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審決分類 審判 査定不服 特許請求の範囲の実質的変更(平成7年12月31日まで) 取り消して特許、登録 H03H
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03H
管理番号 1004602
審判番号 審判1998-7011  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-04-30 
確定日 1999-11-04 
事件の表示 平成 2年 特 許 願 第170589号「電子楽器の音色調整回路」拒絶査定に対する審判事件〔(平成 8年 1月29日出願公告、特公平 8- 8464)、特許請求の範囲に記載された請求項の数( 1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許をすべきものとする。 
理由 (手続の経緯)
本願は、平成2年6月28日の出願であって、原審において平成8年1月29日こ出願公告されたところ、特許異議申立人 澤田了から特許異議の申立がなされ、出願人は、答弁書を提出するとともに平成8年12月18日付けで手続補正書を提出したが、この手続補正は却下をすべきものと決定されるとともに、特許異議の申立の理由により拒絶の査定がされた。出願人は審判請求し、平成10年5月19日付けで手続補正書(前記補正却下された手続補正書と内容は同じ)を提出した。
(補正却下の決定に対する不服の理由)
前記手続補正書による補正は、特許請求の範囲における「非線形変換手段」を「入力の絶対値が大きくなるほど該入力の変化量に対する出力の変化量が大きくなるとともに、絶対値が等しく符号の異なる2つの入力に対する出力は互いに絶対値が等しく符号が異なる入出力関係を有する非線形変換手段」に補正するものである。
前記不服の理由は、要するに、前記補正は「非線形変換」に限定を加えるもので特許請求の範囲を拡張するものではなく、前記限定した入出力関係は非線形変換の関係を記載しているにすぎず、さらに、出願当初明細書の第5頁10乃至12行目には、「非線形関数のテーブルの内容としては、例えば第2図に示すように、」と記載されているように第2図は例示であって、例示から想到される類似した非線形関数も開示・示唆されているので、前記手続補正は、公告時の特許請求の範囲を拡張あるいは変更するものではない、というものである。
そこで、前記補正が特許法第64条の規定を満たすか否かについて検討する。
非線形変換に関し、公告公報の[実施例]の項には、「非線形関数のテーブル内容としては、例えば第2図に示すように、ー1≦x≦0の範囲の入力値Xに対してy=-x2 なる値yが、範囲が 0≦x≦1の場合にはy=x2 なる値yが各々記載されている。・・・加算器3aの出力xは、ROM3yによって第2図に示す非線形変換が施され・・・この結果、例えば第7図におけるコンデンサ12が誘電体歪を有しており、蓄積した電荷量に対して必ずしも比例電圧値が上昇しない場合の動作と類似した動作が第1図のデジタルフィルタにおいて得られる。」と記載され、また、[第2実施例として、例えば第7図における抵抗11が非線形である場合について記載され、アナログフィルタを構成する各要素が歪の原因となる非線形特性を有する場合に対応し、その非線形特性をシミュレートするための非線形変換手段を設けた例が記載されている。
この明細書及び図面の記載からして、非線形変換手段の変換特性としては、例示的に第2図のy=±x2 に係るものが示されているのであり、例から想到される類似した非線形関数 y=ax2や y=bx3のものや、関数で表現するのが難しい類似のx-y非線形関係のものなどが示されているに等しいといえるので、出願当初の明細書には、無数にある非線形関係のもののうち少なくとも前記類似した非線形関係を変換する「非線形変換手段」について開示されているといえる。そして、補正後の「入力の絶対値が大きくなるほど該入力の変化量に対する出力の変化量が大きくなるとともに、絶対値が等しく符号の異なる2つの入力に対する出力は互いに絶対値が等しく符号が異なる入出力関係を有する非線形変換」という記載は、前記第2図の例や、この第2図の例から想到される類似の非線形変換のものを限定して表現しているにすぎないので特許請求の範囲の減縮にあたり、しかも、この補正に関連して発明が解決しようとする課題が変更されるものでもないので、当該補正は、実質上特許請求項範囲を拡張あるいは変更するものでもない。
(本願発明)
本願発明は、出願公告後の平成10年5月19日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
『各演算子に対応した信号処理を行うデジタル信号処理手段を、所望のフィルタ演算式あるいはこのフィルタ演算式あるいはこのフィルタ演算式と等価な演算式に対応して相互接続することで構成した1つまたは複数の帰還ループを有するデジタルフィルタを具備すると共に、
前記帰還ループの少なくとも1つに対し、入力の絶対値が大きくなるほど該入力の変化量に対する出力の変化量が大きくなるとともに、絶対値が等しく符号の異なる2つの入力に対する出力は互いに絶対値が等しく符号が異なる入出力関係を有する非線形変換手段を挿入したことを特徴とする電子楽器の音色調整回路』
