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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
管理番号 1378751
異議申立番号 異議2020-700809  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-21 
確定日 2021-10-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6683374号発明「反射防止フィルムおよびディスプレイ装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6683374号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6683374号(以下「本件特許」という。)の請求項1?15に係る特許についての出願(特願2018-521166号)は、2016年(平成28年)9月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年9月11日、韓国、2016年9月9日、韓国)を国際出願日とする出願であって、令和2年3月30日にその特許権の設定登録がされ、令和2年4月22日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和2年10月21日に特許異議申立人 高石恵子(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和 3年 1月 8日付け:取消理由通知書
令和 3年 6月18日付け:意見書(特許権者)


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?15に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
表面の凹凸形状の十点平均粗さ(Rz)が0.05μm乃至0.2μmであり、内部ヘイズが0.6%乃至2.7%であるハードコーティング層;および
前記ハードコーティング層に形成された低屈折層;を含む、反射防止フィルムであって、
前記反射防止フィルムに対する反射光源の拡散分布の結果で、正反射光度値に対する正反射からの+1度および-1度の角度でそれぞれの光度値の比率の平均値が0.005ないし0.100であり、
前記反射防止フィルムに対する反射光源の拡散分布では、45度の入射角を適用し、
前記正反射光度値は、入射角の正反射に相当する45度での反射拡散光度値である、反射防止フィルム。
【請求項2】
380nm乃至780nmの波長領域で前記反射防止フィルムの反射率が1.6%以下である、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記ハードコーティング層は、光重合性化合物の(共)重合体を含むバインダー樹脂および前記バインダー樹脂に分散された有機または無機微粒子;を含む、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
前記有機または無機微粒子と前記バインダー樹脂との間の屈折率差が0.01ないし0.08である、請求項3に記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記ハードコーティング層は、1nm乃至150nmの直径を有する無機ナノ粒子をさらに含む、請求項3に記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
前記ハードコーティング層のバインダー樹脂は、重量平均分子量10、000以上の高分子量(共)重合体をさらに含む、請求項3に記載の反射防止フィルム。
【請求項7】
前記低屈折層は、光重合性化合物の(共)重合体と光反応性作用基を含む含フッ素化合物またはシリコーン系化合物を含むバインダー樹脂を含む、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項8】
前記含フッ素化合物またはシリコーン系化合物に含まれる光反応性作用基は、(メト)アクリレート基、エポキシド基、ビニル(Vinyl)基およびチオール(Thiol)基からなる群より選択された1種以上の作用基を含む、請求項7に記載の反射防止フィルム。
【請求項9】
前記光反応性作用基を含む含フッ素化合物は、i)一つ以上の光反応性作用基が置換され、少なくとも一つの炭素に1つ以上のフッ素が置換された脂肪族化合物または脂肪族環化合物;ii)1つ以上の光反応性作用基に置換され、少なくとも一つの水素がフッ素に置換され、一つ以上の炭素がケイ素に置換されたヘテロ(hetero)脂肪族化合物またはヘテロ(hetero)脂肪族環化合物;iii)一つ以上の光反応性作用基が置換され、少なくとも一つのシリコンに1つ以上のフッ素が置換されたポリジアルキルシロキサン系高分子;およびiv)1つ以上の光反応性作用基に置換され少なくとも一つの水素がフッ素に置換されたポリエーテル化合物;からなる群より選択された1種以上を含む、請求項7に記載の反射防止フィルム。
【請求項10】
前記バインダー樹脂に分散された無機微細粒子をさらに含む、請求項7に記載の反射防止フィルム。
【請求項11】
前記低屈折層に含まれる無機微細粒子は、10ないし200nmの数平均粒径を有する中空状無機微細粒子、および0.5ないし10nmの数平均粒径を有するソリッド型無機微細粒子からなる群より選択された1種以上を含む、請求項10に記載の反射防止フィルム。
【請求項12】
前記低屈折層は、前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比前記無機微細粒子10ないし400重量部、および前記光反応性作用基を含む含フッ素化合物またはシリコーン系化合物20ないし300重量部を含む、請求項10に記載の反射防止フィルム。
【請求項13】
前記低屈折層のバインダー樹脂は、反応性作用基が1つ以上置換されたポリシルセスキオキサンをさらに含む、請求項7に記載の反射防止フィルム。
【請求項14】
前記低屈折層は、前記光重合性化合物の(共)重合体100重量部対比前記反応性作用基が1つ以上置換されたポリシルセスキオキサン0.5ないし40重量部を含む、請求項13に記載の反射防止フィルム。
【請求項15】
請求項1に記載の反射防止フィルムを含む、ディスプレイ装置。」


