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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G16H
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G16H
管理番号 1379325
審判番号 不服2020-12218  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-01 
確定日 2021-11-09 
事件の表示 特願2016-138541「医療品管理システム、及び、医療品管理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月26日出願公開、特開2017- 21806、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)7月13日(優先権主張:2015年7月13日)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 元年11月 6日付け:拒絶理由通知
令和 2年 1月 9日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 6月 5日付け:拒絶査定
令和 2年 9月 1日 :審判請求書の提出
令和 3年 6月24日付け:拒絶理由通知
令和 3年 8月25日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の理由の概要
原査定(令和2年6月5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
この出願の請求項1-10に係る発明は、以下の引用文献A-Eに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
A.特開2013-149082号公報
B.新本 夏樹,図書館の効率的運用や盗難防止策に向けた書籍管理システム セルフォームを活用したUHF帯RFIDによる棚管理,月刊自動認識,日本,日本工業出版株式会社,2011年 6月10日,第24巻 第6号,35?38ページ
C.特開2014-96733号公報(周知技術を示す文献)
D.再公表特許第2013/080507号(周知技術を示す文献)
E.国際公開第2014/45486号(周知技術を示す文献)

第3 当審拒絶理由の概要
令和3年6月24日付け拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。
1 この出願の下記の請求項に係る発明は、以下の引用文献1-3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

請求項1-4、9、10について、引用文献1
請求項5-8について、引用文献1-3
引用文献等一覧
1.特開2014-96733号公報(引用文献C)
2.国際公開第2015/87464号(当審で新たに引用)
3.特開2010-92345号公報(当審で新たに引用)
2 この出願は、特許請求の範囲の請求項8-10の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明
本願請求項1-10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明10」という。)は、令和3年8月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲1-10に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

【請求項1】
医療現場における医療品が置かれる場所に設置される通信シートであって、前記通信シートの内部を伝達する電磁波が前記通信シートの表面から浸出することによって近接場が生じる通信シートと、
ノイズ発生源又は導電部材と前記通信シートとの間にスペースを確保するためのスペーサであって、前記通信シートの表面を覆うように前記通信シートと前記医療品との間に敷設されるスペーサと、
前記通信シートに前記電磁波を送信し、前記送信した電磁波によって生じた前記近接場を介して、前記医療品に付されたタグから前記医療品の管理情報を読み取る読取部と、
前記読取部による前記管理情報の読み取り結果に基づいて、所定処理を実行する実行部と、を備える、
医療品管理システム。
【請求項2】
前記通信シートは、少なくとも一方にメッシュ状の開孔が形成された2層のシート状導体を有し、前記通信シートの内部を伝達する電磁波が前記メッシュ状の開孔から浸出することによって、前記近接場が生じる、
請求項1に記載の医療品管理システム。
【請求項3】
前記スペーサは、高強度の樹脂と空気とを含んで構成され、前記スペーサ全体の体積に占める前記空気の体積の割合は、70%以上である、
請求項1又は2に記載の医療品管理システム。
【請求項4】
前記スペーサは、プラスチックを素材として形成されたダンボールシートであるプラスチックダンボールである、
請求項1から3の何れか1項に記載の医療品管理システム。
【請求項5】
前記医療品は、前記医療現場において消費される消耗品であり、
前記実行部は、前記読取部によって読み取られた前記管理情報に基づいて、前記医療品を補充すべきか否かを判定し、前記医療品を補充すべきであると判定した場合、前記医療品を発注先のサーバに発注する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の医療品管理システム。
【請求項6】
前記実行部は、前記読取部によって読み取られた前記管理情報に基づいて定められる前記医療品の在庫量が、予め定められた閾値を下回った場合に、前記医療品を補充すべきであると判定する、
請求項5に記載の医療品管理システム。
【請求項7】
前記医療品が使用されるスケジュールを記憶するスケジュール記憶部をさらに備え、
前記実行部は、前記読取部によって読み取られた前記管理情報に基づいて定められる前記医療品の在庫量と、前記スケジュール記憶部に記憶された前記スケジュールと、に基づいて、前記医療品を補充すべきか否かを判定する、
請求項5又は6に記載の医療品管理システム。
【請求項8】
前記通信シートは、前記医療現場における前記医療品が使用される場所に設置され、
前記医療品が使用されるスケジュールを記憶するスケジュール記憶部をさらに備え、
前記実行部は、前記スケジュール記憶部に記憶された前記スケジュールに定められた前記医療品が使用される時点において、前記読取部によって前記管理情報が前記通信シートを介して読み取られない場合に、警告を発する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の医療品管理システム。
【請求項9】
前記スペーサは、前記通信シートとは別体として形成されている、
請求項1から8のいずれか1項に記載の医療品管理システム。
【請求項10】
医療現場における医療品が置かれる場所に設置される通信シートであって、前記通信シートの内部を伝達する電磁波が前記通信シートの表面から浸出することによって近接場が生じる通信シートと前記医療品との間に、ノイズ発生源又は導電部材と前記通信シートとの間にスペースを確保するためのスペーサを敷設し、
読取装置が、前記通信シートに前記電磁波を送信し、前記送信した電磁波によって生じた前記近接場を介して、前記医療品に付されたタグから前記医療品の管理情報を読み取り、
処理装置が、前記管理情報の読み取り結果に基づいて、所定処理を実行する、
医療品管理方法。

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1の記載事項と引用発明1
当審拒絶理由に引用された引用文献1(特開2014-96733号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下、同様。)。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を伝達することによって通信を行う通信シートに関するものである。さらに詳しくは、二次元的な広がりを持つ電磁波伝達シートであって、情報通信機器がその表面に接触もしくは近接することで、当該通信機器との間で通信を行ったり、複数の情報通信機器がその表面に接触もしくは近接している場合に、これら複数の情報通信機器間の通信を中継するのに最適な、RFID(Radio Frequency IDentification)システムに用いる電磁波伝達シートおよびこれを用いた情報管理システムに関するものである。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ICタグと組み合わせて使用し、安定な読取性を示し、既存の棚にも簡単に導入・設置することができる電磁波伝達シートおよびこれを用いた情報管理システムを提供することにある。」

「【0016】
図1に示したように、本発明のRFIDシステムに用いる電磁波伝達シート(以下、シート構造体と称することがある)10は、少なくとも下記の導電体A層11、基材層12、導電体B層13の3層を順に積層してなる。かかる3層構成により、シート構造体の内部に電磁エネルギーを閉じ込めてそれを通信に利用することができる。
【0017】
導電体A層11: 連続する導電部A14と非導電部A15が存在し、導電部Aの電気抵抗値が1Ω/□以下であることが好ましく、これにより、良好な通信状態を保つことができる。導電体A層11の導電部A14の電気抵抗値が1Ω/□を超える場合、シート構造体内において電磁エネルギーを伝達、内在させることが困難となり、2次元での通信が不十分となる。
【0018】
導電体A層11に上記のような導電性能を付与するには、導電部A14を構成する導電体Aに導電性を有する素材を使用すれば良い。そのような素材の好適な例として、銅、銀、アルミニウム、ステンレス、ニッケルなどの金属を含むもの等が挙げられる。導電部A14の電気抵抗値は0.001Ω/□から0.5Ω/□であることが好ましい。
【0019】
導電体A層11の導電部A14の形状は特に限定されないが、電磁波伝達シート10の製造時の加工性を考慮し、格子状や蜂の巣状(ハニカム構造)であることが好ましい。その中でも、格子状であり、格子線幅が0.5mmから1.5mm、格子線間隔が5mmから10mmであることが特に好ましい。
【0020】
また、導電体A層11の導電部A14の厚さは、電磁波伝達シートを伝達する電磁波の周波数に対応する導電体の表皮深さよりも厚いことが好ましく、これにより電磁波を通信シート構造体内に閉じ込めやすくなる。導電体A層11の導電部A14の厚さは、好ましくは0.0001μmから50μmであり、より好ましくは1μmから25μmである。」

