• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 一部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1378722
異議申立番号 異議2019-701027  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-16 
確定日 2021-08-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6536822号発明「ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂を含むトナー、およびポリエステル樹脂の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6536822号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、4、9〕、〔3、8、10〕、〔5、6〕、〔7、11〕について訂正することを認める。 特許第6536822号の請求項1、2、4ないし6、9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯及び証拠方法

1.手続の経緯
特許第6536822号(請求項の数7。以下、「本件特許」という。)は、平成27年5月28日(優先権主張:平成26年5月30日、特願2014-111846号)を国際出願日とする特許出願(特願2015-531975号)に係るものであって、令和1年6月14日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和1年7月3日である。)。
その後、令和1年12月16日に、本件特許の請求項1、2、4?6に係る特許に対して、特許異議申立人である中村光代(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
以降の手続の経緯は以下のとおりである。

令和2年 2月28日付け 取消理由通知書
同年 5月 8日 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 6月29日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
同年 7月30日 意見書(申立人)
同年10月12日付け 訂正拒絶理由通知書
同年11月18日 手続補正書、意見書(特許権者)
令和3年 1月28日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年 4月 5日 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 4月22日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
なお、令和3年4月5日の訂正請求により、令和2年5月8日の訂正請求は、みなし取下げとなった(特許法第120条の5第7項)。
また、令和3年4月22日付け通知書に対し、申立人からは意見書の提出はなかった。

2.証拠方法
(1)申立人が、特許異議申立書に添付した証拠方法(甲第1号証)及び令和2年7月30日提出の意見書に添付した証拠方法(甲第2号証)は、以下のとおりである。

・甲第1号証:特開平04-358166号公報
・甲第2号証:特開平04-083262号公報
(以下、「甲第1号証」、「甲第2号証」をそれぞれ「甲1」、「甲2」という。)

(2)特許権者が、令和2年5月8日提出の意見書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。

・乙第1号証:三菱ケミカル株式会社 愛知研究所 高機能化学研究室 材料設計G 田村陽子作成の実験成績証明書(令和2年4月28日)
(以下、「乙第1号証」を「乙1」という。)


第2 訂正の適否

1.訂正の内容
令和3年4月5日提出の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、」を
「水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価が3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の
「酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:26である、ポリエステル樹脂。」を
「酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:26であり、
軟化温度が120?145℃である、ポリエステル樹脂。」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2の
「前記三価以上の酸由来成分の含有量が、全酸由来成分1モル中0.01?0.30モルである、」を、
「前記三価以上の酸由来成分の含有量が、全酸由来成分1モル中0.01?0.30モルであり、
酸価が4.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2の
「請求項1記載のポリエステル樹脂。」を、
「全酸由来成分1モルに対する前記ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分の含有量が、0.01?0.25モルである、請求項1記載のポリエステル樹脂。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3の
「重合触媒由来の金属含有量が20ppm以下である、請求項1または2記載のポリエステル樹脂。」
とあるうち、請求項2を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて、
「三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.35モル含み、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:26であり、
重合触媒由来の金属含有量が20ppm以下である、ポリエステル樹脂。」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3に
「重合触媒由来の金属含有量が20ppm以下である、請求項1または2記載のポリエステル樹脂。」
とあるうち、請求項2を引用するものについて、
「三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.35モル含み、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:26であり、
前記三価以上の酸由来成分の含有量が、全酸由来成分1モル中0.01?0.30モルであり、
重合触媒由来の金属含有量が20ppm以下である、ポリエステル樹脂。」と訂正し、新たに請求項8とする。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4の
「請求項1から3のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含むトナー。」
とあるうち、請求項2及び3を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて、
「三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.35モル含み、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価が3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:5?1:26であり、軟化温度が120?145℃である、ポリエステル樹脂を含むトナー。」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項4の
「請求項1から3のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含むトナー。」とあるうち、請求項2を引用するものについて、
「三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.25モル含み、
前記三価以上の酸由来成分の含有量が、全酸由来成分1モル中0.01?0.30モルであり、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価が4.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:20であり、
軟化温度が120?145℃である、ポリエステル樹脂を含むトナー。」に訂正し、新たに請求項9とする。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1から3のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含むトナー。」
とあるうち、請求項3を引用するものについて、訂正前の請求項3に対応する訂正後の請求項3及び8を引用するように、
「請求項3または8に記載のポリエステル樹脂を含むトナー。」と訂正し、新たに請求項10とする。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項5の
「仕込み時の前記モノマー混合物中のカルボキシル基数と水酸基数との比が、カルボキシル基数:水酸基数=1:1.13?1.30である、」を、
「仕込み時の前記モノマー混合物中のカルボキシル基数と水酸基数との比が、カルボキシル基数:水酸基数=1:1.13?1:1.30であり、
ポリエステル樹脂の酸価が3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、」に訂正する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項5の
「ポリエステル樹脂の製造方法。」を
「且つ軟化温度が120?145℃である、ポリエステル樹脂の製造方法。」に訂正する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項6の
「前記三価以上の酸由来成分の含有量が、全酸由来成分1モル中0.01?0.30モルである、」を
「前記三価以上の酸由来成分の含有量が、全酸由来成分1モル中0.01?0.30モルであり、
ポリエステル樹脂の酸価が4.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、」に訂正する。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項6の
「請求項5記載のポリエステル樹脂の製造方法。」を
「全酸由来成分1モルに対する前記ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分の含有量が、0.01?0.25モルである、請求項5記載のポリエステル樹脂の製造方法。」に訂正する。

(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項7の
「重合触媒20ppm以下の条件で重合する、請求項5または6に記載のポリエステル樹脂の製造方法。」
とあるうち、請求項6を引用しないものとした上で、請求項5を引用するものについて、
「多価アルコールと多価カルボン酸を含むモノマー混合物を重縮合することを含むポリエステル樹脂の製造方法であって、
前記モノマー混合物が、三価以上の酸成分と、全酸成分1モルに対して0.01?0.35モルのビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物を含み、
仕込み時の前記モノマー混合物中のカルボキシル基数と水酸基数との比が、カルボキシル基数:水酸基数=1:1.13?1:1.30であり、
重合触媒20ppm以下の条件で重合する、ポリエステル樹脂の製造方法。」に訂正する。

(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項7の
「重合触媒20ppm以下の条件で重合する、請求項5または6に記載のポリエステル樹脂の製造方法。」
とあるうち、請求項6を引用するものについて、
「多価アルコールと多価カルボン酸を含むモノマー混合物を重縮合することを含むポリエステル樹脂の製造方法であって、
前記モノマー混合物が、三価以上の酸成分と、全酸成分1モルに対して0.01?0.35モルのビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物を含み、
仕込み時の前記モノマー混合物中のカルボキシル基数と水酸基数との比が、カルボキシル基数:水酸基数=1:1.13?1:1.30であり、前記三価以上の酸成分の含有量が、全酸成分1モル中に0.01?0.30モルであり、
重合触媒20ppm以下の条件で重合する、ポリエステル樹脂の製造方法。」と訂正し、新たに請求項11とする。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否の検討
以下の検討において、本件訂正前の請求項1ないし7をそれぞれ項番に従い「旧請求項1」のようにいい、訂正後の請求項1ないし11をそれぞれ項番に従い「新請求項1」のようにいう。

(1)訂正事項1及び2に係る訂正
旧請求項1のポリエステル樹脂について、訂正事項1に係る訂正では、明細書の【0031】、【0072】(表1、実施例1)の記載に基づいて、「酸価」を「3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」と限定し、訂正事項2に係る訂正では、明細書の【0026】の記載に基づいて、「軟化温度が120?145℃」と限定することにより、旧請求項1に対してその特許請求の範囲を減縮して新請求項1としていることから、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当しない。また、特許請求の範囲を実質的に減縮するものであることは明らかであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項3及び4に係る訂正
旧請求項2のポリエステル樹脂について、訂正事項3に係る訂正では、明細書の【0031】、【0072】(表1、実施例2)の記載に基づいて、「酸価」を「4.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」と限定し、訂正事項4に係る訂正では、明細書の【0022】、【0072】(表1、実施例2)の記載に基づいて、「全酸由来成分1モルに対する前記ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分の含有量が、0.01?0.25モルである」と限定することにより、旧請求項2に対してその特許請求の範囲を減縮して新請求項2としていることから、訂正事項3及び4に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当しない。また、特許請求の範囲を実質的に減縮するものであることは明らかであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項5、6及び9に係る訂正
旧請求項1又は同項を引用して記載されていた旧請求項2を引用して記載された旧請求項3について、訂正事項5に係る訂正では、旧請求項1に記載された事項のみを書き下して独立項形式とし新請求項3としたものであり、訂正事項6に係る訂正では、旧請求項1及び旧請求項2に記載された事項のみを書き下して独立項形式とし新請求項8としたものであるから、それぞれ、他の請求項を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。また、訂正前の請求項に記載された事項を他の請求項に書き下して引用形式で記載されたものを単に独立項形式で記載しただけのものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

