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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1007322
異議申立番号 異議1998-73660  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-08-01 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-07-27 
確定日 1999-09-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2705023号「被処理物の酸化方法」の請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2705023号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2705023号の請求項1〜11に係る発明は、平成6年11月2日(優先権主張平成5年11月26日)に特許出願され、平成9年10月9日に特許の設定の登録がなされたところ、その請求項1〜11に係る発明の特許に対し、斉藤 哲(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、当審において請求項1〜11に係る発明の特許に対して取消理由の通知がなされ、その指定期間内である平成11年3月25日に訂正請求がなされた。
II.訂正の適否についての判断
1.訂正後の明細書の請求項1〜11に係る発明訂正後の明細書の請求項1〜11に係る発明は、訂正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を光取り出し窓を通して、酸素を含む流体に照射させて、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触させて酸化させることを特徴とする被処理物の酸化方法。
【請求項2】キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を光取り出し窓を通して、酸素を含む流体に照射させて、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触させて酸化させるとともに、前記真空紫外光を当該被処理物にも照射させて、それらの協同作用で当該被処理物を酸化させることを特徴とする被処理物の酸化方法。
【請求項3】キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を光取り出し窓を通して、酸素を含む流体に照射させて、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾンおよび活性酸化性分解物に遠紫外光を照射させて活性度を高めて、当該活性度の高まったオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触させて酸化させることを特徴とする被処理物の酸化方法。
【請求項4】キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから光取り出し窓を通して放射される真空紫外光と、遠紫外光光源から放射される遠紫外光とを、酸素を含む流体に同時に照射させて、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触させて酸化させることを特徴とする被処理物の酸化方法。
【請求項5】被処理物を酸化させる際に、当該被処理物が、真空紫外光もしくは遠紫外光の少なくとも一方の照射を受けていることを特徴とする、請求項3もしくは請求項4記載の被処理物の酸化方法。
【請求項6】遠紫外光光源は、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、クリプトン沸素エキシマランプ、もしくはクリプトン沸素エキシマレーザであることを特徴とする、 請求項3から請求項5のいずれかに記載の被処理物の酸化方法。
【請求項7】誘電体バリヤ放電ランプと被処理物との間に酸素を含む流体を存在させ、当該ランプから放射される真空紫外光の当該流体に対する透過最短距離をd(cm)として、また、当該流体の酸素分圧をp(気圧)とした時に、d×pが0.6より小さく規定したことを特徴とする、請求項2に記載の被処理物の酸化方法。
【請求項8】被処理物を酸化させる際に、被処理物の表層または当該被処理物の酸化物が気体として当該被処理物から除去されるように酸化することを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれかに記載の被処理物の酸化方法。
【請求項9】誘電体バリヤ放電ランプの形状が、二重円筒型もしくは平面型であることを特徴とする、請求項1から請求項8のいずれかに記載の被処理物の酸化方法。
【請求項10】誘電体バリヤ放電ランプの真空紫外光の取出部は、合成石英ガラス、サファイヤ、アルカリ金属ハライド、もしくはアルカリ土類金属ハライドのうちから選択された材料から成ることを特徴とする、請求項9に記載の被処理物の酸化方法。
【請求項11】キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから光取り出し窓を通して放射される真空紫外光と、遠紫外光光源から放射される遠紫外光とを、酸素を含む流体に照射して、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触させるとともに前記両紫外光を当該被処理物にも照射させて、これらの協同作用で当該被処理物を酸化させる際に、当該被処理物の表面における遠紫外光光源との間で光吸収のない時の遠紫外光の放射照度をI(mW/cm2)として、誘電体バリヤ放電ランプと当該被処理物の間に存在する酸素を含む流体に対して、前記ランプから放射される真空紫外光の透過最短距離をd(cm)、酸素分圧をp(気圧)とした時、(p×d)/(1+I1/2)の値を、0.33より小さく規定してなることを特徴とする被処理物の酸化方法。
(以下では、訂正後の請求項1〜11に係る発明を「訂正発明1〜11」という。)
2.訂正の内容
訂正請求は、本件特許の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、その訂正の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項a
請求項1〜3中の「キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を」を「キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を光取り出し窓を通して、」と訂正する。(2)訂正事項b
請求項4、11中の「キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光と、」を「キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから光取り出し窓を通して放射される真空紫外光と、」と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書【0007】中の「(1)キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を」を「キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を光取り出し窓を通して、」と訂正する。
(4)訂正事項d
明細書【0007】中の「(4)キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光と、」を「キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから光取り出し窓を通して放射される真空紫外光と、」と訂正する。
3.訂正の目的、新規事項禁止、拡張・変更禁止の各要件についての判断
(1)訂正事項a及びbについて
訂正事項a及びbは、請求項1〜4及び11に係る発明の構成に関して、誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵される点、容器内に窒素ガスを流す点及び誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を光取り出し窓を通して取り出す点のそれぞれを技術的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に相当する。
