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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない G01C
管理番号 1006784
審判番号 審判1997-21436  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1981-03-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 1997-12-19 
確定日 1999-03-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第1628234号発明「航跡記録装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1、本件発明
本件特許第1628234号に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その出願が昭和54年6月21日に出願されたものであって、その発明の要旨は、願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1番目に記載された下記の通りであるものと認める。
航行位置を測定する航法装置の測定結果に基いて、航行位置を航跡データーとして蓄積記憶する蓄積記憶回路と、表示器と、該表示器の表示画面上の各表示位置に幾何学的に対応する記憶部を有し、上記蓄積記憶回路に記憶されている航跡データーを該表示器の表示画面上の表示位置となる記憶部に記憶する表示用記憶回路と、画面移動スイッチおよび画面の縮小、拡大スイッチを含み、上記表示用記憶回路に記憶されているデーターを任意の方向へ移動させる等表示用記憶回路の記憶状態を変えることによって上記表示器での表示状態を所望の状態に設定することを指示する操作スイッチイ入力部と、上記表示画面上に表示される現在位置の座標値と上記表示画面上の表示限界位置に相当する座標値とを比較して、現在位置の座標値が表示限界位置に達したとき、もしくは、表示限界位置を越えたとき、現在位置の座標値を上記表示画面内の座標値に置き換えて、該置き換えた座標値に対応る表示用記憶回路の記憶番地に現在位置を記憶させる演算回路とよりなる航跡記録装置。
2、請求人主張の無効理由
請求人は、本件発明は、その出願の出願前、日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証と、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証又は甲第8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、と主張し以下のような証拠方法を提出している。
甲第1号証:本件公告公報
甲第2号証:米国特許第4071895号明細書
甲第2号証の1:訳文
甲第3号証:「TM/CPA INDICATOR TRAINING MANUAL」1968年10月、要部
甲第3号証の1:訳文
甲第4号証:「インターフェース’76.8」1976年8月号「特集 画像処理とパターン認識」
甲第5号証:特開昭49ー50690号公報
甲第6号証:特開昭51ー124949号公報
甲第7号証:「大島商船高等専門学校紀要第11号」昭和53年12月発行「総合電波測位システムについて」
甲第8号証:「MARINERS PATHFINDER RADAR、OPERATOR’S AND SIMPLIFIED FIELD SERVICE MANUAL P/No159554」要部
甲第8号証の1:訳文
甲第9号証:RAYTHEON、High Power 45Kw 3cm Modular Radar Systemsカタログ
甲第10号証:FCCのRaytheon Marine Company宛通知書面
甲第11号証:価格表
甲第12号証:甲第7号証に関する証明書
甲第13号証:物品管理法等法令要部
甲第14号証:甲第12号証についての証明書
3、刊行物の記載事項
甲第2号証
「図2に画いてあるように、・・・航行コンピュータ20によって、・・・第1と第2の航行信号XNとYNとが用意される。普通のTVモニタは、複数の走査しているTV線で作り上げたX,Y表示をもっていて、各線が複数の単位要素部分になるように分けられており、言い換えると、等しい時間の増分になっているので、これらの信号を普通のTVモニタによる表示器22上に描かせることができる。信号処理器24は、航行信号を表示器に表示するために、正確な変換と縮尺とを行うものである。」(2欄7〜18行)