また、訂正事項9に係る訂正は、旧請求項1?3のいずれかを引用して記載された旧請求項4について、旧請求項1を引用する旧請求項3を独立項形式に書き下して新請求項3にし、旧請求項1及び2を引用する旧請求項3を独立項形式に書き下して新請求項8にしたことに伴って、旧請求項1及び3を引用する旧請求項4と、旧請求項1、2及び3を引用する旧請求項4を、訂正の前後で発明特定事項を一切変えずに新請求項3及び8を引用することにより新請求項10としたものであるから、引用関係の部分的な解消であり、他の請求項を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるといえ、新規事項の追加には該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項7に係る訂正
訂正事項7に係る訂正は、旧請求項1?3のいずれかを引用して記載された旧請求項4について、旧請求項1に記載された事項のみを書き下して独立項形式とし、さらに、ポリエステル樹脂について、明細書の【0025】、【0026】、【0031】、【0072】(表1、実施例1)の記載に基づいて、「酸価:水酸基価」を「1:5?1:26」に、「酸価」を「3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」に、「軟化温度が120?145℃」に限定することにより、旧請求項4に対してその特許請求の範囲を減縮して新請求項4としていることが明らかであるから、訂正事項7に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、及び、他の請求項を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。また、特許請求の範囲を実質的に減縮するものであることは明らかであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項8に係る訂正
訂正事項8に係る訂正は、旧請求項1?3のいずれかを引用して記載された旧請求項4について、旧請求項1及び旧請求項2に記載された事項のみを書き下して独立項形式とし、さらに、ポリエステル樹脂について、【0022】、【0025】、【0026】、【0031】、【0072】(表1、実施例2)の記載に基づいて「酸価:水酸基価」を「1:3?1:20」に、「酸価」を「4.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」に、「軟化温度が120?145℃」に限定することにより、旧請求項4に対してその特許請求の範囲を減縮して新請求項9としていることが明らかであるから、訂正事項8に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、及び、他の請求項を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。また、特許請求の範囲を実質的に減縮するものであることは明らかであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項10及び11に係る訂正
旧請求項5のポリエステル樹脂の製造方法における製造されるポリエステル樹脂について、訂正事項10に係る訂正は、【0031】、【0072】(表1、実施例1)の記載に基づいて、「酸価」を「3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」に限定し、訂正事項11に係る訂正は、【0026】の記載に基づいて、「軟化温度が120?145℃」と限定することにより、旧請求項5に対してその特許請求の範囲を減縮して新請求項5としていることから、訂正事項10及び11に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。また、特許請求の範囲を実質的に減縮するものであることは明らかであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7)訂正事項12及び13に係る訂正
旧請求項6のポリエステル樹脂の製造方法について、訂正事項12に係る訂正は、【0031】、【0072】(表1、実施例2)の記載に基づいて、製造されるポリエステル樹脂の「酸価」を「4.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」に限定し、訂正事項13に係る訂正は、【0022】、【0072】(表1、実施例2)の記載に基づいて、モノマー混合物について「全酸由来成分1モルに対する前記ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分の含有量が、0.01?0.25モル」に限定することにより、旧請求項6に対してその特許請求の範囲を減縮して新請求項6としていることから、訂正事項12及び13に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。また、特許請求の範囲を実質的に減縮するものであることは明らかであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(8)訂正事項14及び15に係る訂正
旧請求項5又は6のいずれかを引用して記載された旧請求項7について、訂正事項14に係る訂正は、旧請求項5に記載された事項のみを書き下して独立項形式として新請求項7としたものであり、訂正事項15に係る訂正は、旧請求項5及び旧請求項6に記載された事項のみを書き下して独立項形式として新請求項11としたものであるから、他の請求項を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。また、訂正前の請求項に記載された事項を他の請求項に書き下して引用形式で記載されたものを単に独立項形式で記載しただけのものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.一群の請求項について
旧請求項1?4について、旧請求項2?4は、旧請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される旧請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、旧請求項1?4に対応する新請求項1?4、8?10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、旧請求項5?7について、旧請求項6?7は、旧請求項5を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項10によって記載が訂正される旧請求項5に連動して訂正されるものである。したがって、旧請求項5?7に対応する新請求項5?7、11は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
ただし、訂正事項5、6、9、14、15に係る各訂正により、旧請求項3及び7は、独立項形式に改められ新請求項3、8、7、11とされており、また、旧請求項4のうち、旧請求項3を引用する部分は、新請求項3、8を引用する形式に改められ新請求項10とされており、特許権者からも訂正請求書において、本件訂正が認められる場合には、新請求項3、8、10及び新請求項7、11については、一群の他の請求項とは別途訂正することを求めているから、以降、そのように取り扱う。

4.独立特許要件について
本件訂正のうち、訂正事項1?4、7?8、10?13に係る訂正は、本件特許異議の申立てがされている旧請求項1、2、4?6についてのものであるから、いわゆる独立特許要件につき検討することを要しない。

また、本件訂正のうち、訂正事項5、6、9、14及び15に係る訂正は、上記3.(3)、(8)で説示したとおり、他の請求項を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、いわゆる独立特許要件につき検討することを要しない。

したがって、本件訂正に係る訂正の適否の検討において、独立特許要件につき検討すべき請求項が存するものではない。

5.訂正に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項並びに第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2、4、9〕、〔3、8、10〕、〔5、6〕、〔7、11〕について訂正を認める。


第3 本件訂正発明

訂正後の本件特許に係る請求項1ないし11には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.35モル含み、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価が3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:26であり、
軟化温度が120?145℃である、ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記三価以上の酸由来成分の含有量が、全酸由来成分1モル中0.01?0.30モルであり、
酸価が4.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、
全酸由来成分1モルに対する前記ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分の含有量が、0.01?0.25モルである、請求項1記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.35モル含み、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:26であり、
重合触媒由来の金属含有量が20ppm以下である、ポリエステル樹脂。
【請求項4】
三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.35モル含み、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価が3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:5?1:26であり、
軟化温度が120?145℃である、ポリエステル樹脂を含むトナー。
【請求項5】
多価アルコールと多価カルボン酸を含むモノマー混合物を重縮合することを含むポリエステル樹脂の製造方法であって、
前記モノマー混合物が、三価以上の酸成分と、全酸成分1モルに対して0.01?0.35モルのビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物を含み、
仕込み時の前記モノマー混合物中のカルボキシル基数と水酸基数との比が、カルボキシル基数:水酸基数=1:1.13?1:1.30であり、
ポリエステル樹脂の酸価が3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、且つ軟化温度が120?145℃である、
ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記三価以上の酸成分の含有量が、全酸成分1モル中に0.01?0.30モルであり、
ポリエステル樹脂の酸価が4.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、
全酸由来成分1モルに対する前記ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分の含有量が、0.01?0.25モルである、請求項5記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
多価アルコールと多価カルボン酸を含むモノマー混合物を重縮合することを含むポリエステル樹脂の製造方法であって、
前記モノマー混合物が、三価以上の酸成分と、全酸成分1モルに対して0.01?0.35モルのビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物を含み、
仕込み時の前記モノマー混合物中のカルボキシル基数と水酸基数との比が、カルボキシル基数:水酸基数=1:1.13?1:1.30であり、
重合触媒20ppm以下の条件で重合する、ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項8】
三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.35モル含み、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:26であり、
前記三価以上の酸由来成分の含有量が、全酸由来成分1モル中0.01?0.30モルであり、
重合触媒由来の金属含有量が20ppm以下である、ポリエステル樹脂。
【請求項9】
三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.25モル含み、
前記三価以上の酸由来成分の含有量が、全酸由来成分1モル中0.01?0.30モルであり、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価が4.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:20であり、
軟化温度が120?145℃である、ポリエステル樹脂を含むトナー。
【請求項10】
請求項3または8に記載のポリエステル樹脂を含むトナー。
【請求項11】
多価アルコールと多価カルボン酸を含むモノマー混合物を重縮合することを含むポリエステル樹脂の製造方法であって、
前記モノマー混合物が、三価以上の酸成分と、全酸成分1モルに対して0.01?0.35モルのビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物を含み、
仕込み時の前記モノマー混合物中のカルボキシル基数と水酸基数との比が、カルボキシル基数:水酸基数=1:1.13?1:1.30であり、前記三価以上の酸成分の含有量が、全酸成分1モル中に0.01?0.30モルであり、
重合触媒20ppm以下の条件で重合する、ポリエステル樹脂の製造方法。」

(以下、本件訂正請求により訂正された請求項1?11に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明11」といい、また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)


第4 取消理由通知による取消理由の概要及び特許異議申立理由の概要

1.令和2年2月28日付け取消理由通知による取消理由の概要
当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

(1)取消理由1A
本件訂正請求前の請求項1、2、4?6に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)取消理由2A
本件訂正請求前の請求項1、2、4?6に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2.令和3年1月28日付け取消理由通知(決定の予告)による取消理由の概要
当審が取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

(1)取消理由1B
本件訂正請求前の請求項1、2、4?6に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)取消理由2B
本件訂正請求前の請求項1、2、4?6に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)取消理由1C
本件訂正請求前の請求項1、2、4?6に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(4)取消理由2C
本件訂正請求前の請求項1、2、4?6に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

3.特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書で申立てた取消理由の概要は、以下に示すとおりである。

(1)申立理由1
本件訂正請求前の請求項1、2、4?6に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。


