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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H02P
管理番号 1005085
異議申立番号 異議1998-75485  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-04-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-11-13 
確定日 1999-11-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第2749514号「直流ブラシレスモータの駆動装置及び直流ブラシレスモータ」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2749514号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.本件特許に係る出願及び本件特許発明
本件特許第2749514号は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成6年4月25日(優先日、平成5年4月26日)の出願(特願平6-86224号)に係るものであって、その請求項1〜4に係る発明は、明細書の特許請求の範囲請求項1〜4に記載された次のとおりのものと認められる。
「 【請求項1】
目標速度信号と回転子の回転速度信号とを比較して速度制御電圧信号を出力する速度制御回路と、該速度制御回路から出力した速度制御電圧信号を、該速度制御電圧信号に対応したパルス幅に変換して速度制御パルス信号を出力するパルス幅変調回路と、モータから出力した位置検出信号によって駆動コイルの通電を切り換える通電切換信号を出力する通電切換回路と、該通電切換回路から出力した通電切換信号と前記パルス幅変調回路から出力した速度制御パルス信号とを合わせて、駆動コイルの通電を前記パルス幅変調回路の出力パルス幅で行うスイッチング回路とを有する直流ブランレスモータの駆動装置において、前記スイッチング回路の駆動コイル通電用スイッチング素子をMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)で構成するとともに、駆動コイルの駆動用電源と接地の間にハイリップル電流型コンデンサを接続し、かつ、前記MOSFETの入力部に蓄積電荷を充電または放電する充・放電回路を設けたことを特徴とする直流ブラシレスモータの駆動装置。
【請求項2】
前記充・放電回路は、ゲートとソース間またはゲートと接地間、若しくはゲートと電源間に接続した固定抵抗からなることを特徴とする請求項1記載の直流ブラシレスモータの駆動装置。
【請求項3】
前記固定抵抗の抵抗値は、200Ω以上1KΩ以下であることを特徴とする請求項2記載の直流ブランレスモータの駆動装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の駆動装置をモータと一体的若しくは略一体的に構成してなることを特徴とする直流ブラシレスモータ。」
2.異議申立の理由の概要
異議申立人井本誠二は、甲第1号証〜甲第5号証を提出して、本件請求項1〜3に係る発明はいずれも甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基づいて、本件請求項4に係る発明は甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基づいてあるいは甲第1号証〜甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、これらの発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから取り消されるべきである旨主張している。
3.甲第1号証〜甲第5号証に記載されている発明
甲第1号証(特開平3-45189号公報)には、モータで負荷を駆動して位置制御や速度制御を行うためのモータの制御装置に関する発明が開示されており、明細書には図面第1図と合わせた説明として「4はエンコーダのパルス信号から速度を計算してモータの回転速度としモータの回転速度が速度指令に追従するようにモータヘの印加電圧を計算してPWM信号を出力する速度制御手段」((3)頁右下欄1〜5行)、及び「5はPWM信号を増幅してモータの電力を供給する駆動手段であり、51はモータ1を駆動するための直流電源、52は直流電源から流れる電流を検出するための抵抗、53は抵抗52で検出された電流を制限するための電流制限回路、54,55,56,57はモータ1に電流を流すためのパワーMOSFET、58はCPU41で演算されたPWM出力データに比例したパルス幅信号に変換し増幅してパワーMOSFET54,55,56,57にゲート信号を送るPWM回路」((3)頁右下欄11行〜(4)頁左上欄1行)という記載がある。また、動作の説明として、「CPU41は計算したPWM出力値をPWM回路58に送り、PWM回路58ではPWM出力値をパルス幅信号に変換、増幅してパワーMOSFET54、55、またはパワーMOSFET56、57にゲート信号を送り、モータ1に電圧を印加する。」((4)頁右上欄20行〜左下欄5行)という記載があり、図面第1図には甲第1号証で開示しようとする発明のモータの制御装置の構成図が記載されている。
