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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D06F
管理番号 1008614
審判番号 審判1998-5953  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-10-01 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-04-16 
確定日 1999-12-27 
事件の表示 平成2年特許願第18274号「洗濯機」拒絶査定に対する審判事件(平成3年10月1日出願公開、特開平3-222994)について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願は、平成2年1月29日に特許出願されたものであって、その発明は、補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のものにある。
「モータによって回転駆動される槽内に水流を形成する攪拌体と、その水流の強弱度合いを指定する水流指定スイッチと、この水流指定スイッチによって指定された水流の強さに応じて前記モータの回転速度を設定する回転速度設定手段と、前記モータの通電期間の初めから終りまで一定デューティー比のパルスを発生するPWM信号発生回路を有し、前記水流指定スイッチの指定に基く設定回転速度に応じてこのデューティー比を設定し、設定回転速度となるように前記モータの回転速度をフィードバック制御するモータ制御手段を設けたことを特徴とする洗濯機。」
そして、本願発明の目的乃至課題は、発明の詳細な説明の記載によれば、以下のとおりである。
「従来より、洗濯機においては、槽の内部に設けた攪拌体をモータによって回転駆動し、もって槽の内部に水流を形成し、これによって洗濯を行なうようにしている。ところで、上記水流の強さは、洗濯物の種類とか量に応じて変更することが好ましいことが知られており、そこで従来では、水流指定手段として水流指定スイッチを操作パネルに設け、この水流指定スイッチによって、水流『強』、水流『中』、水流『弱』のいずれかを指定するようにしている。しかして上記従来においては、モータの回転速度を比較高めの所定値に固定している。つまり、水流『強』が設定された場合にその水流を得ることができるように高く設定している。そのモータの回転速度は攪拌体の回転速度を750rpmで回転させる速度に固定されている。そして、従来においては、水流の強さは攪拌体の回転駆動時間すなわちモータに対する通電時間によって制御するようにしている。…第4図から判るように、モータに対する通電を続けると水流が必要以上に高くなるから、モータに対する通電パターンを、第5図に示すように水流『弱』となる時間(この時間は実験的に予め設定されており、この場合1秒)通電したところで一旦断電し、そして所定の断電期間をおいて再度モータに上記時間通電することを繰り返す。…ところが上記従来の場合、水流の強さが比較的弱く指定された場合、第5図に示したように、水流が指定された強さに達したときにモータの通電を断つ制御をするから、指定された水流の強さを断続的にしか得ることができず、すなわち、必要な強さの水流が短時間しか形成されず、汚れを落とすのに時間がかかり、洗浄効果が低いという問題がある。なお、平均的なレベルで必要な強さの水流を得ようとすれば良いように考えられるが、しかしこの場合、その平均レベルを境として強い水流と弱い水流とが交互に形成されるから、必要以上に強い水流によって布傷みを起こすおそれがあり、この方式は採用できない。そこで、本発明の目的は、必要な強さの水流を連続的に形成できて洗浄効果を高めることができる洗濯機を提供するにある。」(明細書第2頁第1行〜第4頁第6行)
本願発明の効果としては、「必要な強さの水流を常に確実に連続的に形成でき、従って、必要な強さの水流が短時間で断続的にしか形成されない従来とは違って、布傷みを惹起することなく洗浄効果を高めることができるといった優れた効果を奏する。」というものである。
2.これに対して、原審の拒絶の理由に引用された本願の出願前日本国内において頒布された刊行物である特開昭61-98290号公報(以下「引用例1」という。)には、洗濯機の水流制御装置に関して、以下の事項が、第1〜3図とともに記載されている。