第5 当審の判断

上記適法になされた本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲について、まず審理対象を確認するに、旧請求項1、2、4?6に対して異議申立てがなされているから、旧請求項1、2、4?6に対応する新請求項1、2、4?6、9を審理対象とする。

そして、当審は、当審が令和2年2月28日付け及び令和3年1月28日付けで通知した取消理由1A?C、2A?C及び申立人による申立理由1によっては、いずれも、本件発明1、2、4?6、9に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

令和2年2月28日付け取消理由通知による取消理由1A及び2Aは、令和3年1月28日付け取消理由通知(決定の予告)による取消理由1B及び2B、並びに、申立理由1と、甲1を主引例とする点で同趣旨であるから、以下では、併せて検討を行う。

1.甲1を主引例とする取消理由1A(新規性)、取消理由2A(進歩性)について

(1)甲1に記載された事項及び記載された発明
ア.甲1に記載された事項
(甲1a)
「【請求項1】 疎水性単位(a)と親水性単位(b)とからなる繰返し単位で構成され、その重量比b/aが0.7以下であるポリエステル樹脂で、該ポリエステル樹脂の酸価と水酸基価の和が80mgKOH/g以下、酸価が15mgKOH/g以下であることを特徴とするトナー用ポリエステル樹脂。」

(甲1b)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電子写真法、静電記録法や静電印刷法などにおいて、静電荷像または磁気潜像の現像に用いる乾式トナーとして有用なポリエステル樹脂に関する。さらに詳しくは、低温定着性、耐オフセット性に優れると共に、対湿度依存性の少ない帯電特性を持つポリエステル樹脂に関する。
・・・
【0004】樹脂はトナー配合中の主成分であるため、トナーに要求される性能の大部分を支配する。このためトナー用樹脂には、トナー製造における溶融混練工程での着色剤の分散性、粉砕工程での粉砕性の良いことなどが要求され、またトナーの使用においては定着性、オフセット性、ブロッキング性および電気的性質が良いことなど多様な性能が要求される。トナーの製造に用いられる樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、メタクリル系樹脂などが公知であるが、圧着加熱定着方式用は主にスチレンと(メタ)アクリル酸エステルの共重合体が用いられてきた。しかし、複写機の高速化傾向にともない、トナーの低温定着性が強く要求されているため、より低温で定着が可能であることや定着されたトナー像の耐塩ビ可塑剤性が優れていることにより、ポリエステル樹脂が注目されている。
・・・
【0007】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、定着性が良好で、高温オフセット性に優れ、かつ耐湿性が付与されたトナー用ポリエステル樹脂を提供することにある。
・・・
【0010】
【作用】本発明においては、トナーの結着樹脂であるポリエステル樹脂を、その末端基を無視してポリマー骨格を構成する繰返し単位にのみ注目し、その繰返し単位が疎水性単位(a)と親水性単位(b)とから構成されているとみなして重量比a/bを算出する。
【0011】本発明でいう疎水性単位とは、一般に極性がなく水に難溶な性能を発揮する単位で、例えば、ベンゼン環のような芳香族炭化水素基、ポリメチレン基のような脂肪族炭化水素基、シクロヘキサン環のような脂環族炭化水素基、金属等がこれにあたる。ポリマー鎖中のこれらの疎水性単位の重量割合が高いほど、樹脂をトナーにした場合空気中の水分を取り込みにくい。したがって、帯電量の湿度依存性が小さくなる。
【0012】また、本発明でいう親水性単位とは、一般に極性が強く、水と相溶しやすい性能を発揮する単位をいい、例えば、エステル基、エーテル基(エーテル結合)、スルホン基、アミノ基、ニトロ基、アミド基等が挙げられる。親水性単位の重量割合が高いと、トナーにした場合、空気中の水分を取り込むため、帯電量が低下し、コピーのかぶり等の原因になる。
【0013】これらの疎水性単位と親水性単位の比率が、ポリエステル樹脂の帯電量の湿度依存性の鍵になる。つまり、ポリマー中の疎水性単位(a)とポリマー中の親水性単位(b)の重量比率b/aが、0.7を超えると親水性単位の効果が強く、トナーにした場合、その帯電量が湿度によって影響を受けやすくなる。したがって、b/aは0.7以下が適当であり、0.6以下であることが好ましい。」

(甲1c)
「【0015】また、ポリマー末端の -COOH、-OH 基は、ポリマー内部に結合しているエステルやエーテル基に比べて吸湿しやすい傾向にあるため、ポリマーの末端 -COOH、-OH の数が増すと、疎水性と親水性の重量比率にかかわらず水を取り込みやすくなる。従って、ポリマー末端の指標となる酸価と水酸基価の和は、80mgKOH/g以下である必要があり、好ましくは70mgKOH/g以下、さらに好ましくは50mgKOH/g以下である。さらに酸価は耐湿性付与上特に重要であり、15mgKOH/g以下、好ましくは12mgKOH/g以下、さらに好ましくは8mgKOH/gでなければ十分な効果が得られない。
・・・
【0017】ジオールとしては、脂肪族および芳香族ジオールが用いられる。脂肪族ジオールの例として、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールAなどが挙げられ、定着性の点からエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオールが好ましい。また、芳香族ジオールとしては、ポリオキシエチレン-(n)-2,2- ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(2≦n≦6)、ポリオキシプロピレン-(n)-2,2- ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(2≦n≦6)、ポリオキシプロピレン(n)-ポリオキシエチレン-(m)-2,2- ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(2≦m+n≦6)などが挙げられ、単独または混合で使用される。芳香族ジオールはTgを上げる効果があるため、耐ブロッキング性が良好となる。また、芳香族ジオールは、疎水性のベンゼン環を含んでいるばかりでなく、モノマーとしての分子量が大きいため、それらを重合させたポリマー単位重量あたりのエステル結合密度が減少し、a/bの値を低下させる。そのため、本発明の最大の目的である耐湿性の付与には効果がある。
・・・
【0019】本発明では、前記モノマーを反応釜に仕込み、加熱昇温することにより、エステル化反応またはエステル交換反応を行う。この時必要に応じて硫酸、チタンブトキサイド、ジブチルスズオキシド、酢酸マグネシウム、酢酸マンガン等の通常のエステル化反応またはエステル交換反応で使用されるエステル化触媒またはエステル交換触媒を使用することができる。次いで常法に従って反応で生じた水またはアルコールを除去する。本発明においては、引き続き重合反応を実施するが、このとき150mmHg以下の真空下でジオール成分を留出除去させながら重合を行う。
【0020】また、重合に際しては通常公知の重合触媒、例としてチタンブトキサイド、ジブチルスズオキシド、酢酸スズ、酢酸亜鉛、2硫化スズ、3酸化アンチモン、2酸化ゲルマニウム等を用いることができる。また、重合温度、触媒量については特に限定されるものではなく、必要に応じて任意に設定すれば良い。」

(甲1d)
「【0026】
【実施例】以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例における組成分析は、樹脂をヒドラジンで加水分解し、液体クロマトグラフィーで定量した。
実施例1
表1に従い、テレフタル酸59モル部、イソフタル酸27モル部、無水トリメリット酸14モル部、ポリオキシプロピレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン50モル部、エチレングリコール75モル部を蒸留塔を有する反応容器に投入した。さらに反応容器にジブチルスズオキシドを全酸成分に対して0.03重量部添加し、内温を260℃、攪拌回転数200rpmに保ち、常圧下で5時間エステル化反応させた後、反応系内を30分かけて1.0mmHgまで減圧し、内温260℃に保ち、エチレングリコールを留出させながら縮合反応を2時間を行い、淡黄色透明の樹脂R-1を得た。得られた樹脂の組成分析等の測定結果を表2に示した。なお、以下の表における多価カルボン酸成分およびポリオール成分の表示単位はモル部である。
【0027】
【表1】
(表は省略)
*1:ポリオキシプロピレン-(2.3)-2,2- ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン
【0028】
【表2】
(表は省略)
得られた樹脂92重量%に対して、カーボンブラック(#50、三菱化成(株)製)5重量%、PPワックス(ビスコール550-P、三洋化成(株)製)2重量%、ボントロンS-34(負帯電性荷電制御剤、商品名、オリエント化学工業(株)製)1重量%をヘンシェルミキサーでプレミキシングし、次いでハーケの二軸異方向のコニカルタイプの押出機を用いて175℃、80rpmの条件で溶融混練を行った。溶融混練物を室温迄冷却後、ハンマーミルで粗粉砕した後、ジェットミルを用いて22μm以下まで粉砕した。その後、日本ニューマチック社の風力分級機を用いて、粒径5?22μmにし、トナーT-1を得た。
【0029】得られたトナーの耐湿性を評価した。評価方法は下記に従った。
【0030】
<環境条件> A: 温度10℃/湿度15HR
B: 温度20℃/湿度60HR
C: 温度35℃/湿度80HR
上記環境条件下でトナーを24時間放置後、複写機にて耐刷試験をした。1000枚時点での画像を目視にて評価した。
【0031】
<画像評価> ◎: かぶり、飛散がない
○: 若干のかぶりが検出された
△: ある程度のかぶりはみられるが、印刷物として使用できる
×: かぶりが激しく像として検出されない
評価結果を表3に示した。湿度による画像の変化はあるものの、トナーとして使用できる範囲であった。
【0032】
【表3】
(表は省略)
実施例2?4
モノマー仕込組成を表4のようにした以外は、実施例1と同様の操作を行い、樹脂R-2?R-4を得た。樹脂R-2?R-4の組成分析結果および樹脂物性値を表5に示した。
【0033】
【表4】

