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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A23B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23B
管理番号 1378741
異議申立番号 異議2021-700034  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-14 
確定日 2021-09-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6722363号発明「パック入り焼成魚肉フレークとその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6722363号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6722363号の請求項1、3ないし5に係る特許を維持する。 特許第6722363号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6722363号の請求項1?5に係る特許についての出願は、2019年1月15日(優先権主張 2018年1月15日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、令和2年6月23日にその特許権の設定登録がされ、同年7月15日にその特許公報が発行され、その後、令和3年1月14日に佐藤 武史(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

令和3年 3月26日付け 取消理由通知
同年 5月19日 意見書・訂正請求書の提出
同年 6月 4日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 7月 5日 意見書の提出(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
令和3年5月19日付け訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求めるものである。

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「過熱水蒸気が吹き出す空間内に対象魚肉フレークを存在させることによって行われる」との記載を、「過熱水蒸気が吹き出す空間内に対象魚肉フレークを存在させることによって行われ、前記所定時間が3分であり、前記所定温度が80℃である」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の「請求項1又は2」との記載を、「請求項1」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4の「請求項1?3のいずれかに」との記載を、「請求項1又は3」と訂正する。

2 本件訂正の適否
(1)一群の請求項について
本件訂正は、訂正前の請求項1?5についてのものであるところ、訂正前の請求項2?5は請求項1を引用するものであり、訂正前の請求項1?5は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
そして、本件訂正の請求は、訂正前の請求項1?5についてされているから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項1に記載された「所定時間」及び「所定温度」について、それぞれ、「3分」及び「80℃」であることをさらに具体的に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

新規事項の追加の有無
本件訂正前の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の特許請求の範囲の請求項2には、「前記所定時間が3分であり、前記所定温度が80℃である請求項1記載のパック入り焼成魚肉フレークの製造方法。」との記載があるから、訂正事項1による訂正は、新たな技術的事項の導入ではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるところ、そのカテゴリー変更もないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2による訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

新規事項の追加の有無及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項2による訂正は、請求項2を削除するに過ぎないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3による訂正は、本件訂正前の請求項3において引用する請求項が請求項1及び2であったのを、請求項1のみとし、引用する請求項を削減するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

新規事項の追加の有無及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項3による訂正は、請求項3において引用する請求項を削減するに過ぎないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4による訂正は、本件訂正前の請求項4において引用する請求項が請求項1?3であったのを、請求項1及び3とし、引用する請求項を削減するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

新規事項の追加の有無及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項4による訂正は、請求項4において引用する請求項を削減するに過ぎないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1、3?5に係る発明は、令和3年5月19日付けの訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1、3?5に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」などと、また、これらを合わせて「本件発明」ということがある。)である。

「【請求項1】
焼成された魚肉のフレークを所定時間以上、所定温度以上になるように加熱して加熱殺菌する工程と、加熱殺菌された魚肉フレークを前記所定温度以上に維持したままパックに充填する工程と、前記パックを密封する工程とを含み、前記加熱殺菌する工程が、過熱水蒸気が吹き出す空間内に対象魚肉フレークを存在させることによって行われ、前記所定時間が3分であり、前記所定温度が80℃であるパック入り焼成魚肉フレークの製造方法。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記加熱殺菌工程の前後で、対象魚肉フレークの質量変化が+4質量%以下に抑制されている請求項1記載のパック入り焼成魚肉フレークの製造方法。
【請求項4】
前記空間内に吹き出す過熱水蒸気の温度が200℃?280℃である請求項1又は3記載のパック入り焼成魚肉フレークの製造方法。
【請求項5】
前記空間内に吹き出す過熱水蒸気の量が70kg/h?170kg/h(ただし、過熱水蒸気の温度が200℃及び280℃のときには過熱水蒸気の量70kg/hの場合を除く)である請求項4記載のパック入り焼成魚肉フレークの製造方法。」

第4 当審が通知した令和3年3月26日付け取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由の概要

1 特許異議申立人が申し立てた理由の概要
[申立理由1-1]訂正前の本件の請求項1、2、4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2、4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

[申立理由2-1]訂正前の本件の請求項1?5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

[申立理由1-2]訂正前の本件の請求項1、4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第5号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

[申立理由2-2]訂正前の本件の請求項1?5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。



甲第1号証:特開2003-334047号公報(以下「甲1」という。下記甲各号証についても同様。)
甲第2号証:特開2017-136024号公報
甲第3号証:特開平6-197739号公報
甲第4号証:特開2016-119980号公報
甲第5号証:特開2013-74880号公報
甲第6号証:特開平1-304868号公報
甲第7号証:国際公開第2009/150756号
甲第8号証:特開2012-213355号公報
甲第9号証:食品と開発、(2017)、Vol.52、No.1、pp.46?47
甲第10号証:特開2002-153242号公報
甲第11号証:農業食料工学会誌、(2016)、78(3)、pp.204?209及びJ-STAGEの検索ページ、[ONLINE]、URL;https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jsamfe/78/3/_contents/-char/ja
甲第12号証:日本食品科学工学会誌、(2006)、Vol.53、No.7、pp.373?379及びJ-STAGEの検索ページ、[ONLINE]、URL;https://www.jstage.jst.go.jp/browse/nskkk/53/7/_contents/-char/ja

[申立理由3]訂正前の本件の請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

[申立理由3]の具体的な理由の概要は次のとおりである。
(3-1)本件特許請求の範囲には、焼成された魚肉のフレークの製造工程が手ほぐしであることは何ら規定されていないから、本件明細書に記載の特許文献1に記載の「魚肉が調味料などとともに混練され、適宜の大きさに切断されたもの」、同特許文献2に記載の「サイレントカッターによって魚肉が一様に切断されたもの」、同特許文献3に記載の「撹拌機でフレーク状にした場合」はいずれも本件特許発明1?5に含まれるが、その場合「手ほぐしして得られる手作りの魚肉フレークとほぼ変わらぬ食感、食味、外観形状を有し、」という本件明細書に記載の発明の課題を解決できないことは本件明細書の段落【0003】?【0005】の記載から明らかであり、本件請求項1?5の記載は、発明の課題を解決できないものを包含している。

(3-2)所定温度が80℃以外、所定時間が3分以外のどのような温度、時間であっても本件特許発明1の魚肉フレーク製品が「魚市場に流通させることができる」とは当業者は理解できないから、本件請求項1、3?5は、発明の課題を解決できないものを包含している。

(3-3)当業者は過熱水蒸気による加熱殺菌工程の前後の質量比率が質量比で+5%以上となる場合に、「一般家庭で魚を焼成し、手ほぐしして得られる手作りの魚肉フレークとほぼ変わらぬ食感、食味、外観形状を有」するとは理解できないから、本件請求項1、2、4及び5は、発明の課題を解決できないものを包含している。

(3-4)過熱水蒸気の温度が150℃の場合には、仮に80℃以上、3分以上の品温が得られても、「一般家庭で魚を焼成し、手ほぐしして得られる手作りの魚肉フレークとほぼ変わらぬ食感、食味、外観形状を有し、しかも、魚肉フレーク製品として市場に流通させることができる焼成魚肉フレーク」が得られないことが明らかであるから、本件請求項1?3及び5は、発明の課題を解決できないものを包含している。

(3-5)本件明細書の【0023】によれば、80℃以上、3分以上の条件を満たすことで、製品として市場に流通させることができるレベルにまで一般生菌数を低減させることができると解される。そうすると、過熱水蒸気の温度が200?280℃であっても、過熱水蒸気量が70kg/hを大きく超えない場合、本件特許発明の「一般家庭で魚を焼成し、手ほぐしして得られる手作りの魚肉フレークとほぼ変わらぬ食感、食味、外観形状を有し、しかも、魚肉フレーク製品として市場に流通させることができる焼成魚肉フレークとその製造方法を提供する」という課題を解決できない場合があると解されるから、本件請求項1?5の記載は、発明の課題を解決できないものを包含している。

[申立理由4]訂正前の本件の請求項1?5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合しない。
よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

[申立理由4]の具体的な理由の概要は上記[申立理由3]の(3-1)?(3-5)と同様である。

[申立理由5]訂正前の本件の請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

[申立理由5]の具体的な理由の概要は次のとおりである。
(5-1)訂正前の本件請求項1において、「焼成された魚肉のフレークを所定時間以上、所定温度以上になるように加熱し」、「所定温度以上に維持したままパックに充填する」と記載されているが、「所定時間」及び「所定温度」が記載されていないことから、発明の範囲が不明確である。
したがって、本件請求項1及びそれを引用する請求項3?5の記載は不明確である。

(5-2)訂正前の本件請求項1において「焼成された魚肉のフレーク」における「焼成された」の説明が一切存在しない。また、魚肉フレークの技術分野において、「焼成」の語が一般的ともいえないことから、その範囲が不明確となっている。例えば、フレークを過熱水蒸気で加熱して焼成し、引き続いて再度過熱水蒸気で殺菌する場合が本件発明に含まれるのかが不明である。
したがって、本願請求項1及びそれを引用する請求項2?5の記載は不明確である。

2 当審が通知した令和3年3月26日付け取消理由の概要
[理由1]訂正前の請求項1、3?5に係る発明の特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合しない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

具体的な理由として、以下の指摘がされている。
発明の詳細な説明の記載からは、所定時間及び所定温度が3分及び80℃の条件を満たさない場合についてまで、「一般家庭で魚を焼成し、手ほぐしして得られる手作りの魚肉フレークとほぼ変わらぬ食感、食味、外観形状を有し、しかも、魚肉フレーク製品として市場に流通させることができる焼成魚肉フレーク」とすることができることを、出願時の技術常識を考慮しても、当業者が理解できるとはいえない。
してみると、訂正前の請求項1に係る発明について、当業者が訂正前の請求項1に係る発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるとはいえない。

訂正前の請求項1に係る発明について述べたのと同様の理由により、訂正前の請求項3?5に係る発明は、当業者がこれら発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるとはいえない。

この理由1は、[申立理由3]の(3-2)と同旨である。

第5 当審の判断
当審は、本件発明1、3?5に係る特許は、当審が通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由により取り消すべきものではないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 当審が通知した取消理由について
(1)本件明細書等の記載
願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件明細書等」という。)には、以下の記載がある。

a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、パック入りの焼成魚肉フレークとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
・・・魚肉フレークは、・・・大量に製造しようとすると、・・・手間が掛かるので、・・・大量に効率良く製造するのは容易ではない。
【0003】
このため、従来・・・二軸エクストルーダーに供給し、混練しながらダイから押し出し、適宜切断することによって魚肉フレークを製造する方法が開示されている。・・・しかしながら、この方法で得られる魚肉フレークは、魚肉が調味料などとともに混練され、適宜の大きさに切断されたものであるので、焼成した魚の身を手ほぐしして得られる魚肉フレークとは食感や外観形状が異なり、手作り感に欠けるという欠点がある。
【0004】
・・・サイレントカッターで破砕することによって魚肉フレークを得る方法が開示されている。・・・しかし、サイレントカッターによって魚肉が一様に切断され、かつ魚肉の繊維も切断されてしまうため、手ほぐしした魚肉フレークに比べると、外観形状や食感が異なるものとなってしまうのは避けられない。
【0005】
一方、特許文献3には、・・・攪拌機又は手ほぐしでフレーク状にするフレーク状魚肉食品の製造方法が開示されている。この方法において、効率を犠牲にして手ほぐしでフレーク状に加工する場合には、一般家庭で作られる焼成魚肉のフレークとほぼ変わらぬ外観形状及び食感を保持した魚肉フレーク製品を製造することができると考えられる。
【0006】
ところが、本発明者が独自に得た知見によれば、手ほぐしで魚肉をフレーク状にほぐして製造されたと思われる魚肉フレークであっても、・・・手ほぐしして得られる魚肉フレークには及ばず、手作り感に欠けるという欠点がある。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の魚肉フレーク製品の問題点に鑑みて為されたもので、一般家庭で魚を焼成し、手ほぐしして得られる手作りの魚肉フレークとほぼ変わらぬ食感、食味、外観形状を有し、しかも、魚肉フレーク製品として市場に流通させることができる焼成魚肉フレークとその製造方法を提供することを課題とする。
・・・
【0010】
・・・加熱処理された魚体を手作業でフレーク状にほぐすと、作業工程中に魚肉フレークが細菌で汚染される恐れがある。このため、手でほぐした魚肉フレークを魚肉フレーク製品として市場に流通させるためには、ほぐし工程の後に加熱殺菌工程が不可欠であり、この加熱殺菌工程は、通常、魚肉のフレークを袋に充填し、80℃以上の熱水中で所定時間加熱することによって行われる。
【0011】
ところが、魚肉フレークを袋に充填したままで熱水中に浸漬すると、フレーク中に含まれていた水分が加熱され、水蒸気或いは熱水となって魚肉から滲み出して袋の中を循環し、魚肉フレークが、袋内で、いわば煮魚状態になってしまう。このため、フレークが過度に軟らかくなり、一部身崩れを起こすとともに、焼成による魚肉表面の熱変性によってせっかく魚肉内に留められていた旨味成分が熱水と共にフレーク外に出てしまい、外観形状や食感のみならず、食味までもが損なわれてしてしまうのではないかと考えられる。
【0012】
上記知見に基づき、さらに試行錯誤を重ねた結果、本発明者は、上記のような熱水に浸漬する従来の加熱殺菌工程に代えて、手でほぐされた魚肉フレークを、開放状態のまま、過熱水蒸気に曝すことによって殺菌する方法に思い至った。
【0013】
・・・焼成魚肉フレークを、特定の条件下で過熱水蒸気に曝すことによって、魚肉フレークを、その本来の食感、食味、外観形状を損なうことなく、焼成魚肉フレーク製品として市場に流通させることができる程度に十分に細菌汚染のないものとすることができることを見出し、本発明を完成した。」

