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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B09B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B09B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B09B
管理番号 1007261
異議申立番号 異議1998-73476  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-07-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-07-17 
確定日 1999-10-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2700680号「遮水構造物」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2700680号の特許を維持する。 
理由 I.手続きの経緯
特許第2700680号発明(昭和63年12月28日特許出願、平成9年10月3日設定登録)の特許に対し、鹿島建設株式会社より特許異議の申立てがなされた。
当審において、取消理由を通知したところ、平成10年12月8日に訂正請求がなされ、さらに、訂正拒絶理由を通知したところ、訂正明細書を補正する手続補正書が提出された。
II.訂正の適否について
1.訂正の内容
上記手続補正は、訂正明細書の特許請求の範囲において、「遮水性を有する2層の間に、水と接触すると膨張し、固化して遮水性を生じる材料からなる補修層を積層して形成したことを特徴とする、遮水構造物」を「廃棄物の処分場の遮水構造物において、遮水性を有する2層の間に、水と接触すると膨張し、固化して遮水性を生じる材料からなる補修層を積層して形成したことを特徴とする、廃棄物の処分場の遮水構造物」と補正すると共に、これに整合させるために発明の名称を「廃棄物の処分場の遮水構造物」と補正するものであり、訂正明細書の発明を減縮するものであり、訂正請求の要旨を変更するものではない。
よって、特許権者が求めている訂正の内容は、特許明細書を上記手続補正で補正された訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。すなわち、
(1)特許請求の範囲に記載された「遮水性を有する遮水層と、水と接触すると膨張して遮水性を生じる材料からなる補修層とを積層して形成したことを特徴とする、遮水構造物」を、「廃棄物の処分場の遮水構造物において、遮水性を有する2層の間に、水と接触すると膨張し、固化して遮水性を生じる材料からなる補修層を積層して形成したことを特徴とする、廃棄物の処分場の遮水構造物」と訂正する。
(2)発明の名称の「遮水構造物」を「廃棄物の処分場の遮水構造物」と訂正する。
2.訂正の目的の適否及び拡張・変更の存否
上記(1)の訂正は、「遮水構造物」を廃棄物の処分場で用いるものに限定すると共に、「補修層の材料」を「水と接触すると膨張し、」さらに「固化」するものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、(2)の訂正は、発明の名称を訂正後の特許請求の範囲の記載と整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、上記(1)の訂正である、「廃棄物の処分場の遮水構造物」は、特許明細書3頁10〜11行(特許公報第3欄10〜11行)に記載されており、また、「水と接触すると膨張し、固化して遮水性を生じる材料」は、特許明細書4頁2〜3行(特許公報第3欄21〜22行)に記載されている。
したがって、前記上記(1)及び(2)の訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって新規事項を追加するものでなく、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3.独立特許要件
(訂正明細書の発明)
訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、「訂正明細書の発明」という)は、上記手続補正書で補正された訂正明細書における特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの、次の事項により特定されるものである。
「廃棄物の処分場の遮水構造物において、遮水性を有する2層の間に、水と接触すると膨張し、固化して遮水性を生じる材料からなる補修層を積層して形成したことを特徴とする、廃棄物の処分場の遮水構造物。」
(当審の判断)
当審において通知した訂正拒絶理由で引用した引用刊行物1(特開昭62-280497号公報)には、遮水性を有する合成樹脂製シート材3の2層の間に、水と接触すると膨張して遮水性を生じるベントナイト等の無機質の吸水性物質からなる補修層を積層して形成した、トンネルの土木工事等に使用される防水シートが記載されていると認められる。
そこで、訂正明細書の発明と引用刊行物1記載の発明とを比較すると、訂正明細書の発明は、遮水性を有する2層の間に、水と接触すると膨張し、固化して遮水性を生じる材料からなる補修層を積層して形成した廃棄物の処分場の遮水構造物であるのに対し、引用刊行物1記載の発明は、遮水性を有する2層の間に、水と接触すると膨張して遮水性を生じる材料からなる補修層を積層して形成したトンネルの土木工事等に使用される防水シートで両者は構成が相違している。
上記相違点を検討するに、訂正拒絶理由で引用した、引用刊行物2(特開昭62-236884号公報)及び引用刊行物3(特開昭62-256884号公報)には、水と接触すると膨張し、固化して遮水性を生じる、コンクリート施工箇所のひび割れ、亀裂等に充てんする水膨張性止水材料は記載されているが、遮水性を有する2層の間に、水と接触すると膨張し、固化して遮水性を生じる材料からなる補修層を積層して形成した廃棄物の処分場の遮水構造物については記載されておらず、かつ、示唆されてもいない。
