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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B66D
管理番号 1007434
異議申立番号 異議1998-72819  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-03-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-05-29 
確定日 1999-06-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2711443号「ウインチ装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2711443号の請求項1に係る特許を取り消す。 同請求項2ないし5に係る特許を維持する。 
理由 (1)手続の経緯
特許第2711442号の請求項1乃至5に係る発明は、平成7年9月18日に特許出願され、平成9年10月31日にその特許の設定登録がなされ、その後、株式会社三井三池製作所より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年1月4日に訂正請求がなされたものである。
(2)訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
特許権者が求めていている訂正の内容は、以下のabcのとおりである。
a 請求項1を削除し、請求項2〜5を繰上げて、請求項1〜4と訂正する。
b 発明の詳細な説明中の課題を解決するための手段を、特許請求の範囲の訂正に伴い、訂正する。
c 特許明細書段落【0012】の「すなわち溝なし部の区間が長すぎると、空間が大きすぎて上からロープが食い込みやすく、逆にαが大きく溝なし部の区間が短すぎると、空間は小さくなるがロープの角度変化が大きすぎて滑らかに曲らなくなる。」を「すなわち溝なし部の区間が長すぎると、ロープが食い込みにくい。逆にαが大きく溝なし部の区間が短すぎると、ロープの角度変化が大きすぎて滑らかに曲らなくなる。」に訂正する。
イ.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無・変更の存否
上記aの訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、訂正後の特許請求の範囲に記載された発明が出願の際独立して特許を受けることができるものである。
上記bの訂正は、特許請求の範囲の訂正に伴うもので、明りょうでない記載の釈明の該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
上記cの訂正は、明りょうでない記載の釈明及び誤記の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
ウ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2-4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
(3)特許異議の申立てについての判断
訂正明細書の請求項1に係る発明は、訂正の結果登録時の請求項2に係る発明となったので、訂正明細書の請求項1に係る発明を特許異議の申立ての理由では、取消すことはできない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ウインチ装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ドラムの巻胴面にロープ案内の溝を円周方向に複数並行して設けると共に、巻胴面の円周の所定区間に前記溝のない溝なし部をドラムの回転軸と平行方向全長に渡って設け、ドラム側壁に接した巻胴面端の溝なし部と溝部との境界またはその境界に近い溝なし部から境界に接した溝部の方に向けてロープの巻取りを開始するようにし、前記ドラムを同軸に巻取り部と繰出し部の二つの巻胴面を備えた構造とし、巻取り部では巻胴面端の溝なし部と溝部との境界またはその境界に近い溝なし部からその境界に接した溝部に向けてロープの巻取りを開始すると共に、繰出し部では巻胴面端で溝なし部と溝部の前記巻取り部とは反対側の境界またはこの境界に近い溝なし部からこの境界に接した溝部に向けて巻取り部とは反対方向にロープの巻取りを開始するようにし、更に溝なし部を巻胴面の円周の所定の一区間に設け、巻胴面端のロープの巻取り開始位置にロープ端を巻胴面からドラムの溝なし部内側部分へ向け斜めに引き込む孔を設け、孔に通したロープ端を巻胴面側からねじ込んだ止めネジで締付けて系止し、それぞれの巻胴面にロープを巻き方向を変えて巻付けて、ドラムの回転でロープを同時に巻取り・繰出しするようにしたウインチ装置。