*2:ポリオキシエチレン(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン
【0034】
【表5】

得られた樹脂を実施例1と同様にトナー化し、トナーの耐湿性の評価を実施例1の方法に準じて行った。その結果を表6に示した。
【0035】
【表6】

表6より、トナーT-2?T-4は、T-4で若干かぶりの発生は見られるが使用範囲にあることが分かる。
・・・
【0039】
【発明の効果】本発明により、分子構造を特定したポリエステル樹脂をトナー用の結着樹脂として用いたことにより、樹脂の吸湿性が減少し、トナーの画像濃度が安定化され、高湿下におけるかぶりの発生が抑止される効果が発揮される。」

イ.甲1に記載された発明
甲1には、摘記(甲1a)ないし(甲1d)、特に摘記(甲1d)の実施例4(R-4)の記載からみて、以下の発明が記載されている。
「テレフタル酸56モル部、イソフタル酸30モル部、トリメリット酸14モル部、ポリオキシエチレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン30モル部、エチレングリコール95モル部を蒸留塔を有する反応容器に投入し、さらに反応容器にジブチルスズオキシドを全酸成分に対して0.03重量部添加し、内温を260℃、攪拌回転数200rpmに保ち、常圧下で5時間エステル化反応させた後、反応系内を30分かけて1.0mmHgまで減圧し、内温260℃に保ち、エチレングリコールを留出させながら縮合反応を2時間行って得た、
得られた樹脂の組成分析において、テレフタル酸56.0モル部、イソフタル酸29.8モル部、トリメリット酸13.9モル部、ポリオキシエチレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン30.3モル部、エチレングリコール70.2モル部であり、酸価10mgKOH/g、水酸基価46mgKOH/gである、ポリエステル樹脂。」(以下、「甲1発明1」という。)

甲1発明1のポリエステル樹脂は、請求項1及び【0024】によると、トナー化するものであるから、次の発明が記載されているといえる。
「テレフタル酸56モル部、イソフタル酸30モル部、トリメリット酸14モル部、ポリオキシエチレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン30モル部、エチレングリコール95モル部を蒸留塔を有する反応容器に投入し、さらに反応容器にジブチルスズオキシドを全酸成分に対して0.03重量部添加し、内温を260℃、攪拌回転数200rpmに保ち、常圧下で5時間エステル化反応させた後、反応系内を30分かけて1.0mmHgまで減圧し、内温260℃に保ち、エチレングリコールを留出させながら縮合反応を2時間行って得た、
得られた樹脂の組成分析において、テレフタル酸56.0モル部、イソフタル酸29.8モル部、トリメリット酸13.9モル部、ポリオキシエチレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン30.3モル部、エチレングリコール70.2モル部であり、酸価10mgKOH/g、水酸基価46mgKOH/gである、ポリエステル樹脂を含むトナー。」(以下、「甲1発明2」という。)

甲1には、摘記(甲1a)ないし(甲1d)、特に摘記(甲1d)の実施例4(R-4)の記載からみて、以下の発明が記載されている。
「テレフタル酸56モル部、イソフタル酸30モル部、トリメリット酸14モル部、ポリオキシエチレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン30モル部、エチレングリコール95モル部を蒸留塔を有する反応容器に投入し、さらに反応容器にジブチルスズオキシドを全酸成分に対して0.03重量部添加し、内温を260℃、攪拌回転数200rpmに保ち、常圧下で5時間エステル化反応させた後、反応系内を30分かけて1.0mmHgまで減圧し、内温260℃に保ち、エチレングリコールを留出させながら縮合反応を2時間行って得た、
得られた樹脂の組成分析において、テレフタル酸56.0モル部、イソフタル酸29.8モル部、トリメリット酸13.9モル部、ポリオキシエチレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン30.3モル部、エチレングリコール70.2モル部であり、酸価10mgKOH/g、水酸基価46mgKOH/gである、ポリエステル樹脂の製造方法。」(以下、「甲1発明3」という。)

(2)乙1に記載された事項
特許権者が、令和2年5月8日提出の意見書に添付した乙1には、以下の事項が記載されている。

(乙1a)




(3)本件発明1について
ア.甲1発明1との対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1における得られた樹脂の組成分析の「トリメリット酸」は、トリメリット酸に由来する成分であり、トリメリット酸が三価の酸であることから、本件発明1の「三価以上の酸由来成分」に相当する。
甲1発明1における得られた樹脂の組成分析の「ポリオキシエチレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」は、ポリオキシエチレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに由来する成分であり、アルキレンオキサイド付加物であるポリオキシエチレン構造及びビスフェノールA構造である2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン構造を有する化合物であるから、本件発明1の「ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分」に相当する。
甲1発明1における得られた樹脂の組成分析の酸成分は、テレフタル酸56.0モル部、イソフタル酸29.8モル部、トリメリット酸13.9モル部から合計99.7モル部であり、ポリオキシエチレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンは30.3モル部である(表5)。してみると、甲1発明1における全酸由来成分1モルに対するビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分は、30.3/99.7=0.304となり、本件発明1の範囲を満たす。
甲1発明1におけるポリエステル樹脂の酸価が10mgKOH/g、水酸基価が46mgKOH/gであることから、甲1発明1のポリエステル樹脂の酸価、水酸基価は本件発明1の範囲を満たし、さらに、酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比についても、酸価:水酸基価=10:46=1:4.6であるから、本件発明1の範囲を満たす。

そうすると、本件発明1と甲1発明1は、
「三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.35モル含み、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価が3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:26である、ポリエステル樹脂。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1A:本件発明1では、ポリエステル樹脂の軟化温度が120?145℃であるのに対し、甲1発明1では、軟化温度が明らかでない点。

イ.判断
上記相違点1Aについて検討するに、甲1には、軟化温度について記載されておらず、また、三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含むポリエステル樹脂の軟化温度が120?145℃であることが、本件優先日時点での技術常識であるともいえない。そうすると、相違点1Aは、実質的な相違点であり、本件発明1は、甲1発明1と同じ発明ではない。

本件明細書には、軟化温度を120?145℃とすることで、下限値以上であると、耐ホットオフセット性が良好となる傾向があること、上限値以下である場合には、トナーの定着性が良好となる傾向があることが記載され(【0026】)、具体的には、トナーの定着性に関連し、145℃での定着性(低温定着性)を評価することが記載されている(【0062】)。

一方、甲1には、定着性が良好で、高温オフセット性に優れ、かつ耐湿性が付与されたトナー用ポリエステル樹脂を提供することを課題とし(【0007】)、この課題を解決するために、ポリエステル樹脂のポリマー中の疎水性単位(a)とポリマー中の親水性単位(b)の重量比率b/aを0.7以下とすることによって上記ポリエステル樹脂を用いてトナーにした場合、その帯電量が湿度によって影響を受けにくくなることが記載されている(請求項1、【0013】)。ここで、甲1に記載される疎水性単位(a)とは、ベンゼン環のような芳香族炭化水素基等であり、親水性単位(b)とは、エーテル基等であり(【0011】、【0012】)、甲1には、疎水性単位である、ベンゼン環を有する芳香族ジオールの含有量を増やすことで、耐湿性が向上し、また、ガラス転移温度(Tg)が高くなるため、耐ブロッキング性が良好となることが記載されている(【0017】、実施例2?4の対比)。

また、甲1には、低温定着性に優れるポリエステル樹脂に関すると記載され(【0001】)、複写機の高速化傾向にともない、トナーの低温定着性が強く要求されているため、他の樹脂と比べてより低温で定着が可能であるポリエステル樹脂が注目されていると記載されていることから(【0004】より)、低温定着性について意識されているといえるものの、その具体的な達成手段は記載されておらず、ましてや、ポリエステル樹脂の軟化温度を120?145℃とすることは記載されていない。

そうすると、定着性が良好で、高温オフセット性に優れ、かつ耐湿性が付与されたトナー用ポリエステル樹脂を提供するという課題を有し、かつ、ガラス転移温度が高い方が好ましいと記載される甲1発明1において、ポリエステル樹脂の構造単位の割合を変更し、軟化温度を「120?145℃」の範囲内とすることは、動機付けられない。

また、特許権者は、甲1発明1(樹脂R-4)の追試実験を乙1として提出し、甲1発明1の軟化温度が151.2℃であると主張している。
ここで、乙1に記載される樹脂R-4の製造条件、及び、軟化温度の測定条件は、それぞれ、甲1の【0026】に記載される製造条件、及び、本件明細書の【0058】に記載の測定条件と合理的な範囲で一致しているといえるため、乙1の実験結果は、甲1発明1の追試実験の結果であるとの点に疑義はなく、甲1発明1におけるポリエステル樹脂の軟化温度は、本件発明1における「120?145℃」の範囲外である蓋然性が高い。
そうすると、上記のとおり、甲1の上記課題を解決するために、甲1には、芳香族ジオール等の疎水性単位の含有量を増やし、ガラス転移温度を上げることが示唆されているから、甲1発明1における「ポリエステル樹脂」の軟化温度を上記151.2℃から下げて、「120?145℃」の範囲内とすることは動機付けられない。