「信号処理器24の出力は、表示制御回路32に与えられる。そして、この表示制御回路32は、画像表示を正確な時間で表示器上に書くことができるようにしたマークを発生するとともに、この表示を蓄積手段34に与えるようにしてあり、さらに、この蓄積手段34は、TV画像上に表示できるようにした線の信号を蓄積するために利用させることによって、総体の航行航跡を表示できるようにしている。」(2欄25〜32行)
「搬送体の位置はその航行基準に関連づけられているので、表示上の最新の位置は表示基準に関連づけられている。表示に対する縮尺率の設定には、航跡が表示の外側に逸脱しないようにするために、移動の総体的予想範囲になるように考慮しなければならない。信号処理器24に信号R1、R2およびR3を供給している基準回路95の消去と書込とを用意して、指示させているレジスタの中をリセットすることにより、新しい縮尺と表示基準を装置に入れ込ませることができる。ビデオ・ディスクに、マークの位置を蓄積し続けるようにするとともに、搬送体の縮尺した位置をモニタに読み出すようにして、連続的な航行航跡を供給することができる。」(4欄43〜59行)
「示されてはいないが、基準に対する相対的な搬送体の位置の量的な判断を容易にするために、適切な目盛を同時に表示させるようにすることができる。」(5欄4〜7行)
甲第3号証
「6-1システムの全般紹介
コンピュータの本質的な部分は、2つの座標上で動作するディジタル/アナログ積分器によって、さらには、デカルト座標で分解した船の速度と海流速度に相当するベクトル値の和に比例した繰返周波数をもつパルスによって、象徴されている。2つの積分器の出力は、2つの座標上での船が受け持つ現実の空間に比例した直流電圧で表されていて、CPTのX軸とY軸とに適用されており、船の行動を補償するようにしている。固定した目標物はCPT上では不動状態であるが、移動する目標物は、固定した目標物に対して、その現実の動きで移動するようにしたPPI表示にすることによって、それを達成している。」(第6ー1頁3〜15行)
「速度パルスは、ゲートに送るようにされるので、X座標用の計数器と、Y座標用の計数器との2つの計数器に入れられる。」(第6ー2頁13〜14行)
「計数器(複数)の出力は、デカルト座標に対応して分解した船の速度と海流速度との間のベクトル和に比例したパルスの数によって表されている。こうしたパルスは、積分器のように動作しているディジタル対アナログ変換器(DTAC)(各チャンネルに対する)に10ビット・ディジタルの充電(または放電)を行う。」(第6ー2頁下から16〜12行)
「正規の回路では、積分器を放電(リセット)するように条件づけしてあるので、船の船首の前方における十分な領域で、監視が行えないようなときに、それによって、DTACの充電をある値にしてPPIをリセットしたり,PPI原点の位置にしたりする。」(第6ー2頁下から6〜3行)
「6ー2ー2 オフ センタ 回路
コンピュータの動作上の必要条件は、積分器の動作を開始することを根拠にしたPPI上のオフ・センタ(中心ずれ)位置の手動によるリセットである。つまり、それはDTA上のオフ・センタ座標を記憶させることを手動で設定するとともに、その点から始まる船の移動を真運動の積分で行うようにすることが必要である。こうした動作を得るために使用する基本的な概要図をFIG.6ー3(XまたはYの1つの座標に対する部分)に示す。」(第6-6頁下から第12〜3行)
「6ー2ー3 リセット回路
リセット回路は、CRT上のオフ・センタ(中心ずれ)が、船の船首の前方における十分な領域で、監視が行えないような値に達したときに、PPI表示の原点のリセットを行わせる。リセットが起きたときは、表示の原点が、常に、CRTの半径の約67%を半径する円周の上に戻る。特に、その戻る点を、船の進路方向を示す光線が、CRTの中心の一方から反対側に横切ったところにしてある。PPIリセットは、2つの動作レベルが設けてある。第1のものは、CRT半径の50%に対応し(通常型リセット)、;第2のリセットは、中心ずれがCRT半径の80%に達すると行われる(遅らせ型リセット)。第1のもの(通常型リセット)は、遅らせ型リセットに切り換えることによって除外することができる。」(第6-10頁4行〜下から6行)
甲第4号証
「メイン・メモリに書き込まれた画像データは、TVの走査に同期して順々に読み出され、画面に表示される。ディスプレイ画面の原点は左上の隅であり、TVの走査は水平に左から右方向に進み、この水平走査を繰り返しながら、下方へ移っていく。従って、メイン・メモリ内の画像データを、画像左上隅のデータがメイン・メモリの0番地に、右下隅のデータが213ー1番地に対応するように配置させる。これらの関係を図5に示す。」(25頁左欄25〜33行)