b)「【0014】
すなわち、本発明は、焼成、ほぐし後に加熱殺菌された魚肉のフレークが密封パックに充填されたパック入りの焼成魚肉フレークであって、パックを開封しパックから取り出した直後に測定される前記焼成魚肉フレークの一般生菌数が100CFU/g以下であり、焼成、ほぐし後に加熱殺菌を受けない焼成魚肉フレークの食感、食味が保持されているパック入り焼成魚肉フレークを提供することによって上記の課題を達成するものである。
【0015】
パックを開封しパックから取り出した直後に測定される一般生菌数が100CFU/g以下という値は、袋詰状態で熱水浸漬によって加熱殺菌して製造される従来の魚肉フレーク製品におけるパック開封直後の一般生菌数に比べて若干高めであるが、本発明者が得た知見によれば、過熱水蒸気に曝すことによって魚肉フレークが加熱殺菌された場合には、パック開封直後の一般生菌数が100CFU/g以下であれば、パック開封後、25℃で24時間又は48時間保存後も一般生菌数が比較的低く抑えられており、衛生上、まったく問題なく魚肉フレーク製品として市場に流通させることができる。これは従来の袋詰状態での熱水浸漬による加熱殺菌では予想もできなかったことである。
・・・
【0017】
また、本発明に係るパック入り焼成魚肉フレークは、加熱殺菌工程において、フレークの食感、食味が損なわれることが殆どなく、加熱殺菌前の焼成魚肉フレークの外観形状、食感、食味を保持している。加熱殺菌前の焼成魚肉フレークとは、焼成工程を経た後、例えば手ほぐしでフレーク状に加工された魚肉フレークであり、いわば、一般家庭で魚を焼いて、その身をフレーク状にほぐしてして製造される魚肉フレークに相当するものである。また、好適な場合、本発明に係るパック入り焼成魚肉フレークは、加熱殺菌工程において、フレークの外観形状が損なわれることが殆どなく、加熱殺菌前の焼成魚肉フレークの外観形状を保持している。
・・・
【0022】
また、本発明は、焼成された魚肉のフレークを所定時間以上、所定温度以上になるように加熱して加熱殺菌する工程と、加熱殺菌された魚肉フレークを前記所定温度以上に維持したままパックに充填する工程と、前記パックを密封する工程とを含み、前記加熱殺菌する工程が、過熱水蒸気が吹き出す空間内に対象魚肉フレークを存在させることによって行われることを特徴とするパック入り焼成魚肉フレークの製造方法を提供することによって、上記課題を解決するものである。
【0023】
前記所定時間とは例えば3分であり、前記所定温度とは例えば80℃である。本発明者の知識と経験によれば、魚肉フレークにかかわらず、加熱処理された食品を80℃以上に3分間以上保持すれば、製品として市場に流通させることができるレベルにまで一般生菌数を低減させることができる。
・・・
【0025】
また、好適な一態様において、本発明に係る製造方法においては、前記加熱殺菌工程の前後で、対象魚肉フレークの質量変化が+4質量%以下に抑制されている。過熱水蒸気を用いた加熱殺菌工程において、対象魚肉フレークの質量増加は、主として、用いた過熱水蒸気が凝縮水となって対象魚肉フレークに付着することによってもたらされる。質量変化が質量比で+5%以上になると、凝縮水の付着が多くなりすぎて、魚肉フレークが焼成魚肉フレークであるにもかかわらず、濡れて湿ったような状態となるので好ましくない。前記加熱殺菌工程の前後で、対象魚肉フレークの質量変化は+4質量%以下であるのが好ましく、より好ましくは+2質量%以下、さらに好ましくは+1質量%以下である。
【0026】
一方、過熱水蒸気を用いた加熱殺菌工程において、対象魚肉フレークの質量減少は、主として、加熱によりフレーク内部の水分が蒸発してしまうことによってもたらされると考えられる。製品としての歩留まりという観点からは、前記加熱殺菌工程の前後で、対象魚肉フレークの質量変化は-2質量%以下であることが好ましく、-1質量%以下であればより好ましく、質量が減少しないのがさらに好ましい。
【0027】
好適な一態様において、本発明に係る製造方法においては、前記空間内に吹き出す過熱水蒸気の温度は200℃?280℃であり、過熱水蒸気の量は70kg/h?170kg/h(ただし、過熱水蒸気の温度が200℃及び280℃のときには過熱水蒸気の量が70kg/hの場合を除く)である。過熱水蒸気の温度及び量が上記範囲内にある場合には、過熱水蒸気による加熱殺菌工程を経ることによって、魚肉フレークを、魚種にかかわらず、安定して、3分以上、80℃以上にすることができるとともに、加熱殺菌工程前後での、対象魚肉フレークの質量変化を-2質量%?+4質量%の範囲内に納めることができる。
・・・
【発明の効果】
【0030】
本発明のパック入り焼成魚肉フレークとその製造方法によれば、密封状態で市場に流通させることができる程度に一般生菌数が低減された魚肉フレーク製品でありながら、フレーク状に加工した後に加熱殺菌工程を経ない、いわゆる一般家庭で製造される手作りの焼成魚肉フレークと同様の食感、食味、好ましくは外観形状を備えた魚肉フレーク製品を提供することができるという利点が得られる。
【0031】
また、本発明の製造方法によれば、魚肉フレークが高温の過熱水蒸気に曝されるので、フレーク表面がいわば二度焼きに近い状態に加熱され、焼き上げ感が向上するとともに、表面に形成された蛋白質の乾燥皮膜によって外側がカリッとし、内側がジューシーな食感が実現できる。さらに、本発明の製造方法によれば、加熱殺菌時間を従来の熱水浸漬殺菌に比べて大幅に短縮できるので、加熱殺菌工程中にフレーク内の旨味成分が失われることが防止できるとともに、パック入りの魚肉フレークの製造効率が大幅に改善されるという利点が得られる。
・・・
【発明を実施するための形態】
・・・
【0037】
一方、本発明の製造方法は図1の右側に示すとおりであり、工程1?9、及び工程12?14は、左側に示す従来の製造方法と同じであるが、工程10の「真空包装」及び工程11の「加熱殺菌(湯煎)」に代えて、工程αの「加熱殺菌(過熱水蒸気)」及び工程βの「ホットパック(脱気・密封)」を備えている点が従来の製造方法とは異なっている。」

c)「【0038】
以下、実験によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0039】
A:紅サケ
<実験A1:過熱水蒸気による加熱殺菌試験>
原料として、紅サケの冷凍品を用い、図1の右側に示される工程1?9までを行った後、工程αの「加熱殺菌(過熱水蒸気)」において、過熱水蒸気の温度、及び供給量を変えて、サケのフレークの芯温の変化を測定するとともに、「加熱殺菌(過熱水蒸気)」の前後におけるサケフレークの質量変化を測定した。
・・・
【0042】
調味液の添加、混合を終えたサケフレークは、各1kgずつを耐熱性のトレイに載せて、1kg/トレイの試験体とした。各試験体を、トレイに載せたまま、蓋やフィルムでサケフレーク表面を覆うことなく開放状態で過熱水蒸気オーブンの回転ベルト上に載置し、3分15秒掛けて過熱水蒸気オーブン内を通過させることにより、過熱水蒸気が吹き出す空間内にサケフレークを存在させ、過熱水蒸気による加熱を行った。
【0043】
過熱水蒸気の温度と供給量の組合せを異ならせて、温度4種×供給量5種類=計20種類パターンについて、各パターンごとに9試験体を試験した。・・・9試験体中、任意に選択した3試験体につき、トレイ上に載せられたサケフレークの山の中にデータ記憶機能付の温度センサーを埋設し、サケフレークの芯温に近いと思われる温度変化を測定した。結果を表1に示す。・・・また、好適と思われる範囲から逸脱している数値には下線を引き、芯温80℃以上の時間と質量変化とに基づいて判定した「×」(不適)、「○」(適)、「◎」(より適)、及び「◎◎」(最適)の区別を併せて示した。
【0044】
【表1】

・・・
【0047】
しかし、過熱水蒸気温度が150℃、過熱水蒸気量が170kg/hに場合には、サケフレークの質量は、加熱殺菌前後で実に5.8質量%も増加し、全体的に濡れてべちゃついた感じのするものとなった。また、質量変化に関しては、過熱水蒸気量が100kg/h?150kg/hの場合にも同様の傾向となった。これは、過熱水蒸気の温度が150℃では低すぎて、顕熱だけではサケフレークを80℃以上に加熱することができず、過熱水蒸気が潜熱を奪われ、凝縮水となってサケフレーク表面に付着したためと思われる。以上の結果から、過熱水蒸気温度が150℃の場合には、いずれの蒸気量についても「×」(不適)と判定された。
・・・
【0059】
以上をまとめると、サケフレークの芯温が80℃以上である時間が安定して3分以上となり、かつ、凝縮水による質量増加が+4.0質量%以下となるようにサケフレークを加熱するには、過熱水蒸気の温度が200℃で過熱水蒸気の量が70kg/hの場合を除いて、過熱水蒸気の温度を200℃?280℃、過熱水蒸気の量を70kg/h?170kg/hとするのが良く、好ましくは、過熱水蒸気の温度を225℃(=(200℃+250℃)/2)?265℃(=(250℃+280℃)/2)、過熱水蒸気量を70kg/h?170kg/hとするのが良く、さらに好ましくは、過熱水蒸気の温度を250℃、過熱水蒸気量を70kg/h?170kg/hとするのが良く、最も好ましくは、過熱水蒸気の温度を250℃、過熱水蒸気量を70kg/h?130kg/hとするのが良いと判断された。
【0060】
<実験A2:一般生菌数試験-その1->
工程αの「加熱殺菌(過熱水蒸気)」を、実験A1において「○」(適)以上と判定された過熱水蒸気温度と過熱水蒸気量に限定し、工程αに続いて工程β及び工程12?14(冷却、凍結、梱包)を実施した以外は実験A1と同様にして、パック入りの焼成サケフレークを製造した。・・・
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
表2に示すとおり、実験A1において「○」(適)以上と判定された過熱水蒸気温度及び過熱水蒸気量の組み合わせで加熱殺菌して製造されたパック入りの焼サケフレークは、いずれも、パックを開封し、取り出した直後に測定された初発の一般生菌数は100CFU/g以下、より詳細には30CFU/g以下となり、一般生菌数が極めて低減されていた。・・・
【0067】
・・・この結果は、本発明の製造方法で製造されたパック入りの焼サケフレークが、従来の製造方法で製造されているパック入りの焼サケフレークと同様に市場に流通させることができる衛生的な製品であることを如実に示している。
・・・
【0069】
<実験A3:一般生菌数試験-その2->
・・・
【0071】
【表4】

・・・
【0074】
<実験A4:テクスチャー試験>
製造された焼サケフレークの食感を調べるべく、クリープメータ(型式「RE3305S」、株式会社山電製、使用ロードセル:20N)を用いて、直径20mmの球状プランジャーをサケフレークの表面に押し当て、サケフレーク表面を1mm、2mm、3mm、4mm、及び5mm押し下げるのに要する荷重(N)(1Nは約100gに相当)をそれぞれ測定した。さらに、測定された各押し下げ距離における荷重の平均値を対象とした焼サケフレークごとに求め、後述する対照3の平均値を100%として相対値を算出した。結果を表5に示す。
・・・
【0076】
【表5】

・・・
【0083】
・・・本発明の製造方法で製造された発明品2?4の焼サケフレークが、一般家庭における製造方法を再現して得られた対照3の焼サケフレークとほぼ変わらぬ食感を保持していると評価されるものであることを、外観上からも裏付けるものである。
【0084】
<実験A5:官能検査>
健康な男女合わせて30名のパネラーに、実験A4で用いたのと同じ対照3、発明品2?4、及び対照1の焼サケフレークを試食してもらい、その外観、食感、及び食味を評価させた。評価は、一般家庭における製造方法を再現して得られた対照3の焼サケフレークを基準とし、対照3と比べて、「非常に良い=5」、「良い=4」、「同等=3」、「悪い=2」、「非常に悪い=1」の五段階で行った。結果を外観、食感、食味の順に表6?表8に示す。
【0085】
【表6】

