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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D04B 審判 全部申し立て 6項4号請求の範囲の記載形式不備 D04B 審判 全部申し立て 2項進歩性 D04B 審判 全部申し立て 1項2号公然実施 D04B |
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管理番号 | 1378777 |
異議申立番号 | 異議2021-700085 |
総通号数 | 263 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-11-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-01-26 |
確定日 | 2021-10-13 |
異議申立件数 | 3 |
事件の表示 | 特許第6732267号発明「レース地」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6732267号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第6732267号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、令和元年6月20日にされた出願であって、令和2年7月10日にその特許権の設定登録がされ、同年7月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年1月25日に特許異議申立人株式会社クロダレース(以下「申立人」という。)により特許異議の申立て(1)?(3)(以下、「特許異議の申立て(1)」等を「申立て(1)」等という。)がされ、当審は、令和3年5月31日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年7月28日に意見書の提出を行った。 第2.本件発明 本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 編目を形成する地編糸と、前記地編糸が形成する地編組織に編み込まれた伸縮糸とを有するレース地において、 前記地編糸として、芯糸と複数の被覆糸とを有する混繊糸が使用され、 前記芯糸は前記伸縮糸及び前記被覆糸よりも融点が低い熱融着糸であり、 複数の前記被覆糸は、前記芯糸の延長方向と同方向に延長されるとともに、前記芯糸の延長方向に間隔を空けながら存在する複数の交絡部において前記芯糸に絡み付き、 前記被覆糸は、2つの前記交絡部の間の非交絡部において前記芯糸の延長方向と同方向に延長され、 前記交絡部が前記非交絡部よりも短く、 前記地編糸の前記芯糸が前記伸縮糸に接着されていることを特徴とする、 レース地。 【請求項2】 前記地編組織の2ウエール以上に渡り編み込まれた部分を有する挿入糸をさらに有し、 前記混繊糸が前記挿入糸としても使用された、 請求項1に記載のレース地。」 第3.取消理由通知の要旨 本件発明1に対して、当審が令和3年5月31日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 本件発明1は、甲1(型番:EP-110)の総レースショーツ製品の発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当するから、特許を受けることができない。 <甲号証一覧> 以下、特許異議申立書(1)に添付された甲第1号証等を、「甲1」等という。 (1)甲1:吉田俊和、製品EP-110の拡大写真、平成30年3月14日撮影 (2)甲2:一般財団法人日本繊維製品品質技術センター福井試験センター、試験結果報告書、令和2年10月30日 (3)甲3:吉田俊和、写真説明書、令和2年11月4日作成 (4)甲4:株式会社ディノス・セシール、CECILENE Winter Collection 2017VOL.4冬号カタログ、2017年発行 第4.取消理由に対する当審の判断 1.申立て(1)の甲1乃至甲3に記載された事項 (1)甲1に記載された事項 ア.申立人が撮影した製品EP-110の写真1(第2頁) イ.申立人が撮影した製品EP-110の写真2(第3頁) ウ.申立人が撮影した製品EP-110の写真3(第4頁) 縫込みネームには、型番「EP-110」、ロット番号「YJ-509C」、「株式会社ディノス・セシール」が記載されている。 (2)甲2に記載された事項 申立人が、一般財団法人日本繊維製品品質技術センター福井試験センターに提出した総レースショーツ(品番:GXX80399、型番:EP-110)(以下、「ショーツ」という。)