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審決分類 審判 全部申し立て 出願日、優先日、請求日  G11B
審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  G11B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G11B
管理番号 1001213
異議申立番号 異議1999-71077  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-01-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-03-19 
確定日 1999-08-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第2801984号「磁気光学記憶素子」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2801984号の特許を維持する。 
理由 (1)手続の経緯
本件特許第2801984号発明(以下、本件特許発明という)は、昭和56年7月2日に特許出願された特願昭56-104071号(以下、「原出願」という)の一部を新たな特許出願として平成3年9月27日に出願され、平成10年7月10日にその発明について特許の設定登録がなされた後、その特許について、特許異議申立人田中浩貴より特許異議の申立てがなされたものである。
(2)本件発明
本件特許発明の要旨は、特許明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの
「基板と、該基板より屈折率が大きい透明誘電体膜と、膜厚が150Å近傍以上350Å以下の膜面に垂直な磁化容易軸を有する希土類-遷移金属非晶質薄膜と、金属材料からなる反射膜と、をこの順に形成し、前記基板側から入射し前記希土類-遷移金属非晶質薄膜の表面で反射される光と、前記希土類-遷移金属非晶質薄膜を通り前記反射膜で反射され再び前記希土類-遷移金属非晶質薄膜を通り抜けた光と、が合成されることによってカー回転角を向上せしめることを特徴とする磁気光学記憶素子。」
にあるものと認める(以下、本件発明という。)。
(3)申立ての理由の概要
異議申立人田中浩貴は、本件発明は、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内の発明ではなく、本件特許出願は適法な分割出願ではない。したがって、本件特許は、本件特許出願の出願日である平成3年9月2日前に頒布された、原出願の公開公報である参考資料(特開昭58-6541号公報)により拒絶されるべきものである。また、異議申立人は、甲第1号証(米国特許第3594064号明細書)及び甲第2号証(IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS,VOL.MAG-16,NO.5,SEPTEMBER 1980)を提出し、本件発明は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、また、特許請求の範囲の記載が不備であるので、本件発明の特許は特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、本件発明の特許は特許法第113条第1項第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきである旨主張している。
(4)分割の適法性について
申立人は、「反射膜にAlを用いることは、そのカー回転角か小さいゆえに、原出願の発明の範囲から除外されていたのであるから、そのAlを、磁性層の膜厚限定等と共に本発明の範囲内に変更することは、発明の範囲を実質的に拡大するものである。従って、本件特許の出願は適法な分割出願ではなく、その出願日は分割出願された日であって、本件特許は、原出願により拒絶されるべきである。」旨主張している。
そこで、上記申立人の主張について検討すると、出願の分割の適否は、原出願の出願公告後になされた場合においても、分割後の発明が、原出願の出願当初の明細書又は図面に記載され、かつ、出願の分割の際に原出願の明細書又は図面に記載されていたか否かによって判断すべきものあって、原出願の発明の範囲とされていたか否かとは無関係であるから、反射膜にAlを用いた例が原出願の出願当初の明細書又は図面に記載され、かつ、出願の分割の際に原出願の明細書又は図面に記載されていたものである以上、本件特許の出願は分割の要件を満たすものである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(5)特許請求の範囲の記載について
