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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  E03C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E03C
管理番号 1378764
異議申立番号 異議2021-700545  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-04 
確定日 2021-10-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6799194号発明「排水配管構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6799194号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6799194号の請求項1ないし5に係る特許についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成27年4月15日に出願された特願2015-83560号(以下、「第1出願」という。)の一部を、平成30年12月28日に新たな特許出願とした特願2018-246359号(以下、「第2出願」という。)の一部を、さらに令和2年9月10日に新たな特許出願としたものであって、令和2年11月24日にその特許権の設定登録がされ、令和2年12月9日に特許掲載公報が発行された。その後、令和3年6月4日に特許異議申立人 藤本 信男(以下「申立人」という。)より、請求項1ないし5に係る特許に対して、特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
特許第6799194号の請求項1ないし5の特許に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
最下階スラブに設けられる排水配管構造であって、
最下階スラブの上側に配置される横枝管と接続可能な枝管接続部と、当該枝管接続部よりも下側に形成された、下方に延びる円筒状の下側接続部と、を有する集合継手と、
最下階スラブの下側に配置される横主管と接続される曲管状の脚部継手と、
少なくとも一部が最下階スラブに埋設されるとともに、下端部が上記脚部継手と接続される、接続縦管と、
最下階スラブに埋設されて、上記集合継手と上記接続縦管とを接続する接続継手と、を備え、
上記接続縦管の外径は、上記集合継手の下側接続部の外径よりも小さく、
上記集合継手と上記接続継手とは、最下階スラブに埋設される位置で接続され、
上記接続継手には、熱膨張性シートが巻き付けられていることを特徴とする排水配管構造。
【請求項2】
請求項1に記載の排水配管構造において、
上記接続継手は、外面に段差部を有することを特徴とする排水配管構造。
【請求項3】
請求項1に記載の排水配管構造において、
上記接続継手は、大径部と小径部とを備え、
上記大径部に、上記集合継手の下側接続部が接続されることを特徴とする排水配管構造。
【請求項4】
請求項3に記載の排水配管構造において、
上記接続継手は、上記大径部と上記小径部との間に、円環状のストッパを備えることを特徴とする排水配管構造。
【請求項5】
請求項1に記載の排水配管構造において、
上記接続継手は、上記集合継手の下側接続部を挿入可能な上側受口部と、上記接続縦管の上端部を挿入可能な下側受口部と、を有することを特徴とする排水配管構造。」


第3 申立理由の概要
申立人が特許異議申立書(以下「申立書」という。)において主張する申立理由の要旨は、次のとおりである。

1(分割不適法及び甲第1号証に基づく新規性進歩性)
本件発明1ないし5は、第1出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「第1出願当初明細書等」という。)において、課題を解決するために必須である構成を備えないから、本件出願は第1出願当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものではなく、本件出願の出願日は第1出願の出願日まで遡及せず、本件出願の現実の出願日である令和2年9月10日、または、第2出願の現実の出願日である平成30年12月28日である。
そして、本件発明1ないし5は、本件出願の現実の出願日及び第2出願の現実の出願日より前に公開された、第1出願の公開公報である甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、または、甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1ないし5に対する特許は、特許法第29条第1項または第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである(申立書第7頁下から2行-第16頁第15行)。

2(甲第2号証及び周知技術に基づく進歩性)
本件発明1ないし5は、第1出願の出願前に頒布された甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第11号証に示される周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし5に対する特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである(申立書第16頁第16行-第48頁下から7行)。

3(サポート要件)
本件発明1ないし5は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)において、課題を解決するために必須である構成を備えないから、技術常識に照らしても、課題を解決できると当業者は認識できないものであり、本件発明1ないし5についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(申立書第48頁下から6行-第54頁第25行)。


第4 証拠について
1 証拠一覧
申立人が申立書に添付して提出した証拠は、甲第1号証ないし甲第11号証(以下、「甲1」等という。)であり、以下のとおりである。
甲1: 特開2016-204837号公報
(平成28年12月8日公開、第1出願の公開公報)
甲2: 特開2004-3313号公報
(平成16年1月8日公開)
甲3: 特開2009-144480号公報
(平成21年7月2日公開)
甲4: 特開2009-57994号公報
(平成21年3月19日公開)
甲5: 特開2009-127286号公報
(平成21年6月11日公開)
甲6: 特開2011-117133号公報
(平成23年6月16日公開)
甲7: 特開2015-48661号公報
(平成27年3月16日公開)
甲8: 特開2005-213853号公報
(平成17年8月11日公開)
甲9: 特開2007-56537号公報
(平成19年3月8日公開)
甲10:特開2003-222271号公報
(平成15年8月8日公開)
甲11:特開平9-152065号公報
(平成9年6月10日公開)

2 各証拠の記載
(1)甲1
甲1は、第1出願の公開公報であり、次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。以下、同様。)。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
最下階スラブに設けられる排水配管構造であって、
最下階スラブの上側に配置される横枝管と接続可能な枝管接続部と、当該枝管接続部よりも下側に形成された、下方に延びる円筒状の下側接続部と、を有する集合継手と、
最下階スラブの下側に配置される横主管と接続される曲管状の脚部継手と、
少なくとも一部が最下階スラブに埋設されて上記下側接続部と上記脚部継手とを接続する、外形がストレート形状の接続縦管と、
上記下側接続部を挿入可能な上側受口部と、上記接続縦管の上端部を挿入可能な下側受口部と、を有する接続継手と、を備え、
上記接続縦管の上端部が挿入された上記下側受口部が上記最下階スラブに埋設されているとともに、少なくとも一部が最下階スラブの上面以上に突出した上記上側受口部に、上記下側接続部が挿入されていることを特徴とする排水配管構造。
【請求項2】
請求項1に記載の排水配管構造において、
上記上側受口部と、当該上側受口部に挿入される上記下側接続部とがゴム輪接合されていることを特徴とする排水配管構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の排水配管構造において、
上記接続縦管は樹脂製であって、耐火熱膨張性樹脂組成物を含み、または、上記最下階スラブに埋設される部位に熱膨張性シートが巻かれていることを特徴とする排水配管構造。
【請求項4】
請求項3に記載の排水配管構造の施工方法であって、
最下階スラブのスラブ厚および上記脚部継手の設置高さに応じて、上記接続縦管を切断する切断工程と、
上記接続縦管の下端部と上記脚部継手とを接続する接続工程と、
上記接続縦管の上端部を上記下側受口部に挿入する第1挿入工程と、
上記接続継手および上記接続縦管を、最下階スラブの下側から当該最下階スラブに形成された貫通孔に挿入して、上記上側受口部の少なくとも一部が最下階スラブの上面以上に突出した状態で設置する設置工程と、
上記下側接続部を、最下階スラブ上から上記上側受口部に挿入する第2挿入工程と、を含むことを特徴とする排水配管構造の施工方法。」

イ 「【背景技術】
【0002】
複数階の集合住宅やホテルなどの建物には、通常、各階からの排水を流下させるための立管と、各階の住戸からの排水を流すための横枝管とが接続される排水集合継手が設けられている。また、近年、最下階住戸の排水を立管に合流させる最下階合流システムの採用も増えている。この最下階合流システムの場合、最下階に設置された集合継手は通常、最下階スラブの下側に配置された横主管にエルボ状の脚部継手を介して接続される。
【0003】
例えば、特許文献1には、排水の流入口である上部管用接続部と、排水の流出口である下部管用接続部と、上部管用接続部と下部管用接続部との間に位置する枝管用接続部と、上部管用接続部と枝管用接続部とからの排水が流入する集水室を備え、上部管用接続部および下部管用接続部が一体不可分に形成された排水集合継手が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特許4471712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1のものによれば、下部管用接続部を下端から適当なところで切断することによって短寸法にし、脚部継手との接続距離を短縮化させることにより、最下階スラブの下側で脚部継手を介して横主管を接続したときの納まりをコンパクト化することができるとされている。
【0006】
しかしながら、特許文献1のものでは、最下階スラブのスラブ厚が厚い場合に下部管用接続部を延長しようとすると、上部管用接続部および下部管用接続部が一体不可分に形成されているため、排水集合継手全体を別途製造しなければならず、製造コストが嵩むという問題がある。
【0007】
また、例えば最下階スラブの下面に近接して横主管が配管される場合には、脚部継手の上端が最下階スラブの下面ぎりぎりに位置するところ、特許文献1のものでは、最下階スラブ内(最下階スラブに形成された貫通孔内)で下部管用接続部と脚部継手とを接続しなければならないことになる。しかしながら、最下階スラブ内で接続作業を行うと、下部管用接続部と脚部継手とが確実に接続された否かを確認することが困難になり、漏水等の不具合に対する不安がつきまとうという問題がある。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、最下階スラブに設けられる排水配管構造およびその施工方法において、コストの上昇を抑えつつ最下階スラブのスラブ厚に応じて配管の納まりを向上させるとともに、施工管理を容易にする技術を提供することにある。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明に係る排水配管構造では、集合継手と脚部継手とを当該集合継手とは別体の縦管を介して接続するとともに、集合継手とかかる縦管とをスラブ内で直接接続するのではなく、集合継手をスラブ上から挿入可能な受口を有する接続継手を介して、集合継手と縦管とを接続するようにしている。」

