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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1379858
異議申立番号 異議2021-700727  
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-27 
確定日 2021-11-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6819289号発明「高分子化合物およびそれを用いた発光素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6819289号の請求項1?13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6819289号に係る出願(特願2016-545454号、以下、「本願」ということがある。)は、平成27年8月19日(優先日:平成26年8月28日 日本国)に出願人住友化学株式会社(以下、「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、令和3年1月6日に特許権の設定登録(請求項の数13)がされ、特許掲載公報が令和3年1月27日に発行されたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき令和3年7月27日に特許異議申立人:森川真帆(以下「申立人」という。)により、「特許第6819289号の特許請求の範囲の請求項1?13に記載された各発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。
よって、本件異議申立てに係る審理対象は、全ての請求項に係る特許についてであり、審理対象外の請求項は存しない。

第2 本件発明
本件特許第6819289号の請求項1?13の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、請求項1?13に係る発明を、項番に従い、「本件発明1」、「本件発明2」などといい、それらを総称して、「本件発明」という。)。

「【請求項1】 式(1)で表される構成単位を含む高分子化合物。
【化1】

[式中、
a^(1)およびa^(2)は、それぞれ独立に、0または1を表す。
Ar^(A1)およびAr^(A3)は、それぞれ独立に、フェニレン基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。但し、Ar^(A1)およびAr^(A3)は、隣接する構成単位と結合を形成する原子の隣の原子の少なくとも1つが、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリール基を置換基として有し、これらの置換基は更に置換基を有していてもよい。
Ar^(A2)は、フェニレン基を表し、このフェニレン基は置換基を有していてもよい。
Ar^(A4)は、アリーレン基、2価の複素環基、または、少なくとも1種のアリーレン基と少なくとも1種の2価の複素環基とが直接結合した2価の基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。
R^(A1)、R^(A2)およびR^(A3)は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基または1価の複素環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。
但し、a^(2)が0である場合、R^(A1)は2つ以上の環が縮合したアリール基(該アリール基の環を構成する炭素原子数は10以上である)、または、2つ以上の環が縮合した1価の複素環基(該1価の複素環基の環を構成する炭素原子数およびヘテロ原子数の合計は10以上である)を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。]
【請求項2】
前記a^(2)が、0である、請求項1に記載の高分子化合物。
【請求項3】
前記Ar^(A1)およびAr^(A3)において、隣接する構成単位と結合を形成する原子の隣の原子の少なくとも1つが、アルキル基またはシクロアルキル基を置換基として有する、請求項1または2に記載の高分子化合物。
【請求項4】
前記R^(A1)が、アリール基AA群から選ばれる基、または、1価の複素環基BB群から選ばれる基である、請求項1?3のいずれか一項に記載の高分子化合物。
(アリール基AA群)
【化2】

(1価の複素環基BB群)
【化3】

[式中、RおよびR^(a)は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基または1価の複素環基を表す。複数存在するRおよびR^(a)は、各々、同一でも異なっていてもよく、R^(a)同士は互いに結合して、それぞれが結合する原子と共に環を形成していてもよい。]
【請求項5】
前記式(1)で表される構成単位が、式(4)で表される構成単位である、請求項1、2または4に記載の高分子化合物。
【化4】

[式中、
R^(A1)は、前記と同じ意味を表す。
R^(1a)は、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリール基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。複数存在するR^(1a)は、同一でも異なっていてもよい。
R^(2a)は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリール基、1価の複素環基またはハロゲン原子を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。複数存在するR^(2a)は、同一でも異なっていてもよい。]
【請求項6】
更に、式(1X)で表される構成単位および式(1Z)で表される構成単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位を含む、請求項1?5のいずれか一項に記載の高分子化合物。
【化5】

[式中、
xa^(1)およびxa^(2)は、それぞれ独立に、0以上の整数を表す。
Ar^(X1)およびAr^(X3)は、それぞれ独立に、アリーレン基または2価の複素環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。但し、Ar^(X1)およびAr^(X3)は、隣接する構成単位と結合を形成する原子の隣の原子が、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリール基または1価の複素環基を置換基として有さない。
Ar^(X2)およびAr^(X4)は、それぞれ独立に、アリーレン基、2価の複素環基、または、少なくとも1種のアリーレン基と少なくとも1種の2価の複素環基とが直接結合した2価の基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。
R^(X1)、R^(X2)およびR^(X3)は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基または1価の複素環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。]
【化6】

[式中、
R^(Z1)は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基または1価の複素環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。
1zは、0?3の整数を表す。複数存在する1zは、同一でも異なっていてもよい。
R^(Z2)は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基または1価の複素環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。R^(Z2)が複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
X^(Z1)は、単結合、酸素原子、硫黄原子、-CR^(Z11)R^(Z12)-で表される基、または、?SiR^(Z13)R^(Z14)-で表される基を表す。R^(Z11)、R^(Z12)、R^(Z13)およびR^(Z14)は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基または1価の複素環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。]
【請求項7】
前記R^(A1)およびR^(A2)およびR^(A3)からなる群から選ばれる少なくとも1つが、置換基を有していてもよいフルオレン環から環を構成する炭素原子に直接結合する水素原子1個を除いた基である、請求項6に記載の高分子化合物。
【請求項8】
前記式(1)で表される構成単位と、前記式(1X)で表される構成単位および前記式(1Z)で表される構成単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構成単位とが、隣り合う構成連鎖を含む、請求項6または7に記載の高分子化合物。
【請求項9】
前記式(1)で表される構成単位、前記式(1X)で表される構成単位および前記(1Z)で表される構成単位の合計含有量が、高分子化合物に含まれる構成単位の合計含有量に対して、50?100モル%である、請求項6?8のいずれか一項に記載の高分子化合物。
【請求項10】
更に、架橋基A群から選ばれる少なくとも1種の架橋基を有する架橋構成単位を含む、請求項1?9のいずれか一項に記載の高分子化合物。
(架橋基A群)
【化7】

[式中、R^(XL)は、メチレン基、酸素原子または硫黄原子を表し、n^(XL)は、0?5の整数を表す。R^(XL)が複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよく、n^(XL)が複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。*は結合位置を表す。これらの架橋性基は置換基を有していてもよい。]
【請求項11】
前記架橋構成単位が、式(5)で表される構成単位、または、式(5’)で表される構成単位(但し、式(1)で表される構成単位、式(1X)で表される構成単位および式(1Z)で表される構成単位とは異なる。)である、請求項10に記載の高分子化合物。
【化8】

[式中、
nAは0?5の整数を表し、nは1または2を表す。nAが複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
Ar^(1)は、芳香族炭化水素基または複素環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。
L^(A)は、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、2価の複素環基、-NR’-で表される基、酸素原子または硫黄原子を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。R’は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基または1価の複素環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。L^(A)が複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
Xは、架橋基A群から選ばれる架橋基を表す。Xが複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。]
【化9】

[式中、
mAは0?5の整数を表し、mは1?4の整数を表し、cは0または1の整数を表す。mAが複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
Ar^(2)は、芳香族炭化水素基、複素環基、または、少なくとも1種の芳香族炭化水素環と少なくとも1種の複素環とが直接結合した基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。
Ar^(3)およびAr^(4)は、それぞれ独立に、アリーレン基または2価の複素環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。
Ar^(2)、Ar^(3)およびAr^(4)はそれぞれ、当該基が結合している窒素原子に結合している当該基以外の基と、直接または酸素原子もしくは硫黄原子を介して結合して、環を形成していてもよい。
K^(A)は、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、2価の複素環基、-NR’-で表される基、酸素原子または硫黄原子を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。R’は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基または1価の複素環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。K^(A)が複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
X’は、架橋基A群から選ばれる架橋基、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基または1価の複素環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。複数存在するX’は、同一でも異なっていてもよい。但し、少なくとも1つのX’は、架橋基A群から選ばれる架橋基である。]
【請求項12】
前記架橋基が、前記式(XL-1)または(XL-17)で表される架橋基である、請求項10または11に記載の高分子化合物。
【請求項13】
請求項1?12のいずれか一項に記載の高分子化合物を用いて得られる発光素子。」

