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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01H
管理番号 1378738
異議申立番号 異議2020-700010  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-01-10 
確定日 2021-08-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6544805号発明「保護回路」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6544805号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1及び2について訂正することを認める。 特許第6544805号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6544805号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成28年10月5日に出願され、令和1年6月28日にその特許権の設定登録がされ、令和1年7月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、特許異議申立人横沢聡(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年 1月10日 :特許異議申立人による特許異議の申立て
令和2年 3月27日付け:取消理由通知書
令和2年 5月 7日 :特許権者による訂正請求書の提出
令和2年 7月30日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和2年 9月28日付け:取消理由通知書(決定の予告)(1)
令和2年12月 3日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和2年12月 4日 :特許権者による意見書の提出
令和3年 2月 5日付け:取消理由通知書(決定の予告)(2)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和2年12月3日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)及び(2)のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。
なお、令和2年12月3日の訂正請求書による訂正の請求によって、令和2年5月7日の訂正請求書による訂正の請求は、取り下げられたものとみなされる(特許法第120条の5第7項)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「二次電池が直列に接続された電池パックを過電流と過電圧から保護する電気回路であって、ヒューズエレメントと発熱抵抗体を内蔵した保護素子モジュールと、この保護素子モジュールの前記発熱抵抗体に接続された第二の抵抗体と、直列に接続された二次電池の全数分の過電圧を検出し前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に流れる電流をスイッチする検知手段とを有し、前記第二の抵抗体は前記ヒューズエレメントを溶断させる加熱に関与せずに、過電流時には前記ヒューズエレメントがジュール熱により溶断し、過電圧時には前記検知手段によって前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に電流をながすことにより、前記発熱抵抗体の発熱のみにより前記ヒューズエレメントを溶断させることを特徴とする保護回路。」
と記載されているものを、
「二次電池が直列に接続された電池パックを過電流と過電圧から保護する電気回路であって、
ヒューズエレメントと発熱抵抗体を内蔵した保護素子モジュールと、この保護素子モジュールの前記発熱抵抗体に接続された第二の抵抗体と、直列に接続された二次電池の全数分の過電圧を検出し前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に流れる電流をスイッチする検知手段とを有し、ただし前記検知手段は、温度検知部を含まず、よって前記電気回路は温度検知手段を有さないものであり、
前記第二の抵抗体は、前記保護素子モジュールとは別に前記保護素子モジュールの外部に別途設けられており、前記ヒューズエレメントを溶断させる加熱に関与せずに、
過電流時には前記ヒューズエレメントがジュール熱により溶断し、
過電圧時には前記検知手段によって前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に電流をながすことにより、前記発熱抵抗体の発熱のみにより前記ヒューズエレメントを溶断させることができ、
かつ前記電池パックに直列接続された二次電池の個数が増えても前記保護素子モジュールの内部抵抗値を変更することなく、外部に別途実装した前記第二の抵抗体の抵抗値を変更できることを特徴とする保護回路。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記第二の抵抗体は、前記保護素子モジュールとは別に前記保護素子モジュールの外部に別途設けられており、前記第二の抵抗体は、可変抵抗器または固定抵抗器からなることを特徴とする請求項1に記載の保護回路。」
と記載されているものを、
「二次電池が直列に接続された電池パックを過電流と過電圧から保護する電気回路であって、
ヒューズエレメントと発熱抵抗体を内蔵した保護素子モジュールと、この保護素子モジュールの前記発熱抵抗体に接続された第二の抵抗体と、直列に接続された二次電池の全数分の過電圧を検出し前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に流れる電流をスイッチする検知手段とを有し、
ただし前記検知手段は、温度検知部を含まず、よって前記電気回路は温度検知手段を有さないものであり、
前記第二の抵抗体は、前記保護素子モジュールとは別に前記保護素子モジュールの外部に別途設けられた可変抵抗器または固定抵抗器からなり、前記ヒューズエレメントを溶断させる加熱に関与せずに、
過電流時には前記ヒューズエレメントがジュール熱により溶断し、
過電圧時には前記検知手段によって前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に電流をながすことにより、前記発熱抵抗体の発熱のみにより前記ヒューズエレメントを溶断させることができ、
かつ前記電池パックに直列接続された二次電池の個数が増えても前記保護素子モジュールの内部抵抗値を変更することなく、外部に別途実装した前記第二の抵抗体の抵抗値を変更できることを特徴とする保護回路。」
に訂正する。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1及び2について、訂正前の請求項2は訂正前の請求項1の記載を引用するものであるから、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して記載が訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1及び2は一群の請求項であるから、訂正前の請求項1及び2に係る訂正である訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。