エ 「【0010】
具体的には、本発明は、最下階スラブに設けられる排水配管構造を対象としている。
【0011】
そして、この排水配管構造は、最下階スラブの上側に配置される横枝管と接続可能な枝管接続部と、当該枝管接続部よりも下側に形成された、下方に延びる円筒状の下側接続部と、を有する集合継手と、最下階スラブの下側に配置される横主管と接続される曲管状の脚部継手と、少なくとも一部が最下階スラブに埋設されて上記下側接続部と上記脚部継手とを接続する、外形がストレート形状の接続縦管と、上記下側接続部を挿入可能な上側受口部と、上記接続縦管の上端部を挿入可能な下側受口部と、を有する接続継手と、を備え、上記接続縦管の上端部が挿入された上記下側受口部が上記最下階スラブに埋設されているとともに、少なくとも一部が最下階スラブの上面以上に突出した上記上側受口部に、上記下側接続部が挿入されていることを特徴とするものである。
【0012】
この構成によれば、集合継手の下側接続部と脚部継手とを、直接接続するのではなく、接続縦管を介して接続することから、最下階スラブのスラブ厚が薄い場合には短い接続縦管を用意し、最下階スラブのスラブ厚が厚い場合には長い接続縦管を用意することで、最下階スラブのスラブ厚に応じた排水配管構造を実現することができる。すなわち、この構成によれば、最下階スラブのスラブ厚が変わっても特殊品の集合継手を製造する必要がないので、製造コストの上昇を抑えつつ最下階スラブのスラブ厚に応じて配管の納まりを向上させることができる。
【0013】
さらに、上側受口部の少なくとも一部が最下階スラブの上面以上に突出した接続継手を介して、集合継手の下側接続部と接続縦管とを接続することから、最下階スラブ内での接続作業をなくすことができる。そうして、最下階スラブの上面以上に突出した上側受口部に、集合継手の下側接続部を挿入することから、下側接続部が上側受口部に確実に挿入されていることを確認しながら、集合継手と接続縦管との接続作業を行うことができる。これにより、施工管理が容易になることから、施工品質を向上させることができる。
【0014】
また、上記排水配管構造では、上記上側受口部と、当該上側受口部に挿入される上記下側接続部とがゴム輪接合されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、下側接続部と上側受口部とが例えば接着剤を用いて接着接合されている場合とは異なり、集合継手と接続継手との水密性を維持したまま、接続継手に対して集合継手を相対回転させることが可能となる。したがって、接続継手の一部が最下階スラブに埋設された後でも、横枝管の方向に合わせて枝管接続部の方向を調整したり、経年後の改修時における横枝管の配置の自由度を高めたりすることが可能となる。
【0016】
さらに、上記排水配管構造では、上記接続縦管は樹脂製であって、耐火熱膨張性樹脂組成物を含み、または、上記最下階スラブに埋設される部位に熱膨張性シートが巻かれていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、最下階スラブのスラブ厚に対応した接続縦管を用意しなくても、施工現場において、最下階スラブのスラブ厚に応じて接続縦管を切断し、接続縦管の長さを調整することで、配管の納まりを向上させることができる。しかも、接続縦管は外形がストレート形状なので、換言すると、どの位置で切断しても断面形状が変わらないので、切断後も接続継手や脚部継手との接続を容易に行うことができる。さらに、火災時等に、接続縦管または接続縦管に巻かれた熱膨張性シートが膨張して、最下階スラブに形成された貫通孔内で耐火層を形成することから、最下階スラブの上下の空間における熱の出入りを抑制することができる。」

オ 「【0018】
また、本発明は、上記排水配管構造の施工方法をも対象としている。
【0019】
そして、この排水配管構造の施工方法は、最下階スラブのスラブ厚および上記脚部継手の設置高さに応じて、上記接続縦管を切断する切断工程と、上記接続縦管の下端部と上記脚部継手とを接続する接続工程と、上記接続縦管の上端部を上記下側受口部に挿入する第1挿入工程と、上記接続継手および上記接続縦管を、最下階スラブの下側から当該最下階スラブに形成された貫通孔に挿入して、上記上側受口部の少なくとも一部が最下階スラブの上面以上に突出した状態で設置する設置工程と、上記下側接続部を、最下階スラブ上から上記上側受口部に挿入する第2挿入工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0020】
この構成によれば、施工現場において、最下階スラブのスラブ厚等に応じて接続縦管を切断し、接続縦管の長さを調整することで、コストの上昇を抑えつつ配管の納まりを向上させることができる。また、接続継手およびこれに挿入された接続縦管を、最下階スラブの下側から貫通孔に挿入するとともに、集合継手の下側接続部を、最下階スラブ上から上側受口部に挿入することから、最下階スラブ内における接続作業がなくなるので、施工管理を容易にすることが可能となる。」

カ 「【発明の効果】
【0021】
以上、説明したように本発明に係る排水配管構造およびその施工方法によれば、コストの上昇を抑えつつ最下階スラブのスラブ厚に応じて配管の納まりを向上させるとともに、施工管理を容易にすることができる。」

キ 「【0024】
(実施形態1)
-排水配管構造-
図1は、本実施形態に係る排水配管構造1を模式的に示す図であり、図2は、排水配管構造1を構成する部材を模式的に示す分解図である。この排水配管構造1は、複数階の集合住宅やホテルなどの建物の最下階スラブ20に設けられ、立管22内を流下する上階の排水や、最下階スラブ20の上側に配置された横枝管23内を流れる排水を集合させて、最下階スラブ20の下側に配置された横主管21に排出するためのものである。この排水配管構造1は、図2に示すように、集合継手2と、接続縦管3と、接続継手4と、脚部継手5と、を備えている。この排水配管構造1では、図1に示すように、集合継手2が接続継手4を介して接続縦管3と接続されているとともに、接続縦管3の下端部が脚部継手5を介して横主管21に接続されており、これにより、集合継手2に集合した排水を横主管21に排出することが可能となっている。
【0025】
集合継手2は、例えばポリ塩化ビニルから形成されている。この集合継手2は、図2に示すように、当該集合継手2の本体をなす略円筒状の集合部6と、集合部6の上側に形成された円筒状の上側接続部7と、水平方向に90°の間隔を開けて集合部6から三方に延びる3つの円筒状の枝管接続部8と、当該枝管接続部8よりも下側に形成された、集合部6の下端から下方に延びる円筒状の下側接続部9と、を有している。この集合継手2では、上側接続部7には立管22が接続される一方、枝管接続部8には横枝管23が接続されていて、これら立管22や横枝管23からの排水が集合部6に集合し、下側接続部9から下方に排出されるようになっている。なお、横枝管23の本数が3本未満の場合には、使用しない枝管接続部8は蓋(図示せず)等によって塞がれる。
【0026】
接続縦管3は、少なくとも一部が最下階スラブ20に埋設されることで、最下階スラブ20を挟んで集合継手2と脚部継手5とを接続する、集合継手2とは別体で且つ外形がストレート形状の樹脂管である。この接続縦管3は、硬質ポリ塩化ビニルからなる内面層および外面層と、熱膨張性黒鉛を含む塩化ビニル系樹脂組成物からなる中間層と、を有する三層構造の熱膨張性パイプである。接続縦管3は、その内径が下側接続部9の内径と略等しい一方、その外径が下側接続部9の外径よりも若干小さく形成されている(図3(b)参照)。このように、接続縦管3の内径が下側接続部9の内径と略等しいことから、接続縦管3と集合継手2とを接続すると、接続縦管3の内周面と下側接続部9の内周面とが面一となるようになっている。
【0027】
図3は、接続継手4を介した、集合継手2と接続縦管3との接続構造を模式的に示す図であり、同図(a)は接続前の状態を示す図であり、同図(b)は接続後の状態を示す図である。なお、図3(a)および(b)では、図の左半分のみ断面図で示している。また、図3(a)および(b)の二点鎖線は、最下階スラブ20の上面20aを示している。
【0028】
接続継手4は、上述の如く、集合継手2と接続縦管3とを接続するためのものである。接続継手4は、例えばポリ塩化ビニルから形成されている。この接続継手4は、段差部4aを有する略円筒状に形成されていて、下側接続部9を挿入可能な上側受口部12と、接続縦管3の上端部を挿入可能な下側受口部13と、を有している。より詳しくは、接続継手4は、図3(a)に示すように、下側接続部9の外径よりも若干大きな内径を有する大径部12と、接続縦管3の外径よりも若干大きな内径を有する小径部13と、が段差部4aを介して上下に接続されたような形状に形成されているとともに、当該段差部4aから径方向内側に突出する断面略矩形状のストッパリブ15が全周に亘って設けられている。この円環状のストッパリブ15は、その内径が、接続縦管3の内径および下側接続部9の内径と略等しくなるように形成されている。そうして、図3(b)に示すように、下側接続部9をその下端がストッパリブ15の上面に当たるまで大径部12に挿入するとともに、接続縦管3をその上端がストッパリブ15の下面に当たるまで小径部13に挿入することで、接続縦管3の内周面とストッパリブ15の内周面と下側接続部9の内周面とが面一となった状態で、接続継手4を介して集合継手2と接続縦管3とが接続される。つまり、この接続継手4では、ストッパリブ15よりも上側の大径部12が上側受口部12を構成する一方、ストッパリブ15よりも下側の小径部13が下側受口部13を構成している。このように、接続縦管3の内周面とストッパリブ15の内周面と下側接続部9の内周面とが面一となることで、本実施形態の排水配管構造1では、排水に含まれる異物等が引っ掛ることなく、集合継手2に集合した排水をスムーズに流下させることができる。なお、下側接続部9と上側受口部12と、および、接続縦管3と下側受口部13とはそれぞれ接着剤を用いて接着接合されている。
【0029】
さらに、本実施形態の排水配管構造1では、接続縦管3の上端部が挿入された下側受口部13を最下階スラブ20に埋設するとともに、少なくとも一部が最下階スラブ20の上面20a以上に突出した上側受口部12に、下側接続部9を挿入するようにしている。このような構成を採用するのは、以下に説明するような従来の排水配管構造の問題点を解決するためである。
【0030】
図8は、従来の排水配管構造101,111を模式的に示す図である。
【0031】
先ず、図8(a)に示すように、上部管用接続部107(上側接続部7に対応)および下部管用接続部103(接続縦管3に対応)が一体不可分に形成された集合継手102を用いた、従来の排水配管構造101について説明する。従来の排水配管構造101では、例えば最下階スラブ20の下面に近接して横主管21が配管される場合には、脚部継手105の上端が最下階スラブ20の下面ぎりぎりに位置するため、最下階スラブ20内(最下階スラブ20に形成された貫通孔20b内)で下部管用接続部103と脚部継手105とを接続しなければならないことがある(図8(a)の白抜き矢印参照)。しかしながら、最下階スラブ20の貫通孔20b内で接続作業を行うと、下部管用接続部103と脚部継手105とが確実に接続された否かを確認することが困難になり、漏水等の不具合に対する不安がつきまとうという問題がある。
【0032】
そこで、最下階スラブ20の貫通孔20b内での接続作業を無くすべく、図8(b)に示すよう、集合継手112と接続縦管113とを別体とし、接続縦管113を最下階スラブ20の上面20aよりも上方に延ばすことで、集合継手112と接続縦管113との接続を最下階スラブ20よりも上側で行うような排水配管構造111が考えられる。しかしながら、かかる排水配管構造111では、集合継手112の設置位置が必要以上に高くなることから、横枝管23の管底が上がるため、最下階スラブ20上の排水系統の納まりをコンパクト化することが困難となるという問題がある。
【0033】
この点、本実施形態では、図1および図3に示すように、上側受口部12の上端部が最下階スラブ20の上面20aよりも上方に突出するように、接続縦管3の上端部が挿入された接続継手4を最下階スラブ20の貫通孔20bに設置し、かかる状態で下側接続部9を上側受口部12に挿入することから、下側接続部9と接続縦管3との接続を最下階スラブ20よりも上側で行うことができる。これにより、下側接続部9が上側受口部12に確実に挿入されていることを確認しながら、接続継手4を介して集合継手2と接続縦管3とを接続することができる。したがって、施工管理が容易になるので、施工品質を向上させることができる。
【0034】
しかも、本実施形態の排水配管構造1では、接続縦管3を最下階スラブ20の上面20aよりも上方に延ばす訳ではなく、集合継手2の下側接続部9を覆う上側受口部12の一部を最下階スラブ20の上面20a以上に突出させるだけなので、集合継手2の設置位置が高くならない。これにより、横枝管23の管底が上がらないことから、最下階スラブ20上の排水系統の納まりをコンパクト化することができる。
【0035】
なお、本実施形態では、上側受口部12の上端部が最下階スラブ20の上面20aよりも上方に突出するようにしているが、上側受口部12は少なくとも一部が最下階スラブ20の上面20a以上に突出していればよいので、例えば、上側受口部12の上端と最下階スラブ20の上面20aとが面一になるようにしてもよい。このようにすれば、集合継手2の設置位置および横枝管23の管底を更に下げることができるので、最下階スラブ20上の排水系統の納まりをより一層コンパクト化することができる。
【0036】
脚部継手5は、曲管状(エルボ状)の継手であり、最下階スラブ20の下側に配置された横主管21と接続縦管3の下端部とを接続している。脚部継手5の材質は特に限定されず、例えば、樹脂製でもよいし、鋳鉄製でもよい。なお、本実施形態では、樹脂製の脚部継手5と接続縦管3の下端部とを接着剤を用いて接着接合しているが、これに限らず、例えば、図4(a)に示すように、環状の止水ゴム(図示せず)を用いてゴム輪接合してもよいし、図4(b)に示すように、フランジ接続してもよい。また、横主管21を最下階スラブ20の下面に近接して配管することが可能な場合には、排水配管構造1をより一層コンパクトにするべく、図4(c)に示すように、脚部継手5と接続縦管3との接着接合部を最下階スラブ20に完全に埋設するようにしてもよい。
【0037】
以上のように構成された排水配管構造1は、図1に示すように、接続継手4、接続縦管3および脚部継手5と、貫通孔20bを区画する孔壁との間にモルタル10を打設することで最下階スラブ20に設置される。そうして、立管22を上側接続部7に接続するとともに、横枝管23を枝管接続部8に接続することで、上階の排水や最下階住戸の排水を集合させて横主管21に排出可能な状態が形成される。
【0038】
このように、排水配管構造1は、枝管接続部8の下側に形成された下側接続部9が最下階スラブ20に埋設された接続継手4に嵌った状態で設置されることから、枝管接続部8と接続される横枝管23の管底が下がるので、最下階スラブ20上の排水系統の納まりをコンパクト化することができる。
【0039】
また、本実施形態の排水配管構造1では、接続縦管3が熱膨張性黒鉛を含む塩化ビニル系樹脂組成物からなる中間層を有しているので、例えば最下階スラブ20の下側から火災が発生しても、接続縦管3が大きく膨張して、最下階スラブ20に形成された貫通孔20b内で耐火層を形成することから、最下階スラブ20の上側への熱の流入を抑制することができる。
【0040】
さらに、接続縦管3と集合継手2とが別体であることから、最下階スラブ20のスラブ厚が厚い場合には長い接続縦管3を用意し、最下階スラブ20のスラブ厚が薄い場合には樹脂製の接続縦管3を切断することで、最下階スラブ20のスラブ厚に応じた排水配管構造1を実現することができる。すなわち、本実施形態の排水配管構造1によれば、最下階スラブ20のスラブ厚が変わっても特殊品の集合継手を製造する必要がないので、コストの上昇を抑えつつ最下階スラブ20のスラブ厚に応じて配管の納まりを向上させることができる。」