そして、特許明細書の【0034】及び図11には、誘電体バリヤ放電ランプが、合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵される点及びこの容器内に窒素ガスを流す点及び誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を光取り出し窓を通して取り出す点が記載されているから、上記訂正事項a及びbは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(2)訂正事項c及びdについて
訂正事項c及びdは、訂正事項a及びbによって特許請求の範囲を減縮することに伴って生じた明細書中の明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、これらの訂正事項c及びdは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
4.独立特許要件について
4-1.当審が通知した取消理由の概要
請求項1〜11にかかる発明は、下記刊行物1〜12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜11に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである。 記
(括弧内の表示は異議申立人が提出した特許異議申立書及び上申書に添付された証拠及び資料に付された表示である)
刊行物1(参考資料1)
特開平5-117061号公報
刊行物2(同甲第5号証)
B.E1iasson他,“OZONE SCIENCE&ENGIEERING”, Vo1ume13,Number3、p.365-373(June1991)
刊行物3(参考資料2)
欧州特許第0254111号明細書
(なお、上記文献のパテントファミリーとして「米国特許第4,837,484号明細書」があるので参考にされたい。)
刊行物4(甲第1号証)
洗浄設計、1981年秋季号、近代編集社(昭和56年10月)第37〜46頁
刊行物5(甲第2号証)
洗浄設計、1987年夏季号、近代編集社(昭和62年8月)第10〜16頁
刊行物6(参考資料3)
特開平5-177129号公報
刊行物7(甲第3号証)
月刊Semicomductor World 1986.9、第79〜84頁
(株式会社プレスジャーナル)
刊行物8(甲第9号証) :
日立評論VOL.71,No.5(1989年5月)第39〜45頁
刊行物9(甲第7号証)
特開平1-144560号公報
刊行物10(甲第8号証)
特開平4-229671号公報
刊行物11(甲第12号証)
「第4回光源物性とその応用研究会資料」(照明学会研究会資料:AR-89-19) (1989)第24〜31頁
刊行物12(甲第4号証)
App1ied Surface Science 54(1992)p.410-423
4-2.刊行物1〜12の記載事項
各刊行物にはそれぞれ、次の事項についての記載がある。
(1)刊行物1
基体の表面に洗浄等の処理を施すために、キセノンガスが充填された高出力紫放線放射器により製造された160〜190nmの波長を有する紫外線(最大波長172nm)を、空気又は酸素を供給される反応装置内に載置された基体に照射してオゾン及び酸素原子を生成させて、基体表面を処理すること(第3欄【0011】、【0012】参照)
(2)刊行物2
▲1▼キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光は160〜190nmの波長の光からなり最大波長172nmであること、このランプはUV効率が5〜10%と高く、多くの光物理的及び光化学的応用があること及びその波長はそのオゾン又は原子状酸素の製造に適していること(第366頁第22行〜第367頁第3行、Figure2、第372頁第12〜23行参照)。
▲2▼二重管構造の石英製放電管の内壁と外壁とに電極を配置して放電させて紫外光を放射させる誘電体バリヤ放電ランプの構成(Fig.1参照)
(3)刊行物3
二重管構造の石英製放電管の内壁と外壁とに電極を配置して放電させて紫外光を放射させる誘電体バリヤ放電ランプの構成(FIG.5参照)
(4)刊行物4
UV/O3クリーニングに関し、低圧水銀灯からの184.9nmの光によってO3を発生させ、これを同じ低圧水銀灯から放射される253.7nmの光によって分解して強力な酸化剤である原子状酸素を生成させ、これを被処理物の表面に作用させることによりその表面を洗浄すること(第38頁左欄第13行〜第39頁左欄第10行参照)
(5)刊行物5
▲1▼低圧水銀灯からの184.9nmの光によってO3を発生させ、これを同じ低圧水銀灯から放射される253.7nmの光によって分解して強力な酸化剤である原子状酸素を生成させ、これを被処理物の表面に作用させることによりその表面を洗浄すること(第10頁右欄第5行〜第12頁右欄第10行参照)
▲2▼「光洗浄法の原理を要約すれば、紫外放射による有機物の化学結合の切断効果と、紫外放射により発生したオゾンと励起酸素原子の強力な酸化効果の組合わせにより、有機物を分解・気化して除去する方法と言えよう。」(第12頁左欄第11〜15行)
(6)刊行物6
キセノンガスが充填された高出力紫外線放射器により製造された160〜190nmの波長を有する紫外線(最大波長172nm)を基体表面に照射することにより、基体表面の洗浄を行うこと(【0014】参照)
(7)刊行物7
「酸素ガスは図1に示すように波長λが130〜170nm付近の真空紫外領域で光吸収係数が大きい。・・・酸素分子はこの真空紫外光を吸収して、酸素原子ラジカルO(3P)、O(3D)やO(1S)となる。・・・オゾンは200〜300nmの紫外光を吸収して、・・・酸素原子ラジカルをふたたび生成する(Hart1ey帯)。・・・オゾンの励起には紫外輻射量の多い低圧水銀ランプやキセノンランプが良いことになる。よって、酸素ガスに重水素ランプと低圧水銀ランプやキセノンランプを二重に照射することにより、効率的に化学活性の大きい酸素原子ラジカルをたくさん作ることが可能になる。」(「真空紫外及び紫外光照射による活性種の励起」の項)
(8)刊行物8
オゾンが分解して生じる原子状酸素と被処理表面との反応効率を上げるためには、レジスト表面のごく近傍でO3から原子状酸素を生成し、速やかに反応に寄与させなければならないこと、このためO3ガスを被処理物表面近傍に存在させてO3ガス及び被処理物に紫外線を照射すること、具体的には0.5mmの距離としたこと(第42頁左欄第36行〜第43頁右欄第2行参照)
(9)刊行物9
▲1▼水晶又はサファイアプレート1と2によって形成された放電空間と上記プレート1、2の外側表面の網目電極とから構成されるパネル型紫外線高出力放射器(第4頁右上欄第15行〜同頁左下欄第8行、Fig.1参照)
▲2▼二重管構造の水晶管の内壁と外壁とに電極を配置して放電させて紫外光を放射させる誘電体バリヤ放電ランプの構成(第5頁左上欄第15行〜同頁右上欄第8行、Fig.2参照)
(10)刊行物10
二重管構造の石英管の内壁と外壁とに電極を配置して放電させて紫外光を放射させる誘電体バリヤ放電ランプの構成(【0015】、図1参照)
(11)刊行物11
UV/O3方式アッシャにおいて、紫外線照度の増大に伴い被処理物表面における反応速度が増加すること(第28頁図7参照)
(12)刊行物12
キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプからの紫外線により被処理物(具体的には「銅」)の表面を酸化したこと(第419頁左欄第7〜10行)
4-3.対比判断
(1)訂正発明1〜4、11について
訂正発明1〜4、11は、誘電体バリヤ放電ランプを、合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵し誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を上記光取り出し窓を通して酸素を含む流体に照射させる点及びこの容器内に窒素ガスを流す点のそれぞれを構成要件としており、この構成の点により、窒素を流すことで電極を保護することができると共に、容器内において真空紫外光の吸収なくすことでき、さらには、高価な合成ガラス板を多数使用することなく、安価に光源装置を得ることができるという効果を奏するものである。
