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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H02K
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H02K
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H02K
審判 一部申し立て 特174条1項  H02K
審判 一部申し立て 発明同一  H02K
管理番号 1379819
異議申立番号 異議2020-700757  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-02 
確定日 2021-10-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6696564号発明「ロータの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6696564号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3-19〕について訂正することを認める。 特許第6696564号の請求項1ないし19に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6696564号の請求項1-11に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成29年2月28日(優先権主張 平成28年3月14日)を国際出願日として出願され、令和2年4月27日にその特許権の設定登録がされ、令和2年5月20日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年10月 2日提出: 特許異議申立人土田祐介(以下、単に「特許異議申立人」という。)による請求項1-4,7-11に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年 2月24日付け: 取消理由通知書
令和3年 4月30日提出: 特許権者による意見書及び訂正請求書
令和3年 8月10日提出: 特許異議申立人による意見書

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和3年4月30日にされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3-19について訂正することを求めるものである。
この訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。
下線は訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3に「複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程と、前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有するロータの製造方法。」と記載されているのを、「複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程と、前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有し、前記溶接工程では、複数枚の前記電磁鋼板を互いに溶接するための溶接対象箇所に、エネルギービームを前記軸方向に沿って移動させながら照射するロータの製造方法。」に訂正する。

(2)訂正事項2
ア.訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項4に「前記樹脂硬化工程において前記ロータコアに対して前記軸方向に加える圧力を第1圧力として、前記溶接工程は、前記ロータコアを、前記第1圧力より小さい第2圧力で前記軸方向に加圧した状態で行う請求項1から3のいずれか1項に記載のロータの製造方法。」とあるうち、請求項1、2を引用するものについて「前記樹脂硬化工程において前記ロータコアに対して前記軸方向に加える圧力を第1圧力として、前記溶接工程は、前記ロータコアを、前記第1圧力より小さい第2圧力で前記軸方向に加圧した状態で行う請求項1又は2に記載のロータの製造方法。」に訂正する。

イ.訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項4に「前記樹脂硬化工程において前記ロータコアに対して前記軸方向に加える圧力を第1圧力として、前記溶接工程は、前記ロータコアを、前記第1圧力より小さい第2圧力で前記軸方向に加圧した状態で行う請求項1から3のいずれか1項に記載のロータの製造方法。」とあるうち、請求項3を引用するものについて、独立形式に改め、「複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程と、前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有し、前記樹脂硬化工程において前記ロータコアに対して前記軸方向に加える圧力を第1圧力として、前記溶接工程は、前記ロータコアを、前記第1圧力より小さい第2圧力で前記軸方向に加圧した状態で行うロータの製造方法。」と記載し、新たに請求項12とする。

(3)訂正事項3
ア.訂正事項3-1
特許請求の範囲の請求項5に「前記ロータコアは、当該ロータコアの径方向中央部を前記軸方向に貫通する貫通孔を更に備え、前記溶接工程では、前記貫通孔の内周面に対する溶接を行う請求項1から4のいずれか1項に記載のロータの製造方法。」とあるうち、請求項1、4を引用するものについて「前記ロータコアは、当該ロータコアの径方向中央部を前記軸方向に貫通する貫通孔を更に備え、前記溶接工程では、前記貫通孔の内周面に対する溶接を行う請求項1又は4に記載のロータの製造方法。」に訂正する。

イ.訂正事項3-2
特許請求の範囲の請求項5に「前記ロータコアは、当該ロータコアの径方向中央部を前記軸方向に貫通する貫通孔を更に備え、前記溶接工程では、前記貫通孔の内周面に対する溶接を行う請求項1から4のいずれか1項に記載のロータの製造方法。」とあるうち、請求項2、3を引用するものについて「前記ロータコアは、当該ロータコアの径方向中央部を前記軸方向に貫通する貫通孔を更に備え、前記溶接工程では、前記貫通孔の内周面に対する溶接を行う請求項2又は3に記載のロータの製造方法。」と記載し、新たに請求項13とする。

(4)訂正事項4
ア.訂正事項4-1
特許請求の範囲の請求項6に「前記ロータコアは、当該ロータコアの径方向中央部を軸方向に貫通する貫通孔を更に備え、前記溶接工程の後、前記貫通孔に支持部材を挿入し、当該支持部材と前記ロータコアの前記軸方向の両端部との接合部のみを溶接する支持部材固定工程を更に有する請求項1から5のいずれか1項に記載のロータの製造方法。」とあるうち、請求項1、4、5を引用するものについて「前記ロータコアは、当該ロータコアの径方向中央部を軸方向に貫通する貫通孔を更に備え、前記溶接工程の後、前記貫通孔に支持部材を挿入し、当該支持部材と前記ロータコアの前記軸方向の両端部との接合部のみを溶接する支持部材固定工程を更に有する請求項1、4、5のいずれか1項に記載のロータの製造方法。」に訂正する。

イ.訂正事項4-2
特許請求の範囲の請求項6に「前記ロータコアは、当該ロータコアの径方向中央部を軸方向に貫通する貫通孔を更に備え、前記溶接工程の後、前記貫通孔に支持部材を挿入し、当該支持部材と前記ロータコアの前記軸方向の両端部との接合部のみを溶接する支持部材固定工程を更に有する請求項1から5のいずれか1項に記載のロータの製造方法。」とあるうち、請求項2、3を引用するものについて「前記ロータコアは、当該ロータコアの径方向中央部を軸方向に貫通する貫通孔を更に備え、前記溶接工程の後、前記貫通孔に支持部材を挿入し、当該支持部材と前記ロータコアの前記軸方向の両端部との接合部のみを溶接する支持部材固定工程を更に有する請求項2又は3に記載のロータの製造方法。」と記載し、新たに請求項14とする。

(5)訂正事項5
ア.訂正事項5-1
特許請求の範囲の請求項7に「前記樹脂硬化工程が前記ロータコアの加熱工程を含み、前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う請求項1から6のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」とあるうち、請求項1、4?6を引用するものについて「前記樹脂硬化工程が前記ロータコアの加熱工程を含み、前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う請求項1、4から6のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」に訂正する。

イ.訂正事項5-2
特許請求の範囲の請求項7に「前記樹脂硬化工程が前記ロータコアの加熱工程を含み、前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う請求項1から6のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」とあるうち、請求項2を引用するものについて「前記樹脂硬化工程が前記ロータコアの加熱工程を含み、前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う請求項2に記載のロータの製造方法。」と記載し、新たに請求項15とする。

ウ.訂正事項5-3
特許請求の範囲の請求項7に「前記樹脂硬化工程が前記ロータコアの加熱工程を含み、前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う請求項1から6のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」とあるうち、請求項3を引用するものについて、独立形式に改め、「複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程と、前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有し、前記樹脂硬化工程が前記ロータコアの加熱工程を含み、前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行うロータの製造方法。」と記載し、新たに請求項16とする。

(6)訂正事項6
ア.訂正事項6-1
特許請求の範囲の請求項9に「前記樹脂硬化工程により、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面とを前記樹脂で固着させる請求項1から8のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」とあるうち、請求項1、4?8を引用するものについて「前記樹脂硬化工程により、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面とを前記樹脂で固着させる請求項1、4から8のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」に訂正する。

イ.訂正事項6-2
特許請求の範囲の請求項9に「前記樹脂硬化工程により、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面とを前記樹脂で固着させる請求項1から8のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」とあるうち、請求項2、3を引用するものについて「前記樹脂硬化工程により、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面とを前記樹脂で固着させる請求項2又は3に記載のロータの製造方法。」と記載し、新たに請求項17とする。

(7)訂正事項7
ア.訂正事項7-1
特許請求の範囲の請求項10に「前記樹脂は、加熱により膨張して硬化するように構成され、前記磁石挿入工程は、前記永久磁石に前記樹脂が塗布された状態で行う請求項1から9のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」とあるうち、請求項1、4?9を引用するものについて「前記樹脂は、加熱により膨張して硬化するように構成され、前記磁石挿入工程は、前記永久磁石に前記樹脂が塗布された状態で行う請求項1、4から9のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」に訂正する。

イ.訂正事項7-2
特許請求の範囲の請求項10に「前記樹脂は、加熱により膨張して硬化するように構成され、前記磁石挿入工程は、前記永久磁石に前記樹脂が塗布された状態で行う請求項1から9のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」とあるうち、請求項2、3を引用するものについて「前記樹脂は、加熱により膨張して硬化するように構成され、前記磁石挿入工程は、前記永久磁石に前記樹脂が塗布された状態で行う請求項2又は3に記載のロータの製造方法。」と記載し、新たに請求項18とする。

(8)訂正事項8
ア.訂正事項8-1
特許請求の範囲の請求項11に「前記溶接工程は、レーザ溶接により行う請求項1から10のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」とあるうち、請求項1、4?10を引用するものについて「前記溶接工程は、レーザ溶接により行う請求項1、4から10のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」に訂正する。

イ.訂正事項8-2
特許請求の範囲の請求項11に「前記溶接工程は、レーザ溶接により行う請求項1から10のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」とあるうち、請求項2、3を引用するものについて「前記溶接工程は、レーザ溶接により行う請求項2又は3に記載のロータの製造方法。」と記載し、新たに請求項19とする。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項3における複数枚の電磁鋼板を溶接する「溶接工程」に関して、「前記溶接工程では、複数枚の前記電磁鋼板を互いに溶接するための溶接対象箇所に、エネルギービームを前記軸方向に沿って移動させながら照射する」との事項を付加するものであるから、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。
また、明細書の段落【0029】には、「溶接工程S4では、例えば、ロータコア2に対して軸方向Lに第2圧力で加圧した状態で、溶接部10に電子ビームやレーザービーム等のエネルギービームBを照射して電磁鋼板3を溶融させ、その後凝固させることで、軸方向Lにおいて、隣接する複数枚の電磁鋼板3同士を溶接する」、また、「軸方向Lに沿って照射されるエネルギービームBによって、複数枚の電磁鋼板3が溶接し凝固」すると記載されており、当該記載の事項から、溶接工程S4において、複数枚の電磁鋼板を互いに溶接するための溶接対象箇所に、エネルギービームBを軸方向Lに沿って移動させながら照射することは明らかであるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、新規事項の追加に該当せず、さらに、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
加えて、訂正前の特許請求の範囲の請求項1-4、7-11について特許異議の申立てがされているので、訂正前の特許請求の範囲の請求項3に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項第2文の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項2について
ア.訂正事項2-1
訂正事項2-1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項4が請求項1から3のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項3を引用しないものとする訂正であって、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項2-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、新規事項の追加に該当せず、さらに、訂正事項2-1は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
加えて、訂正前の特許請求の範囲の請求項1-4、7-11について特許異議の申立てがされているので、訂正前の特許請求の範囲の請求項4に係る訂正事項2-1に関して、特許法第120条の5第9項第2文の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、独立特許要件は課されない。

イ.訂正事項2-2
訂正事項2-2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項4が請求項1から3のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項1、2を引用しないものとした上で、請求項3を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式の請求項(新たな請求項12)へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び同項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
また、訂正事項2-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、新規事項の追加に該当せず、さらに、訂正事項2-2は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
加えて、訂正前の特許請求の範囲の請求項1-4、7-11について特許異議の申立てがされているので、訂正前の特許請求の範囲の請求項4に係る訂正事項2-2に関して、特許法第120条の5第9項第2文の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項3について
ア.訂正事項3-1
訂正事項3-1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項5が請求項1から4のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項2、3を引用しないものとする訂正であって、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項3-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、新規事項の追加に該当せず、さらに、訂正事項3-1は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
加えて、訂正事項3-1に係る訂正後の請求項5は、請求項1又は訂正後の請求項4を引用するものである。そして、請求項1、訂正後の請求項4は、後述する第5 3.(1)ア.及びエ.、(2)ア.及びエ.、並びに(3)ア.で示すように特許法第29条の規定に違反して特許されたものではないから、これらを引用する訂正後の請求項5に係る発明も同様に同条の規定に違反するものでなく、また、訂正後の請求項5について、他に特許にすることができない理由を発見しない。したがって、訂正後の請求項5に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができたものであり、特許法第120条の5第9項第2文の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件を満たす。

イ.訂正事項3-2
訂正事項3-2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項5が請求項1から4のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項1、4を引用しないものとして新たに請求項13とする訂正であって、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項3-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、新規事項の追加に該当せず、さらに、訂正事項3-2は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
加えて、訂正事項3-2に係る訂正後の請求項13は、請求項2又は訂正後の請求項3を引用するものである。そして、請求項2、訂正後の請求項3は、後述する第4 3.(1)ア.及びイ.、(2)ア.及びイ.、第5 3.(1)イ.及びウ.、(2)イ.及びウ.、並びに4.(1)ア.で示すように特許法第29条及び第29条の2の規定に違反して特許されたものではないから、これらを引用する訂正後の請求項13に係る発明も同様に同条の規定に違反するものでなく、また、訂正後の請求項13について、他に特許にすることができない理由を発見しない。したがって、訂正後の請求項13に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができたものであり、特許法第120条の5第9項第2文の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件を満たす。

(4)訂正事項4について
ア.訂正事項4-1
訂正事項4-1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項6が請求項1から5のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項2、3を引用しないものとする訂正であって、引用する請求項を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項4-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、新規事項の追加に該当せず、さらに、訂正事項4-1は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
加えて、訂正事項4-1に係る訂正後の請求項6は、請求項1、訂正後の請求項4、5を引用するものであり、請求項1又は訂正後の請求項4を直接的に又は間接的に引用するものである。そして、請求項1、訂正後の請求項4は、後述する第5 3.(1)ア.及びエ.、(2)ア.及びエ.、並びに(3)ア.で示すように特許法第29条の規定に違反して特許されたものではないから、これらを引用する訂正後の請求項6に係る発明も同様に同条の規定に違反するものでなく、また、訂正後の請求項6について、他に特許にすることができない理由を発見しない。したがって、訂正後の請求項6に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができたものであり、特許法第120条の5第9項第2文の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件を満たす。

イ.訂正事項4-2
訂正事項4-2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項6が請求項1から5のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項1、4、5を引用しないものとして新たに請求項14とする訂正であって、引用する請求項を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項4-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、新規事項の追加に該当せず、さらに、訂正事項4-2は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
加えて、訂正事項4-2に係る訂正後の請求項14は、請求項2又は訂正後の請求項3を引用するものである。そして、請求項2、訂正後の請求項3は、後述する第4 3.(1)ア.及びイ.、(2)ア.及びイ.、第5 3.(1)イ.及びウ.、(2)イ.及びウ.、並びに4.(1)ア.で示すように特許法第29条及び第29条の2の規定に違反して特許されたものではないから、これらを引用する訂正後の請求項14に係る発明も同様に同条の規定に違反するものでなく、また、訂正後の請求項14について、他に特許にすることができない理由を発見しない。したがって、訂正後の請求項14に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができたものであり、特許法第120条の5第9項第2文の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件を満たす。

(5)訂正事項5について
ア.訂正事項5-1
訂正事項5-1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項7が請求項1から6のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項2、3を引用しないものとする訂正であって、引用する請求項を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項5-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、新規事項の追加に該当せず、さらに、訂正事項5-1は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
加えて、訂正前の特許請求の範囲の請求項1-4、7-11について特許異議の申立てがされているので、訂正前の特許請求の範囲の請求項7に係る訂正事項5-1に関して、特許法第120条の5第9項第2文の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、独立特許要件は課されない。

イ.訂正事項5-2
訂正事項5-2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項7が請求項1から6のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項1、3-6を引用しないものとして新たに請求項15とする訂正であって、引用する請求項を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項5-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、新規事項の追加に該当せず、さらに、訂正事項5-2は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
加えて、訂正前の特許請求の範囲の請求項1-4、7-11について特許異議の申立てがされているので、訂正前の特許請求の範囲の請求項7に係る訂正事項5-2に関して、特許法第120条の5第9項第2文の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、独立特許要件は課されない。

ウ.訂正事項5-3
訂正事項5-3は、訂正前の特許請求の範囲の請求項7が請求項1から6のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項1、2、4-6を引用しないものとした上で、請求項3を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項(新たな請求項16)へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び同第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。
また、訂正事項5-3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、新規事項の追加に該当せず、さらに、訂正事項5-3は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
加えて、訂正前の特許請求の範囲の請求項1-4、7-11について特許異議の申立てがされているので、訂正前の特許請求の範囲の請求項7に係る訂正事項5-3に関して、特許法第120条の5第9項第2文の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、独立特許要件は課されない。

(6)訂正事項6について
ア.訂正事項6-1
訂正事項6-1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項9が請求項1から8のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項2、3を引用しないものとする訂正であって、引用する請求項を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項6-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、新規事項の追加に該当せず、さらに、訂正事項6-1は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
加えて、訂正前の特許請求の範囲の請求項1-4、7-11について特許異議の申立てがされているので、訂正前の特許請求の範囲の請求項9に係る訂正事項6-1に関して、特許法第120条の5第9項第2文の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、独立特許要件は課されない。

イ.訂正事項6-2
訂正事項6-2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項9が請求項1から8のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項1、4-8を引用しないものとして新たに請求項17とする訂正であって、引用する請求項を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項6-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、新規事項の追加に該当せず、さらに、訂正事項6-2は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
加えて、訂正前の特許請求の範囲の請求項1-4、7-11について特許異議の申立てがされているので、訂正前の特許請求の範囲の請求項9に係る訂正事項6-2に関して、特許法第120条の5第9項第2文の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、独立特許要件は課されない。

(7)訂正事項7について
ア.訂正事項7-1
訂正事項7-1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項10が請求項1から9のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項2、3を引用しないものとする訂正であって、引用する請求項を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項7-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、新規事項の追加に該当せず、さらに、訂正事項7-1は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
加えて、訂正前の特許請求の範囲の請求項1-4、7-11について特許異議の申立てがされているので、訂正前の特許請求の範囲の請求項10に係る訂正事項7-1に関して、特許法第120条の5第9項第2文の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、独立特許要件は課されない。

イ.訂正事項7-2
訂正事項7-2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項10が請求項1から9のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項1、4-9を引用しないものとして新たに請求項18とする訂正であって、引用する請求項を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項7-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、新規事項の追加に該当せず、さらに、訂正事項7-2は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
加えて、訂正前の特許請求の範囲の請求項1-4、7-11について特許異議の申立てがされているので、訂正前の特許請求の範囲の請求項10に係る訂正事項7-2に関して、特許法第120条の5第9項第2文の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、独立特許要件は課されない。

