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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A23L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L |
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管理番号 | 1378776 |
異議申立番号 | 異議2021-700610 |
総通号数 | 263 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-11-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-07-01 |
確定日 | 2021-10-18 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6812088号発明「食塩含有飲食品及びその製造方法、並びに塩味増強剤及び塩味増強方法。」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6812088号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6812088号についての出願は、平成26年11月27日を出願日とする特願2014-240486号であって、令和2年12月18日にその発明について特許権の設定登録がなされ、令和3年1月13日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年7月1日に特許異議申立人櫻田賢(以下、「申立人」という)により特許異議の申立てがなされた。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1?4に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 食塩含有飲食品であって、 塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチル及び食塩を含有し、 前記オクタン酸エチルの含有量が前記食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppbであり、 前記食塩の含有量が前記食塩含有飲食品全量を基準として0.58?2.7質量%であり、 前記食塩含有飲食品がスープ(ただし、味噌を含有するスープを除く)である、 食塩含有飲食品。 【請求項2】 オクタン酸エチルを有効成分とする、塩味増強剤。 【請求項3】 塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを食塩含有飲食品に含有させることを含む、前記食塩含有飲食品の塩味増強方法。 【請求項4】 塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを食塩含有飲食品に含有させることを含み 、 前記オクタン酸エチルの含有量が食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppbであり、前記食塩の含有量が食塩含有飲食品全量を基準として0.58?2.7質量% である、スープ(ただし、味噌を含有するスープを除く)を製造する、食塩含有飲食品の製造方法。」 (以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明4」という。) 第3 申立理由の概要 申立人は、異議申立書において、証拠として次の甲第1号証?甲第26号証を提出し、次の申立ての理由を主張している。 理由1-A:本件特許発明1は、本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、又は甲第5号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 理由1-B:本件特許発明2は、本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 理由1-C:本件特許発明3は、本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 理由1-D:本件特許発明4は、本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、又は甲第5号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 理由2-A:本件特許発明3は、本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明並びに甲第6号証及び甲第7号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 理由2-B:本件特許発明3は、本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 理由2-C:本件特許発明3は、本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証及び甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 理由2-D:本件特許発明3は、本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第5号証及び甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 甲第1号証: ”減塩!あさりのお吸い物レシピ・作り方“,[online],[令和3年5月25日検索],インターネット,<URL:https://recipe.rakuten.co.jp/recipe/1310003873/>,平成24年8月8日に公開されたとされるもの 甲第2号証: “鶏肉と白菜の鍋 キユーピー3分クッキング 日本テレビ”,[online],[令和3年6月24日検索],インターネット,<URL:https://www.ntv.co.jp/3min/recipe/20140117/>,平成26年1月17日に公開されたとされるもの 甲第3号証: “【健康】 特性だし割醤油レシピ・作り方”,[online],[令和3年6月24日検索],インターネット,<URL:https://recipe.rakuten.co.jp/recipe/1430002813/>,平成24年5月30日に公開されたとされるもの 甲第4号証:“白菜の簡単スープ煮 レシピ”, [online],平成25年2月11日,[令和3年6月24日検索],インターネット,<URL:https://web.archive.org/web/20130211125957/http://park.ajinomoto.co.jp/recipe/card/706074> 甲第5号証:“鶏肉ときのこでショートパスタスープ”,[online],[令和3年5月28日検索],インターネット,<URL:https://cookpad.com/recipe/1710058>,平成24年2月17日に公開されたとされるもの 甲第6号証:金子ひろみ,料理に使う日本酒の効果,日本醸造協会誌,2010年,Vol.105,No.7,p.447-454,<URL:https://jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan/105/7/105_447/_pdf/?char/en> 甲第7号証:KREMER S., et al.,Salt Reduction in Foods Using Naturally Brewed Soy Sauce,Journal of Food Science,2009年,Vol.74, No.6,p.S255?S262,<URL:https://www.academia.edu/1224777/Salt_Rduction_in_Foods_Using_Naturally_Brewed_Soy_Sauce> 甲第8号証:“日本食品標準成分表2020年度版(八訂)”,[online],[令和3年6月24日に検索されたとされるもの],インターネット,<URL:https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=10_10281_7> 甲第9号証:“あさり1パックって大体何グラム?スーパーによって量は違うのか!?”,[online],[令和3年6月24日に検索されたとされるもの],インターネット,<URL:https://shinnka.com/trivia/what-clams-pack-1-clam/> 甲第10号証:“カロリーSlism ねぎ”,[online],[令和3年6月24日に検索されたとされるもの],インターネット,<URL:https://calorie.slism.jp/106226/> 甲第11号証:“味の素(株)家庭用商品 栄養成分一覧”,[online],[令和3年6月24日に検索されたとされるもの],インターネット,<URL:https://www.ajinomoto.co.jp/okyakusama/allergy/eiyou.pdf> 甲第12号証:“日本食品標準成分表2015年版(七訂) 17調味料及び香辛料類”,[online],[令和3年6月24日に検索されたとされるもの],インターネット,<URL:http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/_icsFiles/afieldfile/2017/06/22/1365343_1-0217r10.pdf/> 甲第13号証:“<調味料類>(その他)料理酒の栄養素・カロリー”, [online],[令和3年6月24日に検索されたとされるもの],インターネット,<URL:https://eat-treat.jp/foods/2264> 甲第14号証:菅原悦子,大豆発酵食品と清酒の香気組成の比較,岩手大学教育学部研究年報,1993年,Vol.53,No.1,p.79-84,<URL:https://core.ac.uk/download/pdf/144251957.pdf> 甲第15号証:KOBAYASHI A., et al.,Flavor components of shoyu and miso Japanese fermented soybean seasonings, Flavor Chemistry of Ethnic Foods,p.5-14,<URL:https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-1-4615-4783-9_2> 