【0086】
【表7】

【0087】
【表8】

【0088】
表6?表8に示すとおり、熱水浸漬による加熱殺菌工程を経て得られた従来の製造方法による対照1の焼サケフレークが、検査された外観、食感、及び食味のいずれの点においても、一般家庭における製造方法を再現して得られた焼サケフレークに比べて、「悪い=2」を下回る平均評価点となったのに対し、過熱水蒸気による加熱殺菌工程を経て得られた本発明の製造方法による発明品2、3、4の焼サケフレークは、検査された外観、食感、及び食味のいずれの点においても、一般家庭における製造方法を再現して得られた焼サケフレークに比べて、平均評価点において、「同等=3」若しくはそれ以上と評価されるものであった。
【0089】
<実験A7:味覚センサー試験>
実験A4のテクスチャー試験で用いた発明品3(過熱水蒸気温度250℃、過熱水蒸気量130kg/hの条件下で加熱殺菌された焼サケフレーク)、対照1(従来の方法(89℃の熱水に45分浸漬)で加熱殺菌された焼サケフレーク、及び対照3(一般家庭での製造方法を再現して得られた焼サケフレーク)を人工脂質膜型味覚センサーを用いる味認識装置(株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー製)に掛け、対照3(一般家庭製造方法品)を基準として、各サンプルの味質の相対比較を行った。結果を表9に示す。
【0090】
【表9】

【0091】
表9に見られるとおり、発明品3の各味の相対値は、一般家庭での製造方法を再現して得られた対照3の焼サケフレークを基準として、測定された8つの味全てにおいて、±2.0未満の範囲内に収まっていた。味認識装置によって測定される味の相対値が-2以下又は+2以上である場合には、多くの人が基準とした対照品と比べて味に差を感じるといわれているので、上記の結果は、本発明の製造方法で製造された発明品3が、一般家庭での製造方法を再現して得られた対照3の焼サケフレークとほぼ変わらない味を備えているということを示している。
【0092】
これに対し、従来の熱水に浸漬する方法で加熱殺菌して製造された対照1の焼サケフレークは、酸味と渋味刺激において、測定値が2を上回り、一般家庭での製造方法を再現して得られた対照3の焼サケフレークと比べると明らかに味が異なると評価されるものであった。この味覚センサー試験における結果は、上記官能検査の結果を裏付けるものである。
【0093】
このように、本発明の製造方法で製造された焼サケフレークは、一般家庭における製造方法を再現して得られた焼サケフレークに比べて勝るとも劣らない外観形状、食感、食味を保持しており、加熱殺菌前の焼サケフレークの外観形状、食感、食味が保持されているといえるものである。
【0094】
<実験A8:初発一般生菌数の許容限度>
・・・
【0095】
実験A1で用いたと同じ焼サケフレークを用い、過熱水蒸気温度を250℃、過熱水蒸気量を130kg/hに固定して、過熱水蒸気オーブンの通過時間を3分15秒から段階的に短くして加熱殺菌を行い、パック入りの焼成サケフレークを製造した(焼サケフレークの芯温は測定していない)。製造した焼成サケフレークを一旦冷凍後、適宜の時間をおいて解凍し、実験A2におけると同様にして、開封直後、及び25℃24時間、48時間保存後の一般生菌数を測定した。結果を表10に示す。
・・・
【0097】
【表10】

【0098】
【表11】

・・・
【0100】
この結果は、過熱水蒸気によって加熱殺菌を行う場合、焼成サケフレークをパックから取り出して25℃で48時間保存後も一般生菌数が10,000CFU/g以下のレベルに止まるかどうかの境目が、初発(パックから取り出した直後)の一般生菌数100CFU/gにあることを示している。すなわち、過熱水蒸気によって加熱殺菌を行う場合、初発の一般生菌数が30CFU/gを超えても、30CFU/g超?100CFU/g以下の範囲にあれば、換言すれば、初発の一般生菌数が100CFU/gであれば、25℃程度の温度環境下でパック開封後48時間は、衛生上全く問題がないことを物語っている。
・・・
【0102】
これに対し、表11に見られるとおり、従来の熱水浸漬による方法で加熱殺菌を行った場合には、初発の一般生菌数が、100CFU/g以下である70CFU/g又は90CFU/gの場合であっても、パック開封後25℃で48時間保存後には、一般生菌数は11,000CFU/g又は15,000CFU/gとなり、いずれも10,000CFU/gを超えた。11,000CFU/g又は15,000CFU/gという一般生菌数は、無加熱摂取冷凍食品の規格基準である10万CFU/gを超えるものではないが、加熱殺菌を過熱水蒸気で行った本発明品と比べて、明らかに高いレベルである。
・・・
【0104】
このように、加熱殺菌を過熱水蒸気で行う場合には、許容される初発の一般生菌数レベルが、従来の熱水浸漬によって加熱殺菌を行う場合に比べて大幅に緩和されるということは、本発明者が独自に見出した新たな知見である。なお、加熱殺菌の方法によって、パックから取り出した後の一般生菌数の増殖速度が異なるのは、過熱水蒸気によって加熱殺菌を行った場合には、より乾いた魚肉のフレークが得られるからではないかと考えられる。なお、上記の結果は、焼成サケフレークについてのものであるが、他の魚種のフレークについても当然に妥当すると考えられる。
【0105】
B:アトランティックサーモン
これまでは天然のサケの代表例である紅サケを用いて本発明を説明したが、同様のことが養殖のサケについてもいえるかどうかを、養殖のサケの代表例であるアトランティックサーモンを用いて検証した。
・・・
【0142】
以上のとおり、天然のサケを代表する紅サケと、養殖のサケを代表するアトランティックサーモンにおいて、ほぼ同様の結果が得られたという事実は、天然、養殖を問わず、紅サケ及びアトランティックサーモンと身質を同じくする他のサケ類についても、本発明に係る製造方法が有効であることを物語るものである。
【0143】
C:カツオ
・・・
【0176】
このように、本発明の製造方法で製造された焼成カツオフレークは、一般家庭における製造方法を再現して得られた焼成カツオフレークに比べて勝るとも劣らない外観形状、食感、食味を保持しており、焼成、ほぐし後に加熱殺菌を経ない焼成カツオフレークの外観形状、食感、食味が保持されているといえるものである。
【0177】
D:サバ
・・・
【0209】
このように、本発明の製造方法で製造された焼成サバフレークは、一般家庭における製造方法を再現して得られた焼成サバフレークに比べて勝るとも劣らない外観形状、食感、食味を保持しており、焼成、ほぐし後に加熱殺菌を経ない焼成サバフレークの外観形状、食感、食味が保持されているといえるものである。」

(2)判断
ア 本件発明が解決しようとする課題
本件明細書等の全ての記載事項及び技術常識からみて、本件発明が解決しようとする課題は、「一般家庭で魚を焼成し、手ほぐしして得られる手作りの魚肉フレークとほぼ変わらぬ食感、食味、外観形状を有し、しかも、魚肉フレーク製品として市場に流通させることができる焼成魚肉フレークとその製造方法を提供する」(【0008】)ことであると認める。

イ 判断
上記課題について、本件明細書等には、「焼成魚肉フレークを、特定の条件下で過熱水蒸気に曝すことによって、魚肉フレークを、その本来の食感、食味、外観形状を損なうことなく、焼成魚肉フレーク製品として市場に流通させることができる程度に十分に細菌汚染のないものとすることができることを見出し、本発明を完成した」ことが記載されているところ(【0013】)、本件発明において、当該「特定の条件」が、焼成された魚肉のフレークを所定時間以上、所定温度以上になるように加熱して加熱殺菌することであり、所定時間が3分であり、所定温度が80℃であることが特定されている。
また、本件発明1に対応して、【0022】には、焼成された魚肉のフレークを所定時間以上、所定温度以上になるように加熱して加熱殺菌する工程と、加熱殺菌された魚肉フレークを前記所定温度以上に維持したままパックに充填する工程と、前記パックを密封する工程とを含み、前記加熱殺菌する工程が、過熱水蒸気が吹き出す空間内に対象魚肉フレークを存在させることによって行われることを特徴とするパック入り焼成魚肉フレークの製造方法を提供することによって、上記課題を解決するものであること、【0023】には、所定時間とは例えば3分であり、所定温度とは例えば80℃であることが、本件発明3に対応して、【0025】には、加熱殺菌工程の前後で、対象魚肉フレークの質量変化は+4質量%以下であるのが好ましいことが、本件発明4及び5に対応して、【0027】には、空間内に吹き出す過熱水蒸気の温度が200℃?280℃であり、過熱水蒸気の量は70kg/h?170kg/h(ただし、過熱水蒸気の温度が200℃及び280℃のときには過熱水蒸気の量が70kg/hの場合を除く)であることが、記載されている。
そして、本件明細書等には、「【0030】本発明のパック入り焼成魚肉フレークとその製造方法によれば、密封状態で市場に流通させることができる程度に一般生菌数が低減された魚肉フレーク製品でありながら、フレーク状に加工した後に加熱殺菌工程を経ない、いわゆる一般家庭で製造される手作りの焼成魚肉フレークと同様の食感、食味、好ましくは外観形状を備えた魚肉フレーク製品を提供することができるという利点が得られる。【0031】また、本発明の製造方法によれば、魚肉フレークが高温の過熱水蒸気に曝されるので、フレーク表面がいわば二度焼きに近い状態に加熱され、焼き上げ感が向上するとともに、表面に形成された蛋白質の乾燥皮膜によって外側がカリッとし、内側がジューシーな食感が実現できる。さらに、本発明の製造方法によれば、加熱殺菌時間を従来の熱水浸漬殺菌に比べて大幅に短縮できるので、加熱殺菌工程中にフレーク内の旨味成分が失われることが防止できるとともに、パック入りの魚肉フレークの製造効率が大幅に改善されるという利点が得られる。」と本件発明の奏する効果が記載されている。
さらに、【0038】?【0209】に記載された具体例において、本件発明に関する製造方法によって、本件発明の課題に対応する効果が得られること、すなわち、A:紅サケについて、<実験A1:過熱水蒸気による加熱殺菌試験>、<実験A2:一般生菌数試験-その1->、<実験A3:一般生菌数試験-その2->、<実験A4:テクスチャー試験>、<実験A5:官能検査>、<実験A7:味覚センサー試験>、<実験A8:初発一般生菌数の許容限度>として各実験とその結果が記載され、B:アトランティックサーモン、C:カツオ、D:サバについても同様の記載がされ、本件発明に該当するものが、質量変化が適切であり、市場に流通させることができる衛生的な製品であり、一般家庭における製造方法を再現して得られた焼サケフレーク等の焼魚フレークと、ほぼ変わらぬ食感、外観を保持しており、外観、食感、及び食味のいずれの点においても同等又はそれ以上と評価されるものであり、ほぼ変わらない味を備えていると評価されるものであることが示されている。
してみると、本件発明は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであることが理解できる。
よって、本件発明は発明の詳細な説明に記載したものである。

当審が通知した理由1は、本件訂正前の請求項1に記載された、所定時間及び所定温度が3分及び80℃の条件を満たさない場合について、サポート要件を満たさないことを理由とするものであるところ、本件訂正によって、請求項1の所定時間及び所定温度が3分及び80℃であることが限定されたことによって、上記理由1は理由のないものとなった。
したがって、理由1の点で、本件発明1、3?5について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないということはできない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、理由1は解消しており、理由がない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)[申立理由1-1]、[申立理由2-1]、[申立理由1-2]及び[申立理由2-2](新規性進歩性)について
ア 甲各号証の記載事項及び引用発明
(ア)甲各号証の記載事項
甲1:
1a)「【請求項1】 食品素材を過熱蒸気により処理した後、容器に密封し、加圧加熱殺菌を行った常温流通包装食品。」

1b)「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記目的を達成するために各方面から検討した結果、素材中の水分を調整する工程を過熱蒸気処理によって行い、続いて耐熱性を有する容器に封入後に加圧加熱殺菌を施して得られた食品が、食感がソフトで程よい噛み応え感を有し、且つジューシー感と素材の有する自然の風味を維持しており、しかも、食品の表面に液汁が発生することが殆どなく、そのため液汁の食品及び容器内への発生・付着がなく、見た目にも好ましいことを知見した。
・・・
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の常温流通包装食品を、その好ましい製造方法に基づいて詳しく説明する。本発明において用いる食品素材としては、魚介類及び畜産物類の可食部全体、筋肉、内臓、卵などが利用される。例えば、イカ、タコ、エビ、ホタテ、ハマグリ、シシャモ、牛肉、豚肉、鶏肉などの、食品素材として通常良く利用される種類のものを、生もしくは凍結の状態で保管したもの、あるいはそれらのボイル品、一夜干し品、塩漬品などが利用できる。また、原料に含まれるエラなどの非可食部を前処理によって除去したり、可食部位をとりだしてミンチ状、スライス状、ブロック状などに整形したもの、又は他の素材と混合して様々な形に整形したものも利用することができる。」