(8)訂正事項8について
ア.訂正事項8-1
訂正事項8-1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項11が請求項1から10のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項2、3を引用しないものとする訂正であって、引用する請求項を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項8-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、新規事項の追加に該当せず、さらに、訂正事項8-1は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
加えて、訂正前の特許請求の範囲の請求項1-4、7-11について特許異議の申立てがされているので、訂正前の特許請求の範囲の請求項11に係る訂正事項8-1に関して、特許法第120条の5第9項第2文の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、独立特許要件は課されない。

イ.訂正事項8-2
訂正事項8-2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項11が請求項1から10のいずれか1項の記載を引用する記載であるところ、請求項1、4-10を引用しないものとして新たに請求項19とする訂正であって、引用する請求項を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項8-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、新規事項の追加に該当せず、さらに、訂正事項8-2は、特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
加えて、訂正前の特許請求の範囲の請求項1-4、7-11について特許異議の申立てがされているので、訂正前の特許請求の範囲の請求項11に係る訂正事項8-2に関して、特許法第120条の5第9項第2文の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の規定により、独立特許要件は課されない。

3.一群の請求項ごとに訂正を請求することについて
訂正前の請求項3-11について、請求項4-11は、請求項3を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項3-11に対応する訂正後の請求項3-19は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。そして、本件訂正は、訂正前の請求項3-11を訂正することを請求するものであるから、一群の請求項ごとに訂正を請求するものである。

4.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第7項までの規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3-19〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正後の請求項1-19に係る発明(以下、「本件発明1」-「本件発明19」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1-19に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

1.本件発明1
「【請求項1】
複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、
前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、
前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させる樹脂硬化工程と、
前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコアの前記軸方向における全域にわたって連続的に、前記複数枚の電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有するロータの製造方法。」

2.本件発明2
「【請求項2】
複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、
前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、
前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させる樹脂硬化工程と、
前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコアの前記軸方向における一部の領域にわたって複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有するロータの製造方法。」

3.本件発明3
「【請求項3】
複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、
前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、
前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程と、
前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有し、
前記溶接工程では、複数枚の前記電磁鋼板を互いに溶接するための溶接対象箇所に、エネルギービームを前記軸方向に沿って移動させながら照射するロータの製造方法。」

4.本件発明4
「【請求項4】
前記樹脂硬化工程において前記ロータコアに対して前記軸方向に加える圧力を第1圧力として、
前記溶接工程は、前記ロータコアを、前記第1圧力より小さい第2圧力で前記軸方向に加圧した状態で行う請求項1又は2に記載のロータの製造方法。」

5.本件発明5
「【請求項5】
前記ロータコアは、当該ロータコアの径方向中央部を前記軸方向に貫通する貫通孔を更に備え、
前記溶接工程では、前記貫通孔の内周面に対する溶接を行う請求項1又は4に記載のロータの製造方法。」

6.本件発明6
「【請求項6】
前記ロータコアは、当該ロータコアの径方向中央部を軸方向に貫通する貫通孔を更に備え、
前記溶接工程の後、前記貫通孔に支持部材を挿入し、当該支持部材と前記ロータコアの前記軸方向の両端部との接合部のみを溶接する支持部材固定工程を更に有する請求項1、4、5のいずれか1項に記載のロータの製造方法。」

7.本件発明7
「【請求項7】
前記樹脂硬化工程が前記ロータコアの加熱工程を含み、
前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う請求項1、4から6のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」

8.本件発明8
「【請求項8】
前記加熱工程は、前記樹脂の硬化のための工程である請求項7記載のロータの製造方法。」

9.本件発明9
「【請求項9】
前記樹脂硬化工程により、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面とを前記樹脂で固着させる請求項1、4から8のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」

10.本件発明10
「【請求項10】
前記樹脂は、加熱により膨張して硬化するように構成され、
前記磁石挿入工程は、前記永久磁石に前記樹脂が塗布された状態で行う請求項1、4から9のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」

11.本件発明11
「【請求項11】
前記溶接工程は、レーザ溶接により行う請求項1、4から10のいずれか一項に記載のロータの製造方法。」

12.本件発明12
「【請求項12】
複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、
前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、
前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程と、
前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有し、
前記樹脂硬化工程において前記ロータコアに対して前記軸方向に加える圧力を第1圧力として、
前記溶接工程は、前記ロータコアを、前記第1圧力より小さい第2圧力で前記軸方向に加圧した状態で行うロータの製造方法。」

13.本件発明13
「【請求項13】
前記ロータコアは、当該ロータコアの径方向中央部を前記軸方向に貫通する貫通孔を更に備え、
前記溶接工程では、前記貫通孔の内周面に対する溶接を行う請求項2又は3に記載のロータの製造方法。」

14.本件発明14
「【請求項14】
前記ロータコアは、当該ロータコアの径方向中央部を軸方向に貫通する貫通孔を更に備え、
前記溶接工程の後、前記貫通孔に支持部材を挿入し、当該支持部材と前記ロータコアの前記軸方向の両端部との接合部のみを溶接する支持部材固定工程を更に有する請求項2又は3に記載のロータの製造方法。」

15.本件発明15
「【請求項15】
前記樹脂硬化工程が前記ロータコアの加熱工程を含み、
前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う請求項2に記載のロータの製造方法。」

16.本件発明16
「【請求項16】
複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、
前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、
前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程と、
前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有し、
前記樹脂硬化工程が前記ロータコアの加熱工程を含み、
前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行うロータの製造方法。」

17.本件発明17
「【請求項17】
前記樹脂硬化工程により、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面とを前記樹脂で固着させる請求項2又は3に記載のロータの製造方法。」

18.本件発明18
「【請求項18】
前記樹脂は、加熱により膨張して硬化するように構成され、
前記磁石挿入工程は、前記永久磁石に前記樹脂が塗布された状態で行う請求項2又は3に記載のロータの製造方法。」

19.本件発明19
「【請求項19】
前記溶接工程は、レーザ溶接により行う請求項2又は3に記載のロータの製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
訂正前の請求項に係る特許に対して、当審が令和3年2月24日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(進歩性)訂正前の請求項2-3、7-9、11に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項2-3、7-9、11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、訂正前の請求項2-3、7-9、11に係る発明は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

引用文献1:特開2007-282358号公報(甲第2号証)
引用文献2:特開平6-297182号公報(甲第5号証)
引用文献3:特開2017-11891号公報(甲第8号証)

2.引用文献の記載事項
(1)引用文献1(甲第2号証)
ア.引用文献1の記載
引用文献1には以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下、同様である。)
(ア)「【0016】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る回転子積層鉄心10は、鉄心片11の積層により形成され、中央に軸孔12、軸孔12の周囲に複数の磁石挿入孔13を備えた基準積層体14と、基準積層体14の磁石挿入孔13にそれぞれ挿入される永久磁石15と、磁石挿入孔13に挿入された永久磁石15の上部及び周囲に充填され、基準積層体14及び永久磁石15を一体化する樹脂部材16とを有する基準ブロックコア17を複数有している。以下詳細に説明する。」

(イ)「【0017】
図2(A)に示すように、鉄心片11は、薄板材の一例である厚みが0.5mm以下の電磁鋼板を環状に打ち抜いて形成され、中央に平面視して円形の第1の開口18、第1の開口18の周囲に複数の平面視して円形の第2の開口19、第1の開口18の半径方向外側で第2の開口19より半径方向内側の位置に平面視して円形の第3の開口20を備えている。なお、第3の開口部20は、第2の開口部19より半径方向外側の位置に形成することもできる。また、第1の開口18の側部には、例えば平面視して矩形状の切り欠き21が形成されている。そして、基準積層体14は、予め設定した枚数の鉄心片11を、第1、第2、第3の開口18?20の軸心及び切り欠き21の平面視した位置をそれぞれ実質的に一致させながら順次積層することにより形成されている。その結果、基準積層体14には、中央に第1の開口18の連通により軸孔12が、軸孔12の周囲に第2の開口19の連通により複数の磁石挿入孔13が、軸孔12の半径方向外側で磁石挿入孔13より半径方向内側の位置に、第3の開口20の連通により貫通孔22がそれぞれ形成され、軸孔12の側部には切り欠き21の連通により溝部23が形成される。」

(ウ)「【0018】
図2(B)に示すように、基準積層体14に形成されている磁石挿入孔13内にそれぞれ挿入される永久磁石15は、その長さが磁石挿入孔13の深さより短く(磁石挿入孔13の深さと永久磁石15の長さの差が、例えば、0.15?0.4mm)調整されている。このため、磁石挿入孔13に永久磁石15を挿入すると、永久磁石15の上端面と基準積層体14の上面との間に段差が形成され、この段差の存在により後述する樹脂部材16の充填が可能になる。ここで、樹脂部材16には、例えば、熱硬化性樹脂を使用することができ、加熱して流動状態とした樹脂原料を永久磁石15が挿入された磁石挿入孔13内に注入して硬化させると、図2(C)に示すように、磁石挿入孔13内に挿入された永久磁石15の上部及び周囲に樹脂部材16が充填されて、永久磁石15と基準積層体14とを一体化することにより、基準ブロックコア17を形成している。」

(エ)「【0019】
図2(D)に示すように、回転子積層鉄心10は、初めに載置された(最下層の)基準ブロックコア17に対して、予め設定した個数の基準ブロックコア17をその軸心回りにそれぞれ回転させながら、しかも、軸孔12の軸心、貫通孔22の軸心、及び溝部23の平面視した位置が実質的に一致するように積層し、積層した基準ブロックコア17同士の接合部に形成する溶接部24と、積層した基準ブロックコア17の貫通孔22の連通により形成される連結孔25及び連結孔25に嵌入する連結ピン26とにより構成される連結部27により一体化されることにより製造される。」

(オ)「【0020】
続いて、本発明の一実施の形態に係る回転子積層鉄心10の製造方法について説明する。
図2(A)に示すように、電磁鋼板の打ち抜きにより、中央に第1の開口18、第1の開口18の周囲に複数の第2の開口19、第1の開口18の半径方向外側で第2の開口19より半径方向内側の位置に第3の開口20を備え、第1の開口18の側部には切り欠き21が設けられている鉄心片11を形成する。そして、打ち抜いて形成した鉄心片11を搬送トレイ30上で必要枚数まで積層する。ここで、搬送トレイ30は、鉄心片11が載置される、例えば、板状の載置部31と、載置部31の中央部に立設され鉄心片11の第1の開口18に嵌入するガイド部材32とを有している。なお、ガイド部材32の側部には、第1の開口18に形成された切り欠き21に嵌入する図示しない掛止部が設けられ、鉄心片11の切り欠き21がこの掛止部に嵌入するように載置部31に載置されると、第1?第3の開口18?30の軸心がそれぞれ実質的に一致するようになっている。その結果、搬送トレイ30上には、鉄心片11の積層により、溝部23を有する軸孔12が中央に設けられ、軸孔12の周囲に複数の磁石挿入孔13を備えた基準積層体14が形成される。」

(カ)「【0021】
次いで、図2(B)に示すように、基準積層体14に形成された各磁石挿入孔13内に永久磁石15を挿入する。なお、各磁石挿入孔13内に永久磁石15が挿入されているか否かの確認は、図示しない磁石検知器により行なう。永久磁石15が挿入された基準積層体14は搬送トレイ30に載置された状態で予熱装置にて樹脂部材16が溶融する温度まで予め昇温された後、図示しない搬送路によって図4に示す樹脂封止装置33まで搬送される。」

(キ)「【0022】
樹脂封止装置33は、例えば、基準積層体14が載置された搬送トレイ30を載せて昇降する下型34と、基準積層体14の上に搭載され、下型34の上昇に伴って上昇する上型35を備えている。ここで、下型34には、載置された基準積層体14を加熱する図示しない加熱手段が設けられ、上型35は、基準積層体14の磁石挿入孔13に対して半径方向内側の領域に、樹脂部材16の樹脂原料(タブレットともいう)36を入れる複数の樹脂溜めポット37と、樹脂溜めポット37内の樹脂原料36を加熱して溶融させる図示しない加熱手段と、底部に設けられ溶融状態の樹脂原料36、すなわち樹脂部材16を磁石挿入孔13内に導く樹脂流路(ランナーともいう)38を有している。」

(ク)「【0024】
このような構成とすることにより、基準積層体14が載置された搬送トレイ30を樹脂封止装置33の下型34に載置し、上型35と下型34の間に配置された基準積層体14を、上型35及び下型34で上下方向から押圧して、上型35の下面48及び下型34上の載置部31の上面49をそれぞれ基準積層体14の上面及び下面に密着させることができる。これにより、樹脂溜めポット37内で溶融している樹脂原料36をプランジャー40で押し出し樹脂流路38を介して磁石挿入孔13内に注入させることができる。そして、磁石挿入孔13内の永久磁石15の上部及び周囲に注入された樹脂部材16は、下型34の加熱手段で加熱して硬化させることができる。その結果、磁石挿入孔13内の永久磁石15の上部及び周囲が樹脂部材16で充填され、永久磁石15と基準積層体14が一体化されて基準ブロックコア17が形成される(以上、第1工程)。」

(ケ)「【0025】
続いて、図2(D)に示すように、作製された基準ブロックコア17を図示しない組み立て基板上に、予め設定した個数の基準ブロックコア17をその軸心回りに一定角度ずつ回転させながら、しかも、軸孔12の軸心、貫通孔22の軸心、軸孔12に形成された溝部23の平面視した位置、及び本実施の形態では磁石挿入孔13(永久磁石15)の軸心位置が実質的に一致するように積層(転積)する。」

(コ)「【0026】
従って、積層した基準ブロックコア17には、軸孔12の連通により中央に回転軸取付け孔28が、回転軸取付け孔28の半径方向外側に貫通孔22の連通により連結孔25が、更に、回転軸取付け孔28の側部に溝部23の連通によりキー溝29がそれぞれ形成される。このため、連結孔25に連結ピン26を嵌入し、基準ブロックコア17同士を溶接(例えば、TIG溶接、レーザー溶接、電子ビーム溶接)により固着することで、積層された基準ブロックコア17同士が連結され一体化して回転子積層鉄心10が得られる(以上、第2工程)。」

(サ)記載事項(ア)、(イ)、及び図2の図示内容によると、基準積層体14は、複数枚の鉄心片11を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔13を備えているといえる。

(シ)記載事項(ア)-(ウ)、(カ)、(ク)、及び図2の図示内容によると、磁石挿入孔13に永久磁石15を挿入した後、基準積層体14を軸方向に押圧した状態で、前記磁石挿入孔13の内面と前記永久磁石15の外面との間に設けられた樹脂部材16を硬化させ、これにより、複数枚の鉄心片11を一体化させて基準ブロックコア17を形成しているといえる。

(ス)記載事項(エ)、(ケ)、(コ)、及び図2の図示内容によると、基準ブロックコア17を積層し、積層した前記基準ブロックコア17同士をレーザー溶接により固着しているといえる。

イ.引用文献1に記載された発明
上記ア.(ア)-(ス)、及び図面の図示内容を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

<引用発明1>
「複数枚の鉄心片11を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔13を備えた基準積層体14を形成する工程と、
前記磁石挿入孔13に永久磁石15を挿入する工程と、
前記永久磁石15を挿入する工程の後、前記基準積層体14を前記軸方向に押圧した状態で、前記磁石挿入孔13の内面と前記永久磁石15の外面との間に設けられた樹脂部材16を硬化させることで、前記複数枚の鉄心片11を一体化させて基準ブロックコア17を形成する工程と、
前記基準ブロックコア17を形成する工程の後、前記基準ブロックコア17を積層し、積層した前記基準ブロックコア17同士をレーザー溶接により固着する工程と、を有する回転子積層鉄心10の製造方法。」

(2)引用文献2(甲第5号証)
ア.引用文献2の記載
引用文献2には以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 重量比でSi:4.3?7.1%を含有し、板厚が0.07mm以上0.8mm以下である電磁鋼薄板の被溶接部を150℃以上600℃以下である予熱温度に加熱して溶接を行うとともに、溶接後は溶接部が150℃から50℃まで冷却される間の冷却速度を0.1℃/SEC以上2℃/SEC以下とすることを特徴とする高珪素電磁鋼薄板の溶接方法。」

(イ)「【0025】(実施例3)ここでは、小型モーター用鉄心の溶接を例にとり本溶接方法の実施例を述べる。図2中1は抜き打ちされた高珪素鋼板を重ねたものである。溶接は部材1全体を150℃まで昇温した後、パルスYAGを用いて2a,2b,2cにおいて溶接を行った。溶接条件には周波数100Hz、パルス出力1J/パルス、パルス幅2msec、溶接速度1m/minを採用した。溶接後は冷却速度1℃/SECで部材1を冷却した。その結果、溶接部およびその近傍において割れの発生のないことを確認した。」

イ.引用文献2に記載の事項
上記(ア)及び(イ)によると、引用文献2には次の事項が記載されている。

小型モータ用鉄心を溶接する方法において、溶接部に割れが生じることを防止するために、電磁鋼板を重ねたものを所定の予熱温度で加熱した後に溶接する点。

(3)引用文献3(甲第8号証)
ア.引用文献3の記載
引用文献3には以下の事項が記載されている。

(ア)「【0006】
そこで、本発明では、バリ除去作業を行わなくても、ロータコアとエンドプレートとの密着が阻害されるのを抑制できるロータを提供することを目的とする。」

(イ)「【0018】
ロータコア22は、それぞれ円環状に打ち抜き加工された多数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成されている。ロータコア22を構成する各電磁鋼板は、一括してカシメ、接着、溶接等の方法によって一体的に連結されている。」

(ウ)「【0021】
図3は、図2における1つの磁極23が配置されたロータコア22の一部分を拡大して示す図である。図3に示すように、ロータコア22には、永久磁石31,32,33を挿入する収納穴41,42,43が設けられている。収納穴41,42,43は、ロータコア22の端面に開口部を有し、ロータコア22の軸方向に延設されている。」

(エ)「【0024】
図3のA-A断面図である図5に示すように、磁石保持部41aには、この磁石保持部41a内に永久磁石31を固定するための充填材50が充填されている。充填材50には、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性の樹脂材料が用いられる。充填材50は、ポケット部41b,41cにも充填されている。充填後の充填材50が硬化することによって、永久磁石31が磁石保持部41aに固定される。すなわち、収納穴41内に充填された充填材50が硬化することによって、永久磁石31は収納穴41に樹脂モールドされて固定される。」