第3 申立人が申し立てた特許異議申立理由
申立人が申し立てた特許異議申立の理由の概要及び証拠方法は以下のとおりである。

1.特許異議申立の理由の概要
(1)申立理由1(サポート要件違反)
外部量子収率に優れる発光素子の製造に有用な高分子化合物について、本件発明1では、式(I)で表される構成単位を含む化合物(要件(ア))、また、本件発明6では、式(IX)で表される構成単位および式(IZ)で表される構成単位からなる群から選ばれる構成単位を含む化合物(要件(イ))と規定されている。
しかし、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0314】?【0520】の実施例において具体的に示されている、外部量子収率に優れる発光素子の製造に有用な高分子化合物は、CM7、CM18、CM19、CM22、CM23、CM24のようなN含有化合物より形成された構成単位を主として含む高分子化合物だけである。
さらに、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記の高分子化合物が、どのような作用機構・作用機序により、外部量子収率に優れるという作用効果を奏するのかについて、一般的な説明は何らなされていない。
したがって、上記の広範な高分子化合物が、本件発明の課題を解決できるとは、本件の優先日時点における技術常識に照らしても、当業者が、認識できるものではないから、本件発明1?13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由2(実施可能要件違反)
上記の(1)で示した発明の詳細な説明の記載より、本件の優先日時点における技術常識に照らしても、当業者は、高分子化合物の構成単位を具体的にどのように設定・選択すれば、外部量子収率に優れるという作用効果を奏する高分子化合物および該高分子化合物を用いて得られる発光素子を得られるのかが理解できず、過度の試行錯誤を要するといえる。
そうすると、本件の優先日時点における技術常識に照らしても、当業者は、本件発明1?13を実施することができないから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件発明1?13に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(3)申立理由3(甲第1号証を主引例とした進歩性の欠如)
本件発明1?5、10?12および13は、甲第1号証?甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(4)申立理由4(甲第5号証を主引例とした新規性進歩性の欠如)
本件発明1?3、5?6、8、10および13は、甲第5号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、または、甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(5)申立理由5(甲第6号証を主引例とした新規性進歩性の欠如)
本件発明1?5および13は、甲第6号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、または、甲第6号証および甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2.証拠方法
甲第1号証:特開2010-155985号公報
甲第2号証:特開2014-001349号公報
甲第3号証:国際公開第2013/114976号
甲第4号証:国際公開第2013/146806号
甲第5号証:特開2010-034496号公報
甲第6号証:特開2005-285749号公報
以下、「甲第1号証」?「甲第6号証」を、「甲1」?「甲6」という。

第4 当審の判断
当審は、申立人が主張する上記の申立理由1?5については、いずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件発明1?13についての特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきもの、と判断する。

1.本件明細書の記載事項
本件明細書には、以下の事項が記載されている。
本a.
「【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「発光素子」ともいう。)は、発光効率が高く、駆動電圧が低いことから、ディスプレイおよび照明の用途に好適に使用することが可能であり、近年注目されている。この発光素子は、発光層、正孔輸送層等の有機層を備える。高分子化合物を用いることで、インクジェット印刷法に代表される塗布法により有機層を形成することができるため、発光素子の製造に用いる高分子化合物が検討されている。
【0003】
発光素子の正孔輸送層に用いる材料として、特許文献1には、高分子化合物に含まれる構成単位の合計含有量に対して、アリールアミン構成単位を90モル%以上含む高分子化合物が記載されている。なお、該アリールアミン構成単位はいずれも、隣接する構成単位と結合を形成する炭素原子の隣の炭素原子が置換基を有していない構成単位である。
【0004】
また、発光素子の正孔輸送層に用いる材料として、特許文献2には、隣接する構成単位と結合を形成する炭素原子の隣の炭素原子が置換基を有する、アリールアミン構成単位を含む高分子化合物が記載されている。なお、該アリールアミン構成単位はいずれも、アリールアミン構成単位を構成するsp3窒素原子が、1つの環からなるアリール基を有する構成単位である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/114976号
【特許文献2】特開2014-111765号公報」

本b.
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の高分子化合物を用いて製造される発光素子は、その外部量子収率が必ずしも十分ではない。
【0007】
そこで、本発明は、外部量子収率に優れる発光素子の製造に有用な高分子化合物を提供することを目的とする。…
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外部量子収率に優れる発光素子の製造に有用な高分子化合物を提供することができる。また、本発明によれば、該高分子化合物を含有する組成物および該高分子化合物を用いて得られる発光素子を提供することができる。」

本c.
「【発明を実施するための形態】…
【0075】
式(1)で表される構成単位の含有量は、本発明の高分子化合物の正孔輸送性が優れるので、高分子化合物に含まれる構成単位の合計含有量に対して、0.1?90モル%であることが好ましく、30?80モル%であることがより好ましく、40?60モル%であることが更に好ましい。
【0076】
式(1)で表される構成単位としては、例えば、式(1-1)?(1-16)で表される構成単位が挙げられ、好ましくは式(1-1)?(1-6)、式(1-10)、式(1-11)または式(1-13)で表される構成単位である。
【0077】
【化29】

【0080】
【化32】



「【0304】
<発光素子>
本発明の発光素子は、本発明の高分子化合物を用いて得られる有機エレクトロルミネッセンス等の発光素子であり、該発光素子には、例えば、本発明の高分子化合物を含む発光素子、本発明の高分子化合物が分子内、分子間、または、それらの両方で架橋した状態(架橋体)を含む発光素子がある。 本発明の発光素子の構成としては、例えば、陽極および陰極からなる電極と、該電極間に設けられた本発明の高分子化合物を用いて得られる層とを有する。
【0305】
[層構成]
本発明の高分子化合物を用いて得られる層は、通常、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層の1種以上の層であり、好ましくは、正孔輸送層である。これらの層は、各々、発光材料、正孔輸送材料、正孔注入材料、電子輸送材料、電子注入材料を含む。これらの層は、各々、発光材料、正孔輸送材料、正孔注入材料、電子輸送材料、電子注入材料を、上述した溶媒に溶解させ、インクを調製して用い、上述した膜の作製と同じ方法を用いて形成することができる。」

本d.
「【実施例】…
【0416】
<実施例1> 高分子化合物1の合成
【0417】
…高分子化合物1のMnは7.1×10^(4)であり、Mwは3.7×10^(5)であった。
【0418】
高分子化合物1は、仕込み原料の量から求めた理論値では、化合物CM7から誘導される構成単位と、化合物CM8から誘導される構成単位と、化合物CM9から誘導される構成単位と、化合物CM10から誘導される構成単位とが、50:40:5:5のモル比で構成されてなる共重合体である。…
【0419】
<比較例1> 高分子化合物2の合成
【0420】
…高分子化合物1のMnは1.9×10^(4)であり、Mwは2.5×10^(5)であった。
【0421】
高分子化合物2は、仕込み原料の量から求めた理論値では、化合物CM11から誘導される構成単位と、化合物CM8から誘導される構成単位と、化合物CM9から誘導される構成単位と、化合物CM10から誘導される構成単位とが、50:40:5:5のモル比で構成されてなる共重合体である。…
【0428】
<実施例2> 高分子化合物5の合成
【0429】
…高分子化合物5のMnは5.3×10^(4)であり、Mwは2.0×10^(5)であった。
【0430】
高分子化合物5は、仕込み原料の量から求めた理論値では、化合物CM7から誘導される構成単位と、化合物CM14から誘導される構成単位と、化合物CM9から誘導される構成単位と、化合物CM10から誘導される構成単位とが、50:40:5:5のモル比で構成されてなる共重合体である。【0431】
<実施例3> 高分子化合物6の合成
【0432】
…高分子化合物6のMnは5.2×10^(4)であり、Mwは2.2×10^(5)であった。
【0433】
高分子化合物6は、仕込み原料の量から求めた理論値では、化合物CM18から誘導される構成単位と、化合物CM14から誘導される構成単位と、化合物CM9から誘導される構成単位と、化合物CM10から誘導される構成単位とが、50:40:5:5のモル比で構成されてなる共重合体である。
【0434】
<実施例4> 高分子化合物7の合成
【0435】
…高分子化合物7のMnは4.8×10^(4)であり、Mwは2.1×10^(5)であった。
【0436】
高分子化合物7は、仕込み原料の量から求めた理論値では、化合物CM15から誘導される構成単位と、化合物CM20から誘導される構成単位と、化合物CM21から誘導される構成単位と、化合物CM19から誘導される構成単位とが、40:5:5:50のモル比で構成されてなる共重合体である。
【0437】
<実施例5> 高分子化合物8の合成
【0438】
…高分子化合物8のMnは5.1×10^(4)であり、Mwは2.0×10^(5)であった。
【0439】
高分子化合物8は、仕込み原料の量から求めた理論値では、化合物CM15から誘導される構成単位と、化合物CM20から誘導される構成単位と、化合物CM21から誘導される構成単位と、化合物CM22から誘導される構成単位とが、40:5:5:50のモル比で構成されてなる共重合体である。
【0440】
<実施例6> 高分子化合物9の合成
【0441】
…高分子化合物9のMnは4.9×10^(4)であり、Mwは2.3×10^(5)であった。
【0442】
高分子化合物9は、仕込み原料の量から求めた理論値では、化合物CM23から誘導される構成単位と、化合物CM20から誘導される構成単位と、化合物CM21から誘導される構成単位と、化合物CM14から誘導される構成単位とが、40:5:5:50のモル比で構成されてなる共重合体である。
【0443】
<実施例7> 高分子化合物10の合成
【0444】
…高分子化合物10のMnは4.6×10^(4)であり、Mwは2.1×10^(5)であった。
【0445】
高分子化合物10は、仕込み原料の量から求めた理論値では、化合物CM1から誘導される構成単位と、化合物CM12から誘導される構成単位と、化合物CM24から誘導される構成単位と、化合物CM10から誘導される構成単位とが、50:10:35:5のモル比で構成されてなる共重合体である。
【0446】
<比較例2> 高分子化合物11の合成
【0447】
…高分子化合物11のMnは3.3×10^(4)であり、Mwは2.2×10^(5)であった。
【0448】
高分子化合物11は、仕込み原料の量から求めた理論値では、化合物CM11から誘導される構成単位と、化合物CM21から誘導される構成単位と、化合物CM20から誘導される構成単位と、化合物CM25から誘導される構成単位とが、40:5:5:50のモル比で構成されてなる共重合体である。
【0449】
<比較例3> 高分子化合物12の合成
【0450】
…高分子化合物12のMnは4.3×10^(4)であり、Mwは1.3×10^(5)であった。
【0451】
高分子化合物12は、仕込み原料の量から求めた理論値では、化合物CM15から誘導される構成単位と、化合物CM21から誘導される構成単位と、化合物CM20から誘導される構成単位と、化合物CM26から誘導される構成単位とが、40:5:5:50のモル比で構成されてなる共重合体である。
【0452】
<比較例4> 高分子化合物13の合成
【0453】
…高分子化合物13のMnは1.7×10^(5)であり、Mwは3.3×10^(5)であった。高分子化合物13は、仕込み原料の量から求めた理論値では、それぞれの化合物から誘導される構成単位が、下記表5に示されるモル比で構成されてなる共重合体である。
【0454】
【表5】

