒化アルミニウム粉末は、その優れた熱伝導性を活かし、グリース、接着剤、塗料などの材料に混合するフィラーとして利用されている。例えば、フィラーに要求される材料特性には、充填性、混錬性及び熱伝導性がある。フィラーの充填性が高いほど、樹脂等の材料に高濃度で粉末を混ぜ込むことができる。フィラーの混錬性が高いほど、フィラーを材料に対してより高濃度で混合し易くなる。フィラーの熱伝導性が高いほど、フィラー充填材料の放熱性能が高くなる。すなわち、フィラーのこれら材料特性を改善することにより、より高い放熱性を有するフィラー充填材料を得ることができる。これに対し、フィラーの材料特性を改善する種々の取り組みが成されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、樹脂に配合する際の流動性や充填性を高める目的で球状化した球状窒化アルミニウム粉体とその製造方法を開示する。特許文献1において、直接窒化法及びアルミナ還元窒化法により合成された不定形の窒化アルミニウム粉末をフラックス中で熟成し、球状化させる。この場合、上記不定形の窒化アルミニウム粉末をアルカリ土類元素、希土類元素、アルミニウム、イットリウム、リチウムの酸化物又は窒化物、ないしは加熱中の分解により上記のものを生じる前駆体(炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、アルコキシド等)より成るフラックスと混合する。次に、これらを窒素又はアルゴン雰囲気中、1600?2000℃で熱処理して得られた凝集体を、粉砕した後、塩酸、硝酸等の適宜の酸性溶液中で攪拌しながらフラックス部分を溶かし、平滑な表面を持った球状窒化アルミニウムを単離することで、窒化アルミニウム粉末を得る。このようにして得られた窒化アルミニウムは、例えば、平均粒子径が0.1?100ミクロンで、特許文献1の図2及び図3の不鮮明な画像において見かけ上、平滑な表面と球状の形態を持つ。しかしながら、フラックス法を採用すると、フラックスを強酸で除去する過程において、粒子表面が荒らされて各粒子の表面積が大きくなること、また、粒子の粒径分布を制御することができないことから、混練性及び充填性が大きく低下するという問題があった。なお、特許文献1の球状窒化アルミニウム粉体は、発明者らによって比較例6?13として再現されており、後述の表3、表4、図6及び図7が、その特性を示している。
【0004】
これに対し、特許文献2は、フラックス法を採用せずに充填性及び混錬性を改善すべく、1μm以下の微粒子が少ないフィラー用窒化アルミニウム粉末及びその製造方法を開示する。特許文献2において、平均粒子径が1?3μmのアルミナと、カーボンと、アルミナに対して0.05?0.5重量%のCaF_(2)とを混合した混合物を還元雰囲気下において1500℃以上1700℃以下で還元窒化することにより、前記アルミナよりも粒度分布がシャープになり、樹脂と混合する際には高充填性を示す窒化アルミニウム粉末を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-179413号公報
【特許文献2】特開2017-114706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2では、フラックス法を採用しないとともに、1μm以下の微粒子の比率を低下させることによって、充填性及び混錬性の改善を図った。しかしながら、窒化アルミニウム粉末のSEM写真によれば、ほとんどの粒子が、表面に凹凸を有していたり、外面が角張っていたりする。理論的には、粒子の形状が真球に近いほど、充填性及び混練性が高いことが分かっている。そこで、本発明の発明者らは、さらなる充填性、混錬性及び熱伝導性の改善を図るべく、フラックス法を採用せずに、より真球に近い粒子形状を有する球状窒化アルミニウム粉末を得ることを課題とした。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、より真球に近い粒子形状を有する球状窒化アルミニウム粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態の球状窒化アルミニウム粉末は、AlNからなる主成分、及び、希土類化合物からなる副成分を含有し、粉末の70%以上の粒子は、各粒子の平面投影形状において、角張った角部及び凹凸部を含まない外周形状を有していることを特徴とする。
【0009】
本発明の一形態の球状窒化アルミニウム粉末は、製造工程でフラックス法を採用しないで製造されたことにより、所定の量の希土類化合物を副成分として含有している。さらに、粉末の70%以上の粒子が、外面に角張った角部及び凹凸部を有しないことにより、従来よりも、粒子形状をより真球に近づけることができた。すなわち、本発明の球状窒化アルミニウム粉末は、フィラーとしての充填性、混錬性及び熱伝導性を改善するものである。
【0010】