(オ)「【0026】
また、収納穴42の磁石保持部42a、ポケット部42b、収納穴43の磁石保持部43a、ポケット部43bにも同様に、モールド型60の注入口61から充填材50が注入されて硬化されることによって、磁石保持部42a,43aに永久磁石32,33がそれぞれ固定される。永久磁石32,33も収納穴42,43に樹脂モールドされてそれぞれ固定される。」

(カ)「【0030】
充填材50の硬化後、ロータコア22の両端面には、エンドプレート24a,24bがそれぞれ固定される。エンドプレート24a,24bは、ロータコア22の軸方向端面と同形の円環状であり、例えば、ステンレス(SUS)の金属板から形成されている。エンドプレート24a、24bは、その外周における等間隔の複数個所において、ロータコア22にそれぞれ溶接されている。」

(キ)「【0035】
まず、ステップS10において、環状に打ち抜き加工された多数の電磁鋼板を軸方向に積層して、これら電磁鋼板をカシメ、溶接、接着等によって一体化して電磁鋼板積層体としてロータコア22を形成する。」

(ク)「【0036】
次に、ステップS20において、ロータコア22の収納穴41,42,43に永久磁石31,32,33を挿入する。」

(ケ)「【0037】
ステップS30において、永久磁石31,32,33が挿入されたロータコア22をモールド型60に装着する。モールド型60はロータコア22を上下から挟み込む。」

(コ)「【0038】
ステップS40において、モールド型60の注入口61等からロータコア22の磁石保持部41a,42a,43aの注入部51,52a,53a及びポケット部42b,43bの注入部52b,53bに充填材50を注入する。充填材50の注入により、磁石保持部41a,42a,43a及びポケット部41b,41c,42b,42c,43b,43cに充填材50が充填されて充填材50で満たされる。この充填材50の充填は、各磁極23毎に行ってもよいし、8組の磁極23の全て同時に行ってもよい。」

(サ)「【0039】
そして、ステップS50において、ロータコア22を加熱することによって充填材50を硬化させて、永久磁石31,32,33をロータコア22の収納穴41,42,43に固定する。」

(シ)「【0041】
モールドバリ55を除去していないロータコア22に回転軸21を固定する。そして、エンドプレート24aの凹部25をモールドバリ55に対向させて、エンドプレート24aをロータコア22に固定する。同様にエンドプレート24bもロータコア22に固定する。これによりロータ20の製造が完了する。

(ス)記載事項(イ)、(ウ)、(キ)、及び図1、2、4、5、7の図示内容によると、ロータ20の製造工程のステップS10において、複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる収納穴41、42、43を備えたロータコア22を形成しているといえる。

(セ)記載事項(ウ)、(ク)、及び図1、2、4、5、7の図示内容によると、ロータ20の製造工程のステップS20において、収納穴41、42、43に永久磁石31、32、33を挿入しているといえる。

(ソ)記載事項(エ)、(オ)、(ケ)-(サ)、及び図1、2、4、5、7の図示内容によると、ロータ20の製造工程のステップS30-50において、ロータコア22を上下から挟み込んだ状態で、収納穴41、42、43の内面と永久磁石31、32、33の外面との間に設けられた充填材50を硬化させることで、複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させているといえる。

(タ)溶接に関して、記載事項(カ)によると、エンドプレート24a、24bは、外周における複数箇所において、ロータコア22に溶接されていることから、記載事項(シ)において、エンドプレート24a,24bを「ロータコア22に固定する」としているのは、溶接によって固定するものであることは明らかである。すると、記載事項(カ)、(シ)、及び図1、2、4、5、7の図示内容から、ロータ20の製造工程のステップS60において、エンドプレート24a、24bを、その外周における複数の箇所において、複数枚の電磁鋼板が一体化されたロータコア22にそれぞれ溶接しているといえる。

イ.引用文献3に記載された発明
上記ア.(ア)-(タ)、及び図面の図示内容を総合すると、引用文献3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。

<引用発明3>
「複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる収納穴41、42、43を備えたロータコア22を形成するステップS10と、
前記収納穴41、42、43に永久磁石31、32、33を挿入するステップS20と、
前記ステップS20の後、前記ロータコア22を上下から挟み込んだ状態で、前記収納穴41、42、43の内面と前記永久磁石31、32、33の外面との間に設けられた充填材50を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させるステップS30-50と、
前記ステップS30-50の後、エンドプレート24a、24bを、その外周における複数の箇所において、前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコア22にそれぞれ溶接するステップS60と、を有するロータ20の製造方法。」

3.当審の判断
(1)引用文献1(甲第2号証)を主引用例とした場合
ア.本件発明2
以下、本件発明2と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「鉄心片11」、「磁石挿入孔13」、「基準積層体14」は、それぞれ本件発明2の「電磁鋼板」、「磁石挿入孔」、「ロータコア」に相当する。すると、引用発明1の「複数枚の鉄心片11を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔13を備えた基準積層体14を形成する工程」は、本件発明2の「複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程」に相当する。
(イ)引用発明1の「永久磁石15」は、本件発明2の「永久磁石」に相当する。すると、引用発明1の「前記磁石挿入孔13に永久磁石15を挿入する工程」は、本件発明2の「前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程」に相当する。
(ウ)引用発明1の「押圧した状態」、「樹脂部材16」は、それぞれ本件発明2の「加圧した状態」、「樹脂」に相当する。そして、引用発明1の「前記複数枚の鉄心片11を一体化させて基準ブロックコア17を形成する」という事項は、樹脂部材16の硬化によって一つの基準積層体14を構成する複数枚の鉄心片11の全てを一体化することで、基準ブロックコア17を形成することであるから、本件発明2の「前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させる」という事項に相当する。すると、引用発明1の「前記永久磁石15を挿入する工程の後、前記基準積層体14を前記軸方向に押圧した状態で、前記磁石挿入孔13の内面と前記永久磁石15の外面との間に設けられた樹脂部材16を硬化させることで、前記複数枚の鉄心片11を一体化させて基準ブロックコア17を形成する工程」は、本件発明2の「前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させる樹脂硬化工程」に相当する。
(エ)引用発明1の「基準ブロックコア17」は、本件発明2の「前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコア」に相当する。また、引用発明1の「積層した前記基準ブロックコア17同士をレーザー溶接により固着する工程」は、互いに積層した二つの基準ブロックコア17のうち、一方の基準ブロックコア17を形成する端部の鉄心片11と他方の基準ブロックコア17を形成する端部の鉄心片11とを溶接する工程であるといえる。すると、引用発明1の「前記基準ブロックコア17を形成する工程の後、前記基準ブロックコア17を積層し、積層した前記基準ブロックコア17同士をレーザー溶接により固着する工程」と本件発明2の「前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコアの前記軸方向における一部の領域にわたって複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程」とは、「前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコアの前記電磁鋼板を溶接する溶接工程」である点で共通する。

そうすると、本件発明2と引用発明1とは、
「複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、
前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、
前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させる樹脂硬化工程と、
前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコアの前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有するロータの製造方法。」
である点で一致し、以下の相違点1で相違する。

[相違点1]
溶接工程において、本件発明2は、「前記ロータコアの前記軸方向における一部の領域にわたって複数枚の」前記電磁鋼板を溶接するのに対し、引用発明1は、「積層した前記基準ブロックコア17同士をレーザー溶接」することで鉄心片11を溶接しているものの、樹脂部材16を硬化させることで一体化された鉄心片11のうちの複数枚の鉄心片11を溶接しているのか明らかでない点。

以下、相違点1について検討する。
積層された電磁鋼板を軸方向に溶接する際に、隣接する2枚の電磁鋼板のみを溶接することは、乙第1号証(特開昭56-66023号公報)の第2ページ右下欄第3-10行、第6図、乙第2号証(特開平9-219941号公報)の段落【0033】、【0038】、図1及び4、乙第3号証(特開平11-74130号公報)の段落【0025】、図6、乙第4号証(特開2000-37049号公報)の段落【0038】、図11、乙第5号証(特開2000-209792号公報)の段落【0003】、図7で示されるように、周知の技術であり、積層方向に隣接する2枚の電磁鋼板のみを溶接することは広く行われていた事項であるから、引用発明1は、2つの基準ブロックコア17の端に位置し、対向する2枚の「鉄心片11」同士のみを溶接し得るものであって、必ずしも基準ブロックコア17を構成する樹脂部材16により一体化された「鉄心片11」の「複数枚」が溶接されるとはいえない。そして、引用文献1には、基準ブロックコア17同士を溶接で固着する際に、樹脂部材16により一体化された「複数枚の鉄心片11」を含む範囲を溶接する技術思想については記載も示唆もされていないため、相違点1に係る「前記ロータコアの前記軸方向における一部の領域にわたって複数枚の」前記電磁鋼板を溶接することが、引用発明1に基いて当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。
そして、本件発明2は「前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコアの前記軸方向における一部の領域にわたって複数枚の」前記電磁鋼板を溶接することにより、「軸方向の残留応力に対する剛性が高く、複数枚の電磁鋼板を接合する溶融凝固部に割れが生じることを抑制できる」(本件特許明細書の段落【0009】)という格別な効果を奏するものである。
したがって、本件発明2は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

特許異議申立人は、令和3年8月10日に提出した意見書の「第4 1.(2)」において、「すなわち、引用文献1は上記のとおり、隣り合う2枚の電磁鋼板を溶接する形態も、基準ブロックコアを構成する複数枚の電磁鋼板を溶接する形態も、どちらも開示しているといえるのであるが、特許権者は前者の形態のみを引用発明と認識しており、審判官合議体は後者の形態のみを引用発明として認識している点で、特許権者も審判官とも引用発明の認定に誤りがある。このように、引用文献1は、基準ブロックコアを構成する複数枚の電磁鋼板を溶接する形態を含んで開示しているのであり、当該形態は請求項2に係る発明と一致する。」と主張している。
しかし、引用文献1に、上位概念である“基準ブロックコア同士を溶接する形態”が記載されているからといって、その下位概念である「隣り合う2枚の電磁鋼板を溶接する形態」や、「基準ブロックコアを構成する複数枚の電磁鋼板を溶接する形態」までもが記載されているとはいえない。そうすると、引用文献1には、“基準ブロックコア同士を溶接する形態”の記載はあるものの、「基準ブロックコアを構成する複数枚の電磁鋼板を溶接する形態」が開示されているとは認められないから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

イ.本件発明3
以下、本件発明3と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「鉄心片11」、「磁石挿入孔13」、「基準積層体14」は、それぞれ本件特許発明3の「電磁鋼板」、「磁石挿入孔」、「ロータコア」に相当する。すると、引用発明1の「複数枚の鉄心片11を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔13を備えた基準積層体14を形成する工程」は、本件発明3の「複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程」に相当する。
(イ)引用発明1の「永久磁石15」は、本件発明3の「永久磁石」に相当する。すると、引用発明1の「前記磁石挿入孔13に永久磁石15を挿入する工程」は、本件発明3の「前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程」に相当する。
(ウ)引用発明1の「押圧した状態」、「樹脂部材16」は、それぞれ本件発明3の「加圧した状態」、「樹脂」に相当する。そして、引用発明1の「前記複数枚の鉄心片11を一体化させて基準ブロックコア17を形成する」という事項は、樹脂部材16の硬化によって一つの基準積層体14を構成する複数枚の鉄心片11を一体化することで、基準ブロックコア17を形成することであるから、本件発明3の「前記複数枚の電磁鋼板を一体化させる」という事項に相当する。すると、引用発明1の「前記永久磁石15を挿入する工程の後、前記基準積層体14を前記軸方向に押圧した状態で、前記磁石挿入孔13の内面と前記永久磁石15の外面との間に設けられた樹脂部材16を硬化させることで、前記複数枚の鉄心片11を一体化させて基準ブロックコア17を形成する工程」は、本件発明3の「前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程」に相当する。
(エ)引用発明1の「基準ブロックコア17」は、本件発明3の「前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板」に相当する。また、引用発明1の「積層した前記基準ブロックコア17同士をレーザー溶接により固着する工程」は、互いに積層した二つの基準ブロックコア17のうち、一方の基準ブロックコア17を形成する端部の鉄心片11と他方の基準ブロックコア17を形成する端部の鉄心片11とを溶接する工程であるといえる。すると、引用発明1の「前記基準ブロックコア17を形成する工程の後、前記基準ブロックコア17を積層し、積層した前記基準ブロックコア17同士をレーザー溶接により固着する工程」と本件発明3の「前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程」とは、「前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程」である点で共通する。

そうすると、本件発明3と引用発明1とは、
「複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、
前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、
前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程と、
前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有するロータの製造方法。」
である点で一致し、以下の相違点2及び相違点3で相違する。

[相違点2]
溶接工程において、本件発明3は、「前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の」前記電磁鋼板を溶接するのに対し、引用発明1は、「積層した前記基準ブロックコア17同士をレーザー溶接」することで鉄心片11を溶接しているものの、樹脂部材16を硬化させることで一体化された鉄心片11のうちの複数枚の鉄心片11を溶接しているのか明らかでない点。

[相違点3]
溶接工程において、本件発明3は、「複数枚の前記電磁鋼板を互いに溶接するための溶接対象箇所に、エネルギービームを前記軸方向に移動させながら照射する」のに対し、引用発明1は、「積層した前記基準ブロックコア17同士をレーザー溶接」するものの、樹脂部材16で一体化された複数枚の鉄心片11を互いに溶接するように、レーザービームを軸方向に移動させて照射しているのか不明な点。

以下、相違点2について検討する。
積層された電磁鋼板を軸方向に溶接する際に、隣接する2枚の電磁鋼板のみを溶接することは、上記ア.において提示した乙第1号証?乙第5号証で示されるように、周知の技術であり、積層方向に隣接する2枚の電磁鋼板のみを溶接することは広く行われていた事項であるから、引用発明1は、2つの基準ブロックコア17の端に位置し、対向する2枚の「鉄心片11」同士のみを溶接し得るものであって、必ずしも基準ブロックコア17を構成する樹脂部材16により一体化された「鉄心片11」の「複数枚」が溶接されるとはいえない。そして、引用文献1には、基準ブロックコア17同士を溶接で固着する際に、樹脂部材16により一体化された「複数枚の鉄心片11」を含む範囲を溶接する技術思想については記載も示唆もされていないため、相違点2に係る「前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の」前記電磁鋼板を溶接することが、引用発明1に基いて当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。
そして、本件発明3は「前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の」前記電磁鋼板を溶接することにより、「軸方向の残留応力に対する剛性が高く、複数枚の電磁鋼板を接合する溶融凝固部に割れが生じることを抑制できる」(本件特許明細書の段落【0009】)という格別な効果を奏するものである。
したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明3は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

特許異議申立人は、令和3年8月10日に提出した意見書の「第4 2.(2)」において、「請求項2において述べたように、引用文献1は、基準ブロックコアを構成する複数枚の電磁鋼板を溶接する形態を含んで開示している。」と主張している。
しかし、引用文献1には、“基準ブロックコア同士を溶接する形態”の記載はあるものの、「基準ブロックコアを構成する複数枚の電磁鋼板を溶接する形態」を開示していない。そして、引用文献1に、上位概念である“基準ブロックコア同士を溶接する形態”が記載されているからといって、下位概念である「基準ブロックコアを構成する複数枚の電磁鋼板を溶接する形態」が引用文献1に記載されているとは認められないから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

ウ.本件発明15,17,19
請求項15,17,19は、請求項2又は3を引用するものであり、本件発明15,17,19は、本件発明2又は本件発明3の上記発明特定事項を備え、さらに限定するものであるから、本件発明15,17,19と引用発明1とを対比すると、両者は少なくとも相違点1又は相違点2で相違している。
そして、上記ア.又はイ.で述べたとおり、相違点1又は相違点2に係る本件発明15,17,19の発明特定事項は、引用発明1に基いて当業者が容易になし得たこととはいえず、また、引用文献2に記載された事項を考慮しても同様に、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明15,17,19は、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ.本件発明16
本件訂正後の請求項16は、本件訂正前の請求項7のうち、本件訂正前の請求項3を引用するものについて、独立形式に改めて記載したものである。そして、上記相違点2に係る本件発明3の発明特定事項は、訂正前の請求項3にも記載されていた事項である。したがって、本件発明16と引用発明1とを対比すると、両者は少なくとも相違点2において相違している。

相違点2について検討すると、上記イ.で述べたとおり、相違点2に係る本件発明16の発明特定事項は、引用発明1に基いて当業者が容易になし得たこととはいえず、また、引用文献2に記載された事項を考慮しても同様に、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明16は、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)引用文献3(甲第8号証)を主引用例とした場合

<優先権主張の効果について>
a.本件発明2、3、12、16について
本件発明2は、「前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコアの前記軸方向における一部の領域にわたって複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程」との発明特定事項を備えるものである。
また、本件発明3、12、16は、「前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程」との発明特定事項を備えるものである。
本件特許に係る特願2018-505788号の優先権主張の基礎とされた特願2016-49923号(以下、「優先基礎出願」という。)における[背景技術]及び[発明が解決しようとする課題]の記載によれば、優先基礎出願は、軸方向における鉄心の全域にわたって連続的に複数枚の電磁鋼板を溶接する際に、鉄の占有率を高めるために鉄心を軸方向に加圧すると、加圧を解除したときに鉄心の残留応力により溶接部の割れが生じてしまうので、これを解決することを目的としたものである。したがって、優先基礎出願は、鉄心を軸方向の全域にわたって連続的に溶接することを前提とするものである。
そして、優先基礎出願の出願当初の明細書及び特許請求の範囲、(以下、「優先基礎出願当初明細書等」という。)には、「溶接工程」に関して、「前記磁石固着工程の後、前記軸方向における前記ロータコアの全域にわたって連続的に、前記複数枚の電磁鋼板を溶接する溶接工程」(段落[0007])、「溶接工程S4は、磁石固着工程S3より後に行われる工程であり、軸方向Lにおけるロータコア2の全域にわたって連続的に、複数枚の電磁鋼板3を溶接する工程である。」(段落[0029])等の記載があり、軸方向におけるロータコアの全域にわたって連続的に複数枚の電磁鋼板を溶接することが記載されている。
しかしながら、本件発明2、3、12、16の上記発明特定事項は、優先基礎出願当初明細書には記載されていないし、また、優先基礎出願当初明細書等の記載事項を総合することにより導き出せるものでもない。

b.本件発明7、8、10、15、16、18について
本件発明7、15、16は、「前記樹脂硬化工程が前記ロータコアの加熱工程を含み、前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う」との発明特定事項を備えるものである。
また、本件特許発明8は、「前記加熱工程は、前記樹脂の硬化のための工程である」との発明特定事項を備えるものである。
さらに、本件発明10、18は、「前記樹脂は、加熱により膨張して硬化するように構成され、前記磁石挿入工程は、前記永久磁石に前記樹脂が塗布された状態で行う」との発明特定事項を備えるものである。