2 訂正の要件
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「前記第二の抵抗体は前記ヒューズエレメントを溶断させる加熱に関与せずに、過電流時には前記ヒューズエレメントがジュール熱により溶断し、過電圧時には前記検知手段によって前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に電流をながすことにより、前記発熱抵抗体の発熱のみにより前記ヒューズエレメントを溶断させる」を、
「前記第二の抵抗体は、前記保護素子モジュールとは別に前記保護素子モジュールの外部に別途設けられており、前記ヒューズエレメントを溶断させる加熱に関与せずに、
過電流時には前記ヒューズエレメントがジュール熱により溶断し、
過電圧時には前記検知手段によって前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に電流をながすことにより、前記発熱抵抗体の発熱のみにより前記ヒューズエレメントを溶断させることができ、
かつ前記電池パックに直列接続された二次電池の個数が増えても前記保護素子モジュールの内部抵抗値を変更することなく、外部に別途実装した前記第二の抵抗体の抵抗値を変更できること」とし、
第二の抵抗体が、保護素子モジュールの外部に別途設けられることを特定するとともに、直列接続された二次電池の個数が増えたときに、保護素子モジュールの内部抵抗値を変更することなく、第二の抵抗体の抵抗値を変更できることを具体的に特定して限定するものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1における「直列に接続された二次電池の全数分の過電圧を検出し前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に流れる電流をスイッチする検知手段」を有する「電気回路」について、
「ただし前記検知手段は、温度検知部を含まず、よって前記電気回路は温度検知手段を有さないものであり、」との記載を追加することで、検知手段が温度検知部を含まず、電気回路が温度検知手段を有さないものであることを具体的に特定して限定するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、上記アのとおり、訂正前の請求項1に係る発明を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ 新規事項の有無
願書に添付した明細書の段落【0007】には、「本発明の保護回路は、電池パックに直列接続された二次電池の個数が増えても保護素子モジュールの内部抵抗値を変更することなく、外部に別途実装する第二の抵抗体の抵抗値を変更することで電池パックの定格電圧や定格電流、電池パック内の電池のセル数によらず、共通の保護素子モジュールを利用できる。」と記載されている。
ここで、上記記載中にある「電池パックに直列接続された二次電池」とは、本件特許明細書全体を参酌すれば、「電池パック内において直列に接続されている二次電池」のことを意味していることは明らかである。
また、段落【0013】及び【0014】に記載の実施例1及び2、段落【0015】及び【0016】に記載の実施例3及び4には、それぞれ、直列接続された二次電池セルの個数が増えても、保護素子モジュール14の発熱抵抗体13の抵抗値を変更することなく、第二の抵抗体15の抵抗値を変更している例が示されている。
すなわち、「前記第二の抵抗体は、前記保護素子モジュールとは別に前記保護素子モジュールの外部に別途設けられて」いることや、「前記電池パックに直列接続された二次電池の個数が増えても前記保護素子モジュールの内部抵抗値を変更することなく、外部に別途実装した前記第二の抵抗体の抵抗値を変更できる」ことは、願書に添付した明細書の段落【0007】、【0013】ないし【0016】の記載に基づいて導き出せる事項である。
さらに、段落【0009】ないし【0012】及び図1に記載の保護回路10は、検知手段16が過電圧を検知するものであって温度を検知するものではなく、保護回路10の検知手段16以外の箇所においても温度検知手段を有さないものであることを把握できる。すなわち、「ただし、ただし前記検知手段は、温度検知部を含まず、よって前記電気回路は温度検知手段を有さないもので」あることは、願書に添付した明細書の段落【0009】ないし【0012】及び図1に記載されているに等しい事項である。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、訂正前の請求項2が、訂正前の請求項1の記載を引用する形式であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しない独立形式請求項へ改めるものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項2は、上記(1)アと同様に、
第二の抵抗体が、保護素子モジュールの外部に別途設けられることを特定するとともに、直列接続された二次電池の個数が増えたときに、保護素子モジュールの内部抵抗値を変更することなく、第二の抵抗体の抵抗値を変更できるものであって、
さらに、検知手段が温度検知部を含まず、電気回路が温度検知手段を有さないものであることを具体的に特定して限定するものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもある。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、上記アのとおり、訂正前の請求項2に係る発明を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

