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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1377801
異議申立番号 異議2020-700437  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-23 
確定日 2021-07-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6625081号発明「熱可塑性樹脂フィルム、ラベル付き中空成型容器、粘着フィルム及びラベル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6625081号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし16〕及び17について訂正することを認める。 特許第6625081号の請求項1ないし17に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6625081号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし17に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)10月29日(優先権主張 平成25年11月15日)を国際出願日とする特願2015-547723号の一部を平成29年3月1日に新たな特許出願としたものであって、令和1年12月6日にその特許権の設定登録(請求項の数17)がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和2年6月23日に特許異議申立人 栗 暢行(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし17)がされ、同年8月31日付けで取消理由が通知され、同年10月30日に特許権者 株式会社ユポ・コーポレーション(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年11月18日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年12月17日に特許異議申立人から意見書が提出され、令和3年2月19日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年5月6日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正請求がされたものである。
なお、令和2年10月30日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、すでに特許異議申立人に意見書の提出の機会が与えられており、下記第2 1のとおり、令和3年5月6日にされた訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、下記第5ないし7のとおり、提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体は判断したことから、特許異議申立人に再度の意見書の提出の機会は与えない。

第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和3年5月6日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における「金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層」という事項を、「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1における「を有するフィルムであって」という事項を、「を有するフィルムであって、前記有機高分子の溶媒分散体は、ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1における「前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、」という事項を、「前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、前記表面コート層は、乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり、」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1における「前記表面コート層は、前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子を含み、」という事項を、「前記表面コート層は、前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含み、」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7における「金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層」という事項を、「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」に訂正する。
併せて、請求項7を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項7を訂正したことに伴う訂正をする。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7における「を有するフィルムであって」という事項を、「を有するフィルムであって、前記有機高分子の溶媒分散体は、ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり」に訂正する。
併せて、請求項7を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項7を訂正したことに伴う訂正をする。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7における「前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、」という事項を、「前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、前記表面コート層は、乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり、」に訂正する。
併せて、請求項7を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項7を訂正したことに伴う訂正をする。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7における「前記表面コート層は、前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子を含み、」という事項を、「前記表面コート層は、前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含み、」に訂正する。
併せて、請求項7を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項7を訂正したことに伴う訂正をする。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項8における「金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層」という事項を、「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」に訂正する。
併せて、請求項8を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項8を訂正したことに伴う訂正をする。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項8における「を有するフィルムであって」という事項を、「を有するフィルムであって、前記有機高分子の溶媒分散体は、ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり」に訂正する。
併せて、請求項8を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項8を訂正したことに伴う訂正をする。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項8における「前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、」という事項を、「前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、前記表面コート層は、乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり、」に訂正する。
併せて、請求項8を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項8を訂正したことに伴う訂正をする。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項8における「前記表面コート層は、前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子を含み、」という事項を、「前記表面コート層は、前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含み、」に訂正する。
併せて、請求項8を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項8を訂正したことに伴う訂正をする。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項17における「樹脂シート」という事項を、「樹脂シート(脂肪族ポリエステルフィルムを除く。)」に訂正する。

(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項17における「金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層」という事項を、「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」に訂正する。

(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項17における「を有し」という事項を、「を有し、前記有機高分子の溶媒分散体は、ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり」に訂正する。

(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項17における「前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、」という事項を、「前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、前記表面コート層は、乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり、」に訂正する。

(17)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項17における「前記表面コート層は、前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子を含み、」という事項を、「前記表面コート層は、前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含み、」に訂正する。

2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「金属酸化物を有する微粒子と」の後に「、」を加入した上で、「表面コート層」が由来するものに「水溶性ポリマー」を追加するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2による請求項1についての訂正は、「有機高分子の溶媒分散体」が「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルション」であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3による請求項1についての訂正は、「表面コート層」が「乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下」であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4による請求項1についての訂正は、「表面コート層」が「表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」むものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし4による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)請求項2ないし6についての訂正について
訂正事項1ないし4による請求項2ないし6についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし4による請求項2ないし6についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)請求項7についての訂正について
訂正事項5による請求項7についての訂正は、「金属酸化物を有する微粒子と」の後に「、」を加入した上で、「表面コート層」が由来するものに「水溶性ポリマー」を追加するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項6による請求項7についての訂正は、「有機高分子の溶媒分散体」が「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルション」であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項7による請求項7についての訂正は、「表面コート層」が「乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下」であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項8による請求項7についての訂正は、「表面コート層」が「表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」むものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項5ないし8による請求項7についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)請求項8についての訂正について
訂正事項9による請求項8についての訂正は、「金属酸化物を有する微粒子と」の後に「、」を加入した上で、「表面コート層」が由来するものに「水溶性ポリマー」を追加するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項10による請求項8についての訂正は、「有機高分子の溶媒分散体」が「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルション」であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項11による請求項8についての訂正は、「表面コート層」が「乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下」であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項12による請求項8についての訂正は、「表面コート層」が「表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」むものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項9ないし12による請求項8についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)請求項9についての訂正について
訂正事項5ないし8による請求項9についての訂正は、請求項7についての訂正と同様に明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項9ないし12による請求項9についての訂正は、請求項8についての訂正と同様に明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項5ないし12による請求項9についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)請求項10ないし16についての訂正について
訂正事項1ないし4による請求項10ないし16についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項5ないし8による請求項10ないし16についての訂正は、請求項7についての訂正と同様に明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項9ないし12による請求項10ないし16についての訂正は、請求項8についての訂正と同様に明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし12による請求項10ないし16についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)請求項17についての訂正について
訂正事項13による請求項17についての訂正は、「樹脂シート」から「脂肪族ポリエステルフィルム」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項14による請求項17についての訂正は、「金属酸化物を有する微粒子と」の後に「、」を加入した上で、「表面コート層」が由来するものに「水溶性ポリマー」を追加するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項15による請求項17についての訂正は、「有機高分子の溶媒分散体」が「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルション」であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項16による請求項17についての訂正は、「表面コート層」が「乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下」であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項17による請求項17についての訂正は、「表面コート層」が「表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」むものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項13ないし17による請求項17についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし17は、それぞれ、特許法120条の5第2項ただし書第1又は3号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし17は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

なお、訂正前の請求項1ないし16は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1ないし12は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、訂正事項13ないし17は訂正前の請求項17についてされたものであるから、請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第3項の規定に適合する。
さらに、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし17に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし16〕及び17について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし17に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
基材層(A)を含む樹脂シートと、
金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層と、
を有するフィルムであって、
前記有機高分子の溶媒分散体は、ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり、
前記表面コート層は、
前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、
前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、
前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、
を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含み、
前記基材層(A)は、熱可塑性樹脂20?95質量%と、無機微細粉末5?80質量%とを含み、
前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下であり、
前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)であることを特徴とする、
フィルム。
【請求項2】
前記樹脂シートが、プロピレン単独重合体ないしはその共重合体を使用し、延伸倍率で1.2?12倍の一軸延伸フィルムであることを特徴とする、
請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記樹脂シートが、プロピレン単独重合体ないしはその共重合体を使用し、面積倍率で1.5?60倍の二軸延伸フィルムであることを特徴とする、
請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
前記基材層(A)が、熱可塑性樹脂30?95質量%と、無機微細粉末5?70質量%とを含んでなることを特徴とする、
請求項1に記載のフィルム。
【請求項5】
前記基材層(A)が、熱可塑性樹脂30?80質量%と、無機微細粉末20?70質量%とを含んでなることを特徴とする、
請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
前記基材層(A)が、ポリエチレン系樹脂20?40質量%と、無機微細粉末60?80質量%とを含んでなることを特徴とする、
請求項1に記載のフィルム。
【請求項7】
樹脂シートと、
金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層と、
を有するフィルムであって、
前記有機高分子の溶媒分散体は、ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり、
前記表面コート層は、
前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、
前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、
前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、
を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含み、
前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下であり、
前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)であり、
前記樹脂シートが、エチレン系樹脂を使用し、無機微細粉末を45質量%以上含み、延伸倍率で1.2?5倍の一軸延伸フィルムであることを特徴とする、
フィルム。
【請求項8】
樹脂シートと、
金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層と、
を有するフィルムであって、
前記有機高分子の溶媒分散体は、ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり、
前記表面コート層は、
前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、
前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、
前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、
を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含み、
前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下であり、
前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)であり、
前記樹脂シートが、エチレン系樹脂を使用し、無機微細粉末を45質量%以上含み、面積倍率で1.5?15倍の二軸延伸フィルムであることを特徴とする、
フィルム。
【請求項9】
前記樹脂シートは、基材層(A)を備える、
請求項7又は請求項8に記載のフィルム。
【請求項10】
前記樹脂シートは、
少なくともフロント面、前記基材層(A)、ヒートシール層(B)及びバック面をこの順で備え、
前記フロント面に、前記表面コート層が配されることを特徴とする、
請求項1から請求項6までの何れか一項又は請求項9に記載のフィルム。
【請求項11】
前記樹脂シートは、
少なくともフロント面、前記基材層(A)、強度付与層(C)及びバック面をこの順で備え、
前記フロント面に、前記表面コート層が配され、
前記基材層(A)が含有する無機微細粉末の含有率は、前記強度付与層(C)が含有する無機微細粉末の含有率より高いことを特徴とする、
請求項1から請求項6までの何れか一項又は請求項9に記載のフィルム。
【請求項12】
前記樹脂シートは、
少なくともフロント面、高平滑層(D)、前記基材層(A)、及びバック面をこの順で備え、
前記フロント面に、前記表面コート層が配されることを特徴とする、
請求項1から請求項6までの何れか一項又は請求項9に記載のフィルム。
【請求項13】
前記樹脂シートは、
少なくともフロント面、前記基材層(A)、及びバック面をこの順で備え、
前記フロント面及びバック面のそれぞれに、前記表面コート層が配されることを特徴とする、
請求項1から請求項6までの何れか一項又は請求項9に記載のフィルム。
【請求項14】
請求項10に記載のフィルムをインモールド成形により貼着してなる、
ラベル付き中空成型容器。
【請求項15】
請求項11に記載のフィルムのバック面に粘着剤層(E)を有する、
粘着フィルム。
【請求項16】
請求項10から請求項13までの何れか1項に記載のフィルムを使用した、
ラベル。
【請求項17】
フィルムを使用したラベルであって、
前記フィルムは、
樹脂シート(脂肪族ポリエステルフィルムを除く。)と、
金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層と、
を有し、
前記有機高分子の溶媒分散体は、ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり、
前記表面コート層は、
前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、
前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、
前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、
を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含み、
前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下であり、
前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)であり、
前記樹脂シートは、
少なくともフロント面、基材層(A)、及びバック面をこの順で備え、
前記フロント面及びバック面のそれぞれに、前記表面コート層を有することを特徴とする、
ラベル。」