本件発明7、8、10、15、16、18の上記発明特定事項は、発泡樹脂25が塗布された永久磁石4を磁石挿入孔7内に挿入して、当該発泡樹脂25を加熱・膨張させるという、本件特許明細書の[第二の実施形態]に関するものである。しかし、永久磁石4の外面と磁石挿入孔7の内面とを固着させる形態として、優先基礎出願当初明細書等には、溶融した樹脂材9を磁石挿入孔7に充填して硬化することの記載はあるものの、上記[第二の実施形態]に関しては何ら記載されていない。
そうすると、本件発明7、8、10、15、16、18の上記発明特定事項は、優先基礎出願当初明細書には記載されていないし、また、優先基礎出願当初明細書等の記載事項を総合することにより導き出せるものであるともいえない。

以上a.b.より、本件発明2-19(本件発明2、3、7、8、10、12、15、16、18と[請求項2を直接的に又は間接的に引用する本件発明4-6]、[請求項2、7、8を直接的に又は間接的に引用する本件発明9、11]、及び[請求項2又は3を直接的に引用する本件発明13、14、17、19])は、優先権主張の利益を享受することができないので、当該発明についての新規性進歩性等の判断の基準日は、本件特許の国際出願日である平成29年2月28日となる。

ア.本件発明2
以下、本件発明2と引用発明3とを対比する。
(ア)引用発明3の「収納穴41、42、43」、「ロータコア22」は、それぞれ本件発明2の「磁石挿入孔」及び「ロータコア」に相当する。すると、引用発明3の「複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる収納穴41、42、43を備えたロータコア22を形成するステップS10」は、本件発明2の「複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程」に相当する。
(イ)引用発明3の「永久磁石31、32、33」は、本件発明2の「永久磁石」に相当する。すると、引用発明3の「前記収納穴41、42、43に永久磁石31、32、33を挿入するステップS20」は、本件発明2の「前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程」に相当する。
(ウ)引用発明3の「上下から挟み込んだ状態」、「充填材50」は、それぞれ本件発明2の「前記軸方向に加圧した状態」、「樹脂」に相当する。すると、引用発明3の「前記ステップS20の後、前記ロータコア22を上下から挟み込んだ状態で、前記収納穴41、42、43の内面と前記永久磁石31、32、33の外面との間に設けられた充填材50を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させるステップS30-50」は、本件発明2の「前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させる樹脂硬化工程」に相当する。
(エ)引用発明3の「前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコア22」は、充填材50を硬化させることで複数枚の電磁鋼板が一体化されたものであるから、引用発明3の「前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコア」に相当する。また、引用発明3の「エンドプレート24a、24bを、その外周における複数の箇所において、前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコア22にそれぞれ溶接するステップS60」は、エンドプレート24a、24bと複数枚の電磁鋼板が一体化されたロータコア22とを外周における複数の箇所で溶接するステップであり、エンドプレート24a、24bをロータコア22に溶接するために、ロータコア22を形成する電磁鋼板のうち、少なくともエンドプレート24a、24bに隣接する電磁鋼板を軸方向に溶接しているといえる。一方、本件発明2の「前記ロータコアの前記軸方向における一部の領域にわたって複数枚の前記電磁鋼板を溶接する」とは、軸方向における一部の領域にわたって複数枚の電磁鋼板を溶接していれば、当該領域以外の部分についてもあわせて溶接することを含むものと解される。すると、引用発明3の「前記ステップS30-50の後、エンドプレート24a、24bを、その外周における複数の箇所において、前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコア22にそれぞれ溶接するステップS60」と本件発明2の「前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコアの前記軸方向における一部の領域にわたって複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程」とは、「前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコアの前記電磁鋼板を溶接する溶接工程」である点で共通する。

そうすると、本件発明2と引用発明3とは、
「複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、
前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、
前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させる樹脂硬化工程と、
前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコアの前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有するロータの製造方法。」
である点で一致し、以下の相違点4で相違する。

[相違点4]
溶接工程において、本件発明2は、「前記ロータコアの前記軸方向における一部の領域にわたって複数枚の」前記電磁鋼板を溶接するのに対し、引用発明3は、エンドプレート24a、24bを複数枚の電磁鋼板が一体化されたロータコア22に溶接するものの、ロータコア22の「軸方向における一部の領域にわたって複数枚の」前記電磁鋼板を溶接するのか明らかでない点。

以下、相違点4について検討する。
ロータコアを形成する電磁鋼板の1枚の厚みが数mm程度である極めて薄いものを含むことは、本件特許の出願前において広く知られた事項である。
しかしながら、ロータコアを形成する電磁鋼板が極めて薄いものであったとしても、電磁鋼板の1枚の厚みよりもエンドプレートをロータコアに固定する際の溶接範囲の方が常に大きくなるとはいえず、引用発明3において、必ずしも充填材50により一体化された電磁鋼板が「複数枚」溶接されるとはいえない。そして、引用文献3には、エンドプレート24a、24bをロータコア22に溶接する際に、充填材50により一体化された「複数枚の電磁鋼板」を含む範囲を溶接する技術思想については記載も示唆もされていないため、相違点4に係る「前記ロータコアの前記軸方向における一部の領域にわたって複数枚の」前記電磁鋼板を溶接することが、引用発明3に基いて当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。
そして、本件発明2は「前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコアの前記軸方向における一部の領域にわたって複数枚の」前記電磁鋼板を溶接することにより、「軸方向の残留応力に対する剛性が高く、複数枚の電磁鋼板を接合する溶融凝固部に割れが生じることを抑制できる」(本件特許明細書の段落【0009】)という格別な効果を奏するものである。
したがって、本件発明2は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

特許異議申立人は、令和3年8月10日に提出した意見書の「第4 1.(3)」において、「すなわち、引用文献3は上記のとおり、エンドプレートとそれに隣り合う電磁鋼板のみを溶接する形態も、ロータコア22を構成する複数の電磁鋼板をエンドプレートと共に溶接する形態も、どちらも開示しているといえるのであるが、特許権者は前者の形態のみを引用発明と認識しており、審判官合議体は後者の形態のみを引用発明として認識している点で、特許権者も審判官とも引用発明の認定に誤りがある。このように、引用文献3は、ロータコア22を構成する複数の電磁鋼板をエンドプレートと共に溶接する形態を含んで開示しているのであり、当該形態は請求項2に係る発明と一致する。」と主張している。
しかし、引用文献3に、上位概念である“エンドプレートをロータコア22に溶接する形態”が記載されているからといって、その下位概念である「エンドプレートとそれに隣り合う電磁鋼板のみを溶接する形態」や、「ロータコア22を構成する複数の電磁鋼板をエンドプレートと共に溶接する形態」までもが引用文献3に記載されているとはいえない。そうすると、引用文献3には、“エンドプレートをロータコア22に溶接する形態”の記載はあるものの、「ロータコア22を構成する複数の電磁鋼板をエンドプレートと共に溶接する形態」が開示されているとは認められないから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

イ.本件発明3
以下、本件発明3と引用発明3とを対比する。
(ア)引用発明3の「収納穴41、42、43」、「ロータコア22」は、それぞれ本件発明3の「磁石挿入孔」及び「ロータコア」に相当する。すると、引用発明3の「複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる収納穴41、42、43を備えたロータコア22を形成するステップS10」は、本件発明3の「複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程」に相当する。
(イ)引用発明3の「永久磁石31、32、33」は、本件発明3の「永久磁石」に相当する。すると、引用発明3の「前記収納穴41、42、43に永久磁石31、32、33を挿入するステップS20」は、本件発明3の「前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程」に相当する。
(ウ)引用発明3の「上下から挟み込んだ状態」、「充填材50」は、それぞれ本件発明3の「前記軸方向に加圧した状態」、「樹脂」に相当する。すると、引用発明3の「前記ステップS20の後、前記ロータコア22を上下から挟み込んだ状態で、前記収納穴41、42、43の内面と前記永久磁石31、32、33の外面との間に設けられた充填材50を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させるステップS30-50」は、本件発明3の「前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程」に相当する。
(エ)引用発明3の「前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコア22」は、充填材50を硬化させることで複数枚の電磁鋼板が一体化されたものであるから、引用発明3の「前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板」に相当する。また、引用発明3の「エンドプレート24a、24bを、その外周における複数の箇所において、前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコア22にそれぞれ溶接するステップS60」は、エンドプレート24a、24bと複数枚の電磁鋼板が一体化されたロータコア22とを外周における複数の箇所で溶接するステップであり、エンドプレート24a、24bをロータコア22に溶接するために、ロータコア22を形成する電磁鋼板のうち、少なくともエンドプレート24a、24bに隣接する電磁鋼板を軸方向に溶接しているといえる。一方、本件発明3の「樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する」とは、軸方向の領域内において複数枚の電磁鋼板を溶接していれば、当該領域以外の部分についてもあわせて溶接することを含むものと解される。すると、引用発明3の「前記ステップS30-50の後、エンドプレート24a、24bを、その外周における複数の箇所において、前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコア22にそれぞれ溶接するステップS60」と本件発明3の「前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程」とは、「前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程」である点で共通する。

そうすると、本件発明3と引用発明3とは、
「複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、
前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、
前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程と、
前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有するロータの製造方法。」
である点で一致し、以下の相違点5及び相違点6で相違する。

[相違点5]
溶接工程において、本件発明3は、「前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の」前記電磁鋼板を溶接するのに対し、引用発明3は、エンドプレート24a、24bを複数枚の電磁鋼板が一体化されたロータコア22に溶接するものの、ロータコア22の「軸方向の領域内において複数枚の」前記電磁鋼板を溶接するのか明らかでない点。

[相違点6]
溶接工程において、本件発明3は、「複数枚の前記電磁鋼板を互いに溶接するための溶接対象箇所に、エネルギービームを前記軸方向に移動させながら照射する」のに対し、引用発明3は、充填材50で一体化された複数枚の電磁鋼板を互いに溶接するための溶接対象箇所に、エネルギービームを軸方向に移動させながら照射しているのか不明な点。

以下、相違点5について検討する。
ロータコアを形成する電磁鋼板の1枚の厚みが数mm程度である極めて薄いものを含むことは、本件特許の出願前において広く知られた事項である。
しかしながら、ロータコアを形成する電磁鋼板が極めて薄いものであったとしても、電磁鋼板の1枚の厚みよりもエンドプレートをロータコアに固定する際の溶接範囲の方が常に大きくなるとはいえず、引用発明3において、必ずしも充填材50により一体化された電磁鋼板が「複数枚」溶接されるとはいえない。そして、引用文献3には、エンドプレート24a、24bをロータコア22に溶接する際に、充填材50により一体化された「複数枚の電磁鋼板」を含む範囲を溶接する技術思想については記載も示唆もされていないため、相違点5に係る「前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の」前記電磁鋼板を溶接することが、引用発明3に基いて当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。
そして、本件発明3は「前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の」前記電磁鋼板を溶接することにより、「軸方向の残留応力に対する剛性が高く、複数枚の電磁鋼板を接合する溶融凝固部に割れが生じることを抑制できる」(本件特許明細書の段落【0009】)という格別な効果を奏するものである。
したがって、相違点6について検討するまでもなく、本件発明3は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.本件発明15,17,19
請求項15,17,19は、請求項2又は3を引用するものであり、本件発明15,17,19は、本件発明2又は本件発明3の上記発明特定事項を備え、さらに限定するものであるから、本件発明15,17,19と引用発明3とを対比すると、両者は少なくとも相違点4又は相違点5で相違している。
そして、上記ア.又はイ.で述べたとおり、相違点4又は相違点5に係る本件発明15,17,19の発明特定事項は、引用発明3に基いて当業者が容易になし得たこととはいえず、また、引用文献2に記載された事項を考慮しても同様に、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明15,17,19は、引用発明3及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ.本件発明16
本件訂正後の請求項16は、本件訂正前の請求項7のうち、本件訂正前の請求項3を引用するものについて、独立形式に改めて記載したものである。そして、上記相違点5に係る本件発明3の発明特定事項は、訂正前の請求項3にも記載されていた事項である。したがって、本件発明16と引用発明3とを対比すると、両者は少なくとも相違点5において相違している。

相違点5について検討すると、上記イ.で述べたとおり、相違点5に係る本件発明16の発明特定事項は、引用発明3に基いて当業者が容易になし得たこととはいえず、また、引用文献2に記載された事項を考慮しても同様に、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明16は、引用発明3及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.申し立て理由の概要
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1-4、7-11について、以下(1)?(6)を主張する。

(1)特許法第29条第1項第3号及び同条第2項(同法第113条第2号)
訂正前の請求項1-3、9、11に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明である。
訂正前の請求項1-4、7-9、11に係る発明は、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(2)特許法第29条第2項(同法第113条第2号)
訂正前の請求項1-4、7-9、11に係る発明は、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において頒布された甲第6号証に記載された発明及び甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(3)特許法第29条の2(同法第113条第2号)
訂正前の請求項2、3、9に係る発明は、本件基礎出願の出願前の甲第8号証に係る出願(以下、「先願8」という。)であって、本件基礎出願の出願後に出願公開がされた先願8の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件基礎出願の発明者が先願8の発明者と同一ではなく、また、本件基礎出願の出願人が、その出願時において、先願8の出願人と同一ではない。

(4)特許法第29条第1項第3号及び同条第2項(同法第113条第2号)
訂正前の請求項1-11に係る発明の特許性は、本件特許出願の現実の出願日である2017年2月28日を基準に判断されるべきである。
訂正前の請求項2、3、9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第8号証に記載された発明である。
訂正前の請求項2-4、7-9、11に係る発明は、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において頒布された甲第8号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第5号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(5)特許法第17条の2第3項(同法第113条第1号)
令和元年(2019年)年12月10日付けでされた請求項3に係る手続補正は、本件特許の出願当初明細書等に記載した範囲内においてしたものではない。

(6)特許法第36条第6項第1号及び同項第2号(同法第113条第4号)
訂正前の請求項7-11に係る発明は、明確ではなく、また、発明の詳細な説明に記載したものではない。

甲第1号証:国際公開第2011/114414号
甲第2号証:特開2007-282358号公報
甲第3号証:特開2008-054376号公報
甲第4号証:特開2007-336718号公報
甲第5号証:特開平6-297182号公報
甲第6号証:特開2013-258850号公報
甲第7号証:特開2011-234606号公報
甲第8号証:特開2017-011891号公報(特願2015-125495号)

2.甲第1号証?甲第8号証の記載事項
(1)甲第1号証
ア.甲第1号証の記載
甲第1号証には以下の事項が記載されている。
(ア)「[0023]本形態のロータ100は,図1および図2に示すように,平板状の電磁鋼板21が複数枚積層されたコア11と,コア11に固定されたシャフト12とを備えている。コア11には,各所に永久磁石14が埋め込まれている。すなわち,ロータ100は,永久磁石埋め込み型(IPM型)でインナーロータ型のモータに利用されるものである。

(イ)「[0025]これらの貫通孔のうち最も外周側には,複数の磁石用貫通孔23が配置されている。各磁石用貫通孔23には,コア11を積層方向に貫通する永久磁石14が埋め込まれている。」

(ウ)「[0029]さらに,ブリッジ部28には,溶接痕である内周側溶接部29が形成されている。内周側溶接部29は,ブリッジ部28を貫通し,壁面25aからシャフト12の一部にまで及んでいる。また,内周側溶接部29は,図2に示すように,コア11の積層方向の全体にわたって,筋状に形成されている。すなわち,内周側溶接部29は,シャフト12の軸方向に沿って,コア11の全体にわたって形成されている。」

(エ)「[0030]この内周側溶接部29は,コア11の全ての電磁鋼板21について,ブリッジ部28とシャフト12の表面部分とが溶接によって溶け合って一体化したことを示している。また,コア11を構成する電磁鋼板21同士も,ブリッジ部28が互いに溶け合って一体化したことを示している。この内周側溶接部29により,コア11中の隣り合う電磁鋼板21間の回転,コア11のシャフト12の周りの回転,および,コア11のシャフト12の軸方向への移動の,いずれも防止される。」

(オ)「[0032]さらに,溝31の積層方向の両端部には,溶接痕である外周側溶接部32,33が形成されている。このうち,外周側溶接部32は,コア11の積層方向の上面から5?10mm程度にわたって形成されている。本形態では,上側端面の電磁鋼板21Uを含む,10?20枚分の電磁鋼板21の厚さ(電磁鋼板21の1枚分の厚さは約0.5mm)に相当する。」

(カ)「[0033]また,外周側溶接部33は,コア11の積層方向の下面から5?10mm程度にわたって形成されている。本形態では,下側端面の電磁鋼板21Lを含む,10?20枚分の電磁鋼板21の厚さに相当する。」

(キ)「[0038][ロータの製造方法]続いて、ロータ100の製造方法について説明する。本形態では、次の5つの工程を順に行う。(1)打ち抜き工程 (2)積層工程 (3)シャフト挿入工程 (4)外周側溶接工程 (5)内周側溶接工程」

(ク)「[0040]次に,(2)積層工程において,コア11に必要な枚数の電磁鋼板41を積層する。このとき,各電磁鋼板41の貫通孔43,44,45,46の位置を合わせて積層する。これにより,各電磁鋼板の貫通孔43が重なって,コア11の磁石用貫通孔23となる。同様に,各電磁鋼板41の貫通孔44,45,46が重なって,それぞれコア11の軽量化用貫通孔24,溶接用貫通孔25,シャフト用貫通孔26となる。同様に,各電磁鋼板41の切欠き42が重なって,コア11の溝31となる。なお,この工程のすぐ後で,各磁石用貫通孔23にそれぞれ永久磁石を埋め込んでもよいし,もっと後の工程で埋め込んでもよい。」

(ケ)「[0042]次に,(4)外周側溶接工程において,図4に示すように,電子銃51を使用して電子ビーム溶接を行う。本工程では,まず,積層方向の下端側の電磁鋼板41の切欠き42(A)に電子ビーム52が当たるように,位置決めをしている。そして,電子ビーム52(A)を照射する。これにより,電子ビーム52(A)が当たった箇所が溶ける。さらに,電子ビーム52を照射させつつ,図4中左から右方向に,積層方向に沿って電子銃51を移動させる。そして,電子ビーム52の照射箇所が,5?10mm程度移動した位置である切欠き42(B)まで到達したら,コア11の下端部の電磁鋼板41同士を溶接したことになる。すなわち,外周側溶接部33が形成されたことになる。ここで,一旦,溶接を中断する。」

