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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F23G
管理番号 1008637
審判番号 審判1998-4229  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-03-11 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1998-03-25 
確定日 2000-01-15 
事件の表示 平成1年特許願第190489号「焼却灰の溶融処理装置」拒絶査定に対する審判事件〔(平成7年4月10日出願公告、特公平7-30893)、特許請求の範囲に記載された請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許をすべきものとする。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成1年7月25日に出願(特許法第30条第1項適用申請、1989年1月27日「荏原インフィルコ時報」第100号に発表)であって、その請求項1及び2に係る発明は、出願公告後の平成10年4月24日付け手続補正書によって適法に補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認める。
「(1)溶融炉の炉体の一側壁側に設けられ且つ焼却灰をシュートを通じて前記溶融炉内に供給する灰供給装置,前記灰供給装置に対向する前記溶融炉の前記炉体の他側壁に設けられた溶融スラグを流出させるスラグ排出口,前記灰供給装から離れた位置で前記溶融炉に設けられ且つ前記炉体の炉底部に対極を設けたプラズマアークを発生させる移送式のプラズマトーチ,前記スラグ排出口から落下排出される溶融スラグを受け入れるため前記スラグ排出口の下方に配置されたスラグ受け容器,前記スラグ排出口の下方部の前記スラグ排出口と前記スラグ受け容器との間に排ガスの排ガス出口を開口する排ガスダクト,前記プラズマトーチの軸方向に前記プラズマトーチを移動調節する駆動装置,及び前記溶融炉内での前記プラズマアークの照射方向を変更することによって前記プラズマトーチの照射領域が前記炉体内の溶融スラグ面と前記スラグ排出口との全域を含むように前記プラズマトーチの方向を変更調節する傾動装置,から構成したことを特徴とする焼却灰の溶融処理装置。
(2)前記プラズマトーチを前記溶融炉の前記スラグ排出口の上方に配置したことを特徴とする請求項1に記載の焼却灰の溶融処理装置。」
2.引用例
これに対して、原査定の拒絶理由となった、特許異議の決定の理由に引用された特公昭59-16199号号公報(以下、「引用例1」という。)には、溶融処理装置に関し、図面とともに、「この発明は種々の金属や無機物を溶融処理するようにした装置、詳しくは溶融用の容器からの汚染を望まない金属や無機物等をプラズマ、アーク電極、誘導加熱等の加熱手段で溶融させる場合に用いることのできる溶融装置に関するものである。尚この種の溶融処理装置としては活性金属等のインゴット製造用溶解炉、下水汚泥等スラッジの溶解処理炉、ゴミ焼却残滓溶解処理炉、原子力廃棄物の溶融固化処理炉等がある」(第1欄下4行〜第2欄5行)こと、「次に14は炉体1の上方に備えられたプラズマトーチを示し、第4図に示されるようにプラズマアークを炉体1内の溶湯13、出湯用凹部5、出湯湯樋6の上面或いは流下孔9を介して更に下方へ向けて吹き出しえるよう、第2図に示される矢印方向への傾動を自在に、ルツボ2に付設した図示外の支持機構によって支持されている。」(第4欄23〜31行)こと、「次に本願の異なる実施例を示す第5図について説明する。内部が気密状態となるように構成された炉本体1eは、上部炉体と下部炉体とから上下に二分割に構成してある。」(第5欄43行〜第6欄2行)こと、「22は下部炉体21bの一部に備えさせた出湯部を示す。」(第6欄12〜13行)こと、「次に27は上部炉殻21aの中央部にほぼ鉛直に状に備えられた案内筒を示し、その内径は溶融用の容器30を1個宛挿通可能な寸法に形成されている。」(第6欄22〜25行)こと、「次に32はプラズマトーチで、支持装置33によって矢印方向への進退を自在に取り付けられている。このプラズマトーチ32は案内筒27の軸芯を中心とする円周上に複数個が必要に応じて配設される。次にプラズマトーチ14eの支持装置34は炉殻21aに固定された支持体35を備える。支持体35の内面は球面となっており、その内側には外面が球面となった転動体36が備えられ、この転動体36にプラズマトーチ14eが取り付けられて、プラズマトーチ14eの矢印方向への傾動が可能となっている。37はトーチ14eの傾動装置を示す。」(第6欄)35行〜第7欄2行)こと、「42は上部炉殻21aの上部に形成された排気口を示す。」(第7欄9〜10行)こと、「このような状態において下端に存在する容器30及びその内部の放射性廃棄物は、溶湯13eからの加熱及びプラズマトーチ14e、32から放出されるプラズマアークによる加熱を受けて溶融する。」(第7欄25〜29行)こと、「上記の様な操作によって出来た溶湯13eは前述と同様にしてその取出しが行われる。取出された溶湯13eは保管用の容器内に取ってそこで固化させたり、ブロック状に固化させたり、或いは粒状化させる等種々の固化手段によって固化される。」(第7欄42行〜第8欄3行)、「なお、機能上前図のものと同一又は均等構成と考えられる部分には、前図と同一の符号のアルファベットのeを付して重複する説明を省略した。」(第8欄16〜18行)ことが記載されている。