第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和2年6月23日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項17に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由2(甲第2号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし16に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)申立理由3(甲第3号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし16に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(4)証拠方法
甲第1号証:特開平10-86307号公報
甲第2号証:特開2002-46346号公報
甲第3号証:特開2001-151918号公報
甲第4号証:本願(特願2017-38824号)に係る意見書
甲第5号証:特開平11-352888号公報
甲第6号証:特開2002-200707号公報
甲第7号証:特開2000-290411号公報
甲第8号証:特開昭63-210144号公報
甲第9号証:MARUZEN 高分子大辞典、p.1104、丸善株式会社、平成6年9月20日発行
なお、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

2 取消理由(決定の予告)の概要
令和3年2月19日付けで通知された取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。

(1)取消理由2(甲2を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし17に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由2は申立理由2を包含するものである。

(2)取消理由3(甲3を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし17に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由3は申立理由3を包含するものである。

第5 取消理由(決定の予告)についての当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲2に記載された事項及び甲2発明
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「インクジェット記録用紙」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。

・「【請求項1】 多孔性樹脂フィルム上にインク受容層を備えたインクジェット記録用紙において、多孔性樹脂フィルムが「Japan TAPPI No.51-87」により測定される液体吸収容積が0.5ml/m^(2)以上であり、かつインク受容層が平均粒径350nm以下のアルミニウム系化合物を含有し、かつインク受容層の表面光沢度(JIS-Z-8741:60度測定)が40%以上であることを特徴とするインクジェット記録用紙。
【請求項2】 該インク受容層が、アルミニウム系化合物を70?95重量%およびバインダー樹脂を5?30重量%含有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用紙。
【請求項3】 該アルミニウム系化合物が、アルミナおよび/またはアルミナ水和物であることを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録用紙。」

・「【0061】本発明では、インク受容層にアルミニウム系化合物に加えて、接着剤としてバインダー樹脂が使用される。アルミニウム系化合物とバインダー樹脂の配合割合は、アルミニウム系化合物が70?95重量%、バインダー樹脂が5?30重量%であることが好ましい。アルミニウム系化合物の割合が95重量%を上回る場合は、多孔性樹脂フィルムとの接着性が大きく低下し、また70重量%を下回る場合は、インク吸収性が大きくて以下する。
【0062】バインダー樹脂の具体例としては、ポリビニルアルコールおよびその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、カゼイン、澱粉等の水溶性樹脂、並びにウレタン系樹脂、エステル系樹脂、エポキシ系樹脂、エチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体樹脂、アクリル酸系樹脂、メタクリル酸系樹脂、ポリブチラール系樹脂、シリコン樹脂、ニトロセルロース樹脂、スチレン-アクリル共重合体樹脂、スチレン-ブタジエン系共重合体樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン系共重合体樹脂などのような非水溶性樹脂樹脂(当審注:「非水溶性樹脂」の誤記と認定。)を用いることができる。上記水溶性樹脂は水溶液として、非水溶性樹脂は溶液、エマルジョン、又は、ラテックスとして用いられる。
【0063】上記バインダー樹脂の中でも、アルミニウム系化合物との混和性やインク吸収性といった点からポリビニルアルコールが好ましい。特に中でも塗工膜強度の点から、重合度2000以上、ケン化度80?100%のポリビニルアルコールが好ましい。さらに本発明では、バインダー樹脂の耐水性向上のため、架橋剤をインク受容層の1?20重量%の範囲で使用することもできる。架橋剤の具体例としては、尿素-ホルムアルデヒド樹脂、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、ポリアミドポリ尿素-ホルムアルデヒド樹脂、グリオキザール、エポキシ系架橋剤、ポリイソシアネート樹脂、硼酸、硼砂、各種硼酸塩等が挙げられる。」

・「【0070】(製造例)以下、実施例中で使用される多孔性樹脂フィルム(支持体a?f)の製造方法について説明する。
(製造例1)
<基材層の調製と縦延伸>メルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)が1g/10分のポリプロピレン75重量%とメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)が8g/10分の高密度ポリエチレン5重量%との混合物に、平均粒子径3μmの炭酸カルシウム20重量%を配合した組成物[イ]を、250℃の温度に設定した押出機にて混練し、ストランド状に押し出し、カッティングしてペレットとした。この組成物[イ]を、250℃に設定した押し出し機に接続したTダイよりシート状に押出し、これを冷却装置により冷却して無延伸シートを得た。次いで、この無延伸シートを140℃に加熱した後、縦方向に4.5倍延伸して、延伸シートを得た。尚、各実施例中の樹脂成分ないしはこれと微細粉末との混合物の溶融混練において、樹脂成分と微細粉末の合計重量を100重量部として、これに加えて、酸化防止剤として、BHT(4-メチル-2,6-ジ-t-ブチルフェノール)0.2重量部と、イルガノックス1010(フェノール系酸化防止剤、チバガイギー社製、商品名)0.1重量部を添加した。
【0071】<表面の多孔性樹脂フィルムの形成>これとは別に、MFRが5g/10分のポリプロピレン(略号:PP1)28重量%、とポリアルキレンオキシド系樹脂(エチレンオキシド約90%とブチレンオキシド約10%との共重合体で平均分子量約20,000のものとオクタデカメチレンジカルボン酸とのエステルで、全体の平均分子量は約114,000、30分間の吸水倍率は14g/g、略号:PEPO1)12重量%との混合物に、平均粒子径3μm、BET法による比表面積が1.8m^(2)/g、JIS-K5101-1991により測定される吸油量が31ml/100gの炭酸カルシウム(略号:炭カル1)58重量%を配合して二軸混練機機にて組成物[ロ]を調製した。
【0072】この組成物を240℃(温度a)に設定した押出機にて押出した。得られたシートを上述の操作により調製した5倍延伸シートの両面に積層し、55℃(温度b)にまで冷却した後、155℃(温度c)に加熱してテンターで横方向に8倍延伸した。その後、156℃(温度d)でアニーリング処理し、50℃(温度e)にまで冷却し、耳部をスリットして3層(表側の吸収層[ロ]/基材層[イ]/裏側吸収層[ロ]:肉厚72μm/40μm/23μm)構造の全厚135μmの多孔性樹脂フィルムを得た。本フィルムを支持体aとする。配合および製造条件、加えて支持体としての性能評価結果も表1に示す。尚、本明細書の実施例に使用した炭酸カルシウム粉末の粒子径は、レーザー回折式粒子計測装置「マイクロトラック」(株式会社日機装製、商品名)により測定した累積50%粒径である。」(当審注:【0071】の「二軸混練機機」は「二軸混練機」の誤記と認める。)

・「【0084】
【実施例1?6、比較例1?3、5?7】表2に記載される材料を所定量用いて、以下の手順にしたがってインクジェット記録用シートを製造した。すなわち、アルミナもしくはアルミナ水和物、バインダー樹脂を混合してインク受容層形成用塗工液を調製した。この塗工液を乾燥後の塗工量が20g/m^(2)になるようにメイヤバーにて多孔質樹脂フィルム表側に塗工し、110℃のオーブンで5分間乾燥・固化して受容層を形成してインクジェット記録用紙を得た。また本インクジェット記録用紙のインクジェットプリンター適性を多孔質樹脂フィルムと同様の方法で評価した。」

・「【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】



イ 甲2発明
甲2に記載された事項を実施例3及び4に関して整理すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