そして、第5図には、メイン・メモリのデータ配列をディスプレイ画面の画素とを対応させて配列する点が記載されている。
甲第5号証
「本発明の基本目的は、移動体の操縦者に移動体および標点または障害物の相対的位置の表示を与え、その表示がそれだけで所望の全路程に従がい移動体を操縦するための基礎として役立つようにすることである。本発明の他の目的は、非常に順応性があり、また特に尺度の変更が容易にできるような表示を提供することである。本発明のさらに他の目的は、位置の基準点が必要に応じて容易に変更され、しかも表示の精度を失うことのない表示を提供することである。移動体の位置を正確に与える諸手段が通常用意される。船舶に対しては、このような手段は、すべての種類の航行装置、特に無線航行装置から構成されている。また、このような装置により供給される情報が、地図のものと比較される二次元の対の情報に変換されることも周知である。」(第3頁右下欄8行〜第4頁左上欄4行)
「本発明により、その目的で、移動体の現在位置についての対の情報から移動体の運動を表示する方法を提案するが、この表示は輝点の位置の命令用の二入力をもちまた輝点の全出現または非出現の命令用の一入力を有利にもつ回路に関連する陰極線管のスクリーン面になされる。」(第4頁左上欄11〜16行)
「移動体の現在位置に関する情報を実時間で供給する航行装置である。この装置には、簡単のため、XpとYpの各座標に対して20の二進ビットから成る一対の位置情報を絶えず直接に供給するものと仮定する。評点の対の位置情報は、例えば、以下に説明するような、手動表示により入力XrとYrに連続的に供給される。図示の実施例では、全位置情報は監視部3により命令されるように、記憶部2に収められる。監視部3は、一方で相対的位置情報を発生するため基準となる座標XRとYRの既定の一対の情報を選択することを命令し、他方で記憶部2に記憶された全ての対の位置情報の連続的な先取または読取りを命令する。読取られた連続する各対は、現座標XnとYnにより示される。二進デジタル減算回路5では、連続して読取られた各対と基準の各対に対応する二つの情報が減算されて、Xn-XRが減算部51にYn-YRが減算部52に各々得られる。減算回路5の減算部51と52の各出力は、一対のアナログ信号XとYをもつ回路6に加えられる。アナログ信号XとYは、陰極線管9の回路の輝点位置命令の二つの入力に加えられる。」(第5頁右上欄下から3行〜左下欄下から1行)
「上記の図示実施例では、標点の位置情報は一つ一つ導入される。従って、凍結されるが時々変更され得るような位置情報が問題である。標点という言葉を限定的に理解してはならないのは勿論であり、この言葉は、位置が考慮する移動体の案内のための重要性をもつ全ての物体を意味している。換言すると、「標点の位置情報」という表現は、移動体の案内のために有用となるような位置の全情報を示す。この点で、或種の標点が十分に敏速な頻度に対応する情報を再記憶させるような移動体であっても、本発明を適用するのは完全に可能である。」(第7頁右下欄下から3行〜第8頁左上欄9行)
「相対的位置の基準を選定して、任意の位置情報に対して、すなわち、移動体の通過位置に対してとか、標点の位置に対して彫像を固定することができる。」(第11頁左上欄下から4〜1行)
「位置情報と位置の間の関係においては、この関係を特に直交座標(例えば、ランベール式)、地理的座標(緯度、経度)、無線航行方式の双曲線座標、または極座標により定義することができる。」(第11頁左下欄9〜12行)
甲第6号証
「オメガ航法、ロラン航法、衛星航法等からの経度、緯度出力によって航跡をXYプロッタ上に記録する装置。」(第1頁左欄4〜6行)
「CPU3にはプロッタの座標原点の緯度・経度(φ0、θ0)の数値を入れたり、目盛の間隔を指定したり、目盛り引き動作のスタート指令等を与えるための制御用キーボード4からの制御信号がキーボード用のインターフェース5を経て導かれている。」(第2頁左上欄下から3行〜右上欄3行)
甲第7号証
「第1図はこの系統図である。自動測位システムでは、ロランC、オメガ及び衛星航法受信機からのデータはインターフェースユニットを介してミニコンピュータを利用したプロセッサにより船位や航跡を計算しストレージ管上の海図に表示するとともに・・・カセット磁気テープへ書込まれる。」(第1頁下から5〜1行)
甲第8号証