ウ.申立人の主張の検討
令和2年7月30日付け意見書において、軟化温度を下げることについて、申立人は、以下のように主張している。
「トナーの低温定着性を向上させるために樹脂の軟化温度を低くするように軟化温度を調整することは、当業者にとって技術常識であり、軟化温度を150℃以下に特定することによって発揮される効果は当業者が予測可能な効果に過ぎない。・・・樹脂の軟化温度を調節することは設計事項に過ぎず、当業者が軟化温度を150℃以下の範囲に設定することは容易であるといえる。」

上記主張について検討するに、甲1発明1は、上記イで検討したように、耐湿性が付与されたトナー用ポリエステル樹脂を提供することを課題とし、このため、疎水性単位の含有量を増やすことを解決手段としており、ガラス転移温度を上げることも記載されているから、トナーの低温定着性を向上させるために樹脂の軟化温度を低くするように軟化温度を調整することが技術常識であったとしても、甲1発明1において、当該技術常識を適用するには阻害要因があるといえる。
また、申立人は、軟化温度を調節することは容易想到であると主張しているが、その具体的な手段については何ら説明しておらず、甲1発明1において、各成分に関する本件発明1の特定事項を満たしながら軟化温度を120?145℃とすることが動機付けられるとする証拠を具体的に示していない。
よって、申立人の上記主張を採用できない。

エ.小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用する発明であるが、上記(3)で述べたように、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことからして、本件発明2も同様に、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明4について
ア.甲1発明2との対比
本件発明4は、本件発明1と同じ発明特定事項を有するポリエステル樹脂を、さらに、「酸価:水酸基価」の下限値を「1:5」に限定し、トナーとした発明である。

上記(3)で検討したのと同様に本件発明4と甲1発明2の対比をしていくと、本件発明4と甲1発明2は、
「三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.35モル含み、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価が3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であるポリエステル樹脂を含むトナー」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2A:本件発明4では、ポリエステル樹脂の酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、「酸価:水酸基価=1:5?1:26」であるのに対し、甲1発明2では、1:4.6である点。

相違点3A:本件発明4では、ポリエステル樹脂の軟化温度が「120?145℃」であるのに対し、甲1発明2では、軟化温度が不明である点。

イ.判断
事案に鑑み、まず、相違点3Aについて検討する。
相違点3Aは、上記相違点1Aと同じであり、実質的な相違点であるから、本件発明4は、甲1発明2と同じ発明ではない。
そして、上記(3)で相違点1Aについて説示したとおり、この点は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に想到することができたものではない。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.小括
したがって、本件発明4は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件発明5について
ア.甲1発明3との対比
本件発明5と甲1発明3とを対比する。
甲1発明3における「テレフタル酸」、「イソフタル酸」、「トリメリット酸」、「ポリオキシエチレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」、「エチレングリコール」は、本件発明5における「モノマー混合物」に相当し、甲1発明3における「ポリオキシエチレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」及び「エチレングリコール」は、アルコール基を複数有する化合物であるから、本件発明5における「多価アルコール」に相当し、甲1発明3における「テレフタル酸」、「イソフタル酸」、「トリメリット酸」は、カルボキシル基を複数有する化合物であるから、本件発明5における「多価カルボン酸」に相当する。
甲1発明3における「トリメリット酸」は、三価の酸であることから、本件発明5における「三価以上の酸成分」に相当する。
甲1発明3における「ポリオキシエチレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」は、アルキレンオキサイド付加物であるポリオキシエチレン構造、及びビスフェノールA構造である2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン構造を有する化合物であるから、本件発明5における「ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物」に相当する。
甲1発明3における酸成分は、テレフタル酸56モル部、イソフタル酸30モル部、トリメリット酸14モル部から合計100モル部であり、ポリオキシエチレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンは30モル部である(表4)。してみると、甲1発明3の全酸成分1モルに対するビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物は0.30モル(=30/100)となり、本件発明5の範囲を満たす。
甲1発明3における「ポリエステル樹脂」は、「酸価10mgKOH/g」であるから、本件発明5の「ポリエステル樹脂の酸価が3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」の範囲を満たす。
そして、甲1発明3と本件発明5は「ポリエステル樹脂の製造方法」である点で共通するものである。

そうすると、本件発明5と甲1発明3は、
「多価アルコールと多価カルボン酸を含むモノマー混合物を重縮合することを含むポリエステル樹脂の製造方法であって、
前記モノマー混合物が、三価以上の酸成分と、全酸成分1モルに対して0.01?0.35モルのビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物を含み、
ポリエステル樹脂の酸価が3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下である、
ポリエステル樹脂の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点4A:本件発明5では、「仕込み時の前記モノマー混合物中のカルボキシル基数と水酸基数との比が、カルボキシル基数:水酸基数=1:1.13?1:1.30である」のに対し、甲1発明3では、当該点について特定していない点。

相違点5A:本件発明5では、ポリエステル樹脂の軟化温度が「120?145℃」であるのに対し、甲1発明3では、軟化温度が不明である点。

イ.判断
事案に鑑み、まず、相違点5Aにつき検討するに、相違点5Aは、上記相違点1Aと同じであり、実質的な相違点であるから、本件発明5は、甲1発明3と同じ発明ではない。
そして、上記(3)で相違点1Aについて説示したとおり、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ.小括
したがって、本件発明5は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

(7)本件発明6について
本件発明6は、本件発明5を引用する発明であるが、本件発明5は、上記(6)で示したとおり、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明6も同様に、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(8)本件発明9について
ア.甲1発明2との対比
本件発明9は、本件発明2と同じ発明特定事項を有するポリエステル樹脂について「酸価:水酸基価」の上限値を「1:20」に限定し、トナーとした発明である。

上記(3)で検討したのと同様に、本件発明9と甲1発明2を対比する。
甲1発明2における得られた樹脂の組成分析の酸成分は、テレフタル酸56.0モル部、イソフタル酸29.8モル部、トリメリット酸13.9モル部であるから、トリメリット酸の全酸由来成分1モル中の割合は、0.14モルと計算され、本件発明9における「三価以上の酸由来成分の含有量が、全酸由来成分1モル中0.01?0.30モル」との点を満足する。

そうすると、本件発明9と甲1発明2は、
「三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
前記三価以上の酸由来成分の含有量が、全酸由来成分1モル中0.01?0.30モルであり、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価が4.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:20である、ポリエステル樹脂を含むトナー」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点6A:本件発明9では、ポリエステル樹脂が全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を「0.01?0.25モル」含むのに対し、甲1発明2では、0.304モルである点。

相違点7A:本件発明9では、ポリエステル樹脂の軟化温度が「120?145℃」であるのに対し、甲1発明2では、軟化温度が不明である点。

イ.判断
事案に鑑み、まず、相違点7Aについて検討するに、相違点7Aは、上記相違点1Aと同じであり、実質的な相違点であるから、本件発明9は、甲1発明2と同じ発明ではない。
そして、上記(3)で相違点1Aについて説示したとおり、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に想到することができたものであるともいえない。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は、甲1に記載された発明であるとはいえないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ.小括
したがって、本件発明9は、甲1に記載された発明でないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(9)甲1を主引例とする取消理由1A及び2Aに係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、2、4?6、9は、甲1に記載された発明ではないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


2.甲2を主引例とする取消理由1C(新規性)、取消理由2C(進歩性)について

(1)甲2に記載された事項及び記載された発明
ア.甲2に記載された事項
(甲2a)
「2. 特許請求の範囲
1. 電子写真用トナーにおいて、トナーの結着樹脂が、主としてアルキレングリコールと多価カルボン酸とから合成されるポリエステル樹脂であり、トナー中にサリチル酸金属塩及び/または、サリチル酸誘導体の金属塩を含み、該トナーの体積固有抵抗が2.0×10^(11)〔cm・Ω〕以上であり、且つ該トナーの誘電率が2.7?3.3であることを特徴とする電子写真用トナー。
2. 電子写真用トナーにおいて、トナーの結着樹脂が、主としてビスフェノール型ジオールと多価カルボン酸とから合成されるポリエステル樹脂であり、トナー中にサリチル酸金属塩及び/または、サリチル酸誘導体の金属塩を含み、該トナーの体積固有抵抗が2.0×10^(11)〔cm・Ω〕以上であり、且つ該トナーの誘電率が2.7?3.3であることを特徴とする電子写真用トナー。
3. 前記ポリエステル樹脂の酸価が3〔KOH・mg/g〕以下であり、且つ水酸基価が40〔KOH・mg/g〕以下である請求項1記載の電子写真用トナー。」(特許請求の範囲)

(甲2b)
「〔目 的〕
本発明の目的は従来の欠点を鑑み、その目的は、結着樹脂とCCAの組合せ及びトナーの体積固有抵抗及び誘電率の各要素を特定することにより、帯電性、環境安定性に優れていて、長期間にわたり繰り返して使用した時も安定した性能が得られる電子写真用トナーを提供することにある。更に他の目的は、階調性に優れた画像が得られる電子写真用トナーを提供することにある。
また、さらなる目的としては、低い温度から良好な定着性を示し、広い定着可能温度域を有し、画像の塩化ビニルシートへの融着も無い電子写真用トナーを提供することにある。」(第2頁左下欄第8行?右下欄第1行)