ウ 新規事項の有無
訂正事項2は、上記(1)ウと同様に、願書に添付した明細書の段落【0007】、【0013】ないし【0016】の記載、並びに、段落【0009】ないし【0012】及び図1の記載に基づいて導き出せる事項であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

3 小括
上記2のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
また、本件特許異議の申立てにおいては、訂正前のすべての請求項1及び2について特許異議の申立てがされているため、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
よって、訂正事項1及び2に係る訂正は、訂正の要件を満たしている。

そして、特許権者は、訂正後の請求項2については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位として扱われることを求めているところ、上記のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は認められるものであるから、訂正後の請求項1及び2について、請求項ごとに訂正することを認める。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
二次電池が直列に接続された電池パックを過電流と過電圧から保護する電気回路であって、
ヒューズエレメントと発熱抵抗体を内蔵した保護素子モジュールと、この保護素子モジュールの前記発熱抵抗体に接続された第二の抵抗体と、直列に接続された二次電池の全数分の過電圧を検出し前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に流れる電流をスイッチする検知手段とを有し、ただし前記検知手段は、温度検知部を含まず、よって前記電気回路は温度検知手段を有さないものであり、
前記第二の抵抗体は、前記保護素子モジュールとは別に前記保護素子モジュールの外部に別途設けられており、前記ヒューズエレメントを溶断させる加熱に関与せずに、
過電流時には前記ヒューズエレメントがジュール熱により溶断し、
過電圧時には前記検知手段によって前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に電流をながすことにより、前記発熱抵抗体の発熱のみにより前記ヒューズエレメントを溶断させることができ、
かつ前記電池パックに直列接続された二次電池の個数が増えても前記保護素子モジュールの内部抵抗値を変更することなく、外部に別途実装した前記第二の抵抗体の抵抗値を変更できることを特徴とする保護回路。
【請求項2】
二次電池が直列に接続された電池パックを過電流と過電圧から保護する電気回路であって、
ヒューズエレメントと発熱抵抗体を内蔵した保護素子モジュールと、この保護素子モジュールの前記発熱抵抗体に接続された第二の抵抗体と、直列に接続された二次電池の全数分の過電圧を検出し前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に流れる電流をスイッチする検知手段とを有し、
ただし前記検知手段は、温度検知部を含まず、よって前記電気回路は温度検知手段を有さないものであり、
前記第二の抵抗体は、前記保護素子モジュールとは別に前記保護素子モジュールの外部に別途設けられた可変抵抗器または固定抵抗器からなり、前記ヒューズエレメントを溶断させる加熱に関与せずに、
過電流時には前記ヒューズエレメントがジュール熱により溶断し、
過電圧時には前記検知手段によって前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に電流をながすことにより、前記発熱抵抗体の発熱のみにより前記ヒューズエレメントを溶断させることができ、
かつ前記電池パックに直列接続された二次電池の個数が増えても前記保護素子モジュールの内部抵抗値を変更することなく、外部に別途実装した前記第二の抵抗体の抵抗値を変更できることを特徴とする保護回路。」

第4 取消理由通知(決定の予告)(2)に記載した取消理由について
当審が令和3年2月5日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
(進歩性)本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献4に記載された発明並びに引用文献5及び引用文献2に記載の技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

<引用文献>
2.特開2016-4783号公報
4.特開2000-340267号公報
5.定電流回路 いろいろ、[online]、2013年3月5日(インターネット参照)

