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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H04L
管理番号 1379306
審判番号 不服2020-12330  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-02 
確定日 2021-11-09 
事件の表示 特願2016- 69328「通信処理システム、通信処理装置、通信処理方法および通信処理プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月 5日出願公開、特開2017-184052、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年3月30日の出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。

令和元年11月 8日付け:拒絶理由通知書
令和2年 1月 6日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年 5月27日付け:拒絶査定(原査定)
令和2年 9月 2日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和3年 7月13日付け:拒絶理由(当審拒絶理由)通知書
令和3年 9月16日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年5月27日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

[理由1]新規性欠如
本願請求項1ないし4及び8ないし10に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

[理由2]進歩性欠如
本願請求項1ないし10に係る発明は、以下の引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[引用文献等一覧]
1 特表2014-535252号公報
2 特開2010-191693号公報(周知技術を示す文献)
3 特開2009-42867号公報(周知技術を示す文献)

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

[理由1]明確性要件違反
本願の請求項1ないし9に係る発明は、以下の点において明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

[理由2]サポート要件違反
本願の請求項1ないし9に係る発明は、以下の点において発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1及び7ないし9に記載の「前記異常判定データパターンは、前記CANメッセージに含まれる可能性がある、車両異常を示す時系列のビットパターン」は、明確ではなく、また、発明の詳細な説明に記載したものではない。

第4 本願発明
本願請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は、令和3年9月16日に提出された手続補正書に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される発明であり、このうち本願発明1は以下のとおりの発明である。なお、下線部は、令和3年9月16日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された箇所を示す。

「 車載通信ネットワークに含まれる通信処理装置であって、
受信されたCAN(Controller Area Network)メッセージに車両異常を示すデータパターンが含まれているかを判定するための異常判定データパターンを、仮想ネットワークの少なくとも1つの仮想スイッチ手段に設定する設定手段と、
CANメッセージに含まれる少なくとも一部のデータパターンと前記異常判定データパターンとをシフトしながら比較し、同じデータパターンを含むか否かを判定するデータパターン判定手段と、
前記少なくとも一部のデータパターンと前記異常判定データパターンとが同じデータパターンを含む場合に、車両異常時の処理を行うため前記仮想スイッチ手段のスイッチングを制御する制御手段と、
正常なCANメッセージまたは異常なCANメッセージの履歴に基づいて、前記CANメッセージに含まれる可能性がある、車両異常を示す前記異常判定データパターンを生成する生成手段と、
を備える通信処理装置。」

なお、本願発明2ないし5は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明1の構成をすべて含む。
また、本願発明6は、本願発明1を「通信処理方法」の発明として特定したものであり、本願発明7は、本願発明1を「通信処理プログラム」の発明として特定したものであり、本願発明8は、本願発明1を「通信処理システム」の発明として特定したものであり、本願発明6ないし8はいずれも、本願発明1に構成に対応する技術事項をすべて含むものである。

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1記載事項
原査定に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は、強調のため、当審が付した。これ以降においても同じ。)

「【0016】
いくつかの実施形態は、ユーザに論理ネットワークを特定することを可能にするシステムを提供する。この論理ネットワークは、1つ以上のミドルボックス(例えば、ファイヤウォール、ロードバランサ、ネットワークアドレス変換器、侵入検出システム(IDS)、ワイドエリアネットワーク(WAN)オプティマイザ等)を含んでいる。このシステムは、いくつかの管理スイッチング要素に渡って論理転送要素(例えば、論理スイッチ、論理ルータ等)を分散させることによって論理ネットワークを実現する。この管理スイッチング要素は、その論理ネットワークのホスト仮想マシーンでもあるいくつかの物理マシーン上で動作する。」