「【0031】
本発明においては、図2に示したように、電磁波伝達シート20の耐久性を向上させるため、導電体A層21及び基材22を保護層A26によって覆い、かつ/または、導電体B層23を保護層B27によって覆うことが好ましい。
【0032】
保護層AまたはBは、樹脂、シート、フィルムであってもよい。PETやPENなどのポリエステルフィルム、PEやPPなどのポリオレフィンフィルム、ポリイミドフィルム、エチレン-ビニルアルコールフィルムなどのフィルムや、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂などの樹脂が含まれる。
【0033】
また、保護層A26または保護層B27は、織物、編物、不織布等の繊維構造体であってよい。該繊維の構成する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)などのポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などの脂肪族ポリアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンテレフタルアミドなどの芳香族ポリアミド、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)を例示することができる。」

「【0037】
本発明においては、図3に示したように、導電体A層31の上に、上記保護層Aの代わりに、基材層32よりも高い比誘電率を有し、誘電正接が0.001以下である高誘電率層38が積層されていることが好ましい。高誘電率層38が積層されていることによって、非導電部A35から漏出する電磁波の強度を増大させ、RFID用ICタグからの情報の読み取り性能を著しく向上できることがわかった。基材層32と高誘電率層38との比誘電率の差は可能な限り大きいことがよく、特に0.2以上が好ましく、更には1.0以上がより好ましい。
【0038】
高誘電率層38の比誘電率としては、上記要件を満たし、好ましくは2.0?10.0であり、より好ましくは5.0?10.0である。比誘電率が2.0未満では、基材の比誘電率との差が十分でなく読み取り性能が低下する傾向にある。一方、比誘電率は大きいほど好ましいが、誘電正接を充分に小さくする必要があるため、比誘電率が10.0を超えないものを選定したほうがよい。
【0039】
また、高誘電率層38の厚さは、1.0?5.0mmが好ましく、1.0?3.0mmがより好ましい。厚さが、1.0mm未満では、読取性能を向上させる効果が充分に現れず、5.0mmを超えるとシート構造体30の厚さが大きくなりすぎ、取り扱い性が悪くなる。
【0040】
上記高誘電率層38としては、織物、編物、不織布、樹脂、シート、フィルムが挙げられ、中でも樹脂、シート、フィルムが好ましく、シートは発泡体であってもよい。
【0041】
上記の樹脂、シート、フィルムを構成するポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PSt)などのポリオレフィン、ポリイミド、エチレン-ビニルアルコール、アクリル、ウレタンなどを例示することができる。」

「【0043】
また、本発明においては、図4に示したように、導電体A層41と高誘電率層48との間に、厚さが0.02?0.3mmの保護層A46を有していてもよい。これにより、たとえば、本発明の電磁波伝達シート40を成形する際、基材42に直接、導電体A層41をラミネート等するのではなく、保護層A46となるフィルムやシートに導電体A層41をラミネートしておき、導電体A層41の一部をエッチング等して除去し、格子状などに加工し、その後、その保護層A46を基材42に対して、導電体A44が基材42側になるように積層して公知の方法で接合するといったことが可能となり、成形がしやすくなる。よって、かかる点から、保護層A46の厚さは薄い方が好ましいため0.3mm以下とするのがよく、あまり薄すぎても取り扱い性が悪くなるため0.03mm以上とすることが望ましい。
【0044】
この場合、上記保護層A46は、樹脂、シート、フィルムが好ましく、これを構成するポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PSt)などのポリオレフィン、ポリイミド、エチレン-ビニルアルコール、アクリル、ウレタンなどを例示することができる。
【0045】
本発明の電磁波伝達シートは、上述した積層構造を有するものである。すなわち、メッシュ状の電極を平面上(導電体A層)に有し、メッシュ状の電極に電圧を印加することにより電磁波の伝送路を形成させることで電磁波を伝達する。図5は、本発明の電磁波伝達シートのメッシュ状の電極の一例を説明する斜視図である。電磁波伝達シート70の寸法の一例を挙げると、電磁波の進行方向に沿う寸法Lは例えば400mmであり、この進行方向に直交する幅方向に沿う寸法Wは例えば110mmであり、電磁波伝達シート70の厚さhは例えば2mmである。メッシュが正方格子状である場合、メッシュ状の電極81の格子1線あたりの線幅は例えば0.5mmであり、電極の線間隔(すなわち格子の間隔)は例えば7mmである。」

「【0062】
本発明の電磁波伝達シートは、上述のような構成を有することにより、幅方向で電磁波を効率よく共振させることができ、高効率かつ低損失な電磁波の伝達を行うことが可能となり、格子状の導電体A層から漏出する電磁波の強度が全体として増大する。このようなシート構造体は、格子状の導電体A層から漏出する電磁波の強度が増大するため、RFIDに用いる電磁波伝達シートとして用いることができ、すなわち、電磁波伝達シート上に設置されたRFID用ICタグと通信させることが可能である。
【0063】
本発明の電磁波伝達シートの形状は、伝達する電磁波の進行方向に長辺を有し、上記幅方向に短辺を有する帯状であることが好ましい。この場合、入力インターフェースおよびインピーダンス可変手段は、互いに対向する上記短辺にそれぞれ設けられる。
【0064】
本発明の情報管理システムは、前記入出力インターフェースに送受信部が接続されて通信電波を伝達する前記電磁波伝達シートと、RFID用ICタグとを備えるシステムである。一般に、RFID用ICタグとの間でデータの読み出しおよび書き込みを行うリーダライタは、アンテナと、このアンテナを介して信号を送受信する送受信部とを備える。本発明による電磁波伝達シートは、このリーダライタにおけるアンテナの機能を有する。すなわち本発明では、リーダライタ内の送受信部が、電磁波伝達シートを介してRFID用ICタグに向けて電磁波を発し、RFID用ICタグは電磁波を受けてその内部で所定の信号を発生させ、リーダライタ内の送受信部は電磁波伝達シートを介して信号を受信する。電磁波伝達シートを介して送受信部はRFID用ICタグとの間で通信電波を送受信することができる。
【0065】
図9は、本発明の情報管理システムを示す概略図である。本発明による情報管理システム100は、管理対象である物品131-1、131-2、131-3および131-4に関する情報を格納するRFID用ICタグ112-1、112-2、112-3および112-4と、電磁波伝達シート111と、電磁波伝達シート111へ向けて電磁波を送信し、電磁波伝達シート111を介してRFID用ICタグ112-1、112-2、112-3および112-4から信号を受信する送受信部113と、を備える。電磁波伝達シート111と送受信部113とでいわゆるリーダライタの機能を構成する。なお、図10に示す例では、管理対象である物品の個数を4個としたが、この個数はあくまでも一例であり、その他の個数であっても良い。また、RFID用ICタグは管理対象である物品に付されるものであるので、個数に応じて、RFID用ICタグの個数も変わる。
【0066】
また、情報管理システム100は、送受信部13が受信した信号に基づき管理対象である物品131-1、131-2、131-3および131-4に関する情報を読み取り、予め登録された管理情報と読み取った物品に関する情報とに基づいて、当該物品についての状況をデータベース管理する管理装置114をさらに備える。送受信部113は、入出力インターフェース121を介して電磁波伝達シート111に接続されるとともに、管理装置114に対してはケーブルを介して接続される。管理装置114は、専用のコンピュータ、汎用のコンピュータなどで構成される。管理装置114は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ディスプレイ部、入力部などを備える。またあるいは、管理装置114を既存の各種電子機器に組み込んで構成しても良い。」