第3 取消しの理由の概要
令和3年1月8日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由は、以下のとおりである。

理由1(明確性要件)本件特許の請求項1?15に係る発明は、明確であるということができないから、本件特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
(1)本件特許の請求項1に、「表面の凹凸形状の十点平均粗さ(Rz)が0.05μm乃至0.2μmであり」と記載されている。
この十点平均粗さにつき、本件特許明細書の【0044】には、「十点平均粗さとは、表面凹凸曲線から測定長さ内において、最も高いピークから5つと、最も低いバレーから5つの平均値の差を示す」と記載されている。ここで、「測定長さ」が長くなると、(「測定長さ」内により高いピーク又はより低いバレーの入る可能性あるので)十点平均粗さの値も大きくなることはあれど、小さくなることはないと考えられる。そうすると、同じ凹凸形状であっても、「測定長さ」が異なると、十点平均粗さの値が異なることになるから、十点平均粗さの値が特定されていても、「測定長さ」が不明であると、表面の凹凸形状もまた不明ということになる。
したがって、請求項1に係る発明は、明確であるということができない。また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?15に係る発明も、明確であるということができない。
なお、本件特許明細書の【0157】には、「測定長さ」について記載されていない。また、同段落には、「測定長さ」に関係すると思われる測定条件として、「測定面積(FoV):1.40^(*)1.05mm^(2)」及び「横長さ」「3mm」が挙げられているが、これらの値が一致していないため、「測定長さ」がどの程度の値であるのかが不明である。
(2)本件特許の請求項1には、十点平均粗さを測定する際の「カットオフ値」が記載されていないから、表面の凹凸形状が特定されているということができない。
したがって、請求項1に係る発明は、明確であるということができない。また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?15に係る発明も、明確であるということができない。
なお、本件特許明細書の【0157】の記載を参照しても、「カットオフ値」がどの程度の値であるのかが不明である。


第4 当合議体の判断
令和3年1月8日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由1(明確性要件)について検討する。
特許権者は、令和3年6月18日付け意見書において、[A]本件特許の請求項1に記載された「十点平均粗さ(Rz)」は、「JIS B 0601:2001」に記載された「十点平均粗さ(Rzjis)」であること(「5」「(4)」「(a)」)、[B]「十点平均粗さ(Rz)」の測定長さ(評価長さ)及びカットオフ値という基準は、使用者が独自に設定するもののではなく、Rzの測定値に基づき、「JIS B 0601:2001」に従って設定されるものであること(「5」「(4)」「(b)」)及び[C]本件特許明細書の【0157】の記載内容(「5」「(4)」「(d)」)についての釈明するとともに、乙第2号証及び乙第2号証(JIS B 0601規格票及びJIS B 0633規格票)を提出した。
ここで、乙第2号証及び乙第3号証(JIS B 0601規格票及びJIS B 0633規格票)によれば、評価長さ(本件特許の「測定長さ」に相当する)及びカットオフは、測定対象である十点平均粗さRzの値に応じて、規定されるべきものであって、測定者が随意に選択し得るものではないことが理解される。したがって、特許権者の上記釈明は、乙第2号証及び乙第3号証の記載内容と整合するといえる。
そうすると、本件特許の請求項1に「十点平均粗さ(Rz)」を測定する際の「測定長さ」及び「カットオフ値」が記載されていなくても、「十点平均粗さ(Rz)」の値は確定できるから、本件特許の請求項1に係る発明の「表面の凹凸形状」は特定されているといえる。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、明確である。
また、本件特許の、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?15に係る発明も、明確である。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立人は、特許異議申立書において、申立理由1として、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?15に係る発明(当合議体注:以下、請求項に付す番号を用いて、それぞれ、「本件特許発明1」などという。また、本件特許発明1?15を、「本件特許発明」と総称することがある。)は、甲第1号証?甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当合議体注:以下「当業者」という。)が容易に想到しうるものであり、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない旨主張している。

2 申立理由1について、以下、検討する。
(1)本件特許発明1と特許異議申立人が甲第1号証に記載されていると主張する「甲1発明B」(特許異議申立書23頁)とを対比すると、本件特許発明1と甲1発明Bの一致点及び相違点は、以下のとおりとなる。
(一致点)
「ハードコーティング層;および
前記ハードコーティング層に形成された低屈折層;を含む、反射防止フィルム。」