【0455】
<比較例5> 高分子化合物14の合成
【0456】
…高分子化合物14のMnは5.8×10^(4)であり、Mwは2.0×10^(5)であった。
【0457】
高分子化合物14は、仕込み原料の量から求めた理論値では、化合物CM15から誘導される構成単位と、化合物CM21から誘導される構成単位と、化合物CM20から誘導される構成単位と、化合物CM25から誘導される構成単位とが、40:5:5:50のモル比で構成されてなる共重合体である。
【0458】
<比較例6> 高分子化合物15の合成
【0459】
…高分子化合物15のMnは5.8×10^(4)であり、Mwは2.2×10^(5)であった。
【0460】
高分子化合物15は、仕込み原料の量から求めた理論値では、化合物CM15から誘導される構成単位と、化合物CM21から誘導される構成単位と、化合物CM20から誘導される構成単位と、化合物CM16から誘導される構成単位とが、40:5:5:50のモル比で構成されてなる共重合体である。
【0461】
<比較例7> 高分子化合物16の合成
【0462】
…高分子化合物16を1.46g得た。高分子化合物16のMnは8.9×10^(4)であり、Mwは3.6×10^(5)であった。
【0463】
高分子化合物16は、仕込み原料の量から求めた理論値では、化合物CM13から誘導される構成単位と、化合物CM5から誘導される構成単位と、化合物CM10から誘導される構成単位と、化合物CM9から誘導される構成単位とが、50:40:5:5のモル比で構成されてなる共重合体である。
【0464】
<実施例D1> 発光素子D1の作製および評価
(陽極および正孔注入層の形成)
ガラス基板にスパッタ法により45nmの厚みでITO膜を付けることにより陽極を形成した。該陽極上に、ポリチオフェン・スルホン酸系の正孔注入剤であるAQ-1200(Plextronics社製)を用いて、スピンコート法により65nmの厚さで成膜し、大気雰囲気下において、ホットプレート上で170℃、15分間加熱することにより正孔注入層を形成した。
【0465】
(正孔輸送層の形成)
キシレンに、高分子化合物1を0.7重量%の濃度で溶解させた。得られたキシレン溶液を用いて、正孔注入層の上にスピンコート法により20nmの厚さで成膜し、窒素ガス雰囲気下において、ホットプレート上で180℃、60分間加熱することにより正孔輸送層を形成した。
【0466】
(発光層の形成)
キシレンに、高分子化合物3およびイリジウム錯体1をそれぞれ1.8重量%の濃度で溶解させた。そして、高分子化合物3とイリジウム錯体1との固形分比が70重量%:30重量%となるように、各キシレン溶液を混合した。得られたキシレン溶液を用いて、正孔輸送層の上に、スピンコート法により80nmの厚さで成膜し、窒素ガス雰囲気下において、ホットプレート上で150℃、10分加熱することにより発光層を形成した。
【0467】
(陰極の形成)
発光層が形成された基板を蒸着機内において、1.0×10^(-4)Pa以下にまで減圧した後、陰極として、発光層の上にフッ化ナトリウムを約7nm、次いで、フッ化ナトリウム層の上にアルミニウムを約120nm蒸着した。蒸着後、ガラス基板を用いて封止することにより、発光素子D1を作製した。
【0468】
(発光素子の評価)
発光素子D1に電圧を印加したところ、520nmにピークを有するEL発光が観測された。発光素子D1の1000cd/m^(2)での外部量子収率は22.8%であった。結果を表6に示す。

【0479】
<比較例CD1> 発光素子CD1の作製および評価
実施例D1における、高分子化合物1に代えて、高分子化合物2を用いたこと以外は、実施例D1と同様にして、発光素子CD1を作製した。
【0480】
発光素子CD1に電圧を印加したところ、520nmにピークを有するEL発光が観測された。発光素子CD1の1000cd/m^(2)での外部量子収率は9.9%であった。結果を表6に示す。

【0489】
【表6】

【0490】
実施例D1と比較例CD1および比較例CD2との比較、実施例D2、実施例D3、実施例D4および実施例D5と比較例CD3および比較例CD4との比較、実施例D6と比較例CD5との比較から、本発明の高分子化合物を用いて作製される発光素子は、外部量子収率に優れていることが分かる。
【0491】
<実施例D7> 発光素子D7の作製および評価
(陽極および正孔注入層の形成)
ガラス基板にスパッタ法により45nmの厚みでITO膜を付けることにより陽極を形成した。該陽極上に、ポリチオフェン・スルホン酸系の正孔注入剤であるAQ-1200(Plectronics社製)を用いて、スピンコート法により35nmの厚さで成膜し、大気雰囲気下において、ホットプレート上で170℃、15分間加熱することにより正孔注入層を形成した。
【0492】
(正孔輸送層の形成)
キシレンに、高分子化合物1を0.7重量%の濃度で溶解させた。得られたキシレン溶液を用いて、正孔注入層の上にスピンコート法により20nmの厚さで成膜し、窒素ガス雰囲気下において、ホットプレート上で180℃、60分間加熱することにより正孔輸送層を形成した。
【0493】
(発光層の形成)
キシレンに、高分子化合物4を1.2重量%の濃度で溶解させた。得られたキシレン溶液を用いて、正孔輸送層の上にスピンコート法により60nmの厚さで成膜し、窒素ガス雰囲気下において、ホットプレート上で150℃、10分加熱することにより発光層を形成した。
【0494】
(陰極の形成)
発光層が形成された基板を蒸着機内において、1.0×10^(-4)Pa以下にまで減圧した後、陰極として、発光層の上にフッ化ナトリウムを約7nm、次いで、アルミニウムを約120nm蒸着した。蒸着後、ガラス基板を用いて封止することにより、発光素子D7を作製した。
【0495】
(発光素子の評価)
発光素子D7に電圧を印加したところ、455nmにピークを有するEL発光が観測された。発光素子D7の1000cd/m^(2)での外部量子収率は7.2%であった。結果を表7に示す。

【0506】
<比較例CD6> 発光素子CD6の作製および評価
実施例D7における、高分子化合物1に代えて、高分子化合物2を用いたこと以外は、実施例D7と同様にして、発光素子CD6を作製した。
【0507】
発光素子CD6に電圧を印加したところ、455nmにピークを有するEL発光が観測された。発光素子CD6の1000cd/m^(2)での外部量子収率は6.3%であった。結果を表7に示す。

【0519】
【表7】

【0520】
実施例D7と比較例CD6および比較例CD7との比較、実施例D8、実施例D9、実施例D10および実施例D12と比較例CD8、比較例CD10および比較例CD11との比較、実施例D11と比較例CD9との比較し、実施例D13と比較例CD12との比較から、本発明の高分子化合物を用いて作製される発光素子は、外部量子収率に優れていることが分かる。」

なお、実施例1?7で使用されているトリアリールアミンである、CM7(実施例1(高分子化合物1)、実施例2(高分子化合物5))、CM18(実施例3(高分子化合物6))、CM19(実施例4(高分子化合物7))、CM22(実施例5(高分子化合物8))、CM23(実施例6(高分子化合物9))、CM24(実施例7(高分子化合物10))の化学構造は、以下のとおりである。





また、比較例1?7で使用されているトリアリールアミンである、CM5(比較例7(高分子化合物16))、CM8(比較例1(高分子化合物2))、CM11(比較例1(高分子化合物2)、比較例2(高分子化合物11))、CM16(比較例6(高分子化合物15))、CM25(比較例2(高分子化合物11))、比較例5(高分子化合物14))、CM26(比較例3(高分子化合物12))、CM27(比較例4(高分子化合物13))の化学構造は、以下のとおりである。



2.申立理由1(サポート要件違反)の判断
(1)サポート要件の考え方
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件発明が解決しようとする課題
本件明細書の【0006】には、【0003】?【0005】で紹介されている特許文献1、2に記載されているアリールアミン構成単位を含む高分子化合物を用いた発光素子が、外部量子収率において、必ずしも十分でないという課題を有していたことが記載されている(本a、本b)
そして、本件明細書の【0007】によると、本件発明は、外部量子収率に優れる発光素子の製造に有用な高分子化合物を提供することで、上記の課題を解決することを目的としたものと認められる(本b)。