本発明のさらなる形態において、各粒子の平面投影形状において、粒子の外周形状は、漸次的に変化するように円弧を組み合わせたものであり、不連続点を有しないことを特徴とする。すなわち、粒子の外周形状は、その平面投影形状において、円弧部位のみを組み合わせたものであることから、直線部位を有しない。また、粒子の外周が漸次的に変化するとともに不連続点を有しないことから、粒子の外周には、円弧部位の継目においても角部や凹凸部が現れない。なお、不連続点は、例えば、角部や凹凸部の存在により接線の傾きが不連続的又は急激に変化する点をいう。
【0011】
本発明のさらなる形態において、平均粒子径が2?30μmであることを特徴とする。また、より好ましくは、平均粒子径が2.8?7.7μmであることを特徴とする。すなわち、球状窒化アルミニウム粉末は、よりフィラーに適した平均粒子径を有している。
【0012】
本発明のさらなる形態において、粒子全体の95%以上の粒子が、0.7以上の球形度を有していることを特徴とする。また、粒子全体の80%以上の粒子が、0.8以上の球形度を有していることを特徴とする。すなわち、本発明の球状窒化アルミニウム粉末は、粒子全体として、比較的多くの粒子が一定以上の球形度を有していることにより、歪な形状な粒子が少なく、且つ、粒子形状にばらつきが少ない。その結果として、フィラーとしての充填性及び混錬性が向上する。
【0013】
本発明のさらなる形態において、AlN100重量%に対して酸化物換算で1?10重量%の希土類化合物を含有し、前記希土類化合物は、Y、Yb、La、Nd、Smの酸化物又はアルミン酸化合物よりなる群の少なくとも1種から選択されることを特徴とする。すなわち、本発明の球状窒化アルミニウム粉末は、各希土類化合物の添加に従って追加された所定の特性を有し得る。
【0014】
本発明の一実施形態の球状窒化アルミニウム粉末の製造方法は、
窒化アルミニウム原料粉末100重量%に対して、酸化物換算で1?10重量%の希土類化合物からなる第1の助剤粉末と、酸化物換算で2?8重量%のカルシウム化合物からなる第2の助剤粉末と、8?30重量%のカーボン粉末とを混合して原料混合粉末を得る工程と、
前記原料混合粉末を非酸化雰囲気中にて所定時間、第1の温度域で熱処理し、粒子の球形化及び粒成長を促して、球形化粒子粉末を得る工程と、
前記球形化粒子粉末を酸化雰囲気中において第2の温度域で熱処理して脱炭処理する工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の一形態の球状窒化アルミニウム粉末の製造方法によれば、窒化アルミニウム原料粉末をカーボン粉末、希土類化合物の第1の助剤粉末及びカルシウム化合物の第2の助剤粉末とともに熱処理することにより、原料混合粉末から酸素を除去するとともに、低温域から高温域に亘って窒化アルミニウム原料粉末の球形化及び粒成長を効果的に促進することができる。その結果として、従来にはない、平面投影形状において角張った角部及び凹凸部を含まない外周形状を有する球形化粒子の粉末を得ることができる。そして、脱炭処理を経て、より真球に近い粒子形状を有する球状窒化アルミニウム粉末を得ることができる。
【0016】
本発明のさらなる形態において、前記希土類化合物は、Y、Yb、La、Nd、Smの酸化物又はハロゲン化物、ないしは加熱中の分解により上記のものを生じる前駆体(炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、アルコキシド等)よりなる群の少なくとも1種から選択され、前記カルシウム化合物は、Caの酸化物又はハロゲン化物、ないしは加熱中の分解により上記のものを生じる前駆体(硫化物、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、アルコキシド等)よりなる群の少なくとも1種から選択されることを特徴とする。すなわち、本発明の製造方法で製造された球状窒化アルミニウム粉末は、各希土類化合物の添加に従って追加された所定の特性を有し得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、粉末全体の少なくとも70%の粒子において、より真球に近い粒子形状を有する球状窒化アルミニウム粉末を得られた。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態(実施例1)の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。
【図2】本発明の一実施形態(実施例11)の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。
【図3】従来例(特許文献2)の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。
【図4】本発明の比較例1の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。
【図5】本発明の比較例2の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。
【図6】本発明の比較例6の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。