<甲2発明>
「メルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)が1g/10分のポリプロピレン75重量%とメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)が8g/10分の高密度ポリエチレン5重量%との混合物に、平均粒子径3μmの炭酸カルシウム20重量%を配合した組成物[イ]を、250℃の温度に設定した押出機にて混練し、ストランド状に押し出し、カッティングしてペレットとし、この組成物[イ]を、250℃に設定した押出機に接続したTダイよりシート状に押出し、これを冷却装置により冷却して無延伸シートを得、次いで、この無延伸シートを140℃に加熱した後、縦方向に4.5倍延伸して、延伸シートを得、MFRが5g/10分のポリプロピレン28重量%、とポリアルキレンオキシド系樹脂(エチレンオキシド約90%とブチレンオキシド約10%との共重合体で平均分子量約20,000のものとオクタデカメチレンジカルボン酸とのエステルで、全体の平均分子量は約114,000、30分間の吸水倍率は14g/g)12重量%との混合物に、平均粒子径3μm、BET法による比表面積が1.8m^(2)/g、JIS-K5101-1991により測定される吸油量が31ml/100gの炭酸カルシウム58重量%を配合して二軸混練機にて組成物[ロ]を調製し、この組成物を240℃に設定した押出機にて押出し、得られたシートを上述の操作により調製した4.5倍延伸シートの両面に積層し、55℃にまで冷却した後、155℃に加熱してテンターで横方向に8倍延伸し、その後、156℃でアニーリング処理し、50℃にまで冷却し、耳部をスリットして3層(表側の吸収層[ロ]/基材層[イ]/裏側吸収層[ロ]:肉厚72μm/40μm/23μm)構造の全厚135μmの多孔性樹脂フィルムを得、
アルミナ水和物2(平均粒径25nmである板状擬ベーマイトの固形分10%水溶液「カタロイドAS-2」(触媒化成工業(株)製;商品名)、バインダー樹脂1(重合度3500、ケン化度88%であるポリビニルアルコール「クラレポバールPVA-235」(クラレ(株)製;商品名)の固形分15%の水溶液)又はバインダー樹脂2(重合度2400、ケン化度95%であるポリビニルアルコール「クラレポバールPVA-124」(クラレ(株)製;商品名)の固形分15%の水溶液)を、アルミナ水和物2を90、バインダー樹脂1又はバインダー樹脂2を10の割合で混合してインク受容層形成用塗工液を調製し、この塗工液を乾燥後の塗工量が20g/m^(2)になるようにメイヤバーにて多孔質樹脂フィルム表側に塗工し、110℃のオーブンで5分間乾燥・固化して受容層を形成して得たインクジェット記録用紙。」

(2)甲3に記載された事項及び甲3発明
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「多孔性樹脂フィルム」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【請求項1】 熱可塑性樹脂、無機または有機微細粉末、及び親水化剤よりなり、「Japan TAPPI No.51-87」により測定される液体吸収容積が0.5ml/m^(2)以上の範囲にあることを特徴とする多孔性樹脂フィルム。」

・「【0054】水系バインダーとしては、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン共重合体等の水系エマルジョンや、ポリビニルアルコール、シラノール基を含むエチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、メチルエチルセルロース、ポリアクリル酸ソーダ、各種でんぷん、各種ゼラチン等の水溶性ポリマーが挙げられる。中でも顔料が多孔質の合成シリカ、アルミナヒドロゾルである場合は、ポリビニルアルコール、シラノール基を含むエチレン・ビニルアルコール共重合体が好ましい。」

・「【0060】(実施例1)メルトフローレート(MFR、温度230℃、荷重2.16kg)が1g/10分のプロピレン単独重合体(略号:PP1)45重量%(100重量部)、炭酸カルシウム粉末(平均粒子径2μm、略号:炭酸カル1)50重量%、親水化剤(ドデカンスルホン酸ナトリウム95%とエチレンビスステアリン酸アミドの5%の混合物、デュヌイ法による0.01%水溶液の表面張力45mN/m、略号:HP1)5重量%(プロピレン単独重合体100重量部に対して11重量部)を粉体状態で混合し、230℃に設定した二軸混練機機にて溶融混練し、ストランド状に押し出してカッティングし、ペレットとした。溶融混練に際し、プロピレン単独重合体、炭酸カルシウム粉末、および親水化剤の合計重量の100重量部に対して、酸化防止剤として4-メチル-2,6-ジ-t-ブチルフェノール0.1重量部、イルガノックス1010(チバガイギー社製、商品名)0.05重量部を添加した。」(当審注:「二軸混練機機」は「二軸混練機」の誤記と認める。)

・「【0070】(実施例3)
<基材層の調製と縦延伸>メルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)が1g/10分のプロピレン単独重合体75重量%とメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)が8g/10分の高密度ポリエチレン5重量%との混合物に、平均粒子径3μmの炭酸カルシウム20重量%を配合した組成物[イ]を、250℃の温度に設定した押出機にて混練し、ストランド状に押し出し、カッティングしてペレットとした。この組成物[イ]を、250℃に設定した押し出し機に接続したTダイよりシート状に押出し、これを冷却装置により冷却して無延伸シートを得た。次いで、この無延伸シートを140℃に加熱した後、縦方向に4.5倍延伸して、延伸シートを得た。尚、実施例中の樹脂成分ないしはこれと微細粉末との混合物の溶融混練においては、樹脂成分と微細粉末の合計重量を100重量部として、これに加えて、酸化防止剤として、BHT(4-メチル-2,6-ジ-t-ブチルフェノール)0.2重量部と、イルガノックス1010(フェノール系酸化防止剤、チバガイギー社製、商品名)0.1重量部を添加した。
【0071】<表面の多孔性樹脂フィルムの形成>これとは別に、MFRが5g/10分のプロピレン単独重合体46重量%(略号PP2)、平均粒子径3μm、BET法による比表面積が1.8m^(2)/g、JIS-K5101-1991により測定される吸油量が31ml/100gの炭酸カルシウム(略号:炭カル2)50重量%と親水化剤として上記HP1を4重量%、を粉体状態で充分混合し、240℃に設定した二軸混練機機にてストランド状に押し出しカッティングしてペレットとした(組成物[ロ])。この組成物を、230℃(温度a)に設定した押し出し機を接続したTダイよりシート状に押出した。得られたシートを上述の操作により調製した4.5倍延伸シートの両面に積層し、50℃(温度b)にまで冷却した後、154℃(温度c)に加熱してテンターで横方向に8倍延伸した。その後、155℃(温度d)でアニーリング処理し、55℃(温度e)にまで冷却し、耳部をスリットして3層(表側の吸収層[ロ]/基材層[イ]/裏側の吸収層[ロ]:肉厚69μm/40μm/27μm)構造の全厚136μmの多孔性樹脂フィルムを有する積層体を得た。以下、実施例の積層体の評価を、表側の吸収層について行った。以上の結果を、表2に示す。」

・「【0080】(実施例17)実施例3の多孔性樹脂フィルムに実施例15と同様のコロナ処理を施したものを支持体(片面指定)とし、次の組成のインク受理層用塗工液を固形分含量が5g/m^(2)になるように塗布し、乾燥しインクジェット記録用紙を得た。
塗工液組成:
アルミナゾル(日産化学工業(株)製アルミナゾルー100、固形分10%) 100重量部
ポリビニルアルコール(クラレ(株)製PVA-117) 10重量部
水 100重量部
実施例1と同様の操作により評価を行った。評価結果を表4に示す。」

イ 甲3発明
甲3に記載された事項を実施例17に関して整理すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

「メルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)が1g/10分のプロピレン単独重合体75重量%とメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)が8g/10分の高密度ポリエチレン5重量%との混合物に、平均粒子径3μmの炭酸カルシウム20重量%を配合した組成物[イ]を、250℃の温度に設定した押出機にて混練し、ストランド状に押し出し、カッティングしてペレットとし、この組成物[イ]を、250℃に設定した押出機に接続したTダイよりシート状に押出し、これを冷却装置により冷却して無延伸シートを得、次いで、この無延伸シートを140℃に加熱した後、縦方向に4.5倍延伸して、延伸シートを得、MFRが5g/10分のプロピレン単独重合体46重量%、平均粒子径3μm、BET法による比表面積が1.8m^(2)/g、JIS-K5101-1991により測定される吸油量が31ml/100gの炭酸カルシウム50重量%と親水化剤(ドデカンスルホン酸ナトリウム95%とエチレンビスステアリン酸アミドの5%の混合物、デュヌイ法による0.01%水溶液の表面張力45mN/m)4重量%、を粉体状態で充分混合し、240℃に設定した二軸混練機にてストランド状に押し出しカッティングしてペレットとし(組成物[ロ])、この組成物を、230℃に設定した押出機を接続したTダイよりシート状に押出し、得られたシートを上記4.5倍延伸シートの両面に積層し、50℃にまで冷却した後、154℃に加熱してテンターで横方向に8倍延伸し、その後、155℃でアニーリング処理し、55℃にまで冷却し、耳部をスリットして3層(表側の吸収層[ロ]/基材層[イ]/裏側の吸収層[ロ]:肉厚69μm/40μm/27μm)構造の全厚136μmの多孔性樹脂フィルムを得、この多孔性樹脂フィルムにコロナ処理を施したものを支持体とし、次の組成のインク受理層用塗工液を固形分含量が5g/m^(2)になるように塗布し、乾燥して得たインクジェット記録用紙。
塗工液組成:
アルミナゾル(日産化学工業(株)製アルミナゾルー100、固形分10%) 100重量部
ポリビニルアルコール(クラレ(株)製PVA-117) 10重量部
水 100重量部」