(原査定の理由)
原査定の拒絶の理由となった、上記特許異議申立に対する特許異議の決定の理由は次のとおりである。
「この出願の発明は、下記の理由でこの出願前国内において頒布された甲第1号証刊行物に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、この出願の発明は、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができない。

本願発明については、平成8年12月18日付け手続補正書が却下されたので、出願公告された特許請求の範囲の記載のとおり認定する。してみれば、本願特許請求の範囲に記載された発明は甲第1号証に記載の発明(アナログ回路構成)をデジタル回路で構成したものにすぎない。
本願出願時において音色制御回路をデジタル回路(フィルタ)で構成することは周知技術であるから、甲第1号証に記載の発明をデジタルで構成することに格別の想考困難性は認められない。」
(引用例)
甲第1号証(特公昭54-42247号公報)
甲第1号証には、ファズ効果を付加するために、入力信号が供給される遅延回路12と、この遅延回路12の出力信号を分岐導出して供給する非直線回路14と、この非直線回路14からの出力信号を前記遅延回路12の入力側に帰還させる帰還回路を具備したファズ効果発生装置(第1図)が記載されている。また、非直線回路14をダイオード回路で構成した具体的回路例(第2図)が記載されている。
(対比・判断)
本願発明と甲第1号証とを対比すると、甲第1号証には本願発明の『 前記帰還ループの少なくとも1つに対し、入力の絶対値が大きくなるほど該入力の変化量に対する出力の変化量が大きくなるとともに、絶対値が等しく符号の異なる2つの入力に対する出力は互いに絶対値が等しく符号が異なる入出力関係を有する非線形変換手段を挿入した電子楽器の音色調整回路』
は記載も示唆もされていない。周知のデジタルの技術的事項を参酌することにより、甲第1号証のファズ効果発生装置をデジタル的なファズ効果発生装置にすることができるとしても、甲第1号証の非直線回路の特性は、デジタルであっても甲第1号証の第2図のような入力信号に白色雑音に類似した波形の信号を加算した波形の信号となる非直線特性とするのものにとどまり、本願発明の、アナログフィルタの歪み特性を模倣するような、例えば第7図におけるコンデンサ12が誘電体歪を有しており、蓄積した電荷量に対して必ずしも比例電圧値が上昇しない場合の動作と類似した動作が第1図のデジタルフィルタにおいて得られるような非直線特性のもの、すなわち、上記『入力の絶対値が大きくなるほど該入力の変化量に対する出力の変化量が大きくなるとともに、絶対値が等しく符号の異なる2つの入力に対する出力は互いに絶対値が等しく符号が異なる入出力関係を有する非線形変換手段』とすることまでは示されていない。
また、甲第2号証(特開昭58-177026号公報)には、楽音信号の音色制御を行う音色回路を、帰還ループを有するラティス型フィルタ(第4図)やIIRフィルタ(第8図)や高次巡回型デジタルフィルタを用いて構成した電子楽器について示されており、甲第3号証(雑誌:初歩のラジオ別冊「エフェクター入門」14頁左欄、第61頁右欄)には、ファズについて説明され、甲第4号証(特公昭54-19171号公報)には、入力信号を遅延器6に通し、この遅延器6の出力信号を帰還ループを介して入力側に帰還した構成のくし型フィルタを用いた電子オルガン等に用いられる残響装置について示されており、甲第5号証(特開昭64-73397号公報)楽音の音色を加工するために、フィルタ10の前段に歪み発生回路を設けて楽音信号を歪ませる歪み発生装置について示されている。しかし、甲第2乃至5号証には、本願発明の上記の事項は記載乃至示唆されておらず、甲第1号証に、これらの甲第2乃至5号証をあわせても上記の事項は示されるものではない。
しかも、本願発明は、上記事項を備えることにより、アナログフィルタのような歪を有する音色加工手段を実現でき、これにより、電子楽器において、非常に豊かな音質の楽音を発生できるという顕著な効果を奏すると認められる。
(むすび)
したがって、本願発明は、甲第1乃至5号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 1999-09-30 
出願番号 特願平2-170589
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H03H)
P 1 8・ 595- WY (H03H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 板橋 通孝松尾 淳一  
特許庁審判長 内藤 照雄
特許庁審判官 北島 健次
吉見 信明
発明の名称 電子楽器の音色調整回路  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  

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