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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) G02C
審判 全部無効 1項2号公然実施 無効とする。(申立て全部成立) GO2C
管理番号 1005050
審判番号 審判1998-35200  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-06-02 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-05-11 
確定日 1999-10-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第2666040号発明「樹脂被覆眼鏡つるの製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2666040号発明の明細書の請求項第1項ないし第6項に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続きの経緯
出願:平成5年11月15日
審査請求:平成6年6月7日
特許査定:平成9年5月6日
特許登録:平成9年6月27日
特許無効審判請求:平成10年5月8日
答弁書(第1回):平成10年8月25日
理由補充書:平成10年12月11日
弁駁書(第1回):平成10年12月11日
証拠調申立:平成10年12月11日
答弁書(第2回):平成11年3月4日
第1回口頭審理: 平成11年3月4ヨ
第1回証拠調べ:平成11年3月4日
書面審理通知:平成11年3月4日
弁駁書(第2回):平成11年5月20日
II.請求人の主張及び提出した証拠方法請求人は、「特許第2666040号の請求項1〜6に係る特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めている。
無効理由1:そして、平成10年5月8日付け無効審判請求書において、本件特許の請求項1〜6に係る発明は、甲第1〜10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し無効にすべきである。
そして、請求人は、次の証拠方法を提出している。
甲第1号証:特開平3-41411号公報
甲第2号証:実願平1-26954号(実開平2-117513号公報)の願書に添付した明細書又は図面の内容を撮影したマイクロフイルム
甲第3号証:実願昭56-112328号(実開昭58-18223号公報)の願書に添付した明細書又は図面の内容を撮影したマイクロフイルム
甲第4号証:特開昭49-122352号公報
甲第5号証:実開昭62-149017号公報
甲第6号証:特開昭50-133851号公報
甲第7号証:特開昭59-53810号公報
甲第8号証:特公昭62-28445号公報
甲第9号証:実願昭56-129150号(実開昭58-34108号公報)の願書に添付した明細書又は図面の内容を撮影したマイクロフィルム
甲第10号証:実願平4-18918号(実開平5-71816号公報)の願書に添付した明細書又は図面の内容を撮影したCD-ROM
無効理由2:請求人は、平成10年5月8日付け無効審判請求書及び平成10年12月11日付け審判請求理由補充書において、本件特許の請求項1〜6に係る発明は、その出願前に日本国内で公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第2号に違反しており、その特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し無効にすべきである。
そして、請求人は、平成10年12月11日付け審判請求理由補充書において、次の証拠方法を提出している。
甲第11号証の1:株式会社村井の量産仕様書
甲第11号証の2:上記甲第11号証の1に付帯する図面
甲第12号証:株式会社村井のカタログ「SONIARYKIEL」
