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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1001950
審判番号 審判1997-8967  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1997-06-02 
確定日 1999-09-14 
事件の表示 平成4年 特許願 第510262号「イオン化マグネシウムとカルシウムの濃度を測定するための方法とバイオアベイラブルなマグネシウムとカルシウムの組成物」拒絶査定に対する審判事件〔(平成4年10月15日国際公開 WO92/17780、平成6年10月27日国内公表 特許出願公表平6-509639号)について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明の要旨
本願は、1992年4月8日(パリ条約による優先権主張1991年4月8日及び1992年4月7日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その請求項2に係る発明は、平成9年6月25日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2に記載された次のとおりのものと認める。
「(A)大気と生物試料との間のガス交換を最小限に押えるか又は防止しうる条件下で生物試料を採取すること、
(B)イオン化しているMg2+の測定に先立って大気と生物試料との間のガス交換を最小限に押えるか又は防止しうる条件下に生物試料を保持すること、および
(C)中性キャリアーを基にした膜を使用した選択性イオン電極を用いてイオン化しているMg2+濃度を測定すること
よりなる疾病状況を検査するために患者から採取した生物試料中のイオン化しているMg2+濃度を測定する方法。」
2.引用例の記載
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用したUpsala J. Med. Sci. 87,p.43-53(1982年)(以下、引用例1という)には、次の事項が記載されている。
(1)「カルシウムとマグネシウムの血清中の含有量の値を求めるためにヒト血清の限外ろ過液が調査された。HCl溶液またはNaOH溶液を用いた滴定によって血清の酸と塩基の濃度及びpHが変化させられた。種々の二酸化炭素分圧を用いて滴定された血清のPCO2を変化させた。これは血清が循環系でろ過される時に実行された。カルシウムとマグネシウムの濃度はpHとPCO2によって変化するので、カルシウムやマグネシウムの分析は嫌気的条件(anaerobical conditions)または標準化されたpHとPCO2の条件の下で行われなければならないことが示される。」(第43頁ABSTRACTの項第1行〜第7行)
(2)「タンパク質に結合した血清マグネシウム画分は、全血清マグネシウム濃度の約30%に寄与する。限外ろ過可能なマグネシウム画分は、主に生物学的に活性であると仮定されるイオン化したマグネシウムからなる。少量のマグネシウム画分は燐酸塩、クエン酸塩に結合しており、また他の錯体も形成し得る。」(第43頁下から第4行〜下から第1行)
(3)「血清試料はその後10mlずつに分割されそれらは-18℃でスクリューキャップ付きのガラス製バイアル中で保存された。全ての試料は一回だけ凍結された。予備実験は、試料を繰り返し凍結するとpH及び緩衝容量の両方が変化することを示した。一方、ただ一回の凍結は結果を変化させなかった。」(第44頁真下から第4行〜下から第3行)
(4)「本研究の目的は、pH及びPCO2が血清中の限外ろ過可能なカルシウムイオン及びマグネシウムイオンの濃度へ及ぼす影響を調べることである。血清は種々のCO2分圧と酸又は塩基を添加して調整した種々のpH下でろ過された。限外ろ過液はカルシウムとマグネシウムについて分析された。」(第44頁第10行〜第13行)
(5)「いくつかの実際上の観点から、限外ろ過可能なカルシウム及びマグネシウムの濃度はpHとPCO2の両方に依存するということを知るのは重要である。分析的観点から、適切で、かつ、対比可能な結果を得るためには血清は標準化されたpHとPCO2で限外ろ過することが重要である。限外ろ過が標準化されたpH及びPCO2で実行される場合には、静脈から嫌気的に試料採取することは必要でないと思われる。」(第51頁第9行〜第13行)
(6)「血清中カルシウム及び血清中マグネシウムのイオン化した形の濃度は、生物学的観点から最も興味深い。ここに述べた限外ろ過技術は、イオン化した画分の測定を与えるのではなく、カルシウム及びマグネシウムのイオン化したものと錯体を形成しているものの両方を含む限外ろ過可能な画分の測定を与えるであろう。正常状態では、遊離イオンが限外ろ過可能な画分の主要な部分であり、錯体を形成している画分は5ないし15パーセント存在するに過ぎない。病的状態では、錯体を形成している画分はおそらくより多くなるであろう。それゆえ、イオン化したカルシウム及びマグネシウムの濃度を得るために、限外ろ過技術を錯体を形成している画分の定量と組み合わせることが必要である。上述した技術は原則として臨床練習に適しているが、遊離イオンの濃度を得るために限外ろ過液の最終分析、例えば遊離イオンにのみ感応する分光光度分析的な方法が必要である。」(第52頁第12行〜第23行)