(1)「水流切換え信号を入力信号とし、複数の水流表示信号とモータの正転制御信号と逆転制御信号とを一連のプログラムに従って制御する制御部と、前記モータの正転制御信号と逆転制御信号とを、前記水流表示信号が設定した水流時にパルス幅変調するパルス幅変調部と、前記パルス幅変調部のパルス幅変調された信号により洗濯機のモータを駆動せしめるモータ駆動回路とを有し、前記パルス幅変調部は、モータ始動時には、パルス幅を広くし、その後徐々にパルス幅が狭くなるようにモータの通電時間を変化させる洗濯機の水流制御装置。」(特許請求の範囲)
(2)「本発明は、…直流モータを用いた洗濯機で、直流モータの回転数を制御することにより、種々の水流を実現し、幅広い洗濯を可能とした洗濯機の水流制御装置を提供するものである。」(第1頁右下欄第12〜16行)
(3)「本発明の洗濯機の水流制御装置は、水流切換え信号を入力信号とし、複数の水流表示信号とモータの正転制御信号と逆転制御信号とを一連のプログラムに従って制御する制御部と、前記モータの正転制御信号と逆転制御信号とを、前記水流表示信号がある1つの水流時にパルス幅変調するパルス幅変調部と、前記パルス幅変調部のパルス幅変調された信号により洗濯機のモータを駆動せしめるモータ駆動回路とを有し、前記パルス幅変調部は、モータ始動時には、パルス幅を広くし、その後徐々にパルス幅が狭くなるようにしたものであり、このパルス幅変調信号により、前記モータの回転数を下げて、回転翼をゆっくり回しておだやかな水流を実現するものである。」(第1頁右下欄第18行〜第2頁左上欄第10行)
(4)「このように弱水設定時には、直流モータ4のドライブ信号をパルス幅変調したものとしている。次に強水設定時についてどうさを第3図を参照しながら説明すると、水流切換えスイッチ5がオフのとき、水流切換え信号1aがローレベルでこのときには、水流表示信号1bがハイレベル、水流出力1cがローレベルとなり、発光ダイオード12が光る。すなわち発光ダイオード11は強水流を表示するものである。」(第2頁左上欄第11行〜20行)
(5)「上記実施例において、三角波発生器の電圧レベルを変化させることによって、直流モータの回転数も変化できることはいうまでもない。」(第2頁右上欄第7〜10行)
(6)「本発明の洗濯機の水流制御装置は、とくに弱水流用の制御信号をパルス幅変調し、しかもモータの始動時にはパルス幅を広くし、その後徐々にパルス幅が狭くなるようにモータの通電時間を変化させていることにより、モータの拘束状態も発生せず、ゆっくりと回転し、おだやかな水流を実現でき…るものである。」(第2頁右上欄第12〜19行)
そこで、引用例1に記載された発明と本願発明とを対比すると、両者は、ともに「モータに対する通電を継続しながら水流の強さを制御する洗濯機」である点で軌を一にするものであって、発明の構成中、「モータによって回転駆動される槽内に水流を形成する攪拌体と、その水流の強弱度合いを指定する水流指定スイッチと、この水流指定スイッチによって指定された水流の強さに応じて前記モータの回転速度を設定する回転速度設定手段とPWM信号発生回路を有する洗濯機」である点で実質的に一致する。
一方、引用例1には、本願発明の「モータの通電期間の初めから終りまで一定デューティー比のパルスを発生するPWM信号発生回路を有し、水流指定スイッチの指定に基く設定回転速度に応じてこのデューティー比を設定し、設定回転速度となるように前記モータの回転速度をフィードバック制御するモータ制御手段」を設けたものでない点で相違する。
3.そこで、その相違点について検討する。
原審の拒絶の理由に引用された本願の出願前日本国内において頒布された刊行物である特開昭61-121787号公報(以下「引用例2」という。)には「設定スピードに応じた幅のPWM信号が入力、されたパルス信号によってPWM回路13から駆動回路19へ出力され、DCモータ21がPWM信号によって速度制御されるから、PWM信号のパルス幅が安定する」(第4頁左上欄第4〜8行)というモータの速度制御装置が第1〜7図とともに記載されており、また、同じく、原審の拒絶の理由に引用された本願の出願前日本国内において頒布された刊行物である特開平1-190280号公報(以下「引用例3」という。)には「ロータリエンコーダ2から出力されるモータ回転数に対応した周波数のパルス信号はカウンタ3でカウントされる。これにより、カウンタ3からはモータ1の実回転数を表す回転数制御信号が出力される。この回転数制御信号プロセッサ4に入力される。このプロセッサ4は、読み出し専用メモリ(ROM)6に記載されているアルゴリズムに従って、モータ1の実回転数と動作指示部5(たとえばロボットコントローラ等の上位コンピュータ)より入力される設定回転数とを比較してその偏差が零になるようにモータに印加する電流の周波数及び電流値を演算する。