なお、引用文献2、4及び5は、それぞれ、特許異議申立書における甲第2ないし4号証である。

第5 当審の判断
1 引用文献4に記載の事項
(1)引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様。)。
「【請求項1】 電池(1)が異常な状態になったときにオフからオンに切り換えられるスイッチング素子(3)と、このスイッチング素子(3)と電池(1)に直列に接続されて、スイッチング素子(3)がオンになると加熱電流が流れる加熱抵抗(4)と、加熱電流が流れる加熱抵抗(4)に加熱される位置に配設されると共に、電池(1)と直列に接続されて、加熱電流が流れて高温になる加熱抵抗(4)に熱溶断されて電池(1)に流れる電流を遮断するヒューズ(5)とを備えるパック電池において、
スイッチング素子(3)と電池(1)との間に直列に定電流回路(7)を接続しており、スイッチング素子(3)がオンに切り換えられた状態で、加熱抵抗(4)に流れる加熱電流を定電流回路(7)で制御して加熱抵抗(4)がヒューズ(5)を加熱して溶断するようにしてなることを特徴とするパック電池。」
「【請求項2】 互いに直列に接続されてなる複数の電池(1)を内蔵する請求項1に記載されるパック電池。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電池が異常な状態になると、電池と直列に接続しているヒューズを溶断して電流を遮断するパック電池に関する。」
「【0005】本発明は、このような欠点を解決することを目的に開発されたものである。本発明の重要な目的は、パック電池に内蔵する電池電圧が大幅に変動しても、加熱抵抗でヒューズを確実に溶断し、さらに、加熱抵抗の損傷を確実に防止できるパック電池を提供することにある。」
「【0011】図2の回路図に示すパック電池は、電池1の異常を検出する制御回路6と、この制御回路6の出力信号でオンオフに切り換えられるスイッチング素子3と、スイッチング素子3がオンの時に流れる電流を制御する定電流回路7と、スイッチング素子3がオンになるときに加熱電流が流れてヒューズ5を加熱する加熱抵抗4と、この加熱抵抗4に加熱、溶断されるヒューズ5とを備える。」
「【0012】制御回路6は、電池1が異常な状態になることを検出し、電池1が異常な状態になると、スイッチング素子3をオンにする信号を出力する。制御回路6が検出する電池1の異常な状態とは、たとえば、電池1に過電流が流れる状態である。ただ、本発明は、電池の異常な状態を、電池に過電流が流れる状態に特定しない。電池の異常な状態とは、過電流のみでなく、たとえば、電池が過充電された状態、あるいは電池温度が異常な温度に上昇した状態等、パック電池を安全または正常に使用できない状態を意味するものとする。複数の電池1を内蔵するパック電池は、各々の電池1の異常な状態を検出し、いずれかの電池1が異常な状態で使用されると、スイッチング素子3をオンにする信号を出力する。制御回路6は、全ての電池1が正常な状態にあるとき、スイッチング素子3をオンにする信号を出力せずに、スイッチング素子3をオフに保持する。」
「【0014】定電流回路7は、スイッチング素子3がオンになったときに、電池電圧が変動しても、加熱抵抗4に流れる加熱電流を一定の範囲に制御する。定電流回路7が制御して加熱抵抗4に流す加熱電流は、加熱抵抗4が加熱されて、ヒューズ5を熱溶断できる電流に設定される。」
また、図2において、ヒューズ5と加熱抵抗4は破線で囲まれており、温度ヒューズとそれを加熱する抵抗器とが破線で囲まれて表されたものがパッケージ化されたものであることは棋界の技術常識といえ(引用文献1の【図1】、【図2a】を参照。)、図2のヒューズ5と加熱抵抗4とはパッケージ化されていると認められる。

(2)引用文献4に記載の発明
これらの記載を総合して整理すると、引用文献4には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
[引用発明]
「複数の電池1が直列に接続されたパック電池を過電流、過充電、あるいは異常な温度に上昇した状態等から保護する回路であって、
パッケージ化されたヒューズ5及び加熱抵抗4と、この加熱抵抗4に接続された定電流回路7と、直列に接続された複数の電池1の各々の異常な状態を検出し、加熱抵抗4及び定電流回路7に電流を流すスイッチング素子3をオンする制御回路6とを有し、
前記定電流回路7は、パッケージ化されたヒューズ5及び加熱抵抗4とは別にパッケージ化されたヒューズ5及び加熱抵抗4の外部に別途設けられており、
過電流、過充電、あるいは異常な温度に上昇した状態となったときにスイッチング素子3をオンにし、加熱電流が加熱抵抗4及び定電流回路7に流れて、加熱抵抗4の加熱によりヒューズ5が加熱、溶断されるパック電池の回路。」

2 引用文献5に記載の事項
引用文献5には、定電流回路の一例として、抵抗Rのみが用いられた抵抗式の回路図が記載されている。

3 引用文献2に記載の事項
引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0037】
まず、前記メイン回路に過電流が印加される場合、前記ヒュージブルエレメント10は、その過電流による熱によって溶断され、回路及び回路素子を保護する。」
「【0060】
図1と図5を共に参照すると、前記ヒュージブルエレメント10は、前記メイン回路に瞬間的にサージ電流(surge current)が印加されたり、過電流が持続的に印加されると、自体発熱によって溶断される。」