【図7】本発明の比較例10の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真(倍率10000倍で撮影)。
【図8】本発明の一実施形態の窒化アルミニウム焼結体のXRD分析結果を示すグラフであって、(a)が実施例1を示し、(b)が実施例11を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の例示として一実施形態について説明する。ただし、下記の説明は、本発明を限定することを目的とするものではない。
【0020】
本発明の一実施形態の球状窒化アルミニウム粉末は、AlN(窒化アルミニウム)からなる主成分、及び、希土類化合物からなる副成分を含有する微細粒子の集合体である。特には、球状窒化アルミニウム粉末は、AlN100重量%に対して酸化物換算で1?10重量%の希土類化合物を含有する。原料配合の形態において、希土類化合物は、Y、Yb、La、Nd、Smの酸化物又はハロゲン化物、ないしは加熱中の分解により上記のものを生じる前駆体(炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、アルコキシド等)よりなる群の少なくとも1種から選択される。また、本実施形態の球状窒化アルミニウム粉末は、主に樹脂材料等に充填されるフィラーとして使用される。そして、球状窒化アルミニウム粉末の平均粒子径は、2?30μmであることが好ましく、平均粒子径が2.8?7.7μmであることがより好ましい。
【0021】
図1及び図2は、本発明の一実施形態の球状窒化アルミニウム粉末の代表的なSEM写真である。ここで、図1は、後述する実施例1の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真を例示し、図2は、実施例11の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真を例示しているが、本発明の実施形態に係る球状窒化アルミニウム粉末は、他の実施例のSEM写真においても、同様の粒子形状、形状的特徴を有していることが確認された。他方、図3は、従来(特許文献2)の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真であり、図4,5は、後述する比較例1,2の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真である。
【0022】
図1及び図2に示すとおり、本実施形態の球状窒化アルミニウム粉末は、大部分(少なくとも70%)の粒子において、各粒子の平面投影形状において外周に角張った角部及び凹凸部を含まない曲線形状を有している。また、各粒子の平面投影形状において、粒子の外周形状は、非連続的に変化する部分も含まず、外周全体として連続する曲線を描くように円弧部位を組み合わせてなる。これら円弧部分は、極端に変化する継目を有さないように周全体として漸次的に変化する曲線を描いている。換言すると、粒子の外周形状は、角部や凹凸部の存在により接線の傾きが不連続的に変化する不連続点を有しない。さらに、図1,2によれば、粒子表面が極めて滑らかであって、その表面積が小さいことが推測される。すなわち、本実施形態の球状窒化アルミニウム粉末の粒子は、概して丸みを帯びた表面形状を呈する。【0023】
これに対して、図3?図7に示すように、従来例又は比較例の球状窒化アルミニウム粉末のSEM写真による平面投影形状では、ほとんどの粒子の外周が、直線部位、角部、及び、凹凸部を含んでいる。また、大半の粒子の外周は、不規則に直線部位及び曲線部位を組み合わせてなり、これらの継目に不連続点を含んでいる。すなわち、従来例又は比較例の球状窒化アルミニウム粉末の粒子は、概して丸みを帯びていないといえる。
【0024】
図1?図7のSEM写真によれば、本実施形態の球状窒化アルミニウム粉末は、粒子の平面投影形状において角部及び凹凸部(又は不連続点)を含まずに全体として表面に丸みを帯びている点で従来の球状窒化アルミニウム粉末に対して定性的に区別され得る。すなわち、本実施形態の球状窒化アルミニウム粉末中の大部分の粒子は、より曲面的な外表面を有する真球に近い球形状を有している。
【0025】
また、本実施形態の球状窒化アルミニウム粉末は、0.85以上の平均球形度を有する。球形度は、粒子の平面投影形状が真円にどれだけ近似しているかを示す指標であり、真球の球形度は1である。球形度は、数式:
4πS/L^(2)
によって求められる。ここで、Sが平面投影した粒子の面積であり、Lが平面投影した粒子の周囲長である。球形度の値は、SEM写真を粒子ごとに画像解析することによって算出可能である。さらに、本実施形態の球状窒化アルミニウム粉末によれば、高球形度の粒子の比率として、粒子全体の95%以上の粒子が、0.7以上の球形度を有し、且つ、粒子全体の80%以上の粒子が、0.8以上の球形度を有している。すなわち、本実施形態の球状窒化アルミニウム粉末は、ほとんどの粒子が比較的高い球形度(0.7以上)を有していることから、粉末全体として粒子形状のばらつきが少ないといえる。
