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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E06B
管理番号 1003557
異議申立番号 異議1998-72583  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1989-08-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-05-26 
確定日 1999-07-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第2681130号「自動車用の遮光網」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2681130号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2681130号発明は、昭和63年3月24日(優先権主張昭和62年3月24日、昭和62年9月11日)に出願され、平成9年8月8日に設定登録がなされ、その後、田中純子、株式会社ホンダアクセス及び山本正則より特許異議の申立てがなされ、次いで、取消理由通知がなされたものである。
2.本件発明
本件特許の請求項1〜4に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1〜4にそれぞれ記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】靭性を有する長繊維多数本の集束による繊維糸を編織して目の細かい網を形成し、この綱の網目部を開孔態に残すように網糸部に樹脂コーティングを施すとともに、この網を押圧することにより、糸自身をコーティング層とともに扁平化させて少なくとも片側網面を略平滑状になし、この片側網面に粘着剤を施したことを特徴とする自動車用の遮光網。」(以下、「本件発明1」という。)
「【請求項2】ガラス長繊維の集束によるガラス繊維糸を編織して前記網を形成したことを特徴とする請求項1記載の自動車用の遮光網。」(以下「本件発明2」という。)
「【請求項3】前記網の片面又は両面に、塗色し或は図柄を描いたことを特徴とする請求項1または2記載の自動車用の遮光網。」(以下、「本件発明3」という。)
「【請求項4】前記粘着剤が親水性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の自動車用の遮光網。」(以下、「本件発明4」という。)
3.刊行物記載の発明
〈刊行物1〉
当審が通知した取消理由で引用した、本件発明の出願前に頒布された刊行物1(特開昭59-8892号公報)には、
▲1▼面に粘着剤が浸出しているか、あるいは一方の面の一部又は全部に粘着剤が塗布されている剛性を有する網状体からなる板ガラス貼着用遮光材。」(特許請求の範囲第1項)、
▲2▼b明に用いる網状体の素材はポリエチレン、ポリプロピレン・・・等の通常の熱可塑性樹脂、天然繊維などの天然物からなる網状体に樹脂加工又は糊加工を施して剛性を付与したもの、場合によっては金網も使用できる。」(第2頁右下欄第1〜6行)、
▲3▼ラスチック繊維を織網いるいは編織してなる網状体も望ましい。」(第3頁左上欄第4〜5行)、
▲4▼6図には着色ポリプロピレンストランドを平織にした遮光材の貼着面の平面図を示し」(第3頁左下欄第18〜19行)、
との記載があり、上記▲1▼〜▲4▼の記載並びに第6図及び第7図の記載からみて、
「着色ポリプロピレンストランドを平織にして網状体を形成し、網状体に樹脂加工を施し、この片側網面に粘着剤を施した板ガラス貼着用遮光材。」
の発明が記載されているものと認められる。
〈刊行物2〉
当審が通知した取消理由で引用した、本件発明の出願前に頒布された刊行物2(特開昭61-115980号公報)には、
▲1▼「本発明のシートは、通風シート、例えば農林土木建築用通風性シートの補修用に用いられるものである。」(第2頁右上欄第12〜14行)、
▲2▼「基布内糸条は、粗目シートの平面に平行な偏平断面形状を有していることが好ましい。この上うな糸条の偏平断面形状は、補修用シートの接着有効面積を大きくし、強力な補修接着を可能とする。」(第2頁右下欄第7〜11行)、
▲3▼「本発明の補修用シートは、・・・多数の糸条からなる粗目シート21と、その糸条の片面上に形成された粘着性接着剤層22とからなる補修シート23と、・・・離形紙24とからなるものである。本発明の補修用シートに用いられる粗目織物状基布を構成している糸条には・・・ガラス繊維・・・などが用いられる。」(第2頁右下欄第15行〜第3頁左上欄第11行)、
▲4▼「粗目シートを構成する基布は、熱可塑性重合体により被覆されていてもよいし、被覆されていなくてもよい。」(第3頁左下欄第4〜6行)、
▲5▼「前記糸条は、粗目シートの平面に平行に偏平な断面形状を有していることが好ましい。」(第3頁右下欄第2〜3行)、
▲6▼「このように重合体層被覆複合糸条を偏平化するには、前記の工程により重合体被覆層を糸条上に形成したのみでも得られるが、その後、得られた重合体被覆シートにプレスエンボス又はカレンダーなどの押圧処理を施せば更によい。」(第4頁左上欄第12〜16行)、
との記載があり、上記▲1▼〜▲6▼の記載からみて、
「ガラス繊維などの糸条からなる粗目織物状基布に、熱可塑性重合体を被覆して粗目シートを形成し、この粗目シートに押圧処理を施して偏平化し、その片面上に粘着性接着剤層を形成した通風性シートの補修用シート。」
の発明が記載されているものと認められる。
4.対比・判断
(本件発明1について)
本件発明1と刊行物1に記載の発明とを対比すると、「ストランド」は、撚糸せずに軽く集束させた長繊維フィラメントの束を意味するものであるから、刊行物1に記載の発明の「着色ポリプロピレンストランド」は、「着色ポリプロピレンの長繊維フィラメントを多数本集束した束」と解されるから、刊行物1に記載の発明の「着色ポリプロピレンストランドを平織にして形成した網状体」は、本件発明1の「長繊維多数本の集束による繊維糸を編織して形成した目の細かい網」に相当し、また刊行物1に記載の発明の「樹脂加工」は、本件発明1の「樹脂コーティング」に相当するものであり、刊行物1に記載の発明は、網状体に樹脂加工を施し、網状の遮光材を形成するものであるから、本件発明1の構成と同様に網目部を開孔状態に残すように網状体に樹脂加工を施すものであると解される。してみれば、両者は「長繊維多数本の集束による繊維糸を編織して目の細かい網を形成し、この綱の網目部を開孔状態に残すように網糸部に樹脂コーティングを施し、この片側網面に粘着剤を施した遮光網。」の点で一致し、下記の相違点1及び2で相違している。
