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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1378730
異議申立番号 異議2020-700781  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-12 
確定日 2021-08-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6678999号発明「六方晶窒化ホウ素粉末、その製造方法、樹脂組成物及び樹脂シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6678999号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6678999号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6678999号の請求項1?10に係る特許についての出願は、2016年8月19日(優先権主張 平成27年9月3日 日本国)を国際出願日とする出願であり、令和2年3月23日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、令和2年10月12日に特許異議申立人末吉直子(以下、「異議申立人1」という。)により、また、令和2年10月14日に特許異議申立人安藤宏(以下、「異議申立人2」という。)により、特許異議の申立てがなされ、令和3年1月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年3月29日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、同年6月4日に異議申立人1により、また、同年6月3日に異議申立人2により、意見書の提出がなされたものである。

第2 訂正の適否

1 訂正事項
上記令和3年3月29日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「・・・分散液を、50mlの容器に入れて、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で1分間超音波処理した後、・・・」とあるのを、「・・・分散液を、50mlの容器に入れて、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で、株式会社日本精機製作所製、超音波ホモジナイザーUS-150Vを用いて、1分間超音波処理した後、・・・」に訂正する。
(請求項1を直接または間接的に引用する請求項2?10についても同様に訂正する。)

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、「分散液を、50mlの容器に入れて、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で1分間超音波処理」とあるのを、「分散液を、50mlの容器に入れて、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で、株式会社日本精機製作所製、超音波ホモジナイザーUS-150Vを用いて、1分間超音波処理」とし、超音波処理の条件をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項1の「超音波処理」に「株式会社日本精機製作所製、超音波ホモジナイザーUS-150Vを用い」ることを特定する訂正は、本件特許明細書の【0082】の「(ピーク減少率)・・・当該分散液を50mlの容器に入れて、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で1分間超音波処理した後、マグネティックスターラーを用いて回転数400rpmの条件にて撹拌しながら粒度分布の測定を行った。超音波処理後45μm以上150μm以下の間に発生する最大ピークと超音波処理前45μm以上150μm以下の間に発生する最大ピークとを比較した。・・・なお、本発明における超音波処理は、超音波処理装置[(株)日本精機製作所製、機種名「超音波ホモジナイザーUS-150V」]を用いて行った。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 訂正事項1は、請求項1の超音波処理の条件をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1ないし10〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1ないし10〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし10に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
六方晶窒化ホウ素の一次粒子の非球状凝集体を含む六方晶窒化ホウ素粉末であって、
前記一次粒子径が10μm未満、一次粒子の平均長径(L_(1))の平均厚さ(d_(1))に対する比〔L_(1)/d_(1)〕が5.0以上20以下、
前記六方晶窒化ホウ素粉末のBET比表面積が10m^(2)/g未満、結晶子径が300Å以上500Å未満、50%体積累積粒径D_(50)が20μm以上50μm以下、嵩密度が0.70g/cm^(3)以上であり、目開き45μmの篩を用い、前記六方晶窒化ホウ素粉末10gを乗せ減圧吸引型篩分け機にセットして、篩の下部から差圧1kPaで吸引し、180秒間篩分けした際の、篩の下及び篩の上に残った合計質量に対する、目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率が50質量%以上90質量%以下であり、且つ、
45μm以上106μm以下の粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末の粒径分布曲線において、粒径45μm以上150μm以下の範囲内に最大ピークを1つ有し、
前記六方晶窒化ホウ素粉末を、目開き106μm及び目開き45μmの篩を2段重ねで用いて、乾式振動篩装置により篩分け時間60分にて分級した45μm以上106μm以下の粒径を有する前記六方晶窒化ホウ素粉末0.06gを水50gに分散させた分散液を、50mlの容器に入れて、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で、株式会社日本精機製作所製、超音波ホモジナイザーUS-150Vを用いて、1分間超音波処理した後、マグネティックスターラーを用いて回転数400rpmの条件にて攪拌しながらレーザー回折散乱法による粒度分布の測定を行い、超音波処理後の45μm以上150μm以下の間に発生する最大ピークと、超音波処理前の45μm以上150μm以下の間に発生する最大ピークとに関する、下記式(1)で算出されるピーク減少率が10%以上40%未満である、六方晶窒化ホウ素粉末。
ピーク減少率(%)={〔(処理前の最大ピーク高さ(a))-(処理後の最大ピーク高さ(b))〕/(処理前の最大ピーク高さ(a))}×100 (1)
【請求項2】
BET比表面積が1.5m^(2)/g以上6.0m^(2)/g以下である、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
BET比表面積が1.5m^(2)/g以上5.0m^(2)/g以下である、請求項1又は2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末を20体積%以上80体積%以下含有する樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂組成物又はその樹脂組成物が硬化したものからなる樹脂シート。
【請求項6】
窒化ホウ素微粉末(A)を50質量%以上90質量%以下、及び一般式(B_(2)O_(3))・(H_(2)O)X〔但し、X=0?3〕で示されるホウ素化合物(B)を10質量%以上50質量%以下含む混合粉末100質量部と、炭素換算で1.0質量部以上10質量部以下の黒鉛及び炭化ホウ素から選ばれる1種又は2種の炭素源(C)を混合する工程、混合した粉末を成形する工程、成形したものを窒素ガスを含む雰囲気下で焼成する工程、焼成したものを粉砕する工程、及び粉砕したものを分級する分級工程の順次の工程を有し、窒化ホウ素微粉末(A)の一次粒子の平均長径(L_(2))の平均厚さ(d_(2))に対する比〔L_(2)/d_(2)〕が2.0以上15以下、50%体積累積粒径D_(50)が0.20μm以上5.0μm以下、BET比表面積が5.0m^(2)/g以上30m^(2)/g以下、結晶子径が150Å以上400Å以下である、請求項1?3のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項7】
窒化ホウ素微粉末(A)の50%体積累積粒径D_(50)が0.20μm以上1.0μm以下である、請求項6に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項8】
窒化ホウ素微粉末(A)のBET比表面積が5.0m^(2)/g以上20m^(2)/g以下である、請求項6又は7に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項9】
窒化ホウ素微粉末(A)の結晶子径が200Å以上400Å以下である、請求項6?8のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項10】
窒化ホウ素微粉末(A)を50質量%以上90質量%以下、及び一般式(B_(2)O_(3))・(H_(2)O)X〔但し、X=0?3〕で示されるホウ素化合物(B)を10質量%以上50質量%以下含む混合粉末100質量部と、炭素換算で2.5質量部以上8.0質量部以下の黒鉛及び炭化ホウ素から選ばれる1種又は2種の炭素源(C)を混合する工程、混合した粉末を成形する工程、成形したものを窒素ガスを含む雰囲気下で焼成する工程、焼成したものを粉砕する工程、及び粉砕したものを分級する分級工程の順次の工程を有し、
窒化ホウ素微粉末(A)の一次粒子の平均長径(L_(2))の平均厚さ(d_(2))に対する比〔L_(2)/d_(2)〕が2.0以上15以下、50%体積累積粒径D_(50)が0.20μm以上1.0μm以下、BET比表面積が5.0m^(2)/g以上20m^(2)/g以下、結晶子径が200Å以上400Å以下である、請求項6?9のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。」

第4 令和3年1月19日付けで通知した取消理由及びこの取消理由において採用しなかった異議申立人1、2による特許異議の申立理由の概要

1 令和3年1月19日付けで通知した取消理由の概要
(1)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(取消理由1)
ア 本件訂正前の請求項1に係る発明は、「45μm以上106μm以下の粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末の粒径分布曲線において、粒径45μm以上150μm以下の範囲内に最大ピークを1つ有」する六方晶窒化ホウ素粉末について、「前記六方晶窒化ホウ素粉末を、目開き106μm及び目開き45μmの篩を2段重ねで用いて、乾式振動篩装置により篩分け時間60分にて分級した45μm以上106μm以下の粒径を有する前記六方晶窒化ホウ素粉末0.06gを水50gに分散させた分散液を、50mlの容器に入れて、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で、株式会社日本精機製作所製、超音波ホモジナイザーUS-150Vを用いて、1分間超音波処理した後、マグネティックスターラーを用いて回転数400rpmの条件にて攪拌しながらレーザー回折散乱法による粒度分布の測定を行い、超音波処理後の45μm以上150μm以下の間に発生する最大ピークと、超音波処理前の45μm以上150μm以下の間に発生する最大ピークとに関する、下記式(1)で算出されるピーク減少率が10%以上40%未満である
ピーク減少率(%)={〔(処理前の最大ピーク高さ(a))-(処理後の最大ピーク高さ(b))〕/(処理前の最大ピーク高さ(a))}×100 (1)」(以下、この指標を「ピーク減少率」という。)と規定する。

イ ピーク減少率測定における「超音波処理」について
上記「ピーク減少率」における「超音波処理」について、超音波を発生させるための振動子のチップ(プローブ)の位置、及び、分散液を入れる「容器」の形状が異なれば、分散液における六方晶窒化ホウ素粉末への超音波のかかり方が異なるため、その分散状態、更には粒度分布が異なり、「45μm以上150μm以下の間に発生する最大ピーク」も異なることとなるから、そこから算出される「ピーク減少率」の値も異なるものといえる。
しかしながら、超音波を発生させるための振動子のチップ(プローブ)の位置、及び、分散液を入れる「容器」の形状について、上記発明は特定しておらず、本件明細書にも記載されておらず、また、本件出願時における当業者の技術常識であるともいえない。
そうすると、上記発明における「ピーク減少率」の値は一義的に決まるものとはいえないから、当該発明は明確であるとはいえない。

ウ ピーク減少率測定における「分散液」の調製方法について
上記「ピーク減少率」測定における「分散液」の調整方法に関し、六方晶窒化ホウ素粉末は一般に水に分散しにくいところ、分散媒中に分散させやすくするための添加剤(例えば界面活性剤)の使用が検討されるのが通常であり、また、界面活性剤等の使用の有無や、種類、濃度によって、六方晶窒化ホウ素粉末の分散状態が異なるため、粒度分布が異なり、「45μm以上150μm以下の間に発生する最大ピーク」も異なることとなるから、そこから算出される、「ピーク減少率」の値も異なるものといえる。
しかしながら、界面活性剤等の使用の有無や、種類、濃度について、上記発明は特定しておらず、本件明細書にも記載されておらず、また、本件出願時における当業者の技術常識であるともいえない。
そうすると、上記発明における「ピーク減少率」の値は一義的に決まるものとはいえないから、当該発明は明確であるとはいえない。