【0026】
そして、理論的には、粒子形状が真球に近い粒子が多いほど、充填性及び混練性が高いフィラー用粉末を得ることができる。したがって、本実施形態の球状窒化アルミニウム粉末は、従来の角部や凹凸部が多い粒子からなるフィラー粉末と比べて、フィラーとして充填性及び混練性において優れた性能を発揮するものである。
【0027】
本発明の一実施形態の球状窒化アルミニウム粉末は、以下に説明する製造方法によって得ることができる。
【0028】
本実施形態の球状窒化アルミニウム粉末は、母材としての窒化アルミニウム原料粉末に対して、添加剤として、希土類化合物からなる第1の助剤粉末、カルシウム化合物からなる第2の助剤粉末、及び、カーボン粉末を混合して原料混合粉末を得る原料混合工程と、原料混合粉末を非酸化雰囲気中にて所定時間、第1の温度域で熱処理し、粒子の球形化及び粒成長を促して球形化粒子粉末を得る一次熱処理(球形化及び粒成長)工程と、球形化粒子粉末を酸化雰囲気中において第2の温度域で熱処理して脱炭処理する二次熱処理(脱炭)工程とを経て製造される。
【0029】
まず、混合工程において、適量の窒化アルミニウム原料粉末とともに、適量の添加剤として助剤粉末及びカーボン粉末を準備する。母材としての窒化アルミニウム原料粉末は、金属不純物が少なく、酸素含有量が低い高純度微粉末であることが好ましい。窒化アルミニウム原料粉末は、還元窒化法、直接窒化法などの任意の方法によって合成され得る。窒化アルミニウム原料粉末は、平均粒子径0.8?3.0μmのものが採用され得る。出発原料としての窒化アルミニウム原料粉末の平均粒子径が、最終製品である球状窒化アルミニウム粉末の平均粒子径を左右する。本実施形態では、窒化アルミニウム原料粉末を0.9?2.7μmとすることにより、球状窒化アルミニウム粉末の平均粒子径を2?30μmに制御し得る。より好ましくは、球状窒化アルミニウム粉末の平均粒子径を2.8?7.8μmに制御し得る。
【0030】
第1の助剤粉末を構成する希土類化合物等は、Y、Yb、La、Nd、Smの酸化物又はハロゲン化物、ないしは加熱中の分解により上記のものを生じる前駆体(炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、アルコキシド等)よりなる群の少なくとも1種から選択され得る。第1の助剤粉末は、金属不純物が少ない高純度微粉末であることが好ましい。
【0031】
第2の助剤粉末を構成するカルシウム化合物は、Caの酸化物又はハロゲン化物、ないしは加熱中の分解により上記のものを生じる前駆体(硫化物、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、アルコキシド等)よりなる群の少なくとも1種から選択され得るが、CaF_(2)が用いられることが好ましい。CaF_(2)を添加すると、低融点のCaF_(2)-CaO-Al_(2)O_(3)を生成して、窒化反応や粒成長をより一層促進させる効果がある。カルシウム化合物の粒子径は、目的とする球状窒化アルミニウム粉末の平均粒子径よりも小さいものが望ましく、0.5?2μmが好ましい。平均粒子径が2μmよりも大きな粉末を使用すると、粗大粒子が不均一に生成してしまう原因になり得る。
【0032】
炭素粉末として、ファーネスブラックやアセチレンブラックのような炭素が主体となる微粒子を使用することができる。また、カーボンは、平均粒子径が10?50nm、灰分が0.1%以下のものを用いることが好ましい。
【0033】
原料混合工程において、好適には、窒化アルミニウム原料粉末100重量%に対して、酸化物換算で1?10重量%の希土類化合物等と、酸化物換算で2?8重量%のカルシウム化合物と、8?30重量%のカーボン粉末とを配合した。ここで、酸化物換算とは、金属元素を含む化合物を、金属元素の酸化物に換算して計算した値を意味する。
【0034】
準備した原料粉末を振動ミル、ボールミル、Vブレンダー等の一般的な手法によって均一に混ざるまで混合することで、原料混合粉末を得ることができる。
【0035】
次に、一次熱処理(球形化及び粒成長)工程において、原料混合粉末を非酸化雰囲気中(例えば、窒素、アルゴン等)にて所定時間、第1の温度域で熱処理する。熱処理において、室温から第1の温度域まで温度上昇させた後、所定の保持時間で熱処理温度を第1の温度域に保持することで原料混合粉末を加熱した。第1の温度域は、1400?1800℃の温度域であることが好ましい。また、第1の温度域での保持時間は、1時間以上であることが好ましい。
【0036】