1c)「【0010】食品素材を処理時の過熱蒸気の雰囲気温度は、食品素材中の水分を除去する効果を上げるために、ある程度高温が望ましいが、あまり高温になると、最終製品の食感や風味などに好ましからぬ影響を与える。一般には、処理時の過熱蒸気の雰囲気温度は、好ましくは130?350℃、より好ましくは170?300℃の範囲内である。しかし、ゼラチン質を含む食品素材などでは、より低い温度帯の130?150℃程度の条件でないと、ゼラチン質が溶解してしまって好ましくない場合があるので、過熱蒸気の雰囲気温度は、上記温度範囲を参考にして食品素材の種類などによって適宜選択して定めることが好ましい。
【0011】また、過熱蒸気による食品素材の処理時間は、処理する食品素材の種類により適宜選択して定めるのが好ましいが、通常1?30分の範囲であり、好ましくは1?10分、より好ましくは3?8分である。
・・・
【0014】過熱蒸気処理が施された食品素材は、容器に充填し、密封する。該容器としては、後述する加圧加熱殺菌に耐え得る耐熱性を有する食品用容器であれば、その素材が制限されるものではなく、合成樹脂製容器の他、アルミニウムやステンレスなどの金属製容器なども用いることができるが、常温流通包装食品に求められる携帯性・簡便性から、最も好ましいのは合成樹脂製の成型容器である。また、上記容器の形状及び大きさも制限されるものではなく、従来の常温流通包装食品の包装容器と同様の形状及び大きさとすることができる。
・・・
【0016】このようにして得られる本発明の常温流通包装食品は、液汁の発生が抑制されるとともに、食品自体の硬化が抑制されて、望ましいソフト感及びジューシー感を有するものである。また、過熱蒸気処理は大気中の酸素を殆ど含まない状態で行われるため、食品素材の色及び風味を損うことなく、そのまま維持させることができる。また、加工食品においては細菌学的な保存性の要件から商品化が難しかったpH4.6以上且つ水分活性0.94以上の常温流通包装食品を製造することも可能である。」

1d)「【0018】
【実施例】以下、本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。尚、以下の「%」は、すべて「質量%」である。
【0019】実施例1
ノルウェイ産IQF凍結ししゃも(1尾あたりの重量約10g)400尾を、流水解凍後、10%食塩水に1分間浸漬し調味した。調味したししゃもを、雰囲気温度250℃に調整した過熱蒸気装置(清本鉄工株式会社製、型式SO-2000)で6分間処理した。該過熱蒸気処理後のししゃもは、通常の焼魚の形状をしていた。このししゃもを4尾ずつ、合成樹脂製成型容器(構造:ポリプロピレン/エチレンビニルアルコール/ポリプロピレン。外径:縦約15cm、横約6cm、高さ約2cm)に充填し、合成樹脂製の蓋用フィルム(構造:ポリエステル/ナイロン/アルミ箔/ポリプロピレン)でシールして密封し、次いで加圧加熱殺菌(F_(0 )値6)を施して、100パック分の焼きししゃも製品を得た。得られた100パック分の焼きししゃも製品について、容器内の液汁の発生量を以下のように測定した。容器の蓋用フィルムを開封後、ししゃも表面への液汁の付着具合を観察してから、ししゃも4尾を取り除き、液汁を含む容器の重量を測定し、予め測定しておいた容器の乾燥重量との差を、液汁の発生量とした。取り除いたししゃもについては、食感の官能評価を行った。食感の官能評価は以下の3段階で評価した。その結果を下記〔表1〕に示す。
1:固くてパサパサした食感(加熱過剰状態)
2:適正な固さの食感(適正な加熱の状態)
3:柔らかくてべっとりした食感(加熱不足状態)」

甲2:
2a)「【請求項1】
ラウンドの魚体を5?10質量%濃度の食塩水に浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程後の前記魚体をラウンドのまま加圧蒸煮する加圧蒸煮工程と、
前記加圧蒸煮工程後の前記魚体を焙焼する焙焼工程と、
前記焙焼工程後の前記魚体を攪拌してフレーク状にする攪拌工程とを、
有することを特徴とするフレーク状魚肉食品の製造方法。」

2b)「【0009】
本発明に係るフレーク状魚肉食品の製造方法では、前記焙焼工程において、前記魚体から頭部、中骨および尾を除去した後、温度100?150℃、時間5?10分の条件下で焙焼することが好ましい。この場合、さらに、風味や栄養分の低下を抑えるとともに、身が細かくなるのを抑えることができる。」

甲3:
3a)「【0002】
【従来の技術】従来、この種のものにあっては、下記のようなものになっている。従来、鮭等のフレークの製造方法は大別して次の二通りに分けることができる。
1.鮭等の魚を蒸煮し、皮を除き、ほぐしながら骨とその他夾雑物を除く。次に、ほぐした身を脱水して、調味料を加え混合し、容器に詰め加熱殺菌を行う。
2.鮭等を身卸しした後、皮、骨を取除き、焙焼後調味液を加え、焙煎しながら混合し、容器に詰め、加熱殺菌を行う。
どちらの方法も容器に入った魚肉はフレーク状態であり、粒子の大きいそぼろ状態である。」

3b)「【0009】実施例3(焙焼した魚肉フレークの場合)
冷凍鮭のドレスを解凍後、身卸しし、皮、骨を取除きフィレーとする。このフィレーを100℃の蒸気で30?40分蒸煮し、室温下で冷却する。フィレーに対し3%の散塩をして、1晩5?10℃で保存する。散塩後保存されたフィレーを魚焼機で焙焼し、室温下で冷却する。調味液の配合はゼラチン3kg、食塩3kg、うすくち醤油1kg、酒500g、サンライクダシ500g(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)、マッチャエキストラクト10kg(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)、水82kgを一度に加熱して溶解する。」

甲4:
4a)「【請求項1】
魚介類の加熱処理装置であって、
一部を大気解放可能な密閉された加熱処理室と、
前記加熱処理室に備えられ、前記加熱処理室内を所定温度に加熱する室内加熱部と、
前記加熱処理室内に水蒸気と熱水からなる気液混合体を噴射し、前記加熱処理室内を過熱水蒸気と高温微細水滴が混在する状態の加熱媒体で満たされた加熱処理雰囲気にする噴射ノズルと、
前記加熱処理室に備えられるトレー棚と、
前記トレー棚に入れられ、水蒸気や気体を通過可能で遮菌性を有し、魚介類を収納する魚介類収納部とを備えていることを特徴とする魚介類の加熱処理装置。」

4b)「【0029】
加熱配管4cは、室内加熱部4の内部において、所定の内径・長さに形成され、内部に供給された水量は、0.7gr/sec以上、好ましくは0.7gr/sec?25gr/secとするが、室内加熱部4の構成、加熱管路の管径及び長さは特に限定されず本発明の範囲内において適宜設計可能である。」

4c)「【0040】
本実施形態では、魚介類aとして、サンマとイワシを魚介類収納部A(滅菌紙)に収納して、所定温度108℃、及び供水量300spmで加熱させて、検証した結果、1時間から2時間程度で十分に骨が軟化して、食味テストでもレトルト食品とは、はっきりとした差異が確認され、違和感なく食することができた。
図6に、サンマとイワシの加熱処理前後を、解凍と凍結状態で分けて、処理時間を1時間、1.5時間、2時間とで行った検証結果を示す。サンマが18尾(上表)とイワシ(下表)が28尾の個々の加熱処理前後による重量変化と歩留を示しており、サンマが最高平均歩留は約107%(解凍)、最低平均歩留でも約97%(凍結)と高く、イワシが最高平均歩留は約102%(解凍)、最低歩留でも約82%(凍結)と高く実証されている。
なお、歩留が100%を超えているのは、高温微細水滴含有過熱水蒸気が魚介類収納部Aに入り液化することにより、処理後重量が処理前重量を越えたためである。」

4d)「【0057】
回転体600(ドラムミキサー)によって、加熱処理室2内の加熱によって骨まで軟化させた魚介類aを魚介類収納部Aに収納したまま、フレークや練り物材料(メンチ)にすることができる。また、この実施形態での魚介類収納部Aには、その収納外観の形態や表面に元の魚介類aの姿形状やイラストがあれば、たとえ、メンチ状態で何の魚介類aであったか分からなくなっても、その収納部の形態や表面を見れば一目瞭然で、判別することができる。そして、商品的にもカルシウム等の栄養価を高いまま食することができる。
さらに、魚介類収納部A内に調味料を加えて魚介類aと併せてミキシングすることで、その調味料が浸み込んだフレークや練り物材料(メンチ)として食べ易くすることができる。」

4e)「【図6】



甲5:
5a)「【請求項1】
魚類加工品の製造方法であって、
骨を有する魚類を加熱釜で加熱する工程を含み、
前記加熱釜は、湯気を発生させる湯気発生装置に接続されており、
前記湯気発生装置は、互いに独立する液体経路および蒸気経路を有し、前記液体経路を流動する液体と前記蒸気経路を流動する加熱用蒸気との間で熱交換が行われる熱交換器から構成されており、
前記熱交換器の前記蒸気経路には、ボイラーからの高圧蒸気が導入され、
前記熱交換器の前記液体経路の上端は、湯気供給配管を通じて、前記加熱釜の内部に配置された湯気噴出部に接続されており、
前記熱交換器の前記液体経路の下端は、連通管を通して前記加熱釜に接続されている、魚類加工品の製造方法。
・・・
【請求項4】
前記加熱釜で加熱する工程の後、前記加熱釜で加熱された前記魚類を混練する工程と、前記混練された魚類を、高温蒸気焼成機で焼成する工程とをさらに含む、請求項1から3の何れか1つに記載の魚類加工品の製造方法。」

5b)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された技術によれば、蒸気供給装置からなる加熱手段に加えて、真空吸引装置からなる減圧化手段、加圧した空気を導入可能な加圧手段、そして、液体窒素噴出手段からなる冷却手段が必要となる。これらの手段によって、減圧加熱工程、加圧加熱工程、除圧工程、減圧乾燥工程、および冷却工程(冷凍工程)を実行するのであるが、これらの工程を実行するのは、エネルギー損失が大きいという欠点がある。・・・
【0006】
また、特許文献2に開示された技術は、骨まで柔らかくできるかどうか明確でないが、密閉容器がレトルトパウチの場合、封入状態で加熱することで、高温高圧による魚・タンパク質変性による臭み(いわゆる一般的なレトルト臭)や、レトルトパウチのにおいが食品に付きやすく、風味を損なうおそれがある。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、高温高圧加熱によるレトルト臭のない美味しい魚類加工品をエネルギー効率の良く製造する方法および加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る魚類加工品の製造方法は、骨を有する魚類を加熱釜で加熱する工程を含み、前記加熱釜は、湯気を発生させる湯気発生装置に接続されており、前記湯気発生装置は、互いに独立する液体経路および蒸気経路を有し、前記液体経路を流動する液体と前記蒸気経路を流動する加熱用蒸気との間で熱交換が行われる熱交換器から構成されており、前記熱交換器の前記蒸気経路には、ボイラーからの高圧蒸気が導入され、前記熱交換器の前記液体経路の上端は、湯気供給配管を通じて、前記加熱釜の内部に配置された湯気噴出部に接続されており、前記熱交換器の前記液体経路の下端は、連通管を通して前記加熱釜に接続されている。
・・・
【0011】
ある好適な実施形態では、前記加熱釜で加熱する工程の後、前記加熱釜で加熱された前記魚類を混練する工程と、前記混練された魚類を、高温蒸気焼成機で焼成する工程とをさらに含む。」

5c)「【0020】
ある好適な実施形態において、前記被加熱物は、魚類である。」

5d)「【0024】
魚類の骨を軟化状態にしたもの(魚肉)を混練して、高温蒸気焼成機で焼成することにより、魚類における骨を廃棄することなく利用することが可能である。骨を取り除いた魚類食品と、骨まで食べられる魚類食品とで、カルシウム成分を比較すると約10倍の差がある。したがって、本発明により製造される魚類加工品は、廃棄物を減らすことができるため原料コスト減になるとともに、環境にも優しく、そして、カルシウム摂取の点からは健康にも良い。加えて、混練した魚類を高温蒸気焼成機で焼成することにより、美味しさがさらに増す。バーナーの焼成と比較すると、高温蒸気焼成機で焼成(例えば、300℃またはそれ以上)では、無酸素状態での焼成となるので、魚の脂成分が酸化しないので脂臭さがない。さらには、高温蒸気焼成機での焼成では、魚の温度上昇が早い、調味料が気体蒸気の粒子と絡んで魚の身に浸透しやすく旨味が増すという効果も得られる。」

5e)「【0028】
本願発明者は、微圧蒸気(湯気)を加熱して過熱蒸気として、その過熱蒸気を食品に当てて加熱を行う手法を開発し、そしてそれを特願2007-522303号明細書に開示した。本願発明者が開発した技術(特願2007-522303号明細書に開示の技術)は素晴らしいものであり、しかも、微圧蒸気を用いて大気圧で動作できる点が大きな利点であった。一方で、加熱処理方法によっては、大気圧での加熱ではなく、加圧状態での加熱を行いたい場合もある。特に、骨を柔らかくして骨まで食べられる魚類加工品は、加圧状態での水蒸気の加熱を行って製造することが好ましい。」