(コ)「[0043]その後,電子銃51を積層方向に沿って移動させ,積層方向の上端側の電磁鋼板41から5?10mm程度手前に位置する切欠き42(C)に電子ビーム52が当たるように,位置決めをする。そして,電子ビーム52の照射を再開する。これにより,電子ビーム52(C)が当たった箇所が溶ける。そして,電子ビーム52を照射させつつ,積層方向に沿って電子銃51を移動させる。そして,コア11の上端側の電磁鋼板41の切欠き42(D)まで移動したら,コア11の上端部の電磁鋼板41同士を溶接したことになる。すなわち,外周側溶接部32が形成されたことになる。この外周側の溶接を,外周側溶接部32,33の数分実施する。なお,電子銃51が複数ある場合には,複数の外周側溶接部32,33を同時に形成してもよい。」

(サ)「[0044]なお,(4)外周側溶接工程においては,各電磁鋼板41の積層状態を適切に保つために,図4に示したように各所を押さえつけることが望ましい。例えば,コア11の図中右端に治具61を配置するとともに,図中最も左側の電磁鋼板41を図中左から右側(図4中の白抜き矢印)へ押圧するとよい。また,シャフト12にも治具63を当てて,位置ずれが生じないようにすることが望ましい。あるいは,コア11の全体を積層方向に挟んでもよい。」

(シ)「[0045]次に,(5)内周側溶接工程において,図5に示すように,電子銃51を使用して電子ビーム溶接を行う。本工程では,まず,下端部の電磁鋼板41のブリッジ48(A)に電子ビーム52が当たるように,位置決めをしている。そして,電子ビーム52(A)を照射する。これにより,ブリッジ48(A)のうち電子ビーム52(A)が当たった箇所が溶ける。さらに,その周辺が溶け,溶融領域がシャフト12にまで及ぶ。この溶融した部分が固まることにより,この箇所において電磁鋼板41とシャフト12とが固定される。」

(ス)「[0046]さらに,電子ビーム52を照射させつつ,図5中左から右方向に,シャフト12の軸方向に沿って電子銃51を移動させる。ここで,電子ビーム52の入射方向を,溶接用貫通孔25の箇所におけるコア11の径方向とシャフト12の軸方向とがなす面内とする。これにより,ブリッジ48以外の箇所には,電子ビーム52が当たらないようにすることができる。」

(セ)「[0047]そして,上端部の電磁鋼板41のブリッジ48(B)まで到達したら,全ての電磁鋼板41のブリッジ48をシャフト12の外周面に溶接したことになる。すなわち,内周側溶接部29が形成されたことになる。従って,コア11の各電磁鋼板41がそれぞれシャフト12に固定される。この内周側の溶接を,内周側溶接部29の数分実施する。なお,電子銃51が複数ある場合には,複数の内周側溶接部29を同時に形成してもよい。」

(ソ)「[0067]また,例えば,コア11中の各鋼板同士を,カシメや溶接,接着,樹脂モールド等によってあらかじめ固定しておいてもよい。さらには,コア11として,円周方向に複数個に分割された分割コアを使用したものであってもよい。」

(タ)記載事項(ア)、(イ)、(キ)、(ク)、及び図1-3の図示内容によると、積層工程において、複数の電磁鋼板41が積層されることにより、積層方向に貫通する磁石用貫通孔23が設けられたロータ100のコア11が形成されるといえる。

(ソ)記載事項(ア)、(イ)、(キ)、(ク)、及び図1-3の図示内容によると、積層工程のすぐ後、磁石用貫通孔23に永久磁石14が埋め込まれるといえる。

(タ)記載事項(ウ)、(エ)、(シ)-(セ)、及び図2、5の図示内容によると、内周側溶接工程では、コア11を構成する全ての電磁鋼板41が積層方向において連続的に溶接され、互いに溶け合って一体化しているといえる。

(チ)記載事項(オ)、(カ)、(ケ)-(サ)、及び図2、4の図示内容によると、外周側溶接工程では、コア11を構成する複数の電磁鋼板41のうちの一部が積層方向において溶接され、互いに溶け合って一体化しているといえる。

(ツ)記載事項(ケ)-(サ)、及び図1-4の図示内容によると、外周側溶接工程では、複数の電磁鋼板41同士を互いに一体化するための切欠き42に、電子ビーム52を積層方向に沿って移動させながら照射しているといえる。

イ.甲第1号証に記載された発明
(ア)甲1発明1
上記ア.の記載事項(ア)-(タ)、及び図面の図示内容を総合すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されている。
<甲1発明1>
「複数枚の電磁鋼板41を積層して、積層方向に貫通する磁石用貫通孔23が設けられたロータ100のコア11を形成する積層工程と、
積層工程の後に、前記磁石用貫通孔23に永久磁石14を埋め込む工程と、
埋め込む工程の後に、前記コア11の積層方向全体にわたって連続的に前記複数枚の電磁鋼板41を溶接し、当該複数枚の電磁鋼板41を一体化する溶接工程と、を含む、永久磁石埋め込み型の積層型のロータ100の製造方法。」

(イ)甲1発明2
上記ア.の記載事項(ア)-(ソ)、(チ)、(ツ)、及び図面の図示内容を総合すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明2」という。)も記載されている。
<甲1発明2>
「複数枚の電磁鋼板41を積層して、積層方向に貫通する磁石用貫通孔23が設けられたロータ100のコア11を形成する積層工程と、
積層工程の後に、前記磁石用貫通孔23に永久磁石14を埋め込む工程と、
埋め込む工程の後に、前記コア11の積層方向において部分的に複数枚の前記電磁鋼板41を溶接し、複数枚の前記電磁鋼板41を一体化する溶接工程と、を含み
溶接工程では、複数枚の前記電磁鋼板41同士を互いに一体化するための切欠き42に,電子ビーム52を積層方向に沿って移動させながら照射する、永久磁石埋め込み型の積層型のロータ100の製造方法。」

(2)甲第2号証(引用文献1)
ア.甲第2号証の記載
甲第2号証には、上記第4 2.(1)「ア.引用文献1の記載」の(ア)-(ス)の事項が記載されている。

(3)甲第3号証
ア.甲第3号証の記載
甲第3号証には以下の事項が記載されている。
(ア)「【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1(A)、(B)に示すように、本発明の一実施の形態に係る回転子積層鉄心の樹脂封止方法は、複数の鉄心片10を積層して形成され中央の軸孔11の周囲に複数の磁石挿入孔(磁石挿入部の一例)12を有する鉄心本体13のそれぞれの磁石挿入孔12に永久磁石14を挿入した後、鉄心本体13を上型15と下型16(上型15及び下型16を総称して金型という)で挟んだ状態で、上型15に設けられた樹脂溜めポット(樹脂溜め部の一例)17から、磁石挿入孔12に樹脂部材18を充填して永久磁石14を固定する際に、ダミー板19を使用して回転子積層鉄心(以下、単に積層鉄心ともいう)20を製造する方法である。以下、詳しく説明する。」

(イ)「【0018】
まず、厚みが、例えば、0.5mm以下程度の電磁鋼板(図示しない)を環状に打抜き、この打ち抜かれた複数の鉄心片10を順次積層して鉄心本体13を形成する。この複数の鉄心片10の積層方法としては、かしめ、溶接、及び接着のいずれか1又は2以上を組み合わせて使用できるが、単に平積みするだけでもよい。
これにより、鉄心本体13の軸孔11の周囲に、上下方向に貫通した磁石挿入孔12が複数形成される。なお、磁石挿入孔の配置位置及び形状は、これに限定されるものではなく、例えば、従来公知の配置位置又は形状でもよい。」

(ウ)「【0023】
そして、ダミー板19が配置された鉄心本体13を傾け、ダミー板19とは反対の端面側から、各磁石挿入孔12内に永久磁石14を挿入する。次に、この鉄心本体13を、樹脂封止装置23の上型15と下型16で挟んだ状態で予熱して、上型15に設けられた樹脂溜めポット17から、各磁石挿入孔12に液状の樹脂部材18を充填して、樹脂部材18を硬化させ磁石挿入孔12内に永久磁石14を固定する。
なお、樹脂部材としては、例えば、従来半導体装置の製造に使用しているエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂を使用できる。また、鉄心本体13を、樹脂封止装置23の上型15と下型16に挟む前に、予め予熱装置で予熱するのがよい。」

(エ)「【0024】
図1(A)、(B)に示すように、樹脂封止装置23の上型15には、樹脂部材18の原料(ペレット状)を加熱して液状にする樹脂溜めポット17が、ダミー板19に当接する上型15の端部まで延在した状態で設けられている。
また、樹脂封止装置23には、樹脂溜めポット17内を上下方向に昇降可能なプランジャ24が設けられている。このプランジャ24より、樹脂溜めポット17から押し出された液状の樹脂部材18が、樹脂溜めポット17の下流側端部に連通し、上型15の下部表面とダミー板19の上部表面との間に形成された樹脂流路22を通り、樹脂注入孔21を介して最終的に磁石挿入孔12に充填される。そして、磁石挿入孔12に充填した樹脂部材18を加熱し硬化させることで、磁石挿入孔12内に挿入された永久磁石14を樹脂部材18で固定できる。」

(4)甲第4号証
ア.甲第4号証の記載
甲第4号証には以下の事項が記載されている。
(ア)「【0014】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1(A)、(B)、図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る回転子積層鉄心(以下、単に積層鉄心ともいう)10は、複数の鉄心片11、12を積層して構成され、中央に形成された軸孔13と、その周囲に形成された複数の磁石挿入孔(磁石挿入部の一例)14とを備え、磁石挿入孔14に永久磁石15を挿入して上型(即ち、金型)16と下型17で挟んだ状態で、上型16に設けられた樹脂溜めポット(樹脂溜め部の一例)18から、磁石挿入孔14に樹脂部材19を充填して固定したものである。」

(イ)「【0015】
図1(A)、(B)に示すように、積層鉄心10は、厚みが、例えば、0.5mm以下程度の電磁鋼板を環状に打抜き、この打ち抜かれた複数の鉄心片11、12を順次積層して構成されるものである。
なお、複数の鉄心片11、12の積層方法としては、かしめ、溶接、及び接着のいずれか1又は2以上を組み合わせて使用できるが、単に平積みするだけでもよい。」

(ウ)「【0016】
この積層鉄心10の中央に形成された軸孔13の周囲であって、上型16と当接する(即ち、上端部に位置する)鉄心片11を除いた他の鉄心片12には、上下方向に貫通した磁石挿入孔14が、複数(ここでは、2×8=16個)形成されている。具体的には、平面視してハ字状となった一対の磁石挿入孔14が、軸孔13を中心として等間隔に8組配置されている。この磁石挿入孔14に永久磁石15を挿入した後、これに樹脂部材19を充填して固化させている。樹脂部材としては、例えば、従来半導体装置の製造に使用しているエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用できる。」

(エ)「【0022】
次に、本発明の一実施の形態に係る回転子積層鉄心の樹脂封止方法について説明する。
まず、電磁鋼板(図示しない)を環状に打抜き、この打ち抜かれた複数の鉄心片12を順次積層し、最後に上型16に当接する鉄心片11を積層する。鉄心片12には、磁石挿入孔14を構成するための開口部が、また鉄心片11には、樹脂充填孔21が、それぞれ形成されている。
そして、この積層された鉄心片11、12を傾け、積層された鉄心片12の鉄心片11とは反対の端面側から、各磁石挿入孔14内に永久磁石15を挿入した後、この積層鉄心10を、図2に示す樹脂封止装置28の上型16と下型17で挟んだ状態で、上型16に設けられた樹脂溜めポット18から、各磁石挿入孔14に液状の樹脂部材19を充填して固定させる。」

(オ)「【0023】
樹脂封止装置28は、積層鉄心10の上部に設けている上型16と、下部に設けている下型17を有しており、この間に配置した積層鉄心10を上型16と下型17で挟み込んだ状態で押圧するものである。なお、上型16には、樹脂部材19の原料(ペレット状)を加熱して液状にする樹脂溜めポット18が、積層鉄心10に当接する上型16の端部まで延在した状態で設けられている。
この樹脂封止装置28の樹脂溜めポット18には、上下方向に昇降可能なプランジャ29が設けられている。このプランジャ29より、樹脂溜めポット18から押し出された液状の樹脂部材19が、樹脂溜めポット18の下流側端部に設けられた樹脂流路26、即ち上型16の下部表面と積層鉄心10の上部表面との間を通り、最終的に磁石挿入孔14に充填される。そして、磁石挿入孔14に充填した樹脂部材19を加熱し硬化させることで、磁石挿入孔14内に挿入された永久磁石15を樹脂部材19で固定できる。」

(5)甲第5号証(引用文献2)
ア.甲第5号証の記載
甲第5号証には、上記第4 2.(2)「ア.引用文献2の記載」の(ア)及び(イ)の事項が記載されている。

(6)甲第6号証
ア.甲第6号証の記載
甲第6号証には以下の事項が記載されている。
(ア)「【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、磁石からの放熱性を確保しつつ、端板の回転軸に対する固定力の低下を防止し得るようにした回転電機の回転子を提供することを解決すべき課題とする。」

(イ)「【0012】
本実施形態の回転子10は、図1及び図2に示すように、回転軸20の外周に嵌合固定され複数の磁石収容孔12を有する回転子鉄心11と、各磁石収容孔12にそれぞれ埋設された複数の磁石(永久磁石)13と、磁石収容孔12内に充填された樹脂部14と、回転子鉄心11の軸方向一方側(図1の右側)に配置され回転軸20に固定された第1端板15と、回転子鉄心11の軸方向他方側(図1の左側)に配置され回転軸20に固定された第2端板16と、を備えている。」

(ウ)「【0013】
回転子鉄心11は、中央に貫通孔11aを有する円環状の電磁鋼板を軸方向に複数積層して厚肉円筒状に形成されている。この回転子鉄心11は、回転軸20の外周に貫通孔11aを嵌合することにより固定されている。この回転子鉄心11の、固定子の内周面と対向する外周面側には、軸方向に貫通する複数(本実施形態では4個)の磁石収容孔12が周方向に所定距離を隔てて設けられている。各磁石収容孔12は、回転子鉄心11の中心軸線と直角方向の断面形状が長方形であり、2本の短辺間の中央を通り2本の短辺と平行な中心線が径方向に延びるように形成されている。」

(エ)「【0014】
各磁石収容孔12には、断面形状が長方形の磁石13がそれぞれ1個ずつ埋め込まれている。磁石13は、断面形状における2本の長辺が回転子鉄心11の内周側と外周側に位置するように磁石収容孔12内に埋め込まれている。この磁石13には、内周側と外周側にN極及びS極のどちらか一方の極性が形成されている。本実施形態では、4個の磁石13によって、極性が周方向に交互に異なるようにして4つの磁極(N極:2、S極:2)が形成されている。磁石13の軸方向長さは、磁石収容孔12の軸方向長さよりも所定長さ短くされている。磁石収容孔12に埋め込まれた磁石13は、軸方向一端側(図1の左側)の端面が回転子鉄心11の軸方向一端側の端面と面一となり、軸方向他端側(図1の右側)の端面が磁石収容孔12の軸方向他端側の開口から内側に入り込んだ所に位置する状態に埋め込まれている。」

(オ)「【0015】
樹脂部14は、磁石収容孔12内の所定位置に磁石13が挿入された後、磁石収容孔12内に形成された空間部に、例えばエポキシ系樹脂を主成分とする溶融樹脂を注入し、固化させることにより形成されている。本実施形態の場合、磁石収容孔12の全空間部に樹脂部14が充填されている。即ち、樹脂部14は、磁石収容孔12内に収容された磁石13の軸方向他端側に形成された他端側空間部、及び磁石収容孔12の壁面と磁石13の側周面との間に形成された周縁空間部に充填されている。この樹脂部14は、磁石収容孔12内に収容された磁石13を回転子鉄心11に固定するためのモールド樹脂として設けられている。」

(カ)「【0016】
回転子鉄心11の軸方向一方側(図1の右側)に配置された第1端板15は、アルミ系金属板でリング状に形成されている。第1端板15の外径は、回転子鉄心11の外径と略同じである。この第1端板15は、焼ばめによる固定手段により回転軸20の外周面に強固に嵌合固定されている。なお、第1端板15の回転軸20に対する軸方向固定力は、焼ばめ時の締め代を大きくすることによって、第2端板16よりも大きくなるように設定されている。この第1端板15は、回転子鉄心11の軸方向一方側の端面と面接触する状態に設けられている。従って、磁石収容孔12に収容された磁石13の軸方向他端側(図1の右側)の端面と第1端板15との間の軸方向範囲には、磁石収容孔12に充填された樹脂部14の一部が存在している。即ち、磁石収容孔12内に充填された樹脂部14は、磁石13と第1端板15との間の軸方向範囲にも存在している。」

(キ)「【0017】
一方、回転子鉄心11の軸方向他方側(図1の左側)に配置された第2端板16は、鉄系金属板でリング状に形成されている。第2端板16の外径は、回転子鉄心11の外径と略同じである。なお、第2端板16は、第1端板15と形成材料を異ならせることによって、第1端板15よりも軸方向の曲げ剛性が高くなるように設定されている。この第2端板16は、焼ばめによる固定手段により回転軸20の外周面に嵌合固定されている。この場合、第2端板16の回転軸20に対する軸方向固定力は、焼ばめ時の締め代を小さくすることによって、第1端板15よりも小さくなるように設定されている。」

(ク)「【0046】
例えば、上記実施形態1では、第1及び第2端板15,16は、回転軸20に対して焼ばめによる固定手段で固定されていたが、この他に、例えば圧入やかしめ、溶接等の固定手段を採用することができる。」

(ケ)記載事項(イ)、(ウ)、及び図1、2の図示内容によると、複数枚の電磁鋼板が積層されることにより、積層方向に貫通する磁石収容孔12が設けられた回転子鉄心11が形成されるといえる。

(コ)記載事項(エ)、及び図1、2の図示内容によると、磁石収容孔12に永久磁石13が埋め込まれているといえる。

(サ)記載事項(オ)、及び図1、2の図示内容によると、磁石収容孔12内に永久磁石13が挿入された後、磁石収容孔12内に形成された空間部の全体に溶融樹脂を注入・固化させることにより、樹脂部14が形成されているといえる。