この一次熱処理工程において、粒子の球形化及び粒成長を促すことにより、従来よりもより真球に近い球形化粒子粉末を得ることができる。以下、一次熱処理工程における窒化アルミニウム粒子の球形化及び粒成長について考察する。一次熱処理工程において、カルシウム化合物及び希土類化合物等が併せて窒化アルミニウム粒子の球形化及び粒成長の促進に寄与する。特には、第1の温度域まで温度上昇する際、添加したカルシウム化合物が、1230℃程度の比較的低温で液相を生成し、窒化アルミニウム粒子の表面を濡らすことで、粒子の最初の球形化及び粒成長を促す。このカルシウム化合物は、非酸化雰囲気中で分解しやすく、高温(例えば、約1350℃以上)で揮発しやすいため、窒化アルミニウム粒子がより粒成長する第1の温度域などの高温域ではほとんど残っていない。第1の温度域に到達してカルシウム化合物の大部分がなくなった後、高温域では、続いて、希土類化合物等が窒化アルミニウム粒子の球形化及び粒成長を促すように働く。その結果、一次熱処理工程全体に亘って効果的な球形化及び粒成長が行われると考えられる。つまり、助剤としてカルシウム化合物とともに希土類系化合物を併用したことで、低温域と高温域の2段階で効果的な球形化及び粒成長を行うことが可能となり、窒化アルミニウム粒子を従来よりもさらに球形化することが可能である。カーボン粉末は窒化アルミニウム同士の融着を防ぐために添加している。さらに原料混合粉末中の酸素と高温で反応して酸素含有量を減少させることで、窒化アルミニウム粒子の高熱伝導率化にも寄与する。
【0037】
続いて、二次熱処理(脱炭)工程では、球形化粒子粉末を酸化雰囲気中(例えば、大気)において500?800℃の第2の温度域で数時間、熱処理することにより、炭素を燃焼させて脱炭する。これにより、球形化粒子粉末から炭素成分が除去される。脱炭後の炭素量は、理想的には炭素粉末混合前と同等(すなわち、略0)であることが望ましいが、粉末全体の0.15重量%以下であれば特性に影響を及ぼさないことが分かっている。よって、残留炭素が全体の0.15重量%となるまで、脱炭処理を実施した。温度や処理時間などの条件は、カーボン粉末の添加量などに応じて任意に定められる。なお、残留炭素の測定は、酸素気流中で試料を加熱し酸化反応させ、発生したCO_(2)やCOを赤外線検出器で検出する酸素気流中燃焼-赤外線吸収方式などの既知の方法によって可能である。
【0038】
そして、得られた球状窒化アルミニウム粉末について、X線回折による結晶相同定が行われた。結晶相同定には、Cu-Kα線を用いたX線回折法が採用された。測定装置は、(株)リガク製の型式UltimaIVを用いた。図8(a),(b)は、本実施形態の製造工程によって製造された球状窒化アルミニウム粉末の代表的なX線回折パターン(後述の実施例1、11に対応)を示す。図8に例示するように、本実施形態の球状窒化アルミニウム粉末において、主成分のAlNと、副成分の希土類化合物(図8(a)では、Y_(2)O_(3)、図8(b)では、Yb_(2)O_(3),アルミン酸イッテルビウム(Yb-Aluminate))の回折ピークが見られる。X線回析により、本実施形態の球状窒化アルミニウム粉末が得られたことを確認した。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定解釈されるものではない。
【0040】
実施例1?21、比較例1?5に係る球状窒化アルミニウム粉末は以下の手順を実施することによって生成された。
【0041】
まず、所定量の窒化アルミニウム原料粉末を準備した。該窒化アルミニウム原料粉末は、平均粒径0.9?2.7μmのものを採用した。助剤粉末として、高純度の各種希土類化合物及び各種カルシウム化合物の粉末を準備した。カーボン粉末には、平均粒子径が10?50nm、灰分が0.1%以下のものを用いた。窒化アルミニウム原料粉末100重量%に対して、所定の重量%の希土類化合物粉末、カルシウム化合物粉末及びカーボン粉末を配合した。原料の配合比率は、表1に示すように、各サンプルによって異なる。そして、準備した原料粉末をボールミルに投入して十分に混合することで、原料混合粉末を得た。
【0042】
次に、原料混合粉末を黒鉛製のサヤに敷き詰めて加熱炉に投入し、窒素雰囲気の下、第1の温度域まで昇温させた後、所定の保持時間で熱処理を行うことにより、球形化粒子粉末を得た。熱処理温度(第1の温度域)及び保持時間は、表1に示すように、各サンプルによって異なる。
【0043】
続いて、球形化粒子粉末を、大気雰囲気中で750℃で3時間、加熱して脱炭処理を行った。脱炭処理の条件は全てのサンプルで共通である。そして、各サンプルの残留炭素を測定し、炭素含有量が0.15重量%未満になったことを確認した。なお、炭素含有量の測定には、株式会社堀場製作所のEMIA-221Vによる酸素気流中燃焼-赤外線吸収法が用いられた。以上の工程を経て、各実施例及び比較例の球状窒化アルミニウム粉末を得た。
【0044】
実施例1?21及び比較例1?5の球状窒化アルミニウム粉末の配合比率・作製条件を以下の表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
さらに、本実施例の球状窒化アルミニウム粉末の特性をフラックス法による窒化アルミニウム粉末に対して比較するために、特許文献1(特開2002-179413号公報)に記載された製造方法に基づいて比較例6?13の窒化アルミニウム粉末を作製した。作製方法を以下に説明する。まず、窒化アルミニウムの原料粉末に対して、炭酸カルシウムと、任意に酸化イットリウムとを所定のモル比で混合した後、窒素雰囲気中1800度で2?12時間熱処理して、フラックスを含む窒化アルミニウム粉体の凝集体を作製した。次に、フラックスを含む窒化アルミニウム粉体の凝集体を粉砕した。フラックスを含む窒化アルミニウム粉体を(1+1)塩酸溶液中で所定の時間かけて撹拌した。比較例6?12では、フラックス部分が完全に溶けるまで、約6時間かけて撹拌した。比較例13では、副成分が残るように約1時間の撹拌とした。