甲第16号証:“カロリーSlism じゃがいも”,[online],[令和3年6月24日に検索されたとされるもの],インターネット,<URL:https://calorie.slism.jp/102017/> 甲第17号証:“カロリーSlism ベーコン”,[online],[令和3年6月24日に検索されたとされるもの],インターネット,<URL:https://calorie.slism.jp/111183/> 甲第18号証:飯野修一ら,第31回山梨県ワイン鑑評会出品酒の調査報告,山梨県工業技術センター研究報告、2002年、No.16,p.112-116,<URL:https://www.pref.yamanashi.jp/yitc/documents/report_h13_22.pdf> 甲第19号証:“カロリーSlism たまねぎ”,[online],[令和3年6月24日に検索されたとされるもの],インターネット,<URL:https://calorie.slism.jp/106153/> 甲第20号証:“カロリーSlism エリンギ”,[online],[令和3年6月24日に検索されたとされるもの],インターネット,<URL:https://calorie.slism.jp/108025/> 甲第21号証:“カロリーSlism ぶなしめじ”,[online],[令和3年6月24日に検索されたとされるもの],インターネット,<URL:https://calorie.slism.jp/108016/> 甲第22号証:“カロリーSlism えのき”,[online],[令和3年6月24日に検索されたとされるもの],インターネット,<URL:https://calorie.slism.jp/108001/> 甲第23号証:“塩ひとふりの塩分は?”,[online],[令和3年6月24日に検索されたとされるもの],インターネット,<URL:https://www.city.kyotango.lg.jp/material/files/group/25/salt.pdf> 甲第24号証:“パスタの茹で汁に塩を入れたときの塩分摂取量を調べてみよう”,[online],[令和3年6月24日検索],インターネット,<URL:https://no-shukketsu.com/salt_of_pasta/> 甲第25号証:飯野修一ら,醸造法による甲州種白ワインの香気成分制御(第3報),山梨県工業技術センター研究報告、2004年、No.18,p.138-140,<URL:https://www.pref.yamanashi.jp/yitc/documents/report_h15_30.pdf> 甲第26号証:“醤油や油(サラダ油)の比重や密度はいくら?みりんやお酢は?【g/cm3やkg/m3など】”,[online],[令和3年6月25日検索],インターネット,<URL:https://toushitsu-off8.com/shouyu-density/> 第4 当審の判断 異議申立理由1(新規性)2(進歩性)について 1 甲号証の記載 (1)甲第1号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第1号証には、以下の記載がある。 ア 記載(1a) 「減塩!あさりのお吸い物レシピ・作り方 ・・・ お塩をかなり減らしあさりの味を楽しむお吸い物です。 ・・・ 材料(2?3人分) あさり 1パック 刻みネギ 大さじ2 塩 1つまみ ほんだし 5g だし醤油 小さじ1 料理酒 小さじ1 水 500cc アサリの砂抜き用の塩 小さじ1」(1頁) イ 記載(1b) 「作り方 1 あさりの塩抜きをします。 あさりを軽く洗い、ボウルに水をはり小さじ1の塩を入れ1時間ほどおいておきます。 2 鍋に水とほんだし、あさりを入れ沸騰したらだし醤油とお塩、料理酒で味を調えます。 刻みネギをここで鍋に加えてもいいですし、器に先に入れておいてもOK!」(1頁最終行?2頁) (2)甲第2号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第2号証には、以下の記載がある。 ア 記載(2a) 「鶏肉と白菜の鍋 ・・・ 4.6g 塩分/1人前 材料(4人分) 鶏もも肉 2枚(500g) (塩少々 酒、ごま油各大さじ1/2) 白菜 1/4個(500g) ごぼう 1本(200g) 舞茸 2パック(200g) だし汁 5カップ しょうゆ 大さじ6 みりん 大さじ3 酒 大さじ3 」(1頁左欄) イ 記載(2b) 「作り方 1 鶏肉は塩、酒、ごま油をすり込み、熱したフライパンで皮目をヘラで押さえつけながら強火でこんがり焼き、返して身側をさっと焼く。粗熱がとれたら1cm幅の薄切りにする。 2 白菜は葉先と葉元に分け、葉先はざく切りにし、葉元は一口大のそぎ切りにする。ごぼうはタワシでこすって洗い、ささがきにして水にさらし、水気をきる。舞茸は小房に分ける。 3 鍋にだし汁、しょうゆ、みりん、酒、(1)の鶏肉を入れて火にかけ、煮立ったらアクをとり除き、ごぼうを入れて3?4分煮、白菜の葉元、葉先、舞茸を加えて好みの加減に煮る。」(1頁右欄) (3)甲第3号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第3号証には、以下の記載がある。 ア 記載(3a) 「【健康】特性だし割醤油レシピ・作り方 ・・・ どんな料理にも使えて便利! 納豆についているタレを使わずに、この特性だし割醤油を使うだけでも減塩になります(^v^) ・・・ 材料(10人分) ほしシイタケ 6個 だしこぶ 2枚 鰹節 10g 減塩醤油 100g 作り方 1 1○(決定注:原文では、丸の中に「1」。)水の中に昆布とほしシイタケと鰹節を浸けて1日ぐらいだしを出す。 ・・・ 2 2○(決定注:原文では、丸の中に「2」。)だし200に対し減塩醤油を100の割合で完成 3 3○(決定注:原文では、丸の中に「3」。)だしをとった後のシイタケや昆布、鰹節なども他の料理につかえます 4○(決定注:原文では、丸の中に「4」。)だしは他の料理にももちろん使えます ・・・ きっかけ 日頃使う調味料を減塩にすることで、味付けの際に体に優しく、気持ち的にも健康的なので使いやすい!何にでも代用できる万能だし醤油を作ろうと思ったのがきっかけです(^^)」(1?2頁) (4)甲第4号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第4号証には、以下の記載がある。 ア 記載(4a) 「白菜の簡単スープ煮レシピ ・・・ 塩分1.7g ※エネルギー・塩分・野菜摂取量は1人分の値です。 ・・・ 材料(4人分) 白菜・1/4株 500g じゃがいも 1個 ベーコン 4枚 「味の素KKコンソメ」固形タイプ 1個 A水 カップ2 A白ワイン 大さじ2 「瀬戸のほんじお」 小さじ2/3 粗びき黒こしょう 少々 「AJINOMOTO サラダ油」 小さじ1 白菜の簡単スープ煮の作り方 (1)白菜は4cm角のザク切りにする。じゃがいもは皮をむいて1cm幅の半月切りにする。 ベーコンは長さを4等分に切る。 (2)鍋に油を熱し、(1)のベーコンを入れて軽く炒める。「コンソメ」、A、 (1)の白菜・じゃがいもを順に加えて煮立て、アクを取ってフタをし、 弱火で10分ほど煮る。 (3)じゃがいもに火が通ったら塩で味を調え、仕上げに粗びき黒こしょうをふる。」(1頁) (5)甲第5号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第5号証には、以下の記載がある。 ア 記載(5a) 「鶏肉ときのこでショートパスタスープ ・・・ 材料(2人分) 鶏もも肉 150g 玉ネギ 1個 エリンギ 1本 ブナピー 1パック えのき 1/2袋 塩・こしょう 5ふり位 サラダ油 大さじ1 赤ワイン 1/2カップ 鶏がらスープの素 5g 水 2カップ ショートパスタ 100g 塩(パスタゆでる用) 少々 水(パスタゆでる用) 適宜 作り方 1 鶏肉を一口大に切り、塩・こしょうして置いておく。 2 ショートパスタを用意。 (ハートが入る)今回は フジッリ:50g ファルファッレ:50gで (ハートが入る) 3 鍋に水を沸かし、塩を少々入れ、2をゆでる。 4 その間に、玉ネギを切り、 5 エリンギ・えのき・ブナピーも好みの大きさに、切る。 6 3をザルにあげて置いておく。 7 サラダ油を熱し、4を中火で炒める。 8 1も加え、炒める。 強火にして、 9 赤ワインを加え、更に炒める。 水と鶏がらスープの素を入れ、しばらく煮る。 10 5と6を入れ、さっとかき混ぜ、 11 お皿に盛って、出来上がり。 」(1?2頁) (6)甲第6号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第6号証には、以下の記載がある。 ア 記載(6a) 「日本酒の甘味やうま味成分は,酢の物や漬物,和え物などの酸味や塩味をまろやかにします。また,アルコールの効果で調味料の吸収率が上がり,調味料の使用量を減らして減塩が可能になります。」(450頁右欄下から4行?最下行) イ 記載(6b) 「<朝食> 和食で,ごはん,みそ汁,アジの干物,卵焼き,キャベツの炒め物,きゅうりの浅漬けにした場合、各メニューに日本酒を調味料として使うことができます。ご飯をふっくらツヤツヤに炊き上げるために日本酒を一振りします。みそ汁に入れるとうま味の相乗効果で風味が良くなります。アジの干物には両面に日本酒を振りかけて焼くと生臭みが消えてふっくら焼き上り,美しい焼き色がつきます。卵焼きは日本酒で生臭みが取れ,黄色が濃くなり,ふんわり焼き上ります。キャベツの炒め物は,日本酒と和風ドレッシングを仕上げにさっとひと回しすると,やさしい酸味の炒め物になり,きゅうりの浅漬けは塩を半減できます。」(452頁右欄1?13行) ウ 記載(6c) 「日本酒は昔から調味料として和食に使用されてきました。古くは平安時代からみりんのもとになった甘いお酒が,甘味をつけるための調味料として使われていました。その後、和食の料理店でプロの料理人が,料理の隠し味として使うようになりました。日本酒は味や風味を良くし,調理効果が数多くあるので,今後は和食に加え,洋食,中華,菓子類なども含めた多様な家庭料理に活用していただきたいと思います。そしてこのことが豊かな食生活や食育につながると信じています。是非ご家庭で料理に日本酒をひとふりして下さい。」(453頁右欄下から6行?454頁5行) (7)甲第7号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第7号証には、以下の記載がある。 ア 記載(7a)(訳文にて示す) 「次に、塩/醤油比の違いによる5種類のスープ間に味の感じ方、塩味またはトマト風味に有意な違いは観察されなかった。それら製品(スープ)はそれらの全体の味強度について有意に異なっていた(P<0.01)。