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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1378783
異議申立番号 異議2021-700627  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-05 
確定日 2021-10-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6807854号発明「繊維強化複合材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6807854号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続きの経緯
特許第6807854号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)3月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年3月10日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、令和2年12月10日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、特許掲載公報が令和3年1月6日に発行され、その後、その特許に対し、同年7月5日に特許異議申立人 伴 よし子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
熱可塑性材料を含むマトリックス材料;および
該マトリックス材料内に分散した複数の連続繊維を含む不織繊維領域を含む繊維強化複合材であって、
該繊維強化複合材が、40?65体積%の複数の連続繊維を含み、
該繊維強化複合材が、第1のポリマーリッチ領域および第2のポリマーリッチ領域であって、それぞれが10体積%未満の複数の連続繊維を有し、かつ該繊維強化複合材の幅および長さそれぞれと等しい幅および長さを有する、該第1のポリマーリッチ領域および第2のポリマーリッチ領域を含み、該不織繊維領域が、該第1および第2のポリマーリッチ領域の間に配置され、かつ該第1のポリマーリッチ領域の厚さおよび該第2のポリマーリッチ領域の厚さの合計が、該繊維強化複合材の厚さの15%?25%であり、
該不織繊維領域の幅および長さが、該繊維強化複合材の幅および長さそれぞれと等しく、
該不織繊維領域が、75?90の平均相対繊維占有面積率(RFAC)(%)および3?8の変動係数(COV)(%)を有し、
該平均RFACが、以下の段階:
該繊維強化複合材の断面画像を得る段階であって、該断面画像が、該繊維強化複合材の長さに対して垂直に撮影され、該断面画像が、少なくとも1500μmで、かつ該断面画像の長さに整合している幅と、少なくとも160μmで、かつ該断面画像の幅に整合している厚さとを有する該繊維強化複合材の一部を含む、該段階、
該断面画像の幅を二等分する縦のクロスヘアーと、該断面画像の長さを二等分する横のクロスヘアーとを、該断面画像上に描く段階、
各々が該繊維強化複合材の一部を囲んでいる11個の隣り合う正方形のボックスを、該断面画像上に描く段階であって、該11個の隣り合う正方形のボックスが、同じ寸法を有し、該11個の隣り合う正方形のボックスの中央のボックスが、該繊維強化複合材の厚さの40%に及ぶ辺を有し、かつ該11個の隣り合う正方形のボックスが、該縦のクロスヘアーが該正方形のボックスの各々の中央と交差し、横のクロスヘアーが該正方形のボックスのうちの中央のボックスの中央と交差するように配置された、該段階、
該11個の隣り合う正方形のボックスにおける繊維が占める面積を、該正方形のボックス各々について測定して、かつ該繊維が占める面積を該11個の隣り合う正方形のボックスの総面積で割り、100を掛けることにより、該11個の隣り合う正方形の占有面積率(AC)(%)を決定する段階、
該11個の隣り合う正方形のACを、78.5%で割り、100を掛けることによって、該11個の隣り合う正方形のボックスのRFACを決定する段階、および
該11個の隣り合う正方形のボックスのRFACを平均することにより、該平均RFACを決定する段階によって求められ、
該COVが、該11個の隣り合う正方形のACの標準偏差を該ACの平均で割り、100を掛けることによって求められ、ならびに
該複数の連続繊維のそれぞれが、該繊維強化複合材の長さと整合しており、かつ該繊維強化複合材が、1体積%未満のボイドを含む、
繊維強化複合材。
【請求項2】
平均RFAC(%)が80である、請求項1記載の繊維強化複合材。
【請求項3】
熱可塑性材料がポリプロピレンを含み;
複数の連続繊維がガラス繊維を含み;かつ
平均RFAC(%)が82であり、COV(%)が4である、
請求項1または2記載の繊維強化複合材。
【請求項4】
熱可塑性材料が高密度ポリエチレンを含み;
複数の連続繊維がガラス繊維を含み;かつ
平均RFAC(%)が80であり、COV(%)が7である、
請求項1記載の繊維強化複合材。
【請求項5】
熱可塑性材料が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ(1,4-シクロヘキシリデンシクロヘキサン-1,4-ジカルボキシレート)(PCCD)、グリコール変性ポリシクロヘキシルテレフタレート(PCTG)、ポリ(フェニレンオキシド)(PPO)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンイミンもしくはポリエーテルイミド(PEI)またはこれらの誘導体、熱可塑性エラストマー(TPE)、テレフタル酸(TPA)エラストマー、ポリ(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)(PCT)、ポリアミド(PA)、ポリスルホンスルホネート(PSS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、アクリロニトリルブチルジエンスチレン(ABS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、これらのコポリマー、あるいはこれらのブレンドを含む、請求項1または2記載の繊維強化複合材。
【請求項6】
複数の連続繊維が、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、バサルト繊維、スチール繊維、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1または2記載の繊維強化複合材。
【請求項7】
マトリックス材料が、熱可塑性材料と複数の連続繊維との間の接着を促進するカップリング剤、酸化防止剤、熱安定剤、流れ調整剤、難燃剤、UV安定剤、UV吸収剤、耐衝撃性改良剤、架橋剤、着色剤、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1?5のいずれか一項記載の繊維強化複合材。
【請求項8】
第1のポリマーリッチ領域の厚さが、第2のポリマーリッチ領域の厚さと等しい、請求項1記載の繊維強化複合材。
【請求項9】
45?55体積%の複数の連続繊維を含む、請求項1記載の繊維強化複合材。
【請求項10】
請求項1?9のいずれか一項記載の第1の繊維強化複合材および請求項1?9のいずれか一項記載の第2の繊維強化複合材を含む、ラミネート。
【請求項11】
請求項1?9のいずれか一項記載の繊維強化複合材を含む、製造物品。」