甲第2号証(特開平4-271295号公報)には、明細書の説明及び図面の記載からみて直流ブラシレスモータを制御対象とした駆動制御装置が開示されており、特許請求の範囲の請求項1には「外周部に駆動用のマグネットを備えた回転軸と、該回転軸を支持する固定軸受けと、前記回転軸及び前記固定軸受けに設けられた動圧流体軸受け機構と、前記回転軸の周囲に所定の間隔をおいて前記マグネットに対向して配置されたステータコイルとを備えた回転装置の駆動制御装置において、前記ステータコイルに通電する直流電源部と、該直流電源部の出力端子と接地導体との間に接続された蓄電器と、・・(中略)・・とを備えた、ことを特徴とする回転装置の駆動制御装置。」という記載があり、発明の詳細な説明には、作用に関する説明として「さらに、ステータコイルに電圧が印加されていない間に、直流電源部から蓄電器に充電され、直流電源部からステータコイルに電圧が印加されると同時に、前記蓄電器は放電する。」(4欄22〜25行)、実施例の説明として「トランジスタ12のコレクタは直流電源部13に接続され、所定の電圧V2が印加されると共に、コンデンサ22を介して接地されている。」(4欄44〜47行)という記載がある。そして、図面図1には甲第2号証で開示しようとする発明の駆動制御装置を示すブロック図が記載されている。そして、ステータコイル6a,6b,6cに電流を断続的に流すスイッチング部材については、甲第2号証で開示している発明の実施例もその従来技術も、NPN型のトランジスタの例のみが記載されている。
甲第3号証(特開昭61-22773号公報)には、モータ駆動等に使用されるインバータ装置において充放電回路により時間遅れを持たせたインバータ制御装置に関する発明が記載されており、明細書には、「またMOS型電界効果トランジスタは第8図に示すようなスイッチング特性を有していてオンするには30nsec〜150nsec程度の時間tonを要し、オフするには150nsec〜90nsec程度の時間toffを要する。このため直流電源の両端間に直列に接続されている1対ずつの電界効果トランジスタQl/Q2,Q4/Q5,Q6/Q7はオン/オフの状態からオフ/オンの状態に切換える時に同時にオンして過大な電流が流れ損傷する場合がある。」((2)頁右上欄5〜14行)、「コンデンサCl,抵抗R2及びトランジスタQ15が充放電回路を構成し、」((3)頁左上欄15〜17行)、「また、充放電回路により時間遅れが生じ、直流電源の両端間に直列に接続されている1対のトランジスタスイッチ素子が同時にオンすることがなくなってトランジスタスイッチ素子の突入電流による損傷がなくなる。さらに充放電回路は正負直流電源により給電されて出力電圧が正及び負に変化し、少時間のノイズでは誤動作しない。」((4)頁右上欄3〜9行)という記載がある。また、図面第1図には甲第3号証で開示しようとする発明の一実施例を示す回路図が、第8図にはMOS型電界効果トランジスタのスイッチング特性を示す特性図が記載されている。
甲第4号証(特開平1-209972号公報)には、交流を整流しこれを積分(平滑)用コンデンサにより平滑(積分)してインバータに印加しインバータがその直流電圧を交流電圧でPWM変調して交流モータに印加するモータ駆動回路におけるモータの回生制御装置に関する発明が記載されており、図面第1図第2図に記載の実施例に関し、明細書には、スイッチング素子である電界効果型トランジスタ14のゲートに接続され他端がマイナス電源に接続された抵抗24が開示され((2)頁右下欄3〜4行参照)、動作の説明として、主回路電圧が上昇すると、トランジスタ23がオンして、抵抗24に電圧が発生して電界効果トランジスタ14がオンする。これにより、コンデンサ2に充電された電荷が抵抗13を通して放電されて抵抗13で消費され、主回路電圧が低下する旨の記載がある((2)頁右下欄9行〜(3)頁左上欄17行参照)。
甲第5号証(特開平3-17611号公報)には、明細書並びに図面の記載からみて直流ブラシレスモータを備えた光偏向器に関する発明が記載されており、明細書には「9は基板」((1)頁右下欄4行)、「一方、モータのステータ部は、・・(中略)・・ステータコイル7に取り付けられたスタッド8によって支持される基板9、基板9上に植立設置された磁気検出素子10等から構成されている。」((2)頁左上欄3〜11行)、「検出信号は、基板9に印刷された配線を通して、図示しない制御部へ送られる。」((2)頁右上欄10〜11行)という記載があり、光偏光器の断面図を表している図面第1図並びに第3図を見ると、基板9には磁気検出素子10が1個植立設置されているように記載されている。
4.対比・判断
本件特許発明は、「高周波スイッチングされたモータ駆動電流を平滑・直流化することなく、逆方向電流を電源側に流れないようにすることができ、新たにチョークコイル、コンデンサ及びダイオードを設けないで済ませることができるとともに、駆動効率が低下することなく、MOSFET自体の発熱を抑えて駆動装置としての信頼性を確保することができるようにして、駆動装置の小型化、低コスト化及び安定化を実現することができる直流ブラシレスモータの駆動装置及び直流ブラシレスモータを提供すること」を目的とし、その達成手段として、特許請求の範囲の請求項1〜4に記載の構成を採用したものである。