(甲2c)
「本発明では、該ポリエステル樹脂の酸価が3〔KOHmg/g〕以下であり、且つ水酸基価が40〔KOHmg/g〕以下であるものを用いることにより、良好なトナー特性を得ることができる。さらに好ましくは、該ポリエステル樹脂の酸価が2〔KOHmg/g〕以下であり、且つ水酸基価が30〔KOHmg/g〕以下であるものを用いることにより、良好なトナー特性を得ることができる。該ポリエステル樹脂の酸価が3〔KOHmg/g〕以上となる場合は樹脂そのものの負帯電性が強くなり、低湿下において帯電量が上昇し、また、染料の分散性も悪化する。水酸基価が40〔KOHmg/g〕以上では、高湿下において帯電量の低下が大きくなる。また、必然的に低分子量のポリマーが増えるために耐オフセット性・耐ブロッキング性等に支障をきたすようになる。
本発明におけるポリエステル樹脂の酸価・水酸基価は、JIS K 0070の方法に準じて測定されるものである。」(第4頁左下欄第15行?右下欄第13行)

(甲2d)
「〔実施例〕
実施例1
〔ポリエステル樹脂の製造〕
テレフタル酸7モル、トリメリット酸2モル及びエチレングリコール7モル、ポリオキシプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン2モルを常法により縮合せしめてポリエステル樹脂1(注:原文は○の中に1)を合成した。合成時に各モノマーが留出あるいは逸散しないよう充分留意し、また留出あるいは逸散した場合はその分だけを途中で添加した。得られたポリエステル樹脂1(注:原文は○の中に1)の酸価は1.3〔KOHmg/g〕・水酸基価28〔KOHmg/g〕であった。
〔トナーの製造〕
上記のポリエステル1(注:原文は○の中に1) 100部
カーボンブラック 2部
荷電制御剤 1部
(3,5-ジ-t-ブチルサリチル酸亜鉛化合物)
上記組成の混合物を溶融混練、冷却、粉砕、分級し、5?20μmの粒径の黒色トナー1(注:原文は○の中に1)を得た。得られたトナー1(注:原文は○の中に1)の体積固有抵抗は5.8×10^(11)〔cm・Ω〕であり、誘電率は3.2であった。
〔実写テスト〕
上記のようにして作製したトナー1(注:原文は○の中に1)3部に対し、スチレン系樹脂被覆キャリア97部とをボールミルで混合し、現像剤1(注:原文は○の中に1)を作製した。
次に上記現像剤1(注:原文は○の中に1)を(株)リコー製IMAGIO320デジタル複写機にセットし、画像テストを行ったところ、ソリッドの階調性の良い、カブリのない良好な画像が得られた。繰り返して複写画像を形成したところ、その画像は5万枚画像出し後も変わらなかった。
また、トナーの帯電量をブローオフ法で測定したところ、初期の帯電量は-20.8μC/gであり、10万枚ランニング後におけるトナーの帯電量は-18.6μC/gと初期値とほとんど差がなかった。また35℃、90%RHという高湿環境下及び10℃、15%RHという低湿環境下でも常湿と同等の画像が得られた。
実施例2
〔ポリエステル樹脂の製造〕
テレフタル酸7モル、トリメリット酸2モル、1,3-プロピレングリコール7モル、ポリオキシエチレン(2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン1.84モル及びグリセリン0.16モルとした以外は実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂2(注:原文は○の中に2)を合成した。得られたポリエステル樹脂2(注:原文は○の中に2)の酸価は1.3〔KOHmg/g〕・水酸基価28〔KOHmg/g〕であった。
〔トナーの製造〕
上記のポリエステル2(注:原文は○の中に2) 80部
スチレン-nブチルメタクリレート共重合体 20部
(Mw=400000)
C.I.ピグメントレッド122 3部
荷電制御剤 1部
(3,5-ジ-t-ブチルサリチル酸クロム化合物)
上記組成の混合物を溶融混練、冷却、粉砕、分級し、5?20μmの粒径の赤色トナー2(注:原文は○の中に2)を得た。得られたトナー2(注:原文は○の中に2)の体積固有抵抗は4.6×10^(11)[cm・Ω〕であり、誘電率は3.0であった。
〔実写テスト〕
上記のようにして作製したトナー2(注:原文は○の中に2)3部とシリコーン樹脂被覆キャリア97部とをボールミルで混合し、現像剤2(注:原文は○の中に2)を作製した。
次に上記現像剤2(注:原文は○の中に2)を実施例1と同様にして画像テストを行ったところ、ソリッドの階調性の良い、カブリのない良好な画像が得られた。繰り返して複写画像を形成したところ、その画像は5万枚画像出し後も変わらなかった。
また、トナーの帯電量をブローオフ法で測定したところ、初期の帯電量は-18.3μC/gであり、10万枚ランニング後におけるトナーの帯電量は-16.2μC/gと初期値とほとんど差がなかった。また35℃、90%RHという高湿環境下及び10℃、15%RHという低湿環境下でも常湿と同等の画像が得られた。」(実施例)

イ.甲2に記載された発明
甲2には、摘記(甲2a)ないし(甲2d)、特に摘記(甲2d)の実施例1の記載からみて、以下の発明が記載されている。
「テレフタル酸7モル、トリメリット酸2モル及びエチレングリコール7モル、ポリオキシプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン2モルを常法により縮合せしめて合成した、酸価1.3〔KOHmg/g〕・水酸基価28〔KOHmg/g〕である、ポリエステル樹脂。」(以下、「甲2発明1」という。)

甲2発明1のポリエステル樹脂は、摘記(甲2a)の記載によると、トナー化するものであるから、以下の発明が記載されているといえる。
「テレフタル酸7モル、トリメリット酸2モル及びエチレングリコール7モル、ポリオキシプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン2モルを常法により縮合せしめて合成した、酸価1.3〔KOHmg/g〕・水酸基価28〔KOHmg/g〕である、ポリエステル樹脂のポリエステル樹脂を含むトナー。」(以下、「甲2発明2」という。)

甲2には、摘記(甲2a)ないし(甲2d)、特に摘記(甲2d)の実施例1の記載からみて、以下の発明が記載されている。
「テレフタル酸7モル、トリメリット酸2モル及びエチレングリコール7モル、ポリオキシプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン2モルを常法により縮合せしめて合成した、酸価1.3〔KOHmg/g〕・水酸基価28〔KOHmg/g〕である、ポリエステル樹脂の製造方法。」(以下、「甲2発明3」という。)

同様に、甲2には、摘記(甲2a)ないし(甲2d)、特に摘記(甲2d)の実施例2の記載からみて、以下の発明が記載されている。
「テレフタル酸7モル、トリメリット酸2モル及び1,3-プロピレングリコール7モル、ポリオキシエチレン(2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン1.84モル及びグリセリン0.16モルを常法により縮合せしめて合成した、酸価1.3〔KOHmg/g〕・水酸基価28〔KOHmg/g〕である、ポリエステル樹脂。」(以下、「甲2発明4」という。)

甲2発明4のポリエステル樹脂は、摘記(甲2a)の記載によると、トナー化するものであるから、以下の発明が記載されているといえる。
「テレフタル酸7モル、トリメリット酸2モル及び1,3-プロピレングリコール7モル、ポリオキシエチレン(2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン1.84モル及びグリセリン0.16モルを常法により縮合せしめて合成した、酸価1.3〔KOHmg/g〕・水酸基価28〔KOHmg/g〕である、ポリエステル樹脂を含むトナー。」(以下、「甲2発明5」という。)

甲2には、摘記(甲2a)ないし(甲2d)、特に摘記(甲2d)の実施例2の記載からみて、以下の発明が記載されている。
「テレフタル酸7モル、トリメリット酸2モル及び1,3-プロピレングリコール7モル、ポリオキシエチレン(2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン1.84モル及びグリセリン0.16モルを常法により縮合せしめて合成した、酸価1.3〔KOHmg/g〕・水酸基価28〔KOHmg/g〕である、ポリエステル樹脂の製造方法。」(以下、「甲2発明6」という。)

(2)本件発明1について
ア.甲2発明1との対比・判断
本件発明1と甲2発明1とを対比する。
甲2発明1におけるポリエステル樹脂の縮合成分である「トリメリット酸」は、三価の酸であることから、本件発明1の「三価以上の酸由来成分」に相当する。
甲2発明1におけるポリエステル樹脂の縮合成分である「ポリオキシプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」は、アルキレンオキサイド付加物であるポリオキシプロピレン構造及びビスフェノールA構造である2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン構造を有する化合物であるから、本件発明1の「ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分」に相当する。
甲2発明1におけるポリエステル樹脂の縮合成分のうち、酸成分は、テレフタル酸7モル、トリメリット酸2モルであるから合計9モルであり、ポリオキシプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンは2モルである。してみると、甲2発明1における全酸由来成分1モルに対するビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分は、2/9=0.22となり、本件発明1の範囲を満たす。
甲2発明1におけるポリエステル樹脂の酸価が1.3〔KOHmg/g〕、水酸基価が28〔KOHmg/g〕であることから、甲2発明1のポリエステル樹脂の水酸基価は本件発明1の範囲を満たし、さらに、酸価と水酸基価の比についても、酸価:水酸基価=1.3:28=1:21.5であるから、本件発明1の範囲を満たす。