エ 以上のとおり、上記発明の根幹をなすパラメータである、上記「ピーク減少率」の値は一義的に決まるものではないため、当該発明及びこれを直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?10に係る発明は明確であるとはいえない。

(2)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(取消理由2)
上記(1)のとおり、本件訂正前の請求項1に係る発明における「ピーク減少率」の値は一義的に決まるものではないため、当業者は、六方晶窒化ホウ素粉末の「ピーク減少率」の値が、当該発明における「10%以上40%未満」という発明特定事項を満たすか否かを確認することができず、したがって、当業者は当該発明の物を生産することができないというべきである。
そして、当該発明を直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?5に係る物の発明及びこれを生産する方法である本件訂正前の請求項6?10に係る発明についても事情は同じであるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正前の請求項1?10に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

なお、上記取消理由1及び2は、異議申立人1による特許法第36条第6項第2号(明確性要件違反)の申立理由及び同法同条第4項第1号(実施可能要件違反)の申立理由の一部と同旨である。そして、前者の明確性要件違反の申立理由では、本件出願の審査過程で、平成31年4月22日に特許権者から提出された意見書が甲第1号証として提出されている。

2 取消理由において採用しなかった異議申立人1による特許異議の申立理由の概要
(1)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(申立理由1-1)
本件訂正前の請求項1に係る発明の六方晶窒化ホウ素粉末の内、当業者が生産ないし使用できるのは、せいぜい「一次粒子径」の数値範囲(「10μm未満」)の一部(実施例1?7)でしかなく、それ以外の当該発明の「一次粒子径」を有する「六方晶窒化ホウ素粉末」を当業者が生産ないし使用するためには、過度の試行錯誤を要する。
また、当該発明1六方晶窒化ホウ素粉末の内、当業者が生産ないし使用できるのは、せいぜい「BET比表面積」の数値範囲(「10m^(2)/g未満」)又は「嵩密度」の数値範囲(「0.70g/cm^(3)以上」)の一部(実施例1?7)でしかなく、それ以外の当該発明の「BET比表面積」又は「嵩密度」を有する「六方晶窒化ホウ素粉末」を当業者が生産ないし使用するためには、過度の試行錯誤を要する。
さらに、当該発明では、上記の指標に加えて、「一次粒子の平均長径(L_(1))の平均厚さ(d_(1))に対する比〔L_(1)/d_(1)〕が5.0以上20以下」、「結晶子径が300Å以上500Å未満、50%体積累積粒径D_(50)が20μm以上50μm以下」、及び「目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率が50質量%以上90質量%以下」との事項も特定されているが、少なくとも「一次粒子径」、「BET比表面積」及び「嵩密度」等についてはそれぞれ個々にみたときでさえ、それらの特定事項の全体で生産ないし使用できないのであるから、それらを含む特定項のすべてを同時に満たすように六方晶窒化ホウ素粉末を生産ないし使用することはできない。
以上のとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当該発明及びこれを直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?5に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

(2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(申立理由1-2)
ア 「一次粒子径」について
本件明細書に記載の実施例1?7のうち、六方晶窒化ホウ素粉末の「一次粒子径」が最大であるのは「6μm」(実施例2)であり、その場合の熱伝導率は「22W/m・K」であったことが記載され、例えば比較例2では、六方晶窒化ホウ素粉末の「一次粒子径」が「10μm」であり、その場合の熱伝導率は「8W/m・K」であったことが記載され、「一次粒子径」が「10μm」であると、熱伝導性が実施例に比べて大幅に低下し得ると理解される。
そうすると、六方晶窒化ホウ素粉末の「一次粒子径」が実施例2の「6μm」から更に大きくなって「10μm」に近づくにつれて、熱伝導率が低下すると共に、「10μm」では課題を解決できない可能性があると当業者には理解される。
よって、当業者は、本件明細書の記載及び技術常識に基づいて、本件訂正前の請求項1に係る発明の六方晶窒化ホウ素粉末の「一次粒子径」を「10μm未満」の範囲に拡張ないし一般化した場合にまで、発明の課題を解決できると認識することはできない。

イ 「BET比表面積」について
本件明細書の【0017】の記載から、BET比表面積が小さいほど熱伝導性が向上する(逆にいえば、「BET比表面積」が大きくなれば、熱伝導性は低下する)と理解できる。ここで、本件明細書に記載の実施例1?7のうち、六方晶窒化ホウ素粉末の「BET比表面積」が最大であるのは「5.3m^(2)/g」(実施例7)であり、その場合の熱伝導率は「25W/m・K」であったことが記載されているが、「BET比表面積」が「5.3m^(2)/g」を超える例は一切記載されていない。
そうすると、六方晶窒化ホウ素粉末の「BET比表面積」が実施例7の「5.3m^(2)/g」から更に大きくなって「10m^(2)/g」に近づくにつれて、熱伝導率が低下するという傾向は理解できる一方で、「5.3m^(2)/g」を超える範囲で熱伝導率が具体的にどの程度低下するかは全く理解できない。
よって、当業者は、本件明細書の記載及び技術常識に基づいて、本件訂正前の請求項1に係る発明の六方晶窒化ホウ素粉末の「BET比表面積」を「10m^(2)/g未満」の範囲に拡張ないし一般化した場合にまで、発明の課題を解決できると認識することはできない。

ウ 「目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率」について
本件明細書に記載の実施例1?7のうち、六方晶窒化ホウ素粉末の「目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率」が最小であるのは「81質量%」(実施例4?6)であり、その場合の熱伝導率は「22W/m・K」又は「23W/m・K」であったことが記載されており、例えば比較例2では、六方晶窒化ホウ素粉末の「目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率」が「32質量%」であり、その場合の熱伝導率は「8W/m・K」であったことが記載されている。
そうすると、本件明細書の記載及び技術常識から、六方晶窒化ホウ素粉末の「目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率」が実施例4?6の「81質量%」から更に小さくなって「50質量%」に近づくにつれて、熱伝導率が低下すると共に、「32質量%」では課題を解決できないと当業者には理解される。したがって、「目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率」が、「50質量%以上81質量%未満」の全範囲においても同様に課題を解決できる(特に50質量%付近においても同様に課題を解決できる)とは当業者には理解できない。
よって、当業者は、本件明細書の記載及び技術常識に基づいて、本件訂正前の請求項1に係る発明の六方晶窒化ホウ素粉末の「目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率」を「50質量%以上90質量% 以下」の範囲に拡張ないし一般化した場合にまで、発明の課題を解決できると認識することはできない。

エ 以上により、本件訂正前の請求項1に係る発明及びこれを直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?10に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないし、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。

3 取消理由において採用しなかった異議申立人2による特許異議の申立理由の概要(異議申立人1の申立理由と同旨の理由は除く。)
(1)特許法第29条第2号所定の規定違反(進歩性欠如)(申立理由2-1)
本件訂正前の請求項1?5に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明及び下記甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:国際公開第2014/202649号(訳文:特表2016-522298号公報(甲第1号証の2))
甲第2号証:国際公開第2015/119198号
(以下、「甲第1号証」を「甲1」などという。)

(2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(申立理由2-2)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、ピーク減少率が10%以上40%未満であることを発明特定事項としている。ここで、当該発明における前記ピーク減少率の範囲は、40%-10%=30%の幅を有している。これに対して、【表3】に記載される本件明細書の実施例では、前記ピーク減少率が21?34%の範囲において課題を解決できることが示されているのみであり、前記実施例におけるピーク減少率の範囲は34%-21%=13%と、当該発明における範囲(30%)の半分にも満たない。
そして、ピーク減少率が凝集体を使用した際の熱伝導率や配向度に影響することは明らかであるから、当該発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、当該発明及びこれを直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

(3)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(申立理由2-3)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、六方晶窒化ホウ素粉末が、六方晶窒化ホウ素の一次粒子の非球状凝集体を含むことを発明特定事項としているが、本件明細書等を参酌しても、具体的に如何なる基準を以て凝集体が「非球状」であるか否かを判断するのかが定義されていない。
なお、上記の点について、特許権者は平成31年4月22日付で提出された意見書において、「引用文献3-5が、一次粒子の凝集体の製造に、スラリーをスプレードライ法で噴霧乾燥するなどして造粒し、加熱を経て球状の一次粒子凝集体を得ているが、本願請求項1に係る発明・・・では、特段、球状の一次粒子の凝集体を特徴としていない」と述べている。
しかし、スプレードライ法によって凝集体を造粒した場合、比較的球状に近い形状の凝集体が得られるものの、完全な球状(真球)とできるわけではないことは技術常識であるから、上記意見書における特許権者の主張および技術常識を参酌すれば、上記発明における「非球状」とは、単純に真球を除く意味ではないと解するのが相当である。
してみれば、上述したように本件明細書等を参酌しても、具体的に如何なる基準を以て凝集体が「非球状」であるか否かを判断するのかが定義されていないのであるから、当該発明の技術的範囲は不明確といえる。
よって、当該発明及びこれを直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?10に係る発明は、明確であるとはいえない。