「【0057】
図7は、分散ソフトウェアミドルボックス要素とソフトウェアスイッチング要素との両方を含む、いくつかの実施形態のホストマシーン700のアーキテクチャ図を概念的に示している。分散ソフトウェアミドルボックス要素は、ネットワークアドレス変換要素、ファイヤウォール要素、ロードバランス処理要素、あるいは分散形式で実現される任意の他のミドルボックスであっても良い。
【0058】
この例では、ミドルボックス要素は、ホストマシーン上に3つのコンポーネントを含んでいて、これには、ホストマシーン700のユーザ空間で動作するミドルボックスデーモン790と、ホストマシーン700のカーネルで動作するミドルボックスカーネルモジュール795がある。この図は、説明の目的のために2つのコンポーネントとして分散ミドルボックス要素を示しているが、ミドルボックスデーモン790とミドルボックスカーネルモジュール795は、ホストマシーン700上で動作するミドルボックス要素を集約して形成している。ソフトウェアスイッチング要素(本例では、オープン仮想スイッチ(「OVS」))は3つのコンポーネントを含み、これには、ホストマシーン700のカーネルで動作するOVSカーネルモジュール745と、OVSデーモン765と、OVSデータベース(DB)デーモン767があり、後者の2つはホストマシーンのユーザ空間で動作する。
【0059】
図7に示されるように、ホスト700は、ハードウェア705、カーネル720、ユーザ空間721、及びVM785-795を含んでいる。ハードウェア705は、典型的なコンピュータハードウェアを含んでいて、これには、処理ユニット、揮発性メモリ(例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM))、不揮発性メモリ(例えば、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリ、光学ディスク等)、ネットワークアダプタ、ビデオアダプタ、あるいは、任意の他のタイプのコンピュータハードウェアがある。図示されるように、ハードウェア705は、NIC710と715を含み、これらは、いくつかの実施形態では、コンピュータデバイスをネットワークに接続するための典型的なネットワークインタフェースコントローラである。」

「【0064】
図示されるように、ホストマシーン700のユーザ空間721は、デーモン790、OVSデーモン765、及びOVS DBデーモン767を含んでいる。他のアプリケーション(不図示)もユーザ空間721に含まれていても良く、これには、追加の分散ミドルボックス(例えば、ファイヤウォール、ロードバランサ、ネットワークアドレス変換器等)用のデーモンが含まれる。OVSデーモン765は、ユーザ空間721で動作するアプリケーションである。いくつかの実施形態のOVSデーモン765は、以下で更に後述するように、仮想マシーン735及び738へ及びから送信されるパケットを処理し転送するための命令を受信するためにネットワークコントローラ780と通信する。いくつかの実施形態のOVSデーモン765は、オープンフロープロトコルを通じてネットワークコントローラ780と通信し、一方、他の実施形態では、物理制御プレーンデータを転送するための異なる通信プロトコルを使用する。加えて、いくつかの実施形態では、OVSデーモン765は、ネットワークコントローラ780がコンフィグレーション情報をOVS DBデーモンを送信した後に、OVS DBデーモン767からコンフィグレーション情報を取得する。
【0065】
…(省略)…
【0066】
OVSデーモン765は、オープンフロープロトコルモジュール770及びフロープロセッサ775を含んでいる。オープンフロープロトコルモジュール770は、ネットワークコントローラ780と通信して、ソフトウェアスイッチング要素を構成設定するためのコンフィグレーション情報(例えば、フローエントリ)をネットワークコントローラ780から受信する。モジュール770がネットワークコントローラ780からコンフィグレーション情報を受信する場合、これは、そのコンフィグレーション情報をフロープロセッサ775によって解釈可能な情報へ変換する。
【0067】
フロープロセッサ775は、パケットを処理し、ルーティングするためのルールを管理する。例えば、フロープロセッサ775は、オープンフロープロトコルモジュール770から受信されるルール群を(例えば、ディスクドライブのような記憶媒体に)記憶する。いくつかの実施形態では、ルールは、それぞれがフローエントリのセットを含むフローテーブルのセットとして記憶される。フロープロセッサ775は、マッチングルールを有さない統合ブリッジ750(後述する)に対するパケットを取り扱う。このような場合、フロープロセッサ775は、自身に記憶されているルールとパケットとの照合を行う。パケットがルールに合致する場合、フロープロセッサ775は、合致したルールとそのパケットを、統合ブリッジ750で処理するために、その統合ブリッジ750へ送信する。このようにして、統合ブリッジ750が生成されたルールと合致する同様のパケットを受信すると、パケットは、統合ブリッジ750内の生成された的確なマッチングルールと照合されることになるので、フロープロセッサ775はパケットを処理する必要がなくなる。
【0068】
いくつかの実施形態では、フロープロセッサ775は、パケットと合致するルールを有していない場合がある。このような場合、いくつかの実施形態のフロープロセッサ775は、エッジスイッチング要素で処理することができないパケットを取り扱うための別の管理スイッチング要素(例えば、プールノード)へ、そのパケットを送信する。しかしながら、他の場合、フロープロセッサ775は、ネットワークコントローラ780から、パケットと合致しないルールがフロープロセッサ775内に存在しない場合に、そのパケットを破棄するキャッチオール(catch all)ルールを受信することができる。」