を、マイクロスコープ写真撮影した試験結果報告書 ア.縫込みネームの拡大写真(第2頁) イ.ショーツの20倍及び50倍拡大写真(第3頁) ウ.ショーツの100倍及び150倍拡大写真(第4頁) エ.ショーツの200倍及び500倍拡大写真(第5頁) (3)甲3に記載された事項 ア.複数の糸が絡み合って編目を形成するレース地の拡大写真(第6頁) イ.編目を形成する地編糸と、地編糸が形成する地編組織に編み込まれた糸を有するレース地の拡大写真(第9頁) ウ.交絡部(赤色矢印範囲)と非交絡部(青色矢印範囲)の拡大写真(第10頁) エ.白い点状部分(赤枠内)の拡大写真(第16頁) オ.屈曲部の拡大写真(第17頁) 以上より、甲1の総レースショーツ製品から、次の発明(以下、「引用発明」という。)を認定することができる。 <引用発明> 「複数の糸が交絡部と非交絡部を介して絡み合って編目を形成するレース地であって、編目を形成する地編糸と、前記地編糸が形成する地編組織に編み込まれた糸とを有し、白い点状部分と屈曲部が存在するレース地。」 2.本件発明1 ア.対比 本件発明1と引用発明を対比する。 引用発明の「編目」は、本件発明1の「編目」に相当し、以下同様に、「地編糸」は「地編糸」に、「地編組織」は「地編組織」に、「レース地」は「レース地」にそれぞれ相当する。 そして、引用発明の「地編糸が形成する地編組織に編み込まれた糸」は、地編糸が形成する地編組織に編み込まれた糸という限りにおいて、本件発明1の「地編糸が形成する地編組織に編み込まれた伸縮糸」に相当する。 そうすると、本件発明1と引用発明は、以下の点で一致し、相違する。 <一致点> 「編目を形成する地編糸と、前記地編糸が形成する地編組織に編み込まれた糸とを有するレース地。」 <相違点1> 地編糸が形成する地編組織に編み込まれた糸について、本件発明1は、「伸縮糸」であるのに対し、引用発明は、伸縮性を有する糸であるのか否か不明である点。 <相違点2> 地編糸について、本件発明1は、「芯糸と複数の被覆糸とを有する混繊糸」であるのに対し、引用発明は、そのような構成を備えるものであるのか否か不明である点。 <相違点3> 本件発明1は、「前記芯糸は前記伸縮糸及び前記被覆糸よりも融点が低い熱融着糸」であるのに対し、引用発明は、そのような構成を備えるものであるのか否か不明である点。 <相違点4> 本件発明1は、「複数の前記被覆糸は、前記芯糸の延長方向と同方向に延長されるとともに、前記芯糸の延長方向に間隔を空けながら存在する複数の交絡部において前記芯糸に絡み付き、前記被覆糸は、2つの前記交絡部の間の非交絡部において前記芯糸の延長方向と同方向に延長され、前記交絡部が前記非交絡部よりも短く」構成されているのに対し、引用発明は、そのような構成を備えるものであるのか否か不明である点。 <相違点5> 本件発明1は、「前記地編糸の前記芯糸が前記伸縮糸に接着されている」のに対し、引用発明は、そのような構成を備えるものであるのか否か不明である点。 イ.判断 事案に鑑み、まず<相違点5>について検討する。 引用発明において、仮に地編糸が芯糸と複数の被覆糸から構成され、地編組織に編み込まれた糸が伸縮性を有する伸縮糸であったとしても、地編糸の芯糸が伸縮糸に接着されている点については、甲1?甲3のいずれにおいても確認することができないから、実質的な相違点である。 引用発明に係る甲1(型番:EP-110)の総レースショーツ製品が、カタログ有効期限を2018年3月31日とする甲4の株式会社ディノス・セシールのカタログに掲載されていることからみて、甲1のショーツ製品が、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、譲渡のための展示がされ、実際に譲渡がされていたことが推認できるとしても、本件発明1と引用発明とは、上記相違点5で相違するから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明ではなく、特許法第29条第1項第2号に該当しない。 ウ.申立人の主張 申立人は、上記相違点5に関して、甲3の第17頁の「説明付き写真200La(試験結果報告書(5/5)頁 200倍 左写真)」(下図)を示しつつ、「芯糸と伸縮糸との接着点が解るように写真200Laの左上の黄色矢印方向に引っ張っている。写真200Laの中央の緑色に塗り分けた芯糸が伸縮糸を巻回するように編み込まれている。伸縮糸から上方へ離れる部分では屈曲部が確認できる。伸縮糸と芯糸の接触部(紫○部分)は接着されているので、伸縮糸と芯糸が離れる部分で不自然な屈曲部ができる。仮に、伸縮糸と芯糸が接着されていない場合、伸縮糸と芯糸の接点は赤破線上を通り、右上に伸びる芯糸と一直線に位置しようとするため、屈曲部は見られない。」