(シ)記載事項(カ)-(ク)、及び図1、2の図示内容によると、回転子鉄心11の各端面に配置された端板15、16が回転軸20に対して溶接によって固定されているといえる。そして、端板15、16が回転子鉄心11に先に取り付けられていると、その後に永久磁石13や樹脂部14を磁石埋込孔12内に配置できないのであるから、端板15、16は、樹脂部14の充填後に回転子鉄心11に取り付けられることが明らかである。

イ.甲第6号証に記載された発明
上記ア.の記載事項(ア)-(シ)、及び図面の図示内容を総合すると、甲第6号証には次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されている。

<甲6発明>
「複数枚の電磁鋼板を積層して、積層方向に貫通する磁石収容孔12が設けられた回転子鉄心11を形成する工程と、
磁石収容孔12に永久磁石13を埋め込む工程と、
その後に、磁石収容孔12の空間部の全体に溶融樹脂を注入し、磁石収容孔12の壁面と永久磁石13との間に充填された樹脂部14を形成する樹脂モールド工程と、
樹脂モールド工程の後に、回転子鉄心11の各端面に端板15、16を配置して、端板15、16と回転軸20とを溶接によって固定する工程とを含む、IPM型の積層型の回転子10の製造方法。」

(7)甲第7号証
ア.甲第7号証の記載
甲第7号証には以下の事項が記載されている。
(ア)「【0032】
ロータ14は、図2に示すように、円環状の複数の鋼板を回転軸線方向に積層して厚肉円筒状に形成されたロータコア12と、このロータコア12の内部にそれぞれ円周方向に所定間隔を空けて極性が交互に異なるように配置された複数の永久磁石(磁極)13とを有する。」

(イ)「【0033】
ロータコア12の外周近傍部には、軸方向に貫通した所定数の磁石保持孔15がそれぞれ円周方向に所定間隔を空けて形成されている。本実施形態では、ロータコア12の外周側が開くハの字状に配置された一対の磁石保持孔15を一組として合計8組(16個)の磁石保持孔15が設けられている。各磁石保持孔15には、永久磁石13が軸方向に埋め込まれて固定保持されている。」

(ウ)「【0034】
ロータコア12の外周面には、図2及び図3に示すように、隣接する複数の鋼板を接合する溶接部21が外周面からの深さrwで形成されている。この溶接部21は、ロータコア12の回転軸線方向に対して所定角度傾斜して延在しており、ロータコア12の外周面の軸方向一端から他端まで連続して形成されている。これにより、溶接部21は、軸方向における一端部と他端部が、ロータコア12の回転軸線方向に対して傾斜した状態で電気的に接続されている。

(エ)「【0038】
また、本実施形態の溶接部21は、ロータコア12の軸方向一端から他端まで連続して形成されていることから、ロータコア12を構成する全ての積層鋼板を溶接で強固に固定することができるので、積層鋼板の剥がれを確実に防止しつつ、溶接部21に発生する渦電流損を低減して、回転電機1の回転効率を向上させることができる。」

(オ)「【0041】
〔変形例1〕図6は、変形例1に係るロータコアの一部分を示す斜視図である。変形例1の溶接部21Aは、ロータコア12の外周面の軸方向一端部(図6の上端部)に形成されている。即ち、この溶接部21Aは、ロータコア12の外周面において、軸方向一端から軸方向の中間部までロータコア12の回転軸線方向に対して所定角度傾斜して延在している。」

(カ)「【0043】
〔変形例2〕図7は、変形例2に係るロータコアの一部分を示す斜視図である。変形例2の溶接部21Bは、ロータコア12の外周面の軸方向他端部(図7の下端部)に形成されている。即ち、この溶接部21Bは、ロータコア12の外周面において、軸方向他端から軸方向の中間部までロータコア12の回転軸線方向に対して所定角度傾斜して延在している。」

(キ)「【0047】
〔変形例4〕図9は、変形例4に係るロータコアの一部分を示す斜視図である。変形例4の溶接部21Dは、ロータコア12の外周面の軸方向両端部にそれぞれ形成されている。即ち、この溶接部21Dは、ロータコア12の外周面において、軸方向一端から軸方向の中間部までロータコア12の回転軸線方向に対して所定角度傾斜して延在する第1溶接部21Dと、軸方向他端から軸方向の中間部までロータコア12の回転軸線方向に対して所定角度傾斜して延在する第2溶接部21Dとを有する。」

(ク)「【0049】
〔変形例5〕図10は、変形例5に係るロータコアの一部分を示す斜視図である。変形例5の溶接部21Eは、ロータコア12の外周面の軸方向両端部に、ロータコア12の回転軸線方向に対して所定角度傾斜して延在する状態にそれぞれ形成されている点で、変形例4の溶接部21Dと同様である。しかし、変形例5の溶接部21Eは、ロータコア12の外周面の軸方向両端部において、一対の永久磁石13の中間部(d軸)と対応する位置にのみ形成されている点で、変形例4の溶接部21Dと異なる。即ち、変形例5の溶接部21Eは、一対の永久磁石13の中間を通るd軸上を周方向斜めに横切るように形成されている。そして、軸方向一端部と軸方向他端部は、一対の永久磁石13の中間部(d軸)近傍に位置しており、溶接部21Eの周方向長さは1磁極ピッチの長さよりも短い。」

(ケ)「【0055】
〔変形例6〕図13は、変形例6に係るロータコアの一部分を示す斜視図である。変形例6は、ロータコア12の回転軸線方向に対して所定角度傾斜して延在する溶接部21Fが、ロータコア12の周方向に隣接して複数設けられており、隣接する2つの溶接部21Fは、周方向の離間距離がロータコア12の軸方向一端側よりも他端側の方が広いハの字形状に設けられている。変形例6の各溶接部21Fは、実施形態1の溶接部21と同様に、ロータコア12の外周面において、軸方向一端から軸方向他端までロータコア12の回転軸線方向に対して所定角度傾斜して延在しており、ロータコア12の周方向に1磁極ピッチに渡って形成されている。変形例6の場合には、実施形態1と同様の作用及び効果を奏する。」

(コ)「【0082】
また、上記実施形態では、ロータ14にエンドプレートが無い構造を前提としていたが、エンドプレートが有る構成であっても同様に溶接部21?24を設けることができる。但し、この場合、エンドプレートも積層鋼板と共に溶接部21?24で溶接するのが好ましい。従来のエンドプレートが有る構成の場合もロータ14の回転時に積層鋼板の外周部分が若干開くことがあるが、エンドプレートも積層鋼板と共に溶接すれば、その開きを防止することができる。」

(8)甲第8号証(引用文献3)
ア.甲第8号証の記載
甲第8号証には、第4 2.(3)「ア.引用文献3の記載」の(ア)-(タ)の事項が記載されている。

イ.甲第8号証に記載された発明
甲第8号証には、第4 2.(3)「イ.引用文献3に記載された発明」の引用発明3(以下、「甲8発明」という。)が記載されている。

<甲8発明>
「複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる収納穴41、42、43を備えたロータコア22を形成するステップS10と、
前記収納穴41、42、43に永久磁石31、32、33を挿入するステップS20と、
前記ステップS20の後、前記ロータコア22を上下から挟み込んだ状態で、前記収納穴41、42、43の内面と前記永久磁石31、32、33の外面との間に設けられた充填材50を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させるステップS30-50と、
前記ステップS30-50の後、エンドプレート24a、24bを、その外周における複数の箇所において、前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコア22にそれぞれ溶接するステップS60と、を有するロータ20の製造方法。」

3.新規性進歩性について
(1)甲第1号証を主引用例にした場合
ア.本件発明1
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、以下の相違点7で相違し、その余の点で一致する。

[相違点7]
本件発明1では、「前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させる樹脂硬化工程」を有し、「前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された」前記ロータコアの軸方向における全域にわたって溶接するのに対し、甲1発明1では、永久磁石14を埋め込む工程の後に樹脂硬化工程を有すること、及び樹脂により一体化された複数枚の電磁鋼板を溶接することが特定されていない点。

以下、相違点7について検討する。
上記2.(1)ア.の記載事項(ソ)によると、甲第1号証の段落【0067】には、「コア11中の各鋼板同士を,カシメや溶接,接着,樹脂モールド等によってあらかじめ固定しておいてもよい」との事項が記載されている。
しかし、コア11の各電磁鋼板41同士を樹脂モールドによってあらかじめ固定する事項が甲第1号証に記載されていたとしても、複数の電磁鋼板41に対してどのように樹脂をモールドするのかまでは記載されていない(特に、磁石用貫通孔23に永久磁石14を埋め込んだ後で、磁石用貫通孔23と永久磁石14との間を樹脂で硬化する事項は甲第1号証に記載されていない。)。また、甲第1号証には、積層方向に加圧した状態でコア11の各電磁鋼板41同士を樹脂モールドによってあらかじめ固定し、その後、積層方向に加圧した状態で樹脂により一体化された複数の電磁鋼板41を溶接する技術思想について記載も示唆もされていない。
よって、本件発明1は、甲1発明1と同一であるとはいえない。

甲第1号証には、記載事項(ソ)によると、「カシメや溶接,接着,樹脂モールド等」と記載されていることから、甲1発明1の「樹脂モールド」は強固に固定するものではないと解される。このことから、甲1発明1において、積層された電磁鋼板41を加圧しつつ樹脂モールドで固定することが当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、上記2.(2)-(4)の甲第2号証?甲第4号証で示されるように、IPM型の回転子積層鉄心において、積層鉄心を加圧しつつ、貫通孔である磁石挿入孔内に対して永久磁石を樹脂モールドで埋め込むことが、本件特許の優先日前において広く知られた事項であったとしても、甲第2号証?甲第4号証には、積層方向に加圧した状態で樹脂により一体化された複数枚の電磁鋼板を、積層方向に溶接する技術思想が記載も示唆もされておらず、甲第5号証にも同様に該技術思想が記載も示唆もされていないから、甲1発明1において、積層された電磁鋼板41を加圧しつつ、磁石用貫通孔23に対して永久磁石14を樹脂モールドで埋め込んで複数枚の電磁鋼板41を全て一体化した後で、樹脂により一体化された複数枚の電磁鋼板41を積層方向の全域にわたって連続的に溶接することの動機付けがなく、相違点7に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明1及び甲第2-5号証に記載の事項に基いて当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。

そして、本件発明1は、「前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させる樹脂硬化工程」を有し、「前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された」前記ロータコアの軸方向における全域にわたって溶接することにより、「軸方向の残留応力に対する剛性が高く、複数枚の電磁鋼板を接合する溶融凝固部に割れが生じることを抑制できる」(本件特許明細書の段落【0009】)」という格別な効果を奏するものである。

したがって、本件発明1は、甲1発明1及び甲第2-5号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

特許異議申立人は、特許異議申立書の「4(4)ア(イ)甲第1号証」において「段落0067によれば、コア11を構成する複数の電磁鋼板を樹脂モールドによってあらかじめ固定しておいてもよい旨の記載がある。ここで、甲第1号証において、ロータ100は、(1)打抜工程、(2)積層工程、(3)シャフト挿入工程、(4)外周側溶接工程、(5)内周側溶接工程を経て製造される(段落0038-0055参照)。これらの段落の記載に鑑みると、甲第1号証では、(4)及び(5)の溶接工程までは複数の電磁鋼板は一体化されていないのであるから、段落0067における「あらかじめ」とは、(4)及び(5)の溶接工程の前であると解される。」と主張し、甲1発明1の認定を行っている。
しかし、甲第1号証において、上記「コア11を構成する複数の電磁鋼板を樹脂モールドによってあらかじめ固定」する工程と溶接工程との関係について何ら記載されておらず、上記「コア11を構成する複数の電磁鋼板を樹脂モールドによってあらかじめ固定」する工程を導入することによって、電磁鋼板に対してどのような樹脂モールドが行われ、どのような溶接が行われるのか明らかでない。よって、「「あらかじめ」とは、(4)及び(5)の溶接工程の前である」という、上記特許異議申立人の主張を直ちに採用することはできない。仮に、(4)及び(5)の溶接工程の前に樹脂モールドを行ったとしても、甲第1号証には、積層方向に加圧した状態で磁石用貫通孔23と永久磁石14との間にある樹脂を硬化することで複数の電磁鋼板41を一体化させることや、積層方向に加圧した状態で樹脂により一体化された複数枚の電磁鋼板を溶接することが記載も示唆もされていないから、前記したように、相違点7に係る本件発明1の発明特定事項は当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

イ.本件発明2
本件発明2と甲1発明2とを対比すると、以下の相違点8で相違し、その余の点で一致する。

[相違点8]
本件発明2では、「前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させる樹脂硬化工程」を有し、「前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された」前記ロータコアの軸方向における一部の領域にわたって溶接するのに対し、甲1発明2では、永久磁石14を埋め込む工程の後に樹脂硬化工程を有すること、及び樹脂により一体化された複数枚の電磁鋼板を溶接することが特定されていない点。

以下、相違点8について検討する。
上記2.(1)ア.の記載事項(ソ)によると、甲第1号証の段落【0067】には、「コア11中の各鋼板同士を,カシメや溶接,接着,樹脂モールド等によってあらかじめ固定しておいてもよい」との事項が記載されている。
しかし、コア11の各電磁鋼板41同士を樹脂モールドによってあらかじめ固定する事項が甲第1号証に記載されていたとしても、複数の電磁鋼板41に対してどのように樹脂をモールドするのかまでは記載されていない(特に、磁石用貫通孔23に永久磁石14を埋め込んだ後で、磁石用貫通孔23と永久磁石との間を樹脂で硬化する事項は甲第1号証に記載されていない。)。また、甲第1号証には、積層方向に加圧した状態でコア11の各電磁鋼板41同士を樹脂モールドによってあらかじめ固定し、その後、積層方向に加圧した状態で樹脂により一体化された複数の電磁鋼板41を溶接する技術思想について記載も示唆もされていない。
よって、本件発明2は、甲1発明2と同一であるとはいえない。

甲第1号証には、記載事項(ソ)によると、「カシメや溶接,接着,樹脂モールド等」と記載されていることから、甲1発明2の「樹脂モールド」は強固に固定するものではないと解される。このことから、甲1発明2において、積層された電磁鋼板41を加圧しつつ樹脂モールドで固定することが当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、上記2.(2)-(4)の甲第2号証?甲第4号証で示されるように、IPM型の回転子積層鉄心において、積層鉄心を加圧しつつ、貫通孔である磁石挿入孔内に対して永久磁石を樹脂モールドで埋め込むことが、本件特許の出願前において広く知られた事項であったとしても、甲第2号証?甲第4号証には、積層方向に加圧した状態で樹脂により一体化された複数枚の電磁鋼板を、積層方向に溶接する技術思想が記載も示唆もされておらず、甲第5号証にも同様に該技術思想が記載も示唆もされていないから、甲1発明2において、積層された電磁鋼板41を加圧しつつ、磁石用貫通孔23に対して永久磁石14を樹脂モールドで埋め込んで複数枚の電磁鋼板41を全て一体化した後で、樹脂により一体化された複数枚の電磁鋼板41を積層方向の一部の領域にわたって溶接することの動機付けがなく、相違点8に係る本件発明2の発明特定事項は、甲1発明2及び甲第2-5号証に記載の事項に基いて当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。

そして、本件発明2は、「前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させる樹脂硬化工程」を有し、「前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された」前記ロータコアの軸方向における一部の領域にわたって溶接することにより、「軸方向の残留応力に対する剛性が高く、複数枚の電磁鋼板を接合する溶融凝固部に割れが生じることを抑制できる」(本件特許明細書の段落【0009】)という格別な効果を奏するものである。

したがって、本件発明2は、甲1発明2及び甲第2-5号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.本件発明3
本件発明3と甲1発明2とを対比すると、以下の相違点9で相違し、その余の点で一致する。

[相違点9]
本件発明3では、「前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程」を有し、「前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された」複数枚の前記電磁鋼板の軸方向の領域内において溶接するのに対し、甲1発明2では、永久磁石14を埋め込む工程の後に樹脂硬化工程を有すること、及び樹脂により一体化された複数枚の電磁鋼板を溶接することが特定されていない点。

以下、相違点9について検討する。
上記2.(1)ア.(ソ)の記載事項によると、甲第1号証の段落【0067】には、「コア11中の各鋼板同士を,カシメや溶接,接着,樹脂モールド等によってあらかじめ固定しておいてもよい」との事項が記載されている。
しかし、コア11の各電磁鋼板41同士を樹脂モールドによってあらかじめ固定する事項が甲第1号証に記載されていたとしても、複数の電磁鋼板41に対してどのように樹脂をモールドするのかまでは記載されていない(特に、磁石用貫通孔23に永久磁石14を埋め込んだ後で、磁石用貫通孔23と永久磁石との間を樹脂で硬化する事項は甲第1号証に記載されていない。)。また、甲第1号証には、積層方向に加圧した状態でコア11の各電磁鋼板41同士を樹脂モールドによってあらかじめ固定し、その後、積層方向に加圧した状態で樹脂により一体化された複数の電磁鋼板41を溶接する技術思想について記載も示唆もされていない。
よって、本件発明3は、甲1発明2と同一であるとはいえない。

甲第1号証には、記載事項(ソ)によると、「カシメや溶接,接着,樹脂モールド等」と記載されていることから、甲1発明2の「樹脂モールド」は強固に固定するものではないと解される。このことから、甲1発明2において、積層された電磁鋼板41を加圧しつつ樹脂モールドで固定することが当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、上記2.(2)-(4)の甲第2号証?甲第4号証で示されるように、IPM型の回転子積層鉄心において、積層鉄心を加圧しつつ、貫通孔である磁石挿入孔内に対して永久磁石を樹脂モールドで埋め込むことが、本件特許の出願前において広く知られた事項であったとしても、甲第2号証?甲第4号証には、積層方向に加圧した状態で樹脂により一体化された複数枚の電磁鋼板を、積層方向に溶接する技術思想が記載も示唆もされておらず、甲第5号証にも同様に該技術思想が記載も示唆もされていないから、甲1発明2において、積層された電磁鋼板41を加圧しつつ、磁石用貫通孔23に対して永久磁石14を樹脂モールドで埋め込んで複数枚の電磁鋼板41を一体化した後で、樹脂により一体化された複数枚の電磁鋼板41を積層方向の領域内において溶接することの動機付けがなく、相違点9に係る本件発明3の発明特定事項は、甲1発明2及び甲第2-5号証に記載の事項に基いて当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。