ク 「【0041】
-排水配管構造の施工方法-
次に、本実施形態の排水配管構造1の施工方法について、図5を参照しながら説明する。なお、図5(a)および(b)の破線は、接続縦管3の切断ラインを示す。
【0042】
排水配管構造1の施工に先立ち、集合継手2、接続縦管3、接続継手4および脚部継手5等を施工現場に搬入するが、このとき、接続縦管3と脚部継手5とは、工場において接着接合して一体として搬入してもよいし、別体として搬入してもよい。
【0043】
そうして、先ず、接続縦管3を、最下階スラブ20のスラブ厚、および、脚部継手5の横主管21に対する接続位置(設置高さ)に応じて最適な長さに切断する(切断工程)。なお、「最適な長さ」とは、接続縦管3の下端部と脚部継手5とを接続するとともに接続縦管3の上端部を下側受口部13に挿入した状態で、脚部継手5を正規の設置高さに配置した場合に、上側受口部12の上端部が最下階スラブ20の上面20a以上に突出し、且つ、上側受口部12に挿入された集合継手2の枝管接続部8の位置が高くなり過ぎないような、接続縦管3の長さをいう。
【0044】
ここで、接続縦管3と脚部継手5とが一体として搬入された場合には、図5(a)に示すように、脚部継手5と接続されたままの状態で、接続縦管3を最適な長さに切断する。一方、接続縦管3と脚部継手5とが別体として搬入された場合には、図5(b)に示すように、接続縦管3を最適な長さに切断した後、図5(b)の白抜き矢印で示すように、接続縦管3を脚部継手5と接着接合する(接続工程)。
【0045】
次いで、図5(c)の白抜き矢印で示すように、接続縦管3の上端部を下側受口部13に挿入し、両者を接着接合する(第1挿入工程)。なお、本実施形態では、外形がストレート形状の接続縦管3を用いているので、換言すると、どの位置で切断しても接続縦管3の断面形状が変わらないので、切断後も切断前と同じ態様で接続縦管3の上端部を下側受口部13に挿入することができる。
【0046】
次いで、図5(d)に示すように、接続継手4および接続縦管3を最下階スラブ20の下側から貫通孔20bに挿入し、上側受口部12の上端部が最下階スラブ20の上面20aよりも上方に突出した状態で、脚部継手5と横主管21とを接続する(設置工程)。換言すると、接続縦管3の長さは、接続継手4および接続縦管3を、最下階スラブ20の下側から貫通孔20bに挿入し、脚部継手5を横主管21と接続すると、上側受口部12の上端部が最下階スラブ20の上面20aよりも上方に突出するような長さに設定されている。脚部継手5と横主管21との接続が完了すると、集合継手2の下側接続部9を、図5(d)の矢印で示すように、最下階スラブ20上から上側受口部12に挿入し、下側接続部9と上側受口部12とを接着接合する(第2挿入工程)。
【0047】
そうして、集合継手2、接続縦管3、接続継手4および脚部継手5の設置が完了すると、接続継手4、接続縦管3および脚部継手5と、貫通孔20bを区画する孔壁との間にモルタル10を打設して、最下階スラブ20を埋め戻す。
【0048】
以上のように、本実施形態の排水配管構造1の施工方法によれば、施工現場において、最下階スラブ20のスラブ厚に応じて接続縦管3を切断するという簡単な作業で、配管の納まりを向上させることができる。また、接続継手4およびこれに挿入された接続縦管3を、最下階スラブ20の下側から貫通孔20bに挿入するとともに、集合継手2の下側接続部9を、最下階スラブ20上から上側受口部12に挿入することから、最下階スラブ20内における接続作業がなくなるので、施工管理が容易になる。」

ケ 「【0055】
上記各実施形態では、接続縦管3を熱膨張性パイプとしたが、これに限らず、例えば接続縦管3を塩化ビニルから形成するとともに、図7に示すように、接続縦管3および接続継手4に熱膨張性シート24(例えば積水化学工業株式会社製フィブロック(登録商標))を巻き付けるようにしてもよい。
【0056】
このようにすれば、火災時等に、接続縦管3および接続継手4に巻かれた熱膨張性シート24が膨張して、樹脂材料からなる接続縦管3および接続継手4を押し潰しながら最下階スラブ20に形成された貫通孔20b内で耐火層を形成することから、最下階スラブ20の上下の空間における熱の出入りを抑制することができる。」

コ 図1




サ 図2




シ 図7




(2)甲2
ア 記載事項
甲2は、第1出願より前に公開された刊行物であり、次の事項が記載されている。
(ア)「【0011】
【発明の実施の形態】
(関連技術)
本発明の実施形態1に係る排水管継手の説明を行う前に、図1から図5に基づいて本発明に関連する排水管継手の説明を行う。本発明に関連する排水管継手はマンション等の集合住宅における排水経路に使用される管継手であり、図1にその排水管継手の縦断面等が示されている。また、図2は、排水管継手の上部継手と下部継手との接合面を表す平面図、図3は、排水管継手を使用した施工例を表す縦断面図である。」

(イ)「【0022】
下部継手20の胴部21と下部横枝管受け口23との上境には、小径横枝管4が胴部21内に入り込まないようにするための隔壁21kが形成されている。さらに、隔壁21kには、胴部21の内側に突出するように庇状の集水ガイド21yが形成されている。集水ガイド21yは、下部横枝管受け口23の開孔が胴部21内をカーテン状に流下する排水によって塞がれないようにするためのものであり、排水を下部横枝管受け口23の開孔中央に集める働きをする。
また、下部継手20の胴部21には、流下する排水を螺旋状に旋回させるための旋回ガイド28a,28bが形成されている。旋回ガイド28a,28bは、円周方向に約90°間隔で二箇所に形成するのが旋回効果上好ましいが、いずれか一個所に形成しても良い。さらに、胴部21の外周面には、旋回ガイド28の近傍に制振リブ21r(二点鎖線参照)が縦に形成されている。
下部継手20の胴部21の下端部には、下流側(下階)の排水立て管5(図3参照)の受け口部Uに挿入される直管部22が形成されている。」