第4 当審の判断

1 取消理由1(特許法第36条第6項第2号(明確性要件違反))について
(1)ピーク減少率測定における「超音波処理」について
ア 本件発明1には、ピーク減少率測定における「超音波処理」について、株式会社日本精機製作所製、超音波ホモジナイザーUS-150Vを用いることが特定されている。
そして、超音波処理に用いられる実際の装置が特定されることにより、装置に備え付けられる振動子チップの形状などが当業者であれば認識できると共に、装置の全体構造及び振動子チップの形状から、特に特別な容器を用いる必要があるとは認められず、実験において汎用されている50mlビーカーを用いれば良いことが理解できる。
ここで、本件発明1において、超音波処理を行って「ピーク減少率」を測定する理由を確認する。
本件明細書の【0005】に「そのため、近年、熱伝導性シートにおけるhBN粉末の充填性向上及び異方性の抑制を目的として、hBNの一次粒子が凝集した二次粒子(凝集体)を含むhBN粉末を、樹脂に混合する方法が用いられている(特許文献4,5)。
しかしながら、凝集体の強度が十分でないと、樹脂との複合化過程において凝集体が崩壊してしまい、熱伝導性シートに異方性が生じ、また、凝集体の崩壊を防ぐために熱伝導性シート中におけるhBN粉末の充填率を十分に上げることができず、熱伝導性が低下するという問題がある。」と記載されるように、従来の六方晶窒化ホウ素粉末の凝集体が崩壊し易いという問題に対し、【0014】で、「本発明のhBN粉末は」、「緻密な凝集体を含み、また、特定の条件で測定した凝集体の強度が特定の範囲内であるため、強固な凝集体を含有する。そのため、樹脂との複合化過程において凝集体が崩壊することなく顆粒形状を維持することができ、樹脂組成物中におけるhBN粉末の充填率を向上させることができる。その結果、高い熱伝導性を発現することができると考えられる。
また、本発明のhBN粉末が緻密で強固な凝集体を含有するため、凝集体の崩壊により、一次粒子が一定の方向に揃うことを抑制し、異方性を抑制することができると推定される。」とされ、本件発明1の六方晶窒化ホウ素粉末は、強固な凝集体を含有することを技術的特徴としている。そして、【0018】の「前記粒径分布曲線は、レーザー回折散乱法による粒度分布計を用いて測定され、このピーク減少率が低いほどhBN粉末の崩壊強度は高いといえ、ピーク減少率はhBN粉末の崩壊強度を表す指標となる。」の記載によれば、超音波処理は、凝集体の崩壊強度を測る手段として用いられていることが理解できる。そうであれば、分散液中の六方晶窒化ホウ素の凝集体に対する超音波の印加にむらがあるようでは、正確な測定において好ましくないことは当業者にとり明らかであるから、超音波処理における出力の条件が特定されている本件発明1において、この条件のもとで、最も分散液中の六方晶窒化ホウ素の凝集体全体に対して均一に超音波が印加されやすい条件で処理を行うものと当業者であれば理解するといえる。
そうすると、当業者であれば、超音波装置として特定の装置を用いることが特定されることにより、特定の超音波チップを用いること、50mlの容器は、実験器具として汎用の50mlビーカーを用いることが理解でき、50mlの容器中の超音波チップの位置等は、本件発明1における超音波処理の技術的意義を考慮すると、分散液中の六方晶窒化ホウ素の凝集体全体に対し、最も均一に超音波が印加される位置で操作を行うものと理解でき、この位置は、当業者であれば適宜設定できるものと理解できる。
さらに、本件出願の審査の過程で特許権者が平成31年4月22日付けで提出した意見書(異議申立人1の提出した甲第1号証14頁)の【表1】には、「請求項1のピーク減少率についての追加実験」として、実施例1?7、比較例1?4のサンプルについて、超音波処理におけるチップ(プローブ)のビーカー底面からの距離が、1.0cmの場合に加え2.5cmとした場合についてのピーク減少率に関する実験結果が示されている。
この結果を見ると、特許権者が、本件訂正請求と共に提出した令和3年3月29日付けの意見書で、本件発明1でのチップ(プローブ)の位置であると説明する容器底面から超音波端子の位置が1.0cmの場合は、2.5cmの場合よりピーク減少率が、いずれの実施例及び比較例においても大きくなっており、チップ(プローブ)の位置は、分散液全体に超音波を照射するのに好ましい位置(最も凝集体を崩壊させやすい位置)が採用されているとの上記の判断に整合する結果が得られている。
また、特許権者が、本件発明1でのチップ(プローブ)の位置であると説明する容器底面から超音波端子の位置が1.0cmの場合のピーク減少率は、本件発明1の実施例での結果である【表3】におけるピーク減少率の値に一致しているし、さらには、上記平成31年4月22日付けで提出した意見書の【表1】によれば、チップ(プローブ)の位置によってピーク減少率が変化することが理解できるが、プローブの位置を変えながら、ピーク減少率の値を測定し、本件発明1の実施例での結果である【表3】のピーク減少率の値に一致する条件チップ(プローブ)の位置を決定することも可能であるといえる。
そうすると、超音波を発生させるための振動子のチップ(プローブ)の位置、及び、分散液を入れる「容器」の形状は、本件明細書の記載や、本件出願時における技術常識により、当業者であれば理解ができるものであるから、本件発明1における「ピーク減少率」の値はおおよそ一義的に決まるというべきであるから、上記(1)の点、すなわち、ピーク減少率測定における「超音波処理」について、本件発明1において不明確なところは認められない。

イ 上記(1)の点に関する異議申立人1の意見書での主張
(ア)「容器」の形状について
容器が50mlである場合、選択する振動子チップとして、特許権者の主張する直径18mmで長さ125mmの円筒状の振動子チップはやや大き過ぎるので、もう少し小さな振動子チップを用いることも当業者にとって通常であると考えられる。小さな振動子チップを用いれば、口の狭い容器も容易に使用可能であるから、選択可能な容器の種類はより多くなり、50mlのビーカーを用いなければならない理由はない。

(イ)振動子チップの位置について
容器の底面からの振動子チップの位置について、底面から5mmの場合も、10mmや25mmの場合も測定を行うことができるのであって、いずれも当業者が採用し得る条件であり、底面から10mmの条件に必然的には決まらない。どのような理由に基づいて、ビーカーの容量を超えず、分散液全体に照射するのに好ましい位置になる条件の中から「底面より10mm」を選ぶといえるのか不明であるから、容器内での振動子チップの位置が依然として明確でない。

ウ 上記(1)の点に関する異議申立人1の意見書での主張についての検討
(ア)「容器」の形状について
「容器が50mlである場合、選択する振動子チップとして、直径18mmで長さ125mmの円筒状の振動子チップはやや大き過ぎるので、もう少し小さな振動子チップを用いることも当業者にとって通常であると考えられる。」の主張は、株式会社日本精機製作所製、超音波ホモジナイザーUS-150Vにおいて、もう少し小さな振動子チップが実際あるのか、さらには、その「もう少し小さ」い程度が、50mlの容器に対して直径18mmで長さ125mmの円筒状の振動子チップよりも超音波処理において適切であるのか等具体性に欠けるものである。さらに、小さな振動子チップを用いれば、口の狭い容器も容易に使用可能だからといって、測定に用いる50mlの容器としてまず想起される50mlビーカーではなく、あえて口の狭い容器を用いる必然性は認められない。

(イ)振動子チップの位置について
上記アで述べたようにピーク減少率の技術的意義を考えれば、容器中での振動子チップの位置は、散液中の六方晶窒化ホウ素凝集体に対し、最も均一に超音波が印加される位置と理解できる。そして、この位置は、当業者であれば、チップ(プローブ)の位置を変えながら、ピーク減少率の値を測定し、最もピーク減少率が大きくなる位置を選択するなど、適宜決定できるものである。また、上記アで述べたように特許権者が釈明する容器下部から10mmの位置は、上記の理解に整合するものである。
そうすると、本件明細書において、容器における振動子チップの位置が明記されていなくとも、当業者であればその位置を理解することができ、減少ピークが一義的に定まらないということはできない。

(ウ)以上のとおりであるから、上記(1)の点に関する異議申立人1の意見書での主張は採用できない。

エ 上記(1)の点に関する異議申立人2の意見書での主張(異議申立人1と同様の主張は省略する。)
「容器」の形状についてみると、円筒状の容器としてはさまざまなものが存在しているのであるから、かならず「50mlビーカー」が使用されるとまではいえない。また、仮に通常実験に用いられる「50mlビーカー」を使用するとしても、円筒形状の実験用ビーカーとしては通常のビーカーだけでなくトールビーカーも広く用いられている。さらに、実験用ビーカーとしては、ASTM規格に準拠したものとJIS規格に準拠したものの両者が一般的に流通しており、同じ容量のビーカーであっても規格によってサイズは異なっている。その上、これらの規格で定められているのはビーカーの「外径」であって、内径の規定はない。ビーカーの肉厚はメーカーや製品によって異なっているから、必然的に内径も一義的に定まるものではない。

オ 上記(1)の点に関する異議申立人2の意見書での主張についての検討
異議申立人2は、実験用ビーカーとしては通常のビーカーだけでなくトールビーカーも用いられることを主張するが、この主張は、直径18mmで長さ125mmの円筒状の振動子チップを用いる株式会社日本精機製作所製、超音波ホモジナイザーUS-150Vにおいて、通常のビーカーよりもトールビーカーが、超音波処理において適切に、又は同様に使用できることを具体的に示すものではない。また、規格の違いや、ビーカーの多少の内径の違いで、測定される粒度分布、さらにはピーク減少率にどの程度の違いが出るのか客観的な根拠をもって明らかにされていないから、異議申立人2の上記の主張では、本件発明1において、ピーク減少率が一義的に定まらないとすることはできない。
以上のとおりであるから、上記(1)の点に関する異議申立人2の意見書での主張は採用できない。