「【0079】
図15は、図12および13に示す図書管理システムの動作フローの一例を示すフローチャートである。
【0080】
ステップS1001において、送受信部113は、電磁波伝達シート111-1?111-8へ向けて電磁波を送信し、RFID用ICタグが取り付けられた書籍131が配置された電磁波伝達シートを介して当該RFID用ICタグから管理情報を読み取る。ステップS1001における送受信部113による電磁波の送信および管理情報の読み取りは、例えば1秒の周期で繰り返し実行される。送受信部113により読み取られた情報は、管理装置114へ送られる。
【0081】
次いでステップS1002おいて、管理装置114は、送受信部113から受信した情報に基づき、紙媒体もしくは電子媒体が棚に存在するか否かを判定する。この「紙媒体もしくは電子媒体の存在の有無」の判定基準は、電磁波伝達シートに送信する電磁波の強さ(電流)によって調整できるが、例えば電磁波伝達シートとの距離から20cm以内の距離にRFID用ICタグが存在するか否かを判定する。
【0082】
ステップ1002において紙媒体もしくは電子媒体が棚に存在すると判定された場合、ステップS1006へ進む。ステップS1006では、管理装置114内の記憶装置(図示せず)に、媒体が存在するとの情報が継続して記録され、管理装置内114内のディスプレイ部(図示せず)に「未貸出」を表示する。ステップS1006の処理後、ステップS1001へ戻る。
【0083】
ステップ1002において紙媒体もしくは電子媒体が棚に存在しないと判定された場合、ステップS1003へ進む。ステップS1003では、管理装置114内の記憶装置(図示せず)に、媒体が存在しないとの情報が記録され、管理装置内114内のディスプレイ部(図示せず)に「貸出中」を表示し、ステップS1004へ進む。
【0084】
ステップS1004では、送受信部113は、電磁波伝達シート111-1?111-8へ向けて電磁波を送信し、RFID用ICタグが取り付けられた書籍131が配置された電磁波伝達シートを介して当該RFID用ICタグから管理情報を読み取る。ステップS1004における送受信部113による電磁波の送信および管理情報の読み取りは、例えば1秒の周期で繰り返し実行される。送受信部113により読み取られた情報は、管理装置114へ送られる。
【0085】
次いでステップS1005おいて、管理装置114は、送受信部113から受信した情報に基づき、紙媒体もしくは電子媒体が棚に戻ったか否かを判定する。
【0086】
ステップ1005において紙媒体もしくは電子媒体が棚に戻ったと判定された場合、ステップS1006へ進む。ステップS1006では、管理装置114内の記憶装置(図示せず)に、媒体が存在するとの情報が記録され、管理装置内114内のディスプレイ部(図示せず)に「未貸出」を表示する。その後、ステップS1001へ戻る。この「紙媒体もしくは電子媒体が棚に戻ったか否か」の判定基準は、ステップS1002の処理同様、電磁波伝達シートに送信する電磁波の強さ(電流)によって調整でき、例えば電磁波伝達シートとの距離から20cm以内の距離にRFID用ICタグが存在するか否かを判定する。
【0087】
ステップ1005において紙媒体もしくは電子媒体が棚にまだ戻っていないと判定された場合、ステップS1003へ戻る。
【0088】
なお、管理装置114のさらに上位に、ホストコンピュータ115を接続した場合には、ステップS1007において、管理対象である書籍131の貸出状況、返却状況、利用頻度、利用管理を集約、管理する。
【0089】
本発明の情報管理システムは、上述の図書管理システム以外にも同様に適用することができる。
(中略)
【0092】
また例えば、本発明の情報管理システムを事業所における物品情報管理システムに適用した場合、管理対象となる物品は、事業所で利用もしくは処理される物品である。RFID用ICタグは、物品の形状、利用態様、処理態様、輸送体系、あるいは保管方法などを考慮して取付け位置を適宜決めれば良い。物品情報管理システムにおいて物品に取り付けられるRFID用ICタグには、当該物品に固有の識別情報、保管場所に関する情報、所有者、および部課名に関する情報などが記憶される。これら情報は必要に応じて1つもしくは複数記憶されれば良い。電磁波伝達シートは、物品が保管される棚や倉庫、物品が処理される作業台の面上などに設置すれば良い。管理装置は、電磁波伝達シートを介して送受信部が受信した信号に基づき管理対象である物品に付されたRFID用ICタグに記憶された情報を読み取り、この読み取った物品に関する情報を、管理装置に予め登録された管理情報と照会して、当該商品(当審注:「物品」の誤記)についての状況をデータベース管理する。データベース管理する情報としては、物品の識別情報、所有者、部課名、存在場所、利用頻度、利用時間、および利用者などに関する各種情報があり、物品の識別情報を中心として紐付けされて管理装置に登録される。なお、管理装置のさらに上位に、ホストコンピュータを接続しても良く、例えば、各支店に設置された複数の管理装置を本社に設置されたホストコンピュータを用いて一元的に管理する販売ネットワークシステムを構築しても良い。このような「事業所における物品情報管理システム」のより詳細な具体例としては、オフィス内における書類管理、生産工程における製品管理、研究施設における薬品もしくは試料の管理、製造ラインや工事現場における工具もしくは資材の管理、医療現場における各種道具、薬品、検体、医師もしくは看護士などの管理、タクシーやバス業者における車庫における車両管理、倉庫業者における物品管理などがある。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のRFIDシステムに用いる電磁波伝達シートは、周波数が800MHzから10GHzの周波数帯で、既存の棚に簡単に導入・設置することができ、図書館における蔵書管理をはじめ、オフィス内における書類管理、販売店舗における商品管理、研究施設における薬品もしくは試料の管理、物流管理、生産工程における製品管理、製造ラインや工事現場における工具もしくは資材の管理、医療現場における各種道具、薬品、検体、医師もしくは看護士などの管理、タクシーやバス業者における車庫における車両管理、倉庫業者における物品管理などの物品管理に利用できる。」

以上の事項からみて、引用文献1には、次の事項が記載されていると認められる。

(1)電磁波伝達シートは、周波数が800MHzから10GHzの周波数帯で、既存の棚に簡単に導入・設置することができ、医療現場における薬品、検体などの管理などの物品管理に利用でき(【0093】)、情報管理システムを事業所における物品情報管理システムに適用した場合、管理対象となる物品は医療現場における薬品、検体などであり、電磁波伝達シートは、物品が保管される棚の面上などに設置すれば良く、管理装置は、電磁波伝達シートを介して送受信部が受信した信号に基づき管理対象である物品に付されたRFID用ICタグに記憶された情報を読み取り、この読み取った物品に関する情報を、管理装置に予め登録された管理情報と照会して、当該物品についての状況をデータベース管理する(【0092】)ことができるものである。

