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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06K 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K |
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管理番号 | 1379399 |
審判番号 | 不服2021-338 |
総通号数 | 264 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-12-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-01-08 |
確定日 | 2021-11-16 |
事件の表示 | 特願2017-519546「RFIDデバイスにおける電力の獲得」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月14日国際公開、WO2016/055663、平成29年12月21日国内公表、特表2017-538188、請求項の数(24)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2015年(平成27年)10月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年10月10日,米国,2015年5月14日,英国)を国際出願日とする出願であって,令和1年11月13日付けで拒絶理由が通知され,令和2年5月19日付けで手続補正がされ,令和2年8月31日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和3年1月8日に拒絶査定不服審判の請求がされ,令和3年6月25日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,令和3年9月8日付けで手続補正がされたものである。 第2 本願発明 本願請求項1-24に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明24」という。)は,令和3年9月8日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-24に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。 「 【請求項1】 受動生体認証エンジンを備える受動RFIDデバイスにおいて電力を獲得するための方法であって, 前記RFIDデバイスによって電源付きのRFID読み取り機からのコマンドを受信するステップと, 前記RFID読み取り機が前記コマンドへの応答を待っている間に,前記RFIDデバイスによってパルス状でない連続的な無線周波数の励起場を受信するステップと, 前記RFIDデバイスによって前記励起場から電力を獲得するステップと, 前記励起場から抽出された電力を前記生体認証エンジンへと供給するステップと, 前記RFID読み取り機からのコマンドへの応答に必要な処理ではない処理である,生体認証用の登録処理または生体認証における照合処理を,前記生体認証エンジンにおいて実行するステップと, 前記RFIDデバイスによる応答待ちの期間を明らかにするステップと, 前記期間が所定のしきい値を超えるという判断に応答して,前記処理が完了していない場合に,前記RFIDデバイスによって前記RFID読み取り機へと待ち時間延長の要求を送信するステップと を含む方法。」 なお,本願発明2-24の概要は以下のとおりである。 本願発明2-12は,本願発明1を減縮した発明である。 本願発明13は,本願発明1に対応する「受動RFIDデバイス」の発明であり,本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。 本願発明14-24は,本願発明13を減縮した発明である。 第3 引用文献,引用発明等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2009-31877号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付したものである。) 「【0022】 これを更に詳述する。 図1は,上述したように非接触ICカード(以下「本ICカード」と呼ぶ)100のブロック構成図である。 【0023】 本ICカード100は,RFインタフェース形式の違うカード用リーダ/ライタ10,11の通信距離内にあるとどちらとも通信できるように構成されている。