第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(下記1?2)及び証拠方法(同3)は、次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 証拠方法
甲第1号証:特開2014-218588号公報
甲第2号証:米国特許出願公開第2014/0212650号明細書
甲第3号証:特開平8-164521号公報
甲第4号証:化学便覧 基礎編 改訂5版、I-717ページ
以下、甲第1号証ないし甲第4号証を、それぞれ「甲1」ないし「甲4」などという。証拠の表記は、おおむね特許異議申立書の記載に従った。

第4 当審の判断
1 証拠の記載事項等
(1)甲1の記載事項等
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある。

「【請求項1】
熱可塑性樹脂を含浸している複数の強化繊維シート間に熱可塑性樹脂からなる中間樹脂層を有する強化繊維樹脂層と、前記強化繊維樹脂層の少なくとも一面に形成される表面樹脂層とからなるプリプレグであって、前記プリプレグは強化繊維樹脂層に含有する熱可塑性樹脂の目付[A]と、表面樹脂層の樹脂目付[B]との割合が
0.15<[B]/[A]<0.50
であるプリプレグ。」

「【0020】
本発明において表面樹脂層は、プリプレグの少なくとも一面に形成されていればよく、プリプレグの両面に形成されていてもよい。本発明において、プリプレグの両面に表面樹脂層が形成されている場合、表面樹脂層の厚さ及び表面樹脂層の目付[B]は、プリプレグ両面の表面樹脂層を合わせた厚さ及び目付を言う。表面樹脂層がプリプレグの一面のみに形成されている場合、表面樹脂層の厚さや目付[B]のバラツキを低減させやすい。」

「【0035】
上述の沈着工程、積重工程を経て得られる積重シート12は、次工程の熱圧着工程、即ち、サスペンジョン2から取り出された積重シート12を、好ましくは熱可塑性樹脂粉末の融点+50?200℃、500?1000kPaで熱加圧することにより、積重シートを一体化する熱圧着工程を通すことにより、熱可塑性樹脂が強化繊維シート内に高い均一性で含浸される。
【0036】
これに対し、熱可塑性樹脂シートを強化繊維シートに積重して溶融・含浸させる場合は、(1)含浸される樹脂の均一性が低く、(2)含浸中における空気抜きが困難であるので好ましくない。」