5f)「【0043】
本実施形態の加熱装置100における加熱釜50において、加熱温度110?120℃、0.15MPaA?0.2MPaAで、1時間前後の蒸気加熱(湯気15の加熱)を行ったところ、冷凍の生魚(例えば、冷凍アジ、冷凍サバ)の状態から、骨が軟化した加熱状態の魚(アジ、サバ)を製造することができた。なお、加熱温度および加熱時間(または圧力)は、これらに限定されるものではなく、適宜好適なものを選択することができる。例えば、条件によっては、1時間よりも短い加熱時間で骨を軟化させることも可能である。」

5g)「【0055】
本実施形態では、冷凍状態の魚類(例えば、冷凍アジ)をパレット内に詰め込み、図1における矢印41に示すように、そのパレットを加熱釜50に入れた後、本実施形態の加熱装置100の加熱釜50の加熱を1時間ほど実行して骨を軟化させる。次いで、矢印42に示すように、扉57Bの方から加熱後のパレットを取り出して、混練機(ニーダ)60に加熱した魚類を投入する。この混練機60で、骨を軟化させた魚類の骨を含めて魚肉と混練して、魚のミンチにする。混練機60の混練工程中(または、混練前、混練後)において、ミンチに調味料(例えば、植物油、アミノ酸、塩など)を入れて混合する。なお、上述の前処理で説明したような処理をこの段階で施しても構わない。
【0056】
次に、混練後にフレーク状になった魚類(魚類加工品)を高温蒸気焼成機70で焼成する。図3に示した高温蒸気焼成機70は、蒸気(水蒸気)を加熱して過熱蒸気を生成し、その過熱蒸気によって被加熱物(混練後の魚類)65を焼成する装置である。過熱蒸気は、水蒸気を定圧で100℃を超える温度に加熱した蒸気である。この過熱水蒸気(または過熱蒸気)は、水蒸気や高圧高温水蒸気と異なり、食品の加熱に好適な遠赤外線の放射性を持った熱放射性気体で、その雰囲気中では酸素が遮断されて酸化を防止することができる等の利点を有している。そして、過熱水蒸気を用いることにより、肉、魚等を味良く焼成等することができることが知られている。
【0057】
過熱蒸気を用いる高温蒸気焼成機は、典型的には、高温高圧のボイラー蒸気を大火力のバーナー(または高出力の電磁加熱装置)を備えた燃焼装置で過熱蒸気を生成して、その過熱蒸気を使うものであるが、そのようなものはエネルギー効率が良くない。本実施形態の高温蒸気焼成機70は、湯気(微圧蒸気)を加熱装置(例えば、電熱ヒータ)で加熱して過熱蒸気を生成し、その過熱蒸気を被加熱物(混練後の魚類)65に吹き付けて、混練した魚類65を焼成する装置である。
【0058】
さらに具体的に、図3に示した高温蒸気焼成機70の説明をすると次の通りである。高温蒸気焼成機70は、湯気61を発生させる湯気発生装置80と、湯気61を加熱して過熱蒸気62(又は75)を生成する加熱装置72とを備えている。生成した過熱蒸気62は、混練された魚類65が焼成される焼成室77に導入される。焼成室77の内部には、過熱蒸気75を噴出する噴出しパイプ74が配置されている。」

5h)「【0063】
本実施形態の高温蒸気焼成機70では、微圧蒸気である湯気が加熱装置(電熱ヒータ)72内をゆっくり漂うので、早い速度で移動する高圧蒸気と比較して、電熱ヒータ72で効率良く加熱することができ、大気圧で高温(例えば300℃以上)の過熱蒸気75を生成させることができる。そして、その高温の過熱蒸気75を、高温のまま直下のベルトコンベア85上の魚類(被加熱物)65に吹き付けることができる。本実施形態の加熱装置72は、例えば電熱ヒータであり、加熱装置72内では、動作時に実質的に大気圧と同じ内部圧力(例えば、1.2気圧以下の内部圧力)で加熱が実行される。」

5i)「【0068】
このような特性を有する過熱蒸気による調理は、食材の水分を取り過ぎず表面の硬化を防ぎ(例えば、歩留まり85%以上)、素材の旨味を引き出すことができる。そして、この過熱蒸気の焼成は、骨を軟化させた魚類加工品の焼成において特に適している。具体的には、過熱蒸気の焼成は、骨を軟化させた魚類加工品の美味しさをさらに増し、身質も柔らかく仕上げることができる。その理由としては、低酸素状態(焼成室77内にろうそくの火を入れると火が消えるくらいに実質的に無酸素状態にすることも可能である)での焼成で魚類の油脂成分が酸化しないので、油臭さがないことが挙げられる。また、魚の温度の上昇温度が早いために良好な焼成が実現されているとともに、混練時の調味料が気体蒸気の粒子と絡んで魚類の身に浸透しやすく旨味が増すことも挙げられる。さらに、焼成室77の内部は、過熱蒸気の存在に起因して遠赤外線が発生しており、それによっても加熱の効果を高めている。加えて、過熱蒸気の押ボタンスイッチ温度が300℃?350℃またはそれ以上の場合、魚類の油脂の沸点200℃を遙かにオーバーする温度で加熱することができ、そのことも美味しさの原因の一つとなっている。」

5j)「【0071】
本実施形態の高温蒸気焼成機70では、開放型の焼成室77であっても、過熱蒸気の温度を300℃?400℃(典型的な一例は、400℃±10℃)、あるいは300℃?550℃(典型的な一例は、450℃±10℃)に設定すれば、例えば、未解凍の冷凍魚(冷凍サバなど)を数分で、解凍だけでなく焼き工程も完了させることができるレベルにすることができる。したがって、すでに加熱して混練した魚類65を焼成する場合、過熱蒸気75によって良好に焼成することができる。
【0072】
なお、噴出しパイプ74から噴出させる過熱蒸気75の温度は、180℃以上であることが好ましい。これは、湯気(飽和蒸気)を加熱してなる過熱蒸気は、180℃前後でその性質が変化し、食材などの加熱処理に適したものになるからである。さらに説明すると、飽和蒸気を加熱した過熱蒸気は、非常に軽く、囲われた空間内の隅々まで充満しやすく、その体積膨張率が高く、含有酸素量も少なく、熱伝達速度も速くなるという特長を有しており、このような過熱蒸気を用いて食材を加熱した場合には、食材の表層部を焦がすことができ、外層部に浸透して、食材の内部温度を上げ、表層部の水分のみを最も多く蒸発させることができるので、表面がこんがりとして内部がジューシーな焼き上がりを実現することができる。過熱蒸気は、わずかな熱量の変化で急速に温度変化するという性質を持っているので、120℃程度の比較的不安定な過熱蒸気よりも、180℃以上の過熱蒸気を発生させて、焼成室77の内部に導入することが、食品の加熱処理においては好ましい。」

5k)「【0078】
図3に示した魚類加工品の製造システム200によって製造された魚類加工品(骨まで食べられる魚類加工品)は、焼成後において冷却され(自然冷却または強制冷却)、容器内に詰められて包装される。その後、必要に応じて、その製品(魚類加工品)は凍結保存(例えば、真空パックでの凍結保存)されて輸送・販売されることになる。実際に、本実施形態の魚類加工品を食する時には、冷凍されたものを解凍して(例えば、自然解凍または電子レンジ解凍して)、食べればよい。」

5l)「【0091】
また、本実施形態の加熱装置100は、加圧状態で加熱することができるので、レトルト殺菌装置として使用することが可能である。なお、本実施形態の加熱装置100をレトルト殺菌装置として使用した場合には、加熱炉50内の部分温度(右、左)のバラツキが極めて少ないため、食品(レトルト食品)の芯温のバラツキも極めて少なく、そして、炉内温度の上昇にあわせて滑らかに芯温が上昇していくので、非常に適切な加熱処理を行うことができ、それによって、通常のレトルト食品と比べて、美味しい食品加工(加熱処理)を達成することができる。
【0092】
なお、本実施形態のレトルト食品は、加圧加熱殺菌を行う食品を意味し、レトルトパウチ包装の食品の他、缶詰、瓶詰めの食品も包含するものとする。また、レトルト食品の内容物としては、魚、肉、野菜、根菜、果物、その他、レトルト製法に適した食物全般を挙げることができる。また、本実施形態のレトルト食品は、人間用の食品に限らず、ペット用の食品、または、アニマルレトルトフードであってもよい。また、レトルト食品を作る際のレトルト殺菌(加圧加熱)は、加熱殺菌処理するものに限らず、レトルト殺菌(加圧加熱)にて食品を軟化処理する目的でも用いられる。さらに、代表的なレトルト食品としては、例えば、カレー(レトルトカレー)、シチュー、スープ、粥(かゆ)、パスタソース、丼物の具、米飯(レトルト米飯)、ハンバーグ、ミートボールなどを挙げることできる。
【0093】
また、レトルト処理(レトルト殺菌)は、原則として、容器内部の食品中央部において120℃で4分間、またはそれと同等の熱がかかる状態に加圧加熱して殺菌するものである(なお、内容物によっては温度・時間は調整され得る)。そして、この処理によって、芽胞菌の死滅を行うことができ、そして、一般的な食中毒細菌の中で最も耐熱性の高いボツリヌス菌を殺菌できるとされている。食品業界内では、殺菌効力を表す数値はF値(120℃1分で、F値=1)で、通常、F値が5?10程度の殺菌を行う。」

5m)「【図1】



5n)「【図3】



甲6:
6a)「ところが、この従来のクールパック方式では冷却温度が常温又は常温以下であるため、加熱処理後であっても包装されるまでの間の冷却工程で2次汚染の機会が多くなり、従って、竹輪の日持ちが悪くなるという問題点があり、その改善が強く望まれていた。
そこで、従来のクールパック方式に代わるものとしてホットパック方式の採用が提案されている。このホットパック方式とは、成型,加熱及び串抜きを完了した竹輪をそのまま包装した後に常温またはそれ以下の温度まで冷却させるようにしたものであり、このホットパック方式によれば、加熱処理後直ちに包装されることで2次汚染の機会が激減し、従って、竹輪の日持ちが良くなると共に、水分率が高いうちに包装されるので歩留りが良く、かつ外皮の軟らかい製品ができる等の利点がある。」(2頁左上欄5行?右上欄1行)

6b)「次に、予備冷却装置4では、包装直前における竹輪の水分率と温度がコントロールされる。即ち、串抜き直後の竹輪の水分率は70%程度で、温度は80℃程度であるが、過剰水分によるドリップ量の増加と日持ちの低下を防止するためには包装処理前に適正な水分率まで低下させることが有効と考えられる。」(3頁左下欄11?17行)

甲7:
7a)「[0026] また、本実施の形態によれば、製品寸法に切断された豆腐類Tを水槽に放つことなく、効率良くパックPに極短時間で収納できて、高い処理能力を付与し、設置スペースを少なくできる。連続自動凝固成型機1の場合は、出来立てで柔らかい絹ごし豆腐でも傷つけたり壊すことなく、ロスを最小限に抑えることができる。水を大量に使うことがないので、排水量を軽減でき、水槽における雑菌汚染もなく、経済的かつ衛生的である。なお、豆腐を水に晒すと(水槽に放つと)、栄養分や糖分が流失するため甘味や旨味、栄養価、機能性・生理効果が低下する面もあり、豆腐の温度が60?90℃程度の熱い状態でホットパックされると空気中から混入した雑菌の増殖を抑制できる。」

甲8:
8a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、所定量の水及び必要に応じて他の食品材料ともに加熱調理され、最終食品に粘性を付与する用途で用いられる、容器入り液状又はペースト状食品組成物及びその製造方法に関する。」

8b)「【0033】
食品組成物の容器への充填密閉と加熱殺菌処理との順序は特に限定されず、加熱殺菌処理は食品組成物の容器への充填前に行ってもよいし、容器への充填後に行ってもよいし、あるいは容器への充填の前後に行うこともできる。典型的には、食品組成物を容器に充填密封した後に加熱殺菌処理を施す様式(後殺菌)と、食品組成物を予め加熱殺菌処理(好ましくは70℃?90℃の温度で加熱殺菌処理)し、加熱殺菌処理の温度(好ましくは70℃以上)を保持した状態で食品組成物を容器に充填密封し、容器を殺菌する様式(ホットパック殺菌)とが挙げられる。
【0034】
本発明の食品組成物の製造においては、加熱殺菌処理の前に、食品材料の存在下で加熱調理する工程を更に含んでもよい。また、前述のホットパック殺菌の場合には、加熱調理工程を加熱殺菌処理と兼ねて行うこともできる。加熱調理工程において澱粉が糊化する可能性があることから、好ましくは、予め糖質、水、食品材料等の混合物を、澱粉を添加せずに加熱調理し、得られた加熱調理組成物を澱粉と混合して液状又はペースト状食品組成物を調製し、該液状又はペースト状食品組成物を加熱殺菌する。」

甲9:
9a)「・・・が揃っている。いずれも200?700℃(Dシリーズは700℃以上も可能)の高温過熱蒸気を発生させることができ、蒸気温度精度も±1℃と温度制御性にも優れる。高周波インバータを使用しない変圧器方式のため、大幅なコスト削減も実現。熱効率も95%以上と高く、省エネにも貢献する。食品加工での焼成・乾燥用途では、生魚の焼成はもちろん、焼成後に冷凍保存していた焼き魚の解凍前の殺菌処理や・・・などで過熱蒸気の有用性評価が高いという。」(47頁左欄6行?右欄6行)