同じく引用された特開昭63-315819号公報(以下、「引用例2という」。)には、廃棄物溶融炉に関し、図面とともに、「本発明の廃棄物溶融炉の特徴構成は、取出部をオーバーフローによって溶融処理物の取出すように溶融処理物の貯留レベル近くに配置し、煙道を前記取出部に接続してあることにあり、その作用効果は次のとおりである。」(第2頁左上欄6〜10行)こと、「二次溶融炉からの高温排ガスは、取出部からオーバーフローによって取出される溶融処理物に熱エネルギーを与え、溶融処理物の流動性を維持する。」(第2頁左上欄12〜16)、「取出し部に専用の加熱装置を設けなくとも、溶融処理物をその流動性を維持した状態でスムーズに取出すことができ、簡単な構造によって廃棄物の溶融処理におけるイニシャルコスト及びランニングコストを下げることができるに至った。」(第2頁左上欄18行〜右上欄3行)」こと、「第1図に示すように、供給貯留部(1)から供給される被処理物を、・・・充填状態で自重下降させる環状供給路(R)を構成し、その全周にわたって溶融室(3)を連続接続するとともに、前記溶融室(3)の底部中央に溶融処理物を高温排ガスと共に排出する通路(4)を設け、通路(4)からの溶融処理物を受止めて貯留すると共に、溶融処理物中に含まれる未溶融物を滞留させて完全に溶融させるために、プラズマトーチ(5)を付設した二次溶融炉(6)を設け、二次溶融炉(6)に、そこからの溶融処理物を自然流下により取出す取出部(11)を、オーバーフローによって溶融処理物を取出すように溶融処理物の貯留レベル近くに配置し、前記通路(4)からの高温排ガスを排出する煙道(7)を、取出部(11)に接続し、煙道(7)には、その下流側にボイラ等の廃熱回収回収装置(8)を設けて、下水汚泥、し尿汚泥、都市ゴミ残滓、並びに、プラスチックゴミ等の夫々の単独物又は混合物を溶融処理する廃棄物溶融炉を構成してある。」(第2頁右上欄7行〜左下欄9行)こと、「前記取出部(11)の下方には、オーバーフローして落下した溶融処理物を連続的に受止めて・・・900℃になったところで系外に排出されるロータリークーラー(12)を設けてあり、このロータリークーラー(12)から排出されるスラグは、結晶徐冷化されて出て来る。」(第2頁右下欄3〜10行)ことが記載されている。
同じく引用された特開昭63-38535号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに、「この装置10は包囲されかつ熱を通さないチャンバ12を備える。」(第3頁右下欄19〜20行)こと、「加熱するチャンバ内には、皿状で水冷却された銅製の炉床16が設けられている。この炉床16は側縁部に沿って注ぎ口17を有し、そして炉床16は、下方に位置する鋳型18内へ溶融金属の注ぎを可能にするため選択的な枢着がなされている。」(第4頁左上欄10〜14行)こと、「更に加熱チャンバ12は排出ポート20を含み、この排出ポート20は、これに連結された適切な真空ポンプ21を有する。また、一つの材料供給ポート22がチャンバ12の対向側壁を通って延在し、前記材料供給ポート22は溶融される材料を支持するためのトレイ23を有し、・・・下方に位置する炉床内に材料を落とす。」(第4頁右上欄6〜13行)」こと、「トランスファーアーク型式のプラズマアークトーチ30は加熱チャンバ12の壁内に設けられており、・・・後部電極32は前記ハウジング31内に設けられると共に、・・・金属部材を備えている。」(第4頁右上欄14〜20行)こと、「トーチ30はボール動作部42によって加熱チャンバ12の一端に隣接して設けられており、前記ボール動作部42によって、トーチ30は軸線方向への出入移動において炉床からの離間を調整することができ、同様に少なくとも2面内で横方向すなわち側方移動を可能にする。また、トーチ30は、プラズマ柱が炉床の平面に対して妬く60°の角度で配置されるように備えられている。」(第4頁右下欄9〜16行)こと、「作用中、トーチ30の取付体42においてトーチ30を側方に回動して炉床内の溶融領域の面積を増し、チタニウム片が溶かされた場合、炉床16は下方に位置する鋳型18に溶融金属を流し込むために傾けられる。」(第6頁右上欄9〜13行)ことが記載されている。
3.対比・判断
[請求項1に係る発明について]
(1)本願の請求項1に係る発明と引用例1に記載された発明を対比すると、両者は、「溶融炉の炉体に設けられ且つ焼却灰をシュートを通じて溶融炉内に供給する灰供給装置、炉体の他端側に溶融スラグを流出させるスラグ排出口、灰供給装置から離れた位置で溶融炉に設けられプラズマアークを発生させるプラズマトーチ、スラグ排出口から落下排出される溶融スラグを受け入れるためスラグ排出口の下方に配置されたスラグ受け容器、排ガスの排ガス出口を開口する排ガスダクト、プラズマトーチを軸方向に移動調節する駆動装置、プラズマトーチの照射領域が炉体内の溶融スラグ面とスラグ排出口を含むようにプラズマトーチの方向を変更調節する傾動装置から構成した焼却灰の溶融処理装置」の点で一致し、次の点で相違する。
イ.本願の請求項1に係る発明は、灰供給装置を炉体の一側壁側に設け、スラグ排出口を灰供給装置に対向する炉体の他端側に設けているのに対し、引用例1に記載された発明は、灰供給装置を炉体のほぼ中央に設け、スラグ排出口を炉体の他端側に設けている点。