(申立書(1)14ページ4?10行)と主張するが、写真左上の黄色矢印方向に引っ張っていることを裏付ける証拠が確認できず、また、仮に黄色矢印方向に引っ張っていたとしても、不自然な屈曲部の存在を根拠に、芯糸と伸縮糸との接着点が存在するとはいえないから、上記申立人の主張は採用できない。 3.本件発明2 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明1と同様の理由から、本件発明2は引用発明ではい。 第5.取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について 1.申立人の主張する申立理由のうち、取消理由としなかった申立理由 (1)申立て(1) 本件発明1及び2は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)申立て(2) ア.甲号証一覧 申立て(2)に記載された甲第1号証等を、以下、「甲2-1」等という。 (ア)甲2-1:特開2008-280627号公報 (イ)甲2-2:実願平2-13013号(実開平3-103280号)のマイクロフィルム (ウ)甲2-3:特開2005-29934号公報 (エ)甲2-4:特開平10-259552号公報 (オ)甲2-5:実願平5-34707号(実開平6-25262号)のCD-ROM (カ)甲2-6:特開平8-291424号公報 (キ)甲2-7:特開2013-96027号公報 (ク)甲2-8:特開平7-70856号公報 (ケ)甲2-9:特開平10-1803号公報 イ.特許法第29条第2項に係る理由 本件発明1及び2は、甲2-1に記載された発明(以下、「甲2-1発明」という。)及び甲2-2?甲2-9に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)申立て(3) ア.特許法第36条第6項第1号に係る理由 (ア)本件特許の請求項1は、「複数の前記被覆糸は、前記芯糸の延長方向と同方向に延長されるとともに」という構成、及び、「前記被覆糸は、・・・非交絡部において前記芯糸の延長方向と同方向に延長され、」という構成を特定しているが、リラックス状態及び伸張状態において、これらの構成を実現することは不可能であるから、本件発明1及び2は、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。 (イ)本件特許の請求項1の「前記交絡部が前記非交絡部よりも短く」という記載について、その効果、技術的意義が不明であるため、本件特許の請求項1の発明は、発明 の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。 イ.特許法第36条第6項第2号に係る理由 (ア)本件特許の請求項1に記載の、「複数の前記被覆糸は、前記芯糸の延長方向と同方向に延長されるとともに、・・・複数の交絡部において前記芯糸に絡みつき、」という構成は、交絡部の構成であるのか、「前記被覆糸は、・・・非交絡部において前記芯糸の延長方向と同方向に延長され、」という記載における非交絡部と同じことなのか不明確である。 (イ)本件特許の請求項1に記載の、「前記被覆糸は、・・・非交絡部において前記芯糸の延長方向と同方向に延長され、」という構成によって、伸張状態で被覆糸からの芯糸の露出面積を大きくできるという技術的意味を理解できない。技術常識によれば、張力が働き伸張することによって被覆糸からの芯糸の露出面積はリラックス状態(張力なし)よりも小さくなるので、ここに何かの発明特定事項の不足がある。 (ウ)本件特許の請求項1に記載の、「前記交絡部が前記非交絡部よりも短く」という構成を、どのように実現するのか、そのための発明特定事項が不足している。 ウ.特許法第36条第4項第1号に係る理由 発明の詳細な説明における「交絡部13が非交絡部より短い」(段落【0026】)という記載、及び、「非交絡部では、リラックス状態のときでも芯糸11の一部が被覆糸12の間から露出している。・・・伸張状態のときは、芯糸11の露出面積がさらに大きくなる」(段落【0009】、段落【0023】、段落【0038】、段落【0044】)という記載について、その具現すべき材料、装置、工程等をどのように実現するのか、出願時の技術常識に基づいても当業者が理解できないため、当業者が本件発明1及び2を実施することができない。 2.上記申立理由についての判断 (1)上記1.(1)について 上記第4.において検討したとおり、本件発明1と引用発明を対比すると、<相違点1>?<相違点5>において相違する。 事案に鑑み、まず<相違点5>について検討する。 