甲10:
10a)「【請求項1】 凍結魚介類肉又は凍結食肉類の表面を100℃以上の過熱水蒸気により加熱処理して表面の菌数を低減することを特徴とする凍結魚介類肉又は凍結食肉類の処理方法。」

10b)「【0005】過熱水蒸気とは、常圧下においては、水が沸騰して生じる100℃の水蒸気を更に加熱することによって100℃以上に熱せられたものである。常圧に近い低圧状態で加熱された過熱水蒸気は同温度の乾燥空気に比べて熱容量が大きく伝熱効果が高いことは、従来からの公知の事実であり、各メーカーから、商業用規模の過熱水蒸気による加工調理用加熱装置も製造・販売されている。また、常圧過熱水蒸気の伝熱効果の高さを利用して、食品の殺菌に利用する試みがなされているが、高温高圧を利用したレトルト殺菌とは異なり、含有水分の高い食品では食品の中心温度が100℃以上に到達しないことから、完全殺菌が不可能である欠点がある。そのため、食品の殺菌の用途としては、主に粉流体並びに小サイズの食品の殺菌及び乾燥に利用されてきている程度にとどまっているのが現状である。」

10c)「【0010】殺菌対象となる被加熱物の表面に暴露する過熱水蒸気の雰囲気温度はなるべく高温であることが菌数低減効果の上では有利であるが、温度が高くなってくると機械装置にかかる負担や製造コストが増大する。一般に、低温空気中では水蒸気の混合割合が増加するほど水の蒸発速度は減少するが、170℃程度以上の温度帯では、逆に空気中の水蒸気の混合割合が増加するほど水の蒸発速度が上昇することが知られている(食品と開発、vol. 26 No.8 7頁を参照)。従って、170℃以上の温度帯の過熱水蒸気を食品表面に暴露することによって、凍結水が速やかに蒸発し、表面に存在する菌体の温度上昇が速やかに起こることとなる。よって、好ましい過熱水蒸気の雰囲気温度は170?350℃である。更に好ましくは200?300℃である。上記の温度帯での過熱水蒸気の暴露によって、被加熱物表面への蒸気の結露が当初起こるが、それに引き続き表面に存在する水分の蒸発・熱交換が発生し、効果的に被加熱物表面に局在する微生物を死滅に至らしめる。」

10d)「【0012】一般に、過熱水蒸気雰囲気中で5秒以下の処理を行った場合、被加熱物表面の温度が十分に上昇せず、菌数低減効果がほとんど現れない。逆に120秒以上の処理では、熱変性部位の深さが被加熱物表面から3mm以内にとどまらず更に内部に変性が進むため好ましくない。以上のことから、5?120秒の間がおおむね適正な処理時間の目安となる。しかし、被加熱物の大きさ、形状によって適正な時間は変化する上に、近年、凍結中の品質保持の目的で、肉類表面が氷層(グレーズ)に覆われている凍結原料が多く見られるため、その場合の処理時間は表面のグレーズを除去するための加熱時間を加味しなければならない。」

甲11:
11a)「

」(205頁、図3)

11b)「・・・蒸気を指すが,図3においては飽和水蒸気を表す曲線(飽和蒸気線)の右下の領域が過熱水蒸気を表している。圧力は大気圧に限定されないが,圧力操作されたものを特・・・」(205頁右欄2?4行)

甲12:
12a)「過熱水蒸気および高温空気による水産乾製品の表面殺菌」(373頁、表題)

12b)「3. サケ乾燥品の過熱水蒸気処理
・・・ベア上下に設置した蒸気噴出口より供給した.過熱水蒸気による処理温度は120℃および180℃とし,処理時間は30秒,1分,3分および5分とした.なお,同様の試料につい・・・」(374頁左欄24?32行)

12c)「2. 過熱水蒸気雰囲気下にサケ乾燥品を通過させた場合の影響
(1) 一般生菌数の変化
サケ乾燥品を高温空気および過熱水蒸気で処理した場合の一般生菌数の変化をFig.1に示す.・・・の処理で菌数が検出限界以下となった.一方,過熱水蒸気処理では処理時間が1分以内で菌数の大幅な低下がみられ,120℃の過熱水蒸気では1分の処理で,180℃の過熱水蒸気では30秒の処理で菌数が検出限界以下となった.な・・・」(374頁右欄下から13行?375頁左欄2行)

12d)「steam : □, 120℃ ; ○, 180℃. Superheated steam with 115kg/h was injected into the conveyer system.」(375頁左欄Fig.1の脚注)

12e)「・・・は23.1%となった.一方,過熱水蒸気を用いた場合,30秒の処理時間では水分含量の変化はわずかであったが,1分処理では120℃で24.6%,180℃で23.7%に,3分処理では120℃で23.8%,180℃で20.9%に水分含量が減少し,特に180℃では高温空気と過熱水蒸気の水分含量の減少率に大きな差が生じた.ところで処理前の品温は室温程度であり,処理直後では過熱水蒸気が100℃以下になるため水分の凝縮が起こることが考えられる.実際,過熱水蒸気で処理した直後のサケ乾燥品では濡れた状態が確認できた.これに対して過熱水蒸気処理1分以降では試料の表面温度が100℃に達したため,過熱水蒸気の顕熱による乾燥が起こり水分含量が減少したと考えられた.こうした過熱水蒸気の加熱初期段階の水分凝縮は過熱水蒸気を用いた場合の顕著な特長であり,加熱初期段階の水分による重量増加については多くの報告がある^(23)?26)).ただし,本試験では水分凝縮による重量増加は少量であるため処理直後の重量の増加を計測することはできなかった.」(375頁右欄下から4行?376頁左欄13行)

(イ)引用発明
i 甲1には、常温流通包装食品の製造方法についての記載があるところ(摘示1a?1d)、その実施例1の記載からみて、甲1には以下の発明が記載されていると認める。
「ノルウェイ産IQF凍結ししゃも(1尾あたりの重量約10g)400尾を、流水解凍後、10%食塩水に1分間浸漬し調味したししゃもを、雰囲気温度250℃に調整した過熱蒸気装置(清本鉄工株式会社製、型式SO-2000)で6分間処理し、該過熱蒸気処理後のししゃもは、通常の焼魚の形状をしており、このししゃもを4尾ずつ、合成樹脂製成型容器(構造:ポリプロピレン/エチレンビニルアルコール/ポリプロピレン。外径:縦約15cm、横約6cm、高さ約2cm)に充填し、合成樹脂製の蓋用フィルム(構造:ポリエステル/ナイロン/アルミ箔/ポリプロピレン)でシールして密封し、次いで加圧加熱殺菌(F_(0 )値6)を施して、100パック分の焼きししゃも製品を得る方法」(以下「甲1発明」という。)

ii 甲5には、魚類加工品の製造方法についての記載があるところ(摘示5a?5n)、特に、請求項1、4、【0043】、【0056】、【0071】の記載からみて、以下の発明が記載されていると認める。
「骨を有する魚類を加熱釜で加熱する工程を含み、
前記加熱釜は、湯気を発生させる湯気発生装置に接続されており、
前記湯気発生装置は、互いに独立する液体経路および蒸気経路を有し、前記液体経路を流動する液体と前記蒸気経路を流動する加熱用蒸気との間で熱交換が行われる熱交換器から構成されており、
前記熱交換器の前記蒸気経路には、ボイラーからの高圧蒸気が導入され、
前記熱交換器の前記液体経路の上端は、湯気供給配管を通じて、前記加熱釜の内部に配置された湯気噴出部に接続されており、
前記熱交換器の前記液体経路の下端は、連通管を通して前記加熱釜に接続されている、魚類加工品の製造方法であって、
前記加熱釜で加熱する工程の後、前記加熱釜で加熱された前記魚類を混練する工程と、前記混練された魚類を、高温蒸気焼成機で焼成する工程とをさらに含み、
前記加熱釜において、加熱温度110?120℃、0.15MPaA?0.2MPaAで、1時間前後の蒸気加熱を行い、
前記混練後にフレーク状になった魚類(魚類加工品)を高温蒸気焼成機で焼成し、
高温蒸気焼成機では、過熱蒸気の温度を300℃?400℃(典型的な一例は、400℃±10℃)、あるいは300℃?550℃(典型的な一例は、450℃±10℃)に設定する、
上記製造方法」(以下「甲5発明」という。)

イ 判断
(ア)本件発明1について
i 甲1発明について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「過熱蒸気処理後のししゃも」は魚肉を含むものであり、また、「焼魚の形状」をしているから焼成されているといえ、本件発明1の「焼成された魚肉」に相当する(なお、「焼成」については、下記(4)イも参照されたい。)。
甲1発明は「ししゃもを4尾ずつ、合成樹脂製成型容器(構造:ポリプロピレン/エチレンビニルアルコール/ポリプロピレン。外径:縦約15cm、横約6cm、高さ約2cm)に充填し、合成樹脂製の蓋用フィルム(構造:ポリエステル/ナイロン/アルミ箔/ポリプロピレン)でシールして密封」するものであるところ、当該「容器」は本件発明1の「パック」に相当するから、甲1発明のこの工程は、本件発明1の「パックに充填する工程」、及び「前記パックを密封する工程」に相当する。
その後、甲1発明は「加圧加熱殺菌(F_(0 )値6)を施して、100パック分の焼きししゃも製品を得る」ところ、当該工程は、本件発明1の「加熱して加熱殺菌する工程」に相当する。
甲1発明の「100パック分の焼きししゃも製品」は、本件発明1の「パック入り焼成魚肉」に相当する。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「焼成された魚肉を加熱して加熱殺菌する工程と、魚肉をパックに充填する工程と、前記パックを密封する工程とを含む、パック入り焼成魚肉の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
魚肉について、本件発明1は「魚肉のフレーク」又は「魚肉フレーク」であるのに対し、甲1発明は「ししゃも」、すなわち、フレークではなく魚の形状そのままである点

<相違点2>
加熱殺菌する工程について、本件発明1は「所定時間以上、所定温度以上になるように」加熱し、「前記所定時間が3分であり、前記所定温度が80℃である」と特定しているのに対し、甲1発明は時間及び温度についての特定がない点

<相違点3>
加熱殺菌する工程及びパックに充填する工程について、本件発明1は「加熱殺菌された魚肉フレークを前記所定温度以上に維持したままパックに充填する」のに対し、甲1発明は、「シールして密封し、次いで加圧加熱殺菌」するもの、すなわち、実質的に加熱殺菌する工程とパックに充填する工程の順序が逆であり、かつ、充填する際の温度が不明である点

<相違点4>
加熱殺菌する工程について、本件発明1は「過熱水蒸気が吹き出す空間内に対象魚肉フレークを存在させることによって行われ」るのに対し、甲1発明は「加圧加熱殺菌(F_(0 )値6)を施」すとしている点

上記相違点1?4に係る本件発明1の技術的事項は甲1に記載されておらず、技術常識でもないので、いずれも実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は甲1に記載された発明であるとはいえない。