【0047】
比較例6?13の窒化アルミニウム粉体の配合比率・作製条件を以下の表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
実施例1?21及び比較例1?13の球状窒化アルミニウム粉末に関して、以下の方法によって特性の評価がなされた。
【0050】
A.各サンプルの球状窒化アルミニウム粉末に関して、X線回折による結晶相の分析を行った。分析には、Cu-Kα線を用いたX線回折法が採用された。測定装置は、(株)リガク製の型式UltimaIVを用いた。
【0051】
B.各サンプルの球状窒化アルミニウム粉末に関して、平均粒子径をレーザー回折法により測定した。測定装置は、株式会社島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置、型式SALD-2200を用いた。
【0052】
C.各サンプルの球状窒化アルミニウム粉末に関して、比表面積を窒素ガス吸着法であるBET一点法により測定した。測定装置は、Quantachrome社製のMonosorb、型式MS-21を用いた。
【0053】
D.各サンプルの球状窒化アルミニウム粉末に関して、分析用のSEM写真を取得して粒子形状の分析を行った。具体的には、エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社製エポトートYH-300)、硬化剤(日立化成株式会社製HN-2200)、及び、作製した球状窒化アルミニウム粉末を混合したものをシリコン型に入れて熱硬化させて成形体を得た。次に、成形体を研磨し、その研磨面を走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製S-3400N)で倍率2000倍で撮影した。取得したSEM画像に対して、画像処理ソフト「ImageJ」を使用して任意の100個以上の粒子の画像解析を実行した。ここでは、平均球形度、球形度比率、平均アスペクト比、及び、SEM写真の観察結果によってサンプルを評価した。平均球形度は、上述した数式によって任意の100個以上の粒子の全ての球形度を求めた上でその平均値を求めることによって算出された。球形度比率は、解析した任意の100個以上の全粒子中、所定の値(0.85、0.8、0.7)以上の球形度を有する粒子の数の割合である。平均アスペクト比は、任意の100個以上の粒子の全てのアスペクト比を求めた上でその平均値を求めることによって算出された。各粒子のアスペクト比は、SEM写真画像から画像処理ソフト「ImageJ」を用いて粒子を楕円近似し、その楕円の短径(DS)と長径(DL)を求め、DS/DLで計算される。SEM写真の観察結果については、倍率10000倍で取得したSEM写真(例えば図1、2、4、5、6、7)において、粒子外周の角部、凹凸部の有無を目視で確認し、少なくとも70%以上の粒子が外周に角部、凹凸部を有していないサンプルを「○」と評価し、そうでないサンプルを「×」と評価した。なお、角部は、SEM写真において円弧状に連続しない箇所(不連続点)である。また、凹凸部は、SEM写真において球面から明らかに凹んだ箇所又は隆起した箇所である。
【0054】
各実施例及び比較例の球状窒化アルミニウム粉末の特性を以下の表3,表4に示した。
【0055】
以下に示す表3は、各サンプルにおいて、AlN成分以外にX線回折で検出された希土類化合物等による副成分を示している。
【0056】
【表3】

【0057】
表3によれば、実施例1?21の球状窒化アルミニウム粉末において、何らかの形態で希土類化合物等による副成分が含有されていることが確認された。実施例によっては、希土類化合物が複数種の形態で窒化アルミニウム粉末中に検出される。他方、希土類化合物等を添加していない比較例1,6,7,8,9では、AlNの回折ピークのみが検出され、他の結晶相の回折ピークが確認されなかった。また、フラックス法によって希土類化合物等を添加して作製された比較例10?12では、希土類化合物等による副成分が検出されなかった。フラックス除去の強酸による処理の工程において、副成分が失われたものと考えられる。他方、強酸による浸漬時間が短時間である比較例13では、希土類化合物等による副成分が残っていることが分かる。
【0058】
以下に示す表4は、各サンプルにおける平均粒子径、比表面積、平均球形度、球形度比率、平均アスペクト比、及び、SEM写真の観察結果を示している。
【0059】
【表4】

【0060】