バリエーション1とバリエーション2のスープ(100%食卓塩と75%食卓塩/25%醤油)は、バリエーション3、4及び5のスープよりも味がそれほど強くないと感じた。」(S258頁右欄下から13行?下から7行) イ 記載(7b)(訳文にて示す) 「本研究で、多くの食品で塩化ナトリウムを自然に醸造された醤油と取り替えることで食品の消費者の受け入れ性を有意に下げることなく食品全体のナトリウム含量を減らすことが可能であることが示された。」(S261頁左欄2?5行) (8)甲第8号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第8号証には、以下の記載がある。 ア 記載(8a)(一部省略して示す) 「食品群名/食品名:魚介類/<貝類>/あさり/生 成分名 値 単位 廃棄率 60 % ・・・ 食塩相当量 2.2 g 」 (9)甲第9号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第9号証には、以下の記載がある。 ア 記載(9a) 「あさり1パックってどれくらいを指してる? ・・・ あさり1パックの量はもちろんスーパーによって違ってくる というのが正直なところなのですが、 多くのスーパーではだいたい殻付きで 250?300グラム入りのパックで売られていることが多いようです。 様々なレシピをみてみても、 250?300グラムくらいの想定で書かれていることが 多いように見受けられます。」(2頁) (10)甲第10号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第10号証には、以下の記載がある。 ア 記載(10a) 「葱のみじん切り(大さじ1)9グラム/3kcal」(1頁中程) (11)甲第11号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第11号証には、以下の記載がある。 ア 記載(11a)(一部省略して示す) 「味の素(株)家庭用商品 栄養成分一覧 商品名 ・・・ 単位 ・・・ 食塩相当量(g) ・・・ ほんだしR(丸の中に「R」) みそ汁1杯分(1g)あたり 0.40 ・・・ 「味の素KKコンソメ」固形タイプ 固形キューブ1個(5.3g) 2.5 ・・・ 「丸鶏がらスープ」 スープ1杯分(2.5g)あたり 1.2 」(1頁) (12)甲第12号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第12号証には、以下の記載がある。 ア 記載(12a)(一部省略して示す) 「17 調味料及び香辛料類 食品名 ・・・ 食塩相当量 g ・・・ 減塩しょうゆ、こいくち 8.3 だししょうゆ 7.3 ・・・ 」(1頁) (13)甲第13号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第13号証には、以下の記載がある(アイコン表示等に一部変更あり)。 ア 記載(13a)(一部省略して示す) 「<調味料類>(その他)料理酒の栄養素・カロリー ・・・ 食品100gあたりの成分表 ・・・ 食塩相当量 2.2g ・・・ 」(1?2頁) (14)甲第14号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第14号証には、以下の記載がある。 ア 記載(14a) 「 実験方法 1.試料 清酒は盛岡市内の酒造所で平成3年度に精米歩合60%のササニシキで醸造した純米酒で,火入れ前のものを試料として提供いただいた。 2.香気濃縮物の調製 清酒中の各香気成分の濃度を定量するため,精製したTenax GC 0.5gを充填(決定注:原文では、つちへんに「眞」。)した内径1cmのガラスカラムに清酒200mlを流し,香気成分を吸着させた。これをエーテル50mlで脱着し、内部標準物質としてn-decyl alcoholを添加し,脱水後,濃縮して香気濃縮物を得た。同様の実験は3回繰り返して行った。 さらに香気成分を詳細に検討するために、カラムクロマトグラフィによる分画を行った。清酒600mlをTenax GC 1.5gを充填(決定注:原文では、つちへんに「眞」。)したカラムに流し,香気成分を吸着させ,エーテルで脱着させる方法で香気濃縮物を調製した。これを4回繰り返してあわせて2400mlの清酒を処理した。得られた香気濃縮物をシリカゲル(ワコーゲルC300)10gを充填(決定注:原文では、つちへんに「眞」。)したカラム(内径1cm×高さ26cm)に吸着させ,表1に示したような割合でペンタンとエーテルを流すことによって5つに分画した。これを常法に従って濃縮して分画された香気濃縮物を得た。」(80頁1?15行) イ 記載(14b) 「 結果及び考察 1.清酒香気成分としてのHEMFの確認 清酒より得られた香気濃縮物のガスクロマトグラムを図に示した。検出されたピークは50種あった。 ・・・ また,シリカゲルカラムクロマトグラフィによる分画のために,2400mlの清酒をカラム濃縮法で処理して,0.24gの香気濃縮物を得た。収率は0.01%であった。この香気濃縮物は表1に示したように分画された。分画後の香気濃縮物も詳細に分析して,清酒の香気成分の同定を行った。その結果,37成分を同定,または推定し,表3に示した。表3に示したピーク番号は図に対応している。」(81頁1?最終行) ウ 記載(14c) 「 」(表3) エ 記載(14d) 「また,果実様の芳香を持つ低級脂肪酸のエチルエステルのethyl hexanoate(カプロン酸エチル),ethyl octanoate(カプリル酸エチル)は味噌や醤油では痕跡程度しか検出されていないが,0.82ppm,0.85ppmであった。その他の同定された多くの香気成分は味噌や醤油と共通する成分であった。以上より,2-phyenyl-1-ethanol,2-phenyl-1-ethyl acetate,ethyl 4-hydroxybutanoate及び低級脂肪酸のエチルエステルであるethyl hexanoate,ethyl octanoateは大豆発酵食品とは異なる清酒に特徴的な香気成分であると判断された。」(83頁21?26行) (15)甲第15号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第15号証には、以下の記載がある。 ア 記載(15a)(訳文にて示す) 「試料準備 ・・・ 醤油の揮発性成分は、味噌の塩分含有量と同じになるように、醤油20gと水180mlを混合し、Tenaxカラムに通すことで調製した。 醤油(濃口醤油)と2つの塩味米味噌(Miso 1と2)の試料から得られた揮発性成分のガスクロマトグラムを、図1に示す。これらのガスクロマトグラムから、68化合物が同定された。そのうちそれぞれの香気に貢献又は関係していると考えられる44化合物を、それらの機能的なグループにしたがって表2にまとめた。個々の化合物の濃度は、内部標準物質のピーク面積と(検出された)ピーク面積の比率から、試供した醤油または味噌の現物量をppmに変換して算出した。」(8頁13?32行) イ 記載(15b) 「 」(表2) (16)甲第16号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第16号証には、以下の記載がある。 ア 記載(16a) 「じゃがいもSサイズ(90g)68kcal じゃがいもMサイズ(135g)103kcal じゃがいもLサイズ(180g)137kcal」(1頁) (17)甲第17号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第17号証には、以下の記載がある。 ア 記載(17a) 「ベーコンのカロリー 405kcal 100g 69kcal 17g(1枚)」(1頁) (18)甲第18号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第18号証には、以下の記載がある。 ア 記載(18a) 「1.出品場数は40場,出品酒は91点であった. ・・・ 4.香気成分では,酢酸イソアミル(AmOAc)は,新酒に比べて古酒では顕著に少なかった.中沸点の香気成分であるカプロン酸エチル(EtC6),カプリル酸エチル(EtC8)及びカプリン酸エチル(EtC10)は,白ワインにおいて新酒,古酒共に,それぞれ0.8mg/L,1.2mg/L及び0.6mg/L前後であった.」(要約) イ 記載(18b) 「 2.実験方法 2-1 出品酒 出品場数は40場,出品酒は91点でその内訳を表1に示した.場数及び出品数は前年^(1))とほぼ同じであった.出品酒のタイプ別出品数とその略号を表1,また原料ブドウの品種と略号を表2に示した.白ワインは55点の出品があり,その内訳は甲州種が36点,その他が19点であり,ほぼ例年どおりであった.甲州種は新種が22点,古酒が14点,その他は新種が8点,古酒が11点,赤ワインは36点の出品があり,新酒が9点,古酒が27点であった.」(112頁左下欄12?21行) ウ 記載(18c) 「 」(表1、表2) エ 記載(18d) 「白ワイン辛口(エキス4未満)について甲州種新種16点,同古酒11点,その他の品種新種5点及び同古酒8点,合計40点における高級アルコール,エステル及びアセトアルデヒドの含量の平均値を表4に,また個々のワインの含量を表5に示した.」(113頁左下欄14行?右下欄2行) オ 記載(18e) 「 」(表4) (19)甲第19号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第19号証には、以下の記載がある。 ア 記載(19a) 「たまねぎのカロリー 37kcal 100g 65kcal 177g(M1個)」(1頁) (20)甲第20号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第20号証には、以下の記載がある。 ア 記載(20a) 「エリンギのカロリー 24kcal 100g 12kcal 50g(1本)」(1頁) (21)甲第21号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第21号証には、以下の記載がある。 ア 記載(21a) 「ぶなしめじのカロリー 18kcal 100g 16kcal 90g(小1パック)」(1頁) (22)甲第22号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第22号証には、以下の記載がある。 ア 記載(22a) 「えのきのカロリー 22kcal 100g 19kcal 85g(1袋)」(1頁) (23)甲第23号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第23号証には、以下の記載がある。 