【請求項2】 ドラムの巻胴面にロープ案内の溝を円周方向に複数平行して設けると共に、巻胴面の円周の所定区間に前記溝のない溝なし部をドラムの回転軸と平行方向全長に渡って設け、ドラム側壁に接した巻胴面端の溝なし部と溝部との境界またはその境界に近い溝なし部から境界に接した溝部の方に向けてロープの巻取りを開始するようにし、前記溝なし部を巻胴面の円周の180°離れた二つの所定区間に設け、二つの溝なし部で隔てられた二つの溝部の一方の溝を他方の溝に対し溝ピッチを溝幅半分ずつずらして設けるようにしたウインチ装置。
【請求項3】 ドラムの巻胴面にロープ案内の溝を円周方向に複数平行して設けると共に、巻胴面の円周の所定区間に前記溝のない溝なし部をドラムの回転軸と平行方向全長に渡って設け、ドラム側壁に接した巻胴面端の溝なし部と溝部との境界またはその境界に近い溝なし部から境界に接した溝部のほうに向けてロープの巻取りを開始するようにし、前記ドラムを同軸に巻取り部と繰り出し部の二つの巻胴面を備えた構造とし、巻取り部では巻胴面端の溝なし部と溝部との境界またはその境界に近い溝なし部からその溶解に接した溝部に向けてロープの巻取りを開始するとともに、繰出し部では巻胴面端で溝なし部と溝部の前記巻取り部とは反対側の境界またはこの境界に近い溝なし部からこの境界に接した溝部に向けて巻取り部とは反対方向にロープの巻取りを開始するようにし、溝なし部を巻胴面の180°離れた二つの所定区間に設け、二つの溝なし部で隔てられた二つの溝部の一方の溝を他方の溝に対し溝ピッチを溝幅半分ずつずらして設けるようにし、それぞれの巻胴面にロープを巻き方向を変えて巻き付けて、ドラムの回転でロープを同時に巻取り・繰出しするようにしたウインチ装置。
【請求項4】 前記溝なし部を溝部の溝底の径よりドラム内側に向け凹んだ形状とした、請求項1〜3に記載のウインチ装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、土木建設工事や荷役作業、エレベータなどに用いられ、ワイヤやロープなどを乱巻を起こさず整然と多層に巻取りまた繰出しを行えるウインチ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ワイヤやロープなど(これらを本明細書の中ではロープと総称する)の巻取り・繰出しを行うウインチ装置においては、ドラムの巻胴面に巻取られるロープの一番始めの巻取層(一層目)が整然と密に巻いた状態でない、いわゆる乱巻の状態であると、二層、三層と多層に巻取りを行っていった場合、巻取ったロープとロープの間に生じた空間に、上の層のロープが、ロープに加わる緊張力により食い込んで、巻取層が崩れさらにひどい乱巻状態になるという問題があった。この状態では、ロープに過大な摩擦力が加わるため、ロープが損傷しやすいばかりでなく、巻取り・繰出しもスムーズに行えない場合があった。従来のウインチ装置としては、ドラムの巻胴面が溝なしの単純な円筒面のものや、巻胴面にロープを整列に巻取るためのらせん状のロープ案内の溝を設けたものがある。上記の乱巻の問題に対応するために、前者の巻胴面が単純な円筒面のものでは、一層目が整然と巻取られるよう手作業でロープを整列させる必要があった。そして、ロープを繰出す場合、この一層目のロープを繰出してしまうと再度手作業で整列させなければならないため、普段は一層目は繰出さず残して、二層目までしかロープを繰出さないようにしていた。こうした手作業の手間や一層目に巻いた分のロープの無駄を改善するために、ロープを自動的に整列させて巻取れるようにするロープ案内機構が付加されることもあったが、その分だけコスト高となっていた。