(2)【0016】-【0030】は導電体A層、基材層及び導電体B層の3層構成の電磁波伝達シートに係る記載であり、【0031】-【0036】は保護層A、導電体A層、基材層及び導電体B層の4層構成の電磁波伝達シートに係る記載であり、【0037】-【0042】は高誘電率層、導電体A層、基材層及び導電体B層の4層構成の電磁波伝達シートに係る記載であり、【0043】-【0044】は高誘電率層、保護層A、導電体A層、基材層及び導電体B層の5層構成の電磁波伝達シートに係る記載であるところ、5層構成の電磁波伝達シートの導電体層Aは【0016】-【0030】に開示された3層構成の電磁波伝達シートの導電体A層と同様なものであり、5層構成の電磁波伝達シートの高誘電率層は【0037】-【0042】に開示された3層構成の電磁波伝達シートの高誘電率層と同様なものであるといえる。
そうすると、5層構成の電磁波伝達シートは、高誘電率層、保護層A、導電体A層、基材層及び導電体B層が順に積層してなり(【0043】)、導電体A層は、格子状や蜂の巣状(ハニカム構造)で導電性能が付与され(【0017】-【0020】)、高誘電率層は、その厚みは1.0?5.0mmが好ましく、樹脂、シート、フィルムが好ましく、シートは発泡体であってもよく、樹脂、シート、フィルムを構成するポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PSt)などのポリオレフィン、ポリイミド、エチレン-ビニルアルコール、アクリル、ウレタンなどである(【0039】-【0041】)。

(3)電磁波伝達シートの高誘電率層は、導電体A層の非導電部から漏出する電磁波の強度を増大させる機能を奏する(【0037】)。

(4)電磁波伝達シートは、高効率かつ低損失な電磁波の伝達を行うことが可能となり、格子状の導電体A層から電磁波を漏出することで、電磁波伝達シート上に設置されたRFID用ICタグと通信させることが可能である(【0062】)。

(5)情報管理システムは、管理対象である物品に関する情報を格納するRFID用ICタグと、電磁波伝達シートと、電磁波伝達シートへ向けて電磁波を送信し、電磁波伝達シートを介してRFID用ICタグから信号を受信するリーダライタの送受信部とを備える(【0065】)。

(6)情報管理システムは、送受信部が受信した信号に基づき管理対象である物品に関する情報を読み取り、予め登録された管理情報と読み取った物品に関する情報とに基づいて、当該物品についての状況をデータベース管理する管理装置をさらに備える(【0066】)。

上記(1)-(6)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「周波数が800MHzから10GHzの周波数帯で、既存の棚に簡単に導入・設置することができ、医療現場における薬品、検体などの管理などの物品管理に利用できる電磁波伝達シートであって、高効率かつ低損失な電磁波の伝達を行うことが可能となり、格子状の導電体A層から電磁波を漏出することで、電磁波伝達シート上に設置されたRFID用ICタグと通信させることが可能であり、高誘電率層、保護層A、導電体A層、基材層及び導電体B層が順に積層してなり、導電体A層は、格子状や蜂の巣状(ハニカム構造)で導電性能が付与され、高誘電率層は、その厚みは1.0?5.0mmが好ましく、樹脂、シート、フィルムが好ましく、シートは発泡体であってもよく、樹脂、シート、フィルムを構成するポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PSt)などのポリオレフィン、ポリイミド、エチレン-ビニルアルコール、アクリル、ウレタンなどであり、導電体A層の非導電部から漏出する電磁波の強度を増大させる機能を奏する5層構成の電磁波伝達シートと、
電磁波伝達シートへ向けて電磁波を送信し、電磁波伝達シートを介してRFID用ICタグから信号を受信するリーダライタの送受信部と、
送受信部が受信した信号に基づき管理対象である物品に関する情報を読み取り、予め登録された管理情報と読み取った物品に関する情報とに基づいて、当該物品についての状況をデータベース管理する管理装置と、を備える
情報管理システム。」

2 引用文献2の記載事項
当審拒絶理由に引用された引用文献2(国際公開第2015/87464号)には、以下の記載がある。

「[0145] 図21は、第1実施形態に係るワクチンスケジュール装置1の処理を示すフローチャートであって、ワクチンを発注する処理を示している。
[0146] 図21に示すように、まず算出部15は、図5に示す指定医療機関の情報に基づいて、自己の医療機関で予防接種を受ける予定の予防接種対象者の全てについて、本スケジュールを読み込む(S91)。次いで、算出部15は、読み込んだ全ての本スケジュールから、所定期間先までに必要となるワクチンの名称及びその必要数を算出する(S92)。
[0147] 次いで、対比発注部16は、ステップS92において算出された所定期間先までに必要となるワクチンの名称及びその必要数と在庫とを対比させ(S93)、不足分を算出する(S13)。不足分は、ワクチンの名称毎に算出されることはいうまでもない。また、不足分は、上記したように、所定期間内に投与するワクチン数-在庫のワクチン数であってもよいし、所定期間内に投与するワクチン数+α-在庫のワクチン数であってもよい。
[0148] その後、対比発注部16は、通信I/F部30を通じて、ステップS13にて算出した不足分を発注する(S14)。その後、図10に示す処理は終了する。」

これらの記載によると、引用文献2には、
「予防接種のスケジュールから、所定期間先までに必要となるワクチンの必要数を算出し、算出された所定期間先までに必要となるワクチンの必要数と在庫とを対比して不足分を算出し、算出した不足分を発注すること」
が記載されている。

3 引用文献3の記載事項
当審拒絶理由に引用された引用文献3(特開2010-92345号公報)には、以下の記載がある。

「【請求項1】
被検者に実施する医療検査の検査オーダーに対して、該医療検査で必要な医療器材を在庫状態と照合して不足品情報を出力する医療器材の在庫管理システムであって、
情報入力手段と、
該情報入力手段から入力される前記医療検査の検査種別および実施予定日の情報を含む検査オーダー情報、前記医療検査の検査種別毎にそれぞれ必要とされる医療器材の種類およびその使用数量の情報を含む必要検査器材情報、複数種の前記医療器材それぞれの在庫量を表す在庫量情報のそれぞれ記憶する情報記憶手段と、
前記検査オーダー情報からこれから実施予定の医療検査に必要な医療器材の種類および使用数量について前記必要検査器材情報を参照して求め、この求めた医療器材の種類および使用数量を前記在庫量情報に照合して、任意に設定される所定日に不足品の発生が予測される不足医療器材の種類と数量を求める不足品特定手段と、
前記不足品特定手段により特定された情報を出力する出力手段と、
を備えた医療器材の在庫管理システム。」

「【請求項3】
請求項1または請求項2記載の医療器材の在庫管理システムであって、
前記不足品特定手段により特定された不足医療器材を供給業者に発注する発注処理手段を備え、
前記情報記憶手段が、前記不足医療器材を発注する場合のそれぞれの医療器材に対するリードタイムを複数の前記供給業者毎に表したリードタイム情報を記憶し、
前記発注処理手段は、前記不足品特定手段が特定する前記所定日に必要となる不足医療器材を、前記リードタイム情報を参照して前記所定日までのリードタイムを満足する供給業者に発注する医療器材の在庫管理システム。」

これらの記載によると、引用文献3には、
「検査オーダー情報からこれから実施予定の医療検査に必要な医療器材の種類および使用数量について必要検査器材情報を参照して求め、この求めた医療器材の種類および使用数量を在庫量情報に照合して、任意に設定される所定日に不足品の発生が予測される不足医療器材の種類と数量を求め、特定された不足医療器材を供給業者に発注すること」
が記載されている。

4 引用文献Aの記載事項と引用発明A
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献A(特開2013-149082号公報)には、次のとおりの記載がある。