「【図7】



(2)引用発明
前記(1)より、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 いくつかの管理スイッチング要素に渡って論理転送要素(例えば、論理スイッチ、論理ルータ等)を分散させる論理ネットワークにおけるミドルボックスであって、
ミドルボックス要素は、ホストマシーン上に3つのコンポーネントを含んでいて、これには、ホストマシーン700のカーネルで動作するOVSカーネルモジュール745と、OVSデーモン765と、OVSデータベース(DB)デーモン767があり、後者の2つはホストマシーンのユーザ空間で動作し、
OVSデーモン765は、送信されるパケットを処理し転送するための命令を受信するためにネットワークコントローラ780と通信し、いくつかの実施形態のOVSデーモン765は、オープンフロープロトコルを通じてネットワークコントローラ780と通信し、
OVSデーモン765は、オープンフロープロトコルモジュール770及びフロープロセッサ775を含み、
オープンフロープロトコルモジュール770は、ネットワークコントローラ780と通信して、ソフトウェアスイッチング要素を構成設定するためのコンフィグレーション情報(例えば、フローエントリ)をネットワークコントローラ780から受信し、フロープロセッサ775によって解釈可能な情報へ変換し、
フロープロセッサ775は、パケットを処理し、ルーティングするためのルールを管理し、例えば、フロープロセッサ775は、オープンフロープロトコルモジュール770から受信されるルール群を記憶し、ルールは、それぞれがフローエントリのセットを含むフローテーブルのセットとして記憶され、
フロープロセッサ775は、自身に記憶されているルールとパケットとの照合を行い、
パケットがルールに合致する場合、フロープロセッサ775は、合致したルールとそのパケットを、統合ブリッジ750で処理するために、その統合ブリッジ750へ送信し、
パケットと合致するルールを有していない場合、エッジスイッチング要素で処理することができないパケットを取り扱うための別の管理スイッチング要素(例えば、プールノード)へ、そのパケットを送信し、他の場合、そのパケットを破棄する
ミドルボックス。」

2 引用文献2及び3について
(1)引用文献2について
原査定に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、電子メール送信ホストの分類技術に係り、特に、様々なクラスの電子メール送信ホストに対して複数の有効な特徴を学習し、新たに観測した電子メール送信ホストを、その特徴に基づきスパマーホスト、ボットネット(botnet)、踏み台ホスト、通常ホストのような複数のクラスのいずれかに統計的に推定して分類する技術に関する。」

「【0054】
スパム判定部113は、メールを送信したホスト(メール送信ホスト20)とそのメッセージの分類結果(例えばスパムであるか否か、あるいはスパムである確率やスコア)を元にメール送信ホスト20の統計値(メッセージ送信履歴)をメール送信ホスト分類部12のメール送信ホストDB123に格納して管理する。
【0055】
ここで、メール送信ホストDB123は、図6に示すような二つのテーブル、すなわち統計テーブル1231と特徴テーブル1232から構成され、メール送信ホスト20に関する統計値は統計テーブル1231のカウント値を更新することによって管理される。図11は統計テーブルの例であり、図12は特徴テーブルの例である。
【0056】
メール送信ホスト分類部12は、上述したように、電子メール送信ホストの特徴をオンラインで学習するメール送信ホスト学習部121、メール送信を試みたメール送信ホストのクラスを推定するメール送信ホストクラス推定部122を具備している。」