(ウ)「【0028】
次に、図3に基づいて、排水管継手1を使用した排水経路の施工例について説明する。
先ず、下階の排水立て管5の受け口部U及びその近傍がコンクリートスラブCの貫通孔Chに通された状態で、その排水立て管5の内管5eの下端部が下階の排水管継手(図示されていない)と接続される。この状態で、排水立て管5の受け口部Uの上端面はコンクリートスラブCの上面Cuの高さに合わせられる。なお、排水立て管5の受け口部UをコンクリートスラブCの上面Cuから突出させることも可能である。
【0029】
下階の排水立て管5は、例えば、直管部Sが内管5eと外管5fとから構成され、受け口部Uが受け口内管5uと受け口外管5yとから構成される耐火二層管である。受け口内管5uの先端にはリング状のシール材5cが装着されており、そのシール材5cの周縁部から受け口外管5yの先端外周面までが耐火カバー5kによって覆われている。また、受け口外管5yと直管部Sの外管5fとの突き合わせ部Wは耐火目地カバー50によって覆われている。
【0030】
耐火目地カバー50は、受け口外管5yとほぼ等しい内径寸法の筒状目地カバー本体51と、リング状の介在外管52と、パッキン状の熱膨張耐火材53とを備えている。熱膨張耐火材53は受け口外管5yと直管部Sの外管5fとの突き合わせ部Wに挟み込まれ、介在外管52は筒状目地カバー本体51と外管5fとの間に形成されたリング状の隙間に嵌め込まれる。この状態で、筒状目地カバー本体51の上縁部は受け口外管5yにネジ止めされ、筒状目地カバー本体51の下縁部は介在外管52と共に直管部Sの外管5fにネジ止めされる。このように、突き合わせ部Wにパッキン状の熱膨張耐火材53が挟み込まれているため、火災時に排水立て管5の内部を上昇する有毒ガスが突き合わせ部Wから外部に漏出する不具合が生じない。
【0031】
コンクリートスラブCの貫通孔Chに通された排水立て管5の受け口内管5uには、排水管継手1の下端部に形成された直管部22が挿入される。これによって、排水管継手1の直管部22と排水立て管5の受け口内管5uとの間がシール材5cによって自動的にシールされ、排水管継手1と排水立て管5とが接続される。
【0032】
次に、排水管継手1の上部横枝管受け口13に大便器等に接続された大径横枝管3が挿入され、その排水管継手1と大径横枝管3とが接続される。また、排水管継手1の下部横枝管受け口23に雑排水等を導く小径横枝管4が挿入され、その排水管継手1と小径横枝管4とが接続される。なお、上記した横枝管3,4は耐火二層管であり、図3にはその内管のみが図示され、外管が省略されている。
【0033】
次に、排水管継手1の上部受け口12に上階の排水立て管2の内管2eが挿入される。これによって、排水管継手1の上部受け口12と排水立て管2の内管2eとの間がシール材14によって自動的にシールされ、排水管継手1と上階の排水立て管2とが接続される。
ここで、上階の排水立て管2は下階の排水立て管5と等しい構造の耐火二層管であり、図3にはその内管のみが図示されて、外管は省略されている。上階の排水立て管2は、排水管継手1に接続される際に、その受け口部(図示されていない)が上階のコンクリートスラブの貫通孔(図示されていない)に通される。
下階の排水立て管5に排水管継手1が接続され、その排水管継手1に上階の排水立て管2が接続された後、コンクリートスラブCの貫通孔Chがモルタルで埋め戻され、排水立て管5の受け口部U及びその近傍がコンクリートスラブCに固定される。横枝管の配管3,4及びそれに接続される器具の取付け作業は他の工事工程との関連で適時に行われる。
【0034】
このように、本実施形態に係る排水管継手1は、コンクリートスラブCを貫通した下階の排水立て管5の受け口部Uに接続されるため、排水管継手の胴部をコンクリートスラブCの貫通孔Chに通す必要がない。したがって、排水管継手1の長さ寸法をコンクリートスラブCの厚み寸法とは無関係に設定することができる。このため、コンクリートスラブCの厚み寸法が大きい場合でも、排水管継手1の小型軽量化が可能になり、排水管継手1の取付け作業等が容易になるとともに、製作コストも安くなる。さらに、排水管継手1の取付けを誤った場合でも、コンクリートスラブCの貫通孔Chのモルタル除去作業が不要になり、手直しが格段に容易になる。」

(エ)図3



上記図3より、小径横枝管4はコンクリートスラブCの上側に配置されることが、看取される。

イ 甲2に記載された発明
上記アより、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「集合住宅における排水経路に使用される、下部継手20の胴部21には、流下する排水を螺旋状に旋回させるための旋回ガイド28a,28bが形成され、下部継手20の胴部21の下端部には、下階の排水立て管5の受け口部Uに挿入される直管部22が形成されている、排水管継手1を使用した排水経路であって、
下階の排水立て管5は、下端部が下階の排水管継手と接続され、排水立て管5の受け口部Uの上端面はコンクリートスラブCの上面Cuの高さに合わせられ、
下階の排水立て管5は、直管部Sが内管5eと外管5fとから構成され、受け口部Uが受け口内管5uと受け口外管5yとから構成される耐火二層管であり、
コンクリートスラブCの貫通孔Chに通された排水立て管5の受け口内管5uには、排水管継手1の下端部に形成された直管部22が挿入され、排水管継手1と排水立て管5とが接続され、
排水管継手1の下部横枝管受け口23に、コンクリートスラブCの上側に配置される小径横枝管4が挿入され、その排水管継手1と小径横枝管4とが接続され、
排水管継手1と上階の排水立て管2とが接続され、
下階の排水立て管5に排水管継手1が接続された後、コンクリートスラブCの貫通孔Chがモルタルで埋め戻され、排水立て管5の受け口部U及びその近傍がコンクリートスラブCに固定され、
排水管継手1は、コンクリートスラブCを貫通した下階の排水立て管5の受け口部Uに接続されるため、胴部をコンクリートスラブCの貫通孔Chに通す必要がなく、排水管継手1の長さ寸法をコンクリートスラブCの厚み寸法とは無関係に設定することができる、
排水管継手1を使用した排水経路。」

(3)甲3
甲3は、第1出願より前に公開された刊行物であり、次の事項が記載されている。
ア 「【背景技術】
【0002】
例えば、高層マンションや商業ビル等の多層階建物においては、各階の便器、化粧台、流し台等の衛生機器から排出される排水が、横枝管を介して各階層を通過するように設けられた排水路の立主管に流入し、立主管に沿って多層階建物の最下階まで流下し、立主管の下端に接続された脚部継手を介して横主管に流れ込み、最終的に下水本管や浄化槽等に送られるようになっている。
【0003】
ところで、図11に示すように、脚部継手110は、排水路の立主管200の下端が接続される立管接続管部111と、横主管300に接続される横主管接続管部112と、前記立主管200と横主管接続管部112とを連結する曲管部113とを備えているが、立主管200を流下する排水が、各階に設けられた集合継手に内蔵されている旋回羽根(図示せず)によって内壁面に沿う旋回流となって脚部継手110に流れ込むため、排水量が多いと、立主管200の横主管側の内壁面に沿って流下してきた排水400が曲管部113内をカーテン状に閉塞し、立主管200の最下階付近では排水時に大きな正圧が生じ、最下階の横枝管に繋がる衛生機器のトラップの跳ねだしを招く恐れがあった。そのため、横主管が設けられる高さ位置に最も近い最下階において配管される横枝管は、立主管へ直接接続することはせず、単独で排水ますまで配管するか、または横主管上で立主管から十分な距離を確保して合流させるのが好ましいとされていた。」

イ 「【0030】
図6及び図7は、上記脚部継手Aを用いた排水システムの1例をあらわしている。
図6に示すように、この排水システムSは、脚部継手Aと、立主管6aと、横主管6bとを備えている。
・・・(中略)・・・
【0032】
そして、この排水システムSは、例えば、以下のようにして構築される。
まず、支持金具8を用いて脚部継手Aをその受口部11が最下階の床スラブFSに穿設された立主管挿通孔FS1を下側から臨むように床スラブFSに支持固定する。
・・・(中略)・・・
【0034】
つぎに、床スラブFSの上方から最下階の集合継手7の下端部を立主管挿通孔FS1に挿入し、集合継手7の下部開口接続部72を脚部継手Aの受口部11に嵌装し、集合継手7と脚部継手Aとを連結する。
また、脚部継手Aの横管接続管部3に横主管6bを接続するとともに、公知の排水システムと同様に、片ゴム輪受口管70と各階の集合継手7とを用いて立主管6aを形成するとともに、各横枝管接続部75に各階の衛生機器(図示せず)と接続される横枝管9を接続する。
そして、横主管6bを下水本管(図示せず)等に接続する。」

ウ 図6




(4)甲4
甲4は、第1出願より前に公開された刊行物であり、次の事項が記載されている。
ア 「【0053】
この脚部継手1は、図3に示すように、最下層の床スラブ5に設けられた貫通孔51に中間部材3部分を挿通し、貫通孔51と中間部材3との隙間にモルタル52を充填した状態で設置され、従来の脚部継手と同様に排水立管6と排水横主管7とを接続するのに用いられる。排水立管6と排水横主管7は非耐火性樹脂管としての塩化ビニル樹脂管である。」

イ 図3




(5)甲5
甲5は、第1出願より前に公開された刊行物であり、次の事項が記載されている。
ア 「【0013】
〔実施例1〕
図1は排水配管構造1の概要を示す図、図2は排水集合管2に取り付けられた延焼防止装置3の正面図、図3は図2におけるA-A矢視断面図である。
以下の説明において、図1ないし図3における上を上または上方、下を下または下方といい、およびその上下を上下という。また、図3における横を横、または横方向という。
図1ないし図3において、排水配管構造1は、排水集合管2、横枝管4、立管5および延焼防止装置3等を1単位として構成される。各階を区画する床スラブ6,6ごとに設置された排水配管構造1は、下層の階から上層の階に順次接続されて、中高層の複層建築物の上層の階から下層の階までの一貫した排水配管システムを形成する。
【0014】
排水集合管2は、各階に設けられた横枝管4から流入する排水を上層の階から流下する排水に合流させ、合流した排水を下階の立管5に流下させるためのものである。排水集合管2の管軸方向中途部は立管5の内径より大きな内径を有する膨大部とされ、この膨大部の上方に上階の立管5との接続部である上部の立管接続部10が形成され、膨大部の下方に下階の立管5との接続部である下部の立管接続部が形成され、膨大部の側方に排水集合管設置階の便器水、雑排水などが流れる横枝管4との接続部である横枝管接続部9が形成されている。膨大部の内面、特に膨出する最大膨大部部分から下部接続部12へ移行する傾斜部の内面には、排水流に旋回力を付与する羽根体または傾斜板を設けてもよい。
【0015】
排水集合管2は、建築物の上階と下階とを区画する防火区画である床スラブ6を貫通する貫通孔7内に固定されている。排水集合管2は、上部(すなわち上部の立管接続部と横枝管接続部)が床スラブ6の上面より上に突出し、下部(すなわち膨大部の傾斜部と下部の立管接続部)が床スラブ6の下面より下に突出している。排水集合管2は、床スラブ6の上面に突出する部分に、横枝管4を接続するための横枝管接続部9および立管5を接続するための立管接続部10を有する。排水集合管2と排水集合管2を収容する貫通孔7との間には、モルタル、セメントまたはロックウール等の不燃性充填材料8が充填される。」