(2)ピーク減少率測定における「分散液」の調製方法について
ア 本件発明1には、「乾式振動篩装置により篩分け時間60分にて分級した45μm以上106μm以下の粒径を有する前記六方晶窒化ホウ素粉末0.06gを水50gに分散させた分散液を、50mlの容器に入れて、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で、株式会社日本精機製作所製、超音波ホモジナイザーUS-150Vを用いて、1分間超音波処理した後、マグネティックスターラーを用いて回転数400rpmの条件にて攪拌しながらレーザー回折散乱法による粒度分布の測定を行い、超音波処理後の45μm以上150μm以下の間に発生する最大ピークと、超音波処理前の45μm以上150μm以下の間に発生する最大ピークとに関する、下記式(1)(省略)で算出されるピーク減少率が10%以上40%未満である」と特定され、その特定に対応する箇所である【0082】には、「実施例及び比較例のhBN粉末を、目開き106μm及び目開き45μmの篩を2段重ねで用いて、前記乾式振動篩装置(篩分け時間60分)にて分級した45μm以上106μm以下の粒径を有するhBN粉末0.06gを水50gに分散させた分散液を調製した。当該分散液を50mlの容器に入れて、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で1分間超音波処理した後、マグネティックスターラーを用いて回転数400rpmの条件にて撹拌しながら粒度分布の測定を行った。超音波処理後45μm以上150μm以下の間に発生する最大ピークと超音波処理前45μm以上150μm以下の間に発生する最大ピークとを比較した。」と記載され、特許請求の範囲でも、対応する発明の詳細な説明の記載でも、「hBN粉末0.06gを水50gに分散させた分散液」と記載されているのであるから、文言そのままに、分散液とは、水にhBN粉末を分散させたものと理解でき、本件発明1に係る請求項1の記載が不明確であるということはできない。
そして、ピーク減少率測定での超音波処理の前後での粒度分布の測定では、前後での測定条件を同様のものとすることは技術常識であるから、超音波処理前の分散液は、超音波処理後の分散液と同様に、マグネティックスターラーを用いた回転数400rpmで攪拌されていることが理解でき、この攪拌により六方晶窒化ホウ素粉末が分散状態となることも理解できるから、六方晶窒化ホウ素粉末を水に分散させることができないといった事情も見いだせない。
ここで、粉末を分散液に分散させる際に、添加することが多い界面活性剤において、分散液に界面活性剤を添加すれば一般的に粉末の分散状態が安定化され、粉末の分散状態を長く保つといった作用が得られること等は理解できるが、上述のとおり、本件明細書の記載からは、マグネティックスターラーを用いた回転数400rpmの条件での撹拌で分散を行うことができること、また、分散状態は、粒度分布の測定の際のみ維持されていれば良く、分散状態を安定化し分散状態を長く保つ必要はないことも理解できるから、本件発明1における六方晶窒化ホウ素粉末の分散のために、必ずしも界面活性剤を必要としないことを理解できる。
そうすると、本件発明1に、界面活性剤等の使用の有無や、種類、濃度についての特定がなされておらず、本件明細書にも記載されていないことをもって、本件発明1における「ピーク減少率」の値は一義的に決まるものではないとはいえないから、上記(2)の点、すなわち、ピーク減少率測定における「分散液」の調製方法について、本件発明1において不明確なところは認められない。

イ 上記(2)の点に関する異議申立人1の意見書での主張
超音波処理前の分散液について、「マグネティックスターラーを用いて回転数400rpmの条件にて攪拌しながら」粒度分布を測定するのであるから、その分散液に界面活性剤が添加されているか否かによって、攪拌したときの分散液の分散状態は大きく異なり(界面活活性剤が添加されている場合のほうが分散されやすくなり)、測定される粒度分布も大きく異なる。その結果、当該粒度分布から求められる「処理前の最大ピーク高さ(a)」の値も、分散液に界面活性剤が添加されているか否かによって大きく異なることは明らかである。

ウ 上記(2)の点に関する異議申立人1の意見書での主張についての検討
上記アで述べたように請求項1及び本件明細書には、ピーク減少率を測定する際の「分散液」の調製において、界面活性剤を用いるとは記載されていない。そして、マグネティックスターラーを用いた回転数400rpmの条件の攪拌で、六方晶窒化ホウ素粉末の分散液が調製できることも、本件明細書に接した当業者であれば理解できるのであるから、異議申立人1が主張する、分散液に界面活性剤が添加されているか否かによって、攪拌したときの分散液の分散状態は大きく異なるか否かといった点は、上記(2)の点に関する明確性要件違反に関する判断を左右するものではない。一方、異議申立人1の主張は、界面活性剤を使用しなければ六方晶窒化ホウ素粉末の分散液を得ることができないことや、界面活性剤が添加されているか否かによって、粒度分布から求められる「処理前の最大ピーク高さ(a)」の値が、実際大きく変化することを客観的に示すものではなく、採用することができない。

エ 上記(2)の点に関する異議申立人2の意見書での主張
本件発明1では、「超音波処理した後」にマグネティックスターラーを用いて攪拌しながらレーザー回折散乱法による粒度分布の測定を行うことは限定されているが、超音波処理を行う前に攪拌を行うことは特定されていないから、特許権者の主張は請求項の記載に基づかないものである。
また、本件出願の審査段階において、特許権者が平成31年4月22日付けで提出した意見書で述べられたように、特許権者の社内の「標準測定マニュアル」には、「ピーク減少率」の測定に際して「分散剤として界面活性剤(ライオン株式会社製、「ママレモン」を0.005g滴下する」ことが定められている。もし仮に、「ピーク減少率」の値に界面活性剤の有無や種類、濃度などの条件が影響を与えないのであれば、このように使用する界面活性剤の種類や添加量を測定マニュアルに定めておく必要はそもそも無いはずである。

オ 上記(2)の点に関する異議申立人2の意見書での主張についての検討
請求項1及び本件明細書に超音波処理を行う前の分散液に攪拌を行うことが記載されていなくても、ピーク減少率を求める際の超音波処理の前後で、粒度分布を同条件で測定することは当業者にとり明らかであるから、超音波処理前の粒度分布も、超音波処理後と同じく、マグネティックスターラーを用いて攪拌しながらレーザー回折散乱法による粒度分布の測定を行っていることは、当業者にとり明らかであるというべきである。
また、上記アで述べたように本件明細書の記載からは、界面活性剤を使用せずに六方晶窒化ホウ素粉末を分散液に分散させていると理解できるし、令和3年3月29日付けで提出の意見書でも特許権者は、界面活性剤を使用せずとも六方晶窒化ホウ素粉末の分散状態を達成できることを主張している。
なお、本件出願の審査段階において、平成31年4月22日付けで提出した意見書で、特許権者は、ピーク減少率の測定に際して、分散剤として界面活性剤を使用することを主張していたが、上述のように、令和3年3月29日付けで提出の意見書で特許権者は、改めて界面活性剤を使用せずとも分散状態を達成できることを主張しているし、上記アで述べたように本件明細書の記載からは、界面活性剤を使用せずに六方晶窒化ホウ素粉末を分散液に分散させていると理解できるのであるから、過去にピーク減少率の測定において、六方晶窒化ホウ素粉末の分散に界面活性剤を使用することを主張したとしても、このことは、上記「分散液」の調製方法に関する明確性要件違反の判断を左右するものではない。
そうすると、異議申立人2の意見書での上記エの主張は採用することができない。

(3)以上のとおり、上記(1)及び(2)の点において不明確なところはなく、本件発明1及びこれを直接又は間接的に引用する本件発明2?10は明確であるということができるから、取消理由1には理由がない。

2 取消理由2(特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反))について

取消理由2は、本件発明1における「ピーク減少率」の値が一義的に決まるものではないことに依拠し、当業者は、六方晶窒化ホウ素粉末の「ピーク減少率」の値が、本件発明1における「10%以上40%未満」という発明特定事項を満たすか否かを確認することができず、したがって、当業者は本件発明1の物を生産することができないというものであるが、上記1で述べたように、本件発明1における「ピーク減少率」の値はおおよそ一義的に決まるものであるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1?10について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるというべきである。
したがって、取消理由2には理由がない。

3 申立理由1-1(特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反))について

本件明細書の【0028】?【0042】には、本件発明1の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法として、原料となる窒化ホウ素微粉末(BN微粉末)(A)、ホウ素化合物(B)及び炭素源(C)に関する説明、及び本件発明の六方晶窒化ホウ素粉末を製造するための、混合、成形、焼成、粉砕及び分級等の各工程について説明がなされている。
また、同【0063】?【0072】には、本件発明1の六方晶窒化ホウ素粉末の実施例について、具体的な原料、製造条件が明示された製造方法が記載され、【0094】、【0095】の【表1】及び【表2】には、原料となる窒化ホウ素微粉末(BN微粉末)(A)、ホウ素化合物(B)及び炭素源(C)の種類や配合量を変更することにより、【0096】の【表3】には、得られる本件発明1の六方晶窒化ホウ素粉末の「一次粒子径」、「BET比表面積」及び「嵩密度」の値が変化することが記載されている。
上記本件明細書の記載に基づけば、六方晶窒化ホウ素粉末の原料となる窒化ホウ素微粉末(BN微粉末)(A)、ホウ素化合物(B)及び炭素源(C)の種類や配合量を調整すれば、本件発明1の六方晶窒化ホウ素粉末について、実施例に示される以外の「一次粒子径」、「BET比表面積」及び「嵩密度」を有する六方晶窒化ホウ素粉末の製造することができることは、当業者にとり明らかであるし、製造方法における反応温度等の反応条件を変更しても、製造される六方晶窒化ホウ素粉末の「一次粒子径」、「BET比表面積」及び「嵩密度」が変化するであろうことも、当業者にとり明らかである。一方で、異議申立人1の本件発明の六方晶窒化ホウ素粉末の「一次粒子径」、「BET比表面積」及び「嵩密度」の範囲の中で、実施例以外の値を有する六方晶窒化ホウ素粉末を製造することができないとする根拠は明らかでない。
ここで、本件発明1の「一次粒子径」、「BET比表面積」及び「嵩密度」の範囲において、上限又は下限の一方が特定されておらず、形式的に極端に小さい値や、極端に大きい値が含まれ得ることを問題にしているとすれば、実際その様な極端な場合が本件発明1の範囲に含まれないことも、当業者にとり明らかである。
そうすると、本件発明1の「一次粒子径」、「BET比表面積」及び「嵩密度」の範囲の内、実施例の値以外の値を有する六方晶窒化ホウ素粉末を製造するには過度の試行錯誤を要するとまではいえない。
さらに、上記の指標に加えて、「一次粒子の平均長径(L_(1))の平均厚さ(d_(1))に対する比〔L_(1)/d_(1)〕が5.0以上20以下」、「結晶子径が300Å以上500Å未満、50%体積累積粒径D_(50)が20μm以上50μm以下」、及び「目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率が50質量%以上90質量%以下」の指標を考慮しても、本件明細書には、これら全ての指標を満足する実施例の製造方法が記載され、これらの記載を基に、六方晶窒化ホウ素粉末の原料となる窒化ホウ素微粉末(BN微粉末)(A)、ホウ素化合物(B)及び炭素源(C)の種類や配合量や、製造方法における反応温度等の反応条件を適宜変更し、当業者であれば、実施例1?7以外の本件発明1に含まれる六方晶窒化ホウ素粉末を製造することができるといえる。一方で、異議申立人1の本件発明1の六方晶窒化ホウ素粉末の全ての指標を同時に満足しながら、実施例以外の各指標の値を有する六方晶窒化ホウ素粉末を製造することができないとする根拠は明らかでない。
以上のとおりであるから、異議申立人1の申立理由1-1では、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?5について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとすることはできない。
したがって、申立理由1-1には理由がない。