2 取消理由2(甲2を主引用文献とする進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「メルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)が1g/10分のポリプロピレン75重量%とメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)が8g/10分の高密度ポリエチレン5重量%との混合物に、平均粒子径3μmの炭酸カルシウム20重量%を配合した組成物[イ]を、250℃の温度に設定した押出機にて混練し、ストランド状に押し出し、カッティングしてペレットとし、この組成物[イ]を、250℃に設定した押出機に接続したTダイよりシート状に押出し、これを冷却装置により冷却して無延伸シートを得、次いで、この無延伸シートを140℃に加熱した後、縦方向に4.5倍延伸して、延伸シートを得、MFRが5g/10分のポリプロピレン28重量%、とポリアルキレンオキシド系樹脂(エチレンオキシド約90%とブチレンオキシド約10%との共重合体で平均分子量約20,000のものとオクタデカメチレンジカルボン酸とのエステルで、全体の平均分子量は約114,000、30分間の吸水倍率は14g/g)12重量%との混合物に、平均粒子径3μm、BET法による比表面積が1.8m^(2)/g、JIS-K5101-1991により測定される吸油量が31ml/100gの炭酸カルシウム58重量%を配合して二軸混練機にて組成物[ロ]を調製し、この組成物を240℃に設定した押出機にて押出し、得られたシートを上述の操作により調製した4.5倍延伸シートの両面に積層し、55℃にまで冷却した後、155℃に加熱してテンターで横方向に8倍延伸し、その後、156℃でアニーリング処理し、50℃にまで冷却し、耳部をスリットして3層(表側の吸収層[ロ]/基材層[イ]/裏側吸収層[ロ]:肉厚72μm/40μm/23μm)構造の全厚135μmの多孔性樹脂フィルム」は本件特許発明1における「基材層(A)を含む樹脂シート」に相当する。
甲2発明における「アルミナ水和物2(平均粒径25nmである板状擬ベーマイトの固形分10%水溶液「カタロイドAS-2」(触媒化成工業(株)製;商品名)、バインダー樹脂1(重合度3500、ケン化度88%であるポリビニルアルコール「クラレポバールPVA-235」(クラレ(株)製;商品名)の固形分15%の水溶液)又はバインダー樹脂2(重合度2400、ケン化度95%であるポリビニルアルコール「クラレポバールPVA-124」(クラレ(株)製;商品名)の固形分15%の水溶液)を、アルミナ水和物2を90、バインダー樹脂1又はバインダー樹脂2を10の割合で混合してインク受容層形成用塗工液を調製し、この塗工液を乾燥後の塗工量が20g/m^(2)になるようにメイヤバーにて多孔質樹脂フィルム表側に塗工し、110℃のオーブンで5分間乾燥・固化して」形成した「受容層」は本件特許発明1における「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」と、「金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」という限りにおいて一致する。
甲2発明における「インクジェット記録用紙」は本件特許発明1における「フィルム」に相当する。
甲2発明における「受容層」が「インクジェット記録用紙」の少なくとも一方の面に配されていることは明らかである。
甲2発明における「受容層」中の「金属水和物2」の固形分に占める割合は47%(=(90×0.1)/(90×0.1+10)×100)であるから、甲2発明における「受容層」は本件特許発明1における「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」む「前記表面コート層」と、「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」む「前記表面コート層」という限りにおいて一致する。
甲2発明における「金属水和物2」はアルミニウムを含むことは明らかである。
甲2発明における「多孔性樹脂フィルム」は、「メルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)が1g/10分のポリプロピレン75重量%とメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)が8g/10分の高密度ポリエチレン5重量%との混合物に、平均粒子径3μmの炭酸カルシウム20重量%を配合した組成物[イ]」及び「MFRが5g/10分のポリプロピレン28重量%、とポリアルキレンオキシド系樹脂(エチレンオキシド約90%とブチレンオキシド約10%との共重合体で平均分子量約20,000のものとオクタデカメチレンジカルボン酸とのエステルで、全体の平均分子量は約114,000、30分間の吸水倍率は14g/g)12重量%との混合物に、平均粒子径3μm、BET法による比表面積が1.8m^(2)/g、JIS-K5101-1991により測定される吸油量が31ml/100gの炭酸カルシウム58重量%を配合して二軸混練機にて組成物[ロ]」からなるものであるから、本件特許発明1における「熱可塑性樹脂20?95質量%と、無機微細粉末5?80質量%とを含」む「基材層(A)」に相当する。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「基材層(A)を含む樹脂シートと、
金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層と、
を有するフィルムであって、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、
前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、
前記水溶性ポリマーに由来する成分と、
を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含み、
前記基材層(A)は、熱可塑性樹脂20?95質量%と、無機微細粉末5?80質量%とを含む、
フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。なお、相違点においての引数がアルファベットのものは、本件訂正によって生じた相違点である。
<相違点2-1>
本件特許発明1においては、「前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下であり」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-2>
本件特許発明1においては、「前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)である」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-A>
「表面コート層」に関して、本件特許発明1においては、「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する」と特定され、「前記有機高分子の溶媒分散体」について「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり」と特定され、さらに、「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」むと特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-B>
「金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」に関して、本件特許発明1においては、「乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点2-Aから検討する。
甲2の【0062】には、バインダー樹脂の具体例として、「水溶性ポリマー」であるポリビニルアルコール以外に、「有機高分子」であるウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体樹脂及び塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体樹脂などのような非水溶性樹脂を用いることができること及びそれらをエマルジョンとして用いることが記載されているものの、甲2には、受容層の由来として、「水溶性ポリマー」であるポリビニルアルコールに加えて、「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルション」を用いること、すなわち「金属酸化物を有する微粒子」、「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルション」である「有機高分子の溶媒分散体」及び「水溶性ポリマー」の3成分を用いることの動機付けとなる記載はないし、当然、それらの含有割合を、本件特許発明1のようにする動機付けとなる記載はない。
また、他の証拠にも、甲2発明において、上記のようにする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲2発明において、相違点2-Aに係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明7について
本件特許発明7と甲2発明を対比する。
甲2発明における「メルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)が1g/10分のポリプロピレン75重量%とメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)が8g/10分の高密度ポリエチレン5重量%との混合物に、平均粒子径3μmの炭酸カルシウム20重量%を配合した組成物[イ]を、250℃の温度に設定した押出機にて混練し、ストランド状に押し出し、カッティングしてペレットとし、この組成物[イ]を、250℃に設定した押出機に接続したTダイよりシート状に押出し、これを冷却装置により冷却して無延伸シートを得、次いで、この無延伸シートを140℃に加熱した後、縦方向に4.5倍延伸して、延伸シートを得、MFRが5g/10分のポリプロピレン28重量%、とポリアルキレンオキシド系樹脂(エチレンオキシド約90%とブチレンオキシド約10%との共重合体で平均分子量約20,000のものとオクタデカメチレンジカルボン酸とのエステルで、全体の平均分子量は約114,000、30分間の吸水倍率は14g/g)12重量%との混合物に、平均粒子径3μm、BET法による比表面積が1.8m^(2)/g、JIS-K5101-1991により測定される吸油量が31ml/100gの炭酸カルシウム58重量%を配合して二軸混練機にて組成物[ロ]を調製し、この組成物を240℃に設定した押出機にて押出し、得られたシートを上述の操作により調製した4.5倍延伸シートの両面に積層し、55℃にまで冷却した後、155℃に加熱してテンターで横方向に8倍延伸し、その後、156℃でアニーリング処理し、50℃にまで冷却し、耳部をスリットして3層(表側の吸収層[ロ]/基材層[イ]/裏側吸収層[ロ]:肉厚72μm/40μm/23μm)構造の全厚135μmの多孔性樹脂フィルム」は本件特許発明7における「樹脂シート」に相当する。
甲2発明における「アルミナ水和物2(平均粒径25nmである板状擬ベーマイトの固形分10%水溶液「カタロイドAS-2」(触媒化成工業(株)製;商品名)、バインダー樹脂1(重合度3500、ケン化度88%であるポリビニルアルコール「クラレポバールPVA-235」(クラレ(株)製;商品名)の固形分15%の水溶液)又はバインダー樹脂2(重合度2400、ケン化度95%であるポリビニルアルコール「クラレポバールPVA-124」(クラレ(株)製;商品名)の固形分15%の水溶液)を、アルミナ水和物2を90、バインダー樹脂1又はバインダー樹脂2を10の割合で混合してインク受容層形成用塗工液を調製し、この塗工液を乾燥後の塗工量が20g/m^(2)になるようにメイヤバーにて多孔質樹脂フィルム表側に塗工し、110℃のオーブンで5分間乾燥・固化して」形成した「受容層」は本件特許発明7における「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」と、「金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」という限りにおいて一致する。
甲2発明における「インクジェット記録用紙」は本件特許発明7における「フィルム」に相当する。
甲2発明における「受容層」が「インクジェット記録用紙」の少なくとも一方の面に配されていることは明らかである。
甲2発明における「受容層」中の「金属水和物2」の固形分に占める割合は47%であるから、甲2発明における「受容層」は本件特許発明7における「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」む「前記表面コート層」と、「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」む「前記表面コート層」という限りにおいて一致する。
甲2発明における「金属水和物2」はアルミニウムを含むことは明らかである。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「樹脂シートと、
金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層と、
を有するフィルムであって、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、
前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、
前記水溶性ポリマーに由来する成分と、
を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含む、
フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2-3>
本件特許発明7においては、「前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下であり」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-4>
本件特許発明7においては、「前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)である」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-5>