「【0053】
図2に示すように、積重シート22において、強化繊維24からなるシート4a、4b(図1参照)は熱可塑性樹脂26が含浸され、それぞれ樹脂含浸繊維層28a、28bが形成される。樹脂含浸繊維層28a、28bの層間には中間樹脂層30aが形成され、積重シート22の表面近傍には表面樹脂層30bが形成され、表面樹脂層30b以外の層として、樹脂含浸繊維層28a、28bと中間樹脂層30aとからなる強化繊維樹脂層32が形成される。」

「【0057】
なお、強化繊維が炭素繊維の場合は、炭素繊維の密度dが1.8(g/cm^(3))なので、強化繊維の目付150d(g/m^(2))は225(g/m^(2))であり、80d(g/m^(2))は144(g/m^(2))となる。」

「【0089】
〔実施例7〕
ポリエーテルイミド樹脂(サビック社製)粉末(粒度分布:累積50体積%粒径15μm)をエタノールに分散させ、サスペンション浴槽に5.5質量%濃度のサスペンションを調製した。炭素繊維A(東邦テナックス社製テナックス IMS60、24,000本)を平行に55本引き揃えてシート状にし、炭素繊維の目付が190g/m^(2)になるよう炭素繊維Aシートを調製した。
【0090】
そして、シート2枚を上記サスペンション浴槽中に導入し、15秒間浸漬した後、2枚のシートを重ねて1枚の積重シートとしてサスペンション浴槽から導出した。得られた積重シートを150℃で5分間乾燥させた。樹脂の沈着量は8.0質量%であった。引き続いて、積重シートを表面温度が250℃(ポリエーテルイミド樹脂のガラス転移温度+50℃)のローラーに通し樹脂を溶融させ含浸させた。
【0091】
このプリプレグは、強化繊維シート内への樹脂の含浸が実施例1に比べ少なく、プリプレグの表面樹脂層の厚さが30μmと大きくなったため取扱性はやや低下したものの、得られた複合材料の損傷面積は表1に示すように小さいものであった。」

「【表1】



「【図2】



イ 甲1に記載された発明
甲1の実施例7の記載からみて、甲1には、次のとおりの発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

<甲1発明>
「ポリエーテルイミド樹脂(サビック社製)粉末(粒度分布:累積50体積%粒径15μm)をエタノールに分散させ、サスペンション浴槽に5.5質量%濃度のサスペンションを調製し、炭素繊維A(東邦テナックス社製テナックス IMS60、24,000本)を平行に55本引き揃えてシート状にし、炭素繊維の目付が190g/m^(2)になるよう炭素繊維Aシートを調製し、そして、シート2枚を上記サスペンション浴槽中に導入し、15秒間浸漬した後、2枚のシートを重ねて1枚の積重シートとしてサスペンション浴槽から導出し、得られた積重シートを150℃で5分間乾燥させ、引き続いて、積重シートを表面温度が250℃(ポリエーテルイミド樹脂のガラス転移温度+50℃)のローラーに通し樹脂を溶融させ含浸させてなるプリプレグであって、プリプレグ中の樹脂含有量は35質量%であり、プリプレグの厚さは188μmであり、表面樹脂層の厚さが30μmである、プリプレグ。」