これに対して、刊行物1〜12には、誘電体バリヤ放電ランプ等の紫外線放電ランプの構成又は紫外線放電ランプからの紫外光を酸素を含む流体に照射させて、光化学反応によりオゾン、活性酸化性分解物を生成せしめて、このオゾン、活性酸化性分解物により被処理物表面を酸化処理すること等については記載があるが、紫外線放電ランプ装置の具体的な構成として、紫外線放電ランプを合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵して誘電体バリヤ放電ランプから放射される紫外光を該光取り出し窓を通して、酸素を含む流体に照射させる点及びこの容器内に窒素ガスを流す点のいずれについても記載及び示唆がない。
上記のとおりであるから、刊行物1〜12を相互に勘案しても訂正発明1〜4、11については当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(2)訂正発明5〜10について
訂正発明5〜10は訂正発明1〜4の構成要件について、さらに技術的限定を付加したものであるから、訂正発明1〜4について述べたと同様の理由により、刊行物1〜12に記載のものから当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、訂正発明1〜11は特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。
5.訂正の認否
上記のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の4第2項ただし書及び同条第3項において準用する同法第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.特許異議申立について
1.本件発明
前述のように、本件訂正請求は適法なものであるので、本件請求項に係る発明は、前記「II.1」において摘記したとおりの訂正発明1〜11である。(以下、「訂正発明1〜11」を1本件発明1〜11」という。)
2.特許異議申立の理由の概要
本件請求項1〜11に係る発明は、下記甲第1〜13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1〜11に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである。

甲第1号証(刊行物4)
洗浄設計、1981年秋季号、近代編集社(昭和56 年10月)第37〜46頁
甲第2号証(刊行物5)
洗浄設計、1987年夏季号、近代編集社(昭和62 年8月)第10〜16頁
甲第3号証(刊行物7)
月刊Semicomductor Wor1d 1986.9、第79〜84頁(株式会社プレスジャーナル)
甲第4号証(刊行物12)
App1ied Surface Science 54(1992)p.410-423
甲第5号証(刊行物2)
B.E1iasson他,“OZONE SCTENCE&ENGIEERING”, Vo1ume13,Number3、p.365-373(June1991)
甲第6号証
Heraeus社のパンフレット「Excimer-UV-Sources」(1993年8月)
甲第7号証(刊行物9)
特開平1-144560号公報
甲第8号証(刊行物10)
特開平4-229671号公報
甲第9号証(刊行物8)
日立評論VOL.71,No.5(1989年5月)第39〜45頁
甲第10号証
信越石英株式会社、技術情報、93LT001(1993)
及び
信越石英株式会社、技術情報、「石英ガラスの真空紫外測定」(平成元年10月12日)
甲第11号証
分光研究、第41巻第2号(1992)第81〜92頁
甲第12号証(刊行物11)
「第4回光源物性とその応用研究会資料」(照明学会研究会資料:AR-89-19)(1989)第24〜31頁
甲第13号証
Heraeus社のパンフレット「Heraeus Excimer UV Lamps The Source Of Innovation!」(1994年9月)
3.甲第1〜13号証の記載事項
(1)甲第1〜5、7〜9、12号証の記載事項については既に「II.4-2」で摘記した。
(2)甲第6号証
キセノンガス封入放電管からの紫外光を照射することにより化学的に活性なラジカルを生成すること
(3)甲第10号証
紫外線ランプ用合成シリカガラスの紫外域での「波長(nm)」と「透過率(%)」との関係(「図.透過率データ」参照)
(4)甲第11号証
シリカガラスを600℃・H2雰囲気中でアニールした場合、アニール時間の増加に従い、真空紫外域での吸収が減少すること(Fig.6)
(5)甲第13号証
172nmの波長を有するエキシマUVランプを酸化処理の用途に使用すること(第9頁)
4.対比・判断
(1)本件発明1〜4、11ついて
本件発明1〜4、11が、誘電体バリヤ放電ランプを、合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵し、誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を上記光取り出し窓を通して酸素を含む流体に照射させる点及びこの容器内に窒素ガスを流す点のそれぞれを構成要件としており、この構成の点により、窒素を流すことで電極を保護することができると共に、容器内において真空紫外光の吸収なくすことでき、さらには、高価な合成ガラス板を多数使用することなく、安価に光源装置を得ることができるという効果を奏するものであることは既述したところである。
これに対して、甲第1〜5、7〜9、12号証には、本件発明の前記構成の点については記載及び示唆がないことは既述した。
また、甲第6、10、11、13号証のいずれにも本件発明の前記構成の点についは記載及び示唆がない。
上記のとおりであるから、本件発明1〜4、11については甲第1〜13号証記載のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(2)本件発明5〜10について
本件発明5〜10は、本件発明1〜4の構成要件について、さらに技術的限定を付加したものであるから、本件発明1〜4について述べたと同様の理由により、甲第1〜13号証に記載のものから当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
(3)まとめ
申立人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明1〜11の特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとすることはできない。
IV.むすび
上記のとおりであるから、本件発明1〜11の特許は、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜11の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
被処理物の酸化方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、
この誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を光取り出し窓を通して、酸素を含む流体に照射させて、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触させて酸化させることを特徴とする被処理物の酸化方法。
【請求項2】キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、
この誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を光取り出し窓を通して、酸素を含む流体に照射させて、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触させて酸化させるとともに、前記真空紫外光を当該被処理物にも照射させて、それらの協同作用で当該被処理物を酸化させることを特徴とする被処理物の酸化方法。
【請求項3】キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、
この誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を光取り出し窓を通して、酸素を含む流体に照射させて、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾンおよび活性酸化性分解物に遠紫外光を照射させて活性度を高めて、当該活性度の高まったオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触させて酸化させることを特徴とする被処理物の酸化方法。