甲第13号証:サン・オプチカル株式会社が株式会社村井の子会社である株式会社シグマに発行した御見積書
甲第14号証:97’福井県法人企業名鑑
福井商工会議所1997年発行288頁
さらに、請求人は、証拠方法として、平成10年12月11日付け証拠調申立書において、当事者長井正雄の当事者尋問を申立てている。
III.被請求人の主張
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めている。
そして、被請求人は、平成10年8月25日付け答弁書(第1回)において、請求人が主張する理由1に対する反論として、次の証拠方法を提出している。
乙第1号証:実開平2-136227号公報
乙第2号証:特開平4-5613号公報
乙第3号証:特開平4-174817号公報
乙第4号証:実開平2-109327号公報
IV.当審の判断
(一)無効理由1についての判断
1.本件特許発明
本件特許の請求項1〜6に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】前端側の部分をなす幅広部の後端に幅狭の棒状部を突設してなり、且つ該幅広部の表面には、電着塗装による樹脂装飾部が予め形成されてなる芯金を、その前端側の部分を除いて樹脂被覆してなる樹脂被覆眼鏡つるの製造方法であって、
前記樹脂被覆材の外形をなす基材を軟化状態で型に保持し、その前端面部より棒状の工具を圧入して後、…定時間保持して該工具を引き抜き、挿人孔を有する樹脂被覆材を製作し、
その後、前記芯金の、前端側の部分を除く他の部分を前記樹脂被覆材の挿入孔に挿入することを特徴とする樹脂被覆つるの製造方法。
【請求項2】前端側の部分をなす幅広部の後端に幅狭の棒状部を突設してなり、且つ該幅広部の表面には、凹凸模様が予め形成されてなる芯金を、その前端側の部分を除いて樹脂被覆してなる樹脂被覆眼鏡つるの製造方法であって、
前記樹脂被覆材の外形をなす基材を軟化状態で型に保持し、その前端面部より棒状の工具を圧入して後、一定時間保持して該工具を引き抜き、挿入孔を有する樹脂被覆材を製作し、
その後、前記芯金の、前端側の部分を除く他の部分を前記樹脂被覆材の挿入孔に挿入することを特徴とする樹脂被覆つるの製造方法。
【請求項3】前端部側の部分をなす幅広部の後端に幅狭の棒状部を突設してなる芯金を、その前一端側の部分を除いて樹脂被覆してなる樹脂被覆眼鏡つるの製造方法であって、
前記樹脂被覆材の外形をなす基材を軟化状態で型に保持し、その前端面部より棒状の工具を圧入して後、一定時間保持して該工具を引き抜き、挿入孔を有する樹脂被覆材を製作して後、
前記芯金の棒状部を樹脂被覆材の挿入孔に挿入し、樹脂被覆材の前端を幅広部の後端と当接させ該当接端相互を接着するものとし、且つ樹脂被覆材の挿入孔の少なくとも前端側部分にも接着剤を介在させて、樹脂被覆材と棒状部も接着することを特徴とする樹脂被覆眼鏡つるの製造方法。
【請求項4】前端側の部分をなす幅広部の後端に幅狭の棒状部を突設してなり、且つ該幅広部の表面には、電着塗装による樹脂装飾部が予め形成されてなる芯金を、その前端側の部分を除いて樹脂被覆してなる樹脂被覆眼鏡つるの製造方法であって、
前記樹脂被覆材の外形をなす基材を軟化状態で1型に保持し、その前端面部より棒状の工具を圧入して後、一定時間保持して該工具を引き抜き、挿入孔を有する樹脂被覆材を製作して後、
前記芯金の棒状部を樹脂被覆材の挿入孔に挿入し、樹脂被覆材の前端を幅広部の後端と当接させ該当接端相互を接着するものとし、且つ樹脂被覆材の挿入孔の少なくとも前端側部分にも接着剤を介在させて、樹脂被覆材と棒状部も接着することを特徴とする樹脂被覆眼鏡つるの製造方法。
【請求項5】前端側の部分をなす幅広部の後端に幅狭の棒状部を突設してなり、且つ該幅広部の表面には、凹凸模様が予め形成されてなる芯金を、その前端側の部分を除いて樹脂被覆してなる樹脂被覆眼鏡つるの製造方法であって、