「【0001】
本発明の実施形態は、医療品管理装置、医療品管理システム及び制御プログラムに関する。」

「【0006】
次に図面を参照して、実施形態について詳細に説明する。
[1]第1実施形態
図1は、実施形態の医療品管理システムの概要構成ブロック図である。
医療品管理システム10は、大別すると、電子カルテ(データベース)を管理する電子カルテ管理サーバ11と、医師等が電子カルテに対する入力、読出操作を行うための複数の情報端末装置12と、患者の腕等に装着されるとともに、患者のID等の患者を特定するための情報がコードシンボル化されて表示された患者用タグ13と、看護師等がそれぞれ携帯し、患者を特定するための患者IDを含む各種情報の入力や患者に対して用いるべき医療品の確認を行うための情報を提示する複数のハンディターミナル14と、ハンディターミナル14を無線通信ネットワーク15及び通信ネットワーク16を介して電子カルテ管理サーバ11に接続するために病院内に配置された複数のアクセスポイント17と、診療室、治療室あるいは手術室等の医療品を用いる部屋(搬入エリアAR)の入口に設けられ、当該部屋内(搬入エリアAR内)に搬入される医療品を特定するとともに、当該部屋に搬入すべき医療品に関する情報を提示するゲート装置18と、を備えている。
【0007】
ここで、ゲート装置18は、医療品管理装置を構成しており、搬入エリアAR内に搬入される医療品MGの適否等の情報を提示する。
本願において、医療品とは、薬事法に規定する医薬品、医薬部外品、輸血用の血液、手術に用いられる手術用具、包帯などの衛生用品、医療機器等の医療に用いられる各種物品を含む概念である。
【0008】
電子カルテ管理サーバ11は、図示しないMPU、ROM、RAM、電子カルテデータベース(DB)を格納した外部記憶装置及び通信インタフェースを含む情報処理装置(ワークステーション、コンピュータ)として構成されている。
【0009】
情報端末装置12は、図示しないMPU、ROM、RAM、外部記憶装置及び通信インタフェースを含む情報処理装置(ワークステーション、コンピュータ)として構成された情報端末装置本体と、各種情報を表示するディスプレイと、各種操作を行う操作端末と、各種情報の印刷出力を行うプリンタと、を備えている。
通信ネットワーク16としては、インターネット等の公衆通信ネットワークの他、構内LAN等で構成されていてもよい。あるいはインターネットと構内LANとの組み合わせのように複数の通信ネットワークが組み合わせられて構築されていてもよい。」

「【0013】
次にゲート装置18の概要構成について説明する。
図3は、ゲート装置の概要構成図である。
図4は、ゲート装置の外観図である。
ゲート装置18の装置本体18A内には、ゲート装置18全体を制御するコントローラ51と、コントローラ51の制御下で各種情報を表示するディスプレイ52と、医療品MGに予め設けられたICタグ(RFIDタグ)TGから当該医療品を特定するための情報を読み出すICタグリーダ53と、アクセスポイント17との間、あるいは、ハンディターミナル14との間、の無線通信インタフェース動作を行う無線通信インタフェース部(IF)54と、コントローラ51とディスプレイ52、ICタグリーダ53及び無線通信インタフェース部54とを接続する入出力インタフェース部(I/O)55と、備えている。
【0014】
上記構成において、コントローラ51は、図示しないMPU、ROM、RAM、外部記憶装置を含む情報処理装置(コンピュータ)として構成されており、MPUはROMに格納された制御プログラムにしたがって、RAMをワークエリアとして用いつつ、フラッシュROM等で構成された外部記憶装置にバックアップが必要なデータ等を格納して処理を行う。
【0015】
また、装置本体18Aの下部には、脚部18Bが設けられ、部屋等の搬入エリアARの入口に自立設置可能となっている。さらに装置本体18Aの上部には、無線通信インタフェース部54が接続されている外部アンテナ54Aが設けられている。
【0016】
次に第1実施形態の動作を説明する。
図5は、第1実施形態の処理タイミングチャートである。
まず医師が情報端末装置12を介して、所望の治療・診療内容に対応する指示(手術指示、処置指示、検査指示等)に対応する指示データを、患者を特定するための患者IDに対応づけて電子カルテ管理サーバ11の電子カルテデータベースに登録する(ステップS11)。
【0017】
これにより電子カルテ管理サーバ11は、指示データを患者IDに対応づけて登録することとなる。
ここで、指示データとしては、例えば、手術を行う場合には、手術に用いられる医薬品、縫合糸、ガーゼ等に代表される医療用品等の医療品の種類、医療品の数量、手術に用いる医療機器の種類等が含まれている。
【0018】
続いて電子カルテ管理サーバ11は、電子カルテデータベースに登録されている指示データの内、ハンディターミナル14あるいはゲート装置18にデータ配信対象のデータが存在するか否かを判別する(ステップS12)。
ステップS12の判別において、電子カルテデータベースに登録されている指示データのうち、ハンディターミナル14あるいはゲート装置18にデータ配信すべき指示データが存在しない場合には(ステップS12;No)、待機状態となる。
【0019】
ステップS12の判別において、電子カルテデータベースに登録されているデータのうち、ハンディターミナル14あるいはゲート装置18にデータ配信すべきデータが存在する場合には(ステップS12;Yes)、電子カルテ管理サーバ11は、通信ネットワーク16及びアクセスポイント17を介してハンディターミナル14あるいはゲート装置18に新規データ(リスト)の配信を行う(ステップS13)。なお、ハンディターミナル14に配信した場合の表示画面については、図8を参照。
【0020】
この結果、ゲート装置18は、当該ゲート装置18が対応する搬入エリアARへ搬入予定の医療品のリストを受信することとなる(ステップS14)。
リストを受信したゲート装置18は、自己が対応する搬入エリアARに進入するICタグTGが検出されたか否か、すなわち、ICタグTGが付加された医療品MGが自己が対応する搬入エリアAR内に搬入されたか否かを判別する(ステップS15)。
【0021】
ステップS15の判別において、ゲート装置18は、自己が対応する搬入エリアARにRFIDが付加された医療品が搬入されていない場合には(ステップS15;No)、待機状態となる。
ステップS15の判別において、ゲート装置18は、自己が対応する搬入エリアAR内にICタグTGが付加された医療品MGが搬入された場合には(ステップS15;Yes)、ステップS14で受信したリストと比較する(ステップS16)。
続いてゲート装置18は、搬入された医療品がリストに含まれている医療品であるか否かを判別する(ステップS17)。
【0022】
ステップS17の判別において、搬入エリアAR内に搬入された医療品がリストに含まれている医療品である場合には(ステップS17;Yes)、処理を再びステップS15に移行して同様の処理を行う。
ステップS17の判別において、搬入エリアAR内に搬入された医療品がリストに含まれている医療品ではない場合には(ステップS17;No)、当該医療品を特定するための情報(医療品名、型番等)を表示するとともに、搬入予定にない医療品が搬入されている旨の警告画面をディスプレイ52の表示画面に表示して、搬入作業者に告知する(ステップS18)。
【0023】
図6は、ゲート装置における表示例の説明図である。
ゲート装置18のディスプレイ52の表示画面52Aには、図6に示すように、患者の氏名、性別、医療処置内容(図6の場合、「循環器科:手術」)、手術予定日時、医療品名及び搬入予定数量が表示される。さらに必要に応じて、搬入予定数量に対する未搬入数量を表示するようにしてもよい。
ここで、搬入予定にない(リストにない)医療品が搬入された場合には、当該医療品を特定する情報とともに、警告が表示される。
【0024】
図7は、ゲート装置のディスプレイの表示画面における警告画面の表示例の一例を示す図である。
図7は、指示データにより指示された搬入予定の輸血用血液の血液型がA型Rh-であった場合に、A型Rh+の輸血用血液が搬入された場合の表示例である。
図7に示すように、ディスプレイ52の表示画面52Aには、警告画面として、搬入する際にICタグTGにより特定され、かつ、搬入予定(リスト)にないA型Rh+の輸血用血液が搬入された旨の注意喚起を行うためのメッセージMSGを表示している。
【0025】
この結果、搬入作業者は、当該搬入エリアに搬入すべきではない(あるいは搬入することが好ましくない)医療品が含まれていることを容易に知ることができ、搬入時点で警告がなされるため、誤って患者に用いられることもない。
この場合において、医療品の種類ばかりでなく、必要に応じて、型番や搬入する数量についても、不足数、過剰数を含めて表示することにより、不足分の迅速な補充等、容易に対応が可能となる。
【0026】
また警告表示の他の態様としては、搬入予定にない医療品(本例では輸血用血液)の表示が点滅表示されたり、色が変更されたり、枠で囲って表示したりする等が挙げられる。さらに、警告表示ばかりでなく、ブザー音を鳴らしたり、ランプを点滅させたりするようなことも可能である。」