ア 記載(23a) 「塩 ひとつまみ(指3本) 塩分:約1.5g ・・・ 軽くひとふり 塩分:約0.5?0.6g ・・・ ※あら塩は小さじ1(5g)で塩分4.8gになります。」(1頁)) (24)甲第24号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第24号証には、以下の記載がある。 ア 記載(24a) 「100gのパスタを1%の食塩水で茹でると2.8gの塩分が加わるということです。」(6頁) (25)甲第25号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第25号証には、以下の記載がある。 ア 記載(25a) 「甲州種白ワインの後味として強く残る苦み成分であるカプリル酸エチルの減少方法を,ワイン醸造法により検討した. タル貯蔵中におけるカプリル酸エチルの減少は緩慢であり,ビン貯蔵では増加も認められた. 一方,醸造時においては,発酵初期でのモロミの攪拌,かもし発酵及び既存酵母3K4株の使用により,カプリル酸エチルの生成が顕著に抑制された.」(要約) イ 記載(25b) 「 2.実験方法 2-1 貯蔵試験 常法により醸造した甲州種白ワイン56Lずつを,樽(56L容)及びアトロンカバーで密閉したステンレス製開放タンク(80L容)にいれ,15℃(恒温室)で貯蔵した. その後,経時的に主要なエステル成分であるカプリル酸エチル(EtC_(8)),カプロン酸エチル(EtC_(6))及び酢酸イソアミル(AmOAc)を分析した.また,開放タンクで香気成分が減少した後者のワインについて,さらにビン貯蔵(720mL容)も行った. 2-2 市販赤ワイン 第32回山梨県ワイン鑑評会(2002年度)出品赤ワイン36点を用いた.」(138頁左下欄18行?右下欄9行) ウ 記載(25c) 「 」(表2) エ 記載(25d) 「3-2 市販赤ワイン中のEtC_(8)量 我々は,既に,白ワインでは3日間以上,果皮や種子を混合したまま発酵するかもし発酵でEtC_(8)の生成量は顕著に少ないことを見いだした^(1)).また,果皮の接触で生成ワインのEtC_(8)量が減少することはSHINOHARAらが既に報告している^(5)).表2に示した様に県ワイン鑑評会に出品された赤ワインの新種17点と古酒19点は平均でそれぞれ0.4mg/L,0.3mg/Lといずれも少なく,EtC_(8)の生成抑制のためには,かもし発酵が有効であることがここでも認められた.なお,10mg/Lと多いものも認められたが,この原因については後述する.また,ここで貯蔵期間が長い古酒においてもEtC_(8)量は平均して少ないことから,かもし発酵の場合,前述の様な貯蔵中のEtC_(8)の増加は少ないと思われた.」(139頁右欄1行?14行) オ 記載(25e) 「3-4 EtC_(8)及びカプリル酸の生成に及ぼす使用酵母の影響 次に,EtC_(8)生成に及ぼす使用酵母の影響について調べた.SHINOHARAら^(5))も,使用酵母によりEtC_(8)生成量が顕著に減少することは既に報告している.さらに,我々も,未発表ではあるが,酵母別の赤ワイン試験醸造において造成酵母3K4株^(2))使用のワインは,EtC_(8)の基質であるカプリル酸の含量が少ないことを認めた.そこで、この酵母を使用すれば白ワインのEtC_(8)及びカプリル酸の生成量が少なくなると考え,今回,発酵中のモロミのEtC_(8)及びカプリル酸の量を経時的に調べ、表4に示した.」(140頁左欄7?17行) カ 記載(25f) 「 」(表4) (26)甲第26号証 本件特許出願前に日本国内において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったとされる甲第26号証には、以下の記載がある。 ア 記載(26a) 「サラダ油などの油比重は約0.9となるのです。」(2頁) 2 甲1号証を主引用例とした場合について (1)甲1号証に記載された発明 甲1号証には、あさり1パック、刻みネギ大さじ2、塩1つまみ、ほんだし5g、だし醤油小さじ1、料理酒小さじ1、水500cc、あさりの砂抜き用の塩小さじ1を用いた、減塩を目的としたあさりのお吸い物のレシピが記載されている(記載(1a))。また、甲1号証には、当該お吸い物の作り方も記載されており、鍋に水とほんだし、あさりを入れ沸騰したらだし醤油とお塩、料理酒を入れることが記載されている(記載(1b))。 よって、甲1号証には、 「あさりの砂抜き用の塩小さじ1を用い、水500cc、ほんだし5g、及びあさり1パックを入れ、沸騰したら、だし醤油小さじ1と塩1つまみ、料理酒小さじ1を加えて得られる、刻みネギを含むあさりのお吸い物。」の発明(以下、「甲1食品発明」という。)及び 「あさりの砂抜き用の塩小さじ1を用い、水500cc、ほんだし5g、及びあさり1パックを入れ、沸騰したら、だし醤油小さじ1と塩1つまみ、料理酒小さじ1を加える、刻みネギを含むあさりのお吸い物の製造方法。」の発明(以下、「甲1製造方法発明」という。)が記載されているといえる。 (2)対比・判断 ア 本件特許発明1について(理由1-A) (ア)対比 本件特許発明1と甲1食品発明を対比する。 本件特許明細書の段落0025に「本明細書においてスープとは、肉、魚介、野菜等のだしを土台とした汁物の総称であり、・・・味噌汁やめんつゆに代表される和風汁物が挙げられる。」と記載されているように、本件特許発明1の「スープ」には、和風汁物も含まれることから、甲1食品発明の塩を含む「あさりのお吸い物」は、本件特許発明1の「スープ(ただし、味噌を含有するスープを除く)」である「食塩含有飲食品」に該当する。 そうすると、両者は、「スープ(ただし、味噌を含有するスープを除く)である食塩含有飲食品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1-1:本件特許発明1は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを含有すると特定されているのに対して、甲1食品発明は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを含有することについて特定がない点。 相違点1-2:本件特許発明1はオクタン酸エチルの含有量が食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppbであると特定されているのに対して、甲1食品発明はオクタン酸エチルの含有量について特定がない点。 相違点1-3:本件特許発明1は食塩の含有量が食塩含有飲食品全量を基準として0.58?2.7質量%であるのに対して、甲1食品発明は製造段階で、あさりの砂抜き用の塩小さじ1を用い、塩1つまみをさらに加えているものの、食塩含有飲食品全量を基準としての食塩の含有量の特定がない点。 (イ)相違点の判断 a 上記相違点1-1について検討する。 甲第1号証には、「お塩をかなり減らしあさりの味を楽しむお吸い物です」との、食塩含有飲食品が、減塩を目的としたものであることを示す記載があるが、減塩は、うま味を増やすなどの味調整手段を伴って、塩分を減少させることであって、塩味自体を何らかの手段で増強させるという塩味増強とは別の概念である。そして、甲第1号証には、塩味増強を行うことや、塩味増強のためにオクタン酸エチルを含有させることを示す記載はないし、本件出願時の技術常識でもないから、上記相違点1-1は実質的な相違点である。 申立人は、特許異議申立書16頁表下9?18行において、本件特許明細書【0018】の記載を指摘して、甲第1号証に記載された発明には、有効量のオクタン酸エチルが含まれているとか、塩味増強によって減塩を達成することが本件特許発明の効果であるので、「減塩された食塩含有飲食品」は、「塩味が増強された食塩含有飲食品」と同じである旨主張しているが、本件特許明細書【0018】の記載は、減塩させつつ、塩味増強も達成し、かつ異味・異臭を感じさせないとの効果を併記し列挙したものに過ぎず、甲第1号証に記載された発明に有効量のオクタン酸エチルが含まれている根拠は何らしめされておらず、上述のとおり、減塩と塩味増強とは別の概念であるから、上記申立人の主張は採用できない。 b 次に、上記相違点1-2について検討する。 甲1食品発明は、水500cc、ほんだし5g、及びあさり1パックからなる組成物を沸騰させた状態で、料理酒小さじ1を添加したものである。 一方、本件特許発明1の構成であるオクタン酸エチル、つまりカプリル酸エチル含有量に関する文献である甲第14号証には、記載(14a)及び(14b)から、精米歩合60%のササニシキで醸造した純米酒であった火入れ前のものを試料として香気成分の分析を行ったことが記載されており、記載(14c)及び(14d)から、当該試料にはカプリル酸エチルが0.85ppm含まれていたことが記載されている。 そこで、甲1食品発明の食塩含有飲食品全量を基準としたオクタン酸エチル含有量を、甲第14号証の記載を参考にして算出できるかについて検討する。 甲1食品発明で用いられている料理酒は、銘柄や製造方法が不明なものである。 してみると、甲1食品発明の料理酒と、甲第14号証に記載された特定の原料及び製造方法により製造された火入れ前の純米酒とでは、香気成分であるオクタン酸エチルの含有量が同程度であるとは認められない。 そして、料理酒を沸騰した組成物に添加すれば、香気成分はある程度揮発するため、甲1食品発明に含まれる料理酒由来の香気成分は、料理酒小さじ1に含まれる量よりも少ないものと考えられるから、仮に、甲1食品発明の料理酒と甲第14号証に記載された純米酒に含まれるオクタン酸エチルの含有量が同程度と推認したとしても、甲1食品発明に、オクタン酸エチルが食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppb含まれるとはいえない。 また、甲第2?13、15?26号証の記載を見ても、甲1食品発明におけるオクタン酸エチルの含有量を特定するに足る根拠は見当たらない。 よって、上記相違点1-2は実質的な相違点である。 c 上記のとおり、相違点1-1及び相違点1-2は実質的な相違点であるので、相違点1-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。 イ 本件特許発明3について(理由1-C) (ア)対比 本件特許発明3と甲1製造方法発明を対比すると、両者は「食塩含有飲食品に関する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1-4:本件特許発明3は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを食塩含有飲食品に含有させる塩味増強方法であるのに対して、甲1製造方法発明は、あさりのお吸い物の製造方法であって、塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを食塩含有飲食品に含有させ、塩味を増強する方法であることの特定がない点。 