前記樹脂被覆材の外形をなす基材を軟化状態で型に保持し、その前端面部より棒状の工具を圧入して後、一定時間保持して該工具を引き抜き、挿入孔を有する樹脂被覆材を製作して後、
前記芯金の棒状部を樹脂被覆材の挿入孔に挿入し、樹脂被覆材の前端を幅広部の後端と当接させ該当接端相互を接着するものとし、且つ樹脂被覆材の挿入孔の少なくとも前端側部分にも接着剤を介在させて、樹脂被覆材と棒状部も接着すること
を特徴とする樹脂被覆眼鏡つるの製造方法。
【請求項6】エポキシ系の樹脂を接着剤として用いることを特徴とする請求項3〜5の何れかに記載の樹脂被覆眼鏡つるの製造方法。
2.甲各号証の記載事項
甲第1号証:特開平3-41411号公報(以下、「引用例1」という。)には、例えば、次のような記載がある。
▲1▼「第2図は上記挿着孔3の成形装置の概要であって、モダン1を拘束する金型5,モダン1の中心軸に圧入される工具6,該工具6を加熱するヒータ7及び工具6を押圧するエヤシリンダー8を有す。金型5内には射出成形用の金型に相当するキャビティが内部に形成され、該キャビティを挟んで上型9と下型10に分離され、該下型10はベース11に固定されていて、上型9を上昇させることで金型5は開口し、上記キャビティ内にモダン1をセットする。セットする前にモダン1は一定温度に加熱され、その状態で上・下金型9,10によって拘束され、上記工具6はエヤシリンダー8の作動によって金型5の開口12から挿入し、モダン1の中心軸に挿着孔3を成形する。この場合、工具6はツノレ2の先端部形状と同一であって、該工具6によって成形される挿着孔3かツル2との間に僅かな隙間もなく、又逆に公差が厳しくてツル2に挿着不能となることはない。」公報第2頁右下欄〜第3頁左上欄。
▲2▼「又工具6を圧入するに際し、該工具6はヒータ7により加熱されて高温状態でモダン1の挿入端4から圧入され、所定形状の挿着孔3が成形され、成形後は直ちに工具6を引き抜くことはなく、一定時間挿入状態を保持し、モダン1の冷却を待って引き抜く。工具6は高温加熱されてモダンに圧入されるため、成形された挿着孔3の周辺は可塑化状態にあり、圧入後直ちに工具6を引き抜くならば成形された挿着孔3の形状が変形したり、時には崩れてしまう。したがって一定温度に低下し、成形された挿着孔3が硬化した後でなければ工具6は引き抜かれない。勿論、成形孔であるため工具6を引き抜いて得られる挿着孔3の内周面は滑らかで、光沢面状となる。ここで、工具6の加熱温度及び圧入後の保持時間はモダン1の材質や挿着孔3の大きさ・形状によって左右される条件であって、その都度最適条件を定めなければならない。」公報第3頁左上欄〜第3頁右上欄。
▲3▼「(効果)
(1)本発明のモダンの挿着孔はツノレ先端部と同一形状に成形されるため、該先端部形状がいかなる場合であっても挿着出来る。従来のごとく円形断面の挿着孔にのみ限定されず、多角形断面であっても、又第1図に示すごとく位置によって形状を異にする断面であっても成形可能である。
(2)又本発明のモダンは挿着孔を別工程にて成形するために、ツルをメッキ処理したり、その他必要な2次加工を施した最終段階においてモダンの挿着が出来る。このことはメガネフレ-ムとしての主要部品であるツルの装飾化を図り、’ひいては高級まメガネフレーム、又フロントフレームと調和のとれたメガネフレームとなる。
(3)さらに該モダン自体は射出成形品ではなく、板材又は棒材を切断、切削、研削等の加工により製作されるものであって、メガネフレーム全体としての調和のとれた材質、又その材質の色彩、模様を選択して用い得る。」公報第3頁左下欄〜第3頁右下欄。
前記▲1▼〜▲3▼の記載事項と図面の記載からみて、引用例1には、所定のプラスチック製板材又は棒材を切断、切削及び研削等の加工を施してモダン外形形状を製作し、該モダンを加熱して1対の金型からなるキャビティ内にセットし、該金型の開1口から加熱した工具を圧入し、圧入後一定時間保持した後、該工具を引き抜き、ツル先端部形状と同一形状の工具により挿着孔を成形し、その後、メガネフレームのツル先端部を該モダンの挿着孔に挿入するモダンが装着されたメガネフレームの製造方法が記載されている。