(2)引用文献3について
原査定に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0016】
本発明の目的は、上述の問題に鑑み、異常警告データと制御データの受信タイミングに通信等による遅れが生じても、データの格納タイミングのずれによる不都合を解消する点にあり、さらには、故障解析のための手間を軽減することのできるネットワークシステム、記録装置、及び電子制御装置を提供する点にある。」

「【0020】
以下に、本発明によるネットワークシステムが車両の制御システム上に構築された例を説明する。」

「【0022】
つまり、前記ネットワークシステムは、図2に示すように、CANバス等でなる通信線2を介して相互にネットワーク接続された複数の電子制御装置(以下、「ECU」と記す。)3と、発生した故障を運転者に伝達する表示処理装置4と、各ECU3から送信された制御情報としての制御データ等を格納して管理する前記記録装置としての診断データ記録装置5を備えて構成されている。尚、通信線2としては、ECU3等の各装置間でデータの送受信が適正に行なわれるものであれば、CANの他、イーサネット(ゼロックス社の登録商標)やLIN(Local Interconnect Network)等で構成されていてもよい。」

「【0025】
各ECU3は、入出力インタフェース回路31を介してエンジン6Aや自動変速機6Bやブレーキ等、車両を構成する複数の機械ブロックでなる対象機器6に接続され、CPU34による制御プログラムの実行により、各対象機器6から入力されるセンサやスイッチの値に対応して各負荷に対する制御信号を出力して所定の動作を行なわせる制御部や、入力信号や出力信号さらには入力信号に基づく演算値から各対象機器6の異常を診断する診断部等の機能ブロックが構成される。」

「【0040】
さらに、各ECU3の診断部は、所定の故障診断アルゴリズムに基づいて制御データを評価することにより異常の有無を監視し、異常と診断すると対応する異常診断データ(DTC(Diagnosis trable code))を生成して、当該異常診断データに診断データ記録装置5から送信された絶対時間に基づいて計時された異常診断時の時刻情報(以下、異常診断時刻情報と記す。)を付加して、不揮発性メモリ32Cに格納する。」

「【0043】
尚、故障診断アルゴリズムについては詳述しないが、例えば入力されたセンサの値が想定される値に比べて大きく相違する状態が所定時間継続したときや、入力されるべきセンサの値が所定時間継続して入力されないような場合に異常と診断するものである。」

第6 原査定についての判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「論理ネットワーク」と本願発明1の「車載通信ネットワーク」とは、「通信ネットワーク」である点において共通する。

イ 引用発明において、「論理ネットワーク」に含まれる「ミドルボックス」は、そのコンポーネントである「OVSデーモン765」に含まれる「フロープロセッサ775」が、「オープンフロー」に従って「パケット」を処理する機能を備えるとともに、「ホストマシーン700」に実装されるコンポーネントであるから、「通信処理装置」といい得るものである。

ウ 前記ア及びイより、引用発明の「ミドルボックス」と、本願発明1の「車載通信ネットワークに含まれる通信処理装置」とは、「通信ネットワークに含まれる通信処理装置」である点において共通する。

エ 引用発明における「パケット」は、「ミドルボックス」が受信するものを含み、また、「メッセージ」ともいい得るものである。
引用発明において、「フロープロセッサ775」は、「ルール」と合致しない「パケット」を、「処理することができないパケット」として別の管理スイッチング要素に転送したり、又は、破棄したりするから、「ルール」は、当該「ミドルボックス」において処理可能な(正常な)データパターンを示すものであり、見方を換えれば、「ルール」は、受信した「パケット」に、異常を示すデータパターンが含まれているかを判定するための「異常判定データパターン」といい得るものである。
よって、引用発明の「ルール」と、本願発明1の「受信されたCAN(Controller Area Network)メッセージに車両異常を示すデータパターンが含まれているかを判定するための異常判定データパターン」とは、「受信されたメッセージに異常を示すデータパターンが含まれているかを判定するための異常判定データパターン」である点において共通する。