また、後者のらせん溝付のものでは、ドラム回転のみで一層目から整列に巻取りが行えると共にロープの端まで繰出すことができるが、らせん溝の構造上、巻胴面端にロープの巻付かない部分が空間として残り、二層目以降を巻取る際にロープが食い込みやすく、乱巻の原因となることがあった。また、巻胴面に連続したらせん溝を形成するため、構造が複雑化してコストが高くなるという問題点もあった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、上記した問題点を解消し、ロープを巻胴面に一層目から整然かつ密に空間を残さず巻取ることができ、人手を要さず容易に乱巻を起こさず巻取りおよび繰出しが行え、また、シンプルな構造で安価な、ウインチ装置を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) ドラムの巻胴面にロープ案内の溝を円周方向に複数並行して設けると共に、巻胴面の円周の所定区間に前記溝のない溝なし部をドラムの回転軸と平行方向全長に渡って設け、ドラム側壁に接した巻胴面端の溝なし部と溝部との境界またはその境界に近い溝なし部から境界に接した溝部の方に向けてロープの巻取りを開始するようにし、前記ドラムを同軸に巻取り部と繰出し部の二つの巻胴面を備えた構造とし、巻取り部では巻胴面端の溝なし部と溝部との境界またはその境界に近い溝なし部からその境界に接した溝部に向けてロープの巻取りを開始すると共に、繰出し部では巻胴面端で溝なし部と溝部の前記巻取り部とは反対側の境界またはこの境界に近い溝なし部からこの境界に接した溝部に向けて巻取り部とは反対方向にロープの巻取りを開始するようにし、更に溝なし部を巻胴面の円周の所定の一区間に設け、巻胴面端のロープの巻取り開始位置にロープ端を巻胴面からドラムの溝なし部内側部分へ向け斜めに引き込む孔を設け、孔に通したロープ端を巻胴面側からねじ込んだ止めねじで締付けて係止し、それぞれの巻胴面にロープを巻き方向を変えて巻付けて、ドラムの回転でロープを同時に巻取り・繰出しするようにしたウインチ装置
2) ドラムの巻胴面にロープ案内の溝を円周方向に複数平行しても受けると共に、巻胴面の円周の所定区間に前記溝のない溝なし部をドラムの回転軸と平行方向全長に渡って設け、ドラム側壁に接した巻胴面端の溝なし部と溝部との境界またはその境界に近い溝なし部から境界に接した溝部のほうに向けてロープの巻取りを開始するようにし、前記溝なし部を巻胴面の円周の180°離れた二つの所定区間に設け、二つの溝なし部で隔てられた二つの溝部の一方の溝を他方の溝に対し溝ピッチを溝幅半分ずつずらして設けるようにしたウインチ装置
3) ドラムの巻胴面にロープ案内の溝を円周方向に複数平行しても受けると共に、巻胴面の円周の所定区間に前記溝のない溝なし部をドラムの回転軸と平行方向全長に渡って設け、ドラム側壁に接した巻胴面端の溝なし部と溝部との境界またはその境界に近い溝なし部から境界に接した溝部のほうに向けてロープの巻取りを開始するようにし、前記ドラムを同軸に巻取り部と繰出し部の二つの巻胴面を備えた構造とし、巻取り部では巻胴面端の溝なし部と溝部との境界またはその境界に近い溝なし部からその境界に接した溝部に向けてロープの巻取りを開始すると共に、繰出し部では巻胴面端で溝なし部と溝部の前記巻取り部とは反対側の境界またはこの境界に近い溝なし部からこの境界に接した溝部に向けて巻取り部とは反対方向にロープの巻取りを開始するようにし、溝なし部を巻胴面の180°離れた二つの所定区間に設け、二つの溝なし部で隔てられた二つの溝部の一方の溝を他方の溝に対し溝ピッチを溝幅半分ずつずらして設けるようにしたそれぞれの巻胴面にロープを巻き方向を変えて巻付けて、ドラムの回転でロープを同時に巻取り・繰出しするようにしたウインチ装置
4) 前記溝なし部を溝部の溝底の径よりドラム内側に向け凹んだ形状とした、前記1)〜3)に記載のウインチ装置にある。
【0005】
本発明において巻取り・繰出すロープには、一般のロープの他、ワイヤや、ワイヤを撚ったワイヤロープ、ケーブルなどを含み、いずれを使用してもかまわない。
【0006】
【作用】