ここで,図1には,同時に両方のカード用リーダ/ライタ10,11と通信しているように表示しているが,カード用リーダ/ライタ10,11に対してはサービスに依存しており,その設置状況も多様であり,必要に応じて又は外部からの指令によりどちらか一方のカード用リーダ/ライタ10又は11に対して通信を許容するように構成してもよい。 【0024】 本ICカード100は,前述したように,カード用リーダ/ライタ10,11から供給される電磁波を受けるアンテナ構造体21(具体的には複数のアンテナ21A,21B)と,このアンテナ21A,21Bからの交流電流を整流して電力を得かつ供給制御を行なう電力供給制御部として機能するパワー制御部22と,パワー制御部22から一次電源を得て本人認証を行なう生体認証判定部23とを備えている。この生体認証判定部23での本人認証で本人が確認されると,生体認証判定部23は直ちに機能してパワー制御部22に必要な各構成ユニットへの電源供給を許可し,その後,所定の認証手順に準拠してICカードの認証手続きが開始される。 ここで,前記アンテナ21Aは巻数Aのアンテナコイルにより構成され,前記アンテナ21Bは巻数Bのアンテナコイルにより構成されている(図1参照)。 【0025】 更に,本ICカード100は,各種情報処理を行なうCPU24と,暗号化された認証処理を行なう暗号プロセッサ25と,処理プログラムを保管するROM26Aと,処理作業領域としてのRAM26Bと,予め登録された個人情報や暗号化方式に用いられる鍵情報を保管するEEPROM26Cを含むメモリ部26と,カード用リーダ/ライタ10,11との情報の入出力を無線通信で行なうためのRFインタフェース部280及び使用する無線によって信号を切替える信号選択部27とを備えている。」 「【0042】 次に,カード用リーダ/ライタ10,11とICカード100間の信号制御を,図4に基づいて説明する。この図4は,カード用リーダ/ライタ10,11とICカード100との間の信号制御シーケンス図である。 【0043】 マスタ側として動作するリーダ/ライタ10は,一定間隔での問合せ要求である応答待ち信号を,無線搬送波と共にスレーブ側として動作するICカード100に送る。 ICカード100側では,この無線搬送波をアンテナ構造体21で受信し整流して直流電力を得,生体認証判定部23だけを起動して生体認証処理を行い,本人確認が完了した場合にパワー制御部22に給電許可信号を与え,本ICカード100の他のCPUなどの機能部を起動し,マスタ側であるカード用リーダ/ライタ10,11へ通常行なう相互認証処理を開始する為の応答信号を返すことによってマスタ側へ通知する。これに対して,マスタ側は,ACK(了解)信号を返信して通常の暗号化処理による相互認証処理シーケンスへ移行する。 【0044】 ここで,相互認証処理とは,ICカード100とカード用リーダ/ライタ10,11が共に不正なものではなく正規のものであることを何らかの方法で認証する処理をいう。 【0045】 〔第1実施形態の効果〕 この第1の実施形態では,上述したように,アンテナ巻線21Aおよびパワー制御部22Aを稼働させて先ず生体認証判定部23だけを起動して生体認証処理を行い,本人確認が完了した場合にパワー制御部22Aによって他の構成各部への給電許可を与えるようにしたので,ICカード100の所持者が本人であることを認証されることを前提として,無線周波数等のRFインタフェースの異なる内容のICカードを統合化して一のICカード100にしたものが有効に機能する構成とした。このため,この第1の実施形態によると,この多様化したICカードの一元化によって管理面や携帯面の利便性が向上すると同時にカードの盗難や紛失などに際しても高い安全性が得られるという従来にない優れた非接触ICカードを提供することができる。 【0046】 即ち,上記第1の実施形態におると,以下に示す効能を奏する。 第一の効果として,カードの所持者が本人であることを認証しない限りカードとして一切動作しないので,カードの盗難,紛失などに際して高い安全性が得られる。第二の効果として,無線周波数等のRFインタフェースの異なるICカードの統合化までが可能になり,多様化するカードの一元化によって管理面や携帯面の利便性が向上する。」 「図1 」 「図4 」 したがって,上記引用文献1(特に下線部の記載)には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「ICカード100は,カード用リーダ/ライタ10,11から供給される電磁波を受けるアンテナ構造体21(具体的には複数のアンテナ21A,21B)と,このアンテナ21A,21Bからの交流電流を整流して電力を得かつ供給制御を行なう電力供給制御部として機能するパワー制御部22と,パワー制御部22から一次電源を得て本人認証を行なう生体認証判定部23とを備えており,(段落0024,図1) カード用リーダ/ライタ10,11とICカード100との間の信号制御シーケンスでは,(段落0042,図4) マスタ側として動作するリーダ/ライタ10は,一定間隔での問合せ要求である応答待ち信号を,無線搬送波と共にスレーブ側として動作するICカード100に送り,(段落0043,図4) ICカード100側では,この無線搬送波をアンテナ構造体21で受信し整流して直流電力を得,(段落0043,図4) 