(2)甲2の記載事項等
ア 甲2の記載事項
甲2には、以下の記載がある。
なお、原文の摘記は省略し、対応する日本語訳を記す。

「[0048]・・・そのような高強度繊維は、例えば、金属繊維、ガラス繊維(例えば、Eガラス、Aガラス、Cガラス、Dガラス、ARガラス、Rガラス、S1ガラスなどのSガラスであり得る。または、S2-ガラスなど)、炭素繊維アモルファスカーボン、黒鉛上炭素、または金属被覆炭素など)、ホウ素繊維、セラミック繊維(例、アルミナまたはシリカ)、アラミド繊維(例、EI DuPont de Nemours、ウィルミントン、デラウェア州が販売するKevlar○(合議体注:○にR))、合成有機繊維(例えば、ポリアミド、ポリエチレン、パラフェニレン、テレフタルアミド、ポリエチレンテレフタレートおよびポリフェニレンサルファイド)・・・」

「[0049]・・・例えば、本発明で使用するのに適した熱可塑性ポリマーには、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン、プロピレン-エチレンコポリマーなど)、ポリエステル(例えば、ポリブチレンテレフタレート(「PBT」))、ポリカーボネート、ポリアミド(例:PA12、Nylon^(TM))、ポリエーテルケトン(例:ポリエーテルエーテルケトン(「PEEK」))、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンケトン(例:ポリフェにレンジケトン(「PPDK」))、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイド(例:ポリフェニレンサルファイド(「PPS」))、ポリ(ビフェニレンサルファイドケトン)、ポリ(ファニレンサルファイドジケトン)、ぽり(ビフェニレンサルファイド)など)、フルオロポリマー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン-パーフルオロメチルビニルエーテルポリマー、パーフルオローアルコキシアルカンポリマー、ペトラフルオロエチレンポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンポリマーなど)、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリカーボネート、スチレン系ポリマー(例えば、アクリロニトリルブタジエンスチレン(「ABS」))等が含まれ得る。」

「[0094]・・・いくつかの実施形態における繊維にリッチ部分304は、繊維300の総量の少なくとも約60%、65%、70%、75%、80%、85%、またはそれらの他の適切なパーセンテージ、範囲、または部分範囲を含み得る。・・・」

「[0111]・・・例えば、いくつかの実施形態では、繊維強化熱可塑性材料は、約25%から約80%の間の繊維体積分率を有することができる。・・・」

「23.ポリマー樹脂と、ポリマー樹脂に埋め込まれて繊維強化ポリマー基材を形成する複数の繊維とを含むテープであって、繊維が繊維強化ポリマー材料中に配置されて、第1の樹脂リッチ部分、第2の樹脂リッチ部分、および第2の樹脂リッチ部分と第2の樹脂リッチ部分との間に配置された樹脂リッチ部分で形成するテープ・・・」

「27.繊維強化樹脂基材の繊維体積含有率が約40%?60%である、請求項23記載のテープ。」

「29.ポリマー樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項23記載のテープ。」





イ 甲2に記載された発明
甲2の請求項23、請求項27及び請求項29の記載からみて、甲2には、次のとおりの発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

<甲2発明>
「ポリマー樹脂と、ポリマー樹脂に埋め込まれて繊維強化ポリマー基材を形成する複数の繊維とを含むテープであって、繊維が繊維強化ポリマー材料中に配置されて、第1の樹脂リッチ部分、第2の樹脂リッチ部分、および第1の樹脂リッチ部分と第2の樹脂リッチ部分との間に配置された繊維リッチ部分で形成され、繊維強化樹脂基材の繊維体積含有率が約40%?60%であり、ポリマー樹脂が熱可塑性樹脂である、テープ。」