4 申立理由1-2(特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反))について
(1)「一次粒子径」について
異議申立人1の「一次粒子径」に関する申立理由1-2は、六方晶窒化ホウ素粉末の「一次粒子径」が「10μm」であると、熱伝導性が実施例に比べて大幅に低下するとの理解を前提としている。
しかしながら、本件明細書に記載の比較例1は、六方晶窒化ホウ素粉末の「一次粒子径」が「10μm」であるものの、熱伝導率は「20W/m・K」であり、六方晶窒化ホウ素粉末の「一次粒子径」が「10μm」であると、熱伝導性が実施例に比べて大幅に低下するということはない。
そうすると、「一次粒子径」に関する申立理由1-2は、前提において誤りがあるため、この認識に基づく上記申立理由を理由があるとすることはできない。

(2)「BET比表面積」について
本件明細書の【0017】の「BET比表面積が10m^(2)/g未満であると、hBN粉末に含まれる凝集体の比表面積も小さくなり、樹脂組成物を製造する際に凝集体内部に取り込まれる樹脂成分の量が少なくなる。そのため、相対的に凝集体間に存在する樹脂成分の量が多くなり、凝集体の樹脂成分に対する分散性が向上し、hBN粉末と樹脂成分との馴染みが良くなり、熱伝導性が向上すると考えられる。」の記載によれば、六方晶窒化ホウ素粉末の「BET比表面積」が大きくなれば、熱伝導性は低下していく傾向を理解できる。そうであれば、BET比表面積が10m^(2)/g未満で、10m^(2)/gに近接する範囲は、実施例7の5.3m^(2)/gの場合には劣るものの、10m^(2)/g以上の範囲よりは、熱伝導性が向上しているであろうことは、合理的に予測することができるといえる。一方で、異議申立人1の主張では、六方晶窒化ホウ素粉末のBET比表面積が5.3m^(2)/g超、10m^(2)/g未満の範囲で、本件発明1の課題を解決できない程度に熱伝導率等が実際に低下するといった事情も明らかにされていない。
そうすると、「BET比表面積」に関する申立理由1-2を理由があるとすることはできない。

(3)「目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率」について
本件明細書の【0022】の「本発明のhBN粉末は、熱伝導性の向上の観点から、減圧吸引型篩分け機(エアージェットシーブ)を用いて求めた目開き45μm篩上の粉末含有率が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは75質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上であり、製造容易性の観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。」の記載によれば、目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率が80質量%以下の範囲では、目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率が小さくなれば、熱伝導性は低下していく傾向を理解できる。そうであれば、目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率が50質量%以上で、50質量%に近接する範囲は、実施例4?6の81質量%の場合には劣るものの、比較例2の32質量%の場合を含め50質量%未満の範囲よりは、熱伝導性が向上しているであろうことは、合理的に予測することができるといえる。一方で、異議申立人1の主張では、目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率が50質量%以上81質量%未満の範囲で、本件発明1の課題を解決できない程度に熱伝導率等が実際に低下するといった事情も明らかにされていない。
そうすると、「目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率」に関する申立理由1-2を理由があるとすることはできない。

(4)以上のとおりであるから、異議申立人1の申立理由1-2では、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?10は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないし、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないとすることはできない。
したがって、申立理由1-2には理由がない。

5 申立理由2-1(特許法第29条第2項(進歩性欠如))について

(1)甲1及び甲2に記載の事項
ア 甲1(国際公開第2014/202649号)
上記国際出願の対応国内出願の公表公報である特表2016-522298号公報(甲1の2)の対応する箇所の記載を訳文とした。
(ア)1. A component part produced from a polymer/boron nitride compound, wherein the polymer/boron nitride compound comprises at least one polymer material, at least one thermally conductive filler, and at least one reinforcing filler, and wherein the at least one thermally conductive filler comprises boron nitride agglomerates.(57頁2?5行)
ポリマー/窒化ホウ素化合物から製造された構成部品であって、前記ポリマー/窒化ホウ素化合物が、少なくとも1つのポリマー材料と、少なくとも1つの熱伝導性充填剤と、少なくとも1つの補強充填剤と、を含み、前記少なくとも1つの熱伝導性充填剤が、窒化ホウ素凝集体を含む、構成部品。(【請求項1】)

(イ)12. The component part according to one of claims 1 to 11, wherein the boron nitride agglomerates comprise platelet- shaped hexagonal primary boron nitride particles that are agglomerated with each other into scale-like boron nitride agglomerates.(59頁1?3行)
前記窒化ホウ素凝集体が、互いに凝集して鱗様の窒化ホウ素凝集体になっている小平板状の六方晶一次窒化ホウ素粒子を含む、請求項1?11のいずれか一項に記載の構成部品。(【請求項12】)

(ウ)Hexagonal boron nitride powder particles existing in the form of primary particles, and not as agglomerates of primary particles, are anisotropic in their thermal conductivity. Well-crystallized boron nitride powder has a platelet- shaped particle morphology. The boron nitride flakes typically have an aspect ratio, i.e., a ratio of flake diameter to flake thickness, of >10. The thermal conductivity through the flake is low in comparison to the thermal conductivity in the plane of the flake.(5頁13?18行)
一次粒子の形態で存在し、一次粒子の凝集体ではない六方晶窒化ホウ素粉末粒子は、その熱伝導率において異方性である。良好に結晶化した窒化ホウ素粉末は、小平板状の粒子形態を有する。窒化ホウ素フレークは、典型的には、アスペクト比、すなわち、フレーク径のフレーク厚さに対する比が、>10である。フレーク外への熱伝導率は、フレーク面内の熱伝導率と比較して低い。(【0023】)

(エ)The boron nitride agglomerates used to produce the component parts according to the invention exhibit high agglomerate stability. Surprisingly, shearing on the mixing elements and on the shearing/dispersing elements during compounding in the twin-screw extruder does not result in a degrading, or in a complete degrading, of the boron nitride agglomerates used. Even at high filler loadings, which lead to high thermal conductivity in the component part and where the problem of filler degradation is particularly severe, the boron nitride agglomerates used do not strongly degrade, or only partially degrade, into primary particles or agglomerates fragments.(10頁20?26行)
本発明による構成部品の製造に使用される窒化ホウ素凝集体は、高い凝集安定性を示す。驚くべきことに、2軸押出成形機で配合中の混合要素及び剪断/分散要素における剪断は、使用した窒化ホウ素凝集体の分解、完全分解をもたらさない。構成部品中の高熱伝導率につながり、充填剤分解の問題が特に深刻な、高充填剤充填量においても、使用した窒化ホウ素凝集体は、一次粒子又は凝集体フラグメントに大きく分解されず、部分的に分解されるのみである。(【0049】)

(オ)The boron nitride agglomerates used for the component parts and polymer/boron nitride compound according to the invention exhibit high agglomerate stability. Boron nitride agglomerates having high agglomerate stability degrade only partially to primary particles or agglomerate fragments even under the influence of high shear forces, such as those occurring when the polymers are compounded together with the boron nitride fillers, in particular those polymers having high filler loadings. The advantageous properties of the polymer/boron nitride compound according to the invention, in particular the anisotropic ratio, are maintained, despite partial degradation.(15頁25?32行)
The stability of the agglomerates can be tested, for example, in ultrasound experiments while simultaneously measuring the agglomerate size by laser granulometry, wherein the agglomerate disintegrates over time due to the effect of the ultrasound. The disintegration of the agglomerates is recorded via the change in agglomerate size over time, wherein different curves form depending on the stability of the agglomerate. Soft agglomerates disintegrate faster than mechanically more stable agglomerates. (16頁1?6行)
For measuring agglomerate stability, boron nitride agglomerates smaller than 200 μm are broken up, and the fines < 100μm are removed by sieving. On the 100-200μm sieve fraction thus obtained, agglomerate stability is determined by means of a laser granulometer (Mastersizer 2000 with dispersing unit Hydro 2000S, Malvern, Herrenberg, Germany). To this end, a solution consisting of a wetting agent in water (mixture of 2 mL of a rinsing agent (G 530 Spulfix, BUZIL-Werk Wagner GmbH & Co. KG, Memmingen) and 0.375 mL Imbentin (polyethyleneglycol alkyl ether) in 10 L distilled water) is used as the dispersing medium. In a vial with snap-on cap (8 mL), 10-20 mg of the agglomerates is dispersed with 6 mL of the dispersing medium by shaking. Suspension is removed from the sample with a pipette and dropped into the wet cell of the laser granulometer until the laser obscuration reaches 5% (specific range: 5-30%). Measurement starts without ultrasound, and every 15 seconds, a further measurement is taken with ultrasound, in which the ultrasonic power of the dispersing unit (which can be set via the device software to values between O and 100%) is set to 5% of the maximum power in each case. A total of ten measurements is taken. When measuring, the stirrer of the dispersing unit runs at 1750 RPM. The quotient of the d_(90) value after the ten measurements and the d_(90) value of the first measurement is used (multiplied by 100 to express in percent) as a measure of agglomerate stability. The measuring method described here is also referred to hereafter as "ultrasound method."(16頁8?25行)
Agglomerate stability for the boron nitride agglomerates that are preferably used for the polymer/boron nitride compounds according to the invention and the component parts according to the invention is preferably at least 40%, more preferably at least 50% and particularly preferably at least 60%. In this case, agglomerate stability is determined using the above- described ultrasound method.(16頁27?31行)
The specific surface area (BET) of the scale-like boron nitride agglomerates that are preferably used for the polymer/boron nitride compounds according to the invention and the component parts according to the invention is preferably 20 m^(2) /g or less, more preferably 10 m^(2) /g or less. (17頁1?3行)
本発明による構成部品及びポリマー/窒化ホウ素化合物に使用される窒化ホウ素凝集体は、高凝集安定性を示す。高凝集安定性を有する窒化ホウ素凝集体は、ポリマーを窒化ホウ素充填剤と共に配合するとき、特に充填剤充填量が高いポリマーで起こる、高剪断力の影響下であっても、一次粒子又は凝集体フラグメントに部分的に分解されるにすぎない。部分分解にもかかわらず、本発明によるポリマー/窒化ホウ素化合物の有利な特性、特に異方性比は維持される。(【0075】)
例えば、超音波実験で凝集体の安定性を検証するのと同時に、レーザー粒度分布によって凝集体寸法を求めることもできるが、超音波の効果によって凝集体は経時的に崩壊する。凝集体の崩壊は、経時的な凝集体寸法の変化によって記録され、凝集体の安定性に依存して、異なる曲線が形成される。軟質の凝集体は、機械的により安定な凝集体よりも速く崩壊する。(【0076】)
凝集安定性を測定するために、200μmより小さい窒化ホウ素凝集体は壊れ、<100μmの微粉はふるい分けによって除去される。このように得られた100?200μmのふるい分級物について、レーザー粒度計(分散装置Hydro 2000Sを備えたMastersizer 2000、Malvern(Herrenberg,Germany))によって凝集安定性を求める。このため、湿潤剤を含む水溶液(10L蒸留水中にリンス液(G 530 Spulfix、BUZIL-Werk Wagner GmbH & Co.KG(Memmingen))2mLとImbentin(ポリエチレングリコールアルキルエーテル)0.375mLとを含む混合液)を分散媒体として用いる。スナップ式キャップを有するバイアル(8mL)中で、振盪することによって、10?20mgの凝集体を6mLの分散媒体に分散する。サンプルから懸濁液をピペットで抜き取って、レーザー吸収が5%(特定範囲:5?30%)に達するまでレーザー粒度計の湿式セルに滴下する。測定は超音波を用いずに開始し、15秒毎に超音波を用いて更に測定を行うが、分散装置の超音波出力(デバイスウェアによって値を0?100%に設定することができる)は、いずれの場合も最大出力の5%に設定する。測定は合計10回行う。測定時、分散装置の撹拌器は1750RPMで動かす。10回測定後のd_(90)値と最初の測定のd_(90)値との商を、凝集安定性の程度として用いる(100を掛けて%で示す)。本明細書に記載する測定方法は、以降、「超音波法」とも言う。(【0077】)
好ましくは、本発明によるポリマー/窒化ホウ素化合物及び本発明による構成部品に使用される窒化ホウ素凝集体の凝集安定性は、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、及び特に好ましくは少なくとも60%である。この場合、凝集安定性は、上記超音波法を用いて求められる。(【0078】)
好ましくは、本発明によるポリマー/窒化ホウ素化合物及び本発明による構成部品に使用される鱗様の窒化ホウ素凝集体の比表面積(BET)は、好ましくは、20m^(2)/g以下、より好ましくは、10m^(2)/g以下である。(【0079】)