本発明のウインチ装置では、ドラムを回転させると、ドラムに一端を係止したロープが巻胴面端の溝なし部と溝部との境界またはこの境界に近い溝なし部から巻胴面に巻付き始め、溝に従って巻取られていく。巻胴面が一周すると、ロープは始めの溝なし部へ達し、境界付近でロープの巻始め部分に重なった際に横にずれて隣の溝に移動する。溝なし部はこのロープの横移動を規制するものがないので、この位置でロープの巻取られる溝をスムーズに変えてロープを整列に巻取っていく。二周目以降は、溝なし部において一周前に巻取ったロープに沿って新しく巻取られるロープが横に移動し、隣の溝に新たに巻取られていく。これにより人手を要さずドラムの回転のみで容易に整然と巻取ることができる。また、ロープは巻胴面端から溝に従って密に巻き取られるので、巻胴面上にほとんど空間が生じず、多層にロープを巻取ってもロープの食い込みがなく乱れ巻も起こらない。ロープを巻胴面の他端まで巻取ると、ロープは溝なし部において一周前に巻取ったロープの上に重なり、それから横にずれて一周前に巻取ったロープともう一周前に巻取ったロープとの間に生じた凹み上に移動し、二層目の巻始めとなる。これ以降は一層目と同様ちょうど溝なし部の位置で前に巻取ったロープに沿って新しく巻取られるロープが横に移動し、隣のロープ間の凹み上に新たに巻取られていく。この後は同様の巻取りが繰返され、三層目以降さらに多層に巻胴面にロープを整然と巻取っていく。
逆にロープをドラムの回転と共に繰出す場合でも、一層目からドラム回転のみで整然と巻取ることが可能なことから、最後までロープを繰出すことができ、再度巻取る場合も容易である。
【0007】
ドラムが巻取り部と繰出し部の二つの巻胴面をもつ構成では、始めに繰出し部になる方の巻胴面に、ロープを溝およびロープ間凹みに合わせて整然と多層に巻取っておく。ロープは溝なし部で位置をずらしながら密に巻取られた状態であり、繰出しがスムーズに行える。負荷物の引き上げあるいは引き寄せに必要十分なロープ長さを残して繰出し部に巻取ったら、ロープの反対側の端を繰出し部における巻き方向と逆向きに巻付くよう巻取り部に係止する。この状態でドラムを回転させ、二つの巻胴面で同時にロープの巻取りおよび繰出しを行って負荷物を動かす。巻取り部である巻胴面に一定巻数ロープを巻取ってからドラムを逆回転させると、巻取りと繰出しが逆に行え、負荷物を逆方向に動かせる。二つの巻胴面上で、巻取りまたは繰出しは常に整然かつスムーズに行うことができる。
【0008】
溝なし部を巻胴面の所定の一区間に設け、この溝なし部の内側部分でロープ端を係止させる構成では、ロープの一端を巻胴面端の溝なし部と溝部の境界の孔からドラム内へ入れ、溝なし部の内側部分で巻胴面からの止めねじの締付けにより外れないよう係止する。ロープはドラムを回転させると、孔から巻胴面への巻付きを開始し、溝に従って巻取られていく。巻胴面が一周すると、ロープは溝部から溝なし部へ達し、溝なし部の境界の孔から突出した状態のロープの巻始めに重なった際に横にずれて隣の溝に移動する。これ以降は、前記の場合と同様溝なし部の位置で前に巻取ったロープに沿って新しく巻取られるロープが横に移動し、一層目では隣の溝に、二層目より後では隣のロープ間の凹み上に整然と密に巻取りが繰返される。
【0009】
溝なし部を巻胴面の180゜離れた円周の所定の二つの区間に設けると共に、溝部の一方の溝ピッチをずらした構成では、巻胴面端の溝なし部と溝部の境界またはその境界に近い溝なし部の位置からロープを巻取り始め、巻胴面が半周すると、ロープはもう一つの溝なし部に達する。その先の溝部は、ロープがこれまで案内されてきた溝部に対し溝ピッチが溝幅半分ずつずれているので、ロープがここに達したときにはちょうど溝と溝の間に載り、それから横にずれて溝幅半分だけ移動して新しい溝に収まる形となる。ロープが、巻胴面端から溝幅半分だけ離れたこの溝に案内された状態で、巻胴面がさらに半周して合計一周すると、ロープが始めの溝なし部に達し、この溝なし部と一番始めに案内されていた溝との境界付近のロープ巻始め部分に重なって横にずれ、隣の溝に移動する。この溝は、これまで案内されてきた溝から溝幅半分だけずれており、ロープは巻胴面半周で溝幅半分だけ横に移動し、巻胴面一周で溝一つ分移動したことになる。二周目以降は、溝に案内されるロープが、各溝なし部において前に巻取ったロープに沿って横に移動し、それぞれ溝幅半分ずれた溝に新たに巻取られていく。ロープを巻胴面の他端まで巻取ると、ロープは溝なし部において溝幅半分ずつずれて巻取られている一周前のロープに半分重なった状態で巻胴面端に沿って上層に巻取られ、二層目の巻始めとなる。次の溝なし部で一周前に巻取ったロープに重なり、それから横にずれて一周前に巻取ったロープともう一周前に巻取ったロープとの間に生じた凹み上に移動し、凹みに従って巻取られる。これ以降は一層目と同様ロープが、各溝なし部において前に巻取ったロープに沿って横に溝半分ずれたロープ間凹み上に新たに巻取られていき、ロープが巻胴面端に達すると、前記同様一周前のロープに半分重なりながら層を増していく。こうしてドラムの回転のみでロープを各層同じ状態として密に整然と巻取ることができる。