4 本件発明1及び2について
(1)本件発明1
ア 対比
引用発明の「電池1」は、本件発明1の「二次電池」に相当するから、引用発明の「複数の電池1が直列に接続されたパック電池」は、本件発明1の「二次電池が直列に接続された電池パック」に相当する。
引用発明の「過充電」とは、満充電を超えて電荷を蓄えることを技術的に意味するものであるから、本件発明1の「過電圧」に相当する。したがって、引用発明の「過電流、過充電から保護する回路」は、本件発明1の「過電流と過電圧から保護する電気回路」に相当する。
引用発明の「ヒューズ5」及び「加熱抵抗4」は、それぞれ本件発明1の「ヒューズエレメント」及び「発熱抵抗体」に相当するから、引用発明の「パッケージ化されたヒューズ5及び加熱抵抗4」は、本件発明1の「ヒューズエレメントと発熱抵抗体を内蔵した保護素子モジュール」に相当する。
引用発明の「スイッチング素子3」及び「制御回路6」は、電池1の過充電すなわち過電圧な状態になることを検出し、スイッチング素子3をオンにするものであるから、本件発明1の「検知手段」に相当する。また、引用発明の「直列に接続された複数の電池1の各々の異常な状態を検出し、」は、本件発明1の「直列に接続された二次電池の全数分の過電圧を検出し」との関係において、「直列に接続された二次電池の異常を検出し」との限りにおいて共通する。
引用発明の「定電流回路7」は、本件発明1の「第二の抵抗体」との関係において、加熱抵抗4に接続され、電池1が異常な状態になることを検出した際にスイッチング素子3により電流が流れる「回路素子」である限りにおいて共通する。
引用発明の「過電流、過充電、あるいは異常な温度に上昇した状態となったときにスイッチング素子3をオンにし、加熱電流が加熱抵抗4及び定電流回路7に流れて、加熱抵抗4の加熱によりヒューズ5が加熱、溶断される」は、本件発明1の「過電圧時には前記検知手段によって前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に電流をながすことにより、前記発熱抵抗体の発熱のみにより前記ヒューズエレメントを溶断させる」との関係において、「過電圧時には、前記検知手段によって前記発熱抵抗体および前記回路素子に電流を流すことにより、前記発熱抵抗体の発熱のみにより前記ヒューズエレメントを溶断させる」限りにおいて共通する。
引用発明の「パック電池の回路」は、本件発明1の「保護回路」に相当する。

そうすると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「二次電池が直列に接続された電池パックを過電流と過電圧から保護する電気回路であって、
ヒューズエレメントと発熱抵抗体を内蔵した保護素子モジュールと、この保護素子モジュールの前記発熱抵抗体に接続された回路素子と、直列に接続された二次電池の異常を検出し前記発熱抵抗体および前記回路素子に流れる電流をスイッチする検知手段とを有し、
前記回路素子は、前記保護素子モジュールとは別に前記保護素子モジュールの外部に別途設けられており、
過電圧時には前記検知手段によって前記発熱抵抗体および前記回路素子に電流をながすことにより、前記発熱抵抗体の発熱のみにより前記ヒューズエレメントを溶断させることができる保護回路。」

<相違点1>
本件発明1は、「二次電池の全数分の過電圧を検出」するものであるのに対し、引用発明は、直列に接続された複数の電池1の各々の異常な状態を検出するものである点。

<相違点2>
本件発明1は、検知手段が、「温度検知部を含まず、よって前記電気回路は温度検知手段を有さないもの」であるのに対し、引用発明が検知する電池の異常な状態には、過電流、過充電に加えて異常な温度に上昇した状態を含むものである点。

<相違点3>
本件発明1は、保護素子モジュールの発熱抵抗体に接続されるものが「第二の抵抗体」であるのに対し、引用発明は定電流回路である点。

<相違点4>
本件発明1は、第二の抵抗体が「ヒューズエレメントを溶断させる加熱に関与せず」となっているのに対し、引用発明は、定電流回路がヒューズ5を溶断させる加熱に関与するものか明確でない点。

<相違点5>
本件発明1は、「過電流時にはヒューズエレメントがジュール熱により溶断」するものであるのに対し、引用発明は、過電流によりヒューズ5が溶断するように機能することが特定されていない点。