表4によれば、実施例1?21及び比較例1,2,4,5において、球状窒化アルミニウム粉末は、2.8?7.7μmの平均粒子径、0.3?1.1m^(2)/gの比表面積、及び、0.74?0.84の平均アスペクト比を有する。これら特性において、実施例及び比較例の間で格別な差異が見られなかった。比表面積は、粉体の単位重量当たりの表面積を示し、混練性及び充填性に影響する。なお、比較例3においては、粒子の凝着によって各種パラメータを得ることができなかった。比較例3によれば、カーボン粉末の添加量が3重量%以下になると、粒子の凝着が起こり得ることが分かった。他方、比較例6?13において、窒化アルミニウム粉末は、4.0?8.2μmの平均粒子径、1.7?3.2m^(2)/gの比表面積、及び、0.70?0.79の平均アスペクト比を有する。この結果は、フラックス法で作製された窒化アルミニウム粉末は、実施例と比べて、比表面積が有意に大きいことを示している。この比表面積が大きいと、粒子の混練性及び充填性が低下することが分かっている。フラックス除去の強酸による処理の工程において、強酸浸漬時間によらず、粒子表面が粗面化したことが推測できる。つまり、本発明の球状窒化アルミニウム粉末は、1.6m^(2)/g以下の比表面積を有する点で、フラックス法によるサンプルと差別化される。
【0061】
また、SEM写真の画像解析の結果によれば、実施例1?21の平均球形度が0.85?0.88(つまり、0.85以上)であるのに対し、比較例1?5では、0.79?0.85である。すなわち、実施例1?21の粒子の方が比較例1,2,4,5よりも若干球形度が高いことが見て取れる。そして、高球形度粒子の比率について着目すると、実施例1?21と比較例1,2,4,5との間で有意な差異が見られる。具体的には、実施例1?21では、球形度0.7以上の粒子の割合が約95%以上(95?100%)であるのに対し、比較例1,2,4,5では、約94%以下(85?94%)である。また、実施例1?21では、球形度0.8以上の粒子の割合が約80%以上(80?92%)であるのに対し、比較例1,2,4,5では、約77%以下(61?77%)である。さらに、実施例1?21では、球形度0.85以上の粒子の割合が52%?78%であるのに対し、比較例1,2,4,5では、45?60%である。なお、実施例1?21と比較例1,2,4,5との比較において、球形度0.85以上であると、数字上の差異が現れにくいのは、球形度の条件が厳しいからであると考えられる。また、フラックス法で作製したサンプルである比較例6?13では、球形度0.7以上の粒子の割合が85%(57%?85%)以下であり、球形度0.8以上の粒子の割合が56%(33%?56%)以下であり、且つ、球形度0.85以上の粒子の割合が40%(20%?40%)以下である。すなわち、実施例1?21の球状窒化アルミニウム粉末は、球形度0.7、0.8以上の粒子の割合が比較例と比べて有意に多いことから、粉末全体として、統計的に粒子形状のばらつきが少なく、且つ、より真球に近い粒子の集合体であるといえる。特に、特許文献1に対応する従来のフラックス法に基づく製造方法によって作製された窒化アルミニウム粉末は、強酸浸漬時間によらず、粒子形状のばらつきが極めて大きくなることが分かった。つまり、実施例の球状窒化アルミニウム粉末と、フラックス法で作製された窒化アルミニウム粉末との間で、粒子形状のばらつきの差が特に顕著となることが分かった。
【0062】
続いて、SEM写真の観察結果について検証する。図1,図2は、実施例1,11のSEM写真をそれぞれ示している。ここでは、代表的に実施例1,11のSEM写真を採用したが、他の実施例においても同様のSEM写真を確認することができた。取得したSEM写真に基づいて、実施例1?21の粒形状を観察して評価すると、全てのサンプルについて、70%以上の粒子が外周に角部、凹凸部を有していない(評価「○」)と判定された。ここでは評価基準を70%と定めたが、実際には、ほとんどのサンプルについて約90%以上の粒子が角部又は凹凸部の両方を含まないことがSEM写真によって確認された。他方、図4,図5,図6,図7は、比較例1,2,6,10のSEM写真をそれぞれ示している。図4,図5によれば、比較例1,2では、粒子の大半が角張った歪な粒形状を有していることが分かる。比較例4に関しても、図4,5と大差ないSEM写真が得られた。図6,図7によれば、粒子の大半が、表面にクレーターのような平坦面を表し、角張った角部及び凹凸部を有する歪な粒形状を有していることが分かる。比較例7,8,9,11,12,13に関しても、図6,図7と大差ないSEM写真が得られた。得られたSEM写真を見比べると、本発明の実施例の粒子形状と、比較例1,2,4?13との粒子形状との差異は一目瞭然であるといえる。よって、比較例1,2,4?13は、外周に角部、凹凸部を有していない粒子が70%以下である(評価「×」)と判定された。したがって、SEM写真の観察結果においても、実施例と比較例との間に有意な差異が見られた。
【0063】