(カ)In a further preferred embodiment of the component part and polymer/boron nitride compound according to the invention, substantially anisotropic scale-like boron nitride agglomerates are used as the boron nitride agglomerates. These boron nitride agglomerates are agglomerates comprising platelet- shaped hexagonal primary boron nitride particles which are agglomerated together to form scale-like boron nitride agglomerates. These boron nitride agglomerates may also be referred to as scale-like boron nitride agglomerates or boron nitride flakes. These boron nitride flakes should be distinguished from non-agglomerated platelet- shaped primary boron nitride particles, which are often referred to as "flaky boron nitride particles" in the English-language literature. The structure of the scale-like boron nitride agglomerates is built up from many individual boron nitride platelets. The platelet- shaped primary boron nitride particles in these agglomerates are not randomly oriented toward one another. The scale-like boron nitride agglomerates comprise platelet- shaped primary boron nitride particles, the platelet planes of which are aligned parallel to one another. The platelet- shaped primary boron nitride particles are preferably agglomerated together in such a way that the platelet planes of the primary boron nitride particles are aligned substantially parallel to one another. The scale-like boron nitride agglomerates have anisotropic properties since the platelet- shaped primary boron nitride particles in these agglomerates are not randomly oriented toward one another.(24頁6?22行)
本発明による構成部品及びポリマー/窒化ホウ素化合物の更に好ましい実施形態では、実質的に異方性の鱗様窒化ホウ素凝集体は、窒化ホウ素凝集体として使用される。これらの窒化ホウ素凝集体は、互いに凝集されて鱗様の窒化ホウ素凝集体を形成する、小平板状の六方晶一次窒化ホウ素粒子を含む凝集体である。これらの窒化ホウ素凝集体は、鱗様の窒化ホウ素凝集体、又は窒化ホウ素フレークとも称してよい。これらの窒化ホウ素フレークは、英文文献においてしばしば「フレーク上窒化ホウ素粒子」と称される、非凝集化小平板状一次窒化ホウ素粒子とは区別しなくてはならない。鱗様の窒化ホウ素凝集体の構造は、多くの個々の窒化ホウ素小平板から構成される。これらの凝集体中の小平板状一次窒化ホウ素粒子は、互いに対してランダムに配向されていない。鱗様の窒化ホウ素凝集体は、小平板状一次窒化ホウ素粒子を含み、この小平板面は、互いに平行に整列している。小平板状一次窒化ホウ素粒子は、好ましくは一次窒化ホウ素粒子の小平板面が互いに実質的に平行に整列するように凝集される。これら凝集体中の小平板状一次窒化ホウ素粒子は互いに対してランダムに配向されていないため、鱗様の窒化ホウ素凝集体は異方性特性を有する。(【0116】)

(キ)In the polymer/boron nitride compounds and component parts according to the invention, the anisotropic scale-like boron nitride agglomerates that are preferably used have an average agglomerate diameter (d_(50)) of < 1000 μm, more preferably < 500μm, even more preferably < 300μm and particularly preferably < 200μm. The average agglomerate diameter (d_(50)) of the anisotropic scale-like boron nitride agglomerates that are used in the polymer/boron nitride compound and the component parts according to the invention is preferably > 20μm, more preferably > 30μm, even more preferably > 50μm and particularly preferably > 100μm. The average agglomerate diameter (d_(50)) can be determined by means of laser diffraction (wet measurement, Mastersizer 2000, Malvern). The average agglomerate diameter is at least two times greater than the average particle size of the primary boron nitride particles that are used in the agglomerate production, preferably at least three times greater. The average agglomerate diameter may also be ten times or also fifty times or more greater than the average particle size of the primary boron nitride particles that are used in the agglomerate production. The average particle size of the primary particles (d_(50)) in the anisotropic scale-like boron nitride agglomerates is < 50μm, preferably < 30μm, more preferably < 15μm, even more preferably < 10μm and particularly preferably < 6μm.(26頁4?19行)
本発明によるポリマー/窒化ホウ素化合物及び構成部品では、好ましく使用される異方性の鱗様窒化ホウ素凝集体は、平均凝集体直径(d_(50))が≦1000μm、より好ましくは≦500μm、更により好ましくは≦300μm、及び特に好ましくは≦200μmである。本発明によるポリマー/窒化ホウ素化合物及び構成部品で使用される異方性の鱗様窒化ホウ素凝集体の平均凝集体直径(d_(50))は、好ましくは≧20μm、より好ましくは≧30μm、更により好ましくは≧50μm、及び特に好ましくは≧100μmである。平均凝集体直径(d_(50))は、レーザー回折(湿式測定法、Mastersizer 2000、Malvern)によって測定できる。平均凝集体直径は、凝集体生成に使用された一次窒化ホウ素粒子の平均粒径よりも、少なくとも2倍大きく、好ましくは少なくとも3倍大きい。平均凝集体直径は、凝集体生成に使用された一次窒化ホウ素粒子の平均粒径よりも、10倍、又は50倍以上大きくてもよい。異方性の鱗様窒化ホウ素凝集体中の一次粒子の平均粒径(d_(50))は、≦50μm、好ましくは≦30μm、より好ましくは≦15μm、更により好ましくは≦10μm、及び特に好ましくは≦6μmである。(【0122】)

イ 甲2(国際公開第2015/119198号)
(ア)【請求項1】
窒化ホウ素一次粒子(以下「BN一次粒子」と称する。)が凝集してなる窒化ホウ素凝集粒子(以下「BN凝集粒子」と称す。)であって、10mmφの粉末錠剤成形機で0.85ton/cm^(2)の成型圧力で成型して得られたペレット状の試料を粉末X線回折測定して得られる、BN一次粒子の(100)面と(004)面のピーク面積強度比((100)/(004))が0.25以上であり、かつ該BN凝集粒子を0.2mm深さのガラス試料板に表面が平滑になるように充填し、粉末X線回折測定して得られる、BN一次粒子の(002)面ピークから求めたBN一次粒子の平均結晶子径が375Å以上であることを特徴とするBN凝集粒子。
【請求項2】
BN凝集粒子の平均粒子径D_(50)が26μm以上である、請求項1に記載のBN凝集粒子。
【請求項3】
BN凝集粒子の比表面積が8m^(2)/g以下である、請求項1又は2に記載のBN凝集粒子。
【請求項4】
BN凝集粒子が球状である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のBN凝集粒子。
【請求項5】
BN凝集粒子がカードハウス構造を有する請求項1ないし4のいずれか1項に記載のBN凝集粒子。

(イ)本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、BN凝集粒子を作製する際の原料スラリー粘度を特定の範囲にすることによって、BN凝集粒子を構成するBN一次粒子中の平均結晶子径が大きくなることを見出した。平均結晶子径が大きくなることで一次粒子中の結晶子間の粒界が減少し、結果としてBN凝集粒子の熱伝導性を高めることに成功した。さらに驚くべきことに、このようにして作製されたBN凝集粒子は、BN凝集粒子を構成するBN一次粒子の特定の結晶面が配向するため、該BN凝集粒子を用いて成形体とした際に、従来のBN凝集粒子と比較して熱伝導性の高い成形体を作製可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。(【0016】)