イ 「【0050】
以下の説明において、図17における上を上または上方、下を下または下方という。また、図18における横方向を横方向という。
図17において、排水配管構造1Kは、貫通立管44K、ベンド管45K、横主管46Kおよび延焼防止装置3Kからなる。マンションにおいて、各階ごとに発生する排水は排水集合管2により集められて下方に流下し、多くの場合最下階において、水平に対して若干勾配をつけて配管された横主管46Kにより、下水管等との接続場所まで送られる。排水配管構造1Kは、略垂直に流下する排水を下水管等に送出するためのものである。
【0051】
貫通立管44Kは、真っ直ぐな円管であって、建築物の上階と下階とを区画する防火区画である床スラブ6を貫通する貫通孔7内に、上部を上階Fuにおよび下部を下階Fdにそれぞれ突出させて固定されている。貫通立管44Kの下端にはベンド管45Kが連結される。貫通立管44Kの上端には上階Fuのさらに上階の排水集合管で集められた排水を流下させる立管が接続されている。貫通立管44Kは、ねずみ鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄などの鋳物や鋼、ステンレス鋼等の不燃性の金属材料または塩化ビニル管と繊維モルタル管とを2層構造とした耐火二層管などで製作される。
【0052】
ベンド管45Kは、略90度に曲げられた管であり、貫通立管44K内を略垂直に流下する集合排水を、略水平な横主管46Kに導くためのものである。
ベンド管45Kは、上方に開口する受け口47Kに貫通立管44Kの下端を挿入させ、貫通立管44Kに連結されている。ベンド管45Kは、貫通立管44Kと同じく、ねずみ鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄などの鋳物や鋼、ステンレス鋼等の不燃性の金属材料または塩化ビニル管と繊維モルタル管とを2層構造とした耐火二層管などで製作される。
ベンド管45Kは、バンド52Kおよび吊りボルト53Kからなる吊り金具54Kにより、床スラブ6の下面に支持されている。」

ウ 図1




エ 図17




(6)甲6
甲6は、第1出願より前に公開された刊行物であり、次の事項が記載されている。
「【0029】
本発明の排水用合流管継手1を、縦管接続口3と上方の旋回羽根9を備えた直筒状の上部継手部材18と、枝管接続口5を備え且つ上部継手部材18の下端部が嵌入される大径部に形成された中間継手部材19と、該中間継手部材19の下端部が嵌入される漏斗状の縮径部11と下方の旋回羽根10を備えた直筒部及び縦管接続口3を有する下部継手部材20と、に分割すると製作が容易になる。そして、これらの部材を合成樹脂により成形し、これを組立てたのち外周に繊維混入モルタル21で被覆することで小型且つ高排水能力の耐火二層形の排水用集合管継手が得られる。符号22は上方の縦管接続口3に設けたゴムパッキンである。尚、枝管接続口5が中間部5内へ開口する開口部の形状を縦長の楕円形に形成すると、隣り合う枝管接続口5の管壁が接近せず、小さい口径の中間部6に複数本の比較的太い横枝管4を容易に取り付けできる。」

(7)甲7
甲7は、第1出願より前に公開された刊行物であり、次の事項が記載されている。
「【0014】
本発明の具体的実施例を説明すると、図4の構成の合成樹脂製継手6として、内径100mmの縦管9a、9bを接続できる縦管接続口8a、8bを有し、継手本体1の全長が480mmで、内径77mmの横枝管10、10を接続する90°間隔の2つの枝管接続口5a、5bを有するものを製作した。誘導筒12の内径は102mmでその下端縁は枝管接続口5a、5bの11mm上方に位置し、枝管接続口5a、5bの開口中心から継手本体1の下端縁までの長さを310mmとし、逆流防止3の突出高さ13を継手本体1の平面からみて誘導筒12の径内へ突出しない高さ11mmとした。中間部4の内径は124mmでこの寸法は従来のものと同様である。この継手6を10階建ての建物の全階に設置し、排水実験1として、縦管9aに10階、9階から2.5L/sec、8階から0.5L/secの合計5.5L/secを同時に定量排水させ、7階の継手内圧力の変化を測定したところ、図6に示すように0?-250Paの範囲に収まった。また、排水実験2として、10階、9階、8階の各々の便器から同時に1.7L/secの合計5.1L/secを縦管9aに流入させ、7階の継手内圧力の変化を測定したところ、図7に示すように+50?-100Paの範囲に収まった。」

(8)甲8
甲8は、第1出願より前に公開された刊行物であり、次の事項が記載されている。
ア 「【0007】
次に、下部継手20は、上部継手10の下部接続部14が挿入される上部受け口21と、下流側の排水立て管4に対して当該下部継手20を接続するための下部接続部22を備えている。この下部継手20は、上部継手10とは異なって横枝管受け口は設けられていない。このため、この下部継手20は、スラブ貫通型のいわゆる両受けソケットとして機能する。
この下部継手20の上部受け口21の内周側にパッキンを介して上部継手10の下部接続部14が挿入されて水密に接続されている。本実施形態において、上流側の立て管2と下流側の立て管4は同サイズ(同じ外径)のものが用いられており、上部継手10の下部接続部14は、下流側の排水立て管4よりも外径が太くなっている。このため、この下部継手20において、上部受け口21と下部接続部22は相互に異なるサイズの受け口となっている。
・・・(後略)・・・」

イ 図1




(9)甲9
甲9は、第1出願より前に公開された刊行物であり、次の事項が記載されている。
「【0014】
このように、熱膨張性耐火材9は、反応温度、膨張率の異なる多種多様のものを使用でき、したがって建築物内の施工場所に応じて要求される反応温度、管径等の諸条件を満たす最適なものを選択して使用できる。
この熱膨張性耐火材9は、シート状に形成されており、樹脂製排水配管継手4の中途部の外周面に巻き付けられている。
この第1実施形態では、熱膨張性耐火材9は、樹脂製排水配管継手4が貫通部3に埋設された部分全てに巻き付けられており、したがって、熱膨張性耐火材9の上下方向の幅はスラブ厚とほぼ同じになっている。」

(10)甲10
甲10は、第1出願より前に公開された刊行物であり、次の事項が記載されている。
「【0010】上層及び下層を仕切るコンクリートスラブ21には、継手や配管などからなる配管手段が貫通するための貫通孔23が設けられている。本実施の形態では、この貫通孔23には、上階の継手25からの排水を下階へ流すための継手接続部分27が配設されている。この継手接続部分27は、コンクリートスラブ21の下層において延長する管部分29と一体的に形成されており、すなわち、継手接続部分27及び管部分29が、受け口を持つ一体型配管26を構成している。これら継手25、継手接続部分27及び管部分29はいずれも、塩化ビニルなどの合成樹脂からなる。継手25の上部は、二股に分かれた管接続部31を有し、この管接続部31には、コンクリートスラブ21の上層において延長する配管33、35が接続されている。これら配管33,35もまた、継手25や一体型配管26と同様に、塩化ビニルなどの合成樹脂からなる。
【0011】さらに、配管手段における貫通孔23内に位置している部分、すなわち本実施の形態では一体型配管26の貫通孔23内に位置している部分の外周には、加熱膨張性シート37が環状に被覆されている。本実施の形態では、加熱膨張性シート37として、積水化学工業社製の「セキスイS耐火シート」が使用されている。加熱膨張性シート37の上端37aは、コンクリートスラブ21の上面とほぼ面一になっており、加熱膨張性シート37の下端37bは、コンクリートスラブ21の下面よりも下方に突出しており、火災時にいち早くシートが膨張できるようになっている。」

(11)甲11
甲11は、第1出願より前に公開された刊行物であり、次の事項が記載されている。
「【0041】防火区画貫通部Aは、コンクリートの床,天井もしくは壁である区画面体Fに管路を通す貫通孔F1が穿設されて成る。貫通孔F1内は熱可塑性の合成樹脂材料より成る管路部材P,Pと継手1とによる管路が貫通して配設されており、継手1を貫通孔F1内に配設したうえで継手1と貫通孔F1との隙間を耐火性の充填材Sで塞いだ防火構造としてある。
・・・(中略)・・・
【0045】保持金具16により、管路部材Pが嵌合する中心向きのリング状溝形の膨張保持部40が形成されている。膨張保持部40は、外被層30の端部35の外周から延び先端を中心側に曲げて抱持片41が形成され、抱持片41で溝形内に抱え込むようにして、火災の熱で膨張し管路を閉塞して火炎が伝達しないようにする耐火性の熱膨張部材45が装着されている。
【0046】熱膨張部材45は、マット状あるいはシート状のものを円筒形に巻くようにして成形されており、内周は接続端部15の芯管20の外嵌端21による管路の全周を巻くようにして外嵌しており、管路部材Pには間接的に嵌合している。」


第5 当審の判断
1 申立理由1について
(1)分割要件について
ア 申立人の主張
申立人は、第1出願の公開公報である甲1の段落【0006】-【0013】、【0018】-【0021】、【0029】-【0034】、【0038】、【0040】及び【0048】を参照し、甲1が示す第1出願当初明細書等の記載に照らすと、第1出願当初明細書等には、最下階スラブに設けられる排水管構造及びその施工方法において、コストの上昇を抑えつつ最下階スラブのスラブ厚に応じて配管の納まりを向上させるとともに、施工管理を容易にするという課題を解決するために、次の技術的事項A及びBを採用した発明が記載されている旨を主張している(申立書第8頁第20行-第13頁最終行)。
<技術的事項A>
集合継手の下側接続部を、外形がストレート形状の接続縦管を介して、曲管状の脚部継手に接続すること。
<技術的事項B>
接続継手、外形がストレート形状の接続縦管及び曲管状の脚部継手を接続したものを、最下階スラブの下側から当該最下階スラブに形成された貫通孔に挿入して、接続継手の上側受口部を最下階スラブの上面以上に突出させた後に、最下階スラブの上面以上に突出した接続継手の上側受口部に集合継手の下側接続部を挿入すること。