【0010】
溝なし部をドラム内側に向け凹んだ形状とした構成では、一層目に巻取られるロープが溝なし部において前に巻取ったロープに沿って横に移動する際、凹み形状によりロープと巻胴面との接触が少なく、摩擦が減ってスムーズな巻取りが可能となる。また、巻取った状態において、溝なし部では二層目以降ロープが下層のロープと交差する形になる分、他の巻胴面部分より盛上がった状態となっていたのを、凹み形状に伴ってロープ位置が下がることで盛上がりを小さくでき、盛上がりが原因で多層に巻くほどロープに無理な力が加わるのを防げる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のウインチ装置で、ドラムの巻胴面に設けるロープ案内用の溝は、ウインチ装置の使用条件や負荷に応じて決められたロープ径に合わせて、溝幅および溝深さを設定して用いるのが望ましい。
【0012】
巻胴面上の溝をなくした溝なし部は、巻胴面の円周の所定区間にドラムの回転軸と平行方向全長に渡って設ける。通常、巻胴面の両端にはロープの巻付かない空間が生じるが、上層のロープがここに食い込んで乱巻になるのを防ぐため、この空間はなるべく小さくするのがよい。この空間の大きさは、ロープ径が一定ならば、ロープが溝なし部において溝から溝へ移る角度αまたは溝なし部の区間の長さの値で決まる。ここでαがあまりに小さい、すなわち溝なし部の区間が長すぎると、ロープが食い込みにくい。逆にαが大きく溝なし部の区間が短すぎると、ロープの角度変化が大きすぎて滑らかに曲がらなくなる。ロープ径とロープの曲がり易さに基づいて適切なαまたは溝なし部区間長さを設定し、巻胴面の径に応じた溝なし部の円周区間(円周角θで表される)を決めるようにする。
【0013】
溝なし部を巻胴面に複数に分けて設ける場合は、複数の溝なし部を巻胴面円周に同じ区間幅で等分の間隔に配置するのが望ましい。また、溝なし部においてロープの巻取り位置を動かしていくので、複数の溝なし部で分割された溝部は、溝なし部の数に合わせて適宜溝ピッチをずらして、巻動面が一周した時にロープがちょうど一本分横に移動できるように調節する。
【0014】
溝なし部は巻動面から溝をなくした単純な円筒面状、またはこの部分にあまりロープが接触しないようにドラム内側に向けて凹ませた形状の、いずれでもよい。
【0015】
【実施例】
本発明の実施例1,2,3を図面に基づいて説明する。実施例1はドラム巻胴面に溝なし部を一区間設け、ドラムの溝なし部内側にロープ端を係止するようにしたウインチ装置の例、実施例2はドラム巻胴面に溝なし部を180゜離れた二区間で設け、一方の溝部の溝ピッチを溝幅半分ずつずらし、ドラム側面にロープ端を係止するようにした例、実施例3は巻取り部と繰出し部の二つの巻胴面を備えたドラムを設けた例である。
図1は実施例1を示す斜視図、図2は実施例1のドラムを示す平面図、図3は実施例1のドラムを示す一部切欠した左側面図、図4は実施例1によるドラムへの巻取り状態を示す説明図、図5は実施例1のドラムの他の例を示す一部切欠した左側面図、図6は実施例2のドラムを示す平面図、図7は実施例2のドラムを示す一部切欠した左側面図、図8は実施例2によるドラムへの巻取り状態を示す説明図、図9は実施例3を示す斜視図である。
【0016】
実施例1のウインチ装置1は、直径12.5mmのロープ9を巻付けるベッド2上の回動自在なドラム3の巻胴面4(直径345mm)に、巻胴面4円周方向に複数並行させたロープ9用溝5を設けている。この溝5は、巻胴面4に山部5aを13mm間隔で設けることで、その間に形成される。巻胴面4には、山部5aを除去して溝5をなくした溝なし部4aを巻胴面4円周の角度θの区間にドラムの回転軸と平行方向全長に渡って設ける。この溝なし部4aにおいて、ロープ9の溝から溝へ移る角度αが、側壁3aに接する巻胴面4両端に生じるロープ9の巻付かない空間4dをなるべく小さくすると共にロープ9を無理なく溝から溝に移せる、最適なα=4゜という値をとるように、実施例1での溝なし部4aの円周区間の角度θを60゜としている。巻胴面4上の溝5のある溝部4bと溝なし部4aの境界で側壁3aに接した位置には、ロープ端9aをドラム3内に引き込む孔6をドラム3の一部を貫通するように設け、ここに通したロープ端9aを巻胴面4から三本の止めねじ7aで締付ける仕組みとしている。