本件特許発明7においては、「前記樹脂シートが、エチレン系樹脂を使用し、無機微細粉末を45質量%以上含み、延伸倍率で1.2?5倍の一軸延伸フィルムである」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2?C>
「表面コート層」に関して、本件特許発明7においては、「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する」と特定され、「前記有機高分子の溶媒分散体」について「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり」と特定され、さらに、「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」むと特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2?D>
「金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」に関して、本件特許発明7においては、「乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点2-Cから検討する。
上記(1)イのとおり、甲2には、受容層の由来として、「金属酸化物を有する微粒子」、「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルション」である「有機高分子の溶媒分散体」及び「水溶性ポリマー」の3成分を用いることの動機付けとなる記載はないし、当然、それらの含有割合を、本件特許発明7のようにする動機付けとなる記載はない。
また、他の証拠にも、甲2発明において、上記のようにする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲2発明において、相違点2-Cに係る本件特許発明7の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明8について
本件特許発明8と甲2発明を対比する。
本件特許発明8と甲2発明の間には、本件特許発明7と甲2発明の間と同様の相当関係が成り立つから、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「樹脂シートと、
金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層と、
を有するフィルムであって、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、
前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と
前記水溶性ポリマーに由来する成分と、
を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含む、
フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2-6>
本件特許発明8においては、「前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下であり」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-7>
本件特許発明8においては、「前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)である」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-8>
本件特許発明8においては、「前記樹脂シートが、エチレン系樹脂を使用し、無機微細粉末を45質量%以上含み、面積倍率で1.5?15倍の二軸延伸フィルムである」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-E>
「表面コート層」に関して、本件特許発明8においては、「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する」と特定され、「前記有機高分子の溶媒分散体」について「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり」と特定され、さらに、「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」むと特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-F>
「金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」に関して、本件特許発明8においては、「乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点2-Eから検討する。
上記(1)イのとおり、甲2には、受容層の由来として、「金属酸化物を有する微粒子」、「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルション」である「有機高分子の溶媒分散体」及び「水溶性ポリマー」の3成分を用いることの動機付けとなる記載はないし、当然、それらの含有割合を、本件特許発明8のようにする動機付けとなる記載はない。
また、他の証拠にも、甲2発明において、上記のようにする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲2発明において、相違点2-Eに係る本件特許発明8の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件特許発明9について
本件特許発明9は、請求項7又は8を引用するものであり、本件特許発明7又は8の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明7又は8と同様の理由で、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)本件特許発明10ないし16について
本件特許発明10ないし16は、請求項1、7又は8を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1、7又は8の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1、7又は8と同様の理由で、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(7)本件特許発明17について
ア 対比
本件特許発明17と甲2発明を対比する。
甲2発明における「メルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)が1g/10分のポリプロピレン75重量%とメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)が8g/10分の高密度ポリエチレン5重量%との混合物に、平均粒子径3μmの炭酸カルシウム20重量%を配合した組成物[イ]を、250℃の温度に設定した押出機にて混練し、ストランド状に押し出し、カッティングしてペレットとし、この組成物[イ]を、250℃に設定した押出機に接続したTダイよりシート状に押出し、これを冷却装置により冷却して無延伸シートを得、次いで、この無延伸シートを140℃に加熱した後、縦方向に4.5倍延伸して、延伸シートを得、MFRが5g/10分のポリプロピレン28重量%、とポリアルキレンオキシド系樹脂(エチレンオキシド約90%とブチレンオキシド約10%との共重合体で平均分子量約20,000のものとオクタデカメチレンジカルボン酸とのエステルで、全体の平均分子量は約114,000、30分間の吸水倍率は14g/g)12重量%との混合物に、平均粒子径3μm、BET法による比表面積が1.8m^(2)/g、JIS-K5101-1991により測定される吸油量が31ml/100gの炭酸カルシウム58重量%を配合して二軸混練機にて組成物[ロ]を調製し、この組成物を240℃に設定した押出機にて押出し、得られたシートを上述の操作により調製した4.5倍延伸シートの両面に積層し、55℃にまで冷却した後、155℃に加熱してテンターで横方向に8倍延伸し、その後、156℃でアニーリング処理し、50℃にまで冷却し、耳部をスリットして3層(表側の吸収層[ロ]/基材層[イ]/裏側吸収層[ロ]:肉厚72μm/40μm/23μm)構造の全厚135μmの多孔性樹脂フィルム」は本件特許発明17における「樹脂シート(脂肪族ポリエステルフィルムを除く。)」に相当する。
甲2発明における「アルミナ水和物2(平均粒径25nmである板状擬ベーマイトの固形分10%水溶液「カタロイドAS-2」(触媒化成工業(株)製;商品名)、バインダー樹脂1(重合度3500、ケン化度88%であるポリビニルアルコール「クラレポバールPVA-235」(クラレ(株)製;商品名)の固形分15%の水溶液)又はバインダー樹脂2(重合度2400、ケン化度95%であるポリビニルアルコール「クラレポバールPVA-124」(クラレ(株)製;商品名)の固形分15%の水溶液)を、アルミナ水和物2を90、バインダー樹脂1又はバインダー樹脂2を10の割合で混合してインク受容層形成用塗工液を調製し、この塗工液を乾燥後の塗工量が20g/m^(2)になるようにメイヤバーにて多孔質樹脂フィルム表側に塗工し、110℃のオーブンで5分間乾燥・固化して」形成した「受容層」は本件特許発明17における「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」と、「金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」という限りにおいて一致する。
甲2発明における「インクジェット記録用紙」は本件特許発明17における「フィルム」に相当する。
甲2発明における「受容層」が「インクジェット記録用紙」の少なくとも一方の面に配されていることは明らかである。
甲2発明における「受容層」中の「金属水和物2」の固形分に占める割合は47%であるから、甲2発明における「受容層」は本件特許発明17における「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」む「前記表面コート層」と、「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」む「前記表面コート層」という限りにおいて一致する
甲2発明における「金属水和物2」はアルミニウムを含むことは明らかである。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「フィルムであって、
前記フィルムは、
樹脂シート(脂肪族ポリエステルフィルムを除く。)と、
金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層と、
を有し、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、
前記水溶性ポリマーに由来する成分と、
を含み
前記金属酸化物は、アルミニウムを含む、
フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2-9>
本件特許発明17においては、「フィルムを使用したラベル」とフィルムの用途が特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-10>
本件特許発明17においては、「前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下であり」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-11>
本件特許発明17においては、「前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)である」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2-12>
本件特許発明17においては、「前記樹脂シート」は「少なくともフロント面、基材層(A)、及びバック面をこの順で備え、前記フロント面及びバック面のそれぞれに、前記表面コート層を有する」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2?G>
「表面コート層」に関して、本件特許発明17においては、「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する」と特定され、「前記有機高分子の溶媒分散体」について「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり」と特定され、さらに、「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」むと特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点2?H>
「金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」に関して、本件特許発明17においては、「乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点2-Gから検討する。
上記(1)イのとおり、甲2には、受容層の由来として、「金属酸化物を有する微粒子」、「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルション」である「有機高分子の溶媒分散体」及び「水溶性ポリマー」の3成分を用いることの動機付けとなる記載はないし、当然、それらの含有割合を、本件特許発明17のようにする動機付けとなる記載はない。
また、他の証拠にも、甲2発明において、上記のようにする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲2発明において、相違点2-Gに係る本件特許発明17の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明17は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(8)取消理由2についてのむすび
よって、本件特許発明1ないし17は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、取消理由2によっては取り消すことはできない。