他方、甲第1号証に記載されている発明は、モータから出力した位置検出信号によって駆動コイルの通電を切り換える直流ブラシレスモータを制御対象としたものとは認められず、しかも甲第1号証には、電源と接地の間にハイリップル電流型コンデンサを接続すること並びにMOSFETの入力部に蓄積電荷を充電または放電する充・放電回路を設けることに関して、明記のみならずこれを示唆する記載も見当たらない。
甲第2号証に記載されている発明は、直流ブラシレスモータを制御対象とした制御装置に係るものであって、直流電源部の出力端子と接地導体との間に接続された蓄電器を備えており、この蓄電器は本件発明の「ハイリップル電流型コンデンサ」と接続される回路位置としては同様ということができるが、明細書をみるとその作用としてはいわゆる電源部のパワー不足を補うものであることだけが説明されており、図面図1の回路をみると電源部13とステータコイノレ6a〜6c間にはNPN型のトランジスタ12とトランジスタ14a〜14cが介挿されていることになりこれらのトランジスタには保護ダイオードが並列に接続されていないから、ステータコイルで発生した高電圧による逆方向電流が電源側に流れようとして蓄電器が充電されることはこれらのトランジスタが故障していない限りにおいてあり得ず、したがってこの蓄電器は本件発明の「ハイリップル電流型コンデンサ」と同様の作用は奏し得ないものであるから、甲第2号証には、電源と接地の間にハイリップル電流型コノデンサを接続することに関しては、明記のみならずこれを示唆する記載もないというべきである。
甲第3号証には、MOSFETの入力部に蓄積電荷を充電または放電する充・放電回路を設けるという本件発明の構成の一部と同様の構成が開示されているということができる。
甲第4号証については、抵抗24は、電界効果トランジスタ14のゲートの電位をトランジスタ23が導通したときにそのコレクタ電位にするために必要不可欠のものであって、甲第4号証には、電界効果トランジスタの入力容量に基づく問題点やスイッチングの速度についての問題点についての言及は全くないのであるから、たとえ結果的に抵抗24が電界効果トランジスタの入力容量に対して充放電回路としての作用を有するとしても、甲第4号証に開示の回路がMOSFETの入力部に蓄積電荷を充電または放電する充・放電回路を設けるということを示唆するものとは認められない。
甲第5号証については、図面には基板9上には磁気検出素子10のみ設置されている一方、明細書には検出信号は基板9に印刷された配線を通して図示しない制御部へ送られると説明されている以上、制御部は基板9上に配置されてはいないと解するのが常識的であり、また、甲第5号証には制御部の具体的回路構成については全く記載がない。
したがって、甲第1号証〜甲第5号証のいずれにも、駆動コイル通電用スイッチング素子をMOSFET(MOS型電界効果トランジスタ)とした直流ブラシレスモータの駆動装置が開示されておらず、しかも駆動コイルの駆動用電源と接地の間にハイリップル電流型コンデンサを接続することも開示されていないのであるから、本件請求項1に係る発明を甲第1号証〜甲第5号証のいずれかに記載された発明であるとも、これらを組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものとも到底いうことができない。 また、本件請求項2、3に係る各発明は、請求項1に係る発明を更に限定したものであり、本件請求項4に係る発明は、請求項1〜3に係る各発明を特定の関係で具備した特定装置の発明であるから、本件請求項1に係る発明を甲第1号証〜甲第5号証のいずれかに記載された発明であるともこれらを組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものともいうことができない以上、請求項2〜4に係る発明を甲第1号証〜甲第5号証のいずれかに記載された発明であるともこれらを組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものともいうことができないことは明らかである。
5.結び
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-10-15 
出願番号 特願平6-86224
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H02P)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西村 泰英  
特許庁審判長 高瀬 博明
特許庁審判官 藤井 浩
江頭 信彦
登録日 1998-02-20 
登録番号 特許第2749514号(P2749514)
権利者 株式会社リコー
発明の名称 直流ブラシレスモータの駆動装置及び直流ブラシレスモータ  
代理人 有我 軍一郎  

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