(相違点)
本件特許発明1は、「ハードコーティング層」の「表面の凹凸形状の十点平均粗さ(Rz)が0.05μm乃至0.2μmであり、内部ヘイズが0.6%乃至2.7%であ」り、「前記反射防止フィルムに対する反射光源の拡散分布の結果で、正反射光度値に対する正反射からの+1度および-1度の角度でそれぞれの光度値の比率の平均値が0.005ないし0.100であり、前記反射防止フィルムに対する反射光源の拡散分布では、45度の入射角を適用し、前記正反射光度値は、入射角の正反射に相当する45度での反射拡散光度値である」のに対し、甲1発明Bは、そのような構成を有するのかが明らかでない点。

前記相違点の認定に関し、本件特許明細書の【0033】、【0034】、【0042】?【0056】及び【0149】?【0167】の記載から、ハードコーティング層の表面の凹凸形状の十点平均粗さ(Rz)の値、ハードコーティング層の内部ヘイズの値及び正反射光度値に対する正反射からの+1度および-1度の角度でそれぞれの光度値の比率の平均値は相互に関係する数値であり、これらの数値がすべて請求項1に記載された範囲内にあることにより、本件特許発明1は本件特許明細書の【0033】及び【0034】に記載された効果を奏することが理解できる。そうすると、ハードコーティング層の表面の凹凸形状の十点平均粗さ(Rz)の値、ハードコーティング層の内部ヘイズの値及び正反射光度値に対する正反射からの+1度および-1度の角度でそれぞれの光度値の比率の平均値については、技術的に相互に関連するひとまとまりの相違点であると認められる。

(2)前記相違点について判断する。
前記相違点に係る本件特許発明1の構成、すなわち、反射防止フィルムにおいて、ハードコーティング層の表面の凹凸形状の十点平均粗さ(Rz)を0.05μm乃至0.2μm、内部ヘイズを0.6%乃至2.7%及び反射防止フィルムに対する反射光源の拡散分布の結果で、正反射光度値(反射防止フィルムに対する反射光源の拡散分布では、45度の入射角を適用し、正反射光度値は、入射角の正反射に相当する45度での反射拡散光度値)に対する正反射からの+1度および-1度の角度でそれぞれの光度値の比率の平均値を0.005ないし0.100とすることは、特許異議申立人が提出した甲第1号証?甲第5号証及び周知技術を示す文献として提示した文献に記載されていないし(当合議体注:提出された各文献には、本件特許発明で特定された一部の物性値の数値範囲を広く包含するか一部重複するものが開示されているにとどまる。)、また、相違点に係る本件特許発明1の構成が公知又は周知であることを示す他の証拠を発見しない。そして、本件特許発明1は、前記相違点に係る構成を有することにより、本件特許明細書の【0033】及び【0034】に記載された効果を奏するものである。

(3)以上のとおり、本件特許発明1は、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件特許発明2?本件特許発明15は、本件特許発明1の発明特定事項を全て具備し、これに限定を加えたものに該当するから、本件特許発明1についての上記理由と同様の理由により、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)ところで、甲第1号証には、低屈折率層を含む実施例5に係る光学フィルム(内部ヘイズ:0.2%、Rz:0.31μm。【0174】、【0187】【表2】参照。)が記載されているから、当該光学フィルムから直接、甲第1号証に記載された発明を「引用発明」として認定することもできる。しかしながら、この光学フィルムの内部ヘイズ及びRzはいずれも本件特許発明において特定された値から相当程度乖離していることからみて少なくとも前記(1)?(3)で検討したのと同様の理由から、本件特許発明1?本件特許発明15は、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)したがって、特許異議申立人の主張する上記特許異議申立て理由を採用することはできない。


第6 むすび
本件特許の請求項1?15に係る特許は、いずれも、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-09-15 
出願番号 特願2018-521166(P2018-521166)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (G02B)
P 1 651・ 121- Y (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 廣田 健介小西 隆  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 下村 一石
関根 洋之
登録日 2020-03-30 
登録番号 特許第6683374号(P6683374)
権利者 エルジー・ケム・リミテッド
発明の名称 反射防止フィルムおよびディスプレイ装置  
代理人 渡部 崇  
代理人 実広 信哉  

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