甲第2号証:実願平1-26954号(実開平2-117513号公報)の願書に添付した明細書又は図面の内容を撮影したマイクロフィルム
(以下、「引用例2」という。)には、蝶番の基端部に、該基端部の幅及び厚みより若干小なる断面Ω状の突起を形成し、該突起の中央の空洞部を刻設し、該空洞部内に芯金の先端部を嵌入固着すると共に、該芯金にその後端側に向かて且つ、’軸方向に対して傾斜した鋸歯状の掛合突起を有する維持部を所定幅に渉って形成し、芯金の後端から蝶番の基端部までプラスチック材よりなる掛止杵にて被覆一体化したことを特徴とする眼鏡におけるつるが記載されている。
甲第3号証:実願昭56-112328号(実開昭58-18223号公報)の願書に添付した明細書又は図面の内容を撮影したマイクロフィル(以下、「引用例3」という。)には、例えば、次のような記載がある。
▲4▼「本考案は、メガネ枠用のテンプルの改良に係るもので、その目的とするところは、芯金がヒンジ金具に直接的に接合一体化された構造の堅牢でスマートなプラスチックテンプルを提供するにある。」明細書第1頁〜第2頁。
▲5▼「リムフレーム(1)側のスティーブルヒンヂ接手部(2)に、組継状に枢着可能なヒンヂ接手部(31)を一端に備え、他端にはそれ自体の中心にキャビティー(32)が穿設されたブロック形ヒンヂ金具(3)と;このヒンヂ金具のキャビティー(32)に基端部が挿入固着された芯金(4)と;この芯金(4)を被覆せるプラスチックフェーシング層(5)で構成されたことを特徴とするメガネ枠用のテンプルを実現するものである。」明細書第3頁〜第4頁。
▲6▼「ブロック形ヒンヂ金具(3)は、図示例では直方体形に形成されているが、円柱体であってもよく、また屈曲ブロック形であってもよく、その形状に特に限定はない。このヒンヂ金具には、一端にヒンヂ接手部(31)、他端には芯金を挿入固着するためのキャビティー(32)が設けられているが、その材料は洋白、サンプラチナ、ステンレススティール等周知のメガネ用金属材料が用いられる。尚、(33)は、ヒンヂ金具(3)の側面に刻設された圧印模様である。芯金(4)の材質についても、従来芯金材料に用いられていた周知の金属材料が用いられる。この芯金(4)の基端部(41)は、上記ヒンヂ金具(3)のキャビティー(32)内に挿入されロウ付などの熔接手段によりヒンヂ金具(3)に熔着一体化される。」明細書第4頁〜第5頁。
前記▲4▼〜▲6▼の記載事項及び図面の記載からみて、引用例3には、その側面に圧印模様が刻設されたブロック形ヒンヂ金具に、ブロックヒンヂ金具より幅狭の芯金の基端部を熔着し、ブロック形ヒンヂ金具と芯金を一体化し、芯金の外周にプラスチックフェーシング層を被覆してなるメガネ枠用のテンプルが記載されている。
甲第4号証:特開昭49-122352号公報(以下、「引用例4」という。)には、眼鏡の蔓先片成形方法において、成型用金型本体に湯口型を合わせて型締めし、湯口型の通孔を摺合せ弁で閉鎖した後、湯道から熱可塑性樹脂を金型内に注入し、その後、摺合せ弁を摺動して通孔を開口して芯型を金型内の熱可塑性樹脂中に挿入し、熱可塑性樹脂が冷却硬化した後、芯型を引き抜くことにより芯孔を形成する眼鏡の蔓先片成形方法が記載されている。
甲第5号証:実開昭62-149017号公報(以下、「引用例5」という。)には、金型のキャビティー内に注入された帯熱柔軟状態にある合成樹脂成形体の中から、太径部と太径部の間に細径部を有する異径インサート金型を引き抜き当該樹脂の復元弾力によって太径空洞部に挟まれる領
域に細径空洞部を有するテンプル芯孔を形成したメガネ用耳掛パッドが記載されている。
甲第6号証:特開昭50-133851号公報(以下、「引用例6」という。)には、例えば、次のような記載がある。
▲7▼「合成樹脂製耳掛体を眼鏡のつる金に装着するのに、耳掛体につる金挿入孔を設け、つる金に接着剤を塗り、この挿入孔につる金を差込み、耳掛体をつる金に装着する方法が従来用いられている。然しこの方法では、つる金挿入孔が小さく、接着剤は孔の奥部まで入り難くつる金は主として入口の孔の一部に於て耳掛体と固着しているに過ぎない。」公報第1頁左欄〜第1頁右欄。