生体認証判定部23だけを起動して生体認証処理を行い,(段落0043,図4) 本人確認が完了した場合にパワー制御部22に給電許可信号を与え,(段落0043,図4) 本ICカード100の他のCPUなどの機能部を起動し,(段落0043,図4) マスタ側であるカード用リーダ/ライタ10,11へ通常行なう相互認証処理を開始する為の応答信号を返すことによってマスタ側へ通知し,(段落0043,図4) マスタ側は,ACK(了解)信号を返信して通常の暗号化処理による相互認証処理シーケンスへ移行する。(段落0043,図4)」 2.引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2011-28381号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付したものである。) 「【0033】 図3は,同実施形態における非接触ICカード100がリーダライタ装置200と通信を行う際の非接触ICカード100の通信処理を示すフローチャートである。 非接触ICカード100は,リーダライタ装置200が発生する電界及び磁界をループアンテナ101が捉えて,カード制御部110が電力供給部102から供給される電力により動作できる動作可能領域に位置するように挿入されると(ステップSt101),カード制御部110が,RAM107に記憶されている情報を初期化し,認証フラグ情報にロック状態を示す値を設定する初期化処理を行う(ステップSt102)。 【0034】 カード制御部110は,初期化処理の後,無線通信部105がリーダライタ装置200から起動要求を示すREQB(Request command type B)コマンド又はWUPB(Wake Up command type B)コマンドを受信するまで待機させ(ステップSt103),REQBコマンド又はWUPBコマンドを受信してリンクを確立させる(ステップSt104)。具体的には,無線通信部105と無線通信部204とが同期をとり,通信に用いる周波数の設定,無線の通信状態に応じた無線通信速度の設定などが行われる。 このREQBコマンド及びWUPBコマンドは,非接触ICカード100がリーダライタ装置200と通信可能であり,動作可能領域に位置しているか否かを検出するためのコマンドである。リーダライタ装置200において,リーダライタ制御部201は,予め定められた時間間隔でREQBコマンド又はWUPBコマンドを無線通信部204がループアンテナ206を介して非接触ICカード100に送信するように制御をしている。 【0035】 無線通信部105は,リーダライタ装置200からSelectコマンドを示す第1コマンドを受信すると,受信したSelectコマンドに含まれる利用用途を示す情報をカード制御部110に出力する。カード制御部110は,無線通信部105が出力した利用用途を示す情報に対応する判定要否情報を読み出し,認証処理が必要か否かの判定をする判定要否処理を行う(ステップSt106)。 【0036】 判定要否情報が判定不要を示す場合(ステップSt106:判定不要),後述のステップSt115以降の動作が行われる。 一方,判定要否情報が判定要を示す場合(ステップSt106:判定要),カード制御部110は,RAM107から認証フラグ情報を読み出し(ステップS107)(当審注:「ステップS107」は「ステップSt107」の誤記である。),認証フラグ情報がアンロック状態を示す場合(ステップSt107:UNLOCK),後述のステップSt115以降の動作が行われ,認証フラグ情報がロック状態を示す場合(ステップSt107:ロック状態),受信した第1コマンドをRAM107に記憶させる(ステップSt108)。 【0037】 カード制御部110は,無線通信部105及びループアンテナ101を介してリーダライタ装置200にWTX(Waiting Time Extension)コマンドを送信し(ステップSt109),センサ部109を初期化して非接触ICカード100に加えられる動作の検出を開始させる(ステップSt110)。 このWTXコマンドは,リーダライタ制御部201に対して第1コマンドに対する応答を示す情報を送信するまでの待ち時間の延長を要求するコマンドである。カード制御部110は,WTXコマンドをリーダライタ装置200に送信することにより,認証処理を行っている最中に第1コマンドに対する応答の待ち時間を延長して,待ち時間が満了することによりリンクが断たれることを防ぐ。 なお,カード制御部110は,第1コマンドを実行して,第1コマンドに対する応答をリーダライタ装置200に送信するまで,第1コマンドに対する応答の待ち時間が満了しないように,一定間隔ごとにWTXコマンドをリーダライタ装置200に送信する。」 