3 取消理由3(甲3を主引用文献とする進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明における「メルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)が1g/10分のプロピレン単独重合体75重量%とメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)が8g/10分の高密度ポリエチレン5重量%との混合物に、平均粒子径3μmの炭酸カルシウム20重量%を配合した組成物[イ]を、250℃の温度に設定した押出機にて混練し、ストランド状に押し出し、カッティングしてペレットとし、この組成物[イ]を、250℃に設定した押出機に接続したTダイよりシート状に押出し、これを冷却装置により冷却して無延伸シートを得、次いで、この無延伸シートを140℃に加熱した後、縦方向に4.5倍延伸して、延伸シートを得、MFRが5g/10分のプロピレン単独重合体46重量%、平均粒子径3μm、BET法による比表面積が1.8m^(2)/g、JIS-K5101-1991により測定される吸油量が31ml/100gの炭酸カルシウム50重量%と親水化剤(ドデカンスルホン酸ナトリウム95%とエチレンビスステアリン酸アミドの5%の混合物、デュヌイ法による0.01%水溶液の表面張力45mN/m)4重量%、を粉体状態で充分混合し、240℃に設定した二軸混練機にてストランド状に押し出しカッティングしてペレットとし(組成物[ロ])、この組成物を、230℃に設定した押出機を接続したTダイよりシート状に押出し、得られたシートを上記4.5倍延伸シートの両面に積層し、50℃にまで冷却した後、154℃に加熱してテンターで横方向に8倍延伸し、その後、155℃でアニーリング処理し、55℃にまで冷却し、耳部をスリットして3層(表側の吸収層[ロ]/基材層[イ]/裏側の吸収層[ロ]:肉厚69μm/40μm/27μm)構造の全厚136μmの多孔性樹脂フィルムを得、この多孔性樹脂フィルムにコロナ処理を施したもの」である「支持体」は本件特許発明1における「基材層(A)を含む樹脂シート」に相当する。
甲3発明における「次の組成のインク受理層用塗工液を固形分含量が5g/m^(2)になるように塗布し、乾燥」した部分は本件特許発明1における「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」と、「金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」という限りにおいて一致する。
甲3発明における「インクジェット記録用紙」は本件特許発明1における「フィルム」に相当する。
甲3発明における「次の組成のインク受理層用塗工液を固形分含量が5g/m^(2)になるように塗布し、乾燥」した部分が「インクジェット記録用紙」の少なくとも一方の面に配されていることは明らかである。
甲3発明における「次の組成のインク受理層用塗工液を固形分含量が5g/m^(2)になるように塗布し、乾燥」した部分」中の「アルミナゾル」の固形分に占める割合は50%であるから、甲3発明における「次の組成のインク受理層用塗工液を固形分含量が5g/m^(2)になるように塗布し、乾燥」した部分は本件特許発明1における「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」む「前記表面コート層」と、「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」む「前記表面コート層」という限りにおいて一致する。
甲3発明における「アルミナゾル」はアルミニウムを含むことは明らかである。
甲3発明における「支持体」は、「メルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)が1g/10分のプロピレン単独重合体75重量%とメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)が8g/10分の高密度ポリエチレン5重量%との混合物に、平均粒子径3μmの炭酸カルシウム20重量%を配合した組成物[イ]」と「MFRが5g/10分のプロピレン単独重合体46重量%、平均粒子径3μm、BET法による比表面積が1.8m^(2)/g、JIS-K5101-1991により測定される吸油量が31ml/100gの炭酸カルシウム50重量%と親水化剤(ドデカンスルホン酸ナトリウム95%とエチレンビスステアリン酸アミドの5%の混合物、デュヌイ法による0.01%水溶液の表面張力45mN/m)4重量%、を粉体状態で充分混合し、240℃に設定した二軸混練機機にてストランド状に押し出しカッティングしてペレットとし(組成物[ロ])」からなるものであるから、本件特許発明1における「熱可塑性樹脂20?95質量%と、無機微細粉末5?80質量%とを含」む「基材層(A)」に相当する。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「基材層(A)を含む樹脂シートと、
金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層と、
を有するフィルムであって、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、
前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、
前記水溶性ポリマーに由来する成分と、
を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含み、
前記基材層(A)は、熱可塑性樹脂20?95質量%と、無機微細粉末5?80質量%とを含む、
フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3-1>
本件特許発明1においては、「前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-2>
本件特許発明1においては、「前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)である」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-A>
「表面コート層」に関して、本件特許発明1においては、「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する」と特定され、「前記有機高分子の溶媒分散体」について「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり」と特定され、さらに、「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」むと特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-B>
「金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」に関して、本件特許発明1においては、乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点3-Aから検討する。
甲3の【0054】には、水系バインダとして、「水溶性ポリマー」であるポリビニルアルコール以外に、「有機高分子」であるポリウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等の水系エマルジョンが記載されているものの、甲3には、インク受理層の由来として、「水溶性ポリマー」であるポリビニルアルコールに加えて、「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルション」を用いること、すなわち「金属酸化物を有する微粒子」、「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルション」である「有機高分子の溶媒分散体」及び「水溶性ポリマー」の3成分を用いることの動機付けとなる記載はないし、当然、それらの含有割合を、本件特許発明1のようにする動機付けとなる記載はない。
また、他の証拠にも、甲3発明において、上記のようにする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲3発明において、相違点3-Aに係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明7について
本件特許発明7と甲3発明を対比する。
甲3発明における「メルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)が1g/10分のプロピレン単独重合体75重量%とメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)が8g/10分の高密度ポリエチレン5重量%との混合物に、平均粒子径3μmの炭酸カルシウム20重量%を配合した組成物[イ]を、250℃の温度に設定した押出機にて混練し、ストランド状に押し出し、カッティングしてペレットとし、この組成物[イ]を、250℃に設定した押出機に接続したTダイよりシート状に押出し、これを冷却装置により冷却して無延伸シートを得、次いで、この無延伸シートを140℃に加熱した後、縦方向に4.5倍延伸して、延伸シートを得、MFRが5g/10分のプロピレン単独重合体46重量%、平均粒子径3μm、BET法による比表面積が1.8m^(2)/g、JIS-K5101-1991により測定される吸油量が31ml/100gの炭酸カルシウム50重量%と親水化剤(ドデカンスルホン酸ナトリウム95%とエチレンビスステアリン酸アミドの5%の混合物、デュヌイ法による0.01%水溶液の表面張力45mN/m)4重量%、を粉体状態で充分混合し、240℃に設定した二軸混練機にてストランド状に押し出しカッティングしてペレットとし(組成物[ロ])、この組成物を、230℃に設定した押し出し機を接続したTダイよりシート状に押出し、得られたシートを上記4.5倍延伸シートの両面に積層し、50℃にまで冷却した後、154℃に加熱してテンターで横方向に8倍延伸し、その後、155℃でアニーリング処理し、55℃にまで冷却し、耳部をスリットして3層(表側の吸収層[ロ]/基材層[イ]/裏側の吸収層[ロ]:肉厚69μm/40μm/27μm)構造の全厚136μmの多孔性樹脂フィルムを得、この多孔性樹脂フィルムにコロナ処理を施したもの」である「支持体」は本件特許発明7における「樹脂シート」に相当する。
甲3発明における「次の組成のインク受理層用塗工液を固形分含量が5g/m^(2)になるように塗布し、乾燥」した部分は本件特許発明7における「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」と、「金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」という限りにおいて一致する。
甲3発明における「インクジェット記録用紙」は本件特許発明7における「フィルム」に相当する。
甲3発明における「次の組成のインク受理層用塗工液を固形分含量が5g/m^(2)になるように塗布し、乾燥」した部分は「インクジェット記録用紙」の少なくとも一方の面に配されていることは明らかである。
甲3発明における「次の組成のインク受理層用塗工液を固形分含量が5g/m^(2)になるように塗布し、乾燥」した部分中の「アルミナゾル」の固形分に占める割合は50%であるから、甲3発明における「次の組成のインク受理層用塗工液を固形分含量が5g/m^(2)になるように塗布し、乾燥」した部分は本件特許発明1における「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」む「前記表面コート層」と、「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」む「前記表面コート層」という限りにおいて一致する。
甲3発明における「アルミナゾル」はアルミニウムを含むことは明らかである。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「樹脂シートと、
金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層と、
を有するフィルムであって、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、
前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、
前記水溶性ポリマーに由来する成分と、
を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含む、
フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3-3>
本件特許発明7においては、「前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-4>
本件特許発明7においては、「前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)である」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-5>
本件特許発明7においては、「前記樹脂シートが、エチレン系樹脂を使用し、無機微細粉末を45質量%以上含み、延伸倍率で1.2?5倍の一軸延伸フィルムである」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3?C>
「表面コート層」に関して、本件特許発明7においては、「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する」と特定され、「前記有機高分子の溶媒分散体」について「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり」と特定され、さらに、「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」むと特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3?D>
「金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」に関して、本件特許発明7においては、「乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点3-Cから検討する。
上記(1)イのとおり、甲3には、インク受理層の由来として、「金属酸化物を有する微粒子」、「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルション」である「有機高分子の溶媒分散体」及び「水溶性ポリマー」の3成分を用いることの動機付けとなる記載はないし、当然、それらの含有割合を、本件特許発明7のようにする動機付けとなる記載はない。
また、他の証拠にも、甲3発明において、上記のようにする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲3発明において、相違点3-Cに係る本件特許発明7の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明8について
本件特許発明8と甲3発明を対比する。
本件特許発明8と甲3発明の間には、本件特許発明7と甲3発明の間と同様の相当関係が成り立つから、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「樹脂シートと、
金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層と、
を有するフィルムであって、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、
前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と
前記水溶性ポリマーに由来する成分と、
を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含む、
フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3-6>
本件特許発明8においては、「前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-7>
本件特許発明8においては、「前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)である」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-8>
本件特許発明8においては、「前記樹脂シートが、エチレン系樹脂を使用し、無機微細粉末を45質量%以上含み、面積倍率で1.5?15倍の二軸延伸フィルムである」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-E>
「表面コート層」に関して、本件特許発明8においては、「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する」と特定され、「前記有機高分子の溶媒分散体」について「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり」と特定され、さらに、「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」むと特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-F>
「金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」に関して、本件特許発明8においては、「乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点3-Eから検討する。
上記(1)イのとおり、甲3には、インク受理層の由来として、「金属酸化物を有する微粒子」、「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルション」である「有機高分子の溶媒分散体」及び「水溶性ポリマー」の3成分を用いることの動機付けとなる記載はないし、当然、それらの含有割合を、本件特許発明8のようにする動機付けとなる記載はない。
また、他の証拠にも、甲3発明において、上記のようにする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲3発明において、相違点3-Eに係る本件特許発明8の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件特許発明9について
本件特許発明9は、請求項7又は8を引用するものであり、本件特許発明7又は8の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明7又は8と同様の理由で、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)本件特許発明10ないし16について
本件特許発明10ないし16は、請求項1、7又は8を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1、7又は8の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1、7又は8と同様の理由で、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(7)本件特許発明17について
ア 対比
本件特許発明17と甲3発明を対比する。
甲3発明における「メルトフローレート(MFR:230℃、2.16kg荷重)が1g/10分のプロピレン単独重合体75重量%とメルトフローレート(MFR:190℃、2.16kg荷重)が8g/10分の高密度ポリエチレン5重量%との混合物に、平均粒子径3μmの炭酸カルシウム20重量%を配合した組成物[イ]を、250℃の温度に設定した押出機にて混練し、ストランド状に押し出し、カッティングしてペレットとし、この組成物[イ]を、250℃に設定した押出機に接続したTダイよりシート状に押出し、これを冷却装置により冷却して無延伸シートを得、次いで、この無延伸シートを140℃に加熱した後、縦方向に4.5倍延伸して、延伸シートを得、MFRが5g/10分のプロピレン単独重合体46重量%、平均粒子径3μm、BET法による比表面積が1.8m^(2)/g、JIS-K5101-1991により測定される吸油量が31ml/100gの炭酸カルシウム50重量%と親水化剤(ドデカンスルホン酸ナトリウム95%とエチレンビスステアリン酸アミドの5%の混合物、デュヌイ法による0.01%水溶液の表面張力45mN/m)4重量%、を粉体状態で充分混合し、240℃に設定した二軸混練機にてストランド状に押し出しカッティングしてペレットとし(組成物[ロ])、この組成物を、230℃に設定した押出機を接続したTダイよりシート状に押出し、得られたシートを上記4.5倍延伸シートの両面に積層し、50℃にまで冷却した後、154℃に加熱してテンターで横方向に8倍延伸し、その後、155℃でアニーリング処理し、55℃にまで冷却し、耳部をスリットして3層(表側の吸収層[ロ]/基材層[イ]/裏側の吸収層[ロ]:肉厚69μm/40μm/27μm)構造の全厚136μmの多孔性樹脂フィルムを得、この多孔性樹脂フィルムにコロナ処理を施したもの」である「支持体」は本件特許発明17における「樹脂シート(脂肪族ポリエステルフィルムを除く。)」に相当する。
甲3発明における「次の組成のインク受理層用塗工液を固形分含量が5g/m^(2)になるように塗布し、乾燥」した部分は本件特許発明17における「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」と、「金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」という限りにおいて一致する。
甲3発明における「インクジェット記録用紙」は本件特許発明17における「フィルム」に相当する。
甲3発明における「次の組成のインク受理層用塗工液を固形分含量が5g/m^(2)になるように塗布し、乾燥」した部分は「インクジェット記録用紙」の少なくとも一方の面に配されていることは明らかである。
甲3発明における「次の組成のインク受理層用塗工液を固形分含量が5g/m^(2)になるように塗布し、乾燥」した部分中の「アルミナゾル」の固形分に占める割合は50%であるから、甲3発明における「次の組成のインク受理層用塗工液を固形分含量が5g/m^(2)になるように塗布し、乾燥」した部分は本件特許発明17における「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」む「前記表面コート層」と、「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」む「前記表面コート層」という限りにおいて一致する。
甲3発明における「アルミナゾル」はアルミニウムを含むことは明らかである。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「フィルムであって、
前記フィルムは、
樹脂シートと、
金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層と、
を有し、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、
前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、
前記水溶性ポリマーに由来する成分と、
を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含む、
フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3-9>
本件特許発明17においては、「フィルムを使用したラベル」とフィルムの用途が特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-10>
本件特許発明17においては、「前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-11>
本件特許発明17においては、「前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)である」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3-12>
本件特許発明17においては、「前記樹脂シート」は「少なくともフロント面、基材層(A)、及びバック面をこの順で備え、前記フロント面及びバック面のそれぞれに、前記表面コート層を有する」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3?G>
「表面コート層」に関して、本件特許発明17においては、「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する」と特定され、「前記有機高分子の溶媒分散体」について「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり」と特定され、さらに、「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」むと特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点3?H>
「金属酸化物を有する微粒子と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」に関して、本件特許発明17においては、「乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点3-Gから検討する。
上記(1)イのとおり、甲3には、インク受理層の由来として、「金属酸化物を有する微粒子」、「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルション」である「有機高分子の溶媒分散体」及び「水溶性ポリマー」の3成分を用いることの動機付けとなる記載はないし、当然、それらの含有割合を、本件特許発明17のようにする動機付けとなる記載はない。
また、他の証拠にも、甲3発明において、上記のようにする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲3発明において、相違点3-Gに係る本件特許発明17の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明17は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(8)取消理由3についてのむすび
よって、本件特許発明1ないし17は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、取消理由3によっては取り消すことはできない。