次に進歩性について検討する。
事案に鑑みて、加熱殺菌する工程における処理のパラメーター以外の相違点である、相違点1、3及び4について併せて検討する。
甲1には、加熱殺菌する工程の後にパックに充填すること、パックに充填する際に所定温度(すなわち80℃)以上に維持したままとすること、加熱殺菌する工程を過熱水蒸気が吹き出す空間内に対象魚肉フレークを存在させることによって行うことについて記載も示唆もされていない。
甲9に、200?700℃の高温過熱蒸気を発生させることができること、食品加工での焼成・乾燥用途では、生魚の焼成はもちろん、焼成後に冷凍保存していた焼き魚の解凍前の殺菌処理等において過熱蒸気の有用性評価が高いこと(摘示9a)、甲10に、凍結魚介類肉又は凍結食肉類の表面を100℃以上の過熱水蒸気により加熱処理して表面の菌数を低減すること、好ましい過熱水蒸気の雰囲気温度は170?350℃であること(摘示10a?10d)、甲12に、過熱水蒸気によって水産乾製品の表面を殺菌すること、120℃及び180℃の過熱水蒸気を用いること(摘示12a?12e)がそれぞれ記載されている。
しかし、甲1発明における過熱蒸気装置による処理は、焼魚の形状とするための処理であって、該処理の後、密封した後に加圧加熱殺菌が行われていることからみて、当該処理自体は加熱殺菌処理を目的としたものであるとはいえないこと、甲1に記載の発明は、専ら食品素材を過熱蒸気により処理した後、容器に密封し、その後加圧加熱殺菌を行うものであり、それによって甲1における課題を解決したものであり(摘示1a、1b)、かかる過熱蒸気による処理、容器への密封、加圧加熱殺菌の工程順を変更してしまうと、上記課題を解決できるとはいえないことになるから、上記のいずれの証拠を考慮しても、甲1発明について、過熱水蒸気による加熱殺菌する工程の後にパックに充填すること、パックに充填する際に所定温度(すなわち80℃)以上に維持したままとすること、加熱殺菌する工程を過熱水蒸気が吹き出す空間内に対象魚肉フレークを存在させることによって行うことは、いずれも当業者が容易に想到し得たものということはできない。
また、甲6には、ホットパック方式とは、成型,加熱及び串抜きを完了した竹輪をそのまま包装した後に常温またはそれ以下の温度まで冷却させるようにしたものであり、このホットパック方式によれば、加熱処理後直ちに包装されることで2次汚染の機会が激減すること、串抜き直後の竹輪の温度は80℃程度であること(摘示6a、6b)、甲7には、豆腐の温度が60?90℃程度の熱い状態でホットパックされると空気中から混入した雑菌の増殖を抑制できること(摘示7a)、甲8には、液状又はペースト状食品組成物について、典型的には、食品組成物を容器に充填密封した後に加熱殺菌処理を施す様式(後殺菌)と、食品組成物を予め加熱殺菌処理(好ましくは70℃?90℃の温度で加熱殺菌処理)し、加熱殺菌処理の温度(好ましくは70℃以上)を保持した状態で食品組成物を容器に充填密封し、容器を殺菌する様式(ホットパック殺菌)とが挙げられること、ホットパック殺菌の場合には、加熱調理工程を加熱殺菌処理と兼ねて行うこともできること(摘示8a、8b)が記載されているが、いずれも対象となる食品はフレーク状のものではない。
また、甲2にはフレーク状魚肉製品に関する事項が、甲3には魚肉フレークに関する事項が記載されているに過ぎず、甲9、10、12について検討しても、上述のとおり、特定温度での過熱水蒸気による殺菌処理が知られていることを示しているだけである。
したがって、いずれの証拠を考慮しても、甲1発明について、魚肉をフレークとすることを前提として、過熱水蒸気による加熱殺菌する工程の後にパックに充填すること、パックに充填する際に所定温度(すなわち80℃)以上に維持したままとすること、加熱殺菌する工程を過熱水蒸気が吹き出す空間内に対象魚肉フレークを存在させることによって行うことは、いずれの証拠にも記載がなく、これらの技術的事項を当業者が容易に想到し得たものということはできない。
したがって、相違点1、3及び4に係る本件発明1の技術的事項を当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。

そして、本件発明1は、密封状態で市場に流通させることができる程度に一般生菌数が低減された魚肉フレーク製品でありながら、フレーク状に加工した後に加熱殺菌工程を経ない、いわゆる一般家庭で製造される手作りの焼成魚肉フレークと同様の食感、食味、好ましくは外観形状を備えた魚肉フレーク製品を提供することができ、フレーク表面がいわば二度焼きに近い状態に加熱され、焼き上げ感が向上するとともに、表面に形成された蛋白質の乾燥皮膜によって外側がカリッとし、内側がジューシーな食感が実現でき、さらに、加熱殺菌工程中にフレーク内の旨味成分が失われることが防止できるとともに、パック入りの魚肉フレークの製造効率が大幅に改善されるという(【0030】、【0031】等参照)、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。

したがって、相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ii 甲5発明について
本件発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明は、「混練後にフレーク状になった魚類(魚類加工品)を高温蒸気焼成機で焼成」するものであるところ、当該焼成により生成するものは、本件発明1の「焼成された魚肉のフレーク」に相当する。
したがって、本件発明1と甲5発明とは、
「焼成魚肉フレークの製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点5>
製造方法について、本件発明1は「焼成された魚肉のフレークを所定時間以上、所定温度以上になるように加熱して加熱殺菌する工程と、加熱殺菌された魚肉フレークを前記所定温度以上に維持したままパックに充填する工程と、前記パックを密封する工程とを含み、前記加熱殺菌する工程が、過熱水蒸気が吹き出す空間内に対象魚肉フレークを存在させることによって行われ」るパック入り焼成魚肉フレークの製造方法であって、「前記所定時間が3分であり、前記所定温度が80℃である」と特定しているのに対し、甲5発明は、加熱殺菌工程、パックに充填する工程を特定しておらず、パック入りであることを特定していない点

上記相違点5に係る本件発明1の技術的事項は甲5に記載されておらず、技術常識でもないので、この点は実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は甲5に記載された発明であるとはいえない。

次に進歩性について検討する。
上記相違点5について検討する。
甲5には、焼成後において冷却され(自然冷却または強制冷却)、容器内に詰められて包装されること(摘示5k)、レトルト殺菌について、また、レトルト処理(レトルト殺菌)は、原則として、容器内部の食品中央部において120℃で4分間行うことが記載されているが(摘示5l)、容器に密封する前に加熱殺菌すること、加熱殺菌する工程を過熱水蒸気が吹き出す空間内で行うことは記載も示唆もされていない。
甲11には、図3として蒸気線からみた食品加工への水蒸気利用が示されているに過ぎない(摘示11a、b)。
上述のとおり、甲5には、焼成後に冷却され、容器に詰められて包装されること、レトルト殺菌について記載されているところ、フレーク状になった魚類(魚類加工品)に関するものではない上記iで示した甲2、3、6?10、12に記載された事項及び上述の甲11に記載された事項を考慮しても、甲5に記載の方法を変更する動機付けはないから、甲2、3、6?12に記載された事項、及び甲5のレトルト殺菌についての記載を参酌しても、甲5発明において上記相違点5に係る本件発明1の技術的事項を採用することが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
そして、本件発明1は、上記iで述べたとおりの効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は甲5に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明3?5について
本件発明3?5はいずれも本件発明1を発明特定事項としてすべて有し、直接的・間接的に引用し、さらに技術的事項を限定した発明である。
したがって、本件発明1と同様に、本件発明4は、甲1又は甲5に記載された発明であるとはいえない。
また、甲4には、サンマとイワシの加熱処理における歩留まり、加熱配管に供給する水量等についての記載、甲12には、サケ乾燥品を高温空気および過熱水蒸気で処理した場合の水分含量変化、加熱水蒸気量等についての記載があるに過ぎないから、これらの証拠を参酌しても、上記相違点1、3及び4又は相違点5に係る本件発明1の技術的事項を採用することが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、本件発明1と同様に、本件発明3?5は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、甲5に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲1について、甲1には「(A1)(D1)加熱した魚介類の可食部をミンチ状、スライス状にしたものを、好ましくは130?350℃、より好ましくは170?300℃の過熱水蒸気により、1?30分、好ましくは1?10分、より好ましくは3?8分、過熱蒸気装置により加熱する工程」を有する発明が記載されており、当該工程は、本件発明1の「(a)焼成された魚肉のフレークを所定時間以上、所定温度以上になるように加熱して加熱殺菌する工程と、」及び「(d)前記加熱殺菌する工程が、過熱水蒸気が吹き出す空間内に対象魚肉フレークを存在させることによって行われ」に該当する旨、甲5について、甲5には、「(A5)(D5)加熱温度110?120℃、0.15MPaA?0.2MPaAの条件にて加熱釜でスチーム加熱された魚肉のフレークをベルトコンベアで搬送しながら所定時間以上、180℃以上、或いは300℃?550℃過熱水蒸気により加熱する工程」を有する発明が記載されており、当該工程は、本件発明1の「(a)焼成された魚肉のフレークを所定時間以上、所定温度以上になるように加熱して加熱殺菌する工程と」及び「(d)前記加熱殺菌する工程が、過熱水蒸気が吹き出す空間内に対象魚肉フレークを存在させることによって行われるパック入り焼成魚肉フレークの製造方法。」に該当する旨主張する。
そこで検討する。
甲1に記載された過熱蒸気により処理する工程は、加熱殺菌工程と別の工程であることは甲1の請求項1、【0006】、実施例1の記載(摘示1a、1b、1d)から明らかである。
したがって、当該工程が本件発明1の加熱殺菌する工程に該当するとはいえない。
また、甲5には、甲5に記載された高温蒸気焼成機において過熱蒸気を用いる工程は、高温蒸気焼成機で焼成する工程であることが記載されており(請求項4、【0011】、【0056】?【0058】、【0068】、【0071】(摘示5a、5b、5g、5i、5j)、当該工程が加熱殺菌する工程であることは何ら記載されていないから、当該工程が本件発明1の加熱殺菌する工程に該当するともいえない。
したがって、上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。

エ まとめ
以上のとおりであるから、[申立理由1-1]、[申立理由2-1]、[申立理由1-2]及び[申立理由2-2]には理由がない。

(2)[申立理由3]について
ア 本件明細書等の記載
上記1(1)に記載したとおりである。

イ 判断
(ア)本件発明が解決しようとする課題
上記1(2)アで示したとおりである。

(イ)上記1(2)で述べたとおり、本件発明は発明の詳細な説明に記載したものである。

以下、特許異議申立人の主張について検討する。
(ウ)理由(3-1)について
本件明細書等の【0003】?【0005】には、従来技術として、二軸エクストルーダー、サイレントカッター、攪拌機を用いる魚肉フレークに関する記載があり、二軸エクストルーダーを用いた場合には、魚肉が調味料などとともに混練され、適宜の大きさに切断されたものであるので、焼成した魚の身を手ほぐしして得られる魚肉フレークとは食感や外観形状が異なり、手作り感に欠けるという欠点があること、サイレントカッターを用いた場合には、サイレントカッターによって魚肉が一様に切断され、かつ魚肉の繊維も切断されてしまうため、手ほぐしした魚肉フレークに比べると、外観形状や食感が異なるものとなってしまうのは避けられないことが記載されている。
したがって、製造方法の特性上、手ほぐしして得られる手作りの魚肉フレークとほぼ変わらぬ食感、食味、外観形状を有するものとすることができないといえる、二軸エクストルーダー又はサイレントカッターを用いる製造方法によって、上記課題が解決できないことは明らかであるから、本件発明の製造方法が二軸エクストルーダー又はサイレントカッターを用いるものではないことは当業者に明らかである。
そして、本件発明の解決しようとする課題は、一般家庭で魚を焼成し、手ほぐしして得られる手作りの魚肉フレークとほぼ変わらぬ食感、食味、外観形状を有し、しかも、魚肉フレーク製品として市場に流通させることができる焼成魚肉フレークとその製造方法を提供するというものであるところ、かかる課題に鑑みれば、本件発明が、魚肉の繊維を切断する等の方法であることによりその製造方法によっては明らかに手ほぐしして得られる手作りの魚肉フレークとほぼ変わらぬ食感、食味、外観形状を有するものとすることが不可能であるような方法までは含まないことも当業者に明らかである。
そして、本件発明は、焼成された魚肉のフレークを所定時間以上、所定温度以上になるように加熱して加熱殺菌する工程と、加熱殺菌された魚肉フレークを前記所定温度以上に維持したままパックに充填する工程と、前記パックを密封する工程とを含み、前記加熱殺菌する工程が、過熱水蒸気が吹き出す空間内に対象魚肉フレークを存在させることによって行われることを特徴とするパック入り焼成魚肉フレークの製造方法を提供することによって、上記課題を解決したものであって、焼成された魚肉のフレークを所定時間以上、所定温度以上になるように加熱して加熱殺菌するという手段を用いた上で、たとえば、【0005】には、手ほぐし又は攪拌機によりフレーク状にすることが記載されており、いずれの方法においても上記二軸エクストルーダー、サイレントカッターを用いる場合と同様の繊維の切断等は生じないといえるから、手ほぐし以外にもたとえば撹拌の方法を適宜設定することにより、手ほぐしして得られる手作りの魚肉フレークとほぼ変わらぬ食感、食味、外観形状を有するものとすることができるといえる。
したがって、この点において本件発明は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(エ)理由(3-3)について
本件明細書等には、好適な一態様として、加熱殺菌工程の前後で、対象魚肉フレークの質量変化が+4質量%以下に抑制されていること、質量変化が質量比で+5%以上になると、凝縮水の付着が多くなりすぎて、魚肉フレークが焼成魚肉フレークであるにもかかわらず、濡れて湿ったような状態となるので好ましくないこと、前記加熱殺菌工程の前後で、対象魚肉フレークの質量変化は+4質量%以下であるのが好ましく、より好ましくは+2質量%以下、さらに好ましくは+1質量%以下であること(【0025】)、製品としての歩留まりという観点からは、前記加熱殺菌工程の前後で、対象魚肉フレークの質量変化は-2質量%以下であることが好ましく、-1質量%以下であればより好ましく、質量が減少しないのがさらに好ましいこと(【0026】)が記載され、具体例として、紅サケについて、過熱水蒸気温度が150℃、過熱水蒸気量が170kg/hの場合には、サケフレークの質量は、加熱殺菌前後で実に5.8質量%も増加し、全体的に濡れてべちゃついた感じのするものとなり、過熱水蒸気量が100kg/h?150kg/hの場合にも同様の傾向となったこと、過熱水蒸気の温度が150℃では低すぎること等から、過熱水蒸気温度が150℃の場合には、いずれの蒸気量についても「×」(不適)と判定されたこと(【0047】)、サケフレークの芯温が80℃以上である時間が安定して3分以上となり、かつ、凝縮水による質量増加が+4.0質量%以下となるようにサケフレークを加熱する条件が(【0059】)記載されている。
これらの記載から、質量変化が+5%以上になると魚肉フレークが濡れて湿ったような状態となるので好ましくないこと、加熱殺菌前後で5.8質量%増加した場合には、全体的に濡れてべちゃついた感じのするものとなり、芯温80℃以上の時間と質量変化とに基づく判定が不適と判定されたことは理解できるが、これらの記載は、本件発明におけるより好ましい条件を示すためのものであって、質量変化が+5%以上となった場合に直ちに、「一般家庭で魚を焼成し、手ほぐしして得られる手作りの魚肉フレークとほぼ変わらぬ食感、食味、外観形状を有し、しかも、魚肉フレーク製品として市場に流通させることができる焼成魚肉フレークとその製造方法を提供する」という本件発明の課題が解決できなくなるということはできず、本件明細書等にそのような記載もない。
また、濡れて湿ったような状態になるというだけでは、ある程度の範囲のものを許容するといえる「一般家庭で魚を焼成し、手ほぐしして得られる手作りの魚肉フレークとほぼ変わらぬ食感、食味、外観形状を有」するという点に関する本件発明の課題を解決できないということもできない。
そして、本件発明は、焼成された魚肉のフレークを特定の条件下、すなわち、所定時間以上、所定温度以上となるように過熱水蒸気に曝して加熱することによって、魚肉フレークを、その本来の食感、食味、外観形状を損なうことなく、焼成魚肉フレーク製品として市場に流通させることができる程度に十分に細菌汚染のないものとすることができることを見出したものであり、焼成、ほぐし後に加熱殺菌された魚肉のフレークが密封パックに充填されたパック入りの焼成魚肉フレークであって、パックを開封しパックから取り出した直後に測定される前記焼成魚肉フレークの一般生菌数が100CFU/g以下であり(この生菌数の点は、上記所定時間以上、所定温度以上とすることで達成されると認める。)、焼成、ほぐし後に加熱殺菌を受けない焼成魚肉フレークの食感、食味が保持されているパック入り焼成魚肉フレークを提供することによって課題を解決したというものであるから(【0013】、【0014】)、質量変化が+5%以上になった場合であっても、当業者は上記課題を一定程度解決できると認識できるといえる。
よって、この点において本件発明が、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものでないということはできない。