「図3 」 したがって,上記引用文献2(特に下線部の記載)には次の発明(以下,「引用文献2発明」という。)が記載されていると認められる。 「 非接触ICカード100がリーダライタ装置200と通信を行う際の非接触ICカード100の通信処理であって,(段落0033,図3) カード制御部110が電力供給部102から供給される電力により動作できる動作可能領域に位置するように挿入されると(ステップSt101),カード制御部110が初期化処理を行い(ステップSt102),(段落0033,図3) カード制御部110は,初期化処理の後,無線通信部105がリーダライタ装置200から起動要求を示すREQB(Request command type B)コマンド又はWUPB(Wake Up command type B)コマンドを受信するまで待機させ(ステップSt103),REQBコマンド又はWUPBコマンドを受信してリンクを確立させ(ステップSt104),(段落0034,図3) 無線通信部105は,リーダライタ装置200からSelectコマンドを示す第1コマンドを受信すると,受信したSelectコマンドに含まれる利用用途を示す情報をカード制御部110に出力し,カード制御部110は,無線通信部105が出力した利用用途を示す情報に対応する判定要否情報を読み出し,認証処理が必要か否かの判定をする判定要否処理を行い(ステップSt106),(段落0035,図3) 判定要否情報が判定要を示す場合(ステップSt106:判定要),カード制御部110は,RAM107から認証フラグ情報を読み出し(ステップSt107),(段落0036,図3) 認証フラグ情報がロック状態を示す場合(ステップSt107:ロック状態),受信した第1コマンドをRAM107に記憶させ(ステップSt108)(段落0036,図3) カード制御部110は,無線通信部105及びループアンテナ101を介してリーダライタ装置200にWTX(Waiting Time Extension)コマンドを送信し(ステップSt109),センサ部109を初期化して非接触ICカード100に加えられる動作の検出を開始させ(ステップSt110),(段落0037,図3) このWTXコマンドは,リーダライタ制御部201に対して第1コマンドに対する応答を示す情報を送信するまでの待ち時間の延長を要求するコマンドであり,カード制御部110は,WTXコマンドをリーダライタ装置200に送信することにより,認証処理を行っている最中に第1コマンドに対する応答の待ち時間を延長して,待ち時間が満了することによりリンクが断たれることを防ぐものであり,(段落0037,図3) カード制御部110は,第1コマンドを実行して,第1コマンドに対する応答をリーダライタ装置200に送信するまで,第1コマンドに対する応答の待ち時間が満了しないように,一定間隔ごとにWTXコマンドをリーダライタ装置200に送信する。(段落0037,図3)」 第4 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。 ア(ア)引用発明の「本人認証を行なう生体認証判定部23」は「カード用リーダ/ライタ10,11から供給される電磁波」からの「電力」を得て「本人認証」の動作を行うものであって,「受動」的に動作するものであるから,本願発明1の「受動生体認証エンジン」に相当する。 また,引用発明の「ICカード100」は,同様に,「カード用リーダ/ライタ10,11から供給される電磁波」からの「電力」を得て「受動」的に動作するものであるから,本願発明1の「受動RFIDデバイス」に相当する。 したがって,引用発明の「生体認証判定部23」を備える「ICカード100」は,本願発明1の「受動生体認証エンジンを備える受動RFIDデバイス」に相当する。 (イ)引用発明の「カード用リーダ/ライタ10,11とICカード100との間の信号制御シーケンス」は,「ICカード100」において,「無線搬送波をアンテナ構造体21で受信し整流して直流電力を得」るというシーケンスを含むものであるから,本願発明1の「電力を獲得するための方法」に対応するものである。 (ウ)上記(ア),(イ)の検討から,引用発明と本願発明1とは,後記する相違点で相違するものの,“受動生体認証エンジンを備える受動RFIDデバイスにおいて電力を獲得するための方法”である点で共通する。 イ 引用発明の「マスタ側として動作するリーダ/ライタ10」は,“電源付き”であることは自明であるから,本願発明1の「電源付きのRFID読み取り機」に相当する。 そして,引用発明の「リーダ/ライタ10」から「無線搬送波と共に」送信され,「ICカード100」側で受信される「一定間隔での問合せ要求である応答待ち信号」は,応答を要求する“コマンド”とみることができるものである。 そうすると,引用発明の「ICカード100側」で「無線搬送波」を「受信」することは,本願発明1の「前記RFIDデバイスによって電源付きのRFID読み取り機からのコマンドを受信するステップ」に相当する。 