相違点の判断 上記相違点1-4について検討する。 甲第1号証には、前記アの相違点1-1の判断で検討したのと同様に、塩味増強を行うことや、塩味増強のためにオクタン酸エチルを含有させることを示す記載はなく、本件の出願時の技術常識でもないから、上記相違点1-4は実質的な相違点である。 相違点1-4は実質的な相違点であるので、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明ではない。 ウ 本件特許発明4について(理由1-D) (ア)対比 本件特許発明4と甲1製造方法発明を対比すると、両者は「食塩含有飲食品の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1-5:本件特許発明4は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを含有させるのに対して、甲1製造方法発明はあさりのお吸い物の製造方法であって、塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを含有させる製造方法であることの特定がない点、 相違点1-6:本件特許発明4はオクタン酸エチルの含有量が食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppbであるのに対して、甲1製造方法発明はオクタン酸エチルの含有量の特定がない点及び 相違点1-7:本件特許発明4は食塩の含有量が食塩含有飲食品全量を基準として0.58?2.7質量%であるのに対して、甲1製造方法発明は食塩含有飲食品全量を基準としての食塩の含有量の特定がない点。 (イ)相違点の判断 a 上記相違点1-5について検討する。 前記アにおいて前記相違点1-1について検討したのと同様に、甲第1号証には、塩味増強を行うことや、塩味増強のためにオクタン酸エチルを含有させることを示す記載はないことから、上記相違点1-5は実質的な相違点である。 b 上記相違点1-6について検討する。 甲1製造方法発明は、料理酒小さじ1を加える工程を有するものである。 一方、甲第14号証には、記載(14a)及び(14b)から、精米歩合60%のササニシキで醸造した純米酒であった火入れ前のものを試料として香気成分の分析を行ったことが記載されており、記載(14c)及び(14d)から、当該試料にはカプリル酸エチルが0.85ppm含まれていたことが記載されている。カプリル酸エチルは、オクタン酸エチルのことである。 甲1製造方法発明における食塩含有飲食品に含有させるオクタン酸エチル含有量を、甲第14号証の記載を参考にして算出できるかについては、前記アにおいて前記相違点1-2について検討したのと同様である。 そして、料理酒を沸騰した組成物に添加すれば、香気成分はある程度揮発するため、甲1製造方法発明の食塩含有飲食品に含まれる料理酒由来の香気成分は、料理酒小さじ1に含まれる量よりも少ないものと考えられるから、仮に、甲1製造方法発明の料理酒と甲第14号証に記載された純米酒に含まれるオクタン酸エチルの含有量が同程度と推認できたとしても、甲1製造方法発明の食塩含有飲食品に、オクタン酸エチルが食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppb含まれるとはいえない。 よって、甲1製造方法発明が、塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチル2.0?400ppbを食塩含有飲食品に含有させているとは認められないことから、上記相違点1-6は実質的な相違点である。 c 上記のとおり、相違点1-5及び相違点1-6は実質的な相違点であるので、相違点1-7について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明ではない。 2 甲第2号証を主引用例とした場合について (1)甲第2号証に記載された発明 甲第2号証には、鶏もも肉500g、塩少々、酒大さじ1/2、ごま油大さじ1/2、白菜500g、ごぼう200g、舞茸200g、だし汁5カップ、しょうゆ大さじ6、みりん大さじ3及び酒大さじ3を用いた鶏肉と白菜の鍋のレシピが記載されており(記載(2a))、当該鶏肉と白菜の鍋の作り方として、塩、酒、ごま油をすり込んだ鶏肉を熱したフライパンで焼き、鍋にだし汁、しょうゆ、みりん、酒、フライパンで焼いた鶏肉を入れて火にかけ、煮立ったらごぼう、白菜、舞茸を加えて煮ることが記載されている(記載(2b))。 よって、甲第2号証には、 「塩少々、酒大さじ1/2及びごま油大さじ1/2をすり込んだ鶏肉を熱したフライパンで焼いて焼いた鶏肉を得て、鍋にだし汁5カップ、しょうゆ大さじ6、みりん大さじ3、酒大さじ3、前記焼いた鶏肉を入れて火にかけ、煮立ったらごぼう200g、白菜500g、及び舞茸200gを加えて煮ることで得られる鶏と白菜の鍋。」の発明(以下、「甲2食品発明」という。)及び 「塩少々、酒大さじ1/2及びごま油大さじ1/2をすり込んだ鶏肉を熱したフライパンで焼いて焼いた鶏肉を得て、鍋にだし汁5カップ、しょうゆ大さじ6、みりん大さじ3、酒大さじ3、前記焼いた鶏肉を入れて火にかけ、煮立ったらごぼう200g、白菜500g、及び舞茸200gを加えて煮る、鶏と白菜の鍋の製造方法。」の発明(以下、「甲2製造方法発明」という。)が記載されているといえる。 (2)対比・判断 ア 本件特許発明1について(理由1-A) (ア)対比 本件特許発明1と甲2食品発明を対比する。 本件特許明細書の段落0025に「本明細書においてスープとは、肉、魚介、野菜等のだしを土台とした汁物の総称であり、・・・味噌汁やめんつゆに代表される和風汁物が挙げられる。」と記載されているように、本件特許発明1の「スープ」には、和風汁物も含まれることから、甲2発明の塩を含む「鶏肉と白菜の鍋」は、本件特許発明1の「スープ(ただし、味噌を含有するスープを除く)」である「食塩含有飲食品」に該当する。 そうすると、両者は、「スープ(ただし、味噌を含有するスープを除く)である食塩含有飲食品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点2-1:本件特許発明1は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを含有すると特定されているのに対して、甲2食品発明は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを含有することについて特定がない点、 相違点2-2:本件特許発明1はオクタン酸エチルの含有量が食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppbであると特定されているのに対して、甲2食品発明はオクタン酸エチルの含有量の特定がない点及び 相違点2-3:本件特許発明1は食塩の含有量が食塩含有飲食品全量を基準として0.58?2.7質量%であるのに対して、甲2食品発明は食塩含有飲食品全量を基準としての食塩の含有量の特定がない点。 (イ)相違点の判断 a 上記相違点2-1について検討する。 甲第2号証には、塩味増強を行うことについての記載や、塩味増強のためにオクタン酸エチルを含有することを示す記載はないことから、上記相違点2-1は、実質的な相違点である。 b 次に、上記相違点2-2について検討する。 甲2食品発明は、酒大さじ1/2をすり込んで焼いた鶏肉と、だし汁、しょうゆ大さじ6、みりん、酒大さじ3を鍋に入れて煮立て、ごぼう、白菜、舞茸を加えてさらに煮たものである。 一方、甲第14号証には、精米歩合60%のササニシキで醸造した純米酒であった火入れ前のものを試料として香気成分の分析を行ったことが記載されており(記載(14a)及び(14b))、当該試料にはカプリル酸エチルが0.85ppm含まれていたことが記載されている(記載(14c)及び(14d))。カプリル酸エチルは、オクタン酸エチルのことである。そして、甲第15号証には、銘柄や製造方法等が不明な濃口醤油にオクタン酸エチルが0.01ppm含まれていたことが記載されている(記載(15a)及び(15b))。 甲2食品発明の食塩含有飲食品全量を基準としたオクタン酸エチル含有量を、甲第14号証の記載及び甲第15号証の記載を参考にして算出できるかについて検討する。 我が国において、通常、料理のレシピにおける「酒」という用語は料理用又は飲用の清酒を示すことから、甲2食品発明で用いられている酒は、清酒のことを示していると考えられるが、その銘柄や製造方法は不明なものである。 清酒は精米歩合等の原料の違いや火入れの有無等の製造方法の違いにより含まれる香気成分の組成が異なることは、技術常識である。 してみると、甲2食品発明の酒と、甲第14号証に記載された特定の原料及び製造方法により製造された火入れ前の純米酒とでは、香気成分であるオクタン酸エチルの含有量が同程度であるとは認められない。 また、醤油も、丸大豆か脱脂大豆か等の原料の違いや製造方法の違いにより含まれる香気成分の組成が異なることは、技術常識である。 してみると、甲2食品発明のしょうゆと、甲第15号証に記載された特定の濃口醤油とでは、香気成分であるオクタン酸エチルの含有量が同程度であるとは認められない。 さらに、酒を付着させたものを焼き、しょうゆと酒を加えた組成物を煮ると、酒及びしょうゆに含まれる香気成分はある程度揮発するため、甲2食品発明に含まれる酒及びしょうゆ由来の香気成分は、酒大さじ3と1/2及びしょうゆ大さじ6に含まれる量よりも少ないものと考えられるから、甲2食品発明の酒と甲第14号証に記載された純米酒に含まれるオクタン酸エチルの含有量が同程度であると仮定しても、甲2食品発明のしょうゆと甲第15号証に記載された濃口醤油に含まれるオクタン酸エチルの含有量が同程度であると仮定しても、甲2食品発明にオクタン酸エチルが食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppb含まれるとはいえない。 また、甲第1号証、甲第3?26号証を見ても、甲2食品発明におけるオクタン酸エチルの含有量を特定するに足る根拠は見当たらない。 よって、上記相違点2-2は実質的な相違点である。 c 上記のとおり、相違点2-1及び相違点2-2は実質的な相違点であるので、相違点2-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明ではない。 