(3)本件発明1?13のサポート要件の検討
本件明細書の【表6】には、発光層として、高分子化合物3/イリジウム錯体1が70質量%/30質量%を用い、正孔輸送層として高分子化合物1、5?9を用いた発光素子D1?D6が、22.3%(発光素子D5(高分子化合物8))?25.4%(発光素子D3(高分子化合物6))の外部量子収率(1000cd/m^(2))を示すのに対し、上記と同じ発光層を用い、正孔輸送層として高分子化合物2、11、14?16を用いた発光素子CD1?CD5を用いた場合では、5.8%(発光素子CD5(高分子化合物16))?12.0%(発光素子CD3(高分子化合物14))の外部量子収率(1000cd/m^(2))を示すことが記載されている(本d)。
同じく、同【表7】には、発光層として、高分子化合物4を用い、正孔輸送層として高分子化合物1、5?10を用いた発光素子D7?D13が、7.2%(発光素子D7(高分子化合物1))?9.7%(発光素子D8(高分子化合物5)、D9(高分子化合物6))の外部量子収率(1000cd/m^(2))を示すのに対し、上記と同じ発光層を用い、正孔輸送層として高分子化合物2、11?16を用いた発光素子CD6?CD12を用いた場合では、4.2%(発光素子CD9(高分子化合物13))?7.2%(発光素子CD8(高分子化合物12))の外部量子収率(1000cd/m^(2))を示すことが記載されている(本d)。
ここで、発光素子D1?D13で使用されている高分子化合物1、5?10は、CM7(高分子化合物1、高分子化合物5)、CM18(高分子化合物6)、CM19(高分子化合物7)、CM22(高分子化合物8)、CM23(高分子化合物9)、CM24(高分子化合物10)のアリールアミンをモノマー成分として有するものであり、これらのモノマー成分は、いずれも「Ar^(A1)およびAr^(A3)」となる「フェニレン基」が、「隣接する構成単位と結合を形成する」ボロン酸エステル又はブロモ基に結合している炭素原子の隣の炭素原子にアルキル基を有するものであるから(本d)、高分子化合物1、5?10は、本件発明1の「Ar^(A1)およびAr^(A3)は、隣接する構成単位と結合を形成する原子の隣の原子の少なくとも1つが、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリール基を置換基として有」するという発明特定事項(以下、「隣接置換基に係る発明特定事項」という。)を備えているものと認められる。
加えて、上記の高分子化合物1、5?10は、本件発明1における「a^(1)が0」であるもの(CM7、CM18、CM19、CM22、CM24)、「a^(1)が1」であるもの(CM23)、「a^(2)が0」であるもの(CM7、CM18、CM19、CM23、CM24)、「a^(2)が1」であるもの(CM22)の全ての態様を含んでおり、Ar^(A1)、Ar^(A3)、Ar^(A2)、Ar^(A4)、R^(A1)、R^(A2)、R^(A3)の化学構造が多少異なる場合でも、これらの高分子化合物を用いた発光素子は、上述した本件明細書の【表6】(本dの【0489】)、【表7】(本dの【0519】)の結果からみて、所定の外部量子収率(1000cd/m^(2))を示すことを推認でき、特に「a^(2)」が0の場合には、上記の「隣接置換基に係る発明特定事項」に加えて、「R^(A1)は2つ以上の環が縮合したアリール基(該アリール基の環を構成する炭素原子数は10以上である)、または、2つ以上の環が縮合した1価の複素環基(該1価の複素環基の環を構成する炭素原子数およびヘテロ原子数の合計は10以上である)を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。」という発明特定事項(以下、「a^(2)が0の場合のR^(A1)の発明特定事項」という。)を備える必要があることを理解できる。
これに対し、比較対象である発光素子CD1?CD12で使用されている高分子化合物2、11?16は、CM5(高分子化合物16)、CM8(高分子化合物2)、CM11(高分子化合物2、高分子化合物11)、CM16(高分子化合物15)、CM25(高分子化合物11、高分子化合物14)、CM26(高分子化合物12)、CM27(高分子化合物13)のアリールアミンをモノマー成分として有するものであり、これらのアリールアミンの化学構造(本d)より判断すると、高分子化合物2、11、14、15、16は、上記の本件発明1の「隣接置換基に係る発明特定事項」を備えておらず、高分子化合物12、13は、上記の「隣接置換基に係る発明特定事項」を備えているものの、側鎖において、窒素原子に直接結合する2つ以上の環が縮合したアリール基又は2つ以上の環が縮合した複素環基を有さないため、上記の本件発明1の「a^(2)が0の場合のR^(A1)の発明特定事項」を備えていないと認められる。
そして、【表6】、【表7】には、本件発明1の発明特定事項の一部を備えていない高分子化合物2、11?16(CM5、CM8、CM11、CM16、CM25、CM26、CM27のいずれかのアリールアミン構造を含む高分子化合物)を用いた発光素子CD1?CD12は、本件発明の高分子化合物1、5?10(CM7、CM18、CM19、CM22、CM23、CM24のいずれかのアリールアミン構造を含む高分子化合物)を用いた発光素子D1?D13と比べて、十分な外部量子収率(1000cd/m^(2))を示さないことが示されている。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の【表6】、【表7】における高分子化合物1、5?10の実験結果からみて、本件発明1の発明特定事項の化学構造を有するものであれば、外部量子収率に優れる発光素子の製造に有用な高分子化合物であることを当業者は理解できるから、本件発明1及び当該発明を引用する本件発明2?13は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が上記(2)の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

(4)申立人の主張について
申立人の主張は、概略、本件明細書の【0314】?【0520】の実施例において具体的に示されている、外部量子収率に優れる発光素子の製造に有用な高分子化合物は、CM7、CM18、CM19、CM22、CM23、CM24のようなN含有化合物より形成された構成単位を主として含む高分子化合物だけであり、上記の高分子化合物が、どのような作用機構・作用機序により、外部量子収率に優れるという作用効果を奏するのかについて、一般的な説明がないので、本件発明1?13で示される広範な高分子化合物が、本件発明の課題を解決できるとは、当業者が認識できるものではない、というものである。
しかるに、表6、7に記載された、高分子化合物1、5?10を用いた発光素子D1?D13の実験結果によると、Ar^(A1)、Ar^(A3)、Ar^(A2)、Ar^(A4)、R^(A1)、R^(A2)、R^(A3)の化学構造が多少異なる場合でも、本件発明1の発明特定事項を満たせば、所定の外部量子収率(1000cd/m^(2))を示すことを当業者は推認できる。
また、申立人は、本件発明1?13で示される高分子化合物が、本件発明の課題を解決できないことを示唆する、客観的な根拠を提示するものではないので、単に、外部量子収率に寄与する化学構造や作用機構・作用機序に関する説明が、本件明細書に存在しないことのみを理由として、本件発明1?13が、サポート要件に違反していると判断することはできない。
したがって、上記の申立人の主張は、採用できない。

(5)申立理由1(サポート要件違反)の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1?13は、サポート要件を満たすものであるから、申立人が主張する申立理由1は理由がない。

3.申立理由2(実施可能要件違反)の判断
(1)実施可能要件の考え方
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。
また、物の発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為であるから(特許法2条3項1号)、物の発明について上記実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明において、当業者が、明細書の発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、かつ、使用することができる程度の記載があることを要する。

(2)本件発明1?13の実施可能要件の検討
本件明細書の発明の詳細な説明の【0416】?【0418】、【0428】?【0445】には、本件発明1の実施例である高分子化合物1、5?10の製造方法が具体的に記載されており、同【0464】?【0478】、【0491】?【0505】には、当該高分子化合物を発光素子D1?D6、D7?D13に適用する方法、【0489】、【0519】の【表6】、【表7】には、各々の発光素子が所定の外部量子収率(1000cd/m^(2))を示すことが記載されており(本d)、それ以外の高分子化合物の製造方法の一般的な説明も【0203】?【0230】に示されているので、これらの記載に接した当業者は、本件特許の出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1?13が対象とする高分子化合物を製造し、且つ、当該化合物を発光素子に使用することができるものと認められる。
申立人は、概略、当業者においては、高分子化合物の構成単位を具体的にどのように設定・選択すれば、外部量子収率に優れるという作用効果を奏する高分子化合物および該高分子化合物を用いて得られる発光素子を得られるのかが理解できず、過度の試行錯誤を要すると主張する。
しかし、上記の本件明細書の発明の詳細な説明の記載や2(3)にて検討したところを踏まえると、高分子化合物1、5?10以外の化合物の製造やその発光素子への適用において、必ずしも、当業者に過度の試行錯誤を要することは推認できない。
また、本件明細書の発明の詳細な説明に、外部量子収率に寄与する化学構造や作用機構・作用機序に関する説明がなくても、上記2(3)で検討したとおり、本件発明1の化学構造を有する高分子化合物であれば、光学素子に用いた場合に所定の外部量子収率が得られることを当業者は理解できる。
したがって、上記の申立人の主張は、採用できない。

(3)申立理由2(実施可能要件)の検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1?13は、実施可能要件を満たすものであるから、申立人が主張する申立理由2は理由がない。

4.甲号証の記載事項及び甲号証に記載された発明
(1)甲1(特開2010-155985号公報)の記載事項及び
甲1に記載された発明
ア.甲1の記載事項
甲1a
「【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位及び下記式(2)で表される繰り返し単位を有するアリールアミンポリマーであって、
Ar^(2)及び/又はAr^(3)に置換基として架橋性基を有することを特徴とするアリールアミンポリマー。
【化1】