(2)甲1に記載された発明
上記ア(ア)及び(イ)には、ポリマー/窒化ホウ素化合物から製造された構成部品に含まれる熱伝導性充填剤として、互いに凝集して鱗様の窒化ホウ素凝集体になっている小平板状の六方晶一次窒化ホウ素粒子を含む、窒化ホウ素凝集体が記載されている。
上記ア(ウ)には、窒化ホウ素フレークのアスペクト比が、>10であることが記載されているが、上記ア(カ)の「これらの窒化ホウ素凝集体は、互いに凝集されて鱗様の窒化ホウ素凝集体を形成する、小平板状の六方晶一次窒化ホウ素粒子を含む凝集体である。これらの窒化ホウ素凝集体は、鱗様の窒化ホウ素凝集体、又は窒化ホウ素フレークとも称してよい。」の記載によれば、窒化ホウ素フレークは、鱗様の窒化ホウ素凝集体であるから、鱗様の窒化ホウ素凝集体のアスペクト比が、>10であることが分かる。
上記ア(オ)には、窒化ホウ素凝集体において、100?200μmのふるい分級物について、湿潤剤を含む水溶液を分散媒体として用い、スナップ式キャップを有するバイアル(8mL)中で、振盪することによって、10?20mgの凝集体を6mLの分散媒体に分散した懸濁液をピペットで抜き取り、測定は超音波を用いずに開始し、15秒毎に超音波を用いて更に測定を行い、分散装置の撹拌器は1750RPMで動かし、レーザー粒度計で測定された、10回測定後のd_(90)値と最初の測定のd_(90)値との商で定義した「凝集安定性」が、好ましくは少なくとも40%であることが記載されている。
上記ア(オ)には、窒化ホウ素凝集体の比表面積(BET)が、より好ましくは、10m^(2)/g以下であることが記載されている。
上記ア(キ)には、鱗様窒化ホウ素凝集体の平均凝集体直径(d_(50))が、20μm以上1000μmであることが記載され、一次窒化ホウ素粒子の平均粒径(d_(50))が、特に好ましくは6μm以下であることが記載されている。

鱗様窒化ホウ素凝集体に関する記載をまとめると、甲1には、鱗様窒化ホウ素凝集体について、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

「互いに凝集して鱗様の窒化ホウ素凝集体になっている小平板状の六方晶一次窒化ホウ素粒子を含む、鱗様の窒化ホウ素凝集体であって、
窒化ホウ素凝集体のアスペクト比が、>10であり、
窒化ホウ素凝集体の凝集安定性が、好ましくは少なくとも40%であり、
窒化ホウ素凝集体の比表面積(BET)が、より好ましくは、10m^(2)/g以下であり、
窒化ホウ素凝集体の平均凝集体直径(d_(50))が、20μm以上1000μmであり、
一次窒化ホウ素粒子の平均粒径(d_(50))が、特に好ましくは6μm以下である、鱗様の窒化ホウ素凝集体。」

(3)対比
ア 本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「小平板状の六方晶一次窒化ホウ素粒子」は、本件発明1の「六方晶窒化ホウ素の一次粒子」に相当し、甲1発明の「鱗様の窒化ホウ素凝集体」は、本件発明1の「非球状凝集体」に相当すると共に、甲1発明の「鱗様の窒化ホウ素凝集体」は、鱗様の窒化ホウ素凝集体を含む六方晶窒化ホウ素粉末と認識できることは明らかであるから、甲1発明の「互いに凝集して鱗様の窒化ホウ素凝集体になっている小平板状の六方晶一次窒化ホウ素粒子を含む、鱗様の窒化ホウ素凝集体」は、本件発明1の「六方晶窒化ホウ素の一次粒子の非球状凝集体を含む六方晶窒化ホウ素粉末」に相当する。

イ 上記アで述べたように、甲1発明の「鱗様の窒化ホウ素凝集体」は、鱗様の窒化ホウ素凝集体を含む六方晶窒化ホウ素粉末と認識できることは明らかであるが、甲1発明の「鱗様の窒化ホウ素凝集体」の比表面積(BET)は、鱗様の窒化ホウ素凝集体を含む六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積(BET)に対応することになるから、甲1発明の「窒化ホウ素凝集体の比表面積(BET)が、より好ましくは、10m^(2)/g以下」は、本件発明1の「六方晶窒化ホウ素粉末のBET比表面積が10m^(2)/g未満」に相当する。

ウ そうすると、本件発明1と甲1発明は、「六方晶窒化ホウ素の一次粒子の非球状凝集体を含む六方晶窒化ホウ素粉末であって、
六方晶窒化ホウ素粉末のBET比表面積が10m^(2)/g未満である、六方晶窒化ホウ素粉末」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

<相違点1>
六方晶窒化ホウ素の一次粒子について、本件発明1では、一次粒子径が10μm未満であるのに対し、本件発明1では、平均粒径(d_(50))が、特に好ましくは6μm以下である点。

<相違点2>
六方晶窒化ホウ素の一次粒子について、本件発明1では、一次粒子の平均長径(L_(1))の平均厚さ(d_(1))に対する比〔L_(1)/d_(1)〕が5.0以上20以下であるのに対し、甲1発明では、「小平板状」とはされるものの、一次粒子の平均長径(L_(1))の平均厚さ(d_(1))に対する比〔L_(1)/d_(1)〕が明らかでない点。

<相違点3>
六方晶窒化ホウ素粉末について、本件発明1では、結晶子径が300Å以上500Å未満であるのに対し、甲1発明では、結晶子径が明らかでない点。

<相違点4>
六方晶窒化ホウ素粉末について、本件発明1では、50%体積累積粒径D_(50)が20μm以上50μm以下であるのに対し、甲1発明では、平均凝集体直径(d_(50))が、20μm以上1000μm以下である点。

<相違点5>
六方晶窒化ホウ素粉末について、本件発明1では、嵩密度が0.70g/cm^(3)以上であるのに対し、甲1発明では、嵩密度が明らかでない点。

<相違点6>
六方晶窒化ホウ素粉末について、本件発明1では、目開き45μmの篩を用い、前記六方晶窒化ホウ素粉末10gを乗せ減圧吸引型篩分け機にセットして、篩の下部から差圧1kPaで吸引し、180秒間篩分けした際の、篩の下及び篩の上に残った合計質量に対する、目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率が50質量%以上90質量%以下であるのに対し、甲1発明では、この点が明らかでない点。

<相違点7>
六方晶窒化ホウ素粉末について、本件発明1では、45μm以上106μm以下の粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末の粒径分布曲線において、粒径45μm以上150μm以下の範囲内に最大ピークを1つ有するのに対し、甲1発明では、この点が明らかでない点。

<相違点8>
六方晶窒化ホウ素粉末について、本件発明1では、前記六方晶窒化ホウ素粉末を、目開き106μm及び目開き45μmの篩を2段重ねで用いて、乾式振動篩装置により篩分け時間60分にて分級した45μm以上106μm以下の粒径を有する前記六方晶窒化ホウ素粉末0.06gを水50gに分散させた分散液を、50mlの容器に入れて、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で、株式会社日本精機製作所製、超音波ホモジナイザーUS-150Vを用いて、1分間超音波処理した後、マグネティックスターラーを用いて回転数400rpmの条件にて攪拌しながらレーザー回折散乱法による粒度分布の測定を行い、超音波処理後の45μm以上150μm以下の間に発生する最大ピークと、超音波処理前の45μm以上150μm以下の間に発生する最大ピークとに関する、式(1)(省略)で算出されるピーク減少率が10%以上40%未満であるのに対し、甲1発明では、凝集安定性が、好ましくは少なくとも40%である点。

(4)判断
事案に鑑み、上記相違点4、8について検討する。
ア 上記相違点4について
甲1発明の窒化ホウ素凝集体の平均凝集体直径(d_(50))は、20μm以上1000μmの広い範囲を包含しているが、対応する明細書の記載である上記ア(キ)の「好ましく使用される異方性の鱗様窒化ホウ素凝集体は、平均凝集体直径(d_(50))が≦1000μm、より好ましくは≦500μm、更により好ましくは≦300μm、及び特に好ましくは≦200μmである。・・・異方性の鱗様窒化ホウ素凝集体の平均凝集体直径(d_(50))は、好ましくは≧20μm、より好ましくは≧30μm、更により好ましくは≧50μm、及び特に好ましくは≧100μmである。」の記載によれば、甲1発明の窒化ホウ素凝集体の平均凝集体直径(d_(50))の特に好ましい範囲は、100μm以上200μm以下であることが分かり、20μm以上50μm以下である本件発明1の六方晶窒化ホウ素粉末の50%体積累積粒径D_(50)とは異なることが分かる。そうすると、相違点4に関し、甲1発明の窒化ホウ素凝集体の平均凝集体直径(d_(50))の範囲は、本件発明1の範囲を含みはするものの、特に好ましい範囲として、本件発明1とは異なる範囲を指向する甲1発明には、窒化ホウ素凝集体の平均凝集体直径(d_(50))を、甲1発明の範囲に比べれば相当狭い範囲である20μm以上50μm以下の本件発明1の範囲に特定する動機付けがあるとはいえない。また、甲2にも、窒化ホウ素凝集体の平均凝集体直径(d_(50))の範囲を、本件発明1の範囲とすることを動機付ける記載はない。
してみると、上記相違点4に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

イ 相違点8について
甲1には、相違点8に係る本件発明1のピーク減少率に関する記載はないし、また、ピーク減少率を導出するような示唆もない。
本件明細書の【0018】によれば、本件発明1において、ピーク減少率は、「hBN粉末の崩壊強度を表す指標となる」ものとされ、この範囲を「10%以上40%未満」とするのは、「ピーク減少率を40%未満とすることにより、樹脂との複合化過程において凝集体が壊れるのを防止又は抑制することができる。また、ピーク減少率を10%以上とすることにより、絶縁性が向上する。さらに、ピーク減少率を10%以上とすることにより樹脂組成物を成形してなる樹脂シートとして用いた場合には、成形性が向上し、樹脂シート内で凝集体が適度に変形することにより、フィラーであるhBN粉末の接触性が向上し、熱伝導パスが形成され高い熱伝導性を発現することができる。」とされ、六方晶窒化ホウ素粉末の崩壊強度を高めるだけでなく、絶縁性の向上、樹脂シート内で凝集体が適度に変形することによる高い熱伝導性の発現を考慮し、六方晶窒化ホウ素粉末の崩壊強度を適切な範囲に設定している。
一方、甲1発明は、上記ア(オ)の記載によれば、甲1発明の「凝集安定性」の指標を、鱗様の窒化ホウ素凝集体の凝集安定性の指標として用い、この値が、「少なくとも40%である」とされるように凝集安定性が高いことを好ましい状態としていることは理解できるものの、絶縁性の向上、樹脂シート内で凝集体が適度に変形することによる高い熱伝導性の発現を考慮し、六方晶窒化ホウ素粉末の崩壊強度を強度の上限(ピーク減少率10%)を含め適切な範囲に設定するという本件発明1の技術思想は、甲1からは読み取れない。
してみると、甲1発明に、鱗様の窒化ホウ素凝集体の凝集安定性を高める技術思想があるとしても、甲1発明には、ピーク減少率の範囲を本件発明1の範囲とする動機付けはないし、甲2にも、この点の動機付けとなるような記載はない。
そして、この相違点8の相違により、本件発明1は、甲1発明に比べ、絶縁性の向上、樹脂シート内で凝集体が適度に変形することによる高い熱伝導性を発現するといった効果を奏することが理解できる。
よって、上記相違点8に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