第6 取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由1(甲1を主引用文献とする進歩性)である。
そこで、検討する。

1 甲1に記載された事項及び甲1発明
(1)甲1に記載された事項
甲1には、「脂肪族ポリエステル塗工フィルム」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【請求項1】 脂肪族ポリエステル100重量部に対し、滑剤及びアンチブロッキング剤からなる群より選ばれた少なくとも1種の添加剤0.1?2重量部を含む脂肪族ポリエステル樹脂組成物からなる脂肪族ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、帯電防止剤または防曇剤を含有する水性塗工液を塗布して形成された被膜を有する脂肪族ポリエステル塗工フィルム。」

・「【0057】防曇剤組成物の調製例1?3
四つ口フラスコにポリオキシエチレンラウリルエーテル2重量部及び水80重量部を仕込んで窒素ガス気流下で60℃まで加熱、攪拌し、ここに過硫酸アンモニウム0.5重量部を滴下し、さらに、メタクリル酸メチル60モル%及びメタクリル酸n-ブチル40モル%からなる混合物100重量部を3時間にわたって滴下した。滴下終了後も60?70℃で2時間保持してから冷却し、アンモニア水で中和してアクリル系樹脂エマルジョンを得た。得られたアクリル系樹脂エマルジョンに第2表(表3)に示した種類及び量の無機質コロイドゾルを配合し、防曇剤組成物A、B及びCを得た。
【0058】
【表3】



・「【0059】実施例2-1
分子量約120,000のポリ(L-乳酸)(融点175℃、以下、PLAという)100重量部に対し、紫外線吸収剤〔共同薬品(株)製、バイオソーブ130〕0.05重量部、及び、脂肪酸エステル系滑剤(ホスタルブWE-4)0.3重量部を含むペレットを、180℃においてTダイが装着された押出機を用いて混練、溶融して押出し、厚さ800μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを60℃に加熱した後、長さ方向にロール法によって3倍延伸し、一軸延伸フィルムを得た。そのフィルムの片面にコロナ放電処理を行ない、該処理面に調製例1で得た防曇剤組成物Aをメタリングバー法で単位面積当たりの固形分の重量が表3に記載した重量になるように塗布し、70℃に加熱した後、横方向にテンターを用いて2.5倍延伸を行ない、引き続き緊張下で140℃において2分間熱処理し、厚み0.1mmの防曇性被膜が形成された二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの防曇性被膜の密着性及び透明性を上記方法により測定した。」

・「【0063】実施例2-5
実施例2-1で使用した防曇剤組成物を防曇剤組成物Bに代えた以外、実施例2-1と同様にして二軸延伸フィルムを得、それを実施例2-1と同様にして評価した。」

(2)甲1発明
甲1に記載された事項を実施例2-5に関して整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「分子量約120,000のポリ(L-乳酸)(融点175℃)100重量部に対し、紫外線吸収剤〔共同薬品(株)製、バイオソーブ130〕0.05重量部、及び、脂肪酸エステル系滑剤(ホスタルブWE-4)0.3重量部を含むペレットを、180℃においてTダイが装着された押出機を用いて混練、溶融して押出し、厚さ800μmの未延伸フィルムを得、この未延伸フィルムを60℃に加熱した後、長さ方向にロール法によって3倍延伸し、一軸延伸フィルムを得、そのフィルムの片面にコロナ放電処理を行ない、該処理面に調製例2で得た防曇剤組成物B(アクリル系エマルジョン固形物1.5重量部、アルミナゾル3.5重量部、水95重量部)をメタリングバー法で単位面積当たりの固形分の重量が0.5g/cm^(3)になるように塗布し、70℃に加熱した後、横方向にテンターを用いて2.5倍延伸を行ない、引き続き緊張下で140℃において2分間熱処理して得た、厚み0.1mmの防曇性被膜が形成された二軸延伸フィルム。」