「TM/CPAコンピュータの本質的な部分は、2つの座標上のディジタル積分器によって象徴されている。この積分器は、図1に概要的に示してあり、2つの所定の座標(XとY)のそれぞれに1ずつ用いた2つの同じチャンネルで表してある。2つの可逆計数器は、ゲートが可能にされている間に、その入力に与えられているクロックパルスの数を計数する。この情報は、その後のゲートが可能にされる間に計数されたクロックパルスの数が計数方向に対する信号の極性に応じて以前の数に加算(または減算)するようにして、計数器に蓄積される。この動作は、計数器にゲートが可能にされる各時点に繰り返されるので、ディジタル積分が得られることになる。計数器の出力は、上記の可逆計数器と同じ方法で動作するDTAドライバーに可能化するパルスを与える。DTAドライバーは、計数器で既に述べたようなディジタル情報を蓄積するようにした10個の計数素子で構成してある。DTAドライバーに蓄積されたディジタル情報は、ディジタル対アナログ変換器(DTAC)によって、直流レベルに転換させられて、その出力が種々のモードの動作によるPPI表示のオフ・センタに用いられている。」(Sheet 1 of 4の裏面の最左欄1行〜下から4行)
「コンピュータは、基本的には、以下のモードの1つで動作する。
ー積分ー積分は、固定した物標に関連づけた現実的な船の表示に対応したCRT上のPPI原点の移動に対する2つの座標上のオフ・センタ電圧の中に、船と海流速度とそれらの相対的な方向とを、変換するために必要としている。
この成果を達するために、種々の積分勾配を、使用する距離尺度に関連付けることが必要である。」(Sheet 1 of4の裏面の左から2欄下から3行〜左から3欄10行)
「-手動による中心ずらせ-手動による中心ずらせ用分圧器(各座標に対して1つずつ)の調節によって、DTA駆動回路を装荷している。その結果のDTACの出力電圧が、PPI表示の原点を、操作者によって選ばれた位置に位置付ける。」(Sheet 1 of 4の裏面の左から第3欄11〜17行)
「-リセット- 積分の間に、PPIの原点は船の移動に従って動いている。船が航行した距離によって、ある時間の後に、PPIの原点が中心から遠くに外れてしまい、前方の目標物を監視する領域が安全航行に対して必要以上に短くなるようになる。CRTの原点がCRTの半径の50%の限界を越えると、自動リセットが起こる。(もうつの1つの限界は、CRTの半径の80%で生じさせるが、操作者が「遅らせ型リセット」を選択しなければならない。)リセット期間はかなり短い(約20msec)、そして、PPI原点が、中心からCRTの半径の67%に等しい距離に位置づけられた点に引き戻される。リセット信号は、リセット動作が完了したときに、船の進路方向線が、CRTの中心上を位置づけられるようにする。リセットは、積分期間の任意の時点に、押しボタンスイッチの手段によって、手動で始動させることもできる。」(Sheet 1 of 4の裏面の左から3欄18行〜最右欄12行)
「3)リセット
リセット回路は、CRT上のオフ・センタが、安全航行に対して、船の船首の方向における十分な領域で、監視が行えないような値に達したときに、PPI表示の原点のリセットを行わせるものである。リセットが起きたときには、表示の原点が、常に、CRTの半径の67%を半径する円周の上に戻る。(fig.6参照)特に、その戻る点を、船の進路方向を示す光線が、CRTの中心の一方から反対側に横切ったところにしてある。リセットの開始に対して、2つ異なる限界を選べるようになっている。第1のものは、PPIの原点がCRT半径の50%を横切ったときに動作し(通常型リセット)、;第2のものは、PPIの原点の中心ずれがCRT半径の80%に達したときに開始する(遅らせ型リセット)。」(Sheet 2 of 4裏面最右欄下から10行〜Sheet 3 of 4の表面の11行)
4,当審の判断
(1)刊行物の頒布時期
甲第3号証について
甲第3号証のシートbには、「このマニュアルは、(SELENIA S,p,A-Rome-)の海洋レーダ製品支援部の人々により準備されたものである。」と記載され、1968年10月の日付が付されていることからみて、甲第3号証は、1968年頃に頒布されたものと認める。
甲第7号証について
甲第12号証の物品管理通知書供用簿には、甲第7号証が昭和54年1月20日に200部受け入れられた旨が記載されており、この事実と甲第13号証及び甲第14号証からみて、甲第7号証は昭和54年1月20日には頒布されたものと認める。
甲第8号証について