そして、前記構成を備える訂正明細書の発明は明細書記載の効果を奏するものであるから、訂正明細書の発明が上記引用刊行物1ないし3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
したがって、本件発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
4.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項、同条第3項で準用する第126条第2ないし4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.本件発明
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という)は、上記II.3.独立特許要件の(訂正明細書の発明)に記載したとおりのものである。
IV.特許異議の申立てについて
1.特許異議申立理由の概要
異議申立人は、下記の証拠を提出し、
(1)本件発明は甲第1号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する発明に対してされたものであり、また、
(2)本件発明は甲第1ないし4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、さらに、
(3)本件発明は、特許請求の範囲の記載が不明瞭であり、また当業者が容易に実施できる程度に明細書に本件発明が記載されていないから、その特許は、特許法第36条第3項および第4項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、
取り消されるべきである旨主張する。

甲第1号証:米国特許第4787780号明細書
甲第2号証:特開昭62-280497号公報(上記II.3.独立特許要件の判断における引用刊行物1)
甲第3号証:特開昭62-256884号公報(上記II.3.独立特許要件の判断における引用刊行物3)
甲第4号証:米国特許第4344722号明細書
2.当審の判断
(1)特許法第29条第1項第3号違反(上記(1)の理由)について
甲第1号証の発明において、布地(fabric)35が遮水性を有する層であるとはいえないから、甲第1号証には、遮水性を有するシート材38と布地35との間に、水と接触すると膨張して遮水性を生じるベントナイトからなる補修層を積層して形成した、下部の地中や建物材料に液体が浸出するのを防止するシート構造物が記載されていると認められる。
本件発明と甲第1号証記載の発明とを比較すると、
本件発明は、遮水性を有する2層の間に、水と接触すると膨張し、固化して遮水性を生じる材料からなる補修層を積層して形成した廃棄物の処分場の遮水構造物であるのに対し、甲第1号証記載の発明は、布地35と遮水性を有するシート材38との間に、水と接触すると膨張して遮水性を生じる材料からなる補修層を積層して形成した、下部の地中や建物材料に液体が浸出するのを防止するシート構造物である点で相違している。
したがって、本件発明が甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
(2)特許法第29条第2項違反(上記(2)の理由)について
本件発明と甲第1号証記載の発明とを比較すると、両者は、上記IV.2.(1)に記載した点で相違している。
そして、甲第2及び3号証には、II.3.独立特許要件の(当審の判断)に記載した発明が記載されおり、また、甲第4号証には、布地(fabric)層110と布地(fabric)層114との間に、粘土層112を形成した、化学的廃棄物や石油製品等の貯蔵、動物排泄物等の置場に用いる防水バリアが記載されている。
しかしながら、甲第2号証には、トンネルの土木工事等に使用される防水シートが、甲第3号証には、水と接触すると膨張し、固化して遮水性を生じる材料が、甲第4号証には、廃棄物の処分場の遮水構造物が記載されているが、これら甲第2ないし4号証記載のものを、甲第1号証記載の発明に有機的に適用することについては何ら記載されておらず、かつ、示唆されてもいない。
そして、本件発明は、明細書記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明が甲第1ないし4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(3)特許法第36条第3及び4項違反(上記(3)の理由)について
異議申立人は、請求項1の「水と接触すると膨脹して遮水性を生ずる材料」の記載は、単に材料の性質を表現したにものであり、材料を特定したものではないから、特許請求の範囲の記載が不明瞭であり、また、この材料として明細書中に「例えば,ウレタン樹脂,ウレタン樹脂の混合物等を使用することができる。」と記載されているが,ウレタン樹脂,ウレタン樹脂の混合物が如何なるものであるか説明がないから、明細書に当業者が容易に実施手着る程度に発明が記載されていないと主張する。
しかし、「水と接触すると膨張し、固化して遮水性を生じる材料」の記載は明瞭であり、材料を特定したものではないからといって特許請求の範囲の記載が不明瞭であるとはいえないし、また、ウレタン樹脂において水と接触すると膨張して固化するものとして、ポリオールと鎖延長剤及びジイソシアネート、必要に応じて加水分解性シリル基含有化合物を混合して得られるポリウレタンとポリアクリル酸塩系吸水性樹脂などの吸水性樹脂を混練したウレタン樹脂混合物等があることは、一般に良く知られていることである。
したがって、本件出願の明細書の記載が不備であるという異議申立人の主張は採用できない。
3.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠方法によって、本件発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