(式(1)及び式(2)中、
Ar^(1)?Ar^(3)は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、
R^(1)?R^(4)は、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、
R^(5A)は、直接結合、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、
m及びnは、各々独立に、1以上の整数を表す。)」

甲1b
「【技術分野】
【0001】
本発明はアリールアミンポリマーに関し、特に、有機電界発光素子の正孔注入層及び正孔輸送層として有用なアリールアミンポリマー、該アリールアミンポリマーを含有する有機電界発光素子材料、有機電界発光素子用組成物及び有機電界発光素子、並びに、この有機電界発光素子を備えた有機ELディスプレイ及び有機EL照明に関する。

【0012】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、正孔輸送能及び電気化学的安定性に優れ、積層化が可能であり、通電によって分解などが起こりにくく、均質な膜質を提供しうるアリールアミンポリマーと、該アリールアミンポリマーを含有する有機電界発光素子材料及び有機電界発光素子用組成物を提供することを目的とする。 本発明はまた、低い電圧で駆動可能で、発光効率が高く、駆動安定性が高い、有機電界発光素子並びにそれを備えた有機ELディスプレイ及び有機EL照明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、側鎖にフルオレン環を有し、且つ架橋性基を有する特定の構造を有するアリールアミンポリマーが、架橋をさせて有機溶剤に不溶とした後も、高い正孔輸送能及び電気化学的安定性を有することを見出し、本発明を完成させた。」

甲1c
「【0025】
[1.アリールアミンポリマーの構成]
本発明のアリールアミンポリマーは、少なくとも下記式(1)で表される繰り返し単位(以下、適宜「繰り返し単位(1)」という。)及び下記式(2)で表される繰り返し単位(以下、適宜「繰り返し単位(2)」という。)を有するアリールアミンポリマーであって、Ar^(2)及び/又はAr^(3)に置換基として架橋性基を有する。
【化5】

(式(1)及び式(2)中、Ar^(1)?Ar^(3)は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、R^(1)?R^(4)は、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、R^(5A)は、直接結合、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、m及びnは、各々独立に、1以上の整数を表す。)

【0028】
・Ar^(1)?Ar^(3)の説明
式(1)及び式(2)において、 Ar^(1)?Ar^(3)は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
【0029】
Ar^(1)?Ar^(3)を構成する置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環又は2?5縮合環由来の基、及びビフェニル基、ターフェニル基などが挙げられる。
【0030】
Ar^(1)?Ar^(3)を構成する置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えば、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5又は6員環の単環又は2?4縮合環由来の基が挙げられる。
【0031】
中でも、溶解性及び耐熱性の点から、Ar^(1)?Ar^(3)は、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基が好ましい。
【0032】
さらに、Ar^(1)における芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が有していてもよい置換基、並びにAr^(2)及び/又はAr^(3)における芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基が有していてもよい、架橋性基以外の置換基としては、特に制限はないが、例えば、下記置換基群Zから選ばれる基が挙げられる。なお、Ar^(1)?Ar^(3)は、置換基を1個有していてもよく、2個以上有していてもよい。2個以上有する場合、1種類を有していてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で有していてもよい。」

甲1d
「【0084】
・本発明のアリールアミンポリマーの具体例
以下、本発明のアリールアミンポリマーの具体例を示す。ただし、本発明は以下の例示物に限定されるものではない。
【0085】
【化24】




甲1e
「【0395】
引き続き、以下の構造式(H9)に示すアリールアミンポリマー(重量平均分子量:41000、数平均分子量:28000)を含有する正孔輸送層形成用塗布液を調製し、下記の条件でスピンコートにより成膜して、加熱により重合させることにより膜厚20nmの正孔輸送層4を形成した。
【化102】



イ.甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1の【0084】?【0085】に記載されたアリールアミンポリマーの具体例に着目すると、
甲1には、以下の発明(甲1発明)が記載されていると認められる。

「下記構造式で示されるアリールアミンポリマー




(2)甲5(特開2010-034496号公報)の記載事項及び
甲5に記載された発明
ア.甲5の記載事項
甲5a
「【請求項1】
1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーを含む混合物を用いて形成された層(以下、「重合層」と呼ぶ。)及び燐光材料を含む発光層の2つの層を共に有することを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。」

甲5b
「【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、従来よりも優れた発光効率、発光寿命を有する有機EL素子並びにこれを備えた照明装置、表示素子、及び表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討した結果、1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーを含む混合物より形成された層と燐光材料を含む発光層とを用いることにより、有機EL素子の発光効率、発光寿命を改善できることを見出し、本発明を完成させるに至った。」

甲5c
「【0055】
上記1つ以上の重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマーは、隣接した電極または有機層から隣接した有機層へと効率よく正孔を輸送する観点から、正孔輸送性を有する繰り返し単位を有することが好ましい。このような正孔輸送性を有する繰り返し単位としては、芳香族アミン又はカルバゾールであることが好ましく、具体的には、例えば、下記一般式(1a)?(6a)、(7a)?(13a)等が挙げられる。
【0056】
【化1】

【0057】
上記一般式(1a)?(6a)中のAr_(1)?Ar_(31)は、それぞれ独立に置換又は非置換のアリーレン基、ヘテロアリーレン基を表す。ここで、アリーレン基とは、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団であり、ヘテロアリーレン基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子2個を除いた原子団である。
【0058】
また、アリーレン基、ヘテロアリーレン基は、置換又は非置換であってもよい。アリーレン基としては、例えば、フェニレン、ビフェニル-ジイル、ターフェニル-ジイル、ナフタレン-ジイル、アントラセン-ジイル、テトラセン-ジイル、フルオレン-ジイル、フェナントレン-ジイル等が挙げられる。
【0059】
また、ヘテロアリーレン基としては、例えば、ピリジン-ジイル、ピラジン-ジイル、キノリン-ジイル、イソキノリン-ジイル、アクリジン-ジイル、フェナントロリン-ジイル、フラン-ジイル、ピロール-ジイル、チオフェン-ジイル、オキサゾール-ジイル、オキサジアゾール-ジイル、チアジアゾール-ジイル、トリアゾール-ジイル、ベンゾオキサゾール-ジイル、ベンゾオキサジアゾール-ジイル、ベンゾチアジアゾール-ジイル、ベンゾトリアゾール-ジイル、ベンゾチオフェン-ジイル等が挙げられる。」

「【0117】
(オリゴマー合成例3)
【0118】
【化13】

【0119】
モノマーとしてとして2,7-ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)-9,9-ジオクチルフルオレン(0.4mmol)、上記構造のモノマーC(0.32mmol)、重合可能な置換基を有するモノマーA(0.16mmol)を用い、オリゴマー合成例1と同様の方法でオリゴマーを合成した。得られたオリゴマーの数平均分子量はポリスチレン換算で4694、仕事関数は5.45eVであった。」

イ.甲5に記載された発明(甲5発明)
甲5の【0117】?【0119】の記載に着目すると、甲5には、以下の発明(甲5発明)が記載されていると認められる。

「下記の構造式で示されるオリゴマー



(3)甲6(特開2005-285749号公報)の記載事項及び
甲6に記載された発明
ア.甲6の記載事項
甲6a
「【請求項1】
下記一般式(1)で表されるトリアリールアミンポリマー。
【化1】

[式中、Ar^(1)は無置換若しくは置換基を有する炭素数6?60のアリール基、アリールアミノ基又はヘテロアリール基を表し、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)、R^(5)、R^(6)、R^(7)及びR^(8)は各々独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アリール基、アリールアミノ基又はヘテロアリール基である。ただし、少なくとも一つは水素原子以外の置換基である。Aは直接結合又は下記一般式(2)
【化2】

(式中、Ar^(2)は無置換若しくは置換基を有する炭素数6?60のアリール基、アリールアミノ基又はヘテロアリール基を表す。)で表される基である。nは1以上の整数である。]

【請求項6】
一般式(1)が下記一般式(10)?(16)のいずれかで表されることを特徴とする請求項1に記載のトリアリールアミンポリマー。
【化5】

(式中、R^(13)、R^(14)、R^(16)、R^(17)、R^(18)、R^(19)、R^(21)、R^(22)、R^(24)、R^(25)、R^(26)及びR^(27)は炭素数1?8の直鎖、分岐、環状のアルキル基若しくはアルコキシ基である。R^(15)、R^(20)、R^(23)及びR^(28)?R^(38)は水素原子、炭素数1?8の直鎖、分岐、環状のアルキル基若しくはアルコキシ基である。)

【請求項16】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のトリアリールアミンポリマーを正孔輸送層又は正孔注入層として用いることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」

甲6b
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は有機EL素子における正孔輸送材又は正孔注入材用途としての新規トリアリールアミンポリマーとその簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、正孔輸送材又は正孔注入材用途におけるバンドエネルギー構造に着目し、最適化を行った結果、広いバンドギャップを有するトリアリールアミンポリマーを開発し、本発明を完成するに至った。」