そして申立人は、
「詳しくは、上記技術的事項Aによって、集合継手の下側接続部と脚部継手とを、直接接続するのではなく、接続縦管を介して接続することから、製造コストの上昇を抑えつつ最下階スラブのスラブ厚に応じて配管の納まりを向上させることができるという上記課題の一部を解決することができる。また、上記技術的事項Bによって、最下階スラブ内における接続作業がなくなり、集合継手の下側接続部が接続継手の上側受口部に確実に挿入されていることを確認しながら集合継手と接続縦管との接続作業を行うことができるため、施工管理が容易になるという上記課題の一部を解決することができる。
このように、第1出願において、上記技術的事項A及び上記技術的事項Bはいずれも、上記課題を解決するための必須の構成である。言い換えると、上記技術的事項A及び上記技術的事項Bを備えない発明は、第1出願当初明細書等に記載されておらず、かつ、第1出願当初明細書等から自明であるとはいえない。」(申立書第14頁第1行-第12行)
と主張し、本件発明1ないし5は、上記技術的事項A及び上記技術的事項Bをいずれも有していないから、本件特許に係る出願は、第1出願当初明細書等に記載された事項の範囲内において分割出願したものではなく、同様に本件特許の分割時の第2出願の請求項1?5及び第2出願の特許(特許第6820906号)の請求項1?5もまた、上記技術的事項A及びBを有していないから、本件特許に係る出願、及び第2出願は、分割要件を充足していない旨を主張している(申立書第14頁第13行-第18行)。

イ 分割要件についての判断
(ア)第1出願当初明細書等の記載
甲1は、第1出願の公開公報である。甲1には、上記第4の2(1)に摘記した事項が記載されており、当該事項は、第1出願当初明細書等にも記載されていたものである。

(イ)本件発明1の構成の分説
本件発明1の構成は、分説を付して再掲すると、次のとおりである。
「(A) 最下階スラブに設けられる排水配管構造であって、
(B) 最下階スラブの上側に配置される横枝管と接続可能な枝管接続部と、当該枝管接続部よりも下側に形成された、下方に延びる円筒状の下側接続部と、を有する集合継手と、
(C) 最下階スラブの下側に配置される横主管と接続される曲管状の脚部継手と、
(D) 少なくとも一部が最下階スラブに埋設されるとともに、下端部が上記脚部継手と接続される、接続縦管と、
(E) 最下階スラブに埋設されて、上記集合継手と上記接続縦管とを接続する接続継手と、を備え、
(F) 上記接続縦管の外径は、上記集合継手の下側接続部の外径よりも小さく、
(G) 上記集合継手と上記接続継手とは、最下階スラブに埋設される位置で接続され、
(H) 上記接続継手には、熱膨張性シートが巻き付けられていることを特徴とする
(I) 排水配管構造。」

(ウ)本件発明1の構成が、第1出願当初明細書等に記載されていたか
上記第4の2(1)アに摘記した【請求項1】、同キに摘記した段落【0026】及び【0035】、同ケに摘記した段落【0055】、並びに、同コないしシに摘記した図1、図2及び図7には、本件発明1の構成のうち、構成(A)ないし(D)、(F)、(H)及び(I)、並びに、構成(E)のうち「上記集合継手と上記接続縦管とを接続する接続継手」という構成が、記載されている。
また、同アに摘記した【請求項1】に記載される、「上記下側受口部が上記最下階スラブに埋設されて」いる「接続継手」について、同段落【0035】に記載されるとおり、「上側受口部12の上端と最下階スラブ20の上面20aとが面一になるように」すると、「接続継手」は、上側受け口部の上端から下側受け口部までの全体が、最下階スラブの上面以下に「埋設」されることとなり、「集合継手」の下側接続部を「接続継手」の上側受け口部に挿入して行う「集合継手」と「接続継手」との接続位置も、最下階スラブの上面以下となる。
そうすると、第1出願当初明細書等には、本件発明1における構成(E)のうち、「接続継手」が「最下階スラブに埋設され」るという構成、及び、本件発明1における構成(G)についても、記載されていることとなる。
したがって、本件発明1の構成は、第1出願当初明細書等に記載されていたものである。

(エ)第1出願当初明細書等に記載される課題
上記(ウ)のとおり、本件発明1の構成は、第1出願当初明細書等に記載されていたものである。
しかしながら、申立人は、本件発明1は、第1出願当初明細書等において、課題を解決するために必須である構成を欠く旨を主張している。
そこで、第1出願当初明細書等における課題について検討する。
第1出願当初明細書等における課題は、上記第4の2(1)イに摘記した段落【0008】に、「最下階スラブに設けられる排水管構造」において、「コストの上昇を抑えつつ最下階スラブのスラブ厚に応じて配管の納まりを向上させるとともに、施工管理を容易にする技術を提供すること」とまとめられているとおりであり、同段落【0008】の記載及びこれに先立つ段落【0005】ないし【0007】の記載に照らすと、「コストの上昇を抑えつつ最下階スラブのスラブ厚に応じて配管の納まりを向上させる」との課題については、脚部継手と接続する下部管用接続部が一体不可分に形成された排水集合継手を用いる従来技術に比較して、最下階スラブのスラブ厚に応じて配管の納まりを向上させる対応が容易となり、当該対応に要するコストも低減されればよく、「施工管理を容易にする」との課題については、脚部継手と接続する下部管用接続部が一体不可分に形成された従来技術の排水集合継手を用いて、脚部継手の上端が最下階スラブの下面ぎりぎりに位置する場合に、最下階スラブ内で下部管用接続部と脚部継手とを接続しなければならないこととなる構成に比較して、施工管理が容易となればよいことが理解される。
そうすると、第1出願当初明細書等における課題は、脚部継手と接続する下部管用接続部が一体不可分に形成された従来技術の排水集合継手を用いて、脚部継手の上端が最下階スラブの下面ぎりぎりに位置する場合に、最下階スラブ内で下部管用接続部と脚部継手とを接続しなければならないこととなる構成に比較して、「コストの上昇を抑えつつ最下階スラブのスラブ厚に応じて配管の納まりを向上させるとともに、施工管理を容易にする技術を提供する」ことであるといえる。

(オ)本件発明1が、第1出願当初明細書等に記載される課題の解決に必須の構成を有するか
a 本件発明の構成
本件発明1は、構成(C)ないし(E)により、「曲管状の脚部継手」と「集合継手」とを、「接続縦管」を介して接続するとともに、「集合継手」と「接続縦管」とを「接続継手」を介して接続する構成を有している。また、本件発明1は、構成(D)により、「下端部が上記脚部継手と接続される、接続縦管」が「少なくとも一部が最下階スラブに埋設される」とともに、構成(B)及び(E)により、「集合継手」が「下方に延びる円筒状の下側接続部」を有し、かつ「上記集合継手と上記接続縦管とを接続する接続継手」を有するから、「集合継手」の接続に関して、最下階スラブの下面から、「接続縦管」が「埋設」された部分及び「接続継手」に対応する高さだけ上面に近づいた位置で、かつ「円筒状の下側接続部」に対応した「接続継手」に対して、接続を行うことが可能な構成を有している。
このように、本件発明1は、脚部継手と接続する下部管用接続部が一体不可分に形成された従来技術の排水集合継手を用いて、脚部継手の上端が最下階スラブの下面ぎりぎりに位置する場合に、最下階スラブ内で下部管用接続部と脚部継手とを接続しなければならないこととなる構成に比較して、「コストの上昇を抑えつつ最下階スラブのスラブ厚に応じて配管の納まりを向上させるとともに、施工管理を容易にする技術を提供する」という課題を解決することができる構成を有しているから、第1出願当初明細書等における課題を解決するために、必要な構成を有するものであるといえる。

b 申立人が主張する技術的事項の一部欠落
これに対し、申立人は、上記アのとおり、第1出願当初明細書等における課題を解決するための必須の構成である上記技術的事項A及び上記技術的事項Bを備えない本件発明1は、課題を解決するための必須の構成を欠き、第1出願当初明細書等に記載されたものではない旨を主張する。
そこで検討するに、申立人が示す技術的事項Aは、「集合継手の下側接続部を、外形がストレート形状の接続縦管を介して、曲管状の脚部継手に接続すること」であるところ、本件発明1は、上記技術的事項Aのうち、接続縦管について「外形がストレート形状」とする構成を備えていない。しかし、接続縦管の外形を「ストレート形状」とする構成は、第1出願当初明細書等の段落【0045】の「なお、本実施形態では、外形がストレート形状の接続縦管3を用いているので、換言すると、どの位置で切断しても接続縦管3の断面形状が変わらないので、切断後も切断前と同じ態様で接続縦管3の上端部を下側受口部13に挿入することができる。」との記載に照らせば、接続縦管をどの位置でも切断できることとしてもよいとする付加的な課題に対応する構成にすぎないと理解できるから、「外形がストレート形状」であるとの構成を有しないとしても、課題を解決するための必須の構成を欠いているということはできない。
申立人が示す技術的事項Bは、「接続継手、外形がストレート形状の接続縦管及び曲管状の脚部継手を接続したものを、最下階スラブの下側から当該最下階スラブに形成された貫通孔に挿入して、接続継手の上側受口部を最下階スラブの上面以上に突出させた後に、最下階スラブの上面以上に突出した接続継手の上側受口部に集合継手の下側接続部を挿入すること」であるところ、本件発明1は、技術的事項Bのうち、「最下階スラブの上面以上に突出した接続継手の上側受口部」という構成を備えていない。しかしながら、本件発明1は上記aに示したとおり、構成(B)ないし(E)を備えることにより、脚部継手と接続する下部管用接続部が一体不可分に形成された従来技術の排水集合継手を用いる構成に比較して、「コストの上昇を抑えつつ最下階スラブのスラブ厚に応じて配管の納まりを向上させるとともに、施工管理を容易にする技術を提供する」という課題を解決するために必要な構成を備えるものである。また、本件発明1は、技術的事項Bのうち、各部材の接続等を行う際の作業順序を特定していないが、「排水配管構造」という物の発明である本件発明1が、各部材の接続等を行う際の作業順序を特定せずとも、構成(B)ないし(E)を備えることにより、第1出願当初明細書等における課題を解決するために必要な構成を備えることに、変わりはない。
したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。