引用発明において、仮に地編糸が芯糸と複数の被覆糸から構成され、地編組織に編み込まれた糸が伸縮性を有する伸縮糸であったとしても、地編糸の芯糸が伸縮糸に接着されている点については、甲1?甲3のいずれを参照しても記載も示唆もなく、総レースショーツ製品として構成された引用発明のレース地において、地編糸の芯糸を伸縮糸に接着するようにあえて変更する動機付けはないから、引用発明に基いて、本件発明1の<相違点5>に係る構成とすることは容易とはいえない。 したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 また、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明1と同様の理由から、本件発明2は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)上記1.(2)について 甲2-1には、特に、段落【0001】、段落【0022】、段落【0024】、段落【0028】、段落【0029】を参照すると、以下の甲2-1発明が記載されている。 「芯糸及び芯糸にらせん状に巻き付けた被覆糸からなる鎖編糸、伸縮糸、及び、挿入糸から構成される編レース製品であって、芯糸の溶融温度は、被覆糸、挿入糸、伸縮糸の溶融温度よりも低く、伸張された状態では、被覆糸間にらせん状の隙間が形成され、芯糸が部分的に露出される状態で加熱されて溶融し、伸縮糸が鎖編糸の露出する部分に接触している交差部だけにおいて接着される編レース製品。」 本件発明1と甲2-1発明を対比すると、以下の点で少なくとも相違する。 <相違点6> 本件発明1が、「前記芯糸の延長方向に間隔を空けながら存在する複数の交絡部において前記芯糸に絡み付き、前記被覆糸は、2つの前記交絡部の間の非交絡部において前記芯糸の延長方向と同方向に延長され、前記交絡部が前記非交絡部よりも短」いのに対し、甲2-1発明は、被覆糸は芯糸にらせん状に巻き付けられ、芯糸の伸張時に被覆糸間にらせん状の隙間が形成されるもので、本件発明1のような非交絡部が形成されない点。 <相違点6>について検討する。 甲2-1発明は、特に段落【0022】を参照すると、編成前の状態では被覆糸同士が互いに接触し、芯糸が露出しないように被覆糸によって覆われているものであって、編成する際に、伸張させた状態で被覆糸間にらせん条の隙間を形成し、この隙間から芯糸を露出させ、伸縮糸と交差している箇所で接着させるものである。 このように構成されている甲2-1発明の芯糸と被覆糸の構造を、本件発明1のように、交絡部、非交絡部を備える構造に換える動機付けは、甲2-1にはない。 また、甲2-2乃至甲2-9のものは、もともとから芯糸が露出するように構成され、間隔を空けながら存在する複数の交絡部によって被覆糸を芯糸に絡み付かせるものであり、被覆糸の構造の違う甲2-1発明において、本件発明1の被覆糸の構造に換える動機付けは、記載も示唆もされていない。 よって、本件発明1及び2は、甲2-1発明及び甲2-2?甲2-9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、申立人の主張は採用できない。 (3)上記1.(3)ア.について ア.上記1.(3)ア.(ア)について、請求項1の「複数の前記被覆糸は、前記芯糸の延長方向と同方向に延長されるとともに、」という記載について、「方向」とは、「むき。方角。」(株式会社岩波書店広辞苑第六版)を意味するものであって、申立人が主張する「直線のむき」又は「直線状の意味」ではないから、伸張状態であってもリラックス状態であっても、被覆糸が芯糸と同じ向き又は同じ方角に延長されることを意味することは明らかである。 そうすると、これらの構成を実現することは不可能であるとはいえないから、発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえず、また、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものでもない。 よって、申立人の主張は採用できない。 イ.上記1.(3)ア.(イ)について、請求項1の「前記交絡部が前記非交絡部よりも短く」という記載について、申立人は、その効果、技術的意義が不明である旨主張するが、本件特許明細書の発明の詳細な説明全体を参酌すれば、非交絡部によって芯糸が被覆糸から露出することは明らかであるから、当該記載は、芯糸が露出する部分の長さが、露出しない部分の長さより長いという技術的意義を有し、交絡部が非交絡部よりも短い場合には、芯糸が伸縮糸と接着される可能性のある領域が大きくなるという効果を有することは明らかである。 よって、申立人の主張は採用できない。 ウ.以上のとおり、本件発明1は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしているから、その特許は特許法第113条第4号に該当せず、取り消すことはできない。 (4)上記1.(3)イ.について ア.上記1.(3)イ.(ア)について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】には、「前記被覆糸は、2つの前記交絡部の間の非交絡部において前記芯糸の延長方向と同方向に延長され」と記載されているから、被覆糸が芯糸の延長方向と同方向に延長されているのは非交絡部であることが理解できる。 また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0022】には、「図2及び図3に示すように、複数本の被覆糸12は、芯糸11の延長方向に間隔を空けながら存在する複数の交絡部13において、芯糸11に絡み付いている。」と記載されているから、被覆糸が芯糸に絡みついているのは交絡部であることが理解できる。 よって、請求項1の「複数の前記被覆糸は、前記芯糸の延長方向と同方向に延長される」のは非交絡部であり、「前記芯糸の延長方向に間隔を空けながら存在する複数の交絡部において前記芯糸に絡み付」くのは交絡部であることが明確である。 イ.上記1.(3)イ.(イ)について、請求項1の「前記被覆糸は、2つの前記交絡部の間の非交絡部において前記芯糸の延長方向と同方向に延長され」という記載は、上記2.(3)ア.で検討したとおり、被覆糸が延長される向き、方角を特定するものであり、当該記載は明確である。 また、張力が働き伸長することによる被覆糸からの芯糸の露出面積については、張力が働き伸長することによって被覆糸が細くなり、被覆面積が減少するため芯糸の露出面積が大きくなるものと理解できるから、発明特定事項に不足はない。 ウ.上記1.(3)イ.(ウ)について、請求項1の「前記交絡部が前記非交絡部よりも短く」という記載は、交絡部と非交絡部における長さの大小関係を特定するものであり、当該記載自体に明確でない点はなく、また、これを実現することは当業者であれば理解できるから、発明特定事項に不足はない。 エ.以上のとおり、本件発明1及び2の記載は明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしているから、その特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消すことはできない。 (5)上記1.(3)ウ.について 本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0026】には、「また、図2及び図3では、交絡部13が非交絡部より短い場合について描かれている。しかし、交絡部13が非交絡部より長い場合もあり得る。」と記載されており、交絡部と非交絡部のどちらが長い構成であっても良いことが記載されているから、具現すべき材料、装置、工程等の明示がなくとも、出願時の技術常識に基づいて、試行錯誤を要することなく当業者が実施可能なものである。 よって、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているから、特許法第113条第4号に該当せず、取り消すことはできない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、本件発明1及び2に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことができず、また、他に本件発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-09-30 |
出願番号 | 特願2019-114851(P2019-114851) |
審決分類 |
P
1
651・
538-
Y
(D04B)
P 1 651・ 112- Y (D04B) P 1 651・ 121- Y (D04B) P 1 651・ 537- Y (D04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岩田 行剛、川口 裕美子、鈴木 祐里絵 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
村山 達也 藤井 眞吾 |
登録日 | 2020-07-10 |
登録番号 | 特許第6732267号(P6732267) |
権利者 | 株式会社タケダレース |
発明の名称 | レース地 |
代理人 | 西教 圭一郎 |
代理人 | 水鳥 正裕 |
代理人 | 西教 圭一郎 |
代理人 | 中村 哲士 |
代理人 | 富田 克幸 |
代理人 | 西教 圭一郎 |
代理人 | 有近 康臣 |
代理人 | 蔦田 正人 |
代理人 | 前澤 龍 |