甲6c
「【0015】
前記一般式(1)?(3)において、Ar^(1)及びAr^(2)は各々独立して無置換若しくは置換基を有する炭素数6?60のアリール基、アリールアミノ基又はヘテロアリール基を表すが、下記一般式(4)?(9)で表される構造が特に好ましい。
【0016】
【化4】

(式中、R^(9)、R^(10)、R^(11)及び^(12)は各々独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基又はアルケニル基である。aは0?5の整数である。bは1又は2である。) 前記一般式(1)において、置換基R^(1)?R^(8)としては、前記の定義に該当すれば特に限定されるものではないが、具体的には水素原子の他、ハロゲン原子…アルキル基…、アルケニル基…アリール基…及び、ヘテロアリール基…を挙げることができる。より好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールアミノ基のいずれかである。」

甲6d
「【0065】

実施例1(化合物52の合成)
冷却管、温度計を装着した100ml四つ口丸底フラスコに、室温下、4,4’-ジヨード-2,2’-ジメチルビフェニル 4.34g(10mmol)、4-n-ブチルアニリン 1.64g(11mmol)、ナトリウム-tert-ブトキシド 2.31g(24mmol;臭素原子に対して1.2当量)及びo-キシレン 35mlを仕込んだ。この混合液に予め窒素雰囲気下で調製したトリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウムクロロホルム錯体22.9mg(0.025mmol;臭素原子に対して0.25mol%)及びトリ-tert-ブチルホスフィン 0.22ml(パラジウム原子に対して原子4当量)のo-キシレン(5ml)溶液を添加した。その後窒素雰囲気下、温度を120℃まで昇温し、120℃で加熱攪拌しながら3時間熟成した。反応終了後、この反応混合物を約80℃まで冷却した後、90%アセトン水溶液(200ml)の攪拌溶液へゆっくり加えた。ろ過により固体をろ別回収し、アセトン、水、アセトンの順番で洗浄した後、減圧乾燥し白色粉体を得た(91%)。得られた粉体を元素分析及び赤外分光分析により測定したところ、下記一般式(51)で表されるトリアリールアミンポリマーであることが確認された。
【0066】
【化17】

続いて冷却管、温度計を装着した100ml四つ口丸底フラスコに、室温下一般式(51)2.97g、ブロモベンゼン0.79g(5mmol)、ナトリウム-tert-ブトキシド 0.58g(6mmol)及びo-キシレン 25mlを仕込んだ。この混合液に予め窒素雰囲気下で調製したトリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウムクロロホルム錯体18.3mg(0.02mmol)及びトリ-tert-ブチルホスフィン 0.18mlのo-キシレン(5ml)溶液を添加した。その後窒素雰囲気下、温度を120℃まで昇温し、120℃で加熱攪拌しながら3時間熟成した。この反応混合物を室温まで冷却した後、蒸留水(10ml)を加えて水洗を実施した(3回)。溶媒を一部減圧留去した後、90%アセトン水溶液(300ml)の攪拌溶液へゆっくり加えた。ろ過により固体をろ別回収し、アセトン、水、アセトンの順番で洗浄した後、減圧乾燥し白色粉体を得た(94%)。得られた粉体を元素分析及び赤外分光分析により測定したところ、下記一般式(52)で表されるトリアリールアミンポリマーであることが確認された。元素分析及び赤外分光分析の測定結果をそれぞれ表1及び図1に示す。」

イ.甲6に記載された発明(甲6発明)
甲6の請求項6の記載に着目すると、甲6には、以下の発明(甲6A発明)が記載されていると認められる

「一般式(10)?(11)、(13)?(14)のいずれかで表されるトリアリールアミンポリマー

(式中、R^(13)、R^(14)、R^(16)、R^(17)、R^(18)、R^(19)、R^(24)、R^(25)、R^(26)及びR^(27)は炭素数1?8の直鎖、分岐、環状のアルキル基若しくはアルコキシ基である。R^(15)、R^(20)、R^(28)、R^(29)、R^(30)、R^(31)は水素原子、炭素数1?8の直鎖、分岐、環状のアルキル基若しくはアルコキシ基である。)」

他に、甲6の実施例1(化合物52の合成)の記載に着目すると、以下の発明(甲6B発明)が記載されていると認められる。

「一般式(51)で表されるトリアリールアミンポリマー



(4)甲2?4の記載事項
ア.甲2(特開2014-001349号公報)の記載事項
甲2a
「【請求項1】
式(1)で表される構成単位(1)…を含む高分子化合物(A)…を含む組成物。
【化1】

[式中、 Ar^(1)およびAr^(3)は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基または置換基を有していてもよい2価の複素環基である。 Ar^(2)およびAr^(4)は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基、置換基を有していてもよい2価の複素環基、または、置換基を有していてもよいアリーレン基および置換基を有していてもよい2価の複素環基からなる群から選ばれる同一もしくは異なる2以上の基が連結している2価の基である。
R^(1)、R^(2)およびR^(3)は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよい1価の複素環基である。
Ar^(1)、Ar^(2)、Ar^(3)、Ar^(4)、R^(1)、R^(2)およびR^(3)はそれぞれ、当該基が結合している窒素原子に結合している当該基以外の基と、直接結合していてもよく、-O-、-S-、-C(=O)-、-N(R^(a1))-または-C(R^(a1))_(2)-を介して結合していてもよい。R^(a1)は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、ハロゲン原子または置換基を有していてもよい1価の複素環基である。R^(a1)が複数個存在する場合、各々のR^(a1)は互いに同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して各々が結合する炭素原子とともに環構造を形成していてもよい。
xおよびyは、それぞれ独立に、0または1である。]
…」

甲2b
「【0091】
式(1)において、Ar^(1)およびAr^(3)は、それぞれ独立に、好ましくは、置換基を有していてもよいアリーレン基であり、より好ましくは、置換基を有していてもよいフェニレン基、置換基を有していてもよいナフタレンジイル基であり、さらに好ましくは置換基を有していてもよいフェニレン基であり、特に好ましくは式(1b)で表わされる基である。
【0092】
【化19】



イ.甲3(国際公開第2013/114976号)の記載事項
甲3a
「[請求項1] 下記式(1)で示される構成単位を全構成単位の合計に対して51モル%以上…含む、高分子化合物。

[式(1)中、
aは1?3の整数を示し、bは0または1を示す。
Ar^(1)およびAr^(3)は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基、または、置換基を有していてもよい2価の複素環基を示し、Ar^(2)およびAr^(4)は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基、置換基を有していてもよい2価の複素環基、または、置換基を有していてもよいアリーレン基および置換基を有していてもよい2価の複素環基からなる群より選ばれる、互いに同一でも異なっていてもよい2個以上の基が連結した2価の基を示し、Ar^(1)、Ar^(2)、Ar^(3)およびAr^(4)はそれぞれ、これらの基が結合している窒素原子に結合している当該基以外の基と互いに連結して環構造を形成していてもよい。Ar^(2)が複数個存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
R^(A)、R^(B)およびR^(C)は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよい1価の複素環基を示す。R^(B)が複数個存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。]
…」

甲3b
「[0084] 式(1)において、Ar^(1)およびAr^(3)におけるアリーレン基としては、例えば、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、1,4-ナフタレンジイル基、2,6-ナフタレンジイル基、2,7-ナフタレンジイル基、2,6-アントラセンジイル基、9,10-アントラセンジイル基、2,7-フェナントレンジイル基、5,12-ナフタセンジイル基、2,7-フルオレンジイル基、3,6-フルオレンジイル基、1,6-ピレンジイル基、2,7-ピレンジイル基または3,8-ペリレンジイル基であることが好ましく、1,4-フェニレン基、2,7-フルオレンジイル基、2,6-アントラセンジイル基、9,10-アントラセンジイル基、2,7-フェナントレンジイル基または1,6-ピレンジイル基であることがより好ましい。なお、これらの基は上記置換基を有していてもよい。」

ウ.甲4(国際公開第2013/146806号)の記載事項
甲4a
「[請求項1] 下記式(1)で表される構成単位…を含む高分子化合物。

[式中、
Ar^(1)およびAr^(3)は、それぞれ独立に、非置換若しくは置換のアリーレン基または非置換若しくは置換の2価の複素環基を表す。
Ar^(2)およびAr^(4)は、それぞれ独立に、非置換若しくは置換のアリーレン基、非置換若しくは置換の2価の複素環基、または、アリーレン基および2価の複素環基から選ばれる同一若しくは異なる2以上の基が連結した2価の基(該基は、置換基を有していてもよい。)を表す。
Ar^(5)、Ar^(6)およびAr^(7)は、それぞれ独立に、水素原子、非置換若しくは置換のアルキル基、非置換若しくは置換のアリール基または非置換若しくは置換の1価の複素環基を表す。
Ar^(1)、Ar^(2)、Ar^(3)、Ar^(4)、Ar^(5)、Ar^(6)およびAr^(7)はそれぞれ、当該基が結合している窒素原子に結合している当該基以外の基と、直接結合されていてもよく、-O-、-S-、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-N(R_(a))-、-C(=O)-N(R_(a))-または-C(R_(a))_(2)-を介して結合されていてもよい。R_(a)は、水素原子、非置換若しくは置換のアルキル基、非置換若しくは置換のアルコキシ基、非置換若しくは置換のアリール基、ハロゲン原子または非置換若しくは置換の1価の複素環基を表す。R_(a)が2個存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。
xおよびyは、それぞれ独立に、0または1を表し、x+y=1である。
…」