(3)甲3の記載事項等
甲3には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】 多数の強化用繊維が略平行に配列されると共に、該繊維間隙間に熱可塑性樹脂が含浸された繊維強化樹脂組成物において、該繊維強化樹脂組成物中に占める強化用繊維の含有率が60?90体積%であり、且つ該繊維強化樹脂組成物の横断面における、下記評価法によって選ばれる全てのユニットについて、強化用繊維の占める面積率を測定し、それらを母集団とした際、該母集団のバラツキが標準偏差で10%以下であることを特徴とする繊維強化樹脂組成物。
(評価法)試料である繊維強化樹脂組成物を、アクリル樹脂[ドイツ国、クルツァー(Kulzer)社製、商品名「テクノビット(Technovit)4004」、粉体と液体の混合タイプ]に埋め込み、室温で20分間硬化させた後、繊維強化樹脂組成物における強化用繊維の配向方向にほぼ垂直な横断面を研削により露出させ、該露出面を、番手220番、500番、1000番および2400番のSiC湿式ペーパーを用いて順次1分間ずつ研磨した後、更に平均粒径6μmのダイヤモンドスラリーと平均粒径1μmのダイヤモンドスラリーを用いて夫々1.5分間研磨し、次いで該研磨面のSEMイメージを写真撮影する。撮影された各繊維強化樹脂組成物の横断面写真を、相互に重なり合わないほぼ等面積の略正方形ユニット40?100個が得られる様に区画すると共に、試料の該周縁部が画像に取り込まれた部分を除外し、得られた略正方形ユニットについて画像処理を行ない、該略正方形ユニット内における強化用繊維の占める各面積率を測定する。
【請求項2】 多数の強化用繊維が略平行に配列されると共に、該繊維間隙間に熱可塑性樹脂が含浸された繊維強化樹脂組成物において、該繊維強化樹脂組成物中に占める強化用繊維の含有率が40?65体積%であり、且つ該繊維強化樹脂組成物の横断面における、前記請求項1に記載の評価法によって選ばれる全てのユニットについて、強化用繊維の占める面積率を測定し、それらを母集団とした際、該母集団のバラツキが標準偏差で15%以下であることを特徴とする繊維強化樹脂組成物。
【請求項3】 多数の強化用繊維が略平行に配列されると共に、該繊維間隙間に熱可塑性樹脂が含浸された繊維強化樹脂組成物において、該繊維強化樹脂組成物中に占める強化用繊維の含有率が30?45体積%であり、且つ該繊維強化樹脂組成物の横断面における、前記請求項1に記載の評価法によって選ばれる全てのユニットについて、強化用繊維の占める面積率を測定し、それらを母集団とした際、該母集団のバラツキが標準偏差で20%以下であることを特徴とする繊維強化樹脂組成物。」

(4)甲4の記載事項等
甲4には、ポリエーテルイミドの密度が1.27であることが記載されている。

2 取消理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1と甲1発明の対比及び検討
ア 本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「ポリエーテルイミド樹脂(サビック社製)粉末(粒度分布:累積50体積%粒径15μm)」における「ポリエーテルイミド樹脂」は、炭素繊維Aシートに溶融させ含浸させてなることから、本件特許発明1の「熱可塑性樹脂を含むマトリックス材料」に相当する。
甲1発明の「炭素繊維A(東邦テナックス社製テナックス IMS60、24,000本)を平行に55本引き揃えてシート状にし、炭素繊維の目付が190g/m^(2)になるよう炭素繊維Aシートを調製」する工程における「炭素繊維Aシート」は、炭素繊維Aを複数本を平行に引き揃えて炭素繊維Aシートを形成することから不織構造を有するものであり、本件特許発明1の「複数の連続繊維を含む不織繊維領域」に相当する。
甲1発明の「プリプレグ」は本件特許発明1の「繊維強化複合材」に相当する。
そして、甲1発明は、ポリエーテルイミド樹脂(サビック社製)粉末(粒度分布:累積50体積%粒径15μm)をエタノールに分散させ、サスペンション浴槽に5.5質量%濃度のサスペンションを調製し、炭素繊維A(東邦テナックス社製テナックス IMS60、24,000本)を平行に55本引き揃えてシート状にし、炭素繊維の目付が190g/m^(2)になるよう炭素繊維Aシートを調製し、そして、シート2枚を上記サスペンション浴槽中に導入し、15秒間浸漬した後、2枚のシートを重ねて1枚の積重シートとしてサスペンション浴槽から導出し、得られた積重シートを150℃で5分間乾燥させ、引き続いて、積重シートを表面温度が250℃(ポリエーテルイミド樹脂のガラス転移温度+50℃)のローラーに通し樹脂を溶融させ含浸させてプリプレグを得るものであるから、本件特許発明1の「該不織繊維領域の幅および長さが、該繊維強化複合材の幅および長さそれぞれと等し」い事項、及び、「該複数の連続繊維のそれぞれが、該繊維強化複合材の長さと整合」する事項を満たすと認められる。