これらの記載から引用文献Aには次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。

「電子カルテ管理サーバと、複数の情報端末装置と、患者用タグと、複数のハンディターミナルと、無線通信ネットワークと、通信ネットワークと、アクセスポイントと、ゲート装置と、を備えている医療品管理システムであって、
ゲート装置の装置本体内には、コントローラと、ディスプレイと、医療品に予め設けられたICタグから当該医療品を特定するための情報を読み出すICタグリーダと、無線通信インタフェース部と、前記コントローラと前記ディスプレイ、前記ICタグリーダおよび無線通信インタフェース部とを接続する入出力インタフェース部とを備え、前記装置本体の下部には、脚部が設けられ、部屋等の搬入エリアの入口に自立設置可能となっており、さらに前記装置本体の上部には、前記無線通信インタフェース部が接続されている外部アンテナが設けられており、
前記ゲート装置は、電子カルテデータベースに登録されているデータのうち、当該ゲート装置が対応する搬入エリアへ搬入予定の医療品のリストを受信すると、ICタグが付加された医療品が自己が対応する搬入エリア内に搬入されたか否かを判別し、搬入された医療品が前記リストに含まれている前記医療品であるか否かを判別する
医療品管理システム。」

5 引用文献Bの記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献B(新本 夏樹,図書館の効率的運用や盗難防止策に向けた書籍管理システム セルフォームを活用したUHF帯RFIDによる棚管理,月刊自動認識,日本,日本工業出版株式会社,2011年 6月10日,第24巻 第6号,35?38ページ)には、次のとおりの記載がある。

「(2)セルフォームについて
帝人ファイバー(株)では、二次元通信技術を基に、通信媒体シート「セルフォーム『R』(当審注:『R』はRに○)」を開発した。セルフォーム『R』は、誘電シートを二層の導電シートで挟んだ三層シートで構成される総厚約2.6mm程度の板状シート構造体である(第1図参照)。本シートは、デスクや棚に設置することを目的として、耐熱性、耐水性、耐荷重性を備えた材料を用いている。このシートに外部から電磁波を供給すると、誘電シート内を水平方向に伝搬する電磁波が励起され、導電シートの表面にエバネッセント波が発生する(第2図参照)。このエバネッセント波を利用することで、シート内部の電磁波エネルギーを外部に取り出せる。実現のポイントは導電シートの一層目の導電部分をメッシュ状に加工することである。この結果、シート内部に存在する電磁波エネルギーの1%程度が、「エバネッセント波」としてシート表面の数mm以内の範囲に染み出し、シート上のどこに機器やデバイスを設置しても通信が可能となる。染み出すエバネッセント波の量、周波数は、シートを構成する導電シートのメッシュの格子間隔と、導電シートを挟み込んでいる誘電シートの比誘電率によって制御できる。このエバネッセント波は導体からの距離が遠くなると急激に減衰するため、通常の無線通信のように、空間に広がってしまうことがなく、シートの表面に近いわずかな範囲だけに伝送が可能になる。
現在、帝人ファイバー(株)では、セルフォーム『R』を活用した用途開発を進めている。」

「システム概要と特徴
本システムは「セルフォーム『R』」を使用して開発した平面上のアンテナ(以下シートアンテナと呼ぶ)とUHF(952?954MHz)帯のパッシブ型RFIDタグ(以下UHF帯RFタグと呼ぶ)、リーダライタ、またミドルウェアとして読込制御、書込み機能及び上位システムとの連絡を実現する機能を備えたソフトで構成される棚管理システム(第3図参照)であり、次のような特徴を有する。

(1)安定した通信
前述の通り、「セルフォーム『R』」はシート内に電磁波を伝搬させており、シート近傍上では安定した効率の良い電磁波領域を平面的に作りだすことができる。従って、広範囲に電波が飛散するUHF帯の電波を、シート近傍の比較的狭い範囲で制御することが可能である。
また、定在波の発生を抑制するため、「セルフォーム『R』」の横幅をUHF帯電磁波波長の半分程度の長さとし、電磁波給電箇所と反対側に電磁波吸収材を設けている。これにより、電磁波強度の不均一が解消され、シート上の場所に依存せず安定した電磁波の強度を確保できる(第4図参照)。

(2)取り扱いが容易
一般的に、棚の材質が金属の場合、アンテナ自体の設計変更や、アンテナを配置する位置や向きなどを細かく個別に設計しなければならなかった。
しかし、「セルフォーム『R』」は、背面が一面導体で覆われている構造のため、金属の上に配置しても、シート上で安定した電磁波領域を保持することができる。
したがってシートアンテナにセルフォームを用いることにより、既存の金属棚にシートアンテナを後付で設置する事ができ、またシートアンテナ上でUHF帯RFタグを貼り付けた対象物を管理することができる。
また、シートアンテナは、薄く、且つ軽くできているので設置位置の自由度は広がり、前述の既存金属棚への対応度も含め、アンテナの設置環境に関わる制約条件が大きく緩和され、取り扱いは容易となる。

(3)棚ごとの物品管理が容易
各段ごとの物品管理を行う場合、従来のUHF帯のアンテナを用いると三次元的に電磁波が広がるため、各アンテナの検出領域は複数段にまたがる事が多く、対策として各段を金属帯で遮蔽した構造が必要になっていた。
また、HF帯のアンテナでは、金属棚への影響を少なくするため専用棚を用いる必要や、読取距離が短い事から小分に区分された領域を管理するためアンテナの複合体として実現する必要があった。
それに対し、本システムは、管理対象物の材質・数量にもよるが、長さが最大約240cmまで可変なシートアンテナから近傍に安定した電磁波が供給される。
従って、管理が必要な対象物がある棚の段のみに本システムを後付で設置し、棚の段ごとの物品管理を容易に実現できる。」

これらの記載によると、引用文献Bには、
「平面上のアンテナと、UHF(952?954MHz)帯のパッシブ型RFIDタグと、リーダライタと、ミドルウェアとして読込制御、書込み機能及び上位システムとの連絡を実現する機能を備えたソフトで構成される棚管理システムであって、
前記平面上のアンテナは、誘電シートを二層の導電シートで挟んだ三層シートで構成される板状シート構造体であって、前記導電シートの一層目の導電部分をメッシュ状に加工し、背面が一面導体で覆われている構造とし、前記平面上のシートアンテナ上でUHF帯RFタグを貼り付けた対象物を管理する」
が記載されている。