2 本件特許発明17について
(1)対比
本件特許発明17と甲1発明を対比する。
甲1発明の「二軸延伸フィルム」のうち「メタリングバー法で単位面積当たりの固形分の重量が0.5g/cm^(3)になるように塗布」された「調製例2で得た防曇剤組成物B(アクリル系エマルジョン固形物1.5重量部、アルミナゾル3.5重量部、水95重量部)」以外の部分は本件特許発明17における「樹脂シート(脂肪族ポリエステルフィルムを除く。)」と、「樹脂シート」という限りにおいて一致する。
甲1発明における「メタリングバー法で単位面積当たりの固形分の重量が0.5g/cm^(3)になるように塗布」された「調製例2で得た防曇剤組成物B(アクリル系エマルジョン固形物1.5重量部、アルミナゾル3.5重量部、水95重量部)」の部分は、「防曇剤組成物B(アクリル系エマルジョン固形物1.5重量部、アルミナゾル3.5重量部、水95重量部)」が全体を100重量部として、アクリル系エマルジョン固形物1.5重量部、アルミナゾル3.5重量部及び水95重量部からなるものであるから、本件特許発明17における「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」と、「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層」という限りにおいて一致する。
甲1発明における「二軸延伸フィルム」は本件特許発明17における「フィルム」に相当する。
甲1発明における「メタリングバー法で単位面積当たりの固形分の重量が0.5g/cm^(3)になるように塗布」された「調製例2で得た防曇剤組成物B(アクリル系エマルジョン固形物1.5重量部、アルミナゾル3.5重量部、水95重量部)」の部分は「二軸延伸フィルム」の少なくとも一方の面に配されていることは明らかである。
甲1発明における「調製例2で得た防曇剤組成物B(アクリル系エマルジョン固形物1.5重量部、アルミナゾル3.5重量部、水95重量部)」の「アルミナゾル」の固形分に占める割合は70%(=3.5/(3.5+1.5)×100)であり、「調製例2で得た防曇剤組成物B(アクリル系エマルジョン固形物1.5重量部、アルミナゾル3.5重量部、水95重量部)」の固形分の40%以上であることは明らかであるから、甲1発明における「メタリングバー法で単位面積当たりの固形分の重量が0.5g/cm^(3)になるように塗布」された「調製例2で得た防曇剤組成物B(アクリル系エマルジョン固形物1.5重量部、アルミナゾル3.5重量部、水95重量部)」の部分は本件特許発明1における「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」む「前記表面コート層」と、「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、を含」む「前記表面コート層」という限りにおいて一致する。
甲1発明における「調製例2で得た防曇剤組成物B(アクリル系エマルジョン固形物1.5重量部、アルミナゾル3.5重量部、水95重量部)」のうちの「アルミナゾル」がアルミニウムを含むことは明らかである。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「フィルムであって、
前記フィルムは、
樹脂シートと、
金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層と、
を有し、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、
前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、
前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、
を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含む、
フィルム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点17-1>
本件特許発明17においては、「フィルムを使用したラベル」とフィルムの用途が特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点17-2>
本件特許発明17においては、「前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJISL 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点17-3>
本件特許発明17においては、「前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点17-4>
本件特許発明17においては、「前記樹脂シート」は「少なくともフロント面、基材層(A)、及びバック面をこの順で備え、前記フロント面及びバック面のそれぞれに、前記表面コート層を有する」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点17-A>
「樹脂シート」に関して、本件特許発明17においては、「(脂肪族ポリエステルフィルムを除く。)」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点17-B>
「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層」に関して、本件特許発明17においては、「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層」であると特定され、「前記有機高分子の溶媒分散体」について「ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり」と特定され、さらに、「前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、を含」むと特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

<相違点17-C>
「金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層」に関して、本件特許発明17においては、「乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

(2)判断
事案に鑑み、相違点17-Aから検討する。
甲1発明における「二軸延伸フィルム」のうち、「二軸延伸フィルム」から見たとき、「防曇性被膜」以外の部分は、「分子量約120,000のポリ(L-乳酸)(融点175℃)100重量部に対し、紫外線吸収剤〔共同薬品(株)製、バイオソーブ130〕0.05重量部、及び、脂肪酸エステル系滑剤(ホスタルブWE-4)0.3重量部を含むペレットを、180℃においてTダイが装着された押出機を用いて混練、溶融して押出し」て得たものであるから、「脂肪族ポリエステルフィルム」である。
そして、甲1の【請求項1】の記載からみて、甲1発明は「脂肪族ポリエステルフィルム」であることを前提とした発明であるから、甲1発明において、「樹脂シート」から「脂肪族ポリエステルフィルム」を除く動機付けがあるとはいえないし、むしろ阻害要因があるといえる。
したがって、甲1発明において、相違点17-Aに係る本件特許発明17の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(3)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明17は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 申立理由1についてのむすび
よって、本件特許発明17は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項17に係る特許は、申立理由1によっては取り消すことはできない。

第7 結語
上記第5及び6のとおり、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。



 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層(A)を含む樹脂シートと、
金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層と、
を有するフィルムであって、
前記有機高分子の溶媒分散体は、ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり、
前記表面コート層は、
前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、
前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、
前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、
を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含み、
前記基材層(A)は、熱可塑性樹脂20?95質量%と、無機微細粉末5?80質量%とを含み、
前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下であり、
前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)であることを特徴とする、
フィルム。
【請求項2】
前記樹脂シートが、プロピレン単独重合体ないしはその共重合体を使用し、延伸倍率で1.2?12倍の一軸延伸フィルムであることを特徴とする、
請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記樹脂シートが、プロピレン単独重合体ないしはその共重合体を使用し、面積倍率で1.5?60倍の二軸延伸フィルムであることを特徴とする、
請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
前記基材層(A)が、熱可塑性樹脂30?95質量%と、無機微細粉末5?70質量%とを含んでなることを特徴とする、
請求項1に記載のフィルム。
【請求項5】
前記基材層(A)が、熱可塑性樹脂30?80質量%と、無機微細粉末20?70質量%とを含んでなることを特徴とする、
請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
前記基材層(A)が、ポリエチレン系樹脂20?40質量%と、無機微細粉末60?80質量%とを含んでなることを特徴とする、
請求項1に記載のフィルム。
【請求項7】
樹脂シートと、
金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層と、
を有するフィルムであって、
前記有機高分子の溶媒分散体は、ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり、
前記表面コート層は、
前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、
前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、
前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、
を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含み、
前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下であり、
前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)であり、
前記樹脂シートが、エチレン系樹脂を使用し、無機微細粉末を45質量%以上含み、延伸倍率で1.2?5倍の一軸延伸フィルムであることを特徴とする、
フィルム。
【請求項8】
樹脂シートと、
金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層と、
を有するフィルムであって、
前記有機高分子の溶媒分散体は、ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり、
前記表面コート層は、
前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、
前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、
前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、
を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含み、
前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下であり、
前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)であり、
前記樹脂シートが、エチレン系樹脂を使用し、無機微細粉末を45質量%以上含み、面積倍率で1.5?15倍の二軸延伸フィルムであることを特徴とする、
フィルム。
【請求項9】
前記樹脂シートは、基材層(A)を備える、
請求項7又は請求項8に記載のフィルム。
【請求項10】
前記樹脂シートは、
少なくともフロント面、前記基材層(A)、ヒートシール層(B)及びバック面をこの順で備え、
前記フロント面に、前記表面コート層が配されることを特徴とする、
請求項1から請求項6までの何れか一項又は請求項9に記載のフィルム。
【請求項11】
前記樹脂シートは、
少なくともフロント面、前記基材層(A)、強度付与層(C)及びバック面をこの順で備え、
前記フロント面に、前記表面コート層が配され、
前記基材層(A)が含有する無機微細粉末の含有率は、前記強度付与層(C)が含有する無機微細粉末の含有率より高いことを特徴とする、
請求項1から請求項6までの何れか一項又は請求項9に記載のフィルム。
【請求項12】
前記樹脂シートは、
少なくともフロント面、高平滑層(D)、前記基材層(A)、及びバック面をこの順で備え、
前記フロント面に、前記表面コート層が配されることを特徴とする、
請求項1から請求項6までの何れか一項又は請求項9に記載のフィルム。
【請求項13】
前記樹脂シートは、
少なくともフロント面、前記基材層(A)、及びバック面をこの順で備え、
前記フロント面及びバック面のそれぞれに、前記表面コート層が配されることを特徴とする、
請求項1から請求項6までの何れか一項又は請求項9に記載のフィルム。
【請求項14】
請求項10に記載のフィルムをインモールド成形により貼着してなる、
ラベル付き中空成型容器。
【請求項15】
請求項11に記載のフィルムのバック面に粘着剤層(E)を有する、
粘着フィルム。
【請求項16】
請求項10から請求項13までの何れか1項に記載のフィルムを使用した、
ラベル。
【請求項17】
フィルムを使用したラベルであって、
前記フィルムは、
樹脂シート(脂肪族ポリエステルフィルムを除く。)と、
金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体と、水溶性ポリマーとに由来する表面コート層と、
を有し、
前記有機高分子の溶媒分散体は、ビニル系樹脂エマルション又はポリウレタン樹脂エマルションであり、
前記表面コート層は、前記フィルムの少なくとも一方の面に配され、
前記表面コート層は、乾燥後固形分換算で、0.15g/m^(2)以上4.26g/m^(2)以下であり、
前記表面コート層は、
前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子に由来する成分と、
前記表面コート層に対して11.6質量%以上の前記有機高分子の溶媒分散体に由来する成分と、
前記表面コート層に対して1.8質量%以上5.2質量%以下の前記水溶性ポリマーに由来する成分と、
を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含み、
前記フィルムの前記表面コート層が配された面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが、200秒以下であり、
前記樹脂シートの密度が、0.5?1.3g/cm^(3)であり、
前記樹脂シートは、
少なくともフロント面、基材層(A)、及びバック面をこの順で備え、
前記フロント面及びバック面のそれぞれに、前記表面コート層を有することを特徴とする、
ラベル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-07-09 
出願番号 特願2017-38824(P2017-38824)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩田 行剛芦原 ゆりか  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 加藤 友也
細井 龍史
登録日 2019-12-06 
登録番号 特許第6625081号(P6625081)
権利者 株式会社ユポ・コーポレーション
発明の名称 熱可塑性樹脂フィルム、ラベル付き中空成型容器、粘着フィルム及びラベル  
代理人 龍華国際特許業務法人  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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