【0017】
実施例1のウインチ装置1のドラム3の他の例として、巻胴面4の溝なし部4aを、溝部4bの溝底面と同一円筒面からドラム3内側に向けて凹んだ形状とし、巻胴面4に巻付けたロープ9が溝なし部4aで溝部4bより内側を通るようにした例を示す(図5参照)。溝なし部4aは角度θの区間にドラムの回転軸と平行方向全長に渡ってドラム3の一部を除去した凹部3dからなっている。凹部3d以外の部分は実施例1の上記のドラム3と同一である。
【0018】
実施例1のウインチ装置1の使用方法は、まず、ロープ9の一端を巻胴面4端の孔6に通し、止めねじ7aで締付けて確実に係止する。ドラム3を回転させると、ロープ9は孔6位置から巻胴面4への巻付きを開始し、溝5に従って巻取られる。巻胴面4が一周してロープ9が溝部4bから溝なし部4aに達すると、孔6から出ているロープ9の巻始めに重なり、そこから横にずれて隣の溝5位置に移動する。後は、ドラム3の回転でロープ9が溝なし部4aに達するたびに、一周前に巻取ったロープ9に沿って隣の溝5位置まで横に移動して巻取られる。ロープ9が巻胴面4の反対端まで巻取られて一層目が終了すると、溝なし部4aの位置でロープ9は一周前に巻取ったロープ9に重なって二層となり、ここからロープ間凹み9bに従って二層目が巻き取られていく。二層目以降でも、ロープ9が溝なし部4aに達するたびに、一周前に巻取ったロープ9に沿って隣のロープ間凹み9b位置まで横に移動して、整然と巻取りが繰返される。巻胴面4上に多層にロープ9を巻取っても、巻胴面4両端に生じる空間4dが小さく、ロープ9も食い込みにくいので乱巻にならず、繰出しの際も一層目の最後までスムーズにロープ9を繰出すことができる。
【0019】
実施例2のウインチ装置1は、ドラム3以外の部分は実施例1と同一である。ロープ9には直径10mmのものを用い、このロープ9を巻付けるドラム3の巻胴面4(直径194mm)に、巻胴面4円周方向に並行させたロープ9用溝5を設けている。また、巻胴面4には実施例1同様の溝なし部4aを、巻胴面4の180゜離れた円周の二つの角度θの区間にドラムの回転軸と平行方向全長に渡って設ける。巻胴面4両端に生じるロープ90巻付かない空間4dをなるべく小さくすると共に、ロープ9を無理なく溝から溝に移せるよう、二つの溝なし部4aの円周区間の角度θはそれぞれ30゜としている。この二つの溝なし部4aで隔てられる二つの溝部4b,4cのうち、一方の溝部4cの溝5を、他方の溝5に対し溝ピッチを溝幅Wの半分ずつずらして設けている。巻胴面4上の二つの溝部4b,4cのうち側壁3aとずれた溝5が接している側の溝部4cと溝なし部4aにまたがるような孔6を側壁3aに設け、ここからロープ端9aをドラム3側面に引き出し、ドラム3側面にねじ止めする係止具8でロープ端9aを締付けて係止する構造としている。
【0020】
実施例のウインチ装置1の使用方法は、まず、ロープ9の一端を側壁3aの孔6に通し、ロープ端9aを係止具8に挟んで締付けて確実に係止する。ドラム3を回転させると、ロープ9は孔6の横から巻胴面4への巻付きを開始し、側壁3aに完全な溝5が接する方の溝部4bの溝5に従って巻取られていく。巻胴面4が半周すると、ロープ9はもう一つの溝なし部4aおよびその先の溝ピッチのずれた溝部4cに達し、ロープ9がずれた溝5の山部5aに載り、そこから横の溝幅Wの半分だけずれた溝5位置に移動する。ロープ9がこのずれた溝5に案内された状態で、巻胴面4がさらに半周して合計一周すると、ロープ9は始めの溝なし部4aおよびその先のずれてない溝部4bに達し、ロープ9の巻始めに重なり、そこから横にずれて前記同様溝幅Wの半分移動して、巻胴面4一周で合計溝一つ分横に移動した状態となる。この後は、ドラム3の回転でロープ9が溝なし部4aに達するたびに一周前に巻取ったロープ9に沿って溝幅Wの半分だけずれた溝5位置まで横に移動しながら巻取られていく。ロープ9が巻胴面4の反対端まで巻取られて一層目が終了すると、溝なし部4aの位置でロープ9は一周前に巻取ったロープ9に半分重なった状態で側壁3aに沿って二層となり、ここからロープ間凹み9bに従って二層目が巻取られていく。二層目以降も、ロープ9が溝なし部4aに達するたびに一周前に巻取ったロープ9に沿って溝幅Wの半分だけずれたロープ間凹み9b位置まで横に移動して、整然と巻取りが繰返される。巻胴面4上に多層にロープ9を巻取っても、どの層も一層目と同じ形に巻取ることができ、巻胴面4両端に生じる空間4dにロープ9が食い込みにくく乱巻にならない。