甲第10号証によれば、1973年2月20日に甲第8号証に掲載されたTM/CPA1645/6XBが形式認定されたものと認められ、甲第11号証の1977年1月1日付け価格表によれば、TM/CPA1645/6Xが22700ドルで販売されていたこと(第1頁参照)、「OPERATORS SIMPLIFIED FIELD SERVICE MANUALS」のN0159554が70ドルで販売され、Bシリーズのものが存在していたこと(第2頁参照)からみて、甲第8号証は1977年1月1日には頒布されていたものと認める。
(2)本件発明の「表示画面上の表示限界位置」について
本件特許請求の範囲に記載された「表示画面上の表示限界位置」について、その意味するところが一義的かつ明確なものとはいえないので、その技術的意義について本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌する。
本件明細書には以下の記載がある。
「ブラウン管表示器1上に表示される航跡記録の現在位置が表示画面上の限界位置に来たとき、表示画面全体を特定量だけシフトして現在位置を表示画面内に位置させる。これは、電子計算機19において、表示用記憶回路14から航跡記録の現在位置を読出して、この現在位置が上記表示画面上の限界位置に対応する表示用記憶回路内の記憶素子に一致するかどうか、あるいは、限界位置を越えているかどうかを演算する。そして、一致する場合は、表示用記憶回路に書込む記憶内容を、全体的に特定量だけシフトした記憶素子に書込む。上記において、現在位置が表示画面上の限界位置にあるかどうかは、表示画面上の限界位置が表示画面の端部に位置するかどうか、が判断される。」(甲1、5欄10行〜25行)
上記記載によれば、「表示画面上の表示限界位置」とは、表示画面の端部、すなわち、表示画面上において物理的に表示できる限界位置を意味するものと解される。また、本件明細書の発明の詳細な説明の他の記載を検しても、これに反する記載は見いだせない。
よって、「表示画面上の表示限界位置」とは「表示画面上において物理的に表示できる限界位置」を意味するものとして、以下検討を行う。
(3)本件発明との対比・判断
甲第2号証には、航行コンピュータ20によって第1と第2の航行信号XN、YNが用意され、信号処理器24に入力され、信号処理器24の出力は表示制御回路32に与えられ、マークを発生するとともに、この表示を蓄積手段34に与えられ、表示器22上に連続的に航行航跡を供給して表示し、信号処理器24に信号を供給している基準回路95により新しい縮尺と表示基準を入れ込ませるナビゲーション表示システムが記載され、航跡が表示の外側に逸脱しないように、表示に対する縮尺率の設定は移動の相対的予想範囲になるように考慮される点が記載されている。
甲第3号証には、自船の現在位置を表示画面上を移動して行くように表示し、自船の位置を直交座標X,Yによる信号によってCRTに表示するレーダシステムにおいて、オフ・センタ位置の手動によるリセットは,DTA変換器にオフ・センタ座標を記憶させることを手動で設定するものであり、リセット回路はCRT上のオフ・センタが船の船首の前方における十分な領域で監視が行えないような値に達したときにPPI表示の原点のリセットを行うものであって、リセットが起きたときは、表示の原点がCRTの半径の約67%を半径する円周の上に戻り、通常型リセットはCRT半径の50%に対応し、遅らせ型リセットはCRT半径の80%に達すると行われる点が記載されている。
甲第4号証には、メイン・メモリに書き込まれた画像データをTVの走査に同期して順々に読み出し、画面に表示するものであって、TVの走査は左上隅から水平走査を繰り返しながら下方に移って行き、メイン・メモリ内の画像データ配列をディスプレイ画面の画素に対応して配列する点が記載されている。
甲第5号証には、移動体の運動を表示するための航行装置において、全位置情報は監視部3に命令されて記憶部2に収められ、監視部3の命令により記憶部2に記憶された全ての位置情報の対を読み取り、減算回路5において読み取られた位置情報の対と基準となる座標の対とが減算され、減算回路5の減算部の各出力をアナログ信号X・Yをもつ回路6に加えられ、アナログ信号X・Yは陰極線管9の回路の輝点位置命令の入力に加えられる点が記載されている。
甲第6号証には、オメガ、ロラン、衛星航法等からの緯度、経度出力によって、航跡をXYプロッタ上に記録する装置において、CPUには座標の緯度・経度の数値、目盛間隔指定、スタート指令等を与えるための制御信号がキーボード用のインターフェースを経て導かれている点が記載されている。
甲第7号証には、方位データをインターフェースユニットを介してミニコンピュータを利用したプロセッサにより船位や航跡をストレージ管の海図に表示し、カセット磁気テープに書き込まれる自動測位システム、が記載されている。