申立人は、本件明細書の特許請求の範囲の記載が不備である理由として、
▲1▼本件発明の反射膜の材料にAlが含まれるのか否か不明瞭である。
▲2▼甲第2号証の記載によると、本発明の効果が奏されるためには、希土類-遷移金属非晶質薄膜の膜厚だけでなく、その組成までも特定される必要がある。
▲3▼透明誘電体膜の膜厚を略λ/4nとすることが本件発明の必須要件であるにもかかわらず、この点が特許請求の範囲に記載されていない。
点を指摘している。
そこで、上記▲1▼〜▲3▼の点について検討すると、
▲1▼について、本件明細書第【0014】段落には、「図2に示されるように、反射膜がAlの場合は他の金属材料に比べればカー回転角は若干小さくなるが、これとても、GdTbFe非晶質薄膜の膜厚が150Å近傍以上350Å以下では反射膜が無い場合に比較してカー回転角が大きくなる。」と記載されているから、本件発明の反射膜の材料にAlが含まれることを疑う余地はない。
▲2▼について、本件明細書第【0020】段落には、「本発明によればそれまで膜厚の厚いものしか用いられなかった希土類-遷移金属非晶質薄膜の膜厚を敢えて150Å近傍以上350Å以下という極めて薄い膜としたので材料コストを極力安価に抑えることができる。」と、希土類-遷移金属非晶質薄膜の膜厚を限定したことによってのみ生じる作用効果が記載されているから、希土類-遷移金属非晶質薄膜の組成は本件発明の作用効果が奏されるための必須の要件ではない。
▲3▼について、透明誘電体層の膜厚を略λ/4nとすることは、基板1より入射した光が上記透明誘電体膜の内部で干渉しカー回転角が増大しS/Nが向上するための最適条件に過ぎないから、これを特許請求の範囲に必須要件として記載しなければならない理由はない。
また、他に特許請求の範囲の記載に不備な点はは見出せない。
以上のとおりであるから、本件明細書の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第5項の規定を満たしているものと認める。
(6)甲各号証記載の発明
甲第1号証(米国特許第3594064号明細書)には、
「この発明は磁気信号の光学的検出用の装置に関する。特に、この発明は改善された縦カー変換性を有する磁気光学素子に関する。」(第1欄第6〜9行)
「iii.誘電体層、その屈折率はnとnsinθ程度との間であり、θは入射媒体と第1磁性層との間の界面における所定の光についての所定の入射角であり、また、誘電体層は素子の変換性を実質的に増大させる。iv.金属反射層。」(第1欄第41〜47行)
「FIG.1の図を参照すると、入射媒体1は固体の板であり、それは磁性層2の支持体として機能し、誘電体層3と反射層4がある。」(第2欄第1〜3行)
「誘電体層3は、入射光が入射媒体と誘電体層との間で反射に関しほぼ臨界角になるように選択されねばならない。もし、入射媒体の屈折率がnであれば、誘電体の屈折率はnよりも小さい、また好ましくはnsinO近傍であるべきである。」(第2欄第22〜27行)
「FIG.3はこの発明の装置のもう一つの変形例を示し、薄い誘電体層8がプリズム面と第1磁性層との間に設層されている。」(第2欄第51〜53行)
「所定の電磁波が可視光であるとき、入射媒体としては光学ガラスが好ましい。ポリ(メチルメタクリレート)のような透明プラスチックも入射媒体として使用し得る。誘電体層は薄膜に形成可能であらねばならず、また適切な屈折率を有していなければならない。多くの誘電性材料(屈折率範囲1.26〜4.0)があり、それは薄膜に形成でき、それ故これらは提案した本構成で誘電体層として可能な材料である。そのような材料のリストが、J.T.Cox and G.Hass,″Physics of Thin Films,″Academic Press,New York,1964,Vol.2,p.284,と、O.S.Heavens,Repts.Prog.Phys.23,1(1960)に見つけられる。反射層はAg,Al,Rh,Cu,Au,Cr等のような、あらゆる高反射材料を用い得る。磁性層はFe,Co又はNiであり、これら同士或いは他の材料とのフェロ磁性合金であり、又はあらゆる他の磁性材料が薄膜として供し得る。」(第3欄第1〜20行)
「最大の変換性を与える入射角は、層2(磁性層2)と層3(誘電体層3)との界面(FIG.1参照)で所望の内部反射を起こさせる角度付近である。」(第4欄第54〜56行)