【請求項4】キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、
この誘電体バリヤ放電ランプから光取り窓を通して放射される真空紫外光と、遠紫外光光源から放射される遠紫外光とを、酸素を含む流体に同時に照射させて、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触させて酸化させることをを特徴とする被処理物の酸化方法。
【請求項5】被処理物を酸化させる際に、当該被処理物が、真空紫外光もしくは遠紫外光の少なくとも一方の照射を受けていることを特徴とする、
請求項3もしくは請求項4記載の被処理物の酸化方法。
【請求項6】遠紫外光光源は、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、クリプトン沸素エキシマランプ、もしくはクリプトン沸素エキシマレーザであることを特徴とする、
請求項3から請求項5のいずれかに記載の被処理物の酸化方法。
【請求項7】誘電体バリヤ放電ランプと被処理物との間に酸素を含む流体を存在させ、当該ランプから放射される真空紫外光の当該流体に対する透過最短距離をd(cm)として、また、当該流体の酸素分圧をp(気圧)とした時に、
d×pが0.6より小さく規定したことを特徴とする、
請求項2に記載の被処理物の酸化方法。
【請求項8】被処理物を酸化させる際に、
被処理物の表層または当該被処理物の酸化物が気体として当該被処理物から除去されるように酸化することを特徴とする、
請求項1から請求項7のいずれかに記載の被処理物の酸化方法。
【請求項9】誘電体バリヤ放電ランプの形状が、二重円筒型もしくは平面型であることを特徴とする、
請求項1から請求項8のいずれかに記載の被処理物の酸化方法。
【請求項10】誘電体バリヤ放電ランプの真空紫外光の取出部は、合成石英ガラス、サファイヤ、アルカリ金属ハライド、もしくはアルカリ土類金属ハライドのうちから選択された材料から成ることを特徴とする、
請求項9に記載の被処理物の酸化方法。
【請求項11】キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから光取り出し窓を通して放射される真空紫外光と、遠紫外光光源から放射される遠紫外光とを、酸素を含む流体に照射して、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、
このオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触させるとともに前記両紫外光を当該被処理物にも照射させて、
これらの協同作用で当該被処理物を酸化させる際に、当該被処理物の表面における遠紫外光光源との間で光吸収のない時の遠紫外光の放射照度をI(mW/cm2)として、
誘電体バリヤ放電ランプと当該被処理物の間に存在する酸素を含む流体に対して、前記ランプから放射される真空紫外光の透過最短距離をd(cm)、酸素分圧をp(気圧)とした時、
(p×d)/(1+I1/2)の値を、0.33より小さく規定してなることを特徴とする被処理物の酸化方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は被処理物の酸化方法に関し、特に、金属や半導体物質の表面を酸化被膜する方法、あるいは、これら被処理物をドライ精密洗浄等の酸化除去する方法に関する。後者の酸化除去する方法は、具体的には、金属やガラス板の表面に付着した有機化合物の汚れを除去する方法や、半導体製造工程においてシリコンウエハ上の不要になったフォトレジストを除去する方法がある。
【0002】
【従来の技術】近年、金属やガラス等の被処理物を傷めることなく、その表面に付着した有機汚染物質を除去する方法や、その表面に酸化膜の層を形成する方法として、紫外光とオゾンの協同作用を利用した処理技術が開発され実用化に至っている。この技術は、例えば単行本「オゾン利用の新技術」(三▲ゆう▼書房発行、昭和61年11月20日)の第9章(第301頁から第313頁、以下文献甲という。)に、原理、装置、洗浄効果、用途などが詳細に解説されている。それによると、低圧水銀ランプから放射される真空紫外光である185nmの光を、酸素を含む空気、あるいは酸素ガスに照射してオゾンを発生させている。そして、同じ低圧水銀ランプから放射される遠紫外光である254nmの光で前記オゾンの一部を分解し、オゾンの分解ガスである活性酸化性分解物を発生させ、これを被処理物の表面に接触させるものである。そして、有機汚染物の洗浄について言えば、この接触によって被処理物の表面に付着した有機汚染物を酸化させて二酸化炭素や水などの低分子酸化物に変化させ、これを被処理物の表面上から除去することによって、当該被処理物の表面をドライ精密洗浄することができる。
【0003】また、他の方法として、真空紫外光である185nmの光によりオゾンを発生させるのではなく、オゾン発生機で作ったオゾンを直接処理室へ導き、低圧水銀ランプから放射される遠紫外光である254nmの光をオゾンに照射してオゾンを分解し、オゾンと活性酸化性分解物を被処理物の表面に接触させ、当該表面上の有機汚染物を酸化除去するものがある。
【0004】上記の文献甲に記載された技術では、オゾン発生機を使用しない場合は、オゾン濃度が低くなってしまうので、生成するオゾンの絶対量を多くするには185nmの光が透過する距離d(cm)の値と、酸素分圧p(気圧)の値により決まる(d×p)の値をある一定値以上にしなければならなかった。具体的にいえば、酸素分圧pが0.2気圧の時には、距離dは10cm以上が必要となってしまう。このように一般的には(d×p)の値を、2より大きいものとしなければならないのが現実であった。このため、装置が大型化してしまう欠点があると同時に、高濃度のオゾンが得られないため、有機汚染物の酸化除去等では処理スピードが遅かった。また、オゾン発生機を使う場合は、それ自体が高価な装置であり、経済的な問題が発生し、使用できる条件をせばめていた。
【0005】他方、紫外線とオゾンの共同作用の技術は、例えば照明学会研究会資料(LS-90-8〜13)(社団法人 照明学会 1990年10月21日、第36頁から第41頁、以下文献乙という。)に紹介されているように、「光アッシャ」と呼ばれるシリコンウエハ上の不要フォトレジスト除去装置が開発されている。この文献でも文献甲に記載された技術と同様、オゾン発生機を使用する場合と使用しない場合の2通りの方法が説明されているが、通常の厚さ、例えば約1μm程度、を有するフォトレジストの除去を速やかに行うためには、結局は、低圧水銀ランプとオゾン発生機の組み合せが必要になる。従って、装置自体が高値になるとともに、処理工程のコスト増大、設置床面積の増大等の欠点が指摘されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、オゾン発生機を使わなくても高濃度オゾンが得らることができて、このオゾンから活性酸化性分解物を効率良く発生させることにより被処理物の酸化処理をスピードの速いものとすることである。また、処理装置自体も安くで小さくできる処理方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記発明の目的を達成するために、次のような酸化方法を採用する。
(1)キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光取り出し窓を通して、酸素を含む流体に照射し、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触せしめて、当該被処理物を酸化させるものである。
(2)また、上記(1)記載の酸化方法を行いつつ、誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を被処理物体にも直接照射し、それらの協同作用で当該被処理物を酸化させるものである。
(3)また、上記(1)記載の酸化方法により発生したオゾン及び活性酸化性分解物に遠紫外光で照射して、さらに活性酸化性分解物を生成するとともにその活性度を高めた後、被処理物に接触させて当該被処理物を酸化させるものである。
(4)キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから光取り出し窓を通して放射される真空紫外光と、遠紫外光光源から放射される遠紫外光とを、酸素を含む流体に同時に照射し、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触させて、当該被処理物を酸化させるものである。