イ 本件特許発明4について(理由1-D) (ア)対比 本件特許発明4と甲2製造方法発明を対比すると、両者は「食塩含有飲食品の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点2-4: 本件特許発明4は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを含有させると特定されているのに対して、甲2製造方法発明は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを含有させることの特定がない点、 相違点2-5: 本件特許発明4はオクタン酸エチルの含有量が食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppbであると特定されているのに対して、甲2製造方法発明はオクタン酸エチルの含有量について特定がない点及び 相違点2-6: 本件特許発明4は食塩の含有量が食塩含有飲食品全量を基準として0.58?2.7質量%であるのに対して、甲2製造方法発明は食塩含有飲食品全量を基準としての食塩の含有量の特定がない点。 (イ)相違点の判断 a 上記相違点2-4について検討する。 甲第2号証には、塩味増強を行うことについての記載や、塩味増強のためにオクタン酸エチルを含有することを示す記載はないことから、上記相違点2-4は、実質的な相違点である。 b 次に、上記相違点2-5について検討する。 甲2製造方法発明は、酒大さじ1/2を加える工程と酒大さじ3を加える工程と、しょうゆ大さじ6を加える工程を含むものである。 一方、甲第14号証には、精米歩合60%のササニシキで醸造した純米酒であった火入れ前のものを試料として香気成分の分析を行ったことが記載されており(記載(14a)及び(14b))、当該試料にはカプリル酸エチルが0.85ppm含まれていたことが記載されている(記載(14c)及び(14d))。カプリル酸エチルは、オクタン酸エチルのことである。そして、甲第15号証には、銘柄や製造方法等が不明な濃口醤油にオクタン酸エチルが0.01ppm含まれていたことが記載されている(記載(15a)及び(15b))。 甲2製造方法発明における食塩含有飲食品に含有させるオクタン酸エチル含有量を、甲第14号証の記載及び甲第15号証の記載を参考にして算出できるかについては、前記アにおいて上記相違点2-2について検討したのと同様である。 さらに、酒を付着させたものを焼き、しょうゆと酒を加えた組成物を煮ると、酒及びしょうゆに含まれる香気成分はある程度揮発するため、甲2製造方法発明の食塩含有飲食品に含まれる酒及びしょうゆ由来の香気成分は、酒大さじ3と1/2及びしょうゆ大さじ6に含まれる量よりも少ないものと考えられるから、仮に、甲2製造方法発明の酒と甲第14号証に記載された純米酒に含まれるオクタン酸エチルの含有量が同程度と推認でき、甲2製造方法発明のしょうゆと甲第15号証に記載された濃口醤油に含まれるオクタン酸エチルの含有量が同程度と推認できたとしても、甲2製造方法発明の食塩含有飲食品にオクタン酸エチルが食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppb含まれるとはいえない。 よって、甲2製造方法発明が、塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチル2.0?400ppbを食塩含有飲食品に含有させているとは認められないことから、上記相違点2-5は実質的な相違点である。 c 上記のとおり、相違点2-4及び相違点2-5は実質的な相違点であるので、相違点2-6について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲第2号証に記載された発明ではない。 ウ 本件特許発明3について(理由2-A) (ア)対比 本件特許発明3と甲2製造方法発明を対比すると、両者は「食塩含有飲食品に関する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点2-7:本件特許発明3は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを食塩含有飲食品に含有させる塩味増強方法であるのに対して、甲2製造方法発明は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを食塩含有飲食品に含有させ、塩味を増強することの特定がない点。 (イ)相違点の判断 a 上記相違点2-7について検討する。 甲第2号証には、塩味増強を行うことを示す記載も、塩味増強のためにオクタン酸エチルを含有させることを示す記載もない。 甲第6号証の記載(6a)?(6c)には、日本酒が減塩の目的で用いられることが記載され、甲第7号証の記載(7a)?(7b)には、醤油を食品のナトリウム含量を減らす目的で用いることが記載されているが、食品中の食塩又はナトリウム含量を減らすことと、塩味を増強させることは、異なる概念であることから、甲第6号証及び甲第7号証の記載は、酒又はしょうゆを塩味増強目的で用いることの動機付けとはならない。 そして、甲第1、3?5、8?26号証を見ても、甲2製造方法発明において、オクタン酸エチル又はオクタン酸エチルを含有するものを塩味増強目的で用いる動機付けとなる根拠は見当たらない。 さらに、本件特許発明3は、塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを食塩含有飲食品に含有させるとの構成により、塩味増強との予測できない顕著な効果を奏しているといえる。 b よって、本件特許発明は、甲第2号証、甲第6号証、及び甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 甲第3号証を主引用例とした場合について (1)甲第3号証に記載された発明 甲第3号証には、水の中にだしこぶ、ほしシイタケ及び鰹節を浸けて得られただし200に対し減塩醤油100の割合で混合する、特性だし割醤油のレシピ及び作り方が記載されており、材料には減塩醤油100gであることが記載されていることから(記載(3a))、だし200gに対して減塩醤油100gを混合していると考えられる。また、甲第3号証には、「どんな料理にも使えて便利!・・・この特製だし割醤油を使うだけでも減塩になります」との記載及び「日頃使う調味料を減塩にすることで、味付けの際に体に優しく、気持ち的にも健康的なので使いやすい!何にでも代用できる万能だし醤油を作ろうと思ったのがきっかけです」との記載があることから(記載(3a))、当該だし割醤油は、減塩ができる調味料であることが理解できる。 よって、甲第3号証には、 「水の中にだしこぶ、ほしシイタケ及び鰹節を浸けて得られた、だし200に対し減塩醤油100の割合で混合する、減塩ができる調味料であるだし割醤油。」の発明(以下、「甲3食品発明」という。)及び 「水の中にだしこぶ、ほしシイタケ及び鰹節を浸けて得られた、だし200に対し減塩醤油100の割合で混合する、減塩ができる調味料であるだし割醤油の製造方法。」の発明(以下、「甲3製造方法発明」という。)が記載されているといえる。 (2)対比・判断 ア 本件特許発明2について(理由1-B) (ア)対比 本件特許発明2と甲3食品発明を対比すると、以下の点で相違する。 相違点3-1:本件特許発明2は「塩味増強剤」であるのに対して、甲3食品発明は「減塩ができるだし割醤油」である点及び 相違点3-2:本件特許発明2はオクタン酸エチルを有効成分とするのに対して、甲3食品発明はオクタン酸エチルを含有することが特定されていない点。 (イ)相違点の判断 a 上記相違点3-1について検討すると、塩味増強と減塩は異なる概念であるから、上記相違点3-1は実質的な相違点である。 b 次に、上記相違点3-2について検討する。 甲第15号証には、銘柄や製造方法等が不明な濃口醤油にオクタン酸エチルが0.01ppm含まれていたことが記載されている(記載(15a)及び(15b))。 しかしながら、甲3食品発明では減塩醤油が用いられているのに対して、甲第15号証に記載されているのは減塩とは特定されていない濃口醤油であり、醤油の香気成分が、その種類や製造方法の違い等により異なるのは技術常識であるから、甲3食品発明の減塩醤油に、甲第15号証の濃口醤油と同様にオクタン酸エチルが含まれているとすることはできない。 そして、甲第1?2、4?14、16?26号証の記載を見ても、甲3食品発明がオクタン酸エチルを含有する根拠は見出せないから、上記相違点3-2は実質的な相違点である。 c 上記のとおり、相違点3-1及び相違点3-2は実質的な相違点であるから、本件特許発明2は、甲第3号証に記載された発明ではない。 イ 本件特許発明3について(理由2-B) (ア)対比 本件特許発明3と甲3製造方法発明を対比する。 減塩醤油に食塩が含まれていることは技術常識であるから、甲3製造方法発明における減塩醤油を含む「だし割醤油」は、「食塩含有飲食品」に相当する。 そうすると、両者は「食塩含有飲食品に関する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点3-3:本件特許発明3は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを食塩含有飲食品に含有させる塩味増強方法であるのに対して、甲3製造方法発明は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを食塩含有飲食品に含有させ、塩味を増強することの特定がない点。 (イ)相違点の判断 a 上記相違点3-3について検討する。 甲3製造方法発明は、減塩を目的としたものである。しかし、減塩と塩味増強は異なる概念であるし、甲3製造方法発明において、製造されただし割醤油を使用すれば塩分自体を減少させる減塩になるとのレシピの記載に基づいて、異なる概念である塩味増強を目的とする動機付けもない。 また、甲第1?2、4?26号証の記載を見ても、甲3製造方法発明において、塩味増強を目的として、オクタン酸エチル又はオクタン酸エチルを含有するものを用いる根拠は見出せない。 さらに、本件特許発明3は、塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを食塩含有飲食品に含有させるとの構成により、塩味増強との予測できない顕著な効果を奏しているといえる。 b よって、本件特許発明3は、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。 4 甲第4号証を主引用例とした場合について (1)甲第4号証に記載された発明 甲第4号証には、白菜簡単スープ煮のレシピが記載されており、鍋に油小さじ1を熱し、ベーコン4枚を入れて軽く炒め、「味の素KKコンソメ」固形タイプ1個、水カップ2、白ワイン大さじ2、白菜、じゃがいもを順に加えて煮立て、弱火で10分ほど煮て、塩で味を調え、粗びき黒こしょう少々をふって白菜簡単スープ煮を作ることが記載されている(記載(4a))。 よって、甲第4号証には、 「鍋に油小さじ1を熱し、ベーコン4枚を入れて軽く炒め、「味の素KKコンソメ」固形タイプ1個、水カップ2、白ワイン大さじ2、白菜1/4株及びじゃがいも1個を順に加えて煮立て、弱火で10分ほど煮て、塩で味を調え、粗びき黒こしょう少々をふって得られる白菜簡単スープ煮。」