【0021】
実施例3のウインチ装置1は、実施例1と同形のドラムを二個、同一回転軸でロープの巻き方向が互いに逆になるように接合した形状のドラム3を用い、ドラム3以外の構造は実施例1と同様である。ドラム3は二つの巻胴面4を備えてそれぞれ巻取り部3bと繰出し部3cとし、巻取り部3bと繰出し部3cにおけるロープ9巻取り開始点のある溝なし部4aと溝部4bとの境界位置およびロープ9の巻き方向をそれぞれ互いに反対となるようにしている。これら二つの巻胴面4にロープ9を巻き方向を反対にして所定巻数巻付けると、ドラム3の回転でロープ9を同時に巻取り・繰出しすることができる(図9参照)。巻胴面4にロープ9が巻付く仕組みは、巻取り部3bと繰出し部3cそれぞれ実施例1と同じである。
【0022】
【発明の効果】
本発明は、巻胴面に円周方向の溝および溝なし部を設ける構成を採用することにより、ロープを整然と巻取ると共に巻胴面両端の空間を小さく抑えて、容易に乱巻のない多層巻取りができ、スムーズにロープの巻取りおよび繰出しが行える。また、巻胴面の円周方向の溝のみでロープを整然と案内できる仕組みのため、構造が簡単かつ製造が容易で、安価な装置にできる。
【0023】
溝なし部を巻胴面の180゜離れた円周の所定の二つの区間に設けると共に、溝部の一方の溝ピッチを溝幅半分ずらした構成を採用すると、巻取りの際にロープが溝なし部を隣の溝あるいはロープ間凹みへ横に移動する量が減り、より巻取りをスムーズに行える。
【図面の簡単な説明】
【図1】
実施例1を示す斜視図である。
【図2】
実施例1のドラムを示す平面図である。
【図3】
実施例1のドラムを示す一部切欠した左側面図である。
【図4】
実施例1によるドラムへの巻取り状態を示す説明図である。
【図5】
実施例1のドラムの他の例を示す一部切欠した左側面図である。
【図6】
実施例2のドラムを示す平面図である。
【図7】
実施例2のドラムを示す一部切欠した左側面図である。
【図8】
実施例2によるドラムへの巻取り状態を示す説明図である。
【図9】
実施例3を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 ウインチ装置
2 ベッド
3 ドラム
3a 側壁
3b 巻取り部
3c 繰出し部
3d 凹部
4 巻胴面
4a 溝なし部
4b 溝部
4c 溝部
4d 空間
5 溝
5a 山部
6 孔
7 止めねじ孔
7a 止めねじ
8 係止具
9 ロープ
9a ロープ端
9b ロープ間凹み
10 減速機付モータ
 
訂正の要旨 a 請求項1を削除し、請求項2〜5を繰上げて、請求項1〜4と訂正する。
b 発明の詳細な説明中の課題を解決するための手段を、特許請求の範囲の訂正に伴い、訂正する。
c 特許明細書段落【0012】の「すなわち溝なし部の区間が長すぎると、空間が大きすぎて上からロープが食い込みやすく、逆にαが大きく溝なし部の区間が短すぎると、空間は小さくなるがロープの角度変化が大きすぎて滑らかに曲らなくなる。」を「すなわち溝なし部の区間が長すぎると、ロープが食い込みにくい。逆にαが大きく溝なし部の区間が短すぎると、ロープの角度変化が大きすぎて滑らかに曲らなくなる。」に訂正する。
異議決定日 1999-04-12 
出願番号 特願平7-264759
審決分類 P 1 652・ 121- ZD (B66D)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 鈴木 久雄  
特許庁審判長 鈴木 伸夫
特許庁審判官 岩本 正義
川上 益喜
登録日 1997-10-31 
登録番号 特許第2711443号(P2711443)
権利者 西部電機株式会社
発明の名称 ウインチ装置  
代理人 戸島 省四郎  
代理人 橋本 克彦  
代理人 戸島 省四郎  

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