オ 引用発明は
「 オープンフロープロトコルモジュール770は、ネットワークコントローラ780と通信して、ソフトウェアスイッチング要素を構成設定するためのコンフィグレーション情報(例えば、フローエントリ)をネットワークコントローラ780から受信し、フロープロセッサ775によって解釈可能な情報へ変換し、
フロープロセッサ775は、パケットを処理し、ルーティングするためのルールを管理し、例えば、フロープロセッサ775は、オープンフロープロトコルモジュール770から受信されるルール群を記憶し、ルールは、それぞれがフローエントリのセットを含むフローテーブルのセットとして記憶され、」
との構成を備えることから、「オープンフロープロトコルモジュール770」は、「コンフィグレーション情報」を変換した、「フローエントリ」を構成する「ルール」を、「論理ネットワーク」(仮想ネットワーク)の要素である「ソフトウェアスイッチング要素」(仮想スイッチング手段)として機能する「フロープロセッサ775」に送信することにより、「フローテーブル」に「フローエントリ」として「ルール」を設定(記憶)する「設定手段」といい得るものである。
よって、前記エを参酌すれば、引用発明の「オープンフロープロトコルモジュール770」と、本願発明1の「受信されたCAN(Controller Area Network)メッセージに車両異常を示すデータパターンが含まれているかを判定するための異常判定データパターンを、仮想ネットワークの少なくとも1つの仮想スイッチ手段に設定する設定手段」とは、「受信されたメッセージに異常を示すデータパターンが含まれているかを判定するための異常判定データパターンを、仮想ネットワークの少なくとも1つの仮想スイッチ手段に設定する設定手段」である点において共通する。

カ 前記エ及びオより、「フロープロセッサ775」は、「データパターン判定手段」といい得るものである。
また、受信した「パケット」が「ルール」に合致するか否かの判定は、「パケット」と「ルール」のそれぞれの少なくとも一部の「データパターン」を比較することによりなされることは自明である。
よって、引用発明の「フロープロセッサ775」と、本願発明1の「CANメッセージに含まれる少なくとも一部のデータパターンと前記異常判定データパターンとをシフトしながら比較し、同じデータパターンを含むか否かを判定するデータパターン判定手段」とは、「メッセージに含まれる少なくとも一部のデータパターンと前記異常判定データパターンとを比較し、同じデータパターンを含むか否かを判定するデータパターン判定手段」である点において共通する。

キ 前記エより、引用発明は、「パケット」が「ルール」と合致しない場合に、当該「パケット」を異常と判断しているが、一方、本願発明1は、「CANメッセージ」の少なくとも一部のデータパターンが、「異常判定データパターン」を含む場合に異常時の処理を行うものであるが、引用発明における前記「合致しない場合」と、本願発明1における「含む場合」とは、「所定の場合」である点において共通する。
また、引用発明の「フロープロセッサ775」は、「異常時の処理」として、「パケット」を、別の管理スイッチング要素に転送したり、破棄したりする処理(スイッチング)を自身に対して制御する「制御手段」としても機能しているといえる。
以上より、引用発明の「フロープロセッサ775」と、本願発明1の「前記少なくとも一部のデータパターンと前記異常判定データパターンとが同じデータパターンを含む場合に、車両異常時の処理を行うため前記仮想スイッチ手段のスイッチングを制御する制御手段」とは、「前記少なくとも一部のデータパターンと前記異常判定データパターンとが所定の場合に、異常時の処理を行うため前記仮想スイッチ手段のスイッチングを制御する制御手段」である点において共通する。

(2)一致点、相違点
したがって、本願発明1と引用発明とは、次の点において一致ないし相違する。

[一致点]
「 通信ネットワークに含まれる通信処理装置であって、
受信されたメッセージに異常を示すデータパターンが含まれているかを判定するための異常判定データパターンを、仮想ネットワークの少なくとも1つの仮想スイッチ手段に設定する設定手段と、
メッセージに含まれる少なくとも一部のデータパターンと前記異常判定データパターンとを比較し、同じデータパターンを含むか否かを判定するデータパターン判定手段と、
前記少なくとも一部のデータパターンと前記異常判定データパターンとが所定の場合に、車両異常時の処理を行うため前記仮想スイッチ手段のスイッチングを制御する制御手段と、
を備える通信処理装置。」