(5)また、上記(4)記載の酸化方法において、被処理物の物質面における遠紫外光の放射照度をI(mW/cm2)、誘電体バリヤ放電ランプと被処理物との間に存在する酸素を含む流体に対して、前記ランプから放射される真空紫外光の透過最短距離をd(cm)、酸素分圧をp(気圧)とした時、(p×d)/(1+I1/2)の値を0.33より小さく規定する。
【0008】ここで、誘電体バリヤ放電ランプの形状としては、特に、二重円筒型もしくは平面型が使い易いこと、および、真空紫外光の取出部の全部もしくは一部が、合成石英ガラス、サファイヤ、アルカリ金属ハライドもしくはアルカリ土類金属ハライドのうちから選択された材料が良いことが言える。
【0009】また、遠紫外光光源としては、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、クリプトン沸素エキシマランプもしくはクリプトン沸素エキシマレーザが使用でき、更に、被処理物の酸化させる際、当該被処理物は、真空紫外光もしくは遠紫外光の少なくとも一方の照射を受けていると更に良い。
【0010】実用上は、誘電体バリヤ放電ランプと被処理物との間に存在する酸素を含む流体に対して、前記ランプから放射された真空紫外光の透過最短距離をd(cm)、酸素分圧をp(気圧)とした時、処理速度を現状の方法より速くし、より経済効果を高めるために、d×pを0.6より小さく規定するのが良いし、不要フォトレジストの除去の場合であれば、被処理物を酸化せしめる際、当該表面の表層または当該物質の酸化物が気体として当該表面から遊離もしくは除去されるように酸化する。
【0011】
【作用】誘電体バリヤ放電ランプは、放電容器内にエキシマ分子を形成する放電用ガスを充満し、誘電体バリヤ放電(別名オゾナイザ放電あるいは無声放電。電気学会発行改訂新版(放電ハンドブック)平成1年6月再版7刷発行第263ページ参照)によってエキシマ分子を形成せしめ、該エキシマ分子から放射される光を取り出すものである。誘電体には石英ガラス等が使われ、放電路に介在させることによってアーク放電の発生を抑え、また特定の場所に放電が集中することもないので発生する紫外線の密度もほぼ一様なものにできる。また、この誘電体バリヤ放電ランプは、172nmという短波長の紫外線を放射し、しかも線スペクトルに近い単一波長の光を選択的に高効率に発生するという、従来の低圧水銀ランプや高圧アーク放電ランプにはない種々の特徴を有している。誘電体バリア放電ランプについては、例えば、特開平2-7353、アメリカ特許4,837,484等に開示されている。本発明では、放電容器に封入する放電用ガスとして、キセノンを有するガスが適用され、特に、キセノンガス、もしくはキセノンを主成分とするガスが使われる。
【0012】誘電体バリヤ放電ランプは、キセノン原子が励起されてエキシマ状態となり(Xe2*)、このエキシマ状態から再びキセノン原子に解離する時に波長約172nmの光を発生する。この波長172nmの光を酸素に照射すると、従来の低圧水銀ランプから放射される波長185nmの光を酸素に照射する場合よりも高濃度のオゾンが得られることがわかり、さらにまた、この高濃度のオゾンから活性酸化性分解物が得られることも分かった。さらに、当該誘電体バリヤ放電ランプとは別に設けた高圧水銀ランプや低圧水銀ランプから放射される波長254nmの光によっても高濃度オゾンから活性酸化性分解物を得ることができる。
【0013】この原理を化学反応式で記載すると以下のようになる。まず、酸素からオゾンO3を生成する反応は、
O2+hγ1→O3
そして、このオゾンO3から活性酸化性分解物O、O*の生成する反応は、
O3+hγ1→O*+2O
O3+hγ2→O*+O2
となる。いずれも1個のフォトンで1個の反応が生ずる。この式におけるhγ1、hγ2はいずれも特定波長の光を意味して、この場合は酸素、あるいはオゾンが特定波長の光を吸収するという意味である。オゾンO3の生成反応は、波長200nmよりも短い真空紫外域の光を酸素O2が吸収して起こるものである。この吸収の度合いは、一般的に、吸収係数と呼ばれ、波長の変化に応じて連続的に変化するものであるが、この連続的な変化の中でさらに急激な変化を有する。この急激な変化は、波長150nmよりも大きい領域において顕著に起こり、特に、波長172nmの光に対する吸収係数は波長185nmの光の吸収係数より1桁以上大きい。結果として、波長185nmの光を放射するランプを使う場合と、前記ランプと同じ放射光強度の波長172nmの光を放射するランプを使う場合とを比較すると、同じオゾン量を得るのに、前者では20cm程度の透過距離を必要をするのに対し、後者は1cm程度の透過距離を必要とする。言い替えれば、同じ放射光強度でも波長172nmの光を放射するランプによる被処理物の表面上におけるオゾン濃度(ppm)は、紫外光185nmの光を放射するランプによる場合よりも約一桁高いことになる。他方、活性酸化性分解物を生成するためのオゾン分解反応は、真空紫外光や遠紫外光に対するオゾンO3の吸収によるものであるが、このオゾンO3の吸収は、波長172nmや波長185nmの光に比べ、波長250nmの光の方が数倍大きい。さらに、活性酸化性分解物であっても、その活性度はO*の方がOよりも大きいと考えられ、活性酸化性分解物に遠紫外光を照射することによって、活性度の高い分解物を増やすことができるので全体としては活性度を高めることができるといえる。
【0014】つまり、この発明にかかる被処理物の酸化方法は、真空紫外光である波長172nmの、光を効率良く放射する誘電体バリヤ放電ランプを使うという画期的な方法により高い濃度のオゾンO3を生成できることを第1の特徴として、さらに遠紫外光である波長254nmの光を放射するランプを併用することで、高い濃度のオゾンO3から効率良く活性酸化性分解物を生成でき、かつその活性度を高めることを第2の特徴とする。これらの特徴を利用して被処理物の酸化を行うことで従来方法に比べて処理スピードを大きく上げることができる。具体的には、従来の方法である波長185nmの光によりオゾンO3を生成させて、その際に波長254nmの光によるオゾンO3の吸収を併用させた場合に比べて、この発明によれば活性酸化性分解物の濃度(ppm)は1桁前後高いものとでき、従って、被処理物の酸化処理を速くできることになる。ここで被処理物の酸化とは、被処理物自体表面を酸化する場合と当該被処理物に付着した物質を酸化する場合の両方を含む。
【0015】
【実施例】図1はこの発明に使う誘電体バリヤ放電ランプ(以下「ランプ」とも称する)の一例の説明図である。放電容器1は合成石英ガラスで平行平板型の形状をなす。一般に被処理物は板状の物が多いので、この形状は被処理物の表面をバッチ処理するのに都合が良い。寸法形状は、例えば、内寸法で縦10cm×横10cm×高さ0.6cmのものが適用される。網状電極2は、放電容器1の上部と下部に設けられたモネル線からなる。放電容器1の内部にはキセノンガスが充填され、電源3により網状電極2に電力が供給されると、石英ガラスを誘電体として放電容器1の内部において、例えばプラズマ長0.6cmの誘電体バリヤ放電が発生する。石英ガラスは、真空紫外光の取出部も兼ねており、かかる放電によって得られるエキシマ状態から真空紫外光である波長172nmの光が放電容器1の外へ放出される。この発明が対象とする有機汚染物を除去する処理は、一般的には酸素雰囲気中で行われるので、ランプとしては、特に、真空紫外光を良く透過する材料、例えば合成石英ガラス板5で網状電極2を覆うことが好ましく、放電容器1と石英ガラス板5の間にできる空所4には窒素ガスを充填している。放電容器1の内部には、前述のごとく、キセノンガスのみを封入する場合の他に、キセノンガスを主成分としてネオン、アルゴン等を封入したものが用いられる。また、キセノンガスの封入量は、例えば300Torrである。また、網状電極2からは、例えば4V20KHzの電圧が印加される。
【0016】図2は上記誘電体バリヤ放電ランプを使った被処理物の表面洗浄装置を示す。処理室7の内部には、試料台8とその上に載せられた被処理物9、および誘電体バリヤ放電ランプ100(以下、単にランプともいう)を有する。被処理物9は、例えば1cm×1cmのスライドガラスである。さらに、処理室7には、酸素を含むガスの流入口10と排出口11が設けられ、入口10には、例えば、混合室12とバルブ13を介して、窒素ガス源14と酸素ガス源15が連結している。また、排出口11には、必要に応じて、排出されるオゾンのための分解装置を取り付けることができる。ここで窒素ガスを混入する理由は、酸素の分圧Pを変えて、洗浄効率を調整するためである。このような装置によって、被処理物9であるスライドガラスに対して、ランプ100からの波長172nmの光を照射すると、前記した原理により活性酸化性分解物を発生させて、スライドガラスに付着した有機汚染物を酸化除去することができる。かかる活性酸化性分解物の発生量と有機汚染物に対する洗浄効果は、ランプ100の表面とスライドガラス表面との距離d(cm)と処理室7内における酸素の分圧p(気圧)の影響を大きく受けるので、混合室12において酸素の分圧pを調整できるようにするとともに、図示略ではあるが試料台8に上下動機構を有する。この装置では、例えばランプは電気入力20W、ランプ表面における光出力は30mW/cm2で点灯される。