の発明(以下、「甲4食品発明」という。)及び 「鍋に油小さじ1を熱し、ベーコン4枚を入れて軽く炒め、「味の素KKコンソメ」固形タイプ1個、水カップ2、白ワイン大さじ2、白菜1/4株及びじゃがいも1個を順に加えて煮立て、弱火で10分ほど煮て、塩で味を調え、粗びき黒こしょう少々をふる、白菜簡単スープ煮の製造方法。」の発明(以下、「甲4製造方法発明」という。)が記載されているといえる。 (2)対比・判断 ア 本件特許発明1について(理由1-A) (ア)対比 本件特許発明1と甲4食品発明を対比する。 甲4食品発明の塩を含む「白菜の簡単スープ煮」は、本件特許発明1の「スープ(ただし、味噌を含有するスープを除く)」である「食塩含有飲食品」に相当する。 そうすると、両者は、「スープ(ただし、味噌を含有するスープを除く)である食塩含有飲食品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点4-1:本件特許発明1は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを含有すると特定されるのに対して、甲4食品発明は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを含有することについて特定がない点、 相違点4-2:本件特許発明1はオクタン酸エチルの含有量が食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppbであると特定されているのに対して、甲4食品発明はオクタン酸エチルの含有量について特定がない点及び 相違点4-3:本件特許発明1は食塩の含有量が食塩含有飲食品全量を基準として0.58?2.7質量%であるのに対して、甲4食品発明は食塩含有飲食品全量を基準としての食塩の含有量の特定がない点。 (イ)相違点の判断 a 上記相違点4-1について検討する。 甲第4号証には、塩味増強を行うことや、塩味増強を目的としてオクタン酸エチルを含有させることを示す記載はない。よって、上記相違点4-1は実質的な相違点である。 b 次に、上記相違点4-2について検討する。 甲4食品発明は、油小さじ1、ベーコン4枚、「味の素KKコンソメ」固形タイプ1個、水カップ2、白ワイン大さじ2、白菜1/4株及びじゃがいも1個からなる組成物を煮たものである。 一方、甲第18号証には、記載(18a)?(18e)から、複数の白ワインを試料として香気成分の分析を行ったところ、カプリル酸エチルの含有量が1.1?1.3mg/Lであったことが記載されている。カプリル酸エチルは、オクタン酸エチルのことである。 甲4食品発明の食塩含有飲食品全量を基準としたオクタン酸エチル含有量を、甲第18号証の記載を参考にして算出できるかについて検討する。 甲4食品発明で用いられている白ワインは、銘柄や製造方法が不明なものである。 甲第25号証に、製造方法や使用する酵母によりカプリル酸エチルの生成を抑制できることが記載されていることからも明らかなように(記載(25a)、(25d)、(25e))、白ワインは、その原料や製造方法によりその香気成分が大きく変わることは技術常識である。 してみると、甲4食品発明の白ワインと、甲第18号証に記載された白ワインとでは、香気成分であるオクタン酸エチルの含有量が同程度であるとは認められない。 そして、白ワインを含む組成物を加熱すれば、香気成分はある程度揮発するため、甲4食品発明に含まれる白ワイン由来の香気成分は、白ワイン大さじ2に含まれる量よりも少ないものと考えられるから、甲4食品発明の白ワインと甲第18号証に記載された白ワインに含まれるオクタン酸エチルの含有量が同程度であると仮定したとしても、甲4食品発明に、オクタン酸エチルが食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppb含まれるとはいえない。 また、甲第1?3、5?17、19?24、26号証を見ても、甲4食品発明におけるオクタン酸エチルの含有量を特定するに足る根拠は見当たらない。 よって、上記相違点4-2は実質的な相違点である。 c 上記のとおり、相違点4-1及び相違点4-2は実質的な相違点であるので、相違点4-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第4号証に記載された発明ではない。 イ 本件特許発明4について(理由1-D) (ア)対比 本件特許発明4と甲4製造方法発明を対比すると、両者は「食塩含有飲食品の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点4-4:本件特許発明4は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを含有させると特定されているのに対して、甲4製造方法発明は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを含有させることの特定がない点、 相違点4-5:本件特許発明4はオクタン酸エチルの含有量が食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppbであると特定されているのに対して、甲4製造方法発明はオクタン酸エチルの含有量について特定がない点及び 相違点4-6:本件特許発明4は食塩の含有量が食塩含有飲食品全量を基準として0.58?2.7質量%であるのに対して、甲4製造方法発明は食塩含有飲食品全量を基準としての食塩の含有量の特定がない点。 (イ)相違点の判断 a 上記相違点4-4について検討する。 甲第4号証には、塩味増強を行うことや、塩味増強を目的としてオクタン酸エチルを用いることを示す記載はないことから、上記相違点4-4は実質的な相違点である。 b 次に、上記相違点4-5について検討する。 甲4製造方法発明は、白ワイン大さじ2を加える工程を含むものである。 一方、甲第18号証には、記載(18a)?(18e)から、複数の白ワインを試料として香気成分の分析を行ったところ、カプリル酸エチルの含有量が1.1?1.3mg/Lであったことが記載されている。カプリル酸エチルは、オクタン酸エチルのことである。 甲4製造方法発明の食塩含有飲食品全量を基準としたオクタン酸エチル含有量を、甲第18号証の記載を参考にして算出できるかについては、前記アにおいて前記相違点4-2について検討したのと同様であるから、甲4製造方法発明の白ワインと、甲第18号証に記載された白ワインとでは、香気成分であるオクタン酸エチルの含有量が同程度であるとは認められない。 そして、白ワインを含む組成物を加熱すれば、香気成分はある程度揮発するため、甲4製造方法発明の食塩含有飲食品に含まれる白ワイン由来の香気成分は、白ワイン大さじ2に含まれる量よりも少ないものと考えられるから、仮に、甲4食品発明の白ワインと甲第18号証に記載された白ワインに含まれるオクタン酸エチルの含有量が同程度と推認できたとしても、甲4製造方法発明の食塩含有飲食品に、オクタン酸エチルが食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppb含まれるとはいえない。 また、甲第1?3、5?17、19?24、26号証を見ても、甲4製造方法発明におけるオクタン酸エチルの含有量を特定するに足る根拠は見当たらない。 よって、甲4製造方法発明が、塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチル2.0?400ppbを食塩含有飲食品に含有させているとは認められないことから、上記相違点4-5は実質的な相違点である。 c 上記のとおり、相違点4-4及び相違点4-5は実質的な相違点であるので、相違点4-6について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲第4号証に記載された発明ではない。 ウ 本件特許発明3について(理由2-C) (ア)対比 本件特許発明3と甲4製造方法発明を対比すると、両者は「食塩含有飲食品に関する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点4-7:本件特許発明3は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを食塩含有飲食品に含有させる塩味増強方法であるのに対して、甲4製造方法発明は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを食塩含有飲食品に含有させ、塩味を増強することの特定がない点。 (イ)相違点の判断 a 上記相違点4-7について検討する。 甲第4号証には、塩味増強を行うことや、塩味増強を目的としてオクタン酸エチルを用いることを示す記載はない。 甲第6号証の記載(6a)?(6c)には、日本酒が減塩の目的で用いられることが記載されているが、甲4製造方法発明で用いられている白ワインと日本酒は異なるものであるし、食品中の食塩又はナトリウム含量を減らすことと、塩味を増強させることは、異なる概念であることから、甲第6号証の記載が、白ワインを塩味増強目的で用いることの動機付けとはならない。 そして、甲第1?3、5、7?26号証の記載を見ても、甲4製造方法発明において、オクタン酸エチル又はオクタン酸エチルを含むものを塩味増強目的で用いる動機付けとなる根拠は見当たらない。 さらに、本件特許発明3は、塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを食塩含有飲食品に含有させるとの構成により、塩味増強との予測できない顕著な効果を奏しているといえる。 b よって、本件特許発明3は、甲第4号証及び甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 5 甲第5号証を主引用例とした場合について (1)甲第5号証に記載された発明 甲第5号証には、ショートパスタ100gを塩水でゆでておき、サラダ油大さじ1を熱し、玉ネギ1個を炒め、塩・こしょうを5ふりした鶏もも肉150gを加えて炒め、赤ワイン1/2カップを加え、更に炒め、水2カップと鶏がらスープの素5gを加えてしばらく煮て、エリンギ1本、えのき1/2袋、ブナピー1パック、塩ゆでしたショートパスタ(乾燥重量で100g)を入れ、さっとかき混ぜることで、「鶏肉ときのこでショートパスタスープ」を作ることが記載されている(記載(5a))。 よって、甲第5号証には、 「ショートパスタ100gを塩水でゆでておき、サラダ油大さじ1を熱し、玉ネギ1個を炒め、塩・こしょうを5ふりした鶏もも肉150gを加えて炒め、赤ワイン1/2カップを加え、更に炒め、水2カップと鶏がらスープの素5gを加えてしばらく煮て、エリンギ1本、えのき1/2袋、ブナピー1パック、塩ゆでしたショートパスタ(乾燥重量で100g)を入れ、さっとかき混ぜることで得られるショートパスタスープ」の発明(以下、「甲5食品発明」という。)