[相違点]
<相違点1>
「ネットワーク」が、本願発明1は「車載通信ネットワーク」であるのに対し、引用発明は、「車載通信ネットワーク」に限定されていない点

<相違点2>
前記相違点1に関連して、「メッセージ」が、本願発明1は、「CAN(Controller Area Network)メッセージ」であるのに対し、引用発明の「パケット」は、「CAN(Controller Area Network)メッセージ」に限定されていない点。

<相違点3>
前記相違点1及び相違点2に関連して、判定の対象となる「異常を示すデータパターン」が、本願発明1は、「車両異常を示すデータパターン」であるのに対し、引用発明において、「車両異常」を示す「パケット」を判定するように限定していない点。
同様に、「異常時の処理」が、本願発明1は、「車両異常時の処理」であるのに対し、引用発明においては、「車両異常時の処理」に限定していない点。

<相違点4>
「データパターン判定手段」における比較が、本願発明1は、「シフトしながら比較」するのに対し、引用発明は、「パケット」と「ルール」が合致するか否かの判定にあたり、「シフトしながら比較」をすることについて具体的に特定していない点。

<相違点5>
「制御手段」が、本願発明1においては、「前記少なくとも一部のデータパターンと前記異常判定データパターンとが同じデータパターンを含む場合」に異常時の処理としての制御を行うのに対し、引用発明は、これとは逆に、「パケット」が「ルール」に合致しない場合に、異常時の処理を行う点。

<相違点6>
本願発明1は、「正常なCANメッセージまたは異常なCANメッセージの履歴に基づいて、前記CANメッセージに含まれる可能性がある、車両異常を示す前記異常判定データパターンを生成する生成手段」を備えるのに対し、引用発明は、当該「生成手段」を特定していない点。

(3)新規性についての判断
前記(2)に述べたように、本願発明1と引用発明の間には実質的な相違点が存在するから、本願発明1は、引用文献1に記載された発明ではない。

(4)進歩性についての判断
事案に鑑みて、上記相違点6について先に検討すると、相違点6に係る本願発明1の「正常なCANメッセージまたは異常なCANメッセージの履歴に基づいて、前記CANメッセージに含まれる可能性がある、車両異常を示す前記異常判定データパターンを生成する生成手段」という構成は、上記引用文献1ないし3には記載されておらず、本願出願時において周知技術であるともいえない。
なお、引用文献2は、メッセージ送信の履歴に基づいてメッセージを送信したホストを分類する技術に関するものであり、引用文献3は、CANバスにより複数のECUが接続された車載通信ネットワークにおいて、各ECUの診断部が、制御データ又はセンサの値と故障診断アルゴリズムに基づいて、車両を構成する対象機器の故障を診断する技術に関するものであるから、いずれも「異常判定データパターン」を生成するものではない。また、ネットワークの要素を仮想化する技術に関する引用発明に、引用文献3に係る、物理的な車載通信ネットワークに関する技術を適用する動機付けも存在しない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用文献1ないし3に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5も、上記相違点1ないし6に係る本願発明1の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、また、当業者であっても、引用文献1ないし3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明6ないし8について
本願発明6ないし8は、本願発明1の構成に対応する技術事項をすべて含むから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、また、当業者であっても、引用文献1ないし3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 小括
以上のとおりであるから、原査定の理由1(新規性欠如)及び理由2(進歩性欠如)はいずれも解消した。

第7 当審拒絶理由についての判断
本件補正前の請求項1及び7ないし9に記載されていた「前記異常判定データパターンは、前記CANメッセージに含まれる可能性がある、車両異常を示す時系列のビットパターン」は、本件補正により、本件補正後の請求項1、6ないし8に係る発明においては、「前記CANメッセージに含まれる可能性がある、車両異常を示す前記異常判定データパターン」に実質的に補正された結果、本件補正後の請求項1ないし8に係る発明は、明確となるとともに、発明の詳細な説明に記載したものとなった。
よって、当審拒絶理由はいずれも解消した。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-10-19 
出願番号 特願2016-69328(P2016-69328)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H04L)
P 1 8・ 121- WY (H04L)
P 1 8・ 113- WY (H04L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大石 博見  
特許庁審判長 稲葉 和生
特許庁審判官 小田 浩
林 毅
発明の名称 通信処理システム、通信処理装置、通信処理方法および通信処理プログラム  
代理人 加藤 卓士  

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