(カ)本件発明1の小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、第1出願当初明細書等に記載されていた発明である。

(キ)本件発明2ないし5について
申立人は、本件発明2ないし5についても、本件発明1と同様に、技術的事項A及びBの一部を有さないから、第1出願当初明細書等における課題を解決するために必要な構成を欠く旨を主張している。
しかしながら、本件発明2ないし5は、本件発明1の構成を全て有するから、本件発明1と同様に、第1出願当初明細書等における課題を解決するために必要な構成を備えるものである。そして、本件発明2ないし5における付加的な構成は、第1出願当初明細書等の段落【0028】や【請求項1】に記載されている。
したがって、本件発明2ないし5は、いずれも、第1出願当初明細書等に記載されていた発明である。

(ク)第2出願との関係について
本件出願が、第2出願との関係において、第1出願からの分割要件に違反するかについて、判断する。
第1出願は、出願より以降、補正が行われなかったことが、当審において顕著な事実である。
第2出願は、第1出願当初明細書等と同じ内容の特許請求の範囲、明細書及び図面を最初に添付して、平成30年12月28日に出願され、その後補正がされているが、本件特許の分割出願時である令和2年9月10日には、令和2年7月14日発送の拒絶理由に対する応答期間中であり、第1出願当初明細書等と同じ内容である第2出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内で補正が可能であったことが、当審において顕著な事実である。
以上の事実からすれば、本件分割出願は、第2出願との関係において、第1出願からの分割要件に違反するものではない。
なお、申立人は申立書において、第2出願に係る特許の分割要件についても言及しているが、第2出願に係る特許第6820906号は、本件の分割出願より後に特許査定がされているものであり、本件出願の分割の適否については、特許第6820906号に係る特許が分割要件を満たすか否かについてさらに判断するまでもなく、上記のとおり判断できるものである。
したがって、本件出願は、第2出願との関係において、第1出願からの分割要件に違反するものではない。

(ケ)小括
以上のとおり、本件特許に係る出願は、分割要件を満たしている。そして、申立人の主張について検討しても、分割要件についての上記の判断を変更すべき事情は見いだせない。

(2)甲1を本件出願前に公開された刊行物とした新規性進歩性欠如について
上記(1)のとおり、本件出願は分割要件に違反するものでなく、本件発明1ないし5については、第1出願時に出願されたものとして、新規性及び進歩性が判断される。
甲1は、第1出願の出願より後に公開された第1出願の公開公報であり、第1出願より前に公開されたものではない。
したがって、本件発明1ないし5は、甲1に記載された発明として特許法第29条第1項第3号に該当することはない。
また、本件発明1ないし5は、甲1に記載された発明に基いて第1出願より前に当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

2 申立理由2について
(1)本件発明1について
ア 甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「排水管継手1を使用した排水経路」は、本件発明1における「排水配管構造」に相当する。
甲2発明における「コンクリートスラブC」と、本件発明1における「最下階のスラブ」とは、「スラブ」という点で共通する。また、甲2発明における「排水管継手1を使用した排水経路」について、その一部が「コンクリートスラブCに固定」される構成と、本件発明1における「配水管構造」について、「最下階スラブに設けられる」構成とは、「スラブに設けられる」という点で共通する。
甲2発明における、「コンクリートスラブCの上側に配置される小径横枝管4」と、本件発明1における、「最下階スラブの上側に配置される横枝管」とは、「スラブの上側に配置される横枝管」という点で共通する。甲2発明において、「小径横枝管4が挿入され」る「下部横枝管受け口23」は、本件発明1において、「横枝管と接続可能な枝管接続部」に相当する。
甲2発明において、「下部継手20の胴部21の下端部」は、「下部横枝管受け口23」より下であることは明らかであること、及び、「下部継手20の胴部21」の「旋回ガイド28a,28b」より下は、「流下する排水を螺旋状に旋回させる」ために、略円形の断面形状となっていると解されることをふまえると、同「下端部」に形成された「下階の排水立て管5の受け口部Uに挿入される直管部22」は、本件発明1における「枝管接続部よりも下側に形成された、下方に延びる円筒状の下側接続部」に相当する。
甲2発明における「排水管継手1」は、「小径横枝管4」及び「上階の排水立て管2」と「接続」され、「小径横枝管4」及び「上階の排水立て管2」からの水を集めて排水することは明らかであるから、本件発明1における「集合継手」に相当する。

以上を整理すると、本件発明1と甲2発明とは、
「スラブに設けられる排水配管構造であって、
スラブの上側に配置される横枝管と接続可能な枝管接続部と、当該枝管接続部よりも下側に形成された、下方に延びる円筒状の下側接続部と、を有する集合継手を備える、
排水配管構造。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
配水管構造の設置箇所、及び「集合継手」のスラブ下への接続構造に関し、
本件発明1においては、「配水管構造」は「最下階スラブ」に設けられ、「集合継手」のスラブ下における接続対象は「最下階スラブの下側に配置される横主管と接続される曲管状の脚部継手」であり、「集合継手」を「脚部継手」に接続するうえで、「少なくとも一部が最下階スラブに埋設されるとともに、下端部が上記脚部継手と接続される、接続縦管と、最下階スラブに埋設されて、上記集合継手と上記接続縦管とを接続する接続継手と」を用い、「上記集合継手と上記接続継手とは、最下階スラブに埋設される位置で接続され」るのに対し、
甲2発明においては、「排水管継手1」は「下端部が下階の排水管継手と接続され」た「下階の排水立て管5」に接続されるから、「排水管継手1を使用した排水経路」が設置される「コンクリートスラブC」は「最下階」のスラブではなく、「排水管継手1」のスラブ下における接続対象は「下階の排水立て管5」であり、「排水管継手1」を「下階の排水立て管5」に接続する際、「コンクリートスラブCの上面Cuの高さに合わせられ」た「排水立て管5の受け口部U」の「受け口内管5u」に「排水管継手1の下端部に形成された直管部22が挿入され、排水管継手1と排水立て管5とが接続され」たうえで、「コンクリートスラブCの貫通孔Chがモルタルで埋め戻され、排水立て管5の受け口部U及びその近傍がコンクリートスラブCに固定され」る点。

<相違点2>
部品の外径に関し、
本件発明1においては、「接続継手」を介して「集合継手」と接続され、「下端部が上記脚部継手と接続され」る「接続縦管」について、「上記接続縦管の外径は、上記集合継手の下側接続部の外径よりも小さ」いと特定されているのに対し、
甲2発明においては、本件発明1における上記「接続縦管」に相当する部材を有さないとともに、「排水管継手1の下端部に形成された直管部22」の外径と他の部材の外径との大小関係も明らかでない点。

<相違点3>
本件発明1においては、「上記接続継手には、熱膨張性シートが巻き付けられている」のに対し、
甲2発明においては、「熱膨張性シートが巻き付けられている」部材を有さない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点1から判断する。
甲2発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成、すなわち、(ア)甲2発明における「排水管継手1」を、「最下階」のスラブにおいて、「横主管と接続される曲管状の脚部継手」への接続を行う箇所に設けるとともに、(イ)「排水管継手1」から「曲管状の脚部継手」への接続を、「接続継手」及び「接続縦管」を介して行ったうえで、(ウ)当該「接続継手」及び「接続縦管」を「少なくとも一部が最下階スラブに埋設されるとともに、下端部が上記脚部継手と接続される、接続縦管と、最下階スラブに埋設されて、上記集合継手と上記接続縦管とを接続する接続継手」とし、「上記集合継手と上記接続継手とは、最下階スラブに埋設される位置で接続」することは、以下のとおり、申立人が提出する甲3ないし甲11からは、当業者が容易に想到し得たものということはできない。
すなわち、甲3、甲4、及び甲5には、それぞれ上記第4の2(3)ないし(5)に摘記した事項が記載されており、そのいずれにも、建物の最下階のスラブより下の横主管と接続される曲管状の脚部継手と接続を行うことが示されているから、排水管構造を最下階スラブに設けること、及び、最下階スラブでは、排水管構造に下の横主管と接続される曲管状の脚部継手を用いることについては、周知技術ということができる。
しかしながら、最下階スラブにおいて曲管状の脚部継手への接続を行う箇所で、他の階で用いると同様に排水の集合機能を有する継手を設けることが、一般的であるか否かについてみると、甲3の段落【0003】には、「横主管が設けられる高さ位置に最も近い最下階において配管される横枝管は、立主管へ直接接続することはせず、単独で排水ますまで配管するか、または横主管上で立主管から十分な距離を確保して合流させるのが好ましい」と記載されている。この点については、甲4においても、段落【0053】の記載及び【図3】の図示からみて、「最下層の床スラブ5」の上下で「脚部継手1」を用いて「排水立管6」と「排水横主管7」とを接続する箇所では、「集合継手」は用いられていない。また、甲5においても、「排水配管システム」のうち「各階を区画する床スラブ6,6ごとに設置された排水管構造1」に関して説明する段落【0013】ないし【0015】及び【図1】では、「排水集合管2」を用いることが記載されている一方、「最下階」において「ベンド管45K」及び「横主管46K」との接続を行う「排水管構造1K」に関して説明する段落【0050】ないし【0052】及び【図17】では、「排水集合管2」を用いていない。
このような甲3ないし甲5の記載からすれば、排水管構造を最下階スラブに設けること、及び、最下階スラブでは排水管構造に下の横主管と接続される曲管状の脚部継手を用いることが周知技術であるからといって、最下階スラブにおいて曲管状の脚部継手への接続を行う箇所で、さらに他の階で用いると同様に排水の集合機能を有する継手を設けることまで、一般的であると言うことはできない。そのため、甲2発明において、「下階の排水立て管5」との接続を行っている「排水管継手1」を、「最下階」のスラブにおいて「横主管と接続される曲管状の脚部継手」への接続を行う箇所に設置し、上記相違点1に係る本件発明1の構成のうち、上記(ア)に対応する構成に至ることは、甲3ないし甲5に示される、最下階スラブでは排水管構造に下の横主管と接続される曲管状の脚部継手を用いるという前記周知技術から、直ちに示唆される事項ではない。
この点に関し、甲3の段落【0030】ないし【0034】及び図6には、上記第4の2(3)イ及びウに摘記した事項が記載されており、「最下階の床スラブFS」において、「横主管6b」に接続される「脚部継手A」への接続を行う箇所に、「集合継手7」を設ける構成が示されているが、当該構成は、「集合継手7の下部開口接続部72を脚部継手Aの受口部11に嵌装し、集合継手7と脚部継手Aとを連結」しているから、「集合継手7」は「脚部継手A」に直接接続されているものであり、甲2発明において甲3の図6に示される当該構成を適用しても、「最下階スラブ」において「横主管と接続される曲管状の脚部継手」への接続を行う箇所に「集合継手」を設けるとともに、「集合継手」から「曲管状の脚部継手」への接続を、「接続継手」及び「接続縦管」を介して行うという、上記相違点1に係る本件発明1のうち、上記(ア)及び(イ)に対応する構成に至るものではない。
また、甲2発明において、「排水管継手1」の「直管部22」が接続される「受け口部U」は、「直管部S」と「受け口部U」とを有する「下階の排水立て管5」の一部であるところ、甲2発明において、「最下階」のコンクリートスラブで「曲管状の脚部継手」への接続を行う箇所に、「排水管継手1」を設けるとともに、該「排水管継手1」の接続先を「曲管状の脚部継手」へと変更する際に、「下階の排水立て管5」のうち「受け口部U」の部分を「接続継手」とし、また「下階の排水立て管5」のうち「直管部S」を「接続縦管」としたうえで、「排水管継手1」から「曲管状の脚部継手」への接続に介在させることで、上記相違点1に係る本件発明1の構成のうち、上記(ア)及び(イ)に対応する構成とすることも、甲3ないし甲5に記載あるいは示唆されているということができない。
甲6ないし甲11には、上記第4の2(6)ないし(11)に摘記した事項が記載されているが、いずれも排水管継手の各部の径、または防火構造に関する記載であり、甲2発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成のうち、上記(ア)及び(イ)に対応する構成に至ることを記載あるいは示唆するものではない。
そして、甲2発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成のうち、上記(ア)及び(イ)に対応する構成とすることは、甲3ないし甲11の記載を考慮しても、当業者にとって容易ではないから、甲2発明において上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、甲3ないし甲11の記載を考慮しても、当業者にとって容易に想到できた事項ではない。