及び 「ショートパスタ100gを塩水でゆでておき、サラダ油大さじ1を熱し、玉ネギ1個を炒め、塩・こしょうを5ふりした鶏もも肉150gを加えて炒め、赤ワイン1/2カップを加え、更に炒め、水2カップと鶏がらスープの素5gを加えてしばらく煮て、エリンギ1本、えのき1/2袋、ブナピー1パック、塩ゆでしたショートパスタ(乾燥重量で100g)を入れ、さっとかき混ぜる、ショートパスタスープの製造方法」の発明(以下、「甲5製造方法発明」という。)が記載されているといえる。 (2)対比・判断 ア 本件特許発明1について(理由1-A) (ア)対比 本件特許発明1と甲5食品発明を対比する。 甲5食品発明の塩を含むショートパスタスープは、本件特許発明1の「スープ(ただし、味噌を含有するスープを除く)」である「食塩含有飲食品」に相当する。 そうすると、両者は、「スープ(ただし、味噌を含有するスープを除く)である食塩含有飲食品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点5-1:本件特許発明1は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを含有すると特定しているのに対して、甲5食品発明は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを含有することについて特定がない点、 相違点5-2:本件特許発明1はオクタン酸エチルの含有量が食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppbと特定されているのに対して、甲5食品発明はオクタン酸エチルの含有量について特定がない点及び 相違点5-3:本件特許発明1は食塩の含有量が食塩含有飲食品全量を基準として0.58?2.7質量%であるのに対して、甲5食品発明は食塩含有飲食品全量を基準としての食塩の含有量の特定がない点。 (イ)相違点の判断 a 上記相違点5-1について検討する。 甲第5号証には、塩味増強を行うことや、塩味増強目的でオクタン酸エチルを用いることを示す記載はないことから、上記相違点5-1は実質的な相違点である。 b 次に、上記相違点5-2について検討する。 甲5食品発明は、サラダ油大さじ1を熱し、玉ネギ1個を炒め、塩・こしょうを5ふりした鶏もも肉150gを加えて炒め、赤ワイン1/2カップを加え、更に炒め、水2カップと鶏がらスープの素5gを加えてしばらく煮て、エリンギ1本、えのき1/2袋、ブナピー1パック、塩ゆでしたショートパスタ(乾燥重量で100g)を入れたものである。 一方、甲第25号証には、赤ワインの新種17点と古酒19点を試料としてカプリル酸エチル含有量の分析を行ったところ、新種17点の平均が0.4mg/Lであり、最小が0.0mg/Lであったこと、古酒19点の平均が0.3mg/Lであり、最小が0.1mg/Lであったことが記載されている(記載(25b)、(25c))。カプリル酸エチルは、オクタン酸エチルのことである。 甲第25号証の記載から、赤ワインには、オクタン酸エチルが検出されないほど少ないものも存在することが読み取れるから、甲第25号証の記載は、甲5食品発明のオクタン酸エチルの含有量や、オクタン酸エチルが含まれることの証拠とはならない。 そして、赤ワインを含む組成物を加熱すれば、香気成分はある程度揮発するため、甲5食品発明に含まれる赤ワイン由来の香気成分は、赤ワインカップ1/2に含まれる量よりも少ないものと考えられるから、仮に、甲5食品発明の赤ワインと甲第25号証に記載された所定量オクタン酸エチルを含む特定の赤ワインのオクタン酸エチルの含有量が同程度と推認できたとしても、甲5食品発明に、オクタン酸エチルが食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppb含まれるとはいえない。 また、甲第1?4、6?24、26号証の記載を見ても、甲5食品発明におけるオクタン酸エチルの含有量を特定するに足る根拠は見当たらない。 よって、上記相違点5-2は実質的な相違点である。 c 上記のとおり、相違点5-1及び相違点5-2は実質的な相違点であるので、相違点5-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第5号証に記載された発明ではない。 イ 本件特許発明4について(理由1-D) (ア)対比 本件特許発明4と甲5製造方法発明を対比すると、両者は、「スープ(ただし、味噌を含有するスープを除く)である食塩含有飲食品の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点5-4:本件特許発明4は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを含有させることを特定しているのに対して、甲5製造方法発明は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを含有させることについての特定がない点、 相違点5-5:本件特許発明4はオクタン酸エチルの含有量が食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppbであると特定されているのに対して、甲5製造方法発明はオクタン酸エチルの含有量についての特定がない点及び 相違点5-6:本件特許発明4は食塩の含有量が食塩含有飲食品全量を基準として0.58?2.7質量%であるのに対して、甲5製造方法発明は食塩含有飲食品全量を基準としての食塩の含有量の特定がない点。 (イ)相違点の判断 a 上記相違点5-4について検討する。 甲第5号証には、塩味増強を行うことや、塩味増強目的でオクタン酸エチルを用いることを示す記載はないことから、上記相違点5-4は実質的な相違点である。 b 次に、上記相違点5-5について検討する。 甲5製造方法発明は、サラダ油大さじ1を熱し、玉ネギ1個を炒め、塩・こしょうを5ふりした鶏もも肉150gを加えて炒め、赤ワイン1/2カップを加え、更に炒め、水2カップと鶏がらスープの素5gを加えてしばらく煮て、エリンギ1本、えのき1/2袋、ブナピー1パック、塩ゆでしたショートパスタ(乾燥重量で100g)を入れたものである。 一方、甲第25号証には、赤ワインの新種17点と古酒19点を試料としてカプリル酸エチル含有量の分析を行ったところ、新種17点の平均が0.4mg/Lであり、最小が0.0mg/Lであったこと、古酒19点の平均が0.3mg/Lであり、最小が0.1mg/Lであったことが記載されている(記載(25b)、(25c))。カプリル酸エチルは、オクタン酸エチルのことである。 甲第25号証の記載から、赤ワインには、オクタン酸エチルが検出されないほど少ないものも存在することが読み取れるから、甲第25号証の記載は、甲5食品発明のオクタン酸エチルの含有量や、オクタン酸エチルが含まれることの証拠とはならない。 そして、赤ワインを含む組成物を加熱すれば、香気成分はある程度揮発するため、甲5製造方法発明の食塩含有飲食品に含まれる赤ワイン由来の香気成分は、赤ワインカップ1/2に含まれる量よりも少ないものと考えられるから、仮に、甲5製造方法発明の赤ワインと甲第25号証に記載された所定量オクタン酸エチルを含む特定の赤ワインのオクタン酸エチルの含有量が同程度と推認できたとしても、甲5製造方法発明の食塩含有飲食品に、オクタン酸エチルが食塩含有飲食品全量を基準として2.0?400ppb含まれるとはいえない。 また、甲第1?4、6?24、26号証の記載を見ても、甲5製造方法発明におけるオクタン酸エチルの含有量を特定するに足る根拠は見当たらない。 よって、上記相違点5-5は実質的な相違点である。 c 上記のとおり、相違点5-4及び相違点5-5は実質的な相違点であるので、相違点5-6について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第5号証に記載された発明ではない。 ウ 本件特許発明3について(理由2-D) (ア)対比 本件特許発明3と甲5製造方法発明を対比すると、両者は「食塩含有飲食品に関する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点5-7:本件特許発明3は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを食塩含有飲食品に含有させる塩味増強方法であるのに対して、甲5製造方法発明は塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを食塩含有飲食品に含有させ、塩味を増強することの特定がない点。 (イ)相違点の判断 a 上記相違点5-7について検討する。 甲第5号証には、塩味増強を行うことや、塩味増強を目的としてオクタン酸エチルを用いることを示す記載はない。 甲第6号証の記載(6a)?(6c)には、日本酒が減塩の目的で用いられることが記載されているが、甲5製造方法発明で用いられている赤ワインと日本酒は異なるものであるし、食品中の食塩又はナトリウム含量を減らすことと、塩味を増強させることは、異なる概念であることから、甲第6号証の記載が、赤ワインを塩味増強目的で用いることの動機付けとはならない。 そして、甲第1?4、7?26号証の記載を見ても、甲5製造方法発明において、オクタン酸エチル又はオクタン酸エチルを含むものを塩味増強目的で用いる動機付けとなる根拠は見当たらない。 さらに、本件特許発明3は、塩味を増強させる有効量のオクタン酸エチルを食塩含有飲食品に含有させるとの構成により、塩味増強との予測できない顕著な効果を奏しているといえる。 b よって、本件特許発明3は、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-10-04 |
出願番号 | 特願2014-240486(P2014-240486) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鳥居 敬司 |
特許庁審判長 |
瀬良 聡機 |
特許庁審判官 |
吉岡 沙織 冨永 みどり |
登録日 | 2020-12-18 |
登録番号 | 特許第6812088号(P6812088) |
権利者 | ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社 |
発明の名称 | 食塩含有飲食品及びその製造方法、並びに塩味増強剤及び塩味増強方法。 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 坂西 俊明 |
代理人 | 阿部 寛 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 佐々木 善紀 |
代理人 | 田村 明照 |