【0017】次に、図2に示した装置を使って、ランプ100の表面とスライドガラス表面との距離d(cm)と、処理室7内における酸素の分圧p(気圧)とを変化させて、有機汚染物の洗浄速度を調べた実験例について紹介する。実験では、ランプ100は前述の電気入力(W)と光出力(mW/cm2)で点灯させた。また、この実験において洗浄時間とは次のように定義した。スライドガラスを、イソプロピルアルコール(以下IPAという。)中で、5分程度の超音波洗浄を施し、水に対する接触角が20度であるものを作成する。そして、かかるスライドガラスに対して、この発明にかかる洗浄方法を実施することによって、その角度が3度になるまでの時間を洗浄時間T(秒)とした。ここで水に対する接触角とは、図12に示すように、スライドガラス上に有する水滴が成す角度θであって、この角度θは、スライドガラス表面の洗浄の度合いと大きな関連性を有する。このことは前述の文献甲の第308〜第313ページに詳しく記載される。ここで設定した3度という接触角度は、前記文献甲の第309頁によると、有機汚染物の層の厚さが0.1分子層以下のものであって、スライドガラス上に数個の分子が島上にところどころ付着している程度のものと推定され、十分に洗浄されたものと見做すことができる。一方、実験前の設定角度である20度とは、有機汚染物の層の厚さは1分子以上のものであり単分子層がスライドガラス上の全面に付着して広がっている程度のものである。
【0018】図3は実験の結果を表したもので、表中の数値は洗浄時間T(秒)を示す。図におけるpとは、処理室7における酸素の分圧であり、処理室7の全圧を1気圧としての、(1-p)N2+pO2におけるp(気圧)を示す。尚、比較のため、誘電体バリヤ放電ランプ100に代えて電気入力450Wの低圧水銀ランプで同様の実験を行ったところ、この低圧水銀ランプに対しては最適条件である、酸素の分圧pが0.2気圧、距離d(cm)が12cmであっても、洗浄時間Tは約200秒もかかった。そして、図3に示されている酸素の分圧pが0.1〜0.6、距離d(cm)が0.5〜5.0の範囲においては洗浄時間Tは200秒以上かかっている。
【0019】一般に、洗浄時間Tが、著しい経済効果を生ずるを考えられているのは60秒以下である。従って、洗浄時間Tが60秒以下の場合を許容洗浄処理時間とすると、図3に示した結果から、距離(d)×酸素の分圧(p)の値が、0.6以下において許容洗浄処理時間内に処理できることが分かる。なお、この実験では、酸素とともに混入するガスをして窒素ガスを用いたが、窒素ガスの代わりに、アルゴンAr,クリプトンKr等の不活性ガスを用いて同様の実験を行っても、洗浄時間Tの値は実験データのバラツキの範囲内で一致した。
【0020】図4は同じく誘電体バリヤ放電ランプを使った被処理物の表面洗浄装置の別の一例を示す。この装置は、誘電体バリヤ放電ランプ100の他にその四辺に沿ってミラーと低圧水銀ランプからなる遠紫外光光源セット101を配置している。従って、スライドガラス9の近傍に流れる酸素ガスは、誘電体バリヤ放電ランプ100からの真空紫外光と遠紫外光光源セット101からの遠紫外光とを受けることになる。更に、同図からは省略したが、誘電体バリヤ放電ランプ100とスライドガラス9との距離dが変えられるように、前記誘電体バリヤ放電ランプは上下動できるような機構に取り付けられている。ここで、誘電体バリヤ放電ランプ100から放射される真空紫外光とは、波長1nm〜200nmの光をいい、遠紫外光光源セット101から放射される遠紫外光とは波長200nm〜370nmの光をいう。
【0021】次に、この装置を使って前述と同様にスライドガラスの洗浄実験を行った。実験は、遠紫外光である波長254nmの光に対するスライドガラス9の面上における照度を70mW/cm2、25mW/cm2、8mW/cm2と変化させて、各々の照度において、距離dと酸素分圧pを変化させて洗浄時間T(秒)を測定した。尚、誘電体バリヤ放電ランプ100からの真空紫外光の放射強度は、真空紫外光の取出部、すなわちランプ100の下部における面で30mW/cm2に設定した。ここにおいて、遠紫外光254nmの照度は、p=0の状態であらかじめ測定しておいた値である。これは酸素分圧Pの値によってスライドガラスに到達する光量が変化するのでかかる状態にて照度を測定している。
【0022】この実験の結果を図5に示す。結果より、洗浄時間Tが許容洗浄処理時間である60秒以下となるためには、(d×p)/(1+I1/2)の値が、0.1より小さいことが良いと導かれる。ここで、Iとは被処理物体表面または当該表面上の物質面における遠紫外光光源とその間で光吸収のない時の遠紫外光の放射強度をいう。しかしながら、この実験では、誘電体バリヤ放電ランプ100を、ランプ表面における照度が30mW/cm2で点灯させているが、現実には自然空冷の場合でも、真空紫外光172nmの照度は300mW/cm2まで上げることができる。そして、本発明者らは、このような高出力で上記ランプを点灯させた場合は、上述の(d×p)/(1+I1/2)の値が、0.33より小さい関係で洗浄処理をした場合でも、十分に許容時間内に処理できることを見出している。
【0023】図6は、請求項1もしくは請求項2に記載された酸化方法のうち、金属表面上に付着した有機汚染物を酸化除去する方法を示す説明図である。すなわち、誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光である172nmの光によりオゾン及び活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾン及び活性酸化性分解物により金属表面上に付着した有機汚染物を酸化除去する方法について説明して、さらに、真空紫外光である172nmの光を直接金属表面に照射することによって、これらの共同作用により有機汚染物を酸化除去する方法についても説明する。まず、装置の構成を説明すると、誘電体バリヤ放電ランプ102は、沸化マグネシウムを表面にコートしたアルミニウムミラー16の中に配置され、ランプ102の下方には被処理物であってその表面に有機汚染物が付着されたアルミニウム板17が配置される。このアルミニウム板17とランプ102との距離は、例えば10cmである。ここで、ランプ102は、図1に示したものを用いることもできるが、後述する二重円筒型のものを用いることもできる。ミラー16内での雰囲気は、ミラー16の上方から空気を流し込み、ランプ102やミラー16等全体を冷却しながらアルミニウム板17に向かうようにする。そして、雰囲気の全圧は約1気圧であり、酸素分圧は、例えば、約0.25気圧である。このような構成によって、キセノンガスを有するランプ102からは真空紫外光である172nmの光が効率良く放射される。そして、流入される空気の中のうち酸素ガスに当該光が照射されることによって光化学反応によってオゾンが発生して、このオゾンにも当該真空紫外光の光が照射されることによって活性酸化性分解物が生成される。そして、活性酸化性分解物がアルミニウム板17に接触することによって、アルミニウム板17上に付着した有機汚染物を良好に洗浄することができる。この実施例においては、ミラー16を使って酸素ガスをアルミニウム板17上に効率良く配送できるとともに、ミラー16による反射光とランプ102からの直射光によってアルミニウム板17を直接照射あるいは、その近傍を照射して光化学反応を起こさせるので洗浄効果を格別に高いものとすることができる。この方法による効果の一例を示すと、ランプ102を電気入力20Wで点灯し、その放射される真空紫外光である172nmの光をアルミニウム板17に40秒照射すると、アルミニウム板の水に対する接触角は、初期には40度であったものが10度まで小さくなった。この程度にまで有機汚染物を洗浄できると、洗浄されたアルミニウム板17の表面に印刷インキを接着させても実用上充分な強度をもつことができる。また、このアルミニウム板17とランプ102との距離dを0.3cmまで近づけると、真空紫外光である172nmの光の照射は13秒程度で同様の効果を得ることができた。