「クレーム3の装置において、磁性層が200Åよりも薄い鉄である。」(第6欄第43〜44行)と記載されている(翻訳は、申立人提出の添付資料1による。)。
また、甲第2号証(IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS,VOL.MAG-16,NO.5,SEPTEMBER1980)には、
「要約-rf共スパッタリングで作製された非晶質TbXFe1-X(0.16<X<0.35)が、磁気光学記録媒体装置用として調査された。その薄膜の磁気異方性、ヒステリシス及び保磁力が、組成と厚さの関数として調べられた。そのスパッタ膜は、熱蒸着されたSiOで被覆された。カー磁気光学エンハンストメントと反射性について、SiOの厚さの効果もまた測定された。」(1194頁左欄第1〜9行)
「非晶質希土類-遷移金属(RE-TM)薄膜が磁気光学記録媒体として好適であることが提案されてきている。」(1194頁左欄第25〜27行)
「非晶質Tb-Fe薄膜が、RFスパッタリング法により2インチ×2インチのガラス基板上に準備された。」(1194頁右欄第3〜4行)
「形成された膜は、酸化防止とカー磁気光学効果のエンハンスのために、熱蒸着されたSiO膜で部分的に被覆された。」(1194頁右欄第12〜15行)
「20〜30nm(200〜300Å)の厚さを有するその膜の垂直磁化ヒステリシスループ(履歴曲線)は、非磁化範囲(非方形化)を示し、それに対し、35nm(350Å)よりも厚い膜では、その垂直ループはかなり方形になった。垂直ループの保磁力は膜の厚さの増加とともに増大し、また前記保磁力は厚さによって1kOe未満から数kOeに変化し得た。40nm(400Å)の厚さを有する典型的な膜が、約1.5kOeの保磁力を持ち、磁気光学記録媒体装置として好適である。」(1195頁右欄下から19〜下から9行)
「RとθK対SiOの厚さ。SiOの屈折率=約1.9。TbFe膜の厚さ=47nm。」(1196頁Fig.3の表題)
と記載されている(翻訳は、申立人提出の添付資料2による。)。
(7)対比・判断
そこで、本件発明と甲第1,2号証に記載された発明とを対比すると、甲第1,2号証には本件発明の構成要件である、
「基板と、該基板より屈折率が大きい透明誘電体膜と、膜面に垂直な磁化容易軸を有する希土類-遷移金属非晶質薄膜と、をこの順に形成し、光を基板側から入射する」点が記載されていない。
そして、本件発明は上記構成要件を備えることによって「基板1より入射した光が上記透明誘電体膜の内部で干渉しカー回転角が増大しS/Nが向上する」(明細書第【0016】段落)という顕著な作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明は、甲第1,2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
なお、申立人は「甲第1号証には入射媒体(基板)1と磁性層2との間に誘電体層8を介在させる構成が開示されている。もっとも誘電体層8の屈折率を入射媒体(基板)1の屈折率nより大きくする旨の記載はないが、この点は、甲第2号証に記載されている。」旨主張しているので、この点について検討すると、甲第1号証に記載された発明は縦カー効果を利用するものであって、そのFe,Co又はNiなどの磁性薄膜の磁化方向は膜面に平行であるのに対し、本件発明の希土類-遷移金属非晶質薄膜は膜面に垂直な磁化容易軸を有するものであるから、両者は共にカー効果を利用するものとはいえ、レーザ光による情報の記録・消去・再生の具体的態様が基本的に異なっているものである。
よって、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明とを組み合わせることは当業者といえども困難であるから、申立人の上記主張は採用できない。
(8)まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-07-22 
出願番号 特願平3-248722
審決分類 P 1 651・ 03- Y (G11B)
P 1 651・ 121- Y (G11B)
P 1 651・ 532- Y (G11B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 梅岡 信幸河口 雅英西川 一  
特許庁審判長 内藤 二郎
特許庁審判官 清水 稔
矢崎 賀子
登録日 1998-07-10 
登録番号 特許第2801984号(P2801984)
権利者 シャープ株式会社
発明の名称 磁気光学記憶素子  

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