ウ 引用発明の「無線搬送波」は,リーダ/ライタ10から送信され,ICカード100で受信されて電力を取り出すための電磁波である点で本願発明1の「励起場」に相当するものであるから,引用発明の「ICカード100」側で「無線搬送波をアンテナ構造体21で受信し整流して直流電力を得」ることは,本願発明1の「前記RFIDデバイスによって励起場から電力を獲得するステップ」に相当する。 エ 引用発明の「生体認証判定部23だけを起動」することは,「生体認証判定部23」だけに“電力を供給する”ことであるから,引用発明の「無線搬送波をアンテナ構造体21で受信し整流して直流電力を得」,「生体認証判定部23だけを起動」することは,本願発明1の「前記励起場から抽出された電力を前記生体認証エンジンへと供給するステップ」に相当する。 オ 引用発明の「生体認証処理」は,本願発明1の「生体認証における照合処理」に相当する。 そして,上記「生体認証処理」は,「カード用リーダ/ライタ10,11」からの「一定間隔での問合せ要求である応答待ち信号」(コマンド)への「応答」に直接“必要な処理ではない処理”とみることができる。 してみれば,引用発明の「生体認証判定部23」を「起動」して「生体認証処理を行」うことは,本願発明1の「前記RFID読み取り機からのコマンドへの応答に必要な処理ではない処理である,生体認証における照合処理を,前記生体認証エンジンにおいて実行するステップ」に相当する。 カ したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「 受動生体認証エンジンを備える受動RFIDデバイスにおいて電力を獲得するための方法であって, 前記RFIDデバイスによって電源付きのRFID読み取り機からのコマンドを受信するステップと, 前記RFIDデバイスによって励起場から電力を獲得するステップと, 前記励起場から抽出された電力を前記生体認証エンジンへと供給するステップと, 前記RFID読み取り機からのコマンドへの応答に必要な処理ではない処理である,生体認証用の登録処理または生体認証における照合処理を,前記生体認証エンジンにおいて実行するステップと, を含む方法。」 (相違点) (相違点1)本願発明1は,「前記RFID読み取り機が前記コマンドへの応答を待っている間に,前記RFIDデバイスによってパルス状でない連続的な無線周波数の励起場を受信するステップ」を含むのに対して,引用発明はそのような構成となっていない点。 (相違点2)本願発明1は,「前記RFIDデバイスによる応答待ちの期間を明らかにするステップ」を含むのに対して,引用発明はそのような構成となっていない点。 (相違点3)本願発明1は,「前記期間が所定のしきい値を超えるという判断に応答して,前記処理が完了していない場合に,前記RFIDデバイスによって前記RFID読み取り機へと待ち時間延長の要求を送信するステップ」を含むのに対し,引用発明はそのような構成となっていない点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑み,上記相違点2及び相違点3について先に検討する。 引用発明の「リーダ/ライタ10」から「無線搬送波と共に」送信され,「ICカード100」側で受信される「一定間隔での問合せ要求である応答待ち信号」は,「ICカード100」からの「応答」が無くても,一定間隔で“繰り返し”送信されるものであって,所定の「応答待ちの期間」を過ぎると停止してしまうというような信号ではない。 そうすると,引用発明の「ICカード100」は,一定間隔で“繰り返し”送信される「応答待ち信号」の「無線搬送波」から電力が十分に得られるまで,一定間隔で“繰り返し”送信される「応答待ち信号」の「無線搬送波」を“繰り返し”受信できるものであって,引用発明には,応答待ちの期間が所定のしきい値を超えるという判断に応答して,ICカード100からリーダ/ライタ10へ「待ち時間延長の要求」を送信するという課題がないから,仮に,引用文献2に, 「 非接触ICカード100がリーダライタ装置200と通信を行う際の非接触ICカード100の通信処理であって,(段落0033,図3) カード制御部110が電力供給部102から供給される電力により動作できる動作可能領域に位置するように挿入されると(ステップSt101),カード制御部110が初期化処理を行い(ステップSt102),(段落0033,図3) カード制御部110は,初期化処理の後,無線通信部105がリーダライタ装置200から起動要求を示すREQB(Request command type B)コマンド又はWUPB(Wake Up command type B)コマンドを受信するまで待機させ(ステップSt103),REQBコマンド又はWUPBコマンドを受信してリンクを確立させ(ステップSt104),(段落0034,図3) 