【0024】図7には二重円筒型誘電体バリヤ放電ランプ102の一例を示す。放電容器18は、石英ガラス製の内側管23と外側管24を同軸にした中空円筒状であって、略竹輪型の形状をなす。外側管24は誘電体バリヤ放電ランプの誘電体と光取出部を兼任しており、内側管23の外面には反射膜を兼ねたアルミニウム膜電極19が設けられ、外側管24の外面に光を透過ために金属製の網状電極20が設けられている。放電空間21には放電用ガスキセノンが充填されている。尚、網状電極20には電極酸化防止コート22が設けられており、図示はしていないが、電極19の方にも設けておくと良い。このような形状をなす二重円筒型誘電体バリヤ放電ランプは、一般的に、ロール巻きされたフィルムの表面を処理する場合、フィルムを、ランプ管軸と直交する方向へ移動せしめることによって、その表面を連続作業的に処理するのに都合が良い。尚、かかるランプの一例を示すと、放電容器18の全長約100mm、内側管23の外径D1は6mm、外側管24の内径D2が8mmであり、これらは、例えば、OH基が重量で700ppm以下を含む石英ガラスからなる。
【0025】図8は、請求項3に記載された酸化方法のうち、金属表面上に付着した有機汚染物を酸化除去する方法を示す説明図である。すなわち、誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光である172nmの光によりオゾン及び活性酸化性分解物を生成させて、このオゾン及び活性酸化性分解物に遠紫外光である波長254nmの光を照射して活性酸化性分解物を生成するとともにその活性度を高めて金属表面上の有機汚染物を酸化除去するものである。まず、装置の構成を説明すると、反応ダクト25は、全体的に偏平な形状をしており、その中に、二重円筒型誘電体バリヤ放電ランプ102と低圧水銀ランプ103とが、管軸を平行にして離間して配置する。そして、反応ダクト25には、ランプ102の方から流入した空気がランプ103の方へ流れるように構成され、ランプ103の下流側には被処理洗浄物であるアルミニウム板17が配置される。このアルミニウム板17には、ランプ102及びランプ103からの放射光を直接照射しなくてもよいが、その位置によっては、低圧水銀ランプ103からの遠紫外光を受けるようにすることもできる。ランプ102とランプ103の離間距離は、例えば15cmであり、流入される空気は約1気圧である。また、ランプ102は電気入力20Wで点灯され、ランプ103は電気入力450Wで点灯される。このような構成において、反応ダクト25に流入された空気は、ダクト内の上流側においてランプ102から放射される真空紫外光である波長172nmの光を受ける。そして、酸素が光化学反応を起こすことによって、オゾンを発生させ、このオゾンから活性酸化性分解物も発生する。これらオゾン及び活性酸化性分解物は、下流側に向かって送風されるとともに、ランプ103から放射される遠紫外光である波長254nmに光を受けてより一層活性度が強められる。そして、さらに下流側,に配置されたアルミニウム板17と接触することによって、その表面に付着された有機汚染物を酸化除去することができる。この方法による効果の一例を示すと、約36秒間の処理によって、アルニムウム板17は水に対する接触角が最初40度のものが10度にまで小さくすることができた。そして、この洗浄処理後のアルミニウム板17によれば、その表面に印刷インク等を接着させても、実用上十分な強度を保つことができた。
【0026】図9は、請求項4及び請求項5に記載された酸化方法のうち、金属表面上に付着した有機汚染物を酸化除去する方法を示す説明図である。すなわち、誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光である172nmの光によりオゾン及び活性酸化性分解物を生成させて、このオゾン及び活性酸化性分解物を有機汚染物を有する金属表面に接触させるとともに、同時に、誘電体バリヤ放電ランプとは別に設けた低圧水銀ランプより放射される遠紫外光である254nmの光も金属表面に照射するものである。つまり、誘電体バリヤ放電ランプと低圧水銀ランプの2つのランプを用いて酸化処理するとともに、少なくとも一方は、金属表面への直接の照射を行うものである。まず、装置の構成を説明すると、ミラー16の中には、3つの二重円筒型誘電体バリヤ放電ランプ102を略同一平面状に並べて、さらに2つの低圧水銀ランプ103をランプ102により構成される平面と平行に同じく略同一平面状に並べる。この場合の平行とは、各々のランプの管軸同士が平行になるとを意味して、管軸方向から見た時はランプがジクザグ状となるように配置している。ミラー16には図6で説明たものと同様のものを適用できる。さらに、ランプ102と金属の一例であるアルミニウム板17は、例えば0.3cm程度の距離まで接近させて処理することになるが、アルミニウム板17の表面上では、ランプ103から放射される遠紫外光である254nmの光の照射を受ける所と受けない所が発生して、また、ランプ102から放射される真空紫外光である172nmの光でもアルニミウム板17上では照度ムラが生じてしまう。このため、アルミニウム板17を載せる試料台8は、例えば、振巾3cm,4Hzで動かせる構造になっている。そして、ランプ102、ランプ103の配置やこの振巾の選択によって、アルミニウム板17上での真空紫外光の照度の均一化をはかりながら、遠紫外光の受け方を調節する。このような構成によって、試料台8に載せられたアルミニウム板17は、ランプ102から放射される真空紫外光である172nmの光を受けることによって、空気に含まれる酸素に光化学反応を起こさせて、オゾン及び活性酸化性分解物を発生させる。また、同時に、ランプ103から放射される遠紫外光である254nmの光を受けることによって上記オゾン及び活性酸化性分解物の活性度を高めて、アルミニウム板17上の有機汚染物を酸化除去するとができる。この方法による効果は、ランプ102を各々電気入力20Wで、ランプ103を各々電気入力450Wで点灯すると、約6秒間でアルミニウム板17の水に対する接触角は40度から10度に減少することができた。
【0027】以上説明した実施例はアルミニウム板表面に付着した有機汚染物を酸化除去するものであるが、次に、図9に示した装置とほぼ同様の構成の装置を使って、半導体ウエハ上に塗布されたフォトレジストを酸化除去する、いわゆる光アッシングについて説明する。この場合、試料台8には、ヒータ等の加熱機構や冷却水を流すパイプを装備することにより、半導体ウエハの温度を所定の温度まで加熱させることができ、前述と同様にランプ102、及びランプ103からの放射光をフォトレジストに照射することによってアッシング処理をすることができる。一例をあげれば、半導体ウエハは200℃に加熱して、フォトレジスト(東京応化工業(株)製型式OMR83)を1μmの厚さで塗布した半導体ウエハを処理すると、1秒間に15nmのスピードにてアッシングすることができた。
【0028】次に、図9に示した装置とほぼ同様の装置を使って、半導体ウエハの表面上に酸化シリコンの膜を形成する方法について説明する。被処理物としてシリコンウエハを試料台8に載せて、誘電体バリヤ放電ランプ102を5本、低圧水銀ランプ103を4本、前述のごとくジグザク状に配置する。そして、試料台8の温度を、例えば400℃に加熱しておき、5Hzで往復運動をさせると、シリコンウエハ上に厚さ10nmの酸化シリコンの緻密な膜を作ることができ、この処理は2時間で達成することができた。前述までの有機汚染物や不要フォトレジストを除去する装置は、図示略ではあるが、かかる排気物を吹き飛ばすような機構が設けられているのに対して、本実施例の酸化膜の形成にかかる装置は、ランプと被処理物との間に存在する流体を安定的に保持制御する機構が有する点で異なる。かかる機構も図9においては省略している。
【0029】一般には、シリコンウエハの表面に薄い酸化膜を形成することは、半導体装置製造における絶縁層形成工程で普通に行われている。しかし、従来の方法は、高湿電気炉のより、例えば850℃〜1000℃程度の高温加熱で行われるのに対し、本発明の酸化被膜形成方法は、これに比べて、著しく低い湿度、低い温度で良質な酸化被膜を得ることができる。