廃棄物の処分場の遮水構造物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】廃棄物の処分場の遮水構造物において、遮水性を有する2層の間に、水と接触すると膨張し、固化して遮水性を生じる材料からなる補修層を積層して形成したことを特徴とする、
廃棄物の処分場の遮水構造物。
【発明の詳細な説明】
<産業上の利用分野>
本発明は廃棄物の最終処分場、貯水池、汚染物質を含む溶液の貯蔵施設あるいは各種建物等の遮水構造物に関するものである。
<従来の技術>
重金属等の汚染物質を含む溶液を貯蔵する施設や、汚泥、鉱さい、燃えがら、厨芥等の廃葉物を埋め立てる管理型最終処分場等では、万一漏水事故が発生すると、土壌、地下水や河川の汚染等周辺環境に与える悪影響が甚大である。
従って、その遮水性が重要となっている。
この種の施設では、従来から遮水性を有するシートやアスファルト等によって、遮水層を設けることで解決していた。
<本発明が解決しようとする問題点>
しかし、前記した従来の遮水技術には、次のような問題点が存在する。
<イ>従来の技術では、遮水層の破損による漏水が生じた場合、その漏水を発見することが大変因難である。
<ロ>たとえ、地下水汚染等の周辺環境の変化により漏水を発見しても、すでに周辺環境の汚染は広域に広がってしまうていることが多い。
<ハ>また、漏水を発見しても、遮水層の上部には廃棄物が堆積しているため、遮水層の破損箇所を探り当て、補修することは非常に困難である。
<本発明の目的>
本発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、遮水層が破損した場合に、容易かつ迅速に遮水層を補修することができ、周辺環境の汚染を防止することができる遮水構造物を提供することを目的とする。
<本発明の構成>
以下、図面を参照しながら本発明の一実施例について説明する。
なお本実施例では廃棄物の最終処分場を例に挙げて説明する。
<イ>遮水層
遮水層は、遮水性を有するシート等によって形成する。
このシートには、ゴム系またはビニル系等の遮水性を有する素材を用いる。
そして、このシートを所定の処分場に、第1図に示すように間隔をおいて二重に敷設し、上層シート1、下層シート11とする。
<ロ>補修層
補修層2は、水と接触すると膨張して固化し、遮水性を生じる材料によって形成する。
例えば、ウレタン樹脂、ウレタン樹脂の混合物等を使用することができる。
そしてこの補修層2を、上記上層シート1と下層シート11の間に配置する。
<本発明の作用>
次に第2図を参照して、本発明の作用について説明する。
処分場内には廃菜物3が投入されており、第2図は、その廃棄物3の一部が上下層シート1及び11を貫いて、上下層シート1及び11が破損した状態を示す。
廃棄物3によって、上下層シート1、11には穴があき、処分場内の水が補修層2内に侵入する.
すると補修層2は瞬時に水と反応して膨張し、上下層シート1、11の破損箇所から外部に流出して固化する。
固化した補修層2は栓体21を形成し、上下層シート1、11の破損箇所は完全に開塞される。
従って処分場内の汚水等が周囲土壌等に流出するのを防止することができる。
<その他の実施例>
上記実施例は、上下層のシートン、11間に補修層2を位置させた場合であるが、その他の実施例として、一枚の遮水シートの廃棄物3と反対側の面に補修層2を位置させることや、遮水シートと補修層2とを複数層に積載することも可能である。
要は、補修層2が通常は水と接触せず、遮水シートが破損したときのみ、水と接触し、膨脹して遮水シートを閉塞する構造であればよい。
<本発明の効果>
本発明は以上説明したようになるので、次のような効果を期待することができる。
即ち従来の技術では、遮水層の破損による漏水が生じた場合、その漏水を発見することが大変困難であり、また漏水を発見しても、遮水層の上部には廃棄物が堆積しているため、遮水層の破損箇所を探り当て、補修することは非常に困難である。
それに対して本発明は、遮水層が破損した場合、補修層が水と反応して瞬時に膨張し、遮水層の破損箇所から外部に流出して固化する。
固化した補修層は栓体を形成し、遮水層の破損箇所は完全に開塞される。
そのため、迅速かつ容易に遮水層を補修することができる。
従って、廃棄物の最終処分場等の汚水が流出するのを防止することができ、周囲の環境を保護することができる。
また、貯水池、ダム等に用いることにより、漏水を防止でき、水資源の無駄を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図:本発明の一実施例の説明図
第2図:作用を示す説明図
 
訂正の要旨 特許第2036783号発明の明細書を本件訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに、すなわち、特許請求の範囲の減縮を目的として下記(1)のとおりに訂正し、明りょうでない記載の釈明を目的として下記(2)のとおりに訂正する。
(1)特許請求の範囲に記載された「遮水性を有する遮水層と、水と接触すると膨張して遮水性を生じる材料からなる補修層とを積層して形成したことを特徴とする、遮水構造物」を、「廃棄物の処分場の遮水構造物において、遮水性を有する2層の間に、水と接触すると膨張し、固化して遮水性を生じる材料からなる補修層を積層して形成したことを特徴とする、廃棄物の処分場の遮水構造物」と訂正する。
(2)発明の名称の「遮水構造物」を「廃棄物の処分場の遮水構造物」と訂正する。
異議決定日 1999-09-21 
出願番号 特願昭63-329109
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B09B)
P 1 651・ 113- YA (B09B)
P 1 651・ 534- YA (B09B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 新井 重雄
鈴木 寛治
登録日 1997-10-03 
登録番号 特許第2700680号(P2700680)
権利者 大成建設株式会社
発明の名称 廃棄物の処分場の遮水構造物  
代理人 山口 朔生  
代理人 和田 憲治  
代理人 山口 朔生  

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