したがって、本件特許発明1と甲1発明は以下の点で一致する。

「熱可塑性材料を含むマトリックス材料;および
該マトリックス材料内に分散した複数の連続繊維を含む不織繊維領域
を含む繊維強化複合材であって、
該不織繊維領域の幅および長さが、該繊維強化複合材の幅および長さそれぞれと等しく、
該複数の連続繊維のそれぞれが、該繊維強化複合材の長さと整合している、
繊維強化複合材。」

そして、以下の点で相違する。

<相違点1-1>
本件特許発明1は「繊維強化複合材が、40?65体積%の複数の連続繊維を含」むことを特定するが、甲1発明にそのような特定がない点。

<相違点1-2>
本件特許発明1は「繊維強化複合材が、第1のポリマーリッチ領域および第2のポリマーリッチ領域であって、それぞれが10体積%未満の複数の連続繊維を有し、かつ該繊維強化複合材の幅および長さそれぞれと等しい幅および長さを有する、該第1のポリマーリッチ領域および第2のポリマーリッチ領域を含み、該不織繊維領域が、該第1および第2のポリマーリッチ領域の間に配置され、かつ該第1のポリマーリッチ領域の厚さおよび該第2のポリマーリッチ領域の厚さの合計が、該繊維強化複合材の厚さの15%?25%であ」ることを特定するが、甲1発明にそのような特定がない点。

<相違点1-3>
本件特許発明1は「不織繊維領域が、75?90の平均相対繊維占有面積率(RFAC)(%)および3?8の変動係数(COV)(%)を有し、
該平均RFACが、以下の段階:
該繊維強化複合材の断面画像を得る段階であって、該断面画像が、該繊維強化複合材の長さに対して垂直に撮影され、該断面画像が、少なくとも1500μmで、かつ該断面画像の長さに整合している幅と、少なくとも160μmで、かつ該断面画像の幅に整合している厚さとを有する該繊維強化複合材の一部を含む、該段階、
該断面画像の幅を二等分する縦のクロスヘアーと、該断面画像の長さを二等分する横のクロスヘアーとを、該断面画像上に描く段階、
各々が該繊維強化複合材の一部を囲んでいる11個の隣り合う正方形のボックスを、該断面画像上に描く段階であって、該11個の隣り合う正方形のボックスが、同じ寸法を有し、該11個の隣り合う正方形のボックスの中央のボックスが、該繊維強化複合材の厚さの40%に及ぶ辺を有し、かつ該11個の隣り合う正方形のボックスが、該縦のクロスヘアーが該正方形のボックスの各々の中央と交差し、横のクロスヘアーが該正方形のボックスのうちの中央のボックスの中央と交差するように配置された、該段階、
該11個の隣り合う正方形のボックスにおける繊維が占める面積を、該正方形のボックス各々について測定して、かつ該繊維が占める面積を該11個の隣り合う正方形のボックスの総面積で割り、100を掛けることにより、該11個の隣り合う正方形の占有面積率(AC)(%)を決定する段階、
該11個の隣り合う正方形のACを、78.5%で割り、100を掛けることによって、該11個の隣り合う正方形のボックスのRFACを決定する段階、および
該11個の隣り合う正方形のボックスのRFACを平均することにより、該平均RFACを決定する段階によって求められ、
該COVが、該11個の隣り合う正方形のACの標準偏差を該ACの平均で割り、100を掛けることによって求められ」ることを特定するが、甲1発明にそのような特定がない点。