<相違点6>
本件発明1は、「電池パックに直列接続された二次電池の個数が増えても保護素子モジュールの内部抵抗値を変更することなく、外部に別途実装した第二の抵抗体の抵抗値を変更できる」ものであるのに対し、引用発明の定電流回路が変更可能か不明である点。

イ 判断
(ア)相違点1について
引用発明は、複数の電池1の各々の異常な状態を検出するものであり、異常な状態には、過充電すなわち過電圧も含まれる。そして、電池1を4直列した図2の例では、その全ての電池1の過電圧を検出するものであり、4直列の電池1の両端でみると、全数分の過電圧を検出することに相当するといえる。したがって、相違点1は、実質的な相違点とは言えない。

(イ)相違点2について
引用文献4の段落【0012】には、「制御回路6が検出する電池1の異常な状態とは、たとえば、電池1に過電流が流れる状態である。ただ、本発明は、電池の異常な状態を、電池に過電流が流れる状態に特定しない。電池の異常な状態とは、過電流のみでなく、たとえば、電池が過充電された状態、あるいは電池温度が異常な温度に上昇した状態等、パック電池を安全または正常に使用できない状態を意味するものとする。」と記載されている。この記載を考慮すると、パック電池を安全または正常に使用できない状態の例として過電流・過充電・温度異常が挙げられているものであるが、どのような電池の異常を検出するかは、当業者が適宜に設定をする程度の事項であることが把握できる。そうすると、引用発明において、温度検知手段を含まないものとすることは、当業者にとって単なる選択的事項にすぎないものといえる。

(ウ)相違点3及び相違点6について
引用発明において、定電流回路7は、パッケージ化されたヒューズ5及び加熱抵抗4とは別個に交換可能と把握される。
また、引用文献5には、様々な定電流回路の例が挙げられ、その中に抵抗式のものが定電流回路の例として記載されているものの、引用文献5には、抵抗Rのみからなる抵抗式の回路である定電流回路の例は、電源電圧が高く電圧が定電圧化されている場合に用いられるものであること(以下、「引用文献5に記載の技術的事項」という。)が記載されている。
ここで、引用文献4の段落【0003】には、「この構造のパック電池は、スイッチング素子3がオンになったときに、加熱抵抗4に流れる加熱電流が大幅に変動する欠点がある。それは、スイッチング素子3がオンになったときの、電池電圧が大幅に変動するからである。たとえば、図1に示すように、電池1を4直列に接続しているパック電池は、3つの電池1がショートして、ひとつの電池1が過充電になったとき、1本の電池1で加熱抵抗4を加熱してヒューズ5を溶断する必要がある。また、4つの電池1の全てが過充電されて、加熱抵抗4を加熱するときには、4本の電池電圧が加熱抵抗4に過大な加熱電流を流すことになる。すなわち、この構造のパック電池は、1本の電池1で加熱抵抗4を加熱してヒューズ5を溶断できるように設計する必要がある。このため、複数の電池電圧が加熱抵抗4に加えられて加熱電流が流れると、加熱電流は極めて大きくなる。」と記載されている。当該記載から、引用文献4に記載のパック電池は、電源電圧が大きく変動する前提に用いられるものであることが把握される。
また、引用文献4の段落【0014】には、「定電流回路7は、スイッチング素子3がオンになったときに、電池電圧が変動しても、加熱抵抗4に流れる加熱電流を一定の範囲に制御する。」と記載されている。
これら記載を総合すると、電池電圧の変動は、標準の4分の1にまで低下することが引用文献4において想定されており、そのような場合でも加熱抵抗4に流れる加熱電流を一定の範囲に制御するような定電流回路7であることが求められているといえる。
そうすると、電池電圧が大きく変動することを前提として定電流回路7を採用している引用発明に対して、引用文献5に記載の技術的事項を適用し、抵抗式のものとすることは、阻害要因があるといえ、当業者にとって容易になし得たものということはできない。
そして、引用発明の定電流回路7を抵抗式のものとすることはできないので、電池1の電圧に応じて抵抗値を変更する構成には至らない。