6 引用文献Dの記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献D(再公表特許第2013/080507号)には、次のとおりの記載がある。

「【0001】
本発明は通信シート及び通信シートを用いたスマートシェルフに関し、特に偏波特性を改善した通信シートに関する。」

「【0018】
(実施の形態1)
以下、図面を参照して本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本実施の形態1に係る通信シート100の外観図である。また、図2Aは、通信シート100のy方向のシート中央付近のxz断面図であり、図2Bは、通信シート100のy方向のシート端付近のxz断面図である。
【0019】
ここで、通信シート100内の電磁波の進行方向をx方向、通信シート100内の電磁波の進行方向に垂直な方向をy方向、通信シート100に垂直な方向をz方向とそれぞれ定義する。通信シート100は、長方形の形状を有する薄いシートであり、短手方向に設置されたインタフェース装置より通信用の電磁波が供給され、長手方向に沿って電磁波が進行する。従って、通信シート100の長手方向がx方向に、短手方向がy方向となる。以下の説明では、短手方向、すなわちy方向をシート幅方向と呼び、通信シートの短手方向の長さをシート幅と呼ぶことがある。
【0020】
通信シート100は、第1導電体層110、誘電体層120、第2導電体層130、の3つの層が積層されて構成される。誘電体層120は、基板となる層であり、電磁波が伝搬する層である。誘電体層120を構成する誘電体基板121の1面に第1導電体層110が形成され、第1導電体層110に対向する誘電体基板の他の1面に第2導電体層130が形成されることで、第1導電体層110より電磁波が一部滲出した状態で2つの導電体層によって挟まれる狭間領域である誘電体層を電磁波が進行する。第1導電体層110及び第2導電体層130は、それぞれ絶縁体である保護膜140で覆われている。なお、以下の各図では保護膜が適宜省略されている。
【0021】
各層はそれぞれ略同一のシート幅を持つ略同形の帯状の長方形形状を有する。但し第1導電体層110は、内側の一部分が取り除かれて開口領域が設けられている。長方形の形状を有するシート状の誘電体基板121の1面に開口領域112が設けられたメッシュシート状の導体が第1導電体層110として配置され、対向する1面にシート状の導体が第2導電体層130として配置される。通信シート100の大きさとしては、例えば短手方向の長さが数cm?数十cm、長手方向の長さが数十cm?数mの大きさとすることができる。但し、当該形状及び大きさは通信シート100の一例であり、これに限定されるものではない。
【0022】
ここで、誘電体基板121(通信シート100)の短手方向の長さ(シート幅)が誘電体基板内を進行する通信用の電磁波の実効波長λの1/3以上1/2以下の長さとすることが望ましい。誘電体基板121のシート幅が上記電磁波の実効波長λの半波長を超えると、通信の主モードとなる電界成分Ezに斑が生じ始める。従って、RFIDタグの受信偏波が通信シートと垂直になるように正しく設置していても通信精度の低下を招くためである。なお、ここで言う電磁波の実効波長λは、自由空間を伝搬する電磁波の波長λ_(0)に対して誘電体基板121を構成する誘電体の実効誘電率を加味した長さである。」

6 引用文献Eの記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献E(国際公開第2014/45486号)には、次のとおりの記載がある。

「[0001] 本発明は、電磁波の伝送を行うシート伝送システム、電磁波伝播シート及び近接カプラに関する。」

「[0017] 図1は、本実施の形態1にかかるシート伝送システムの構成を示している。図1に示されるように、シート伝送システムは、電磁波伝播シート10、近接カプラ20及び誘電体30を備えている。誘電体30は、電磁波伝播シート10と、近接カプラ20の間に設けられる。
[0018] 電磁波伝播シート10は、平面視が矩形の板状シートである。この電磁波伝播シート10は、剛性を有していてもよく、あるいは、折り曲げ可能であってもよい。電磁波伝播シート10は、通信層11、プレーン形状導体12、メッシュ形状導体13及び保護層14を有する。通信層11、プレーン形状導体12、メッシュ形状導体13及び保護層14はいずれもシート状である。ここで、「シート状」とは、面としての2次元の広がりを持ち、厚さが薄いものの状態を言う。シート状の一例としては、布状、紙状、箔状、板状、膜状、フィルム状、メッシュ状、などがある。」

第6 当審拒絶理由の理由1(進歩性)について
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「電磁波伝達シート」は、「既存の棚に簡単に導入・設置することができ、医療現場における薬品、検体などの管理などの物品管理に利用できる電磁波伝達シート」であるから、本願発明1の「医療現場における医療品が置かれる場所に設置される通信シート」であるといえる。
また、引用発明1の「電磁波伝達シート」は、「高効率かつ低損失な電磁波の伝達を行うことが可能となり、格子状の導電体A層から電磁波を漏出することで、電磁波伝達シート上に設置されたRFID用ICタグと通信させることが可能であ」るところ、「高誘電率層、保護層A、導電体A層、基材層及び導電体B層が順に積層してなり」、その内の高誘電率層は導電体A層の非導電部から漏出する電磁波の強度を増大させる機能を奏するものであり、電磁波の伝達に寄与するのは、その内の保護層A、導電体A層、基材層及び導電体B層であるから、引用発明1の「電磁波伝達シート」の「保護層A、導電体A層、基材層及び導電体B層」が本願発明1の「前記通信シートの内部を伝達する電磁波が前記通信シートの表面から浸出することによって近接場が生じる通信シート」であるといえる。
すると、引用発明1の「電磁波伝達シート」の「保護層A、導電体A層、基材層及び導電体B層」は、「近接場が生じる」点が特定されていない点で相違するものの、本願発明1の「医療現場における医療品が置かれる場所に設置される通信シートであって、前記通信シートの内部を伝達する電磁波が前記通信シートの表面から浸出する通信シート」に相当する。

イ 引用発明1の「電磁波伝達シート」は、「高誘電率層、保護層A、導電体A層、基材層及び導電体B層が順に積層してな」っており、「高誘電率層は、その厚みは1.0?5.0mmが好ましく、樹脂、シート、フィルムが好ましく、シートは発泡体であってもよく、樹脂、シート、フィルムを構成するポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PSt)などのポリオレフィン、ポリイミド、エチレン-ビニルアルコール、アクリル、ウレタンなどであ」り、引用発明の「電磁波伝達シート」の「保護層A、導電体A層、基材層及び導電体B層」と「電磁波伝達シート上に設置されたRFID用ICタグ」との間には「高誘電率層」が「保護層A、導電体A層、基材層及び導電体B層」を覆うように敷設され、その間に「高誘電率層」の厚みである1.0?5.0mmのスペースを生じさせているといえる。
よって、引用発明1において「電磁波伝達シート」の「高誘電率層」と、本願発明1の「ノイズ発生源又は導電部材と前記通信シートとの間にスペースを確保するためのスペーサであって、前記通信シートの表面を覆うように前記通信シートと前記医療品との間に敷設されるスペーサ」とは、「前記通信シートの表面を覆うように前記通信シートと前記医療品との間に敷設されるスペーサ」という点で共通する。