甲第8号証には、自船の位置を直交座標X・Yによる信号によってCRT上に表示するレーダシステムにおいて、2つの可逆計数器はクロックパルスの数を計数して加減算を行い積分し、計数器の出力はDTAドライバーに蓄積され、その出力はPPI表示のオフ・センタに用いられ、手動による中心ずらせ用分圧器の調節によりPPI表示の原点を操作者によって選ばれた位置に位置づけ、船が航行した距離によってPPIの原点が中心から遠くに外れるような場合には、リセット回路により原点がCRTの半径の50%を越えると通常型の自動リセット又はCRT半径の80%に達したときに遅らせ型のリセットを行って、PPI原点がCRT半径の67%に等しい距離に位置づけられた点に引き戻され、リセットは、積分期間の任意の時点に押しボタンスイッチにより手動で始動させることができる点が記載されている。
しかし、上記甲第2号証乃至甲第8号証には、本件発明の構成要件である、表示画面上に表示される現在位置の座標値と表示画面上の座標値とを比較して、現在位置の座標値を表示画面内の座標値に置き換えて、該置き換えた座標値に対応する表示用記憶回路の記憶番地に現在位置を記憶させる演算回路において、現在位置の座標値と比較する表示画面上の座標値が、「表示画面上の表示限界位置に相当する座標値」であり、「現在位置の座標値が表示限界位置に達したとき、もしくは、表示限界位置を越えたとき、」座標値を置き換える点は記載されていないし、示唆されてもいない。
本件発明は、「ブラウン管表示器上に必要な航跡が自動的に記憶される航跡記録装置を提供する」(甲1,2欄末行〜3欄1行)と本件明細書記載のの目的を達成するために本件発明の構成を具備するものであり、航跡記録装置であるが故に、表示画面上の座標値を「表示画面上の表示限界位置(表示画面上に物理的に表示できる限界位置)に相当する座標値」としたものである。
これに対し、甲第3号証及び甲第8号証に記載された事項は、レーダシステムであって、船の船首の前方における十分な領域で監視を行う必要があるものであり、表示画面上の船の現在位置のリセットをおこなうにしても、船の船首の前方の監」視を行うために、表示画面上に十分な余裕を残して、即ち、通常型の場合はCRTの半径の50%の限界を越える場合、遅らせ型の場合はCRTの半径の80%の限界を超える場合に、それぞれ現在位置の座標をCRTの半径の67%に等しい距離に位置づけられた点に引き戻すものであって、「表示画面上の表示限界位置に相当する座標値」においてリセットを行うものではない。
甲第8号証の手動によるリセットも、演算回路により自動リセットするものではなく、しかも積分期間中に行うものであるから、上記リセットにおける通常型又は遅らせ型における限界位置を越えるものではない。
よって、現在位置の座標値を表示画面上の座標値と置き換える点については本件発明と共通するものの、表示画面上の座標値が、「表示画面上の表示限界位置に相当する座標値」であって、この座標値に基づいて置き換えることまで、甲第3号証及び甲第8号証に記載されていないし、示唆されているとはいえない。
更に、甲第2号証に記載の発明は、航跡が表示の外側に逸脱しないようにするとの課題は存在していても、縮尺率の設定において考慮することが記載されているのみであって、本件発明のような「置き換えた座標値に対応する表示用記憶回路の記憶番地に現在位置を記憶させる演算回路」に関するものではない。
したがって、本件発明の構成は、甲第2号証乃至甲第8号証に記載の発明を組み合わせたとしても到達することができないのであるから、本件発明は甲第2号証乃至甲第8号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
5,むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び証拠によっては、本件特許を無効にすることができない。
 
審決日 1999-01-12 
出願番号 特願昭54-78973
審決分類 P 1 112・ 121- Y (G01C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 益男三谷 浩荻巣 誠杉野 裕幸  
特許庁審判長 高瀬 浩一
特許庁審判官 森 雅之
村本 佳史
登録日 1991-12-20 
登録番号 特許第1628234号(P1628234)
発明の名称 航跡記録装置  
代理人 小森 久夫  

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