ウ 小括
上記のとおり、上記相違点1に係る本件発明1の構成に想到することは容易ではないから、その余の相違点2ないし3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明、及び甲3ないし甲11に記載される事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1の構成を有し、さらに限定を加えたものである。
上記(1)のとおり、本件発明1は、甲2発明、及び甲3ないし甲11に記載される事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の構成を有する本件発明2ないし5も、甲2発明、及び甲3ないし甲11に記載される事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)申立人の主張について
ア 申立人の主張
申立人は申立書において、甲2発明における「内管5e」は、本件発明1における「接続縦管」に相当し、甲2発明における「受け口内管5u」は、本件発明1における「接続継手」に相当し、甲2の図3に示される「内管5e」及び「受け口内管5u」のコンクリートスラブCへの埋設態様、並びに「排水管継手1」と「受け口内管5u」との接続位置は、本件発明1における「接続縦管」及び「接続継手」の「最下階スラブ」への埋設態様、並びに「集合継手」と「接続継手」との接続位置に一致するから、本件発明1と甲2発明とは、以下の相違点1-1?1-3において相違し、その余の点で一致する旨を主張している。
<<相違点1-1>>
本件発明1の「排水配管構造」は、最下階スラブに設けられるとともに、最下階スラブの下側に配置される横主管と接続される曲管状の脚部継手を備えているのに対し、甲2発明の「排水配管構造」が設けられるスラブが「最下階」であるかどうか不明であり、かつ、曲管状の脚部継手を備えているかどうか不明である点。
<<相違点1-2>>
本件発明1は、「上記接続縦管の外径は、上記集合継手の下側接続部の外径よりも小さ」いという構成を備えているのに対し、甲2発明は、当該構成を備えていない点。
<<相違点1-3>>
本件発明1は、「上記接続継手には、熱膨張性シートが巻き付けられている」という構成を備えているのに対し、甲2発明は、当該構成を備えていない点。
そして、申立人は上記相違点1-1について、集合住宅の最下階のスラブに、集合継手を含む排水管構造を設けること、及び、その際に、当該排水管構造の下端に、最下階のスラブの下側に配置される横主管に接続される曲管状の脚部継手を接続することは、甲3ないし甲5に示されるとおり周知技術であるから、当該周知技術に基づいて、甲2発明の排水管構造を最下階のスラブに設けるとともに、甲2発明の「下階の排水管継手」として「曲管状の脚部継手」を採用して、内管5eの下端部を「曲管状の脚部継手」に接続して、上記相違点1-1に係る技術的事項を採用することは、当業者にとって容易に想到し得る旨を主張している(申立書第44頁第2行-第45頁第5行)。

イ 申立人の主張についての判断
申立人が主張する上記相違点1-1ないし1-3のうち、上記相違点1-2及び1-3は、上記(1)アに認定した相違点2及び3に対応することを踏まえると、上記相違点1-1に関する申立人の主張は、上記(1)アにおいて認定した相違点1について、申立人が主張する上記相違点1-1のとおり認定されるべきであり、当該相違点は、甲3ないし甲5に示される周知技術に基いて想到容易と判断されるべき旨を主張しているものと認められるので、この点について判断する。
甲2発明において、「排水管継手1」は「下端部が下階の排水管継手と接続され」た「下階の排水立て管5」に接続されるから、「排水管継手1を使用した排水経路」が設置される「コンクリートスラブC」は「最下階」のスラブではない。そのため、甲2発明における「排水管継手1を使用した排水経路」が設けられる「スラブ」は、申立人が主張するように「最下階」であるかどうかが不明であるのではなく、本件発明1において「集合継手」を有する「排水配管構造」が「最下階スラブ」に設けられる点は、甲2発明における「排水管継手1」を「最下階」のスラブに設ける変更を要する、相違点として認定されるべきである。
また、甲2発明において、「排水管継手1」を接続する「下階の排水立て管5の受け口部U」は、「直管部Sが内管5eと外管5fとから構成され、受け口部Uが受け口内管5uと受け口外管5yとから構成される耐火二層管」である「下階の排水立て管5」の一部であり、かような「下階の排水立て管5」の一部である「受け口部U」の「受け口内管5u」、及び「直管部S」の「内管5e」について、「排水管継手1」の設置箇所及び接続先を変更する際にも接続のために介在させる各々独立した部材として扱うことは、甲2には記載されていない。そのため、甲2発明における「下階の排水立て管5」のうち、「受け口内管5u」及び「内管5e」を、それぞれ本件発明1における「接続継手」及び「接続縦管」に相当するとし、さらに甲2における「受け口内管5u」及び「内管5e」の「コンクリートスラブC」への埋設態様等も、本件発明1における「接続継手」及び「接続縦管」の「最下階スラブ」への埋設態様等と共通するとして、スラブが「最下階」であることのほかに相違点1-1として認定されるべき構成を、本件発明1においては、「排水配管構造」が最下階スラブの下側に配置される横主管と接続される曲管状の脚部継手を備えているのに対し、甲2発明においては、曲管状の脚部継手を備えているかどうか不明である点とする、申立人の主張は、妥当ではない。甲2発明において、最下階のスラブでない「コンクリートスラブC」に設け、「下階の排水立て管5」にその一部である「受け口部U」において「排水管継手1」を接続する構成は、「排水管継手1」の設置箇所を「最下階」のスラブとし、また該スラブの下で接続する接続先を変更する際に、併せて変わり得る構成であるから、本件発明1と甲2発明との相違点は、「集合継手」を含む「排水配管構造」を、「最下階」のスラブに設けることに加えて、「集合継手」の「脚部継手」への接続において「接続継手」及び「接続縦管」を介すること、及び、かような「接続継手」及び「接続縦管」を介した接続について本件発明1に特定される構成を、併せて認定すべきであり、申立人が上記アに主張する上記相違点1-1ではなく、上記(1)アに認定した相違点1のとおり認定されるべきものである。
そして、甲2発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることの容易性については、申立人が言及する甲3ないし甲5の記載を検討しても、上記(1)イに示したと異なる判断をすべき事情は見いだせない。
よって、申立人の主張について検討しても、甲2を主たる引用例とした本件発明1ないし5の進歩性については、上記(1)及び(2)のとおり判断されるべきものである。

3 申立理由3について
(1)申立人の主張
申立人は申立書において、本件明細書の記載に照らしても、第1出願当初明細書等に照らした場合と同様に、最下階スラブに設けられる排水管構造及びその施工方法において、コストの上昇を抑えつつ最下階スラブのスラブ厚に応じて配管の納まりを向上させるとともに、施工管理を容易にするという課題を解決するために、上記1(1)アに示した技術的事項A及び技術的事項Bを採用したことが記載されていたものである旨を主張している。そして、本件発明1ないし5は、上記技術的事項A及び技術的事項Bをいずれも有しておらず、本件特許の出願時の技術常識に照らしても、上記技術的事項A及び技術的事項B無しに、上記課題を解決できると当業者は認識することができないから、本件発明1ないし5は、特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件を満たしていない旨を主張している(申立書第48頁下から6行-第54頁第25行)。

(2)本件明細書における課題
本件明細書には、「背景技術」、「発明が解決しようとする課題」及び「課題を解決するための手段」について、段落【0002】ないし【0009】において、上記第4の2(1)イ及びウに摘記した甲1の段落【0002】ないし【0009】と同じ記載がある。
本件明細書における課題は、当該段落【0002】ないし【0009】の記載から、上記1(1)イ(エ)に示した、第1出願当初明細書等における課題と同様であると認められる。
そして、本件発明1ないし5が、申立人が主張する上記技術的事項A及び上記技術的事項Bを有していなくとも、当該課題を解決するために必要な構成を備えることについては、上記1(1)イ(オ)及び(カ)に示したとおりである。
したがって、本件発明1ないし5は、申立人が申立てる点でサポート要件に違反するということはできず、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないということはできない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、及び提出された証拠によっては、本件発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2021-09-27 
出願番号 特願2020-152047(P2020-152047)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E03C)
P 1 651・ 537- Y (E03C)
P 1 651・ 113- Y (E03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 七字 ひろみ  
特許庁審判長 長井 真一
特許庁審判官 有家 秀郎
田中 洋行
登録日 2020-11-24 
登録番号 特許第6799194号(P6799194)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 排水配管構造  
代理人 山口 洋  
代理人 西澤 和純  
代理人 川越 雄一郎  
代理人 大槻 真紀子  

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