▲8▼「本発明はこの欠点を排除せんとするもので、合成樹脂製耳掛体につる金挿入孔を設け、この挿入孔に合成樹脂表面溶解剤を注入して孔の表面を溶解し、孔に突起又は凹みを設けたつる金の端部を差込み、耳掛体を外部より加熱すると共にしめつけ、加熱、しめつけ作業後耳掛体を放冷、空冷、水冷等の手段により冷却して固化し、耳掛体をつる金に固着する合成樹脂製耳掛体を眼鏡のつる金に装着する方法に関するものである。」公報第1頁右欄。
甲第7号証:特開昭59-53810号公報(以下、「引用例7」という。)には、眼鏡のツル製造に際し、その耳枠部材を酢酸繊維素100重量部に対して可塑剤を50重量部以上含有する酢酸繊維素樹脂を用いて成形し、且つ挿入される芯金と寸法が同一又は僅かに大きい穴が予め設けられた該耳枠部材の穴に芯金を挿入し、60℃以上の温度雰囲気中に放置し、その後室温まで冷却することを特徴とする眼鏡のツルの製造方法が記載されている。
甲第8号証:特公昭62-28445号公報(以下、「引用例8」という。)には、導電材料で成形されたメガネフレーム素材本体等の外周に樹脂被膜を形成する工程と、この外周に樹脂被膜を形成したメガネフレーム素材本体等の着色あるいは模様を付ける部位の樹脂被膜を除去して導電材料面を露出させる工程と、メガネフレーム素材本体等の樹脂被膜を除去した部位に電着塗装によりフリアあるいは着色被膜を形成する工程とからなるメガネフレーム素材等の製造方法が記載されている。
甲第9号証:実願昭56-129150号(実開昭58-34108号公報)の願書に添付した明細書又は図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下、「引用例9」という。)には、ペイント、鍍金、彫刻、.印刷等により色彩的及び/又は造形的な装飾加工を施した芯金と、前記芯金を覆うように塑造された有色又は無色で透明又は半透明のプラスチック体からなる眼鏡用テンプル部材が記載されている。
甲第10号証:実願平4-18918号(実開平5-71816号公報)の願書に添付した明細書又は図面の内容を撮影したCD-ROM(以下、「引用例10」という。)には、芯金の表面に着色層を形成し、該着色層の表面に模様を形成し、着色層及び模様を形成し、着色層及び模様の表面に透明層を形成したことを特徴とする眼鏡枠のテンプルが記載されている。
3.対比
先ず、本件請求項1発明と引用例1記載の発明を対比する。
引用例1記載の発明における、「モダン」と、本件請求項1発明における、「樹脂被覆材」は、共に、眼鏡ツルを被覆する樹脂被覆材といえるものであり、引用例1記載の発明における、「所定のプラスチック製板材又は棒材を切断、切削及び研削等の加工を施してモダン外形形状を製作し、該モダンを加熱して1対の金型からなるキャビティ内にセットし」は、本件請求項1発明における、「樹脂被覆材の外形をなす基材を軟化状態で型に保持し」に対応するものであり、引用例1記載の発明における、「ツル」及び「挿着孔」は、本件請求項1発明における、「芯金」及び「挿入孔」にそれぞれ対応するものであるから、本件請求項1発明と引用例1記載の発明は、「樹脂被覆材の外形をなす基材を軟化状態で型に保持し、その前端面部より棒状の工具を圧入して後、一定時間保持して該工具を引き抜き、挿入孔を有する樹脂被覆材を製作し、その後、前記芯金を前記記樹脂被覆材の挿入孔に挿入することを特徴とする樹脂被覆つるの製造方法」という点で両者の構成は一致し、次の相違点において、両者の構成は相違する。
相違点1:本件請求項1発明においては、樹脂被覆材を、眼鏡のヅルの前端側まで被覆するものとし、前記樹脂被覆材に挿入される眼鏡つるの芯金を、前端側の部分をなす幅広部の後端に幅狭の棒状部を突設してなり、且つ該幅広部の表面には、電着塗装による樹脂装飾部が予め形成したのに対して、引用例1記載の発明においては、樹脂被覆材を、眼鏡のツルの耳掛部を被覆するモダンとし、前記眼鏡ツルの芯金の構成を有しない点。