(7)「控えの分析のために充分な限外ろ過液を得るために、体積5mlの血清と約15分のろ過時間が必要である。1より多数のろ過室を利用できるなら、いくつかの試料が同時に限外ろ過可能である。所要時間は、電極を使用する対応する分析の所要時間とほぼ同じであるが、これまでのところ電極を使用する分析は少し信頼性に欠けている。マグネシウムに関しては、遊離のマグネシウムイオンを定量するための電極は入手できない。」(第52頁第24行〜第29行)
3.対比・判断
引用例1において、引用例1論文の研究の知見に基づき、限外ろ過が標準化されたpH及びPCO2で実行される場合には、静脈から嫌気的に試料採取することは必要でないと思われるとしており(前記(5)参照)、そうでない場合には、静脈からの試料採取は嫌気的に行われ、かつ、測定に至るまで嫌気的条件下に保持する必要があることが示唆されている。
なお、Mg2+選択性電極等の選択性イオン電極であって、中性キャリアーを基にした膜等の液膜を使用したものを臨床検査に用いる場合に、試料の嫌気的な取扱い及び保存が重要であることは、例えば、CLIN.CHEM.32/8,1448-1459 (1986年)(第1453頁左欄第30行〜第40行及び第1455頁左欄第12行〜第18行参照)に記載されているように、当該分野において知られている。
引用例1では、イオン化したカルシウム及びマグネシウムの濃度の限外ろ過による分析と電極を(6)及び(7)参照)。すなわち、引用例1は比較例として選択性イオン電極を用いてイオン化したカルシウム及びマグネシウムの濃度を分析することを示唆している。ただ、引用例1にはマグネシウムを定量する電極は引用例1の論文が書かれた段階では入手できかったことが記載されているが、これは、マグネシウムイオンMg2+を選択性イオン電極で分析することが原理的にできないことを示しているものでないことは明らかである。
引用例1では、試料の採取の目的が疾病状況を検査するためであるのは明らかである(前記(6)参照)。
本願の請求項2の発明(以下、前者という)と上記引用例1に記載又は示唆されたもの(以下、後者という)を比較すると、引用例1の「嫌気的条件」は本願の「大気と生物試料との間のガス交換を最小限に押えるか又は防止しうる条件」に対応しており、両者は、
[(A)大気と生物試料との間のガス交換を最小限に押えるか又は防止しうる条件下で生物試料を採取すること、
(B)イオン化しているMg2+の測定に先立って大気と生物試料との間のガス交換を最小限に押えるか又は防止しうる条件下に生物試料を保持すること、および
(C)選択性イオン電極を用いてイオン化しているMg2+濃度を測定することよりなる疾病状況を検査するために患者から採取した生物試料中のイオン化しているMg2+濃度を測定する方法。」
である点で一致し、前者では、選択性イオン電極が「中性キャリアーを基にした膜を使用した」ものと限定されているのに対し、後者ではかかる限定がない点で相違している。
上記相違点について検討する。
中性キャリアーを基にした膜を使用した選択性イオン電極を臨床検査に用いることは、原査定の拒絶の理由で引用したAnal. Chem. 63(6)p.596-603(1991年3月15日)(以下、引用例2という)の第596頁左欄INTRODUCTIONの項第1行〜第3行に記載されているように本願優先日前に知られており、さらに、かかる選択性イオン電極等のセンサーに使用される中性キャリアーをマグネシウムイオンMg2+の測定を前提にしたものとすることも引用例2(第600頁TableII.中のETH1117、ETH2220、 ETH5214、ETH5220、ETH5282の行参照)に記載されているから、本願請求項2に係る発明において、選択性イオン電極を「中性キャリアーを基にした膜を使用した」ものと限定することが当業者にとって格別の創意を要することであるとは認められない。
そして、本願請求項2に係る発明による効果も当業者の予測可能な範囲に止まるものであり、格別のものとはいえない。
4.むすび
したがって、本願の請求項2に係る発明は、上記引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-03-17 
結審通知日 1999-04-06 
審決日 1999-04-14 
出願番号 特願平4-510262
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 祥子  
特許庁審判長 市川 信郷
特許庁審判官 河原 英雄
小柳 正之
発明の名称 イオン化マグネシウムとカルシウムの濃度を測定するための方法とバイオアベイラブルなマグネシウムとカルシウムの組成物  
代理人 木川 幸治  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 肇  
代理人 長沼 暉夫  
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