(エ)相違点4について
引用文献4の段落【0014】には、「定電流回路7が制御して加熱抵抗4に流す加熱電流は、加熱抵抗4が加熱されて、ヒューズ5を熱溶断できる電流に設定される。」と記載されているから、引用発明は、加熱抵抗4に流れる加熱電流によりヒューズ5を溶断するものである。引用発明の定電流回路7は、図2からパッケージ化されたヒューズ5と加熱抵抗4に対し外部に別途設けられるものであるから、該定電流回路7をヒューズ5に対し熱の影響がない程度の位置に配置することは、当業者が適宜に行い得る程度の事項といえる。

(オ)相違点5について
引用文献2には、複合保護素子のメイン回路上に接続されたヒュージブルエレメント10が、過電流により溶断されることで回路を保護する技術的事項が記載されている。引用発明と引用文献2に記載の技術的事項は、ともにバッテリー回路の保護素子である点で技術分野が共通するから、引用発明において、過電流時にヒューズ5を過電流の熱により溶断するものとすることは、当業者が容易に想到し得たものといえる。

ウ 小括
以上によれば、本件発明1は、引用発明、ならびに、引用文献5及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2
本件発明2は、第二の抵抗体が、「可変抵抗器または固定抵抗器」からなる点が特定されていることを除いて、本件発明1と同等の技術的特徴を備えるものである。
すなわち、本件発明2と引用発明とは、上記(1)アで挙げた一致点及び相違点1、2、4ないし6と同様の一致点及び相違点を有するとともに、次の相違点3’を有するものである。

<相違点3’>
本件発明2は、保護素子モジュールの発熱抵抗体に接続されるものが可変抵抗器または固定抵抗器からなる第二の抵抗体であるのに対し、引用発明は定電流回路である点。

上記相違点3’について検討すると、相違点3’は相違点3を限定した構成といえる。そして、相違点3について上記(1)イ(ウ)で検討したとおりであるので、さらに限定した相違点3’についても同様の理由により、引用発明及び引用文献5に記載の技術的事項から当業者が容易になし得たものとはいえない。

したがって、本件発明2は、引用発明、引用文献5に記載の技術的事項、および、引用文献2に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

第6 取消理由通知(決定の予告)(1)及び取消理由通知に記載した取消理由並びに取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由の概要
当審が令和2年9月28日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)(1)及び令和2年3月27日付で特許権者に通知した取消理由並びに取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

(新規性)本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明であるから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
(進歩性)本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(明確性要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

<引用文献>
1.特開2011-36014号公報
2.特開2016-4783号公報
3.特開2000-306477号公報

なお、引用文献1?2は、特許異議申立書における甲第1?2号証である。

2 当審の判断
(1)新規性進歩性について
ア 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、その請求項1、7、段落【0036】、【0040】、【0045】、【0046】、【0048】、【0050】、【0052】、【0068】、【0076】及び図1の記載からみて、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「複数の二次電池14が直列接続された組電池を過電圧から保護する電気回路であって、
温度ヒューズF1,F2とヒータRhを内蔵したヒータ付き温度ヒューズFと、このヒータ付き温度ヒューズFのヒータRhに接続された抵抗Rと、直列接続された二次電池14の全数分の過電圧を検出する電池電圧検出部18と、ヒータRhおよび抵抗Rに流れる電流をスイッチするヒータ用スイッチング素子SW3とを有し、
抵抗Rは、ヒータ付き温度ヒューズFとは別にヒータ付き温度ヒューズFの外部に別途設けられており、温度ヒューズF1,F2を溶断させる加熱に関与せずに、過電圧時にはヒータ用スイッチング素子SW3によってヒータRhおよび抵抗Rに電流をながすことにより、ヒータRhの発熱のみにより温度ヒューズF1,F2を溶断させる、保護回路2。」