ロ.本願の請求項1に係る発明のプラズマトーチは炉体の炉底部に対極を設けた移送式のプラズマトーチであるのに対し、引用例1に記載された発明のプラズマトーチは、その点が明らかでない点。
ハ.本願の請求項1に係る発明は、スラグ排出口の下方部のスラグ排出口とスラグ受け容器との間に排ガスの排ガス出口を開口する排ガスダクトを設けているのに対し、引用例1記載に記載された発明は、炉体上部に排ガスダクトを設けている点。
ニ.本願の請求項1に係る発明は、灰供給装置から離れた位置で溶融炉に設けられたプラズマトーチに、プラズマトーチの軸方向にプラズマトーチを移動調節する駆動装置と溶湯炉内でのプラズマアークの照射方向を変更することによってプラズマトーチの照射領域が炉体内の溶融スラグ面とスラグ排出口との全域を含むようにプラズマトーチの方向を変更調節する傾動装置を設けているのに対し、引用例1に記載された発明は、一方のプラズマトーチにプラズマトーチの軸方向にプラズマトーチを移動調節する駆動装置を設け、他方のプラズマトーチに溶湯炉内でのプラズマアークの照射方向を変更することによってプラズマトーチの照射領域が炉体内の溶融スラグ面とスラグ排出口を含むようにプラズマトーチの方向を変更調節する傾動装置を設けている点。
(2)上記相違点について検討する。
引用例2には、プラズマトーチにより廃棄物を溶融する廃棄物溶融炉において、スラグの取出部の下方部の取出部とスラグ受け容器に相当するロータリークーラーとの間に煙道を設けたものが記載されているから、上記相違点ハであげた本願の請求項1に係る発明の構成に相当するものは記載されているといえる。しかしながら、引用例2に記載されたプラズマトーチが相違点ロであげた本件請求項1に係る発明のように移送式のプラズマトーチであるかについては明らかでなく、また、引用例2には、上記相違点イ、ニであげた本願請求項1に係る発明の構成については何ら記載がなく、また、それを示唆するものもない。
引用例3には、一つのトランスファーアーク型式のプラズマアークトーチにより金属を溶融し鋳型に流し込むようにした溶融炉において、ボール動作部によってプラズマトーチを軸線方向への出入移動において炉床からの離間を調整することができ、同様に少なくとも2面内で横方向すなわち側方移動を可能にするとともに、プラズマトーチは、プラズマ柱が炉床の平面に対して約60°の角度で配置されるようにした点が記載されているから、引用例3には上記相違点ロであげた本願の請求項1に係る発明の構成に相当するもの並びに上記相違点ニであげた本願の請求項1に係る発明の構成のうちプラズマトーチの軸方向にプラズマトーチを移動調節する駆動装置及びプラズマトーチの照射領域が溶融スラグ面を含むようにプラズマトーチの方向を変更調節する傾動装置に相当するものは記載されているといえる。しかしながら、引用例3に記載されたプラズマ装置の傾動装置は、溶融スラグ面においてプラズマトーチの方向を変更するにとどまり、上記相違点ニであげた本件の請求項1に係る発明の傾動装置のようにプラズマトーチの照射領域が炉体内の溶融スラグ面とスラグ排出口との全領域を含むようにプラズマトーチの方向を変更調節できるようにしたものではない。また、引用例1に記載された傾動自在なプラズマトーチも溶融スラグ面とスラグ排出口との全領域を含むように変更調節できるようにしたものではないから、引用例1に記載された発明に引用例3に記載された上記事項を適用しても、上記相違点ニであげた本願の請求項1に係る発明の構成を当業者が容易に想到し得るものではない。
また、引用例3には、引用例2同様、上記相違点イであげた本願の請求項1に係る発明の構成については何ら記載がなく、また、それを示唆する記載もない。
そして、本願の請求項1に係る発明は、上記相違点イ及びニであげた構成を有することにより、明細書に記載されたとおりの格別の作用効果を奏するものである。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用例1乃至引用例3に記載されたものから、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
[請求項2に係る発明ついて]
本願の請求項2に係る発明は、本願の請求項1に係る発明を更に限定したものであるから、本願の請求項1に係る発明の判断と同様の理由により、引用例1乃至引用例3に記載されたものから、当業者が容易に想到し得たとすることができない。
4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1及び請求項2に係る発明は、引用例1乃至引用例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、原査定の理由によって本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 1999-12-13 
出願番号 特願平1-190489
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F23G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 阿部 寛西野 健二前田 仁  
特許庁審判長 大槻 清寿
特許庁審判官 歌門 恵
岡本 昌直
発明の名称 焼却灰の溶融処理装置  
代理人 尾仲 一宗  

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