無線通信部105は,リーダライタ装置200からSelectコマンドを示す第1コマンドを受信すると,受信したSelectコマンドに含まれる利用用途を示す情報をカード制御部110に出力し,カード制御部110は,無線通信部105が出力した利用用途を示す情報に対応する判定要否情報を読み出し,認証処理が必要か否かの判定をする判定要否処理を行い(ステップSt106),(段落0035,図3) 判定要否情報が判定要を示す場合(ステップSt106:判定要),カード制御部110は,RAM107から認証フラグ情報を読み出し(ステップS107),(段落0036,図3) 認証フラグ情報がロック状態を示す場合(ステップSt107:ロック状態),受信した第1コマンドをRAM107に記憶させ(ステップSt108)(段落0036,図3) カード制御部110は,無線通信部105及びループアンテナ101を介してリーダライタ装置200にWTX(Waiting Time Extension)コマンドを送信し(ステップSt109),センサ部109を初期化して非接触ICカード100に加えられる動作の検出を開始させ(ステップSt110),(段落0037,図3) このWTXコマンドは,リーダライタ制御部201に対して第1コマンドに対する応答を示す情報を送信するまでの待ち時間の延長を要求するコマンドであり,カード制御部110は,WTXコマンドをリーダライタ装置200に送信することにより,認証処理を行っている最中に第1コマンドに対する応答の待ち時間を延長して,待ち時間が満了することによりリンクが断たれることを防ぐものであり,(段落0037,図3) カード制御部110は,第1コマンドを実行して,第1コマンドに対する応答をリーダライタ装置200に送信するまで,第1コマンドに対する応答の待ち時間が満了しないように,一定間隔ごとにWTXコマンドをリーダライタ装置200に送信する。(段落0037,図3)」 という引用文献2発明が開示されていたとしても,引用発明に引用文献2発明を組み合わせる動機付けがあるとはいえない。 したがって,上記相違点1について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明及び引用文献2発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2.本願発明2-12について 本願発明2-12は,本願発明1を減縮した発明であるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 3.本願発明13について 本願発明13は,本願発明1に対応する受動RFIDデバイスの発明であり,本願発明1と同様の構成を備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 4.本願発明14-24について 本願発明14-24は,本願発明13を減縮した発明であり,本願発明1と同様の構成を備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 原査定は,請求項1-24について上記引用文献1,2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら,上記第4で判断したとおり,本願発明1-24は,上記引用文献1,2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由について <特許法第36条第6項第2号について> 当審では,請求項1の「前記RFID読み取り機からのコマンドへの応答に必要な処理ではない処理」とはどのような処理のことを特定しようとしているのかが不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,令和3年9月8日付けの補正において,「前記RFID読み取り機からのコマンドへの応答に必要な処理ではない処理である,生体認証用の登録処理または生体認証における照合処理を,前記生体認証エンジンにおいて実行するステップ」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおり,本願発明1-24は,当業者が引用発明及び引用文献2発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-10-29 |
出願番号 | 特願2017-519546(P2017-519546) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(G06K)
P 1 8・ 121- WY (G06K) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 梅沢 俊 |
特許庁審判長 |
田中 秀人 |
特許庁審判官 |
須田 勝巳 山澤 宏 |
発明の名称 | RFIDデバイスにおける電力の獲得 |
代理人 | 特許業務法人 有古特許事務所 |