実施例1?21において、カーボン添加量8?30重量%、カルシウム化合物2?8重量%、希土類化合物1?10重量%と配合比率を変化させたが、サンプル間で粒形状の特性に特段の変化が見られなかった。他方、比較例3に示されているように、カーボン添加量が3重量%を下回る場合には、実施例と同様の特性を持つ粒状窒化アルミニウム粉末を製造することができないことが分かった。また、実施例1?21において、製造工程における熱処理温度1500?1800℃及び保持時間1?48hと変化させたが、サンプル間で粒形状の特性に特段の変化が見られなかった。他方、比較例4,5に示されているように、熱処理温度が1850℃を超えた場合、及び、熱処理温度が1300℃を下回る場合には、実施例と同様の特性を持つ粒状窒化アルミニウム粉末を製造することができないことが分かった。
【0064】
すなわち、SEM写真の解析によって、実施例1?21の球状窒化アルミニウム粉末が、比較例よりもフィラーとしての優れた粒形状特性を有していることが定性的且つ定量的に確認された。
【0065】
したがって、本実施形態(実施例1?21)の球状窒化アルミニウム粉末は、副成分に希土類化合物等を含有するとともに、個々の粒子形状及び粉末全体の両面から、従来と比べて、より真球に近づいたものであり、フィラーとして優れた充填性、混錬性及び熱伝導性を発揮するものである。
【0066】
本発明は上述した実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。すなわち、本発明は、技術的範囲を逸脱することなく、当業者によって修正又は改変されてもよい。例えば、本発明の構成に他の元素や成分が追加で添加されてもよい。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
平均粒子径が2?30μmであり、AlNからなる主成分、及び、希土類化合物からなる副成分を含有し、粉末の70%以上の粒子は、倍率10000倍で粉末を撮影したSEM写真によって取得された各粒子の平面投影形状において、円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在により接線の傾きが不連続的に変化する不連続点を含まず、周全体として円弧部位を組み合わせてなり該円弧部位の継目にも前記角部及び凹凸部が現れないように漸次的に変化する曲線を描く外周形状を有した球状粒子であり、
粒子全体の95%以上の粒子が、樹脂及び球状窒化アルミニウム粉末を混合し硬化させて得た成形体の研磨面を倍率2000倍で撮影したSEM写真において、0.7以上の球形度を有していることを特徴とする球状窒化アルミニウム粉末。
【請求項4】
粒子全体の80%以上の粒子が、0.8以上の球形度を有していることを特徴とする請求項3に記載の球状窒化アルミニウム粉末。
【請求項5】
AlN100重量%に対して酸化物換算で1?10重量%の希土類化合物を含有し、前記希土類化合物は、Y、Yb、La、Nd、Smの酸化物又はアルミン酸化合物からなる群の少なくとも1種から選択されることを特徴とする請求項3又は4に記載の球状窒化アルミニウム粉末。
【請求項6】
比表面積が1.6m^(2)/g以下であることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の球状窒化アルミニウム粉末。
【請求項7】
平均粒子径が2.8?7.7μmであり、AlNからなる主成分、及び、希土類化合物からなる副成分を含有し、粉末の70%以上の粒子は、倍率10000倍で粉末を撮影したSEM写真によって取得された各粒子の平面投影形状において、円弧状に連続しない角張った角部又は凹凸部の存在により接線の傾きが不連続的に変化する不連続点を含まず、周全体として円弧部位を組み合わせてなり該円弧部位の継目にも前記角部及び凹凸部が現れないように漸次的に変化する曲線を描く外周形状を有した球状粒子であり、
粒子全体の95%以上の粒子が、樹脂及び球状窒化アルミニウム粉末を混合し硬化させて得た成形体の研磨面を倍率2000倍で撮影したSEM写真において、0.7以上の球形度を有していることを特徴とする球状窒化アルミニウム粉末。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-07-20 
出願番号 特願2019-142755(P2019-142755)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C01B)
P 1 651・ 537- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森坂 英昭  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 後藤 政博
大光 太朗
登録日 2020-05-07 
登録番号 特許第6700460号(P6700460)
権利者 株式会社MARUWA
発明の名称 球状窒化アルミニウム粉末  
代理人 特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所  
代理人 特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所  

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