そして、本件発明3は、「前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程」を有し、「前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された」複数枚の前記電磁鋼板の軸方向の領域内において溶接することにより、「軸方向の残留応力に対する剛性が高く、複数枚の電磁鋼板を接合する溶融凝固部に割れが生じることを抑制できる」(本件特許明細書の段落【0009】)という格別な効果を奏するものである。

したがって、本件発明3は、甲1発明2及び甲第2-5号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ.本件発明4,7-9,11,15,17,19
請求項4,7-9,11,15,17,19は、請求項1-3のいずれかを引用するものであり、本件発明4,7-9,11,15,17,19は、本件発明1-3のいずれかの発明特定事項を備え、さらに限定するものであるから、本件発明4,7-9,11,15,17,19と甲1発明1又は甲1発明2とを対比すると、両者は少なくとも相違点7、相違点8又は相違点9で相違している。
そして、上記ア.-ウ.で述べたとおり、相違点7、相違点8又は相違点9に係る本件発明4,7-9,11,15,17,19の発明特定事項は、甲1発明1又は甲1発明2、及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明9,11,17,19は、甲1発明1又は甲1発明2と同一でない。
また、本件発明4,7-9,11,15,17,19は、甲1発明1又は甲1発明2、及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ.本件発明12,16
本件訂正後の請求項12は、本件訂正前の請求項4のうち、本件訂正前の請求項3を引用するものについて、独立形式に改めて記載したものである。そして、上記相違点9に係る本件発明3の発明特定事項は、訂正前の請求項3にも記載されていた事項である。したがって、本件発明12と甲1発明2とを対比すると、両者は少なくとも相違点9において相違している。
また、本件訂正後の請求項16は、本件訂正前の請求項7のうち、本件訂正前の請求項3を引用するものについて、独立形式に改めて記載したものである。そして、上記相違点9に係る本件発明3の発明特定事項は、訂正前の請求項3にも記載されていた事項である。したがって、本件発明16と甲1発明2とを対比すると、両者は少なくとも相違点9において相違している。

相違点9について検討すると、上記ウ.で述べたとおり、相違点9に係る本件発明12,16の発明特定事項は、甲1発明2及び甲第2号証?甲第5号証に基いて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明12,16は、甲1発明2及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲第6号証を主引用例にした場合
ア.本件発明1
本件発明1と甲6発明とを対比すると、以下の相違点10で相違し、その余の点で一致する。

[相違点10]
本件発明1では、「前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で」磁石挿入孔の内面と永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させ、「前記ロータコアの前記軸方向における全域にわたって連続的に、前記複数枚の電磁鋼板」を溶接するのに対し、甲6発明では、磁石収容孔12の壁面と永久磁石13との間に充填された樹脂部14を形成する際に、複数枚の電磁鋼板を積層方向に加圧しているのか明らかでなく、回転子鉄心11の各端面に端板15、16を配置して、端板15、16と回転軸20とを溶接によって固定するものの、回転子鉄心11の軸方向における全域にわたって連続的に、複数枚の電磁鋼板を溶接していない点。

以下、相違点10について検討する。
上記2.(7)ア.の記載事項(ア)-(ウ)、(エ)、(ケ)、(コ)、及び図面の図示内容によると、甲第7号証には、IPM型の積層型のロータ14において、ロータコア12の端面にエンドプレートを配置して、エンドプレートと共にロータコア12の外周面を積層方向において全体的に連続して溶接する事項が記載されている。

次に、甲6発明において、甲第7号証に記載された上記事項を採用可能か否か検討する。
甲6発明は、「端板の回転軸に対する固定力の低下を防止」するという課題を解決するために(段落【0006】)、端板15、16と回転軸20とを溶接によって固定するものである。すると、甲6発明において、回転軸20に代えて、回転子鉄心11に対して端板15、16を溶接で固定するという動機付けが存在するとはいえない。
仮に、甲6発明において、甲第7号証に記載された上記事項を採用することの動機付けがあったとしても、甲6発明は、溶融樹脂によって複数枚の電磁鋼板を一体化する際に複数枚の電磁鋼板を積層方向に加圧しておらず、積層方向に加圧した状態で一体化された複数枚の電磁鋼板を溶接することは、当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。
また、上記2.(2)-(4)の甲第2号証?甲第4号証で示されるように、IPM型の回転子積層鉄心において、積層鉄心を加圧しつつ、貫通孔である磁石挿入孔内に対して永久磁石を樹脂モールドで埋め込むことが、本件特許の優先日前において広く知られた事項であったとしても、甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証には、積層方向に加圧した状態で樹脂により一体化された複数枚の電磁鋼板を、積層方向に溶接する技術思想が記載も示唆もされていないから、甲6発明において、積層された電磁鋼板を加圧しつつ、磁石収容孔12に対して永久磁石13を樹脂モールドで埋め込んで複数枚の電磁鋼板を全て一体化した後で、樹脂により一体化された複数枚の電磁鋼板を積層方向の全域にわたって連続的に溶接することの動機付けがなく、相違点10に係る本件発明1の発明特定事項は、甲6発明及び甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。

そして、本件発明1は、「前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で」磁石挿入孔の内面と永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させ、「前記ロータコアの前記軸方向における全域にわたって連続的に、前記複数枚の電磁鋼板」溶接することにより、「軸方向の残留応力に対する剛性が高く、複数枚の電磁鋼板を接合する溶融凝固部に割れが生じることを抑制できる」(本件特許明細書の段落【0009】)という格別な効果を奏するものである。

したがって、本件発明1は、甲6発明及び甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

特許異議申立人は、特許異議申立書の「4(5)ア(ウ)」において、「端板15,16の溶接手法に関して、甲第7号証に記載された事項を同じ技術分野の甲6発明に採用して、端板15,16を回転軸20ではなく回転子鉄心11に対して溶接して固定することは、当業者が容易になし得ることである。また、その溶接の箇所及び範囲に関しても、甲第7号証に記載された事項を甲6発明に適用して、回転子鉄心11の積層方向(軸方向)全体にわたって連続して回転子鉄心11の外周面を溶接する程度のことは、当業者が容易になし得るものと認められる。」と主張している。
しかし、上記したように、甲6発明において、回転軸20に代えて、回転子鉄心11に対して端板15、16を溶接で固定するという動機付けが存在しないから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

イ.本件発明2
本件発明2と甲6発明とを対比すると、以下の相違点11で相違し、その余の点で一致する。

[相違点11]
本件発明2では、「前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で」磁石挿入孔の内面と永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させ、「前記ロータコアの前記軸方向における一部の領域にわたって複数枚の前記電磁鋼板」を溶接するのに対し、甲6発明では、磁石収容孔12の壁面と永久磁石13との間に充填された樹脂部14を形成する際に、複数枚の電磁鋼板を積層方向に加圧しているのか明らかでなく、回転子鉄心11の各端面に端板15、16を配置して、端板15、16と回転軸20とを溶接によって固定するものの、回転子鉄心11の軸方向における一部の領域にわたって複数枚の電磁鋼板を溶接していない点。

以下、相違点11について検討する。
上記2.(7)ア.の記載事項(ア)、(イ)、(オ)、(カ)-(ク)、(コ)、及び図面の図示内容によると、甲第7号証には、IPM型の積層型のロータ14において、ロータコア12の端面にエンドプレートを配置して、エンドプレートと共にロータコア12の外周面を積層方向において部分的に溶接する事項が記載されている。

次に、甲6発明において、甲第7号証に記載された上記事項を採用可能か否か検討する。
甲6発明は、「端板の回転軸に対する固定力の低下を防止」するという課題を解決するために(段落【0006】)、端板15、16と回転軸20とを溶接によって固定するものである。すると、甲6発明において、回転軸20に代えて、回転子鉄心11に対して端板15、16を溶接で固定するという動機付けが存在するとはいえない。
仮に、甲6発明において、甲第7号証に記載された上記事項を採用することの動機付けがあったとしても、甲6発明は、溶融樹脂によって複数枚の電磁鋼板を一体化する際に複数枚の電磁鋼板を積層方向に加圧しておらず、積層方向に加圧した状態で一体化された複数枚の電磁鋼板を溶接することは、当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。
また、上記2.(2)-(4)の甲第2号証?甲第4号証で示されるように、IPM型の回転子積層鉄心において、積層鉄心を加圧しつつ、貫通孔である磁石挿入孔内に対して永久磁石を樹脂モールドで埋め込むことが、本件特許の出願前において広く知られた事項であったとしても、甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証には、積層方向に加圧した状態で樹脂により一体化された複数枚の電磁鋼板を、積層方向に溶接する技術思想が記載も示唆もされていないから、甲6発明において、積層された電磁鋼板を加圧しつつ、磁石収容孔12に対して永久磁石13を樹脂モールドで埋め込んで複数枚の電磁鋼板を全て一体化した後で、樹脂により一体化された複数枚の電磁鋼板を積層方向の一部の領域にわたって溶接することの動機付けがなく、相違点11に係る本件発明1の発明特定事項は、甲6発明及び甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。

そして、本件発明2は、「前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で」磁石挿入孔の内面と永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させ、「前記ロータコアの前記軸方向における一部の領域にわたって複数枚の前記電磁鋼板」を溶接することにより、「軸方向の残留応力に対する剛性が高く、複数枚の電磁鋼板を接合する溶融凝固部に割れが生じることを抑制できる」(本件明細書段落【0009】)」という格別な効果を奏するものである。
したがって、本件発明2は、甲6発明及び甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

特許異議申立人は、特許異議申立書の「4(5)イ」において、「端板15,16の溶接手法に関して、甲第7号証に記載された事項を同じ技術分野の甲6発明に採用して、端板15,16を回転軸20ではなく回転子鉄心11に対して溶接して固定することは、当業者が容易になし得ることである。また、その溶接の箇所及び範囲に関しても、甲第7号証に記載された事項を甲6発明に適用して、回転子鉄心11の外周面を部分的に溶接する程度のことは、当業者が容易になし得るものと認められる。」と主張している。
しかし、上記したように、甲6発明において、回転軸20に代えて、回転子鉄心11に対して端板15、16を溶接で固定するという動機付けが存在しないから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

ウ.本件発明3
本件発明3と甲6発明とを対比すると、以下の相違点12及び相違点13で相違し、その余の点で一致する。

[相違点12]
本件発明3では、「前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で」磁石挿入孔の内面と永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させ、「複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板」を溶接するのに対し、甲6発明では、磁石収容孔12の壁面と永久磁石13との間に充填された樹脂部14を形成する際に、複数枚の電磁鋼板を積層方向に加圧しているのか明らかでなく、回転子鉄心11の各端面に端板15、16を配置して、端板15、16と回転軸20とを溶接によって固定するものの、回転子鉄心11の軸方向の領域内において複数枚の電磁鋼板を溶接していない点。

[相違点13]
溶接工程において、本件発明3は、「複数枚の前記電磁鋼板を互いに溶接するための溶接対象箇所に、エネルギービームを前記軸方向に移動させながら照射する」のに対し、甲6発明は、端板15、16と回転軸20とを溶接する溶接対象箇所に、エネルギービームを軸方向に移動させながら照射しているのか不明な点。

以下、相違点12について検討する。
上記2.(7)ア.の記載事項(ア)、(イ)、(オ)、(カ)-(ク)、(コ)、及び図面の図示内容によると、甲第7号証には、IPM型の積層型のロータ14において、ロータコア12の端面にエンドプレートを配置して、エンドプレートと共にロータコア12の外周面を積層方向において部分的に溶接する事項が記載されている。

次に、甲6発明において、甲第7号証に記載された上記事項を採用可能か否か検討する。
甲6発明は、「端板の回転軸に対する固定力の低下を防止」するという課題を解決するために(段落【0006】)、端板15、16と回転軸20とを溶接によって固定するものである。すると、甲6発明において、回転軸20に代えて、回転子鉄心11に対して端板15、16を溶接で固定するという動機付けが存在するとはいえない。
仮に、甲6発明において、甲第7号証に記載された上記事項を採用することの動機付けがあったとしても、甲6発明は、溶融樹脂によって複数枚の電磁鋼板を一体化する際に複数枚の電磁鋼板を積層方向に加圧しておらず、積層方向に加圧した状態で一体化された複数枚の電磁鋼板を溶接することは、当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。
また、上記2.(2)-(4)の甲第2号証?甲第4号証で示されるように、IPM型の回転子積層鉄心において、積層鉄心を加圧しつつ、貫通孔である磁石挿入孔内に対して永久磁石を樹脂モールドで埋め込むことが、本件特許の出願前において広く知られた事項であったとしても、甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証には、積層方向に加圧した状態で樹脂により一体化された複数枚の電磁鋼板を、積層方向に溶接する技術思想が記載も示唆もされていないから、甲6発明において、積層された電磁鋼板を加圧しつつ、磁石収容孔12に対して永久磁石13を樹脂モールドで埋め込んで複数枚の電磁鋼板を全て一体化した後で、樹脂により一体化された複数枚の電磁鋼板を積層方向の領域内において溶接することの動機付けがなく、相違点12に係る本件発明1の発明特定事項は、甲6発明及び甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。

そして、本件発明3は、「前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で」磁石挿入孔の内面と永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させ、「複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板」を溶接することにより、「軸方向の残留応力に対する剛性が高く、複数枚の電磁鋼板を接合する溶融凝固部に割れが生じることを抑制できる」(本件明細書段落【0009】)」という格別な効果を奏するものである。
したがって、相違点13について検討するまでもなく、本件発明3は、甲6発明及び甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ.本件発明4,7-9,11,15,17,19
請求項4,7-9,11,15,17,19は、請求項1-3のいずれかを引用するものであり、本件発明4,7-9,11,15,17,19は、本件発明1-3のいずれかの発明特定事項を備え、さらに限定するものであるから、本件発明4,7-9,11,15,17,19と甲6発明とを対比すると、両者は少なくとも相違点10、相違点11又は相違点12で相違している。
そして、上記ア.-ウ.で述べたとおり、相違点10、相違点11又は相違点12に係る本件発明4,7-9,11,15,17,19の発明特定事項は、甲6発明及び甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明4,7-9,11,15,17,19は、甲6発明、及び甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ.本件発明12、16
本件訂正後の請求項12は、本件訂正前の請求項4のうち、本件訂正前の請求項3を引用するものについて、独立形式に改めて記載したものである。そして、上記相違点12に係る本件発明3の発明特定事項は、訂正前の請求項3にも記載されていた事項である。したがって、本件発明12と甲6発明とを対比すると、両者は少なくとも相違点12において相違している。
また、本件訂正後の請求項16は、本件訂正前の請求項7のうち、本件訂正前の請求項3を引用するものについて、独立形式に改めて記載したものである。そして、上記相違点12に係る本件発明3の発明特定事項は、訂正前の請求項3にも記載されていた事項である。したがって、本件発明16と甲6発明とを対比すると、両者は少なくとも相違点12において相違している。

上記相違点12について検討すると、上記ウ.で述べたとおり、相違点12に係る本件発明12,16の発明特定事項は、甲6発明及び甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明12,16は、甲6発明、及び甲第1号証?甲第5号証、甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲第8号証を主引用例にした場合
<優先権主張の効果について>
第4 3.(2)で示したように、本件発明2-19(本件発明2、3、7、8、10、12、15、16、18と[請求項2を直接的に又は間接的に引用する本件発明4-6]、[請求項2、7、8を直接的に又は間接的に引用する本件発明9、11]、及び[請求項2又は3を直接的に引用する本件発明13、14、17、19])は、優先権主張の利益を享受することができないので、当該発明についての新規性進歩性等の判断の基準日は、本件特許の国際出願日である平成29年2月28日となる。

ア.本件発明4,7-9,11
請求項2を引用する本件訂正前の請求項4に係る発明に対し、特許異議申立理由を採用せず、取消理由を通知していないため、ここで請求項2を引用する本件発明4及び請求項2を引用する請求項4を引用する本件発明7-9,11について検討すると、上記の本件発明4,7-9,11は、本件発明2の発明特定事項を備え、さらに限定するものであるから、上記の本件発明4,7-9,11と甲8発明とを対比すると、両者は少なくとも相違点4で相違している。

そして、第4 3.(2)ア.で述べたとおり、相違点4に係る本件発明4,7-9,11の発明特定事項は、甲8発明に基いて当業者が容易になし得たこととはいえず、また、甲第1号証、甲第5号証に記載された事項を考慮しても同様に、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、請求項2を引用する本件発明4及び請求項2を引用する請求項4を引用する本件発明7-9,11は、甲8発明、甲第1号証及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書の「4(7)エ(ウ)」において、「本件特許発明4と甲8発明とを対比すると、甲8発明は、本件特許発明4の「前記溶接工程は、前記ロータコアを、前記第1圧力より小さい第2圧力で前記軸方向に加圧した状態で行う」に相当する構成を備えていない。しかしながら、甲8発明においても、エンドプレート24a,24bの溶接の前に、ロータコア22を構成する複数の電磁鋼板が加圧されつつ樹脂モールドによって固定されるのであるから、その後の溶接工程の際には、これらの複数の電磁鋼板はある程度密着されているものと認められる。そのため、樹脂モールドの後の溶接工程においてエンドプレート24a,24bを溶接する際には、エンドプレート24a,24bがロータコア22に当接する程度に密着した状態が保たれていればよく、ロータコア22を構成する複数の電磁鋼板をエンドプレート24a,24bと共に樹脂モールド工程よりも大きな圧力で加圧する必要がないことは明らかである。むしろ、樹脂モールドの後の溶接工程において、複数の電磁鋼板が樹脂によって固定されたロータコア22に対してより大きな圧力を加えてしまうと、硬化した樹脂が割れてしまうなどの不具合が生じてしまう。そうすると、本件特許発明4の「前記溶接工程は、前記ロータコアを、前記第1圧力より小さい第2圧力で前記軸方向に加圧した状態で行う」程度のことは、当業者が適宜なし得る設計的事項の範囲内であるものと認められる。」と主張している。
しかし、甲第8号証には、「エンドプレート24a、24bは、その外周における等間隔の複数個所において、ロータコア22にそれぞれ溶接されている」(段落【0030】)と記載されているだけであって、エンドプレート24a、24bをロータコア22に溶接する際に、ロータコア22に対して圧力を加えることについて何ら記載がされていない。仮に、甲第8号証において、エンドプレート24a、24bをロータコア22に溶接する際に、ロータコア22に対して圧力を加えることが自明であったとしても、「ロータコアとエンドプレートとの密着が阻害されるのを抑制できるロータを提供する」(段落【0006】)という甲第8号証の課題を考慮すると、エンドプレート24a、24bをロータコア22に溶接する際に、ロータコア22に対して加える圧力が必ずしも小さくなるとはいえず、「ロータコア22を構成する複数の電磁鋼板をエンドプレート24a,24bと共に樹脂モールド工程よりも大きな圧力で加圧する必要がない」という特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