(オ)理由(3-4)について
本件明細書等には、好適な一態様として、空間内に吹き出す過熱水蒸気の温度は200℃?280℃であり、過熱水蒸気の量は70kg/h?170kg/hであることが記載され(【0027】)、具体例として、紅サケについて、過熱水蒸気温度が150℃の場合には、サケフレークの質量は、加熱殺菌前後で実に5.8質量%も増加し、全体的に濡れてべちゃついた感じのするものとなり、過熱水蒸気量が100kg/h?150kg/hの場合にも同様の傾向となったこと、過熱水蒸気の温度が150℃では低すぎること等から、過熱水蒸気温度が150℃の場合には、いずれの蒸気量についても「×」(不適)と判定されたこと(【0047】)、サケフレークの芯温が80℃以上である時間が安定して3分以上となり、かつ、凝縮水による質量増加が+4.0質量%以下となるようにサケフレークを加熱する条件が(【0059】)記載されている。
これらの記載から、好適な態様では過熱水蒸気の温度は200℃?280℃であること、過熱水蒸気温度が150℃の場合には、魚肉フレークが濡れてべちゃついた感じのするものとなること、過熱水蒸気の温度が150℃では低すぎること等から、過熱水蒸気温度が150℃の場合には、いずれの蒸気量についても「×」(不適)と判定されたことは理解できるが、これらの記載は、本件発明におけるより好ましい条件を示すためのものであって、過熱水蒸気の温度が150℃である場合に直ちに、「一般家庭で魚を焼成し、手ほぐしして得られる手作りの魚肉フレークとほぼ変わらぬ食感、食味、外観形状を有し、しかも、魚肉フレーク製品として市場に流通させることができる焼成魚肉フレークとその製造方法を提供する」という本件発明の課題が解決できなくなるということはできず、そのような記載も本件明細書等にはない。
また、濡れてべちゃついた感じのするものとなるというだけでは、ある程度の範囲のものを許容するといえる「一般家庭で魚を焼成し、手ほぐしして得られる手作りの魚肉フレークとほぼ変わらぬ食感、食味、外観形状を有」するという点に関する本件発明の課題を解決できないということもできない。
本件発明は、本件発明で特定される所定の条件で加熱殺菌することで、課題を解決したことを技術的思想とする発明で、そのような構成を有していない方法に比べて、相対的に課題を解決していればよいといえる。
そして、本件発明は、焼成された魚肉のフレークを特定の条件下、すなわち、所定時間以上、所定温度以上となるように過熱水蒸気に曝して加熱することによって、魚肉フレークを、その本来の食感、食味、外観形状を損なうことなく、焼成魚肉フレーク製品として市場に流通させることができる程度に十分に細菌汚染のないものとすることができることを見出したものであり、焼成、ほぐし後に加熱殺菌された魚肉のフレークが密封パックに充填されたパック入りの焼成魚肉フレークであって、パックを開封しパックから取り出した直後に測定される前記焼成魚肉フレークの一般生菌数が100CFU/g以下であり(この生菌数の点は、上記所定時間以上、所定温度以上とすることで達成されると認める。)、焼成、ほぐし後に加熱殺菌を受けない焼成魚肉フレークの食感、食味が保持されているパック入り焼成魚肉フレークを提供することによって課題を解決したというものであるから(【0013】、【0014】)、過熱水蒸気の温度が150℃である場合であっても、当業者は上記課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、この点において本件発明が、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものでないということはできない。

(カ)理由(3-5)について
この理由は、本件明細書等の【0023】の記載によれば、80℃以上、3分以上の条件を満たすことで、製品として市場に流通させることができるレベルにまで一般生菌数を低減させることができると解されるから、加熱殺菌する工程がそのような条件を満たすことが必要である一方で、過熱水蒸気の温度が200?280℃であっても、過熱水蒸気量によっては(特に少ない場合)そのような条件を満たさない場合があるから、本件発明は課題を解決できないものを包含するということを根拠とする理由であると解される。
そこで検討するに、上記1(1)で述べたとおり、本件訂正によって、請求項1の所定時間及び所定温度が3分及び80℃であることが特定されたから、本件発明は80℃以上、3分以上の条件を満たすものであり、製品として市場に流通させることができるレベルにまで一般生菌数を低減させることができるものである。
したがって、本件発明は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和3年7月5日付けの意見書において、本件発明において、過熱水蒸気温度が150℃以下の場合には、過熱水蒸気温度が“顕熱だけではカツオフレークを十分に加熱することができず、潜熱を奪われ凝縮水となった過熱水蒸気がフレーク表面に付着”(【0047】【0109】【0146】)することにより、例え、芯温80℃以上、3分以上の条件を満たしても、“焼成魚肉フレークであるにもかかわらず”(【0035】)“全体的に濡れてべちゃついた感じのするもの”で“「×」(不適)”(【0047】【0109】【0146】)となり、【0006】に記載の従来品と同様に、“焼成した魚肉フレーク本来の食感や外観形状が失われ”ている蓋然性が高い。したがって、【0008】に記載の「一般家庭で魚を焼成し、手ほぐしして得られる手作りの魚肉フレークとほぼ変わらぬ食感、食味、外観形状」を有さない蓋然性が高いから、少なくとも本件請求項1及び3に係る発明は、発明の課題を解決できない範囲を含んでいるから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさない、旨主張する。
そこで、検討するに、この主張は、実施例同士の相対的な効果の程度の違いに着目したものであり、上記理由(3-4)についての主張と同様の主張であるといえるところ、上記イ(オ)において理由(3-4)について述べたとおりであるから、この主張を採用することはできない。

エ まとめ
以上のとおりであるから、[申立理由3](3-1、3-3?3-5)には理由がない。

(3)[申立理由4]について
上述のとおり、[申立理由4]の具体的な主張内容は[申立理由3]と同様であり、[申立理由3](理由(3-2)も含めて)には理由がないところ、発明の詳細な説明の記載によって、本件発明の課題が解決できることが裏付けられているのであるから、当然課題解決の前提となる発明の実施ができるといえ、本件の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(4)[申立理由5]について
ア 理由(5-1)について
この理由は、請求項に記載の「所定時間」及び「所定温度」が具体的にどのような数値のものであるかが請求項に記載されていないことを理由とするものと解されるが、そもそも、所定時間及び所定温度が具体的な時間や温度で記載されていないことのみで特許を受けようとする発明が明確でないという理由はない。
しかも、本件訂正によって、請求項1の所定時間及び所定温度が3分及び80℃であることが限定されたのであるから、この理由は主張の前提となる記載がないものとなった。
したがって、この点において、本件発明が明確でないとはいえない。

イ 理由(5-2)について
本件発明の「焼成された」、「焼成」について、本件明細書等にはその定義等の説明はない。
そこで、魚肉フレークを含む食品分野における「焼成」の意味について甲5及び甲9の記載を参照して検討するに、甲5には「【0071】本実施形態の高温蒸気焼成機70では、開放型の焼成室77であっても、過熱蒸気の温度を300℃?400℃(典型的な一例は、400℃±10℃)、あるいは300℃?550℃(典型的な一例は、450℃±10℃)に設定すれば、例えば、未解凍の冷凍魚(冷凍サバなど)を数分で、解凍だけでなく焼き工程も完了させることができるレベルにすることができる。したがって、すでに加熱して混練した魚類65を焼成する場合、過熱蒸気75によって良好に焼成することができる。【0072】なお、噴出しパイプ74から噴出させる過熱蒸気75の温度は、180℃以上であることが好ましい。これは、湯気(飽和蒸気)を加熱してなる過熱蒸気は、180℃前後でその性質が変化し、食材などの加熱処理に適したものになるからである。さらに説明すると、飽和蒸気を加熱した過熱蒸気は、非常に軽く、囲われた空間内の隅々まで充満しやすく、その体積膨張率が高く、含有酸素量も少なく、熱伝達速度も速くなるという特長を有しており、このような過熱蒸気を用いて食材を加熱した場合には、食材の表層部を焦がすことができ、外層部に浸透して、食材の内部温度を上げ、表層部の水分のみを最も多く蒸発させることができるので、表面がこんがりとして内部がジューシーな焼き上がりを実現することができる。過熱蒸気は、わずかな熱量の変化で急速に温度変化するという性質を持っているので、120℃程度の比較的不安定な過熱蒸気よりも、180℃以上の過熱蒸気を発生させて、焼成室77の内部に導入することが、食品の加熱処理においては好ましい。」(摘示5j。下線は当審による。以下同様。)との記載があり、甲9には「食品加工での焼成・乾燥用途では、生魚の焼成はもちろん、焼成後に冷凍保存していた焼き魚の解凍前の殺菌処理」(摘示9a)との記載があるから、「焼成」との語は当該分野に周知の技術的用語であるといえ、焼くことを意味するといえるし、請求項1の全体の用語表現から焼成と過熱水蒸気による殺菌は別の概念と捉えることができ、過熱水蒸気で加熱して焼成し、引き続いて再度過熱水蒸気で殺菌する場合は、本件発明に該当する場合があるといえるから、本件発明の「焼成された」、「焼成」の技術的な意味は明確である。
したがって、この点において本件発明が明確でないとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、[申立理由5]には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1、3?5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1、3?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
特許異議申立の対象であった請求項2は、訂正請求により削除されたので、請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成された魚肉のフレークを所定時間以上、所定温度以上になるように加熱して加熱殺菌する工程と、加熱殺菌された魚肉フレークを前記所定温度以上に維持したままパックに充填する工程と、前記パックを密封する工程とを含み、前記加熱殺菌する工程が、過熱水蒸気が吹き出す空間内に対象魚肉フレークを存在させることによって行われ、前記所定時間が3分であり、前記所定温度が80℃であるパック入り焼成魚肉フレークの製造方法。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記加熱殺菌工程の前後で、対象魚肉フレークの質量変化が+4質量%以下に抑制されている請求項1記載のパック入り焼成魚肉フレークの製造方法。
【請求項4】
前記空間内に吹き出す過熱水蒸気の温度が200℃?280℃である請求項1又は3記載のパック入り焼成魚肉フレークの製造方法。
【請求項5】
前記空間内に吹き出す過熱水蒸気の量が70kg/h?170kg/h(ただし、過熱水蒸気の温度が200℃及び280℃のときには過熱水蒸気の量70kg/hの場合を除く)である請求項4記載のパック入り焼成魚肉フレークの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-08-20 
出願番号 特願2019-565132(P2019-565132)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A23B)
P 1 651・ 121- YAA (A23B)
P 1 651・ 113- YAA (A23B)
P 1 651・ 851- YAA (A23B)
P 1 651・ 537- YAA (A23B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平林 由利子  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 冨永 保
関 美祝
登録日 2020-06-23 
登録番号 特許第6722363号(P6722363)
権利者 株式会社STIフードホールディングス
発明の名称 パック入り焼成魚肉フレークとその製造方法  
代理人 特許業務法人須磨特許事務所  
代理人 特許業務法人須磨特許事務所  

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