相違点2:本件請求項1発明が、工具を加熱しないで、軟化状態に保持された樹脂被覆材に圧入するのに対して、引用例1記載の発明においては、工具を加熱して、軟化状態に保持された樹脂被覆材に圧入する点。
以下、本件請求項2〜6発明と引用例1記載の発明を対比するに際し、本件請求項2〜6発明と本件請求項1発明の共通の構成については、その相違点も本件請求項1と引用例1記載の発明との対比においてあげた相違点と共通するので、それ以外の相違点についてのみ摘出することにする。
相違点3:本件請求項2発明においては、樹脂被覆材を、眼鏡のツルの前端側まで被覆するものとし、前記樹脂被覆材に挿入される眼鏡つるの芯金を、前端側の部分をなす幅広部の後端に幅狭の棒状部を突設してなり、且つ該幅広部の表面には、凹凸模様が予め形成したのに対して、引用例1記載の発明においては、樹脂被覆材を、眼鏡のツルの耳掛部を被覆するモダンとし、前記眼鏡ツルの芯金の構成を有しない点。
相違点4:本件請求項3発明においては、樹脂被覆材を、眼鏡のツルの前端側まで被覆するものとし、樹脂被覆材の前端を幅広部の後端と当接させ該当接端相互を接着するものとし、且つ樹脂被覆材の挿入孔の少なくとも前端側部分にも接着剤を介在させて、樹脂被覆材と棒状部も接着するのに対して、引用例1記載の発明においては、樹脂被覆材を、眼鏡のツルの耳掛部を被覆するモダンとし、前記接着構成を有しない点。
相違点5:本件請求項4発明においては、樹脂被覆材を、眼鏡のツルの前端側まで被覆するものとし、前記樹脂被覆材に挿入される眼鏡つるの芯金を、前端側の部分をなす幅広部の後端に幅狭の棒状部を突設してなり、且つ該幅広部の表面には、電着塗装による樹脂装飾部が予め形成し、樹脂被覆材の前端を幅広部の後端と当接させ該当接端相互を接着するものとし、且つ樹脂被覆材の挿入孔の少なくとも前端側部分にも接着剤を介在させて、樹脂被覆材と棒状部も接着するのに対して、引用例1記載の発明においては、樹脂被覆材を、眼鏡のツルの耳掛部を被覆するモダンとし、前記眼鏡ツルの芯金の構成と、前記接着構成を有しない点。
相違点6:本件請求項5発明においては、樹脂被覆材を、眼鏡のツルの前端側まで被覆するものとし、前記樹脂被覆材に挿入される眼鏡つるの芯金を、前端側の部分をなす幅広部の後端に幅狭の棒状部を突設してなり、且つ該幅広部の表面には、凹凸模様が予め形成、樹脂被覆材の前端を幅広部の後端と当接させ該当接端相互を接着するものとし、且つ樹脂被覆材の挿入孔の少なくとも前端側部分にも接着剤を介在させて、樹脂被覆材と棒状部も接着するのに対して、引用例1記載の発明においては、樹脂被覆材を、眼鏡のツルの耳掛部を被覆するモダンとし、前記眼鏡ツルの芯金の構成と、前記接着構成を有しない点。
相違点7:本件請求項6発明においては、本件請求項3〜5発明における接着剤をエポキシ系の接着剤としたのに対して、引用例1記載の発明が、前記構成を有しない点。
4.相違点についての判断
相違点1について検討する。
引用例3には、その側面に圧印模様が刻設されたブロック形ヒンヂ金具のキャビティに芯金の基端部が連結され、両者が一体化され、芯金部分のみにプラスチックフェーシング層を被覆したメガネ枠用テンプルが記載されており、引用例3記載の発明における、「ブロック形ヒンヂ金具」、「芯金」、「圧印模様」、「プラスチックフェーシング層」及び「メガネ枠用のテンプル」は、本件請求項1発明における、「前端側の部分をなす幅広部」、「幅狭の棒状部」、「装飾部」、「樹脂被覆」及び「眼鏡つる」にそれぞれ対応するものであるから、引用例3には、前端側の部分をなす幅広部の後端に幅狭の棒状部を突設してなり、且つ幅広部の表面には、装飾部が予め形成されてなる芯金を、前端側の部分を除く他の部分を樹脂被覆した樹脂被覆眼鏡つるが記載されいる。
眼鏡のつるの装飾として、電着塗装による樹脂装飾部を形成することは、引用例8に記載されおり、前記相違点1にあげた眼鏡つるの芯金の構成は、本件請求項1発明の出願前に公知の技術である。