【0030】次に、図10にシリコンウエハ上に酸化被膜を形成する方法について、他の実施例を説明する。誘電体バリヤ放電ランプの放電容器1は石英ガラスよりなり、その内部に放電空間21を有する平面型のものである。放電容器21には真空紫外光である172nmの光を発生させるためにキセノンガスが充填されている。放電容器21の外側には電極2を有するが放射光を取り出すのが一方向のみであるため、一方の電極にはミラーを兼ねたアルミニウム膜6が形成され、他方は網状電極であるので効率良く放射光を取り出すことができる。さらに、本装置を酸素雰囲気中で使用するので石英ガラスには酸化防止コート22が設けられている。試料台28は石英ガラスから成り、シリコンウエハ26がその台28の上に載せられて、さらにその内部には加熱用のヒータ27が組み込まれている。このような誘電体バリヤ放電ランプの一例を挙げれば、放電容器1は厚さ1mmの石英ガラスで、内寸法20cm×20cm×0.6cmで形成される。このような装置において、大気中でランプ1とシリコンウエハ26との距離d(cm)を0.2に設定し、ランプから放射される波長172nmの光の強度がランプ表面で約100mW/cm2になるように電源3でランプを点灯制御する。この場合、ランプの電気入力は、例えば400Wである。そして、ヒータ27の制御温度を変えて、シリコンウエハ26上に、厚さ10nmの緻密な酸化シリコンの膜の生成テストをした。尚、ヒータ27の制御温度は最高600℃まで昇湿できるようになっている。
【0031】結果は、ヒータ27によりシリコンウエハ26を約450℃に保った場合には、約1.5時間で厚さ10nmの酸化シリコンを作ることができ、また、同500℃に保った場合は約40分で同じ酸化シリコンを作ることができる。このことは、従来の高温酸化による方法よりも、著しく低い温度で十分な酸化シリコンの絶縁膜が得られることが分かった。
【0032】ここにおいて、キセノンガスが封入された誘電体バリヤ放電ランプについて更に詳しく説明する。誘電体バリヤ放電ランプは、波長200nmより短い波長の真空紫外光を放射するものであるから、放電容器は当該波長域の光を透過する誘電体で作られなければならないが、当然に、用途によっては、当該光の取出部がランプの全方向である場合もあれば、特定の一方向である場合もある。したがって、少なくとも当該光の取出部が前記波長域の光を透過する構造になっていれば良く、かつその取出部の材料としては、合成石英ガラスに限定されることなく、サファイヤ、アルカリ金属ハライドやアルカリ土類金属ハライドの単結晶でも良い。そして、放電容器の当該紫外光を取り出さない部分には、反射コートを設けたり、反射コートを兼ねた電極を設けても良い。
【0033】同様に、波長200nmから波長300nmの遠紫外光を放射する遠紫外光光源としては、前記の低圧水銀ランプに限らず、これらの波長域の光を放射する高圧水銀ランプ、波長240nmから波長255nmを放射するクリプトン沸素エキシマランプ、クリプトン沸素エキシマレーザが利用できる。
【0034】図11には、誘電体バリア放電ランプを含むランプ装置について示す。このランプ装置は、図1における平行平板型の放電容器1の替わりに、図7に示した誘電体バリヤ放電ランプと類似の構造の二重円筒型誘電体バリヤ放電ランプ33a、33b、33cを内蔵して、図1における合成石英ガラスの板5で覆う替わりに、光反射板を兼ねた金属容器30に合成石英ガラスからなる光取り出し窓31を設けた平板型容器34を設置した構成である。二重円筒型誘電体バリヤ放電ランプ33a、33b、33cは、例えば、外径は26.6mm、放電ギャップ長は5mm、全長は300mmである。放電用ガスは約40kPaのキセノンである。このランプ装置において誘電体バリヤ放電を行ったところ、波長172nmに中心を有する真空紫外光が高効率で放出された。また、空所4に1分間あたり数リットルの窒素ガスを流すことにより、電極20a、20b、20cの保護に加えて、空所4における真空紫外光の吸収が無くなるので、実質的な平板状光源装置が得られた。この実施例においては、高価な合成石英ガラス板を多数使用することがないので、安価に平板状光源装置が得られるという利点が生じる。
【0035】尚、本発明の被処理物の酸化方法は、金属の表面を酸化処理するものとして、アルミニウムのアルマイト処理、ステンレスへの印刷の前処理としての表面酸化処理、さらにはガラス板に蒸着した金属酸化物の透明度を向上させるための酸化処理にも利用できる。
【0036】また、ガラスの表面の洗浄方法としては、液晶表示板のガラスへの配電極、配線を行う前処理をするための精密洗浄に利用できる。また、この発明の技術は金の熱圧着強度を向上させる場合にも役立つ。
【0037】
【発明の効果】この発明にかかる被処理物の酸化方法は、波長172nmの光である真空紫外光を放射する誘電体バリヤ放電ランプを使うことにより、被処理物の表面近傍に、高い濃度のオゾンと活性酸化性分解物が生ずることができるので、被処理物を酸化するスピードが著しく速くなる。また、オゾンおよび活性酸化性分解物に対して波長254nmの光である遠紫外光を照射することによって、活性酸化性分解物をより効率良く発生させて、かつ、その活性度を高めることができるので、結果として被処理物の酸化処理が速く行われて、かつ、処理装置が小型に設計できる。更にオゾン発生機を使っていないので安価な処理方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に使用する平面型誘電体バリヤ放電ランプの一例の説明図である。
【図2】スライドガラスの表面洗浄方法の説明図である。
【図3】表面洗浄結果のデータの表である。
【図4】スライドガラスの他の表面洗浄方法の説明図である。
【図5】他の表面洗浄結果のデータの表である。
【図6】金属表面上の有機汚染物の酸化除去方法の実施例の説明図である。
【図7】本発明に使用する二重円筒型誘電体バリヤ放電ランプの一例の説明図である。
【図8】金属表面上の有機汚染物の酸化除去方法の他の実施例の説明図である。
【図9】金属表面上の有機汚染物の酸化除去方法の他の実施例の説明図である。
【図10】シリコンウエハの低温酸化方法の説明図である。
【図11】二重円筒型誘電体バリヤ放電ランプを使った光源装置の説明図である。
【図12】スライドガラス上における水滴の状態を示す図である。
【符号の説明】
1 放電容器
2 網状電極
3 電源
7 処理室
8 試料台
9 スライドガラス
10 酸化性流体入口
11 酸化性流体排出口
12 混合室
13 バルブ
16 ミラー
17 アルミニウム板
18 放電容器
19 電極
20 電極
21 放電空間
22 酸化防止コート
25 反応容器
100 誘電体バリヤ放電ランプ
101 遠紫外光光源セット
102 誘電体バリヤ放電ランプ
103 低圧水銀ランプ
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第2705023号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち次のとおりに訂正する。
(1)特許請求の範囲の減縮を目的として次の訂正を行う。
▲1▼ 請求項1〜3中の「キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を」を「キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を光取り出し窓を通して、」と訂正する。
▲2▼ 請求項4、11中の「キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光と、」を「キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから光取り出し窓を通して放射される真空紫外光と、」と訂正する。
(2)明りょうでない記載の釈明を目的として次の訂正を行う。
▲1▼ 明細書【0007】中の「(1)キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を」を「キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を光取り出し窓を通して、」と訂正する。
▲2▼ 明細書【0007】中の「(4)キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光と、」を「キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから光取り出し窓を通して放射される真空紫外光と、」と訂正する。
異議決定日 1999-08-31 
出願番号 特願平6-291999
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 前田 仁志  
特許庁審判長 酒井 正己
特許庁審判官 新居田 知生
後藤 圭次
登録日 1997-10-09 
登録番号 特許第2705023号(P2705023)
権利者 ウシオ電機株式会社
発明の名称 被処理物の酸化方法  

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