そうすると、本件発明1と甲2発明1は、
「三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.35モル含み、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:26である、ポリエステル樹脂。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1B:本件発明1では、ポリエステル樹脂の酸価が「3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」であるのに対し、甲2発明1では、1.3〔KOHmg/g〕である点。

相違点2B:本件発明1では、ポリエステル樹脂の軟化温度が「120?145℃」であるのに対し、甲2発明1では軟化温度が明らかでない点。

事案に鑑み、まず、相違点1Bについて検討する。
甲2発明1の酸価は、1.3〔KOHmg/g〕であるから、相違点1Bは実質的な相違点であり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明1と同じ発明であるとはいえない。

また、甲2には、ポリエステル樹脂の酸価が3〔KOHmg/g〕以上となる場合は樹脂そのものの負帯電性が強くなり、低湿下において帯電量が上昇し、また、染料の分散性も悪化することから、酸価が3〔KOHmg/g〕以下となるものを用いることにより、良好なトナー特性を得ることができる旨記載されている(第4頁左下欄第15行?右下欄第13行)。
してみれば、甲2発明1において、酸価を3〔KOHmg/g〕超とすることには阻害要因があり、酸価を「3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」との範囲とすることが動機付けられるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ.甲2発明4との対比・判断
本件発明1と甲2発明4とを対比する。
甲2発明4におけるポリエステル樹脂の縮合成分である「トリメリット酸」は、三価の酸であることから、本件発明1の「三価以上の酸由来成分」に相当する。
甲2発明4におけるポリエステル樹脂の縮合成分である「ポリオキシエチレン(2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」は、アルキレンオキサイド付加物であるポリオキシエチレン構造及びビスフェノールA構造である2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン構造を有する化合物であるから、本件発明1の「ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分」に相当する。
甲2発明4におけるポリエステル樹脂の縮合成分のうち、酸成分は、テレフタル酸7モル、トリメリット酸2モルであるから合計9モルであり、ポリオキシエチレン(2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンは1.84モルである。してみると、甲2発明4における全酸由来成分1モルに対するビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分は、1.84/9=0.20となり、本件発明1の範囲を満たす。
甲2発明4におけるポリエステル樹脂の酸価が1.3〔KOHmg/g〕、水酸基価が28〔KOHmg/g〕であることから、甲2発明4のポリエステル樹脂の水酸基価は本件発明1の範囲を満たし、さらに、酸価と水酸基価の比についても、酸価:水酸基価=1.3:28=1:21.5であるから、本件発明1の範囲を満たす。

そうすると、本件発明1と甲2発明4は、
「三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.35モル含み、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:26である、ポリエステル樹脂。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点3B:本件発明1では、酸価が「3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」であるのに対し、甲2発明4では、1.3〔KOHmg/g〕である点。

相違点4B:本件発明1では、ポリエステル樹脂の軟化温度が「120?145℃」であるのに対し、甲2発明4では軟化温度が明らかでない点。

事案に鑑み、まず、相違点3Bについて検討するに、甲2発明4の酸価は、1.3〔KOHmg/g〕であるから、相違点3Bは実質的な相違点であり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明4と同じ発明であるとはいえない。

そして、相違点3Bは、上記相違点1Bと同じであり、上記アで検討したのと同様に、甲2発明4において、酸価を「3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」との範囲とすることには、阻害要因があり、動機付けられない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ.小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2に記載された発明ではないし、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用する発明であるが、上記(2)で述べたように、本件発明1は、甲2に記載された発明ではないし、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことからして、本件発明2も同様に、甲2に記載された発明ではないし、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明4について
ア.甲2発明2との対比・判断
本件発明4は、本件発明1と同じ発明特定事項を有するポリエステル樹脂を、さらに、「酸価:水酸基価」の下限値を「1:5」に限定し、トナーとした発明である。

上記(2)で検討したのと同様に本件発明4と甲2発明2の対比をしていくと、本件発明4と甲2発明2は、
「三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.35モル含み、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:5?1:26である、ポリエステル樹脂を含むトナー」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点5B:本件発明4では、ポリエステル樹脂の酸価が「3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」であるのに対し、甲2発明2では、1.3〔KOHmg/g〕である点。

相違点6B:本件発明4では、ポリエステル樹脂の軟化温度が「120?145℃」であるのに対し、甲2発明2では、軟化温度が不明である点。

事案に鑑み、まず、上記相違点5Bについて検討する。
甲2発明2の酸価は、1.3〔KOHmg/g〕であるから、相違点5Bは実質的な相違点であり、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲2発明2と同じ発明であるとはいえない。
そして、相違点5Bは、上記相違点1Bと同じであり、上記(2)で説示したとおり、この点は、甲2発明2に基いて当業者が容易に想到することができたものではない。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲2発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.甲2発明5との対比・判断
本件発明4と甲2発明5の対比を対比すると、上記相違点5B及び相違点6Bと同じ点で相違するから、本件発明4と甲2発明5は、同じ発明であるとはいえない。
そして、上記アと同じ理由により、本件発明4は、甲2発明5に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.小括
したがって、本件発明4は、甲2に記載された発明ではないし、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明5について
ア.甲2発明3との対比・判断
(ア)対比
本件発明5と甲2発明3とを対比する。
甲2発明3における「テレフタル酸」、「トリメリット酸」、「エチレングリコール」、「ポリオキシプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」は、本件発明5における「モノマー混合物」に相当し、甲2発明3における「エチレングリコール」及び「ポリオキシプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」は、アルコール基を複数有する化合物であるから、本件発明5における「多価アルコール」に相当し、甲2発明3における「テレフタル酸」、「トリメリット酸」は、カルボキシル基を複数有する化合物であるから、本件発明5における「多価カルボン酸」に相当する。
甲2発明3における「トリメリット酸」は、三価の酸であることから、本件発明5における「三価以上の酸成分」に相当する。
甲2発明3における「ポリオキシプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」は、アルキレンオキサイド付加物であるポリオキシプロピレン構造、及びビスフェノールA構造である2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン構造を有する化合物であるから、本件発明5における「ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物」に相当する。
甲2発明3における酸成分は、テレフタル酸7モル、トリメリット酸2モルから合計9モルであり、ポリオキシプロピレン(2,2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンは2モルである。してみると、甲2発明3の全酸成分1モルに対するビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物は、2/9=0.22となり、本件発明5の範囲を満たす。
そして、甲2発明3と本件発明5は「ポリエステル樹脂の製造方法」である点で共通するものである。

そうすると、本件発明5と甲2発明3は、
「多価アルコールと多価カルボン酸を含むモノマー混合物を重縮合することを含むポリエステル樹脂の製造方法であって、
前記モノマー混合物が、三価以上の酸成分と、全酸成分1モルに対して0.01?0.35モルのビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物を含む、
ポリエステル樹脂の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点7B:本件発明5では、「仕込み時の前記モノマー混合物中のカルボキシル基数と水酸基数との比が、カルボキシル基数:水酸基数=1:1.13?1:1.30である」のに対し、甲2発明3では、当該点について特定していない点。

相違点8B:本件発明5では、ポリエステル樹脂の酸価が「3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」であるのに対し、甲2発明3では、1.3〔KOHmg/g〕である点。

相違点9B:本件発明5では、ポリエステル樹脂の軟化温度が「120?145℃」であるのに対し、甲2発明3では、軟化温度が不明である点。

(イ)判断
事案に鑑み、まず、相違点8Bについて検討する。
甲2発明3の酸価は1.3〔KOHmg/g〕であり、相違点8Bは、実質的な相違点であるから、本件発明5と甲2発明3は同一であるとはいえない。
そして、相違点8Bは、上記相違点1Bと同じであり、相違点1Bについて上記(2)で検討したのと同様に、甲2発明3において、酸価を「3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」との範囲とすることには、阻害要因があり、動機付けられない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は、甲2発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ.甲2発明6との対比・判断
(ア)対比
本件発明5と甲2発明6とを対比する。
甲2発明6における「テレフタル酸」、「トリメリット酸」、「1,3-プロピレングリコール」、「ポリオキシエチレン(2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」、「グリセリン」は、本件発明5の「モノマー混合物」に相当し、甲2発明6における「1,3-プロピレングリコール」、「ポリオキシエチレン(2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」及び「グリセリン」は、アルコール基を複数有する化合物であるから、本件発明5における「多価アルコール」に相当し、甲2発明6における「テレフタル酸」、「トリメリット酸」は、カルボキシル基を複数有する化合物であるから、本件発明5における「多価カルボン酸」に相当する。
甲2発明6における「トリメリット酸」は、三価の酸であることから、本件発明5における「三価以上の酸成分」に相当する。
甲2発明6における「ポリオキシエチレン(2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン」は、アルキレンオキサイド付加物であるポリオキシエチレン構造、及びビスフェノールA構造である2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン構造を有する化合物であるから、本件発明5における「ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物」に相当する。
甲2発明6における酸成分は、テレフタル酸7モル、トリメリット酸2モルから合計9モルであり、ポリオキシエチレン(2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンは1.84モルである。してみると、甲2発明6の全酸成分1モルに対するビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物は、1.84/9=0.20となり、本件発明5の範囲を満たす。
そして、甲2発明6と本件発明5は「ポリエステル樹脂の製造方法」である点で共通するものである。