相違点1
本件発明1が、網を押圧することにより、糸自身をコーティング層とともに扁平化させて少なくとも片側網面を略平滑状になしているのに対し、刊行物1に記載の発明は、そのような構成を備えていない点
相違点2
本件発明1が、自動車用であるのに対し、刊行物1に記載の発明は、自動車に用いるのか明らかでない点
上記相違点について検討する。
相違点1について、ガラス繊維などの糸条からなる粗目織物状基布に、熱可塑性重合体(本件発明1の「樹脂」に相当する。)を被覆して粗目シート(同「綱」に相当する。)を形成し、この粗目シートに押圧処理を施して偏平化することは、刊行物2に記載されているように公知であり、また刊行物2に記載の発明は、粗目シートを偏平化することより、「接着有効面積を大きく」(第2頁右下欄第10行)するという本件発明1と同様の作用効果を奏するものであり、しかも、刊行物1に記載の発明と刊行物2に記載の発明とは、「遮光材」と「農林土木建築用通風性シート」と産業上の利用分野を異にするものではあるが、繊維に樹脂コーティングを施した網を粘着剤で被着体に貼り付けるという機能面からみて同様の技術に属するものであるから、刊行物1に記載の発明に刊行物2に記載の発明の手段を適用して、相違点1における本件発明1の構成のようにすることは、当業者であれば容易に想到しうることである。
相違点2について、本件発明1と刊行物1に記載の発明は、ともに遮光材としてガラスに貼着するものであり、また刊行物1には、「板ガラスがやや湾曲している場合でも貼着でき」(第2頁右下欄第14〜15行)と記載されているから、刊行物1に記載の発明を自動車用と限定することは、単なる用途の限定にすぎない。
そして、全体として、本件発明1の効果は、刊行物1及び2に記載の発明から当業者であれば当然に予測することができる程度のものである。
したがって、本件発明1は、刊行物1及び2に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(本件発明2について)
本件発明2と、刊行物1に記載の発明とを対比すると、上記本件発明1についてで示した相違点1及び2に加え、本件発明2が、繊維をガラス繊維としているのに対し、刊行物1に記載の発明では、ポリプロピレン繊維を用いている点(相違点3とする。)で両者は相違する。その余の点では一致している。
上記相違点について検討する。
相違点1及び2については、上記本件発明1についてで検討したとおりである。
相違点3について、一般に、ガラス長繊維を集束してストランドを形成することは、従来から周知であるから、刊行物1に記載の発明のポリプロピレン繊維に代えて従来から周知であるガラス繊維を用いて、本件発明2の構成とすることは、当業者であれば、容易に想到しうることである。
そして、全体として、本件発明2の効果は、刊行物1及び2に記載の発明並びに周知技術から当業者であれば当然に予測することができる程度のものである。
したがって、本件発明2は、刊行物1及び2に記載の発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(本件発明3について)
本件発明3と刊行物1に記載の発明とを対比すると、上記本件発明1についてで示した相違点1及び2に加え、本件発明3が、網の片面又は両面に、塗色し或いは図柄を描いたのに対し、刊行物1に記載の発明は、そのような構成を備えていない点(相違点4とする。)で、両者は相違する。その余の点では一致している。
上記相違点について検討する。
相違点1及び2については、上記本件発明1についてで検討したとおりである。
相違点4について、遮光シートに塗色し又は図柄を描くことは、従来から周知〔例えば、実願昭52-18475号(実開昭53-114719号)のマイクロフィルム、特開昭55-57802号公報、実願昭57-93669号(実開昭58-5736号)のマイクロフィルム参照〕であるから、刊行物1に記載の発明に上記周知の手段を適用して、本件発明3の構成とすることは、当業者であれば容易に想到しうることである。
そして、全体として、本件発明3の効果は、刊行物1及び2に記載の発明並びに周知技術から当業者であれば当然に予測することができる程度のものである。
したがって、本件発明3は、刊行物1及び2に記載の発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(本件発明4について)
本件発明4と刊行物1に記載の発明とを対比すると、上記本件発明1についてで示した相違点1及び2に加え、本件発明4が、粘着剤が親水性を有するのに対し、刊行物1に記載の発明は、そのような構成を備えていない点(相違点5とする。)で、両者は相違する。その余の点では一致している。
上記相違点について検討する。
相違点1及び2については、上記本件発明1についてで検討したとおりである。
相違点5について、一般に、親水性を有する粘着剤は、従来から周知(例えば、特開昭53-91941号公報、特開昭49-93458号公報参照)であるから、刊行物1に記載の発明の粘着剤に代えて上記周知の親水性を有する粘着剤を適用して、本件発明4の構成とすることは、当業者であれば容易に想到しうることである。
そして、全体として、本件発明4の効果は、刊行物1及び2に記載の発明並びに周知技術から当業者であれば当然に予測することができる程度のものである。
したがって、本件発明4は、刊行物1及び2に記載の発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
5.むすび
したがって、本件請求項1〜4に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第1項及び第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-05-19 
出願番号 特願昭63-71551
審決分類 P 1 651・ 121- Z (E06B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 七字 ひろみ  
特許庁審判長 樋口 靖志
特許庁審判官 鈴木 公子
小野 忠悦
登録日 1997-08-08 
登録番号 特許第2681130号(P2681130)
権利者 杉江 頼恵
発明の名称 自動車用の遮光網  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 蔦田 正人  
代理人 仁木 一明  
代理人 橋本 傳一  
代理人 谷 義一  
代理人 落合 健  

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