甲4b
「[0067] 前記Ar^(1)およびAr^(3)で表される基は、本実施形態の高分子化合物を用いて製造される発光素子の発光効率がより優れるので、非置換若しくは置換のフェニレン基であることが好ましく、非置換若しくは置換の1,4-フェニレン基であることがさらに好ましい。」

5.申立理由3(甲1を主引例とした進歩性の欠如)の判断
(1)本件発明1と甲1発明の対比、判断
ア.本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1と甲1発明(4(1)イ)を対比する。
甲1発明の「アリールアミンポリマー」は、主鎖にある複数の窒素原子を連結する基として、下記の基

を有するものであり、右から2番目のベンゼン環と3番目のベンゼン環にメチル基を有するものであるから、上記の連結する基は、本件発明1の「式(1)で表される構成単位を含む高分子化合物」における「Ar^(A1)およびAr^(A3)」とは、「アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリール基を置換基として有」するベンゼン環を含む二価の基である限りにおいて、一致している。
また、甲1発明の「アリールアミンポリマー」は、主鎖にある複数の窒素原子を介し、側鎖に下記の基

を有するものであり、この基は、本件発明1の「式(1)で表される構成単位を含む高分子化合物」における「a^(2)が0である場合」の「R^(A1)は2つ以上の環が縮合したアリール基(該アリール基の環を構成する炭素原子数は10以上である)」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「式(1)で表される構成単位を含む高分子化合物。
【化1】

[式中、a^(1)およびa^(2)は、0を表し、
Ar^(A1)およびAr^(A3)は、ベンゼン環を含む二価の基を表し、Ar^(A1)およびAr^(A3)に含まれるベンゼン環は、アルキル基を置換基として有し、
R^(A1)は、2つ以上の環が縮合したアリール基(該アリール基の環を構成する炭素原子数は10以上である)を表し、この基は置換基を有していてもよい。]」で一致し、
本件発明1では、Ar^(A1)およびAr^(A3)が、一つのベンゼン環を有するフェニレン基であり、当該フェニレン基が、「隣接する構成単位と結合を形成する原子の隣の原子の少なくとも1つが、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリール基を置換基として有」しているのに対し、
甲1発明では、Ar^(A1)およびAr^(A3)が、「直鎖状に結合した4つのベンゼン環を含む二価の基」であり、中央の2つのベンゼン環は、「アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリール基を置換基として有」するものの、窒素原子に結合する末端の2つのベンゼン環(本件発明1のフェニレン基に相当する環)は、「隣接する構成単位と結合を形成する原子の隣の原子の少なくとも1つが、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリール基を置換基として有」していない点(相違点1)
で相違している。

イ.相違点1の検討
相違点1について検討する。
甲1の請求項1及び【0025】には、下記式(1)で表される繰り返し単位及び下記式(2)で表される繰り返し単位を有するアリールアミンポリマーが記載されており、式(1)及び(2)における「Ar^(1)?Ar^(3)は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基」を表すこと(甲1a、甲1c)、【0029】には、「Ar^(1)?Ar^(3)を構成する置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環又は2?5縮合環由来の基、及びビフェニル基、ターフェニル基などが挙げられ」ること(甲1c)、【0031】には、「溶解性及び耐熱性の点から、Ar^(1)?Ar^(3)は、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基が好ましい」こと(甲1c)が記載されている。

そして、【0085】?【0088】には、22の化合物が例示されている(甲1d)。
しかし、ベンゼン環が結合している位置の隣にメチル基を有する化合物は、甲1発明の化合物以外に存しないうえ、甲1発明の化合物は、化学構造式が記載されているだけのもので実際に合成されたものでもない。
してみれば、上記のとおり、甲1に、Ar^(1)?Ar^(3)の選択肢として、ベンゼン環が、2?5縮合環や芳香族複素環を含めた多数の基と共に列挙されていたとしても、特に、甲1発明の上記「直鎖状に結合した4つのベンゼン環を含む二価の基」を、本件発明1の「隣接する構成単位と結合を形成する原子の隣の原子の少なくとも1つが、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリール基を置換基として有」する「フェニレン基」に置き換えることが、当業者に容易に動機付けられるとはいえない。
また、甲2?4を参照しても、主鎖において、複数の窒素原子に連結している、置換基を有していてもよいアリーレン基または置換基を有していてもよい2価の複素環基が示されるに止まり(甲2a、甲2b、甲3a、甲3b、甲4a、甲4b)、甲1発明の上記「直鎖状に結合した4つのベンゼン環を含む二価の基」を、本件発明1の上記「フェニレン基」に置き換えることを当業者に動機付けるような記載や示唆が、甲2?4に存するとは認められない。
しかも、本件明細書の【表6】(本dの【0489】)、【表7】(本dの【0519】)によると、本件発明1は、「Ar^(A1)およびAr^(A3)は、隣接する構成単位と結合を形成する原子の隣の原子の少なくとも1つが、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基またはアリール基を置換基として有」するという発明特定事項(隣接置換基に係る発明特定事項)と「a^(2)が0である場合、R^(A1)は2つ以上の環が縮合したアリール基(該アリール基の環を構成する炭素原子数は10以上である)、または、2つ以上の環が縮合した1価の複素環基(該1価の複素環基の環を構成する炭素原子数およびヘテロ原子数の合計は10以上である)を表」わすという発明特定事項(a^(2)が0の場合のR^(A1)の発明特定事項)の両方を具備することで、これらの発明特定事項を具備しない場合と比べて、発光素子に適用した場合に優れた外部量子収率(1000cd/m^(2))を示すものであるところ(2(3))、甲1?4のいずれにも、これらの発明特定事項が、外部量子収率(1000cd/m^(2))に影響を与えることを示す記載は見当たらない。
そうすると、甲1?甲4に記載された技術的事項を参酌しても、相違点1として挙げた、本件発明1の発明特定事項を、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(2)本件発明2?5、10?12および13について
本件発明2?5、10?12および13は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(3)小括
以上からすると、本件発明1?5、10?12および13は、甲1発明、すなわち、甲1に記載された発明と甲1?甲4に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6.申立理由4(甲5を主引例とした新規性進歩性の欠如)の判断
(1)本件発明1と甲5発明の対比、判断
ア.本件発明1と甲5発明の対比
本件発明1と甲5発明(4(2)イ)を対比する。
甲5発明の「オリゴマー」は、主鎖にある複数の窒素原子を連結する基として、下記の基

を有するものであり、これらのベンゼン環(フェニル基)は、隣接する構成単位と結合を形成する原子の隣の原子の少なくとも1つが、アルキル基を置換基として有するものであるから、当該基は、本件発明1の「式(1)で表される構成単位を含む高分子化合物」における「Ar^(A1)およびAr^(A3)」に相当する。
また、甲5発明の「オリゴマー」は、主鎖にある複数の窒素原子を介して、側鎖にp-トリル基を有するものであり、この基は、本件発明1の「式(1)で表される構成単位を含む高分子化合物」における「a^(2)が0である場合」の「R^(A1)はアリール基」である限りで一致する。

そうすると、本件発明1と甲5発明は、
「式(1)で表される構成単位を含む高分子化合物。
【化1】

[式中、a^(1)およびa^(2)は、0を表し、
Ar^(A1)およびAr^(A3)は、フェニレン基を表し、隣接する構成単位と結合を形成する原子の隣の原子の少なくとも1つが、アルキル基を置換基として有し、
R^(A1)は、アリール基を表し、この基は置換基を有していてもよい。]」で一致し、
本件発明1では、a^(2)が0である場合、R^(A1)は「2つ以上の環が縮合したアリール基(該アリール基の環を構成する炭素原子数は10以上である)、または、2つ以上の環が縮合した1価の複素環基(該1価の複素環基の環を構成する炭素原子数およびヘテロ原子数の合計は10以上である)」であるのに対し、
甲5発明では、a^(2)が0であり、かつp-トリル基である点(相違点2)
で相違している。