前記公知の技術である眼鏡つるの芯金の構成を、引用例1記載の発明の樹脂被覆材としてのモダン什の構成に適用する事の容易性について検討する。
引用例1記載の発明は、耳掛部を被覆するモダンの構成が実施例として記載されているが、そのモダンとして、モダンの長さを限定するものではなく、芯金の前端側まで被覆するいわゆる長モダンを製造する方法を排除しているものではない。
そして、引用例1の前記記載事項▲3▼中の「(2)又本発明のモダンは挿着孔を別工程にて成形するために、ツルをメッキ処理したり、その他必要な2次加工を施した最終段階においてモダンの挿着が出来る。このことはメガネフレームとしての主要部品であるツルの装飾化を図り、ひいては高級まメガネフレーム、又フロントフレームと調和のとれたメガネフレームとなる。」なる記載からみて、引用例1記載の発明は、芯金に予め形成された装飾部を損なうことなく、樹脂被覆材に芯金を挿入できることを示している。
そうしてみると、引用例1記載の発明に、引用例3及び引用例8記載の発明の構成からなる芯金を適用して、前記相違点1にあげた本件請求項1発明の構成のようにすることは、当業者が容易になしえる程度のものである。
相違点2について検討する。
本件請求項1発明においては、工具を加熱することなく軟化状態で型に保持された樹脂被覆材の外形をなす基材に圧入するのに対して、引用例1記載の発明においては、工具を加熱して、加熱された状態で型に保持された樹脂被覆材の外形をなす基材に圧入する点において両者の構成は相違する。
工具を加熱する技術的意義は、型に保持された
樹脂被覆材への圧入を容易にするためであるが、工具を加熱し過ぎると樹脂被覆材をさらに加熱し周囲を熔解するので、工具を樹脂被覆材から引き抜く時、引き抜きが困難となるので、その加熱の程度は適宜設定されるものである。
樹脂被覆材への工具の圧入を容易にする構成としては、型内の樹脂被覆材を十分軟化させ、工具を加熱しなくても工具の圧入を容易にすること、樹脂被覆材の加熱による軟化と工具の加熱の両方の作用により工具の樹脂被覆材への圧入を容易にすることが考えられる。
引用例4記載の発明には、型内の注入樹脂が柔軟性を有している時、加熱していない工具を型内の樹脂中に圧入する構成が記載されている。
また、前記引用例1の記載事項▲2▼中には「工具6の加熱温度及び圧入後の保持時間はモダン1の材質や挿入孔3の大きさ・形状によって左右される条件であって、その都度最適条件を定めなければならない。」という記載がある。
そうしてみると、型内の樹脂被覆材の軟化状態に応じて、工具の加熱の程度(非加熱状態も含む)を選択することに困難性は認められないから、前記相違点2にあげた本件請求項1発明の構成のようにすることは、当業者が容易になしえる程度のものである。
したがって、本件請求項1発明は、引用例1,引用例3、引用例4及び引用例8記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。
相違点3について検討する。
引用例3記載の発明における、「圧印模様」は、本件請求項2記載の発明における、「凹凸模様」に対応するものであるから、前記相違点1についての判断で示したと同様の理由により、前記相違点3にあげた本件請求項2の構成のようにすることは、当業者が容易になしえる程度のものである。
そうしてみると、前記相違点2についての判断及び前記相違点3に対する判断で示したと同様の理由により、本件請求項2発明は、引用例1,引用例3及び引用例4記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。
相違点4について検討する。
引用例6記載の発明における、「合成樹脂耳掛体」、「眼鏡のつる金」、「眼鏡のつる金挿入孔」は、本件請求項3発明における、「樹脂被覆材」、「芯金」、「挿入孔」に対応するものであるから、引用例6には、樹脂被覆眼鏡のつるの製造方法という本件請求項3発明と同一技術分野に属するものにおいて、樹脂被覆材に挿入される芯金を、樹脂被覆材の挿入孔内で接着剤を介在させて接着する構成が記載されている。前記相違点4にあげた本件請求項3発明の構成は、前記相違点1における「電着塗装部よる樹脂装飾部」という構成を除いた構成に、接着剤による接着するという構成を付加した構成であり、前記相違点1に対する判断に引用例6記載の発明の構成を適用することについての容易性の判断を加味しても、前記相違点4にあげた本件請求項3の構成のようにすることは、当業者が容易になしえる程度のものである。