イ 本件発明1について
本件発明1と引用発明1とを対比すると、本件発明1は「ただし前記検知手段は、温度検知部を含まず、よって前記電気回路は温度検知手段を有さないものであり」と特定されているのに対して、引用発明1は、温度検知部を含まないとは特定されていない点で相違する。
上記相違点について検討すると、引用文献1の段落【0056】、【0066】、【0076】には、電池温度検出部19によって検出された二次電池14の温度が温度判定値ts以上になるとヒータ制御部214によりヒータRhを発熱させると記載されており、また、段落【0057】、【0068】には、温度検出部21によって検出された温度ヒューズF1,F2の温度tが高いほど二次電池14の電圧異常を判定する閾値電圧Vthを低下すると記載されており、ヒータRhの溶断には温度検知も含むものと解される。
そうすると、引用発明1を、上記相違点に係る本件発明1の構成とすることは、引用文献1に記載も示唆もされていないといえる。
そして、引用文献2及び3は温度ヒューズに関する文献であり、上記相違点に係る検知手段の構成を示唆するものではない。
よって、本件発明1は、引用文献1に記載された発明ではないし、引用発明1並びに引用文献2及び3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明2について
本件発明2は、第二の抵抗体が、「可変抵抗器または固定抵抗器」からなる点が特定されていることを除いて、本件発明1と同等の技術的特徴を備えるものである。
そうすると、本件発明2と引用発明1とを対比すると、少なくとも、上記イで挙げた相違点と同様の点で相違するといえ、上記イで検討したと同様の理由により、本件発明2は、引用文献1に記載された発明ではないし、引用発明1並びに引用文献2及び3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)記載不備について
訂正前の請求項1及び2には、電池パックに直列接続された二次電池の個数が増えたときに、保護素子モジュールの内部抵抗値を変更することなく、第二の抵抗体の抵抗値を変更することは何ら特定されていないため、取消理由において、本件特許の明細書に記載された課題を解決するための手段が、請求項1及び2の記載に反映されているとは認められないとし、また、特許異議申立人は特許異議申立書において明確ではないと主張している。
しかしながら、訂正により、請求項1及び2には「前記電池パックに直列接続された二次電池の個数が増えても前記保護素子モジュールの内部抵抗値を変更することなく、外部に別途実装した前記第二の抵抗体の抵抗値を変更できる」との事項が追加された。
したがって、記載不備に関する取消理由は理由がないといえる。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知、取消理由通知(決定の予告)(1)及び(2)に記載した取消理由、並びに、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池が直列に接続された電池パックを過電流と過電圧から保護する電気回路であって、ヒューズエレメントと発熱抵抗体を内蔵した保護素子モジュールと、この保護素子モジュールの前記発熱抵抗体に接続された第二の抵抗体と、直列に接続された二次電池の全数分の過電圧を検出し前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に流れる電流をスイッチする検知手段とを有し、ただし前記検知手段は、温度検知部を含まず、よって前記電気回路は温度検知手段を有さないものであり、
前記第二の抵抗体は、前記保護素子モジュールとは別に前記保護素子モジュールの外部に別途設けられており、前記ヒューズエレメントを溶断させる加熱に関与せずに、
過電流時には前記ヒューズエレメントがジュール熱により溶断し、
過電圧時には前記検知手段によって前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に電流をながすことにより、前記発熱抵抗体の発熱のみにより前記ヒューズエレメントを溶断させることができ、
かつ前記電池パックに直列接続された二次電池の個数が増えても前記保護素子モジュールの内部抵抗値を変更することなく、外部に別途実装した前記第二の抵抗体の抵抗値を変更できることを特徴とする保護回路。
【請求項2】
二次電池が直列に接続された電池パックを過電流と過電圧から保護する電気回路であって、ヒューズエレメントと発熱抵抗体を内蔵した保護素子モジュールと、この保護素子モジュールの前記発熱抵抗体に接続された第二の抵抗体と、直列に接続された二次電池の全数分の過電圧を検出し前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に流れる電流をスイッチする検知手段とを有し、
ただし前記検知手段は、温度検知部を含まず、よって前記電気回路は温度検知手段を有さないものであり、
前記第二の抵抗体は、前記保護素子モジュールとは別に前記保護素子モジュールの外部に別途設けられた可変抵抗器または固定抵抗器からなり、前記ヒューズエレメントを溶断させる加熱に関与せずに、
過電流時には前記ヒューズエレメントがジュール熱により溶断し、
過電圧時には前記検知手段によって前記発熱抵抗体および前記第二の抵抗体に電流をながすことにより、前記発熱抵抗体の発熱のみにより前記ヒューズエレメントを溶断させることができ、
かつ前記電池パックに直列接続された二次電池の個数が増えても前記保護素子モジュールの内部抵抗値を変更することなく、外部に別途実装した前記第二の抵抗体の抵抗値を変更できることを特徴とする保護回路。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-08-04 
出願番号 特願2016-196823(P2016-196823)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01H)
P 1 651・ 121- YAA (H01H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 勝久  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 杉山 健一
内田 博之
登録日 2019-06-28 
登録番号 特許第6544805号(P6544805)
権利者 ショット日本株式会社
発明の名称 保護回路  

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