ウ 引用発明1の「リーダライタの送受信部」は、「電磁波伝達シートへ向けて電磁波を送信し、電磁波伝達シートを介してRFID用ICタグから信号を受信するリーダライタの送受信部」である。
すると、引用発明1の「リーダライタの送受信部」は、「生じた前記近接場を介して」の点が特定されていない点で相違するものの、本願発明1の「前記通信シートに前記電磁波を送信し、前記送信した電磁波によって、前記医療品に付されたタグから前記医療品の管理情報を読み取る読取部」に相当する。

エ 引用発明1の「管理装置」は、「送受信部が受信した信号に基づき管理対象である物品に関する情報を読み取り、予め登録された管理情報と読み取った物品に関する情報とに基づいて、当該物品についての状況をデータベース管理する管理装置」であって、「当該物品についての状況をデータベース管理する」ことは「所定の処理を実行する」といえる。
よって、引用発明1の「管理装置」は、本願発明1の「前記読取部による前記管理情報の読み取り結果に基づいて、所定処理を実行する実行部」に相当する。

オ 引用発明1の「情報管理システム」は、「医療現場における薬品、検体などの管理などの物品管理に利用できる電磁波伝達シート」及び「当該物品についての状況をデータベース管理する管理装置」を備える情報管理システムであり、「医療現場における薬品、検体」は「医療品」といえるから、本願発明1と同様の「医療品管理システム」といえる。

上記アないしオより、本願発明1と引用発明1とは、以下の一致点で一致し、相違点1、2で相違する。

(一致点)
「医療現場における医療品が置かれる場所に設置される通信シートであって、前記通信シートの内部を伝達する電磁波が前記通信シートの表面から浸出する通信シートと、
前記通信シートの表面を覆うように前記通信シートと前記医療品との間に敷設されるスペーサと、
前記通信シートに前記電磁波を送信し、前記送信した電磁波によって、前記医療品に付されたタグから前記医療品の管理情報を読み取る読取部と、
前記読取部による前記管理情報の読み取り結果に基づいて、所定処理を実行する実行部と、を備える、
医療品管理システム。」

(相違点1)
本願発明1は、「電磁波が前記通信シートの表面から浸出することによって近接場が生じ」、「送信した電磁波によって生じた前記近接場を介して、前記医療品に付されたタグから前記医療品の管理情報を読み取る」のに対して、引用発明1は、電磁波によって近接場が生じており、生じた近接場を介して読み取りが行われることが特定されていない点。

(相違点2)
本願発明1は、「スペーサ」が「ノイズ発生源又は導電部材と前記通信シートとの間にスペースを確保するためのスペーサ」であるのに対して、引用発明1の「高誘電率層」は「電磁波伝達シート」と「物品」の間にスペースを生じさせるものの、「ノイズ発生源又は導電部材と前記通信シートとの間にスペースを確保する」ものではない点。

(2)判断
ア 相違点1について
引用発明1で使用される電磁波の周波数は800MHzから10GHzの周波数帯であって、当該周波数帯の電磁波が通信シートの表面から浸出すれば近接場が生じることは明らかである。
すると、引用発明1において、「電磁波が前記通信シートの表面から浸出することによって近接場が生じ」、「送信した電磁波によって生じた前記近接場を介して、前記医療品に付されたタグから前記医療品の管理情報を読み取る」ようにすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
イ 相違点2について
引用発明1の「高誘電率層」は、当該高誘電率層が積層されていることによって、非導電部から漏出する電磁波の強度を増大させるものであるから、ノイズ発生源又は導電部材と前記通信シートとの間にスペースを確保するものとはいえない。
また、引用文献2、3のいずれにも、「ノイズ発生源又は導電部材と前記通信シートとの間にスペースを確保するためのスペーサ」は記載も示唆もされていない。すると、引用発明1に引用文献2、3の記載事項を組み合わせたとしても、上記相違点2に係る構成は導き出せない。
したがって、相違点2に係る本願発明1の構成は、引用発明と引用文献2、3の記載事項から、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
ウ 作用効果について
本願発明1は、上記相違点2に係る構成により、通信に用いる電波が正常に伝搬する範囲で、ノイズや導体部材による影響が大幅に低減し、医療品の管理情報の読み取り精度が向上する(【0091】、【0117】)という効果を奏するものである。

(3)まとめ
したがって、本願発明1は、引用発明1及び引用文献2、3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2-9について
本願発明2-9は、本願発明1を減縮した発明であり、上記1で検討した相違点2に係る本願発明1の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様な理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2、3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

3 本願発明10について
本願発明10は、本願発明1の「医療品管理システム」を「医療品管理方法」の発明としたものであって、上記1で検討した相違点2に係る本願発明1に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様な理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2、3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

第7 当審拒絶理由の理由2(明確性)について
1 令和2年1月9日の手続補正により補正された特許請求の範囲の「請求項1から7のいずれか1項」の「医療品管理システム」を引用する請求項8の記載は明確でないという拒絶理由を通知したところ、令和3年8月25日にされた手続補正により、特許請求の範囲の請求項8は「請求項1から6のいずれか1項」の「医療品管理システム」を引用するものと補正されたため、拒絶の理由は解消した。
2 令和2年1月9日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項9の記載は明確でないという拒絶理由を通知したところ、令和3年8月25日にされた手続補正により、特許請求の範囲の請求項10は、
「医療現場における医療品が置かれる場所に設置される通信シートであって、前記通信シートの内部を伝達する電磁波が前記通信シートの表面から浸出することによって近接場が生じる通信シートと前記医療品との間に、ノイズ発生源又は導電部材と前記通信シートとの間にスペースを確保するためのスペーサを敷設し、
読取装置が、前記通信シートに前記電磁波を送信し、前記送信した電磁波によって生じた前記近接場を介して、前記医療品に付されたタグから前記医療品の管理情報を読み取り、
処理装置が、前記管理情報の読み取り結果に基づいて、所定処理を実行する、
医療品管理方法。」
と補正されたため、拒絶の理由は解消した。
3 令和2年1月9日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項10の記載は明確でないという拒絶理由を通知したところ、令和3年8月25日にされた手続補正により、当該請求項10は削除されたため、拒絶の理由は解消した。

第8 原査定の拒絶の理由について
引用発明Aは、本願発明1の「医療品管理システム」、本願発明10の「医療品管理方法」とは、その前提となるシステムの構成が異なるものであり、また、上記相違点2に係る構成を備えるものでもない。
引用文献Bの記載事項によると、誘電シートを二層の導電シートで挟んだ三層シートで構成される板状シート構造体が記載されているが、本願発明1、本願発明10の通信シートと、スペーサと、読取部と、実行部を備える医療品管理システム、医療品管理方法を開示するものではなく、また、上記相違点2に係る構成を開示するものでもない。そして、引用文献C-Eも、上記相違点2に係る構成を開示するものではない。
よって、本願発明1、本願発明10は、引用発明Aおよび引用文献B-Eに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本願発明2-9についても同様である。
よって、原査定を維持することはできない。

第9 むすび
以上のとおり、本願発明1-10は、当業者が引用発明1および引用文献2、3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本願発明1-10は、引用発明Aおよび引用文献B-Eに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の拒絶の理由および当審拒絶理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-10-21 
出願番号 特願2016-138541(P2016-138541)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G16H)
P 1 8・ 121- WY (G16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山内 裕史  
特許庁審判長 高瀬 勤
特許庁審判官 古川 哲也
上田 智志
発明の名称 医療品管理システム、及び、医療品管理方法  
代理人 森川 泰司  
代理人 石井 裕一郎  
代理人 渡邉 幸男  

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