…補正された電流指令値は、PWM信号発生器9へ入力される。PWM信号発生器9は入力された電流指令値に対応したデューティー比のパルス信号を生成し、増幅器10に入力する。増幅器10は、モータ1がACモータで構成される場合にはインバータ装置によって構成されるもので、パルス発生器9から入力されたパルス信号のデューティ比に対応したモータ駆動電流を出力し、モータ1に入力する。これによって、モータ1は動作指示部より入力された負荷の動作パターンに対応して回転数が変化する」(第2頁右上欄第11行から同左下欄第18行)というモータ制御装置が第1〜3図とともに記載されており、さらに、同じく、原審の拒絶の理由に引用された本願の出願前日本国内において頒布された刊行物である特開平1-138988号公報(以下「引用例4」という。)には、「予め直流電動機の回転数と電流の値をパラメーターとするデューティ比特性を準備しておき、駆動回路のスイッチングパターンを制御するPWM信号のオン/オフデューティ比を、指令された目標電流値と検出した回転数から、デューティ比特性に従い決定してPWM信号を作成する回路に与える構成」(第2頁右上欄第17行〜左下欄第4行)の、「目標電流値が与えられると、PWM信号のオン/オフデューティ比が、検出される回転数に応じて、予め準備されているデューティ比特性から決定され、直流電動機の電流はフィードフォワード制御される」(第2頁左下欄第6〜10行)という直流電動機の制御方法が第1〜6図とともに記載されている。
これらによれば、「モータの通電期間の初めから終りまで一定デューティー比のパルスを発生するPWM信号発生回路を設け、指定された回転速度に応じてこのデューティー比を設定」するという手段は、モータの回転速度を制御する手段として本願出願前に既に広く知られたことというべきであり、また、設定回転速度となるようにモータの回転速度をフィードバック制御するモータ制御手段を設けたることも、上記引用例3の記載などからみて、モータの回転速度制御手段として、本願出願前に既に広く知られたことというべきである。
請求人は、審判の請求理由中(平成10年5月13日付け審判請求理由補充書第7頁第14〜27行)において、「第2の引用例を初めとして、第3及び第4の引用例には、『モータによって回転駆動され槽内に水流を形成する攪拌体』、『その水流の強弱度合いを指定する水流指定スイッチ』、『この水流指定スイッチによって指定された水流の強さに応じて前記モータの回転速度を設定する回転速度設定手段』、『前記モータの通電期間の初めから終りまで一定デューティー比のパルスを発生するPWM信号発生回路を有し、前記水流指定スイッチの指定に基く設定回転速度に応じてこのデューティー比を設定し、設定回転速度となるように前記モータの回転速度をフィードバック制御するモータ制御手段』について開示も示唆もなく、すなわち、既述したように、洗濯機への適用例について開示も示唆もなければ、そのモータ制御を洗濯機の水流生成にどのように活用するのかの示唆もなく、さらに洗濯機で使用するモータの通電期間においてどのようなPWM制御を行なうかについての示唆もありません。従いまして、本願発明を、これらの引用例から容易に案出することは困難であります。」という。
しかしながら、モータの回転速度制御手段として知られている技術的事項を洗濯機の回転速度制御手段として使用することは一般的に行われていることであり、また本願発明の主要な効果は引用例1の発明においても奏せられるものであって、本願発明を全体としてみても、奏せられる効果は、引用例1乃至引用例4に記載された技術的事項に基づいて当業者ならば容易に予測できる程度のことと認められるので、結局、上記相違点は、当業者が容易になし得ることというべきである。
4.以上によれば、本願発明は、引用例1乃至引用例4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとするのが相当であって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-10-20 
結審通知日 1999-11-02 
審決日 1999-11-09 
出願番号 特願平2-18274
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 青山 紘一
特許庁審判官 和泉 等
長崎 洋一
発明の名称 洗濯機  
代理人 佐藤 強  

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