イ.本件発明12
本件訂正前の請求項3を引用する本件訂正前の請求項4に係る発明に対し、特許異議申立理由を採用せず、取消理由を通知していないため、ここで本件訂正前の請求項3を引用する本件訂正前の請求項4に対応する発明を検討すると、本件訂正後の請求項12は、本件訂正前の請求項4のうち、本件訂正前の請求項3を引用するものについて、独立形式に改めて記載したものである。そして、相違点5に係る本件発明3の発明特定事項は、訂正前の請求項3にも記載されていた事項である。したがって、本件発明12と甲8発明とを対比すると、両者は少なくとも相違点5において相違している。

相違点5について検討すると、第4 3.(2)イ.で述べたとおり、相違点5に係る本件発明12の発明特定事項は、甲8発明に基いて当業者が容易になし得たこととはいえない。また、甲第1号証、甲第5号証に記載された事項を考慮しても同様に、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明12は、甲8発明、甲第1号証及び甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4.拡大先願について
(1)甲第8号証に係る出願を先願にした場合
ア.本件発明2,3,17
第4 3.(2)で示したように、本件発明2、本件発明3、及び本件発明17は、優先権主張の利益を享受することができないので、当該発明についての新規性進歩性等の判断の基準日は、本件特許の国際出願日である平成29年2月28日となる。
そして、先願8は、甲第8号証の公開日である平成29年1月29日に出願公開がされ、本件特許の出願よりも前に出願公開がされたものであるから、先願8は、特許法第29条の2で規定される本件特許出願後に出願公開がされた他の特許出願に該当しない。

5.新規事項について
(1)請求項3、12、16の記載について
請求項3、12、16は、令和元年12月10日付けで提出された手続補正書により手続補正された特許請求の範囲の請求項3に係る発明の発明特定事項を全て含むものである。そして、上記手続補正書の請求項3は、補正前の請求項1の記載及び出願当初明細書等の記載に基づいて新設されたものである。ここで、以下に請求項3を改めて示す。なお、下線部は、令和元年12月10日付けの手続補正による補正箇所である。

「【請求項3】
複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、
前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、
前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程と、
前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有し、
前記溶接工程では、複数枚の前記電磁鋼板を互いに溶接するための溶接対象箇所に、エネルギービームを前記軸方向に沿って移動させながら照射するロータの製造方法。」

次に、請求項3の樹脂硬化工程における「複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる」との事項が、新たな技術的事項を導入するものか否かについて検討する。
本件の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、樹脂硬化工程に関して、「樹脂硬化工程において、磁石挿入孔の内面と永久磁石の外面との間の樹脂を硬化させることで、複数枚の電磁鋼板を一体化させることができる。また、このように磁石挿入孔の内面と永久磁石の外面との間の樹脂を硬化させるときに、複数枚の電磁鋼板を軸方向に加圧した状態で行うことで、上述の如く複数枚の電磁鋼板が一体化されたロータコアにおける鉄の占有率を高めロータコアの高密度化を図ることができる。」(段落【0008】)、「複数枚の電磁鋼板は、複数枚の電磁鋼板に対する溶接に加えて、磁石挿入孔の内面と永久磁石の外面とを樹脂により固定していることになる。そのため、複数枚の電磁鋼板が溶接のみで接合している場合に比べて、軸方向の残留応力に対する剛性が高く、複数枚の電磁鋼板を接合する溶融凝固部に割れが生じることを抑制できる。」と記載されている。(下線は当審で付与した。)
請求項3には、樹脂硬化工程において、ロータコアを構成する複数の電磁鋼板の「全て」を一体化するとの特定がされていない。しかし、出願当初明細書等に記載されるように、本件発明3は、残留応力によって複数枚の電磁鋼板を接合する溶融凝固部に割れが生じることを抑制することを課題としており、複数の電磁鋼板の「全て」を一体化しなくても、例えば、残留応力が生じやすい箇所について部分的に複数の電磁鋼板を一体化することによって、前記課題を解決できることは、当初明細書等に開示されている技術的事項であるといえる。したがって、請求項3の樹脂硬化工程における「複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる」との事項は、新たな技術的事項を導入するものではない。
請求項12、16の樹脂硬化工程における「複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる」との事項についても、請求項3と同様のことがいえる。

また、請求項3の溶接工程における「前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する」との事項も、当初明細書等に「溶接工程S4では、軸方向Lにおけるロータコア2の一部の領域にわたって複数枚の電磁鋼板3を溶接してもよい」(段落【0029】)と記載されているから、当該事項は、新たな技術的事項を導入するものではない。
請求項12、16の溶接工程における「前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する」との事項についても、請求項3と同様のことがいえる。

(2)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の「4(8)」において、「しかしながら、もし樹脂材9が磁石挿入孔7を満たしておらず、ロータコア2を構成する一部の電磁鋼板3のみが樹脂材9によって一体化されているような場合には、樹脂材9によって一体化されていない複数の電磁鋼板3は、樹脂硬化工程S3において軸方向Lに作用していた第1圧力が除荷されると、その残留応力により軸方向Lにおいて広がってしまうこととなる。そうすると、樹脂材9による上記役割を果たすことができず、これに続く溶接工程S4で電磁鋼板3が溶接された場合には、軸方向Lにおいて広がろうとする力が溶接部に作用して、溶接割れを生じさせる結果となり、本件特許の課題(段落0006参照)を解決できないことが明らかである。したがって、ロータコアを構成する一部の電磁鋼板のみが樹脂の硬化によって一体化される形態は、本件特許の出願当初明細書等に開示されている技術的事項ということはできない。すなわち、本件補正は、本件特許の出願当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入したものというべきである。」と主張している。
しかし、上記(1)で示したように、ロータコア2を構成する一部の電磁鋼板3のみが樹脂材9によって一体化されているような場合であっても、樹脂材9によって一体化された複数枚の電磁鋼板3の軸方向の領域内において複数枚の電磁鋼板3が溶接されることにより、この領域内の電磁鋼板3には残留応力による軸方向Lの広がりが発生しなくなるから、「一部の電磁鋼板3のみ」だけが一体化されることをもって「本件特許の課題(段落0006参照)を解決できないことが明らかである」という特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(3)小括
したがって、請求項3、12、16に係る本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第1号に該当するものではない。

6.サポート要件及び明確性について
(1)本件発明7について
ア.加熱工程での加熱温度について
(ア)発明の詳細な説明の記載について
本件訂正後の明細書における発明の詳細な説明の段落【0042】によると、本件発明7が解決しようとする課題は、「溶接前の材料の温度が低くなるに従って溶接対象箇所の割れ(溶接割れ)が生じやすくなる」ところ、この溶接対象箇所の割れを抑制することであると解され、この課題を解決するための手段として、発明の詳細な説明の段落【0043】には、「溶接工程S4は、樹脂硬化工程S3での加熱によってロータコア2の温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う」ことが記載されている。

(イ)本件発明7の発明特定事項について
本件発明7は、「前記樹脂硬化工程が前記ロータコアの加熱工程を含み、前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う」という発明特定事項を備えるものであり、この発明特定事項を備える本件発明7は、上記(ア)に示した、発明の詳細な説明に示されている課題を解決するための手段が反映されたものであるから、本件発明7は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、当業者が上記(ア)に示した課題を解決できると認識できる範囲のものである。

(ウ)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の「4(9)」において、「しかしながら、本件特許発明7における「前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う」との記載によれば、溶接が実行される下限の温度については「前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態」との一応の制限が加えられているが、溶接が実行される上限の温度については何らの制限も加えられていない。そのため、本件特許発明7は、溶接割れが生ずる可能性が高まる温度域をも含んでいることが明らかである。よって、本件特許発明7及び本件特許の請求項7を引用する本件特許発明8-11は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっている。」と主張している。
しかし、本件発明7の解決しようとする課題は、上記(ア)に示したように、「溶接前の材料の温度が低くなるに従って溶接対象箇所の割れ(溶接割れ)が生じやすくなる」ところ、この溶接対象箇所の割れを抑制することであり、「溶接が実行される上限の温度について」何ら規定していないとしても、当該課題を解決できる範囲で、当業者であれば、所望の温度に調節可能であるから、本件発明7に発明の詳細な説明に示されている課題を解決するための手段が反映されていないとはいえない。したがって、本件特許7において「溶接が実行される上限の温度については何らの制限も加えられていない」から、「本件特許発明7は、溶接割れが生ずる可能性が高まる温度域をも含んでいることが明らかである」という特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

イ.雰囲気温度について
(ア)本件発明7における「前記樹脂硬化工程が前記ロータコアの加熱工程を含み、前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う」との発明特定事項において、「雰囲気温度」とは、溶接工程におけるロータコアの周囲の温度を意味していることは明らかである。
このことは、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0043】に「溶接工程S4は、樹脂硬化工程S3での加熱(加熱工程)の余熱が残留している状態で行う」、「溶接工程S4は、樹脂硬化工程S3での加熱によってロータコア2の温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う」と記載されており、樹脂硬化工程S3での加熱の余熱が溶接工程S4でも残留することで、溶接工程S4でのロータコア2の温度が雰囲気温度よりも高くなることと整合するものであり、発明の詳細な説明の記載を考慮しても、本件発明7の「前記樹脂硬化工程が前記ロータコアの加熱工程を含み、前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う」という事項が不明確になるものではない。また、本件発明7は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。

(イ)特許異議申立人の主張
a.明確性について
特許異議申立人は、特許異議申立書の「4(10)」において、「本件特許発明7には、「前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態」との記載がある。ここで、「雰囲気温度」との語は、「前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも」との文章の流れからすれば、ロータコアの周囲空間における温度と解される。そして、ロータ1の製造過程において、複数の電磁鋼板3を積層してロータコア2を形成するコア準備工程は常温で行われるのが技術常識であるし、本件特許の明細書によれば、ロータコア2の磁石挿入孔7内の発泡樹脂25を硬化する際には、ロータコア2の全体が炉内に入れられて加熱されるのであるから(段落0040, 0041参照)、ロータコア2の周囲空間の温度は、常温から、ロータコア2の全体を加熱する炉内の温度(以下、「炉内温度」という。)までの範囲で、様々な値をとるものと認められる。そうすると、本件特許発明7において「雰囲気温度よりも高くなっている状態」とされるロータコアの温度は、あまりに広範であって、具体的にどの程度の温度であるのかが不明である。その結果、本件特許発明7の構成が不明確となっている。」と主張している。
しかし、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、各実施形態の加熱工程において、ロータコア2が加熱炉内に入れられるとは記載されていない。そのため、特許異議申立人の主張は、加熱炉内でロータコア2を加熱するときの「ロータコア2の周囲空間の温度」が「雰囲気温度」であることを前提とするものであるが、当該前提は誤りであるといえる。そして、「雰囲気温度」とは、溶接工程におけるロータコアの周囲の温度を意味することが明らかであり、本件発明7は、当該周囲の温度よりも、ロータコアの温度が高くなっている状態で溶接工程を行うものであることが明らかであるから、「ロータコアの温度は、あまりに広範であって、具体的にどの程度の温度であるのかが不明である」という特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

b.サポート要件について
特許異議申立人は、特許異議申立書の「4(10)」において、「ところで、上記のように、「雰囲気温度」は炉内温度を含む概念なのであるが、雰囲気温度が炉内温度を意味する場合(雰囲気温度=炉内温度とされる場合)について、さらに検討する。本件特許の明細書によれば、ロータコア2が炉内から出された後、その余熱が残留している状態で溶接が行われる(段落0043参照)。そのため、ロータコア2の温度は炉内温度よりも高くなることはない。すなわち、ロータコア2が雰囲気温度(炉内温度)よりも高くなる状態が作出されることはありえないこととなる。そうすると、本件特許発明7における「前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態」との記載、すなわち、「ロータコアの温度が炉内温度よりも高くなっている状態」は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された技術的事項を超えていることが明らかである。」と主張している。
しかし、異議申立人の主張は、上記a.で示したように、加熱炉内でロータコア2を加熱するときの「ロータコア2の周囲空間の温度」が「雰囲気温度」であるという前提が誤りであって、「雰囲気温度」は炉内温度を意味するものではない。そして、ロータコア2に余熱が残留している状態で溶接が行われるから、溶接時のロータコア2の温度が雰囲気温度(ロータコアの周囲の温度)よりも高くなる状態は起こり得るものといえる。すると、「ロータコア2が雰囲気温度(炉内温度)よりも高くなる状態が作出されることはありえない」という特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

ウ.小括
したがって、特許発明7は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)、及び同法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たすものである。

(2)本件発明8-11、15、16について
請求項8-11は、請求項7を引用するものであり、本件発明15、16は、本件発明7の上記発明特定事項を備えるものである。そして、請求項8-11、15、16に記載された事項が発明の詳細な説明に記載したものでないという理由や、明確でないという理由もないから、特許発明8-11、15、16は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)、及び同法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たすものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし19に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、
前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、
前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させる樹脂硬化工程と、
前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコアの前記軸方向における全域にわたって連続的に、前記複数枚の電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有するロータの製造方法。
【請求項2】
複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、
前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、
前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、前記複数枚の電磁鋼板の全てを一体化させる樹脂硬化工程と、
前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により前記複数枚の電磁鋼板が一体化された前記ロータコアの前記軸方向における一部の領域にわたって複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有するロータの製造方法。
【請求項3】
複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、
前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、
前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程と、
前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有し、
前記溶接工程では、複数枚の前記電磁鋼板を互いに溶接するための溶接対象箇所に、エネルギービームを前記軸方向に沿って移動させながら照射するロータの製造方法。
【請求項4】
前記樹脂硬化工程において前記ロータコアに対して前記軸方向に加える圧力を第1圧力として、
前記溶接工程は、前記ロータコアを、前記第1圧力より小さい第2圧力で前記軸方向に加圧した状態で行う請求項1又は2に記載のロータの製造方法。
【請求項5】
前記ロータコアは、当該ロータコアの径方向中央部を前記軸方向に貫通する貫通孔を更に備え、
前記溶接工程では、前記貫通孔の内周面に対する溶接を行う請求項1又は4に記載のロータの製造方法。
【請求項6】
前記ロータコアは、当該ロータコアの径方向中央部を軸方向に貫通する貫通孔を更に備え、
前記溶接工程の後、前記貫通孔に支持部材を挿入し、当該支持部材と前記ロータコアの前記軸方向の両端部との接合部のみを溶接する支持部材固定工程を更に有する請求項1、4、5のいずれか1項に記載のロータの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂硬化工程が前記ロータコアの加熱工程を含み、
前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う請求項1、4から6のいずれか一項に記載のロータの製造方法。
【請求項8】
前記加熱工程は、前記樹脂の硬化のための工程である請求項7記載のロータの製造方法。
【請求項9】
前記樹脂硬化工程により、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面とを前記樹脂で固着させる請求項1、4から8のいずれか一項に記載のロータの製造方法。
【請求項10】
前記樹脂は、加熱により膨張して硬化するように構成され、
前記磁石挿入工程は、前記永久磁石に前記樹脂が塗布された状態で行う請求項1、4から9のいずれか一項に記載のロータの製造方法。
【請求項11】
前記溶接工程は、レーザ溶接により行う請求項1、4から10のいずれか一項に記載のロータの製造方法。
【請求項12】
複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、
前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、
前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程と、
前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有し、
前記樹脂硬化工程において前記ロータコアに対して前記軸方向に加える圧力を第1圧力として、
前記溶接工程は、前記ロータコアを、前記第1圧力より小さい第2圧力で前記軸方向に加圧した状態で行うロータの製造方法。
【請求項13】
前記ロータコアは、当該ロータコアの径方向中央部を前記軸方向に貫通する貫通孔を更に備え、
前記溶接工程では、前記貫通孔の内周面に対する溶接を行う請求項2又は3に記載のロータの製造方法。
【請求項14】
前記ロータコアは、当該ロータコアの径方向中央部を軸方向に貫通する貫通孔を更に備え、
前記溶接工程の後、前記貫通孔に支持部材を挿入し、当該支持部材と前記ロータコアの前記軸方向の両端部との接合部のみを溶接する支持部材固定工程を更に有する請求項2又は3に記載のロータの製造方法。
【請求項15】
前記樹脂硬化工程が前記ロータコアの加熱工程を含み、
前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行う請求項2に記載のロータの製造方法。
【請求項16】
複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成され、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を備えたロータコアを準備するコア準備工程と、
前記磁石挿入孔に永久磁石を挿入する磁石挿入工程と、
前記磁石挿入工程の後、前記ロータコアを前記軸方向に加圧した状態で、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面との間に設けられた樹脂を硬化させることで、複数枚の前記電磁鋼板を一体化させる樹脂硬化工程と、
前記樹脂硬化工程の後、前記樹脂硬化工程にて硬化された前記樹脂により一体化された複数枚の前記電磁鋼板の前記軸方向の領域内において複数枚の前記電磁鋼板を溶接する溶接工程と、を有し、
前記樹脂硬化工程が前記ロータコアの加熱工程を含み、
前記溶接工程は、前記加熱工程での加熱によって前記ロータコアの温度が雰囲気温度よりも高くなっている状態で行うロータの製造方法。
【請求項17】
前記樹脂硬化工程により、前記磁石挿入孔の内面と前記永久磁石の外面とを前記樹脂で固着させる請求項2又は3に記載のロータの製造方法。
【請求項18】
前記樹脂は、加熱により膨張して硬化するように構成され、
前記磁石挿入工程は、前記永久磁石に前記樹脂が塗布された状態で行う請求項2又は3に記載のロータの製造方法。
【請求項19】
前記溶接工程は、レーザ溶接により行う請求項2又は3に記載のロータの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-09-29 
出願番号 特願2018-505788(P2018-505788)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (H02K)
P 1 652・ 55- YAA (H02K)
P 1 652・ 113- YAA (H02K)
P 1 652・ 537- YAA (H02K)
P 1 652・ 161- YAA (H02K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 上野 力  
特許庁審判長 柿崎 拓
特許庁審判官 長馬 望
神山 貴行
登録日 2020-04-27 
登録番号 特許第6696564号(P6696564)
権利者 アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
発明の名称 ロータの製造方法  
代理人 特許業務法人R&C  
代理人 特許業務法人R&C  
代理人 長谷川 芳樹  

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