そうしてみると、前記相違点2についての判断及び前記相違点4に対する判断で示したと同様の理由により、本件請求項3発明は、引用例1,引用例3、引用例4及び引用例6記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。
相違点5について検討する。
前記相違点5にあげた本件請求項4発明の構成は、前記相違点1にあげた構成に、接着剤による接着の構成を付加した構成であるから、前記相違点4に対する判断で示したと同様の理由により、前記相違点5にあげた本件請求項4の構成のようにすることは当業者が容易になしえる程度のものである。
そうしてみると、前記相違点2についての判断及び前記相違点4に対する判断で示したと同様の理由により、本件請求項4発明は、引用例1,引用例3、引用例4及、引用例6及び引用例8記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。
相違点6について検討する。
前記相違点6にあげた本件請求項5の構成は、前記相違点3にあげた構成に接着剤による接着の構成を付加したものであるから、前記相違点3に一対する判断に引用例6記載の発明の構成を適用することについての容易性の判断を加味しても、前記相違点6にあげた本件請求項5の構成のようにすることは、当業者が容易になしえる程度のものである。
そうしてみると、前記相違点2についての判断及び前記相違点6に対する判断で示したと同様の理由により、本件請求項5発明は、引用例1,引用例3、引用例4及び引用例6記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。
相違点7について検討する。
エポキシ樹脂系接着剤は、きわめて普通の接着剤であり、加熱硬化型、常温硬化型、加熱硬化型、また低粘度から高粘度、さらにペースト状にいたるまで各種のものが市販されており、目的に応じて使い分けられるものであり、眼鏡の部品の接着にも従来普通に使用されているものであるから、前記相違点6にあげた本件請求項6の構成のようにすることは、当業者が容易になしえる程度のものである。
そうしてみると、本件請求項6発明は、引用例1,引用例3、引用例4、引用例6及び引用例8記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。
V.むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1〜6に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項の規定により、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-06-18 
結審通知日 1999-06-29 
審決日 1999-08-02 
出願番号 特願平5-309902
審決分類 P 1 112・ 121- Z (G02C)
P 1 112・ 112- Z (GO2C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平井 聡子  
特許庁審判長 片寄 武彦
特許庁審判官 東森 秀朋
横林 秀治郎
登録日 1997-06-27 
登録番号 特許第2666040号
発明の名称 樹脂被覆眼鏡つるの製造方法  
代理人 岡本 清一郎  
代理人 藤井 健夫  
代理人 金井 亨  
代理人 戸川 公二  
代理人 金井 和夫  

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