<相違点1-4>
本件特許発明1は「繊維強化複合材が、1体積%未満のボイドを含む」ことを特定するが、甲1発明にそのような特定がない点。

事案に鑑み、まずは相違点1-3について検討する。
本件特許発明1において特定されるRFACの数値範囲およびCOVの数値範囲、並びに、これらの算出方法は、甲1を含めどの証拠にも記載されておらず、当業者が容易に導き出せたものでもない。
なお、特許異議申立書において、特許異議申立人は甲1の表1の数値に基づき本件特許発明1で定義されるRFACを計算すれば、実施例7では85.1%である旨主張するが、本件特許発明1で特定される断面画像の解析を行わずにどのようにしてRFACを得るのかが明らかではなく、また、甲1の表1の数値に基いた計算過程も示されていないから、特許異議申立人のこの点の主張は、採用できない。
よって、相違点3に係る本件特許発明1の事項は、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。

上記のとおりであるから、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし11について

本件特許発明2ないし11は、請求項1を引用するものである。
したがって、本件特許発明2ないし11は、本件特許発明1と同様に甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)申立理由1のまとめ
上記のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

2 申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1と甲2発明の対比及び検討
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「ポリマー樹脂」は、本件特許発明1の「熱可塑性材料を含むマトリックス材料」に相当する。
甲2発明の「ポリマー樹脂と、ポリマー樹脂に埋め込まれて繊維強化ポリマー基材を形成する複数の繊維とを含むテープ」及び「テープ」は、本件特許発明1の「繊維強化複合材」に相当する。
甲2発明の「第1の樹脂リッチ部分」、「第2の樹脂リッチ部分」は、本件特許発明1の「第1のポリマーリッチ領域」、「第2のポリマーリッチ領域」にそれぞれ相当する。
甲2発明の「複数の繊維」は、本件特許発明1の「複数の連続繊維」と「複数の繊維」の限りにおいて一致する。

したがって、本件特許発明1と甲2発明は以下の点で一致する。

「熱可塑性材料を含むマトリックス材料;および
該マトリックス材料内に分散した複数の繊維を含む不織繊維領域を含む繊維強化複合材であって、
該繊維強化複合材が、第1のポリマーリッチ領域および第2のポリマーリッチ領域であって、該繊維強化複合材の幅および長さそれぞれと等しい幅および長さを有する、該第1のポリマーリッチ領域および第2のポリマーリッチ領域を含み、該不織繊維領域が、該第1および第2のポリマーリッチ領域の間に配置されてなる、
繊維強化複合材。」

そして、以下の点で相違する。

<相違点2-1>
「マトリックス材料内に分散した複数の繊維」に関し、本件特許発明1は「連続繊維」を特定するが、甲2発明にはそのような特定がない点。

<相違点2-2>
本件特許発明1は「繊維強化複合材が、40?65体積%の複数の連続繊維を含」むことを特定するが、甲2発明にそのような特定がない点。

<相違点2-3>
本件特許発明1は第1のポリマーリッチ領域および第2のポリマーリッチ領域について「それぞれが10体積%未満の複数の連続繊維を有」し、「該第1のポリマーリッチ領域の厚さおよび該第2のポリマーリッチ領域の厚さの合計が、該繊維強化複合材の厚さの15%?25%であ」ることを特定するが、甲2発明にそのような特定がない点。

<相違点2-4>
本件特許発明1は「不織繊維領域の幅および長さが、該繊維強化複合材の幅および長さそれぞれと等し」いことを特定するが、甲2発明にそのような特定がない点。