イ.相違点2の検討
相違点2について検討する。
甲5の【0055】?【0056】には、「重合可能な置換基を有するポリマー又はオリゴマー」が、一般式(1a)?(6a)、(7a)?(13a)として挙げられ(甲5c)、【0057】には、一般式(1a)の側鎖に相当する「Ar_(4)」等として、「置換又は非置換のアリーレン基、ヘテロアリーレン基を表す。ここで、アリーレン基とは、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団であり、ヘテロアリーレン基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子2個を除いた原子団である。」(甲5c)、【0058】には、「アリーレン基、ヘテロアリーレン基は、置換又は非置換であってもよい。アリーレン基としては、例えば、フェニレン、ビフェニル-ジイル、ターフェニル-ジイル、ナフタレン-ジイル、アントラセン-ジイル、テトラセン-ジイル、フルオレン-ジイル、フェナントレン-ジイル等が挙げられる。」(甲5c)、【0059】には、「ヘテロアリーレン基としては、例えば、ピリジン-ジイル、ピラジン-ジイル、キノリン-ジイル、イソキノリン-ジイル、アクリジン-ジイル、フェナントロリン-ジイル、フラン-ジイル、ピロール-ジイル、チオフェン-ジイル、オキサゾール-ジイル、オキサジアゾール-ジイル、チアジアゾール-ジイル、トリアゾール-ジイル、ベンゾオキサゾール-ジイル、ベンゾオキサジアゾール-ジイル、ベンゾチアジアゾール-ジイル、ベンゾトリアゾール-ジイル、ベンゾチオフェン-ジイル等が挙げられる。」(甲5c)と記載されており、側鎖に「ナフタレン-ジイル、アントラセン-ジイル、テトラセン-ジイル、フルオレン-ジイル、フェナントレン-ジイル」等の「2つ以上の環が縮合したアリール基(該アリール基の環を構成する炭素原子数は10以上である)」、または、「ベンゾオキサゾール-ジイル、ベンゾオキサジアゾール-ジイル、ベンゾチアジアゾール-ジイル、ベンゾトリアゾール-ジイル、ベンゾチオフェン-ジイル」等の「2つ以上の環が縮合した1価の複素環基(該1価の複素環基の環を構成する炭素原子数およびヘテロ原子数の合計は10以上である)」を採用できることも一応記載されている。
しかし、甲5の実施例において、オリゴマー合成例1?3で製造されているオリゴマーは、いずれも側鎖に、p-トリル基等のアルキル基がパラ位に置換された1つの環のみを有するフェニル基を有するものに止まっている。
また、上記のとおり、甲5における、Ar^(4)等の選択肢として、「フェニレン、ビフェニル-ジイル、ターフェニル-ジイル」や「ピリジン-ジイル、ピラジン-ジイル」等の単環基も多数列挙されていることに照らすと、特に、甲5発明のp-トリル基を、「2つ以上の環が縮合したアリール基、または、2つ以上の環が縮合した1価の複素環基」に置き換えることを、当業者が容易に動機付けられるとはいえない。
しかも、5(1)イの相違点1の判断でも示したとおり、本件明細書によると、本件発明1は、「隣接置換基に係る発明特定事項」と「a^(2)が0の場合のR^(A1)の発明特定事項」の両方を具備することで、これらの発明特定事項を具備しない場合と比べて、発光素子に適用した場合に優れた外部量子収率(1000cd/m^(2))を示すものであるところ(2(3))、本件明細書の【0519】の【表7】(本d)によると、発光素子CD9で用いられている高分子化合物13は、甲5発明と同様に、側鎖に、アルキル基(n-ブチル基)がパラ位のみに置換されたフェニル基を備えるCM26を原料とするものであるが、発光素子CD9の外部量子収率は「4.2%」となっており、本件発明1の発明特定事項を満たす発光素子D7?D13を用いた場合の外部量子収率「7.2%」?「9.7%」を大きく下回っている。
そうすると、相違点2として挙げた、本件発明1の発明特定事項は、甲5に記載されたものとはいえないし、甲5の記載事項を参酌しても、当該発明特定事項を、当業者が容易に想到し得たということはできない。

(2)本件発明2?3、5?6、8、10および13について
本件発明2?3、5?6、8、10および13は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲5に記載されたものとはいえないし、甲5に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に想到し得たものということもできない。

(3)小括
以上からすると、本件発明1?3、5?6、8、10および13は、甲5発明、すなわち、甲5に記載された発明とはいえないうえ、甲5に記載された発明と甲5に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

7.申立理由5(甲6を主引例とした新規性進歩性の欠如)の判断
(1)本件発明1と甲6発明の対比、判断
ア.本件発明1と甲6発明の対比
本件発明1と甲6A発明及び甲6B発明(4(3)イ)を、纏めて対比する。
甲6A発明と甲6B発明の「トリアリールアミンポリマー」は、共に、主鎖にある複数の窒素原子を連結する基がフェニレン基であり、隣接する構成単位と結合を形成する原子の隣の原子が「炭素数1?8の直鎖、分岐、環状のアルキル基若しくはアルコキシ基」を置換基として有しているから、当該フェニレン基は、本件発明の「式(1)で表される構成単位を含む高分子化合物」における「Ar^(A1)およびAr^(A3)」に相当する。
また、甲6A発明と甲6B発明の「トリアリールアミンポリマー」は、主鎖にある複数の窒素原子を介して、側鎖にフェニル基を有し、当該フェニル基の置換基が、水素原子、炭素数1?8の直鎖、分岐、環状のアルキル基若しくはアルコキシ基であるから、当該フェニル基は、本件発明1の「式(1)で表される構成単位を含む高分子化合物」における「a^(2)が0である場合」の「R^(A1)はアリール基」である限りにおいて一致する。

そうすると、本件発明1と甲6A発明及び甲6B発明は、
「式(1)で表される構成単位を含む高分子化合物。
【化1】

[式中、a^(1)およびa^(2)は、0を表し、
Ar^(A1)およびAr^(A3)は、フェニレン基を表し、隣接する構成単位と結合を形成する原子の隣の原子の少なくとも1つが、アルキル基またはアルコキシ基を置換基として有し、
R^(A1)は、アリール基を表し、この基は置換基を有していてもよい。]」で一致し、
本件発明1では、a^(2)が0である場合、R^(A1)が「2つ以上の環が縮合したアリール基(該アリール基の環を構成する炭素原子数は10以上である)、または、2つ以上の環が縮合した1価の複素環基(該1価の複素環基の環を構成する炭素原子数およびヘテロ原子数の合計は10以上である)」であるのに対し、
甲6A発明では、a^(2)が0であり、かつパラ位に水素原子、炭素数1?8の直鎖、分岐、環状のアルキル基若しくはアルコキシ基を有するフェニル基、甲6B発明では、a^(2)が0であり、かつパラ位にn-ブチル基を有するフェニル基である点(相違点3)
で相違している

イ.相違点3の検討
相違点3について検討する。
甲6の請求項1には、一般式(1)で表されるトリアリールアミンポリマーの側鎖に相当するAr^(1)が、無置換若しくは置換基を有する炭素数6?60のアリール基、アリールアミノ基又はヘテロアリール基を表すことが記載され(甲6a)、【0015】には、「Ar^(1)及びAr^(2)は各々独立して無置換若しくは置換基を有する炭素数6?60のアリール基、アリールアミノ基又はヘテロアリール基を表す」こと(甲6c)、【0016】には、一般式(4)?(9)で表される構造が特に好ましいこと(甲6c)が記載されている。
しかし、甲6の実施例1?5において、実際に合成されているトリアリールアミンポリマーは、いずれも側鎖に、n-ブチル基がパラ位に置換されたフェニル基を有するものに止まっている。
また、上記の実施例1?5の記載に加え、甲6の請求項6において、一般式として記載されているトリアリールアミンポリマーの側鎖も、おしなべて、無置換フェニル基、アルキル基置換フェニル基又はアルコキシ基置換フェニル基であることに照らすと、特に、甲6A発明及び甲6B発明の上記のフェニル基を、「2つ以上の環が縮合したアリール基、または、2つ以上の環が縮合した1価の複素環基」に置き換えることを、当業者が容易に動機付けられるとはいえない。
しかも、5(1)イの相違点1の判断で示したとおり、本件明細書によると、本件発明1は、「隣接置換基に係る発明特定事項」と「a^(2)が0の場合のR^(A1)の発明特定事項」の両方を具備することで、これらの発明特定事項を具備しない場合と比べて、発光素子に適用した場合に優れた外部量子収率(1000cd/m^(2))を示すものであるところ(2(3))、本件明細書の【0519】の【表7】(本d)によると、発光素子CD9で用いられている高分子化合物13は、甲6B発明と同様に、側鎖に、n-ブチル基がパラ位に置換されたフェニル基を備えるCM26を原料とするものであるが、発光素子CD9の外部量子収率は「4.2%」となっており、本件発明1の発明特定事項を満たす発光素子D7?D13を用いた場合の外部量子収率「7.2%」?「9.7%」を大きく下回っている。
そうすると、相違点3として挙げた、本件発明1の発明特定事項は、甲6に記載されたものとはいえないし、甲6の記載事項を参酌しても、当該発明特定事項を、当業者が容易に想到し得たということはできない。

(2)本件発明2?5および13について
本件発明2?5および13は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲6に記載されたものとはいえないし、甲6発明と甲6及び甲1に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に想到し得たものということもできない。

(3)小括
以上からすると、本件発明1?5および13は、甲6発明、すなわち、甲6に記載された発明とはいえないし、甲6に記載された発明と甲6及び甲1に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許に係る異議申立てにおいて申立人が主張する取消理由1?5はいずれも理由がないから、本件発明1?13についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件発明1?13についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-10-28 
出願番号 特願2016-545454(P2016-545454)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08G)
P 1 651・ 113- Y (C08G)
P 1 651・ 536- Y (C08G)
P 1 651・ 121- Y (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 尾立 信広  
特許庁審判長 杉江 渉
特許庁審判官 橋本 栄和
福井 悟
登録日 2021-01-06 
登録番号 特許第6819289号(P6819289)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 高分子化合物およびそれを用いた発光素子  
代理人 清水 義憲  
代理人 坂元 徹  
代理人 三上 敬史  
代理人 田村 明照  
代理人 吉住 和之  
代理人 中山 亨  
代理人 長谷川 芳樹  

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