(5)小括
以上のとおり、少なくとも上記相違点4及び8に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲1に記載の事項及び甲2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(6)本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであるか、または、本件発明1にさらに他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2?5は、甲1発明、甲1に記載の事項及び甲2に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(7)申立理由2-1に関するまとめ
以上のとおり、本件発明1?5は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、申立理由2-1には理由がない。

6 申立理由2-2(特許法第36条第6項1号(サポート要件違反))について

本件明細書【表3】には、ピーク減少率が21?34%である実施例は、異方性が抑制され、かつ優れた熱伝導性を有し、ピーク減少率が本件発明1の範囲をはずれ、45?59%である比較例1、2、4は、特に熱伝導率が低下する結果が示されている。
また、本件明細書【0018】の「前記粒径分布曲線は、レーザー回折散乱法による粒度分布計を用いて測定され、このピーク減少率が低いほどhBN粉末の崩壊強度は高いといえ、ピーク減少率はhBN粉末の崩壊強度を表す指標となる。したがって、ピーク減少率を40%未満とすることにより、樹脂との複合化過程において凝集体が壊れるのを防止又は抑制することができる。また、ピーク減少率を10%以上とすることにより、絶縁性が向上する。さらに、ピーク減少率を10%以上とすることにより樹脂組成物を成形してなる樹脂シートとして用いた場合には、成形性が向上し、樹脂シート内で凝集体が適度に変形することにより、フィラーであるhBN粉末の接触性が向上し、熱伝導パスが形成され高い熱伝導性を発現することができる。当該観点から、hBN粉末のピーク減少率は、10%以上40%未満であり、好ましくは15%以上38%以下、より好ましくは20%以上35%以下、更に好ましくは23%以上30%以下、より更に好ましくは23%以上28%以下である。」の記載によれば、ピーク減少率の下限である10%及び上限である40%付近の値であっても、実施例の21?34%には劣るものの、ピーク減少率が10%未満及び40%以上の範囲よりは、絶縁性が向上していることや、熱伝導性が向上しているであろうことは、合理的に予測することができるといえる。一方で、異議申立人2の主張では、ピーク減少率が実施例の21%未満で10%以上の範囲、実施例の34%超で40%未満の範囲で、本件発明1の課題を解決できない程度に熱伝導率等が実際に低下するといった事情も明らかにされていない。
そうすると、異議申立人2の申立理由2-2では、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?10は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないし、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないとすることはできない。
したがって、申立理由2-2には理由がない。

7 申立理由2-3(特許法第36条第6項2号(明確性要件違反))について

本件明細書【0014】の「本発明のhBN粉末は、凝集体を構成するhBNの一次粒子が特定の範囲の粒子径であり、比〔L_(1)/d_(1)〕及びBET比表面積が特定の範囲であるため、緻密な凝集体を含み、また、特定の条件で測定した凝集体の強度が特定の範囲内であるため、強固な凝集体を含有する。そのため、樹脂との複合化過程において凝集体が崩壊することなく顆粒形状を維持することができ、樹脂組成物中におけるhBN粉末の充填率を向上させることができる。その結果、高い熱伝導性を発現することができると考えられる。」の記載によれば、六方晶窒化ホウ素の一次粒子の粒子径、比〔L_(1)/d_(1)〕が、本件発明1の範囲にあり、六方晶窒化ホウ素粉末のBET比表面積が本件発明1の範囲にあれば、六方晶窒化ホウ素粉末として、顆粒状の強固な凝集体が形成されることが理解できる。そして、顆粒状とは非球状であるから、本件明細書の記載を見れば非球状の意味として典型的には顆粒状の形状を認識することができ、本件発明1の「六方晶窒化ホウ素の一次粒子の非球状凝集体」の技術的範囲が不明確であるということはない。
そうすると、異議申立人2の申立理由2-3では、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?10は、不明確であるとすることはできない。
したがって、申立理由2-3には理由がない。

第5 むすび

上記第4で検討したとおり、本件特許1?10は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第4項第1号、同法同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由及び申立理由では、本件特許1?10を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1?10を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶窒化ホウ素の一次粒子の非球状凝集体を含む六方晶窒化ホウ素粉末であって、
前記一次粒子径が10μm未満、一次粒子の平均長径(L_(1))の平均厚さ(d_(1))に対する比〔L_(1)/d_(1)〕が5.0以上20以下、
前記六方晶窒化ホウ素粉末のBET比表面積が10m^(2)/g未満、結晶子径が300Å以上500Å未満、50%体積累積粒径D_(50)が20μm以上50μm以下、嵩密度が0.70g/cm^(3)以上であり、目開き45μmの篩を用い、前記六方晶窒化ホウ素粉末10gを乗せ減圧吸引型篩分け機にセットして、篩の下部から差圧1kPaで吸引し、180秒間篩分けした際の、篩の下及び篩の上に残った合計質量に対する、目開き45μm篩上の六方晶窒化ホウ素粉末含有率が50質量%以上90質量%以下であり、且つ、
45μm以上106μm以下の粒径に分級された前記六方晶窒化ホウ素粉末の粒径分布曲線において、粒径45μm以上150μm以下の範囲内に最大ピークを1つ有し、
前記六方晶窒化ホウ素粉末を、目開き106μm及び目開き45μmの篩を2段重ねで用いて、乾式振動篩装置により篩分け時間60分にて分級した45μm以上106μm以下の粒径を有する前記六方晶窒化ホウ素粉末0.06gを水50gに分散させた分散液を、50mlの容器に入れて、出力150W、発振周波数19.5kHzの条件で、株式会社日本精機製作所製、超音波ホモジナイザーUS-150Vを用いて、1分間超音波処理した後、マグネティックスターラーを用いて回転数400rpmの条件にて攪拌しながらレーザー回折散乱法による粒度分布の測定を行い、超音波処理後の45μm以上150μm以下の間に発生する最大ピークと、超音波処理前の45μm以上150μm以下の間に発生する最大ピークとに関する、下記式(1)で算出されるピーク減少率が10%以上40%未満である、六方晶窒化ホウ素粉末。
ピーク減少率(%)={〔(処理前の最大ピーク高さ(a))-(処理後の最大ピーク高さ(b))〕/(処理前の最大ピーク高さ(a))}×100 (1)
【請求項2】
BET比表面積が1.5m^(2)/g以上6.0m^(2)/g以下である、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
BET比表面積が1.5m^(2)/g以上5.0m^(2)/g以下である、請求項1又は2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末を20体積%以上80体積%以下含有する樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂組成物又はその樹脂組成物が硬化したものからなる樹脂シート。
【請求項6】
窒化ホウ素微粉末(A)を50質量%以上90質量%以下、及び一般式(B_(2)O_(3))・(H_(2)O)_(X)〔但し、X=0?3〕で示されるホウ素化合物(B)を10質量%以上50質量%以下含む混合粉末100質量部と、炭素換算で1.0質量部以上10質量部以下の黒鉛及び炭化ホウ素から選ばれる1種又は2種の炭素源(C)を混合する工程、混合した粉末を成形する工程、成形したものを窒素ガスを含む雰囲気下で焼成する工程、焼成したものを粉砕する工程、及び粉砕したものを分級する分級工程の順次の工程を有し、窒化ホウ素微粉末(A)の一次粒子の平均長径(L_(2))の平均厚さ(d_(2))に対する比〔L_(2)/d_(2)〕が2.0以上15以下、50%体積累積粒径D_(50)が0.20μm以上5.0μm以下、BET比表面積が5.0m^(2)/g以上30m^(2)/g以下、結晶子径が150Å以上400Å以下である、請求項1?3のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項7】
窒化ホウ素微粉末(A)の50%体積累積粒径D_(50)が0.20μm以上1.0μm以下である、請求項6に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項8】
窒化ホウ素微粉末(A)のBET比表面積が5.0m^(2)/g以上20m^(2)/g以下である、請求項6又は7に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項9】
窒化ホウ素微粉末(A)の結晶子径が200Å以上400Å以下である、請求項6?8のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項10】
窒化ホウ素微粉末(A)を50質量%以上90質量%以下、及び一般式(B_(2)O_(3))・(H_(2)O)_(X)〔但し、X=0?3〕で示されるホウ素化合物(B)を10質量%以上50質量%以下含む混合粉末100質量部と、炭素換算で2.5質量部以上8.0質量部以下の黒鉛及び炭化ホウ素から選ばれる1種又は2種の炭素源(C)を混合する工程、混合した粉末を成形する工程、成形したものを窒素ガスを含む雰囲気下で焼成する工程、焼成したものを粉砕する工程、及び粉砕したものを分級する分級工程の順次の工程を有し、
窒化ホウ素微粉末(A)の一次粒子の平均長径(L_(2))の平均厚さ(d_(2))に対する比〔L_(2)/d_(2)〕が2.0以上15以下、50%体積累積粒径D_(50)が0.20μm以上1.0μm以下、BET比表面積が5.0m^(2)/g以上20m^(2)/g以下、結晶子径が200Å以上400Å以下である、請求項6?9のいずれかに記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-08-10 
出願番号 特願2017-537747(P2017-537747)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C01B)
P 1 651・ 121- YAA (C01B)
P 1 651・ 536- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小野 久子  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 後藤 政博
原 賢一
登録日 2020-03-23 
登録番号 特許第6678999号(P6678999)
権利者 昭和電工株式会社
発明の名称 六方晶窒化ホウ素粉末、その製造方法、樹脂組成物及び樹脂シート  
代理人 特許業務法人大谷特許事務所  
代理人 特許業務法人大谷特許事務所  

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