<相違点2-5>
本件特許発明1は「不織繊維領域が、75?90の平均相対繊維占有面積率(RFAC)(%)および3?8の変動係数(COV)(%)を有し、
該平均RFACが、以下の段階:
該繊維強化複合材の断面画像を得る段階であって、該断面画像が、該繊維強化複合材の長さに対して垂直に撮影され、該断面画像が、少なくとも1500μmで、かつ該断面画像の長さに整合している幅と、少なくとも160μmで、かつ該断面画像の幅に整合している厚さとを有する該繊維強化複合材の一部を含む、該段階、
該断面画像の幅を二等分する縦のクロスヘアーと、該断面画像の長さを二等分する横のクロスヘアーとを、該断面画像上に描く段階、
各々が該繊維強化複合材の一部を囲んでいる11個の隣り合う正方形のボックスを、該断面画像上に描く段階であって、該11個の隣り合う正方形のボックスが、同じ寸法を有し、該11個の隣り合う正方形のボックスの中央のボックスが、該繊維強化複合材の厚さの40%に及ぶ辺を有し、かつ該11個の隣り合う正方形のボックスが、該縦のクロスヘアーが該正方形のボックスの各々の中央と交差し、横のクロスヘアーが該正方形のボックスのうちの中央のボックスの中央と交差するように配置された、該段階、
該11個の隣り合う正方形のボックスにおける繊維が占める面積を、該正方形のボックス各々について測定して、かつ該繊維が占める面積を該11個の隣り合う正方形のボックスの総面積で割り、100を掛けることにより、該11個の隣り合う正方形の占有面積率(AC)(%)を決定する段階、
該11個の隣り合う正方形のACを、78.5%で割り、100を掛けることによって、該11個の隣り合う正方形のボックスのRFACを決定する段階、および
該11個の隣り合う正方形のボックスのRFACを平均することにより、該平均RFACを決定する段階によって求められ、
該COVが、該11個の隣り合う正方形のACの標準偏差を該ACの平均で割り、100を掛けることによって求められ」ることを特定するが、甲2発明にそのような特定がない点。

<相違点2-6>
「繊維」に関し、本件特許発明1は、「複数の連続繊維のそれぞれが、該繊維強化複合材の長さと整合して」いることを特定するが、甲2発明はそのような特定がない点。

<相違点2-7>
本件特許発明1は「繊維強化複合材が、1体積%未満のボイドを含む」ことを特定するが、甲2発明にそのような特定がない点。

事案に鑑み、まずは相違点2-5について検討する。
本件特許発明1において特定されるRFACの数値範囲およびCOVの数値範囲、並びに、これらの算出方法は、甲2を含めどの証拠にも記載されておらず、当業者が容易に導き出せたものでもない。
なお、特許異議申立書において、特許異議申立人は甲2の[0094](当審注:[0111]の誤記と認められる。)に記載されるテープの繊維体積分率の数値範囲、及び、[0111](当審注:[0094]の誤記と認められる。)に記載される樹脂リッチ部分(当審注:「繊維リッチ部分」の誤記と認められる。)の繊維総量の数値に基づき本件特許発明1で定義されるRFACを計算すれば、RFACの上限は86.6%、下限は19.1%である旨主張するが、甲2において本件特許発明1で特定される断面画像の解析を行わずにどのようにしてRFACを得るのかが明らかではなく、また、甲2の上記数値範囲に基いた計算過程も示されていないから、特許異議申立人のこの点の主張は、採用できない。
よって、相違点2-5に係る本件特許発明1の事項は、甲2発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。

上記のとおりであるから、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし11について

本件特許発明2ないし11は、請求項1を引用するものである。
したがって、本件特許発明2ないし11は、本件特許発明1と同様に甲2発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)申立理由2のまとめ
上記のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-10-11 
出願番号 特願2017-547161(P2017-547161)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大村 博一  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 加藤 友也
相田 元
登録日 2020-12-10 
登録番号 特許第6807854号(P6807854)
権利者 ファイバ リーインフォースト サーモプラスティックス ベー.フェー.
発明の名称 繊維強化複合材  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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