そうすると、本件発明5と甲2発明6は、
「多価アルコールと多価カルボン酸を含むモノマー混合物を重縮合することを含むポリエステル樹脂の製造方法であって、
前記モノマー混合物が、三価以上の酸成分と、全酸成分1モルに対して0.01?0.35モルのビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物を含む、
ポリエステル樹脂の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点10B:本件発明5では、「仕込み時の前記モノマー混合物中のカルボキシル基数と水酸基数との比が、カルボキシル基数:水酸基数=1:1.13?1:1.30である」のに対し、甲2発明6では、当該点について特定していない点。

相違点11B:本件発明5では、ポリエステル樹脂の酸価が「3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」であるのに対し、甲2発明6では、1.3〔KOHmg/g〕である点。

相違点12B:本件発明5では、ポリエステル樹脂の軟化温度が「120?145℃」であるのに対し、甲2発明6では、軟化温度が不明である点。

(イ)判断
事案に鑑み、まず、相違点11Bについて検討する。
相違点11Bは、上記相違点1Bと同じであり、実質的な相違点であるから、本件発明5は、甲2発明6と同一であるとはいえない。
そして、相違点1Bについて上記(2)で検討したのと同様に、甲2発明6において、酸価を「3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」との範囲とすることには、阻害要因があり、動機付けられない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は、甲2発明6に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ.小括
したがって、本件発明5は、甲2に記載された発明でないし、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)本件発明6について
本件発明6は、本件発明5を引用する発明であるが、上記(5)で示したとおり、本件発明5は、甲2に記載された発明でないし、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、本件発明6も同様に、甲2に記載された発明でないし、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(7)本件発明9について
ア.甲2発明2との対比・判断
本件発明9は、本件発明2と同じ発明特定事項を有するポリエステル樹脂について、さらに「酸価:水酸基価」の上限値を「1:20」に限定し、トナーとした発明である。

上記(2)、(3)で検討したのと同様に、本件発明9と甲2発明2の対比する。
甲2発明2では、酸成分として、テレフタル酸7モルとトリメリット酸2モルを使用するから、三価の酸由来成分の含有量は、全酸由来成分1モル中0.22モル(=2/9)となり、本件発明9に係る数値範囲を満足する。

そうすると、本件発明9と甲2発明2は、
「三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.25モル含み、
前記三価以上の酸由来成分の含有量が、全酸由来成分1モル中0.01?0.30モルであり、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下である、
ポリエステル樹脂を含むトナー」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点13B:本件発明9では、ポリエステル樹脂の酸価が「4.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」であるのに対し、甲2発明2では、1.3〔KOHmg/g〕である点。

相違点14B:本件発明9では、ポリエステル樹脂の酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、「酸価:水酸基価=1:3?1:20」であるのに対し、甲2発明2では、「1:21.5」である点。

相違点15B:本件発明1では、ポリエステル樹脂の軟化温度が「120?145℃」であるのに対し、甲2発明2では軟化温度が明らかでない点。

事案に鑑み、まず、相違点13Bについて検討するに、相違点13Bは、上記相違点1Bと同じであり、実質的な相違点であるから、本件発明9と甲2発明2は、同一であるとはいえない。
そして、上記(2)で相違点1Bについて説示したとおり、甲2発明2に基いて当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は、甲2発明2と同一でなく、また、甲2発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ.甲2発明4との対比・判断
上記(2)、(3)で検討したのと同様に、本件発明9と甲2発明4を対比する。
甲2発明4では、酸成分として、テレフタル酸7モルとトリメリット酸2モルを使用するから、三価の酸由来成分の含有量は、全酸由来成分1モル中0.22モル(=2/9)となり、本件発明9に係る数値範囲を満足する。

そうすると、本件発明9と甲2発明4は、
「三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.25モル含み、
前記三価以上の酸由来成分の含有量が、全酸由来成分1モル中0.01?0.30モルであり、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下である、
ポリエステル樹脂を含むトナー」
以下の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点16B:本件発明9では、ポリエステル樹脂の酸価が「4.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下」であるのに対し、甲2発明4では、1.3〔KOHmg/g〕である点。

相違点17B:本件発明9では、ポリエステル樹脂の酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、「酸価:水酸基価=1:3?1:20」であるのに対し、甲2発明4では、「1:21.5」である点。

相違点18B:本件発明1では、ポリエステル樹脂の軟化温度が「120?145℃」であるのに対し、甲2発明4では軟化温度が明らかでない点。

事案に鑑み、まず、相違点16Bから検討するに、相違点16Bは、上記相違点1Bと同じであり、実質的な相違点であるから、本件発明9は、甲2発明4と同一であるとはいえない。
そして、上記(2)で相違点1Bについて説示したとおり、甲2発明4に基いて当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は、甲2発明4と同一でなく、また、甲2発明4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ.小括
したがって、本件発明9は、甲2に記載された発明ではないし、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(8)甲2を主引例とする取消理由1C及び2Cに係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、2、4?6、9は、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第6 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4?6、9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4?6、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.35モル含み、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価が3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:26であり、
軟化温度が120?145℃である、ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記三価以上の酸由来成分の含有量が、全酸由来成分1モル中0.01?0.30モルであり、
酸価が4.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、
全酸由来成分1モルに対する前記ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分の含有量が、0.01?0.25モルである、請求項1記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.35モル含み、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:26であり、
重合触媒由来の金属含有量が20ppm以下である、ポリエステル樹脂。
【請求項4】
三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.35モル含み、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価が3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:5?1:26であり、
軟化温度が120?145℃である、ポリエステル樹脂を含むトナー。
【請求項5】
多価アルコールと多価カルボン酸を含むモノマー混合物を重縮合することを含むポリエステル樹脂の製造方法であって、
前記モノマー混合物が、三価以上の酸成分と、全酸成分1モルに対して0.01?0.35モルのビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物を含み、
仕込み時の前記モノマー混合物中のカルボキシル基数と水酸基数との比が、カルボキシル基数:水酸基数=1:1.13?1:1.30であり、
ポリエステル樹脂の酸価が3.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、且つ軟化温度が120?145℃である、
ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記三価以上の酸成分の含有量が、全酸成分1モル中に0.01?0.30モルであり、
ポリエステル樹脂の酸価が4.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、
全酸由来成分1モルに対する前記ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分の含有量が、0.01?0.25モルである、請求項5記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
多価アルコールと多価カルボン酸を含むモノマー混合物を重縮合することを含むポリエステル樹脂の製造方法であって、
前記モノマー混合物が、三価以上の酸成分と、全酸成分1モルに対して0.01?0.35モルのビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物を含み、
仕込み時の前記モノマー混合物中のカルボキシル基数と水酸基数との比が、カルボキシル基数:水酸基数=1:1.13?1:1.30であり、
重合触媒20ppm以下の条件で重合する、ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項8】
三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.35モル含み、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:26であり、
前記三価以上の酸由来成分の含有量が、全酸由来成分1モル中0.01?0.30モルであり、
重合触媒由来の金属含有量が20ppm以下である、ポリエステル樹脂。
【請求項9】
三価以上の酸由来成分およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を含み、
全酸由来成分1モルに対してビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物由来成分を0.01?0.25モル含み、
前記三価以上の酸由来成分の含有量が、全酸由来成分1モル中0.01?0.30モルであり、
水酸基価が70(mgKOH/g)以下であり、
酸価が4.1(mgKOH/g)以上20(mgKOH/g)以下であり、
酸価(mgKOH/g)と水酸基価(mgKOH/g)の比が、酸価:水酸基価=1:3?1:20であり、
軟化温度が120?145℃である、ポリエステル樹脂を含むトナー。
【請求項10】
請求項3または8に記載のポリエステル樹脂を含むトナー。
【請求項11】
多価アルコールと多価カルボン酸を含むモノマー混合物を重縮合することを含むポリエステル樹脂の製造方法であって、
前記モノマー混合物が、三価以上の酸成分と、全酸成分1モルに対して0.01?0.35モルのビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物を含み、
仕込み時の前記モノマー混合物中のカルボキシル基数と水酸基数との比が、カルボキシル基数:水酸基数=1:1.13?1:1.30であり、前記三価以上の酸成分の含有量が、全酸成分1モル中に0.01?0.30モルであり、
重合触媒20ppm以下の条件で重合する、ポリエステル樹脂の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-07-29 
出願番号 特願2015-531975(P2015-531975)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (C08G)
P 1 652・ 113- YAA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤本 保  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 佐藤 玲奈
橋本 栄和
登録日 2019-06-14 
登録番号 特許第6536822号(P6536822)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂を含むトナー、およびポリエステル樹脂の製造方法  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 山崎 一夫  
代理人 市川 さつき  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 服部 博信  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 市川 さつき  
代理人 須田 洋之  
代理人 山崎 一夫  
代理人 服部 博信  
代理人 須田 洋之  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